〈艦長、起きて下さい。艦長〉
伝声管の声で才人がぱちりと目を醒まし、ルイズの素またで飛び散った精液がルイズの手とシーツを汚しているのに苦笑しつつ、伝声管に答える
「おはよう。訓練開始迄時間有るだろ?どうした?」
〈朝の定期点検で、し尿タンクの点検者が、そろそろ満タンだと報告入りました〉
「やっとか。一般廃水の方は?」
〈まだ大丈夫だそうです〉
「了解した、副艦長にも伝えて、トイレを点検中使用禁止にしろ。お前達に面白いもの見せてやる。幹部と点検員とゼロ機関は8番トイレに集合だ」
〈ウィ〉
そう言って、才人はルイズに声をかけて、揺り起こした
「ルイズ、ルイズ」
「……むに」
「ルイズ、起きてルイズ」
「…サイトで星になるのぉ」
「…駄目だこりゃ」
才人はそう言って、身体を起こし、手早く準備を整えるとトイレに立て札を立てて部屋を出た

*  *  *
才人が8番デッキに降りると、主だった者達が集合しており、起き抜けの連中が何事と部屋から顔を出して覗いている
「わり、俺が一番最後か」
「お待ちしておりました。では、タンクを開きます。作業カカレ」
「ウィ」
そう言って作業員達がトイレの床を外すと、タンクが見えたので更にタンクの蓋を外す
そして中からは一切匂いが出て来なかった
「何故匂いが……?」皆が不思議がる中、才人とコルベールがニヤニヤしている
「実験成功だな、才人君」
「いや、全く。お前達、喜べ。中に純硝石と燐が大量に転がっているぞ」
その言葉に、皆が才人を睨んだ
「は?確かに肥料から硝石は取るが。そんな馬鹿な。こんなに早く?」
「論より証拠。回収用に手動サイフォンポンプ作って掃除用具に入れてるでしょ?取り出して排出してみ?」
「はい」
そう言って作業員がやり始め、ポンプをシュコシュコ作動させると、綺麗になった水と一緒に硝石と燐がバケツに排出されて来て皆が驚いた
「……!」
余りの驚きに全員目を見張る
「ま、ゼロ機関にかかればこんなもんだ。お前達が全員硝石生産者になる。飯食って小便して糞すりゃ、それが硝石になるのさ」
「才人君の知識と、我々の魔法の複合効果ですな。正にゼロ機関が提唱する、魔法科学の成果です。タンクの下に砂利が見えるでしょう?」
コルベールの説明に皆が頷く 

「あれは川から取った川砂利で、硝石の元になる物質を作る、目に見えない微生物が付着しているそうです」
「更に下には簀が敷かれていて、そこからほら、そこの小さいポンプで水が循環して、微生物達に硝石の元を作って貰います」
全員がその説明に熱心に聞き入れる
「それで?」
「後はこれ見て下さい、水に浮いてるのは草木灰ですね。これにも硝石の元が入ってます」
全員が熱心に頷いている
「後は浄化と作用を促す錬金を掛けておけばほらこの通り。草木灰から反応するので、砂利の上に硝石とかは沈殿します。水はちょっと微生物が多すぎなので飲用には適しませんが、また作業タンクに戻せば作業に使える様になり、トイレ排水や甲板清掃等、作業用水の確保と硝石の回収、肥料として燐鉱石の回収……おっと、硫黄も混じってますぞ?」
「おおぉ!?」
コルベールと幹部達が驚き、才人も苦笑する
「そいや、食い物に硫黄も混じってるもんな」「…てな事になる訳ですな」
才人の言にコルベールが締め、全員がうんうん頷いている
「他にコツは?」
「水温の管理と新鮮な空気の流入だ。タンクは換気システムにきちんと繋がっていて、更に蒸気管から熱の提供を受けている。25℃位で温度管理をきちんとやれと伝えたろ?記録どうだ?」
「はい。20℃から30℃の間で推移させてます」
「じゃあ、命令だ。硝石の回収作業と艦橋作業用水タンクに水の移設作業、カカレ」
「ウィ!作業入ります!」
バババ
全員が一斉に敬礼し作業に入ろうとした所、配管からチョロチョロと流れて来て、更にザバッと洗浄水が落ちてきて、作業者全員に飛沫が跳ねた
「………あ〜、やった奴、吊るして良いぞ。探せ」
「………探せ〜〜〜!!!」
才人の指示に、怒り浸透の軍人達が一気に駆け上がり、トイレ付近に居た連中が取っ捕まり、更に艦長室や副艦長室迄侵入し、真犯人が捕まった
艦長室で、丁度トイレから出てきたルイズである
身繕いしてたので見られはしなかったが、血相を変えた軍人達に念力で拘束され、レビテーションで引き摺り出されたのである

