●これは29-56の「退廃と哀歓の休暇〈中〉を、助言にしたがって途中から分けたものです。注意。



 夕べの光も通りすぎ、トリステインは日没する。
 夜天の黒を背景に、星斗かがやく刻が来る。
 夜ごとのいとなみは、いまではアンリエッタにとって苦悩となっている。
 快楽を得られないわけではもちろんない。その真逆だからこそ泣きたくなるのだ。

…………………………

 興奮しすぎていなければ、才人の前戯はたいていいつも丁寧である。
 使い魔だからなのかこの少年は、どうも女の子に奉仕するのも大好きなようだった。

 最近は時間をたっぷり使って丹念に、アンリエッタの体のすみずみまで愛撫してくる。
 あちこちをちょこちょこ触るのではなく、一箇所一箇所をゆっくりと時間をかけて執拗に、完全にリラックスさせて少女の身も心もとろかすように。
 ときには二時間近くもじっくりと、やり方も触れるか触れないかのソフトなタッチが主である。

 それにお尻をされるようになってからは、前戯で敏感なところを責めてくることはあまりない。
 絶頂を与えることなくアンリエッタを煮込むように、才人はじれったい悦びを蓄積させて、少女の性感をやんわり追いつめてくる。

 乳輪をすりすりと穏やかに指の腹でなでられたり、縦長のへそを舌でつつかれたり、足の指を口に含まれて一本一本しゃぶられたりして、もどかしい快楽にアンリエッタは甘声をもらしながら陶酔させられるのだった。
 それこそ意識せず口が勝手に、何度も蜜壺への挿入をねだってしまうほどに。
 肉欲が我慢の限界にたっして雪肌がすっかり薔薇色にそまり、官能の汗にぬめり光るほど濡れて、全身がぴくぴくと痙攣しだすころに、ようやく才人が挿入してくる。

 しかし、前戯のときは高貴なレディとして最大限の尊重を払われるような奉仕をされるのに、挿入後は一転して奴隷のようなあつかいで激しく嬲られるのである。
 その落差が大きすぎて、倒錯して渦をまくような肉の悦びになおさら溺れさせられてしまう。

 きっちり逃げられないように押さえつけられ、ときには、肌に柔らかい絹やビロードの布できちきちに拘束され、発情しきった蜜壺をつらぬかれて奥をこねまわされる。
 濃く甘すぎる愛悦を何度も極めさせられ、わけがわからなくなるまで子宮を突きあげられる。
 挿入されるのをねだったアンリエッタは、同じ口からやはり無我夢中で「許して」と言ってしまうのだった。

 途中からは回らないろれつでずっと許しを乞い、やめてほしければ肛門性交を自分からねだれと吹きこまれて、「今日もお尻をしてくださいまし」と絶頂で白く脳裏を塗りつぶされながら繰りかえし言わされる。
 これまでのように何度も潮を噴いて、真っ赤になった子宮の痙攣が止まらなくなるあたりでようやく責めが止む。

 その後、ときには回復の休みさえもらえずすぐ、よろめきながら四つんばいに這わされるか何かに抱きつかされて、クリームや植物油をクリトリスとアヌスに塗られ、背後から屈辱的に女肛を犯される。
 同時に腰の前にまわされた少年の手で肉豆をさんざんにいじられる。
 熱い叫びと涙をふりまきながら淫艶に若い肢体をくねらせ、あげくに嬲られる肉豆で被虐的な連続絶頂におちいる。

 途中からむせび泣きながら、気がつけば自分から腰をしゃくりさえしている。
 一日の行為のしめくくりとして精を女肛内部にそそがれ、急速に育ちつつある妖しい快楽に悩乱の声をほとばしらせる。
 そんなまさしく調教そのものの責めを受けつつ、アンリエッタの体ははやくも、射精する肉棒を肛門でキュッキュッと脈動にあわせて締めることを覚えだしているのだった。

 ……それがここしばらくの夜の大体のパターンだった。道具を使うなど細かいバリエーションの違いはあったが。
 けれど、責め手の少年が「もう慣れてきたかな」と見さだめたこの夜からはそうではなくなった。

…………………………

 寝室には、また蒼ずむ夏の闇が満ちていた。
 毎夜のように窓から入ってくるのは月の光、夜風と夜の鳥の声も。

「ぁ……ぁ……うぁ……」

 室内では熱をはらんだあえぎ声が、ベッドに這わされた少女ののどから漏れていた。
 またしても、尻を強調する姿勢をとらされていた。目隠しと拘束つきで。

 湯を使ってきたアンリエッタは完全に裸身。ただし、白いビロードの目隠しと、モスリンシーツを裂いた布を別にして。
 布はアンリエッタの手足を拘束している。右と左、それぞれの手首と足首を一まとめにしばられ、うつぶせで尻を高く差しあげる形である。
 ベッドに押しつけた泣きそうな美貌は、きっちり目隠しされ、責めをうける肉体を鋭敏にさせられている。

 朝のときと似たような体勢であっても、朝よりいっそう惨めに辱められるような這わされ方だった。
 そのかかげた尻のほうからは、ぺちゃぺちゃと舌の使われる音がする。
 ついに耐えかねたアンリエッタが、背後から舌で愛撫してくる少年に懇願した。

「サ……サイト殿……そんな恥ずかしいことはやめて……
 お尻なんか舐めないで……!」

 才人は答えず、牝尻を割りひらいてアヌスに舌をはわせ続けていた。
 この格好にアンリエッタを拘束してから、これ以外の責めはいっさいしていなかった。
 少年の舌にねっちりとねぶられ続けている女肛は、とうにヒクヒクと反応を止められなくなっている。
 滑らかなビロードの目隠しの下で、アンリエッタは恥辱の涙をにじませながら、一気に羞恥が爆発したように声をあげた。

「やめてぇ、恥ずかしいのですっ、そんなことしなくても今夜もお尻でさせてあげますから!
 ……あ、あなたがそういうことをして欲しいのなら、わたくしが舌で舐めてあげます!
 ですからわたくしにはしないで、舐めないでえっ、辱めないで一思いにすればいいでしょうっ!」

 手足を拘束されていなければばたばたしていただろう。
 才人がようやく舌を離して答えた。

「アンにお尻舐めてもらうのもいいな。でもそれは今度でいいや。
 もちろんいつものように、もうすぐこっちを使わせてもらうさ。今夜はちょっと念入りに下ごしらえしてるだけだってば。
 いくらでも感じてていいからな……なんだかんだ言っても、お尻の穴責められるの好きになってきたろ? この場所と他のとこ一緒に責められて、あれだけ乱れちゃうんだもんな」

「嫌い! 大嫌いですっ! ……ひあ、やめて、いや、ぬるぬるしておりますぅ……!」

 また才人に執拗にアヌスをしゃぶられだした。
 羞恥と脊髄に流れっぱなしのおぞましい感覚に、アンリエッタは気が変になりそうだった。
 大嫌い、というのは嘘ではない。そこで感じてしまうのとは別の話なのだ。

 無理にその部位を使われるようになったあたりから、才人と仲たがいしている。誇りを傷つけられ、少しは愛されているはずとの確信もあやふやになった。
 屈辱も悲しさも捨てられるかもという怯えも、全部がはけ口を求めた。
 むろん主に才人に向けられるのだが、口約束の存在やら才人を失いたくないという想いやらで、アンリエッタは少年にはあまり表立って激しい感情をぶつけられない。

 おたおた動揺する心が、悩みから逃避して「責めても問題ない、罪をかぶるべき対象」を求め、それが「肛門を性交に利用するという恥知らずな行為」となったわけである。
 いまでは憎しみに近いほどのいとわしさを、その行為に感じていた。
 要するにアンリエッタはアナルセックスに対し、現在の諸悪の根源というレッテルを貼っているのだった。

「ぺろぺろしたらだめ、んんん、お願い、もう堪忍してくださいまし……
 ――やあぁっ! な、何なのですかそれ、何を当ててるの、ま、まさか、やめて、指を入れたりなんかしたら怒りますぅっ」

 ……それなのにそこを膣やクリトリスとともに責められて、肉が燃えただれるような官能を得させられてきた。嬲られながら毎回、溺れていく。
 なまじ忌避する対象に設定してしまっているばかりに、そこでの背徳的な悦びがますます屈辱の火となって身をあぶるのだった。
 二回目に肛門を犯されたときの体験は、トラウマと共に、肉体に苦悶するような快楽の記憶をしっかり刻みつけていたのである。

 その記憶におびえるようにつつましく震えるアヌスに、才人が中指を当てて丹念に揉みこんでいた。
 それだけでいっそう泣き騒ぎだしたアンリエッタの声に、彼はすこし笑う。

「もうちゃんとお尻の穴も濡れるようになったんだな。
 適応はやい体だよなあ、ほんとえっちの素質あるや」

 才人の指の腹の下でアンリエッタの可憐な菊のつぼみが、くちゅり……と塗りこめられた唾液、それに腸液をにじませてほころび、恥ずかしげにわなないている。
 つぷ、と才人の中指がアヌスに浅くもぐりこむ。

「ぅああぁっ!」

 黒い快楽を覚えこまされているアンリエッタのその部分が、叫びとともにぎゅっと締まり、ぬるりと才人の指を押し出した。
 怖がるように固くきゅっと閉じて締まったアヌスを、なだめるように指の先でクリクリと揉みほぐされ、望まない異質の快美感に、拘束された雪肌が闇のなかでくねる。
 少女の意思に反して、おずおずながらふっくらとほころんだアヌスにまたしても指がもぐりこみ、浅い部分からくちくちと愛撫し始めた。
 指に犯される美尻が、黒い悦感に痙攣する。

「やめなさ、やめなさいぃっ、指も舌もいらないの、は、はやくあなたのを入れてください、お尻はやく入れてぇっ」

「ん、お尻ねだらせるのはいつも言わせてたから、さすがに開き直って自分から言うようになっちゃったか。
 ていうかそれ、おねだりでも趣旨は違うよな。『無理やり入れられて痛いほうがまし』とか思ってるだろ。だめだって、ちゃんと用意してやるから感じろよ。
 そんな嫌がらなくたって、夕方にまた自分でお腹の中きれいにして、お風呂で念入りに洗ってきたんだろ? 最初に舐めたとき、お湯の透明な味とにおいしかしなかったってば」

