ゼロの使い魔保管庫
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落ち延びた二人 前編 アトピック氏 #br 「いたぞ!逃がすな!」 「追え!追え!」 燃え盛る城を背景にぐったりと意識を失ったジョゼフを背負いながら敵兵から逃亡を続ける女が一人。 彼の使い魔、ミョズニトニルンことシェフィールドは必死に走っていた。自分の分身を生み出すマジックアイテムを駆使しつつ、なんとか逃げおおせてはいるものの。そろそろ、精神力も底をつきかけてきている。 このままだと、間違いなく捕らえられてしまうだろう。とはいえ、それは担いでいるジョゼフがいたらの話、彼を捨てれば自分は助かるだろう。それは単純に逃げ足が速くなるという事だけでなくジョゼフの首級のでかさの為でもある。しかし、シェフィールドはそれができないでいた。 自分はジョゼフの使い魔でなければ取るに足らない人間である、とシェフィールドは考えている。 元々、魔法の素質はほとんどなく現在の力はミョズニトニルンとして覚醒した時に目覚めたものである。 よってシェフィールドにとってはジョゼフは主人であり自分を価値のある人間にしてくれた恩人なのだ。 恩人を捨てて生きるほど、自分は薄情ではない。だから、主人と使い魔という契約だけではなくそういった点から彼女はジョゼフを捨てれないでいる。と現時点での彼女はそう自分に言い聞かせていた。 「!!」 シェフィールドの足が止まった。逃げ続けていた彼女の道の先にはすでに道はなく、そこは谷になり底には濁流が走っていた。 「へへ、これでお終いのようだな」 「さぁ、お縄になれ」 追いついて来た兵士達が彼女の周りを囲む、シェフィールドは絶体絶命のピンチを迎えた。 しかし、ここにきてにやにやとすでに笑みを浮かべる兵士達をシェフィールドは一瞥すると、迷いもなく後ろの谷へ身を投げ出した。 「何!!」 「あの女、やけになったか」 「くそ、みえやしねぇ」 「だめだぁ、こんな状況で飛び込んだらひとたまりもねぇ」 ボチャンと勢い良く人間二人が水の中に落ちた音が聞こえると共に、功に焦っていた兵士達から落胆の声があがった。 人里も遠くに離れた森の中、ここに一軒の寂れた人家があった。炊事の煙があがっているところを見ると人は住んでいるようであった。炊事場で女が一人、常人が食べるには少し柔らかすぎる程煮込まれた野菜のスープとふやけたパンを調理していた。女は調理が終わると、それを皿に移し、トレーに乗せてその場を後にした。そして女はそれらをもって別室へと移動する。そして別室のドアを開けるとそこには一人の男がベッドの上で寝ていた。そう、かのガリア王、ジョゼフその人である。 兵士達に囲まれ濁流に自ら身を寄せたシェルフィードは実は前もってから川を逃亡ルートとして使う準備をしてあったのだ。それも溺死に見せかけての、である。あの時、自ら飛び込んだのは事前に水に対して抵抗が無くなるという秘薬『人魚薬』を服用していた為である。もちろん、ジョゼフにも口移しでそれを飲ませておいた為、彼も水の中での抵抗は受けないようにしておいてある。人魚薬…その名の通り、水の中では魚のように動き回れるようになる秘薬を服用したのではあるが、それでもこれはギリギリの選択であったといえよう。魚のように動き回れるようになっても、流れている川は先日に降った雨の影響でひどい暴れ川と化していいるのだ、それに加えて気を失った人間を一人抱えての一仕事である。危険な賭けには違いなかった。そもそも何も逃げるだけなら危険を侵さず逃げる方法はいくらでもあるのだ。しかし、自分はミョズニトニルンで主はガリア王ジョゼフだ、逃げ切ったところでそれこそ敵軍は血眼になって追撃の部隊を編成して探し出して来るだろう。そうなれば、一貫のお終いだ。すでに戦の趨勢はあちらに流れており、逃げ続けるにも限界があるからだ。 では一度の逃亡で生き残るにはどうすればいいか?それは敵に死んだと思わせればいいのである。ただしそう思い込ませるにはそれだけのリスクを背負い込む必要である。結局、シェフィールドは危険な賭けを選んだ。あれから、何とか濁流を越えて自分しか知らないこのアジトに辿り着いた。このアジトにはそれなりの蓄えが常備されてある、二人で平穏に暮らすには一生は暮らせるだけのそれなりの蓄えが。潜伏先にはうってつけといえた。 そして、ここにきてからはやふた月、ジョゼフはまだ目をさまさなかった。 シェフィールドのミョズニトニルンとして覚醒してから覚えた知識、能力と魔法(特に薬作り)、そして献身的な介護もあってか、肉体的な衰えは見られなかった。しかし、その分穏やかなその寝姿はもう二度と目を覚まさないようにも見え、シェフィールドの心を不安にさせた。 寝ているジョセフのところまで来ると、シェフィールドはトレーを机に置き、野菜スープを自らの口に含んだ。 そして、すでに柔らかくなっている野菜をさらに柔らかくすべく咀嚼し。そのままジョゼフに口付けた。 口移しである。