新年の降臨際が始まる迄、本月合わせて三ヶ月
虚無の曜日だが、ゼロ機関のメンバーは、全員ラ=ロシェール大型船舶造船ドックに集まって居た
社会見学という名目で、ルイズ、キュルケ、タバサ、モンモランシーが実際にカタチになり始めた才人の仕事を見る為に、付いて来ている
引率はコルベールが行い、学生の保護を担当した
何せ、何から何まででかい
迷子になると、冗談抜きで事故や迷子になりかねないのが、大型船舶の造船施設である
キュルケは実家で見てたので特に感慨は無いが、他の者達はそのデカさに暫くぽかーんとしている
全員工場入口でヘルメットを渡され、学生達が嫌な顔をしたが、才人が一言
「人間がぺしゃんこになる品々運んでるからな。簡単に言うと砲弾が飛び交ってる様なもんだ。魔法で対処出来ると思うな」
と叱り付けた為に、全員素直に被った
才人は地図を渡されると、装備品を借り受け、さっさと作業用具を着用して、同じく着用させる為に簡素な服装にしたエレオノールとシエスタを連れて、さっさと行ってしまった
「では学生は作業させる訳にはいかないとの事ですから、ルールは守って見学しますぞ」
コルベールがそう言って、連れて行く
「うっわ、グラモンもでかかったけど、ラ=ロシェールも大きい」
ルイズがそう言って、本気で驚いている
更に通行路では、ひっきりなしに大量の木材や砲、各種作業用具を満載したゴーレムや馬車がガラガラと、構内速度で走っている
確かにでかいので、皆が驚いている
「確かに、社会見学になるわ」
モンモランシーがそう言って、うんうん頷いている
そしてルイズ達がゼロ級ドックに数十分歩いて着いた所、調度メインボイラーがゴーレムに吊られて、降ろされていた
ピピピー、ピピピー、ピピピー、ピーーー
笛の音が響き、信号手が旗を振りながらゴーレム操者に合図している
「オーケー、ちょいスライ(下降)」
大声を上げたのは才人だった
その近くでは、エレオノールとシエスタがそれぞれバインダーを使って何かを書いている
「コルベール先生、サイト何やってるの?」
「ボイラーの設置だね。微調整する為に、ああやって位置を示しているのだよ。ああいう細かい作業を重量物で魔法でやるのは、無理が有るって、実はドックに入ってから聞かされてね」
才人が拳を握って突き出すと信号手が旗を交叉し、下降が止まる
「ポートムーヴ(左舷に移動)」
声を出しながら親指を立てて左舷に指してクイックイッと動かし、信号手が笛を吹きながら旗を左舷に突き出した
ピッピー、ピッピー、ピッピー
才人がまた握り拳を突き上げる
ピーーー
信号手が旗を交叉するとゴーレムが止まる
「何で才人、あんなこと出来るの?」
モンモランシーの問いにコルベールが答えた
「船関係も、仕事した事が有るのだそうだ。道具が多少違えど、合図はどこも大して変わらないって、笑ってたよ。単純化するからだろうね」
「へぇ」
感心して皆が見ている
「ボイラーフォア(先頭)ちょい巻け」
その合図に他の作業員が滑車をカラカラ回してボイラーの傾きを調整し
「オーライオーライ、ストーップ!」
才人の声で滑車を止めた
「ゴーレムちょいゴーヘー(上昇)」
その声で、信号手が旗を上に振りながら
ピピッ、ピピッ、ピピッ
才人がまた拳を突き出し
ピーーー
信号手が旗を交叉させて止まる
「フォアムーヴ(前方移動)」
そうやって合図と共に進行していき
「スライスライスライスライ。オッケー!フィニッシュ!外せ!」
作業員達が取り付いて一斉にロープを外し始め、ボイラーが設置され
「次に主機持って来い」
信号手が頷いて、ゴーレム操者に伝えると、ズシンズシンと歩いて行った
才人はその間に、作業員と共に、ボイラーの設置作業に取り掛かっている
「親方、位置は合ってるか?」
「ちょいずれてる。先ず左舷側締めて移動させてくれ」
「了解だ」
才人の指示で皆がてきぱきと動く姿に皆がぽかんと見ている