「〜〜〜っ、さ、最低よ、そんなこと確かめないで、もう触ったらだめええっ」

 目隠しのため視界を遮断されたことが、淑女ならだれでも恥じ入る責めとあいまって皮膚や粘膜の感覚をとぎすまし、少女を鳴かせていた。
 器具の責めよりずっと基本的な、だからこそ肌にしっくりなじんでくる指や舌の愛撫。
 その温かい愛撫でやさしく恥辱の場所をなぶられ、汚辱感とともに肉体の昂揚を高められていることが、あまりにも辛かった。

 夜の残酷な静けさのなかで、拘束された優艶な白い裸を身もだえさせ、総身をしとどの汗でじっとり濡らしながらアンリエッタはあえいだ。
 指が抜かれると、すぐ男の舌があてがわれた。
 「やんんんっ」と眉を下げて歯を食いしばり、少女は桃尻をぶるぶるさせつつ、尾てい骨のほうからぞわぞわ熱を伝えてくる黒い情炎に耐える。

「なあ、気づいてるか? おま○こまでまたぐっちょり濡れてる。お豆もぷくんて腫らしてるぞ。
 お昼でドロドロだったから、せっかくお風呂入って洗ってきたのにな。今ここ触ってやったら簡単にイケそうだよな?
 だけど今夜は触ってやらないから。お尻だけでイってもらうからな」

「いかない、お尻だけで気をやったりしません、あ、あああ、それやめて、
 舌、舌おなかの中に入ってこないで、あうっ、もういやああ……!」

…………………………
……………
……

 時間がたち、ようやく才人が舌を離した。

「……このへんでいいかな」

 才人は用意していた植物オイルを手のひらにたらすと、その手で自らの怒張を二、三度しごきあげ、潤滑な肛門性交の用意をした。
 今から少年に捧げる尻をかかげたアンリエッタは、ベッドのシーツに横顔を押しつけ、荒い息をもらすばかりになっている。

 手足を拘束されて這った女体で形づくられる、卑猥な三角錐。
 その頂点になって高い位置にある美尻のなかで、長時間にわたって指でほぐされ舌で舐めしゃぶられた女肛が、ふやけきってあえぐような動きを見せている。
 知りたくもなかった肛門の性感はここ数日で開発されており、さきほど愛撫された感覚は粘つくようにべっとりと心身にからみついていた。

 美麗な白桃の実を、才人が両手でつかんで割りひらいた。亀頭がアヌスに当てられる。

 裸身を淫艶に汗でぬめり光らせ、ときに小刻みな痙攣をはしらせている少女が、目隠しされた顔をわずかにあげて弱々しく鳴いた。
 朦朧としていたが、気がつくとアヌスに挿入されようとしている状況。
 体に力がはいらず、抵抗心も消えるほど溶かされている。それ以前に拘束されていた。這ったままで、ひん、と鼻を鳴らすしかできない。

 ぬぷり、とほころびたアヌスをおしわけて肉棒が入ってくる。なにかの予兆に、子宮がひくんひくんと息づく。
 尻奥までじゅっぷり男の肉を詰めこまれたとき、アンリエッタのなめらかな背から細い首筋にかけて、ぶわっと一気に鳥肌がたった。
 それがすぐ消えてかわりに新しい汗の珠が噴き、透明なよだれの糸をたらす舌が朱唇からこぼれる。

「あ……あひ……? あ、あああっ……?」

 少女の括約筋がきゅっと締まり、強烈にしめつけられた才人がすこし驚いた声を出した。

「あ、今夜はすごく反応いい……それに強く締まるけど、固さがだいぶとれてる。姫さまのお尻、具合よくなってるや。
 朝から道具でほぐしてあげて、今いっぱい舐めてあげたのがよかったのかな」

「おし……お尻……いや……」

 アンリエッタは背をたわめ反らして、かかげた尻を犯されることに切れ切れのつぶやきをもらした。
 肉剣の鞘にされた腸管が、子宮とともにおののいて震えた。
 ――腰を使われはじめた。

「ああああっ!!」

 一瞬で叫ばされた。
 アンリエッタはぱくぱくと口を開ける。よだれが溢れた。

「な……何これ……お尻……」

 朝から嬲られていたこの一日で、予想以上に慣らされていた。
 おぞましい異物感はまったく変わらない。けれど昨日はそれなりに残っていた挿入のときの痛みは、淡雪のように消えていた。
 肛肉が内部までとろけ、少年の肉棒を締めあげて、こちらからも搾るようにリズミカルに締めつけている。
 アヌスが完全に、男の肉をもてなすための器官にされていた。

「ま、待って、動かな……んひいいっ」

 制止は聞いてもらえず、スムーズな抽送がぐちゅぐちゅと少女の肉管でおこなわれる。
 そのたびに下半身で湧きおこるのは、もうはっきりと快楽だった。
 融解しかけた鉛を流しこまれたように熱くて重い、異質の快楽。魂をゆっくりけずられるような。

 太い肉棒をズルズル引きだされると、排泄に似てそれよりずっと深い、暗黒の深淵をのぞかされるような快美がわきおこる。
 奥に埋められて子宮を壁越しにノックされれば、おこりのように体に痙攣が走った。
 膣感覚より原始的で、そのくせ人の手で仕立て上げられた、独特のえぐみがある快楽。
 いまはアヌス以外を触れられず、純粋にその病的な快感だけを味わわされている。

「待って、待ってえっ」

 食い締める女肛から潤滑オイルにまみれた肉棒をぬるる……と引き出される。
 押しつけられる罪深い悦感に惑乱しながら、アンリエッタは拘束された体を必死によじり、首筋まで真っ赤にして叫んだ。
 まったく触れられない蜜壺からこぼれる愛液が、量を増してシーツにぽたぽた落ちている。

 才人の指がつつっとアンリエッタの背筋をなぞり、雪白の肌が微弱な電流を流されたようにびくっと引きつる。
 うなじの毛がぞわっと逆立ち、「ひゃん」と可愛らしい声が出てしまう。
 意識をずらされた瞬間に大きくずぬっと突きこまれ、「ああぁうっ」と美声が夜気を震わせた。

 夜は長かった。
 窓から見える星の位置が時々刻々と変わっていく。

 才人は責め方を変えている。激しい動きではなく、時間をかけて、目覚めかけの何かをなだめるように腰を使ってくる。
 焦ることなく着実に。突きこみでも男根の七、八割までしか呑みこまさず、じっくりと腰をすえて繊細に。
 ベッドの上で煮こまれるように責められる少女の唇から、よろめくような媚声が絶えず響く。
 おぼろめく白肌から量を増してたちのぼる甘い淫気が、月明かりの窓辺にとどいていく。

 自分の体の内で、丁寧に積み重ねられて育てられていくその何かに、アンリエッタはあえぎながら目隠しの顔をシーツにこすりつけて懊悩する。
 同じくシーツに押しつけられた乳房はむにゅんと円くつぶれ、切ない情感を一方的に伝えてくる。両乳首はとっくの昔にしこりきって甘痛いほどだった。
 ますます濡れていく蜜壺の惨状は、内ももを幾筋も粘りおちていく愛液の感触で、見えなくても簡単にわかってしまった。

 昨夜までは肛門を犯されるときは蜜壺やクリトリスを少年の手でいじられ、前後をいっぺんに責められて悶え狂っていた。
 そのため条件反射が肉にしみこみ、いま蜜壺が子宮からよだれをこぼして「はやくこちらも触って」とばかりに催促しているのだった。
 ……昨夜までは、前後の性感帯への責めの組みあわせに子宮の痙攣が止まらなくなって、何度となく才人にすがりつくようにして許しを乞うたけれども。
 今夜このとき唐突に、アンリエッタはまったく逆のことを叫んだ。

「お、おねがいっ、前をさわって! 昨日までのようにしてくださいましっ」

「今さら必要ねえだろ、こっちだけでちゃんと感じられるようだしな」

 アンリエッタが言いたいのはそういうことではないのだが、才人はわかってとぼけているのだった。

「違うの、あああっ、違うのですっ、――お尻なんかで気をやらされるのは嫌ぁ!
 あひ、んんく、んんんうぅっ……!」

 官能味たっぷりの桃尻を逃げようとするかのように振りたて、女肛を貫く肉棒をかえって悦ばせてしまう。
 その肉丘を指が食いこむほどわしづかまれ、淫猥に谷間を開かれて肉棒を根元までずむっと突き通された。

「あああああっ! 深い、深いいいっ」

「そろそろイキそうなんだ? じゃ、少しずつ速くしてやるよ。
 ――お尻でイくときも、ちゃんと報告しろよ? しなきゃお仕置きだからな」

「ひうっ……気なんかやらないわ、あく、……や、やらせないで、気をやりたくない、
 お尻は嫌いなの、嫌いなのですっ……やあああぁっ」

 また深く突きこまれるようになっていった。
 子宮の存在を裏側から意識させられ、それが胎内で甘く煮立っていく。「いや」と言う声さえ艶めいて、ほろほろと落花のように散っていく。
 アヌスを肉棒に拡張されていながら体がすっかり、雄に嬲られるために生きている牝のような反応を返してしまっていた。

「うぁ、あつい、お尻が熱いの、ひ、いやです、くうっ……!」

 自尊心を壊されていく。
 白く滑らかなビロードの目隠しをはめられ、手足は獣のようにくくられている。恥ずかしくアヌスを差し出して、腸管を肉棒しごきの道具として男に使わせている状況。
 それなのに本物の獣のようにあえいでいる自分を認識して、アンリエッタは惨めでたまらなくなる。
 このうえに嫌っている肛門性交で絶頂に達してしまえば、もう取戻しがつかないとさえ思えた。

「……ひぁ……ひっ……あああぁ……あつい……」

 耐えるため歯の根をしっかり閉じようとしても、気がつくと横顔をシーツに押しつけたまま舌をよだれと一緒にこぼして、荒く息をしている自分がいる。
 桃尻の真ん中をつらぬく灼けた串から、熱波が脊髄をかけあがってくる。
 もうこの感覚を忘れられそうになかった。意識を犯される女肛だけに集中させられることで、肉棒の形をしっかり肛肉に覚えさせられていた。

(だ……だめ……ああ……これ、だめかも……)

 歯をどれだけ食いしばっても、拘束された手を完全に白くなるまでかたく握りしめていても、足指をきゅっと握りこんでいても、全身の震えはどんどん大きくなっていく。
 肛肉がただれて、体が内側から炎上しているようだった。正直、なんでまだ絶頂をこらえられているのか自分でもよくわからない。
 わからないまま、熱だけがひたすらに蓄積していった。

 前兆もなく才人のとがらされた舌が、アンリエッタの耳の中にぬるりとすべりこんできた。
 ――瞬間、脳まで犯されたような感覚が呼び水となり、目隠しの下で視界がはじけた。

