ガチャ
エレオノールがルイズの部屋に行くと、ルイズは編み棒を両手に持って必死に編み物をしている
「反省したの?」
「してます。でも手持ち無沙汰だから、溜めてたモノを片付けようと」
少しずつあちこちで進めてたセーターが、ようやく完成に近付いている
モンモランシーの指導で、漸く着れるかな?って物になりそうだ
どう見ても歪なのはご愛敬だろう
「ふぅん。手編みのセーターねぇ。買ったら?」
エレオノールが不器用振りを確認して促す
実はエレオノールも同レベルなのは、妹には内緒だ
「あたしがやりたいんです」
「そう。ま、私は革靴をプレゼントするけどね」
ガン
ルイズの頭にエアハンマーが直撃し、ふらふらとなる
革靴は完全に反則だ
なんせ、下手な宝石より高価である
「ず」
「狡く無いわよ。平民の靴はズタボロなの。靴が必要なのよ。靴底は、私が錬金の粋を見せ付けてやるわ」
「やっぱり狡いです」
「へっへんだ。アンタの主人の方が余程狡いわよ。この前のペンダントは何よ?あれ中々の物よ?私はまだプレゼント貰った事なんか、一度も無いんだから!」
ガタン!
ルイズが思わず立ち上がり、エレオノールの鼻っ面に迄顔を寄せ、ふんと鳴らす
「あたしは姉さまみたいに、相手して貰って無いんだから!!姉さまの方が狡いに決まってます!」
「アンタ姉に向かって、そんな態度取って良いとでも?」
段々二人の空気が張り詰めていく
「狡い姉さまの言う事なんか知らない!」
「上等ね、ちびルイズ!お仕置きよ!」
「何時までも、やられっぱなしじゃないんだから!」
そう言ってルイズは振りかぶり、エレオノールも振りかぶりって、同時に平手打ちが両者の頬に入る
バチィン
たたらを踏んだ両者が更にキッと睨む上げ、更なる追い討ちをかけるべく、脚は出すわ髪を掴むわ
どう見ても、大貴族の子女達とは思えない立ち回り
攻め疲れた二人が大人しくなる迄に10分を費やし、二人共に絨毯の敷き詰めた床に伸びたのである

*  *  *
「…落ち着きました?」
「……あぁ」
才人はカトレアの胸で泣きじゃくり、カトレアの胸は涙と鼻水でべとべとになってしまった
「ゴメン。俺、酒に酔って余計な事を」
カトレアは首を振り微笑み
「貴方は、ルイズの使い魔になる前から、貴族でしたのね」
「……え?」
思わずきょとんとする才人から、そっと離れて胸元を軽く拭いながら、カトレアは慈母と妖艶をない交ぜにした微笑をし、染み込む様に語る
「貴族の素質って、何かご存知?」
「…いや?金か功績じゃ?」
「違いますよ。女のコを守る事。それだけです」
才人は黙って聞き入れる
「私達の御先祖様は、王様のお姫様を命懸けで守って、今の領地を得たのです。女のコを守る、たったこれだけ。そして貴方も元の国で姪御さんを守り、そしてルイズを、姉様を守ってる」
そしてにこりとし
「どんなに嬉しい事か、判ります?」
「いや……全然判らん。どうも、人の感情の機敏に疎くて」
才人がそう言って、頭をがりがりする
「無自覚は一番の罪ですよ?」
「そう言われてもね。俺は、俺の出来る事をやってるだけだからね」
そして溜め息を付くと、言い放った
「カトレアさんにはばれちゃったし、言っちゃうけどね、もう……俺は人生で既に一度失敗してる。多分俺は、また失敗する。ハルケギニアでの失敗は……死だ。日本みたいに、甘くない」
カトレアが座って覗き込んでいる
「俺はそれが怖いのさ。俺の抱えられる手は二本しかない。なのに、誰も彼も寄って来る。外国に行くとやたらモテる人の話しは聞いた事が有るけど、まさか俺が該当するとは思わなかったわ」
「そうなのですか?」
「あぁ。でさ、全員は抱えられない。だから俺は、産業を発展させる事で、俺が居なくても構わない体制を作る事にした」
カトレアが相槌を打ち
「まぁ、一石二鳥所か三鳥四鳥狙ってるけど、多分何処かで破綻はせずとも、遅延や支障は出る。でもとにかく、今のが達成すれば、英雄は要らない」
