X00-42-11のつづきです。
「サイトさん、私2番目で無くても良いです。5番目でも10番目でも構いません。ですから私もお妾さんの一人に加えて下さい。お願いです」
「一寸何言ってんのよシエスタ。あんたこの計画の意味分かっている?唯でさえハルケギニア中から非難の嵐を受けるものなのよ。更にあんたが加わったらどんな事になるか判ったもんじゃないわ」
「確かにミス・ヴァリエールの仰る通りです。ですが私にはサイトさんだけなんです。サイトさん以外考えられないんです。ミス・ヴァリエールも同じでしょう?」
「うっ、まっ、まあね」
「このまま王宮に入られたら、サイトさんのメイドとして王宮に入れてもベットを共に出来ませんし、ましてや逢引など不可能ですよね」
「その通りだわね」
「お願いします。もし駄目だと言うなら、夜こっそりサイトさんの子種頂きます」
「こら!、メイド、そんなの許さないからね。それにそんな事知れたら最悪あんた闇から闇へ葬られるわよ」
「おいルイズ、いくらなんでもそれは」
「有り得るわよ、王家のスキャンダルを防ぐために、そういう闇の仕事をする部隊が秘密裏に存在するものなのよ」
「ホントか?」
「確認したわけじゃないけどね」
「シェスタ、これは俺一人じゃ決められないよ。少なくとも姫様に話が通じてこの計画が決まる頃じゃないとな。この話の決定権は姫様だろうからさ」
「そう…ですよね。じゃあサイトさん達が、お返事をする時、一緒に連れて行って下さい。そこで女王陛下に懇願してみます」
「難しいわよ」
「分かっています。でも諦めません。この胸の内を訴えかければ、サイトさんを愛する者同士通じ合えるはずです」
「あんた良くもそんな恥ずかしいセリフ言えるわね」
「本心ですから」
「そ、そう」
(この娘のこういうところ、羨ましいわね)
「兎に角さ、俺達も正式に持ち掛けられた訳じゃねぇし、それからでも遅くないしさ」
「そうですね」
「ルイズ、遅くなったけど、授業へ行こうぜ」
「ええ、そうね」
「あ、サイトさん。今日『魅惑の妖精亭』に用事があるので出掛けますね。帰りは、明日になると思います」
「ああ、いってらっしゃい」
教室
「遅いじゃないか、サイト、ルイズ」
「ルイズの家族が来たんでな」
「ヴァリエール公爵が?何しに見えられたんだね?」
「一応俺のお祝いって言ってたけどな」
「驚いたな。公爵自らお見えになるとはね」
「そうだな。物凄く驚いたな」
(別の意味でな)
「それよりサイト、放課後『魅惑の妖精亭』に行こうぜ。この間の魔物討伐の報奨金やらが合計1,000エキュー程有るからさ。ぐえっ」
「目的地が違うでしょ。『疲労回復薬』の原料の買付でしょうが!」
「まだあの特訓やるのか?それにしても1,000エキューとは、随分高額な報奨金だな」
「サイトは、聞いてなかったか。僕達の急成長ぶりを見て、今度アニエス式特訓を全魔法学院生に1週間程施すのさ。そのためとんでもない量の原料を買付に行くのさ。まっ、そのついでに『魅惑の妖精亭』に行こうという訳さ」
「報奨金の方はこの『風上』が説明しよう。実は報奨金自体は、200エキューほどなんだよ。差額は、飛竜10頭の売り値だ」
「何でまた?」
「実はギムリと僕が火と風のコンボ魔法でオーク鬼100頭程こんがり焼いたんだ。それはもう美味しい匂いが辺り一帯立ち込めたんだよ。そしたら匂いを嗅ぎつけて飛竜が10頭程やって来たんだ。本当は、生きたままの方が高く売れるんだが、流石に10頭生けどリは、無理なんで仕方なく倒したんだ。それを近くの町で売ったら合計800エキューになったんだよ」
「全く二人には困ったもんだよ。獲物は、二人だけで倒してしまうし、余計な敵を呼び寄せてしまうし。まあいい金になったからいいけど」
「何言ってんだよ。みんな嬉々として倒しまくっていたくせに」
「当たり前だろ」
「まっそう言う訳さ、明日一日使って皆で手分けして買付しようって事になってね。それなら今日『魅惑の妖精亭』に行こうと皆で話してたのさ」
「成程、だが俺達だいぶ知れ渡っちまったから、羽目外し過ぎると不味い事になるぞ」
「その通りだ。諸君くれぐれも気を付けたまえ!」
「お前が一番心配だ」
「モンモン、お前が金持ってろ。そうしないと1,000エキューなんて直ぐ無くなるぞ」
「それは言えてるわね」
「そ、そんな」
「本当にそうなるわよ。ジェシカ達のチップを掻き集めるテクニックは、それはもう物凄いわ」
「うう、仕方ない。それじゃ放課後、校門前集合」
「応」
魅惑の妖精亭
「シエスタ、サイト凄いじゃん。大公なんてさ、あんた物凄い玉の輿じゃん」