「……あひいいいっ……!」

 絶叫しながら総身をうちわななかせ、硬直させて、アンリエッタは純粋に始めての肛門性交での絶頂を味わっていた。
 絶対に、到達したくなかったところに無理やり突き落とされた。
 それも、厚ぼったい官能が相当に育っていたとはいえ、不意打ちで一押しされただけであっさりと。

 触られてもいないのにわななく蜜壺が、愛液を垂らしてベッドと蜜壺を粘った糸でつないでいた。
 牝尻が男のものをくわえたままぴくぴく小さく震える。余韻まで通常の性交と違い、残響がジーンと重苦しく長くつづく。
 アンリエッタは荒い息で枕辺を湿らせ、ぐったり体の力を抜きながらその余韻にどっぷりと浸からされた。

 精一杯の我慢もむなしく、とうとう前を触られないまま禁断の場所での極みを味わわされた。その悲嘆をじわじわと噛みしめはじめている少女に、才人が背後から声をかけた。

「……やっとイったな? 体はずいぶん燃えてたみたいだけど、お尻だけでのイキ方がわからなかったんだな。
 でも今ので覚えたろ。じゃ、次は俺を気持ちよくしてもらいますから」

 その宣言はすぐ実行に移された。

 抽送に拍車がかかり、ぴっちり肉棒に吸いついている肛口の粘膜の輪を押しこみ、引きだしする動きが急に速まっていく。
 肉をヒクつかせながらへたっている間も与えられなかったアンリエッタが、顔をあげて悲痛に鳴いた。
 今度は少女に絶頂を得させるためではなく、純然と少年の快楽のために肛肉を使われていく。

「ちょっとまって、やぁ、やすませて、ああっ、ひああんっ、は、激しすぎますっ……
 ……え? あ、あああ……? あれ……?」

 ビロードの目隠しが少女の顔に巻かれてはいたが、そばで見るものが見れば、美貌に浮かんだ混乱の表情ははっきり視認できただろう。
 アンリエッタの中で重い残響を伝えながらもゆっくり沈潜しはじめていたはずの異質の官能が、下降をやめて急激に高まってきたのである。
 汗濡れした雪白の背中で、挿入のときとおなじく鳥肌が、もう一度ぷつぷつと滑らかな肌を覆った。

「まって……あ……なんで……だめ……ま――待ってえっ!」

 あごをはねあげて汗を飛び散らせながら叫ぶ。体が卑猥に突き上げた桃尻をきゅうと締め、使用されているアヌスを閉じようとする。
 すでに腸内にある肉棒の抜き差しを止められるわけもなく、肛肉をひき絞ることで少年を悦ばせただけだった。
 肉棒の突きこみが苛烈になり、ここ数日で柔らかくなったアヌスをさらにほぐされる。

「へ、変なのです、お尻が、お尻がまた熱くなっておりますうっ」

「へえ……連続してイけそうなんだ。じゃあ見せてみなよ、俺も出すから」

「ひゃぐううっ……! あう、グチュグチュしたらだめ、ゃあっ、うああっ」

 肛肉が突きこんでくる少年の肉棒を迎えて引きしごき、子宮が追加のように粘液を吐淫した。
 炉の鍋にかけたタールのごとく黒く熱くどろどろした快楽が、理性を侵食しながらすぐさま戻ってくる。

 二回目の絶頂へ向かう肉悦は、あきらかに最初より濃かった。アンリエッタに恐怖がこみあげ、それさえ肛門をえぐられる快楽に忘れさせられていく。
 続けて責められることで、先の絶頂の残響が次へつなげられて増幅されていくのは、その場所でも変わらないようだった。むしろ残響が重く鈍いぶん、どこよりもその傾向が強いかもしれない。
 とっくに声は止められなくなっている。

「相当よがりだしてるじゃねえかよ……ほんとにえっち好きな、やらしい女だな。
 お尻がすっかり美味しそうに俺のをくわえて……うわ、これきゅむきゅむ締まって噛みついてくるみたいだ。
 そんな背中くねらせたって手足の布はほどけないぞ。ほら、もっとグチュグチュしてやるからこっちに集中しろよ」

「んんんんんっ――くぅ、ひいいっ、ああああああっ!!」

 双丘にかけられた両手で牝尻をあらためてぐいっと割り開かれ、ぬめったアヌスの奥深くまでひときわ強く、熱い男の肉をぶちこまれた。
 いやらしい女という言葉に反論する余裕さえなく、アンリエッタは拘束された身をよじって、もだえながら叫び声を噴きあげた。
 肛肉がもっちりと蕩けきり、勝手に肉棒をしゃぶりだしている。自分の体の卑猥さと、刻々と倍増して熱と密度を高めていく性感に、脳が蒸発しそうだった。
 肛姦の、邪悪さすらある官能が少女を引きずって翻弄していた。

 子宮が痙攣し、ジュクンと恥丘の裏のほうで何かが溜まったような感覚があった。
 アンリエッタの全身がおぞ気だつ。
 肛門性交での二回目の極致、高みというより深淵といったほうがいいかもしれないそれに、もう踏み込みかけていることに気づいたのだった。
 むせび泣きながら上気しきった頬をシーツにこすりつける。

「――やっぱりだめぇっ、お尻は、ひいぅ、もっ、もうしませぬ、もうさせないわ!
 ふあっ、いやあああああっ!! 止まりなさいいっ、そんな激しくしないでえっ」

「そろそろだから……!」

 惑乱におちいったアンリエッタの突発的な言葉を無視して、才人が抜き差しを速めていく。
 やめられるもんか今さら、と彼は月光に映しだされる眼下の光景に凝然と見入っている。

 オコジョのようにしなやかな背、柳腰のくびれ、むちっと官能的な量感ある双丘をまろやかに形づくる尻、臥所(ふしど)にほどけて広がった栗色髪――白モスリンのシーツの上、同じ白布での拘束具、白ビロードの目隠し。
 それら上質の白布で手足を縛られて視界を奪われ、柔らかいベッドに這わされて甘汗を吸わせている少女。
 純白の中で彼女自身はぽうっと肌を紅潮させゆきながら身悶え、叫び、うちわなないている。
 艶にくずれていくその姿が、幽界に近いほどに妖しい淫美をふりまいていた。

 縛りあげたままツンと突きあげさせた桃尻を見下ろしてかかえこみ、こってりとアヌスを犯して美少女を快楽に泣き狂わせている。
 男の支配欲を満足させる状況を再度認識したとき、射精欲求がちりちりと睾丸のほうからわきあがってきた。
 俺も限界、と判断して才人はアンリエッタの腰骨をがっちりつかみ、尻を強く引きよせた。肛肉を深くえぐりこみ、子宮の壁越しの部分で亀頭を止める。

「あああーっ……!!」

 その瞬間、悲しげな艶声とともにアンリエッタの背筋がたわめそらされ、栗色の頭がびくんとはねた。
 牝尻がぐぐっとこわばり、女肛の輪が強烈に収縮して肉棒を締めあげはじめた。
 才人は眉根を寄せて目をぎゅっとつぶり、快楽のうめきをかみ殺して精液の放出をはじめる。
 昼間に二回出していたはずなのだが、いま得た快楽のあまりの大きさにぶびゅっ、びゅっと勢いも激しい。

「あああああああっ! あぁ、あああああっ!!」

 アンリエッタのほうは、精液を流しこまれることで声をいっそうほとばしらせていた。
 ドクドクと腸内を熱い白濁で満たされ、肉棒の脈動を感じたときに、深淵にはまりかけていた官能が完全に錯乱した。
 舌をなまめかしく宙に踊らせ、ひとたまりもなく二回目の肛肉での絶頂に突き落とされていた。
 圧迫感のある呪うような肉悦の中で、蜜壺でまでプチャと何かが弾けた気がした。

 才人の快楽にせっぱつまりながらも勝ち誇るような声が、首をのけぞらせて発作のようにがくがくしているアンリエッタの頭のうえから降ってきた。

「はっきりイってるよなっ……水鉄砲みてーに、ぴゅっーてお潮まで後ろに噴いたぜ、今……」

「…………ぁ…………ぁぉ…………」

 全身の筋肉が、きしる音まで聞こえるかと思うほど緊縮しつづけ、それから一気に弛緩した。
 ベッドに完全に突っ伏して体重を投げだし、優美な裸身にどっと汗を噴きださせてあえぐ。

「……ひぃ……ぁ……」

 じんじんと五体がしびれて、淫気をくゆらせながらか細くうめくしかできない。
 才人にずるりと肉棒を抜かれても、体は反応を見せなかった。肛口はくちゃりとほころびて男根の形に開きっぱなし。

 終わったなら拘束をほどいてと言う気もおきず、玩弄された尻をもたげたまま、嬲られる快楽にひれ伏したような姿勢をとり続ける。
 虚ろに散らされた心を絶望が占めはじめていた。

 一回目はなにがなんだかのうちに達してしまっていたが、二回目は絶頂をはっきりと心身に刻まれた。
 また一つ戻れなくなったと思えば、涙がゆるかににじみ出る。

 けれど、アンリエッタが悲愁にくれている暇はなかった。
 犯されたばかりの肛口になにか細い管のようなものが入ってきた。

「え……え?」

 肛道に侵入してきた異物に戸惑った瞬間、びゅぅ……とそれが射精のように何かを噴出した。
 それを受けたとたん腸壁がじんとうずき、火傷したかと錯覚した。
 内臓からの痛覚に「ひいっ」とうめき声が出る。

「なに……なにして……?」

「お尻で二回もイっただろ? それなのに、ちゃんと口で報告しなかったよな。
 報告しなきゃお仕置き、って俺は言いましたよ」

 びゅーと肛門内部に注がれていく。水にワイン酢を混ぜたもの。差し込むような刺激をともない、腸壁が灼かれる。
 ぽかんとしている暇もなく、「ひぐっ、ひっ」とのどが勝手にうめいた。
 ぽっかり開いてひくひくうごめきつつ精液をとろっとこぼしていたアヌスも、いまは生き物のようにきゅっと固く閉じて浣腸器の管を食いしばっている。

「サイト殿……本当に、それだけはやめて……? やめてくださいまし……」

 頭のほうはショックを受けて反応が追いつかず、馬鹿のようにおっとりと丁寧に言ってしまう。
 内部を刺激物に蹂躙される苦痛に、剥き卵のような二つの尻房がじっとりとさらに汗をにじませた。

…………………………
……………
……

 浣腸液を腹内に大量にそそぎこまれた少女は、全裸にハイヒールを履かされて壺の上にしゃがまされている。
 目隠しはそのまま。拘束は変化して、後ろ手にくくりあげられている。
 両ひざこそ縛られてはいないが、あの夜に受けたこれまでで最大の恥辱を、忠実に再現した状況だった。

