才人が教室に入ると、ルイズが寝ている
才人が溜め息を付きながら、ルイズの傍によると、クラスメイトが心配そうに話しかけて来る
「ねぇ、ルイズどうしたの?復帰一日目で居眠りだなんて。居眠りなんて初めて見るわ」
「あぁ、ちょっと心配事で眠れなかったみたいでね。何とか起こすから、今日は勘弁してくれないか」
「才人がそういうなら大丈夫か。何か才人が来てから、只の生真面目から変わってしまったから心配なのよ」
「有り難うな。ルイズが聞いたら喜ぶよ。本人に起きたら言ってくれないか?」
「えぇ」
その様子を見てたキュルケはくすりとし、タバサの髪いじりをしてる
『ダーリンのお陰ね。あんな風に心配されるだなんて』
ルイズが良い方向に向かってる事に、キュルケは満足そうにする
そんなキュルケや他の視線を感じつつ、才人はルイズを揺り起こす
「ルイズ、ルイズ」
才人の声色は優しく、見てる者につい微笑みを浮かべる
そう、幼子を優しく揺り起こす様な仕草
「ん、ふに」
ルイズが寝惚け眼で眼を擦りながら、身体を起こす
天下の美少女は、寝起きの姿すら魅力的だ
「ルイズ、居眠りしてたろう?」
「し、してないもん」
「言い訳は聞かないよ。事実だろ?」
「うっ」
「昼休みになったら木陰で休もうな。もう少し頑張れ、な?」
「うん」
才人がルイズをしゃきりとさせ、ルイズはぼけぼけしつつ、何とか起きる
「まるで親子だな」
レイナールが言うと、周りからクスクスと笑い声が起きると、ルイズがキッと睨む
「親子じゃないもん。使い魔と主人だもん」
「どっちかってと、才人が主人だよな」
ギムリがからかうと、ルイズがしどろもどろになる
「うっ、そんな事……才人は大人なんだから、あたしより出来て当然じゃない。出来る使い魔は、主人の誉よ」
「確かにそうだね。ルイズの言う通りだ」
レイナールが頷くと、クラスメイトもその点に付いては頷く
認める部分は認める気風が、使い魔を持つ事により、生徒にも芽生えだしている
『へぇ、皆成長してるんだな。成長してないのは俺だけか』
才人は生徒達を眩しそうに見る
次の授業で午前は最後だ
今度の授業はミスタギトーによる、ルーン文字の基礎の反復授業だ
非常に退屈だが、重要な授業である
「では授業を始める。二年生になってる君達には非常に退屈だと思うが、基礎をきちんと出来るか出来ないかで、この先の君達メイジとしての成長に関わる」
「だからこそ、基礎の授業は重要だ。トリステイン魔法学院では、基礎の反復を重視している。全員丸々言える位になって欲しい。成績に一番影響する部分だ」
「「「「はい」」」」
「では、ルーンの特徴を講義して貰おうか………眠そうなのが居るな。ミスヴァリエール、答えたまえ」
ガタッと音を立て、ルイズが立つ
「は、はい。ルーンは私達が現在使ってる文字の原型で、特徴は左右どちらからでも読める事。また、発音記号としてだけでなく、一文字で意味を有している表意文字です」
「メイジとしての使途は、表意文字を利用して、四系統スペルの詠唱に使います。また、効果を永続させたい場合、魔力によりルーンを対象に印字したりします。但し、ルーンの意味のみで収まらない部分は、発音記号として用い、単語を補足します」
「うむ、宜しい。着席しなさい。捕捉出来る者は居るかね?」
ルイズが着席すると、何人かが手を上げる
「はい」
「ほう、珍しいな。ミスタグランドプレ。答えたまえ」
マリコルヌが起立して答える
「はい。ルーン文字は昔の文字ですので、始祖ブリミル以来の古い文献を読む場合に必要です」
「うむ、その通りだ。着席しなさい。他には居るかね?」
マリコルヌが着席すると、また複数の手が挙がる。成績に重要な授業は、全員真剣だ
魔法学院での成績は、卒業後の評価と家名に影響するし、当然進路にも影響するからである
「はい」
「ミスタグラモン。答えたまえ」
「はい。ルーン文字は全部で25文字。他にも派生ルーンが有り、16文字の時代も有りました」
「意味は解ってるだけでも、一つの文字に複数。また、正位置と逆位置で意味が正反対に変わる文字もあります。発音も、一つの文字で複数の表記が有ります」
「うむ、宜しい。着席したまえ。他には有るかね?」
更に複数の手が上がる
「ふむ、ミスモンモランシ、答えたまえ」
