「ええええええええーっ?」 素っ頓狂な叫び声が魔法学院の中庭にこだまする。 何事か、と叫び声のした物干し台のほうを何人かの生徒が振り返る。 中庭のテーブルで、叫び声を上げたのはブルネットのメイド。 よく働くしっかり者と評判の、タニアという名前のメイド。 年の割りに落ち着きもある彼女が、こんな声を上げて驚くのは珍しい。 だもんで、それを緊急事態と勘違いしたお馬鹿さんがやってくる。 「ど、どどどどうしましたかタニアさーーーーんっ!?」 目の色を変えて、空中装甲騎士団まで引き連れて、ベアトリスが駆けつけた。 当然、周囲の生徒はドン引きで、迷惑そうな顔をしている。 「ちょ、何考えてんのベアちゃん!」 「またあの変態どもですか!薙ぎ払いますか?それとも串刺しにしますかっ?」 「いいから止まれ」 正気を失って辺り構わずガンを飛ばしまくる公女殿下の後頭部を、タニアのチョップがどつく。 普通平民がこういうことをすれば即座に周囲に控える空中装甲騎士団の面々にふんじばられても文句は言えないのだが。 周囲の騎士団の面々は、そんな二人を見守るだけだ。むしろ、ほっとした顔をしている。 正直ベアトリスの我侭につき合わされるのも面倒だし、それに学院生徒の目が痛いのがいかんともしがたい。 タニアは騎士団長に向かって、なんでもありませんから、あとでこの娘にはきっつく言っときますから、と頭を下げて下がらせる。 騎士団長の号令で撤退する騎士団。残されたのは、ばつの悪そうなベアトリスだけ。 「ちょっと叫ぶだけで騎士団のみなさん呼ぶのやめなね?ベアちゃん?」 そう言ってベアトリスに向けてにっこり微笑みかけるタニア。 満面の笑顔だが声が笑っていない。 ベアトリスはそんなタニアの雰囲気にガクブルしながら。 「で、でででで、でも、も、もしタニアさんに狼藉を働く者がいたらと思うと私っ…!」 「いーから今後一切学院内で騎士団のみなさん呼ぶの禁止。今度やったらお尻ぺんぺんだぞ」 …それはむしろごほうびd …はっ!?私ったらいったい何をっ!? タニアの言葉に思わず『あの変態ども』と同じ思考に陥りかけたベアトリスは、はっっと我に返る。 そして、素直に謝った。 「わ、わかりました…。今後、気をつけます…」 そして、しゅんとなったまま、タニアが叫ぶ事になったそもそもの原因を尋ねる。 「で、何故叫んでいたのです?」 「ああ、それはね」 言ってタニアは、テーブルの対面に掛けた、元保護者を指差す。 「お姉ちゃんが、エルフの国に行くんだって」 「えええええええええーっ?」 今度はベアトリスが大声を上げる番だった。 「うんとね。私ってさほら、見てのとおりエルフと人間のハーフじゃない? だから、今仲の悪い人間とエルフの繋ぎ役ができないかな、って思って。 うん、確かにエルフの話聞くと怖いと思う。でも、人間にも色んな人がいるみたいに、エルフにもいろんな人がいるはずよ。 ほら、人間にだってサイトみたいな素敵な人がいるわけだし。…何よその目。 まあ、そういうわけで、私が架け橋になって、人間とエルフの仲を取り持てたらなって思ったの」 ティファニアの長い説明に、二人はぽかんと呆れた顔をする。 「はー。よっくそこまで楽天的になれるもんだわね」 肩を竦めて呆れるタニア。しかし、彼女はティファニアのこういう部分は嫌いじゃない。 こういう元保護者だから、才人を信用してトリステインに来る気になったのだろう。 タニアはティファニアの考えに、けして反対なわけではなかったが。 「お考え直し下さいお姉さま!確かにいろんな人がいるかもしれませんが!悪人だって、変態だっているんですよ!」 ベアトリスの言葉は実体験を基にしているだけあって切実に響く。 しかし彼女はまだ、世の中の8割が変態でできている事を知らない。 もちろん、ベアトリスは反対だ。心酔するティファニアを、得体の知れないエルフの下へ行かせる気などない。 