*  *  *
「……ねぇ、サイト」
「…何だ?」
「……ご主人様に、こんな事しても良いと思ってるの?」 

「強風吹き荒ぶ寒いアッパーデッキがご所望と申しましたか?マイロード」
「…4番デッキで良いです」
そう、ルイズはきちんとぶらんぶらんと、操りを駆使されて縄でぐるぐる巻きにされて吊るされている
艦長命令は絶対なのだ
作業の邪魔したんだから仕方ないとはいえ、こんなの女のコの扱いではない
「女のコだもん!貴族だもん!外でなんか出来ないもん!」
ルイズの絶叫は、まぁ致し方ないだろう
「だから?貴族なら作業員に小便引っ掛けて良いんだな?ルイズの為に働いてんだぞ?」
「使い魔なんだから、ご主人様の言う事聞きなさぁい!」
その言葉で、才人が伝声管に寄ると指示を下した
「ちょっと、反省が足らねぇみたいだわ。急機動訓練開始。ぶん回せ」
〈ウィ。総員に次ぐ。急機動開始する。掴まれ〉
その言葉に、ルイズはさぁと青ざめた
「サイト、冗談よね?」
「何が?」
才人はそう言って、ガクンと船が急機動を開始した
「きゃあぁぁぁぁぁ!?」
ぶらんぶらん揺られたルイズに、丸まって休んでた竜達が興味を示してふんふん突ついて、更にぶんと逆方向に振られる
「いいやぁぁぁぁぁ!?」
「反省の言葉はまだかな〜〜?」
「やめてぇぇぇ〜〜!!」
更にぶん回されて、ルイズ式振り子になってしまっている
ぐぐんと機動転換の度に振られるルイズ
「サイトのバカァァァァ!」
才人はその様を見て、更に指示を下した
「駄目だな。もうちょい激しくいってくれ」〈ウィ〉
「きゃあぁぁぁぁぁ」
更に激しく機動され、とうとうルイズは反省の弁を洩らした
「……も、しません。だから許して下さい」
「俺じゃ無くて、作業員に謝れ。俺は艦長として、全員に責任持たなきゃならん」
才人はそう言って突き放す
「……はい。もうしません。艦内の指示はきちんと守ります。だから許して下さい」
見てた作業員達と竜騎士達にぷらんぷらんしながらぺこりと頭を下げて、許しを乞うルイズ
「許すか?」
才人が聞くと、苦笑して作業員達が頷いた
まさか、女相手でも容赦しないとは思わなかったのだ
最も、男ならアッパーデッキに吊るされているだろう事は、想像に難くない
「訓練止め。通常航行。全員朝飯行くぞ」
〈ウィ。訓練止め。通常航行入ります〉
そして、才人が吊るした縄の固縛を解いてルイズを下ろすと抱き止め、縄を解いた
ぐてぇとしたルイズは、されるがままだ
「酷いよぅ」
「艦内ルールは守れ。皆が楽に生活する為だ」 

「サイトのばかぁ。だったら、作業中の簡易トイレ作ってよぅ」
ルイズの苦情に、才人ははっとした
「解った、作る。だけど、今回はルイズの落ち度だ。良いな」
「…うん」
「強情っぱりが、頑張り過ぎだ。朝飯行くか」
そう言ってルイズを抱っこし、そのまま食堂に向けて歩いて行くと、ジュリオが声を掛けた
「主人にお仕置きする使い魔なんて、初めて見たよ」
「は?俺は、誰だろうと等しいぞ。今ここにいる、100人の命預かってんだ」
「…おっかないねぇ。でも、立派だと思うよ。まるで貴族みたいだ」
「はぁ、冗談だろ?おりゃ艦長の仕事してるだけだぜ?」
才人はそう言って、歩いて行くと、皆が一緒に歩いて行った。朝食である