「はい。ルーン文字は、まだまだ現在では解読出来ていない意味合いも含まれており、それが始祖ブリミルが用いたと言われてる、虚無に関係するのではと、言われております」
「うむ、宜しい。着席したまえ。皆が良く勉強してくれている姿勢が見えて、私は嬉しい。では、次は単語の発音と意味合いをお願いしようか」
カカッ
一本の縦線に右斜め上に二本線の文字を書くギトー、Fを崩した感じだ
「此が解る者」
「「「はい」」」
ほとんど、全員の手が上がる
「では、全員で答えたまえ」
「「「「フェイヒュー、又はフェオ。意味は家畜や富。逆位置は散財」」」」
「うむ、その通りだ。まぁ、逆位置で呪いたい場合に使うな。次は此だ」
カカッ
二本の縦線を間を右下方向に横線を引く、変型コの字
「「「はい」」」
「答えたまえ」
「「「ウルズ、又はウル。意味は野牛、勇気。逆位置は優柔不断」」」
「宜しい。火系統の着火から始まるスペルで非常に有名だな。では次は此」
カカッ
縦線一本に右側中央に三角の旗を書く
「「「スリサーズ、又はソーン。意味は巨人、棘、門、又は雷も有り。逆位置は後の祭」」
「うむ、逆位置の要約が素晴らしい。アースハンドやライトニング系が有名だな。次は此」
カカッ
縦線一本に、Fを崩して二本の横線を右下に向けて書く
「「「アンサズ、又はアンスール。意味は神、口、情報。逆位置は偽情報」」」
「うむ、撹乱したい場合に逆位置に頼るな。次は此だ」
カカッ
直線の繋りでRを書く
「「「ラグーズ、又はラド。意味は乗り物、騎乗。逆位置は交通事故」」
「うむ。良く勉強しているな。次は此」
カカッ
くの字を書く
「「「カーノ、又はケーン。意味は松明、明かり、開始。逆位置は停滞」」」
「うむ、火系統のルーンに不可欠だ。一番有名ではなかろうか。次は此だ」
カカッ
Xを書く
「「「ゲーボ、又はギョーフ。意味は贈り物、結合、出会い。逆位置は無し」」」
「宜しい、攻撃を相手に贈答すると、皮肉を込めて唱えているな。ファイアランスとかでは顕著だ。では次だ」
カカッ
上を突き出さない三角旗を書く。スリサーズの縦線が上に出ている文字と、非常に似ている
「「「ウンジョー、又はウィン。意味は喜び、成功、愛情。逆位置は不運の連鎖」」」
「うむ。悪い時は連続して悪い時が来ると、人生ではつきものだ。次は此」
カカッ
Hの横線が右下に斜めに書かれている
「「「ハガラース、又はハガル。意味は嵐、雹、災難。機会と言う意味も有り。逆位置は無し」」」
「宜しい。ジャベリンで使われているな。次は此だ」
十字の横線が右下に向かって斜めに書かれている
「「「ナウシズ、又はニイド。意味は欠乏、必要性、忍耐、束縛。逆位置は間違い」」」
「うむ、忍耐しなきゃならない時には使うべきだな。人生に忍耐は付き物だ。君達にもナウシズの加護が有るように。次は此」
◇を書く
「「「イング、又はイングワズ。意味は豊穣、多産、幸運、完成、男性器。逆位置は無し」」」
「うむ。将来を誓った男女には不可欠なルーンだな。次だ」
縦線一本、正にIだ
「「「イーサ、又はイス。意味は氷、凍結、停止、槍。逆位置は無し」」」
「うむ、ウィンディアイシクルではイスとイーサで二単語重ねて氷の矢としているな。同じルーンを重ねるのも有りと言う好例だ。次は此」
カカッ
くの字と逆くの字の組み合わせで、右下に逆くの字がある
「「「ジュラ、又はヤラ。意味は一年、収穫、更に法則、契約と意味も有り。逆位置は無し」」」
「うむ。やはり作物の収穫には欠かせないルーンだな。皆も食物に、ジュラの加護と感謝を捧げる様に。次は此」
カカッ
Zを反転させ、長い部分を縦線にした状態だ
「「「エイワズ、又はユル。意味はイチイの木、防御、更に弓。逆位置は無し」」」
「うむ、各種シールド系の詠唱や、射撃系のスペルに有用だな。防御陣地に使う場合は強固になるだろう。次は此だ」
カカッ
壷の底を左側にした様な、文字だ。内側にくの字を描いたのを上下にし、縦線を左側に書いている
「「「パース、又はペオース。意味はギャンブル、秘密、死後、性。逆位置は秘密の暴露、異性耽溺、死の誘惑」」」
「うむ、諸君には大変馴染み深いルーンだな。特にミスツェルプストー、色恋も程々にする事。他の皆もカジノでのギャンブルも程々にする様に。まぁ、一番オールドオスマンに言うべきだがね」