だが、そんな事を言ったところで、ティファニアがそう易々と考えを変えるとも思えない。 案の定、ティファニアは席を立つと、言ったのだった。 「きっと反対するだろうなって思ってた。 でも、私決めたから。大丈夫、お話聞いてもらえなかったらすぐ帰ってくるから。心配しないで」 そう言ったティファニアの目は真剣で。 これ以上の議論の意味がないことを、二人に示していた。 そうして、ぽかんとしている二人を置いて、ティファニアは中庭から立ち去ったのだった。 そして、その脚でティファニアは、このことを一番告げなければならない人の下へ向かう。 ティファニアの飼い主、才人の下へである。 水精霊騎士団のメンバーに話を聞き、ゼロ戦の格納庫に向かうティファニア。 果たしてそこには、日課のゼロ戦磨きを終えて格納庫のテーブルで一息ついている才人がいた。 ティファニアの接近に気がつき、才人が手を振る。 「お、テファ。どしたの?」 ティファニアは主人に駆け寄る忠犬さながらに、才人の下へ駆け寄る。 そして、先だって二人に話したことと同じ内容を、才人に告げる。 才人は声こそあげなかったが、驚いた顔をした。 そして、かつて戦った、エルフの一人、ヴィダーシャルの事を思い出す。 彼は、むやみに人を傷つけるような人物ではなかった。もし、彼のようなエルフが大半なのだとしたら。 ティファニアの考えも、あながち悪くないのかもしれない。 しかし、だからといって、彼女を一人エルフの国へ行かせるわけにはいかない。 「わかった。なら俺も行く」 才人はそう言いきり、立ち上がる。 彼にもシュヴァリエという立場があるのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。 それに、元々自分は異世界の人間で、たまたま偶然が積み重なって今の地位を手に入れたに過ぎない。 そんなものと、目の前の健気な少女の身の安全を天秤にかけるなら、もちろんどちらに傾くかは目に見えている。 「ありがとう…サイト」 嬉しそうに目を潤ませるティファニア。 そして、彼女は、そんな才人に一つの申し出をする。 「ねえサイト。 エルフの国に行く前に、一つだけ、お願いがあるの」 「なに?何でも言ってみなよ。あんまり無茶なのじゃなければ、聞いてあげる」 「私と、一日デートしてほしいの」 あまりにも単純な『お願い』を、才人は二つ返事で了承する。 次の日の朝、近くの宿場町でデートの約束を取り付け、二人はその町の入り口で待ち合わせをすることになった。 次の日の朝。 空は青く晴れ渡り、絶好のデート日和。 才人は待ち合わせよりずいぶん早く宿場町の門前に着く。 学院から徒歩三十分程度のこの街道沿いの宿場町は、簡素な城壁に守られている。 そこに入るためには入り口で簡易な検問を受ける必要があった。 もちろんそれは軽い荷物のチェック程度で、ティファニアがいつもかぶっている大きな帽子があれば、彼女がハーフエルフだということも気づかれることはないだろう。 そして、待ち合わせの時間。 ティファニアが、息を切らせてやってくる。 「え、ちょ、テファ?」 才人はティファニアの格好に驚いた。 彼女の格好がいつもと違っていたからである。 ティファニアの着ていたのは、いつもの学院の制服でも、いつかウエストウッドで着ていた簡易な緑の衣服でもなく、飾り気のない純白のワンピースだった。 そして、才人を一番驚かせたのが。 彼女がいつも町に行く際にかぶっていた、あの大きな帽子をかぶっていなかったことである。 これでは、傍目にも彼女がエルフだということがばればれである。 こんな格好の人物を、検問が通すはずがない。 しかし、驚く才人を尻目に、ティファニアは才人の手を引いて、言った。 「さ、行きましょ!」 そして、検問のある門のほうへ才人を引っ張っていく。 ひょっとしてここの検問官とティファニアは知り合いで、事情を知っているのかも、と才人は予測したのだが。 