X00-42-5のつづきです。

 4日後の朝 サウスゴータ城

「ホーキンス殿、領地視察のご案内有難う御座いました。すっかり長居してしまって」
「そのような事は御座いません。領民達も大変喜んでおりました。また視察にいらして下さい。お待ちしております」

「はい、それでは領地経営宜しくお願い致します。それでは失礼致します」
「御気を付けて」

 サイト達を乗せシルフィードは、大空へ舞い上がった。

「彼は心まで英雄なのですな」
「いや、彼には英雄と言う言葉すら役不足だな。もしかすると彼に相応しい称号は、この世には存在しないかも知れないな」

「ですな。彼の様な人物は見聞した事が御座いません。将来、歴史・伝説にその名を残す事でしょうな」
「うむ、その通りだな」

 アルビオン上空

「シルフィード、今回は随分飛び回ってくれたな。お礼に帰ったら、マルトーさんに一杯料理作って貰うからさ」
「ありがとう。うれしいのね。きゅい」

「必要無い」
「酷いのね、お姉様。シルフィー一杯食べたいのね。きゅい」
「あなたはサイトの領地でどれだけ糧食を食べたと思っているの?」

「いいじゃんか、タバサ」
「よくない。シルフィードは、貴方の領地で数頭分の糧食を食べた。本来ならこちらがお礼しなければいけない」

「でもよう」
「貴方がどうしてもお礼をすると言うならば、私は糧食の代金を支払う」

「分かったよ。シルフィード悪いな、後でタニア鯉でも釣ってやるからさ」
「仕方ないのね。きゅい」
 
 その日の昼 魔法学院

「サイトだ、サイト達が帰って来たぞ」
 上空からシルフィードが舞い降りた。

「おかえり、サイト」
「ただいま」
 才人が地に足を付けた瞬間、マントは鎧に変化し、才人はデルフリンガーに手を懸けた。背筋を走るものがあったのだ。

「警戒心、本能の方は、鈍っていないようだな。大公・大元帥に叙勲され、ふ抜けてはいないか心配していたが」
「アニエスさん?どうして此処に?」

「水精霊騎士隊の特訓の為だ」
 騎士隊の面々が勢揃いした。
 才人は、瞬間強烈な違和感を感じた。

 騎士隊は殆どがドットメイジの筈、しかし歴戦の才人には彼らが、全員トライアングル以上、しかもスクウェアまでも存在する事がはっきり分かった。その上体つきは、いっぱしの傭兵並に逞しくなっていた。

 彼らと最後に別れたのは、たった5日前の筈、一体何が有ったんだ?
 ドーピングでもしたのか?と思っていると。

「人体強化薬なんか使って無いわよ。そんなの使ったら副作用で廃人に成っちゃうから」
 モンモンランシーが答えた。
 流石魔法世界、人体強化薬も存在していたか。

 では彼らのこの急激な変化は?
 そう疑問に思っていると、アニエスが語りだした。

「彼らに施した特訓は、貴様の特訓の1日を1時間に凝縮したものだ。それを可能にしたのは、ミス・モンモランシの疲労回復薬のお陰だ。『ぶっ倒れたら自然回復など待たずに薬で回復』の繰り返しでな。その特訓を1日10時間、この4日と半日続けてきた。つまりこの短期間に貴様の特訓の45日分施したのだ。尤も其れだけでなく夕食後更に数時間自主訓練していたな。だから60日分以上になるかな。それが何を意味するか貴様なら分かるな」

 アニエスさんのしごきを60日分以上だとー?!こいつ等に耐えられるわけ…薬で回復?特別な魔法薬か?

「使ったのはただの疲労回復薬よ」
 すかさずモンモランシーが話した。

 しかしこいつ等のこの急激な変化は?ぶっ倒れて回復したら強くなる?サイヤ人かこいつ等?いや待て確か保健体育で超回復って言うの習ったな。それか!回復を薬で補って…しかし体つきは、それだとしても魔法力の方が説明出来ないな。一体?

「特訓の前、彼らに目標を与えた『サイトに勝つ』だ。訓練は限界までやらなければ限界点の上昇はあり得ない。その為にはやる気が極限まで高まっていなければ不可能なのだ。その為の『サイトに勝つ』だ。そしてその結果、体のみならず精神力も高まったのだ」

 成程!そういう理由か。しかし「俺に勝つ」?するって言うと…

「では早速成果を見るとするか」

 やっぱり!

