ゼロの使い魔保管庫
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パンドラの箱 北進していたトリステイン=ゲルマニア連合軍は、相当の被害を出しつつ、サウスゴータ南側を占拠する事に成功し、市中央部でアルビオン軍と対峙する形で、本日の戦闘を終了する事になった だが、市壁を壊したままであり、逃げ道の確保はしている。それはそのまま、脱走の手助けになる為、壁には警邏が張り付く羽目になっている また、アルビオンが外壁を周回して襲撃に備える為でもあり、一般にはそう伝えてあるが、実際は軍が瓦解しない為の楔でしかない 敵は常に身内に在りって訳だ。集まった連中の大半は、戦争で一発当ててやるといった山師的な考えの者が多数であり、命あっての物種の為、情勢が悪くなるとすたこら逃げ出すのが常だ。表面上は「名誉の為に死んでやる!」と言ってるが、所詮そんなものである。だから常に命を張ることを掲げている貴族は、なんだかんだ言っても、尊敬の念を集める事が出来ると言った次第なのである その代表例が今、勲章を授けられていた。そう、ギーシュ=ド=グラモンだ ギーシュは、首に勲章を総司令たるウィンプフェンから直々に授与され、ガチガチに固まっていた 「あの、ぼ…小官にですか?」 「勿論だ。貴官は部隊を指揮し、突出した部隊をアルビオンの反転攻勢から後退させつつ自ら殿を行い、本隊に合流後、着実に制圧任務をこなし、自部隊はおろか、装甲擲弾兵迄まとめ上げた。正にグラモンの誉、此処にありを身を以て示した。貴官に授与せず、誰に授与しろと言うのだね?」 にこにこしながらウィンプフェンに言われて、ギーシュは戸惑っている 「ですが、小官は越権行為を」 「さて?ハルデンベルグ候、報告では?」 話を振られたハルデンベルグ候が、カイゼル髭をこすりながら笑みを浮かべながら答えた 「我が方の報告では、司令官戦死の為、壊滅の危機に陥った部隊をギーシュ殿が救いの手を差し伸べた、と、書いてましたな。正にゲルマニア=トリステイン同盟の鑑と言って良いでしょう」 ギーシュとしては何ともむず痒い感覚だ。いざという時以外は、寧ろ劣等生の烙印が多かったので、手放しで称賛されるのに慣れてないのだ そのまま、戦果を大々的に宣告され、集まった兵達から盛大な拍手を貰い戸惑っていると、一人フライで飛んで来て抱き締められた。一番上の兄、ジョルジュだ 「に、兄さん?」「…良かった。ギーシュ、お前が最前線に配置されたのを聞いてから気が気でなかった」 後は無言で強烈に抱き締められ、苦しくなって来た「ちょ、兄さん苦し…」 そのままジョルジュの手が尻にいった途端ギーシュが爆発し、フロントスープレックスが炸裂する ダアン 暫く場が氷付き、周りに居た全員がぽかんとし、見事なブリッジからしゅたっと立ち上がると、何時もの勢いでジョルジュに言い放った 「…いい加減にしろ!馬鹿兄貴!」 肩で息をするギーシュを見て、一気に会場が爆笑に包まれ、全員が腹を抱えて笑い、大変だった一日の締めくくる幕になった * * * ゼッザールは自身の休暇中に起きた戦闘の痕を上空から見て、アンリエッタに王宮の謁見の間にて平伏していた 「陛下、この度の不手際、私の責任です」そう言って、自ら首を落とそうとしたのをアンリエッタの水に阻まれ、近寄ったアンリエッタが強烈な平手打ちをお見舞いする パァン ゼッザールは黙って受け入れた 「貴方は充分に戦ってます。人は誰しも一日中働けません。休暇を許可したのは私です。責が有るなら私に有ります。