その言葉に、カトレアは大きく眼を見開く
「皆、英雄になりたがってますのに」
「要らないよ、そんなもん。英雄なんか、失策を隠す言い訳さ。だったら、皆が一人一人頑張った結果の成功の方が良い。俺は、貴族になんかなりたくない。俺は日本人の平賀才人。ハルケギニアに来て身に染みた。日本人でない事が出来ない」
「私達が望んでも?」
「あぁ、簡単には諦められねぇ。諦めたら、ゲームオーバーだ。諦めたその時は、無気力人間になってるよ」
あふっと欠伸をした才人が、ベッドによたよた寄ってボフンと仰向けに倒れ
「悪い、病み上がりだった。酒で眠い」
すると、上からボフンと桃色の桃が、二つ落ちて来た
「むぎゅっ」
「やっぱり、楽しいお方です。私も、仲間入りさせて下さいな」
顔を胸ですりすりされ、ガウンの下もはだけて、お互いの股間がすりすりとカトレアが擦っている
「既にカトレアさんは、仕事仲間だよ」
「姉様みたいに、公私共に……が良いです」
胸が才人から離れて、更にカトレアから才人にまぶされ、ぬるぬるになって来ると、才人の槍も存在を誇示し、尻の合間からカトレアが軽く腰を浮かせるとピシャリの跳ねて才人の腹に当たり、そのままカトレアが上から更に愛液を塗り付け、才人への刺激を止めない
「体調は?」
「凄い興奮してます。心臓バクバクで、おかしくなりそう」
カトレアの頬が上気し、呼吸がはっはっと荒い
「腰……止まらない」
クチュッグチュッ
音が鳴り、カトレアの才人の男を利用した自慰は止まらず、更に加速する
「はっはっはっはっ……あっんくっ」
ビクビク
カトレアが才人の上で硬直し、身体をビクビクと痙攣させ、非常に豊かな胸がたわわに揺れ、カトレアの汗に混じった甘い匂いは才人を完全に蠱惑する
エレオノールも甘いが、カトレアの匂いは正に蠱惑
才人が硬直したカトレアを上体を起こして抱えるとコロンとベッドに寝かせ、しゅるりと帯を解いた
「カトレアさん、エロすぎ」
もう暴発寸前
才人は入り口に一物を当てると、ピクピクしてる膣に向かって腰を進めていく
「あっ、駄目!今は刺激強…す…ぎ…いぃ!?」
才人を受け入れたカトレアの語尾が上がり、艶が乗る
「……やべ、いい」
才人はそのまま腰を奥に固定したまま、豊満な乳房をぱくりと食わえて、腰を小刻みに動かす
「ふぅぅ、ふぅぅ」
ギッギッギッギッ
ベッドが才人の腰に合わせて軋みカトレアは才人の頭を抱き締める
「こんなの……初めて……あっ!あぁぁぁ!!」
カトレアがまた痙攣すると、才人も腰を一際強く突き入れて固定し、頭を抱き締められたまま、射精する
カトレアは胎内に射精される感覚を乳首の刺激と共に受け入れ、開いてた脚が才人をがちりと抱き込む
「…はぁ…」
眼は天蓋を焦点を合わせず見つめ
吐息と共に官能の声を洩らし、刺激が強いにもかかわらず、才人への抱擁が外せない
カトレアの身体は熟れきっており、才人の肉体が歓喜にしかならない
そして、酒で摩滅してた快楽が一汗かいたせいで甦り、更なる官能の海に叩き込まれる
散々に吸い、舐められ、しゃぶられた右胸から才人の頭を離し、左胸に運ぶ
「此方の胸も……さっきの……中に注ぐの……お願い」
カトレアはそう言って、腰を本能的に動かし、才人の剣があっという間に強度がギチギチになり、カトレアの呼吸に矯声が混じる
「はぁ……」
興奮が興奮を呼び、互いの匂いが互いを興奮させ、更に官能が官能を呼ぶ
才人の頭を抱き締めてた腕から力が抜け、胸を堪能してた才人が伸び上がり、カトレアの唇を啄むと、カトレアが才人の動きに合わせ、おずおずと応じ、腰が才人の動きに合わせてくねりと動き、中は今か今かと才人をひたすら吸い込み、才人の怒張は更に強くなる
才人が本格的にキスを深くすると、カトレアの中に才人の舌が侵入し、閉じてたカトレアの目が見開き、驚きながらも舌を絡め始め、次第に目がとろんとし、そして積極的に絡め始める
