屋根裏部屋にやって来た才人とルイズ
ルイズは才人に椅子に座らされ、才人も対面に座る
「どうした、ルイズ?何か悩みあるのか?」
「……じゃない」
「はっ?」
「こんなの貴族の仕事じゃない!!」
「ふぅん、ルイズの考える貴族の仕事ってのはどういうのだ?」
ルイズが才人に聞かれ、目を輝かせて語る
「そりゃ、勿論。敵を相手にドカンと魔法をぶつけて、正面から撃破するの。そして、倒した敵の前にトリステインの旗を立てるのよ!!ルイズ=フワンソワーズが御敵を討ち取ったなぁり〜〜って、やって、女王陛下の威信を、ハルケギニアの大地に知らしめるの」
「敵も魔法を使うぞ?」
「その時はその時よ」
「食べ物はどうすんだ?」
「そんなの、平民が用意すれば良いのよ」
「平民に、いつ襲われるか解らない戦場迄運ばせるのか?平民を守るのが貴族なのに?」
「そしたら私が守るわよ」
「守ってる間に前から来るぞ?」
「うっ」
「そもそも、何処から敵が来るんだ?」
「そんなの、調べれば良いでしょ?」
すると、才人がにこりと微笑む
「なんだ、判ってるじゃないか。今やってるのが、その調べる仕事だろう?」
「あ……そうか。そう……だよね」
ルイズが膝の上で、両拳をギュッと握る
「ルイズ、仕事ってのはな、100あるとするだろ?」
「うん、仕事は100あるとする」
「その内99は、物凄く地味な仕事なんだ」
「……そうなの?」
「そう。俺は、そんな地味な仕事をずっとして来た。ルイズはまだ学生だから解らないかも知れないけど、締め切りに間に合わないなら徹夜もしょっちゅうやったし、完全に作り上げたにも関わらず、依頼者の一言で全てオジャンになったり、仕事仲間から中傷とかされたりもしてきた」
「…うん」
「でも、俺の後ろには待ってる誰かが居る。だから、歯を食いしばって、何処吹く風でやってきた」
「…うん」
「ルイズの後ろには誰か居るかい?」
ルイズは色々な人の顔を思い浮かべ、指折り数え始める
「父さま、母さま、姉さま、ちい姉さま、姫様、ジェローム、それに…………サイト」
「そっか。今、だだをこねてるルイズは、後ろで待ってる人達は、笑って受け入れてくれてるかい?」
ルイズは黙って首を振る
「判ってるなら大丈夫。俺は、今回は偶々所長なんて肩書き貰っちまったけど、やっぱり、やってる事は地味なんだ」
「ルイズ、地味な仕事はとても退屈だし、キツイ事も多い。其にサービス業と言うのは、人当たりが良くないと出来ない仕事でね、俺には絶対に出来ない仕事の一つだ」
「…うん」
「でもな、姫様は、ルイズがそんな逆境でも、跳ね退ける力が有ると、信じてるんだよ」
「…うん。才人は?」
「勿論、俺もそうだ。悩んだ時は笑え。笑顔が仕事の秘訣だぞ?特にサービス業はそうだぞ?」
「うん!!」
前向きに返事をし、瞳に力が籠る
「お酌も頑張る、笑顔も出す。だけど、サイトは良いの?」
「何がだ?」
「あたし、チップ貰う為に、色々許しちゃうよ?肌も触れるの許すし、キスも許す……かも」
「仕事ならしょうがないな」
才人はちっとも動じない
すると、ルイズはふるふる震えだし、怒鳴る
「そう言う時は、嘘でも駄目って言うのよ!!このっ馬鹿犬!!」
ドカッ!!
