ゼロの使い魔保管庫
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ガンガンガンガン!! 「ったく、貴様の飲み込みは異常だ、才人」 「師匠が上手いからでしょうが!!」 才人が右剣で払い、左剣で突く。其をアニエスは左剣で絡め右剣で斬ると、才人に胸にパシャリと当たる 「今、死んだぞ」 「そうそう上手くは行かないか」 「相手全体と足先を見ろ。そうすりゃ、間合いを計れる。ふむ、痛くないと身に染みないか。そろそろ木剣に切り替えるか?」 「そしたら、ルーンが発動しちゃうんだけど?」 「何を言ってる?私だけに決まっておろうが」 「…そうですよね」 木剣を握ったアニエスが、稽古を再開する 「ほらほらどうした?マンゴーシュとレイピアの使い方は、教えた筈だぞ?」 「糞ったれ〜〜〜!!」ガンガン、パシャッ 「技有り!!」 「見事だ。だがな」 ゴンッ 「痛ぇっ」 「敵が必ずしも一撃で倒れるとは限らん。しっかり、最後迄警戒しろ」 「はい」 才人とアニエスの稽古は所構わず苛烈を極め、時には組み打ち術での稽古迄やり、更に放課後は暇を持て余した学院生に、軽い魔法での攻撃回避訓練迄させられ、才人は常にボコボコになっているが、アニエス自体も相当消耗している 「良し、二人共避けろよ。攻撃開始!!」 タバサとキュルケのコンビで威力を調整された、連発の魔法回避訓練 タバサが威力を下げたウィンディアイシクルを大量に形成し、二人に連続して放つ カカカッ 「く、中々キツイ」 「よっしゃ、全弾回避!!」 「あら、まだまだよ、ダーリン」 炎弾が降り注ぐ 「でぇっ!?」 「次は僕だ、おいでワルキューレ達」 「どわ〜!?」 「私は真剣使うぞ!!」才人とアニエスのコンビで、槍を持ったワルキューレを迎え撃つ 「多数対多数の場合は、味方の背に気を配れ。味方の背を守るのは、自身を守る事だ」 「イエッサ」 キイン、ガッ 「アニエスさん後ろ!!」 ガン 「中々のフォローだ、才人」 「其じゃ、オマケ行くぞ〜」 ここぞとばかりにマリコルヌ、ギムリ、レイナールが魔法を才人に放つ 「どわぁ〜〜〜!?」 才人は突っ伏す 「ふっ、ズタボロだな才人」 「…嬉しそうに言わないでくれ」 「二人共、此飲んで」 「モンモン助かるわ」 「有難うモンモランシー。さてと、仕上げの舞姫行くぞ」 「あいさ」 ルイズはラグドリアン湖から帰って来た後、才人を露骨に避け、部屋に閉じ込もり、アンリエッタの結婚式用の祝詞を考えている のは建前で、才人にしたあれやこれが恥ずかし過ぎて、顔を合わせてる事が出来ないだけである 「どどどどうしよ?ああああたし、サイトにあんな事しちゃった。サイトの子供欲しいって、言っちゃった」 「サイトに凄くえっちな格好で誘っちゃった。あたし、今迫られたら……だ、駄目、始祖と神に御許しを請わないと駄目なの。結婚しても、三ヶ月は許しちゃ駄目なの」 「ででででも、今御許しを請えば良いんじゃないかしら?そそそ其にサイトは始祖より上だから、べべべ別に良いかな?」 「ななな何言ってるのよ、ルイズ。サイトは使い魔なの!平民なの!あたしはヴァリエールなの!」 「それに、あれは惚れ薬のせいであって、私の本心じゃないの!……多分。じゃあ、どうするの?才人に迫られたらどうするの?ゆゆゆ許しちゃうの?」 「ううう、ちい姉さまは嘘ついちゃ駄目とか言って来るし、どどどどうすれば。あたし、サイトの添い寝止める?そんなの駄目だもん。サイトの温もり無いの、もう駄目だもん」 「其も此も皆サイトがイケナイんだ。サイトがあたしだけ見てれば、こんな思いしなくて済むのに、馬鹿馬鹿馬鹿。こんなんじゃ、祝詞なんて考えられないもん。ううう、サイトに顔合わせるの恥ずかしいよぅ。でも、サイト居ないと駄目だもん」 「ううう、気分転換に始祖の祈祷書でも見よう。何これ?白紙じゃない。オールドオスマンなら、何か知ってるかしら?」 ルイズは祈祷書と水のルビーを抱えて寮を出、学院長室に向かう コンコン 「誰かな?」 「ラ=ヴァリエールです。オールドオスマン」 「入りたまえ」 ガチャ 「失礼します」 「おや、今日は才人君が一緒じゃないのかね?」 「サイトは稽古に励んでます」 「あぁ、学生迄巻き込んで、派手に稽古してる様だのぅ」 「あの、注意しないんですか?」 「何、メイジが暴れるより、余程地味じゃよ」 「其はそうですけど」 「メイジが暴れた時より楽じゃからな。止める理由が無いのじゃよ。一応殿下の命令じゃろう?そもそも、別に用事が有ったのではないのかね?」 「そうでした。あの、この始祖の祈祷書なんですが、白紙なんですけど。もしかして、偽書ですか?」 「さて、儂も詳しくは解らぬ。只、必要な時になると、読める様になると言われておる様じゃの」 「じゃあ、今白紙なのは?」 「まだ、その時では無いと言う事じゃろう」 「じゃあ、この水のルビーは?」 「其は巫女に必要な物じゃからな。身に付けておきなさい」 「解りました」 ルイズは左手の中指にルビーを填めると、ピタリと収まる 「で、祝詞の進行具合はどうかね?」 「実は、全くなんです」 「ふむ、確か詩作の成績は悪かったの」 「う、ご存知なんですか?」 「一応学院長なのでな。学生の成績は全員把握しておるよ」 「…失礼致しました(学院長って、伊達じゃないんだ)」 「では、疑問は此で全部かね?」 「はい」 「では、殿下の結婚式迄に、素晴らしい祝詞を出来る事を祈っておるよ」 「プレッシャーかけないで下さい」 「何、そなたの使い魔に協力して貰えば、すぐではないかね?」 「サイトに詩作の才があるなんて、聞いて無いです」 「別に作って貰う必要は無いじゃろう。そなたの重荷を支えてくれる存在じゃろ?こういう時こそ、頼ったらどうかね?」 「でも、今はサイトは稽古で」 「何、そなたの詩作も重要じゃろ?銃士隊隊長殿も、其処まで融通が効かないとも思えんのじゃがね。其とも、顔を合わせるのが辛いのかね?」 