ゼロの使い魔保管庫
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「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」 トリスタニアの城下町に悲鳴が轟き、オークとトロルが住民を文字通り蹂躙し、トリスタニアの街並みがパニックに陥っている 民衆は我先に逃げ出していたが、別の場所からもオークやトロルが顔を出し、その度に男は問答無用で殺され、泣き叫ぶ子供は食われ、老人は潰され、女は犯された オークは新しい女を見つけると、今まで犯してた女に種付けしてからすぐに別の女に向かい、被害が加速度的に増加していく 勿論、戦う選択を取った者も居たが、大部分は逃げ出す群集心理に乗っかり、訳も解らず怯えた羊の如く逃惑うだけだった 「僕の姉ちゃんを返せ!」そう言って棒切れでオークに向かった少年は、姉の前でオークに捕まり、目の前で食われ「いや〜〜!?マチス〜〜〜〜!!」少女は涙を流しながらオークの剛直に貫かれた 「ぴぎぃ」「…いぎぃ」少女の悲鳴は、オークには関係無しで自分の行為に没頭し、仲間と次の雌を捕る為に、連絡を取り合っている トロルは自分達より矮小な人間をげらげら笑いながら踏み潰し、気紛れに棍棒で建物を壊して見せた トロルにとって、人間は非常に不愉快な生き物だ 数を増やして万物の霊長を気取る虫である。虫共は我らトロルが気紛れに繁殖に使うか、プチプチ潰す遊びに使う物である より多くの虫を潰せるなら、他の虫と手を組んでる振りをするのもやらんでもない。彼らにとっては、所詮その程度の事である。当然、命令なんざ聞く気はさらさら無い そして今、目の前に大量の虫が居る。虱潰しには最適だ 仲間達と、彼らは賭けをした。より多くの虫を潰せた者は今日の夕飯で一番の飯を独占すると決めたのだ トロル達は俄然張り切り出した * * * 「駄目です副長!民衆が道路を占拠してます。我々は動けません!」 「王城に民衆を受け入れろ!第5、第6分隊は避難誘導だ」「はっ!」「残りは迎撃だ。街道は使えん。屋根を走るぞ」「ウィ!」 ミシェルの命令に銃士隊の隊員達が走り去り、01式マスケット銃を手にしている残りの隊員達がミシェルの疾走に続いて走り去る中、アンリエッタは、バルコニーに出て声を張り上げていた 「大丈夫です皆さん!落ち着いて行動してください!今、近衛隊が迎撃に出ております!落ち着いて行動なさって下さい!」 そんなアンリエッタに罵声が飛ぶ 「馬鹿野郎!全部お前のせいじゃないか!お前がトリスタニアを空っぽにしたからだ!」「お前自身で戦場に行け!馬鹿女王!」「安全な王城で自分はのらりくらりか?あたいの旦那は今頃アルビオンで兵隊として戦ってるよ!」 非常に痛い、痛すぎる アンリエッタには民衆の罵声が事実その通りなのが非常に来る。つい悲痛な表情を浮かべてしまい、マザリーニが釘を刺した 「陛下、軽挙は慎む様に」「‥判っております」 今此処で動いたら、現場は更に混乱する。アンリエッタには動けない理由が有ったのだ だが、民衆はそんな事は関係無い。目の前に糾弾出来る相手が居るのだ。口々に今の境遇をぶつけ始めた 「王族ってのは気楽なもんだな!ふんぞり返ってりゃ良いんだからな!」「俺達平民なんざ、いくら死んでも構いませんってか?」「俺も貴族に生まれて、魔法を使えりゃ良かったよ。そうすりゃ、あんた等みたいなのに頼らなくて済むもんな!」 拳を握ってわなわな震えるアンリエッタ。ついに堪らずバルコニーから姿を隠してしまい、その様に更に嘲笑が浴びせられた 「女王様が泣いて逃げ出しちゃったぜ!」「誰だよ泣かした奴?」「これ位で泣くなら戦争なんざするなっての」 更に笑い声が木霊し、アンリエッタは、玉座にしがみ付いて涙を流し嗚咽する様を、マザリーニは見てるしか出来なかった 幾ら英才教育を受けたと言っても、剥き出しの悪意には、まだ17歳の少女には耐えられなかったのだ。マザリーニには、今のアンリエッタにかける言葉が見つからない その様子を、民衆に紛れ込んでいた一団が見ていた 「此処までは順調だな、ワルド子爵」「此処からだ。更に民衆を受け入れて混乱が大きくなった時に動く」「了解した」 鎧の上にゆったりとした服を着込んで恰幅の良い男に偽装した、アルビオンの一団だった * * * 才人はルイズの航法で母艦に戻るとすかさず指示を飛ばしていた 「補給急げ!ロケットモーターを胴体下に、無誘導弾を両翼に積め!」 「だあぁ!?あのへんてこりんは一番奥だ。勘弁してくれ!」「トリスタニアが落ちても良いならのんびりやれ!」 「大急ぎで動かします!」「糞、無線で伝えたのに何やってんだ!補給樽寄越せ!俺がやる!」 甲板員のもたつきにイラついた才人が飛び降り、ホースを持って給油していると、エレベーターが上がってきて要求の装備がやって来た 作業員が作業をやってるのを尻目に補給を済ませるとすかさず飛び乗り、ロッキング作業をし、そのままエンジンを再始動して信号手が進路をクリアした途端に飛び立った 「ルイズ、進行方向」「ちょっと待ってて。んっと、33°25′面舵」「了解」 地図と磁石と時計を片手に太陽の位置を見て計測したルイズが才人に答え、才人は指示通りに舵を切り、ロケットモーター用に張り付けた胴体投下レバーのスイッチ代わりの魔法付箋を剥がした その瞬間、固形火薬に火が点り、轟音を立てて零戦は一気に点となって母艦たるヴィセンタールから消え、艦橋で見てたウィンプフェンや参謀達が唖然と見送ったのである * * * トリスタニアの町を蹂躙していたトロルの背後から、風切音を残して肉を切り裂く音が木霊し、一体のトロルの首がぐらりと揺れた後、そのまま落ちた 他のトロルが見た時、ヒポグリフに乗った騎士が、ランスの先を血に染めて空を躍っていたのが見えた バサァァァァ 翼が空気をはためく音が鳴り響き、トロル達が憎しみの目をヒポグリフに乗った騎士に向けるが、騎士の方も怒り心頭で彼らを睨んでいた 「俺達が居る時に限って、なんて事してくれてんだ、このウスノロ!てめぇら、全員生きて返さねえぞ!」 怒りに燃えたヒポグリフ隊の隊員が、そのまま単騎で突撃する様に見えたが、それこそが囮だった 自らに注意を惹きつけると、背後から二騎のヒポグリフ騎兵がクロスチャージを敢行して、トロルの首を鋏で切る様にあっさり落としたのだ だが、トリスタニア各地に散ったトロルとオークの集団には、多勢に無勢であり、近衛隊は完全に手を焼いていた 「同時多発でトリスタニア全体だと?どうやって隠蔽したんだ?」 ジェラールは報告と被害に悩みつつ、各個撃破する為に衛士隊を散らばらせていた。そんなジェラールの元に芳しくない報告が入り始めている。小隊の連絡途絶である 指令室にてジェラールは暫しこの状況を読み、地図を睨んで結論づけた 「アルビオンの攻勢と判断した方が妥当だな。