ルイズのドロップキックをまともに食らい、ひっくり返る才人
「ふん!!」
パタン
ルイズが出ていき、パタパタと階段を降りる音が聞こえる
「ってぇ、本当に効くなぁ」
顔面に食らって靴痕が付いている
「で、今度は俺っち使わないのかね?」
「何の事だ?デルフ」
「相棒、闇から闇に葬るのは、粗相かました奴だけにしとけよ?店に客来なくなっちまわ」
「……何で知ってる?」
「丁度窓に引っ掛かっててね、窓から見えた。ほれ、今もそうだろ?」
換気の為に窓が上開きで開いており、外が見えている
「お前は俺が死ぬ迄に、幾つ俺の弱み握る気だ?」
「さぁね。面白きゃ、相棒が死んだ後に、たっぷりネタにしてやるよ」
「……こいつだけは、絶対に野放しに出来ねぇ」

*  *  *
ルイズは才人に言われた通り、とにかく笑顔を浮かべ、更に黙った
口を開けば、客を怒らせるだけだからだ
そんな感じでしゃなりとしてれば、天下の美少女である、あっという間に客が口説く態勢に入る
「へぇ、ルイズちゃんって言うの?」
「はいっ」
にこにこしながら、お酒をぷるぷる震えながら注ぐルイズ
その様が逆に庇護欲を加速させる
「う〜ん、可愛いねぇ。初だねぇ、おぢさんサービスしちゃお!?」
そう言って、ルイズの手を取りギュッとチップを握らせる
ルイズは悪寒を隠し、にこりと微笑む
敢えて、黙って微笑む天下の美少女
『こ、コイツはイケる!!』
客がそのまま話しだす
「ルイズちゃん、本当に可愛いねぇ。そうだ、おぢさんとアフターしない?」
ルイズは困った様に首を傾け、やはりにこりとしている
顔が引き攣り、顔面が固まってしまっただけである
「あぁ、チップが足りないと……そうか解った。おぢさん更に2枚だ!!」
そう言ってビスチェから伸びるルイズの太ももを撫でようと、手が動くと
ダン!!
「お待たせ致しましたお客様、川魚の揚げ物にございます」
熱々の汁が手に跳ね、思わず手を離す
「熱!?」
「申し訳ございませんお客様。少々跳ねてしまいました」
才人がそう言って頭を下げる
「ちっ、気をつけろ、兄ちゃん」
腰に村雨が下がってるのを見て、客は手を振り、才人を追い払う
才人を用心棒と判断したのだ
メイジではない平民の用心棒でも、剣の間合いでは、杖や銃でも危ない
酔っていれば尚更だ
そんな才人がたまに出るお陰か、余りハメを外す客は出なかった
とは言うものの、酔ってれば関係無い
大声で騒ぐ客達がやって来て、妖精さん達に露骨に触り始めたのだ
こういう店では、良くあるトラブルである
「う〜ん、困ったわねぇ」
スカロンが困ってる様には聞こえないが、やはり困ってるのだろう
妖精さんの上位三人マレーネ、ジャンヌ、ジェシカが揃って対応してるが、酔っ払いは遠慮が無い
しかもどうやら貴族だ。マントを身に付けている
ルイズはそんな中、酔っ払い相手に政治話を振ると、相手が勝手にべらべら喋っていく
後は、上手く丸暗記して姫様に知らせるだけだ
改めて情報収集と言う仕事が、大変で非常に地味だと、実感するルイズ
しかも自分では、良いか悪いかが判断がつかない
『ルイズ、貴族の仕事も地味な仕事が99なのよ。最後の一つを輝かせる為に、今は地味な仕事をするの』
とにかく、自分の容姿と貴族の子女として叩き込まれた作法を利用して、貴族の子女に給仕をさせるといった夢を、客に見せる。実際にその通りなのだが
平民客は貴族に給仕して貰う幻想に酔い、貴族客も同じ貴族に際どい格好で給仕をさせるといったプレイに軽く傾倒する
少しずつ、ルイズは銀貨と銅貨、たまに金貨といった、チップを稼いでいく様になる
最も、稼いだ分を酒をひっくり返しておじゃんにするのであるが
平民客は大笑いして許すが、貴族の場合はヤバい
