才人が目を覚ました時、見た事無い天幕の中で、暫く辺りを見回して呟いた
「確か…補給隊の護衛をしてて…何処だ此処?」
そのまま起き出すと身体が悲鳴を上げ、苦悶にのた打ち回る「ぐあっ!?だだだだだだ」
天幕に入って来た人物が、才人に声掛けて来る
「あ、才人、起きたんだ」「ギーシュ?」
ギーシュの表情は疲労の色が窺えるが、非常に明るい
「才人が補給部隊護衛して来てくれたんでしょ?お蔭で久し振りにパンと蛙肉に有り付けたよ。ずっと、乾パンばっかで辟易してたんだ」
「そいつは頑張った甲斐あったな。此処は?」「サウスゴータの僕の天幕。野戦病院は満員で追い出されたんだ」
「成程ね。ルイズは?」「一緒の天幕だよ。才人より先に目を覚ましてさ、今水汲みに行ってるよ」
「ふうん。で、なんで俺達がギーシュの天幕に?」「それは簡単。才人達が僕らの増援で、連隊長が部隊配置する時に、僕が有無を言わさず引き抜いたから。一応中隊長なんで、部隊内の人事権は持ってるんだ」
「…納得」ギーシュは才人には言ってないが、勲章を授与されたせいで、部隊の中隊長序列が繰り上がり、意見が通り易くなったお陰だ
才人には見えない所で舌を出して、そのまま絞った手拭い片手に才人の毛布を引き剥がし、更にTシャツも脱がして身体を拭き始める。才人は為すがままだ
「ふんふんふん。才人の匂い、久し振り〜」ギーシュの機嫌が良いので、才人は任せている。確かに自分でも汗臭かったので、渡りに舟だ
「汗臭くないか?」「何言ってるの?僕ら全員、泥と汗と血に塗れて来たんだよ?寧ろ清々しいね。混ざり気無しの才人の匂い、もう最高」
せっせと拭きながら、圧し掛かって来て、瞳が潤んでいる。そのまま、何も言わずにギーシュから唇を重ねる
舌が絡む感触を堪能し、名残惜しくギーシュから離れた
「ん…ルイズが来ちゃうからね」久し振りに味わうギーシュの感触に、才人は股間が痛くなったのだが、ギーシュが悪戯っぽく撫でる
「今はだぁめ。出撃するからね」「…あぁ」
そんな感じでギーシュが拭いてると、ルイズがバケツに水を入れて天幕に入って来た
「ギーシュ、持って来たわって、何してるの?」「まだキツイみたいだから、才人の身体を拭いてるんだけど?」
そう言って楽しそうに拭いてる姿は、シエスタの甲斐々々しさにかぶり、動きと相まって女性の様に見えてしまい、ルイズは思わず瞬きをして、ギーシュを見つめ直してしまう『本当に男…?』
「そう。サイトおはよう」「おはよ、ルイズ。俺、どん位寝てた?」
「丸一日らしいわ。あたしもさっき起きたばかり」「そうか」
才人は答えると、服に着替え、伸びをして身体の点検を行い、顔をしかめる
「あだだだ、身体中バッキバキ。薬はっと」「軍医が呆れてたよ。普通こんなにならないって」
ギーシュの言葉にポーションを飲み干して才人が一言「だろうな」
才人がやっと動き出して、三人は朝食の席に向かう事にした

*  *  *
久方振りのまともな補給のお陰で、食堂の天幕はごった返していた
「うっわ、盛況だなぁ」ギーシュの言葉にルイズが聞き返す
「そうなの?」「うん。補給部隊がしょっちゅうやられたせいで、僕ら前線は乾パンと水ばっか。サウスゴータ市民からは、金貨だと何とか買えたんだけど、それも続かないし、最近は自分達の食う分が無くなるから売れないって言われてさ。ほら、僕らの大義名分はレコンキスタからの開放じゃん?市民から食料分捕る訳にも行かなくてね。食堂なんか、食い物無いから開店休業状態で。弾薬もやばくなってたし、あのまま補給来なかったら、僕らは内部から崩壊してたよ」
そう言って、肩を竦めるギーシュ。ルイズは自身の待遇が有り得ない位の高待遇だった事を身を以て知らされ、今迄自分がどんな待遇だったのかを言えず、口をパクパクしてから閉ざしてしまう
「前線は大変だったんだな。こんな事なら、さっさと前線に送れば良かったのに」
才人はそう言うが、ギーシュが首を振る
