ルイズは起きて朝食をご馳走になると、モンモランシ伯が手配してくれた舟で川を下り、一路グラモン伯領を目指す
「川下りも良いなぁ。うん、風が気持ち良い」
午前中の陽射しと川から来る風のお陰で、一枚絵の様な美少女貴族が其所にいた
実際に、船頭は見惚れてしまっている
「はぁ、流石モンモランシ伯のお知り合いの貴族様。えらい別嬪ですなぁ」
「何を当たり前の事を言ってるの?この私、ルイズ=ド=ラ=ヴァリエールは天下の美少女!!」
胸を張ってえっへんと反らすルイズ
もう、絶好調である
以前なら、平民にわざわざ反応しなかったのだが、魅惑の妖精亭での経験で、普通に平民にも反応する様になってしまっている
でも、言ってる内容はあれである
やはり、ルイズはルイズなんだろう
「では、本日はグラモンに輿入れの相談ですかい?」
ニヤニヤしながら聞く船頭
「違うわ、恐れ多くも、女王陛下直々の御下命よ?貴方も、女王陛下の使者たるあたしの手伝い出来るんだから、光栄に思いなさい!」
ズビシ!
っと、指差して眼をキランと光らせる
やっぱり、とってもあれである
船頭は気付いたのだろう
「そいつは光栄ですな、へぇ」
如才なさは、全ての商売の基本である
すぐに口を聞くのを止めてしまった
「ブルルルルル」
駅で乗り替えた馬がタイミング良く鳴く
やはり、この馬も解ってるらしい
そのつぶらな瞳を船頭に向けて、同じ様にふぅと溜め息を付いた

*  *  *
ルイズがグラモン伯の製鉄所の桟橋から降りた時、製鉄所の大きさに暫くぼけっと突っ立った
「何これ?おっきぃ」
川からグラモン邸に行くには、製鉄所を突っ切るのが一番の近道である
トリスタニアより広い道路に、赤色の粉が樹木から何からまぶされている
「…何これ?」
「あぁ、製鉄所は初めてかい?貴族様」
「うん」
「そりゃ全部、鉄鉱石と鉄が錆びた粉末さ」
河岸の歩哨に言われて納得する
「へぇ、製鉄って、すんごい大変なんだなぁ」
「まぁね。グラモンはラ=ロシェールを越える、トリステイン一の製鉄と海上貿易の街だぜ、貴族様。トリスタニアに品々が大量にあんのは、グラモン伯の海上貿易のお陰だぜ?其をモンモランシを経由して、各地に流れるんだ」
「驚いた。ラ=ロシェールだけじゃ無いんだ」
「彼処は空の玄関口だ。海の玄関口の方が、品物は大量なのよ」
「ありがと、勉強になったわ。グラモン伯邸は、この道真っ直ぐで良いの?」
「あぁ、途中造船工廠やドックが見えるけど、真っ直ぐ行けば街を抜けて、郊外にグラモン邸がある」
「ありがと」
「今はお客さん大量に来てっから、気を付けてな!!」
「解ったぁ!!」
ルイズは逸る心のまま、馬の手綱をピシリと入れる
製鉄所は本当に大きく、水路が網の目の様に形成されていて、あちこちで荷役が行われているのを見る
「成る程、鉄は重いから、舟使った方が楽なのか」
一人うんうん頷くルイズ
全員が魔法使える訳じゃないのを、改めて痛感する
そのままぽくぽく歩いて(製鉄所内は、速度出すのは厳禁)行くと、造船工廠とドックが見えて来た
「うわぁ、此方もおっきい」
造船工廠には、安定翼の無い建造中の海船が何隻も建造されており、海船と海船の間には、ゴーレムが荷物搬送の為に、メイジがゴーレムの頭上で指示を下しながら動いている
排水式ドックには、ルイズが驚くモノが何隻もドック入りしていた
「戦列艦?あんなに傷付いてる」
ルイズの所迄、槌の響きがカンカン響いて来る
