ゼロの使い魔保管庫
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せかんど・バージン1話.『愛は暗闇の中で』(3) ぎふと氏 #br 「なんだよ。俺なんかした?」 不機嫌さを隠そうともしない低い声に、ルイズは我に返った。 まだ痛む顎を押さえたまま、才人が暗がり越しにこちらをじっと見ている。 (な、なによ……) わけもなくルイズは泣きたくなった。怒るより泣きたくなった。 今まで浮かれていただけにその反動は大きかった。 才人の問いに答えるならば、それはYESだ。何か“した”のだ。 嫌だったから拒んだ。それだけのこと。なのにどうしてこんなに怒られるのかわからない。 「ダメなの。そこは……」 やっとのことでそれだけを言った。 「なんで?」 ルイズは言葉を返せなかった。 拒んだ、それは単純に嫌だからで、それ以上に何の理由があるだろう。 しばらくして才人は諦めたように大きく息を吐いた。 「わかったよ。しないから。だからルイズがいいってとこ教えてよ」 「……キスはいいわ」 消え入りそうな声で言う。 恥ずかしかったけれど、才人の要求に全力で応えたいという気持ちは確かにあるのだ。 「……あと首と耳も。顔ぜんぶ。そ、それと抱きしめるのも」 才人は押し黙ったままだ。 勇気を振り絞った。 「む、胸も……許すわ……」 嫌だったのは他の女の子と比べられるからだ。いまとなっては拒む理由などない。 才人は喜んでくれるだろうか? 様子を伺ったけれど、身じろぎひとつする気配もなかった。 「あとは……その……」 ルイズは口ごもった。続く言葉がみつからなかった。 あからさまにそれだけ? という空気がピリピリと伝わる。 なにせルイズが挙げたのは、すでに許した場所ばかりだ。 でも、でも……、ルイズは唇を噛んだ。仕方ないじゃない。 才人が望んでいることが、ルイズにはわからない。わからないのに、教えろといわれても困るばかりだ。 ルイズは決心した。最大の譲歩をみせた。 ぎゅっと目をつぶって、声をしぼりだした 「ぜ、ぜんぶ。さっきのとこ以外ぜんぶっ!」 あまりの恥ずかしさに身悶えした。かあっと顔が、全身が熱くなる。 ルイズ的にそれは『自分をあげます』と宣言するに等しかった。 + + + そんなルイズを才人は冷めた目で見ていた。 なにそれ。なんだよ“以外”ぜんぶって……。 そこまでしたくないのかよ。それってそんなご大層なもんか? あ、そうか。才人はひらめいた。いつもルイズが言ってるじゃないか。貴族がどうだって。 高貴なご身分だから、たいした公爵家のご令嬢だから、そんなはしたないマネはできませんってか? ああそうかよ。なんかもう、すっかり萎えてしまった。 そういう行為が女の子にとって特別だってのはわかるよ。理解はしてる。 だったら、前もってそう言えばいいんだ。 それなら自分もそのつもりで、許してもらえる範囲でベタベタいちゃいちゃする。 そのぐらいの理性は持ってるし、好きな女の子を大切にしたいという気持ちの方が、欲望なんかよりはるかに上だ。バカにすんな。 ルイズが、じっとこっちを見ていた。 やせっぽちで体を抱きしめてる姿は、捨てられた子猫みたいだ。 見ていたら、急に哀れみの気持ちがわいてきた。 1つの例外があるとはいえ、全て許すと言ったのだ。 プライドが高くて素直じゃないルイズにしてみれば、すごいことじゃないだろうか。 才人はゆっくりと身をかがめると、ルイズの唇にキスをおとした。 ひんやりした少ししょっぱいキスだった。 舌を入れる気にはなれなかったので、首筋に顔を埋めて肌を吸った。 ほんのりとミルクのような甘い香りがした。 薄い胸に触れながら、なんでルイズはこうなんだろうと悲しく思った。 