ゼロの使い魔保管庫
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青春時代【12】 ツンデレ王子 #br ノースリーブの黒いシャツにフリルが誂えられた赤いスカートを履き、いつもの白いニーソックスという服装をした少女。髪の色も加わり全身のコントラストが醸し出す雰囲気は、魔法学院の制服の時とは違って歳相応の活発な少女のそれである。 これで何度目になるだろうか。自身の姿を見下ろして着崩れが無いかチェックを入れると、じっと扉を見つめる。その瞳には、何かを決意したかの様な強い光が込められていた。 (もう、遠慮はしない) 声に出さずに呟くと、彼女は円卓に置いた赤い鞄に手を通した。 トリステインでは取り扱いの無い革製品で、被せで中身が落ちない様に蓋をする仕組みとなっている。肩紐が二本付いており、両手が自由に使えるという優れもの。 これは彼女が自国で無理を行って作らせたもので、ハルケギニア広しといえど彼女の出身国でしか取り扱いの無い物である。 少女が鞄を背負い終わり立てかけていた杖に手を伸ばそうとしたその時、タイミングよく部屋の入口がノックされた。 「……入って」 彼女の声に応える様に扉が開くと、黒髪の少年は室内に入ろうと足を踏み出し……固まった。 「……」 「……」 この数秒の空白に不安を覚えた少女は、珍しく涙を目尻に湛えて上目使いに彼を見上げる。僅かに頬を染め、顎を引いた為に出来た眼鏡との隙間から裸眼で見上げられ、少年は思わず彼女を抱きしめていた。 「ぁん」 艶っぽい声をあげ、なすがままに彼の胸に顔を埋めてしまう少女。 「……サイト、苦しい」 「ご、ごめんタバサ」 彼女の訴えにより理性を取り戻したサイトは抱擁を解き、タバサを開放した。 そして、部屋に訪れた時から感じていた疑問を口にする。 「どうしたんだ、その格好?それに、呼び出したりなんかして」 彼の抱擁に気を良くした彼女は、しかしながらその問いに答える事無く身を反すと、杖を手にして窓際に向かう。そして 「乗って」 短く告げると、タバサは窓から身を躍らせたのだ。 慌てたサイトが駆け寄って見下ろすと、そこには己の使い魔である風韻竜の背中に乗った彼女の姿が。 「乗って、早く」 「ったく、しょうがねぇなぁ」 未だ理解が追いつかないものの、サイトは一言そう漏らすと彼女に習って窓から飛び降りる。 タバサのレビテーションによって調整されながら背に跨った彼を確認すると、シルフィードは飛び立って行った。 シルフィードが降り立った場所、そこには色とりどりの花が咲き乱れており、桃源郷と呼ぶに相応しい場所であった。 「へー、こんな所が在ったんだ」 サイトは目を見張り、震える声で呟いている。 こちらの世界に呼び出されて既に2年が経とうとしていたが、これまで伝説の使い魔ガンダールヴとして戦争に借り出されたり、ルイズの供をしたりと忙しない日々が続いていた。 また地球に居た頃も、コンクリートジャングルで育った彼はこの様な景色を見る機会も無かったのだ。 喜びを隠そうともしないサイトを見て、タバサも表情には出ていなかったが心底安堵していた。 (よかった、喜んでくれて) それまでタバサは、積極的にアプローチする事を避けていた。 自分は彼に仕える騎士だから、と言うのが主な理由ではあるが、他にも彼女が戸惑いを覚える理由があった。 それは、ルイズの存在である。 サイトが彼女を好きなのは、周知の事実である。そしてルイズが彼を好きなのも、いくら本人が口では否定しようとも傍から見ていて明らかである。その為タバサは彼女に遠慮していたのだ。 ところが先日街で目にした彼は、桃髪の少女ではなく栗色の髪の少女と逢瀬を行っていた。タバサの眼力を持ってしても彼女の正体を見抜く事は出来なかったが、それはこの際関係無い。問題なのはルイズ以外の女と仲睦まじく歩いていたという一点のみである。 自分が躊躇している間に、他の女に取られてしまうかもしれない。 そう危惧した彼女は、この事をルイズに報せようかとも思ったが、止めた。 もしルイズに報せたなら、また彼が酷い仕打ちを受ける事は明白である。