時折聞こえてくるのは、お互いの熱い呼吸と口からの啄む音と、結合部から漏れる粘着質の音、それにベッドが軽く軋む音
蠢いた二匹の雌雄が唐突に硬直し、二人共に身体が震える
堪らず、カトレアが唇を離し、そんなカトレアを才人が抱き締める
「ぷはっ、あぁぁぁぁ」
焦点すら合わせず虚空を見たカトレアが、そのまま才人を抱き締め、射精の感覚に酔い、才人は射精しながら、中の吸引に非常に強い怒張で応える
「ふぅぅぅ、ふぅぅぅ」
呼吸が荒く、お互いに新鮮な空気を求めて深呼吸をし、だが抱擁は解かない
暫くそのままの姿勢でおり、才人から耳元に囁いた
「…良かった?」
「はい、とても。使い魔さんは?」
そのまま囁きながら、才人の耳をぺろりと舐め上げる
身体が素直に動いてしまう
「うぁ!?……最っ高」
お返しに才人もぺろりと舐め
「ひう゛っ!?」
カトレアの膣が反応し、才人を更に立たせるべく誘う
「うあっ!?そんなにしたら、また勃っちまう」
「…したいですけど、疲れてしまいました」
体力の無さはそのまま、特に発作らしきものは出ていない
一応才人はおでこをくっ付けて計る
最も、身体は興奮で熱くなってるので、意味が有るかは解らない
「大丈夫そうかな?」
「…はい、でも身体が…」
才人がまた復活した息子をにゅぽんと抜くと、カトレアを優しく扱い、俯せにすると、尻を持ち上げて更に脚を膝立ちにして肩幅より広がらせ、左右に開いた
ベッドに胸が潰れてくにゃりとし、更にカトレアがいやいやと首を振る
「いや……こんな格好……は……恥ずかしい」
「動物の交尾の格好だよ。人も動物、恥ずかしいのも気持ち良いかも」
「う゛ぅ〜〜」
カトレアがひとしきり唸った後、プルプル震えてそのままの姿勢で待つ
才人から見たら絶景だ
日本人では有り得ない色の白さ、余計な体毛が無く、一切の瑕疵も箱入りのせいで見受けられない
花弁の桃色、尻の丸みに腰のくびれから太ももにかけてのラインは、造形美と淫猥の極致
エレオノールとのラインの違いは、カトレアのがグラマラスで、より興奮し、男を酔わす匂いが強い点
美しさに種類があるだけで、優劣は才人からは付けられない
才人の精を二度も受け入れたにも関わらず、入り口からは垂れて来ず、入り口が才人を求めてヒクヒク動いている
才人はその光景にいきり勃ち、尻の谷間に剣を撫で付ける
「あぁ、やぁ……お願い……早く」
カトレアの求めに素直に応じた才人が入り口を定め、挿入していく
にゅぷぷぷ
「はぁぁぁ」
カトレアがまた眼を見開き、声を吐きつつ震え、そして才人は奥に固定して固まった
「…やべ……最っ高」
思わずカトレアに被さり、腰を固定する様に右腕で腰を支え、左腕で上体が体重を掛けない様に、カトレアの左肩に肘を付き、カトレアの耳や首筋を舐める
腰は固定し、動かせない
あまりに良すぎて、ちょっとでも動くと、すぐに果てる
「……出して」
「え?」
「お願…い」
カトレアの眼は閉じ、両手はシーツを掴み、呼吸が荒い
中は、そのままでも耐えられない程吸い付いている
「欲しい?」
カトレアがこくんと頷いて、才人も動き出す
カトレアの陰核を指先で擦りながら、腰をくんくんと腰を突き上げ硬直する
「うぁっ……出る」
才人の声と共にカトレアに精が流れ込み、カトレアも硬直する
「あぁぁぁ」
長い長い射精を受け入れたカトレアは、自身に被さる男に囁いた
「…素敵」
「カトレアさんのバック、最高」
カトレアを抱えたままコロンと倒れ、才人は毛布を被る
「でも限界、眠い」
「…はい」
才人の隣で、毛だるくカトレアも眼を閉じた

*  *  *
ガチャ
エレオノールが腫れた部分をルイズの分も含めて治療した後、自身の部屋に戻って来た
実はルイズ分は放っておこうかと思ったのだが、女としての情けである
ベッドを見ると、黒髪と桃髪が寝ている
「ありゃ?ワインで酔った?」
つかつか寄って毛布を捲ると、二人共に全裸で、カトレアの股間から精が垂れている
「ふぅん」