「随分スムーズね。普通喧嘩しない?」
キュルケがそう聞き
「勿論したさ。才人君に向かって楯突いた連中とは全員拳でやり合って、気に入らないと言った職人は隣のドックに出ていったし、逆に気に入ったって人も居てね。実に様々だよ」
「へぇ」
「姉さまとシエスタは、何してるんですか?」
「あれかい?次から作業員に全部任せるから、マニュアル作りだね。ああやって作業を標準化すると、楽になるんだそうだ。才人君は実に合理的だよ」
皆してふんふん頷いている
「魔法で全て解決なんか絶対に出来ないと、こういう所に来ると痛感するよ」
コルベールがそう締めて、才人の仕事を見学したルイズ達はずっと見てても飽きるので、コルベールと共に退場する事にした

*  *  *
「なんて言うか、本当にダーリンは現場の人よね」
「何よ?それ?」
「第一線で働く職人って意味よ」
「ふぅん」
皆がたむろしてるのは、造船所併設の食堂兼休憩所だ
「サイトが職人だと何か有るの?」
「貴族とは住む世界が違うって事。道理で金にあんま興味ない訳だ」
そう言って、キュルケは紅茶を飲んでいる
「だから何なのよ?」
「私達じゃ、全員おんぶに抱っこよ。現場を知る統治者になるなら最高よね。あれは文句言えば言う程、自身の世間知らずが露呈しちゃうわ」
「……」
心当たりが有り過ぎるルイズが黙ってしまう
「私達ではここじゃ本当に邪魔になる。先生に言って帰りましょう」
「そうね、私達じゃ邪魔しないのが、本当の仕事だわ。学生は学生の仕事してろって意味が、やっと解ったわ」
キュルケの言にモンモランシーも頷いた
「ルイズ、手伝ったらあんたじゃ事故死しかねないから、絶対にこっそり手伝って見返すなんて、考えちゃ駄目よ?」
「わわわ判ってるわよ」
「どうだか」
モンモランシーがそう言って、タバサにキュルケが囁いて、ルイズが拘束された
「ちょっと何よ?離して」
「駄目。貴女暴走したら、ここじゃ死ぬ」
タバサにそう言われ、ルイズがずりずりと引き摺られて、皆がシルフィードに乗って学園に戻った

*  *  *
「親方、チェーンの張りチェックしてくれ」
「終わったか?」
「本日予定分は終了だ」
作業員達がそう言って報告し、才人が懐から金貨を何枚か出してリーダーに渡す
「お疲れ。コイツで飲んでくれ、その代わり明日からも頼むぜ」
ニヤリとした作業員が答えた
「おぅ。話が解るじゃねぇか。お前ら、親方からゴチだ。有り難く飲むぞ」
「「「ゴチです」」」
そう言って作業員達が引き上げたのと対照に、才人は右翼からチェックしては、一人工具片手に調整作業に入った
傍らには、エレオノールがずっとメモを取っている
シエスタとコルベールは、食べ物を仕入れに外している
「才人、一人で調整する積もり?」
「遊び調整が駄目過ぎる。俺が全部やらにゃならん」
「今日は徹夜?」
「まぁな。右舷終わったら宿に戻ってくれ。マニュアル作成は大事な仕事だ。明日の指揮はコルベール先生に任せる様に学院側と算段が付いてる。学院長もわざわざ見に来てたろ?興味津々みたいだな」
ギッギッとボルトを締めて、調整を主機側から行っている
「嫌よ」
「命令聞けよ」
「一人寝は嫌なのよ」
才人は咄嗟に返せない
「……仕事するなら文句は言わねぇ。勝手にしろ」
「勝手にするわ」

*  *  *
翌日、休日出勤した職人達がやって来ると二人がずっと作業してるのに遭遇した
「おい、まさかあんた達、徹夜か?」
「あぁ気にしなくていいよ。これやんないと操舵と機関の配管出来ないからやっただけだ」
才人は事も無く言い、コルベールがやって来るとこう言った
「それじゃ、後頼みます」
「了解だ、才人君」
そう言って、コルベール、シエスタ組に後は任せて宿に戻った
宿に戻って、才人が部屋に入ると、当然の如くエレオノールが入り、自身の部屋に戻らない