教室に笑いが巻き起こる
「ルーンの中では、特に意味が解って無い部類に入るルーンなので、スペルに組み込む時は正にイチかバチかになる。君達も気をつけたまえ。次は此」
カカッ
縦線に二本の斜め線を上に加える。差し詰め、トライデントの簡略化か、鳥の足跡みたいである
「「「アルジズ、又はエオルー。意味はヘラ鹿、保護、支援。逆位置は犠牲」」」
「うむ。エイワズと組み合わせると非常に強固な防御陣になる。但し、その分高位スペルになるので、実力と相談して決めなさい。次は此だ」
カカッ
S字を直線で構成したモノを書く
「「「ソウイル、又はシゲル。意味は太陽、光、尊厳、生命力。逆位置は無し」」」
「うむ。ソウイルは非常に強い力を持つルーンだ。余り強いと自身に効果が望まず返って来てしまう。使用には気をつけなさい。更に強い力を発生させたい場合はこうする」
カカッ
ソウイルに更に横向きのソウイルを書き足す
其を見た瞬間、才人は思わず呟いてしまった
「……ハーケンクロイツ……あれ、逆さ卍じゃ無かったのかよ……だから、ヒトラーは……」
「ハーケンクロイツ?ゲルマニア訛り?」
ルイズがきょとんと才人を見上げる
「ん?どうしたかね使い魔君。何か問題でも?」
ギトーが風使い特有の、音に敏感な所で反応し、才人に聞く
「いえいえ、構わずに続けて下さい。俺も勉強になります」
「平民の癖に、変な男だな。では続ける」
カカッ
上向きの矢印↑を書く
「「「テイワズ、又はティール。意味は神、勝利、戦い、公正。逆位置は敗北、不公正」」」
「うむ、正々堂々。正に君達貴族の為に有るルーンだ。貴族たるべく、精進を行えば勝利はおのずと付いてくる。皆も精進を怠らぬ様に、次は此だ」
カカッ
直線で構成されたBを書く
「「「ベルカナ、又はベオーク。意味は白樺、誕生、成長。逆位置は計画不備、頓挫、不健康」」」
「うむ。子供達の健やかな成長、其に君達の様な学生の成長にも寄与するルーンだ。実は、寮内の各部屋には君達の成長を祈って刻まれている。部屋の何処に有るか探索してみたまえ」
そこで一人の生徒が手を挙げる
「先生」
「何だね?ギムリ君」
「ルイズの胸には効いて無いみたいですが?」
ガタリと音を立てて立ち上がり、ルイズが猛然と噛みつく
「ちょちょちょっとあんた、今回とは関係無いでしょ!!」
「ミスヴァリエール、少し黙りたまえ。本当に良い質問だ」
「え?そうなんですか?」
ルイズが聞くとギトーは頷く
「うむ。魔力を込めて無いので、只の祈願だ。残念ながら、個々人の身体的成長迄には関与しない。三年間も、成長の魔力を込めた部屋に寝泊まりした場合、トロル並の巨人になったりする可能性も、否定出来ない。異常成長の基になるから、基本的にやらないのだよ」
へ〜とかほ〜とか、周りから発せられる
「だが、横には関与されてるみたいだな。マリコルヌ君を見たまえ。明らかに入学時より成長している」
途端に爆笑の渦に包まれる
「先生、幾ら何でも酷いです」
マリコルヌが堪らず、抗議の声を上げる
「ならば、きちんと節制したまえ。さすれば、念願の彼女も出来よう」
「うぐっ。頑張ります」
図星を指されて、何も言えなくなってしまうマリコルヌ
「では次だ」
カカッ
Mを書く、Mの中心が縦線の半分の位置に有る
「「「エワズ、又はエオー。意味は馬、移動変化、移動手段そのもの。逆位置は移動時のトラブル、突発事件」」」
「うむ。主に使う場合は行楽だろう。ラグーズは仕事関係なので、混同には気をつけたまえ。では、次だ」
カカッ
二本線の間の上側に×が付いている。形としては門の形状だ
「「「マンナーズ、又はマン。意味は人、自分自身、人間関係。逆位置は人間関係の不調和」」」
「うむ、何時でも人間の最大の敵は人間だ。だからこそ、人間同士調和を保てる様にするべきだな。次は此だ」
カカッ
縦線の上端から右下に斜め線が書かれているΓの字に近い
「「「ラグース、又はラグ。意味は水、感性、女性。逆位置は勘違い、不運の前兆、女難」」」
「うむ、自然に有る水を使う場合の水系統の始動キーとして、余りにも有名だな。確かタバサ君が得意だった筈だ。そして、この逆位置にはふさわしい人物が居そうだが。なぁ、使い魔君」