「な、え、エルフだと!?」 検問官は才人の予想を裏切り、ティファニアの姿を見るや否や、腰の剣に手を伸ばした。 才人は慌てて検問官の前に立とうとするが。 ティファニアがそれを止める。 そして、検問官の前に立って、言った。 「心配しないで下さい。 私は、彼のペットですから」 「はい?」 「え、ちょ、テファっ?」 いきなりの発言に検問官と才人の目が丸くなる。 ティファニアはまったく気にせず、そして、自分の首に手を伸ばした。 そこには。 真っ白い首筋に、一本の無骨な褐色の革の首輪が巻かれていた。 「私、彼に『飼われて』るんです。 だから、普通のエルフとはちょっと違うんです。 魔法も使えませんし、育ちもアルビオンですし」 「は、はぁ」 目を点にして受け答えをする検問官。 まったく敵意の感じられない、得物すら持っていないティファニアに、その手はすでに剣の柄から外されていた。 そして、ひとしきり彼女の話を聞くと、一応納得した。 「あい分かった。町の衛視にも話を伝えておこう。 で、だ、あー、シュヴァリエ。一言いいかな」 「え?なんすか?」 突然話を振られた才人は思わずそう応える。 もちろん才人の身分はしっかり保証されているので問題などないはずだった。 しかし検問官の次の言葉は、才人に大ダメージを与えた。 「この変態」 「ぶ!」 確かに検問官の指摘にも一理ある。 仮にエルフとはいえ、こんな美少女に首輪をつけペットを自称させるとか、世間一般の常識にあてはめたらどんだけ変態なのか。 半分羨望まじりのその言葉に才人は反論しようとしたが、時既に遅し。 検問官は、門の内側に控える門衛に、大声で言ったのだった。 「おーい、変態のシュヴァリエ・サイトがお通りだぞー」 「ちょっと待って、いくらなんでもそりゃひどいんじゃっ?」 「さ、行きましょご主人様♪」 理解を得られたペットは、豊満な胸で誤解された主人の腕を挟みこみ、町の中へ向かったのだった。 その宿場町は、かつて、特に名物と呼べるものはなかった。 街道筋にあった集落に、旅客を目当てとした宿が立ち、そこを中心に徐々に大きくなり、小さな城壁を備える交通の要所にまで発展したのだ。 しかしそれだけでは、大きくなった町を維持できるだけの収入を得られない。 そこで、その町の住民たちは協力しあい、街道に沿って長い長い花壇を作ったのである。 その花壇は街道から町の中心へ導くように続き、この町の名物として作られた、大きな日時計に辿り着く。 その日時計の周囲も花壇になっており、季節に合わせた花が、一年を一日になぞらえて植えられている。 今は春。早朝から昼前までの部分に、街道沿いと同じく、この時期に咲く、色とりどりのチューリップの花が咲いているはず。 ティファニアの目的地はもちろんそこ。 しかし、その前に、この長い長い街道沿いを、才人と散歩するのが最初の目的。 もちろん、ペットとして、である。 首輪をつけてルンルンのティファニアは、これでもかと才人にべったりしがみつく。 そんな二人に突き刺さる、無数の視線。 この宿場町は、かつて城壁のできる前、野盗たちの脅威に晒されていた。 野盗の襲撃を受けた際、最も大事なのは町の隅々に展開する、衛視たちへの情報伝達の速度。 その速度を上げるため、この町はその時代から街道沿いに等間隔に衛視所を配置し、情報の伝達速度を極限まで速めていた。 それは、時代の変わった今も変わらない。 現代では、王族や大貴族の来訪を即座に伝え、町の隅々まで歓迎の準備を整えるのである。 そして今。 『超巨乳のエルフっ娘に首輪を嵌めてペットにしている変態シュヴァリエ・サイト』の情報は町の隅々にまで行き渡っていた。 光ファイバーもまっつぁおなその情報伝達速度は、衛視所の伝達だけによるものだけではない。 ゴシップ好きのおばさま達の情報網、酒の肴に飢えた酒飲みどもの情報網なども加わって。 