ゼロの使い魔保管庫
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くじびきアンバランス! せんたいさん #br トリスタニアの王城に、この秋獲れたばかりの作物を満載した荷馬車がやってくる。 各地から王に献上する作物を運んできたのである。 そして王都の通りは、浮かれた人々や、それを当てにした屋台で賑わっていた。 ただし、その屋台には一件も食べ物を扱う店はない。安っぽいアクセサリーの店や、旅人を当てにした衣装の店、などなど。 これから、王城に納められた作物を調理して、城下に集まった人々に振舞われるからだ。 もちろん、城下の人全てに行き渡るほどの作物が、平民からの上納だけで賄われるわけではない。 足りない分は、貴族たちからの献上品で賄われる。 もちろん、トリステインの全ての貴族に、その上納の義務はある。 収入の大小でその量は決まってくるのだが。 「いやまって何この額!」 その日、初めてその事を知った才人は仰け反った。 アニエスから受け取った上納金の額を見て、ひっくり返りそうになる。 才人の貴族年金ちょうど一か月分がその書簡に書いてあった。 「…王命であるぞ。っていうかお前今月の貴族年金はどうした」 アニエスは目の前で天を仰ぐ才人に、そう突っ込んだ。 ちなみに才人の現在の全財産は銀貨三枚。少し豪華なランチを食べたらオシマイである。 今月分の貴族年金を受け取ってから、まだ一週間しか経っていないが、才人はスッカラカンであった。 それは何故か。 「…い、いや今月ちょっと出費がかさんで」 まず、貴族年金を受け取りに王都に来た際、アンと一緒に流行の劇を見に行った。 そしてその後、王都で一泊。王宮でだと色々アレなので、二人して場末の宿で一夜を明かした。 その二日後、水精霊騎士団の任務で王立美術館の美術品搬入の警護の任があった。 その任務が終わった後、少し豪華なディナーを食べた。アンリエッタが女王の姿のままで会食を希望したからである。 お陰で個室を借りなければならなかったし、給仕に払った口止めも結構な額になってしまった。 もちろんその後王都で一泊。王宮近くの御用宿を使ったため、かなりの金額がその一夜に消えた。 …アルェ?なんか無駄遣いの原因全部ヒメサマのような? しかし、才人とて仮にもトリステインの騎士である。 民に奉仕するため、この上納は外せない。 「仕方ない。一応陛下にお伺いを立ててみるが。 それなりの対価を要求されるのを覚悟しておけ」 言ってアニエスは王宮へ入っていく。 そして暫く待たされた後、才人は執務室へ通されたのだった。 祭りは滞りなく進む。 街の喧騒を他所に、王城は各地からやってきた諸侯貴族たちで賑わっていた。 もちろん、その中には貴族の子女であるトリステイン魔法学院の生徒も多数居る。 そして、当然の事ながら、才人に着いてきた例の四人も王宮にいた。 才人の馬に乗せてもらって、上機嫌で王都に着いたはいいが、今現在才人が居なくて不機嫌至極のルイズ。 ジェシカに祭りの準備の手伝いを要請され、先日から王都に居て、準備が終わったからそのまま才人とのお祭りデートを目論んでいたシエスタ。 一応王族待遇で招待状が来たので、とりあえず顔だけは出して、その後才人としっぽり夜のトリスタニアで大人のデートを計画していたタバサ。 アンリエッタの従姉妹なのでもちろん招待状が届き、折角だから才人にエスコートを頼もうと思っていたが見事に肩透かしを食ったティファニア。 四人は別々の場所から、王宮の中央中庭に向かっていた。 そこは、大きな張り出したテラスがあり、そこから王が眼下の庭に声を落とす、そう言う場所だった。 四人がそこへ向かっていたのは、そこで行事が執り行われるから。 …ひょっとすると、サイト(さん)がそこにいるかも。 全員が全く同じを事を考え、中央中庭に向かう。 そして。 「あ!」 「あら」 「…!?」 