ゼロの使い魔保管庫
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それは蒼から始まった物語 (7):HEAT 1 バレット氏 #br 魔法学院の生徒達は皆貴族の子息子女、未来の紳士淑女候補である。 毎晩3人の王家の少女と仲良くシッポリしている某黒髪の青年を見てると何処が紳士淑女だバカヤローと言いたくなるだろうが、それでも未来の紳士淑女といったらそうなのである。反論は却下だ却下。 とにかく、そんな少年少女ばかりだからこそ休日の過ごし方は限られてくる。 馬を遠乗りするか、部屋で趣味にでも耽るか、魔法の鍛錬でもするか、仲の良い者同士ワインかお茶を飲み交わすか。 『貴族たるもの優雅であれ』が一般的であるハルケギニアでは、お上品な坊ちゃん嬢ちゃんがたが思いつく娯楽などその程度でしかない。 そして、この少女達もその例外ではなく―――― 「・・・暇ねぇ」 赤髪褐色肌の少女、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは飲み干した紅茶のカップを受け皿に置くと、億劫そうに髪を掻き上げた。 何とも舌を噛みそうなフルネームだが我慢して欲しい。誰か一息で呼べた人が居たらまず尊敬されるだろうからぜひチャレンジしたまえ。 動作に合わせて、下着のラインが全く見えない豊満な胸元がプルンと揺れる。 この学院で過ごす野郎どもなら確実に彼女に釘付けになるだろうその様子も、今現在彼女の一番傍に居る年上の青年にはあまり効果が無い。 それ以上の脅威を持ったお妾さん2号(オプション:尖がりエルフ耳、ちょっと気弱、ドジッ娘属性)が居るしねえすぐ隣に。 青い本妻と、同じく青いお妾さん1号と仲良く一緒に。誰か藁人形と五寸釘持ってこーい。 ちなみに前者の属性はツンデレ姉系着痩せタイプ、後者はクーデレつるぺた妹系メガネッ娘タイプと幅広いニーズに対応しております。 「確かに娯楽とかって少ないよな、ここ」 「むしろ私達の所が騒がしすぎたのさ。というか、いつも賑やかにしてたのはアンタと父様の方じゃないか」 「愉快痛快、コメディアンも形無し」 ちなみにジョゼフがボケでサイトはツッコミだ。時々イザベラも混じって強烈な魔法ツッコミをかます場合もある。 そしてシャルロットが締めのオチ担当。冷静かつ的確な一言は王宮内でもファンが多い。 何だか一国の指導者として色々と間違ってる気がとってもするが、気にしてはいけない。 この作品自体ボケとエロと萌えで構成されてるんだから、今更考え込んでもきりが無いし。 「男漁りは飽きたのかい?またあれこれ貢がせりゃ少しは暇が潰せるかもねえ」 「たまにはそれ以外もしたくなる時もあるのよ。皆つまらない男ばかりだもの」 「そ、それはちょっと、言い過ぎじゃないかなぁ」 相手によっては怒らせるのに充分な一言を言ったイザベラだが、言われたキュルケは気分を害した風も無く溜息。 だって事実だし。 対照的―主な理由は髪と得意な魔法の系統―なイザベラとキュルケ。 だが2人共明け透けなのを好む似たような性格の為か、お互いこの学院で最初に出来た友人となった。 キュルケは『火』のトライアングルである為同じくトライアングルの『風』であるシャルロットとは実力者同士通じる物があったのか、イザベラ以上に正反対なコンビだがこれまた仲が良い。 そして生来によるものか生まれなどをあまり気にしないゲルマニア人らしい性質というべきか、半分エルフの血を引き特徴的な耳を持つティファニア相手でも臆する事無く普通に同じ立場の相手として接しているお陰で彼女からも懐かれている。 イザベラだけでなく、他国からの留学生である王家の彼女達にとってこの学院で出来た初めての友人。 それがサイトの客観的視点を考慮して出した結論だ。 紛れも無く良い事だろう。彼女達の会話の内容は男として激しく複雑だが。 「大体ねぇ、トリステインの男は皆口ばかりで心が篭ってないのよ。分かる?幾らでも甘い言葉は囁く割に情熱が感じられないのよ」 「まあアンタの色仕掛けにホイホイ引っかかる様な男は皆そうだろうねぇ」 「下半身に忠実」 何とも厳しい事で。幾ら該当しない(多分)サイトも思わず頬にマンガ汗。 「・・・シャルロット、そろそろ私と交代する時間だよ」 「もうちょっとだけ」 「10分前もそう言ったじゃないか。