さて、問題は奴らの意図が何処に在るかだが……」 そんな事を考えていると、連絡員から報告が入った。近衛が出払って居る為、王宮の職員が動員されている。慣れぬ仕事でばたばたしっぱなしだ 「報告です。トライアングルの隊員から民衆を巻き込むから範囲魔法が使えない。民衆の避難を最優先されたしと」「んなこたぁ、解ってる。今対処中だと伝えろ。ゼッザール殿とは連絡は取れたのか?」 「現在休暇中の場所に竜籠で全速力です」「解った。取れたら伝えろ」「了解」 たまたま、ずっと働いていたゼッザールが休暇を取っていた。悪い時には悪い事が重なるものだ。次がジェラールの休暇だったのだが、この分ではお預けになりそうであるが、一先ずその件に付いては棚に上げる事にする 「現在健在な数は?」「ヒポグリフ隊が7割、マンティコア隊が8割、元々減っていたグリフォン隊は3割。銃士隊が2分隊が避難誘導に当てられており、4分隊が迎撃に出ております」 被害が対亜人にしては大きすぎる。ジェラールがすかさず決断を下した 「アルビオンの部隊が潜伏していると判断する。俺も出る。連絡はコイツに寄越せ」 「指揮官が出ては…」「現場で何が起こってるか確認しなきゃならん」 ジェラールはそう言いながら魔法通信機を職員に放り投げると、つかつかと歩き去った * * * 一方、ミシェルは屋根に陣取り、上から道路を見て迎撃の指揮を執っている 「チクトンネ街にオーク100」「豚共め、繁華街を真っ直ぐ目指したか。狩るぞ」「ウィ」 ミシェルは屋根から見ながら、隊員達に射撃命令を出すと、隊員達が一斉にマスケットライフルの火薬を開いて銃口に詰めて狙い出した 「総員準備完了。何時でも撃てます」「一斉射と同時に第二第三は降下。構え」 狙いを付ける為に銃身を上げ、狙撃姿勢に入る隊員 「って!」短く鋭い命令に全員が引き金を引いた パパパパパーン 01式マスケットライフルから小気味良い発射音が鳴り響き、繁華街を練り歩いていたオークの一団に多数命中する 「ぴぎゃぁ」「ぴぎいぃ」 オーク達から悲鳴が上がる中、銃士隊は予定通り、行動を開始していた レビテーションシュートを次々にぱりぱりと割りながら飛び降り、続いて支援の短銃射撃が轟き、オークにまたも着弾する その中を着地した隊員達が素早く整列すると小隊単位で動き出したのだ 「第二、四番小隊構え、てぇ!」 いち早く整列した銃士隊第二分隊四番小隊が02式短銃で射撃し、他の隊が弾込めする時間を確保すると、01式に弾込めした他の小隊が進み出、そのまま引き継いだのだ 「制圧するぞ、てぇっ!」 パパパパーン 射撃武器を持たないオークは良い様に撃たれるが、分厚い脂肪が中々致命傷を与えるに至らない 「休むな、屋根の隊と十字砲火を続けろ」 分隊長の命令に小隊長が指示を下し、弾丸をしこたま喰らったオーク達は遂に倒れ、辺りには燃焼温度が低い時に発生する一酸化窒素たる白煙と、未燃炭素の黒煙が立ち込めた 「総員着剣、念入りに心臓刺しておけ。動かれたら面倒だ」「了解」 女達に取ってオークは念入りにやる位で丁度良い。かちゃかちゃと銃剣を装着する音が鳴り響き軍靴を鳴らして念入りに刺して行く銃士隊 分隊長に入った報告はあまり喜ばしいものじゃ無かった 「襲われた民衆を巻き込んでました」「擲弾使わなかったんだがな…仕方ない。次に移動だ」 「了解」言葉少なに頷いた隊員達も同情もそこそこに次の戦場に向かって行った オークに捕まったら、人の生活には戻れないのを、彼女達は承知していたのからである * * * ジェラールが前線に出た時、衛士隊の隊員達は小隊単位で散っており、相手に合わせて対応していたが、何分民衆が逃惑いながらの中での戦闘である 思う様に戦果が出ず、後手後手の最悪手を地で行っていた 「なんつう様だ。これでは何も出来ねぇ。何をしている!民衆が避難するまで防戦しろ!今が命の使い所だ!」 現場で檄を飛ばしてはやばい所に救援に入りつつ、激励しながら戦地を飛び、一回りして帰ってくると、すかさず配置転換の指示を下し始める 「避難終了迄は厳しい時が続くぞ!ここが踏ん張り所だ!炊き出しを避難民達に手伝って貰って、元帥権限で国庫の備蓄を開放しろ。飯を食えば一息つく筈だ」「ウィ!」 「勝つ為にはまず避難。戦場を確保して反撃。落ち着いて一個一個進めろ」 ジェラールの命令をアンリエッタが受け取ると、泣き腫らした目をそのままに立ち上がり、一気に走り去ってしまい、マザリーニが声を掛ける暇も与えずに炊き出しに女王自ら参加し、避難民達に自ら作ったサンドイッチを配り始めた。その姿を見、マザリーニはため息吐きながら、護衛の衛士を就いているのを確認すると黙認し、自らは着々と変化する戦況をジェラールに伝えるべく、配下の職員を総動員して避難の進行状況と戦場の設定をジェラールと共に詰め始める 確かにアンリエッタには、戦場で指揮を執るよりも、民衆にサンドイッチを配っていた方が遥かに似合うのだ アンリエッタの姿を見た者には、当然露骨な人気取りと見えた者も数多く居たが、彼女が真摯に作るのを見た者達も勿論居る。炊き出しに参加した避難民達だ 「陛下。陛下がこんな事までなさる必要はありませんよ?」 「いえ、やらせて下さい。今の私に出来るのはこれ位です」 そう言って避難民達に配るのを見ていた者が、これ見よがしに声を上げる 「はっ、今更人気取りかよ?」 アンリエッタは聞こえても笑顔で配り、援護が横合いから入った「黙んな、屑」「ん、だとう?」 啖呵を切ったのは恰幅の良い中年女性で、見るからに肝っ玉母ちゃんだ 「良いかい?女王様は本来こんな事している暇なんざ無いんだよ!空っぽのトリスタニア守る為に、宰相様や近衛と駆けずり回らなきゃならないんだよ!でも、まだ現場が良く解らないから、自分に出来る事を進んでやってんだ!つべこべ言ってる暇が有るんなら、あんたも手伝いな!あんたみたいな屑に女王様の手作りサンドイッチなんざ勿体無くて上げらんないね。さっさと別の所に行くんだね!」 「てめぇ」「なんだい?オークには向かえない癖に、おばちゃんのあたしには向かうのかい?とんだ笑い草だね」 聞いていた者達から同意の声が続き、男はすごすご去って行ったである アンリエッタが頭を下げると、女性はアンリエッタの背中をばんと叩いて快活に笑い 「あたしはあんたの事気に入ったよ、女王様。皆が皆、陛下の事嫌ってるとは思わないで頂戴ね」 勇気づけられたアンリエッタは素直に頷いて「はいっ」と返事をし、悪い事ばかりでもないと気分を切り替える事に成功し、様子を伺ってる一団には気付かなかった 何しろ、女王の様子を見ようと皆が注目していて、異質な視線までは、気付ける筈もなかったのだ * * * 才人がロケットモーターの加速で座席に押し付けられつつ前方を見ていると、雲に飛び込み暫くすると突き抜けた。そしてまた突入し、目の前は真っ白だ 「だあぁぁぁぁぁ!?