「そしたらルイズがずっと此処に居るって事になるね。駄目駄目、可愛い女のコが前線に出たらどうなるか、才人だって解らない訳じゃないでしょ?敵は味方にも表れるんだよ?」
「今でも大して変わらんけどな?」才人の言葉に、ギーシュは眉を顰める
「…うん、兄さんから聞いてる」「そうか」
才人はそう言うだけだった。そんなギーシュ達に声を掛けて来た人物が出た
「お、隊長殿お早うございます。いやぁ、お互い久し振りの温かい飯ですな。コイツが有るだけで全然…そちらのミスとミスタは?」「おはよ、ニコラ。今回僕らの隊の援軍になったミスゼロとイーヴァルディさ」
ギーシュが二人をコードネームで紹介し、胡散臭げに二人を見るニコラ
「イーヴァルディなんて、普通名乗りませんぜ。偽名でも、もうチョイまともな名前にするもんですよ」
悪戯っぽく、ギーシュは二人の戦果について、解り易く説明して見せる
「そんな事言って良いのかい?二人のお陰で、僕らはこうして温かい飯を食えるんだよ?」
その言葉に、ニコラはギーシュの傍らに座りながら、礼をして見せる
「そいつは失礼を。いや、正にイーヴァルディ、あんたが大将、エライ!」
あっという間に態度を翻して見せるニコラに、才人は苦笑し、ちっとも話に加われないルイズは、ちょっとブスリとしている
「ミスゼロも褒めてやってよ。彼女が居なきゃ、飯食えなかったんだからさ」
ギーシュがルイズの豚さんぶりに気付いてニコラに促し、ニコラも笑って答えた
「そりゃ勿論。いや、お嬢さんのお陰で美味い飯が食えます。流石我が軍の秘密兵器。もう、あっしみたいなロートルの出番は終わりですなぁ」
ルイズもこう言われたら機嫌を斜めから真っ直ぐに矯正しないと。ルイズは澄まして答えてみせる
「当然よ。あたしと使い魔は、トリステインの最終兵器ですもの。ちゃっちゃと片付けて、トリスタニアに凱旋するのよ」
「そりゃ心強い。頼みますぜ、お二人さん」
ニコラは言いながらスープにパンを浸して、一気にかき込み始めた
ギーシュ達が先に立ち上がり、食堂の天幕から出ようとすると、ギーシュが才人に声を掛けて促した
「才人、行こう。混んで来た」「ああ」
その声に、反応した人物が、一気に立ち上がると才人に向かって小走りに寄り肩をガシリと背後から掴んだのだ
「あれ?ニコラさん?」「ちょっと兄さん、顔貸せや」
そのまま才人はずるずると引きずられて行き、ギーシュが慌てて追いかける
「ルイズは先戻ってて。多分、隊の話だから直ぐに終わるよ」「そう?確かに、準備有るから戻るけど…」
そう言って、ルイズは一足先に、天幕に戻り、隊の話とやらには参加しない事にした
男同士の話に、女が出しゃばると碌な事にならないのを何となく判ったのだ

*  *  *
才人はギーシュの隊のたまり場で隊員達の前に立たされ、全員が才人を敵視している点について、剣呑な雰囲気を出し始めている
「相棒、落ち着け」「俺は落ち着いてるぜ」溜まりかねたデルフが出て来て才人を窘めるが、今の相棒は殲滅戦を決めた時の表情である。はっきり言って、ヤバい
「兄さん。サイトって言ったな?」「ああ、本名は才人だよ」「そうかい…」
ニコラはそう言って、上着を脱いでばっと投げ出し、才人に指を突き付けた
「俺達、ド・ヴィヌイーユ独立銃歩兵大隊第2鉄砲中隊の女神を虜にしてんのはてめぇかぁ!!ここで会ったが6000年目!!てめぇは、この俺がぶっ飛ばぁす!」「やっちまえ、ニコラ!」「儂の孫娘に手を出す不届き者は成敗しろ!」
やんやの歓声にがくんと項垂れてしまう才人。慌てて付いて来たギーシュが、気恥ずかしそうに才人に言ったのだ
「皆にばれちゃってて、何か僕、孫や娘扱いされてるんだ…」「あ…そう…なんだ」
乾いた笑いで返し、才人はやる気満々のニコラを見て、また一つ溜息を吐く
「出撃前に何やってんのよ?」「安心しろ。戦死した戦友の遺言でね。喧嘩分の治療薬はきちんと使わないで取ってある。そのせいで何人か死んだけどな」「マジかよ…」