そのまま歩いて行くと、張られた天幕が幾つも見えて来て、其が、トリステイン軍の百合の紋章だと気付いた
「トリステイン軍……被害負ったんだ」
更に進むと、グリフォンが肉を食べつつ、痛む所を毛繕いしながら寝そべっている
数が少ない事にルイズが気付いた
「あれ?数が少ない?哨戒かな?」
偶々天幕から出てきた衛士隊の隊員が、以前乗せて貰ったグリフォン隊の隊員だと気付いて、思わずルイズは声をかけた
「あの、トロワさんでしたっけ?」
「あ、君はあの時の……トロワはコードネームで三番隊中隊長って事さ。名前はエドワードだよ」
「あのエドワードさん、何かグリフォン達も痛々しい感じで」
「あぁ、負けたからね。戦列艦七隻の内、二隻喪失、艦隊司令戦死。おまけに俺達グリフォン隊も戦死18、未帰還5、グリフォンのみ帰還5だ」
ボロ負けである
ルイズは思わずしゅんとする
「あ、あの」
「気にしないで良い。俺達は此が仕事だし、堂々と戦って負けたからね。皆、憂さ晴らしで街に繰り出しちまったが、敵が一枚上手だったって事さ」
そう言って、肩を竦めるエドワード
「…サイトが居れば」
「ははは、奴は今、起死回生の代物作ってんだろ?其迄は俺達が踏ん張る。皆期待してっから、頼むぜって伝えてくれ」
「はいっ!」
ぽくぽく歩いて行くと、どうやら野戦病院の様だ
聖具の象を帽子に刻んだ衛生兵と、水のメイジ達が慌ただしく働いている
「蘇生!行くわよ!1・2・3・!戻って来なさい!イル・ウォータル・デル!」
衛生兵が跨がって心臓マッサージすると同時に、水メイジの治癒魔法が詠唱され、衛生兵が確認する
「鼓動戻りました!」
「良し、偉いぞ!まだまだヴァルハラなんかに行かないで、働きなさい!」
威勢の良い発破を掛けて、更に治癒を詠唱する
「あれ?見たことある?」
「そこの貴女!ちょっと手伝いなさい!」
「は、はい!!」
思わず馬から降りて、駈けよるルイズ
「アンタもメイジなら治癒使えるでしょ?全部魔力吐き出して行きなさい」
「うっ……」
困った、ルイズはゼロである
「ごめんなさい、私、その、ゼロなんです」
「何ですってぇ!?この役立た……て、あら貴女、もしかしてエレオノールの妹?」
思わずまじまじと覗き込んで、彼女は問いかける
「姉さまをご存知なのですか?」
「あぁ、やっぱり。今エレオノールも此所に居るわ。包帯位は巻けるでしょ?あんたがやりなさい」
「え、ですが」
「しかしもかかしもですがも無い!!挫けた男を癒すのは、美女や美少女の仕事だ!!アンタの美貌で包帯巻けば、治療効果は10倍だ!!さっさとやりなさい!!」
「は、はい!!」
余りに威勢の良い啖呵に、思わず直立不動で返事してしまうルイズ
衛生兵が笑いながら包帯を渡して、命に関わる怪我でない負傷兵達の所に案内する
「いや、ミセスグラモンは本当におっかなくて格好良いお方でして。あっという間に、我々のマムになってしまいましたよ」
「…納得」
そして場所に着くと、大量の負傷兵が思い思いの姿で、座ったり横たわったりしていた
その光景にルイズは思わず息を飲む
「こういう所は初めてですかな?ミス」
こくりと頷くルイズ
「無理はしなくて構いません。青い顔された方が迷惑ですので、笑顔が出来ないのであれば、立ち去って下さい」
非情な宣告だが、負傷兵に希望を持たせるには、女性の笑顔が一番効く
青い顔されたら、意気消沈されて、本当に治療効果が悪くなるのだ
現代医学に於いても、看護婦に惚れると治療効果が上がるのは、立証された事実である
