カトレアの冒険 ツェルプストーの城塞前に着陸したオストラントは、ツェルプストーで物見高い連中に囲まれ、歓声を浴びていた そして、ツェルプストー伯が多忙の身を推してオストラントの艦首前に立つ 艦首ハッチが音を立てて開くと中から零戦が降ろされ、更に歓声が上がる あの男がまたやったと、歓声が最高潮だ カッターで降りて来た才人に、ツェルプストー伯が話しかけた 「実に派手な登場だな」 「呼びつけといてそう言いますか?運用試験航空兼ねてるんだよ」 「はっはっはっはっ!まぁまぁ、そう怒るな。娘は同行してないのか?」 「学生は授業あっからね」 「くっくっくっくっ。全く律義な奴だ。学校なぞ辞めて、卿のベッドを住処にしろと言えば良かったかな?」 そう言って、肩をばんばん叩いてツェルプストー伯は馬車に自ら案内し邸宅に向かうと、エレオノールは艦橋から見送った 「航海長、全部任せる。機関関係は全部把握してるから、トラブル起きても私でも平気よ」 「ウィ。離陸準備開始します」 * * * ツェルプストー伯は自身の執務室に入ると、すかさずオットーが書類を渡す 一瞥すると、命令を下した 「悪いがゼロ機関所長との折衝が優先だ。所長の多忙振りは知ってるだろう?ここできちんと詰めねば、後々大損するぞ」 言いながらさらさら書いた物をオットーに渡すと、オットーは一礼して部屋を出た 「何か悪いね。時間無理矢理開けちゃって」 「呼び出したのはこちらだからな。気にする必要は無い。さっさと詰めるぞ」 「了解」 そう言って二人がソファーに座り、ツェルプストー伯が書類を差し出した 「読みながら聞いてくれ」 「あぁ」 ぱらりと捲って書類を読みつつ、ツェルプストー伯が話し始める 「卿の言う炭の配合量を変える重ね合わせ鋼。工程的には確かに可能だ。圧延重ね工程に錬金融合を行えば、出来る」 才人は書類を見ながら黙って聞いている 「問題はコストだ。作業工程を大幅に改造せねばならん。炉を増設するだけの見返りが有るのか?」 「……湯流れのラインを別に案内するのはどうだ?」 「既に考えた。スペースが無い。ゴーレム設置の余裕が無い」 そう言って、ため息を付くツェルプストー伯 「そうか。圧延工程にゴーレムを設置しなきゃ、重量ローラーの加圧回転なんざ無理だもんな」 「その通りだ。あの大出力のゼロ機関を設置しても出来るだろうが、そこまで機関に余裕は無いだろう?」 「全くだ。量産要求に対して全然追い付かねぇ。職人の拡充は、そう一気には出来ない」 才人はツェルプストー伯の言葉に、溜め息を付いた 「そうまでしなきゃならない理由を教えてくれ。理由によっては、やり方考えて出来るかもしれん」 才人はそこで答えた 「小型軽量且つ強靭な砲を作るのに必要だ。堅さと強さを両立するには、軟鋼を硬鋼で挟むのが一番手っ取り早い」 ツェルプストー伯は、その言葉に驚いた 「そんな事を考えていたのか」 「あぁ。設備投資があんまり多額になんのが問題なら、先に板を作って、重ね合わせローラーラインを増設。工程は板過熱→ローラー圧延融合→パイプ成型→炎の錬金か炎溶接→砲身仮アッセンブリ→焼き鈍し→油焼き入れ。で、何とかならない?石炭代がちとかかるけど、コークス程熱量要らんから安く済むでしょ?赤熱してれば融合もし易い」 ツェルプストー伯は頷いた 「良いだろう。その方法ならそう難しくない。流さは?」 「砲身全長6メイル。砲長5.5メイルだ。コイツが図面」 才人がエレオノールを描いた図面を渡してツェルプストー伯が見て唸る 「こいつは…長いが随分と小さいな」 「1リーグ先で厚さ10サントの鉄板を貫通すんのが目標。どうだい?」 ツェルプストー伯は余りの馬鹿馬鹿しい威力に呆れてしまった 「そんなの、城壁すら役立たずではないか。完成したら割り引いて売って貰う。それが条件だ。ざっと見、通常パイプの三倍掛かる。