*  *  *
同じ頃、王宮
「ねぇねぇ、マザリーニ」
「何でしょう?陛下」
朝食の席で、アンリエッタがそわそわしながマザリーニに話し掛けている
「オストラントに行っても宜しくて?」
「政務はどうなさるのです?」
「マザリーニが頑張って下さい。それに、やっと成果をこの目で検分出来るのです。ゼロ機関に支払う査定を行わなければなりません」
マザリーニはその言葉に、暫く黙って頷いた
「確かに、検分は必要ですな。ですが既に軍側から報告が届いております。熟練さえすれば、同クラスの帆船の1/5のコストで運用出来ると。運用人数が同クラスの1/5、風石消耗と移動の相関なら1/5以下になるそうです。新コストで石炭が発生してますが、石炭は有り余ってますからな。問題無いでしょう」
「あの、居住性が相当改善されてましたよね?私、実際に上空で試したいのですが?」
そう言って、そわそわしている
「む、確かに行って試すのが一番ですな。何か色々と装備を受けたらしいので、正直邪魔にならないかと思うのですが?」
「貴方も解ってる筈です、マザリーニ!ネフテスと直接交易の道、更にハルケギニア各地に於ける交易の支配。アルビオンとの密な貿易体制の構築。果ては……」
「ネフテスと上手く結んで、平和的な聖地巡礼」
マザリーニがそう言って言葉を繋ぎ、アンリエッタが頷いた
「そうです!私達が、トリステインが、安全安心な旅と輸送を、全ての方々に提供出来るのです!軍事なんか、その後で良い!!」
アンリエッタの痛切な思いに、マザリーニは頷いた 

「その未来、すぐそこですな。良いでしょう、陛下、存分に御試しくだされ。但し、一つだけ言わせて頂きます」
「はい」
「彼を引き込む事に付いては、私ももう何も言いませぬ。存分におやりなさい。但し、スキャンダルとして、気取られぬ様にする事が第一ですぞ?」
「はい!」
「後は、艦内ルールに従って頂きましょう。新型のからくりなので、艦長の命令は絶対であり、何人も逆らってはならぬそうです」
「了解しました。二つじゃないですか」
そう言ってアンリエッタは笑う
「おっと、そうでしたな。では座乗してる士官達の使い魔に指示致します。訓練の邪魔は極力なさらぬ様。小型の竜籠を使いなされ。恐らく収容して下さるでしょう。向こうの訓練にもなるでしょう」
アンリエッタはにこりと笑って頷いた
「はい、査定にスタッフを三人程連れて行きますが宜しくて?」
「構いません。護衛含めて陛下含めて5名程、って所ですね?」
「はい、では食事が終わり次第準備しますわ。アニエス!」
その声に、外で控えて居たアニエスが入って来た
「はっ」
「オストラントに向かいます。貴女も用意なさい。ゼロ機関の査定という公務です」
「御意」
「マザリーニ、スタッフの選抜は任せます」
「御意」
二人に命令を下したアンリエッタは、ルンルン気分で部屋に戻って行った
「サイト殿と艦長室で二人っきり〜〜。調度品を贅沢にしといて良かったですわ」
……無断で改装したの、やっぱりアンタか

*  *  *
その日の離発着訓練を全員終わらせて収容作業を終わらせたオストラントに、竜籠が飛んで来た
アニエスが、窓から発行信号を発してやり取りしている 

「おっと、信号手の着陸指示に従えか。どこでもって訳には行かないみたいだな」
既に夕刻を過ぎており、夕焼けに染まる空に着艦誘導灯を点灯させたオストラントが空を飛んでいる
「では竜に指示、宜しくお願い致しますわ」
「了解」
アンリエッタがスタッフに指示をすると、スタッフが竜籠の中から手綱を駆使して、くいくいと進路を調節していく
非常に小さい馬車レベルの竜籠だ
牽引竜も一頭で済むが、二頭で安定させている
ランデブーポイントの指示を送って、きちんと回答が来たのが、離発着訓練終了後と指定されたのだ
それにあわせてスタッフを選抜して調査資料用に紙を大量に用意して、スタッフ達が緊張している
「新型艦ですか、ワクワクしますな」
「艦長命令は絶対だそうです。私でも逆らえません。皆さんお気をつけなさい」
「了解です」
そう言って緊張しているスタッフに、アニエスが指示を下した
「そのまま降下。向こうで合わせるそうだ」
「は?何と?」
「良いから従え。文句言ってられる程余裕無いぞ?何せ空中着陸だ」
「り、了解」
オストラントが竜籠に同調しながら竜籠が降りていき、信号手が着陸位置を指示している
「あの艦中央の四角内に着陸しろ」
窓を見て真剣にしてるアニエスに、御者が頷いた
そうして同調した竜籠がふわりと着陸すると、信号手が両旗を下半身で交差して着陸完了を指示し、更に甲板員が降下してくる竜の綱を握って降ろし、直ぐに世話をやりだした
そして牽引索が外され、アンリエッタ達が降りようとしたが、信号手が慌てて扉を押さえた
「待ってくれ、外は寒い。陛下達は4番デッキに降ろすから、そのまま待機だ」
「…何だか知らないが承知した」
アニエスが頷いて待機姿勢を皆に示すと、腰を浮かせた全員がまた座る
信号手が片手を上げて旗を左右に振りながらもう片方で下方にくるくるする
するとガコンとなって、竜籠事下がっていく
キャリキャリキャリ
「昇降機!?」
全員が驚いたのだ
そのまま降りて行くと、ガコンとなって固定される
着いた様だ
竜籠を士官の一人が開いて、アニエスが先に降り、更にスタッフ達が続々と降りて来て、最後にアンリエッタが降りて来た
士官達が敬礼する中、正面に二人居る
輝かしい頭をした中年の貴族と、ハルケギニアの衣装から外れた黒髪の男だ
「ようこそ、オストラントへ。査定は甘くね」 

