ゼロの使い魔保管庫
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ともだち -side B- 「まったく、あの娘は何を考えているのかしら!」 憤りながら、金髪のツインテールが中庭をのしのしと歩く。 少し前なら、取り巻きの生徒や空中装甲騎士団が、彼女の周りを固めていただろう。 だが、今はその影もない。 片方は彼女からおこぼれを期待できなくなったため。もう片方は、彼女が必要ないと言ったからだ。 彼女が変わったのは、学院にやってきたハーフエルフのせい。 異端審問にかけたハーフエルフに、彼女は逆に諭された。 優しい言葉に彼女はそのハーフエルフに心酔した。 父以外の人物を心から尊敬したのもこれが初めての事だった。 そして。 もう一つ、彼女、ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ嬢が変わった事。 「ほんとに、いっつもふざけて!タニアさんったら!」 平民の、それも自分と大して変わらない女の子と、対等に話す様になった事。 最初は、ティファニアのおまけのいけ好かない平民、という扱いだった。 しかし、事あるごとに自分に突っかかり、そしてからかい、面倒を見てくれるタニアに、いつの間にか。 ベアトリスは友情を感じるようになってしまったのである。 何の打算も抜きで、しかも下手をすれば不敬で逮捕されてもおかしくないのに、タニアはベアトリスに近寄ってきた。 それは、タニアから見てもベアトリスはお子様で、ウエストウッドの子供たちの面倒を見ていたタニアは、彼女を放っては置けなかっただけなのであるが。 しかし、本当の理由を話さず、自分と心地よい距離を保ちながら付き合ってくれる彼女を、ベアトリスはともだち、と想っていた。 そして、ベアトリスが怒っているのは、タニアがいつも彼女を『ベアちゃん』と呼ぶ…からではない。 ベアトリスが、ある噂を聞きつけたからだ。 『一年の男子にやたらモテている、平民のメイドがいる』 ベアトリスはすぐにピンときた。 タニアのことだ。 面倒見が良く、さらに仕事の手際もよく、傍目には美少女のタニアを、貴族のボンボン共が見初めるのも無理はない。 さらにタニアは誰に対しても態度をほとんど変えず、貴族でも同年代のだらしない子には容赦しない。 この間など、タイの曲がったまま走り回っていた一年の男子を。 『おいこら。そこの男子』と呼びとめ、平民のくせに無礼だぞ、といきがって詰め寄るその男子に。 『タイが曲がっていてよ。こんなんで男下げてちゃ勿体無いゾ』なんていいながら、曲がったタイを直してあげたのである。 その男子は、しばらくの間夢見心地でタニアを目で追い、ぽけーっとしていた。 …正直うらやましい。 じゃなくて! ベアトリスはそんなタニアの噂を聞くや、いても立ってもいられなくなり、彼女に詰め寄ったのである。 『まーたベアちゃんはお堅いなあ。そんなんだから彼氏できないんだゾ』 とか言いながらはぐらかされ、鼻の頭を指先でこつん、とされた。 怒ったように男子とのことを追求したベアトリスだったが、ひょうひょうとはぐらかされ、今に至る。 「ほんとに。気をつけないと、平民なんてすぐ貴族の慰み者にされちゃうんだから…!」 その権力を用いて誰も来ない辺境の塔に監禁し。 さまざまな薬や器具を用いて陵辱と調教を施した挙句。 自分の肉奴隷兼メイドとして、一生飼いならすとか。 …タニアさんが肉奴隷…。 たり。 その想像にベアトリスの整った鼻から赤い血が垂れる。 「はっ!?私ったら一体!?か、神よ、始祖ブリミルよ!わ、私はとんでもないことを考えてしまいましたっ!」 その場ですぐさま膝を立て、壁に向かって懺悔を始めるベアトリス。 ごめんなさいタニアさんごめんなさい、ともだちのアナタを肉奴隷なんて私最低ですわ! なんて何回も何回も始祖ブリミルではなくタニアに心の中で謝りながら。 そんなベアトリスの耳に、風に乗って、近くの窓から話し声が届いた。 『…でだ。あのけしからんメイドについてなんだが』 …けしからんメイド…? その話声はどこかで聞いた覚えがある。 少し思い出してみる。 『私の妾にならないか?