「え?」 全員が、広場で鉢合わせする。 …何こいつら?なんかすごく気合い入った格好じゃないの…! シエスタは、いつものメイド服ではなく、胸元の大きく開いた黒のイブニングドレス。 胸元には紅い薔薇をあしらった刺繍が施されていて、彼女の見事な白い谷間を強調している。大きくふわりと開いたスカートにも、各所に薔薇の刺繍が。もちろん、こういう日のために設えた一張羅である。 タバサは薄いブルーの、飾り気の少ないイブニングドレス。 ただし背中が大きく開いていて、後ろから見ると金刺繍で縁取られた大きなリボンの上は、まるで裸のように見えるのだが、今その背中は彼女のかぶった長髪のウィッグで隠されている。その背中で誘惑するべき対象はこの世にたった一人だからだ。 ティファニアは明るいオレンジ色の、トリスタニアでは珍しいスーツドレス。お金のないティファニアが、染料を使って学院の制服を染め、作ったのである。 しかしシンプルなデザインながらも、スーツが丸くたわむほど大きな彼女の胸が、同じ色のタイトミニから伸びる健康的な脚が、そのスーツを凶器に変えていた。 もちろんルイズも、白を基調とした、桜色のレースを各所にあしらった、豪奢なドレスに身を包んでいる。 しかしこのドレスは大して金をかけていない。彼女はあえて外にはこだわらなかった。この後、才人に見せる下着にこそ気合を入れたのである。その一部、高級なシルクで作られた、白と黒のチェック地の薄手のタイツが、短めのスカートから覗いている。 …偶然にしちゃできすぎですねえ…。 才人を呼び出したのは勿論王室。 そしてその才人は祭りの会場にいない。 四人はほぼ同時に、ある可能性にぶち当たる。 …あの淫乱女王が、サイトを拉致した…。 ルイズとタバサが同時に、女王が姿を現すであろう中庭のバルコニーに、殺気の篭った視線を飛ばす。 シエスタはうーん、と唸りながら思案をしだす。どうやって他の四人を出し抜くか、考えているのだ。 一方ティファニアはといえば。 …『私も一緒に』ってお願いしたらサイト、まぜてくれるかなあ…? 既に3P前提であった。 そんな四人の思案を他所に、中庭にファンファーレが響く。 主賓の、女王の入場を告げる音である。 『女王陛下の、おなりー!』 会場のほぼ全員が、拍手で女王を出迎える。 ただ、虚無の担い手と雪風の魔法使いだけが、女王を射殺しそうな視線で見つめていた。 そして。 その視線と、女王の視線がぶつかり合う。 壇上の女王は、四人の姿を確認すると、ふ、と頬を歪めて見せた。 何か企んでいる顔だ。 タバサは、すぐにピンときた。 あらかじめドレスに仕込んでおいた予備の杖を外から見えないように握り締め、『ディテクト・マジック』を唱える。 女王の身体は、魔力の反応で光り輝いていた。 つまり今壇上にいる女王は、魔法のかかった何者かである可能性が極めて高い。 「…どうしたのチビっこ」 タバサの眉が吊りあがった事に気付いたルイズが、タバサに尋ねる。 タバサは怒りを押し殺し、言った。 「…あの女王はニセモノ。本物は…サイトと、どこかにいる…」 言って、ぎり、と奥歯を噛み締める。 ルイズははっとして、会場に集まった賓客に言葉を投げかける女王を見上げた。 「…やってくれんじゃないの、わたあめのクセしてっ…!」 そして、こちらも同じくドレスの隙間に隠しておいた、いつでも才人にお仕置きするための予備の杖を取り出す。 「狙い撃つわよ…!」 まるで銃のように杖を構え、充填された虚無を女王の眉間に合せると。 「やめたほうがいいですわよ、ルイズ」 しかしその腕を細い白い手が掴む。 そう言ってルイズの腕を掴んで下ろさせたのは。 「わたあめっ!?」 「…淫乱女王…?」 「あら腹黒女王様」 「女王陛下…?」 四人それぞれの呼び名に、軽く頬をひくつかせる、黒髪の女性は。 アンリエッタの変装した街娘、『アン』だった。 しかしいつものパンツルックではなく、飾り気のない、質素なベージュのドレスに身を包んでいる。 