命を絶つのが責任なら、私が貴方の代わりに首を落とさなければなりません」 こう言われてしまっては、ゼッザールも引き下がるしかない 一礼して命を待つ アンリエッタはゼッザールの目前に立ったままだ 「この命、30年前からトリステインに捧げております。存分にお使い下さい」 「無論です。貴方は勝手に死ぬ事は許しません。それが、責任を取る唯一の方法です」 「御意」 頭を垂れたまま、ゼッザールは感極まって涙を流してしまう 「なんと、素晴らしい王に成られた」 ゼッザールはそう言って、踵を返して後処理に向かったのだ ゼッザールが中間報告を受け取ると、衛士隊、銃士隊の近衛4隊は甚大な被害を負っていた 才人の援軍による支援もあり、潜伏していたアルビオン鉄騎兵の撃退と退却並びに、捨てゴマとして扱われたオーク、トロルの混成大隊の壊滅には成功したのだが、民衆も近衛もボロボロになってしまった トリスタニア市民に1000人単位で死傷者を抱え、近衛4隊はマンティコア隊、グリフォン隊、ヒポグリフ隊総員で生存者が50人を切っており、銃士隊も100以上死亡し、オークに犯された女は、銃士隊に限らず、全員安楽死処置を取らされた 指揮官にも被害が出た 銃士隊副長ミシェルの戦死だ 戦場を回って経過を自身の目で確認していたジェラールは各地の対応をしていた際、ミシェルの亡骸の前に立ち呆然としていたのを、銃士隊の隊員に死亡時の状況を報告され、暫くそのままだった 「伏兵のアルビオン兵に襲われて……副長が皆の盾になって」 「……そうか」 ジェラールはそう言って、暫く無言だった 事後処理をゼッザールに引き継いだ後、ジェラールは三日程消えていたが、三日後にはいつも通りの調子で登城し、周囲は無断欠勤に付いては何も言わなかった ゼッザールの元に上げられた報告書には一言、休暇とのみ書かれており、事情を知った者が気を利かせた事だけは伺い知れた 魔法学院側の襲撃報告も第一分隊長アメリーから入っており、魔法学院への配置が効を奏し、魔法学院への被害は最小に抑えられたのだが、魔法学院教師にしてゼロ機関の副所長ジャン=コルベールの戦死が知らされ、ゼッザールは眉を潜める あの黒髪の男の下支えには、彼が必要不可欠だと知っていたからだ 「…これだから戦争ってのは」 必要な者程、実力の有る者程死んでいく そして残るのは、戦場に駆り立てる煽動者と、取るに足らない者ばかり 「お前は死なんよな?なぁ、息子よ……」 ゼッザールの呟きは、隊長の執務室に響いただけだった * * * 才人はアンリエッタの協力で零戦を起動させてアンリエッタを王宮上空に届けた後、アルビオンの戦地に戻ろうとしてはたと気付く 「しまった、航法無いと戻れねぇ。ルイズ起きる迄無理だ」 「どうすんでぇ?相棒?」 「さて……」 考えてた時間はそう長くなく、魔法通信機の指示で才人は零戦を上空で止めると、網を持った竜籠用の竜の運搬により、王宮に一泊する事になった ルイズが起きる迄は移動が出来ないので、才人としては指示に従うしかない 才人が王宮の竜舎前に着陸すると、アンリエッタが走って来て抱き付こうとし、周囲の事に気付いて急ブレーキをかけて立ち止まり、息を整えて言ったのだ 「ルイズ無しでは、常に位置の変化するアルビオン大陸に移動は無理でしょう?ルイズが回復する迄、こちらにお泊まり下さいまし」 走って来て頬が上気しているアンリエッタの様子は、好意によるものとの区別をつき難くしており、何も知らない周囲は、援軍に現れた英雄に対する歓待と受け取る 才人はルイズを後部座席から引き上げて、両腕に抱えてる状態で頷いた 「そうですね。こうなると下手すりゃ一晩起きないからね。