 才人がそう言ってウィンクすると、アンリエッタは微笑みながら頷いた
「あら、ならたっぷり歓待しなさいな。甘くして差し上げてよ?」
そう言って、皆がその様を笑って歓迎する
「ハッハッハ、一本取られましたな。艦長」
「いや、全く。悪いけど姫様エスコートしてる暇無いや。ルイズ、貴賓室にお連れして」
控えてたルイズが頷いて、彼女らを案内し始めた
「良し、お前ら仕事だ。8番デッキの糞寒い所で竜籠移動させて保管だ。行くぞ」
「ウィ」
「昇降機下げ、やれ」
「ウィ」
操縦士が操作してガコンとまた下がって行く様を見て、アンリエッタは感心している
「凄いからくりですのね」
「サイトが作ったからくりですもん。当然です」
すかさず、スタッフがもう書き始めた
「これは、素晴らしい。魔法無しで、重量運搬自在では有りませんか」
「今は貴賓室に向かいます。彼らの指示に従うのがルールです。良いですね?」
「はっ」
ルイズの案内で、全員貴賓室に向かって行った
一方、才人は率先して動いている
「急げ!竜の収容が待ってる!レビテーションで一気に動かすぞ!」
メイジの一人がその言葉に頷いて竜籠をちょろっと浮かすと、一気に他のメンバーが竜籠を収納するために整理した8番デッキに押し入れる
「エレベーター退きました!」
「良し、メイジと一緒に上げろ。他の連中は固縛開始」
「ウィ」
才人がローブをぶん投げて、皆でフレームにかけ出した
「俺は歓待せにゃならん。悪いが後は頼む」
「了解、では行って、陛下のご機嫌取り頑張って下さい」
「あぁ」
そう言って、カンカンカンと階段を才人は上がって行った

*  *  *
アンリエッタ達は案内された貴賓室で、驚いている
「現在高度はいくつですか?」
「2000メイルだったと思います」
ルイズの説明で竜籠内で寒さに震えてた5人が、暖かい室内に驚いてるのだ
「使って無かったので暖房は閉めてたのですが、陛下がお越しなると知って、作業員が予め暖めておきました」
「この高度で完動ですか。素晴らしい」
天井ファンがゆっくり回って部屋の中の空気が対流する中、アンリエッタはソファーに座って、ほうと溜め息を付いた
「本当に素敵な船ですのね」
アンリエッタの言にアニエス達が頷いた
「全くです。こんなに快適な空の旅等、あり得ない」 

「5000メイルで暖房効きますよ。もう試しました」
全員が驚いてルイズに振り向いた
コンコン
その時にノックの音が響いたのでルイズが扉を開けた
ガチャ
才人が入って来る
「いや、艦長の癖に自分自身で働かないと駄目な性分で、申し訳ない」
「いえ」
アンリエッタの答えに、才人は立ったまま艦長として伝え出した
「査定として艦内を歩き周りたいのは理解出来ますが、現在訓練習熟中の為に、二つ立ち入り禁止区域を設定します」
「はい」
「一つは機関室。残念ながら、貴方方を招いて説明出来る余裕は機関士達には無い」
「解りました」
アンリエッタは頷く
「続いて作戦司令部。一番デッキ中央に位置しますが、軍令部ですので、姫様が立ち入ると迷惑になります。本来只のサロンなので問題無いでしょう」
「解りました」
「後は立ち入る場合は作業員達の案内に従って下さい。絶対に自分達だけで動かない事。姫様や銃士隊隊長は、艦長並びに副艦長への拘束権限を、訓練時以外は許可します」
「はい」
「では査定開始の前に、皆さん食事にしましょう。残念ながら艦内に余裕が無いので、貴賓と言えども同じ食堂です。食事を運ぶ手間は、階層船舶では洒落になりません。メイドも居りませんので、従って下さい」
「解りました」
「尚、夕食後は食堂はバーになってます。バーにも、きちんと査定員は査定するように。司厨達の仕事を無視するのは、艦長として許さん」
必ず顔を出せとの仰せだ
スタッフ達が頷いた
「姫様達で女性三人になったので、別風呂沸かすか、艦長室のを使うか希望をおっしゃって下さい」
アンリエッタは即答した
「水が有限なのでしょう?ならば艦長室で。三人だけですしね」
「了解。では皆さん、司厨達が腕によりを掛けてます。是非とも堪能して下さい」
その言葉に、全員荷物を置いて立ち上がった