ルイズは顔を紅くする 「ふむふむ、何かあった様じゃの。若い内は、体当たりで悩みをぶつけるのも良い事じゃよ。特にそなたの使い魔は、そういう時こそ、大事にしてくれるじゃろ?」 「あの、サイトの事、何かご存知なんですか?」 「まぁ、学院で起きた出来事は、報告が入るからの」 「サイトが何をしているか。ご存知なのですか?」 「平民においたをした連中に、お仕置きしたりしてる様じゃな」 「私に内緒で?」 「そなたに、迷惑をかけぬ為じゃろう。事実、親元から苦情と引き渡し請求が来ておっての、乗り込んで来た親も居たでな」 「何で、そんな事になってるのに、私に相談しないんですか?ヴァリエールの名前出せば、直ぐに」 「決闘した上で、あっさり退けてしまったからの。しかも、理由をきちんと説明して、親に納得させておったわ。親に生徒がどやされておったのぉ」 「…知らなかった」 「そなたに、余計な心労をかけぬ為じゃろう。実に出来た男では無いかね?」 「…はい」 「そうそう、此は儂が言ったと言わないでくれるかね?儂も、才人君には睨まれたくないのでな」 オスマンは悪戯っぽく、ウィンクをする 「解りました。失礼します」 パタン 「ほっほっほ。面白いのぉ」 ルイズはシエスタを探して厨房に向かう 「失礼します」 「ミスヴァリエール。どうしたんですか、こんな所に?」 「シエスタ知らない?」 「今は洗濯物をしまいに行ってると思いますが」 「ありがと」 洗濯物が干してある場所に移動し、シエスタを探す 「あ、居た。シエスタ、ちょっと良い?」 「どうしたんですか?ミスヴァリエール」 「ちょっと、聞きたい事が有るのよ」 「シエスタ、行って良いわよ」 「ごめん、宜しくね」 二人揃ってベンチに座る 「あの、どんなお話でしょうか?」 「サイトが平民においたした生徒に、お仕置きしたって聞いたんだけど、本当?」 「誰から聞いたんですか?才人さんも私達も、誰にも言ってないですよ?」 「……本当なのね。いつの話?」 「ミスヴァリエール達が暫く外出した時より前ですね。その後、親が来て才人さん見付けて潰そうとしたんですけど、あっさり撃退しちゃいました」 「何でそんな事になったのよ?」 「私達メイドの服を、ズタズタにした貴族が居たんですけど、才人さんが其に怒って、使い魔さん達使って犯人見付けて、決闘して叩きのめしちゃいました」 「何で、親迄出てきたのよ?」 「仕立て用の生地代を請求したからですね。学生じゃ、払える金額じゃ無かったです。きちんと才人さんが説明したら、貴族も納得して下さって、支払って頂きました」 「何で私に言わないのよ?」 「才人さんの怒った顔、見た事有りますか?」 「…無いわ」 「あれ見たら、話す気無くなりますよ。絶対に、才人さんは怒らせちゃ駄目です。はっきり言って、貴族なんかより怖いです」 「そんなに怖いの?」 「学生の親が決闘した際、余りの恐怖に失神してました。ミスヴァリエール、才人さんは滅多に怒りませんが、怒りを買う様な事はしない方が良いです」 「そんなに?」 「私に向けられたら、失神所か死んじゃうかも」 ルイズは青くなる 『そういえば、キュルケもタバサも怖がってた様な?』 「何か怒らせる様な事、したんですか?」 「してないわよ、多分」 「どうせ、惚れ薬の時のデレデレ度合いを恥ずかしがって、ボコボコにしまくってるんでしょう?」 「うぐっ」 「そんな事ばかりしてるなら、才人さん貰いますからね」 「な、何言ってるのよ?才人はあたしの使い魔で、あたしのモノなのよ」 「才人さんの隣に立てるなら、関係ないです。私は才人さん以外、欲しくないですから。では、仕事に戻ります」 シエスタは立ち上がり、洗濯物をしまいに戻って行く 「ううぅ、モンモランシーに続いてシエスタ迄。サイト、あたしどうすれば良いの?」 ルイズは肩を落とし、部屋に戻って行った * * * 「ちょっと、発動時間を下げて見るぞ」 「あら、どうしたの?」 「使える時間を試す。一応準備してくれ」 「解ったわ」 「了解した」 「デルフ、時間の目安を覚えててくれ」 「あいよ」 「行くぞ」 才人が発動レベルを下げ、発動させる 才人の姿が消え、霧が舞う ガガ、ザッ 村雨とデルフを構えた状態で、静止する才人 「相棒、ガンダールヴの状態を解け」 「ああ」 チン 村雨を収め、デルフを地面に刺す 「どうでぃ?」 「ふぅ。全力疾走を、暫く続けた程度の消耗だな。発動と距離はどん位だ?」 「せいぜい5メイル、1/10秒って所だろ?」 「本当に使えねぇスペルだな、これ」 才人は苦笑する 「才人、此方向け」 「何?アニエスさん、むぐ」 コクンコクン 「ぷあっ。今回は大丈夫みたいだけど?」 「駄目だ。お前の場合、自身の消耗を無視して行動するのが、嫌と言う程解った。しかも、女の目の前じゃ、当たり前にそうする」 「私もアニエスさんに同意見ね、サイト」 そう言い、モンモランシーは治癒をかける 「あんた、本当は倒れるの、我慢してたでしょ?」 「えっと、バレバレ?」 「私は水メイジよ。あんたの状態なら、もう見ただけで解るわよ」 「降参だ」 才人は両手を上げる 「でもよ、やっと目処ついたじゃねぇか、相棒」 「あぁ、漸くか。アニエスさんから見て、どう思う?」 「本当に瞬間しか動けないが、決定機に使われたら、メイジはおろか、竜だろうとやれるだろうな」 「デルフは?」 「おぅ、エルフでも相手に出来るかもな」 「エルフって強いのか?」 「大体、人間対エルフでの戦場での交換比率は10対1だな」 「…メイジ含めて?」 「メイジだけでそうだし、どの兵科でも一般兵相手なら、更に交換比率は跳ね上がる。10倍の戦力用意して、物量ぶつけるしか方法が無い。竜騎士でせいぜい3対1位だ」 「恐ろしいな、それ」 「貴様は、そのエルフに勝てると、デルフは言ってるんだよ」 「えっと、俺って凄いの?」 「ハハハ。気付いて無かったのか?才人は、自身に付いては本当に無頓着だな」 「全くよ」 「さいですか」 「ねぇ、才人」 「何だ?」 