明日移動した方が良さそうだ」 才人はそう言って、ルイズをアンリエッタ自らの案内で客間に寝かせると、急にがくりと膝を付く 「おい、相棒、どうした?」 デルフの声にも応じず才人はそのまま倒れてしまい、アンリエッタが慌てて診察し、診断の結果をデルフに話した 「過労ですね。ゆっくり寝かせてあげましょう」 「本当は寝かせる積もり無かった癖に」 デルフの突っ込みに対しアンリエッタは顔を真っ赤にして、デルフに顔を近付けた 「良いじゃないですか。私だって、いちゃいちゃしたいんです」 「おもれぇから止めねぇよ。頑張ってくんな」 そう言ってデルフはカタカタと笑い、鞘に収まった * * * アニエスは報告と後処理をアメリーに一任すると、人が減って使わなくなった銃士隊用馬車を一台用いて、一人とある浜辺に来ていた そこで自らの手で穴を掘り、棺を苦労しながら置き、更に土を被せ、墓碑を立てる 其所には、手作りの墓碑が並んでおり、アニエスは革手を外すと潮風で冷えて赤くなった手に息を吹き掛けた そして、新教徒たる自らの手で祈りを捧げ、懐から託されたルビーを取り出す 「…彼女の親族に必ず。いつか、再興させる。その時迄見ていてくれ」 アニエスは更に墓碑に銘をサーベルで刻んだ 我が教師 彼の遺志の一部を、アニエスは継いだのである 人の意思は受け継がれ、本人が居なくなろうとも、継ぐ意思が途切れなければ、社会は回るのだ * * * 桃色がかったブロンドの髪がベッドの上でゆらりと揺れ、腕がニュッと何かを探してぺたぺたとし、暫くしてからむくりと起き出した 「……サイトは……?」 キョロキョロと辺りを見回すと、何度か来た事が有るレイアウトであり、少女は自分が寝かされていた場所を把握する 「王宮の……客間?」そのまま寝ていた時に着させられたネグリジェのまま、とととっと、記憶のままに歩き出した 『すんごく、やな予感がする』 ルイズはそう思いながらアンリエッタの部屋に向かい、カチャリと鍵の抵抗を受けずに扉をそっと開いたのだ 魔法による暖房が利いた部屋の中、天蓋付のベッドの上で亜麻色の髪の女性が全裸で上体を起こしていて、腰を艶かしくくねらせ、その度に豊かな胸が艶かしく揺れ、その瞳は下に居る人に向いており、下からは手が差し伸べられ、その手を女性が精一杯の慈しみを込めて自らの頬に当て、満足そうにさすっている。どう見ても真っ最中だ 自らが慕う男性に求めるだけではなく、与える行為 欲する事しか表現出来ず、それすらプライドが邪魔して満足に出来なかったルイズには、とても眩しく、邪魔すら出来ずに見とれてしまったのだ 行為に没頭しているルイズの親友は、決してルイズに注意を向けることなく痙攣を始め、くたりと男性の上に倒れた そのまま、相手の唇を啄ばむ音が天蓋に響き、囁きが聞こえて来る 「サイト殿、ギリギリまでこうしてて下さいまし」「…ああ」 ルイズはそっと扉を閉めると、宛がわれた部屋に戻ってベッドに飛び込み枕を顔面に押し付けると「ひっく、ひっく、うえ、うえぇぇぇぇぇ…」静かに嗚咽を漏らし始めた 邪魔出来なかった、羨ましいと思ってしまった。なんで自分の使い魔は、自分の事を妹扱いしかしてくれないのだろう。自分はこんなにも、毎日彼の事しか考えていないのに、彼は自分以外のモノばかり見ている 「なんで…あだしじゃ駄目なのぉ?…ザイドのばかぁ」 タイミングが毎回悪いだけでは決してない。ルイズには、自分に何が足りないか理解出来ず、何故自分にだけは振り向いてくれないかさっぱり解らなかった 絶対に、何かある。でも、何が有るのかが、少女のルイズには想像もつかなかったのだ ルイズの使い魔は、ルイズの生きて来た常識の外に生きている。