ゼロの使い魔保管庫
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コルベールは研究室で熟考をしている そして、結論を出そうとしていた 「……私一人では、やはり無理だ。技術に関してはやはり、更に先に進んでる人間が居るなら、彼の助言無しでは……」 ワインを煽り、更に呟く 「一度踏み外した私よりも、彼なら……きっと」 * * * トリスタニア王宮 アンリエッタの私室 アンリエッタとアニエスは対面で座り、ワインを片手に持っている 「アニエス」 「はっ」 「そろそろ休暇は終了です。動きますよ」 「はっ。どの様に?」 「先ずは、獅子身中の虫の駆除を致します。調査には銃士隊が最適です。貴族ではバレてしまいます」 「御意」 「アニエス」 「はっ」 「もしかすると、貴女の復讐相手、公然と達成出来るかも知れません」 「…ご存知だったのですか?」 「身辺調査位しております。だから、貴女が隊長なのです。それと」 「はっ」 「貴女がミシェルとしてきた事、今回の件を上手く出来たら、不問に致しましょう」 「……御意」 「復讐心を持つ者として、そして女としてお聞きします」 「何なりと」 「達成する迄、諦められませんか?」 すると、アニエスは一度躊躇し、ゆっくりと話しだした 「私の場合は、村一つを背負っております。彼らの命に捧げる為、達成出来る迄、私は死ぬに死ねません」 「愛した男が居てもですか?」 「……いざとなれば、私一人煉獄に落ちる覚悟は出来ております。奴には……付き合わせる積もりはありません」 アニエスの覚悟にアンリエッタは確認する 「女とは、愛に生きるモノでは無いのですか?」 「少なくとも、私自身は愛を語る資格などありません。私は、醜く汚れております。もう、後戻りは出来ないのです」 「‥‥そうですか。それと、依頼した件はどうなっているのですか?」 「まだ返事は出ておりません。才人が言うには、歴史に残るレベルの選択だとか」 「そんなにですか?」 「はい。私には全く解らないのですが。只、冶金技術や度量衡が全然追い付いていない為、量産化には難色を示してました」 「‥私にも全く解りませんね」 「えぇ、良い返事を期待しましょう」 * * * 「失敗……失敗だと?」 「はい」 クロムウェルは報告に呆然とする 「エルフ迄投入して……失敗?」 どさりと椅子の背もたれに腰を預ける 「で、内容は?」 「迎えに行った竜騎士が全滅を確認。その際、一騎撃墜されました」 「他には?」 「はっ、衛士隊が主戦力として阻止した模様です。その際、異国の装束を纏った剣士を確認。恐らく、あの特殊な魔法兵器を操った人物と同一と思われます」 「く、何者だ?」 「トリステインの公文書を確認すると、サイト=ヒラガ」 「サイト=ヒラガ?妙な名だ」 「はっ、ナイトの称号を拒否した変わり種です」 「今回は魔法兵器には、乗って無かったのだな?」 「はっ、確認されてません」 「ふん、エルフに勝る剣士か……厄介だな。だが、個人単位では、所詮たかが知れる。しかし、奴の確認は怠るな。また魔法兵器を使われたら、敵わんからな」 「イエス・サー」 カッ 踵を合わせ敬礼し、退出する 「魔法兵器一騎でレキシントンクラスの戦列艦複数は落とせん。この戦、我らの勝利は堅い。敵に虚無が居ようとも、あんな巨大な魔法、連発出来るものか」 クロムウェルの自信は、間違っていない * * * ガチャ 「先生、失礼します」 「良く来てくれた、才人君」 コルベールは椅子を才人に促し、ビーカーに紅茶を煎れ、才人に手渡す 「で、話とは?」 「うむ、才人君はどうしたいか、漠然とで構わないから、何か目標は無いかね?」 「そうですね……東、かな?」 「東?」 「えぇ、零戦の元の持ち主が東から来たそうです。ですから東に行けば、何か解るかと」 「成程、では新型の空船を造ろう」 「空船ですか?」 「うむ。零戦をバラして解析した結果、愉快な蛇君と原理は変わらない事が解った」 「そうですね」 「あのエンジンは、作れると思うかね?」 「無理です」 才人は断言する 「ふむ、理由は?」 「まぁ、クランクシャフトは一応案が有ります。しかし、電気系統が再現出来ません。スパークプラグとイグニションコイルはどう考えても無理。俺も電気は専門から外れてます。原理は知ってますが、再現となると二の足を踏みますね」 コルベールは嘆息する 「そうか。なら才人君なら、どうやってエンジンを作るかね?」 才人は悪戯を思い付いた悪ガキの如く表情を浮かべ、逆に問いかける 「コルベール先生ならどうします?」 コルベールは才人の問掛けに考え込み、答える 「そうだな………以前に考えた、水蒸気を動力に使おうかと思う」 「続きを、紙付きで」 「うむ、先ずは燃焼炉を用意して、其所で水を沸騰、水蒸気を発生させ加圧、加圧した水蒸気を機関部分に送り込み、それでピストンを動かす」 「ふむふむ。動かした後の水蒸気は?」 「?排出だな」 「水はどの様に用意します?」 「この様に、燃焼炉の上が直接水タンクで、水を暖める」 カリカリと原案を書いて行くコルベール だが、才人はニヤニヤが止まらない 「ピストンの材質とシリンダーの材質と加工方法は?」 「苦しい所を突いて来るな、才人君。ううむ、鋼鉄を使おうかと思う」 「クランクシャフトとコンロッドは?」 「ぐっ、同じく鋼鉄だ」 「圧力をカットしないと、仕事中に反力が加わり、作動しませんよ?」 「うむむむむ」 コルベールは唸り、頭を抱えてしまう 「ボイラーの材質は?」 「同じく鋼鉄だ。才人君、あんまりいじめないでくれ!!降参だ!!」 とうとう才人は笑いだしてしまう 「あははははは。いや、失礼。本当に他意は無いです。そうですね、航空船舶機関として使う前提なら、完全にダウトです」 「何!?何処が悪いかね?」 