まぁ仕方ない。そう判断したが、靴屋が待っている
才人は起こさないといけない
「…ん」
涼気が入ってカトレアがもぞもぞと動き、才人に身を寄せる
「…全く」
自分の行動と一緒だ
グラモンやモンモランシで、散々にやった無意識の甘えだ
本当に仕草迄似たり寄ったり
カトレアの側から才人の側に移動し、揺り起こす
「平民、起きなさい。靴屋待ってるわ」
まだダメージが抜けてないせいなのは、見当が付く
だが、そんな事も言ってられない
吐息が被さる位置迄顔を近付け、もう一度喋る
「平民、起きなさい」
「……んぁ」
声だけで無反応だ
「杖は使いたく無いんだけど……きゃあ!?」
エレオノールの手を引き寄せて無理矢理唇を塞がれ、エレオノールは目を白黒させ、才人の抱擁から逃れ様として、あっさり諦めた
『惚れた方の負けって、本当だわ』
才人の手が動く前に自ら毛布に入り込み、才人の無意識の要求に応じる為、服を脱ぎ始めた

*  *  *
「んぁ……良く寝た」才人が目を覚ますと、自身の上にエレオノールが乗っかって繋がっていて、カトレアが肌を寄せて寝ていた
「……や、やっと起きたの?平民」
「い、いつの間に?」
「……アンタが、起こそうとした私を引き摺り込んだのよ」
才人が快感に耐えられず射精すると、エレオノールもビクビク反応している
「…悪い」
「……もう良いわ」
エレオノールが満足の吐息を洩らしており、寝ている時に満足させたらしい
「靴屋職人待たせてる。起きて」
「…あぁ」
エレオノールが退くと才人が身を起こし、才人が手拭いを渡されて二人の身を清め、てきぱきと身支度を整えた
カトレアはまだ寝てるが、才人もエレオノールも起こさない
だが、二人の身支度の音で、寝惚け眼を才人に向ける
「……」
「カトレアさん、起きたのか」
眼をこしこししながらぼうっと才人を見、身支度を認識すると
「使い魔さん」
「ん?」
才人が武装はせずに近付くと、カトレアが才人を抱き寄せ、そのまま唇を貪る
チュッ、チュグ
エレオノールに見せ付ける様に先程教わったディープキスをし、離れるとつつうと唾液が二人の間に架け橋を形作る
「待つのは慣れてますけど、余り待たせないで下さいね」
「…あぁ」
「姉様」
才人に両腕を絡ませたまま、エレオノールに振り向き
「何?」
「私の才人殿を宜しくお願いします」
「…ルイズには気をつけなさい。嫉妬に狂うわよ」
「じゃあ、その分優しくしましょうかしら?」
エレオノールも嫉妬に狂ったので、ルイズも狂うと確信してる
最も、嫉妬の対象と一緒に可愛がって貰ったらぶっ飛んだ訳で
カトレアは悪戯の笑みを浮かべてるが、エレオノールにしか判らない
男を巡る争いには、家族の情は無い
互いが互いの美貌を認めてるからこそ、手加減が出来ない
ヴァリエールは美人だからこその悩みを、お互いに抱えてる
「では靴屋さんの採寸終わったら、私の講習やって、ツェルプストーに移動ですか?」
「そんな感じね。午後は移動するわ」
才人は口を挟まない
基本的に、発言権が非常に低いのだ
「何で向かうのですか?馬車?竜籠?」
そこで初めて才人に視線が向けられ、問いに答える
「そうだな……距離的にはどんなもん?」
「馬車で一日ね。乗馬で半日掛からない位」
大体魔法学院とトリスタニアとの距離と同じ位だ
空なら一時間位と目算を付け、才人は悩むが
「説得力持たせる為に、玩具持って行った方が良いわよ」
「解った。竜籠と零戦だ。キュルケを零戦に乗せる。デモンストレーションには、最適だろう?」
「そうね。じゃあ、それで行きましょう」
こうして、向かう段取りも決まり、先ずは靴職人の待つ所に向かって、部屋の扉を開いたのである

*  *  *
才人がエレオノールと共に採寸と講習を終わらせて客間に向かい扉を開くと、才人を見た瞬間にキュルケが立ち上がり、歩み寄ってもたれ掛かって来た
「ダーリンやっと回復したのね。寂しかったわぁ」
ちゅっ
才人を抱き締めてキスを頬にし、そのまま陽気に寄り掛かる
