<反・胸革命!>

 =3=

双月の月明かりは今日も煌々と学院を照らしていた。
そんな学院の部屋の一室で、二人の男女が床を共にしている。
男女、といっても二人ともまだ年齢的には少年と少女といっていい二人である。
少年の名は平賀才人。
少女の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーといった。

「キュルケ……」
「あぁ……ダーリン」

その夜、サイトはキュルケの部屋を訪れていた。
二人はどちらが言うでもなく、その夜も酒瓶を少しばかり減らし、談笑した後、ムードに乗ったところで熱い口づけを交わした。
今、キュルケはサイトの男性自身を自らの中へ迎え入れていた。
規則的な間隔でベッドが軋む音を立て、その度に二人は微かな喘ぎ声を漏らす。
キュルケの十代の少女のものとは思えない色気に、サイトはその手を彼女の胸元へ伸ばした。
ブラを外したベビードールの薄い繊維越しに、柔らかな乳房の感触を存分に堪能しつつ、口では絶えず彼女の生々しい舌を絡め合う。

「ん……ちゅっ……あはぁ……」

キュルケの漏らす吐息が耳元をくすぐる。
ベッドが軋む音が徐々にだが短くなっているのに彼女は気づいているだろうか。
サイトは自分のペニスを絡み取る彼女の膣内の蜜の滑りや、上気した頬の色、
そして何よりガンダールヴの力を借りて彼女の絶頂が後どれほどで訪れるのかを知っていた。

(も、もうちょい……!)

しかし、当のサイトの方は限界が既に迫っていた。
少年の悲しい性だろうが、ここ三日ほどキュルケとの時間がとれず、
精を放つ機会がなかったせいで彼のペニスは今にも暴発してしまいそうな勢いなのだ。

「あっ……あぁん……あぁ……」

キュルケは自分の腕の中で確実に快感を高めてくれている、この勢いを逃したくはない。
そう、ほんの少しでもキュルケに気持ちよくなって欲しかったのだ。
彼の脳裏に、先日の言葉が思い出される。

……二回だけじゃ、分からないわよ、本当の愛なんて

前に言われた言葉を、彼なりに解釈した結果は、やはり彼女とより多くの時を過ごすくらいしか思いつかなかった。
ここまで深い男女関係など経験したことのないサイトは、
とにかく今はそれを信じてキュルケとの短い時間を必死になって作っていたのだった。
三日ぶりの逢瀬を、彼女より先に達してしまうという情けない結果に終わらせるわけにはいかない。

「ね、ねえ……ダーリン?」
「はぁっはぁっ な、何?」
「あんまり我慢しなくても先に一回イッちゃっていいのよ?」
「だ、大丈夫だよ! ははは!」

やせ我慢は男の甲斐性、だったか、とサイトは自分に言い聞かせる。
そう強がりを見せて額に脂汗をかくサイトを、キュルケはじっと見つめていた。
そして、ペロリと紅い舌で唇を舐め、酷薄な笑みを見せると、次の瞬間、サイトには予想外の行動に出た。

「ダ・ァ・リ・ンっ!」

正常位で女性側の動きが制限された体位だと安心していたサイトだったが、
一瞬のうちにキュルケはその肉感的な美脚でサイトの腰を挟み込んだのだ。
ピストンをキャンセルされたサイトは、彼女の深くまで挿入したまま腰を固定されてしまった。

「あうっ!? ちょ、キュ、キュルケっ!?」
「ふふっ……」

キュルケは腕を彼の首に絡め、引き寄せた彼の耳元で囁いた。

「ダーリンの、私の中でピクピクいってるわよ?」
「そっ、そんなことねえよ!」
「あーらそうかしら?」

キュルケは意地悪く笑い、深くまで男性を挿入された腰をベリィダンスのようにくねらせた。
その瞬間、単なる上下運動では得られない感覚がサイトを襲う。
予測のできない膣内のうねりに、腰を固定されたサイトのペニスは逃げ場がない。
それが、引き金だった。

「あぐっ!?」

歯を食いしばったが、もう彼の自制心ではどうしようもなかった。
彼の奥底から、塊となって精液が噴出してくる。
まるでマグマのようなそれは、これ以上ないほどに勃起しきった彼のペニスを伝い、彼女の子宮口まで到達する。

ドックン!