無論、ただ唇を合わせるだけでなく舌も使い食物を奥へ奥へと捻じ込んでいく。意識はないがこのようにすると、きちんと飲み込んでくれるため量に気をつけていれば咽る事がないのが幸いだった。 口に含んだ食物が無くなると、また口に食物を含み、それが無くなるとまた含んで………を繰り返していくと気づけば料理は全て、無くなっていた。シェフィールドが口を離すとお互いの口から銀の糸が垂れ、消えた。 「ジョゼフ様………」 頬を上気させて、シェフィールドが呟くと彼女はそのままジョゼフを抱きしめた。このふた月、彼の介護をしている間に彼女に芽生え始め、いや気づいていなかった『女』としてのシェフィールドがそこにいた。 自分は主従の関係、恩人への恩を返す為にこの人を救ったのだと考えていたシェフィールドだったが。彼の介護をしている内に決してそれだけは無いという事に気づいていった。例えば、先ほどのように口移しで食事を与える時に必要以上に舌を絡める自分がいた。体を清める為に体を拭いている時に必要以上に彼の体臭を嗅いでいる自分がいたのだ。そして、そんな自分に気づくとシェフィールドは困惑した。幸い、考えれる時間腐るほどあったので、彼女はそこで自問自答を繰り返した。しかし、それでも何故かはわからなかった。 ただ、自分がジョゼフの事を愛しているという事以外は………。 シェフィールドの目元から思わず涙がこぼれた、そしてその涙は頬を伝い、ジョゼフの唇を濡らした。 そして……… 「ん………」 「ジョゼフ様!?」 それがきっかけになったのかはわからなかったが、ジョゼフは唐突に呻き声をあげた。 「シェフィールドか」 か細い、が覇気のある言葉でしっかりとジョゼフは呟いた。 「はい、あなたの使い魔シェフィールドにございます」 「ここは?あの後、私はどうなったのだ」 「はい、それは…」 ジョゼフの問いにシェフィールドが答えた。城が陥落した事、命からがらここまで逃げ延びた事、すでにふた月は眠っていた事……。 「そうか、そんなに…。ふふ、負けた、か」 「ジョゼフ様………」 「私が眠っていた間、お前が面倒みてくれていたのか」 「はい、それが私の務めですから」 「………。眠っていた間、何か暖かく心地良いものに包まれていた気がしたがあれはお前だったのか」 「え?それは…」 「ふん、そうだ。起きたついでだ、体を拭いてくれないか?」 「は、はい」 シェフィールドは大急ぎでジョゼフの体を拭く準備をした。
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落ち延びた二人 前編 アトピック氏 #br 「いたぞ!逃がすな!」 「追え!追え!」 燃え盛る城を背景にぐったりと意識を失ったジョゼフを背負いながら敵兵から逃亡を続ける女が一人。 彼の使い魔、ミョズニトニルンことシェフィールドは必死に走っていた。自分の分身を生み出すマジックアイテムを駆使しつつ、なんとか逃げおおせてはいるものの。そろそろ、精神力も底をつきかけてきている。 このままだと、間違いなく捕らえられてしまうだろう。とはいえ、それは担いでいるジョゼフがいたらの話、彼を捨てれば自分は助かるだろう。それは単純に逃げ足が速くなるという事だけでなくジョゼフの首級のでかさの為でもある。しかし、シェフィールドはそれができないでいた。 自分はジョゼフの使い魔でなければ取るに足らない人間である、とシェフィールドは考えている。 元々、魔法の素質はほとんどなく現在の力はミョズニトニルンとして覚醒した時に目覚めたものである。 よってシェフィールドにとってはジョゼフは主人であり自分を価値のある人間にしてくれた恩人なのだ。 恩人を捨てて生きるほど、自分は薄情ではない。だから、主人と使い魔という契約だけではなくそういった点から彼女はジョゼフを捨てれないでいる。と現時点での彼女はそう自分に言い聞かせていた。 「!!」 シェフィールドの足が止まった。逃げ続けていた彼女の道の先にはすでに道はなく、そこは谷になり底には濁流が走っていた。 「へへ、これでお終いのようだな」 「さぁ、お縄になれ」 追いついて来た兵士達が彼女の周りを囲む、シェフィールドは絶体絶命のピンチを迎えた。 しかし、ここにきてにやにやとすでに笑みを浮かべる兵士達をシェフィールドは一瞥すると、迷いもなく後ろの谷へ身を投げ出した。 「何!!」 「あの女、やけになったか」 「くそ、みえやしねぇ」 「だめだぁ、こんな状況で飛び込んだらひとたまりもねぇ」 ボチャンと勢い良く人間二人が水の中に落ちた音が聞こえると共に、功に焦っていた兵士達から落胆の声があがった。 人里も遠くに離れた森の中、ここに一軒の寂れた人家があった。炊事の煙があがっているところを見ると人は住んでいるようであった。炊事場で女が一人、常人が食べるには少し柔らかすぎる程煮込まれた野菜のスープとふやけたパンを調理していた。女は調理が終わると、それを皿に移し、トレーに乗せてその場を後にした。そして女はそれらをもって別室へと移動する。