勿論、ハルケギニアでは経験則だ
そして、ルイズの耳に馴染みの声音の詠唱が届いて来た
「ほらほら、この私が治療するんだから、さっさと治りなさい。イル・ウォータル・デル」
掛けられた負傷兵から、憎まれ口が返ってきた
「んだよ。女帝様の魔法、効き悪いなぁ」
「るっさいわね。あんたなんか、実験台に決まってんでしょ?次が本命よ、本命」
どっと負傷兵達が湧き、そして負傷兵から、からかいの声が出た
「やべぇぞ、次の奴は命が危ねぇ」
「俺、遠慮する」
「俺も辞退するわ」
「それじゃ、アンタに決定」
辞退を申し出た相手を指差し、死の宣告
「いやぁ、止めてぇぇぇぇ!!お婿に行けなくなっちゃう!!」
「ブワッハハハハ。止めろ、笑わすな。腹の傷口開く」
周りが全員笑っている
「姉さま」
「イル・ウォータル・デル……あら来たの?ルイズ」
振り向いたエレオノールが、薄く笑っている
『え?嘘?姉さまが、平民に笑顔を見せてる?』
「え、何々この美少女?女帝様の妹?」
「そうよ〜。手を出したらアンタ達全員、金貨として一生を過ごさせてアゲル。私、土のメイジだからね」
目付きが鋭くなり、逆に歓声が上がる
「女帝様、金貨にしてくれ!!」
「黙りなさい!!この豚共!!」
「うひょー!!」
なんか、異様な盛り上がりを見せている
「衛生兵さん」
「…何でしょう?」
「トリステイン軍って……馬鹿?」
「……空軍は特に」
「…そうなんだ」
知りたい様な、知りたく無かった様な
自分達の事を守る軍が、まさか変態ばかりだなんて、ルイズは思いもしなかった訳で
其でも覚悟を決めて、えいやと飛び込み、血の滲んだ包帯を取り替え始めた

*  *  *
ルイズ達が包帯を交換しては洗い、また交換していると、治療団が続々と竜籠で降りて来た
医師と水メイジ達の混成部隊である
竜籠の紋章は各家入り交じっており、正にトリステイン全土からやって来たのが判る
先頭を歩くのは、トリステイン一の水使いたるヴァレリーだ
「エレオノール!良くやった!」
「後は任せた!トリステイン一の水使い!!」
ぱぁん!!
片手を掲げたヴァレリーに、エレオノールが手を思い切り叩いて交叉する
「ルイズ、あんたも良くやった。ヴァレリー来たから、もう大丈夫。私達は休むわよ」
「はい、姉さま」
そう言って、エレオノールは又奥に入って行く
「あの、姉さまは?」
「あぁ、レティシアの馬鹿たれ、引っ張って来るだけよ。あいつ、不眠不休でずっと働いてんの。ヴァレリー来たから、休めさせないと」
そう言って、エレオノールが奥に入って行く
そしてルイズが治療団を良く見ると、学院の制服を纏った上級生や同級生が入っていて、思わずルイズが頭を下げると、学生達はルイズに向かってガッツポーズをしてくれた
「ゼロのルイズ!あんたの事見直したわ!後は、私達水使いに任せなさい!」
「お願いします、先輩に同級生達!」
そして、ルイズの後ろから、ポンと両肩を叩かれた
振り返ったルイズが見たのは、今朝挨拶を交わした彼女だ
「モンモランシー」
「全く、こんな事になってるなら、私も一緒に来るんだった。本当に良くやったわ、ルイズ。お父様ったら何故か教えてくなかったのよ。今は国境から離れられないって警戒してた。だから私は、お父様の代行ね」
「うん」
モンモランシーも治療に加わる為に天幕に入って行き、ルイズは一人残され、思わずルイズは涙ぐんだ
アンリエッタの言葉が、染み込んで来る
『私達トリステインは弱い国です。総力を結集せねば勝てません』