「ええとですね、原理並びにシステムは間違ってません」 「ふむ」 「先ずは内燃機関と外燃機関の違いは、燃焼室を外部にするか内部にするかの違いです。解りますね?」 「うむ、其は私にも解る」 「機関部が仕事を行う場合、内燃機関は、吸入→圧縮→燃焼(仕事)→排気→吸入のサイクルを行います。此をクランクシャフト2回転4往復で行うシステムと、一回転2往復で行うシステムに別れ、それぞれ4ストローク1サイクル、2ストローク1サイクルエンジンと呼称します」 才人が紙にシステムの概要を書いていき、コルベールが頷く 「成程。外燃機関の場合はどうなるのかね?」 「今から書きます」 才人が書いた絵図は動弁機構の無い2サイクルだ 「先程の2ストロークエンジンと変わらないでは無いかね?」 「えぇ、機関的には変わりません。但し、吸入→圧縮の工程が排除されてる為、仕事→排気のみとなり、1ストロークのみでサイクルが完了する為、1ストローク1サイクルエンジンと呼称出来ます」 「ほうほう、つまり機関的には圧縮といった、仕事に反発する力を使わないって事だな」 「正解。つまり、仕事の機械損失を減らせるんです」 「ふむふむ」 「次にボイラーです」 才人が書いたのは、箱に沢山の線を内部に内蔵したモノだ 「何だね、これは?」 「コルベール先生の書いたのは、炉筒ボイラーと呼ばれるモノです。俺が書いたのは、水管ボイラーです。線は一本一本が配管です」 「成程。特徴は?」 「その前に問題。熱を効率良く伝えるには、どうすれば良いでしょう?」 途端にコルベールは唸りだし、そして結論を述べる 「ううむ、熱を伝える部分を増やす事……かな?」 「正解。より正確には、単位時間当たりの接触面積です」 「つまり、一秒当たりで、面積が広ければ広い程良いのだね?」 「流石先生。話が早い。その通りです。では先生のボイラーと俺のボイラーを見比べて見て下さい。仮に水量が同じとして、どちらの方が、より炎に接触出来ますか?」 コルベールは、はたと気付く 「才人君の方だな」 「その通り。つまり同じ圧力を発生させると仮定した場合、沸騰時間を短縮出来、燃料の節約になるんです」 「おぉ、成程」 ぽんと手の平を叩くコルベール 「次に航空船舶の場合、出力が変動しやすいです。つまり運行状態によって、出力制御をする必要が有ります」 「ふむふむ」 「水管ボイラーはその辺についても有利で、圧力制御が容易なんです」 「成程」 「更に低圧から超高圧迄使用でき、仕事の幅を選びません。正に今回の様な場合にはうってつけです」 コルベールは感心する 「流石才人君だな」 「ボイラー溶接士舐めんなトリステイン、って所ですね」 「才人君、それも?」 「えぇ、俺の国のお墨付きです」 「君は……本当に、元の国で、地位を持ってたんだな」 「大したもんじゃ無いですよ。では、次に材質です」 「うむ」 「熱交換に使うパイプは全て銅、圧力配管も銅を使い、燃焼炉壁は鉄の軟鋼材を用います」 コルベールは仰天する 「ちょっと待ってくれ才人君。銅なんて柔らか過ぎて、使いものにならないのではないか?」 「やっぱりそう思うか」 才人はニヤニヤしながら語りだす 「実はですね。耐圧と熱伝導に於て、銅は鉄より優れてるんですよ」 コルベールはゴクリと息を飲む 「ほ、本当かね?」 「本当です。直径1サント未満の銅配管で、1500kg/cm2以上耐えられますよ」 コルベールはキョトンとする 「才人君。単位が解らないんだが?」 「コルベール先生の設計だと、通常耐圧5kg/cm2。限界が10kg/cm2でしょうね。ハルケギニアの鋼鉄じゃ割れる」 コルベールは、口をあんぐり開けて絶句する 「な、私の設計の150倍以上?」 「そういう事。まぁ、配管は細い程強いってのも有りますが、鉄と銅なら絶対に銅のが強い。だから圧力系統は銅を使います」 「本当は圧力配管には、熱損失考えるとステンレス使いたいんですが、クロムもニッケルも無いんでしょう?」 「クロム?ニッケル?なんだねそれは?」 「非鉄金属の一種です。知られてない素材は使えないので説明も却下………いや待てよ?この村雨に、クロムが少々混じってる筈」 すらりと村雨を抜き、コルベールに見せる 「才人君の国の刀には、そのクロムが使われてるのかね?」 「正確には、玉鋼に知らずに混ざっていた、が正しいです。日本刀の強靭さの特徴に寄与してる金属です」 「ふむ、流石に現物すらない、採掘されてない金属を、錬金で出すには無理が有るな」 「その通り。だから忘れて下さい。それにクロムは毒です。下手に使わない方が良いでしょう」 「…了解した」 「次に機関部です」 「うむ」 「機関部のガワには鋳鉄を用います」 「な、なんだって?」 「ガワに強度は要りません。寧ろ鋳鉄の持つ振動吸収と、擦動抵抗低減能力が必要です。それに鋳鉄は熱変形が非常に少なく、摩耗に強い金属です。寧ろ使わないと損」 「う、うむ。私も付いて行くのがやっとだ」 「次にシリンダーとピストンとコンロッド、それにクランクシャフトですね」 「う、うむ」 「ピストンとシリンダーライナーは同じく鋳鉄。理由は言った通り。コンロッドとクランクシャフトは鋼鉄です。コンロッドとクランクシャフトは熱処理を行い、強さを増す様にします」 「熱処理?」 「はい、焼鈍→焼き入れ→焼き戻しの工程を経過して、やっと使い物になります。やらないと、使ってる内にひん曲がって壊れますよ?」 「ほう、色々やり方があるんだな」 朝から二人してずっとやり方を協議してる間に、気が付いたら昼を回っている だが二人共特に気付かず、更に議論が白熱していく 「次に付属品です」 「うむ」 「ボイラーは熱効率を上げる為に、予熱機構と廃熱回収機構を備えなければなりません」 「ふむ、熱効率とは何かね?」 「燃料を燃やした分が、どれだけ実際の仕事に回されたかの比率です。日本の内燃機関で15%〜25%。外燃機関で25〜40%。