本当にこの方角で大丈夫なのかよ?何も見えねぇ!」「るっさい。ご主人様の指示を信じなさい」 ルイズは方位磁石から目を離さず、すかさず指示を下す 「ずれた。1°取り舵」「1°取り舵、ようそろ」 才人は明瞭に答え、くんくんと舵を切り一路トリスタニアをめざす。ロケットモーターの加速は長い時間ではなく、5分で切れたが、元々小国のトリステインをアルビオン空域から亜音速で縦断するなら、問題ない継続時間と言える 「魔法で強化しといて良かったわ。地球仕様ならバラバラになってる」 そう言って才人は安堵の溜息を吐き、ロケットモーターを開発したコルベールと、強化に携わったシュヴルーズとエレオノールの魔法の腕前に感謝しつつ、高度を下げていくとトリスタニアの城下町が眼下に広がっており、才人とルイズが見渡したが、まだ判別できる距離じゃない 「もうちょい近づかないと解らんな」「そうね、急ぐわよ、犬」「ワン」 その時、トリスタニアの外周から侵攻したオーク、トロルの混成部隊がトリスタニアの民衆を王城に向かうようにし、民衆と襲撃者の分離をすべく、犠牲を出しつつ避難誘導を行った近衛隊の行動、民衆に混じったアルビオン近衛鉄騎兵連隊の作戦、虎視眈々とアンリエッタの身柄を目指すワルド達の行動が一気に加速した 「避難誘導、完了しました!」「良くやった!範囲魔法の使用を許可する。今までの鬱憤全部ぶつけろ!」ジェラールが王宮で全開攻撃の命令を出し 「擲弾の使用を許可する。やつらを肉片に変えてやれ!」現場で指揮を執っていたミシェルも、時を同じくして全開攻撃の命令を下した その様子を見ていた鉄騎兵の目の前で、彼らは全力で魔法を使ってしまったのだ 派手な魔法があちこちで炸裂し、その下でオークやトロルの残骸が生産される中、生産者たる衛士隊の隊員が後ろから魔法で貫かれたのである 「…な…に…」 次々に空中で落馬ないし、墜落して行く衛士隊。元々少ない衛士隊の数が、見る見るうちに減って行く 勿論気付いた隊員も居て、すかさず攻撃目標を切り替えたのだが、既に深手を負っている様では撃墜されるのが関の山だった 「トリステインの衛士隊など、我ら鉄騎兵の前では蚊トンボも同然。さっさと駆逐して、帰りの道を確…」最後まで小隊長は言えず、頭が弾け飛び、周囲の隊員達も同じく肉片に変わり、魔法で静音されたプロペラの音と、7.7o機銃の軽快な発射音が鳴り響き、鳳の影が街に落ちたのである * * * 才人は7.7oの弾が切り替わった途端、反動によりブレーキがかかり、自分達にも前に突き出される感覚に舌を巻いていて、ルイズもつい文句を言ってしまう 「ちょっとサイト、さっきより辛いんだけど?」 「弾がゼロ機関製に切り替わったからだな。ドレッドノート弾のお陰で速度迄落ちてるわ。使い過ぎると失速して墜落しかねねぇ」 「大丈夫でしょうね?」 「何とかする」 そう言いながら進路を王城に向け、街を舐めるように低空で飛行する零戦 王城の広場は人でごった返しており、才人達は王城の上空で通信が入って来た 〈誰か聞こえるか?陛下がアルビオンに襲われてる!先陣を切ってるのは裏切り者のワルドだ!全ての制限を解除!陛下を攫われるな!〉 才人は簡潔に答える「こちらイーヴァルディ、了解」〈才人か!?〉 驚いた声が通信機に届き、才人は王城の上空で一回転しながら、通信機に話しかけた 「話は後、やるぞ。民衆の退避急げ」〈無理言うな、馬鹿たれ!〉 だが才人は無視だ。視界にもみ合ってる男と亜麻色の髪の喪服の女を収めると、進路を定めて突入しながらデルフに話しかける 「ロケットタンクを投下する。デルフ、タイミング」「無茶だね、相棒。一歩間違えば誤爆するぜ?」 「ビビらせる」「あいよ………今」 デルフの声で投下レバーを倒し、切り離すと同時にまた上昇する零戦、下では落下してきた物体に大騒ぎだ そして才人は、更なる無茶を言い放ったのだ「ルイズ、操縦代われ。デルフ、サポート」 「ええぇぇ〜〜〜〜!?無理無理無理無理!ぜったいむり〜〜〜!!!」「無茶過ぎんぜ、相棒」 「操縦桿握ってゆっくり動かせば問題ない。飛んでる状態は簡単だ。デルフの言う事良く聞けよ?」「お願い、サイト行かないで〜〜〜」 すっかり涙目のルイズを無視し、風防を開けるとルイズを引っ張り、無理にも操縦席に座らせ操縦桿を握らせる 「デルフ、後は頼むな」 そう言って、才人は飛び降りてしまったのだ 「すぐに戻って来てよ〜〜〜!!」 後にはルイズの絶叫が空に木霊して、才人は村雨片手に01式を背負い、落下していった * * * アンリエッタの周りに変な男達が現れたのに気付いた衛士隊の隊員は、杖を抜いて警戒の表情を見せ、アンリエッタを本人の意思を無視して覆い隠した 「どうなさったのです?」「下がって」 衛士の真剣な表情に押され、隠されるアンリエッタ 一緒に配っていた民衆やメイド達が衛士の表情を理解して代わりに進み出た 「陛下の手作りサンドが食べたいのかい?ちょっと陛下は体調わるくしちゃってるいで、あたしが渡すけど良いだろ?」 「そう言わずに、噂の美貌を拝ませてくれんかね?」「体調が優れないんだって。聞き分けの無い親父だね」 そう言ってふくれっ面を見せる女性。しかし、男は更に言葉を繋げたのだ 「聞き分けの無いのは仕方あるまいよ。何せ、アルビオン人だからな その瞬間、同時に動いた。衛士が割り込んでブレイドを突き付けて攻撃するのと、アルビオン騎士が同じくブレイドを展開して斬り付け、更に女性やメイドがお湯やお茶をアルビオン人に投げつけ、一気に混乱が起きた 「アルビオンだ。アルビオンが潜入してるぞ!」「きゃあぁぁぁぁ」 その最中にアンリエッタを避難させるべく動いた衛士を、横合いからあっさり斬り捨てる者が現れた、ワルドである アンリエッタは、かつての味方を見て目を見開いた 「‥‥ワルド子爵。よくも顔を出せますね」「トリステインもボーウッド提督を使ってるでしょう?同じ事です」「‥」 アンリエッタの護衛がワルドに排除され、彼女自身で杖を手に喪服姿のまま、ヴェールの中からワルドを睨み、背中には冷たい汗が流れる。技量の差は一目瞭然。アンリエッタには勝ち目は無い そんな最中、二階からストーンダートがワルドに向けて飛びワルドが余裕でいなすと、すかさず影が躍りかかったのだ 「ワルド!てめぇ!」「ジェラールか」 キィィィン 澄んだ音が周囲に鳴り響き、超硬質のブレイドと風を纏ったブレイドが衝突し、かつてのい盟友が睨み合う 「てめぇは、昔っからすかしてて嫌いだったんだ!今、此処で殺してやる!」「奇遇だな。私もお前が大嫌いだったよ!」 戦闘が始まると民衆が巻き込まれない様に大挙して逃げ出し、軽くスペースが出来、そのスペースで、衛士隊隊長の一騎討ちが始まろうとしていた だが、そんな中でもジェラールは指示も忘れない 「誰か聞こえるか?陛下がアルビオンに襲われてる!先陣を切ってるのは裏切り者のワルドだ!全ての制限を解除!