が、あのロイヤルソブリンの砲より軽量高威力だな。あれを前提にすれば、遥かに安上がりだ。射程は?」 「直接で2リーグが目標」 曲射なら、更に伸びると云う訳だ ツェルプストー伯は頷いた 「良いだろう。儲かりそうだ。乗った。舵と翼技術の提供を受けて建造してる、駆逐艦の主砲に使わせて貰おう。何とか出兵迄に間に合わせる為に、こちらに回してくれ」 才人は頷いて答えた 「うちじゃ、オストラントに試験武装で16門しか乗せないよ」 「ふん。此方で9隻計36門使わせて貰う。その分、車輪とか懸架台は既存の流用で間に合わせる。何とかなるな?」 才人は肩を竦めて答える 「さぁて。ちとぎりぎりかなぁ?砲弾は鉛榴弾の弾殻と仕込み弾は、01式銃の未成形並びに不合格弾をグラモンに発注してるけどね。徹甲弾は暫く研究しないと駄目だと思う。薬莢は既に生産中だ。治具は、既にモンモランシで新工場建設して品物待ち」 ツェルプストー伯はニヤリと笑い、才人に話す 「ふん、用意周到だな。つまり、出来ないと返事されても、通常の方法で作ったのだな?」 「そゆこと。威力は下げるけどね」 才人が肩を竦めて答え、ツェルプストー伯は笑い出した 「くっくっくっくっ。本当に卿の発想には驚かされる。ツェルプストーに更なる益を頼むぞ」 ガタッと立ち上がったツェルプストー伯に頷いて才人も立ち上がり、食事に向かった * * * 才人は食事と風呂を世話して貰うと、寝る前にまた呼ばれ、提供された寝室に繋がる部屋で待ってると、ツェルプストー伯が入って来た 十代半ばもいかない少女達を数人連れていて、才人はいやぁな汗が垂れて来た 「あぁ、儂の妾だ。卿にはやらん」 「そいつは助かった」才人が本気でホッとするのを笑って見ているツェルプストー伯 ツェルプストー伯がソファーにどさりと座ると、少女達がツェルプストー伯に寄り添った 「若い娘連れてるね」 「年の近いのもおる。さて、この状態をどう思う?」 「どうって……」 才人が詰まる 「卿の常識では、おかしいと思うか」 「……まぁ」 軽く頷いて肯定する才人に、ツェルプストー伯は語り始めた 「儂とてそう思う。だが、そなたはもう、儂と同じく施す側だ。きちんと聞いてくれ」 そう言って酒を妾の少女に注がせ、才人にも注がせると、カチンとグラスを合わせて語り始めた 「貴族の底辺と平民。どちらの生活が楽か知っておるか?」 「……いや」 素直に才人は首を振る 「平民の方が遥かに楽だ。貴族は施しをするモノ、つまり見栄の為に平民を雇い、教師を雇い、高い教養を身に付かせなければならん」 才人は黙って聞いている 「そんなこんなで国から年金貰っても、あっという間に尽きる。だからその分を補填する為に、男なら立身出世の為に兵を目指し、公職に就くか、封建貴族に雇われる。男児一人の価値はかように高く、一族皆を助ける期待の星な訳だ」 才人は頷く 「だが、女児だとどうなる?」 「さぁ?」 本気で才人が聞いているので、ツェルプストー伯が答えた 「嫁に出す。言っておくが、トリステインの女王の様に、女が公職に就く例は皆無ではないが、異常と言って良い。基本的に女は子供を産み、育み、次代を担う子を産む事を要求される。戦う事を求めるのは、既に間違いだ」 「…あぁ」 「だから女は容姿が優れ、教養を持ち、ベッドの上では誰より可愛く、男を立てて、出しゃばらない女が好まれる。あのヴァリエール嬢なぞは、はっきり言って誰も求めん。儂でもご免だ」 才人は思わずプッと吹いてしまう 「で、家で女が続いた場合どうなる?」 才人はちょっと考えて答えた 「窮乏するのか?」 「その通り。誰か救うか?金ばかりかかる見栄っ張りの下級貴族を家族事面倒見るなんざ、裕福な大商人でも絶対に嫌がる。何せ、稼ぎを食い潰す穀潰しだ」 「…そうだな」 才人は同意する 「それでも女ばかり。さて、卿が父親ならどうする?