 わななく下唇をちろりと才人に舐められた。
 それがキス奉仕要求の合図になっていた。顔をわずかに上げ、唾液に濡れてつやめく唇を、アンリエッタは前にいる少年のそれに深く重ねる。
 口内にぬるりとすべりこんできた男の舌に舌をからめ、下腹の内部でぐるぐると渦巻く感覚を少しでも忘れようとする。

「んむ、んむぅ、ンン……」

 一心不乱にくちゅくちゅと舌、唇で奉仕する。
 ぴくぴくと何度も火照った全身がうち震える。
 眉根を哀しげに寄せながら、視界を封じられた少女は苦悶に繊美な胴をよじらせていた。

 腸壁を浣腸液が焼くように刺激し、少年から唇を離して「ひっ」と鳴き、カチカチ奥歯を鳴らしながら必死にアヌスを締める。
 二回達したうえに熱い精液を注がれ、頭も女肛もその内側までふやけてしまったような状態だったのに、直後にこんな責め苦を強いられている。
 まばたきする間でも気を抜けば決壊しそうなほど、最初から臨界点すれすれの状況。

 心を切られるような涙声がついに夜気をかん高く裂いた。

「おへそ、触ってはだめ! やめてぇ、くりくりしないで!
 こんなひどいことはやめてください、――あんなところ見られるのはもういやぁ!」

 アンリエッタのわずかに膨らんだ腹の中央、つつましい小さな臍に才人がひとさし指の腹を埋めてくりくり刺激している。
 そうされることで下腹がなおさら悲鳴をあげていた。
 脂汗が流れるほど切迫した便意に、しゃがんだまま貧乏ゆすりのようにつま先に力をこめて膝をゆすぶり、ハイヒールのかかとを右左と鳴らす。
 そうすることで苦痛をどうにかまぎらわせようとしながら、我慢しきれず「あ、あ」と細くうめき声をたなびかせる。

 遠くからのように、才人の声が聞こえた。

「あの夜の言いつけ守って、いつもきちんと自分で『準備』してるだろ。今日は朝に一回、さっきお風呂入る前にもまた一回。
 おなかの中身なんて残ってないって。水しか出ないから、そこまで恥ずかしがるなよ」

 ――また下唇を舐められる。
 目隠しの下から滂沱と流れた涙が、少女の頬をあらたに伝わって落ちる。
 鼻の先がこすれるほどの近距離にいる才人に、噛みつくような勢いで唇を重ねる。

「ひむっ、むぅ、あ、あむ、んむんん……!」

 とっくに抜き差しならない状況だというのに、すぐ前にいる才人に口づけして奉仕することを命じられているのだった。
 薔薇の花弁のような唇を少年の唇と深くかみ合わせ、薄くひらめく舌で彼の口内をすみずみまで愛撫していく。
 今にも意識が飛びそうだった。

 才人が、汗でぬめぬめと輝く乳房を、下から揺すりあげるように揉みこんでくる。
 より露骨な性感帯へ責めが変わったことで、アンリエッタはくぐもった叫びを、少年と重ねた口のなかで漏らす。
 乳首を指の間にはさまれて、全体を回すようにこねられ、胸脂肪がとろけ落ちそうなほど淫熱を高めていく。まともな思考が脳裏から駆逐されていく。

 ようやく才人が唇を自分から離してくれたが、少女のしこりきった乳首はいじられ続けている。
 敏感な両乳首をつままれ、手綱を引くように前に乳房を引っぱられる。そのぷりぷりに膨らんだ乳首を指でこすりつぶされ、甘く鳴かされつづけた。
 嬲られるピンク色の先端から流しこまれる快楽の電流に「あふ、あふ」と肉情で色づいたあえぎ声をもらしながら、アンリエッタは汗をべっとりと全身に流した。

「しんじられっ……しんじられ、ません……ひどすぎる……」

 しゃがんだままうわごとのように呆然と、哀怨の言葉をつぶやく。
 離宮滞在三日目の夜のことは心の傷になっている。二度と思い出したくもなかった。
 それなのにトラウマとともに植えつけられた官能が、あの日のことを思い出させられるたびに罪深い体によみがえる。

 だから才人もそれを見越してここ数日、わざわざ記憶を掘りおこすやり方の責めをほどこしてきたのだが、さすがにもっとも辛かったこの責めまで再現されたことはなかった。
 たった今までは。
 なんでここまでされなければならないの、と目隠しの布が涙で湿る。
 (少しでも情のある相手に、こんなことまでするはずがないわ)と頭に浮かんできた。

(…………わたくしを、きらいだったのでも……ここまで、することないじゃない……)

 うなだれて鼻をすすりながら、ぼんやり惨めなほうへと考えてしまう。
 その思考が飛ばされた。片方の乳首をはなした才人の指が彼女の股間に伸びて、赤く剥けでたクリトリスを指の腹で転がしたのだった。
 快楽神経そのものの器官が伝えてきた鋭敏な肉悦に、腰が砕けかけた。
 目隠しをした少女には責め手の次の行動が見えず、予想もしていなかったため余計に衝撃が濃密だった。

「ああぁっ! お、お豆さわらないでっ、いやぁ、漏れてしまいます、だめぇっ」

「皮をこんな剥けかえらせてさ……いつもみたいにお尻といっしょに触ってやらなかったから拗ねてるんだな。
 これ、いまここでイかせてやるから。クリームも持ってきたからあとで塗ってやろうな」

 少年の指が小鳥の頭を撫でるようなタッチで、くりくりと肉豆をあやしていく。
 とまどうように鳴いて前かがみになった少女の腰が、ひくんと自然に後ろに逃げたが、指はぴったり離れず快楽器官を愛撫しつづけて、煮立ちかけた官能ごと執拗に追いつめていく。
 舌がもつれて自分の名前さえ言えなくなる前に、逃げ道をさがす意識がなりふりかまわずアンリエッタを叫ばせていた。

「やめてぇ! わたくしは、ひっく、わたくしは女王なのよ……」

 叫びに手を止めた才人が、目を点にしている。

「……へ? はい、そうですね」

「だから……こんな……こんなことをわたくしにしたらいけないの……」

「……うーん」

 才人の手がいったん離れたが、やめてくれたわけではなかった。
 その手が戻ってきてまた充血したクリトリスをつまむ。今度は持ってきていたらしいクリームを塗りこまれ、ヌルヌルとしごかれだした。
 少女のひざがしらも細い肩も耐えている尻もわななき、濡れそぼつ栗色の恥毛のすぐ下が、その突起ごと燃えあがった感覚につつまれる。

「ひいいっ、やめてぇ! えぐっ、ひっく、なんっ、なんで言うことを聞かないの、ひううっ、
 いやぁ、イク、出ちゃう、出てしまうぅっ、ひ、いいいいいいっ……!!」

 淡々と肉豆を揉みぬかれて、背筋をつらぬかれるような絶頂に達する。
 美貌を泣きゆがめて歯をきりきりと食いしばり、ばらばらになりかけた精神力をついやして括約筋を叱咤し、決壊をやりすごすことだけに集中する。
 かろうじて漏らすのをまぬがれたのは奇跡のたぐいだった。
 けれど安堵も休息もなかった。股間では少年の指が、ペースをまったく変えず肉豆いじりを続けている。

 絶頂後の連続した刺激に、アンリエッタの目隠しの裏で、闇だけのはずの視界が真っ赤に明滅する。
 通常ならベッドの上でも身をはねさせて悶えてしまう責めだった。
 声も出せず歯を鳴らし、わななきつつ頭上に湯気がたちそうなほど全身を薔薇色に染めて耐えている少女に、意地悪く確かめるような声がかかる。

「へえ、やっぱりそれが本心ってわけかよ。俺にこうさせてるのはお情けなんだから分をわきまえろってことかな。
 そんなこと思ってたんだ。そりゃ、大切なこと話す気にもならないよな」

 後半は小声でつぶやいた少年の手が、するりと股間のさらに奥へ伸びた。
 この異常な状況で感じ、銀の糸をひいて愛液を素焼きの壺の中へ落としっぱなしになっている蜜壺に、指がくちゅりともぐりこんでいく。
 指をよろこんで食い締める膣口周辺を浅くかき回されて、骨までしびれるような快美が走る。
 心の一部がまたぽきりと折れた。

「……ちがうの……ゆるして……やめてほしかったの……やめ、やめてほしかっただけ、なのです……」

 苦痛と快楽がいり乱れて下腹部が紅爛に燃えさかっている。
 少年の指を受け入れさせられている蜜壺から、滝となってごぽりと愛液がねばり落ちた。
 蜜壺内のひだの一つ一つが、指を舐めるようにざわめいてからみついていく。

 その熱い肉泥の沼で、才人が指をぬちゅぐちゅと動かしてポイントを探りはじめる。
 膣壁のしこった箇所をあっさり見つけられたとき、意思と関係なくアンリエッタの腰がぶるるっと愛液を飛ばしそうなほど震えた。
 指で犯されくちゅくちゅという水音を聞かされるとともに、腰が温かい水アメになっていくような甘悦が蓄積していく。その一方での間断ない腹痛にわけがわからなくなっていく。

「あの……さっき、いきました……こんどはちゃんと『イク』って言ったわ……
 ……だから、もう、ゆるして……」

 誇りも意地もなにもかも捨てて許しを乞うても、股間をまさぐる手は止めてもらえなかった。わかっていても、呆けたようにおっとりと「ゆるして」を繰り返すしかできない。
 股間の熱が急速に煮えたち、簡単に絶頂間際までくる。
 排泄欲求に呻吟しつつも耐えるという状況でさえなかったら、とっくに快楽に屈服して、潮を噴いて激しく達していただろう。

 月明かりの寝室が、妖夢に満たされた拷問部屋となっていた。
 アンリエッタは自分の存在が嬲られる蜜壺と肛肉だけになったかのような感覚を、しだいに得ていっている。
 濃艶に熱気を放散してうちわななく女体から、涙と汗と愛液、あえぎと理性がしぼりとられていく。エロスの概念そのものが化肉したかのような淫麗な姿。

 許しを乞うのをどこかであきらめ、少女は舌を垂らしてはぁはぁと湯気の呼吸をしながらうつむいた。
 苦悩のかなたから、おぼろに意識に浮かんできたものがある。
 かつて、自分は地獄に落ちるだろうと思った【6巻】。

(これ、これって……その、前払い、かしら……)