『うわホントに首輪つけてるよ』『あの恐ろしいエルフを』『どうやって手懐けたのかねぇ』『にしてもあの子かわいくね?』『あの胸とかすごくね?』 『普通に見たら美少女よねえ』『ていうか尋常じゃねえ懐きっぷりだな』『きっと物凄い調教したのよ。自我が壊れるくらいのをね』『うわマジ変態っすね』『…ちょっとして欲しいかも。そんなの』 視線とともにそんな声が聞こえてくる。 遠巻きに見守る町の住民たちはしかし半数程度。ゴシップに付き合うヒマのない、忙しい住民たちは、一応知らん振りをしながら、二人とすれ違いながら、いろんな視線を投げかける。 死にてえ…。 軽くプレイの域を超え、公開処刑の態にまで達しているその場の雰囲気に、才人のテンションはダダ下がりである。 流石のティファニアも、うなだれてイヤな汗をかいている才人が気にかかる。 「あの、サイト、気分でも悪いの?」 元々半分埋まっている才人の肘を、谷底まで挟み込んで、上目遣い。 普段の才人ならこれだけでテンションが上がってくるのだが。 「あ、いやそのねぇ。流石にねぇ」 周囲をキョドりながら、流石に『お前がペット宣言したせいで俺は希代の変態扱いだっぜ!』とは言えない才人。 ティファニアはそんな才人を見て、やっぱり、と少し後悔した。 彼女も分かってはいた。世間一般では、異性をペットとして飼う、などというのはとんでもなく背徳的な行動なのだと。 しかし、困ったことに、彼女はその立場が愛おしくてたまらないのだ。 ズレている、という認識はあった。だが、一度ハマるともう戻れなかった。背徳であるという認識すら、逆に追い風となって彼女に行為をエスカレートさせていた。 だから。 彼にも、ちゃんと『飼い主様』として振舞って欲しい。 こんなふうにキョドったりせず、堂々としていて欲しい。 …さすがにそれはちょっと無理かも。 才人を見ながらそう思うティファニア。 だったら、どうすれば、才人は堂々と振舞ってくれるのだろうか? ティファニアは考える。 サイトが『いかにも』なカンジになる時って、どんな時だっけ…? そしてピンとくる。 才人がとってもアレなカンジになる時。それは。 「ねえサイト、こっち来て!」 思いついたら即実行。相手に考える隙を与えるな───。 『夜伽の達人 〜ひと目でわかる殿方の悦ばせ方講習〜』心得その三、『できる女の上手な攻め方』の一節である。 ティファニアは才人の腕を引いて、一軒の食堂に入っていく。 昼にはまだ早く、客の全くいない食堂へ。 二人を追っていた視線たちが、一斉に舌打ちした。 いかに暇があると言っても、人気のない食堂などという、追跡のばれてしまうような場所まで追ってはいけないからである。 『こちら二六○。目標は黒山羊亭に入った。追跡は不可能』『目標を見失っただと?追跡班なにやってんの!』『黒山羊亭の主人の出歯亀に期待する!オーヴァ!』 追跡していた衛視たちは、おとなしくその場で待機せざるをえなくなったのだった。 『黒山羊亭』は老舗の食堂で、板張りの結構広い店なのだが、ウエイトレスの出勤時間は忙しくなる昼時から。 したがって昼のかなり前である今の時間には、仕込みを済ませた主人しか店内にはいなかった。 ティファニアは食堂に入ると、時間外の客に対し、面倒そうにメニューを持ってきた主人に言った。 「あ、あのっ!トイレお借りしてもよろしいですかっ?」 主人はティファニアの切羽詰った声にしかし。 「ん?あー。とりあえずなんか頼んでってくれ。ウチは公衆便所じゃねえんだから」 寝ぼけ眼でそうのたまうヒゲ面の主人。実際二人が店に入ってくるついさっきまで、仕込みがひと段落して昼寝していたのである。 ティファニアはとりあえずエールを二杯頼んで、才人をひきずったまま主人の指差した奥のトイレに向かう。 「え、ちょ、テファ?」 「いいから来て、サイト」 耳打ちするように言ったティファニアに、主人が声をかける。 「右が婦人用、左が殿方用だ。