「返す言葉もございません」
才人が肩をすくめると、皆が爆笑する
「では次だ」
カカッ
×を二つ縦に並べて繋がっている
「「「イングワズ、又はイング。意味は神、豊穣、完成。逆位置は無し」」」
「うむ。閉じた結界を作る場合に非常に有効だ。アルジズやエイワズと組み合わせれば、トライアングル以上なら、非常に強固な防御スペルを唱えられる」
「又、君達の学業が無事、喜びと共に無事完結する事を祈っている。卒業式にふさわしいルーンだ。では次だ」
カカッ
×の上に山形のヘの字を乗っける
「「「オシラ、又はオセル。意味は世襲、領土、遺産。逆位置は土地問題」」」
「うむ。封建貴族には馴染み深いルーンだな。君達の中にも跡継ぎは居るだろう。財産管理には注意したまえ。次だ」
カカッ
×に両側に縦線を書いた文字を書く
「「「ダガズ、又はダエグ。意味は一日、日常、光、順調。逆位置は無し」」」
「うむ。揉め事大好きな君達とは対極のルーンだな。たまには、一日を穏やかに過ごしてみたまえ」
皆から苦笑が漏れる
「さて、最後に此だ」
カッ
何も書いていない場所にチョークを当てる
「あの、先生」
「何かね?」
「25文字やりましたよ。26文字目が有るんですか?」
「うむ。実はある。2年生になって少し慣れてから、教授する部分だ。知ってる者は居るかね?」
すると、二つの声が重なる
「「ウィアド、又はブランク。空白のルーン。意味は運命、宿命、潜在能力。逆位置は無し。まず使わない」」
「…見事だ。他の2クラスでは、誰も答えられなかったぞ。タバサ君は勉強家だからともかくとして……」
杖を向け、ある人物を指す。瞳には警戒だ
「使い魔君、何故君が知っている?」
「……俺もこちらに来てから、勉強してたもんで。教師はコルベール先生さ」
才人の返答を聞き、ルイズは首を傾げる
「嘘、空白のルーンなんて、コルベール先生やらなかったわよ?」
「ふん、二ヶ月か其処らで、良くもまぁ気付くモノだ。ミスタコルベールが教授しなかったとして、タバサ君に教えて貰ったのかね?」
「そうだよ、な、タバサ」
タバサは首を傾げてから、コクリと頷いた
才人がウィンクしてるのが見えたからだ
「まぁ、そういう事なら納得だ。聞いての通り、スペルに組み込めないルーンなので、皆が知らないのも無理は無い。知っておいた方が良い程度だ」
「まだ時間は半分位だな、では次だ。ルーンにはそれ以外にも使い途がある。何か解るかね?」
「「「暦」」」
「正解だ。我々の暦は、全てルーンから成り立っている。平民では知らない者も多数だが、我々メイジなら、直ぐに解るだろうな」
「では次だ。メイジとしては、唱えたルーンの意味合いを知ると知らぬでは、威力と消耗度合いが格段に違う。意味合いを知れば、イメージに直結するからな」
「だから次はスペルの翻訳と始動キー、つまり始動手順の法則から、メイジとしての基礎能力の向上に向けよう」
「では此だ」
カカッ
ウルとカーノを書く
「発音は?」
「「「ウル・カーノ」」」
「その通りだ。翻訳すると?」
「「「勇ましい火を起こす」」」
「正解。火の始動キーとして、ドットスペルで有り、尚且つライン以降の火のスペルに使われる。次は此だ」
カッカッカッカカ
エイワズと綴りが二語
「解るかね?ちょっと変則だ」
「「「イル・ウォータル・デル」」」
「うむ正解。此処ではユルをイルと読んでいる。発音は融通が効くからな。意味は?」
「「「水を変化させます」」」
「その通りだ。イル・ウォータルは人の肉体、精神に影響する始動キーだ。つまり、変化は治療を意味する」
「次は此だ」
カカッ
ウォータルの部分が違う単語に置き換わっている
「「「イル・アース・デル」」」
「正解、意味は?」
「「「土を変化させます」」」
「その通りだ、つまり錬金になる。次は長くなるぞ?」
カッカッカッカカ
「「「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」」」
「正解。意味は?」
此処で皆が頭を捻る。同じ意味を指す単語が、二つも有るのだ
「水よ、水から氷の矢となりて、風に乗れ」
「正解だ、ミスヴァリエール。きちんと勉強してないと難しいな。ウィンディアイシクルのスペルだな、では此だ」
