ゼロの使い魔保管庫
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目を醒ますと、全裸でベッドの中で寝ていた。 そこは自分のベッドではない。クッションが硬く、あまり寝心地の良いものではなかったからだ。 裸な上、被っているのは薄い毛布一枚なせいで、少し肌寒い。 しかし。 ベアトリスは幸せだった。 事の起こりは、二十四時間前に遡る。 「…冗談だったのに。ていうか嵌めるか普通」 呆れたように足元の毛玉を見下ろし、タニアは言う。 その足元には、ベアトリスの服と、その真ん中に彼女の変化した毛足の長い丸い仔犬。 鼻に皺を寄せ、きゃいんきゃいんと喧しく吠え立てるその仔犬を、タニアは優しく抱き上げた。 「あんまりきゃんきゃん吼えたらダメでしょ。静かにしなさい」 とりあえず煩い犬の口を、最近保護者に似てだんだん深くなってきた胸の谷間に埋める。 ぶにゅ、と柔らかい肉の隙間に埋められ、犬になったベアトリスは。 …た、タニアさんのにほいいいいいいいいい! 鋭くなった嗅覚のせいで、タニアの匂いを全力で吸い込む羽目になる。 少し甘い体臭は、きっとお茶の時間のスコーンを焼いていたせい。 しかし、普段、少し汗臭い仕事後のタニアの匂いですら軽く興奮するベアトリスにとって、まさにこの匂いは至福であった。 ふにゃん、と身体中の力が抜け、タニアの柔らかい谷間に体重を預ける。 「おや。随分素直だなあ。よしよし」 タニアは普通の仔犬にそうするように、ベアトリスの小さな頭をふわふわと撫でる。 ただでさえ天国にいたベアトリスは、その刺激にさらに高いどこかへ連れて行かれる。 …あ、だめ、なでなでダメです、私、ダメになってしまいますッ! そう思考で必死に抗うものの、まるまった尻尾をあまりの僥倖にはしゅはしゅと振りたくってしまう。 顔など、目を完全に閉じ、へふへふと興奮に舌を垂らしている。 そして頭は甘えるようにタニアの指にすりつける。 身体はあまりにも正直だった。 「可愛いなあ。ずっとこのまんまでいる?」 今度は後頭部をこりこりと掻かれながら、そんな事を言われる。 種類の違う快感に、ベアトリスの思考は天国に行ったまま帰ってこられない。 …このまんま…タニアさんの腕の中で…私…もう、果ててもいい…。 あまりの快感に完全に思考が屈服し、ベアトリスの心は犬の幸せを享受してしまった。 くぅんくぅんと甘い声で啼いて、タニアの胸の隙間に潜り込もうとする。 「…あ、こんな事してる場合じゃないや」 何かに気付いたのか、タニアは慌ててベアトリスを床に置く。 …え?なに?おしまいなんですの?も、もっと可愛がってくださいまし、もっとナデナデしてくださいまし、ご主人様! もう完全にタニアの犬となってしまったベアトリスは、タニアの足元でへんへん啼きながら前足で抗議する。 「…今日昼の食堂当番なんだ。大人しくしてるなら一緒に来てもいいよ。 ついでだ、余った方お姉ちゃんに渡してくるか」 タニアはベアトリスの服の中から先ほど彼女に嵌めたものと同じ意匠の指輪を見つけると手に持つ。 ベアトリスはといえば、おねだりをやめ、タニアの前でちょこん、とお座りをしてみせる。 大人しくしてます!私、大人しくしてますから、一緒に連れてって! はしゅはしゅと尻尾を振りながら視線で訴え、ベアトリスは主人の返事を待つ。 タニアはその視線の意味を理解したのか。 「よし、大人しくできるみたいね。じゃ、着いておいで。他の人に着いてっちゃだめだよ」 …タニアさん以外に誰が着いて行くもんですか。全く失礼な。 ひゃん、と一回だけ啼いて、忠犬ベアトリスは厨房に入っていくタニアの後を追ったのだった。 そして、今。 一日経って魔法のとけたベアトリスは、幸せすぎる一日を反芻していた。 食堂当番のあとは、一緒にお散歩。投げた棒切れを取ってくるたびにいいこいいこされて、ベアトリスは幸せだった。 休憩時間の終わった後、タニアの洗濯を手伝った。とはいっても、洗濯ばさみの入った籠を、物干し台まで運んだだけだが。 しかしその礼に、タニアに手ずから食べさせてもらったクッキーは、ベアトリスの今まで食べたお菓子の中で一番おいしかった。 そして、就寝。 なんとタニアは、ベアトリスを抱いて、寝たのである。 