そして、露骨にジェシカ達を口説いてた客に、給仕で歩いていて、つまづいてついやってしまったのだ
「きゃあ!?」
バシャア
頭からジョッキをひっくり返され、酒だらけになる貴族
暫く無言である
「も、申し訳ございませんお客様」
「……貴族に対する弄責。覚悟は出来てるのか?娘?」
どうやら、ルイズは趣味では無いらしい
しかも、武闘派のようだ
ゆらりと立ち上がり、杖を抜く貴族
回りが気付き、客達が一斉に逃げ出す
本気の貴族に付き合わされたら、命は幾つ合っても足らないのだ
ルイズは今は、持ってはいても杖は抜けない
ひたすら謝るルイズ
スカロンも一緒に出て頭を下げてるが、杖は持ったままだ
騒ぎに気付いたシエスタが才人に伝え、才人が貴族の前に出た
「申し訳ございません、貴族のお客様。お代は結構ですので、どうかご容赦を」
「足らんな。其処の娘、直れ。手討ちにしてくれる」
既に詠唱を始めた為、才人は村雨を抜いて、貴族の杖を切り裂いた
ヒュカッ
反応出来ないレベルの斬撃に、貴族が詠唱を完成し、杖を振り下ろしてから気付く
「え?あれ?」
「申し訳ございませんお客様。逃げ出したお客の代金を、請求しても宜しいでしょうか?それとも、このままお引き取り願えますでしょうか?」
「き、貴様、平民の分際で!?」
連れの貴族達ががたりと立ち上がり、思わず杖を抜く
才人はテーブルにあった串焼きの串を握ると、ルーンが鈍く光る
そのまま二人の利き手に向けて、投げナイフの様に投げつけた
「つっ!?」
軽くとは言え、刺さった串の痛みに思わず杖を取り落とす
「ジェントルマンの皆様、お代は結構です。お引き取りを」
スカロンが才人の言葉に追髄し、判断を支持する
「……やるな、用心棒。行くぞ」
杖を斬られた貴族が素直に踵を返して、去って行き、慌てて連れの貴族も去る
最も、店を出た瞬間に走り始めたのが見えた
「あ〜ビビった。ちょっと、チビった」
才人はそう言っておどけつつ、席に座り込み、ふぅ〜と息を吐く
貴族達が逃げ出した後、客達の一部帰って来て、妖精さんと共に歓声をあげた
「すげーぞ、兄ちゃん!!」
ピーピー口笛と共にチップが飛ぶが
「あ、お客様。チップは妖精さん達にお願い致します」
そう言って、また厨房に引っ込む才人
「あらやだ、用心棒として払わないと駄目かしらね?」
スカロンがそう言って、考え込み、ジェシカ達がルイズに質問攻めだ
「やだ、お兄さん強いじゃない。ねっねっ、妹って呼んでいい?」
ジェシカが熱心に聞き、ルイズはちょっと複雑だ
「嫌よ。ま、全く、人には目立つなとか言って、自分は何?目立ちまくりじゃない?」
「あら、そんな事言う必要ないじゃない。お兄さん、ルイズちゃんの為に動いたのに」
「ふ、ふん。そ、そんなの当然なんだから」
ついつい、強がるルイズ。だが、ジェシカはちょっと気に入らない
「全く、お兄さんは頑張って働いてるのに、妹はこれだもんね。今日は、ちょっとはやると見直してたのに。正直、クビにしようか悩んでたのに、良く言うわよ」
そう言って、ジェシカは離れていく
「だ、大丈夫だもん。今日からは、昨日と違うあたしだもん」
「期待してるわ、妖精さん」
ジェシカはそう言って、また給仕に付き始めた
ルイズもまた、給仕を再開する
だが、才人がそんなルイズに付きっきりで居られる程、暇では無かったのである

*  *  *
翌日の昼、窓を開けてルイズと一緒に寝てる才人の頭に梟が止まり、ホウと鳴いた
「……んあ、何だよ?手紙?」
才人が受け取り、裏を見るとエレオノールのサインが入っている
「何か有ったのか?」受け取った才人が封を無造作に切り、中身を読むと苦笑する

前略、平民、とっとと戻って来なさい。あんたが頼んだ計器類の試作品が出来たわよ
私達じゃ、目盛りの基準設定出来ないんだけど?