カッカッカッカカ
「「「ウル・カーノ・イーサ・ティール・ギョーフ」」」
「うむ、正解。意味は?」
途端に全員唸りだす
流石に長くなればなる程、意味合いを前後して計らないと駄目だからだ
「勝利の火の槍を起こし、貴方に贈りますわ」
「うむ、ミスツェルプストー。流石に火の使い手だな。ファイアランスのスペルだ。火の使い手としてはどうかね?」
「最近は良く使ってますの。でも、形成が非常に面倒ですわね」
「確かに、球形にするフレイムボールに比べれば面倒だろうな。私も火使いなら、同じ感想を抱くかもしれん………っと、もう時間だな。今日は此処まで」
「起立」
ガタタッ
「礼」
全員でギトーに礼をし、午前の授業が終わった

「…サイト」
「何?」
「何でウィアドなんて知ってるのよ?あたしだって、知らなかったのに。タバサに教えて貰ったって、嘘でしょ?」
「稽古以前は勉強会で図書館に通い詰めだっただろ?その時に見っけた」
「そっか。あたしより勉強出来るだなんて」
ガックリとルイズは落ち込む
「ルイズには種明かし。実は、タバサの読んでた本を後で借りた」
ルイズは眼をぱちくりさせる
「……目聡いと言うか、小ずるいと言うか」
「何でもそうだけど、一番出来る人相手からが、一番多くのテクニックが盗めるのさ」
「…納得」
『だから才人は、一番成績が良い人から学びたかったんだ。こんな所で差が付くんだなぁ。あたしも見習わないと』
「タバサと仲良くなって良かったろ?」
ルイズはコクリと頷く
「昼飯食ったら昼寝しようぜ。まだ眠いだろ?」
「うん」
ルイズと才人は、キュルケ達が一緒に食堂行こうと待ってるのに対し、歩き始める
『まさか、ウィアドをスペルに組み込んでるなんて、誰にも言えんわな』

*  *  *
ルイズ達は昼食を取った後、外に移動し、木陰で休んでいる
ルイズは才人の肩に身体を預け、すやすや寝ている
キュルケ達は其を見て苦笑する
「本当に兄妹か親子みたいねぇ」
キュルケがニヤニヤ笑うと
「全くだよ。使い魔と主人ってより、飼い主とペットだね」
ギーシュが深く頷き
「才人が飼い主よね」
モンモランシーがトドメをさす
更にルイズの寝姿を目に納めようと、男子生徒が大量に近付いて来たのだが、才人に一睨みされて、何も言わずに退散する
「全く、ルイズの寝姿は人気だな」
「黙ってれば、確かに美少女だからね」
「タバサだって可愛いのにな。な、タバサ」
タバサはルイズが才人の右隣で寝てるのに対し、左隣で本を読んでいる
呼びかけられて、タバサは才人を見上げる。疑問の目だ
「ん?ああ、さっきの空白のルーンの件か?タバサの読んでた本を、後で読んでたんだよ。だから、タバサに教えて貰ったのさ」
「…其だけじゃない。ハーケンクロイツ」
「ダーリン、あたしも気になったわ。ゲルマニア訛りじゃない。何で知ってるの?」
「俺の国で、昔同盟組んでた国の国旗に、ハーケンクロイツがあった。ソウイルの強さにやられて、国家元首は戦争終盤で自殺して、結局負けたよ」
「…そうなんだ。その国って、強かったのかい?」
「あぁ、非常に強かった。竜騎兵達の撃墜数が、一人100騎を越えるのが、数百人以上居たからね。しかも最高が300騎撃墜が数人。60年以上経った今も、記録は誰にも破られてない」
「…僕達の戦争とは、桁が違うね」
「しかも俺が撃墜した記録とは違って、相手も零戦みたいな戦闘機だからね。あのトップエース達に比べれば、俺なんか雑魚だよ雑魚」
「才人が自慢しない理由が、理解出来たよ。そんな化物達が、才人の住んでた国の周りには居るんだね」
「今は音より速く飛ぶからね。零戦みたいな旧式じゃ、相手にもならない」
「ダーリン、音より速くって、何れくらいなの?」
キュルケは興味津々だ。タバサは本を読むのを止め、才人の話に聞き入っている
「ん〜と、温度で音速は変化するけど、大体音速は時速1200リーグ位かな?単位はマッハ、音速を一単位で後はマッハ1.5とか表記する。大体マッハ2位は出るんじゃないか?装備されてる武器は、もっと速く出る」
全員唖然とする
「私達の魔法なんか、一つも役に立たないじゃない」
モンモランシーが溜め息をつく
「魔法には魔法の利点が有るよ。要は使い方だよ。俺は魔法と科学技術を組み合わせたら、俺の国以上の事が出来ると、確信してんだがね」