「そうなれれば良いけどね」
「どしたの?」
「色々大変なのよ。それより女の子増えたんじゃない?」
「へへへ…去年サイトがアルバイトしてたり、水精霊騎士隊が時々やって来るって言ったら増えたんだよ」
「ちゃっかりしてるわね」
「でも水精霊騎士隊凄い人気だよ。その代りサイトの人気は今一つだけどね」
「え?どうして?サイトさんゴールドドラゴンを倒したり、レッサードラゴン103頭も倒して大公で大元帥になったのよ?」
「その事だけどね、誰も見てないのよ。サイトがドラゴン倒したところ」
「え?野次馬沢山いたって聞いたけど?」
「私もその中に居たのよ。サイトがゴールドドラゴンに向かって行ったのは見えたのよ。でも、倒したところは見えなかったのよ。でその後ドラゴン退治を見物しに行ったんだけど、水精霊騎士隊が倒しているところしか見てないのよ。他の野次馬達もね」
「そうなんだ」
「だからサイトの戦果を聞いても、皆信じられないんだよ」
「事実なのにね」
「まっそんなもんさ。シエスタ今日お店手伝ってくれない?」
「どうして?女の子一杯いるじゃない」
「シエスタがお店に出るとチップの量が多くなるんだよ。ちゃんとバイト代出すからさ」
「分かったわよ。その代りおかしな服は嫌よ」
「えーそんな」
「じゃ、やらない」
「足元見るんだから」
夜 魅惑の妖精亭
「いらっしゃいませ」
「シエスタ?」
「え?サイトさん、どうしてここに?」
才人は、事情を話した。
「そうなんですか。じゃあゆっくりして行って下さい」
「ああ」
「今の君のメイドじゃないか。どうして此処に?」
「店長と親戚なんだよ」
「んもーサイトくんたら『ミ・マドマゼル』よ」
この声は…
「スカロンさん」
「おひさ。すんごい活躍じゃない。もううちには来てくれないいじゃないかって心配してたのよ」
「そんな事は無いですよ。肩書き変わったからって、俺自身変わった訳じゃないすっから」
「やっぱりサイトくんね。じゃあ今日は特別にサービスしちゃうわね」
「お手柔らかに」
こうしてサイト達の居るところには、次々と「妖精さん」達がやって来た。
しかし楽しい時間は、長く続かなかった。
一人の酔っ払いがやって来て、いちゃもんをつけた。
「何こっちで、妖精さん達を独占してんだ。なんだ学生じゃねぇか。こんな所に来るなんて10年はやいぜ」
「忠告するが、ここから立ち去った方がいいぞ」
「うるせい。こちとらドラゴンのせいで散々文句言われてんだぞ。役立たずだの石潰しだのってな」
「それはお気の毒」
「すかしてんじゃねぇ。いっちょ傭兵の戦い方ってやつを教えてやる。表へ出ろ」
「では仕方ない。水精霊騎士隊隊長ギーシュ・ド・グラモン承ろう」
「水精霊騎士隊?もっとましな嘘つきな」
「正真正銘本物だよ」
「へ?」
男は、まじまじとギーシュ達を見まわした。全員シュヴァリエを示す銀色の五芒星がマントに縫い付けてあった。
男は慌てて逃げ出した。
「つまらん邪魔が入ったが、大いに楽しもう」
「サイト、大公になったんだから沢山チップ頂戴」
「悪い、俺金あんまり持ってねぇ」
「どうして?」
「ジェシカ、サイトさんは、領主税取らないんですって。だから今は、お金が余り無いの」
「うそ」
「本当」
「じゃあ、ドラゴン倒した報奨金は?」
「3週間後だし、サイトさん領地の復興に使うんですって」
「サイトそれなら少しくらいこっちにくれてもいいのに」
「それだったら3週間後この人達に迫れば良いでしょ。この人達も報奨金貰えるんだから」
「そっか、じゃあ皆さんその時は、こちらにいらして下さいね。精一杯おもてなし致しますわ」
ジェシカの誘惑に何人かの隊員は、頷いてしまった。
次の日の朝
「いい?買ったらこの荷馬車に積むこと良いわね」
「了解」
水精霊騎士隊は、モンモランシー指示の下原料の買付に奔走した。なにせ前回の8倍もの量が要るので買付量も半端ではなかった。
原料の買付が終わり、魔法学院への帰り道、才人は、ある疑問を感じた。
「ギーシュ、今回の特訓での目標は何だ?」
「無論前回と同じさ」
「お前、俺を殺したいのか?」
「そんな訳ないじゃないかね。目標は大きければ大きいほど良いからね」
「でも女子は、どうすんだ?」
「勿論一緒さ。アニエス殿みたいになりたいって女子結構多いんだよ」
「アニエスさんみたいな人が増えたら困るな」
「まあね。では大元帥殿ご協力よろしくお願い申し上げます」
「ギーシュ、次そんな事言ったら協力しないぞ」
「言ってみたかったんだよ。そう怒らないでくれたまえ」
才人達は、そう言うやり取りをしながら魔法学院に帰って行った
X00-42-13へつづく