そして、そのままふらりと倒れるのを才人が支えた
「……だから言ったんだ。研究室で徹夜とは訳が違うってのに」
「……るさい、眠い、寝る」
「風呂入るぞ。汚れまくってんだからな。顔に吹き出物出来るぞ」
「……入れて」
「仕事増やすな。我が侭姫」
才人はそう言って、おぶってエレオノールと一緒に風呂場に向かった

*  *  *
その後配管作業も順調に行われ、それと同時に石炭と風石、水メイジを用いた凝集による精製水のタンク投入が着々と行われ、一気に形になって来た
上部構造が殆ど無く、艦橋が右側に寄っていて、150メイルの平甲板があり、どうみても滑走路だ
更に甲板中央やや前側に蒸気モーター式エレベーターが付いている
調整が終わった主翼にも板が被され、プロペラのみが露出している
第二週が終わる頃、艦としての形は全て整ったのである
この期間、ゼロ機関のメンバーは休み無しで働き、特に才人が三徹とかした為に無理矢理寝かせられたりするハプニングがあったが、そのお陰で整ったのである
虚無の曜日だが、ゼロ機関で働く職人全てと才人達の協力関係者とトリステイン王政府の内閣全員、更に魔法学院の関係者
作戦行動中だが、アルビオンの公転周期で離れた為に、集まってる軍関係者
更にグラモンやモンモランシ伯、それにツェルプストー伯も艦に乗っている
アンリエッタが代表して、操舵手兼艦長を務める才人に命じた
「進空式を行います。ゼロ級0番艦、オストラント、始動」
「了解。機関室、火を入れろ」
才人が伝声管で指令し、コルベールが返答した
〈ウィ。始動開始〉
コルベールがボイラーに火を入れ吸気と排気を弄り始め、一気に石炭に火が着き、蒸気管が蒸気が走り、段々圧力が上がって行く
キンキンキンキン
ウォーターハンマーの音が鳴り響き、更に圧力が上がると、主機が回り出し、主機の回転を複数張ったチェーンが左右のプロペラに動力を提供し、プロペラが一斉に周り始めた
「各員蒸気漏れの点検急げ」
〈ウィ〉
各所に散らばった結管を担当したメイジ達が、蒸気配管システムを確認する為に艦内を組まなく点検する為に歩く
〈第23船室、漏れ確認〉
〈蒸気エレベーター配管漏れ〉
「他は無いか?」
〈有りません。全員担当区域点検終了〉
「機関室、フルブロー」
〈了解、フルブロー開始〉
プシューという音が鳴り響く
〈フルブロー完了。スロットル全閉。強制消火完了。圧力ゼロ〉
「気をつけて修復しろ」
〈ウィ、修復作業開始します〉
周りがざわつくが才人は無視だ
「大丈夫ですか?才人殿」
「あぁ、大丈夫大丈夫。俺の酷い教育に付いて来た連中だからね」才人は、そう言ってアンリエッタに安請け合いする
そして、才人は正しかった
〈23室修復完了〉
〈エレベーター修復完了だ。チクショウ、減給無しで頼むぜ、おい〉
「また漏れたら減給だ。機関室、加熱点火手順開始」
〈了解。加熱点火開始〉
また蒸気が走る音が聞こえ、アイドリングでプロペラが回りだす
「漏れ再チェック」
〈オーケーだ〉
〈こちらも無し〉
「そのまま点検員待機。機関室。常用圧力50迄上昇。行くぞ」
〈了解。ボイラースロットル全開燃焼開始〉
「風石室。風石稼働開始」
〈やっとね。蒸気式風石稼働開始します。初めてだから揺れるかもよ?〉
「了解。総員揺れに注意しろ」
そう言って、才人が舵輪を握ってるとガクンと揺れてドックから浮き出した
〈機関圧力15…20…25……30……40……50まだ上がる。才人君、主機回転数1500回転達成だ〉
「上空だと空気が薄くなる。常に空燃比に留意」
〈了解〉
既にプロペラは派手な音を立てて回っているが、垂直上昇するのみだ
「なんだおい、失敗か?才人」
「黙って見てろジェラール」
「高度上昇中…50…75100」
「良しプロペラピッチ最大、全員加速Gに注意、行くぞ」
そう言って才人が両手で左右のプロペラピッチハンドルを回して最大角に持っていき、加速を始めた