彼のやる事は結果が出るまで、ルイズには知る術がない 今はどんなに辛くても、彼と行動を共にし、彼の思考の一端を知り、自分の糧にしながら、未来への道を切り拓くだけである。自分の使い魔ではなく、彼に並び立つに相応しい、真の淑女を目指すのだ。アンリエッタより艶やかに、エレオノールより理知を持ち、カトレア以上の慈愛と美貌を誇り、キュルケより秘めた情熱を持ち、タバサより頼りになり、モンモランシーより懸命で、シエスタよりも意志が強い、そんな自分を目指して 『今は無理でも、絶対になって、振り向かせてやるんだからね。待ってなさい、馬鹿犬』 * * * 才人達は朝食をとると離陸し、行きとは違って慎重に白の国の浮遊する大地を目指しながら彷徨い、何とか到着するとロサイスの軍港に停泊していたヴィセンタールに着艦すると補給を受け、報告の要求と引き換えに待機を命じられ、手持無沙汰になってしまった 才人達が出立する迄に魔法学院の襲撃報告がアンリエッタに届いていなかった為、才人達はコルベールの戦死を知らない 「待機かよ。戦線はどうなってんだ?」「知らないわよ。私達じゃ、破壊力有り過ぎだって判断じゃないの?」 そう言って、ご主人様はご機嫌ナナメであり、才人は今朝方の情事を見られていた事に気付いていない 「それもそうか。市街戦だしな」才人はそう言うに留めたのみだ と、言う訳で、ミスゼロ用貴賓室に戻った二人だが、才人は身支度を整えるとそのまま、扉に歩き出したのだ 「どこに行くのよ?」「観光。ぶらりとして来る」 パタンと扉が閉じられ、ルイズは扉に向けて枕を思い切り投げつけたのである * * * 才人は以前に来た時は殆んど観光が出来なかった事を気にしていて、この際だからと百合の紋章がはためく占領地の中を一人、歩いて行く あちこちで前線に送る物資が山積みにされていて、補給路が確保された街道に向けて、馬車が何台も出発して行き、補給基地の機能を発揮し始めていた そんな才人の耳に話し声が入って来た 「おい、聞いたか?」「聞いた。例のレコンキスタの慰安所だろ?」「そうそれ、今度は俺達向けだってよ」「こりゃあ、行かねえとな」「何でも貴族がごろごろしてるってよ」「やりぃ!」 才人はその言葉につられ、とりあえず足を向ける事にした * * * 才人が向かった先は男達でごった返しており、才人は苦労しながら娼館の扉を抜けると支配人らしき貴族の男が才人に言ったのだ 「ロサイスの娼館にようこそ、お客様。金貨一枚よりご希望の娘を紹介致します」 才人は造りを見回して尋ねてみた 「元は軍の?」「左様でございます」「ふうん…」 才人はそう言うと、支配人に話しかけた 「以前は軍から配給が有ったけど、占領されて途絶えたからこちら向けに鞍替えか」「仰る通りで。彼女達も食べねばなりません」 才人の身のこなしや雰囲気から、買いに来たわけじゃなさそうだと判断した支配人 「冷やかしなら退店なさって下さりませんか?」「あぁごめん、あと一つだけ。彼女達の出自は?」 面倒臭そうに、彼は答え「元王党派です」その仕草には、平民に何が出来ると物語っており、彼女達を守る為に働く、誇り高い男の姿があった 「いや、邪魔したね」 才人はそう言うと、素直に退店して行き、そのまま総司令部に向かい面会を要求すると暫くしてから中に通され、ウィンプフェンに向かい、問い合わせたみた 「ロサイスの町の娼館。レコンキスタの持ち物だろ?なぜ潰さない?」 才人の言い分にウィンプフェンはどうでもいい事として答える 「兵に娼館は必要だ。誰もが貴卿の様に不自由しない訳ではない」 そう言うと書類に目を落とすウィンプフェン。