婿なんざ男児が余ってる所にお願いしても、来てくれるかどうかは分の悪い賭けだ」 才人はそこで、冷徹に答えた 「身売りか?」 「そうだ。文字通り身を売る。妾に収まれば万々歳。だが、世の中はそんなに甘くない。裕福な平民辺りに売られ、杖を取られて散々に弄ばれて、文字通りボロ屑になって死ぬ例が後を絶たん」 才人は黙って頷き、酒を含んで促した 「言っておくが、ボロ屑に扱うのは平民の妻の例が圧倒的に多い。女の嫉妬は、身分差が出ると洒落にならんのだ。そして最後は異国の娼館に売られて終わるのがお決まりのコースだ」 「逃げ出した女は修道院に匿って貰うしかない。そういった娘売りの為に、各国の流通網が有る。残念ながら、幾ら潰しても直ぐに復活する。この件に関しては、ロマリアが裏で手を引いてる疑惑も有る」 「……」 才人は言葉を発しない 「解るか?例え妾として添い遂げられずとも、男児を産みさえすれば、家族にまた迎え入れて貰えるのだ。それ位、彼女達に種を撒くのは彼女達の悲惨な最後を減らす為に、必要な仕事だ」 「……あぁ」 才人はグラスを手に持ったまま賛同した 「ヴァリエールをそれをやっておらん。だから奴は駄目なのだ」 本気で吐き捨てて、才人は彼の情の深さに感心してしまう 「で、ここにメイジ特有の問題が入る」 才人はその言葉に返した 「血の濃さか?」 「そうだ。コイツばかりはどうしようも無い。更に系統の問題も有る。女としての価値と火は完全に相性が悪い。火の女は先ず杖を返して貰えん。壊すしか能が無いからな」 「……そうか」 ツェルプストー伯は妾の身体を軽くまさぐってるが、妾の少女達は素直に受け入れ、表情は寧ろ悦んでいる ツェルプストー伯が、散々に可愛がっているのだろう 「血が濃くなると、使い手としては強力な使い手が生まれる反面、弱い子や女ばかりになる傾向が強くなる。丁度、今のヴァリエールがそうだ」 「…あぁ」 「三代女が続くと、下級貴族なら断絶と思って良い」 「……厳しいんだな」 「そうだ」 ツェルプストー伯も酒を飲み干し、才人の空のグラスと共に、妾の少女が注いでくれる 「有り難う」 にこりと笑って頷いてくれた少女に笑い返し、才人はツェルプストー伯に向いた 「そういう時は遠縁か平民に嫁いで血を薄くせざるを得ん。実はな、そう言った意味じゃ、血縁関係の無い貴族は平民上がり以外、居ないと言って良い」 「…そうなのか」 「何せ、6000年も続いてるからな」 才人は頷いて、ツェルプストー伯の話に耳を傾ける 「ハルケギニアの貴族の事情は大体解ったな?」 「…あぁ」 パチンとツェルプストー伯が指を鳴らすと、寝室側から二人少女が出てきた ちょっとくたびれているドレスを纏っているが、それでも精一杯のおめかしをして、才人に礼をする 「今の事情をひっくり返し、卿が救った下級貴族の少女達の一部だ」 思わず、才人が固まってしまった 「……俺が?」 「そうだ。卿が火のメイジの使い途を増やしてくれたお陰で、産業分野で働ける様になり、身売りせずとも仕送り出来る様になった娘達だ。ドットの火の娘達もラインになれば働けると知って、家から口減らしの為に嫁入りと称して追い出され、行き場の無い娘達が研鑽に必死になっておる。それをお前、1サント狂ってるぞ馬鹿たれとか言われて、卿が担当ならどう答える?」 「……ざけんなこの野郎……かな?」才人は苦笑して答え、ツェルプストー伯が笑って頷いた 「まぁ、そういう訳だ。成長に期待しろ」 「…了解。君達がゼロ級のフレーム作ってたんだね、有り難う」 少女達は首を振って答えた 「いえ、助けられたのは私達です」 「じゃあ、助けた序でに、もう一つ助けてやれ」 ツェルプストー伯の言葉に、才人の動きが止まる 「……はっ?」 「言ったろ?火のメイジで女続きの三代目。詰んでる少女を救う為にはどうするか?安心しろ、どっちが産まれても卿の子供なら利発だろうから、歓迎だそうだ。お前達、連れて行って良いぞ。