それに何より、どこの馬の骨とも分からない女にチャンスが有るなら自分にだって有っていいはず、そう思ったのだ。 ちなみに今タバサが着ている服も、その時に買ってきた物。『あれに勝つ』宣言をした彼女が選んだ、彼女の魅力を最大限に引き出す戦闘服である。 ロマリアで教皇の陰謀により自分の気持ちに気付かされてしまったタバサだったが、当時泊まった部屋で自分の魅力の無さに気付いた彼女は、逆の発想をしたのだ。魅力が無い事を魅力にしよう、と。 「タバサ、昨日俺を呼び出したのはこれの為?」 振り向いたサイトが、そう聞いてくる。 「……そう」 小さく頷きながら声に出して肯定すると、サイトは駆け寄って彼女の小さな手を両手で掴んだ。そして 「いやーありがとうタバサ、すっげー感動したよ」 と嬉しそうに微笑むのだった。 その彼の笑顔はタバサの乙女心を鷲掴みにする。 「俺、元の世界でもこんな景色見た事無いからさ、もう最高」 繋いだ手に更に力を込めて今にも『ひゃっほ〜』と叫んで飛び上がらんばかりに感動を露わにしているが、タバサはそれどころでは無かった。 握られた手から彼の温もりがダイレクトに伝わり、もしかしてサイトにも聞こえてしまうのではと思うくらいに心臓の音がヒートアップしている。 「……手、痛い」 かろうじて声に出来たのは、ただそれだけ。 「わ、わりぃ」 しどろもどろになりながら、タバサから手を放すサイト。 彼女のドキドキが伝わったのだろうか。 いや、そうでは無い。 やや俯きがちに声を絞り出す彼女の頬は薄く染まっており、視線だけを持ち上げて見つめてくるその表情に妙な色気を感じてしまっていたのだ。 「その辺でちょっと休もうか」 タバサの顔を直視出来ずに辺りをきょろきょろと見渡したサイトは、近くの大木を指差して提案した。 勿論タバサに異論があろう筈も無く二人は並んで大木の下まで来ると、幹に背を預けるようにして並んで座り、その美しい景色に心奪われていくのだった。 #br
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青春時代【12】 ツンデレ王子 #br ノースリーブの黒いシャツにフリルが誂えられた赤いスカートを履き、いつもの白いニーソックスという服装をした少女。髪の色も加わり全身のコントラストが醸し出す雰囲気は、魔法学院の制服の時とは違って歳相応の活発な少女のそれである。 これで何度目になるだろうか。自身の姿を見下ろして着崩れが無いかチェックを入れると、じっと扉を見つめる。その瞳には、何かを決意したかの様な強い光が込められていた。 (もう、遠慮はしない) 声に出さずに呟くと、彼女は円卓に置いた赤い鞄に手を通した。 トリステインでは取り扱いの無い革製品で、被せで中身が落ちない様に蓋をする仕組みとなっている。肩紐が二本付いており、両手が自由に使えるという優れもの。 これは彼女が自国で無理を行って作らせたもので、ハルケギニア広しといえど彼女の出身国でしか取り扱いの無い物である。 少女が鞄を背負い終わり立てかけていた杖に手を伸ばそうとしたその時、タイミングよく部屋の入口がノックされた。 「……入って」 彼女の声に応える様に扉が開くと、黒髪の少年は室内に入ろうと足を踏み出し……固まった。 「……」 「……」 この数秒の空白に不安を覚えた少女は、珍しく涙を目尻に湛えて上目使いに彼を見上げる。僅かに頬を染め、顎を引いた為に出来た眼鏡との隙間から裸眼で見上げられ、少年は思わず彼女を抱きしめていた。 「ぁん」 艶っぽい声をあげ、なすがままに彼の胸に顔を埋めてしまう少女。 「……サイト、苦しい」 「ご、ごめんタバサ」 彼女の訴えにより理性を取り戻したサイトは抱擁を解き、タバサを開放した。 そして、部屋に訪れた時から感じていた疑問を口にする。 「どうしたんだ、その格好?それに、呼び出したりなんかして」 彼の抱擁に気を良くした彼女は、しかしながらその問いに答える事無く身を反すと、杖を手にして窓際に向かう。そして 「乗って」 短く告げると、タバサは窓から身を躍らせたのだ。 