だがその質素さがかえって、肌理の細かい肌や流れる艶のある髪、高貴な仕草を引き立てていた。王に飾りはいらないのである。 「…あれはスキルニルです。ここにいる私こそが本物ですよ」 笑顔でそう言ってのける『アン』。 その頬はかなりひくついていたが。 「…また何を企んでるのよ」 ルイズは何の遠慮会釈もなく、変装した女王にガンを飛ばす。 アンはそんなルイズの視線を軽く流すと、バルコニーの自分の分身に視線をやる。 「…まあ、少しお待ちなさい。すぐに分かります」 四人は、とりあえずそんな女王の言葉に従い、バルコニーのアンリエッタを見つめる。 四人それぞれの思惑を胸に。 …ことと次第によっちゃ遠慮なく吹っ飛ばすぞこのロイヤルビッチ。 …私のサイトに何かしてたら細切れにする。 …三人でやりあってるうちにサイトさんと逃げようっと。 …サイト、五人まとめてとかできるかなあ?頑張ればできるんじゃ…? 五人の醸し出す異様な空気に、周囲の賓客はもちろん一定の距離を置いていた。 そして、バルコニーの女王は賓客たちに宣言した。 『本日はお忙しい中、わざわざ収穫祭にご参加ありがとうございます。 貴族の皆様に納めていただいたお陰で、今年の収穫祭も無事執り行う事ができました。 そのお礼と言ってはなんですが、王室よりご来場の皆様に、お土産をご用意させていただきました』 トリステイン王家に上納された金額は、王都中の人々に行き渡るほどの作物を用意して、なお余りあった。 しかしアンリエッタ女王は、その余りを国庫に入れることをよしとしなかった。 余った分は、せめて上納の義務を果たした貴族たちに還元したい…とマザリーニに申し出たのだ。 だが、貴族の手土産になるほどのものを、この会場にいる者全員分用意するには足りなかった。 『ですが、ここにお集まりいただいた方全員にお土産をお渡しする事はできません。 そこで、ここにクジを用意しました』 言って壇上の女王は、大きな箱を取り出した。 その天上には、大きな丸い穴が。 『この中に、ここにいる皆様の分の、クジが入っています。 そこには、等級が書いてあり、中にははずれもありますが…』 そこまで言って、女王はぱちん、と指を鳴らす。 すると、中庭の一角に置いてあった、布を被せられ、山を象ったオブジェの布が取り払われる。 その下には、大小さまざまの箱が置かれていた。その側面には、『二等』から『十等』までの等級が書いてある。 もちろん、等級の高いものほど、価値のあるものが入っている。 『このように、等級をつけてお土産を用意しました。 三等以上のものの中には、トリステイン王家由来の品もあります。 ちなみにもう使用は出来ませんが、四等はあの『破壊の杖』です』 ちなみに廃棄処分にされそうになっていたものを、マザリーニの機転で王家が接収していたものである。 会場の賓客が騒ぎ出す。 モノによっては、ひと財産できそうなものも入っているようだ。 しかし、気になることが一つだけあった。 ティファニアが、首をかしげて素朴に言った。 「あのー?一等はなんなんでしょう…?」 その言葉に、にやり、と笑う『アン』。 そのアンを、バルコニーの女王が見つめて、そして。 『では、一等のお土産はこちらです』 がらがら、とバルコニーの上に、アニエスに牽かれて大きな台車がやってくる。 その上に乗っていたのは。 「あ!」 「え」 「…そういう、こと…?」 「え?あれ?お土産?」 「そう…。『お土産』はサイト様ですわ」 『一等は『トリステインの盾』を一週間貸し出します。 アルビオンの七万を止めた英雄です。庭の草むしりからドラゴン退治まで、何でもこなしますわ』 いやむしろそれはずれだろう、という賓客たちの心の突っ込みを他所に、バルコニー上の女王は続ける。 『本当は私もこのようなこと、したくはないのです。 