出会い  ツンデレ王子

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 人の少ない酒場。 
 カウンターに腰掛け、女が独りちびちびと酒を飲んでいる。 
 と、そこに一人の男がやって来た。彼女の隣に腰掛ける。 

(ったく、これだけ空いてるんだから他所行きなさいよね) 

 そう思いはしたものの、どこに席取るかは自由である。 
 女はその無粋な男を見ようともせず、グラスを傾けた。 

「一杯奢らせては貰えませんか?」 
(何コイツ、ナンパ?) 

 うんざりとしたものの表には出さす、また男を見もしないで女は答えた。 

「じゃあ、一杯だけ頂くわ」 

 そう言うと、先程まで飲んでいたものより若干高めの酒を注文する。 
 男も彼女と同じものを注文し、乾杯も言わずに口を付けた。 

「……」 
「……」 
(何よコイツ、ナンパならナンパらしく気の利いた事言えないの?) 

 しばし無言の刻が流れる。 
 痺れを切らして先に口火を切ったのは女の方だった。 

「何なの貴方」 
「いえ、こんな所にレディが独り、珍しいと思いましてね」 

 確かに、周りを見渡してもごつい男だらけである。 
 女はここにきて初めて男を見て口を開いた。 

(まあまあ良い男じゃない) 
「ふーん、ナイト気取りって訳?」 
「ええ、それに来る時に小雨がぱらついてましたのでね。 
 どうせ今出ても雨ですから」   

 男はニコリと微笑むと、酒を飲み干して新たに注文する。 
 釣られて笑みを漏らしそうになり、女は慌てて正面に向き直った。 



「そ。じゃぁ私は雨がやむまでこうしてるから、どうぞお構いなく」 

 女はピシャリと言い切ると、自分のグラスを傾ける。 
 軽くあしらわれ激怒するかと思いきや―― 

「それじゃ、朝までお付き合いしますよ」 

 男は何ら表情を変える事無く言い放つと、同じく正面を向いてちびちびとや 
りだした。 

「貴方も物好きね。まぁいいわ、ご勝手に」 

 女は今度こそ笑みを浮かべると、男とグラスを合わせたのだった。 


 チェルノボーグの牢獄から仮面の男の手引きにより脱走した、土くれのフー 
ケことマチルダ・オブ・サウスゴーダ。 
 この日に会った相手が逃走の手引きをした者だとは知る由も無く、ただ時 
間が流れるのを待っていた。 

 朝が来て別れるまで、お互いの名も知らぬままに―― 




END 

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