甲板に乗ってた連中は、どんどん速くなる艦速に驚きを隠せない
「「「オォ〜〜〜〜」」」
どよめきが起きるが、才人が警告した
「総員ロアデッキ(下層甲板)に退避しろ。機動を開始する」
「艦長の指示だ。急げ!」
ばたばたと艦橋にいる人間以外が降りていき、才人が動かし始めた
方向舵を一気に回しながら先尾翼舵も回し、主翼舵も回す
一気にアップトリムにしながら回転しつつ上昇を始めた
「うわぁ!」
「おっと、舵強すぎた」
カララララ
舵輪を回して緩やかになる様にしトリムを1°程度に直す
「良し、舵直進。艦速60リーグ。高度500。風石室、稼働を落とせ」
〈了解。稼働落とします〉
艦速が上昇しながら下降し、100リーグが超えた辺りからまた上昇を始めた
〈現在稼働1/4。まだ落とす?〉
「艦速上がる迄待った。110……130……150……良し落とせ」
〈了解。風石稼働0〉
一気に周りがざわめく
「嘘だろ?」
「空荷でもちょっとキツイか」
そう言って主翼舵を回して上昇にする
「駄目だな。高度下がる。機関室、オーバーロード開始。思い切り燃やせ」
〈了解、石炭過重焚き開始だ……圧力上昇60…70…80。回転数2000に上昇〉
下がってた高度が艦速の上昇と共にまた上昇する
「良し、高度500艦速200リーグで空荷で安定。進空成功だ」
才人の発言に、見てたアンリエッタが驚きつつ、声を上げた
「皆さん。ゼロ機関に協力した皆さん一人一人の力が今、結実しました。私達の判断は正しかったのです!」
「今、トリステインに新しい風が吹きました。その名はゼロ級。私達は更なる発展の鍵が産まれたこの場に居合わせた事を感謝し、この御業を提供して下さった、ゼロ機関所長サイト=ヒラガの栄誉を此処に称えます!トリステイン万歳!」
「「「トリステイン万歳!女王アンリエッタ万歳!ゼロ機関万歳!サイト=ヒラガ万歳!」」」
才人は歓呼の声を無視して、帰投の為に指示を下し始めた
「帰投するぞ。風石稼働、機関圧力下げ。ジェラール。航法はそっちが上手いだろ?手伝え」
「こんな速い艦の航法なんざやった事ねぇよ」
そうぶつくさ言いながら、ジェラールは嬉々として手伝い始めた
やっぱり新しい玩具は良いと、目がキラキラしている
そしてルイズは、自分達が全く出来ない事を成し遂げた異世界出身の使い魔が、如何に恐ろしい存在かを認識したのである

*  *  *
その日、オストラントの艦上では盛大な宴会が開かれた
皆が努力の結実を祝い、更なる空軍力や輸送力を手に入れた事に、喜ばない者は皆無だった
当然、主役は才人率いるゼロ機関であり、才人は全てのグループに顔を出しては乾杯の音頭のままに飲んだ
職人達にはもみくちゃにされ、軍人達には最敬礼され、マザリーニにはキスされ、協力貴族達には既に次のステージ、つまりは婿養子の縁談の話が飛び交っている
「さて、ヒラガ殿。ここまでの実績を出した者が、平民のままと言うのは格好つかないと思わんかね?」
モンモランシ伯がモンモランシーを傍に置いてニコニコしている
モンモランシーの顔は、お父様頑張れと期待の表情だ
「それについては大いに賛成だな」
グラモン伯ジョルジュも頷いている
「私はゲルマニア貴族だが、やはり貴卿が貴族で無いのはどうにも納得出来ぬ」
ツェルプストー伯がキュルケを傍に置いて、やはりニヤニヤしている
「私も賛成だ」
アニエス=シュヴァリエ=ド=ミランも何故か入って来た
「父とは意向が違うけど、次期ヴァリエール公としても同意しましょう」
エレオノールが済ましてそう言って、皆で才人を取り囲む
才人は逃げ道が無い事に、冷や汗をかいた
「いや、別に貴族で無くたって」
「あぁ駄目だ駄目だ、何を言っておる。もう気付いておるのだろう?貴卿は平民の中では生きられぬ。周りが貴卿を平民として扱うには実績が有りすぎ、貴族で無い立場では要らぬ災いを招く結果にしかならん」