たっぷり盛っといたから」 才人はその言葉にグラスの酒を見た 「まさか……」 「くっくっくっくっ。まだまだ甘いな、イーヴァルディ」 ツェルプストー伯が立ち上がって、妾達を両手に抱えて笑いながら出ていく 「いや、流石に歳でな。代わりが見つかって助かった助かった。子作りはれっきとした人助けだ。存分に楽しんで来い」 パタンと扉が開閉してツェルプストー伯が去り、ひょいっと少女に才人がレビテーションで浮かされ、連行されて行った * * * 才人が目覚めた時、自己嫌悪に襲われ顔を手の平で覆い隠した しかも少女の一人とは合体中、もう一人も腕枕にすやすや寝息を立てており、言い訳が全くきかない 彼女達も自分も薬と香で桃色だったのが幸いし、悦んでくれたのだけが救いか 「おはようございます。才人さま」 「おはよう」 未だに二人の名前を知らないが、少女達は名乗らない 「初めてでしたけど、素敵でした」 二人がそう言って微笑み、才人はホッとする そのまま朝食の席迄一緒にしたが、仕事なので出ようとして掴まれてしまった 「私達、ツェルプストー伯に伺いました。私達みたいな者に迄給金を与えて下さるのは、全て才人様のお陰だって」 「いや、ツェルプストー伯が雇ってくれたからだよ」 少女達が首を振る 「私達は下級貴族で、初潮を迎えたら、いつでも嫁に出されるのが通例です。相手の選択は基本的に出来ません。相手に気に入られずにたらい回しにされて、ツェルプストー伯が気の毒に思って迎え入れて下さいました」 才人はその言葉に頷くしか出来ない 「新しい仕事があると言って、ツェルプストー伯が行き場の無い私達を集めて下さって。同じ境遇の娘達が魔力の限りの範囲で短時間で交代で働いて、大人の男性程働けませんが、それでも私達にも給金を払って下さいます」 「そっか」 もう一人も訴える 「それもこれも、新しい魔法と技術をもたらした才人さまのお陰だって。私達は特に血が濃くなってしまった一族です。ですから、そんな才人さまの子が欲しくなりました。お願いします。面倒を見ろとは言いません。私達に御子を授けて下さい」 少女達が名前を言わない理由も何となく判った。あくまで行きずりであろうとしてる 『健気だなぁ』 貴族には貴族の苦労がある。ツェルプストー伯が力を求める理由が判ってしまった。彼は優し過ぎるのだ 力を増やして、一人でも多く引き上げたいのだろう。その為ならば、徹頭徹尾全てを利用する。才人には出来るだろうか? 「俺は自分の目的に沿ってやってるんだ」 そう言って首を振るのが精一杯の才人。そしたら彼女達が笑い出した 「ツェルプストー伯がおっしゃってました。絶対にそう言うって。知ってるなら、絶対に見捨てないって。だから自分は代行だって、言ってましたよ?」 全く嫌になる位キレる親父である。才人は苦笑するしかなかった 「せめて名前を教えてくれるかな?」 才人の言葉に、二人はかぁっとなりながら答えた 「イーリスです」「リリ」 「分かった。イーリス、リリ。仕事だから」 そしたら二人してギュッと掴まれ、首を振られてしまう 「授けて下さる約束して下さらないなら、嫌です」 「……分かったよ。俺で良ければ」 二人はニコッって笑って才人の耳元に唇を寄せようとしたので、才人が屈むと耳に囁かれた 「もう一度、授けて下さい」 才人が思わず二人を見ると、二人共に真っ赤な顔をしていて、才人は片手ずつで二人を持ち上げた 「姫の要求ならば、ヤーとしか言えないね」才人に抱えられた二人が恥ずかしそうにコクンと頷いた * * * 才人が零戦でグラモンに移動すると、既に補給は終わらせていたオストラントが地上待機していた 零戦を見た甲板員達がばたばた走り、艦橋から艦尾に制動ロープを貼り出し左舷艦尾に繋げ、誘導灯をくるくる回して着艦態勢の完了を指示し、才人が艦尾から進入する 着陸態勢に入った零戦が艦尾フックにロープが引っ掛かったのを確認すると甲板員達が親指を立てて、車輪が擦った瞬間に大声が上がる 「制動開始〜〜!」 