例えばもしシエスタだったら、事ははるかに簡単に運んだにちがいない。 ふと友達の家でみたメイドさん調教モノを思い出した。明るい茶髪でキツめの顔をしたその女優さんとシエスタとは外見はまったく似ていないけど、恥じらいながらも大胆に振舞うところなんかはどこか通じるものがある。 女の子ってのはそういうものじゃないのか? 好きな相手にならなおさら。 シエスタとルイズの差はどこにあるんだろう。才人は考えた。 やっぱりあれかな。愛の深さ? シエスタが向けてくる愛情は思わずこっちがたじろいでしまうほどのパワーに溢れている。 セーラー服姿でくるっと回ってくれたり、裸エプロンだったり。 あーあれはもったいなかった。目をそらさなかったらばっちり見えてた。胸を触らせてくれたこともあったっけ。こうすごく柔らかくて……。 私は2番目でもいいんです、なんていじらしいことも言ってくれるし。 ルイズに向ける気持ちとは違うけれど、シエスタのことも確かに好きだ。 それにもしシエスタがいなかったら、知る人もいないこの世界でこんなに居心地よく過ごせてはいなかっただろう。 そんなことを考えていたので、まったく気づかなかった。 ルイズの体が小刻みに震えていた。 その口からひっく……と嗚咽が漏れて、それは一気に爆発した。 ルイズはわんわん声をあげて泣き出した。 + + + 氷みたい。 ルイズは、才人の口づけをそんなふうに思った。 どうして? さっきまであんなに気持ちよかったのに……。 いまじゃ胸に触れる手も、なんだか汚らわしいもののように思える。 なんでこんなふうになってしまったんだろう。 ぼんやりと考えた。 あの時、蹴り上げなければよかったのか。 ううん、それは無理。きっぱりと言い切れる。 たとえ時間を戻せたとしても、自分は同じことをするだろう。 才人を喜ばせるためなら、黒猫衣装だって踊り子衣装だってメイド服だって着てみせる。 恥ずかしいけど頑張る。 媚びたっていい。いざとなれば貴族のプライドなんてかなぐり捨ててみせる。 実際にできるかはおいといて、それぐらいの気概はあるのだ。 でも……、どうしてもできないことはある。 だって可愛くいみせたいじゃない。 いちばん可愛い女の子だって、思われたいじゃない。 一瞬でも目を離せなくて、とにかくメイドにも誰にも目移りしなくなるような、そんな魅力的な女の子。 だからこそ、隠しておきたいこともあるのだ。 なのに才人はそんな気持ちを裏切った。調子にのって自分を辱めた。 男の人にはそういう部分があると、前にキュルケに聞いたことがある。 シエスタが見せてくれた本にも、にわかには信じられないようなことが書いてあった。 でもそれは別の世界のことで、才人はそうでないと信じていた。 なのにどうしてわかってくれないのか……。 喉の奥から熱い固まりこみあげてきたが、ぐっと飲み込んだ。泣くのは嫌だった。 涙はとっておきの最終兵器だ。簡単には使ってはならないものだ。 自分が泣くと、才人は一もニもなく折れてしまう。 どれだけ自分に正当な主張があろうとも、いかにルイズが理不尽であろうとも、涙をみせると才人は簡単に頭を下げてしまう。 時にはそれもいいかもしれない。 でも今回は自分にもちゃんとした言い分があるのだ。 口には出せないけど、でもうやむやにして欲しくはなかった。理解してもらいたい。 だからこそ泣くことだけはしたくなかった。 そうして必死に涙をこらえていると、ふと才人の様子に違和感を感じた。 視線を下に落とした。胸に触れている才人の手。その形はまるで……。 ピンときた。女の子が生まれながらに持つ第六感ともいうべきもので。 瞬間、冷水を浴びせられたように全身が冷たくなった。次にがくがくと震えがおそった。 自分の中の誰かが言う。 (バカなルイズ。あんな言葉本気にしてたの? サイトがいつもどんな目で他の子の胸を見ていたか、ちゃんとわかっていたじゃない。ほんとおバカさん) でも言ってくれたの。私がいいって……。 (あんたが言わせたんでしょ。怖いご主人様に脅されて、サイトったら可哀想に心にもないこと言ったのね) もはや抑えることのできなくなった涙が一気にあふれ出た。 ルイズは声をあげて泣き出した。 + + + 「……だ、だれ……なの?」 「え?」 「……メイドなの? エルフ? そ、それとも……まさか姫さま?」 ひっくひっく、泣き声とともに吐き出された言葉に才人は愕然とした。 なんのことを言ってるんだ? いや……、わかりすぎるほどにわかっていた。 自分は最大のタブーを犯してしまったのだ。許されないことだった。 「知らない……もう絶対許さない……」 ルイズは胎児のように丸まって体を震わせて泣いていた。 (だ、だって仕方ねぇじゃん。あんなふうに拒まれたら……) 自分だって傷ついたのだ……。そんな心の声も空しく響く。 自分は男だ。女の子に拒まれたところでたいしたことじゃない。 でもルイズは……。信じていた相手に手ひどく裏切られたルイズは、もう決して自分を許してはくれないだろう。 きっと深い傷を負ってしまった。 「ごめん、ルイズ、ごめん」 認めてしまえばさらにルイズを傷つける。わかっていても言わずにはいられなかった。頭をすりつけて土下座した。その格好のままじっと耐えた。 バカだ俺。やっぱモグラはモグラでしかなかったよ……。 モグラ死刑。モグラ永久追放。いやもっと辛いのは、嫌われたままルイズの傍にいないといけないことだ。俺使い魔だから…・・・。ああダメか。デルフが言ってたっけ。心の震えがどうのって。 もう使い魔としても用無しかよ。いっそまた7万の敵でも来ないかな。今なら気持ちよくつっこんで行けそうだぜちくしょう。 しばらくそうしていたら、ルイズが動く気配がした。涙は止まったみたいだった。 でもきっと目がウサギみたいに真っ赤っ赤になってるんだろうな。その顔が頭に浮かぶ。 いきなり手をつかまれた。何をするのかと顔を上げたら……、 「え……ちょ、ちょっとルイズ?」 「黙って」 いや。でも。だって。……ていうか、この感触は? 「ほら好きにすれば? この変態下等生物。クラゲ。ミジンコ。あんたなんて犬以下だわよ」 さすがにさっきみたく濡れては……あ、いやじゃなくて。 「その代わり、二度とこんなマネしてみなさい。塵一つ残さないようあんたを処分してあげる」 うわっ。ちょっとそれマジ勘弁! 「変態ミジンコにお墓なんていらないものね。火葬してもらえるだけ幸せってものよね」 ってかなんだよ、人をつかまえて変態変態って。そこまで言われる筋合いねーだろ。 あ……。 なんだろう、今ちょっとひっかかった。 慌てて才人はそのひっかかりをつかまえた。するするとたぐり寄せる。 もしかして、そういうこと? 「なあ、ルイズ」 恐る恐る尋ねてみた。 「あによ」 「もしかしてお前知らないの?」 「何をよ」 「だからセ……、あ、いや、その子供の作り方ってか、やり方っていうか」 ルイズはあからさまに慌てた。 「ししし知ってるわよ!」 「じゃあ説明してみ?」 「そそそれは、その……、結婚した相手とひとつお布団に入って、その、いろいろするのよ。あ、その前に神と始祖ブリミルにお祈りもひ、必要よね」 「いろいろって?」 「だからいろいろよ!」 ビンゴ。 「そ、それでね、授かったらまず両親に報告するの。それから両家の親戚が集まって、お披露目をするんだわ。名前も、そうね決めないとね」 わかったわかったもういいよ。すでにそれ作り方じゃねーし。才人は額を押さえた。