それじゃあこれでいいだろう?」 イザベラが杖を振ると、『レビテーション』をかけられたシャルロットが座った姿勢のまま宙に浮いた・・・サイトの膝の上から。 空いたサイトの膝に今度はイザベラが素早く腰を下ろして、そのイザベラの膝にシャルロットが乗る。 瞬間周囲の視線・・・主に向けてくる相手は男子生徒ばかり・・・に篭る殺気の量が倍増したが華麗にスルー。 イザベラ共々サイトに抱き締められ、イザベラに優しく頭を撫でられているシャルロットの表情は満更でも無さそうだった。 そんな3人の様子をキュルケは呆れた様子で見ている。 「本当・・・仲が良いわね」 「結構長い付き合いだしねえ。昔からこういう風にして貰ってたからさ、気に入ってるんだよ」 「2人の膝の上、落ち着く」 「足は痺れたりするけどまあ慣れたし。俺もこうして抱き締めてると落ち着くんだよ」 ピュアにラブラブである。しかも姉妹丼である。何気にハブられてるエルフっ娘はちょっと羨ましそうだ。 これでほぼ毎晩毎晩王家の跡継ぎの3人が揃って仲良く、パッと見冴えないこの青年の手で―いや腰で?―啼かされてるから世の中分からない。 つーかヤるのは構わないがもうちょっと落ち着いてして欲しい。 主に4人がイタす時に使ってるイザベラの部屋の隣はキュルケなのだ。寝不足はお肌の天敵である。 彼女達と交流を持つ様になってから、時折キュルケが感じるようになった事がある。 こんな風に純粋に―男1人に女3人という比率は置いといて―幸せそうにイチャ×2しているのを見ていると、幾ら『微熱』の2つ名でもって数々の男性達を手玉に取ってきた彼女でも、ふと思ってしまうのだ。 ―――――たまにはあたしも、純粋な恋愛がしてみたい。 それは彼女にとってある意味、もっとも贅沢な悩みだった。 #br とある日の『虚無』の曜日。 キュルケはいつかと同じ様に受け皿に紅茶のカップを乗せると溜息をついた。 但し今回テーブルに座っているのは彼女1人で、場所はトリステイン王家のお膝元の城下町だが。 かれこれ21人目の男友達に誘われて暇潰しのデートとばかりに馬に遠乗りしてきたは良いのだが・・・ 一緒に店を廻ってる途中(もちろん代金は男持ち)で、何だかどうしようもなく飽きたキュルケは勝手にお開きにして分かれたのだった。 その際買い込んだ荷物を全て男に押し付けたのは、彼女らしいと言えば彼女らしいかもしれない。 男は哀れだが、名前も出てこないモブキャラは放っといて。 「何だか空しいわぁ・・・」 ほぅ、と憂鬱そうに溜息。 ナイスバディの美少女の悩ましげな様子に店員と客―もちろん、全員男―が鼻の下を伸ばして釘付けになっているが、それはいつもの事なので無視。 むしろどんどん見てちょーだいとばかりに丈の非常に短い改造スカートから覗く健康的な太ももを組み替える。 早くも前屈みになった男が1人2人。元気だ。 しかし、とっくに興奮している周りの野郎どもとは対照的に、そんな彼らにアピールして見せている当のキュルケは何とも億劫そうだった。 どうも最近、どんな男(主に魔法学院の男子生徒)と遊んでも楽しくない。つまらない。 まるで、自分の中の情熱の火種が掻き消えてしまったかのような、冷めた感覚。 もちろん、原因は分かってる。 ――――やっぱり、イザベラ達が羨ましいのかしらねぇ。 男と一緒に居るだけであんなに幸せそうになった事はキュルケは一度も無い気がする。 キュルケが相手にした事があるのは自分から誘って堕ちた男ばかりで、彼女達のように1人の男を想い続けた事があったかと聞かれたら・・・ 首を横に振らざる負えない。 あっさり男を誘惑してきたからキュルケだからこそ、そんな思慕の結果結ばれた経験など無かった。 そんな相応しい相手と出会う事が無かった、という点もあるかもしれないが。 そんな時。 「おや、もしやミス・ツェルプストーではありませんか?」 どこかで聞き覚えのある声が賭けられた。誰かと思って目を向けてみれば、居たのはあれこれ詰まった紙袋を抱えた冴えない中年が1人。 頭部の髪が無くて剥き出しのお肌がとっても眩しいお方であった。 「ほっといて下さい!」 「誰に言ってるんですの、ミスタ・コルベール?」 「ああいえすみません、ミス・ツェルプストーに言った訳ではありませんよ」 『火』系統の講義を担当している魔法学院の教師、コルベールだった。 ちなみに天の声(ナレーション)に突っ込む程度に壊れているのは仕様だ。 