「制動開始!」 制動ロープが巻かれてるドラムに、帆布を分厚く織って金属粉をまぶして作ったドラムブレーキをリンクで作動させ、一気に煙が生じる 零戦のブレーキと共に制動し、甲板目一杯で制止した 「ふぅ、本当に大したもんだな、おい」 才人が風防を開けてると甲板員が走って来て、ロープを外して巻き取りを始めている 「艦長、お帰りなさい」 「ただ今。じゃあ、収納頼むわ」 「了解。ブレーキ外しておいて下さい。我々が手押しで収容します」 才人が頷いてエンジンを切るとバッと飛び降りて艦橋に向かい、後ろでは甲板員達がぞろぞろ出てきて押し出した * * * 才人が艦橋に登ると、航海長と副航海長が敬礼し、他の士官達も続くのを、軽く会釈で返した後、才人は拍手をし始めた パンパンパンパン 「いや、お見事お見事。もう大部良いね。後三日で一番艦に全員乗り換えか。寂しくなるな」 「いえいえ、こんなに色々機能が付いてましたから、使える様になるのに苦労しました。作戦では宜しくお願いします」 才人が一人一人の手を取ったのは決しておざなりではなく、また、士官達も力が籠っていた 才人は、そのまま機関室に向かって降りて行く * * * 機関室に顔を出した才人を、全員が敬礼を持って出迎えた 「あぁ、楽にしてくれ」 才人の声で全員が直り、才人が副機関長に状態を聞く 「点検記録出してくれ」 「はっ」 才人が点検記録を見ながらジッと動かず、目の鋭さに全員が直立不動で返事を待つ 「……舵チェックもOKと。停止中の主翼内駆動チェーン点検と吸排気口点検は?」 才人の言葉に一斉に全員青ざめた 「申し訳有りません!やっておりません!」 才人は少し考えて命令する 「…マニュアルを出して見ろ」 「はっ」 マニュアルを出して見せたので、才人はパラパラと捲って該当ページを全員に見せた 「この通り、完全停止中に行うべき点検方法として書いてあるな。何故か解るか?」 才人の言に、正直に答えた 「駆動中は危険だからです」 才人はその言に頷いた 「宜しい。ならば俺と一緒に全員でかかるぞ。今から点検作業開始。離陸は点検終了迄延期と伝えろ。縄梯子持ってやれ」 「ウィ!点検入るぞ、カカレ!」 「「「ウィ」」」 全員が点検道具を持って、アッパーデッキに向けて走って行く 中には副機関長二人と才人が残っていた 「点検作業は重要だ。人間は完璧に物を作れない。毎回点検してれば駄目になっていく過程が解る。だから気を抜かずにやってくれ。気を抜いた時が事故が起こる時だ」 「了解しました。艦長」 才人は敬礼に頷いて、二人を促して階段を登っていった * * * 才人は、先に降りていた機関士達と共に、点検の仕方を実演でポイントを教え、全員に同じ作業を復習させつつ記録し、主翼内やプロペラ軸のブーツを捲って見せ、中のグリスの状態を見せて実演すると、全員がメモをしながら真剣に頷いていた 主翼内のチェーン張り不具合時の張り直し迄実演する丁寧振りであり、全員が真剣に応じている 「コイツは弛み過ぎても張り過ぎても駄目だからな、この張り具合を良く憶えておけ。体感で憶える為に、全員チェーンを押して確認だ」 「はい!」 才人の後に、一人ずつチェーン張りを確認すると、保護カバーを付けて主翼蓋を嵌めてバックルで止め、上からゴムを足で踏んづけて嵌め込む 「保護ゴム忘れんなよ?一番忘れるからな」 「はい」 左翼から始めて、右翼は全員が同じ様に二艦の配属チームに別れて二度やり直し、お互いの点検の差分をぎゃあぎゃあやり合って、才人が仲裁に入って実演し、結局笑いながらも点検が終わる * * * そして機関室に戻って来て、才人が主機関系バルブを開閉しニヤリとする 「お、慣らしが上手くいってるな。当たりが出て操作が軽い。