喧嘩の為に自身の死すら厭わない。馬鹿もここまで来ると、あっぱれと言う他ない
才人が体勢を取らないでいると、ニコラから殴りかかった。やる気の失せた才人は、あっさり喰らい、左顎にしこたま強烈な一撃を食らったのだ。目の中に火花が散り(強烈な打撃は本当に目の中に火花が飛ぶ)、思わずたたらを踏む
ニコラの拳撃にやんやの歓声が沸き、才人に向けてニコラが拳を握っている
「き、効いたぁ」「なっさけねぇぞ、兄さん!そんなんじゃ、とてもじゃねえが、任せらんねえなあ」
「やべ、一発KOのピーンチ」「…デルフは黙ってろ」
唾液の混じった唾をペッと吐き、03式と一緒に格納してるデルフをギーシュに放り投げ、続いてジャケットもギーシュに投げる。受け取ったギーシュは、ずしりとした感触に驚いたのだが、口にしては「やるの?」と言うのみだ
「拳で語るのが常識だっつうのは、散々に味わったからな」
才人がファイティングポーズを取ると、歓声が更に上がり、ニコラがニヤリとする
才人はそのまま少し下がった「逃げんのか!?」声が出た時には、側転の動作を始め、重力を回転力に変換しつつ一回転して、脚が付くと地面を蹴り上げて回転しながら跳躍、身体の中心線を軸にして倒れた状態で右足を振り上げ、踵をニコラに振り下ろした
奇襲に使う大技、胴回し回転蹴り(フライングニールキック)だ。普通はこんなの当たらないが、何せ見た事無い格闘術に反応が遅れたニコラは、避けつつも肩口に被弾し、体重と回転力が乗せられた非常に重い蹴りで、鎖骨がゴキリと折れる音が鳴り響いたのだ
シンと静まり返る中、ニコラが威力に押されて膝を突いてしまう
「ウグッ」
地面に落ちた才人はすかさず立ち上がって、追撃の回し蹴りを膝立ちしているニコラに放とうと踏み込み、二人の間に人が入って来て、伸ばそうとした膝を畳んだまま、勢い余って半回転してしまう
「おっとっとっと」「二人ともここまで。ニコラ、文句有る?」
割って入ったギーシュの前で、立ち上がったニコラは首を振って答えた
「いやぁ、無いですわ。正直、驚きましたわ。ってててててて」
言いながら顔を顰めて、ポーションをポケットから出して飲み、一息吐くニカッと才人に笑いかけたのだ
「いや、追撃喰らってたら死んでましたわ。決して相手を見縊らない態度、気に入りました。改めてニコラです。宜しく」「平賀才人だ。宜しく」
ニコラから出した手を握って、一応和解は成功した様に見えたので、ギーシュはほっとして才人に荷物を渡し、才人は受け取って袖を通し、装備を整える
「何かもう、スンゲー疲れた。帰って寝て良い?」「何言ってるんだよ。今日は才人に突撃役やって貰って、戦線押し上げるんだから駄目に決まってるじゃん」
「…だよね」才人は疲れた表情を見せつつ、頷いた

*  *  *
ギーシュの指示で中隊は前進し、斥候が出て前方確認をしながら進んで行く
既に隊の人数は半分に減っていたのだが、補充は何処の隊も同じ事情であり、諸侯軍に於いても同様だ。たった二人でも人手が増える事は非常に有り難く、しかも相手が最強クラスと来れば是が非でも欲しい
」「ははは、いや全く」
ギーシュの答えに才人は考え、ギーシュの結論と同じに辿り着いた
ギーシュは使える物は何でも欲しかったのだが、まさか才人が増援として来るとは思わず、大隊長が耳が遠いのを上手く利用して、作戦会議で自分の隊に来る様に発言を誘導して見せた
「あ〜やっと、以前より要請してた増援が受理された。今回来るのは二人じゃ」「大隊長殿、たった…二人ですか?」
他の中隊長が聞いてる間に書類に記載された名前を見てすかさず意見を具申する
「大隊長殿、今回の隊の増援は我が隊に配属ですね?」「何じゃ?そんな小さい声じゃ聞こえんぞ!」
「はい、大隊長殿。増援は我が隊に配属と承りましたが、変更有りませんよね?」「そうじゃったか?最近物忘れが酷くてのう」「えぇ、言いましたとも」