陛下を攫われるな!」 魔法通信機に話しかけると、意外な声が返ってきた〈こちらイーヴァルディ、了解〉「才人か!?」 驚きながら返事をすると、声の主は無茶な要求をしたのだ〈話は後、やるぞ。民衆の退避急げ〉「無理言うな、馬鹿たれ!」 そう言ってジェラールがワルドの出方を伺いながら空を見ると、なんと零戦が何かを切り離して投下したのだ 「退避〜〜〜〜〜!」 敵も味方もあったもんじゃない。ワルドも驚いて退避し、ぽかんと開いたスペースにロケットタンクがドオンと落ちたのだ 「…あんにゃろう」 お陰で少し時間が出来たが、アルビオンの動きは迅速だった。ワルド以外の兵がアンリエッタに向かって行ったのだ 「しまった!」「お前の相手はこっちだ!」 ワルドに対して背を見せられないジェラールの背後で更に驚く事が起きる 上空から落下位置をレビテーションシュートを使って調整した才人が、狙いを定めて狙撃を開始したのだ ダアァン 03式が火を噴き、アンリエッタに近づいた一人が一発で撃ち抜かれ、周囲に肉片を飛び散らせる 「ぐう、クソッタレ」 今日は働き過ぎて、既にルーンは輝いていない。才人は補正の無いまま、反動に顔しかめつつ、次弾を装填し、引き金を引いた ダアァン 上空からの狙撃に驚いたアルビオン兵がシールドを展開するが、シールド事撃ち抜かれ、残った者が唖然とする 「魔法が通用しない?」 そうこうしてる内に着地した才人が、投げナイフを抜いてアルビオン騎士に投げつつ、懐に飛び込んだ。投げナイフの対処が終わった時には才人が懐に居る 「何?」「しゃあ!」気合の言葉と共に抜かれた村雨は、アルビオン騎士の首を一閃して落とし、続いて次の騎士を斬り捨てようとして、剣を防がれる 鉄騎兵の連隊長たるムーアだ 「やるな、だが私…」その時には、才人は04式短銃をムーアの額に向けていて、そのまま引き金を引いた ダン あっさり眉間を撃ち抜かれるムーア。既に才人は次に動いていた メイジ相手は手加減が利かない。特にガンダールヴも使い切り、デルフも置いて来た今では、余計な動作は試合終了だ。向こうは幸い距離を取った 才人はすかさず走って03式を拾うと、弾丸を装填しアルビオン騎士に向ける アルビオン騎士達は、マスケット銃しか知らなかった為に、次弾の装填迄時間がかかると思い込み、次は無いと放置していたのだ 至近距離の為、緑弾を装填して次々に撃つ才人。気が付いたら、アルビオン騎士達は立ってる者がワルドを残して居ない状態になっている 「馬鹿な…何だその銃は?」「よっ!久し振り!俺が作ったんだよ。良い銃だろ?」 驚いてるワルドに軽口を叩きつつ、次弾を装填してワルドに向ける才人 だが、ワルドの対応は素早かった。踵を返して逃げ出したのだ 「逃げんなてめぇ!」ジェラールがそう言って怒鳴るが、ワルドは全く意に反さない。溜息を一つ付いてジェラールは才人の後ろに居るアンリエッタに話しかけた 「流石、陛下の見立ては一流…あれ?陛下?」 才人もきょろきょろするが、先程迄居たアンリエッタが見当たらない 「あれ?姫様は避難したのか?」「だろうな」 そう言って、二人が一息つき、伝令がジェラールに報告して、自分達が失態をしていた事に気付かされる 「報告です。陛下が攫われました」「…何だと?」 ジェラールの反応が遅れ、才人はそんなジェラールの首根っこを掴まえて引きずり出す 「あだだだだ。何しやがんだ?」「良いからフライで俺を運べ。ほら、来たぞ?」 才人がそう言って上空を指すと、旋回した零戦が飛んで来たのが見え、ジェラールは仕方なく、才人を抱えてフライを唱えた 「てめ、後で覚えとけ」「最近、物忘れが激しいのよ」 * * * 「そうだ、良いぞう嬢ちゃん。そのままゆっくり舵を切るんだ。良いな?ゆっくりだぞ?急激にやったら落ちるからな?」 「無理無理!やだもう!こんなの操縦出来ない!」 操縦席でぶんぶん首を振りつつルイズは絶叫していて、デルフはルイズに上手く操縦させるべく奮闘していた 「嬢ちゃん中々上手いじゃねぇか!この調子なら大丈夫だ」 「そんなのウソ〜〜〜〜〜きゃあきゃあきゃあ〜〜〜〜!!」 ルイズはちょっとがくんとすると叫び、風で振られるとまた叫ぶ。はっきり言って、ご主人様を便利使いする使い魔なぞ、前代未聞だ。ルイズはとにかく喋ってないと正気が保てない 「こここここんな事させるだなんて、帰って来たらお仕置きなんだからぁぁぁぁ!使い魔がご主人様を使うだなんて、ゆゆゆゆゆ許さないんだからねぇぇぇぇぇぇ!!」 すっかり涙目で操縦桿を握って、鼻をぐしぐしする そんな事をやっていたら、こんこんと風防が叩かれて、才人が帰って来た。運んで来たのは、いつか見た衛士隊の隊長と見え、そのまま直ぐに飛んで行った がらりと開けた才人が、操縦席に座ってるルイズの後ろに滑り込み、ルイズはやっと操縦の重荷から解放され、才人の腕の中でぐたぁとへたばった 「ルイズ、デルフ、良くやった。まだ続きだ、姫様がワルドに攫われた。追うぞ」 げっそりとしたルイズだが、才人の言葉に頷いたのだ 才人達零戦が、サポートを受けて追跡すると、あっさりとワルド達が見つかり、才人はかすめる様に無誘導弾を撃ち、馬を衝撃波と音で驚かせて転倒させる 数は二騎で、才人はフーケがアンリエッタの保護をしているのを見て上空で旋回し、続けてワルドに向けて発砲し、ワルドは堪らずフーケ達と距離を取らされた 「ワルド!偏在でも、あれ相手は駄目だ!作戦は失敗だ!退いた方が良い!女王を捨てれば追って来ない!」 フーケの怒鳴り声に、本当に悔しそうにワルドは頷いた 「此処まで来て…。撤退するぞフーケ」 二人がアンリエッタを置いて暫く走ると、姿が消え才人が舌打ちする 「ち、不可視の布か?ルイズ、ディスペル」「…」 才人の声に反応せず、ルイズは後部座席で熟睡していた 午前中のエクスプロージョンに加え、慣れぬ零戦の操縦で体力の限界を越えてしまったと見える 才人は後ろを向いて確認するとデルフに話しかけた 「デルフ、着陸する。警戒を怠るな」「あいよ。しっかし、相棒は何でも使うねぇ」 長い長い戦場の一日は、終わりを告げようとしていた * * * 「姫様、姫様」 アンリエッタを呼ぶ声が聞こえて、アンリエッタが目を開けるとそこには黒髪の男の顔が、心配そうに自分を見ていて思わず手を男に差し伸べ、頬を擦ってみた 「…サイト殿?」「えぇ、才人です。大丈夫ですか?」 才人に言われ、彼女は思わず抱き付き、そのままガタガタと震え出してしまう 「こ‥こ‥怖か‥った」「もう大丈夫。終わりましたよ」 才人の首筋にしがみ付いて、ガチガチ歯を鳴らしながら頷くアンリエッタ 「さあ、帰りましょう」「‥はい」 しっかりと才人から離れず、必死にしがみ付いたアンリエッタの態度に才人は好きにさせ、零戦に乗り込み、アンリエッタを膝の上に乗せると、王宮に向けて離陸していった * * *