「姫様が、敗北知って、皆を動かしたんだ」
ルイズは意思も新たにうしと気合いを入れると、口論の声とズリズリ引き摺る音が声が聞こえてきた
「こら、レティシア。さっさと邸宅に行くわよ。あんた働き過ぎなのよ!」
「るっさ〜い!離せエレオノール!!私はジョルジュに頼まれたんだぁ!!愛する旦那に頼まれた事、中途半端で放り出せるかぁ!!」
「……すご」
思わずルイズが声のする方に歩いて行くと、レティシアを羽交い締めにしてるエレオノールが、無理矢理ズリズリと引き摺るのを、レティシアが全開で抵抗している
「は〜な〜せ〜〜〜〜!!」
「だぁもう、誰かこのワーカホリック眠らせて!!」
「嫌よ。何でそんな事に、魔力使わないといけないのよ?」
ヴァレリーの言葉に周りの水使い達が全員頷き、治癒の詠唱を行っていく
「あぁ、もう。ルイズ、丁度良いわ。アンタも手伝って」
「は、はい姉さま。あのミセスグラモン。貴女はもう充分に」
「そんな事なぁい!私はまだまだ唱えられる!此所で全開でやんないと、ジョルジュが可愛がってくれないんだぁ!!」
ヴァリエール姉妹が、その言葉にきょとんとする
「……あんたまさか、ご褒美欲しくてやってるの?」
「るっさいわね。私がジョルジュにベタ惚れなのよ。別に良いでしょ?」
そんなやり取りしてると、ヴァレリーから声が掛かった
「レティシア、私だけじゃキツイわ。同調詠唱やるわよ。じゃないと、この人死ぬ」
「離せ、エレオノール」
思わずエレオノールが離してしまい、レティシアが配置に付き、聞く
「乗数は?」
「四乗に決まってるでしょうが」
「了解」
「姉さま、同調詠唱って?」
そんなやり取りを聞き、エレオノールはルイズに語り出した
「元々は、パラディンの聖歌斉唱がベースになってる詠唱方法よ。見てなさい。スクウェア二人が同調させるとどうなるか」
「はい」
集中し始めた二人にトントントンと足でのリズムが鳴り響き、同時に詠唱を始めた
「「イル・ウォータル・デル」」
瀕死の患者にに光が集まり、顔色が良くなって呼吸が復活する
「ふぅ、安定終了」
ヴァレリーが汗を拭って宣言すると
ドサリ
レティシアが、精神力を切らしてぶっ倒れた
「それ、さっさと旦那のベッドに放り込みなさい」
「さっき迄、あんなに元気だったのに」
通常は精神力が減ると、明らかに体調がおかしくなる
なのに、元気だったのに一発で倒れてしまった
ルイズの驚きは当然だ
「欠点は、威力は有っても同調に精神力を思い切り磨り減らすのよね。消耗してる状態じゃ、当然こうなるわ」
「あれ?じゃあまさか、わざと?」
「エレオノールの妹さん、勘違いしない事ね。私達は、必要だからしただけよ。じゃなきゃ、本当に死んでいた。この部屋はもう大丈夫ね。次行くわ。魔法継続が必要なのは任せる」
他の水使い達が頷き、ヴァレリーは別の天幕に向かって行った
「ちびルイズ、アカデミーの主席研究員を馬鹿にしないで頂戴」
ごつん
久し振りの鉄拳制裁
ルイズは涙目になりながら、エレオノールに謝った
「ごめんなさい、姉さま」
「さてと、じゃあ、罰ゲームはレティシアおぶって運びなさい」
「え゛?」
「どうせ、馬かなんか持って来てんでしょ?」
お見通しらしい
ルイズは素直に頷いた

*  *  *
ルイズ達が馬に気絶したレティシアを乗せて、グラモン邸に向けて歩いている
「で、どうしたのルイズ?向こうの仕事終わったの?」