あまりの幸福感にどうにかなってしまいそうなベアトリスだったが、タニアの体温と仔犬の本能で、ぐっすりと眠ってしまった。 その間見た夢は、どんな夢かは覚えていない。しかしとてもとても幸せなものだったのはよく覚えている。 しかし目の醒めたベアトリスは元の身体に戻っていた。 シーツの中で幸福に浸るベアトリスを、しかし彼女の冷静な部分が否定した。 …な、なにを血迷っているの私!あ、あんな犬として飼われるのが幸せとか! きっと魔法のせいでそうなっていたに違いない。そう結論付けたベアトリスだった。 「…ん〜にゅ…」 突然の声に、ベアトリスの心臓がときん!と鳴る。 すっかり忘れていたが、今ベアトリスは全裸でタニアと同衾しているのだ。 目の前で寝返りをうち、こっちを向く普段は勝気な平民の少女。 顔を合わせた瞬間、ベアトリスの心臓がどくんどくんと脈打ち始める。 今、タニアは完全に隙だらけである。 少しずつ、ベアトリスの顔が、寝息を立てるタニアの小さな唇に引き寄せられていく。 …ちょ、ちょっとだけ。ちょっとだけ、唇を合わせるだけ。お、女の子どうしのおふざけですわ…! そう考えたベアトリスの動きが加速する。 ぎゅ、と目を瞑り、唇を突き出し…。 …わ、私のはじめて、あ、あなたに、さ、捧げます…! 「なにやってんのベアちゃん」 寸でのところでタニアは起きた。 すぐに起き上がって、呆れたような顔で全裸で唇を突き出しているベアトリスを見下す。 「く、くぅん、くぅん」 とりあえず、応急処置として目を瞑ったまま犬の声を真似してみる。 もし今の行為がキスだとばれたら、死んでしまいそうだった。 「…まだ犬のつもりか。起きろこの寝ぼすけー!」 願いが天に通じたのか、タニアはその行動をまだベアトリスが犬のつもりでいるのだと勘違いした。 ばふんばふんと、枕を叩きつけてベアトリスを起こすタニア。 とりあえずバレてなくてほっとしたベアトリスは起き上がり。 「な、なにをするんですかこの平民!もっと優しく起こしなさいな!」 怒っているふりをして、真っ赤な顔を誤魔化したのだった。
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目を醒ますと、全裸でベッドの中で寝ていた。 そこは自分のベッドではない。クッションが硬く、あまり寝心地の良いものではなかったからだ。 裸な上、被っているのは薄い毛布一枚なせいで、少し肌寒い。 しかし。 ベアトリスは幸せだった。 事の起こりは、二十四時間前に遡る。 「…冗談だったのに。ていうか嵌めるか普通」 呆れたように足元の毛玉を見下ろし、タニアは言う。 その足元には、ベアトリスの服と、その真ん中に彼女の変化した毛足の長い丸い仔犬。 鼻に皺を寄せ、きゃいんきゃいんと喧しく吠え立てるその仔犬を、タニアは優しく抱き上げた。 「あんまりきゃんきゃん吼えたらダメでしょ。静かにしなさい」 とりあえず煩い犬の口を、最近保護者に似てだんだん深くなってきた胸の谷間に埋める。 ぶにゅ、と柔らかい肉の隙間に埋められ、犬になったベアトリスは。 …た、タニアさんのにほいいいいいいいいい! 鋭くなった嗅覚のせいで、タニアの匂いを全力で吸い込む羽目になる。 少し甘い体臭は、きっとお茶の時間のスコーンを焼いていたせい。 しかし、普段、少し汗臭い仕事後のタニアの匂いですら軽く興奮するベアトリスにとって、まさにこの匂いは至福であった。 ふにゃん、と身体中の力が抜け、タニアの柔らかい谷間に体重を預ける。 「おや。随分素直だなあ。よしよし」 タニアは普通の仔犬にそうするように、ベアトリスの小さな頭をふわふわと撫でる。 ただでさえ天国にいたベアトリスは、その刺激にさらに高いどこかへ連れて行かれる。 …あ、だめ、なでなでダメです、私、ダメになってしまいますッ! そう思考で必死に抗うものの、まるまった尻尾をあまりの僥倖にはしゅはしゅと振りたくってしまう。 顔など、目を完全に閉じ、へふへふと興奮に舌を垂らしている。 そして頭は甘えるようにタニアの指にすりつける。 身体はあまりにも正直だった。 「可愛いなあ。ずっとこのまんまでいる?」 今度は後頭部をこりこりと掻かれながら、そんな事を言われる。 種類の違う快感に、ベアトリスの思考は天国に行ったまま帰ってこられない。 …このまんま…タニアさんの腕の中で…私…もう、果ててもいい…。 あまりの快感に完全に思考が屈服し、ベアトリスの心は犬の幸せを享受してしまった。 くぅんくぅんと甘い声で啼いて、タニアの胸の隙間に潜り込もうとする。 「…あ、こんな事してる場合じゃないや」 何かに気付いたのか、タニアは慌ててベアトリスを床に置く。 …え?なに?おしまいなんですの?も、もっと可愛がってくださいまし、もっとナデナデしてくださいまし、ご主人様! もう完全にタニアの犬となってしまったベアトリスは、タニアの足元でへんへん啼きながら前足で抗議する。 「…今日昼の食堂当番なんだ。大人しくしてるなら一緒に来てもいいよ。 ついでだ、余った方お姉ちゃんに渡してくるか」 タニアはベアトリスの服の中から先ほど彼女に嵌めたものと同じ意匠の指輪を見つけると手に持つ。 ベアトリスはといえば、おねだりをやめ、タニアの前でちょこん、とお座りをしてみせる。 大人しくしてます!私、大人しくしてますから、一緒に連れてって! はしゅはしゅと尻尾を振りながら視線で訴え、ベアトリスは主人の返事を待つ。 タニアはその視線の意味を理解したのか。 「よし、大人しくできるみたいね。じゃ、着いておいで。他の人に着いてっちゃだめだよ」 …タニアさん以外に誰が着いて行くもんですか。全く失礼な。 ひゃん、と一回だけ啼いて、忠犬ベアトリスは厨房に入っていくタニアの後を追ったのだった。 そして、今。 一日経って魔法のとけたベアトリスは、幸せすぎる一日を反芻していた。 食堂当番のあとは、一緒にお散歩。投げた棒切れを取ってくるたびにいいこいいこされて、ベアトリスは幸せだった。 休憩時間の終わった後、タニアの洗濯を手伝った。とはいっても、洗濯ばさみの入った籠を、物干し台まで運んだだけだが。 しかしその礼に、タニアに手ずから食べさせてもらったクッキーは、ベアトリスの今まで食べたお菓子の中で一番おいしかった。 そして、就寝。 なんとタニアは、ベアトリスを抱いて、寝たのである。 あまりの幸福感にどうにかなってしまいそうなベアトリスだったが、タニアの体温と仔犬の本能で、ぐっすりと眠ってしまった。 その間見た夢は、どんな夢かは覚えていない。しかしとてもとても幸せなものだったのはよく覚えている。 しかし目の醒めたベアトリスは元の身体に戻っていた。 シーツの中で幸福に浸るベアトリスを、しかし彼女の冷静な部分が否定した。 …な、なにを血迷っているの私!あ、あんな犬として飼われるのが幸せとか! きっと魔法のせいでそうなっていたに違いない。そう結論付けたベアトリスだった。 「…ん〜にゅ…」 突然の声に、ベアトリスの心臓がときん!と鳴る。 すっかり忘れていたが、今ベアトリスは全裸でタニアと同衾しているのだ。 目の前で寝返りをうち、こっちを向く普段は勝気な平民の少女。 顔を合わせた瞬間、ベアトリスの心臓がどくんどくんと脈打ち始める。 今、タニアは完全に隙だらけである。 少しずつ、ベアトリスの顔が、寝息を立てるタニアの小さな唇に引き寄せられていく。 …ちょ、ちょっとだけ。ちょっとだけ、唇を合わせるだけ。お、女の子どうしのおふざけですわ…! そう考えたベアトリスの動きが加速する。 ぎゅ、と目を瞑り、唇を突き出し…。 …わ、私のはじめて、あ、あなたに、さ、捧げます…! 「なにやってんのベアちゃん」 寸でのところでタニアは起きた。 すぐに起き上がって、呆れたような顔で全裸で唇を突き出しているベアトリスを見下す。 「く、くぅん、くぅん」 とりあえず、応急処置として目を瞑ったまま犬の声を真似してみる。 もし今の行為がキスだとばれたら、死んでしまいそうだった。 「…まだ犬のつもりか。起きろこの寝ぼすけー!」 願いが天に通じたのか、タニアはその行動をまだベアトリスが犬のつもりでいるのだと勘違いした。 ばふんばふんと、枕を叩きつけてベアトリスを起こすタニア。 とりあえずバレてなくてほっとしたベアトリスは起き上がり。 「な、なにをするんですかこの平民!もっと優しく起こしなさいな!」 怒っているふりをして、真っ赤な顔を誤魔化したのだった。
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