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「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」 トリスタニアの城下町に悲鳴が轟き、オークとトロルが住民を文字通り蹂躙し、トリスタニアの街並みがパニックに陥っている 民衆は我先に逃げ出していたが、別の場所からもオークやトロルが顔を出し、その度に男は問答無用で殺され、泣き叫ぶ子供は食われ、老人は潰され、女は犯された オークは新しい女を見つけると、今まで犯してた女に種付けしてからすぐに別の女に向かい、被害が加速度的に増加していく 勿論、戦う選択を取った者も居たが、大部分は逃げ出す群集心理に乗っかり、訳も解らず怯えた羊の如く逃惑うだけだった 「僕の姉ちゃんを返せ!」そう言って棒切れでオークに向かった少年は、姉の前でオークに捕まり、目の前で食われ「いや〜〜!?マチス〜〜〜〜!!」少女は涙を流しながらオークの剛直に貫かれた 「ぴぎぃ」「…いぎぃ」少女の悲鳴は、オークには関係無しで自分の行為に没頭し、仲間と次の雌を捕る為に、連絡を取り合っている トロルは自分達より矮小な人間をげらげら笑いながら踏み潰し、気紛れに棍棒で建物を壊して見せた トロルにとって、人間は非常に不愉快な生き物だ 数を増やして万物の霊長を気取る虫である。虫共は我らトロルが気紛れに繁殖に使うか、プチプチ潰す遊びに使う物である より多くの虫を潰せるなら、他の虫と手を組んでる振りをするのもやらんでもない。彼らにとっては、所詮その程度の事である。当然、命令なんざ聞く気はさらさら無い そして今、目の前に大量の虫が居る。虱潰しには最適だ 仲間達と、彼らは賭けをした。より多くの虫を潰せた者は今日の夕飯で一番の飯を独占すると決めたのだ トロル達は俄然張り切り出した * * * 「駄目です副長!民衆が道路を占拠してます。我々は動けません!」 「王城に民衆を受け入れろ!第5、第6分隊は避難誘導だ」「はっ!」「残りは迎撃だ。街道は使えん。屋根を走るぞ」「ウィ!」 ミシェルの命令に銃士隊の隊員達が走り去り、01式マスケット銃を手にしている残りの隊員達がミシェルの疾走に続いて走り去る中、アンリエッタは、バルコニーに出て声を張り上げていた 「大丈夫です皆さん!落ち着いて行動してください!今、近衛隊が迎撃に出ております!落ち着いて行動なさって下さい!」 そんなアンリエッタに罵声が飛ぶ 「馬鹿野郎!全部お前のせいじゃないか!お前がトリスタニアを空っぽにしたからだ!」「お前自身で戦場に行け!馬鹿女王!」「安全な王城で自分はのらりくらりか?あたいの旦那は今頃アルビオンで兵隊として戦ってるよ!」 非常に痛い、痛すぎる アンリエッタには民衆の罵声が事実その通りなのが非常に来る。つい悲痛な表情を浮かべてしまい、マザリーニが釘を刺した 「陛下、軽挙は慎む様に」「‥判っております」 今此処で動いたら、現場は更に混乱する。アンリエッタには動けない理由が有ったのだ だが、民衆はそんな事は関係無い。目の前に糾弾出来る相手が居るのだ。口々に今の境遇をぶつけ始めた 「王族ってのは気楽なもんだな!ふんぞり返ってりゃ良いんだからな!」「俺達平民なんざ、いくら死んでも構いませんってか?」「俺も貴族に生まれて、魔法を使えりゃ良かったよ。そうすりゃ、あんた等みたいなのに頼らなくて済むもんな!」 拳を握ってわなわな震えるアンリエッタ。ついに堪らずバルコニーから姿を隠してしまい、その様に更に嘲笑が浴びせられた 「女王様が泣いて逃げ出しちゃったぜ!」「誰だよ泣かした奴?」「これ位で泣くなら戦争なんざするなっての」 更に笑い声が木霊し、アンリエッタは、玉座にしがみ付いて涙を流し嗚咽する様を、マザリーニは見てるしか出来なかった 幾ら英才教育を受けたと言っても、剥き出しの悪意には、まだ17歳の少女には耐えられなかったのだ。マザリーニには、今のアンリエッタにかける言葉が見つからない その様子を、民衆に紛れ込んでいた一団が見ていた 「此処までは順調だな、ワルド子爵」「此処からだ。更に民衆を受け入れて混乱が大きくなった時に動く」「了解した」 鎧の上にゆったりとした服を着込んで恰幅の良い男に偽装した、アルビオンの一団だった * * * 才人はルイズの航法で母艦に戻るとすかさず指示を飛ばしていた 「補給急げ!ロケットモーターを胴体下に、無誘導弾を両翼に積め!」 「だあぁ!?あのへんてこりんは一番奥だ。勘弁してくれ!」「トリスタニアが落ちても良いならのんびりやれ!」 「大急ぎで動かします!」「糞、無線で伝えたのに何やってんだ!補給樽寄越せ!俺がやる!」 甲板員のもたつきにイラついた才人が飛び降り、ホースを持って給油していると、エレベーターが上がってきて要求の装備がやって来た 作業員が作業をやってるのを尻目に補給を済ませるとすかさず飛び乗り、ロッキング作業をし、そのままエンジンを再始動して信号手が進路をクリアした途端に飛び立った 「ルイズ、進行方向」「ちょっと待ってて。んっと、33°25′面舵」「了解」 地図と磁石と時計を片手に太陽の位置を見て計測したルイズが才人に答え、才人は指示通りに舵を切り、ロケットモーター用に張り付けた胴体投下レバーのスイッチ代わりの魔法付箋を剥がした その瞬間、固形火薬に火が点り、轟音を立てて零戦は一気に点となって母艦たるヴィセンタールから消え、艦橋で見てたウィンプフェンや参謀達が唖然と見送ったのである * * * トリスタニアの町を蹂躙していたトロルの背後から、風切音を残して肉を切り裂く音が木霊し、一体のトロルの首がぐらりと揺れた後、そのまま落ちた 他のトロルが見た時、ヒポグリフに乗った騎士が、ランスの先を血に染めて空を躍っていたのが見えた バサァァァァ 翼が空気をはためく音が鳴り響き、トロル達が憎しみの目をヒポグリフに乗った騎士に向けるが、騎士の方も怒り心頭で彼らを睨んでいた 「俺達が居る時に限って、なんて事してくれてんだ、このウスノロ!てめぇら、全員生きて返さねえぞ!」 怒りに燃えたヒポグリフ隊の隊員が、そのまま単騎で突撃する様に見えたが、それこそが囮だった 自らに注意を惹きつけると、背後から二騎のヒポグリフ騎兵がクロスチャージを敢行して、トロルの首を鋏で切る様にあっさり落としたのだ だが、トリスタニア各地に散ったトロルとオークの集団には、多勢に無勢であり、近衛隊は完全に手を焼いていた 「同時多発でトリスタニア全体だと?どうやって隠蔽したんだ?」 ジェラールは報告と被害に悩みつつ、各個撃破する為に衛士隊を散らばらせていた。そんなジェラールの元に芳しくない報告が入り始めている。小隊の連絡途絶である 指令室にてジェラールは暫しこの状況を読み、地図を睨んで結論づけた 「アルビオンの攻勢と判断した方が妥当だな。さて、問題は奴らの意図が何処に在るかだが……」 そんな事を考えていると、連絡員から報告が入った。