約2割が機械損失。後は使われずに熱として失う部分です。ですが、熱効率40%は日本に於ても異常な値なので、ちょっと無理でしょう」 「コルベール先生のシステムの場合、せっかくの水蒸気並びに排熱が排出されっぱなしになる為、熱効率は非常に低い。恐らく5%前後じゃないかな?」 才人が棒グラフをかりかり書き、コルベールは唸る 「むむむ、熱とは大事なモノなのだな」 「えぇ。そして熱は全てを仕事に変換出来ないのが宿命です。熱力学第2法則って言うんですが、まぁ今回は無視で」 「解った。ではどうするね?」 「ボイラー対する吸気系統に熱交換器を設置して、排熱を吸入空気に流して加熱と加圧を促します」 「次にボイラーの給水系統にも同じく熱交換器を設置。これも余熱して、沸騰し易くします」 「成程ね。水蒸気を排出しないならどうする?」 「圧力が掛った蒸気を一次系統。仕事が終わった蒸気を二次系統と定義します。更に二次系統は暖房や湯沸かし等に使い、最後に熱交換器を用いて、外気で冷却。水に戻します」 才人が概略をすらすら書いていくのを熱心にコルベールは見る 「ふむふむ、成程な」 「更に各蒸気配管は断熱材で覆い、熱を排出しない様にします。魔法と組み合わせれば、日本以上の断熱性能が期待出来るでしょう」 「素材は?」 「硝子を繊維状にして布の様に出来ますか?」 「……難しいな」 「じゃあ、軽石は錬金出来ます?」 「多孔質の石ころだね?石ころなら簡単だ、誰でも出来る」 「じゃあ、軽石を用意して、配管を覆う様に錬金しなおせば良いです。更に風魔法で空気を固定して、帆布を巻けば良い」 「成程。確かに出来るな」 「次に給水槽と蒸気→水熱交換器ですが、冷気魔法をかけ凍らせるレベルでやります。連続稼働時で冷水確保が出来るレベルで」 「何故かね?」 コルベールは疑問を口にする 「蒸気の水は温度差が激しい程出力が向上し、蒸気が水に変換されると負圧が発生し、出力が向上します。閉鎖系は開放系に比べ、出力で1.7倍の出力向上が出来ます」 顎に手を置いて頷くコルベール 「成程。つまり、より力を出せるのか」 「そういう事。船の大きさはどうしましょう?」 「色々貨物を積んで、長期航行する事を前提にするなら、最大に近い200〜150メイル級船にした方が良いだろう」 「成程、先生ならどういう形状にします?」 何故かサンドイッチを食べながら、更に違う紙を用意して、二人の議論は白熱する 紅茶もきちんとしたカップが差し出されてるのだが、互いと概略図にのみ集中してる為、二人共気付かない 「そうだな、こういうのはどうだろう?」 船に二等辺三角形の翼を書き、プロペラとボイラー機関を翼に乗せ更に船体後部にもプロペラを書くコルベール 才人は考えると、質問する 「コルベール先生、なんで翼に機関を?」 「一番効率が良いからだ」 「…成程、確かに。でもダウト」 コルベールが問い正す。最早コルベールが生徒で才人が教師になっている 「何が問題かね?」 「重量です。外燃機関の欠点は非常に重くなる事。つまり翼に余計な荷重をかけ、折れる原因になります」 コルベールは考え込み、答える 「どれ位の重量になるか、解るかね?」 「そうですね。大体、1メイル×1メイル×1〜2メイルの水重量に匹敵しますね。俺の単位だと約1〜2t」 「ふむ、確かに重いな。負担が掛かるのは感心しない。才人君ならどうするかね?」 「そうですね、船体中央やや後部にかけて設置して、そこからドライブチェーンでプロペラを駆動させます。重心も安定するし、機関を室内で調整出来るから機関士の負担も減ります」 才人は船体内部にボイラーを設置したイラストをカリカリ書く 「成程。では翼はどうだろう?」 才人は考え込み、イラストを書き始めた 「そうですね。俺は航空力学は専門外なんで、翼の面積は零戦を参考にしましょう。零戦の胴体との翼面積比をそのまま使います。解り易いでしょう?」 「成程。参考になるものが有るなら、使うのが一番だ」 「それで、現在の航空機は後退翼が基本なので、こういう風にしましょう」 才人が船体中央から、やや後部に後退翼を書く 「ほぅ、何故後ろに傾かせるのかね?」 「俺も詳しくは知らないんですが、風切りに有利なんだとか。後は機関という、一番重い物付近に揚力を発生させる為でも有ります」 「ほうほう」 コルベールは顎に手を当て、しきりに頷く 更に才人は、先尾翼を船体前部に追加する 「コイツは先尾翼。航空機の操舵には必須です」 「成程。舵はいくつ用意するかね?」 「左右舵が一、主翼舵が一対、尾翼舵が一対計5つ。更に可変プロペラピッチハンドルを左右1対。操舵に敢えて3人から5人ですね」 「本当は一人が良いんですが、帆船とは完全に違うし、航空機とも違うんで、分担した方が良いでしょう。急作動防止と舵固定の為、ウォームギヤを噛ませます」 才人がウォームギヤの概略図を書く コルベールは零戦と違う舵仕様に疑問を持つ 「ウォームギヤってのは解った。だけどどうしてやるのかね?零戦だと直結ではないか」 「貨物運搬を目的とした、高荷重船だからです。急な舵は揺られるので、事故の元です」 「ふむ、成程ね。上手くいくと思うかね?」 才人はあっさり答える 「解りません。なんせ、航空船舶なんざ、初めてなもので」 それでも、コルベールはしきりに感心する 「それでも、アイデアがすらすら出るのだから、大したものだ」 「まぁ、色々な器材の組み合わせですからね。駆動方式はチェーンスプロケットではなく、チェーンプーリーを用います」 才人がプーリーに溝が入った物を書き、普通の鎖を追加する 「チェーンプーリー?何だね?これは?」 「本来はドライブチェーンとスプロケットが良いのですが、チェーンプーリーとノーマルチェーンにします」 「利点としては、スプロケットだとラインを通さないと故障の元になるんですが、通常のチェーンを使うこの方式なら、ラインがずれても使用出来るメリットが有ります。