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せかんど・バージン1話.『愛は暗闇の中で』(3) ぎふと氏 #br 「なんだよ。俺なんかした?」 不機嫌さを隠そうともしない低い声に、ルイズは我に返った。 まだ痛む顎を押さえたまま、才人が暗がり越しにこちらをじっと見ている。 (な、なによ……) わけもなくルイズは泣きたくなった。怒るより泣きたくなった。 今まで浮かれていただけにその反動は大きかった。 才人の問いに答えるならば、それはYESだ。何か“した”のだ。 嫌だったから拒んだ。それだけのこと。なのにどうしてこんなに怒られるのかわからない。 「ダメなの。そこは……」 やっとのことでそれだけを言った。 「なんで?」 ルイズは言葉を返せなかった。 拒んだ、それは単純に嫌だからで、それ以上に何の理由があるだろう。 しばらくして才人は諦めたように大きく息を吐いた。 「わかったよ。しないから。だからルイズがいいってとこ教えてよ」 「……キスはいいわ」 消え入りそうな声で言う。 恥ずかしかったけれど、才人の要求に全力で応えたいという気持ちは確かにあるのだ。 「……あと首と耳も。顔ぜんぶ。そ、それと抱きしめるのも」 才人は押し黙ったままだ。 勇気を振り絞った。 「む、胸も……許すわ……」 嫌だったのは他の女の子と比べられるからだ。いまとなっては拒む理由などない。 才人は喜んでくれるだろうか? 様子を伺ったけれど、身じろぎひとつする気配もなかった。 「あとは……その……」 ルイズは口ごもった。続く言葉がみつからなかった。 あからさまにそれだけ? という空気がピリピリと伝わる。 なにせルイズが挙げたのは、すでに許した場所ばかりだ。 でも、でも……、ルイズは唇を噛んだ。仕方ないじゃない。 才人が望んでいることが、ルイズにはわからない。わからないのに、教えろといわれても困るばかりだ。 ルイズは決心した。最大の譲歩をみせた。 ぎゅっと目をつぶって、声をしぼりだした 「ぜ、ぜんぶ。さっきのとこ以外ぜんぶっ!」 あまりの恥ずかしさに身悶えした。かあっと顔が、全身が熱くなる。 ルイズ的にそれは『自分をあげます』と宣言するに等しかった。 + + + そんなルイズを才人は冷めた目で見ていた。 なにそれ。なんだよ“以外”ぜんぶって……。 そこまでしたくないのかよ。それってそんなご大層なもんか? あ、そうか。才人はひらめいた。いつもルイズが言ってるじゃないか。貴族がどうだって。 高貴なご身分だから、たいした公爵家のご令嬢だから、そんなはしたないマネはできませんってか? ああそうかよ。なんかもう、すっかり萎えてしまった。 そういう行為が女の子にとって特別だってのはわかるよ。理解はしてる。 だったら、前もってそう言えばいいんだ。 それなら自分もそのつもりで、許してもらえる範囲でベタベタいちゃいちゃする。 そのぐらいの理性は持ってるし、好きな女の子を大切にしたいという気持ちの方が、欲望なんかよりはるかに上だ。バカにすんな。 ルイズが、じっとこっちを見ていた。 やせっぽちで体を抱きしめてる姿は、捨てられた子猫みたいだ。 見ていたら、急に哀れみの気持ちがわいてきた。 1つの例外があるとはいえ、全て許すと言ったのだ。 プライドが高くて素直じゃないルイズにしてみれば、すごいことじゃないだろうか。 才人はゆっくりと身をかがめると、ルイズの唇にキスをおとした。 ひんやりした少ししょっぱいキスだった。 舌を入れる気にはなれなかったので、首筋に顔を埋めて肌を吸った。 ほんのりとミルクのような甘い香りがした。 薄い胸に触れながら、なんでルイズはこうなんだろうと悲しく思った。 例えばもしシエスタだったら、事ははるかに簡単に運んだにちがいない。 