「スペルの名前、どうするの?」 「そういや、考えて無かったな」 「名前付けて良い?」 「何かアイデア出たのか?」 「えぇ。瞬間で動くから、瞬動って、どうかしら?」 「良いね、瞬動で決まりだ」 「…ようやく、魔法を使える小人だぁね」 デルフは誰にも気付かれない様、独り呟いた * * * 才人が部屋に戻ると、ルイズが机に突っ伏している 「どうした、ルイズ?」 ルイズからの返事は無い 「寝てるのか、よっと」 才人はルイズを抱き上げベッドに運ぼうとした時、ルイズが眼を開ける 「……サイト?」 「済まん、起こしちまったか?」 かぁぁぁと、ルイズは真っ赤にになる 「は、離して」 「どうした、ルイズ?最近変だぞ?」 「そそそ其も此も、全部あんたが悪いんだもん。ご主人様が悩んでるのに、放っておくのが悪いんだもん」 ふぅと才人は溜め息を付き、ルイズをベッドに座らせる 「悪かった。悩みは何だ?惚れ薬の件か?」 コクリ 「他にも有るか?」 コクリ 「じゃあ、一個ずつやるか。惚れ薬の件は事故だ。あの時の言動及び行動は憶えてない。殴りたいなら好きにしろ」 「何で、そんなにあっさりしてるの?」 「普通に接しないと、ルイズが困るだろ?」 才人は優しく撫でる 「う〜、ごごごご主人様にされて、ううう嬉しくないの?」 「薬でされても嬉しくないね。ルイズならどうだ?」 ルイズは才人が自分だけを向いて、常に自分に愛を囁く様を想像し、完全にのぼせ上がる 「わわわ悪くないわね」 「はぁ、薬切れた時点の苦しみは、俺よりルイズのが知ってるだろう?其でも良いのか?其とも、俺ならそうなっても構わないのか?」 「つつつ使い魔なら、ご主人様だけ見るのが当然よ」 「……そうか。他の悩みは何だ?」 「祝詞が思い浮かばないの」 「祝詞って姫様の結婚式のか?」 コクリ 「どんな事しないと駄目なんだ?」 「あたし、詩作苦手で、さっぱり解んない」 「参ったな。俺も詩はさっぱりだ。ギーシュ辺りが得意じゃないのか?ギーシュに相談したら、どうだ?」 「サイトが良いの」 「って言ってもな、せいぜい川柳位だぞ、俺は」 「勉強会で言ってた、俳句や短歌とは違うの?」 「俳句の五七五と変わらないんだが、俳句に入れる為の季語が無い奴でね」 「例えば?」 「ふむ。ちっぱいの、今日の主人も、胸は無し」 ドゲシッ!! 「ぐはっ」 「むむむ胸か?胸が良いんか?ちょっと、死後の世界行ってみる?」 「あたたた……即興で詠むの、大変なんだけどなぁ」 「いいい今、絶対に馬鹿にした。ご主人様に喧嘩売ったでしょ?」 「お、落ち着け。川柳ってのはな、日々感じた事を五七五に乗せて、韻を含めて詠う物なんだよ。突然言われたから、目の前にルイズが居たから、そうなっただけだ」 「絶対に馬鹿にしてる〜!この馬鹿犬〜!!」 「わ、解った解った。其では、コホン。桃髪の、主人の笑顔、我が癒し」 「……本当?」 「本当だよ。にしても、やっぱり下手糞だな」 「そんな事ない」 「誉められたから、そう思っただけだって。やっぱり詩は苦手だわ」 「でも、即興で出来てる」 「感じた事を表すだけだからな」 「感じた事をどうやって表現するの?」 「川柳の場合は、五七五にまとめる為に、余計なモノを一切排除して、哀愁や喜びを表現するんだが、ルイズの作らないといけない祝詞はどうなんだ?」 「んっと、始祖と神と土水火風に定型文で感謝を捧げた後に、思った事を綴るの。書式は自由」 「あぁ、自由は難しいなぁ。なら、自身で制限してみたらどうだ?」 「例えば?」 「俺の国の隣の国には漢詩って、昔作らた詩が有るんだが、5文字10行で、全てを表現したりする」 「そんな事出来るの?」 「文字の形態が違うからね、単語に複数の意味が入るから、出来る形態だよ」 「そんなの、ハルケギニア文字じゃ、無理じゃない」 「でも、似た発音とか、同音意義語は有るんだろ?其を組むと、複数の意味を表現出来るから、意味合いが広がるんじゃないか?」 「聞き様によって変わるって事?」 「そゆこと」 「…更に難しくしてどうすんのよ」 「あ、そうだな」 才人は笑う 「先ずは、姫様の事を思い出してごらん。小さい頃からの友達なんだろう?」 「ん〜姫様ったら、小さい頃はあたしの人形を取り上げて、一通り遊んだらぽいって放り投げて……むぅ、思い出したら、腹立ってきた」 「クックックッ、良い思い出じゃないか」 「何よ?其で、毎回の様に喧嘩してたんだから」 「なら、その思いをぶつければ良い」 「せっかくの結婚式で、そんな事出来る訳無いでしょ?」 「完全無欠なんざ、人間として面白くないだろ?だから、ユーモアたっぷりに仕上げたれ」 「…其で良いの?」 「自由なんだろ?」 「そっか、そうよね」 『あぁ、やっぱり、サイトは頼りになるなぁ。サイトを使い魔に出来たのって、あたしの最高の幸運よね』 「これで大丈夫か?」 「ヒントにはなったかな」 「そっか」 くしゃりと撫で、ルイズは気持ち良さそうにする 「他には有るか?」 「サイトは伝説の使い魔、ガンダールヴだよね?」 「何でか知らんが、そうなっちまったな」 「何で、あたしはゼロなのかな?」 才人の顔から、笑顔が消える 「誰がゼロだって?言った奴誰だ?」 ビクッ ルイズは怯える 「だ、大丈夫、誰かから言われた訳じゃないから、そんな顔しないでよ」 『あれがサイトの怒りの片鱗。私に向けた訳じゃないのに、こ、怖い』 「そっか」 才人の顔に笑顔が戻り、ふぅとルイズは溜め息をつく 「あたしの使い魔は伝説の使い魔なのに、あたしは何時まで経っても、魔法は一つも成功しないの」 「今迄の練習した魔法は何の系統だ?」 「四系統とコモンマジック」 「コモンマジックは最高の成功しただろ?」 「嘘」 「ルイズの目の前に、ガンダールヴが居るじゃないか」 はっと、才人を見上げる 「あ」 「ほら、伝説なんか呼び出せたルイズは、誰より凄い。