 今の状況は、そうかもしれないとさえ思えた。
 信じていた相手の心がわからなくなった。一方的に見放される恐怖でまともに喧嘩もできず、その少年に誇りを余さずはぎ取られ、おとしめられている。
 気づかぬうちに深層部まで開発されきっていた浅ましい心身が、そこにさえ暗い静かな悦びを見出していく。それがますます自尊心の崩壊に拍車をかける。
 地獄で裁かれて、肉欲という鎖で引き回される獣に転生させられたかのような錯覚におちいっていた。レディなどもうどこにもおらず、濡れて色づいた若い牝だけがいる。

 才人がアンリエッタのあごを上げさせ、下唇を数度目に舐めた。
 キス奉仕の催促に、少女が震えながらおとなしく応える……と見えたが、才人の唇に鮮烈な痛みが走った。
 アンリエッタに唇を咬みやぶられたのである。血がにじみ、鉄の味が双方の口内に広がる。才人は少女のぬかるみをかきまわす指をとめた。

 ぴちっと肉の裂ける痛みのなかで不思議なことに、才人まで酩酊したように夢心地になっていく。
 最後の一線でなかなか捨てきれないなにかを守ろうとするように、自分に咬みついて弱々しく震えている栗色の頭。それを抱き寄せて撫でたくてたまらなくなる。
 この心に妙なる痛みのあるキスに、少年は目を穏やかにほそめて陶然としてゆく。
 湿って熱いこの闇のなかが、退廃的な甘美さに満ちていく。まるで指で触れている少女の秘密の場所のようだった。

 わずかな時間の後、こみあげた激情がおさまったのか少女があえいで歯を離した。
 それからアンリエッタの舌が、才人の唇の傷口をちろ……と舐めた。申し訳なさと、体と心双方からの臆病な情愛がこもった舌。

 が、舌で傷口を慰撫された瞬間に、才人の静かな陶酔が、一瞬でひどく攻撃的な獣欲に塗りかえられた。
 少年は自分でもその感情の移行に説明がつけられないまま、狼のように少女の唇にむさぼりつく。

「んむぅ、ん――――!? ぷぁ、まって、あ、あううっ……」

 突然に口づけをほどこされる側になったアンリエッタが、顔をそらして口を離し、惑乱した制止の声をあげる。

「やめて――あっ、ひ、我慢できなくなります、ん、指動かさないでえっ、ううううっ……!」

 指の動きを再開されたとき、かろうじて踏みとどまってきたものが奔騰した。
 一休みを置いたためかえってそうなったのか、官能の高さが急激に一段階はねあがる。
 膣内の恥骨裏のポイントを刺激されつつ、外にでた親指でクリトリスを押し揉まれだしたとき、絶頂にむけて蜜壺がきゅうううっと締まりはじめた。

「あああ、たすけて、イク、出てしまう、みないで、ひ、いく……
 ――いくの、いくっ、いくぅ、んんぅんっ、っ……ひいっ、ひいいいっ……!!」

 沸点の寸前で、追いかけるように唇を重ねられて舌を吸われた。いままで刻まれてきた、強引に奪われる悦びを味わわされる。それがとどめになった。
 脳裏でなにか大切な神経が焼き切れた気がした。
 官能と排泄欲求の双方が決壊し、腰がわななき――激しい放出の水音とともに一気に五感が灼熱する。おぞましい解放感と指淫の肉悦がからみあった。

 いつのうちにか、しゅるんと白いビロードの目隠しを外されていた。

 びちゃびちゃと浣腸液が放出され、なにもかもが崩れていく感覚のなかで、アンリエッタはほとんど無意識に少年の口づけに応えている。
 んん、んふ……と重ねた唇の間で息をあえがせながら、脳が溶けそうな情痴の口づけをもっととばかりに求めていく。少年の唇の傷からにじむ血の味がした。
 ぼろぼろと玉の涙をあふれさせている半開きの瞳は、光が消えて完全にとろけ、目隠しから解放されても何も見えなかった。
 ひきもきらず戦慄がはしっている茹だった体は、行水をしたようにしとどの快楽の甘汗で濡れている。

(すげ……姫さま、おもいっきりイッてる……)

 才人は呆然と目を見開いていた。
 自分の指を食い締めて粘っこい愛液を吐淫しながら、痙攣的に不規則なうねりを伝える蜜壺の感触で、少女がどんな状態にあるかは丸わかりだった。
 彼もこめかみがドクドクと鳴るほど興奮していた。

 ワイン酢を薄めた浣腸液を排泄しながら、きゅうきゅうと収縮する膣肉の中を指でなおコリコリといたぶられ、アンリエッタは間断のない絶頂状態におちいっていた。
 耐えに耐えたすえで引き金を引かれ、排泄させられながら深みに達しつづける姿を、少年の見ている前にさらしている。
 その、もう生きていられないと思うほどの恥辱がなおさら、精神を壊しかねないような圧倒的な被虐の快楽を少女にもたらしていた。

 水音がやむころに、才人が唇と股間の指を離した。双方からぬるりと糸がひかれる。
 唇からは才人の血のまじった赤い唾液、蜜壺からは子宮頚管粘液まじりの白く濁った濃い愛液。

「…………ぁ……ぁ……」

 アンリエッタは後ろ手に拘束されたまま、もっと口づけしてとばかりに首を前にさしのべた。
 うるみ揺らめく虚ろな瞳から、宝石のような涙のしずくが床にこぼれて散り砕けた。
 男に完全に屈従して快楽をねだる弱い女の顔で、朦朧として血の味のキスを懇願する。

「……舌を……舌を吸って……おねがい……」

 地獄の火で焼かれるような黒々とした悦びに、アンリエッタの正気は溶き流され、なにもかも忘れたいという心が肉欲に逃げこんでいた。
 体が子宮から赤く火照り、骨を抜かれた腰が淫惨な余韻にぴくぴくしている。

 才人はとろけ崩れていく少女の、あまりにも淫美なその姿に魅入られている。彼の唇からはたらりと一筋の血が流れていたが、気にもとめていない。
 また、ひざ立ちになった彼の股間では肉棒がとっくに血管を浮かせてそそり立ち、先走りまでおどろくほどの量がこぼれて幹を伝っていたが、それさえも本人は気づいていなかった。
 それほど意識を眼前の少女に奪われていた。

 宙に差し出したアンリエッタの舌がはかなく震えた。

…………………………
……………
……

 心に空けられた穴を、肉を灼く火で埋められている。
 崩落寸前まで虚脱した心を、有無を言わせない快楽をねじこむことで叩きおこされていた。

「……ひぁん、ひいいいいっ……もうやめてください、やめてくれてもよろしいれしょうっ……」

 押しつけられる肛門性交による呪わしい炎の悦び、その絶頂を報告させられる声。
 肉情したたるようなあえぎ、動物めいた叫び声。
 休むこともできず、続けざまに堕とされていく。

「……とまって……ひぃん……あ、まって、まってと言っております、やぁ、いやよ、
 イく、またいきます、とめてぇ、んっく、んん、んんん、んーーー……っ! ああああっ、あひぃぃ……!!!」

 拘束はまた変えられ、後ろ手ではなく前で両手首をひとくくりに縛られた。
 そのままベッドの上で立て続けにアヌスを犯されている。
 上に乗せられて尻を淫猥に自分で振らされながら、向き合った座位でキス奉仕を命じられながら、シーツに横向きに寝かせられて片足を上げさせられ側位で、とさまざまな体位を強要されつつ。

 いまは仰向けになってひざ裏を持ちあげられ、わきのあたりで両ひざがシーツにつくほど、体を深々と折り曲げられていた。
 やや股間を上向け、のしかかる男に向けて強調した卑猥な体位。鵞鳥の羽をつめたクッションを腰の下にさしこまれて尻の位置を高いままにされている。
 その姿勢をとらせて覆いかぶさってきた才人に、何度も肛姦での絶頂回数の上書きをさせられていた。

 男の目の前で浣腸液を排出させられながら絶頂を得てしまうという、女としてこれ以上ないような恥辱。
 その衝撃を味わわされた後では、性感にあまりに無防備になっていた。
 浣腸液に灼かれて腸管が過敏になり、あの屈辱の夜の記憶をなぞられて精神の防壁がくずれ、肛門性交で得る肉快への抵抗力が完全に無くなっていたところのなのである。
 そこに駄目押しのようにアヌスを延々と貫かれて、ひとたまりもなく淫らな炎に呑まれていた。

 淫らに狂った自分の体が、連続して倒錯した絶頂をむさぼりだし、絶望をかみしめる暇もなく凄艶に乱れて泣き叫ぶしかなくなった。
 肉体の暴走を止めるすべもなく、おぼえたての肛肉での絶頂を肉の芯まですりこまれる。肛門色情を最後のところまで促進させられたことを、強制的に確認させられている。
 力強く組み敷かれて女肛で男の肉棒をしごかされ、淫叫をほとばしらせる美しい獣に変えられていた。

 才人もすっかりのめりこみ、夢中になって攻めたてている。
 美麗な少女の体を押さえつけて、ときに繊細に偏執的に、ときに男の本能にまかせて力強く。
 あえぎと悩乱の叫びが交互に響く。絶頂が終わってから次の絶頂までの間隔がどんどん短くなり、叫んでいる時間が長くなっていく。

「――おしりグチュグチュしないでぇ! こんなこと続けられたら狂う、くるいます、あぅううッ……!
 くるってしまう、とめてくださいまひぃ、おねがいれふからっ……」

 動きをとめない少年にぐいぐいと責められるたびに、にじむ汗、前の穴から噴きでた愛液と潮、ぶっかけられた精液にまみれて表面がぬめりきった水気たっぷりの桃尻が、びくんびくんと大きく痙攣した。
 絶頂漬けになった狂おしいほどエロティックな尻が、才人の腰の下で妖艶にくねりもだえ、柔らかくほぐされたアヌスが淫猥にうごめいて、男の肉を咀嚼する。
 調教の成果を、最大限に発揮していた。

「ろれつ回んない?
 すっかりイキっぱなしだな……もうお尻だけでも戻ってこられなくなったんだ……」

 ほんとにどこもかしこも弱点な体だよな、と才人が感嘆したようにつぶやく。
 アンリエッタの体を折りたたむように覆いかぶさっている彼は、自身も汗に濡れきっている。
 体が興奮状態にあるのは彼も同じだった。昼に二回、この夜にもすでに二回放出しているのに、まったく勃起がおさまりそうにない。