でも、サイト様は上納金を納められなかった…ならば、この扱いも致し方ないことかと』 白い礼服に身を包んだ才人は、デルフリンガーを背負い、左手に鉄の篭手を嵌め、武装していたが。 逃げださないよう首輪を嵌められ、つながれた鎖の先をアニエスが握っている。 「…いやまあいいけどさ。しょうがないけどさ。だからってこの扱いはあんまりじゃね?」 「あきらめろサイト。女王陛下のご命令だ」 才人の呟きに、アニエスが冷静に突っ込みを入れる。 そして、女王の手から『レビテーション』の魔法によって、中庭に箱が下ろされる。 『では、一人ひとつずつクジを引いていってくださいな。当った方はお土産をお忘れなく』 女王の言葉に箱の前に並ぶ貴族たちを見て、ルイズは言った。 「ちょっと!他の誰かに当ったらどうすんのよ!」 「そうなったら、私とサイト様のご縁がそこまでだった、というだけ」 そいて、『アン』はシエスタに、一枚の書簡を手渡す。 「この書簡は王家の招待状です。これを持っていれば平民でもあのクジを引くことが出来ます」 そして、『アン』は同じような書簡を手に、貴族たちの後に続く。 もちろん、クジを引くために。 「対等な勝負です。 サイト様を、手に入れるための」 その言葉に、四人はアンリエッタに続く。 五人それぞれの思惑を胸に、才人を手に入れるため。 …一週間程度で私とサイトの絆に割り込んでこれるとは思えないけど、一応ね。 …一週間程度で私とサイトの繋がりを越えられるとでも?片腹痛い…。 …一週間あったら、全力でサイトさんをメロメロにできますよね♪ …一週間…サイトが私のモノ…一週間も甘えられたら、わ、私死んじゃうかも! …一週間で…サイト様を、王の器にしてみせます。できなかったら、既成事実コースで。 そして、当人の意思は完全に無視され。 運命の神の手に、才人の身体は委ねられたのである。 #br 【続き】 →[[35-198]]「ぼくらの7日間戦争〜一日目」 #br
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くじびきアンバランス! せんたいさん #br トリスタニアの王城に、この秋獲れたばかりの作物を満載した荷馬車がやってくる。 各地から王に献上する作物を運んできたのである。 そして王都の通りは、浮かれた人々や、それを当てにした屋台で賑わっていた。 ただし、その屋台には一件も食べ物を扱う店はない。安っぽいアクセサリーの店や、旅人を当てにした衣装の店、などなど。 これから、王城に納められた作物を調理して、城下に集まった人々に振舞われるからだ。 もちろん、城下の人全てに行き渡るほどの作物が、平民からの上納だけで賄われるわけではない。 足りない分は、貴族たちからの献上品で賄われる。 もちろん、トリステインの全ての貴族に、その上納の義務はある。 収入の大小でその量は決まってくるのだが。 「いやまって何この額!」 その日、初めてその事を知った才人は仰け反った。 アニエスから受け取った上納金の額を見て、ひっくり返りそうになる。 才人の貴族年金ちょうど一か月分がその書簡に書いてあった。 「…王命であるぞ。っていうかお前今月の貴族年金はどうした」 アニエスは目の前で天を仰ぐ才人に、そう突っ込んだ。 ちなみに才人の現在の全財産は銀貨三枚。少し豪華なランチを食べたらオシマイである。 今月分の貴族年金を受け取ってから、まだ一週間しか経っていないが、才人はスッカラカンであった。 それは何故か。 「…い、いや今月ちょっと出費がかさんで」 まず、貴族年金を受け取りに王都に来た際、アンと一緒に流行の劇を見に行った。 そしてその後、王都で一泊。王宮でだと色々アレなので、二人して場末の宿で一夜を明かした。 その二日後、水精霊騎士団の任務で王立美術館の美術品搬入の警護の任があった。 その任務が終わった後、少し豪華なディナーを食べた。アンリエッタが女王の姿のままで会食を希望したからである。 