つまり、ハルケギニアの加工精度でも駆動出来るんですよ」 「コイツはチェーンブロックや船舶に使われてる方式なんで、特に問題は有りません。強度が足りない場合は二重三重に架ければ良いだけなんで、強度に於ても全く問題有りません。また、溝数でギヤ比を設定出来る為、減速比が設定し易いです」 「更に、翼にチェーンを通す理由は他にも有りまして、翼が揚力に応じてしなるんです。チェーンならそれも吸収出来るんですよ」 翼を根本から上下に振ったイラストを書き、コルベールがしきりに頷く 「良くもまぁ、すらすらと出るものだ。私には到底思い付かない」 「あぁ、バイクのチェーンスプロケットとスイングアームと一緒なんで、俺には当たり前なんですよ」 才人は言うと、更にプロペラ軸の構造を書き始めた 「プロペラは可変ピッチにしないと燃費と加速に影響するので、零戦と同じく、可変ピッチプロペラを採用します。但、油圧式は無理なので、完全機械式にしましょう。羽数は一基4枚で、片舷3基にしましょうか?」 才人が翼にプロペラを3基ずつ追加する コルベールは其を見て唸る 「才人君、後退翼で、軸がずれてるが?」 「あぁ、こうやってプロペラ軸の終端から、次のプロペラの中程にチェーンをかけるんですよ」 「あ、成程」 ぽんと手を叩くコルベール 「更に、駆動軸は中空にして、中にプロペラピッチ調整軸を挿入します。駆動軸にディファレンシャル機構を採用すれば、プロペラピッチが固定されたまま、駆動軸が回転出来ます。車のドライブシャフトと一緒です」 「プロペラの根本部分にもウォームギヤを採用して、ピッチが固定される様にします」 才人がプロペラギヤボックス内部のイラストを書く 「…出来るかね?」 「プロペラは十字継手で対面を繋ぎ、ベベルギヤで一斉作動。駆動力自体はボックスが受け止めます。ギヤに掛かる負荷は熱処理したギヤを用いて、更に硬化と固定化処理を施し、対処します。多分日本以上の強度が出せるでしょう」 「成程、大体解った。問題は、どうやって加工するのかね?それと、ハルケギニアの冶金技術は非常に低いって、言っていたではないかね?」 「冶金技術は俺が引き上げましょう。現場を見てからですから、まだ何とも言えませんが。加工方法は水車を用います。後は水車職人と鍛冶職人と時計職人の協力が必要です。序でにメイルとサント基準で、重力単位系を全て新設します。どうです?やり甲斐有るでしょう?」 コルベールは一通り説明を受けた後、確認する 「……水車で、加工出来るのかね?」 「俺を誰だと思ってるんです?世界一の職人大国『ニッポン』の職人の端くれ、平賀才人ですよ。加工なら任せろ。例えCADが無く、ボール盤だけだろうとも、三次元開けの量産化もして見せたる」 ブルブルとコルベールは震え始める そして、歓声をあげた 「君は、君は最高だ!!私は君に全面的に協力するぞ!!私の行く路は、今定まった!!才人君、いざ行かん、共に東の果てへ!!」 ガッと才人の手を堅く握り締め、次いで抱き締め、才人に熱い接吻をする ちゅう 才人はいきなりそんな事されるとは露とも思わず、無防備に受けてしまい、その瞬間硬直する ちゅぽん 音を立てて離れたコルベール 「「「きゃあ〜〜〜〜〜!?」」」 ビクッ 「えっ、な、何かね?」 コルベールが辺りを見回すと、アニエス、シエスタ、タバサ、ルイズとギトーが居る 「君達、いつの間に?」 「いつの間には無いだろう?ミスタコルベール。今日の授業全てすっぽかしたモノだから、こうして様子を見に来れば」 「あぁ、ミスタがそういう趣味だとは露とも知らなかった。存分に使い魔君と逢瀬を楽しんでくれたまえ。学院長には報告しておこう。ミスヴァリエールの使い魔と逢い引きしてて、サボりましたとね」 そう言って、ギトーはさっさと退出する 「ちょ、ちょっと待ってくれミスタ」 「……才人さんに何してるんです?」 ギトーを呼び止めようとしたコルベールを遮り、恐ろしい形相でシエスタがコルベールを睨む 「……シエスタ君、いつの間に?」 「何を言ってるんですか?午前中から、ずっと居たじゃないですか?そこの紅茶やサンドイッチは、私が持って来たんですよ?」 見ると、確かにサンドイッチを無意識に食い散らかした跡があり、紅茶もいつの間にかビーカーからカップに変わり、ビーカーはきちんと洗浄されている 「あ、済まない。全く気付かなかった」 「いいえぇ。聞いててもさっぱり解りませんでしたし、気にしなくて構わないですよ?」 やっぱり形相は変わらない そんなコルベールの喉元に刃が走る 「な、シュヴァリエ。冗談はよしてくれないか?」 「私は笑えぬ冗談が嫌いだ。私も朝から居たぞ?才人が何時まで経っても、来なかったからな」 「あっ!?」 コルベールはだらだら冷や汗を垂らす 「で、どうやら科学の話らしいが、此処で命を絶つのと、軍に協力するのと、どちらを選ぶ?」 「シュヴァリエもキツイ冗談を……」 コルベールは両手を上げて降参の意を示すが、アニエスは取り合わない 「貴様、男の癖にアイツの唇を………殺す!!」 殺意を見せるアニエス。瞳に躊躇は無い 「わ、解った。提供する、提供させて頂きます!!」 アニエスがやっと剣を下げたので、コルベールは溜め息を吐き出し、ほっとする 「ミスヴァリエール?」 コルベールがルイズの様子がおかしいのに気付き、手を顔の前にかざして確認する 「気絶してるな。才人君?」 才人に振り向くと、真っ白になった才人が椅子に腰掛け、顔を傾けぶつぶつ呟いている 「燃え尽きた………真っ白な……灰に……なっちまった………ぜ………少し…………休んでも……良いかい?……」 カクンと才人も倒れる そして、シエスタとアニエスのツインアッパーを喰らい、コルベールは綺麗に宙を舞う 「…シルフィードの本と一緒」 僅かに頬を染め、タバサは呟いた * * *