才人もウィンプフェンの意見に賛同出来ない訳ではない。が、今回はちょっとばかり言いたい事が有ったので言う事にした 「彼女達は元王党派の貴族出身者が多数との事だ。なら、トリステインの味方だろう?何故保護しない?」「そんなの簡単だ。食わせる飯がない」 圧倒的な現実。この事実の前には、才人は苦笑するしかない 「貴族も大した事が無いんだな」 才人の言葉に、ウィンプフェンは大仰に演じてみせる 「貴族らしく、貴族の誇り、大いに結構!それで食い物が増えるのか?金貨が空から降って来るのか?無い袖は振れん。女王陛下に言いたければ言えば良い」 「いや…」そう言って才人は暫く考え込んでると、ウィンプフェンがとどめを刺して見せる 「あちらから言い出した事だ。占領後は、ここで営業させて下さいと…ね」 黙り込んでる才人に、更に言い放つ 「汚れすぎた彼女達を保護しても、以前の様にはなれん。結婚相手も現れん。娼婦として生きるか、修道院に引き籠って人生を終えるか、二つに一つだ」 そう言うとウィンプフェンは手を払い、用は済んだとばかりに才人に退出を促すが、暫し才人は反応しない 「…なら、ゼロ機関で雇うのは良いのか?」「好きにしろ。軍の外には、干渉せん」 「じゃあ、好きにするさ。構わんね?」「管轄外だ」「了解」 才人が出て行くと、ウィンプフェンは口元を歪ませ、次いで含み笑いを抑えきれず、笑い出したのだ 「…くくくく、あっはははははは!一人で全部救う積もりか?奇代の馬鹿か、始祖ブリミル以来の救世主か?お前はどっちなんだ?なあ、平民!」 * * * 才人は貴賓室に戻ると、こちらに持って来てた受注契約のリストをひっくり返し、素早く算盤で計算すると、書類を持って飛び出して行ってしまい、ルイズは声を掛ける暇すら見出せず、ぽかんとしたまま、見送ってしまったのだ 「一体、どうしたの?」ルイズには知る由もない 才人はそのまま、足早に娼館に寄ると支配人を見て即座に言い放ったのだ 「商談が有る。あんた達、杖は持ってるか?」「えぇ。私が預かってますが…」 メイジは杖と契約する。裏を返すと、契約以外の杖は使えない。つまり、契約させておき、預かった方が逃走や反逆阻止に有効なのだ。そして、いざという時には自衛戦力として勘定に入れられる。潰すのは、戦闘行為での逆転阻止の場合に限る訳だ その場で予備と契約されたら、潰す意味が消えるからである。ヴァリエール公みたいに2本の杖と契約出来るのは、例外に過ぎない で、才人は支配人と支配人室に滑り込むと、言い放った 「悪いけど、あんまり給料は出せないけど、メイジが必要な仕事が有る。ツェルプストーやグラモンに仕事を斡旋も出来る。平民、貴族に関わらずに彼女達を全員雇いたい。勿論あんたもだ。どうだい?」 流石に支配人は、鳩が豆鉄砲を食らった顔をしてしまう 「は…?貴方、商人ですか?」「商人じゃない、職人だ。それはともかくとして、返事は?」 そんな事を言われても、いきなりはいそうですかと答える奴は居ない 「そんな事言って、我々を他国に売り飛ばすつもりでしょう?」 ごく普通の反応だ。才人は説得を試みた 「そんな事無いって。俺はゼロ機関の所長をやってて…て、まだるっこしい。一緒に来てくれ!」そう言って才人は、支配人の手を無理やり引っ張って、総司令部に赴いた 総司令部で才人の身分証明を受けると、支配人は平民の男が本当の事しか言ってないと知ると、営業を閉めると女性達を全員集めて宣言をしたのだ 「今日から我々は、トリステイン女王陛下直属のゼロ機関に雇われる事になった。我々王党派に対する女王陛下のご慈悲に感謝し、その使者たるサイトー=ヒラーガに感謝する様に」 その言葉に、多くの女性が歓声を上げたが、皮肉を言う者も出た。