「ああんっ! 熱いのがきたわぁ!」
「うああぁっ!!」

キュルケの身体を力強く抱きしめ、腰を痙攣させて彼は射精した。

ドクッ! ドクッ! ドピュドピュ! ドピュルッ!

「あ……あ……」

射精がこんなにも長いものだと知らなかったとばかりに、サイトは大量のスペルマを放出していた。
コンドームの先端はパンパンになっていることだろう。
腰が抜けたのではないかと思うような射精感に、
彼はまだ少量の精を小刻みに出しているにも関わらず彼女の身体の上にぐったりと倒れ込んでしまう。

ピュクッ

「あん……凄い……まだ出てる」
「はぁー……はぁー……」

二人はしばらくの間、荒い息が整うまでそのままの体勢で余韻を楽しんだ。
しかし、サイトの心には一つの後悔が残る。

(……キュルケより先にイッちまった)

申し訳なささえ感じて、サイトは余韻もそこそこに身を起こそうとする。

「あっ! やだ、サイト」
「え?」
「もうちょっと、このまま……」

キュルケはどこか恥ずかしげにサイトを制した。
少し回復したサイトが彼女をそっと確認すると、膣内が微かに収縮を繰り返していることに気づく。

(あ……ひょっとして?) 

キュルケも、サイトの絶頂と同時に達していたのだ。

(あれ、でもどうして?)

ガンダールヴの力は本来武器を扱う能力であり、女の武器はやはり専門外なのだろうか。
サイトは安堵すると同時に釈然としないものも感じる。

「キュルケ、気持ち良かった?」
「あん……そうじゃなさそうに見えるの?」
「い、いや」
「ふふ……」

キュルケはサイトの予想していたよりもずっと満足そうだ。
結果オーライだが、これからはもっとがんばらないといけないと思う。
サイトは腕の中の初めての女性を優しく抱擁すると、決意を新たにしたのだった。


・・
・・・

翌日

「あら、いらっしゃいな」

その日はルイズがたまたま早くに休んだため、キュルケの部屋を前日に続いて訪れることができた。
サイト自身、騎士団の訓練などで決して疲れていないわけではないが、そこは青い春の成せる技か、キュルケの笑みを見ただけでそんな疲労感は吹き飛んでいた。

「今日も月が綺麗よ」

キュルケは蝋燭の灯りだけで彩られた部屋の窓際で夜風を楽しんでいるようだった。
彼女の服装は白いガウン一枚、おそらく風呂上がりに涼んでいるのだ。
サイトは彼女の隣へ行くと、双月を一緒に見上げた。

「この季節の月の美しさはゲルマニアもトリステインも変わらないのね……」
「へえ、じゃあキュルケの故郷でもこんな夜空が見れるんだな」
「ええ。ま、そもそもトリステインとの国境線にあるのが私の領地だし、当然かしら」

他愛もない会話だが、キュルケとこうしてじっくり話をするのはどこか心地良く感じられる。
甘いワインを勧められ、酔いが回らない程度に口をつける。
窓から微風が入り込み、キュルケの豊かな紅い髪を撫でた。
月明かりに照らされる褐色の少女の姿は、ただそれだけで絵になっている。

「……ホント、綺麗だ」
「ええ、そうでしょう? だから、この部屋結構気に入ってるの……」

キュルケがサイトの視線が夜空ではなく自分に向けられているのに気づいた。
サイトもその潤んだ瞳に思わず自分が無意識に言った言葉にはっとしたが、ここで怯むのでいけない、ともすぐに思い至った。
こういう時、貴族とかならどう言えばいいのだろう。
この時ばかりは、いつもスラスラと異性への讃辞を並べることのできるギーシュの才能が羨ましくなった。
愛してる、好きだ、あの双月も君の美しさにはかなわないよ……
そんな感じの言葉が良いのだろうか。いや、しかしそれこそ月並みに聞こえる。

(月……月か)

サイトは高校で日本史を学んでいた時の言葉を咄嗟に思い出した。

「君が一緒にいると、月が綺麗だ……」

キュルケの目が大きく見開かれた。

「サイト……」

彼女がそんな純朴な乙女のような表情ができるのだと、サイトは初めて知った。
いくら経験豊かと言っても、やはりキュルケも十代の少女には違いなかった。
サイトはこの機を逃さないように、彼女の唇にそっと自らのそれを近づけた。