*  *  *
才人とコルベール、ルイズが相席し、王政府達と会食を共にする
司厨の一人が給仕を買って出ており
アンリエッタは特に不自由を感じない
「素晴らしい空の旅です。まるで地上にいるみたい」
「設計の都合上、窓側に用意出来なかったんだよなぁ」
そう言って才人がワインを飲んでいる 

「仕方ないでしょう。客船仕様なら、そう言ったモノも考慮に出来まして?」
「勿論。但しあんまりでかくするのも何だから、上部構造を軽く2〜3階足すだけだね」
「充分ですわ。料理も素晴らしいですし」
アンリエッタが素直に褒め、アニエスは無心に食べている
「司厨達を褒めて下さい。やっぱり、やり手ですよ」
そう言って才人が褒めるとコルベールやルイズも頷いた
「ハルケギニア初の艦に、負けてはなりませんからね」
そう言って給仕の司厨が胸を張ると、皆が笑って会食を楽しんだ
全員の食事が終わると、早速アンリエッタが言い出す
「では、休憩を挟んで、各部屋に戻って査定を開始して下さい。私は艦長に対して聴取を開始します」
その言葉にスタッフが頷いたので、才人が指示を下す
「スタッフ全員に案内を一人ずつ付けて上げて。慣れりゃ迷わないけど、器材無理矢理動かして、装置おじゃんにされたら困る」
「ウィ。艦橋に伝えます」
「スタッフさん達、案内が来るまで部屋に待機宜しく。試験兼ねてる装備が多いから従ってくれ」
「了解しました」
素直に頷いて、案内の元に退出していくスタッフ達
「さて我々は、艦長並びに副艦長だな」
アニエスがそう言って、アンリエッタがにこりと頷いた

*  *  *
才人達と共に、副艦長室に入る
アンリエッタは艦長室かと期待したのだが、拍子抜けした
「あの、何故副艦長室なのでしょう?」
「今はルイズがお湯を沸かしてます。それにゼロ機関の機密はルイズに漏らせない。漏らした所で解りゃせんけどね。血生臭い話は、ルイズには出来るだけ聴かせたく無いんだ」
そう言って、才人はルイズを外した理由を説明する
つまり、悩み事とは完全に無縁の、冷徹な話と云うわけだ
アンリエッタは頷いて、周囲にサイレンスを被せた
「これで宜しくて?」
「あぁ、じゃあ、アニエスさん。先ずは軍の補給目録に目を通してくれ」
そう言ってアニエスに渡して、アニエスは目を通し始め、新装備の山に目を見張る
「空飛ぶ蛇君?対空誘導弾並びに無誘導弾?」
「発射口は倉庫から片舷一層4基、一基10発が発射口にセットされ、前、後ろ、横に撃てる。防御攻撃火力としては、射程、火力共に竜騎士を上回る。竜騎士も搭載装備込みでも、近付けない。砲艦は当たらんから、気にしなくていい」
二人が息を飲む 