ダイヤルゲージは、ギヤ比と目盛り設定の報告書付きよ
ミスタコルベールが検算して正確だと太鼓判を押してる
後は、あんたが頼んだ水晶填めるだけ

エレオノール

「……ふぅ、マルクさん、何個か出来てるかな?」
そう言って、才人は外に出た
パタン

*  *  *
才人は宝石細工の職人に顔を出し、偶々在庫で近い物を磨いてた物を一つ受け取り、一度妖精亭に戻った
「ルイズ、ルイズ」
「ん……ふにゃ」
ルイズが寝ぼけ眼で才人を見ると、才人が外出仕様になっている
「サイト?」
「思ったより、早く戻らないと駄目になった。また、何か有ったら呼んでくれ」
「……行っちゃうの?」
「あぁ、仕事だからな」
「……そう」
ルイズがしょんぼりするのを見て、才人は額にキスする
チュッ
「また来るよ。仕事頑張れよ」
「うん」
才人はそう言って、ルイズの部屋から出ていく
パタン
才人が階段を降りて行くと、スカロンが出ていく所に遭遇する
「あらん、才人ちゃん。行くの?」
「えぇ、呼び出しかかりました。ルイズとシエスタを頼みます」
そう言って、才人はスカロンに頭を下げる
「良いわよ。で………あのコ、貴族でしょ?」
スカロンが小声で話すのを聞き、才人が冷や汗をかく
「ふぅ、流石ですね。他言無用でお願いします」
スカロンが頷きつつ聞く
「って事は、貴方は従者かしら?」
「まぁ、兄代わりには違いないですよ。では」
そう言って、才人は魅惑の妖精亭を後にした

*  *  *
ルイズは、才人が居なくても頑張った
最初にだだをこねてたルイズからすれば、非常に頑張っている
しかし、ルイズの頑張り程度は、他の妖精さん達は普通にしてるのだ
社会に出て、初めて感じる、自身の未熟ぶり
其でも、ルイズはめげない
才人がまた来る時に、恥ずかしいからだ
『サイトは必ずまた来る。その時には、絶対に違うルイズよ。絶対に見違えたって、言わせてみせるんだから』
ルイズは給仕を頑張り、調査を頑張り、毎日聞いた話を過不足なくアンリエッタに送る
チップレースには一番経験値が少ないルイズは不利なので、一切無視する
だが、その対応が逆に好感され、少しずつでは有るが、チップを貯めていった
銅貨ならば結構貰える様になり、銀貨でも複数貰えるが、やはり金貨となると厳しい
其に、十数人いる中では、最下位である
やっぱり、経験値の差は大きい
「ルイズさん、最近頑張ってるじゃないですか」
休憩中にシエスタからお茶と賄いを提供されて、食べている
シエスタも休憩だ
「ふぐふぐ、サイトに恥ずかしくないようにするの」
「そうですよね。才人さんも、忙しい最中にわざわざルイズさんの為に、時間割いて来て下さってますもんね」
「ふぅ、ご馳走様。シエスタの作る料理は美味しいわ」
食器をまとめ、両手を合わせるルイズ
「有り難うございます、ミス。では、また頑張りましょう」
「えぇ。正直、シエスタが居てくれて助かった。サイトが居ないだけで、平民の振りがこんなに大変だなんて、ちっとも思わなかったわ」
「サイトさんは、大事な事は、ヒントは与えるけど自分で気付けって感じで、ほっぽっちゃいますもんね。冷たいのか優しいのか、最近は良く解らなくなっちゃいます」
「……ねぇ、シエスタ」
「何でしょう?」
「サイトって………冷たいと思う?」
「えっと、良く解りません。仕事に関しては、本当に容赦無いです。実際にですね、宝石細工職人の工房にお邪魔したんですが、やっぱり仕事中の職人さんは、おっかなかったです」
「……そうなんだ。じゃあ、サイトが冷たく感じるのは」
「多分、仕事に入った時の才人さんだと思います」
ルイズはギュッと拳を握り、呟く
「……仕事中のサイト……イヤだな」
「私はやっと、マルトー料理長の言葉が解った気がします」