「才人はやらないのかい?」
「……ギーシュ、俺に大量虐殺者になれと言うのか?」
「何でそう受け取るのさ?」
才人の物言いに、ギーシュが憤慨する
「…事実だからだよ」
「ギーシュ、追求は止めなさい。ダーリンがそう言うって事は、本当にそうなる可能性が高いって事よ?」
「…僕は、才人が英雄と呼ばれる人になって欲しくて…」
「気持ちだけ受け取るよ。ギーシュ」
ギーシュはしゅんとする
「俺は、出来ればのんびり過ごす方が良い。今迄、性急に生き過ぎた。何も起きないなら、それが一番だ」
才人の目が遠くを捉え、才人が自分が産まれた国に思いを馳るのが皆に伝わる
「才人、帰りたい?」
モンモランシーが聞き、いつの間にかルイズも起きて、才人を見つめている
「今は、……まだな」
才人が何を考えているかは、誰にも解らなかった

*  *  *
「コルベール先生。話って何ですか?」
放課後、コルベールに呼ばれて才人は研究室に来ている
「うむ、零戦の対艦ロケット弾を発展させて、新兵器を取り付けたので見てくれないかね?」
「解りました。物はどれです?」
「此だ」
才人の前に鉄パイプで安定翼が付いた弾頭を示す
「此は?」
「空飛ぶ蛇君だ。弾頭部分にディテクトマジックを採用して、火薬噴出口を変化させて魔力追跡機能を付加した」
「同士討ちを避ける為射出後50メイルの範囲では、ディテクトマジックは発振されない。又、対象付近で自動爆発する機能も付けた」
「……近接信管付き対空ミサイルじゃないですか。先生化物っすね。射程は?」
「500メイルが精々だ。黒色火薬の限界だよ。大型化すると、重量増と相談するハメになってしまうから、20+60ロケット弾の方が良いだろう。対空対地の軽量攻撃兵装としては、充分かと思うのだが?」
「充分です。竜騎兵の射程外からの、アウトレンジが可能な時点で充分過ぎる。搭載数は?」
「翼下に兵装ラック付きで10発。胴体下20発は可能だ。向きは前向き後ろ向きどちらも出来る」
「ほう、とんでもない搭載数だな」
「何、此でもロケット弾と増槽に比べれば、充分に軽量だ。他には」
ゴロンと増槽型の武装を示す
「こいつは?」
「火薬による加速装置だ。主に胴体下搭載だ」
「ロケットモーターっすか。オプション増えたなぁ」
才人は感心する
「うむ。才人君が居ない間にも、何とか出来る所をやろうと頑張ってみた。ミセスシュヴルーズにも協力して貰ったよ。ロケット弾頭と増槽も生産中だ」
「はぁ。有り難うございます」
「いやいや、私は才人君には死んで欲しくないからね。それと、今回の空飛ぶ蛇君の搭載に合わせて、投下レバーを増設した。一斉投下と単発投下が出来る様に改造してある」
「御見事」
「それでだね。才人君」
「何でしょう?」
「エンジンをばらさせて貰えないかね?内部構造を知りたいのだよ」
才人は暫く考え込む
「確かにオーバーホールしないと駄目かもしれないけど、コンパウンドが無いのに開けるのは問題がデかいな。今の部品の当たりが狂ってしまう」
才人の意見にコルベールが問い正す
「コンパウンドとは何かね?」
「擦り合わせに使う、非常に細かい研磨剤ですよ。開けるなら、擦り合わせする場合も考えて、やらないと駄目です」
「つまり、コンパウンドを作ってからじゃないと駄目だと」
「そういう事です」
「ふむ、才人君の候補は?」
「そうですね……粒子が一番細かいのは粘土だから、粘土を粉々に砕いて、軽油に混ぜてザラザラにした後、粒子に硬化を掛ければ、代用品になるかな?」
「解った、其で行こう。ミセスシュヴルーズに頼もう。彼女は粘土に対しては非常に強い。でも、今日は製作に魔力を使い切ってしまったから、明日だ」
才人は改めて感想を述べる
「先生の技術者としての技能はバケモノっすね」
「才人君の技能の方が、私にはバケモノだ。まだまだ出してないモノが、有るのでは無いかね?」
「其はお互い様でしょう?」
才人がニヤリとすると、コルベールはふっと笑う
「過去は、お互いに詮索無しで」
「大人の対応ですね」
才人がそう言うと、コルベールがワインを持って来る
空いているビーカー二つにワインを注ぎ
「私の研究促進と才人君の勝利に」
「俺の命の恩人と、コルベール先生の努力の結実に」