これなら密閉も上手く行く。配属先の艦も、これ位可愛がってくれ」 「「「ウィ!」」」 才人の言葉に、全員が敬礼で応えた * * * 才人はそのまま医務室に行くと、常駐の水使い兼医師の医務官が敬礼するのを会釈で返す 「貴方達のお陰で、皆が健康に過ごせました」 「まだ終わってませんよ。それに我々も高々度でのデータ取りが叶い、万々歳です。水と暖房が重要と再認識しました。この艦なら、水を他の艦より積める為に医療向けにも良いですな。ゼロ級型医療船の生産を要求しましょう」 「そいつは是非とも。良い考えだ」 才人がにやりとすると医務官達が敬礼し、才人は離れた * * * 才人が食堂に寄ると、司厨達が仕込みをしているので邪魔をしないでカウンターの外に立って声を掛ける 「あんた達、軍人辞めてレストラン開いたら?」 「良いですね、それ。空中レストラン、オストラントってのはどうです?」 才人はきょとんとしてから、くっくっくっくっと笑いが込み上げて来る 「実験終わったら、貨客船にすっか」 「その時は是非とも御一報を。そんなレストランで、働いてみたいものです」 仕込みをしてた司厨達が視線を才人に向けて笑いかけ、才人は頷いた 「あぁ、良いね。面白そうだ。戦争より、ずっと良い」 「なら、さっさと終わらせましょう、艦長」 「あぁ」 才人が手を振って立ち去り、司厨達は仕込みに戻る 「空中レストランオストラントの司厨は我々だ。誰にも恥じぬモノを供するぞ」 「ウィ」 * * * 才人はその後、4番デッキに移動し、たむろしてる甲板員達に声を掛けた 「あんたらで一番の花形は信号手じゃね?」 「あっはっはっはっ!確かに!でもあんなに寒いのはゴメンだぜ。なぁ」 常にデッキで一番寒い思いをしてる信号手達が、苦笑して頷いた 哨戒は艦橋から出来るので普段は誰も出なくて構わないのだが、信号手は何か有ると必ず立つので一番寒いのだ 「あんた達のコンビネーションのお陰で艦のシステムがスムーズに動く。移ってからも頑張れよ」 「おぅ、任せてくれ!艦長が一発着艦出来る様に動いてやんぜ!」 才人がグッと親指を立てると皆が立て返す。既に共通の合図となった * * * 才人は更に風石稼働室に向かい、入室する 天井フレームに上下の蓋に鉄板が張られた太鼓型の樽が何個もバックルでくくり付けられ、バチが蒸気駆動で上下で回転しながらバチバチ叩いている 既に離陸したのだろう 風石は衝撃で魔力を解放し、消耗する。樽は一枚だけガラス張りになっていて、残量確認が出来る様になっており、無くなると対応ラインを止めて下にある満タンの樽と交換する 基本的に一列定期交換式で、残った風石を一つの樽に纏める方式だ この方式が一番安定出来るのである 大まかに右中左と区分されていて、集中大アクセル一つと、そこから分岐した小アクセル3つで艦の浮力を調節、低速時のロール安定を確保する構造になっている 前回事故は慣らしが不十分だった為の小アクセル洩れと大スロットルのゴミの噛み込みによる閉鎖不能である スロットルはギヤにより、回転量で微調整する 更にボイラーがダウンした時の為に、自転車のサドルとそこからチェーンが伸びていて、自転車漕ぎ型手動装置も付いている 以前の事故時に大活躍したので、手入れが行き届いてピカピカだ 高度計も設計し、真空ポンプ(加圧が出来るなら負圧も可能。逆向きに接続するだけ)でゴムからダイアフラムを作ってギヤ比を設定して艦橋と風石室に設置しているが、ベテランの窓からの目測の方が圧倒的に確実なので、参考程度にしか使われていない 人間の技量は、器械に勝るとも劣らないのだ 才人は文字通りの縁の下の力持ち達に声を掛けた 「緊急事態の時こそあんた達の出番だ。無い事を願うよ」 「ま、そういう時は任せてくれ。伊達に鍛えちゃ居ませんぜ。実は一時間手動とかやってて、皆漕いで鍛えてんですよ。知らなかったでしょ?」 