平民では到底味わえない贅沢をさせてやるぞ』 『失せやがってくださいこの疎チン野郎』 彼はタニアに妾にならないかと持ちかけ、にっこり笑顔でどぎついお断りの台詞を頂いていた。 製鉄業で財を成した成金貴族、ボッティチェリ子爵の次男坊、ルドルフ・ボッティチェリ。 その気障で高圧的な物言いとそれなりにいい見目で、『ギーシュMk2』と呼ばれる男子生徒であった。 まさか! あの成金貴族、私のタニアさんに復讐するために、拉致監禁の上処女のまま調教しまくって自分から『私の初めてご主人様にもらって欲しいのぉ』とか言わせるつも そこまで考えて、またたり、と鼻血が垂れる。 ごめんなさいごめんなさいタニアさんごめんなさい、とまた心の中で謝って、ベアトリスは窓辺に拠り、その話に耳を傾ける。 部屋の中には、複数の男子生徒がいるようだ。 このどれもが、きっとタニアさんに恨みを…! ベアトリスは、いよいよその話に耳を傾ける…。 「まずだ。最初に行ったのはリオーネ。君だったね?」 「そうだよ。ボクは『ボク専用のメイドになってくれ』って勇気を出して言ったんだ。そしたら…」 「そしたら?ど、どうしたっていうんだい?」 「そしたら…そしたら彼女、ボクをまるで便所虫を見るような目で見つめて…」 「おおう」「そ、それは…」「平民娘とは思えない…」 「『尻尾まいてお帰りください♪チンカス童貞貴族♪』ってドスの効いた声で、言ってきたんだ…」 聞き耳を立てていたベアトリスは思わずガッツポーズ。 さすが私のタニアさん!貴族相手に全く引かないその態度!そこに惹かれる憧れるゥ! 「な、なんと」「ひどい、じつにひどい」「なんて汚い罵りの言葉だ」 「ふん、キミなどまだ甘いね」 「な、なんだよ、ルドルフはもっと凄いのを言われたって言うのかい?」 「え」「マジか?」「すげえ、ボッティチェリに向かって」 「私など、『妾にしてやる』と言った瞬間にだな」 「ちょ、おま」「まてなんでお前いきなり妾かよ!」「抜け駆け禁止じゃなかったのか!」 「全身くまなく軽蔑の視線で嘗め回された挙句にだな」 「え」「ま、マジっすか?」「す、すげえ、マジすげえ」 「『お帰りになってくださいませ。包茎疎チン野郎』ときたもんだ!」 「「「「おぉぉ〜う…」」」」 そこまで聞いてベアトリスは異変に気付いた。 おかしい。この男どもの声。 そう。 男子生徒の声には、怒りが一切含まれていなかったのだ。 それどころか。 罵声の報告を聞いた男達の声には。 なんと。 あからさまな、羨望の溜息が混じっていたのである。 「いいなあ、ルドルフ羨ましいなああ」 「俺もあの鈴を転がすような声で、思いつく限りの酷い言葉で罵られてええええええええええ」 「ぼ、ボクはあの侮蔑の視線が、あのたまらない冷たい視線が忘れられなくて、ああ!」 「いいよなあ、タニア…いやタニア様だ」 ぞくり。 その恍惚とした声に、聞き耳を立てていたベアトリスの背筋に、悪寒が走った。 「よし、紳士諸君。もう一度我らの誓いを確認するぞ」 「「「応!」」」 「ひとつ!」 「我らが女王に掛けられた侮蔑の言葉は、きちんと余さず団員に告げること!」 「ひとつ!」 「行為を以って応ぜられた時には、最高の名誉と心得よ!」 「ひとつ!」 「行為を受けた者は、その詳細を感想も含めた上で文面に残し、団員へと手渡す!」 「ひとつ!」 「抜け駆けは禁止!タニア様をお傍に置けるのは選ばれし勇者のみと心得よ!」 「最後に、我々は何だ!」 「我々は!」「我々こそは!」 「「「『タニア様に踏まれたい団』であるっ!」」」 …病気だ。この男達は病んでいる。 しかしベアトリスは恐怖のあまり、その場を動けないで居た。 そして。 悲劇はさらに加速する。 「…ふふ。甘いな君たちは」 「あ、あなたは!」 「で、伝説の変態紳士…!」 「罵られるために生まれ、そしてそれを無上の快感とすることのできる、生まれながらの天才…!」 「「「マリコルヌ・ド・グランドプレ先輩!」」」 「甘いなぁキミタチは。特に侮蔑される対象を特定しているところが甘い」 「…で、でも、タニア様以外で僕たちを踏んでくれそうな女性って学院には…」 「いるじゃないか。ほら、そこに…」 そして。 窓は開け放たれる。 「あ、あなたは!」 「クルデンホルフ姫殿下!」 「ま、まさか今の、聞かれてた…?」 盗み聞きをしていたベアトリスに突き刺さる、五つの視線。 