「「乾杯」」
二人はカチンと杯を交わし、一気に飲む
「先生、マルトーの親父さんが宴会やるって張り切ってるんですよ。一緒に行きましょう」
「そうだな。私もお呼ばれしようか」
二人は瓶の中身を飲み干すと、肩を組んで一路アルヴィーズ食堂に向かって行った

*  *  *
アルヴィーズ食堂では、通常の夕食が終わった後、マルトー達が才人を囲んで宴会を始めてる
学院長に内輪の戦勝会を提案して、許可が下りたのだ
参加してるのは、酒目当ての男子生徒とその彼女に、才人目当てのミーハー女生徒、才人達のレギュラーメンバーにコルベールにシュヴルーズ、マルトーと料理人達とメイド達の殆どだ
シエスタは用事有りと言って、参加してない
料理人達は先に料理を一気に作り、酒と料理を楽しんでいる
「ぶわっはっはっは。流石、我らの剣。俺の言った通りになったじゃねぇか」
バンバン才人の背中をぶったたいて、マルトーは既に出来上がっている
メイド達は貴族に対し杓をしながら、自身も料理と酒を楽しむ
勿論隙あらば才人に杓をしようと寄るのだが、才人に寄るとルイズが威嚇の唸り声を上げる為、中々面白いやり取りになっている
そんな宴会の最中、アルヴィー達がくるくると才人の前で踊り、笑いを提供する
タバサは大量に料理を平らげ、皆を唖然とさせ、キュルケは酔っ払ってケタケタ笑いながら、コルベールの頭をぺしぺし叩く
あちこちで酔いにより勢いが増し、段々無茶苦茶になっていく
「ねぇ、さいろー」
「なんだ?ルイズ」
「楽しいれー」
「ああ、そうだな」
「さいろー、飲んれる?」
「勿論」
「さいろが酔っれるの、見たころらい」
「ルイズは相変わらず弱いな。ワイン一口で駄目だもんな」
「さいろが飲まらいからいけらいの〜」
「そっか、じゃあ飲むか。ルイズが杓しても良いってさ」
「「「本当ですか〜?」」」
メイド達やら女子学生やらが集まって、次々に才人に杓をし始める
才人は全てに付き合い、飲み干す
流石に10杯目当たりで酔いを自覚し、一旦お預けし、水を飲む
才人がにこにこしながら杓を受けるのを見て、ルイズは酔いながらも面白くない
「あらしの使い魔らから、あらしが杓するの〜」
ルイズがワインを持って、才人に杓をする
「ころ、大貴族たるヴァリエールの杓なんらから、感謝しらさいよ」
どぼどぼ才人の杯からワインが溢れ、テーブルを汚す
「ちょっ、ルイズ、手元狂ってる狂ってる」
「狂ってらんかいらいわよ〜。あんらは犬らんらから、舐めればいいれしょう?」
自身にもワインが溢れて濡れてるルイズ
「ほおら、ご主人様ろ溢れた部分ろ舐めろりなさい」
首筋を才人に見せ、ふふんとするルイズ
「あぁ、もう」
ぺろり
才人がルイズの顔に付いたワインを舐めとる
ルイズはわざと、ワインを自身に溢している
「きゃん」
ぺろり
「ふ、ん〜〜〜〜ん」
才人が舐める度に艶の有る声を出し、ご機嫌になるルイズ
そして才人の頭を抱き締めると、周囲できゃあきゃあ見てた女達に威嚇する
「これはあらしの。あんら達なんかにあげらい」
「へぇ、良い度胸じゃない、ルイズ」
モンモランシーがにこりとしながらルイズを見る
「なあによ〜?モンモランヒーでもあげらいわよ」
「其よりも良いの?才人寝ちゃってるわよ?」
「へ?」
才人は飲みすぎで潰れていた
「はれ?さいろ?」
「才人も大して強く無いわよ。飲み方知ってるだけよ。でも、皆の杓受けたから、コントロール出来なかったみたいね」
「さいろ、起きれ〜」
ルイズがゆさゆさ揺するが才人は起きない
「で、どうするの、ルイズ。才人と此処で雑魚寝?服に付いた酒どうするの?」
「モンモランヒー浄化しれぇ」
「しょうがないわね」
モンモランシーが浄化し、服の汚れが落ちるがルイズは酔ったままだ
「はれ?なんれあたひ酔っれるろ?」
「服だけよ。じゃ、報酬って事で、才人貰っていくわね」
レビテーションを唱え、才人を運んで行くモンモランシー
「や、やられらぁ。モンモン、さいろ返しれ〜」
よたよたしながら、ルイズはモンモランシーを追い掛ける
そんな二人を見送りつつ、タバサは天ぷらをかじりながら呟いた
「…しまった、料理に集中し過ぎた」

*  *  *
才人を自身の部屋に運び込み、ドアを閉めるとロックするモンモランシー