当然だ。今迄、貴族から転落した彼女達に救いの手を差し伸べる者は、皆無だったからだ。貴族から転落したら最後、逆に嗜虐の対象になり続けて来たからだ。ちょっと前に、貴族の男が何人か引き取った位である 「つまりあれかい?今日から私達全員、この平民様の性奴隷になれって事だよね?ま、いいよ。今迄に比べれば遥かに楽だしね」 そう言って肯定する女性に対し、才人は表情を変えずに言ったのだ 「そんな事はしないで良い。勿論、このまま娼婦をやりたいってなら、それでも構わないし、修道院に引っこみたいなら案内もする。とにかく、こちらの仕事にメイジが欲しいんだ。勿論、平民の女性でも構わない。とにかく、人手不足なんだよ」 才人はそう言って、頭をがりがりし、他意は無い事を主張するが、何分平民の立場で、しかも装束もけったいな恰好である。彼女達が胡散臭げに見るのも当然だ 才人はすっかり困ってしまう。今迄が今迄だ。彼女達は、価値観が崩壊し、敵の玩具になることで生き延びて来ており、今更救いの手が来たこと自体、信じられないのだ 「くっそ、困ったな。こういう時は、貴族の名前が必要なのか」 支配人に目を向けると、彼も首を竦めており、助けになりそうに無い。女王の名前を出した所で、詐欺にしか見えないのは仕方が無い 「どうすっかな…」 才人はすっかり悩んでしまって居たのだが、馴染みの大声が飛び込んで来たのである 「こっっっっっっっの、馬鹿犬〜〜〜〜〜〜!!あああああんた、なななに盛りまくっっっっっているのよ〜〜〜〜〜!!」 「げっ、ルイズ」 才人が首を竦めて逃げ出す仕草をすると同時に、付近の女性がルイズに絡みだした 「あらやだ可愛いお嬢さんね、肌もぷりぷりしてて美味しそう」「ちょっと、やだ、離してよ!」 「声も可愛いわ。食べちゃいたい位ね」「や、やだ、ちょっと待って!」 「やぁね、ここはそういう、お・み・せ・よ!貴女みたいな可愛い子ちゃんは、大歓迎よ!」「ふぐ!?」 ルイズの唇がまたも才人以外に奪われ、才人は苦笑して見ているが、今回のルイズは違った。ルイズと舌を絡めてキスしていた女性が硬直し、腰をがくがくしながら落としてしまう 「…あん、すごいわ」「この位じゃ、あたしを籠絡出来ないわよ」 「ねぇ、もっとぉ」アニエスの薫陶此処に在り。ルイズはしな垂れかかった女性をぽいっと脇に投げ、仁王の如く才人ににじり寄り、気が付いたら鞭を手にぴしぴしと叩いている こんな所にも、乗馬鞭は持って来ていたらしい。用意周到な事である ルイズの前に道は開かれ、さながら海を割るモーゼだ つかつかと歩み寄ったルイズに、才人は既に腰が引けている。どう足掻いてもお仕置きされモードの才人には、ルイズには絶対に勝てないのだ 「…犬」「…ワン」「座れ」「ワン」 素直に従い正座する才人。年上の威厳なぞ、主人と使い魔の関係の前では、軽く吹き飛ぶ枯葉も同然。なぜこうなるのか、才人には全く理解出来ない ルイズの愛らしいおみ足が、才人の顔面にぺたりと乗り、スカートの中が才人には見えた 『はいてねぇ』 ルイズの顔が上気しているのは、怒りだけではないと才人だけ気付いたのだが、今はそんな時ではない。ご主人様のお怒りを鎮めなければならないのだ 「犬、あたしもね、男の生理にとやかく言うのは野暮だと、そのね、がが学習したのは、認めないではないわ」 「はい、この犬めは、ご主人様の成長、感激に涙が止まりません」 何故涙目になってるかと言うと、ルイズが才人にぴしぴしと乗馬鞭を軽く叩いてるからである。悲しいかな、何故か才人には回避が出来ないのだ。