そして別室のドアを開けるとそこには一人の男がベッドの上で寝ていた。そう、かのガリア王、ジョゼフその人である。 兵士達に囲まれ濁流に自ら身を寄せたシェルフィードは実は前もってから川を逃亡ルートとして使う準備をしてあったのだ。それも溺死に見せかけての、である。あの時、自ら飛び込んだのは事前に水に対して抵抗が無くなるという秘薬『人魚薬』を服用していた為である。もちろん、ジョゼフにも口移しでそれを飲ませておいた為、彼も水の中での抵抗は受けないようにしておいてある。人魚薬…その名の通り、水の中では魚のように動き回れるようになる秘薬を服用したのではあるが、それでもこれはギリギリの選択であったといえよう。魚のように動き回れるようになっても、流れている川は先日に降った雨の影響でひどい暴れ川と化していいるのだ、それに加えて気を失った人間を一人抱えての一仕事である。危険な賭けには違いなかった。そもそも何も逃げるだけなら危険を侵さず逃げる方法はいくらでもあるのだ。しかし、自分はミョズニトニルンで主はガリア王ジョゼフだ、逃げ切ったところでそれこそ敵軍は血眼になって追撃の部隊を編成して探し出して来るだろう。そうなれば、一貫のお終いだ。すでに戦の趨勢はあちらに流れており、逃げ続けるにも限界があるからだ。 では一度の逃亡で生き残るにはどうすればいいか?それは敵に死んだと思わせればいいのである。ただしそう思い込ませるにはそれだけのリスクを背負い込む必要である。結局、シェフィールドは危険な賭けを選んだ。あれから、何とか濁流を越えて自分しか知らないこのアジトに辿り着いた。このアジトにはそれなりの蓄えが常備されてある、二人で平穏に暮らすには一生は暮らせるだけのそれなりの蓄えが。潜伏先にはうってつけといえた。 そして、ここにきてからはやふた月、ジョゼフはまだ目をさまさなかった。 シェフィールドのミョズニトニルンとして覚醒してから覚えた知識、能力と魔法(特に薬作り)、そして献身的な介護もあってか、肉体的な衰えは見られなかった。しかし、その分穏やかなその寝姿はもう二度と目を覚まさないようにも見え、シェフィールドの心を不安にさせた。 寝ているジョセフのところまで来ると、シェフィールドはトレーを机に置き、野菜スープを自らの口に含んだ。 そして、すでに柔らかくなっている野菜をさらに柔らかくすべく咀嚼し。そのままジョゼフに口付けた。 口移しである。無論、ただ唇を合わせるだけでなく舌も使い食物を奥へ奥へと捻じ込んでいく。意識はないがこのようにすると、きちんと飲み込んでくれるため量に気をつけていれば咽る事がないのが幸いだった。 口に含んだ食物が無くなると、また口に食物を含み、それが無くなるとまた含んで………を繰り返していくと気づけば料理は全て、無くなっていた。シェフィールドが口を離すとお互いの口から銀の糸が垂れ、消えた。 「ジョゼフ様………」 頬を上気させて、シェフィールドが呟くと彼女はそのままジョゼフを抱きしめた。このふた月、彼の介護をしている間に彼女に芽生え始め、いや気づいていなかった『女』としてのシェフィールドがそこにいた。 自分は主従の関係、恩人への恩を返す為にこの人を救ったのだと考えていたシェフィールドだったが。彼の介護をしている内に決してそれだけは無いという事に気づいていった。例えば、先ほどのように口移しで食事を与える時に必要以上に舌を絡める自分がいた。体を清める為に体を拭いている時に必要以上に彼の体臭を嗅いでいる自分がいたのだ。そして、そんな自分に気づくとシェフィールドは困惑した。幸い、考えれる時間腐るほどあったので、彼女はそこで自問自答を繰り返した。しかし、それでも何故かはわからなかった。 ただ、自分がジョゼフの事を愛しているという事以外は………。 シェフィールドの目元から思わず涙がこぼれた、そしてその涙は頬を伝い、ジョゼフの唇を濡らした。 そして……… 「ん………」 「ジョゼフ様!?」 それがきっかけになったのかはわからなかったが、ジョゼフは唐突に呻き声をあげた。 「シェフィールドか」 か細い、が覇気のある言葉でしっかりとジョゼフは呟いた。 「はい、あなたの使い魔シェフィールドにございます」 「ここは?あの後、私はどうなったのだ」 「はい、それは…」 ジョゼフの問いにシェフィールドが答えた。城が陥落した事、命からがらここまで逃げ延びた事、すでにふた月は眠っていた事……。 「そうか、そんなに…。ふふ、負けた、か」 「ジョゼフ様………」 「私が眠っていた間、お前が面倒みてくれていたのか」 「はい、それが私の務めですから」 「………。眠っていた間、何か暖かく心地良いものに包まれていた気がしたがあれはお前だったのか」 「え?それは…」 「ふん、そうだ。起きたついでだ、体を拭いてくれないか?」 「は、はい」 シェフィールドは大急ぎでジョゼフの体を拭く準備をした。
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