ぞわり、と生理的な嫌悪がベアトリスの背筋を直撃する。 その目の前に。 音すら立てず、ふわり、とマリコルヌが着地する。 「ひ…!」 真っ青な顔で後ずさるベアトリス。 しかし。 その丸い肉の塊は、一瞬で間合いを詰めてきた。 そこから臭う、たまらない男の汗の臭い。夏場の暑さに、この肉だるまは全力で発汗していたのである。 「さあ、準備は出来た」 「い、いや…!」 「罵ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「いやぁぁぁぁぁっ、キモイ臭いキモイ暑苦しいっ!寄らないでこの肉ダルマあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ごしゅ! ベアトリスが無意識で放った膝蹴りは。 見事にマリコルヌの股間を直撃していた。 「あひゅ……らいふ…いず…わんだほう…!」 その衝撃を伴った快楽にぐりん、と目を回し、マリコルヌは事切れる。 「先輩!?」 「マリコルヌ大兄っ!?」 次々に窓から飛び降り、マリコルヌを介抱し始める一年男子。 しかし。 「ぼ、僕はいい…!さあ、紳士諸君、そこの姫君に想う様罵ってもらいたまえ…!」 はっとして四人が振り向くと。 そこには、全力で走り去る金色のツインテールがはるか遠くに居た。 そして四人は新たなる誓いを立てる。 その日、『タニア様とクルデンホルフ姫殿下に蹴って貰いたい団』が新たに結成されたのだった。 ベアトリスは、走りながら想った。 この狂った世界で、タニアさんとお姉さまを守れるのは私だけ。 腐って汚れて穢れた男どもなんかに、私のおともだちとお姉さまを渡したりなんかしない。 そんなことを考えながら、半分なきながら、混乱しながら、ベアトリスは中庭を駆けて行った。 *追記* タニアを心配するあまり、それからしばらくの間、ベアトリスはタニアを徹底的に尾行した。 その際、尾行するベアトリスを発見したタニアに浴びせられた『最近のベアちゃんキモーい』と言う言葉に、何故か胸をキュンとさせてしまうベアトリスだった。〜fin
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ともだち -side B- 「まったく、あの娘は何を考えているのかしら!」 憤りながら、金髪のツインテールが中庭をのしのしと歩く。 少し前なら、取り巻きの生徒や空中装甲騎士団が、彼女の周りを固めていただろう。 だが、今はその影もない。 片方は彼女からおこぼれを期待できなくなったため。もう片方は、彼女が必要ないと言ったからだ。 彼女が変わったのは、学院にやってきたハーフエルフのせい。 異端審問にかけたハーフエルフに、彼女は逆に諭された。 優しい言葉に彼女はそのハーフエルフに心酔した。 父以外の人物を心から尊敬したのもこれが初めての事だった。 そして。 もう一つ、彼女、ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ嬢が変わった事。 「ほんとに、いっつもふざけて!タニアさんったら!」 平民の、それも自分と大して変わらない女の子と、対等に話す様になった事。 最初は、ティファニアのおまけのいけ好かない平民、という扱いだった。 しかし、事あるごとに自分に突っかかり、そしてからかい、面倒を見てくれるタニアに、いつの間にか。 ベアトリスは友情を感じるようになってしまったのである。 何の打算も抜きで、しかも下手をすれば不敬で逮捕されてもおかしくないのに、タニアはベアトリスに近寄ってきた。 それは、タニアから見てもベアトリスはお子様で、ウエストウッドの子供たちの面倒を見ていたタニアは、彼女を放っては置けなかっただけなのであるが。 しかし、本当の理由を話さず、自分と心地よい距離を保ちながら付き合ってくれる彼女を、ベアトリスはともだち、と想っていた。 そして、ベアトリスが怒っているのは、タニアがいつも彼女を『ベアちゃん』と呼ぶ…からではない。 ベアトリスが、ある噂を聞きつけたからだ。 『一年の男子にやたらモテている、平民のメイドがいる』 ベアトリスはすぐにピンときた。 タニアのことだ。 面倒見が良く、さらに仕事の手際もよく、傍目には美少女のタニアを、貴族のボンボン共が見初めるのも無理はない。 