タイムスタンプを変更しない
コルベールは研究室で熟考をしている そして、結論を出そうとしていた 「……私一人では、やはり無理だ。技術に関してはやはり、更に先に進んでる人間が居るなら、彼の助言無しでは……」 ワインを煽り、更に呟く 「一度踏み外した私よりも、彼なら……きっと」 * * * トリスタニア王宮 アンリエッタの私室 アンリエッタとアニエスは対面で座り、ワインを片手に持っている 「アニエス」 「はっ」 「そろそろ休暇は終了です。動きますよ」 「はっ。どの様に?」 「先ずは、獅子身中の虫の駆除を致します。調査には銃士隊が最適です。貴族ではバレてしまいます」 「御意」 「アニエス」 「はっ」 「もしかすると、貴女の復讐相手、公然と達成出来るかも知れません」 「…ご存知だったのですか?」 「身辺調査位しております。だから、貴女が隊長なのです。それと」 「はっ」 「貴女がミシェルとしてきた事、今回の件を上手く出来たら、不問に致しましょう」 「……御意」 「復讐心を持つ者として、そして女としてお聞きします」 「何なりと」 「達成する迄、諦められませんか?」 すると、アニエスは一度躊躇し、ゆっくりと話しだした 「私の場合は、村一つを背負っております。彼らの命に捧げる為、達成出来る迄、私は死ぬに死ねません」 「愛した男が居てもですか?」 「……いざとなれば、私一人煉獄に落ちる覚悟は出来ております。奴には……付き合わせる積もりはありません」 アニエスの覚悟にアンリエッタは確認する 「女とは、愛に生きるモノでは無いのですか?」 「少なくとも、私自身は愛を語る資格などありません。私は、醜く汚れております。もう、後戻りは出来ないのです」 「‥‥そうですか。それと、依頼した件はどうなっているのですか?」 「まだ返事は出ておりません。才人が言うには、歴史に残るレベルの選択だとか」 「そんなにですか?」 「はい。私には全く解らないのですが。只、冶金技術や度量衡が全然追い付いていない為、量産化には難色を示してました」 「‥私にも全く解りませんね」 「えぇ、良い返事を期待しましょう」 * * * 「失敗……失敗だと?」 「はい」 クロムウェルは報告に呆然とする 「エルフ迄投入して……失敗?」 どさりと椅子の背もたれに腰を預ける 「で、内容は?」 「迎えに行った竜騎士が全滅を確認。その際、一騎撃墜されました」 「他には?」 「はっ、衛士隊が主戦力として阻止した模様です。その際、異国の装束を纏った剣士を確認。恐らく、あの特殊な魔法兵器を操った人物と同一と思われます」 「く、何者だ?」 「トリステインの公文書を確認すると、サイト=ヒラガ」 「サイト=ヒラガ?妙な名だ」 「はっ、ナイトの称号を拒否した変わり種です」 「今回は魔法兵器には、乗って無かったのだな?」 「はっ、確認されてません」 「ふん、エルフに勝る剣士か……厄介だな。だが、個人単位では、所詮たかが知れる。しかし、奴の確認は怠るな。また魔法兵器を使われたら、敵わんからな」 「イエス・サー」 カッ 踵を合わせ敬礼し、退出する 「魔法兵器一騎でレキシントンクラスの戦列艦複数は落とせん。この戦、我らの勝利は堅い。敵に虚無が居ようとも、あんな巨大な魔法、連発出来るものか」 クロムウェルの自信は、間違っていない * * * ガチャ 「先生、失礼します」 「良く来てくれた、才人君」 コルベールは椅子を才人に促し、ビーカーに紅茶を煎れ、才人に手渡す 「で、話とは?」 「うむ、才人君はどうしたいか、漠然とで構わないから、何か目標は無いかね?」 「そうですね……東、かな?」 「東?」 「えぇ、零戦の元の持ち主が東から来たそうです。ですから東に行けば、何か解るかと」 「成程、では新型の空船を造ろう」 「空船ですか?」 「うむ。零戦をバラして解析した結果、愉快な蛇君と原理は変わらない事が解った」 「そうですね」 「あのエンジンは、作れると思うかね?」 「無理です」 才人は断言する 「ふむ、理由は?」 「まぁ、クランクシャフトは一応案が有ります。しかし、電気系統が再現出来ません。スパークプラグとイグニションコイルはどう考えても無理。俺も電気は専門から外れてます。原理は知ってますが、再現となると二の足を踏みますね」 コルベールは嘆息する 「そうか。なら才人君なら、どうやってエンジンを作るかね?」 才人は悪戯を思い付いた悪ガキの如く表情を浮かべ、逆に問いかける 「コルベール先生ならどうします?」 コルベールは才人の問掛けに考え込み、答える 「そうだな………以前に考えた、水蒸気を動力に使おうかと思う」 「続きを、紙付きで」 「うむ、先ずは燃焼炉を用意して、其所で水を沸騰、水蒸気を発生させ加圧、加圧した水蒸気を機関部分に送り込み、それでピストンを動かす」 「ふむふむ。動かした後の水蒸気は?」 「?排出だな」 「水はどの様に用意します?」 「この様に、燃焼炉の上が直接水タンクで、水を暖める」 カリカリと原案を書いて行くコルベール だが、才人はニヤニヤが止まらない 「ピストンの材質とシリンダーの材質と加工方法は?」 「苦しい所を突いて来るな、才人君。ううむ、鋼鉄を使おうかと思う」 「クランクシャフトとコンロッドは?」 「ぐっ、同じく鋼鉄だ」 「圧力をカットしないと、仕事中に反力が加わり、作動しませんよ?」 「うむむむむ」 コルベールは唸り、頭を抱えてしまう 「ボイラーの材質は?」 「同じく鋼鉄だ。才人君、あんまりいじめないでくれ!!降参だ!!」 とうとう才人は笑いだしてしまう 「あははははは。いや、失礼。本当に他意は無いです。そうですね、航空船舶機関として使う前提なら、完全にダウトです」 「何!?何処が悪いかね?」 「ええとですね、原理並びにシステムは間違ってません」 「ふむ」 「先ずは内燃機関と外燃機関の違いは、燃焼室を外部にするか内部にするかの違いです。