「既に8番デッキには装填済みだ。4番デッキはとある都合上付けてない。8番は出入りする者は甲板員達にチェックさせてるが、倉庫と思って誰も寄らないから、今の所は大丈夫だろう」
「次に、現在傭兵が搭乗しており、ロマリアの神官が嗅ぎ回ってますな。お陰で機関室は、出入り禁止にせざるを得ない状態です」
アニエスが目を鋭くし
「ロマリアは、もうこんな所に迄。嗅覚は本当に鋭いですね」
アンリエッタはそう言って、溜め息をつく
「で、傭兵は才人君暗殺依頼を請け負っている可能性は常に否定出来ません。ですから、現在それとなく目を配る程度に付けてます。ですがまぁ、ここの肝心な所は才人君自身で対応しなきゃならないですから、才人君は常に武装を解けない、と言った所ですな」
「了解しました。では後は何かございまして?」
その声に、才人は念を押した
「きちんとルール守ってくんないと、例え二人でも吊るすよ?既にルイズは破ったから吊るした」
才人がそう言ってにやりとすると、アンリエッタは笑い出す
「くすくすくすくす。本当におっかない艦長様ですわ。聞きまして、アニエス。この艦内だと、私より偉いんですって」
アニエスが笑って応じる
「凄いな才人。女王陛下を吊るしたら大惨事になるぞ?」
「さあね」
才人は肩を竦めた
「今後の展望はどうなさいますの?」
アンリエッタが聞くと才人が答えた
「ま、補機を主機にした、50メイル級空船の生産メインかな?後は、機関を利用した大型輸送海船。コイツはグラモンとツェルプストー双方が欲しいと言って来てるんで、既に設計した。小型船はモンモランシが河川輸送に使うから欲しいだってさ。帆船じゃ、限界があると悩んでたらしい。鉱石運搬、物資運搬はやっぱり海だ。空はどんなに安くなっても海には勝てねぇ」
二人はふむふむと頷いている
「他には?」 

「空船のメリットはスピード。こいつを上手く使えば、恐らく陸送はメイン輸送から外れる。馬車程度じゃあ、ゼロ級のコストパフォーマンスには勝てねぇ」
「凄いですわね」
アンリエッタが頷いて、アニエスが疑問を投げ掛ける
「それは構わないのだが、そんな事したら輸送に携わる人間が失業するだろう?」
アニエスの問いに、更に才人は答える
「鉄道という新交通手段を造っても良い。多分コイツなら、馬車輸送の人員を全て吸収出来るが、魔獣や幻獣、野盗の襲撃考えると、メリット低いわ。ヒュドラや竜、他の幻獣が強すぎる。鉄道なんざ、中に人という餌を用意しちまう様なもんだ。死者ばかり増えるから、ハルケギニアじゃ鉄道はペケ。鉄道じゃ逃げらんねぇよ」
そう言って、才人は宙をさしてくるくる指を回す
「だから全部、ゼロ級の乗組員にしちまえばいい。輸送に違いはない。だから小型船をメインにすんのさ。細かい所に手が届くだろ?」
「あ、成る程」
アニエスが膝を叩いて頷く
「問題は、軍事的強奪です」
アンリエッタが懸念を表明すると、才人は肩を竦めた
「実はゼロ級は機関、ボイラー共に、一級と二級がある」
その言葉にアンリエッタ達が目を見張る
「オストラントは一級エンジンを搭載してる。熱損失が非常に少ない、魔法カスタマイズが全てに施されたスペシャル仕様だ。簡単に言ってしまうと、本来熱を受けすぎて触れないボイラーに、素手で触っても火傷しない」
才人はそう言って、水を飲み、更に喋る
「商船級は全てカスタマイズ無しか必要最小限の二級船。圧力も事故防止の為に強制ブロー型にする。船舶の大きさに合わせて、上限圧力はこちらで強制だ。その分非常に安上がり」
「それってつまり?」
アンリエッタが聞くと、才人が答えた
「トリステイン軍に卸すのは一級。つまり、性能差が最初からある。仮に敵に回っても砲艦扱いなら、蛇君や対艦弾無しじゃ、被害は出てもちっとも怖くないよ」
そう言って、才人は締めた
「……そこまで、トリステインの為を思ってくれてたのか」
アニエスは思わず唸る 

「出資者に有利になる様にするのは、開発者の義務さ」
才人の言葉に、コルベールも頷いた
「で、次、アニエスさんには既に見せたけど、コイツを見てくれ」
才人がデルフから外してごとりと03式銃と弾を置く
「詳しいのははしょるけど、大体砲弾径8.6サント位で既存12インチを越える大砲を造って、オストラントに搭載する」
「出来るのか?」
「あぁ、試験装備として、既に設計は終わっている。まぁ、コイツは俺の国で有名なティーガー戦車の88mm砲にあやかってんだが、ドレッドノート化で、恐らく小径でありながら、更に破壊力を増やせる。搭載時期はちょっと読めない。何処も目一杯だ」
アンリエッタが息を飲む
「つまり、既存大砲に比べれば、遥かに軽くて強い、風石消耗を減らす戦列艦が出来るのですね?」
「まぁね。ゼロ級の機動と組み合わせれば、竜騎士に対する対空対地砲艦になる。どうだい?」
ごくりと息を飲むアンリエッタ
「更にトドメだ。最終的に竜の羽衣をハルケギニア仕様に設計し直して、量産する」
「……は?」
アンリエッタが思わず固まり、更にアニエスが驚愕に暫く言葉に出来ない
「嘘………だろ?」
「マジ。先ずディーゼルエンジンを製作。そして機銃をコピーか、88mm砲を乗っけて風石を使って飛ぶ。外板はアルミが手に入らないから、鉄で薄くする」
「ま、戦闘機は現時点じゃ完全に妄想だ。更に5年から10年掛かるだろ。海軍艦で鉄鋼艦造る方が、鉄を無駄遣いしても余程手っ取り早い」
才人は、とりあえずの構想を全て話した
「貴方は、何処まで行くつもりなのです?」
「人を殺しまくって、家に帰る事……かな?もう、他国になんざ渡す気無いでしょ?」
才人が聞くとアンリエッタが頷いた
「えぇ」
「一応、ここまではぶちまけた。でも、今度の出兵で死んだら諦めてくれ。俺は、死後迄責任は持てない。コルベール先生は、俺が死んだらどうする?」
才人の問いに、コルベールが答えた 