 思考には一片の冷静さを残しながらも、男の本能が自分の下であえぎ泣く少女の痴態に触発されていた。
 妖美な薔薇色に染まっている柔肌を、憑かれたように執拗に、異色の快楽でいたぶってゆく。
 才人は腰を使いながら、そっとアンリエッタに顔を近づけた。

 嬲られる少女が、両手首を縛られた腕を才人の首にかけて、すがらんばかりに下から少年に抱きつく。
 あれほど嫌がっていたはずの肛門性交で、獣のように乱れさせられている惨めな状況を忘れたいのか、むしゃぶりつくように自分から唇を深く重ねる。
 とろけてほころびたアヌスにぐちゃりと肉棒を根元まで埋めこまれ、子宮裏の肉壁を押しあげるような位置で止められると、獰猛な悦びにアンリエッタの脳裏が灼けた。

「あううッ……あひぃっ……ひむ、ぁむ……ちゅる、んむ」

 甘鳴きしながら才人の顔をさらに引きよせ、美麗な桜色の唇と舌でキス奉仕していく。
 ひゅくりひゅくり美尻を回すようにうねらせて女肛をきゅきゅと絞り、水面のような瞳を濃すぎる快楽にうるみ濁らせながら、男の欲望のために身をささげていく。
 連日の調教で体に覚えさせられたことを、ほとんど無意識に表に出しているのだった。

 顔をあげて唇を離した才人が、少女の顔を見下ろした。
 アンリエッタはようやく与えられた小休止に、よだれを口の端から流しながらはひはひと荒く息継ぎしている。
 涙でぐちゃぐちゃの美貌は、うつろに瞳をゆるませて忘我の態だった。途中で意識が何度も飛びかけていたのである。

「お尻……そんな乱れられるんだ? 正直、そこまでの弱点とは思ってなかったけど、今じゃお豆やおま○こ奥なみに反応してるよな。
 イくときの反応というかイキ方は違うけど、こっちもイキまくれるほど気持ちいいんだろ」

「い……や……ちがい、ます……」

「違わねえだろ……さっきから俺の下腹に、何度も小刻みな潮をぶっかけちゃってるくせして」

 揶揄した才人が突きこみ、少女が「ひいっ」と歯をくいしばた。
 ぐちぐちぐちぐち――と奥に埋めこまれたまま小さく速い突きこみを受け、首を左右に振って「あうっ」「あっ」と細かく鳴かされる。
 抽送が大きなストロークに切り替わって、女肛を本格的にえぐられだすと、たちまち黒くただれるような官能が戻ってきた。

 泣きながら身をよじるアンリエッタのくくられた両手が、今度は枕元のほうに上げられ、シーツをにぎりしめて引きちぎらんばかりに引っ張った。
 濃艶に肌に血を透かした汗みどろの上体が、柔らかい乳房をふるんふるんと躍らせて、ベッドの上で跳ねるようにのたうつ。
 反らされたのどから哀しく濡れた艶声がひびきわたる。

「ひ、あ、んんーっ、あああああっ! あ、い、いくっ、いくぅっ! んんんん……っ!!」

「ぐっ……く……ほらみろ、お尻の穴やらしくきゅーきゅー締めてイってる……」

「あああああっ、そうれす、やぐっ、そうですっ、おしりでなんろもイっておりまひゅぅぅっ、
 うぁ、みとめたでしょう、みとめまひた、と、とめて、とめてぇ、やぁぁ、とめてええっ」

「止まってとか言いながら自分から、お尻をゆすゆすさせてるだろ。
 う……、搾られる……ほんとやらしー尻……せーえきお尻のなかに出して欲しそうだな?」

「ひんんっ、ちがっ、ちがいます、ほしくないわ、あひっ、いやああ、おしりとまって、
 いやなの、ひうう、ああっ、うごいてはだめ、だめったらっ、ん、んううん……っ」

「言えよ、お尻に出してほしいんだろ?
 だってこんなにお尻の穴で、俺のを美味しそうにもぐもぐしてるじゃないかよ。腰振るのも止まってないよな」

 女肛をヌプヌプとえぐりながら、才人が指摘する。
 アンリエッタの湯気たつあえぎに恥辱のすすり泣きが混じる。言われるとおり、すっかり淫らに仕込まれた体が奉仕を止められない。心と関係なく動くのである。
 貫かれた尻が左右にくねりもだえ、痙攣まじりに上下にしゃくられて、まるで殿方の精をお恵みくださいといわんばかりなのは確かだった。

 一度そそがれた精液を直後の浣腸で排出させられ、さきほどの二度目の射精では引き抜かれて尻の表面にぶちまけられている。
 もう一度きちんと中に熱い精液を注いで、とすがるようにアヌスが肉棒をぬっちり食いしめ、肛道が腰ごとうねって射精を誘っている。
 その痴態に触発されて、才人の情欲も止むところを知らないのだった。

 どこかしら竜涎香と麝香を混ぜたような動物的な匂いただよう甘い闇のなか、組み敷いたアンリエッタの理性を腐食させるべく少年が腰を使ってくる。
 少女は栗色の髪をしどろに振りみだす。病的な快楽に耽溺させられて、一生戻ってこれなくなりそうだった。
 十数回ほど抽送されただけで、狂わされた肛肉が次の焦げるような性感をもたらした。
 
「いやぁぁ、うそ、うそ、いくっ、こんなのうそぉっ、いくううっ」

 ピストンを受ける桃尻がびくんっ、びくんっと上下にはねて、凄絶な極めかたを見せる。
 才人は口をひきむすんでどうにか射精をこらえたらしく、断続的に引き絞ってくるアヌスから肉棒をぬるぅっ……と、カリ首のところまで八割がたゆっくり抜いていく。
 肛姦に急速に適応させられたアヌスの肉は、少年のものを抜かれるときに、柔らかく吸いつくように伸び、男根にまといつく粘膜のピンクの輪を淫猥にめくれあがらせさえしている。

 絶頂の中で締まっているアヌスから、太い肉棒をずるずるとゆっくり抜かれる背徳的な快美を味わわされて、少女が悩乱しきった鳴き声をあげる。
 小刻みに震えている尻が、ひくんひくんとしゃくられるように上下に動いた。

「……ゃ……ぁ……でちゃう……」

 アンリエッタの恥じらいの極致に達した声がむせび泣きに混じったとき、才人は下腹にちょろちょろとかかる温水を感じた。結合部の少し上である。
 彼は結合したままアンリエッタの足首をつかむ。
 少女が頭上のほうに折りたたんでいた美脚を左右に大きく開かせ、下腹をのぞきこんで何が起こったか確かめ、得心してうなずいた。

「気持ちよすぎて我慢できなかったのかよ? 完全におしっこ漏らしちゃうなんてさ」

「…………くぅん…………」

 煩悦に耐えきれず漏らした尿をちょろちょろと噴きあげ、紅潮した牝尻をブルブルと震わせつつ、子犬のような鼻声をアンリエッタがあげた。
 湯気をたてる尿を、美尻の結合部や下腹に伝わらせつつ、羞恥にまみれた泣き声で哀願する。

「……ごめんなさい……みないでぇ、もう、おゆるひを……
 …………ひあぁぁああっ!!? あ、ひっ、なん……?」

 アンリエッタはゆるく漏らしていた尿をジュッと噴出させて目を見開き、薄朱色に染まった全身をガクガクさせて声帯をふるわせた。
 才人が抜ける寸前まで戻していた肉棒を、柔らかくほぐされた女肛の奥までいきなり突きいれたのだった。
 肉身に食い入る劇感で頭のなかに火花が散り、あごが開きっぱなしになって唇があわあわした。

 すぐに苛烈な抽送がはじまり、少女はまた黒い快楽に沈められていく。
 括約筋の締まりにあわせて断続的に尿が漏れ、下腹部を温かく濡らしていく。
 ひっきりなしに鳴き、濡れたシーツの上でさらに引きつってぐぐっと持ち上がった桃尻を少年に堪能されながら、惑乱の声をだす。

「ひぃいいいっ、なんれぇ、とめて、いま、今お粗相ひておりますのにぃっ」

 才人がアンリエッタのふくらはぎを自分の肩にかけさせてから、上半身を伏せる。
 あらためて女体を二つ折りにして、自分の下に押しつぶすような体位にもどる。
 彼は目をほそめて、危険な興奮を濃くにじませた声で、泣き叫ぶ少女の顔の真上から冷たく告げた。

「もしかして、止めてほしくてわざとお漏らししたのかよ?
 どっちにしろシーツべちょべちょになっちゃったし、しっかりまたお仕置きするからな」

「そ、そんな、ちがいますっ、いやぁ、ちがいまひゅう、あぐ、ひうう、
 ひどいわ、ごめんなひゃいって言っておりまひゅのにぃ、あ、ひ、ひいいいっ」

「どこもかしこも、えっちのためにあるような体だよな……
 いくらでもイきたいだけイけよ」

「ゃあああぅ、やめて、んぁっ、じゅ、じゅうぶんれす、もうじゅうぶんに気をやりまっ、やりましたからっ!」

 少年の右手に、ひとくくりに縛られたアンリエッタの両手首がとらえられ、ばんざいの形をとらされるように頭上のシーツに押し付けられた。
 桜色の唇を唇でふさがれる。
 少女は首をふってどうにか唇を離し、荒く呼吸しながら、拘束されたうえにのしかかられて二つ折りにされた裸身をよじらせ、哀しく艶ある叫び声をもらした。

 地獄の底をえんえんと這わされるような、罪と業に満ちた官能がまた炎上しはじめる。
 突如として体が鬼火となったかと錯覚するほど、じゅわんと熱が身を灼いた。

「あああ、またっ、あぐ、い、いきたくないのれふっ、これ以上お尻れ気をやらひゃれるのは嫌ぁ、
 ん、んぐぐぐっ、イ、イくううっ、ひむっ……あむぅ……!」

 一度逃げた唇もすぐ口づけにふさがれる。魂まで奪おうとするかのようにむさぼられ、絶頂の悲鳴を封じられる。
 才人が雄の本能にまかせた動きで、腰を繰り出してくる。
 痙攣とともにはねようとする女体を力ずくで押さえこまれ、征服されていく。

 酸欠に陥っているからか、脳細胞を相当数破壊していそうな絶頂を重ねられているからか、アンリエッタの思考がどろっと塗りつぶされた。
 頭上に押しつけられた両手が、こぶしを握り開きする。
 二つ折りで、これまた頭上のほうに向けられた美脚が、ひざ裏を柔軟にピンと伸ばす。
 組み敷かれた裸身が、人の形をした艶やかな水妖のように、各種の体液にぬめり濡れてくねる。