解りますね?」 「うむ、其は私にも解る」 「機関部が仕事を行う場合、内燃機関は、吸入→圧縮→燃焼(仕事)→排気→吸入のサイクルを行います。此をクランクシャフト2回転4往復で行うシステムと、一回転2往復で行うシステムに別れ、それぞれ4ストローク1サイクル、2ストローク1サイクルエンジンと呼称します」 才人が紙にシステムの概要を書いていき、コルベールが頷く 「成程。外燃機関の場合はどうなるのかね?」 「今から書きます」 才人が書いた絵図は動弁機構の無い2サイクルだ 「先程の2ストロークエンジンと変わらないでは無いかね?」 「えぇ、機関的には変わりません。但し、吸入→圧縮の工程が排除されてる為、仕事→排気のみとなり、1ストロークのみでサイクルが完了する為、1ストローク1サイクルエンジンと呼称出来ます」 「ほうほう、つまり機関的には圧縮といった、仕事に反発する力を使わないって事だな」 「正解。つまり、仕事の機械損失を減らせるんです」 「ふむふむ」 「次にボイラーです」 才人が書いたのは、箱に沢山の線を内部に内蔵したモノだ 「何だね、これは?」 「コルベール先生の書いたのは、炉筒ボイラーと呼ばれるモノです。俺が書いたのは、水管ボイラーです。線は一本一本が配管です」 「成程。特徴は?」 「その前に問題。熱を効率良く伝えるには、どうすれば良いでしょう?」 途端にコルベールは唸りだし、そして結論を述べる 「ううむ、熱を伝える部分を増やす事……かな?」 「正解。より正確には、単位時間当たりの接触面積です」 「つまり、一秒当たりで、面積が広ければ広い程良いのだね?」 「流石先生。話が早い。その通りです。では先生のボイラーと俺のボイラーを見比べて見て下さい。仮に水量が同じとして、どちらの方が、より炎に接触出来ますか?」 コルベールは、はたと気付く 「才人君の方だな」 「その通り。つまり同じ圧力を発生させると仮定した場合、沸騰時間を短縮出来、燃料の節約になるんです」 「おぉ、成程」 ぽんと手の平を叩くコルベール 「次に航空船舶の場合、出力が変動しやすいです。つまり運行状態によって、出力制御をする必要が有ります」 「ふむふむ」 「水管ボイラーはその辺についても有利で、圧力制御が容易なんです」 「成程」 「更に低圧から超高圧迄使用でき、仕事の幅を選びません。正に今回の様な場合にはうってつけです」 コルベールは感心する 「流石才人君だな」 「ボイラー溶接士舐めんなトリステイン、って所ですね」 「才人君、それも?」 「えぇ、俺の国のお墨付きです」 「君は……本当に、元の国で、地位を持ってたんだな」 「大したもんじゃ無いですよ。では、次に材質です」 「うむ」 「熱交換に使うパイプは全て銅、圧力配管も銅を使い、燃焼炉壁は鉄の軟鋼材を用います」 コルベールは仰天する 「ちょっと待ってくれ才人君。銅なんて柔らか過ぎて、使いものにならないのではないか?」 「やっぱりそう思うか」 才人はニヤニヤしながら語りだす 「実はですね。耐圧と熱伝導に於て、銅は鉄より優れてるんですよ」 コルベールはゴクリと息を飲む 「ほ、本当かね?」 「本当です。直径1サント未満の銅配管で、1500kg/cm2以上耐えられますよ」 コルベールはキョトンとする 「才人君。単位が解らないんだが?」 「コルベール先生の設計だと、通常耐圧5kg/cm2。限界が10kg/cm2でしょうね。ハルケギニアの鋼鉄じゃ割れる」 コルベールは、口をあんぐり開けて絶句する 「な、私の設計の150倍以上?」 「そういう事。まぁ、配管は細い程強いってのも有りますが、鉄と銅なら絶対に銅のが強い。だから圧力系統は銅を使います」 「本当は圧力配管には、熱損失考えるとステンレス使いたいんですが、クロムもニッケルも無いんでしょう?」 「クロム?ニッケル?なんだねそれは?」 「非鉄金属の一種です。知られてない素材は使えないので説明も却下………いや待てよ?この村雨に、クロムが少々混じってる筈」 すらりと村雨を抜き、コルベールに見せる 「才人君の国の刀には、そのクロムが使われてるのかね?」 「正確には、玉鋼に知らずに混ざっていた、が正しいです。日本刀の強靭さの特徴に寄与してる金属です」 「ふむ、流石に現物すらない、採掘されてない金属を、錬金で出すには無理が有るな」 「その通り。だから忘れて下さい。それにクロムは毒です。下手に使わない方が良いでしょう」 「…了解した」 「次に機関部です」 「うむ」 「機関部のガワには鋳鉄を用います」 「な、なんだって?」 「ガワに強度は要りません。寧ろ鋳鉄の持つ振動吸収と、擦動抵抗低減能力が必要です。それに鋳鉄は熱変形が非常に少なく、摩耗に強い金属です。寧ろ使わないと損」 「う、うむ。私も付いて行くのがやっとだ」 「次にシリンダーとピストンとコンロッド、それにクランクシャフトですね」 「う、うむ」 「ピストンとシリンダーライナーは同じく鋳鉄。理由は言った通り。コンロッドとクランクシャフトは鋼鉄です。コンロッドとクランクシャフトは熱処理を行い、強さを増す様にします」 「熱処理?」 「はい、焼鈍→焼き入れ→焼き戻しの工程を経過して、やっと使い物になります。やらないと、使ってる内にひん曲がって壊れますよ?」 「ほう、色々やり方があるんだな」 朝から二人してずっとやり方を協議してる間に、気が付いたら昼を回っている だが二人共特に気付かず、更に議論が白熱していく 「次に付属品です」 「うむ」 「ボイラーは熱効率を上げる為に、予熱機構と廃熱回収機構を備えなければなりません」 「ふむ、熱効率とは何かね?」 「燃料を燃やした分が、どれだけ実際の仕事に回されたかの比率です。日本の内燃機関で15%〜25%。外燃機関で25〜40%。約2割が機械損失。後は使われずに熱として失う部分です。