ともだち  せんたいさん


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「ちょっと、相談があるんですけど…」

そう言って、洗濯を終えたシエスタに突然話しかけてきたのはティファニア。
何かちょっと思いつめた顔をしている。
…まさか。
最悪のケースを想像し、少し青くなるシエスタ。

『生理が、きてないんです…』

私ですら危ない日は自重してるのに!だから世間知らずの娘って嫌なのよもー!
とか余計な妄想に頭を膨らませていたが、続くティファニアの言葉がそれを否定した。

「あ、あの、タニアの事なんだけど」
「え?タニアさん?」

意表を突かれてシエスタは間抜けにそう返してしまう。
タニアとは、ティファニアがウエストウッドで面倒を見ていた子供たちの、一番上の娘。
ウエストウッドに取り残される事になった孤児たちを女王が引き取った際に、年上で既に働ける年齢だったタニアは学院に奉公を申し出て、そして、トリステイン魔法学院のメイドの一員として働いている。
結構なしっかり者で、料理から掃除から何をやらせても人並み以上にこなすので、先輩メイド達の覚えも目出度い。
実際シエスタも、働き者の新人が入った、との噂を聞き、彼女の名前を知ったのである。

「あ、あの、最近タニア、男の子と付き合い始めたみたいで、その、あの」

ははーん。なるほど。
シエスタは理解した。
ティファニアは、元保護者として、タニアの事を気にかけている。
そして、そのタニアに男が出来た、となれば。
それが気になるのも致し方ない。
シエスタは、そんなタニアの元保護者に、聞いた噂のすべてを話す。

「そうですねえ。彼女、なんだかすごくモテてるみたいですよ」
「え?」
「特に、年の近い貴族の男の子に人気みたい。もう既に何人か、『自分のメイドにならないか』って言われてるらしいですよ」
「そ、そうなの?」
「でも、彼女全部断ったんですって。貴族のメイドの方が学院のメイドよりも実入りがいいでしょうし、上手くすれば側室になることもできるのにね」
「そうなんだ…」

ティファニアはそれを聞いて、安心したような、困惑したような顔になる。
タニアの意図が理解できないからだった。
タニアはかなりの現実主義者で、ロマンスなんかよりもお金が大事、なところがある。
そのタニアがそれをしないという事は。

「ひょっとすると、意中の子がいるのかもしれませんね」

そうなのか。そうだったのか。
だとすると、自分にできる事は…。
その意中の相手を品定めして、タニアに相応しいかどうか…。

「あ、忠告しておきますけど、相手を品定めしようとか思わないほうがいいですよ?」
「え?え?」
「分かってるでしょ。人を好きになるのに理由なんか関係ないって。好きだから好き。それでいいじゃないですか」

最後にティファニアを諭し、それじゃ仕事がありますから、とシエスタは立ち去ってしまう。
ティファニアはぽかん、とその場に立ち往生。
確かにシエスタのいう事にも一理ある。

「でも、やっぱり気になるから一言言っておこうかしら…」

しかし結局その一理は届いていないようだった。


そしてタニアの部屋。

「…で何の用なわけ?テファお姉ちゃん」

不機嫌そうなタニアが、ティファニアを出迎えた。
まあ巣立った娘からしてみれば、いつまでも母親が様子を見に来るのはいい気がしないだろう。

「あ、あのね?そのね?ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

もじもじしながらそう言うティファニアに。

「はいはい男の子だったら仲良くしてるの数人いるけどまだ特定の子はいないから安心して。
 ちなみに『メイドにならないか』とか言ってきたのはハナから撥ねたから。
 友達から、とか言ってきた子だけ限定だからお姉ちゃんの考えてるような事はないから一切」

タニアは矢継ぎ早にそう言って。

「で、聞きたいことって何?」
「あ、あう…。
 も、もういいです…」

先手を打たれたティファニアはしょぼん、となって帰ってしまったのだった。


…まあ実際のハナシ、男作ろうかとも思ったことはあったけど。

中庭をからっぽの洗濯物籠を持って歩きながら、タニアは思った。

…面倒見なきゃいけない子ができちゃったから、そういうわけにもいかなくなっちゃったのよねえ。

彼女が向かっているのは女子寮。今から一年生の部屋を回り、汚れたシーツを回収してくるのが今日のタニアの昼の仕事。
すると、前方の女子寮の入り口から、長い金髪のツインテールが駆けてきた。


「捜しましたわよタニアさん!」
「今仕事で忙しいんだけどベアちゃん」

彼女の名前はベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ。
彼女は決して認めようとしないが、タニアとは友達のように仲がいい。
周囲からはもうすでに『親友』とまでにカテゴライズされるほど仲がいいように見えるのだが、ベアトリスだけは決して認めないのだった。

「だからその呼び名はやめなさいとあれほど!」

ベアトリスはその馴れ馴れしい呼び名が好きではなかった。
実はほんのちょっとだけ、その呼び方をされると背筋がくすぐったくなるのが嫌だっただけなのだが。

「え〜。いいじゃん親友なんだしさあ」
「え、し、し、しし親友って!そ、そんなのにした覚えはなくてよ!
 て、ていうか平民のくせに公女たる私と友になれるなどと」
「冷たいヤツだな。じゃあ嫌いになっちゃうぞ」

思わず放った言葉に、タニアの口調が冷たくなる。
勿論演技なのだが、それを見抜けるほどベアトリスに人生経験はない。
思わず軽く泣きそうになってしまい、半分取り乱しながら言い訳する。

「え。あ、あう。
 えー、あー、その。オホン。ま、まあ百歩譲って友達はよしとしましょう。でもベアちゃんはおやめなさい」
「いいじゃんベアちゃんはベアちゃんだし。何?違うのがいいわけ?」
「ちゃんと普通にお呼びなさいな!」

ベアトリスの指摘に、タニアは顎に手をあて。

「ふんじゃあこういうのはどうだ。
 『ヴィヴィおねえさまぁ』」

ぼふん!と音を立てそうな勢いで甘い声でそう呼ばれたベアトリスは真っ赤になる。

「あああああああああなたああなた何考えてるのっ!わわわわわ私そういう趣味はなくってよよよよ」
「…声震えてるぞベアちゃん。ひょっとしてちょっと感じちゃった?」
「たたたたたタニアさーーーーーーんっ!」
「あははー。ベアちゃんが怒った〜」

思わず両腕を振り上げてタニアに殴りかかろうとするベアトリス。
洗濯籠を抱えたまま、そんな親友から逃げ回るタニア。
そして、逃げ回りながら考える。

そうよね。まだ男とか早いよね。
…この、どうしようもない高慢ちきなトモダチに、彼氏が出来て。
その彼氏の品定めを済まして、それよりいいのを引っ掛けるまで。

男はいらないかな、そう思うタニアだった。〜fin

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