「こんな所で会うとは奇遇ですな。お1人ですかな?」 「ええ、『今の所』はそうですわ。ミスタは、買い物ですか?」 「ええその通り、実験には魔法だけでなく薬品や機材が不可欠ですからな!やはり魔法で全てが全て行える訳ではありませんので」 キュルケのコルベールに対する評価は、『教師としては優秀だがパッとしない男』である。 一部の教師みたいにイヤミったらしく自分の実力や系統を授業にかこつけてひけらかさずにどの生徒でも平等に親切に接するが、言ってしまえばそれだけである。 ああそれにしょっちゅう自分の研究室に閉じこもってはあれこれ実験しているらしいから、研究好きの変り者も付け足すべきか。 むしろ、様々な実験や研究が仕事のアカデミーに就職した方が良かったんじゃなかろうか。 彼の得意な系統はキュルケと同じ『火』らしいが、それらしい情熱の欠片など別の方向でしか見当たらない相手だ。 テンション高めで抱えていた紙袋の中身を見せようとしていたコルベール。 だがふと真面目な顔になると、まっすぐキュルケを見つめて教師としての口調で注意を言い始めた。 「ミス・ツェルプストー、最近は夜になると学院と城下町の間の道で人や動物が襲われる事件が多発しているそうだから、早めに学院に戻るのですぞ」 「お気になさらず。どんな相手であろうと私の炎でこんがりウェルダンにしてみせますわ」 「油断は禁物です。例えどのような実力者であっても、驕りと油断は死を招く一番の要因なのですから。 もっとも誰も傷つく事無く解決できるのなら、それが何よりですけどね・・・・・・」 心底真面目で心配そうな実感の篭められた声だったが、キュルケの返答は馬鹿にしたような笑い。 「ご忠告だけは受け取らせていただきますわ。ミスタ・コルベール」 「・・・・・・くれぐれも気をつけるのですよ。それでは私は他に寄る場所がありますから、失礼しますぞ」 足早に立ち去って行くコルベールの言葉は、キュルケの耳には届かなかった。 キュルケは―――今度は教師を相手にしてみるのもいいかしらと、暢気に早くも今の会話の内容を忘れ去ってしまっていた。
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それは蒼から始まった物語 (7):HEAT 1 バレット氏 #br 魔法学院の生徒達は皆貴族の子息子女、未来の紳士淑女候補である。 毎晩3人の王家の少女と仲良くシッポリしている某黒髪の青年を見てると何処が紳士淑女だバカヤローと言いたくなるだろうが、それでも未来の紳士淑女といったらそうなのである。反論は却下だ却下。 とにかく、そんな少年少女ばかりだからこそ休日の過ごし方は限られてくる。 馬を遠乗りするか、部屋で趣味にでも耽るか、魔法の鍛錬でもするか、仲の良い者同士ワインかお茶を飲み交わすか。 『貴族たるもの優雅であれ』が一般的であるハルケギニアでは、お上品な坊ちゃん嬢ちゃんがたが思いつく娯楽などその程度でしかない。 そして、この少女達もその例外ではなく―――― 「・・・暇ねぇ」 赤髪褐色肌の少女、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは飲み干した紅茶のカップを受け皿に置くと、億劫そうに髪を掻き上げた。 何とも舌を噛みそうなフルネームだが我慢して欲しい。誰か一息で呼べた人が居たらまず尊敬されるだろうからぜひチャレンジしたまえ。 動作に合わせて、下着のラインが全く見えない豊満な胸元がプルンと揺れる。 この学院で過ごす野郎どもなら確実に彼女に釘付けになるだろうその様子も、今現在彼女の一番傍に居る年上の青年にはあまり効果が無い。 それ以上の脅威を持ったお妾さん2号(オプション:尖がりエルフ耳、ちょっと気弱、ドジッ娘属性)が居るしねえすぐ隣に。 青い本妻と、同じく青いお妾さん1号と仲良く一緒に。誰か藁人形と五寸釘持ってこーい。 ちなみに前者の属性はツンデレ姉系着痩せタイプ、後者はクーデレつるぺた妹系メガネッ娘タイプと幅広いニーズに対応しております。 「確かに娯楽とかって少ないよな、ここ」 「むしろ私達の所が騒がしすぎたのさ。というか、いつも賑やかにしてたのはアンタと父様の方じゃないか」 「愉快痛快、コメディアンも形無し」 ちなみにジョゼフがボケでサイトはツッコミだ。