近衛が出払って居る為、王宮の職員が動員されている。慣れぬ仕事でばたばたしっぱなしだ 「報告です。トライアングルの隊員から民衆を巻き込むから範囲魔法が使えない。民衆の避難を最優先されたしと」「んなこたぁ、解ってる。今対処中だと伝えろ。ゼッザール殿とは連絡は取れたのか?」 「現在休暇中の場所に竜籠で全速力です」「解った。取れたら伝えろ」「了解」 たまたま、ずっと働いていたゼッザールが休暇を取っていた。悪い時には悪い事が重なるものだ。次がジェラールの休暇だったのだが、この分ではお預けになりそうであるが、一先ずその件に付いては棚に上げる事にする 「現在健在な数は?」「ヒポグリフ隊が7割、マンティコア隊が8割、元々減っていたグリフォン隊は3割。銃士隊が2分隊が避難誘導に当てられており、4分隊が迎撃に出ております」 被害が対亜人にしては大きすぎる。ジェラールがすかさず決断を下した 「アルビオンの部隊が潜伏していると判断する。俺も出る。連絡はコイツに寄越せ」 「指揮官が出ては…」「現場で何が起こってるか確認しなきゃならん」 ジェラールはそう言いながら魔法通信機を職員に放り投げると、つかつかと歩き去った * * * 一方、ミシェルは屋根に陣取り、上から道路を見て迎撃の指揮を執っている 「チクトンネ街にオーク100」「豚共め、繁華街を真っ直ぐ目指したか。狩るぞ」「ウィ」 ミシェルは屋根から見ながら、隊員達に射撃命令を出すと、隊員達が一斉にマスケットライフルの火薬を開いて銃口に詰めて狙い出した 「総員準備完了。何時でも撃てます」「一斉射と同時に第二第三は降下。構え」 狙いを付ける為に銃身を上げ、狙撃姿勢に入る隊員 「って!」短く鋭い命令に全員が引き金を引いた パパパパパーン 01式マスケットライフルから小気味良い発射音が鳴り響き、繁華街を練り歩いていたオークの一団に多数命中する 「ぴぎゃぁ」「ぴぎいぃ」 オーク達から悲鳴が上がる中、銃士隊は予定通り、行動を開始していた レビテーションシュートを次々にぱりぱりと割りながら飛び降り、続いて支援の短銃射撃が轟き、オークにまたも着弾する その中を着地した隊員達が素早く整列すると小隊単位で動き出したのだ 「第二、四番小隊構え、てぇ!」 いち早く整列した銃士隊第二分隊四番小隊が02式短銃で射撃し、他の隊が弾込めする時間を確保すると、01式に弾込めした他の小隊が進み出、そのまま引き継いだのだ 「制圧するぞ、てぇっ!」 パパパパーン 射撃武器を持たないオークは良い様に撃たれるが、分厚い脂肪が中々致命傷を与えるに至らない 「休むな、屋根の隊と十字砲火を続けろ」 分隊長の命令に小隊長が指示を下し、弾丸をしこたま喰らったオーク達は遂に倒れ、辺りには燃焼温度が低い時に発生する一酸化窒素たる白煙と、未燃炭素の黒煙が立ち込めた 「総員着剣、念入りに心臓刺しておけ。動かれたら面倒だ」「了解」 女達に取ってオークは念入りにやる位で丁度良い。かちゃかちゃと銃剣を装着する音が鳴り響き軍靴を鳴らして念入りに刺して行く銃士隊 分隊長に入った報告はあまり喜ばしいものじゃ無かった 「襲われた民衆を巻き込んでました」「擲弾使わなかったんだがな…仕方ない。次に移動だ」 「了解」言葉少なに頷いた隊員達も同情もそこそこに次の戦場に向かって行った オークに捕まったら、人の生活には戻れないのを、彼女達は承知していたのからである * * * ジェラールが前線に出た時、衛士隊の隊員達は小隊単位で散っており、相手に合わせて対応していたが、何分民衆が逃惑いながらの中での戦闘である 思う様に戦果が出ず、後手後手の最悪手を地で行っていた 「なんつう様だ。これでは何も出来ねぇ。何をしている!民衆が避難するまで防戦しろ!今が命の使い所だ!」 現場で檄を飛ばしてはやばい所に救援に入りつつ、激励しながら戦地を飛び、一回りして帰ってくると、すかさず配置転換の指示を下し始める 「避難終了迄は厳しい時が続くぞ!ここが踏ん張り所だ!炊き出しを避難民達に手伝って貰って、元帥権限で国庫の備蓄を開放しろ。飯を食えば一息つく筈だ」「ウィ!」 「勝つ為にはまず避難。戦場を確保して反撃。落ち着いて一個一個進めろ」 ジェラールの命令をアンリエッタが受け取ると、泣き腫らした目をそのままに立ち上がり、一気に走り去ってしまい、マザリーニが声を掛ける暇も与えずに炊き出しに女王自ら参加し、避難民達に自ら作ったサンドイッチを配り始めた。その姿を見、マザリーニはため息吐きながら、護衛の衛士を就いているのを確認すると黙認し、自らは着々と変化する戦況をジェラールに伝えるべく、配下の職員を総動員して避難の進行状況と戦場の設定をジェラールと共に詰め始める 確かにアンリエッタには、戦場で指揮を執るよりも、民衆にサンドイッチを配っていた方が遥かに似合うのだ アンリエッタの姿を見た者には、当然露骨な人気取りと見えた者も数多く居たが、彼女が真摯に作るのを見た者達も勿論居る。炊き出しに参加した避難民達だ 「陛下。陛下がこんな事までなさる必要はありませんよ?」 「いえ、やらせて下さい。今の私に出来るのはこれ位です」 そう言って避難民達に配るのを見ていた者が、これ見よがしに声を上げる 「はっ、今更人気取りかよ?」 アンリエッタは聞こえても笑顔で配り、援護が横合いから入った「黙んな、屑」「ん、だとう?」 啖呵を切ったのは恰幅の良い中年女性で、見るからに肝っ玉母ちゃんだ 「良いかい?女王様は本来こんな事している暇なんざ無いんだよ!空っぽのトリスタニア守る為に、宰相様や近衛と駆けずり回らなきゃならないんだよ!でも、まだ現場が良く解らないから、自分に出来る事を進んでやってんだ!つべこべ言ってる暇が有るんなら、あんたも手伝いな!あんたみたいな屑に女王様の手作りサンドイッチなんざ勿体無くて上げらんないね。さっさと別の所に行くんだね!」 「てめぇ」「なんだい?オークには向かえない癖に、おばちゃんのあたしには向かうのかい?とんだ笑い草だね」 聞いていた者達から同意の声が続き、男はすごすご去って行ったである アンリエッタが頭を下げると、女性はアンリエッタの背中をばんと叩いて快活に笑い 「あたしはあんたの事気に入ったよ、女王様。皆が皆、陛下の事嫌ってるとは思わないで頂戴ね」 勇気づけられたアンリエッタは素直に頷いて「はいっ」と返事をし、悪い事ばかりでもないと気分を切り替える事に成功し、様子を伺ってる一団には気付かなかった 何しろ、女王の様子を見ようと皆が注目していて、異質な視線までは、気付ける筈もなかったのだ * * * 才人がロケットモーターの加速で座席に押し付けられつつ前方を見ていると、雲に飛び込み暫くすると突き抜けた。そしてまた突入し、目の前は真っ白だ 「だあぁぁぁぁぁ!?本当にこの方角で大丈夫なのかよ?何も見えねぇ!」「るっさい。