自信持て」 かあぁと紅くなる 才人はルイズを軽く抱き締め、撫でる 「4系統なんざ、使えなくたって良いだろ?」 「だって」 「俺が全部、蹴散らせば良いだけだ」 「うん」 「魔法が使えるだけの貴族なんざ屑だ。ルイズは誰より努力してる。俺が認める。魔法を使える様になる為に、誰より一生懸命な、俺の可愛いご主人様だ」 「うん」 「その勉強は、きっと無駄にならない。俺が保証する。社会に出れば魔法なんかじゃ解決しない問題が、腐る程有る。そして、魔法じゃ出来ない事をルイズがやれば良い。逆に魔法しか出来ない連中を、こき使ってやれ」 「うん」 「ルイズはヴァリエールなんだろ?」 「そうよ、私は公爵家三女、ルイズ=フランソワーズ=ル=ブラン=ド=ラ=ヴァリエール。私に並び立てるのは、殆ど居ないの」 「なら大丈夫。今は下を向かずに前を向け。自分の足で誇りを持って歩ける様に。馬鹿にされた連中より、更に高く飛べる様に」 「サイトも一緒だよね?」 「あぁ」 「私の隣に立って良いのは、サイトだけだよ?」 「そりゃ、光栄だ。旦那が見つかる迄、立たせて貰うよ」 ズキン 「私の隣はサイトだけだよ?」 「あぁ、未来の旦那が来る迄な」 「違うの!!サイトだけなの!!何で解ってくれないの?この、馬鹿馬鹿馬鹿犬!!駄犬!!鈍感!!女たらし!!あんた、どっか行っちゃう積もりなんでしょ?」 「…ルイズが一人前になる迄は居るよ」 「やっぱり、出て行くんだ?あたしが大丈夫と思ったら、出て行くんだ?そんなの許さない。あんたは、ずっとあたしの隣に立つの。あたしと一緒に死ぬ迄立つの」 「サイトが出て行くなら、あたしは一人前になんかならない。結婚なんかしない。ずっとサイトの腕の中に居るの」 「…ルイズ」 「あたしをこんな気持ちにさせといて、出て行くなんて許さない。あんたはあたしのなの。使い魔の生涯は、主人のあたしのモノなの。例え、日本に子供や奥さん居たって渡さない。どんなに家族が待ってたって渡さない。サイトはあたしのなの!!」 こつん 抱擁を解かれ、ルイズのおでこに触れるだけの拳が入る 「ルイズは、家族から引き離されても、平気なんだな?」 「あたしより、家族を取るの?」 「そういう事じゃない」 ルイズは涙を一杯に溜め 「出てくの?出て行っちゃうの?なら、今直ぐ出てけ〜〜〜〜〜!!」 「…イエス。ミスヴァリエール」 才人は必要最低限の着替えだけ持ち、ジャケットを着、村雨とデルフを抱え部屋を出る パタン ルイズは放心した状態で、扉を見つめる 「…………やっちゃった。あたし、やっちゃった。ミスヴァリエールって・・・呼ばれちゃった」 「終わりだもん。ミスヴァリエールって呼ばれたら、もう終わりだもん。サイトは呼び方で、大体解るもん。あたし・・・サイトが居ないと」 「あたし、本当にゼロになっちゃった。もう、戻れない?謝れば許してくれるかな?」 「……サイトサイトサイト、うぅぅぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」 ルイズの苦鳴が、寮に木霊した 「び、びっくりした。な、何よ?ルイズの絶叫?」 隣の部屋のキュルケがびくつく 「ダーリンが無理矢理したのかしら?ちょっと確かめにっと」 キュルケは部屋を出、ルイズの部屋を覗く 「あれ?独りじゃない。でも、只事じゃ無いわね。ルイズ、入るわよ」 キィ 「うわぁぁぁぁ!!」 「ちょっと、どうしたのよ?」 「あぁぁぁぁ!!」 「泣いてばっかりいちゃ、解んないじゃない」 「ああぁぁぁぁ!!」 「もう、本当にどうしたのよ?ダーリンは?」 ビクン 「ザイドザイドザイド」 「喧嘩でもしたの?」 「ザイドが、出で行っぢゃっだ。あだじが悪いの〜」 「ああ、もう。先ずは落ち着きなさい」 キュルケが抱き締めようとするが、ルイズに払われる 「ザイドじゃないど嫌」 「全く。なら、そのまま落ち着きなさい。周りに迷惑だから、サイレンスかけるわよ」 「ヒッグヒッグ、ザイドザイド〜」 結局、ルイズは一晩中泣き続け、キュルケは待ってる途中で、そのまま寝てしまった * * * 「ふぁ、いつの間にか寝てたわ」 「サイトヒック、サイトサイト〜ヒックヒック」 「おはようルイズ。もしかして、一晩中泣いてたの?」 こくり 「凄い体力ね」 キュルケは呆れる 「そんなになる位なら、謝れば良いじゃない」 「言われたの」 「何を?」 「ミスヴァリエールって、言われたの」 「あちゃあ。ダーリンに言われた中じゃ、最悪ね」 こくり 「ダーリンがそんな事言うなんて余っ程よ。何言ったのよ?」 「ヒック、奥さんや子供が居ても家族なんかに渡さない、サイトはあたしの傍にずっと居るのって」 「……あんた、最低ね」 「あたしが悪いの」 「本当にあんたが全面的に悪いわね。見付けて謝りなさい」 「サイトが何処に行ったか解らない」 「ダーリン生活力有るからなぁ、学院出てたら、お手上げだわ。何処でも生きて行けちゃうし。逆に言えば、学院に居ればまだ大丈夫よ。ルイズが反省する迄、待ってくれてる証拠になるわね」 「本当?」 「本当よ。あんたの使い魔は、ハルケギニアで最高の使い魔なんでしょ?その特徴は?」 「…とっても優しい」 「良く出来ました。あ、でも、学院に居てもヤバいかな?」 「…何で?」 「ほら、ダーリン欲しがってるの、あんただけじゃ無いじゃない。私もダーリンに言い寄られたら、喜んで捧げちゃうもの」 「さぁ、泥棒猫に取られる前に、反省しきれるかしら、ヴァリエール?今日は寝なさい、食事もメイドに運んで貰うし、皆に捜索願い出しとくわ。授業は欠席伝えとく」 キュルケは手を振り部屋を出る パタン 「………あたしの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿」 ルイズは一晩中泣き続けた、疲労と睡魔に負け、眠りについた 机の上の祈祷書が窓からの風でぱらりと捲れ、文字が浮き立ったのは、ルイズが夢の中での時である * * *