時々イザベラも混じって強烈な魔法ツッコミをかます場合もある。 そしてシャルロットが締めのオチ担当。冷静かつ的確な一言は王宮内でもファンが多い。 何だか一国の指導者として色々と間違ってる気がとってもするが、気にしてはいけない。 この作品自体ボケとエロと萌えで構成されてるんだから、今更考え込んでもきりが無いし。 「男漁りは飽きたのかい?またあれこれ貢がせりゃ少しは暇が潰せるかもねえ」 「たまにはそれ以外もしたくなる時もあるのよ。皆つまらない男ばかりだもの」 「そ、それはちょっと、言い過ぎじゃないかなぁ」 相手によっては怒らせるのに充分な一言を言ったイザベラだが、言われたキュルケは気分を害した風も無く溜息。 だって事実だし。 対照的―主な理由は髪と得意な魔法の系統―なイザベラとキュルケ。 だが2人共明け透けなのを好む似たような性格の為か、お互いこの学院で最初に出来た友人となった。 キュルケは『火』のトライアングルである為同じくトライアングルの『風』であるシャルロットとは実力者同士通じる物があったのか、イザベラ以上に正反対なコンビだがこれまた仲が良い。 そして生来によるものか生まれなどをあまり気にしないゲルマニア人らしい性質というべきか、半分エルフの血を引き特徴的な耳を持つティファニア相手でも臆する事無く普通に同じ立場の相手として接しているお陰で彼女からも懐かれている。 イザベラだけでなく、他国からの留学生である王家の彼女達にとってこの学院で出来た初めての友人。 それがサイトの客観的視点を考慮して出した結論だ。 紛れも無く良い事だろう。彼女達の会話の内容は男として激しく複雑だが。 「大体ねぇ、トリステインの男は皆口ばかりで心が篭ってないのよ。分かる?幾らでも甘い言葉は囁く割に情熱が感じられないのよ」 「まあアンタの色仕掛けにホイホイ引っかかる様な男は皆そうだろうねぇ」 「下半身に忠実」 何とも厳しい事で。幾ら該当しない(多分)サイトも思わず頬にマンガ汗。 「・・・シャルロット、そろそろ私と交代する時間だよ」 「もうちょっとだけ」 「10分前もそう言ったじゃないか。それじゃあこれでいいだろう?」 イザベラが杖を振ると、『レビテーション』をかけられたシャルロットが座った姿勢のまま宙に浮いた・・・サイトの膝の上から。 空いたサイトの膝に今度はイザベラが素早く腰を下ろして、そのイザベラの膝にシャルロットが乗る。 瞬間周囲の視線・・・主に向けてくる相手は男子生徒ばかり・・・に篭る殺気の量が倍増したが華麗にスルー。 イザベラ共々サイトに抱き締められ、イザベラに優しく頭を撫でられているシャルロットの表情は満更でも無さそうだった。 そんな3人の様子をキュルケは呆れた様子で見ている。 「本当・・・仲が良いわね」 「結構長い付き合いだしねえ。昔からこういう風にして貰ってたからさ、気に入ってるんだよ」 「2人の膝の上、落ち着く」 「足は痺れたりするけどまあ慣れたし。俺もこうして抱き締めてると落ち着くんだよ」 ピュアにラブラブである。しかも姉妹丼である。何気にハブられてるエルフっ娘はちょっと羨ましそうだ。 これでほぼ毎晩毎晩王家の跡継ぎの3人が揃って仲良く、パッと見冴えないこの青年の手で―いや腰で?―啼かされてるから世の中分からない。 つーかヤるのは構わないがもうちょっと落ち着いてして欲しい。 主に4人がイタす時に使ってるイザベラの部屋の隣はキュルケなのだ。寝不足はお肌の天敵である。 彼女達と交流を持つ様になってから、時折キュルケが感じるようになった事がある。 こんな風に純粋に―男1人に女3人という比率は置いといて―幸せそうにイチャ×2しているのを見ていると、幾ら『微熱』の2つ名でもって数々の男性達を手玉に取ってきた彼女でも、ふと思ってしまうのだ。 ―――――たまにはあたしも、純粋な恋愛がしてみたい。 それは彼女にとってある意味、もっとも贅沢な悩みだった。 #br とある日の『虚無』の曜日。 キュルケはいつかと同じ様に受け皿に紅茶のカップを乗せると溜息をついた。 但し今回テーブルに座っているのは彼女1人で、場所はトリステイン王家のお膝元の城下町だが。 かれこれ21人目の男友達に誘われて暇潰しのデートとばかりに馬に遠乗りしてきたは良いのだが・・・ 一緒に店を廻ってる途中(もちろん代金は男持ち)で、何だかどうしようもなく飽きたキュルケは勝手にお開きにして分かれたのだった。 