ご主人様の指示を信じなさい」 ルイズは方位磁石から目を離さず、すかさず指示を下す 「ずれた。1°取り舵」「1°取り舵、ようそろ」 才人は明瞭に答え、くんくんと舵を切り一路トリスタニアをめざす。ロケットモーターの加速は長い時間ではなく、5分で切れたが、元々小国のトリステインをアルビオン空域から亜音速で縦断するなら、問題ない継続時間と言える 「魔法で強化しといて良かったわ。地球仕様ならバラバラになってる」 そう言って才人は安堵の溜息を吐き、ロケットモーターを開発したコルベールと、強化に携わったシュヴルーズとエレオノールの魔法の腕前に感謝しつつ、高度を下げていくとトリスタニアの城下町が眼下に広がっており、才人とルイズが見渡したが、まだ判別できる距離じゃない 「もうちょい近づかないと解らんな」「そうね、急ぐわよ、犬」「ワン」 その時、トリスタニアの外周から侵攻したオーク、トロルの混成部隊がトリスタニアの民衆を王城に向かうようにし、民衆と襲撃者の分離をすべく、犠牲を出しつつ避難誘導を行った近衛隊の行動、民衆に混じったアルビオン近衛鉄騎兵連隊の作戦、虎視眈々とアンリエッタの身柄を目指すワルド達の行動が一気に加速した 「避難誘導、完了しました!」「良くやった!範囲魔法の使用を許可する。今までの鬱憤全部ぶつけろ!」ジェラールが王宮で全開攻撃の命令を出し 「擲弾の使用を許可する。やつらを肉片に変えてやれ!」現場で指揮を執っていたミシェルも、時を同じくして全開攻撃の命令を下した その様子を見ていた鉄騎兵の目の前で、彼らは全力で魔法を使ってしまったのだ 派手な魔法があちこちで炸裂し、その下でオークやトロルの残骸が生産される中、生産者たる衛士隊の隊員が後ろから魔法で貫かれたのである 「…な…に…」 次々に空中で落馬ないし、墜落して行く衛士隊。元々少ない衛士隊の数が、見る見るうちに減って行く 勿論気付いた隊員も居て、すかさず攻撃目標を切り替えたのだが、既に深手を負っている様では撃墜されるのが関の山だった 「トリステインの衛士隊など、我ら鉄騎兵の前では蚊トンボも同然。さっさと駆逐して、帰りの道を確…」最後まで小隊長は言えず、頭が弾け飛び、周囲の隊員達も同じく肉片に変わり、魔法で静音されたプロペラの音と、7.7o機銃の軽快な発射音が鳴り響き、鳳の影が街に落ちたのである * * * 才人は7.7oの弾が切り替わった途端、反動によりブレーキがかかり、自分達にも前に突き出される感覚に舌を巻いていて、ルイズもつい文句を言ってしまう 「ちょっとサイト、さっきより辛いんだけど?」 「弾がゼロ機関製に切り替わったからだな。ドレッドノート弾のお陰で速度迄落ちてるわ。使い過ぎると失速して墜落しかねねぇ」 「大丈夫でしょうね?」 「何とかする」 そう言いながら進路を王城に向け、街を舐めるように低空で飛行する零戦 王城の広場は人でごった返しており、才人達は王城の上空で通信が入って来た 〈誰か聞こえるか?陛下がアルビオンに襲われてる!先陣を切ってるのは裏切り者のワルドだ!全ての制限を解除!陛下を攫われるな!〉 才人は簡潔に答える「こちらイーヴァルディ、了解」〈才人か!?〉 驚いた声が通信機に届き、才人は王城の上空で一回転しながら、通信機に話しかけた 「話は後、やるぞ。民衆の退避急げ」〈無理言うな、馬鹿たれ!〉 だが才人は無視だ。視界にもみ合ってる男と亜麻色の髪の喪服の女を収めると、進路を定めて突入しながらデルフに話しかける 「ロケットタンクを投下する。デルフ、タイミング」「無茶だね、相棒。一歩間違えば誤爆するぜ?」 「ビビらせる」「あいよ………今」 デルフの声で投下レバーを倒し、切り離すと同時にまた上昇する零戦、下では落下してきた物体に大騒ぎだ そして才人は、更なる無茶を言い放ったのだ「ルイズ、操縦代われ。デルフ、サポート」 「ええぇぇ〜〜〜〜!?無理無理無理無理!ぜったいむり〜〜〜!!!」「無茶過ぎんぜ、相棒」 「操縦桿握ってゆっくり動かせば問題ない。飛んでる状態は簡単だ。デルフの言う事良く聞けよ?」「お願い、サイト行かないで〜〜〜」 すっかり涙目のルイズを無視し、風防を開けるとルイズを引っ張り、無理にも操縦席に座らせ操縦桿を握らせる 「デルフ、後は頼むな」 そう言って、才人は飛び降りてしまったのだ 「すぐに戻って来てよ〜〜〜!!」 後にはルイズの絶叫が空に木霊して、才人は村雨片手に01式を背負い、落下していった * * * アンリエッタの周りに変な男達が現れたのに気付いた衛士隊の隊員は、杖を抜いて警戒の表情を見せ、アンリエッタを本人の意思を無視して覆い隠した 「どうなさったのです?」「下がって」 衛士の真剣な表情に押され、隠されるアンリエッタ 一緒に配っていた民衆やメイド達が衛士の表情を理解して代わりに進み出た 「陛下の手作りサンドが食べたいのかい?ちょっと陛下は体調わるくしちゃってるいで、あたしが渡すけど良いだろ?」 「そう言わずに、噂の美貌を拝ませてくれんかね?」「体調が優れないんだって。聞き分けの無い親父だね」 そう言ってふくれっ面を見せる女性。しかし、男は更に言葉を繋げたのだ 「聞き分けの無いのは仕方あるまいよ。何せ、アルビオン人だからな その瞬間、同時に動いた。衛士が割り込んでブレイドを突き付けて攻撃するのと、アルビオン騎士が同じくブレイドを展開して斬り付け、更に女性やメイドがお湯やお茶をアルビオン人に投げつけ、一気に混乱が起きた 「アルビオンだ。アルビオンが潜入してるぞ!」「きゃあぁぁぁぁ」 その最中にアンリエッタを避難させるべく動いた衛士を、横合いからあっさり斬り捨てる者が現れた、ワルドである アンリエッタは、かつての味方を見て目を見開いた 「‥‥ワルド子爵。よくも顔を出せますね」「トリステインもボーウッド提督を使ってるでしょう?同じ事です」「‥」 アンリエッタの護衛がワルドに排除され、彼女自身で杖を手に喪服姿のまま、ヴェールの中からワルドを睨み、背中には冷たい汗が流れる。技量の差は一目瞭然。アンリエッタには勝ち目は無い そんな最中、二階からストーンダートがワルドに向けて飛びワルドが余裕でいなすと、すかさず影が躍りかかったのだ 「ワルド!てめぇ!」「ジェラールか」 キィィィン 澄んだ音が周囲に鳴り響き、超硬質のブレイドと風を纏ったブレイドが衝突し、かつてのい盟友が睨み合う 「てめぇは、昔っからすかしてて嫌いだったんだ!今、此処で殺してやる!」「奇遇だな。私もお前が大嫌いだったよ!」 戦闘が始まると民衆が巻き込まれない様に大挙して逃げ出し、軽くスペースが出来、そのスペースで、衛士隊隊長の一騎討ちが始まろうとしていた だが、そんな中でもジェラールは指示も忘れない 「誰か聞こえるか?陛下がアルビオンに襲われてる!先陣を切ってるのは裏切り者のワルドだ!全ての制限を解除!陛下を攫われるな!」 