ルイズの無駄の無い美しい割れ目に注目しているからではない。使い魔とは、かくも悲しいナマモノである 「ああああんたに愛人が沢山居るのも、むむむむかつくけど、認めようと思ってたのよ」 才人は本気で驚いた。ルイズ自身も、変わろうともがいている事に、遅ればせながら気付いたのだ 「…でもね、いいえ、だからこそね。ああああたしの友達を悲しませるような事は、ぜぜぜ絶対にゆゆ許さないんだからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「ちょっと待てルイズ!誤解だ!」「うるさい!あんたなんかこれでも喰らって反省しなさぁぁぁい!」 ぴしぴしと乗馬鞭が才人に当たり、ルイズの方が涙を流している 「娼館なんかに通うほど、女に不自由してないでしょうがぁ!」 流石に気の毒と思ったのだろう。支配人がルイズを止めようとすると、ルイズがきっと睨みつける 「あたしに触れるな!そこの馬鹿犬があんたの素っ首落とすわよ」「…失礼、レディ」 才人の目が凄まじく剣呑な光を宿し、お仕置きの最中にも関わらず、腰の刀に手を添えるのに気付き、一歩下がった支配人が、才人の名誉の為に弁解を試みた 「そちらのミスターは、娼館に来たのでは有りません」「じゃあ、何よ?」 支配人の言葉に耳を傾けたルイズは、やっと自分の勘違いに気付き、才人を慌てて解放し、文句を言ってしまう「もう、何よ?そう言う事なら、あたしに一言言っても良いんじゃない?」 支配人の水魔法で回復した才人が、そんなルイズに文句を垂れてみた 「聞く耳持たなかったじゃねぇか」「う…」 ルイズは冷や汗を垂らしながらも、状況を聞く 「で、どうなの?」「上手くない。平民且つ異邦人の俺の言葉は、信用に値しないんだと」 ルイズは一つ頷くと、自分の言葉で彼女達に話し始めた 「私の名は、ルイズ=フランソワーズ=ル=ブラン=ド=ラ=ヴァリエール。ヴァリエール公爵が三女にして、トリステイン女王アンリエッタの代理人たる女官よ」 そう言って、アンリエッタ直筆サインの入った女官の任命書を見せ、周りがざわつき始める 「ヴァリエール?」「あのトリステインの大貴族?」「嘘?なんで女なのに従軍してるの?」 『こう言う時はやっぱり名前かよ』 才人は少々不機嫌になりながらも、ルイズに任せる。話がまとまるなら、別に自分の功績になるならないには興味が無いのだ 「この男は私の忠実な使い魔よ。で、貴女達に伝えたのは全部、陛下の女官たるヴァリエールが保証します。ですから、今まで辛い現実と向き合い、それでも戦ってきた貴女方王党派の皆さんをトリステインは歓迎します。救出が遅れて、申し訳ありません」 「陛下直属のゼロ機関では、人手が不足しています。皆様が望むのであれば、陛下の所長たるサイト=ヒラガが、狭いですが、住む場所と仕事を提供するでしょう。出来るだけ多くの方々の協力が得られると嬉しいですが、辛い現実が耐えられないのであれば、修道院にご案内します。不躾なお願いな事は重々承知の上ですが、協力して頂けると嬉しいです」 そう言って、ルイズは頭を下げたのだ 暫く黙っていた女性達だが、声を上げた者が出た 「結婚」「…え?」 ルイズに聞き返すと、女性はもう一度声を上げる 「私達皆、汚れちゃったしさ、子供を産まされてオークに食われちゃったりもしたよ。でもさ、やっぱり、結婚したいんだよね。高望みなんかしないからさ、結婚相手、探すの手伝ってくれないかな?…駄目?」 流石にこんな要求されるとは思わず、ルイズも意表をつかれ、思わず才人を見るが、才人も難しい顔をしている 「ウチの連中、確かに独身ばっかなんだが、仕事ばっかで女房に逃げられたのと、負傷退役した元軍人で、手足無い奴が多いんだが…」「それでも良い」「素性は隠さんぞ?」