その際買い込んだ荷物を全て男に押し付けたのは、彼女らしいと言えば彼女らしいかもしれない。 男は哀れだが、名前も出てこないモブキャラは放っといて。 「何だか空しいわぁ・・・」 ほぅ、と憂鬱そうに溜息。 ナイスバディの美少女の悩ましげな様子に店員と客―もちろん、全員男―が鼻の下を伸ばして釘付けになっているが、それはいつもの事なので無視。 むしろどんどん見てちょーだいとばかりに丈の非常に短い改造スカートから覗く健康的な太ももを組み替える。 早くも前屈みになった男が1人2人。元気だ。 しかし、とっくに興奮している周りの野郎どもとは対照的に、そんな彼らにアピールして見せている当のキュルケは何とも億劫そうだった。 どうも最近、どんな男(主に魔法学院の男子生徒)と遊んでも楽しくない。つまらない。 まるで、自分の中の情熱の火種が掻き消えてしまったかのような、冷めた感覚。 もちろん、原因は分かってる。 ――――やっぱり、イザベラ達が羨ましいのかしらねぇ。 男と一緒に居るだけであんなに幸せそうになった事はキュルケは一度も無い気がする。 キュルケが相手にした事があるのは自分から誘って堕ちた男ばかりで、彼女達のように1人の男を想い続けた事があったかと聞かれたら・・・ 首を横に振らざる負えない。 あっさり男を誘惑してきたからキュルケだからこそ、そんな思慕の結果結ばれた経験など無かった。 そんな相応しい相手と出会う事が無かった、という点もあるかもしれないが。 そんな時。 「おや、もしやミス・ツェルプストーではありませんか?」 どこかで聞き覚えのある声が賭けられた。誰かと思って目を向けてみれば、居たのはあれこれ詰まった紙袋を抱えた冴えない中年が1人。 頭部の髪が無くて剥き出しのお肌がとっても眩しいお方であった。 「ほっといて下さい!」 「誰に言ってるんですの、ミスタ・コルベール?」 「ああいえすみません、ミス・ツェルプストーに言った訳ではありませんよ」 『火』系統の講義を担当している魔法学院の教師、コルベールだった。 ちなみに天の声(ナレーション)に突っ込む程度に壊れているのは仕様だ。 「こんな所で会うとは奇遇ですな。お1人ですかな?」 「ええ、『今の所』はそうですわ。ミスタは、買い物ですか?」 「ええその通り、実験には魔法だけでなく薬品や機材が不可欠ですからな!やはり魔法で全てが全て行える訳ではありませんので」 キュルケのコルベールに対する評価は、『教師としては優秀だがパッとしない男』である。 一部の教師みたいにイヤミったらしく自分の実力や系統を授業にかこつけてひけらかさずにどの生徒でも平等に親切に接するが、言ってしまえばそれだけである。 ああそれにしょっちゅう自分の研究室に閉じこもってはあれこれ実験しているらしいから、研究好きの変り者も付け足すべきか。 むしろ、様々な実験や研究が仕事のアカデミーに就職した方が良かったんじゃなかろうか。 彼の得意な系統はキュルケと同じ『火』らしいが、それらしい情熱の欠片など別の方向でしか見当たらない相手だ。 テンション高めで抱えていた紙袋の中身を見せようとしていたコルベール。 だがふと真面目な顔になると、まっすぐキュルケを見つめて教師としての口調で注意を言い始めた。 「ミス・ツェルプストー、最近は夜になると学院と城下町の間の道で人や動物が襲われる事件が多発しているそうだから、早めに学院に戻るのですぞ」 「お気になさらず。どんな相手であろうと私の炎でこんがりウェルダンにしてみせますわ」 「油断は禁物です。例えどのような実力者であっても、驕りと油断は死を招く一番の要因なのですから。 もっとも誰も傷つく事無く解決できるのなら、それが何よりですけどね・・・・・・」 心底真面目で心配そうな実感の篭められた声だったが、キュルケの返答は馬鹿にしたような笑い。 「ご忠告だけは受け取らせていただきますわ。ミスタ・コルベール」 「・・・・・・くれぐれも気をつけるのですよ。それでは私は他に寄る場所がありますから、失礼しますぞ」 足早に立ち去って行くコルベールの言葉は、キュルケの耳には届かなかった。 キュルケは―――今度は教師を相手にしてみるのもいいかしらと、暢気に早くも今の会話の内容を忘れ去ってしまっていた。
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