間違えるなよ、ウチのウエイトレスも使うんだからな」 宿場町の老舗らしく、ちゃんと男女の別があるらしい。 ティファニアは主人に礼を言い、そして。 二人そろって殿方用のトイレへ。 主人は、二人の背中など追うこともなく、店の横壁に設えられたカウンター席に戻ってうたた寝の続きを始めた。 瓶詰めのエールなど、二人が席についてから準備すればいいのだから。 一方そのころ、殿方用のトイレの中。 ティファニアが、才人に、腰に下げたこぶし大の皮袋を手渡していた。 「え?コレ何?」 それは、ティファニアが今日のために準備していたもの。 本当は、今夜使う予定だったもの。 「あけてみて」 言われて才人は、袋の紐を緩め、中身を確認する。 「い゛」 才人が固まった。 その中にあったのは。 才人がかつて日本にいた際、インターネットのエロサイトでよく見た、大人の玩具の広告に載っていたブツに酷似していた。 ひとつはあからさまな男性器の形をしており、男性器の付け根に当たる部分から先端がひらべったくなった奇妙な枝が生えている。 もう一つは小さな球体が数珠繋ぎになっているもの。たしか『アナルビーズ』とかいうお尻責め専用の器具がこういう形状だったが、しかしこれは才人の予想しているものよりずいぶんと細く、また小さい。 このサイズではどれだけティファニアの穴が小さかろうとも、すぐに抜け落ちてしまうだろう。 まあそんなことはともかく。 「な、なんつーもん持ってるんすかあーた」 才人の突っ込みもしかし、ティファニアの鋼鉄のペット魂には通じない。 ティファニアは少し顔を赤らめると、説明する。 「そのおちんちんみたいのが、女の子の穴用のね。 で、その細いのがおしっこの穴用なの」 いやまってそんな事聞いてんじゃなくて。 しかし才人の突っ込みより早く、ティファニアは続ける。 「でね。その奥にある、小さな板みたいなので、さきっぽがブルブルするんだって」 ティファニアはそう言い切ると、するするとワンピースのスカートをたくし上げていく。 そして、再び才人の目が点になる。 まあ半分予想はしていたが。 ティファニアの真っ白なワンピースの下は見事なまでのすっぽんぽんだった。 軽く脚を広げ、口元までスカートを持っていく。 そして、上目遣いに才人に言った。 「…デートのあいだ、それ入れさせて…?」 その言葉と同時に、才人の顎がまるでアッパーカットでも食らったかのように跳ね上がる。 上を向いたまま、口をパクパクさせている。 ここまできたら才人の理性はアレの境地にまであと一歩。 よし。 そしてティファニアは、最後の武器を使う。 たくしあげたまま、才人にぶにゅ、と自らの凶器を押し当てる。 ハルケギニアにブラはない。繰り返す。ハルケギニアにブラはない。 ティファニアだけが持つ、条約禁止級の生体兵器が、才人の理性をぺんぺん草一本生えない荒野に変える。 「ね?私はサイトの、えっちでどうしようもないワガママなペットなんだから。ねっ?」 台詞まで加えられてはもうどうしようもない。 三八式歩兵銃一本ででフル装備のアパッチに立ち向かうようなものだ。 才人の手が皮袋に突っ込まれる。 そして。 奇妙に吊り上ったイヤ〜な笑顔になった才人は、両手に二つの性具を構えて、言った。 「この変態エルフめっ!おしおきだこのこの!」 「やんっ!乱暴しちゃヤ♪」 などと言いつつ、物凄く嬉しそうなティファニアだった。 黒山羊亭の主人は、肩を叩かれて目を覚ます。 「んあー。悪い、ちょっとうたた寝してたわ」 ぽりぽりと頭をかき、自分よりずいぶん若い黒髪の少年に、注文を確認する。 「エールでよかったかい?二人前?」 「ああ。あとゆで卵あったら頼める?できれば5コくらい」 「ああお安い御用さね」 ゆで卵なら仕込みで数十個作ってある。その程度のツマミならすぐ準備できる。 楽な客だ、と主人は思った。 そして、才人の連れている少女が、少しおかしいことに今更気づいた。 「…ってお前さん!