お陰で個室を借りなければならなかったし、給仕に払った口止めも結構な額になってしまった。 もちろんその後王都で一泊。王宮近くの御用宿を使ったため、かなりの金額がその一夜に消えた。 …アルェ?なんか無駄遣いの原因全部ヒメサマのような? しかし、才人とて仮にもトリステインの騎士である。 民に奉仕するため、この上納は外せない。 「仕方ない。一応陛下にお伺いを立ててみるが。 それなりの対価を要求されるのを覚悟しておけ」 言ってアニエスは王宮へ入っていく。 そして暫く待たされた後、才人は執務室へ通されたのだった。 祭りは滞りなく進む。 街の喧騒を他所に、王城は各地からやってきた諸侯貴族たちで賑わっていた。 もちろん、その中には貴族の子女であるトリステイン魔法学院の生徒も多数居る。 そして、当然の事ながら、才人に着いてきた例の四人も王宮にいた。 才人の馬に乗せてもらって、上機嫌で王都に着いたはいいが、今現在才人が居なくて不機嫌至極のルイズ。 ジェシカに祭りの準備の手伝いを要請され、先日から王都に居て、準備が終わったからそのまま才人とのお祭りデートを目論んでいたシエスタ。 一応王族待遇で招待状が来たので、とりあえず顔だけは出して、その後才人としっぽり夜のトリスタニアで大人のデートを計画していたタバサ。 アンリエッタの従姉妹なのでもちろん招待状が届き、折角だから才人にエスコートを頼もうと思っていたが見事に肩透かしを食ったティファニア。 四人は別々の場所から、王宮の中央中庭に向かっていた。 そこは、大きな張り出したテラスがあり、そこから王が眼下の庭に声を落とす、そう言う場所だった。 四人がそこへ向かっていたのは、そこで行事が執り行われるから。 …ひょっとすると、サイト(さん)がそこにいるかも。 全員が全く同じを事を考え、中央中庭に向かう。 そして。 「あ!」 「あら」 「…!?」 「え?」 全員が、広場で鉢合わせする。 …何こいつら?なんかすごく気合い入った格好じゃないの…! シエスタは、いつものメイド服ではなく、胸元の大きく開いた黒のイブニングドレス。 胸元には紅い薔薇をあしらった刺繍が施されていて、彼女の見事な白い谷間を強調している。大きくふわりと開いたスカートにも、各所に薔薇の刺繍が。もちろん、こういう日のために設えた一張羅である。 タバサは薄いブルーの、飾り気の少ないイブニングドレス。 ただし背中が大きく開いていて、後ろから見ると金刺繍で縁取られた大きなリボンの上は、まるで裸のように見えるのだが、今その背中は彼女のかぶった長髪のウィッグで隠されている。その背中で誘惑するべき対象はこの世にたった一人だからだ。 ティファニアは明るいオレンジ色の、トリスタニアでは珍しいスーツドレス。お金のないティファニアが、染料を使って学院の制服を染め、作ったのである。 しかしシンプルなデザインながらも、スーツが丸くたわむほど大きな彼女の胸が、同じ色のタイトミニから伸びる健康的な脚が、そのスーツを凶器に変えていた。 もちろんルイズも、白を基調とした、桜色のレースを各所にあしらった、豪奢なドレスに身を包んでいる。 しかしこのドレスは大して金をかけていない。彼女はあえて外にはこだわらなかった。この後、才人に見せる下着にこそ気合を入れたのである。その一部、高級なシルクで作られた、白と黒のチェック地の薄手のタイツが、短めのスカートから覗いている。 …偶然にしちゃできすぎですねえ…。 才人を呼び出したのは勿論王室。 そしてその才人は祭りの会場にいない。 四人はほぼ同時に、ある可能性にぶち当たる。 …あの淫乱女王が、サイトを拉致した…。 ルイズとタバサが同時に、女王が姿を現すであろう中庭のバルコニーに、殺気の篭った視線を飛ばす。 シエスタはうーん、と唸りながら思案をしだす。どうやって他の四人を出し抜くか、考えているのだ。 一方ティファニアはといえば。 …『私も一緒に』ってお願いしたらサイト、まぜてくれるかなあ…? 