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ガンガンガンガン!! 「ったく、貴様の飲み込みは異常だ、才人」 「師匠が上手いからでしょうが!!」 才人が右剣で払い、左剣で突く。其をアニエスは左剣で絡め右剣で斬ると、才人に胸にパシャリと当たる 「今、死んだぞ」 「そうそう上手くは行かないか」 「相手全体と足先を見ろ。そうすりゃ、間合いを計れる。ふむ、痛くないと身に染みないか。そろそろ木剣に切り替えるか?」 「そしたら、ルーンが発動しちゃうんだけど?」 「何を言ってる?私だけに決まっておろうが」 「…そうですよね」 木剣を握ったアニエスが、稽古を再開する 「ほらほらどうした?マンゴーシュとレイピアの使い方は、教えた筈だぞ?」 「糞ったれ〜〜〜!!」ガンガン、パシャッ 「技有り!!」 「見事だ。だがな」 ゴンッ 「痛ぇっ」 「敵が必ずしも一撃で倒れるとは限らん。しっかり、最後迄警戒しろ」 「はい」 才人とアニエスの稽古は所構わず苛烈を極め、時には組み打ち術での稽古迄やり、更に放課後は暇を持て余した学院生に、軽い魔法での攻撃回避訓練迄させられ、才人は常にボコボコになっているが、アニエス自体も相当消耗している 「良し、二人共避けろよ。攻撃開始!!」 タバサとキュルケのコンビで威力を調整された、連発の魔法回避訓練 タバサが威力を下げたウィンディアイシクルを大量に形成し、二人に連続して放つ カカカッ 「く、中々キツイ」 「よっしゃ、全弾回避!!」 「あら、まだまだよ、ダーリン」 炎弾が降り注ぐ 「でぇっ!?」 「次は僕だ、おいでワルキューレ達」 「どわ〜!?」 「私は真剣使うぞ!!」才人とアニエスのコンビで、槍を持ったワルキューレを迎え撃つ 「多数対多数の場合は、味方の背に気を配れ。味方の背を守るのは、自身を守る事だ」 「イエッサ」 キイン、ガッ 「アニエスさん後ろ!!」 ガン 「中々のフォローだ、才人」 「其じゃ、オマケ行くぞ〜」 ここぞとばかりにマリコルヌ、ギムリ、レイナールが魔法を才人に放つ 「どわぁ〜〜〜!?」 才人は突っ伏す 「ふっ、ズタボロだな才人」 「…嬉しそうに言わないでくれ」 「二人共、此飲んで」 「モンモン助かるわ」 「有難うモンモランシー。さてと、仕上げの舞姫行くぞ」 「あいさ」 ルイズはラグドリアン湖から帰って来た後、才人を露骨に避け、部屋に閉じ込もり、アンリエッタの結婚式用の祝詞を考えている のは建前で、才人にしたあれやこれが恥ずかし過ぎて、顔を合わせてる事が出来ないだけである 「どどどどうしよ?ああああたし、サイトにあんな事しちゃった。サイトの子供欲しいって、言っちゃった」 「サイトに凄くえっちな格好で誘っちゃった。あたし、今迫られたら……だ、駄目、始祖と神に御許しを請わないと駄目なの。結婚しても、三ヶ月は許しちゃ駄目なの」 「ででででも、今御許しを請えば良いんじゃないかしら?そそそ其にサイトは始祖より上だから、べべべ別に良いかな?」 「ななな何言ってるのよ、ルイズ。サイトは使い魔なの!平民なの!あたしはヴァリエールなの!」 「それに、あれは惚れ薬のせいであって、私の本心じゃないの!……多分。じゃあ、どうするの?才人に迫られたらどうするの?ゆゆゆ許しちゃうの?」 「ううう、ちい姉さまは嘘ついちゃ駄目とか言って来るし、どどどどうすれば。あたし、サイトの添い寝止める?そんなの駄目だもん。サイトの温もり無いの、もう駄目だもん」 「其も此も皆サイトがイケナイんだ。サイトがあたしだけ見てれば、こんな思いしなくて済むのに、馬鹿馬鹿馬鹿。こんなんじゃ、祝詞なんて考えられないもん。ううう、サイトに顔合わせるの恥ずかしいよぅ。でも、サイト居ないと駄目だもん」 「ううう、気分転換に始祖の祈祷書でも見よう。何これ?白紙じゃない。オールドオスマンなら、何か知ってるかしら?」 ルイズは祈祷書と水のルビーを抱えて寮を出、学院長室に向かう コンコン 「誰かな?」 「ラ=ヴァリエールです。オールドオスマン」 「入りたまえ」 ガチャ 「失礼します」 「おや、今日は才人君が一緒じゃないのかね?」 「サイトは稽古に励んでます」 「あぁ、学生迄巻き込んで、派手に稽古してる様だのぅ」 「あの、注意しないんですか?」 「何、メイジが暴れるより、余程地味じゃよ」 「其はそうですけど」 「メイジが暴れた時より楽じゃからな。止める理由が無いのじゃよ。一応殿下の命令じゃろう?そもそも、別に用事が有ったのではないのかね?」 「そうでした。あの、この始祖の祈祷書なんですが、白紙なんですけど。もしかして、偽書ですか?」 「さて、儂も詳しくは解らぬ。只、必要な時になると、読める様になると言われておる様じゃの」 「じゃあ、今白紙なのは?」 「まだ、その時では無いと言う事じゃろう」 「じゃあ、この水のルビーは?」 「其は巫女に必要な物じゃからな。身に付けておきなさい」 「解りました」 ルイズは左手の中指にルビーを填めると、ピタリと収まる 「で、祝詞の進行具合はどうかね?」 「実は、全くなんです」 「ふむ、確か詩作の成績は悪かったの」 「う、ご存知なんですか?」 「一応学院長なのでな。学生の成績は全員把握しておるよ」 「…失礼致しました(学院長って、伊達じゃないんだ)」 「では、疑問は此で全部かね?」 「はい」 「では、殿下の結婚式迄に、素晴らしい祝詞を出来る事を祈っておるよ」 「プレッシャーかけないで下さい」 「何、そなたの使い魔に協力して貰えば、すぐではないかね?」 「サイトに詩作の才があるなんて、聞いて無いです」 「別に作って貰う必要は無いじゃろう。そなたの重荷を支えてくれる存在じゃろ?こういう時こそ、頼ったらどうかね?」 「でも、今はサイトは稽古で」 「何、そなたの詩作も重要じゃろ?銃士隊隊長殿も、其処まで融通が効かないとも思えんのじゃがね。其とも、顔を合わせるのが辛いのかね?」 ルイズは顔を紅くする 「ふむふむ、何かあった様じゃの。