「何か言ってたの?」
「えぇ。マルトー料理長は才人さんを非情と、かなり前から言ってました」
「そうなの?」
「えぇ。だから、才人さんが仕事と言った時は、相手を安心させる為に笑ったりするだけで、本当は『何とも思ってない所か、嫌ってるかも知れない』って」
「……」
「才人さんは、感情が擦り切れてるって、言ってますよね?」
「…うん」
「多分、本当なんだと思います。もう、人を好きにはなれないんだと。男の人は私達女と違って、只でさえ理性的なのに、才人さんは笑ってるだけ。あれ、全部ひっくるめて、笑う事しか出来ないんだと、最近判りました」
「……」
「そして、そんな自分が大嫌いなんじゃないかなって、最近思うんです。多分、今みたいになる前は、もっと感情豊かな人だったのかも。全部、私の妄想なんですけどね」
シエスタはそう言って、自身の頭にゲンコツを当てる
「ルイズさんは気にしなくて良いですよ。其に、才人さんはちゃんと助平ですから、色仕掛けは通用しますから、頑張りましょう」
「うん……才人は使い魔の仕事、どう思ってるかな?」
シエスタはう〜んと唸ってから答え出した
「多分、仕事と名の付くものに、好き嫌いは無いと思います」
「……それって、私を守るのは」
「……才人さんには、聞かない方が良いと思います」
「何で?」
「ルイズさんの望む答えは、多分くれないと思います」
「どういう事?」
「才人さんにとって、仕事は良くも悪くも仕事でしかないんです。必要だからする。不要ならしない。そんな単純な判断だけです」
「ルイズさんのお姉さんが、才人さんの仕事を手伝いに来たのを見た時に、確信しました。相手が其でどう思うかとか、思慮なんか有りません」
「…うん」
「才人さんは、良くも悪くもプロなんです。だから、仕事に感情を必要としないんですよ」
『それって、ガンダールヴとしては、力が出ないって事?』
そう言えば、常にデルフが心を震わせろと、才人に言っていたのを思い出す
つまり、デルフから見ても駄目なのだ
力が出ない分を鍛えて補い、思考で補う
正に必要だからする
仕事に忠実に、あくまで仕事……仕事
ルイズは気付く、嫌、気付かざるを得ない
『サイトはあたしの事……何とも思ってない。私の事守る事なんか、サイトにとっては只の仕事で、あたしの事なんか、好きでも何でもない』
『あたしが欲しいのは、サイトから好きって言って貰える言葉と行動で、あたしは今迄あたしの事を好きだから守ってくれてたと、勘違いしてた』
『……サイトがあたしを守る事はあくまで仕事で、仕事で死ぬのも仕事で……だから死地に向かうのも平気で……だから平然としてて……誇りじゃなくて、ちっぽけな仕事で死ぬのが平気……貴族の行動と似てるけど、完全に違う。貴族の考え方とは違う。貴族は名誉に対する結果として、死を選ぶ。サイトは仕事でしか、判断してない……』
『寧ろ、死にたがってる?帰れる路が無いから?全てを終らせるのが死ぬ事だけだから?あたしが召喚しなければ、死んでたから?』
『あたしじゃ、サイトを助けられない!?』
「……気付いてしまったんですね、ミス」
ルイズが真っ青になってしまったのを、シエスタが申し訳なさそうに言う
「恨んで良い?」
「えぇ、どうぞ。才人さんは責任は果たす方です。つまり、私達に責任を感じて貰えば良いんです」
「…何が言いたいの?何の取り柄も無い、主人なだけのあたしに?」
ルイズにはキツイ現実だ。自分が召喚した使い魔が、使い魔の例外中の例外、『主人に好意』を寄せてないのだ
全ての行為は、主人であるルイズを上手く操縦して、使い魔が居なくても構わない状況にする事
つまり、才人は最初から、ルイズと決別する積もりだった訳だ