「ん……」

そのぎこちないキスが、もう恋人同士のそれであることは、鈍いサイトにも理解できた。



・・
・・・

天蓋付きベッドの上で、二人は一糸纏わぬ姿となって寄り添っていた。

「あ……んぅ……あぁ……」

サイトの予想とは裏腹に、今夜のキュルケの求めは普段の積極的な彼女からすれば慎ましいものだった。
まず、サイトにも裸になって欲しいと言い、愛撫も激しさやテクニックよりも、互いに密着したスタイルを望んだ。
前日のようにキュルケに主導権を握られないよう身構えていたサイトにとっては計算外である。
さっきからサイトは丁寧だが基本的な、指で彼女の花弁や芯を刺激する愛撫しかしていない。
普段彼女にこんな調子で前戯をしていたら、あっという間に主導権を奪われているに違いない。
しかし、今の彼女は時折キスを求めてくる以外、まるで処女のようにされるがままだ。

「……っん!」

キュルケが突然シーツを握りしめて胸を反らせた。

「キュルケ?」
「はぁ……はぁ……」

キュっと内股を閉め、小刻みに震えている。
そして、サイトに抱擁を求めるようにキスをする。
しばらくして、キュルケが軽く達したのだとサイトにも分かった。
だが、突然のことで、ガンダールヴの力でさえ察知できなかった。

(どうしたんだろう? 今日のキュルケ……)

指にはねっとりと彼女の蜜が垂れていた。
これだけ濡れているなら、もうインサートする頃合いだ。
彼女の快感の波が収まるまでに避妊の準備をしておく。
ピリリとコンドームの封を切る音に、キュルケが紅潮した顔で彼を見た。

「あぁ、ダーリン……」

いつもと雰囲気は違うが、これはこれでいじらしい可愛さがある。
サイトは笑みを浮かべ、彼女を安心させるように再び口づけをした。
そして、今の彼女に最善の体位を考え、そっと彼女の花弁に自身の男性器をあてがう。

「……いくよ?」

サイトの問いに、彼女はそっと目を閉じて応じた。
それを肯定と取ったサイトは、そのままゆっくりと腰を入れていった。

「んぁ……っ!」

キュルケがサイトの背中に手を回した。
サイトは寄り添ったままの体勢での挿入を試みたのだ。
正常位を横に倒した状態で行う、いわゆる『側位』でのインサートだ。
この体勢は互いの負担感が少ない分、激しい動きができない欠点があるが、ゆったりとしたセックスには有効だった。

「あっ あっ あふっ んぁっ はぅぅ」

キュルケも漏らすような喘ぎで、不満もなさそうにそれを受け入れた。
それどころか、口の端に自然と笑みをつくり、サイトと抱き合うようにして楽しんでいる。
サイトの胸板には彼女の美巨乳が押し当てられ、長く流麗な線を描く脚は同じく彼の脚と絡まっている。
彼はその感触でも快楽を得ることができた。
情熱的な刺激よりも、しっとりとした確かな満足感。奪い合うのではなく、与え合うセックスだ。
こういうのもありなんだな、とサイトは腕の中の少女の豊かな髪を撫でながら思った。
サイトは射精感を抱くようになると、キュルケの耳元で囁いた。

「イキそうだ……」
「いいわ……きて」

おそらく彼女は激しい絶頂までは達することはできないだろう。
しかし、今のこの行為はそんな肉体的な快楽を得ることだけが目的ではないのだ。
サイトはそのことに気づき、先に彼女の中で果てることにそれほど申し訳なさは感じなかった。

「くっ!」
「ぁはっ……!」

小刻みにピストンを早めたかと思うと、二人は一際強く抱きしめあい、その時を迎えた。

トクッ… トクッ……

射精は男性の絶頂を意味するが、今のそれはむしろ、行為の幕を引く一種の区切りとしての意味を持つもののように思えた。
気持ちよくないわけではない。
だが、サイトの抱いた感情は、絶頂感よりも、温かなキュルケの裸体を抱きしめたまま果てることのできる充実感の方が大きかった。

「キュルケ……」
「サイト……」

二人は絡み合ったまま、今日何度目かも分からないキスを交わした。
しかし、

(恋人に……俺はなれたのかな?)

満足感を壊したくない彼は、ただそれだけを聞く勇気がなかったのだった。


<続く?>



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