「はい、姉さま。きちんと陛下の御下命で参りました。サイトがグラモンに居ると聞いたので、来たんです。陛下がサイトをお呼びなんです」
「あららら、タイミング悪かったわね」
「まさか、居ないんですか?」
「えぇ、タバサって娘居たでしょ?」
「タバサに、何か有ったんですか?」
「えぇ、孤立無援のピンチだからって、義妹さんが平民に助けを求めて、平民行っちゃったのよ」
「……」
全く、タイミング悪い時は本当に悪い
「姉さまは?」
「きちんと此方で対策練る部分は練ってたのよ。でも負傷兵が沢山出たでしょ?。だから、私も手伝ってたの」
『やっぱり、姉さまには敵わないなぁ。本当の、貴族の誇りを持ってる』
そんなエレオノールを見ると、丁度二人を風が撫で、エレオノールが金髪を掻き上げる
「姉さま。更に綺麗になってる……」
「そう?お世辞言っても、何も出ないわよ?」
さっきもそうだったが、鋭さは相変わらずなのに、柔らかさが加算され、自然に笑みを浮かべてる
以前の寄れば刺す感じだったエレオノールには、無かった仕草だ
「お世辞じゃないもん。本当に綺麗だなって」
「ふふっ、ありがと」
「ほら、また笑った」
「…何よ?私が笑うと変だと言うの?」
「はっきり言って変です。以前はそんな風に、笑いませんでした」
「…あんたは、相変わらず余計な事ばっかり言って。そんな事言う口はこれかしら?この!この!」
歩きながら器用にルイズの頬っぺたを両方つまみ上げ、ルイズは何時もの姉の行動に、痛みと同時に安心したのだ
「いふぁい、いふぁい、いふぁいれす」

*  *  *
日が暮れてから二人はグラモン邸に着き、エントランスに迄馬を進めた
「奥様!?」
「精神力切れよ。男はジョルジュ以外寄るな。メイド、運びなさい」
「それには及ばない」
後ろから声がかかり、ジョルジュが埃だらけで居た
「毎日訓練ご苦労様」「レティシアは?」
「あんたに可愛がって貰いたくて、不眠不休で働いてたわ」
「流石は俺の嫁。たっぷり可愛がってやらないと」
そう言うや、レビテーションを掛けて浮かせ、自分自身の腕で抱き止める
「起きな、我が姫。君の王子がお呼びだよ」
抱き止めながらぺしぺしと頬を叩いて覚醒を促し、レティシアがうっすらと眼を開ける
「……ジョルジュ?」
「良く働いてたんだってな。ご褒美は何が欲しい?」
「二人目が欲しい」
「良し解った。作るぞ」
「うん」
レティシアがジョルジュの首に手を回し、すっかり二人の世界に突入し、寝室に向かってジョルジュが階段を登って行く
パタンと扉が閉められると、ルイズがほうって溜め息を付く
「……羨ましい」
「あれで、浮気癖が酷くなければねぇ」
エレオノールが苦笑しながら答える
「姉さま、そんなに酷いの?」
「グラモンの旦那なんだから、当たり前でしょうが。平民なんざ序の口よ、序の口」
その事実はルイズに軽くさくっと刺さる
『才人で序の口……あたしだけを見てってのは、贅沢な望みなんだ……』

*  *  *
そして、ルイズの部屋は、エレオノールと同じに指定された
姉妹積もり話も有るだろうとの配慮である
そして部屋に入るなり、クンクン匂いを嗅いで、また犬の痕跡を発見する
「サイトの匂いがする」
「…ちびルイズ。あんたが犬なんじゃない?」
「うっ」
ついどもってしまうルイズ
「さて、私もあんたの姉だし、悩んでる様子位解るのよ。たまにはカトレアじゃなく、私に話してみなさい」
そう言って、自身は椅子に座り、ルイズはベッドに座る
そして、ベッドの品物にもクンクンクンクン