その為だけに、全ての仕事を引き受けてるだけだと、ルイズは気付かされる
目的は、ただひたすらに帰る事
才人が今やってる仕事は、トリステインを進歩させるかもしれないが、其は世話になった人達への置き土産だ
使い魔としては、正に例外、規格外
結果だけが一人歩きしているが、行動は英雄ではなく、貴族でもなく、騎士ですらない。ただひたすらに人間で、良くも悪くも人間
『あたしは、サイトがトリステインに骨を埋める決心をしてくれたんだと思ってた。だから、主人の大意に添う行動と思ってた。でも本当は、自分自身の目的を遂行してるだけ。あたしに服従もして無ければ、敬意も払わない。あくまであたしを見る仕草は、只の少女。もしかしたら、恨んでいるかも……』
そう考えた途端、胃から逆流し、思わずトイレに駆け込むルイズ
トイレから出てきたルイズに、シエスタは声をかけた
「つわり……ですか?」
「な……違うわよ」
「そうですか……てっきり」
「何が言いたいのよ?」
「才人さんに責任を果たして貰う為に、しっかり行動なさってるかと思ったんで」
「……どういう事よ?」
「赤ちゃんです」
ルイズはハッとする
「……子供で……縛るの?」
「えぇ、欲しくないですか?大好きな人の子供」
『欲しい、サイトに愛されて、サイトの赤ちゃん……産みたい』
「そそそそんな事ある訳ないじゃない。あんなの犬よ、犬」
でも、口から出る言葉は、思いとは裏腹だ
シエスタはそんなルイズに溜め息を付く
「そんなんじゃ、才人さんを引き留めるのは、絶対に無理です。もう少し、素直になった方が良いですよ」
そう言って、シエスタは立ち上がる。休憩終了だ
「ちょっと待ってシエスタ。貴女は……やってるの?」
「ご想像にお任せ致します、ミス」
シエスタは、否定も肯定もしなかった
そんなシエスタが身に付けている下着は、先日才人からプレゼントされた物であり、才人のモノである事を、自身に刷り込んでいる

*  *  *
その後の仕事は散々だった
ルイズはまだ、感情と仕事の制御が出来ないので、調子が仕事にダイレクトに出る
余りに酷いので、スカロンとジェシカに言われたのだ
「今日はもう休みなさい、良いわね?ルイズちゃん」
「何か顔色悪いわよ。お客様が良い顔しないから、寝てなさい」
「…はい」
自身でも気付いていた為、素直に戻って休むルイズ
ベッドに倒れた後、涙を流した
「人間の使い魔だから?住んでた社会が有るから?あたしが喚び出したのは、あたしだけの騎士じゃなくて………只の……人だった…………うっうっうっうっ」
その苦しみを解るメイジは、ルイズの知る限り、何処にも居ない

*  *  *
余りに酷いルイズの調子にシエスタは責任を感じ、ルイズの部屋に居る
ルイズはベッドの上でぼぅっとし、シエスタは食事を用意して椅子に座っている
「あの………ルイズさん」
「……」
ルイズは反応しない
「今は無理でも、これからなれば良いんですよ」
「……」
「あの、昨日はあんな事言っちゃいましたけど、私だって大した事出来ないですよ?」
「……」
「ほら、私はメイジで無いので、使い魔の所持がどれだけ大事か、正直な話解らないです」
「……」
「才人さんは違う国から来て、トリステインに馴染む積もりが無いのは、私にも解ってます。ルイズさんもそうですよね?」
ルイズは小さくこくりと頷く
「才人さんをどうしたいですか?」
「……あたしと、死ぬ迄一緒」
「使い魔だからですか?それとも、好きな男性だからですか?」
ルイズはそのまま、囁く様に言った
「……両方」
「じゃあ、どうします?」
「ヴァリエールにしたい」
「じゃあ、しちゃいましょう」
シエスタはぽんと両手を叩いて、さも簡単な様に言う
はっきり言って不可能だ