その子は!」 「ああ、この子ティファニア。俺のペットのエルフだよ」 さらり、と才人は応えた。 主人の目が点になる。 才人は、少しうつむき加減のティファニアの肩を押して、主人と自分の間に立たせる。 「ほら、挨拶だ。できるだろテファ?」 「は、はい…。 はじめましておじさま。私…っ、サイトのペットの、ティファニアっていいます…ぅっ」 緊張しているのか、少し赤くなった頬で、そのティファニアと呼ばれた美しいエルフの娘は頭を下げて挨拶した。 主人は呆れたように言った。 「…あんた、いい趣味してんね」 「よく言われるよ。それより、注文のほう頼むね」 才人は主人の言葉をさらりと流し、注文の催促をした。 素人はそれ以上突っ込まず、黙って頼まれたものを準備した。 もちろん、ティファニアが言葉に詰まったのは、才人が胎内に入れた性具を振動させていたせい。 ただ、食堂でエールを飲んでいる間だけは、振動を止めてくれていた。 しかしエールを飲み終わり、支払いを済ませ、食堂を出た直後。 ヴヴヴヴヴヴヴ…。 「ぃんっ?」 才人の右腕に寄りかかっていたティファニアの背筋がびくん!と跳ねる。 才人のほうを見ると、いやらしい笑顔でティファニアを見、そして、左手でつまんだものをこれ見よがしに見せる。 それはティファニアの胎内に挿入された性具のコントローラー。 小さな薄い板に見えるその先端、黒と白に塗り分けられた白いほうを押すと膣内の張方の先端が振動し、黒いほうを押すと尿道に差し込まれたビーズの先端が振動する仕組みだった。 ただ、強弱はつけられないらしく、振動のオン/オフだけが可能だった。 才人はその白い方を押したのだ。 ティファニアの子宮口を、機械的な振動がぶるぶると揺らす。 その振動はティファニアの果汁を搾り出し、とろとろと雌の唇から涎をこぼさせる。 いまにもくず折れてしまいそうな膝を必死に支え、ティファニアは抗議した。 「さ、サイト、あ、あるけなくなっちゃうからぁっ…!」 こんな往来の真ん中で、絶頂で崩れてしまったらそれこそたいへんなことになる。 さすがのティファニアも、こんな衆人環視の前で痴態を晒すことに快感を覚えるほどへんたいさんではない。 才人はんー、と考える。 「でもなあ。テファが入れて、って言ってきたんだぜ?」 「で、でも!ブルブルしてって言ってないっ…!」 確かにティファニアは『入れて』としか言っていない。 しかし才人は。 「でもさ、これは『お仕置き』なんだよ。 お預けもできないダメなペットには、お仕置きが必要だよね?」 「ご、ごめんなさいっ!こ、これからはちゃんと言うこと聞くから…!」 涙目になっているティファニアに、流石の変態シュヴァリエも良心が咎めたのか、才人は板を持ち替えて、言った。 「分かったよ。んじゃ止めてあげる」 その言葉を聴き、ほっと胸をなでおろすティファニア。 しかし。 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ…っ!! 「きゃひィっ!?」 びくくん!と先ほどより強く、ティファニアの背筋が爆ぜる。 そして。 かろん、と音をたてて、小さな細い数珠繋ぎの玉が、ティファニアのスカートの下から転がり出る。 それを追うようにして、しゃあああ、と軽い水音が続く。ティファニアの足元に、小さな水溜りができていく。 才人が操作を誤り、黒いほうを押してしまったのだ。 そのせいで尿道の奥深くで玉が振動し、ティファニアの膀胱を決壊させてしまったのだ。 「や、やぁぁぁ…!」 しょぽ、しょぽぽ、と何度かに分けて排泄されると、ティファニアのお漏らしは終わった。 「あ、あの、テファ大丈夫?」 真っ赤な顔をして泣きはじめたティファニアを見て、さすがに悪いことをしたと思ったのか、才人はティファニアに尋ねる。 しかし、ティファニアには届いていなかった。 「ご、ごめんな、ごめんなさいッ…!