若い内は、体当たりで悩みをぶつけるのも良い事じゃよ。特にそなたの使い魔は、そういう時こそ、大事にしてくれるじゃろ?」 「あの、サイトの事、何かご存知なんですか?」 「まぁ、学院で起きた出来事は、報告が入るからの」 「サイトが何をしているか。ご存知なのですか?」 「平民においたをした連中に、お仕置きしたりしてる様じゃな」 「私に内緒で?」 「そなたに、迷惑をかけぬ為じゃろう。事実、親元から苦情と引き渡し請求が来ておっての、乗り込んで来た親も居たでな」 「何で、そんな事になってるのに、私に相談しないんですか?ヴァリエールの名前出せば、直ぐに」 「決闘した上で、あっさり退けてしまったからの。しかも、理由をきちんと説明して、親に納得させておったわ。親に生徒がどやされておったのぉ」 「…知らなかった」 「そなたに、余計な心労をかけぬ為じゃろう。実に出来た男では無いかね?」 「…はい」 「そうそう、此は儂が言ったと言わないでくれるかね?儂も、才人君には睨まれたくないのでな」 オスマンは悪戯っぽく、ウィンクをする 「解りました。失礼します」 パタン 「ほっほっほ。面白いのぉ」 ルイズはシエスタを探して厨房に向かう 「失礼します」 「ミスヴァリエール。どうしたんですか、こんな所に?」 「シエスタ知らない?」 「今は洗濯物をしまいに行ってると思いますが」 「ありがと」 洗濯物が干してある場所に移動し、シエスタを探す 「あ、居た。シエスタ、ちょっと良い?」 「どうしたんですか?ミスヴァリエール」 「ちょっと、聞きたい事が有るのよ」 「シエスタ、行って良いわよ」 「ごめん、宜しくね」 二人揃ってベンチに座る 「あの、どんなお話でしょうか?」 「サイトが平民においたした生徒に、お仕置きしたって聞いたんだけど、本当?」 「誰から聞いたんですか?才人さんも私達も、誰にも言ってないですよ?」 「……本当なのね。いつの話?」 「ミスヴァリエール達が暫く外出した時より前ですね。その後、親が来て才人さん見付けて潰そうとしたんですけど、あっさり撃退しちゃいました」 「何でそんな事になったのよ?」 「私達メイドの服を、ズタズタにした貴族が居たんですけど、才人さんが其に怒って、使い魔さん達使って犯人見付けて、決闘して叩きのめしちゃいました」 「何で、親迄出てきたのよ?」 「仕立て用の生地代を請求したからですね。学生じゃ、払える金額じゃ無かったです。きちんと才人さんが説明したら、貴族も納得して下さって、支払って頂きました」 「何で私に言わないのよ?」 「才人さんの怒った顔、見た事有りますか?」 「…無いわ」 「あれ見たら、話す気無くなりますよ。絶対に、才人さんは怒らせちゃ駄目です。はっきり言って、貴族なんかより怖いです」 「そんなに怖いの?」 「学生の親が決闘した際、余りの恐怖に失神してました。ミスヴァリエール、才人さんは滅多に怒りませんが、怒りを買う様な事はしない方が良いです」 「そんなに?」 「私に向けられたら、失神所か死んじゃうかも」 ルイズは青くなる 『そういえば、キュルケもタバサも怖がってた様な?』 「何か怒らせる様な事、したんですか?」 「してないわよ、多分」 「どうせ、惚れ薬の時のデレデレ度合いを恥ずかしがって、ボコボコにしまくってるんでしょう?」 「うぐっ」 「そんな事ばかりしてるなら、才人さん貰いますからね」 「な、何言ってるのよ?才人はあたしの使い魔で、あたしのモノなのよ」 「才人さんの隣に立てるなら、関係ないです。私は才人さん以外、欲しくないですから。では、仕事に戻ります」 シエスタは立ち上がり、洗濯物をしまいに戻って行く 「ううぅ、モンモランシーに続いてシエスタ迄。サイト、あたしどうすれば良いの?」 ルイズは肩を落とし、部屋に戻って行った * * * 「ちょっと、発動時間を下げて見るぞ」 「あら、どうしたの?」 「使える時間を試す。一応準備してくれ」 「解ったわ」 「了解した」 「デルフ、時間の目安を覚えててくれ」 「あいよ」 「行くぞ」 才人が発動レベルを下げ、発動させる 才人の姿が消え、霧が舞う ガガ、ザッ 村雨とデルフを構えた状態で、静止する才人 「相棒、ガンダールヴの状態を解け」 「ああ」 チン 村雨を収め、デルフを地面に刺す 「どうでぃ?」 「ふぅ。全力疾走を、暫く続けた程度の消耗だな。発動と距離はどん位だ?」 「せいぜい5メイル、1/10秒って所だろ?」 「本当に使えねぇスペルだな、これ」 才人は苦笑する 「才人、此方向け」 「何?アニエスさん、むぐ」 コクンコクン 「ぷあっ。今回は大丈夫みたいだけど?」 「駄目だ。お前の場合、自身の消耗を無視して行動するのが、嫌と言う程解った。しかも、女の目の前じゃ、当たり前にそうする」 「私もアニエスさんに同意見ね、サイト」 そう言い、モンモランシーは治癒をかける 「あんた、本当は倒れるの、我慢してたでしょ?」 「えっと、バレバレ?」 「私は水メイジよ。あんたの状態なら、もう見ただけで解るわよ」 「降参だ」 才人は両手を上げる 「でもよ、やっと目処ついたじゃねぇか、相棒」 「あぁ、漸くか。アニエスさんから見て、どう思う?」 「本当に瞬間しか動けないが、決定機に使われたら、メイジはおろか、竜だろうとやれるだろうな」 「デルフは?」 「おぅ、エルフでも相手に出来るかもな」 「エルフって強いのか?」 「大体、人間対エルフでの戦場での交換比率は10対1だな」 「…メイジ含めて?」 「メイジだけでそうだし、どの兵科でも一般兵相手なら、更に交換比率は跳ね上がる。10倍の戦力用意して、物量ぶつけるしか方法が無い。竜騎士でせいぜい3対1位だ」 「恐ろしいな、それ」 「貴様は、そのエルフに勝てると、デルフは言ってるんだよ」 「えっと、俺って凄いの?」 「ハハハ。気付いて無かったのか?才人は、自身に付いては本当に無頓着だな」 「全くよ」 「さいですか」 「ねぇ、才人」 「何だ?」 「スペルの名前、どうするの?」 