貴族がポッと出の何処の馬の骨とも解らない平民風情に、公爵なぞ与える訳が無い
封建貴族の方が、法依貴族よりも遥かに少ないのだ
余程の権勢を自ら発揮出来る実績が有ろうとも、少なくとも『トリステイン』では無理である
「そんなの無理よ」
「ミスツェルプストーに、頼んでしまいましょう」
「ゲルマニアの爵位?」
「はい、そうすれば、才人さんは貴族になって、ミスの隣に居ても問題無くなります。ほら、封建貴族同士なら、結婚で養子相続出来ますよね?」
ルイズは、がばりと起き上がる
以前にキュルケに言われた案が、実際に現実に出来る事を提示したのだ
ヴァリエールとツェルプストーが本当に組めば、ゲルマニアの男爵位位は買えるだろう
「で、でも、お父さまとお母さまが」
「それ位、何とかして下さい。自分自身の話ですよ?それとも、諦めます?それで、好きでもなんでも無い人と、結婚しますか?」
ルイズはぷるぷる首を振る
「うん、頑張ってみる」
「その調子です、ミス。あ、一つだけお願いが有るんですが?」
「何よ?」
「才人さんの寝室に、私も入れて下さいね」
「な、何言ってんのよ?あたしの犬はあたしだけのモノよ?」
「だって、公爵様なら妾居ないと駄目じゃないですか。後継者の問題が有るでしょう?」
うっと、詰まるルイズ
直系が無理なら、傍系で賄うのが貴族である
当然、公爵ともなれば、スペアが必要だ
表面上、妾が居ない現在のヴァリエール公は、異例に近いと言うか、公爵家存続の責任を果たしていないとも言える
だから、権勢が幾ら強くとも、批判が絶えないのである
但し、裏でもにょもにょやってる事も普通である為、バレてるかいないかの違いとも言える
つまり、バレると妻からキツイお仕置きが有るか無いかとも、言えなくもない
『実はお父さまは、非常に危ない綱渡りをしてるんじゃないかしら?娘が続くと、血が澱んだ証拠だから、新しい血を入れないと駄目って言われてるし……ちい姉さまは格言通り、病弱だし……あれ?そしたら、サイトは最適なんじゃないかしら?』
「そ、それでも、あんたは無し。ヴァリエールの血統じゃないじゃない」
「って事はぁ、お姉さんと同じ人に嫁いでしまうんですね?」
ルイズが硬直する
ある意味悪夢である
優しくて、非の打ち所が全く無いカトレアと、ルイズは苦手だが、美しさではやはりルイズを鎬ぐエレオノール
三人姉妹で一番チビで胸も無い
もう、寵を競ったら完全に負ける
更にエレオノールの気性すら、どうやらあしらっている
エレオノールが転んだら、ルイズ以上のデレ振りを披露する可能性は非常に高い
いつも婚約者の話をすると上の空で、解消されるとやさぐれる
そんなエレオノールが才人にデレデレになる姿を想像した途端、またうっぷと吐き気が込み上げる
『我が姉ながら、見たくないわ。えぇ、全く』
「それに、公爵様が変な女に引っ掛かる位なら、見知った相手の方が良くないですかぁ?」
「むむむむむ」
一理も二理も有る。女で身持ちを崩す話は、良く有る話なのだ
ならば、許容出来る相手の方が、良いに決まっている
「う〜、か、考えておくわ」
シエスタはしてやったりとにこりとする
「では、お互いの未来の為に、頑張りましょう。今はご飯です」
「そうね。頂きます」
ルイズは両手を合わせ、冷めた料理を平らげた
全ては、自分の望む未来を勝ち取る為に
未来の公爵家を黒髪の男が継いでいる事を夢想し、その隣に、自分が黒髪と桃髪の赤ん坊を抱えて、幸せに微笑む未来を掴む為に
『ちょっと画面の片隅に黒髪のメイドが出しゃばってるけど、き、気にしないんだから!!』

*  *  *


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