ふと友達の家でみたメイドさん調教モノを思い出した。明るい茶髪でキツめの顔をしたその女優さんとシエスタとは外見はまったく似ていないけど、恥じらいながらも大胆に振舞うところなんかはどこか通じるものがある。 女の子ってのはそういうものじゃないのか? 好きな相手にならなおさら。 シエスタとルイズの差はどこにあるんだろう。才人は考えた。 やっぱりあれかな。愛の深さ? シエスタが向けてくる愛情は思わずこっちがたじろいでしまうほどのパワーに溢れている。 セーラー服姿でくるっと回ってくれたり、裸エプロンだったり。 あーあれはもったいなかった。目をそらさなかったらばっちり見えてた。胸を触らせてくれたこともあったっけ。こうすごく柔らかくて……。 私は2番目でもいいんです、なんていじらしいことも言ってくれるし。 ルイズに向ける気持ちとは違うけれど、シエスタのことも確かに好きだ。 それにもしシエスタがいなかったら、知る人もいないこの世界でこんなに居心地よく過ごせてはいなかっただろう。 そんなことを考えていたので、まったく気づかなかった。 ルイズの体が小刻みに震えていた。 その口からひっく……と嗚咽が漏れて、それは一気に爆発した。 ルイズはわんわん声をあげて泣き出した。 + + + 氷みたい。 ルイズは、才人の口づけをそんなふうに思った。 どうして? さっきまであんなに気持ちよかったのに……。 いまじゃ胸に触れる手も、なんだか汚らわしいもののように思える。 なんでこんなふうになってしまったんだろう。 ぼんやりと考えた。 あの時、蹴り上げなければよかったのか。 ううん、それは無理。きっぱりと言い切れる。 たとえ時間を戻せたとしても、自分は同じことをするだろう。 才人を喜ばせるためなら、黒猫衣装だって踊り子衣装だってメイド服だって着てみせる。 恥ずかしいけど頑張る。 媚びたっていい。いざとなれば貴族のプライドなんてかなぐり捨ててみせる。 実際にできるかはおいといて、それぐらいの気概はあるのだ。 でも……、どうしてもできないことはある。 だって可愛くいみせたいじゃない。 いちばん可愛い女の子だって、思われたいじゃない。 一瞬でも目を離せなくて、とにかくメイドにも誰にも目移りしなくなるような、そんな魅力的な女の子。 だからこそ、隠しておきたいこともあるのだ。 なのに才人はそんな気持ちを裏切った。調子にのって自分を辱めた。 男の人にはそういう部分があると、前にキュルケに聞いたことがある。 シエスタが見せてくれた本にも、にわかには信じられないようなことが書いてあった。 でもそれは別の世界のことで、才人はそうでないと信じていた。 なのにどうしてわかってくれないのか……。 喉の奥から熱い固まりこみあげてきたが、ぐっと飲み込んだ。泣くのは嫌だった。 涙はとっておきの最終兵器だ。簡単には使ってはならないものだ。 自分が泣くと、才人は一もニもなく折れてしまう。 どれだけ自分に正当な主張があろうとも、いかにルイズが理不尽であろうとも、涙をみせると才人は簡単に頭を下げてしまう。 時にはそれもいいかもしれない。 でも今回は自分にもちゃんとした言い分があるのだ。 口には出せないけど、でもうやむやにして欲しくはなかった。理解してもらいたい。 だからこそ泣くことだけはしたくなかった。 そうして必死に涙をこらえていると、ふと才人の様子に違和感を感じた。 視線を下に落とした。胸に触れている才人の手。その形はまるで……。 ピンときた。女の子が生まれながらに持つ第六感ともいうべきもので。 瞬間、冷水を浴びせられたように全身が冷たくなった。次にがくがくと震えがおそった。 自分の中の誰かが言う。 (バカなルイズ。あんな言葉本気にしてたの? サイトがいつもどんな目で他の子の胸を見ていたか、ちゃんとわかっていたじゃない。