既に3P前提であった。 そんな四人の思案を他所に、中庭にファンファーレが響く。 主賓の、女王の入場を告げる音である。 『女王陛下の、おなりー!』 会場のほぼ全員が、拍手で女王を出迎える。 ただ、虚無の担い手と雪風の魔法使いだけが、女王を射殺しそうな視線で見つめていた。 そして。 その視線と、女王の視線がぶつかり合う。 壇上の女王は、四人の姿を確認すると、ふ、と頬を歪めて見せた。 何か企んでいる顔だ。 タバサは、すぐにピンときた。 あらかじめドレスに仕込んでおいた予備の杖を外から見えないように握り締め、『ディテクト・マジック』を唱える。 女王の身体は、魔力の反応で光り輝いていた。 つまり今壇上にいる女王は、魔法のかかった何者かである可能性が極めて高い。 「…どうしたのチビっこ」 タバサの眉が吊りあがった事に気付いたルイズが、タバサに尋ねる。 タバサは怒りを押し殺し、言った。 「…あの女王はニセモノ。本物は…サイトと、どこかにいる…」 言って、ぎり、と奥歯を噛み締める。 ルイズははっとして、会場に集まった賓客に言葉を投げかける女王を見上げた。 「…やってくれんじゃないの、わたあめのクセしてっ…!」 そして、こちらも同じくドレスの隙間に隠しておいた、いつでも才人にお仕置きするための予備の杖を取り出す。 「狙い撃つわよ…!」 まるで銃のように杖を構え、充填された虚無を女王の眉間に合せると。 「やめたほうがいいですわよ、ルイズ」 しかしその腕を細い白い手が掴む。 そう言ってルイズの腕を掴んで下ろさせたのは。 「わたあめっ!?」 「…淫乱女王…?」 「あら腹黒女王様」 「女王陛下…?」 四人それぞれの呼び名に、軽く頬をひくつかせる、黒髪の女性は。 アンリエッタの変装した街娘、『アン』だった。 しかしいつものパンツルックではなく、飾り気のない、質素なベージュのドレスに身を包んでいる。 だがその質素さがかえって、肌理の細かい肌や流れる艶のある髪、高貴な仕草を引き立てていた。王に飾りはいらないのである。 「…あれはスキルニルです。ここにいる私こそが本物ですよ」 笑顔でそう言ってのける『アン』。 その頬はかなりひくついていたが。 「…また何を企んでるのよ」 ルイズは何の遠慮会釈もなく、変装した女王にガンを飛ばす。 アンはそんなルイズの視線を軽く流すと、バルコニーの自分の分身に視線をやる。 「…まあ、少しお待ちなさい。すぐに分かります」 四人は、とりあえずそんな女王の言葉に従い、バルコニーのアンリエッタを見つめる。 四人それぞれの思惑を胸に。 …ことと次第によっちゃ遠慮なく吹っ飛ばすぞこのロイヤルビッチ。 …私のサイトに何かしてたら細切れにする。 …三人でやりあってるうちにサイトさんと逃げようっと。 …サイト、五人まとめてとかできるかなあ?頑張ればできるんじゃ…? 五人の醸し出す異様な空気に、周囲の賓客はもちろん一定の距離を置いていた。 そして、バルコニーの女王は賓客たちに宣言した。 『本日はお忙しい中、わざわざ収穫祭にご参加ありがとうございます。 貴族の皆様に納めていただいたお陰で、今年の収穫祭も無事執り行う事ができました。 そのお礼と言ってはなんですが、王室よりご来場の皆様に、お土産をご用意させていただきました』 トリステイン王家に上納された金額は、王都中の人々に行き渡るほどの作物を用意して、なお余りあった。 しかしアンリエッタ女王は、その余りを国庫に入れることをよしとしなかった。 余った分は、せめて上納の義務を果たした貴族たちに還元したい…とマザリーニに申し出たのだ。 だが、貴族の手土産になるほどのものを、この会場にいる者全員分用意するには足りなかった。 『ですが、ここにお集まりいただいた方全員にお土産をお渡しする事はできません。 そこで、ここにクジを用意しました』 言って壇上の女王は、大きな箱を取り出した。 