「あのね。シーツとか毎日換えてあるわよ」
「サイトの匂いがする」
「だから、交換してるって」
「シーツの下から匂うもの」
「……あのね」
「サイト、この部屋で寝たんでしょ?」
隠すとムキになる
エレオノールは頷いた
「えぇ、そうよ」
そして、ルイズはきゅっと下唇を噛んでから、言ったのだ
「姉さま。男の人って何人位妾取るの?」
ルイズの問いは真剣だ
実はエレオノールも苦手な分野だが、真面目に答える
「そうね……人によるとしか言えないけど、5人は貴族なら当たり前かしら?」
「そんなに?」
「えぇ。今回は、最大20万人動員されるらしいわ。今やってるのは、まだまだ規模じゃ小競り合いね」
「そうなんだ」
「そう、そして貴族は大体2万人位、その殆どが男性よ」
「うん」
「実はこれ、トリステインの10代半ばから40代迄の、戦える貴族の総人口じゃないかしら?」
「ほぼ…全員?」
「そう、戦える貴族の総人口って事は、結婚適齢期の総人口って事でもある」
「うん」
「で、貴族の場合男女同じ数位なのは、実はあんたの年代迄なの。男性は20代迄で半分、その後は40に行くまでに半分、大体1/4になるわ。女なんて、あんまり減らないのよ?」
ルイズはゾッとする
生きて命脈を保つ事自体が難しいのだ
「今回で、どれ位死ぬと思う?」
「解らないです、姉さま」
「快勝しても、5000人。苦戦すれば5万は死ぬわね」
「そんなに」
「で、貴族ってのは士官でしょ?」
「うん」
「士官って、戦場では真っ先に狙われるの。何でか解る?一番効率良く、部隊を麻痺させられるからよ」
「それって、簡単に死ぬって事?」
「そう、貴族の総人口が人口の5%なら、戦場で10%。そして死傷率は30%を越える。部隊丸ごと貴族の部隊も有るのよ?衛士隊や竜騎士隊がそうでしょ?」
「うん」
「実はそういう部隊は強力な反面、損耗も激しい。私の魔法学院時代の知り合いも、衛士隊入って生きてるの、20人位入って5人位よ」
どんどんしゅんとなっていく、ルイズ
「解る?今回の戦争で、戦列艦や上陸前線部隊に配置された貴女のお友達、1/3が死ぬの。戦争終わったら、魔法学院の学生、女の方が数が多くなってるわよ」
そう、今でも恋の争いをしてるが、更に其が激烈になる
「そしたら…」
「そう、結婚する為に、男を求めて争奪戦が開始される。ブリミル教の教義に従い一人に絞ったら、溢れる女性が沢山出る。だから妾を取るのは現実として有りと言うか、生き残った男の義務」
「…うん」
「私達の父様が、なんで批判されまくってるか知ってる?公爵家として裕福な癖に、その義務を実行してないからよ」
「……」
「解った?強い男が尊敬されて、強さを求めて決闘し、ばたばた死んでいくのは理由がある。私の時代は、まだ決闘で人死にが出た時代でね。大体男子学生の1/4が、決闘で死んだわ」
「…」
「結局、貴女は戦争で学友亡くすみたいだから。私と変わらないわね」
「サイトも……死ぬの?」
「…あいつはどうかな?周りを死なせない為に働いて、自分自身は疎かにしてる馬鹿だから、呆気なく死ぬかもね」
ちくん
ルイズは涙が込み上げて来る
「ヤダよ。サイトに死んで欲しくないよ」
「そうね。ルイズは何が望み?」
「…サイトがあたしだけを見て欲しい」
「そして、私みたいに結婚出来ない女を、無意識に量産するんだ?」
「そ、そんな事思って」
「思って無くてもそうなってしまうの。貴女が思ってるのはハルケギニアで貴族をしている限り、儚い願望ね」