ほんとおバカさん) でも言ってくれたの。私がいいって……。 (あんたが言わせたんでしょ。怖いご主人様に脅されて、サイトったら可哀想に心にもないこと言ったのね) もはや抑えることのできなくなった涙が一気にあふれ出た。 ルイズは声をあげて泣き出した。 + + + 「……だ、だれ……なの?」 「え?」 「……メイドなの? エルフ? そ、それとも……まさか姫さま?」 ひっくひっく、泣き声とともに吐き出された言葉に才人は愕然とした。 なんのことを言ってるんだ? いや……、わかりすぎるほどにわかっていた。 自分は最大のタブーを犯してしまったのだ。許されないことだった。 「知らない……もう絶対許さない……」 ルイズは胎児のように丸まって体を震わせて泣いていた。 (だ、だって仕方ねぇじゃん。あんなふうに拒まれたら……) 自分だって傷ついたのだ……。そんな心の声も空しく響く。 自分は男だ。女の子に拒まれたところでたいしたことじゃない。 でもルイズは……。信じていた相手に手ひどく裏切られたルイズは、もう決して自分を許してはくれないだろう。 きっと深い傷を負ってしまった。 「ごめん、ルイズ、ごめん」 認めてしまえばさらにルイズを傷つける。わかっていても言わずにはいられなかった。頭をすりつけて土下座した。その格好のままじっと耐えた。 バカだ俺。やっぱモグラはモグラでしかなかったよ……。 モグラ死刑。モグラ永久追放。いやもっと辛いのは、嫌われたままルイズの傍にいないといけないことだ。俺使い魔だから…・・・。ああダメか。デルフが言ってたっけ。心の震えがどうのって。 もう使い魔としても用無しかよ。いっそまた7万の敵でも来ないかな。今なら気持ちよくつっこんで行けそうだぜちくしょう。 しばらくそうしていたら、ルイズが動く気配がした。涙は止まったみたいだった。 でもきっと目がウサギみたいに真っ赤っ赤になってるんだろうな。その顔が頭に浮かぶ。 いきなり手をつかまれた。何をするのかと顔を上げたら……、 「え……ちょ、ちょっとルイズ?」 「黙って」 いや。でも。だって。……ていうか、この感触は? 「ほら好きにすれば? この変態下等生物。クラゲ。ミジンコ。あんたなんて犬以下だわよ」 さすがにさっきみたく濡れては……あ、いやじゃなくて。 「その代わり、二度とこんなマネしてみなさい。塵一つ残さないようあんたを処分してあげる」 うわっ。ちょっとそれマジ勘弁! 「変態ミジンコにお墓なんていらないものね。火葬してもらえるだけ幸せってものよね」 ってかなんだよ、人をつかまえて変態変態って。そこまで言われる筋合いねーだろ。 あ……。 なんだろう、今ちょっとひっかかった。 慌てて才人はそのひっかかりをつかまえた。するするとたぐり寄せる。 もしかして、そういうこと? 「なあ、ルイズ」 恐る恐る尋ねてみた。 「あによ」 「もしかしてお前知らないの?」 「何をよ」 「だからセ……、あ、いや、その子供の作り方ってか、やり方っていうか」 ルイズはあからさまに慌てた。 「ししし知ってるわよ!」 「じゃあ説明してみ?」 「そそそれは、その……、結婚した相手とひとつお布団に入って、その、いろいろするのよ。あ、その前に神と始祖ブリミルにお祈りもひ、必要よね」 「いろいろって?」 「だからいろいろよ!」 ビンゴ。 「そ、それでね、授かったらまず両親に報告するの。それから両家の親戚が集まって、お披露目をするんだわ。名前も、そうね決めないとね」 わかったわかったもういいよ。すでにそれ作り方じゃねーし。才人は額を押さえた。
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