 陸にあげられた魚のごとく、徐々にその動きがぐったりと弱々しくなっていく。
 暫時ののちに才人が張りつめきった肉棒を抜き、唇も離して顔を上げる。
 その下でぱくぱくと薔薇の唇が開き、空気を一心にむさぼる呼吸音のあとに濡れそぼつ声が力なく出てきた。

「…………ころしてぇ、いっそ……しにます、こんなの……」

 眠げに見えるほど、快楽に疲弊した放心の表情だった。
 青い瞳孔がうつろに拡散して、火の絹をまとったかと見えるほど雪白の肌があざやかに染まっている。

 どこからか闇のなかに匂う竜涎香、濁ったあえぎ声、煉獄であぶられる蝋燭の女体。
 充満する室内の淫気が、粘性をともなっているかのように五体に絡んでくる。

 かかげられていた脚がようやくベッドに下ろされた。
 才人が軽く手をのべて、汗でアンリエッタの額にはりついた髪を手ぐしですいた。

「何度だって『ころして』やるからな……でも今日は俺も、もう一度出して終わりにします。
 あとは俺がイくまで動きますから、舌を噛まないように注意してくださいよ」

「…………ああ……」

 体をひっくりかえされて、愛液と汗と尿をぐっしょり吸ったベッドにうつぶせに這わされる。
 アンリエッタは諦めた色を瞳に宿すしかできなかった。ほつれて口に入った髪を小さな唇にはさみ、絶え入りそうに艶な風情をただよわせる。

(……怒っているのよ、と昼間に……言ったばかりなのに……)

 せいいっぱい意地を張ろうとしたのに、今はもうこんな状態だった。
 肉悦に負けて何度もこちらから許しを乞うのはいつものことだが、今夜はとくに乱れてしまっている。
 あれほど忌避していた肛門性交で、すさまじい肉悦をすりこまれて抵抗の精神を折られ、繰り返し潮を噴いて失禁まで見せた。

 まったく愛されていると思えない抱き方で玩具にされて、それなのに体が拷問に近い快楽で従順にさせられる。
 こんな抱かれ方がこの先ずっと続くのだろうか。いつか屈辱を感じられなくなるほど狂わされて、彼の前に這いつくばって足を大切に舐めるまでに堕ちてしまう気がする。

 でも愛されていないのなら、体を拒めばあっさり関係が終わってしまう。

(……ちゃんと心を、くれるのなら……、今だって、足を舐めてもいいわ……)

 暗く思いつめた涙がこぼれて、シーツに吸われた。
 こんなことまでされておいて才人に愛を乞うのは、君臨する王族として元より持っている矜持が邪魔をする。
 けれど体も心も、もう離れられそうにはない。

 高貴な者には何より大切なものの一つである「誇り」と天秤にかけても、愛欲の妄執を断ち切ることがついに彼女にはできないのだった。
 まさしく報いとして肉の奈落をのたうちまわり、わが身を淫獄に転がしながらどろどろに堕ちていく。

 アンリエッタはのろのろと身を起こし、牝犬の格好をおとなしく取って、ひくんと頭より高く尻を上げた。

 後ろから才人のがちがちの肉棒がズプズプと、とろけそうなアヌスに挿入されてくる。
 また酸鼻なほどの黒悦を味わわされると知っても、拘束された手首の上に頭をうなだれさせて耐えるのみだったが、続いて腰の前に手をまわされたときはさすがに声をあげて反応してしまった。

「……そ、そこぉ……っ」

「最後はいつもどおりに、お尻しながら前を触ってやるからな。
 自分からも腰を振ってみて」

「…………ひいいいっ……!」

 戻ってしまっていた包皮を剥かれ、生やわらかくなりかけた肉の芽を外気にさらけだされる。塗られたクリームで妖美に輝く肉の粒を。
 充血した陰唇まわりをさすられ、膣口につぷつぷと浅く指を埋められる。甘い愛悦に、放置されてきた蜜壺がよろこんで、男の指にちゅっとばかりに吸いついた。

 アンリエッタは魂までとどく痺れに鳴きながら、ひとくくりにされた手でシーツを握りしめる。
 同時にアヌスの肉棒が抜き差しされだすと、今度は前の甘い悦びと後ろの苦い悦びの入り乱れた深みに沈んでいく。
 たちまちめぐる淫熱に、総身が溶けるような感覚がはやくも近づいてくる。

「ほら、姫さま、『お尻に出してほしい』って言ってみろよ」

 ぐちぐちと肛姦されながら剥かれたクリトリスをつままれたとき、世界がぐらりと煮えた。
 薄い舌が震え、従順に言葉をつむいだ。

「…………だ……して……ほしい、です……
 ……あ……いく、いきそうです……ゆるしてくださいまし……おまめ、さわらないで……
 あたまのなか、ぐちゃぐちゃなの…………ひぃぃ……っ、いく……」

「もっとぐちゃぐちゃになればいいってば。こうされるの好きだろ」

 指で包皮を戻され、すぐ肉豆をにゅるりと剥かれるのを何度も繰り返される。
 何もかもが沸騰していく。

「…………いく……いきまひゅぅ……あぁぁ…………
 …………す、き……わた、わたくひ、これがすき……」

「ん……素直になってきたな。
 あとから剥いたまま直接シコシコしてやるから、お尻しっかり使わせろよ」

 責めが惨烈になる。
 腸管を犯しぬく大きなストロークが始まり、恥丘下の突起や熱くうるんだ蜜壺をいじる指が存分に動く。
 牝尻が一度大きくとびはね、それでスイッチが入ったかのように、あとは躾けられた動きでひゅくりひゅくりと振られだした。

 快楽に負けた恥知らずな声がどんどん高まっていく。

「…………ひ……い……いいっ……」

「ああっ……あああっ……ふぁ、あううっ」

「うああっ、ひ、あああ、おしりあつい、とけるぅっ、すきぃ、んんんんくぅぅっ」

 この夜最初のときの自分が聞けば、耳をふさいだだろう。
 後ろにかかげた尻をみずから振りたくって背徳の肉悦を貪欲にむさぼっている姿を見れば、目をそらしたに違いない。
 光ない瞳に絶望的な喜悦を浮かべながら、いっそ彼の手で与えられるならもう地獄でもなんでもいい、とアンリエッタは思いはじめている。この地獄に溺れることで何もかも忘れてしまいたい、と。
 誇りが肉欲に、決定的にひざを屈しかけていた。

「やっぱり、このやり方だとすげえ乱れるよな……
 お尻で気持ちよくなってるだろ? 気持ちいい、って言ってみな」

 才人の命令が、暗黒と淫情に占められていく心に響く。
 首をそらし肩越しに振りむいて、空虚でありつつも深い艶かしさを感じさせる秋波を、無意識に少年に送りながら訴える。

「……は……い、きもちいい……きもちいいっ、
 お尻できもちよくなっておりますうぅっ」

 少女は口に出して認め、なにもかもに負けていく。
 そうすることで身を灼く火が、ますます黒い色に燃えさかった。
 白痴になったように淫蕩な笑みさえ浮かべながら、ぼろぼろと涙をあふれてさせていく。

 アンリエッタは上体を完全にベッドに伏せ、膨らんだ乳房をシーツに押しつけてくにっと乳首をつぶしながら、腰の上を支点にして淫奔に胴体をくねらせた。
 宣言どおり赤剥けしたクリトリスをぬるぬると本格的に愛撫されはじめ、また絶頂にぶるりと背筋をおののかせて鳴いた。
 その、頭のなかに高らかに響く鋭い悦びが、アヌスを犯される業火の悦びと混じり、万華鏡のように眩めいていく。

「あなたにひどいことされているのに、きもひいいの、ひっ、ひあっ、ふかいぃ、
 はずかひいのに、いやなのにきもちいいのぉ、ひっく、んんんんんっ、おしりいく、いくぅっ」

 絶頂に達するたび、性器となった腸粘膜がもちもちと肉棒を包んで締めつけ、うねって引きこむような動きを見せる。

「おまめだめっ、ああぁ、ひぐっ、あぅ、いくっ、いきますぅっ、ああああああっ」

 峠が終わらないうちに二回目、三回目と絶頂を重ねさせられる。
 かろうじて残っていた精神の柱が、ポキポキと音をたててまとめて折れていく。
 いままでなんのために意地を張って耐えてきたのかさえ、壮絶な快楽をともなう肉のひきつりの中でわからなくなっていく。

「……いくぅぅっ……!」

 どこか傷ましさのある淫狂を、上体ごと頭をそらして宙にふりまいた。
 少女は濃密な絶頂に達しつづける。悪寒にも似たわななきが延々と、艶麗な肢体に走っていた。
 肉身も魂もじんと甘美に痺れていくような、黒い屈服の悦びのなかで、アンリエッタは意識をますます混濁させていった。
 再度の失禁が、ゆるく太ももを伝って落ちている。

「あ、またおしっこ漏らしちゃったな……
 っ、そんなお尻うねらせて俺の搾られたら……! なるべく我慢してたけど、こっちも限界……!」

 少年が自身もこらえかねた快楽の叫びを、わずかに歯の間からもらしながら、深々と肛肉を縫って抜き差しをとめ、腰をぶるぶる震わせた。
 肉棒が鈴口を数回ぱくぱくさせてから、本日五度目とは思えないほどの量の精液をドプッ、ドクッと腸内へとそそぎこんだ。
 射精を受けたときアンリエッタの背から、一気に霧が噴くように淫気が濃くたちのぼった。

「…………ぁ……いくっ、……イクっ……ころひて……イクぅ……」

 手首を拘束された手にシーツがぎゅうっと引っ張られて、張りつめた波を作る。
 脈動にあわせて女肛が淫蕩にうごめいて肉棒をねぶりしごき、コクコクと精を飲んでいく。
 少女は、背におおいかぶさってぎゅっと抱きしめてくる少年の脈動を、体内から受け止めさせられる。精液が一条ほとばしるごとに、彼女の意識が明滅した。
 アンリエッタはかすれた声で、まだ波状に重なっていく無残な絶頂を数えるように、「イク」と口に出し続けた。

…………………………
……………
……

 声も絶えてしばらくが経った。整っていく呼吸音のみになり、室内に夏の夜の静寂がもどっている。
 虫や鳥の、命のざわめきに満ちた独特の静寂であるが。
 窓からの風が一陣、汗みどろに火照った二つの体をそよぎ撫でてくる。