そう言って勲章をわざと身に着けた軍服で胸を張り、他の中隊指揮官を軽く見回し、ニコリとする。隣からは小突かれて小声で囁かれる
「おい、面倒を押し付けられるなら構わないんだが、どこも台所厳しいんだ。たった二人でも欲しがるぞ」「後で奢らせて下さい」「…中隊長全員だ」「ウィ」
素早く交渉が成立し、隣の中隊長から保証が入る
「ええ、大隊長殿、言いましたよ。皆も聞いたよな?」大隊長が周りを見回してる間に、素早く飲みのジェスチャーをしながらギーシュを親指で指し、ギーシュが全員分だとくるりと回すと買収が成立し、次々に支援の言葉が入る
「ええ、小官も聞きました」「私もです」「大隊長、さっき言った命令、もう忘れたんですか?」
「む?そうじゃったか、スマンスマン。では、第二鉄砲中隊に配属を命令する。グラモン隊長は増援と共に敵地攻略の尖兵となって、突撃する様に」「命令、承りました」
先鋒として死んで来いと命令された訳だ。たった二人の増援で達成出来る程、簡単な任務では無い
そんなに簡単なら、今足踏みしてる事自体が無いからだ。正に貧乏籤である
他の中隊長からは貧乏籤を自ら引いたギーシュに同情の目を向けたのだが、ギーシュは意に介さなかった
そして今、ギーシュの第二鉄砲中隊は、矢襖に閉じ込められ、一歩も動けない状態に陥っている
「くっそ、参ったな。僕のワルキューレじゃ、着く前に針鼠にされちゃうよ」
そう言って、物陰に隠れながらどうしたもんかと悩むギーシュ。ニコラも矢襖の対応には四苦八苦している模様で、隊を怒鳴りつけている
「もっと障害物に身を隠せ!鉄砲より矢の方が強い。隠れろ!」
弓なりのロングボウの軌道と、真っ直ぐなクロスボウの軌道が、更に対処を困難にさせ、ギーシュはルイズを見たが、ルイズは才人を見る。才人はギーシュに尋ねてみた
「例の水銀ゴーレムはどした?」「もうやったよ。火で蒸発して、水で流されて、風で吹き飛ばされて、土で水槽に閉じ込められたまま土中に埋められた」
「実戦じゃ使えないのか。俺が突破口を開くのが一番か」「そう言う事。頼める?」
「ま、やるしかないか」言いながらグローブを手に嵌める
そこかしこに刺さってる大量の矢に、違う形状の矢が混ざってるのを見つけた才人は、矢を抜こうとダッシュで駆け、矢を持った瞬間にルーンが発動、一気に抜いて対面の建物の陰に隠れ、才人の後ろをトストスと矢が刺さる。才人はしげしげと眺めて、矢の材質に注目していた
「相棒、どうした?」「コイツは、地球の弓矢だ。と、すると…」アルビオン側に、地球製の弓使いが居る事になる
「倒して調達する。弾丸が勿体ねぇが…」才人が唸ってると、ニコラが寄って聞いて来た
「兄さん、突撃するんで?」「ああ。何とか突破口を開く」
「でしたら、盾を用意すれば何とか」「盾……そうか!ギーシュ、ワルキューレを大盾装備で出してくれ」
ギーシュに指示を下すと、ギーシュがすかさずワルキューレを喚び出し、身の丈も有る大盾を装備した状態で待機させた
「30メイル事に一体、計三体で良い?」「充分。ルイズ、精神力は?」
「補給隊の護衛の時に大分消耗しちゃった。フル詠唱無理だよ?」才人の問いにルイズが答え、才人は頷く
彼我の差、僅か100メイル。100メイルを突破するための作戦が決行された
先ず、ワルキューレが盾を構えて一気に前進し、盾に大量の矢が突き刺さる
「何をしている!?ロングボウ部隊、曲射で追い詰めろ。盾の裏に必ず居る筈だ」
三体横並びに盾を構えて走るワルキューレ。盾には大量の矢が突き刺さり、貫通するが、ゴーレムでは怯みを与える原因にはならない。アルビオンから見ると、70メイルで一体が停止、更に40メイルで一体、最後に10メイルで一体止まるが、10メイル距離のワルキューレが、風魔法で吹飛ばされ、更に射掛けられたが、誰も居ない
「何だと?」指揮官が驚いてると、70メイル先の一番遠いゴーレムから男が肩に乗り上げ、指揮官の自分に向けて銃口を定めた
「不味い、迎撃」ダアン!