も、もうしないから、ワガママゆわないからぁっ…! ゆるして、おねがい、も、ゆるひて…!」 才人は、まだ膣内のほうの性具の振動を切っていないことを思い出した。 慌てて板を操作し、そちらのほうも止めると、ティファニアの肩を優しく抱いた。 「ちょ、ちょっと休めるとこ入ろう?な?」 まだ泣きじゃくるティファニアをなだめながら、才人は一軒の宿屋にティファニアを誘う。 『こちら三○六!対象はペットを泣かせた後『メロウの宿』へ移動!追跡はできません!』『何?『さくやはおたのしみでしたね』コースか!』『いよいよもって変態ですな!』 衛視の面々が、そのあとあることないことで妄想と噂を広げたのは言うまでもない。 才人はそこそこのクラスの部屋を取り、なきじゃくるティファニアをベッドに座らせた。 誘われたとはいえ、さすがに興が乗りすぎた。 才人はベッドにかけて目を腫らして泣いているティファニアの隣に腰掛ける。 きし、と軽く軋むベッドに、ティファニアは才人のほうを向く。 そして。 先に謝ったのは、ティファニアのほうだった。 「ごめんなさい、私がワガママ言ったのに…。ダメなペットでごめんなさい…」 できる限り才人の言うことに従う。それはティファニアが自分で自分に課した『ペット』としてのルール。 なのに自分からワガママを言った挙句にこの体たらくである。ティファニアはそれを反省していた。 そして、才人も謝る。 「俺こそごめんな。ちょっと調子に乗りすぎた」 謝る才人を即座に否定するティファニア。 「違うわ、サイトは謝ったりしないで!サイトは私の飼い主様なんだから、私に何したっていいの! 悪いのは私なんだから!」 いやそのりくつはおかしい。 才人はどう言ったもんか、と一瞬考えると。 まずは行動に移す。 迅速にティファニアの顎をつまみ、一瞬の早業でティファニアの唇を奪う。 何が起きたのか呆けるティファニアに、才人は言った。 「テファ、ペットと飼い主はそういうもんじゃないよ」 「え?」 「ペットはワガママ言いたい放題言っていいんだ。飼い主はそれを叶えてあげるのが仕事。 ペットは、飼い主の周りの人に迷惑かけないように振舞うのが仕事」 「で、でも」 反論しようとするティファニアの首輪を、才人はぐっと握って、自分のほうへ引っ張る。 そして、ティファニアの瞳を覗き込みながら言った。 「テファは思いっきりワガママで可愛くしてくれてればいいよ。 俺、そういうペットが欲しいんだ」 きゅうん、とティファニアの中で音が鳴る。 才人の言葉がティファニアの心に刻まれた音だった。 ティファニアは泣きそうな、でも今度は嬉しさいっぱいの笑顔で、応える。 「じゃあ、サイトも私にワガママ言って。 サイトのワガママ全部きいてあげられる、そんなペットになりたいの、私…!」 その言葉に、才人が尋ねる。 くい、と首輪を引っ張り、今にもキスしそうなほど顔を寄せながら。 「じゃあさ、今からどうして欲しいか、言ってごらん?」 ティファニアはほう、と熱いため息を才人に浴びせ、そして言った。 「えっちして。いっぱい、乱暴に、優しく、して…!」 そして目を閉じて、二人は唇を重ねた。 二人は服を脱がせあい、全裸になるとベッドに上がる。 まずは、いつもどおり。 ティファニアは自ら胸の谷間を割り開き、才人の一物を胸の谷間で挟み込む。 「サイトおっぱい大好きだもんね…?」 にっこり笑顔でそう言ってくるティファニア。 「ああ…」 そう応える才人の顔は既に夢見心地だった。 ティファニアの胸は大きいだけでなく、柔らかさも一級品なのだ。 その谷間に挟まれると、さらさらとしたきめ細かい肌の感触も相まって、膣とはまた違った圧迫感を与えてくれる。 ティファニアは己の掌にも余るその球体を、両手で遠慮なく揉みしだき、肉の狭間に埋もれた才人を押しつぶす。 元々そこまで我慢強いほうではない才人の限界はすぐに訪れた。 「くっ、テファ、出るっ!」 