「では、役付き3人サイトと勝負だ」

「ちょっと待って下さいよ。今のこいつ等と3人同時は、無茶っすよ」

「貴様が訛っていないか見るためでもある。つべこべ言うな。それとその鎧脱げ」

 あのー、独りでに変化したという事は、危険という事なんですが…アニエスさんは、聞いちゃくれねぇよな。

 才人はマントに戻し、脱いだ。

 その瞬間マリコルヌが踏み込んできた。杖には『ブレイド』が掛かっていた。
「危ねぇ、何しやがる」
 才人は飛びのきデルフリンガーを抜く。

「サイト、戦いに『はじめ』は無いと言った筈だぞ」

 確かにそう言われましたが…見ると既にギーシュもギムリも『ブレイド』を発動させていた。

「相棒、非常に難儀な状況だね。3人ともスクウェアの傭兵メイジって感じだあね、こりゃ。あの『ブレイド』ミノタウロスでも倒せる威力がある」

「ミノタウロス?」
「相棒は知らねぇか。ま、要するに食らえば即死と思ってな」

「そんな危なっかしいもん、出してんじゃねぇ」

 しかし無駄だった。3人は才人を取り囲む様にじりじり間合いを詰めてきた。
 才人は、正面に居るギーシュ目がけて踏み込もうとした瞬間、脇からマリコルヌが斬りかかって来た。デルフでそれを受け止める。
「があっっ」体重の乗った重い一撃であった。

 同時に他の二人も斬り込んできた。
「引くな、相棒。前の小僧に体当たりして囲みから抜け出せ」
 才人は、アドバイス通りマリコルヌに体当たりをかまして抜け出した。

 しかし3人は、再び才人を囲い込んだ。
 才人の能力の「速さ」を封じるためだ。
 速さを封じられたガンダールヴは力の強い戦士に過ぎない。

「相棒やべぇな。あの姐さん、小僧共を恐ろしく鍛え込んでるな。このままじゃさっきの繰り返しだ。さあてどうすっかね」

 すると3人は、円を描くように動き出した。
「何をするつもりだ?」

 しかし3人はそのまま回転をつづける。
 痺れを切らした才人は、ギムリ目がけて斬りかかった。
「相棒、罠だ!」

「何?」
 才人は、窪みに足を取られすっ転んだ。そして『ブレイド』が突き付けられていた。
「勝負あり」

 呆然とした才人であったが、足元を見ると、小さな窪みが無数に作られていた。
 彼らは、回転しながら才人に気付かれないように作っていたのだった。

「以前貴様に教えたな、剣を見るな足を見ろ、状況に気を使え、相手の隙を付け無ければ作り出せとな。私の教えが身に付いていたなら、少なくともこんな無様は晒さなかったはずだ。確かに貴様の『能力』は凄い。並の相手なら只剣を振り回すだけで勝てるだろう。しかし強敵相手にはそうはいかん。実際身を持って分ったろう」

「はい」

「今後、貴様は、狙われる確率が高くなる。いや真っ先に狙われる。もし戦場で貴様が死ねば我が国は負ける」

「俺一人死んだ位で負ける訳無いじゃないすか」
「貴様の事は、もうハルケギニア中に広まっている筈だ。そんな貴様が戦場で死ねば友軍の戦意はガタ落ちだ。そうなれば最早戦いにならん。その事を肝に銘じとけ」

「はい」

「諸君、これで分ったろう。君達の実力は、既に1対3でサイトに勝てるほど高まっているのだ。これからも精進し続ければ1対2でも勝てる。隊員が増員されても君達が指導すれば強力な騎士隊となるであろう。諸君の頑張りに期待する」

「はい」
 少年たちは、力強く返答した。

「後は、君達の実績を高めておこう。討伐要請が5件来ている。何れも此処から馬で往復1日以内の距離だ。内容は、オーク鬼50から100頭が3件、ワイバーン2頭が1件、グリフォン3頭が1件だ。隊員を割り振り倒して来たまえ。君達なら必ず勝てる」

 そして隊員たちは一人の怪我人も出さずに討伐して帰って来た。しっかり褒賞金も稼いできた。







 

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