モンモランシ伯がそう言って説得する
「同感だ。あんなアサシン騒動なぞ二度とごめんだ。それもこれもタルブ戦の後に、卿が貴族になっていればもう少しマシであった事は疑い無いぞ?」
ジョルジュも本気で怒っている
「全くだ。卿ら、ちょっとこやつを貴族にする為に出資せぬか?ゲルマニアで男爵買ってくれる」
「名案だ。ヒラガ殿のお陰でモンモランシはどんどん景気が上回っている。出資に異論は無い」
「グラモンもだ。才人に幾ら儲けさせて貰ったか解らん。正直、全員軍門に下っても釣りが来る」
「で、肝心な所はだな……」
ツェルプストー伯がそう言って、皆が呼吸を合わせる
「「「とっとと貴族になって、お前にベタ惚れした娘の責任を取れ!」」」
「…あはははは」
才人は笑うしかない
「悪いが次期モンモランシは卿でないと嫌と娘が駄々をごねての」
「次期ツェルプストー伯は卿しかおらぬのだが」
「才人が妹と一緒になるならこの地位なんざ譲るぞ?お前の方が余程上手くやる」
そこで、エレオノールが凛として乱入した
「残念ですがお三方。次期ヴァリエール公はサイト=ヒラガが継ぐ事になってますので」「「「…ほぅ」」」
全員の眼光が鋭くなる
「先ずは現公爵と意見の一致から始めるべきですな、ヴァリエール嬢」
モンモランシ伯がそう言って即座に切り捨てる
「ヴァリエールのモノを取るのはツェルプストーの伝統であるからして、実にめでたい話ですな」
「貴族で失敗したから平民に転んだのか。全くヴァリエールらしい」
エレオノールがワナワナするのを、才人がハラハラしながらみている
「あら、楽しそうですね。混ぜて下さりません?」
「これは陛下」
そう言って、アンリエッタの登場を受け入れる
「話は聞こえて来ました。幾つか解決策がございますが、お聞きになられます?」
「これは是非とも」
モンモランシ伯がそう言って、アンリエッタの意見を拝聴する様に、場を促した
「先ずはシュヴァリエになって頂き、何処かの婿養子になる。皆様が主張してるものですね」
「えぇ」
皆がうんうん頷いている
「次は彼がヒラガになって貰う道ですね。皆様が彼の傘下に入る事が吝かで無いなら、各領をヒラガの名に統合し、第二のヴァリエールとして権勢を奮って貰う道です」
「実は国内的にはヴァリエールの牽制勢力になりえる為に、情勢的には安定するでしょう。各領主の美姫は、彼への忠誠の証になりますので、恋がそのまま成就する私達乙女にとって最高の道ですわ」
「おぉ!陛下は慧眼でいらっしゃる」
モンモランシ伯がそう言って頷く
「かかる問題は洒落になりませんが」
「確かに」
困った顔をするアンリエッタに、ツェルプストー伯が頷く
彼を手放す選択は無い。また新しい何かを開発してるとツェルプストー伯にキュルケから囁かれてるのだ
彼は利益と権勢をもたらす金の卵だ
しかも殆どの連中が、金を黄鉄鉱と勘違いしている
今居る連中で山分けすれば、取り分は巨大だ
今の内に囲うべしと視線で各領主が合図を交わす
更に娘が幸せになって、自分が楽になるおまけ付きだ
孫と一緒に楽隠居して遊ぶ未来は実に良い
「続いて第三の道です」
まだ有るのかと、全員が注目した
「トリステインの国父になって貰う事ですわ」
そう言って、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めた
その言葉に全員絶句し、そしてグラモン伯が笑い出した
「クックックッ。平民から出発してから一国の主か!立身出世としては最高のケースだな!陛下も中々に面白い事を考えて下さる!良いでしょう、我がグラモンは陛下の忠誠には誰より篤いのが自負。第二を踏み台として第三を取ってくれるなら、何も言いますまい」
その言葉に全員気付いた
そうだ、公爵か大公になってしまえば、後は女王との婚姻等何の問題も無い