「キュルケ、待たせた」
「やっと終わり?」
「あぁ。キュルケは零戦に乗ってくれ。俺と一緒に行こう。デモに丁度良い」
「え〜。またサービスするの?」
流石にキュルケが嫌そうだ
「いや、派手なのはやらないから」
「約束よ?そしたらシエスタはどうするの?」
キュルケが指摘し、エレオノールを見ると
「一緒に乗せてくわ」
「へぇ、学習したんだ?シエスタはやるわよ〜?」
「…そうね」
苦虫を噛み潰した表情をして、エレオノールが首肯する
そして、全員で身支度を整えた後、キュルケは零戦に乗り、タバサはシルフィードの背に乗り、他の者は竜籠に同乗し、ツェルプストー辺境伯領に向かい、飛び立った

*  *  *
キュルケ=アウグスタ=フレデリカ=フォン=アンハルツ=ツェルプストーはツェルプストー伯直系で、恋愛に積極的と言われており、彼女の色香に迷った男は数知れず
最も、その全てをちょろっとからかって袖を繰り返し、決闘騒ぎ迄起こし、死者迄出てしまった為にウィンドボナに居られなくなったので、トリステインに留学してきた
彼女の身上の、誰かの一番は奪わないと云うのは、正に経験からの答えである
魔法を学ぶなら、トリステインよりガリアの方が余程良い。魔法はガリアが最先端であり、魔法の産業応用に長けたゲルマニアでも、ガリアには及ばないのである
でも彼女はトリステインを選択した。はっきり言って、トリステインは歴史がアルビオン、ガリアと並ぶのだけが取り柄であり、技術も魔法も産業も旧式を良しとし、伝統こそが全てという、正に退屈な国だ
留学としては、コネクション作り含めて価値が無い。コネ作りなら、余程ガリア貴族と懇意にした方が良い
価値が無いから、タバサはトリステインに追い出された。彼女がタバサと出会い、親友になったのは、偶然と呼ぶべきか、はたまた必然と呼ぶべきか
彼女は賭けたのだ。父すら圧倒したイーヴァルディが居る事を願って
自分が真に振り向かせたい、そんな男がきっと現れる。貴族で無くても良い
ツェルプストーは資金は豊富。父もキュルケには甘い
だから惚れた男が能力を持ち、ツェルプストーに益をもたらすなら、父は貴族にするのを躊躇わないだろう
何故なら、家系に平民を貴族に仕立てあげ、婚姻した事が何度もある
そして出会ってしまった
ハルケギニアの民には無い、輝く黒髪のイーヴァルディ
彼が血と汗を足らしながら戦い、真顔で書類を睨み、背中で加工に取り組む
平民も貴族も関係無い、職に誠心誠意尽くす職人達が見せる背中、ツェルプストーが力の源泉たる、誇りある男の背中
幼い時からツェルプストーの力と父達に何度も見せられ、軍人教育も受けて来たから解る、本物に対する審美眼
彼が召喚されてから見せた知識の片鱗は、そのキュルケでさえ、底が見えない
そんな得体が知れない、だけど優しい男
優しいのは、傷を負ったからこそで、怒りは傷に触れられたからだと、キュルケには容易に推測出来た
本当に不器用で、自分自身を磨り減らす事を厭わない男
『だからかしら?ダーリンの背中って、素敵』
そんな事を思いながら、空を後部座席からキョロキョロ眺めてると、デルフが出てきた
「相棒、高度3000辺りの右前方、雲間に竜騎士三騎」
キュルケはその言葉に繋いだ
「多分、家の国境警備ね」
「そうか、了解」
才人が並走してるシルフィードに乗ったタバサに指で合図を送ると、シルフィードがきゅいと鳴いて注意を促し、タバサも頷いた
現在高度は2000m、高さを取られてるので厄介だが、高度を取ると戦闘準備になってしまう
つまり、敵意の無しをアピールするには何もしないのが最善だ
そうして飛行してると、雲海を突っ切って、急降下して来る三騎の騎影
「衝突コース、攻撃だ。回避しろ、相棒」
「キュルケ、ベルトしろ」
「ヤー」
カチ
外してたベルトを装着して、才人に答える
「したよ。なるべく優しくね」
「向こうに言ってくれ。右旋回」