徹底的に現実を突き付けられ、ルイズは落ち込む
「…私、何で貴族に産まれちゃったのかな?」
ルイズの落ち込みに、ベッドに移動して座り、ルイズを自身の正面に見せて、真剣に話す
「父様と母様に望まれたからに決まってるじゃない。さっきのグラモン夫妻見たでしょ?」
「うん。すっごく綺麗で羨ましかった」
あの時の情景を思い出し、目を輝かせるルイズ
「私もよ。一度言ってみたいわ」
「姉さまの言いたい人って誰?」
すると、ぴたりと止まって、黙りこくるエレオノール
「…姉さま?」
「……隠すのも止めるわ。ちびルイズ、あんたの使い魔寝取った。悪いけど、もう離れる気無いから」
ルイズは正面から言われ、流石に衝撃を受ける
「でででも姉さま」
「さぁ、覚悟を決めなさい、ルイズ。姉と決闘して、姉を仕留めて、周りの女達も皆殺しにして夢を求める?其とも、私と共におんなじ男の胸で夢を見る?」
エレオノールの眼は真剣だ、答え次第では本当に杖を取るだろう
ルイズには、その真剣さに呑まれ、ガクガクだ
「ああああたし、姉さまとけけけ決闘なんて」
すると、くすりと笑ってエレオノールがルイズを抱き締めた
「きゃっ!!」
「いやぁね。冗談よ冗談。私がルイズと決闘なんかする訳無いじゃない。アンタは生意気で可愛い、私の妹なんだから!!」
「姉さま?」
エレオノールの身体が震えている
「ごめんね、ルイズ。私、本気なの。馬鹿な姉でごめんね。貴女の使い魔だって知ってるのに、平民だって知ってるのに……貴女の気持ちも知ってたのに!!」
ルイズの頭に手を添えて、強く、ひたすら強く、そして震える
「…姉さま」
「何が貴族よ?何が平民よ?あの馬鹿全部ひっくり返して!!こうなったら、とことん付き合ってやる!!後ろ指さされようと知った事か!!どうせ、私は結婚出来ないんだ!!」
「…姉さま」
そして、エレオノールはルイズを離し、語りかけた
「ルイズはどうするの?あいつとの利害が分かたれたら、終わり?其とも、あいつの為なら、父様に杖向ける?」
父が、絶対に認めない事を理解してるのだろう
公爵位は、それ程重い
「姉さま……向けるの?」
「えぇ、向けるわ。もう、あいつ以外駄目。私の安らぎは、あいつの胸にある」
ルイズは、その感覚に共感を覚える
何故なら、自分もそうだからだ
「姉さまは、父さまを説得しないんですか?」
「杖以外で、どうやって説得すんのよ?」
「…その通りです」
そしてルイズは、思った事を口にした
「ヴァリエールって、馬鹿揃いなのね」
「そうよ〜。先祖代々馬鹿揃い。皆平民に恋してんのよ?知ってた?」
「嘘っ!?」
「本当よ、本当。御先祖様の日記に平民の恋人宛の苦悩の日々があって、笑った笑った。オマケにツェルプストーに恋人や伴侶持っていかれるし、恋に付いては代々ど下手糞。近場では母様から聞いた父様の話有るんだけど、聞く?」
「え?本当に?聞く聞く!!」
父の余りに情けない話を聞き、ルイズは厳しくも優しいの父の側面を聞いて笑い転げ、茶目っ気たっぷりで話すエレオノールの膝でそのまま寝入る
エレオノールはルイズの桃髪を撫でながら、呟いた
「可愛いくて生意気で夢見がちな、私のちびルイズ。神の左手ガンダールヴを呼び出した、現代の虚無の使い手よ。貴女の夢と私の夢を重ねてみたいと思うのは、私の贅沢な望みなのかしら?」

*  *  *

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