「中々面白い事をお考えになさる……あれ?彼は?」
ツェルプストー伯がそう言って見回すと居なかった
「あれ?いつの間に?」
アンリエッタも、いつの間にか消えた才人の存在をキョロキョロ探している
「陛下に注目が集まった時に逃げましたよ、アイツ」
アニエスがそう報告して、皆が笑い出した
「アッハッハッハ!上手く逃げるな!」
「何と捕まえておくのが難しい。娘がやきもきする訳だ」
全員笑いの発作に耐えられず、笑って宮廷政治の話は終える事にした
たられば話だが、実に面白い話だった
やはり、こういう話題の方が良い
誰かを貶める為の会合には、皆がうんざりしてたのだ

*  *  *
才人はその頃、機関室に移動していた
「先生、見張りご苦労様」
「やはり来たかね、才人君」
機関室の監視所で、コルベールは蒸気バイパスで暖房用蒸気の監視を行なっていた
スロットルを締めて、とろ火燃焼で1キロ前後の低圧供給である
「ま、俺はこういう所の方が落ち着く」
そう言って、ワインの瓶を取り出した
「頂こうか」
「ちょっと待って下さい。二人っきりなんてずるいですよ」
そう言って入って来たのはシエスタだった。エレオノールも連れて来ている
そう、ゼロ機関の中核4人が勢揃いだ
「絶対にここだと思ったわ。私達で乾杯しなきゃ駄目じゃない」
才人とコルベールは入って来た二人に対し、笑って頷いた
「おっと、失敬失敬。そうだな、我々の成果だ。才人君、音頭を取ってくれ」
「あぁ、じゃあ皆グラス持って」
シエスタが持って来たグラスにワインを注いで、皆で掲げる
「皆の努力の結実に…乾杯」
「「「乾杯」」」
チチチン
彼らの努力は今、実を結んだ
ただそれも、これからの始まりに過ぎない程度である事を、皆が理解していたのだ

*  *  *
才人は乾杯した後は、艦長室に歩いていた
「アンタは働き過ぎ。監視は私達でやるから寝なさい」
と、全員に追い出されたのだ
事実である為に、才人は苦笑して頷いた
才人が艦長室の扉を開くと、魔法ランプの灯かりが優しく部屋を照らして居て、桃髪の少女が独り待っていた
火事の可能性を考えて、全て魔法ランプが導入されている

「おめでとう、サイト」
「ルイズか」
ルイズは他の貴族と同様、ドレスを纏っていた
実に小さい背丈で丸い身体は、保護欲と情欲をそそる
才人は酔っているのも手伝って、武装を解いてベッド脇に立て掛け、ハンガーにジャケットを通して吊るし、ルイズが座ってるソファーにちょっと荒々しく座った
それでも、才人の腰には無骨な銃や弾薬が吊るされており、ルイズに当たってビクッと反応させる
「ズボン脱がねぇと外すの面倒い」
「ううん、大丈夫。サイトは何時狙われるか解らないから」
そのままルイズは暫く黙って、才人から話かけるのを待ってたが、才人は備え付けの水を飲むだけで何も言わない
結局、ルイズはポツポツと話し始めた
「あたしさ……サイトがやってる事、何にも解らなかった」
「…あぁ」
「何で五月蝿いのか、何で職人達と喧嘩迄して従わせて、姉さまやコルベール先生にまできつく当たるのか、何にも解ってなかった」
「あぁ」
「でも、サイトはシエスタを助けてくれた。あんなに苦しんで、自殺迄しちゃったシエスタの心にまた灯かりを点けて、更にお仕事迄世話しちゃった」
「……あぁ」
「そんな厳しいサイトが何を作ってたか、何で姫様直属で、誰にも文句を挟めない様に姫様がしたか、やっと解った」
「あぁ」
「すんごい速度出せる空船だったんだね。こんなの、サイト以外作れないよ」
「そうか……そうだな」
「あたし、サイトの主人に相応しくないよ」
そう言って、ぽろぽろと涙を流し始めるルイズ
「俺は、俺の仕事をしただけだ。ルイズもそうだろ?」
ルイズは首を振った
「違うもん。私の大使としての仕事、全部失敗だもん」
「何かあったのか?」