 ぱさりと黒髪を弱肩にかぶせるようにして、覆いかぶさったままアンリエッタの背を抱きしめていた才人が、そっとささやいた。

「すっかり、お尻も大好きな体になったなぁ」

 そこで少女の様子に気づく。
 うつぶせに栗色の髪を枕元に広げたアンリエッタは、雰囲気が死人のごとく陰々として、暗雲につつまれて沈みきっていた。

「ああもう、泣かないでくださいよ」

 才人は、シーツに顔を埋めたまま泣きだした少女の頭をよしよしと撫でる。
 その一方で涙に微妙に高ぶるものを覚え、まだアンリエッタの体内にある肉棒が一定の硬度を保ってしまう。
 嗜虐趣味に本格的に目覚めても、こういうときはいじめたいのか慰めたいのか自分の心がわからず困惑するのだった。
 さすがに先ほどまであった獣欲といえるほどの欲望は薄れているけれども、完全には消えていない。

(いや、さすがにたいがいにしとけって、俺。こんな、いつか壊してしまいそうな抱き方ばっかりしてさ……とは思うんだけど……
 どうしよう、もっといじめたいって気分が、何度ひどいことしても全然おさまりそうにない……姫さまの言ったとおり、最近の俺すっかりおかしいや。
 というかこれって深みにはまってるの、俺のほうじゃねえかな……)

 複雑な気分になっている才人の前で、しだいにアンリエッタの泣き震えが本格的な嗚咽に変わっていく。

 少女は子供のように泣いている。これまでは終わればどうにか立て直していた強気が、今回は戻っていない。
 体の熱が引いていき、冷静な認識能力が戻ってくると、先ほどさらした狂態が思いかえすだに情けなさすぎた。
 これまでのように威厳と意地をどうにか取りもどそうにも、今夜こそそれは粉微塵になった気がする。一時の快楽についに自分から溺れたことで、全てがあとの祭りとなっていた。
 それにくわえて、行為の最後では自暴自棄になって忘れていられたが、彼女が悩んでいた問題はまったく解決していないのである。

「うっ、ひっく、こんな体いや、元にもどひて……
 うんでくれた、かあさまにも、てんごくのとうさまにも、えっく、顔向けできませぬ、もどしてくだ、ください」

「戻せと言われても無理です……
 それに体がここまでえっちな子になったのは、さすがに生まれつきの素質が大きいと思うけど」

「ちがう、ちがうわ、ぜんぶあなたのせいです、せきにんをとりなさい……
 あぅ、うああ、おしり動かないで、あっ、ふ、あっ」

「往生際わるいなあ……もう生まれつきだって認めろよ。
 認めるまでまたイかせ続けてやってもいいんだからな」

「みとめない、ぜったい、ひっ、ひぃ、ひっく、ああうっ、おひりぐちゅってしないで、
 ゆるひっ、ゆるして、みとめたくないのれす、うっ、うまれつきらったら、あなたにせきにん、とっ、とってもらえない……」

「……責任?」

「いままで、うっく、わたくひをすきじゃなかったなら、ちゃんとすきになりなさい、
 ちゃんと愛してくださいまし、それで今日までの無礼、ぜんぶゆるひてあげますから、
 ひっく、おねがい……」

 それがアンリエッタが、自尊心の残骸からとぼとぼ拾い集めてきた最後の意地なのだった。
 捨てきれない矜持と断ち切れない想いのせめぎ合いが、もう体裁が整えばなんでもいいからと、折衷した解決案を頭のどこかから見つけてきたのである。
 好きになれ、という命令。懇願とまぜこぜになったわがまま。ある意味では女王の無茶もここに極まった感がある。
 ……現実逃避気味に子供に戻っていなければ、さすがに口から出てこなかったろうが。

 が、才人が表情をこわばらせ、ぴたりと止まったのは「すきじゃなかったなら」という言葉を聞いたためだった。

「…………え?
 ちょっと待って」

…………………………
……………
……

 ずっと裸で、二人とも無言だった。
 浴槽がもうもうと植物の香気まじった湯気をたたせている。
 大理石の浴室で、才人はアンリエッタの体を洗っている。

 まず快楽のために使われた部分を丁寧に洗う。そのあと台を使わず直接ぺたりと床にすわりこんだ少女の背中をながし、細い首筋をこすり、伸べられた腕を指先まで泡でくるむ。
 オリーブオイルの石鹸と柔らかなスポンジを使って、玉の肌を傷つけないように丁寧に。
 少女の前にひざまずいて、うすくれないの雲母のような爪をそろえた手指の一本一本まで。ルイズ相手にも何度もやっているため、こうした世話の手際は板についていた。

 アンリエッタは視線を宙にふわふわとさまよわせ、うつろな夢のなかにいるように茫洋としながらも、洗われることにごくごく自然に身を任せている。
 生来、人にひざまずかれる身分なのである。貴なる者の常として、生活面ではこうした他者の徹底的な奉仕を受けることに慣れきっている。

 淫戯と呼ぶには激しすぎた行為の直後で、重い悦びの名残としての気だるさがアンリエッタの表情にはあった。
 いまも浅く息づく胸元からは、浴室の霧にまじってけぶるような色香がただよっている。
 それでも手をしなやかに伸べ、しどけなく足をくずして横ずわりになっている姿は、先ほどまでさらしていた痴態とはほど遠く見えた。
 あのベッドの上の姿を、匂いも色も濃く艶やかに咲き乱れた蘭の花とすると、いまは白薔薇のような清華さを取り戻しつつある。

 「足を出してください」と才人が求めた。
 アンリエッタが備えつけの台にふらふらと腰かけて脚を伸ばすと、少年がそれをスポンジで磨きだす。
 顔を起こさずに、才人がぼそりとつぶやく。

「……あのさ。ああいうやり方で、その、するのはさ。
 嫌いとか、そういうのとはぜんぜん違いますから」

 自分のほうこそ、ルイズやこの人に信頼されていないと思ったのが最初の鬱屈の原因である。裏返せば、想いがあるからこそ深く傷ついたのだ。
 才人がルイズとアンリエッタに向ける想いの種類はそれぞれ違うが、どちらも好意には違いない。
 要するに少年も少女も、どっちも不安だったのである。きちんと心を向けられているのかが。
 相手も同じ悩みにおちいっている、と知ってしまえばあっさり解決することだった。

(というか、ほんとなら俺のほうがこれで嫌われて当然なんだけどな……)

 彼も、自分のここ最近の行いがどんなものかわかってはいる。
 離宮滞在一日目の夜から、ずいぶんと最低のことをやっていた自覚があった。
 最初のうちは半ばやけになっていたため、勢いで突っ走っていたのが大きい。

 先刻にアンリエッタを責めている中で引き出した反応で、思いもかけずはっきりと彼女の真情が見えた。
 少年の抱いていた信頼云々の苦悩は、そのまま立ち消えになった。
 心を確かめてしまえば、発端の懐疑は小さなことだったとしか思えなくなったのである。追求する気もまったくない。

 そうなると、罪悪感と悔恨がじんじん湧いてくるのは当然である。嗜虐的な獣欲もさすがに引いていた。
 帰ったらルイズとももう一度話し合って俺から折れよう、と才人は思いつつ、今は目の前のアンリエッタに言葉をつむぐ。

「俺がああいうことしたのは、むしろ……逆みたいなもんです」

 最初の衝動は、無自覚に彼を傷つけたアンリエッタの言動から始まったのだが、途中からは主に強烈な情欲にとってかわっていた。
 網状の細かいひびが文様となって入ることで美しくなる、もろいクリスタルの細工のような反応を見せる少女を、「もっと自分の手でひびを入れて綺麗にしてみたい」とどこかで感じてしまった。
 妙味甘露の酒毒に酔わされたかのような、破滅的な美への憧憬に近いねじれた情愛。

 どちらにしても、好き放題に辱めたことを正当化する言い訳にはまったくならない。ただ、そのために止まれなくなっていたという事実だけがある。
 スポンジをすべやかな肌の上で動かしつつ、洗い終わったら床に頭を下げようと考える。

(謝ればすむことでもないけど、やっぱりまずは謝らなきゃな)

 と、アンリエッタが身じろぎする気配がした。磨いていた足がひっこめられ、才人は顔を上げる。
 眼前、同じ目の高さに、少女がしずやかにひざまずいてきた。
 白い腕が首にまきつけられる。濡れかがやく瞳に間近で見つめられて、才人は言葉をのむ。
 ときおりアンリエッタの目の奥には、暗い熾火のような何かが見える。このときも、それは見えた。

「……ねえ」

 ものぐるおしい熱が静かな瞳にこめられ、物憂い声がつむがれた。
 浴槽にたたえられた水がゆらめいている。泡がゆらゆら湧き上り、くだけ散りゆく。
 尻をつくように座りこんだ才人の首に、腕をまわして抱きついたまま、アンリエッタがやわらかな体の重みを彼にしんなりとあずけた。そのまま問う。

「もしも地獄に落ちるなら、いっしょに落ちてくださいますか……?」

 才人はにわかに、ぞくりと首筋が粟立つ感覚を覚えた。
 少女の形をした、怖いほどに綺麗なものが目の前にある。うかがい知れない狂気にも似た情火が、彼女の凄艶さをなお増していた。
 子供の言葉遊びのようで、真摯な問い。脈絡はなくても、重い何かが伝わってくる。

 声もなくそれを抱きとめて、魂を奪われたようにこくん、と才人はうなずいていた。見えない手で心臓を握られてしたがわされるように、ほとんど無意識のうちに。
 アンリエッタは男の腕の中でこわばりを解き、魔性のなにかから年相応の少女に戻ったようにすすりあげた。
 安堵のこもった涙声を出す。

「あ……それならもうすべて受け入れますわ、
 どれだけ淫らな女にしてくれてもかまいませぬから……」

 ここ数日のことは、あえてアンリエッタは口にしなかった。
 才人もまた、いまはそれに言及する場ではないような気がしてきて口をつぐんでいる。
 双方にまたしも、ほの暗い情感がこみあげてきている。あれこれ言葉を使うよりも、熱い肌を重ねてどろりと溶けていたかった。

 湯に濡れた裸。すべる大理石の床。
 ハーブの香のする湯気に包まれてくらくらと眩めく。
 美姫の肌からしたたった湯の雫がぴちゃんと鳴った。

 抱きしめた少女の鳩のように柔ぬくい乳房に頬を押し当てると、ことんことんと鼓動が伝わってくる。
 才人はほうとため息をつく。アンリエッタの忍んだ泣き声が心を切なく咬んだ。

 甘い嗚咽と心音が、魂とろかす蜜となって少年の耳にねっとりからみつく。
 男を惑わせて深い淵に誘うという、美しい水妖の歌にも似て。
 静寂のなかに儚くふるえて悩ましく響き、底なく溺れさせられるような……

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