「才人君が居ないのでは、東方に行く価値が無くなる。せっかく、ミスツェルプストーがオストラント(東方)と名付けてくれても意味は無い。そしたら、船を魔法学院に寄贈して、一介の教師に戻りますかな。才人君でなきゃ、出来ない事が多すぎる。遺産は、ミスヴァリエールを筆頭に、陛下が上手く運用して下さい。既に有用な部分は軍に渡してるので、私が居なくても平気でしょう」
そう言って、コルベールは匙を投げた
もう結果を出したので、夢の続きが見れないなら、躊躇は無いのだろう
アンリエッタは困った様に頷いた
「何から何まで頼ってしまい、本当に申し訳ありません」
「いんや、これだけやっても、駄目な時は駄目だからね。そん時は迷わず、俺の首を切れば良い。そういうのには慣れてる」
才人はそう締めて、終わりを告げた
才人のとことん非情で、戦略と政略を絡めつつ、しかも自身を使い捨てと表する事に、アニエスは悲痛な面持ちを、アンリエッタは政治家の資質を、それぞれ見出だしたのである
アンリエッタがサイレンスを解くと、ルイズがずっとノックしていたらしい
「姫様、お風呂沸きましたよ?機密話済みましたか?」
コンコンコンコン叩いてる
「あら、じゃあ頂きましょう。艦長に拘束権限を行使します。お付き合い下さいな」
「了解です」
そう言って才人が立ち上がり、コルベールに挨拶して才人は部屋を出る事にする
「じゃ、コルベール先生。バーでも行って寛いでて下さい。後は俺がやります」
「承知した。才人君」

*  *  *
コルベールを除いた才人達が艦長室に入ると、ソファーに全員が座り次第、すかさずアンリエッタが宣った
「ルイズ、アニエス。先に入りなさい。それとルイズ、申し訳ありませんが、ゼロ機関所長と国王による機密級会談です。私の部屋で、入浴した後は待機なさい」
「私、姫様の女官ですが?」
「私がきちんと貴女の現在の評価をした上での話です」
つまり、まだ早いから引っ込めと言われてるのだ
「既に私に付加された艦長の拘束権限は発動しました。艦長の指示に従えないの?貴女、吊るされたらしいわね」
そう言ってルイズを切り捨て、ルイズはムッとする
「姫様なら、トイレ我慢出来るんですね?」 

「船の中なら、一時的に貯めるのなんか有るじゃないですか。ほらそこに」
アンリエッタがグラスを指して、ルイズは絶句する
「指示に従うとはそう言う事です。船は地上とは違うのですよ?」
「…はい」
ルイズは神妙にする
この船はあらゆる部分で実験が行われてる実験練習艦なのだ
トイレ一つとっても、ルイズの預かり知らぬ実験をしてるのである
「ルイズ、貴女が思ってる事は私にも解ります。自分の使い魔が他の女性と近付いたら、私でも貴女みたいになるでしょう」
「…はい」
アンリエッタとはお互いに対面にソファーに座ってルイズを諭している
「男女の仲でぎゃあぎゃあ騒ぐのも構いませんが、もう少し余裕を持ったら如何?才人殿の精の匂いがしますよ?貴女関係したの?」
ルイズがビクッとする
「黙秘します」
「なら、その件に付いてはお互い様ですわね」
アンリエッタにそう言われ、ルイズはぷるぷる震える
「さっきから、そっちの話ばかりじゃないですか!」
「だって貴女がそう望んでるのですもの。私はね、早く貴女と手と手を取り合って、私に出来ない事を貴女にして貰って、トリステインに更なる未来をもたらしたいの。この言葉に嘘偽りは有りません。私の杖をかけましょう」
そう言って、アンリエッタは本当にルイズの前に杖を置く
メイジとしては、非情に重い宣言と行動、ルイズにも痛い位に分かる
「……姫様」
「才人殿も私も、まだルイズには血生臭い話は耐えられないと、判断してるだけなのです。私は貴女が羨ましいわ、ルイズ。こんなに素晴らしい使い魔が、貴女を守って下さってるんですもの」
「はい」
良く解るから、素直にルイズは頷いた
「貴女はやらなきゃならないとして、人を大量に殺せて?」
「出来ません。以前失敗しました」
ルイズはそう、素直に報告する
「才人殿はやります。貴女の為に、私の為に、トリステインの為に。ずっとずっと手を汚し続けるのです。貴女はその苦しみに耐えられて?貴女は残された家族の憎悪に耐えられて?」 