「ヴァリエールでは決裂させて、ゲルマニアでは内政干渉を理由にした同盟解消を盾に、せっかく鹵獲して補修したレキシントン、ゲルマニアに奪われた」
「……そうか」
「鉄鉱石輸入確保より損失が大きいって、姫様に言われた。損失取り戻すのに、一年は軽くかかるって」
「……」
「何で、サイトがやると上手く行くの?あたしの貴族の誇りじゃ、何にも出来ない」
ルイズの告白に、才人はぶちまけた
「上手くなんか行ってない」
「……え?」
「ルイズ、人間は必ず失敗する。失敗自体は悪くない。そこから何を掴むかが重要なんだ。完璧を求めるな。既にその時点で間違いだ」
「うん」
「俺はな、自分の思う通りにやろうとして、貴族を蹴った。その結果、何が起きた?」
「あっ……」
「そうだ。要らぬ嫉妬で、妨害、暗殺、襲撃の連鎖だ。おまけにシエスタの家族迄巻き込んじまった」
「…」
ルイズは黙ってしまう
「貴族社会の本当の恐ろしさは身に染みた。シエスタを救ったんじゃない。俺は、俺の罪をあがなわなきゃならなかった」
「……サイト」
だが、才人の酒につられた独白は続く
「俺はもう、ハルケギニアじゃ平民として混じって暮らすには目立ち過ぎた。下野した途端、今度はトリステインそのものに狙われる。なんせ実績付きだ。アルビオン、ガリア、ゲルマニアはおろか、ロマリアでも歓迎して、保護を条件に同じ要求すんぜ?」
「……」
「笑っちまうだろ?ルイズ。俺は、俺自身で、平民でいられなくしたんだぜ?次に戦争で手柄挙げちまったとしたら、もう断れねえ」
「どうなるの?」
「断っても、俺を神輿に担ぎ上げる連中が大量に出る。そしたら、レコンキスタ再びだ」
ルイズは、エレオノールと同じ未来を見てた才人に息を飲んだ
「俺が普通の人間に戻れる所は死ぬしか無い。だが、まだやり残しがある」
「俺は最低だ。ハルケギニアに干渉し過ぎた。もう、無かった時代には戻れねぇ。人間は、便利な道具を手に入れたら手放す事はしない。刃物の無い世界なんざに、絶対に戻れない」
「……サイト」
「ルイズ、俺はこれから大量に人を殺すぞ?そう、虐殺だ。見てる人間が吐き気を催すレベルの虐殺だ」
「…」
「俺は……そこまでして帰りたいのか?なぁルイズ、俺はさ、俺一人の都合で、何万人も殺して良いのか?それを上回る家族を悲嘆にくれさせて良いのか?どんだけ俺は、不幸を撒き散らせば帰れるんだ?」
「…」ルイズには答えられない
「幾ら考えても、答えなんざ出ねぇ。ほんの少しの間、俺に情を寄せてくれてる彼女達の仕草が、それを忘れさせてくれるんだ」
「…サイト」
「……こんな事言うの、お前だけだ」
どきんと心臓が跳ねた
ルイズは、サイトに何にも出来ないと思っていた
そんな事……無かった
「マイロード。俺の可愛いルイズ。お前は汚れるな。お前の仕草に、どれだけ救われたか……」
あ、気付いた。気付いてしまった
彼は、私の事が大事過ぎるんだ
泣きたい、嬉しすぎる
同じ位、寂しすぎる
そんな才人にルイズは正面から乗っかった
「あたしは……サイトに汚されたい。サイトだけに汚されたい。ねぇ、我が使い魔。破壊と創造の申し子。貴方でなくて、誰があたしを汚して良いの?答えなさい。あたしを誰かが汚そうとしたらどうする?」
「殺す。惨たらしく、命乞いをする様を笑いながらみじん切りにして殺してやる」
「じゃああたし、ずっと結婚出来ないじゃない。責任取りなさい、独占欲の権化」
そう言って、ルイズは才人に口付けし、才人はルイズを抱えてベッドに運んだ
ルイズのドレスを脱がし、自身も脱いで、ルイズはドキドキしながら才人に手を差し出して迎え入れ、才人がルイズに覆い被さり、ルイズに才人の逞しい身体の重みがズシッとかかる
「う、重い。サイト…優しく…」
「ぐぅ」
「……えっ?」
そうだった、彼はたっぷり飲んでいた
しかも、仕事も二徹三徹当たり前だったとシエスタが言ってた
つまり、完全な必然