才人はきょとんとしてから、笑い出した 「あっはっはっはっ!そりゃスゲー。俺もトレーニングに加えっか」 「そんときゃ歓迎しますわ。どっちがスタミナ持つか勝負でしょ?」 「そのムキムキには勝てそうにねぇなぁ」 片手を上げた航海士達に才人も上げてバシリと握り、お互いニヤリとする 「この船は風石の消費が少ねぇし、皆楽出来るから鈍っちまうよ」 「まぁまぁ、体力維持に黙って手動やってても構わんよ。そん代わりちゃんとやれよ」 そしたら全員がニヤリとする 「あたぼうよ。俺達は風石の面倒見続けて、うん年の連中ばっかだ。こんなやり易い艦で失敗なんざしねぇよ」 「全くだ。前の船はバネ式とか、十人単位で各々ぶっ叩いたり大変だったもんなぁ。あん時は、メイジの楽さ加減を恨んだもんだ」 皆してうんうん頷いている 「あんた達にそう言って貰えるなら、こだわって良かったよ」 才人はそう言って手を振って退室し、扉を閉めると音が聴こえなくなった。永続サイレンスを機関室と共にかけあり、騒音対策がしてあるのだ * * * ガチャ 才人は機関長室に入ると、エレオノールが弾頭を作っていた 「今日は進んだ?」 「まぁね」 キコキコ漕ぎながらボックスのハンドルを回して、雷管を閉鎖して詠唱してるエレオノール 「オシェラ・ラナ・デル・ウィンデ」 遺産、つまり残すと云う意味だ 永続魔法時に付け足すルーンである 手応えを感じるとブローをしてパカッと開いた 「とりあえず以前とやってた分と合わせて100発完了。編むんでしょ?針糸と布も用意してあるわ。既に要求寸法に切り出し済み」 「あぁ」 才人はそう言って、布を弾帯寸法を見切ってケガキ始めた 零戦搭載の7.7mm機銃は弾帯が布製だ。才人は見た時に驚いたのだが、逆に幸運に感謝した。自分達で編めるのである ちくちく縫って弾頭を通して調べた時の感触と比べて確認し、良い感じと感じるとまた縫い始める 才人は知らないが、元々7.7mm弾.303ブリティッシュは黒色火薬弾頭を無煙火薬化したものであり、性能が悪い(配合が非適正)ハルケギニア製黒色火薬とも相性が非常に良い 本当に幸運なのだ それを魔法強化で威力をはね上げ、更に威力に耐えられる様に、銃身にエレオノールの硬化と固定化を掛けて、シュヴルーズ仕様より、強化銃身且つ対摩耗性、耐熱性を確保している 20mm弾頭は他に使い途が無いので、現在は生産はしない。そんなに一気には出来ないからだ。余裕が出来たら手を出すだろう そんなこんなで二人が黙々と作業をしてると、ずしずしと音が聴こえてきた 第二陣の到着である 才人は伝声管に寄って伝声管を木槌でカンカン叩く 艦橋が普段蓋をしているが、音が鳴れば出てくる 〈はい〉 「機関長室にて作業中だ。挨拶が必要なら声を掛けてくれ」 〈了解〉 才人はそう言ってまた弾帯編みに戻り、エレオノールは何故かとても機嫌が良かった * * * 才人が二陣の竜騎士達に挨拶し、その後はエレオノールと食事を取って艦長室にて風呂に入っている 勿論お姫様のご希望の、才人による全身洗いだ 「最近自分で洗ってんのか?」 「昨日はちゃんと洗ったわよ。才人の背中洗いに比べると駄目ね。むず痒い感覚が残っちゃうのよ」 「あ、解るわ、それ。人に背中流して貰うの最高だよな」 そこで非常に小さくエレオノールは声を洩らした 「……の洗い方が一番なのよ」 才人は聴こえなかったので、聞いてみた 「何か言ったか?」「別に」 「そうか」 エレオノールは才人が洗い終わると、初めて才人の背中を洗い出した。休暇中ですら、やらなかった事だ 前は才人が洗ってる為、そのまま胸を当てて泡だらけの両手で彼のモノを握り擦りながら身体も上下する 才人が勃起するとすかさず湯を流して前に回り込んで、彼しか受け入れた事の無い、しみ一つない綺麗な割れ目を見せ付ける 「私のここ、どう?」 「匂いも形も最高。見て嗅いでるだけでいきり勃つ。