「やればやる程、封建貴族に嫌われ、平民達から距離を置かれ、それでも誰にも媚びず、一人血に濡れた両手を、他人の為に杖をずっと振るい続ける事が出来るのですね?我々女では発狂しますよ?」
「……」
ルイズは黙ってしまう
「…答えなさい、ルイズ」
「…ご命令とあらば」
「才人殿は命令せずともやってますよ?貴女、きちんと労っているの?」
そこで、ルイズは哀しくなってしまった
「労いたい!いつも失敗する!いつも邪魔が入る!何であたしがやろうとすると、いつもいつもいつも」
「それがサイト殿の魅力だからです。貴女の父、ヴァリエール公爵が行っている、本物の貴族の所業だからです。何故、貴族の子女が惹かれてしまうか理解しなさい」
そこでルイズは固まった
「お父さまとサイトが一緒?」
「そうよ。だから私は、ヴァリエール公爵とゼロ機関を敵対させない様に貴女を指名したのですよ。おじゃんになりましたが」
はぁと、溜め息を付いたアンリエッタ
「私はね、確かにサイト殿に惹かれています。それに付いては肯定します。ですが、本当に機密級の話も有るのです。貴女、国王が人前で泣いて良いと思う?」
ルイズは、アンリエッタの悲痛な表情を見て理解してしまった
ルイズは何時でも泣ける
でも、姫さまは泣けない
泣ける場所は、自分の使い魔の胸なのだ
「……拘束時間は何時までですか?」
「朝迄、少し、一人の女のコに戻りたいのです」
「明日には戻りますね?」
「えぇ、お借りしても宜しくて?」
「許したく無いけど、我慢します。でも一つだけ」
「あら、何かしら?」
「サイトは私のモノよ。もう姉さま達にも、はっきり言った。例え姉妹でも遠慮しない。私から強奪するというなら、姫さまも命懸けになさるのね」
「ルイズ……」
「全部許して私もその一人になるのが一番楽で皆幸せになれる。そんなの判ってる!でも、嫌なの!あたしのサイトはあたしのなの!ずっと我慢してるんだから、一つ位我が侭通させてよ!うわぁぁぁぁぁぁ!!」
とうとうルイズは泣き出してしまい、才人が肩を抱くと素直に才人の胸に蹲った
「サイト殿。片方ではなく、両方取って下さいな。ハルケギニアでは、両手に花が殿方の在り方ですわよ?きちんと、ルールに沿って下さいまし」
アンリエッタがそう言って、才人はポリポリと頬をかくと、アンリエッタが対面に座ってた才人に近寄り耳に囁いた 

「じゃないと休暇中の酒池肉林、ルイズにばらしますわ」
さぁぁと真っ青になる才人
「……鋭意努力します」
「では、努力していただきましょう」
アンリエッタはうって変わってニコニコとパンパン手を叩いてルイズに宣った
「さ、ルイズ。さっさとお風呂入って消えた消えた。あ、アニエスもね。ルイズの護衛よ。私の護衛はサイト殿がして下さるから、大丈夫ですわ」
「御意。さ、ルイズ、風呂に入って来い」
すんすんして首を振るルイズに、仕方なくアニエスは耳に囁いた
「陛下と艦長。最高機密を握る二人が、二人きりで密談したら、鼠はどう行動する?」
ルイズはハッとして振り返って、アンリエッタを見た
「姫さま……非っ常に悪趣味。最悪です」
「あら、お褒めに預かり光栄ですわ」
アンリエッタは、にっこり笑って優雅に礼をした

*  *  * 


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