「そういや、考えて無かったな」 「名前付けて良い?」 「何かアイデア出たのか?」 「えぇ。瞬間で動くから、瞬動って、どうかしら?」 「良いね、瞬動で決まりだ」 「…ようやく、魔法を使える小人だぁね」 デルフは誰にも気付かれない様、独り呟いた * * * 才人が部屋に戻ると、ルイズが机に突っ伏している 「どうした、ルイズ?」 ルイズからの返事は無い 「寝てるのか、よっと」 才人はルイズを抱き上げベッドに運ぼうとした時、ルイズが眼を開ける 「……サイト?」 「済まん、起こしちまったか?」 かぁぁぁと、ルイズは真っ赤にになる 「は、離して」 「どうした、ルイズ?最近変だぞ?」 「そそそ其も此も、全部あんたが悪いんだもん。ご主人様が悩んでるのに、放っておくのが悪いんだもん」 ふぅと才人は溜め息を付き、ルイズをベッドに座らせる 「悪かった。悩みは何だ?惚れ薬の件か?」 コクリ 「他にも有るか?」 コクリ 「じゃあ、一個ずつやるか。惚れ薬の件は事故だ。あの時の言動及び行動は憶えてない。殴りたいなら好きにしろ」 「何で、そんなにあっさりしてるの?」 「普通に接しないと、ルイズが困るだろ?」 才人は優しく撫でる 「う〜、ごごごご主人様にされて、ううう嬉しくないの?」 「薬でされても嬉しくないね。ルイズならどうだ?」 ルイズは才人が自分だけを向いて、常に自分に愛を囁く様を想像し、完全にのぼせ上がる 「わわわ悪くないわね」 「はぁ、薬切れた時点の苦しみは、俺よりルイズのが知ってるだろう?其でも良いのか?其とも、俺ならそうなっても構わないのか?」 「つつつ使い魔なら、ご主人様だけ見るのが当然よ」 「……そうか。他の悩みは何だ?」 「祝詞が思い浮かばないの」 「祝詞って姫様の結婚式のか?」 コクリ 「どんな事しないと駄目なんだ?」 「あたし、詩作苦手で、さっぱり解んない」 「参ったな。俺も詩はさっぱりだ。ギーシュ辺りが得意じゃないのか?ギーシュに相談したら、どうだ?」 「サイトが良いの」 「って言ってもな、せいぜい川柳位だぞ、俺は」 「勉強会で言ってた、俳句や短歌とは違うの?」 「俳句の五七五と変わらないんだが、俳句に入れる為の季語が無い奴でね」 「例えば?」 「ふむ。ちっぱいの、今日の主人も、胸は無し」 ドゲシッ!! 「ぐはっ」 「むむむ胸か?胸が良いんか?ちょっと、死後の世界行ってみる?」 「あたたた……即興で詠むの、大変なんだけどなぁ」 「いいい今、絶対に馬鹿にした。ご主人様に喧嘩売ったでしょ?」 「お、落ち着け。川柳ってのはな、日々感じた事を五七五に乗せて、韻を含めて詠う物なんだよ。突然言われたから、目の前にルイズが居たから、そうなっただけだ」 「絶対に馬鹿にしてる〜!この馬鹿犬〜!!」 「わ、解った解った。其では、コホン。桃髪の、主人の笑顔、我が癒し」 「……本当?」 「本当だよ。にしても、やっぱり下手糞だな」 「そんな事ない」 「誉められたから、そう思っただけだって。やっぱり詩は苦手だわ」 「でも、即興で出来てる」 「感じた事を表すだけだからな」 「感じた事をどうやって表現するの?」 「川柳の場合は、五七五にまとめる為に、余計なモノを一切排除して、哀愁や喜びを表現するんだが、ルイズの作らないといけない祝詞はどうなんだ?」 「んっと、始祖と神と土水火風に定型文で感謝を捧げた後に、思った事を綴るの。書式は自由」 「あぁ、自由は難しいなぁ。なら、自身で制限してみたらどうだ?」 「例えば?」 「俺の国の隣の国には漢詩って、昔作らた詩が有るんだが、5文字10行で、全てを表現したりする」 「そんな事出来るの?」 「文字の形態が違うからね、単語に複数の意味が入るから、出来る形態だよ」 「そんなの、ハルケギニア文字じゃ、無理じゃない」 「でも、似た発音とか、同音意義語は有るんだろ?其を組むと、複数の意味を表現出来るから、意味合いが広がるんじゃないか?」 「聞き様によって変わるって事?」 「そゆこと」 「…更に難しくしてどうすんのよ」 「あ、そうだな」 才人は笑う 「先ずは、姫様の事を思い出してごらん。小さい頃からの友達なんだろう?」 「ん〜姫様ったら、小さい頃はあたしの人形を取り上げて、一通り遊んだらぽいって放り投げて……むぅ、思い出したら、腹立ってきた」 「クックックッ、良い思い出じゃないか」 「何よ?其で、毎回の様に喧嘩してたんだから」 「なら、その思いをぶつければ良い」 「せっかくの結婚式で、そんな事出来る訳無いでしょ?」 「完全無欠なんざ、人間として面白くないだろ?だから、ユーモアたっぷりに仕上げたれ」 「…其で良いの?」 「自由なんだろ?」 「そっか、そうよね」 『あぁ、やっぱり、サイトは頼りになるなぁ。サイトを使い魔に出来たのって、あたしの最高の幸運よね』 「これで大丈夫か?」 「ヒントにはなったかな」 「そっか」 くしゃりと撫で、ルイズは気持ち良さそうにする 「他には有るか?」 「サイトは伝説の使い魔、ガンダールヴだよね?」 「何でか知らんが、そうなっちまったな」 「何で、あたしはゼロなのかな?」 才人の顔から、笑顔が消える 「誰がゼロだって?言った奴誰だ?」 ビクッ ルイズは怯える 「だ、大丈夫、誰かから言われた訳じゃないから、そんな顔しないでよ」 『あれがサイトの怒りの片鱗。私に向けた訳じゃないのに、こ、怖い』 「そっか」 才人の顔に笑顔が戻り、ふぅとルイズは溜め息をつく 「あたしの使い魔は伝説の使い魔なのに、あたしは何時まで経っても、魔法は一つも成功しないの」 「今迄の練習した魔法は何の系統だ?」 「四系統とコモンマジック」 「コモンマジックは最高の成功しただろ?」 「嘘」 「ルイズの目の前に、ガンダールヴが居るじゃないか」 はっと、才人を見上げる 「あ」 「ほら、伝説なんか呼び出せたルイズは、誰より凄い。自信持て」 かあぁと紅くなる 才人はルイズを軽く抱き締め、撫でる 「4系統なんざ、使えなくたって良いだろ?」 