胸も絶妙、乳首の色とか乳輪の大きさとかエロすぎ」 そう言って才人が乳首を舐めるとエレオノールは彼の頭を抱き寄せた 小さくても好きと言ってくれる。とっても嬉しい 「じゃあ、入れなさいよ。全部出しなさい。あんたの傍に居るとね、一日中欲情してんのよ。信じられないかも知れないけど本当よ。仕事中以外は我慢させないで」 そう言って腰を降ろし、才人に繋がると才人に絡まった 才人は繋がったまま湯船に入ると、エレオノールは無心に腰を動かし、痙攣を始める 「……ふ、ん…」「更に感度上がったな」 「…るさい。敏感な女好きでしょう?」「あぁ……大好きだ」 そう言って才人が射精すると、エレオノールが腰を深く繋げて受け入れ、蕩然としながらたっぷりと蠕動させる 風呂から上がると、タオルで拭いてそのままで、バスローブを用意するのすら、エレオノールが拒否している 身体を拭いて髪を拭きながら才人の前に立ったエレオノールが、尻をくいっと押し付けつつ身体を屈める 二人きりの時は、エレオノールは一切容赦しない。才人をあらゆる手段で興奮させるべく誘う 薬も良いが、無しの感覚もまた良い 湿って擦れなくなった分を、自身の愛液をお尻をぐりぐり動かし、まぶしてぬるぬるにしつつ勃たせる 頭を拭いてた才人が息子を固定すると、エレオノールがぬぷぷと繋がって来た 「ん……」「髪拭けよ」 「やって……」 お姫様の要求は3日分の埋め合わせだと、才人も気付いた 「…ったく」 才人はエレオノールの上半身を持つと、ぐいっと持ち上げ、エレオノールの脚を浮かせる様に歩き、タオルは二人共に頭に被ったままだ 「や、あぁっ!?う、奥、無理矢理ぃ」 そのまま歩いて行って、エレオノールをベッドに寄り掛からせると両腿を抱えて体重で深く繋がり、エレオノールが一気に来た 「ひい゛!」 ビクッビクッと自身の意思を無視して震える身体に、欲しいモノが流れ込んで来る 「も、もっと」 才人は自身もベッドに上がってエレオノールの脚を降ろすと、エレオノールは尻を的確な位置にきっちり持っていき、才人は思わず唸ってしまう 「ぐぅ」唸りつつ才人はエレオノールの髪を拭き、エレオノールは蠕動を止めない 才人が耐えて拭いてると、エレオノールの尻の押し付けが強くなり、我慢が出来ない位吸い付いて来る 才人より先にエレオノールが震え、才人も思わず射精してしまう 「…少し、身繕いしろよ」「……やってよ」 タオルを被ったまま、我が侭言い放題のエレオノール 才人はエレオノールをひっくり返し、身体を持ち上げてベッドに座ると、対面でエレオノールの髪をパタパタやり出した 「…俺より性欲強いよな」 「るさい。殆ど毎日取っ替え引っ替えしてるあんたと違って、待たされてる女の辛さ解る?独り寝の辛さ解る?私は……あんた以外じゃ、全然こうならない」 エレオノールは才人の耳をかぷりと噛み、更に舐める 「私にも、訳解んないわよ」 完全密着でエレオノールが離れない 「あんたの匂いと肌触りが狂わせるのよ。囁かれたいのよ。ずっと見たいのよ。私の為に戦う姿を見たいのよ。……あんたに、何か貰いたい」 エレオノールがそう言って眼を瞑っている。才人は無言で髪を拭いている 「……我が侭言い過ぎたわ」「…何が欲しい?」 エレオノールは、その言葉に思わず聞き返す 「……良いの?」「俺が出来る範囲でな」 「…装飾品が欲しい。小さい奴で、主張は控え目だけど、どんなドレスにも合う奴。才人が連れて立つ女に相応しい、美しさを際立たせる奴」 「…アクセサリーはさっぱりなんだがなぁ」才人はそう言って、頭をタオル事バサバサと拭き、エレオノールは言い放った 「どんなに趣味が悪くても、ずっと身に付けてやる。せいぜい悶えなさい」 「はぁ、本当に勝てねぇなぁ、全く」 才人はそう言って、エレオノールの髪を拭いながら壁に寄り掛かり、エレオノールはずっと離れなかった * * *