慌てたサイトが駆け寄って見下ろすと、そこには己の使い魔である風韻竜の背中に乗った彼女の姿が。 「乗って、早く」 「ったく、しょうがねぇなぁ」 未だ理解が追いつかないものの、サイトは一言そう漏らすと彼女に習って窓から飛び降りる。 タバサのレビテーションによって調整されながら背に跨った彼を確認すると、シルフィードは飛び立って行った。 シルフィードが降り立った場所、そこには色とりどりの花が咲き乱れており、桃源郷と呼ぶに相応しい場所であった。 「へー、こんな所が在ったんだ」 サイトは目を見張り、震える声で呟いている。 こちらの世界に呼び出されて既に2年が経とうとしていたが、これまで伝説の使い魔ガンダールヴとして戦争に借り出されたり、ルイズの供をしたりと忙しない日々が続いていた。 また地球に居た頃も、コンクリートジャングルで育った彼はこの様な景色を見る機会も無かったのだ。 喜びを隠そうともしないサイトを見て、タバサも表情には出ていなかったが心底安堵していた。 (よかった、喜んでくれて) それまでタバサは、積極的にアプローチする事を避けていた。 自分は彼に仕える騎士だから、と言うのが主な理由ではあるが、他にも彼女が戸惑いを覚える理由があった。 それは、ルイズの存在である。 サイトが彼女を好きなのは、周知の事実である。そしてルイズが彼を好きなのも、いくら本人が口では否定しようとも傍から見ていて明らかである。その為タバサは彼女に遠慮していたのだ。 ところが先日街で目にした彼は、桃髪の少女ではなく栗色の髪の少女と逢瀬を行っていた。タバサの眼力を持ってしても彼女の正体を見抜く事は出来なかったが、それはこの際関係無い。問題なのはルイズ以外の女と仲睦まじく歩いていたという一点のみである。 自分が躊躇している間に、他の女に取られてしまうかもしれない。 そう危惧した彼女は、この事をルイズに報せようかとも思ったが、止めた。 もしルイズに報せたなら、また彼が酷い仕打ちを受ける事は明白である。それに何より、どこの馬の骨とも分からない女にチャンスが有るなら自分にだって有っていいはず、そう思ったのだ。 ちなみに今タバサが着ている服も、その時に買ってきた物。『あれに勝つ』宣言をした彼女が選んだ、彼女の魅力を最大限に引き出す戦闘服である。 ロマリアで教皇の陰謀により自分の気持ちに気付かされてしまったタバサだったが、当時泊まった部屋で自分の魅力の無さに気付いた彼女は、逆の発想をしたのだ。魅力が無い事を魅力にしよう、と。 「タバサ、昨日俺を呼び出したのはこれの為?」 振り向いたサイトが、そう聞いてくる。 「……そう」 小さく頷きながら声に出して肯定すると、サイトは駆け寄って彼女の小さな手を両手で掴んだ。そして 「いやーありがとうタバサ、すっげー感動したよ」 と嬉しそうに微笑むのだった。 その彼の笑顔はタバサの乙女心を鷲掴みにする。 「俺、元の世界でもこんな景色見た事無いからさ、もう最高」 繋いだ手に更に力を込めて今にも『ひゃっほ〜』と叫んで飛び上がらんばかりに感動を露わにしているが、タバサはそれどころでは無かった。 握られた手から彼の温もりがダイレクトに伝わり、もしかしてサイトにも聞こえてしまうのではと思うくらいに心臓の音がヒートアップしている。 「……手、痛い」 かろうじて声に出来たのは、ただそれだけ。 「わ、わりぃ」 しどろもどろになりながら、タバサから手を放すサイト。 彼女のドキドキが伝わったのだろうか。 いや、そうでは無い。 やや俯きがちに声を絞り出す彼女の頬は薄く染まっており、視線だけを持ち上げて見つめてくるその表情に妙な色気を感じてしまっていたのだ。 「その辺でちょっと休もうか」 タバサの顔を直視出来ずに辺りをきょろきょろと見渡したサイトは、近くの大木を指差して提案した。 勿論タバサに異論があろう筈も無く二人は並んで大木の下まで来ると、幹に背を預けるようにして並んで座り、その美しい景色に心奪われていくのだった。 #br
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