その天上には、大きな丸い穴が。 『この中に、ここにいる皆様の分の、クジが入っています。 そこには、等級が書いてあり、中にははずれもありますが…』 そこまで言って、女王はぱちん、と指を鳴らす。 すると、中庭の一角に置いてあった、布を被せられ、山を象ったオブジェの布が取り払われる。 その下には、大小さまざまの箱が置かれていた。その側面には、『二等』から『十等』までの等級が書いてある。 もちろん、等級の高いものほど、価値のあるものが入っている。 『このように、等級をつけてお土産を用意しました。 三等以上のものの中には、トリステイン王家由来の品もあります。 ちなみにもう使用は出来ませんが、四等はあの『破壊の杖』です』 ちなみに廃棄処分にされそうになっていたものを、マザリーニの機転で王家が接収していたものである。 会場の賓客が騒ぎ出す。 モノによっては、ひと財産できそうなものも入っているようだ。 しかし、気になることが一つだけあった。 ティファニアが、首をかしげて素朴に言った。 「あのー?一等はなんなんでしょう…?」 その言葉に、にやり、と笑う『アン』。 そのアンを、バルコニーの女王が見つめて、そして。 『では、一等のお土産はこちらです』 がらがら、とバルコニーの上に、アニエスに牽かれて大きな台車がやってくる。 その上に乗っていたのは。 「あ!」 「え」 「…そういう、こと…?」 「え?あれ?お土産?」 「そう…。『お土産』はサイト様ですわ」 『一等は『トリステインの盾』を一週間貸し出します。 アルビオンの七万を止めた英雄です。庭の草むしりからドラゴン退治まで、何でもこなしますわ』 いやむしろそれはずれだろう、という賓客たちの心の突っ込みを他所に、バルコニー上の女王は続ける。 『本当は私もこのようなこと、したくはないのです。 でも、サイト様は上納金を納められなかった…ならば、この扱いも致し方ないことかと』 白い礼服に身を包んだ才人は、デルフリンガーを背負い、左手に鉄の篭手を嵌め、武装していたが。 逃げださないよう首輪を嵌められ、つながれた鎖の先をアニエスが握っている。 「…いやまあいいけどさ。しょうがないけどさ。だからってこの扱いはあんまりじゃね?」 「あきらめろサイト。女王陛下のご命令だ」 才人の呟きに、アニエスが冷静に突っ込みを入れる。 そして、女王の手から『レビテーション』の魔法によって、中庭に箱が下ろされる。 『では、一人ひとつずつクジを引いていってくださいな。当った方はお土産をお忘れなく』 女王の言葉に箱の前に並ぶ貴族たちを見て、ルイズは言った。 「ちょっと!他の誰かに当ったらどうすんのよ!」 「そうなったら、私とサイト様のご縁がそこまでだった、というだけ」 そいて、『アン』はシエスタに、一枚の書簡を手渡す。 「この書簡は王家の招待状です。これを持っていれば平民でもあのクジを引くことが出来ます」 そして、『アン』は同じような書簡を手に、貴族たちの後に続く。 もちろん、クジを引くために。 「対等な勝負です。 サイト様を、手に入れるための」 その言葉に、四人はアンリエッタに続く。 五人それぞれの思惑を胸に、才人を手に入れるため。 …一週間程度で私とサイトの絆に割り込んでこれるとは思えないけど、一応ね。 …一週間程度で私とサイトの繋がりを越えられるとでも?片腹痛い…。 …一週間あったら、全力でサイトさんをメロメロにできますよね♪ …一週間…サイトが私のモノ…一週間も甘えられたら、わ、私死んじゃうかも! …一週間で…サイト様を、王の器にしてみせます。できなかったら、既成事実コースで。 そして、当人の意思は完全に無視され。 運命の神の手に、才人の身体は委ねられたのである。 #br 【続き】 →[[35-198]]「ぼくらの7日間戦争〜一日目」 #br
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