操縦悍を倒し、才人はゴーグルを陽光に光らせつつ機体を右に傾けて、零戦52型はハルケギニアの住人から見ると、直角に曲がって行く
零戦の性能は連合国の軍人をして、ジークは直角に曲がると驚嘆されている
風韻竜のシルフィードは零戦の操舵に追随し、同じく右旋回に付いて行く
やはり、古代種は違うらしい
そしてその旋回した先を風竜が三騎、急降下で速度を増して通過し、そのまま上昇して運動エネルギーを位置エネルギーに変換し、更に羽ばたいて空気抵抗分を補充する
「ちっ、また攻撃位置取りやがった」
才人が後方を振り返って、舌打ちし
「相棒、迎撃するか?」
「待って、魔法を撃って来ない。あれ、遊びよ」
キュルケがそう言って才人を押し留め、才人が更に舌打ちする
「ちっ、ってぇと、何か?性能見せてみろって事か?」
「多分」
「キュルケ、タバサに遠話。遊びに付き合うぞ」
「ヤー」
キュルケが遠話でタバサに連絡し、才人が首に線を引いた後、親指を下に向ける
ローマ帝国時代から伝わる、やっちまえのサインだ
首筋に引かれたサインでタバサも才人の意図を理解し、同じ動作を繰り返す
了承の合図だ
才人がニヤリとし、燃料を主槽に切り替え、左下のレバーを下げて増槽を廃棄、プロプラピッチを戦闘角度に合わせてエンジン回転を上げ、一気に上昇していく
「キュルケ、演習時の撃墜判定は?」
「背後を取る事よ」
「了解、ドッグファイトだ。デルフ、全方位警戒」
「任せろ」
零戦の上昇に付いて行く為、普段は行わない風の統御をシルフィードが行い始めた
「おちび、しっかり掴まって居るのね。才人の機動に付いて行くのに、無茶するのね」
シルフィードの言葉にタバサがコクりと頷いて、背にしがみついた
「風よ、大いなる風よ、我の飛行に助力を授けるのね」
シルフィードが風の精霊に働きかけ、羽ばたきに更に力が上乗せされ、零戦と同じ上昇速度で羽ばたいて行く
戦闘機戦のドッグファイトの語源は、相手の尻尾に噛みかかる、犬同士の喧嘩が語源である
そして飛行生物たる竜や騎士も背後が弱く、背後を取った方が速度が同調し、狙い易い
つまり、戦闘機戦と変わらないのだ
騎士が複数居て、背後にも魔法掃射出来るなら、対爆撃機戦になるだろう
そしてお互いの背後を取るべく、模擬戦が始まった
上昇して来る一機と一騎を相手に、背後を取るべく旋回して迫る竜騎士達
それに上昇しながらの左旋回で回避し、シルフィードも追随する
すると追って来たので、才人はすかさず右に舵を切って右旋回、シルフィードはそのまま左旋回だ
二手に分かれた才人達を同じくシルフィードに一騎、才人に二騎付いて行き、いきなり急降下姿勢に入った才人とシルフィード
虚を突かれた竜騎士達が追随にワンテンポ遅れ、追随を始めた時には速度差が付いて追随出来ず、才人達は宙返りをし、易々と背後を取った
「ほい、二騎撃墜と」
「きゅいっ!!」
シルフィードが一際大きな声を出して宣告し、竜騎士達は敗北を認めて通常飛行になり、才人もピッチと回転数を巡航に戻して高度を取り直す
そして、竜騎士達は零戦に横付けしてキュルケの顔を確認すると、敬礼を一つしてから先導を始め、更に後方に竜籠に居る事をキュルケが伝えると、二騎が離脱して捜索に離れて行った
どうやら、きちんと父の意向が前線迄届いている
「ひゅう〜〜〜。統率良いねぇ」
「ヴァリエールじゃ、えれぇ目に遭ったもんなぁ」
才人が感心し更にデルフも口を挟む
「ツェルプストーは、知恵と力持ちし者は歓迎よ。伝統にガチガチな、トリステイン貴族とは違うわよ」
「相棒には相性良さそうだねぇ」
「えぇ、良いと思うわ」
キュルケが誇らしげに語り、滑走路代わりの石畳の馬車道が見えてきて、ツェルプストーの城塞が見えて来た
ゲルマニアは街道も舗装しているらしい
「ひゅ〜、舗装されてるや」
才人が思わず感心してると
「トリステインが遅れてるのよ。ゲルマニアじゃ、主要街道舗装は封建貴族の義務の一つね。トリステインじゃ、トリスタニア近郊以外じゃ、ついぞ見ないわね」