ですが、熱効率40%は日本に於ても異常な値なので、ちょっと無理でしょう」 「コルベール先生のシステムの場合、せっかくの水蒸気並びに排熱が排出されっぱなしになる為、熱効率は非常に低い。恐らく5%前後じゃないかな?」 才人が棒グラフをかりかり書き、コルベールは唸る 「むむむ、熱とは大事なモノなのだな」 「えぇ。そして熱は全てを仕事に変換出来ないのが宿命です。熱力学第2法則って言うんですが、まぁ今回は無視で」 「解った。ではどうするね?」 「ボイラー対する吸気系統に熱交換器を設置して、排熱を吸入空気に流して加熱と加圧を促します」 「次にボイラーの給水系統にも同じく熱交換器を設置。これも余熱して、沸騰し易くします」 「成程ね。水蒸気を排出しないならどうする?」 「圧力が掛った蒸気を一次系統。仕事が終わった蒸気を二次系統と定義します。更に二次系統は暖房や湯沸かし等に使い、最後に熱交換器を用いて、外気で冷却。水に戻します」 才人が概略をすらすら書いていくのを熱心にコルベールは見る 「ふむふむ、成程な」 「更に各蒸気配管は断熱材で覆い、熱を排出しない様にします。魔法と組み合わせれば、日本以上の断熱性能が期待出来るでしょう」 「素材は?」 「硝子を繊維状にして布の様に出来ますか?」 「……難しいな」 「じゃあ、軽石は錬金出来ます?」 「多孔質の石ころだね?石ころなら簡単だ、誰でも出来る」 「じゃあ、軽石を用意して、配管を覆う様に錬金しなおせば良いです。更に風魔法で空気を固定して、帆布を巻けば良い」 「成程。確かに出来るな」 「次に給水槽と蒸気→水熱交換器ですが、冷気魔法をかけ凍らせるレベルでやります。連続稼働時で冷水確保が出来るレベルで」 「何故かね?」 コルベールは疑問を口にする 「蒸気の水は温度差が激しい程出力が向上し、蒸気が水に変換されると負圧が発生し、出力が向上します。閉鎖系は開放系に比べ、出力で1.7倍の出力向上が出来ます」 顎に手を置いて頷くコルベール 「成程。つまり、より力を出せるのか」 「そういう事。船の大きさはどうしましょう?」 「色々貨物を積んで、長期航行する事を前提にするなら、最大に近い200〜150メイル級船にした方が良いだろう」 「成程、先生ならどういう形状にします?」 何故かサンドイッチを食べながら、更に違う紙を用意して、二人の議論は白熱する 紅茶もきちんとしたカップが差し出されてるのだが、互いと概略図にのみ集中してる為、二人共気付かない 「そうだな、こういうのはどうだろう?」 船に二等辺三角形の翼を書き、プロペラとボイラー機関を翼に乗せ更に船体後部にもプロペラを書くコルベール 才人は考えると、質問する 「コルベール先生、なんで翼に機関を?」 「一番効率が良いからだ」 「…成程、確かに。でもダウト」 コルベールが問い正す。最早コルベールが生徒で才人が教師になっている 「何が問題かね?」 「重量です。外燃機関の欠点は非常に重くなる事。つまり翼に余計な荷重をかけ、折れる原因になります」 コルベールは考え込み、答える 「どれ位の重量になるか、解るかね?」 「そうですね。大体、1メイル×1メイル×1〜2メイルの水重量に匹敵しますね。俺の単位だと約1〜2t」 「ふむ、確かに重いな。負担が掛かるのは感心しない。才人君ならどうするかね?」 「そうですね、船体中央やや後部にかけて設置して、そこからドライブチェーンでプロペラを駆動させます。重心も安定するし、機関を室内で調整出来るから機関士の負担も減ります」 才人は船体内部にボイラーを設置したイラストをカリカリ書く 「成程。では翼はどうだろう?」 才人は考え込み、イラストを書き始めた 「そうですね。俺は航空力学は専門外なんで、翼の面積は零戦を参考にしましょう。零戦の胴体との翼面積比をそのまま使います。解り易いでしょう?」 「成程。参考になるものが有るなら、使うのが一番だ」 「それで、現在の航空機は後退翼が基本なので、こういう風にしましょう」 才人が船体中央から、やや後部に後退翼を書く 「ほぅ、何故後ろに傾かせるのかね?」 「俺も詳しくは知らないんですが、風切りに有利なんだとか。後は機関という、一番重い物付近に揚力を発生させる為でも有ります」 「ほうほう」 コルベールは顎に手を当て、しきりに頷く 更に才人は、先尾翼を船体前部に追加する 「コイツは先尾翼。航空機の操舵には必須です」 「成程。舵はいくつ用意するかね?」 「左右舵が一、主翼舵が一対、尾翼舵が一対計5つ。更に可変プロペラピッチハンドルを左右1対。操舵に敢えて3人から5人ですね」 「本当は一人が良いんですが、帆船とは完全に違うし、航空機とも違うんで、分担した方が良いでしょう。急作動防止と舵固定の為、ウォームギヤを噛ませます」 才人がウォームギヤの概略図を書く コルベールは零戦と違う舵仕様に疑問を持つ 「ウォームギヤってのは解った。だけどどうしてやるのかね?零戦だと直結ではないか」 「貨物運搬を目的とした、高荷重船だからです。急な舵は揺られるので、事故の元です」 「ふむ、成程ね。上手くいくと思うかね?」 才人はあっさり答える 「解りません。なんせ、航空船舶なんざ、初めてなもので」 それでも、コルベールはしきりに感心する 「それでも、アイデアがすらすら出るのだから、大したものだ」 「まぁ、色々な器材の組み合わせですからね。駆動方式はチェーンスプロケットではなく、チェーンプーリーを用います」 才人がプーリーに溝が入った物を書き、普通の鎖を追加する 「チェーンプーリー?何だね?これは?」 「本来はドライブチェーンとスプロケットが良いのですが、チェーンプーリーとノーマルチェーンにします」 「利点としては、スプロケットだとラインを通さないと故障の元になるんですが、通常のチェーンを使うこの方式なら、ラインがずれても使用出来るメリットが有ります。