さらにタニアは誰に対しても態度をほとんど変えず、貴族でも同年代のだらしない子には容赦しない。 この間など、タイの曲がったまま走り回っていた一年の男子を。 『おいこら。そこの男子』と呼びとめ、平民のくせに無礼だぞ、といきがって詰め寄るその男子に。 『タイが曲がっていてよ。こんなんで男下げてちゃ勿体無いゾ』なんていいながら、曲がったタイを直してあげたのである。 その男子は、しばらくの間夢見心地でタニアを目で追い、ぽけーっとしていた。 …正直うらやましい。 じゃなくて! ベアトリスはそんなタニアの噂を聞くや、いても立ってもいられなくなり、彼女に詰め寄ったのである。 『まーたベアちゃんはお堅いなあ。そんなんだから彼氏できないんだゾ』 とか言いながらはぐらかされ、鼻の頭を指先でこつん、とされた。 怒ったように男子とのことを追求したベアトリスだったが、ひょうひょうとはぐらかされ、今に至る。 「ほんとに。気をつけないと、平民なんてすぐ貴族の慰み者にされちゃうんだから…!」 その権力を用いて誰も来ない辺境の塔に監禁し。 さまざまな薬や器具を用いて陵辱と調教を施した挙句。 自分の肉奴隷兼メイドとして、一生飼いならすとか。 …タニアさんが肉奴隷…。 たり。 その想像にベアトリスの整った鼻から赤い血が垂れる。 「はっ!?私ったら一体!?か、神よ、始祖ブリミルよ!わ、私はとんでもないことを考えてしまいましたっ!」 その場ですぐさま膝を立て、壁に向かって懺悔を始めるベアトリス。 ごめんなさいタニアさんごめんなさい、ともだちのアナタを肉奴隷なんて私最低ですわ! なんて何回も何回も始祖ブリミルではなくタニアに心の中で謝りながら。 そんなベアトリスの耳に、風に乗って、近くの窓から話し声が届いた。 『…でだ。あのけしからんメイドについてなんだが』 …けしからんメイド…? その話声はどこかで聞いた覚えがある。 少し思い出してみる。 『私の妾にならないか?平民では到底味わえない贅沢をさせてやるぞ』 『失せやがってくださいこの疎チン野郎』 彼はタニアに妾にならないかと持ちかけ、にっこり笑顔でどぎついお断りの台詞を頂いていた。 製鉄業で財を成した成金貴族、ボッティチェリ子爵の次男坊、ルドルフ・ボッティチェリ。 その気障で高圧的な物言いとそれなりにいい見目で、『ギーシュMk2』と呼ばれる男子生徒であった。 まさか! あの成金貴族、私のタニアさんに復讐するために、拉致監禁の上処女のまま調教しまくって自分から『私の初めてご主人様にもらって欲しいのぉ』とか言わせるつも そこまで考えて、またたり、と鼻血が垂れる。 ごめんなさいごめんなさいタニアさんごめんなさい、とまた心の中で謝って、ベアトリスは窓辺に拠り、その話に耳を傾ける。 部屋の中には、複数の男子生徒がいるようだ。 このどれもが、きっとタニアさんに恨みを…! ベアトリスは、いよいよその話に耳を傾ける…。 「まずだ。最初に行ったのはリオーネ。君だったね?」 「そうだよ。ボクは『ボク専用のメイドになってくれ』って勇気を出して言ったんだ。そしたら…」 「そしたら?ど、どうしたっていうんだい?」 「そしたら…そしたら彼女、ボクをまるで便所虫を見るような目で見つめて…」 「おおう」「そ、それは…」「平民娘とは思えない…」 「『尻尾まいてお帰りください♪チンカス童貞貴族♪』ってドスの効いた声で、言ってきたんだ…」 聞き耳を立てていたベアトリスは思わずガッツポーズ。 さすが私のタニアさん!貴族相手に全く引かないその態度!そこに惹かれる憧れるゥ! 「な、なんと」「ひどい、じつにひどい」「なんて汚い罵りの言葉だ」 「ふん、キミなどまだ甘いね」 「な、なんだよ、ルドルフはもっと凄いのを言われたって言うのかい?」 「え」「マジか?」「すげえ、ボッティチェリに向かって」 「私など、『妾にしてやる』と言った瞬間にだな」 「ちょ、おま」「まてなんでお前いきなり妾かよ!」「抜け駆け禁止じゃなかったのか!」 「全身くまなく軽蔑の視線で嘗め回された挙句にだな」 「え」「ま、マジっすか?」「す、すげえ、マジすげえ」 「『お帰りになってくださいませ。包茎疎チン野郎』ときたもんだ!」 「「「「おぉぉ〜う…」」」」 そこまで聞いてベアトリスは異変に気付いた。 