だが、その分豊富な水で水路を整備してるのがトリステインではある
「進歩的なんだな」
「着陸に問題有る?」
「無いな。これなら多分大丈夫。凸凹してなけりゃね」
「凹凸は、馬車にも損害でかいから少ないわよ」
「そりゃ安心」
才人はそう言って高度を下げていき、その先にシルフィードが行き交う馬車を威嚇して才人の着陸場所を確保する為に低空飛行で旋回し、タバサが飛び降りて街道に立ち塞がり、馬車を塞き止めた
「馬鹿野郎!貴族でも、やって良い事悪い事位有るだろうが!」
ゴーレムの御者じゃなく、人間の御者だったらしい
タバサが指を一本立てて上空を指差し、宣言する
「危険」
その先に見た事無い鳳を見た御者が、思わずぽかんと口をあんぐり開けて惚ける
「着陸。通行止め」
タバサの言い分にぶんぶん頷いて、後方に怒鳴った
「おい、お前ら!手透きの連中は空を見ろ!貴族様が、面白い見世物見せてくれるとよ!悪いが、終わる迄通行止めだ」
その声に、人や物を積んだ商隊から人がわらわらと出てきて、同じく空を見上げた
反対ではシルフィードが露払いをしてそのまま街道にズドンと居座り、きゅいっと一声鳴いてとうせんぼをしながら、空にクイッと顔を向けてアピールする
「何だよ、この竜。使い魔か?空を見ろって?………何だよ、ありゃ?」
反対側でも人がわらわらと出てきて見物を始めた
その様を、低空で旋回しながら見てた才人達
「露払い完了したみたいだぜ、相棒」
「ゲルマニアは景気良いな。馬車で途切れが無いから助かった。着陸する」
才人が旋回しつつ、着陸態勢を取り、街道を城方向に向かって機体を同調させ、高度を下げて行く
機体の車輪を出し、機体後部から石畳の舗装路をタイヤが擦り始めた
キュッキュウゥゥゥ
石畳が平滑なお陰で安全に着陸出来、すかさず才人が機体を舗装路から退け、シルフィードとタバサが零戦の方に飛び、零戦から才人から降りると、促して続いて降りたキュルケの手を取って降車させる
そして、ツェルプストーが降りて来た事に、一同が仰天する事になり、一気に歓声が上がった
「フォン=ツェルプストーだ!」
「流石ツェルプストー!やる事が違うぜ!」
「あのマーキングはトリステインか?ゲルマニア=トリステイン同盟万歳!」
次々に歓声が伝播し、キュルケは当然といった形で才人と腕を組んで手を振り、その様が更に歓声を上げる
才人は目を白黒させつつ、キュルケのエスコートをそのまま行い、街道に向けて歩き出した
「…スゲー歓声。流石地元のお嬢様」
「うっふっふ。アピール大成功。ダーリンこのまま歩きしょ」
そう言ってたら、馬車が街道の馬車連を押し退けて走って来て、扉が開いた
ツェルプストーの家紋をあしらった美麗な馬車がすかさず到着し、執事が頭を下げる
「お帰りなさいませ、お嬢様。そちらのミスタは?」
「ツェルプストーに、最大の利益を与える男よ」
この言い分は、ツェルプストーに取って、最上の殺し文句である
「かしこまりました。ではミスタ共々、此方へ」
心得ている執事は、平民である事など完全に無視して、才人に対し貴族相手にやるように礼をした
思わず才人が呆然とする
「…どういうこった?」
「此がツェルプストーよ。ゲルマニアでは、態度の差こそあれ、力ある者には敬意を払うの。うちは随分ざっくばらんかもねぇ」
国境線が変われば、自ずと住む民の考え方も変わる
才人はその現場を見せ付けられ、唖然としてしまった
ヴァリエールで経験したせいで尚更だ
キュルケが促さなかったら、暫く呆然としていたかもしれない
「あ、そうそう。乗って来た奴、きちんと警備してね。あれ、ハルケギニアに一機しか無いの。好事家や盗賊に狙われたら堪らないわ」
「かしこまりました」
既に、上空では竜騎士が旋回していた

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