魔法通信機に話しかけると、意外な声が返ってきた〈こちらイーヴァルディ、了解〉「才人か!?」 驚きながら返事をすると、声の主は無茶な要求をしたのだ〈話は後、やるぞ。民衆の退避急げ〉「無理言うな、馬鹿たれ!」 そう言ってジェラールがワルドの出方を伺いながら空を見ると、なんと零戦が何かを切り離して投下したのだ 「退避〜〜〜〜〜!」 敵も味方もあったもんじゃない。ワルドも驚いて退避し、ぽかんと開いたスペースにロケットタンクがドオンと落ちたのだ 「…あんにゃろう」 お陰で少し時間が出来たが、アルビオンの動きは迅速だった。ワルド以外の兵がアンリエッタに向かって行ったのだ 「しまった!」「お前の相手はこっちだ!」 ワルドに対して背を見せられないジェラールの背後で更に驚く事が起きる 上空から落下位置をレビテーションシュートを使って調整した才人が、狙いを定めて狙撃を開始したのだ ダアァン 03式が火を噴き、アンリエッタに近づいた一人が一発で撃ち抜かれ、周囲に肉片を飛び散らせる 「ぐう、クソッタレ」 今日は働き過ぎて、既にルーンは輝いていない。才人は補正の無いまま、反動に顔しかめつつ、次弾を装填し、引き金を引いた ダアァン 上空からの狙撃に驚いたアルビオン兵がシールドを展開するが、シールド事撃ち抜かれ、残った者が唖然とする 「魔法が通用しない?」 そうこうしてる内に着地した才人が、投げナイフを抜いてアルビオン騎士に投げつつ、懐に飛び込んだ。投げナイフの対処が終わった時には才人が懐に居る 「何?」「しゃあ!」気合の言葉と共に抜かれた村雨は、アルビオン騎士の首を一閃して落とし、続いて次の騎士を斬り捨てようとして、剣を防がれる 鉄騎兵の連隊長たるムーアだ 「やるな、だが私…」その時には、才人は04式短銃をムーアの額に向けていて、そのまま引き金を引いた ダン あっさり眉間を撃ち抜かれるムーア。既に才人は次に動いていた メイジ相手は手加減が利かない。特にガンダールヴも使い切り、デルフも置いて来た今では、余計な動作は試合終了だ。向こうは幸い距離を取った 才人はすかさず走って03式を拾うと、弾丸を装填しアルビオン騎士に向ける アルビオン騎士達は、マスケット銃しか知らなかった為に、次弾の装填迄時間がかかると思い込み、次は無いと放置していたのだ 至近距離の為、緑弾を装填して次々に撃つ才人。気が付いたら、アルビオン騎士達は立ってる者がワルドを残して居ない状態になっている 「馬鹿な…何だその銃は?」「よっ!久し振り!俺が作ったんだよ。良い銃だろ?」 驚いてるワルドに軽口を叩きつつ、次弾を装填してワルドに向ける才人 だが、ワルドの対応は素早かった。踵を返して逃げ出したのだ 「逃げんなてめぇ!」ジェラールがそう言って怒鳴るが、ワルドは全く意に反さない。溜息を一つ付いてジェラールは才人の後ろに居るアンリエッタに話しかけた 「流石、陛下の見立ては一流…あれ?陛下?」 才人もきょろきょろするが、先程迄居たアンリエッタが見当たらない 「あれ?姫様は避難したのか?」「だろうな」 そう言って、二人が一息つき、伝令がジェラールに報告して、自分達が失態をしていた事に気付かされる 「報告です。陛下が攫われました」「…何だと?」 ジェラールの反応が遅れ、才人はそんなジェラールの首根っこを掴まえて引きずり出す 「あだだだだ。何しやがんだ?」「良いからフライで俺を運べ。ほら、来たぞ?」 才人がそう言って上空を指すと、旋回した零戦が飛んで来たのが見え、ジェラールは仕方なく、才人を抱えてフライを唱えた 「てめ、後で覚えとけ」「最近、物忘れが激しいのよ」 * * * 「そうだ、良いぞう嬢ちゃん。そのままゆっくり舵を切るんだ。良いな?ゆっくりだぞ?急激にやったら落ちるからな?」 「無理無理!やだもう!こんなの操縦出来ない!」 操縦席でぶんぶん首を振りつつルイズは絶叫していて、デルフはルイズに上手く操縦させるべく奮闘していた 「嬢ちゃん中々上手いじゃねぇか!この調子なら大丈夫だ」 「そんなのウソ〜〜〜〜〜きゃあきゃあきゃあ〜〜〜〜!!」 ルイズはちょっとがくんとすると叫び、風で振られるとまた叫ぶ。はっきり言って、ご主人様を便利使いする使い魔なぞ、前代未聞だ。ルイズはとにかく喋ってないと正気が保てない 「こここここんな事させるだなんて、帰って来たらお仕置きなんだからぁぁぁぁ!使い魔がご主人様を使うだなんて、ゆゆゆゆゆ許さないんだからねぇぇぇぇぇぇ!!」 すっかり涙目で操縦桿を握って、鼻をぐしぐしする そんな事をやっていたら、こんこんと風防が叩かれて、才人が帰って来た。運んで来たのは、いつか見た衛士隊の隊長と見え、そのまま直ぐに飛んで行った がらりと開けた才人が、操縦席に座ってるルイズの後ろに滑り込み、ルイズはやっと操縦の重荷から解放され、才人の腕の中でぐたぁとへたばった 「ルイズ、デルフ、良くやった。まだ続きだ、姫様がワルドに攫われた。追うぞ」 げっそりとしたルイズだが、才人の言葉に頷いたのだ 才人達零戦が、サポートを受けて追跡すると、あっさりとワルド達が見つかり、才人はかすめる様に無誘導弾を撃ち、馬を衝撃波と音で驚かせて転倒させる 数は二騎で、才人はフーケがアンリエッタの保護をしているのを見て上空で旋回し、続けてワルドに向けて発砲し、ワルドは堪らずフーケ達と距離を取らされた 「ワルド!偏在でも、あれ相手は駄目だ!作戦は失敗だ!退いた方が良い!女王を捨てれば追って来ない!」 フーケの怒鳴り声に、本当に悔しそうにワルドは頷いた 「此処まで来て…。撤退するぞフーケ」 二人がアンリエッタを置いて暫く走ると、姿が消え才人が舌打ちする 「ち、不可視の布か?ルイズ、ディスペル」「…」 才人の声に反応せず、ルイズは後部座席で熟睡していた 午前中のエクスプロージョンに加え、慣れぬ零戦の操縦で体力の限界を越えてしまったと見える 才人は後ろを向いて確認するとデルフに話しかけた 「デルフ、着陸する。警戒を怠るな」「あいよ。しっかし、相棒は何でも使うねぇ」 長い長い戦場の一日は、終わりを告げようとしていた * * * 「姫様、姫様」 アンリエッタを呼ぶ声が聞こえて、アンリエッタが目を開けるとそこには黒髪の男の顔が、心配そうに自分を見ていて思わず手を男に差し伸べ、頬を擦ってみた 「…サイト殿?」「えぇ、才人です。大丈夫ですか?」 才人に言われ、彼女は思わず抱き付き、そのままガタガタと震え出してしまう 「こ‥こ‥怖か‥った」「もう大丈夫。終わりましたよ」 才人の首筋にしがみ付いて、ガチガチ歯を鳴らしながら頷くアンリエッタ 「さあ、帰りましょう」「‥はい」 しっかりと才人から離れず、必死にしがみ付いたアンリエッタの態度に才人は好きにさせ、零戦に乗り込み、アンリエッタを膝の上に乗せると、王宮に向けて離陸していった * * *
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