「だって」 「俺が全部、蹴散らせば良いだけだ」 「うん」 「魔法が使えるだけの貴族なんざ屑だ。ルイズは誰より努力してる。俺が認める。魔法を使える様になる為に、誰より一生懸命な、俺の可愛いご主人様だ」 「うん」 「その勉強は、きっと無駄にならない。俺が保証する。社会に出れば魔法なんかじゃ解決しない問題が、腐る程有る。そして、魔法じゃ出来ない事をルイズがやれば良い。逆に魔法しか出来ない連中を、こき使ってやれ」 「うん」 「ルイズはヴァリエールなんだろ?」 「そうよ、私は公爵家三女、ルイズ=フランソワーズ=ル=ブラン=ド=ラ=ヴァリエール。私に並び立てるのは、殆ど居ないの」 「なら大丈夫。今は下を向かずに前を向け。自分の足で誇りを持って歩ける様に。馬鹿にされた連中より、更に高く飛べる様に」 「サイトも一緒だよね?」 「あぁ」 「私の隣に立って良いのは、サイトだけだよ?」 「そりゃ、光栄だ。旦那が見つかる迄、立たせて貰うよ」 ズキン 「私の隣はサイトだけだよ?」 「あぁ、未来の旦那が来る迄な」 「違うの!!サイトだけなの!!何で解ってくれないの?この、馬鹿馬鹿馬鹿犬!!駄犬!!鈍感!!女たらし!!あんた、どっか行っちゃう積もりなんでしょ?」 「…ルイズが一人前になる迄は居るよ」 「やっぱり、出て行くんだ?あたしが大丈夫と思ったら、出て行くんだ?そんなの許さない。あんたは、ずっとあたしの隣に立つの。あたしと一緒に死ぬ迄立つの」 「サイトが出て行くなら、あたしは一人前になんかならない。結婚なんかしない。ずっとサイトの腕の中に居るの」 「…ルイズ」 「あたしをこんな気持ちにさせといて、出て行くなんて許さない。あんたはあたしのなの。使い魔の生涯は、主人のあたしのモノなの。例え、日本に子供や奥さん居たって渡さない。どんなに家族が待ってたって渡さない。サイトはあたしのなの!!」 こつん 抱擁を解かれ、ルイズのおでこに触れるだけの拳が入る 「ルイズは、家族から引き離されても、平気なんだな?」 「あたしより、家族を取るの?」 「そういう事じゃない」 ルイズは涙を一杯に溜め 「出てくの?出て行っちゃうの?なら、今直ぐ出てけ〜〜〜〜〜!!」 「…イエス。ミスヴァリエール」 才人は必要最低限の着替えだけ持ち、ジャケットを着、村雨とデルフを抱え部屋を出る パタン ルイズは放心した状態で、扉を見つめる 「…………やっちゃった。あたし、やっちゃった。ミスヴァリエールって・・・呼ばれちゃった」 「終わりだもん。ミスヴァリエールって呼ばれたら、もう終わりだもん。サイトは呼び方で、大体解るもん。あたし・・・サイトが居ないと」 「あたし、本当にゼロになっちゃった。もう、戻れない?謝れば許してくれるかな?」 「……サイトサイトサイト、うぅぅぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」 ルイズの苦鳴が、寮に木霊した 「び、びっくりした。な、何よ?ルイズの絶叫?」 隣の部屋のキュルケがびくつく 「ダーリンが無理矢理したのかしら?ちょっと確かめにっと」 キュルケは部屋を出、ルイズの部屋を覗く 「あれ?独りじゃない。でも、只事じゃ無いわね。ルイズ、入るわよ」 キィ 「うわぁぁぁぁ!!」 「ちょっと、どうしたのよ?」 「あぁぁぁぁ!!」 「泣いてばっかりいちゃ、解んないじゃない」 「ああぁぁぁぁ!!」 「もう、本当にどうしたのよ?ダーリンは?」 ビクン 「ザイドザイドザイド」 「喧嘩でもしたの?」 「ザイドが、出で行っぢゃっだ。あだじが悪いの〜」 「ああ、もう。先ずは落ち着きなさい」 キュルケが抱き締めようとするが、ルイズに払われる 「ザイドじゃないど嫌」 「全く。なら、そのまま落ち着きなさい。周りに迷惑だから、サイレンスかけるわよ」 「ヒッグヒッグ、ザイドザイド〜」 結局、ルイズは一晩中泣き続け、キュルケは待ってる途中で、そのまま寝てしまった * * * 「ふぁ、いつの間にか寝てたわ」 「サイトヒック、サイトサイト〜ヒックヒック」 「おはようルイズ。もしかして、一晩中泣いてたの?」 こくり 「凄い体力ね」 キュルケは呆れる 「そんなになる位なら、謝れば良いじゃない」 「言われたの」 「何を?」 「ミスヴァリエールって、言われたの」 「あちゃあ。ダーリンに言われた中じゃ、最悪ね」 こくり 「ダーリンがそんな事言うなんて余っ程よ。何言ったのよ?」 「ヒック、奥さんや子供が居ても家族なんかに渡さない、サイトはあたしの傍にずっと居るのって」 「……あんた、最低ね」 「あたしが悪いの」 「本当にあんたが全面的に悪いわね。見付けて謝りなさい」 「サイトが何処に行ったか解らない」 「ダーリン生活力有るからなぁ、学院出てたら、お手上げだわ。何処でも生きて行けちゃうし。逆に言えば、学院に居ればまだ大丈夫よ。ルイズが反省する迄、待ってくれてる証拠になるわね」 「本当?」 「本当よ。あんたの使い魔は、ハルケギニアで最高の使い魔なんでしょ?その特徴は?」 「…とっても優しい」 「良く出来ました。あ、でも、学院に居てもヤバいかな?」 「…何で?」 「ほら、ダーリン欲しがってるの、あんただけじゃ無いじゃない。私もダーリンに言い寄られたら、喜んで捧げちゃうもの」 「さぁ、泥棒猫に取られる前に、反省しきれるかしら、ヴァリエール?今日は寝なさい、食事もメイドに運んで貰うし、皆に捜索願い出しとくわ。授業は欠席伝えとく」 キュルケは手を振り部屋を出る パタン 「………あたしの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿」 ルイズは一晩中泣き続けた、疲労と睡魔に負け、眠りについた 机の上の祈祷書が窓からの風でぱらりと捲れ、文字が浮き立ったのは、ルイズが夢の中での時である * * *
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