「ふう、此で良しっと。ルイズはアンロック使えないから、大丈夫」
そう言い、才人を揺り起こす
「才人、才人、起きて」
「すぅすぅ」
「んもう、付き合い良すぎよ。才人、二日酔いになるから起きて。浄化するわ」
水差しから水を口を含み、才人に口移しで飲ませ、浄化をかける
再度、モンモランシーは揺り起こす
「才人、才人」
「ん、んあ!?あれ?…確か酔って潰れた筈?」
「今浄化したのよ」
「モンモン?この部屋はモンモンの部屋か」
「そうよ〜。ルイズから貰って来たの」
クスクス笑うモンモランシー
「…何でその場で介抱しなかったんだ?検討は付くけど」
「当たりです」
そういうとモンモランシーは才人の上にのしかかり、濃厚なキスをする
ピチュ、ちゅっ、じゅる
互いの唾液を吸い、舌を絡め、才人の股間を刺激しつつ身体を密着させる
才人を露出させ、股に挟み更に刺激するガチャッ
モンモランシーがびくりとし、振り返る
「ギーシュ?」
だが、居たのは桃髪の悪魔だった
魔力が浸透する証の髪がぶわりと逆立ち、わなわな震えている
「…やべ」
「ちょっとルイズ、いつの間にアンロック出来る様になったのよ?」
「いいい今よ。ゆゆゆ遺言はそれで終わり?」
才人は素早く息子をしまうと、モンモランシーをついとどけ、ルイズに駆け寄る
「ルイズ、落ち着け」
「おおお落ち着いてるわよ。酔いも吹っ飛んだもの。ああああたしの使い魔に手を出すんだから、遺言したためてるんでしょ?」
「ちょっと、どういう事よ?なんか、今のルイズ怖いわ」
モンモランシーがガタガタ震えだす
「祈りの時間はあげたわよ。覚悟は良い?」
ルイズが詠唱しようとすると、才人が素早く口を塞ぐ
「ん、ん〜〜〜!?」
じたばたもがくが、才人のキスで段々ぽや〜として、杖を構えた手がだらんとする
暫くしてから離すと、ルイズはくてりとなり、才人に寄りかかる
「……ずるい」
「ああしないと止まらないからな。そういう事に使うなと言ったろ?」
「う゛ぅ゛〜〜〜」
涙目で睨むルイズ
「解った解った、帰るから、機嫌直せ、な?」
ルイズを抱き締め、頭を撫でる
「う゛ぅ゛〜〜〜」
才人に顔を埋め、まだ唸るルイズ
そんな二人にモンモランシーは近寄り、疑問の声をかけた
「才人?」
「悪い、ルイズが暴走する。帰るよ」
「ふう、解ったわよ」
パタンと扉が閉まり、一人モンモランシーが残された
「ん〜もう、中々上手く行かないわね」

*  *  *
ガチャッ
才人達が部屋に戻ると、ルイズが怒鳴り始める
「なんでいつもいつもいつもいつもいつも他の女に尻尾振って盛ってんのよ?この節操無し!駄犬!鈍感!天然たらし!…………ご主人様は、そんなに魅力無い?」
「…手を出して欲しいのか?ルイズ」
「ププププライドの問題よ」
「大丈夫、ルイズは魅力有るよ。昼休みなんか、他の男子生徒追い払うのが大変だったんだぜ?」
「ああああたしはあんたに聞いてんのよ!!他の男なんざどうでも良いの!!」
「今言ったろ?魅力有るって」
「嘘!?」
「何でそう思う?」
途端にモジモジし始めるルイズ
「だだだってあんた、一緒に寝てるのに、その、あの……」
「…俺には添い寝は昔から普通の事なんだ。慣れてるんだよ」
「それ……奥さん?恋人?」
「内緒」
「教えて!!」
「……教えてどうする?帰る方法が見付かるのか?なら教えるがね」
才人の声色には、明確な拒否が含まれている
『しまった!?サイトの傷をえぐっちゃった』
途端に涙目になるルイズ
「う゛〜」
「無理に謝らなくて良い。余計惨めになる」
「……」
ルイズはしゅんとする
「さあ、風呂入って寝ようぜ。流石に酒臭い」
「あの、サイト」
「何だ?」
「いつか、帰るの?」
「手段が無いから、今の所無理だな」
「違うの、サイトの気持ちは?」
「俺の気持ちか?擦り切れた心じゃ、良く解らん。ルイズは、俺の様にはなるな。俺は、最低の人間だ」
そう言うと、才人は着替えを持って、風呂に入る為部屋を出た
パタン
「……サイト自身が、サイトを一番解って無いんだ。あんなに凄いのに、こんなに優しいのに。自分を壊れた道具扱いしてる」

*  *  *

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