つまり、ハルケギニアの加工精度でも駆動出来るんですよ」 「コイツはチェーンブロックや船舶に使われてる方式なんで、特に問題は有りません。強度が足りない場合は二重三重に架ければ良いだけなんで、強度に於ても全く問題有りません。また、溝数でギヤ比を設定出来る為、減速比が設定し易いです」 「更に、翼にチェーンを通す理由は他にも有りまして、翼が揚力に応じてしなるんです。チェーンならそれも吸収出来るんですよ」 翼を根本から上下に振ったイラストを書き、コルベールがしきりに頷く 「良くもまぁ、すらすらと出るものだ。私には到底思い付かない」 「あぁ、バイクのチェーンスプロケットとスイングアームと一緒なんで、俺には当たり前なんですよ」 才人は言うと、更にプロペラ軸の構造を書き始めた 「プロペラは可変ピッチにしないと燃費と加速に影響するので、零戦と同じく、可変ピッチプロペラを採用します。但、油圧式は無理なので、完全機械式にしましょう。羽数は一基4枚で、片舷3基にしましょうか?」 才人が翼にプロペラを3基ずつ追加する コルベールは其を見て唸る 「才人君、後退翼で、軸がずれてるが?」 「あぁ、こうやってプロペラ軸の終端から、次のプロペラの中程にチェーンをかけるんですよ」 「あ、成程」 ぽんと手を叩くコルベール 「更に、駆動軸は中空にして、中にプロペラピッチ調整軸を挿入します。駆動軸にディファレンシャル機構を採用すれば、プロペラピッチが固定されたまま、駆動軸が回転出来ます。車のドライブシャフトと一緒です」 「プロペラの根本部分にもウォームギヤを採用して、ピッチが固定される様にします」 才人がプロペラギヤボックス内部のイラストを書く 「…出来るかね?」 「プロペラは十字継手で対面を繋ぎ、ベベルギヤで一斉作動。駆動力自体はボックスが受け止めます。ギヤに掛かる負荷は熱処理したギヤを用いて、更に硬化と固定化処理を施し、対処します。多分日本以上の強度が出せるでしょう」 「成程、大体解った。問題は、どうやって加工するのかね?それと、ハルケギニアの冶金技術は非常に低いって、言っていたではないかね?」 「冶金技術は俺が引き上げましょう。現場を見てからですから、まだ何とも言えませんが。加工方法は水車を用います。後は水車職人と鍛冶職人と時計職人の協力が必要です。序でにメイルとサント基準で、重力単位系を全て新設します。どうです?やり甲斐有るでしょう?」 コルベールは一通り説明を受けた後、確認する 「……水車で、加工出来るのかね?」 「俺を誰だと思ってるんです?世界一の職人大国『ニッポン』の職人の端くれ、平賀才人ですよ。加工なら任せろ。例えCADが無く、ボール盤だけだろうとも、三次元開けの量産化もして見せたる」 ブルブルとコルベールは震え始める そして、歓声をあげた 「君は、君は最高だ!!私は君に全面的に協力するぞ!!私の行く路は、今定まった!!才人君、いざ行かん、共に東の果てへ!!」 ガッと才人の手を堅く握り締め、次いで抱き締め、才人に熱い接吻をする ちゅう 才人はいきなりそんな事されるとは露とも思わず、無防備に受けてしまい、その瞬間硬直する ちゅぽん 音を立てて離れたコルベール 「「「きゃあ〜〜〜〜〜!?」」」 ビクッ 「えっ、な、何かね?」 コルベールが辺りを見回すと、アニエス、シエスタ、タバサ、ルイズとギトーが居る 「君達、いつの間に?」 「いつの間には無いだろう?ミスタコルベール。今日の授業全てすっぽかしたモノだから、こうして様子を見に来れば」 「あぁ、ミスタがそういう趣味だとは露とも知らなかった。存分に使い魔君と逢瀬を楽しんでくれたまえ。学院長には報告しておこう。ミスヴァリエールの使い魔と逢い引きしてて、サボりましたとね」 そう言って、ギトーはさっさと退出する 「ちょ、ちょっと待ってくれミスタ」 「……才人さんに何してるんです?」 ギトーを呼び止めようとしたコルベールを遮り、恐ろしい形相でシエスタがコルベールを睨む 「……シエスタ君、いつの間に?」 「何を言ってるんですか?午前中から、ずっと居たじゃないですか?そこの紅茶やサンドイッチは、私が持って来たんですよ?」 見ると、確かにサンドイッチを無意識に食い散らかした跡があり、紅茶もいつの間にかビーカーからカップに変わり、ビーカーはきちんと洗浄されている 「あ、済まない。全く気付かなかった」 「いいえぇ。聞いててもさっぱり解りませんでしたし、気にしなくて構わないですよ?」 やっぱり形相は変わらない そんなコルベールの喉元に刃が走る 「な、シュヴァリエ。冗談はよしてくれないか?」 「私は笑えぬ冗談が嫌いだ。私も朝から居たぞ?才人が何時まで経っても、来なかったからな」 「あっ!?」 コルベールはだらだら冷や汗を垂らす 「で、どうやら科学の話らしいが、此処で命を絶つのと、軍に協力するのと、どちらを選ぶ?」 「シュヴァリエもキツイ冗談を……」 コルベールは両手を上げて降参の意を示すが、アニエスは取り合わない 「貴様、男の癖にアイツの唇を………殺す!!」 殺意を見せるアニエス。瞳に躊躇は無い 「わ、解った。提供する、提供させて頂きます!!」 アニエスがやっと剣を下げたので、コルベールは溜め息を吐き出し、ほっとする 「ミスヴァリエール?」 コルベールがルイズの様子がおかしいのに気付き、手を顔の前にかざして確認する 「気絶してるな。才人君?」 才人に振り向くと、真っ白になった才人が椅子に腰掛け、顔を傾けぶつぶつ呟いている 「燃え尽きた………真っ白な……灰に……なっちまった………ぜ………少し…………休んでも……良いかい?……」 カクンと才人も倒れる そして、シエスタとアニエスのツインアッパーを喰らい、コルベールは綺麗に宙を舞う 「…シルフィードの本と一緒」 僅かに頬を染め、タバサは呟いた * * *
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