銃声が起きて指揮官の頭に穴が開き、後ろに向けて倒れて行く
迎撃の弓が飛んだ時には、既に飛び降りて才人は走り出していた。同時にワルキューレ達もギーシュが杖を振るって一気に走らせる
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」
才人が駆け出したと同時にルイズの詠唱が喧騒に包まれる戦場に響き、才人にはルイズの声が届いた
才人の身体に力が乗り、二体目のワルキューレを盾にしながら03式を格納してそのままデルフを掴み、走りながら抜き放ち、陽光に刀身が閃いた
「おらおら、ゼロの使い魔のお通りだ!相棒の邪魔する奴は、相棒の左腕たる俺っちの錆になっちまうぞ!」
デルフの小気味よい啖呵を聞きながら、最後の最後で弓矢が才人に被弾する
才人はデルフを振るって一薙ぎし、残りは風魔法で逸らせて敵戦線にとうとう着き、暴れ始めた
当たるを幸いに全てを叩き斬り、一気にクロスボウ隊を突き崩し、動揺が広がる
デルフを横に薙いだ才人に支援が届いた
ワルキューレが針山状の盾のまま、一気にクロスボウ隊にぶつかって来たのだ
数100Kgのぶちかましに、前に立ってたクロスボウ兵は矢の尾に串刺しにされ、一気に総崩れだ
「オス・スーヌ…」
ルイズは顔を歪ませながら必死に詠唱しているが、我慢出来ずに詠唱を止め、杖を振り下ろしてしまった。同時に意識を失い、前のめりに倒れてしまう
前線で切り結んでた才人は、期待してたエクスプロージョンはボンと小気味良い音を出して一人を宙に浮かせただけで終わる
「駄目だ相棒、嬢ちゃん倒れた。支援はねえ」「そうか」
才人は短く答えただけで、目の前のクロスボウ兵を斬り捨てる。そのまま、雄叫びを上げた
「うおおおおおおおっ!」自らを奮い立たせる雄叫び。内心はデルフには解ってしまった
(嬢ちゃんの所に今直ぐ戻りたいだろうに)内心を反映してか、ルーンが強く輝いていく
「相棒。力を出すのは良いが、周りを良く見ろ。右だ!」
クレイモアを抜いたクロスボウ兵が、隙を狙って突いて来たのだ
左に薙いだデルフじゃ、ガンダールヴの才人と言えど間に合わない。デルフをそのまま地面に叩き付けて刺し、斬撃の勢いをデルフで殺すと左足で地面を蹴りながら、一気に村雨を抜いた
霧を残しながら鈍色の刀身が陽光に煌めき、一足遅れてクレイモアの刀身が落ち、続く袈裟懸けの一閃で悲鳴を上げる時間すら与えられず、クロスボウ兵が切断面から血を吹き出しつつずれて行き、余りの斬れ味に周りの兵が二の足を踏む
「今だ!突撃ぃ〜〜〜〜!鬨の声を上げろ!」「「「「うおおおおおおおお!!」」」」
同士討ちを許さないギーシュの命令により、ニコラは総員に銃剣を装着させて一気に両軍を分け隔てる道路を走ったのだ
今ならアルビオンの部隊は総崩れ、しかも竜騎士は上空で味方竜騎士とがっぷり4つで組んでおり、地上支援に回って来れる余裕は両軍共に無い
砲兵は障害物が多過ぎ、且つ民家の倒壊を懸念した両軍共に支援砲撃無し。歩兵での正面突破にならざるを得ない状況だ。野戦の様には行かない
トリステイン兵が100メイルを20秒程度で駆け抜ける間、アルビオン兵は指揮官が倒され、戦列も総崩れな状態で、絶好の機会を成す術が無く、あっさり突撃を許してしまった
才人が一人奮戦していると一気に味方が雪崩れ込み、才人は味方に任せると、更に陣形の奥深く浸透しようとする。その時、ラッパ音が鳴り響き、アルビオン兵が一斉に振り返って退却を始めたのである
「退却だ、退却だ。さっさと下がれ!」
揉み合いになりながらも退却して行き、才人も含めてトリステイン側が呆気に取られる
「何か変だな、デルフ」「ん〜、確かに総崩れって感じじゃないな。作戦かぁ?」
そのまま才人は、逃げるアルビオン兵に紛れつつ、見てしまった
「しまった!?総員伏せろぉぉぉぉぉ!」