おかしい。この男どもの声。 そう。 男子生徒の声には、怒りが一切含まれていなかったのだ。 それどころか。 罵声の報告を聞いた男達の声には。 なんと。 あからさまな、羨望の溜息が混じっていたのである。 「いいなあ、ルドルフ羨ましいなああ」 「俺もあの鈴を転がすような声で、思いつく限りの酷い言葉で罵られてええええええええええ」 「ぼ、ボクはあの侮蔑の視線が、あのたまらない冷たい視線が忘れられなくて、ああ!」 「いいよなあ、タニア…いやタニア様だ」 ぞくり。 その恍惚とした声に、聞き耳を立てていたベアトリスの背筋に、悪寒が走った。 「よし、紳士諸君。もう一度我らの誓いを確認するぞ」 「「「応!」」」 「ひとつ!」 「我らが女王に掛けられた侮蔑の言葉は、きちんと余さず団員に告げること!」 「ひとつ!」 「行為を以って応ぜられた時には、最高の名誉と心得よ!」 「ひとつ!」 「行為を受けた者は、その詳細を感想も含めた上で文面に残し、団員へと手渡す!」 「ひとつ!」 「抜け駆けは禁止!タニア様をお傍に置けるのは選ばれし勇者のみと心得よ!」 「最後に、我々は何だ!」 「我々は!」「我々こそは!」 「「「『タニア様に踏まれたい団』であるっ!」」」 …病気だ。この男達は病んでいる。 しかしベアトリスは恐怖のあまり、その場を動けないで居た。 そして。 悲劇はさらに加速する。 「…ふふ。甘いな君たちは」 「あ、あなたは!」 「で、伝説の変態紳士…!」 「罵られるために生まれ、そしてそれを無上の快感とすることのできる、生まれながらの天才…!」 「「「マリコルヌ・ド・グランドプレ先輩!」」」 「甘いなぁキミタチは。特に侮蔑される対象を特定しているところが甘い」 「…で、でも、タニア様以外で僕たちを踏んでくれそうな女性って学院には…」 「いるじゃないか。ほら、そこに…」 そして。 窓は開け放たれる。 「あ、あなたは!」 「クルデンホルフ姫殿下!」 「ま、まさか今の、聞かれてた…?」 盗み聞きをしていたベアトリスに突き刺さる、五つの視線。 ぞわり、と生理的な嫌悪がベアトリスの背筋を直撃する。 その目の前に。 音すら立てず、ふわり、とマリコルヌが着地する。 「ひ…!」 真っ青な顔で後ずさるベアトリス。 しかし。 その丸い肉の塊は、一瞬で間合いを詰めてきた。 そこから臭う、たまらない男の汗の臭い。夏場の暑さに、この肉だるまは全力で発汗していたのである。 「さあ、準備は出来た」 「い、いや…!」 「罵ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「いやぁぁぁぁぁっ、キモイ臭いキモイ暑苦しいっ!寄らないでこの肉ダルマあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ごしゅ! ベアトリスが無意識で放った膝蹴りは。 見事にマリコルヌの股間を直撃していた。 「あひゅ……らいふ…いず…わんだほう…!」 その衝撃を伴った快楽にぐりん、と目を回し、マリコルヌは事切れる。 「先輩!?」 「マリコルヌ大兄っ!?」 次々に窓から飛び降り、マリコルヌを介抱し始める一年男子。 しかし。 「ぼ、僕はいい…!さあ、紳士諸君、そこの姫君に想う様罵ってもらいたまえ…!」 はっとして四人が振り向くと。 そこには、全力で走り去る金色のツインテールがはるか遠くに居た。 そして四人は新たなる誓いを立てる。 その日、『タニア様とクルデンホルフ姫殿下に蹴って貰いたい団』が新たに結成されたのだった。 ベアトリスは、走りながら想った。 この狂った世界で、タニアさんとお姉さまを守れるのは私だけ。 腐って汚れて穢れた男どもなんかに、私のおともだちとお姉さまを渡したりなんかしない。 そんなことを考えながら、半分なきながら、混乱しながら、ベアトリスは中庭を駆けて行った。 *追記* タニアを心配するあまり、それからしばらくの間、ベアトリスはタニアを徹底的に尾行した。 その際、尾行するベアトリスを発見したタニアに浴びせられた『最近のベアちゃんキモーい』と言う言葉に、何故か胸をキュンとさせてしまうベアトリスだった。〜fin
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