「また……また……?なんでこう……ううぅ、サイトのバカ!始祖ブリミルのバカ!あたしのバカ〜〜〜!」
そのまま才人の重みで全く動けず、酒臭い才人にこの際だと抱き締めた
彼の体温と蒸気暖房のお陰で、冷える夜も寒くない
そして自分の傍だから、彼は安心して緊張の糸が切れたんだと理解し、まぁいっかなと思い直した
「でも、ちょっとすりすりしちゃうもんね」
好きにして良いと思う

*  *  *
才人が微睡みの中で感じたのは、非常に小柄な胸の無い少女が、朝立のモノにクチュクチュと擦り付けてる感覚で、その感覚に併せて下敷きにした女のコがそれでも逃げなかった事実だ
微睡んだまま、彼女に合わせる様に腰を動かしつつ、上半身にも力を入れて、顔を寝たまま手繰り寄せて無理矢理唇を重ね、酒臭い身体で口腔を味わうと、彼女の小さくて可愛らしい舌が絡んできた
そのまま腰を彼女に良く当たる様に動かすと、彼女が痙攣し、自分も彼女の腹に射精する
彼女の肌触りは良くて、才人はそれでも気持良かった
そこで意識が覚醒し、キスしてる相手を見るとルイズであり
ルイズの目は虚ろに自分を見ている
「あ……ごめんルイズ。俺寝惚け」
パッと離れると、ルイズはとろんとした眼のまま、才人に言い放った
「サイト、おはよ。今までで最高の目覚めの挨拶よ。続きしよ?」
そう言って、才人に誰よりも愛らしい入口を脚を畳んでクイッて見せる
それだけで射精して萎えた才人が勃ち上がった
「そっか、お尻好きなんだっけ?」
クルッて回って小さくて丸いお尻を持ち上げて見せる
無邪気な仕草に猛烈なエロスを感じ
「ほら、発情犬は交尾しないと駄目でしょ?人様に迷惑かけられないから、あたしで我慢するの。早くおいで」
才人が堪らずに近寄り、尻に手を当ててルイズがぴくんとする
『やっとだ。初めてをサイトに……早く来て』
思わず目を瞑ってその時を待つと、別の手がわさりとルイズを抱えて離した
「え?やだ誰?シエスタ!?」
自分を離したのがシエスタで、ルイズが振り返ると、エレオノールが才人に割って入ってて、ルイズを本気で睨んでいる
そう、取られてたまるかと決意してる嫉妬深いルイズ自身の目だ
「残念ね、もう就業時間なの。ルイズは学院に戻りなさい」
「姉さま!」
「ミス、本当に時間です。才人さんは飲み過ぎて時間に起きて来なかったので、起こしに来たんです」
シエスタが申し訳なさそうに、尚且つちょっとタイミングの悪いルイズを口元で笑っている
「私と使い魔の時間……!」
「勿論尊重してますよ、ミス。ですが仕事中はヴァリエール公とゼロ機関は敵対です。ご自身の立場に沿った行動を願います」
本当に泣きそうになりながら、二人を睨む
そう、意思の強さが更に表に出た、ヴァリエールに相応しい目だ
「…良いわ」
ルイズは脱がされたドレスをまた身に付けて歩いて去って行く時、エレオノールと差し向かいの時に、言い放った
「私から本気で取り上げる積もりね?エレオノール=ド=ラ=ヴァリエール」
「だから何だと言うの?ルイズ=ド=ラ=ヴァリエール」
「貴女は私の敵よ」
「やってみなさい」
そして歩いて去って行き、扉を閉める際に言い放った
「ヴァリエールとして受けて立つわ。私の使い魔は私のものよ」
パタン
才人は全裸のまま、溜め息を付くしか無かった
「才人、したいなら私でもメイドでも使いなさいな」
「止めてくれ、本気で萎えた」
才人はそう言って身支度を整えて歩いて行く
「悪いのは全部俺だけどさ、あんな二人の姿は見たく無かったわ」
パタン
才人が去った瞬間、エレオノールは一気に涙を溜めて言い放った
「そんな事位解ってるわよ!あんたは悪くない!」
「ミス」
シエスタがすすり泣き始めたエレオノールの肩を抱き、泣き止む迄そのままでいた

*  *  *

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