才人が大声を上げつつ、突出していた自身をど真ん中に置いて仁王立ちし、二刀を構え、味方の盾となるべく立ち塞がった。そう、退いたアルビオン兵の先には殿として、ロングボウ部隊が弓を既に構えていたのだ
数十の矢が水平射撃で才人に迫り、才人は二刀を振るって防ぐが、直ぐに二の矢を番えて放つロングボウ兵
そう、ロングボウ兵は、習熟が必要だが連射が効くのが強みである
釘付けにされた才人は防御能力を超え、二刀を逆手に持ち替えて腕を顔面で交差させて防御の姿勢に入り、風魔法の回避に委ねるが、あっと言う間に限界を越え、複数個所に矢が突き立った
ドスドスドス
繊維を貫く音にナイフに当たって弾ける金属音が混じり、肉に刺さる音も伝わる
ダメージを確認する為に、思考を巡らせる
頭は?被弾無し。心肺?問題無し。両腕、左肩と右上腕被弾。筋を痛めたが、ガンダールヴなら動く。腹部、ナイフで防がれて軽傷、続行可能。脚、奇跡的に被弾無し。なら、ルーンが輝いてる間に、殺られる前に動け!
部隊の盾をかなぐり捨てて、攻勢に入る為に駆け出す才人。しまう暇が無い為に村雨の柄を口に咥え、両手でデルフをぐるりと回しながら、矢を叩き落としながら走るが脚にも被弾、部隊を次々に離脱させているロングボウ兵に肉薄し、正面で構えていた滑車が備わってるロングボウ兵にデルフを突き立て、そのままデルフを放置すると、咥えていた村雨を手に持ち、最後まで殿を務めていた他の兵も斬り捨てたのだ
村雨を地面に刺すと滑車付きのロングボウを拾い上げ、矢筒から矢を拾い上げ、軽快に矢を番えて弓を引くと、ルーンが才人に武器の情報を教えてくれる
「コンパウンドボウね」
弓の威力は弦の張力に依存する。強くするには弓の張りを強くするしか無い。当然強くなればなる程、力が必要になり使い難くなる。コンパウンドボウとは、滑車を用いて倍力し、軽い力でも高張力の弦を使える様にし、更に狙えば狙うほど外れるアーチャーのジレンマを解消する為に、弓の中央がオフセット(偏心)している、命中威力共に、現代最強の弓である。射程は優に100メートルを数え、熊をも射倒せるとされる。映画ではランボーがヘリを撃墜するのに使ったのを、観た事がある人も多い筈
ガンダールヴの才人なら、楽に番えるコンパウンドボウで、才人は弓を連射し始めた
弓弦の音が軽快に、しかも間隔が非常に短い
身体を半身に開き、矢を番えて、弓を引き、目標を狙い、矢を放ち、残心もそこそこに次の矢を番える
コンパウンドボウが弓弦を響かせる度に、退却していくアルビオン兵の背中に矢が襲い掛かり、一矢で射落として行く
あっという間に手持ちの矢を使い果たし、才人は溜め息一つ吐いてから、コンパウンドボウを地面に置き、村雨とデルフを回収してると、後続がやっと来た
「スンゲーな兄さん。あんた、銃剣はおろか、弓まで使えんのか」「ん?あぁ、まぁ。悪いけど、コイツの矢を回収頼める?」
矢が突き立ったままの才人の肩に手を置いて、ニコラはニカッとしながら指で後方を指した
「お安い御用で。兄さん一人に任せちゃらんないね。後は治療受ける為に下がってくだせい」「ああ、後は任せた」
才人を置いて中隊は矢を回収しつつ前進して行き、才人にはギーシュが、負傷者運搬用ワルキューレに牽引させた台車にルイズを載せた状態で歩み寄る
「……また、無茶して」「…悪い」
そう言って、才人は弓を肩に掛けるとルーンが消え「…仕事したか?」「うん。誰にも出来ない仕事だね」「…そうか」
そう言うのが限界だったのか、そのまま意識を失い、前のめりに倒れる才人をギーシュは抱き留めた
「負傷、一名追加。何時もより被害少ないね。才人のお陰だ」

*  *  *


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