きつく締められたティファニアの胸の中で、才人がびゅるびゅると噴射する。 その噴射は胸の中だけでは収まらず、谷間を逆流し、ティファニアの鎖骨まで飛び散る。 「きゃっ、さ、サイト、今日はいっぱい出るね?」 いつもより多い射精の量に、ティファニアは嬉しそうに微笑んでそう言う。 それは、先ほどの行為による興奮のせいもあったが。 「ああ…。テファの胸が気持ちよすぎてさ」 まだ脈打つ己の分身をティファニアの胸の中で前後させながら、才人は言う。 「んっ…まだ出てる…。うふ、サイトってば、私のおっぱいを妊娠させるつもり?」 胸の中から溢れる才人の精液をローション代わりに、硬さを失わない才人を胸の柔肉で抱きしめながら、ティファニアは淫靡に微笑む。 だがしかし。 ティファニアが欲しいのは、ここに、ではない。 ティファニアは硬いままの才人を胸の谷間から解放すると、言った。 「サイト、ごめんね?」 「え?何が?」 「…ん。とね。 テファはえっちな子だから、ね?」 胸を才人の精液でベトベトにしたまま、ティファニアはベッドの上にころんと寝転がって。 M字に脚を開いて、自らを指で割り開く。 そしてティファニアはワガママを言った。 「こっちに、いっぱい、ちょうだい…?」 才人の喉がごくりと鳴る。 そして、才人はそのまま、ティファニアに覆いかぶさる。 あまりにもあっさりと、ティファニアのそこは才人を受け入れた。 一気に奥まで貫くと、今度はぎゅっとティファニアが才人を抱きしめる。 きつく牡を噛み締める膣と一緒に、細い脚が才人の腰に絡みつく。 「くぁ、やべっ…!」 胸とは違う、肉襞のざらざらした感触に、才人が最初の絶頂を迎えた。 びゅるるっ…。 胸で出したよりは少ない精液が、ティファニアの中に放たれる。 それでも、若さのおかげか、才人はまだ納まらない。 もちろん、ティファニアも。 「ねえサイト、まだ元気だよ?」 「ああ、もちろん…」 「じゃあ、おねだりして…いい?」 「いいですとも!」 甘え上手なペットに滾った才人は、乱暴に腰をピストンしはじめた。 「やんっ、サイト乱暴っ♪」 嬉しそうに微笑み、淫乱なペットは主人の陵辱を受け入れるのだった。 ナウシド・イサ・エイワーズ…。 朝もやに煙る宿場町。 夜勤明けの衛視が眠そうに目をこする早朝、その宿場町を奇妙な霧と詠唱がつつんだ。 それは、ティファニアの『忘却』。 この町にいる人間全員の、昨日の記憶を奪い去るため。 もちろんそれは、才人も含まれる。 宿屋で眠る彼の枕元には、一枚の置手紙があった。 『私はしばらくトリステインを離れます。でもまた必ずサイトのところに戻ってくるから、待っててね。 追伸 おみやげ、期待して待っててね♪ あなたの忠実なるペット・ティファニアより』 才人には、この宿場町に自分を見送りに来たという暗示をかけてある。 もちろん、自分を追ってこさせないためだ。 才人は、一緒にエルフの国へ行く、と言ってくれた。 だがしかし、彼女は才人を連れて行くつもりはなかった。 もちろん、誰一人としてエルフの国へ同道させる気はない。 一人で赴き、そしてエルフの国を手に入れ。 主人である才人に、その国ごと捧げるのだ。それこそが彼女の言う『おみやげ』である。 それと、もう一つ。 「怒らないかな…。怒らないよね、サイトなら」 言って下腹部を撫ぜるティファニア。 懐妊の秘薬を飲んで、才人と交わったティファニアのそこには。 確実に、才人の子供が宿っていた。 この子のためにも、平和な世界を作らなきゃ。 それにはまず、エルフと人間を仲直りさせる。 その橋渡しをするだけでもいい。ティファニアはそう思っていた。 想いを新たに、あらかじめこの宿場町に送っておいた旅支度を背負ったティファニアは、東へ、エルフの国へ旅立つ。 まさか、その後、彼女が紆余曲折を経てエルフの国始まって以来初の女性の頭領になろうとは─────。 誰も予想だにしていないのであった。〜fin