「後でばれるより、ずっと良いや」 さばさばした答えに才人も頷いた 「まぁ、上手くやれるかは本人次第。今、手紙をしたためるよ。支配人さん、後方に向かう便の手続きすっから、彼女達をモンモランシに送ってくれないか?」 才人の言葉に支配人も頷き、更に問うた 「で、貴方の呼び方は?」「職人連中は親方って、呼んでるよ」「では、親方様。早めのご帰還とご武運を」「あぁ」 話が纏まると、女性陣から歓声が上がり、まだ見ぬ男達の話題に花を咲かせ始めた 「トリステインの元軍人だって」「きっと、素敵な殿方達よ」「もう、私、子供産まされちゃったよ」「大丈夫だって。今迄は運が悪かったけど、後は上がるだけだって」「どんな人達なのかなぁ?娼館来てた連中みたいな男は嫌だなぁ」 才人とルイズは邪魔をしない様に去ろうとすると、才人に複数の手が伸びて絡め捕られる 「えっ?何?」「私達の、最後のお客様になって。お願い!」 「待ってくれ。そんな事したら、あいつ等に顔向け出来ないから!絶対やっちゃ駄目なんだって!逃げるぞ、ルイズ」「うん!」 そう言って、ガンダールヴを発動させた才人が、ルイズを抱えて遁走したのである ルイズは自身の使い魔の腕の中で気分が上機嫌に跳ね上がっていて、鼻歌も出ている 『やっぱり、サイトは最高の使い魔よね!姉さまやちい姉さまなんかに、はい上げるって、絶対にやらないんだからね!姫さまにも渡さないんだから!今日のサイト、あたしのアソコに釘付けだったんだから!あたしが一番綺麗なの!』 最早ご主人様の妄想では、あらゆるライバルを蹴落として、死屍累々の女達の中を高笑いしながらルイズが歩んでおり、全部を捨てて才人が自分を選んで幸せの絶頂になっていて、敵無しの状態だった。果たして、妄想は現実になるだろうか?始祖ブリミルと言えども、両手を上げて降参の意を示すに違いない * * *
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パンドラの箱 北進していたトリステイン=ゲルマニア連合軍は、相当の被害を出しつつ、サウスゴータ南側を占拠する事に成功し、市中央部でアルビオン軍と対峙する形で、本日の戦闘を終了する事になった だが、市壁を壊したままであり、逃げ道の確保はしている。それはそのまま、脱走の手助けになる為、壁には警邏が張り付く羽目になっている また、アルビオンが外壁を周回して襲撃に備える為でもあり、一般にはそう伝えてあるが、実際は軍が瓦解しない為の楔でしかない 敵は常に身内に在りって訳だ。集まった連中の大半は、戦争で一発当ててやるといった山師的な考えの者が多数であり、命あっての物種の為、情勢が悪くなるとすたこら逃げ出すのが常だ。表面上は「名誉の為に死んでやる!」と言ってるが、所詮そんなものである。だから常に命を張ることを掲げている貴族は、なんだかんだ言っても、尊敬の念を集める事が出来ると言った次第なのである その代表例が今、勲章を授けられていた。そう、ギーシュ=ド=グラモンだ ギーシュは、首に勲章を総司令たるウィンプフェンから直々に授与され、ガチガチに固まっていた 「あの、ぼ…小官にですか?」 「勿論だ。貴官は部隊を指揮し、突出した部隊をアルビオンの反転攻勢から後退させつつ自ら殿を行い、本隊に合流後、着実に制圧任務をこなし、自部隊はおろか、装甲擲弾兵迄まとめ上げた。正にグラモンの誉、此処にありを身を以て示した。貴官に授与せず、誰に授与しろと言うのだね?」 にこにこしながらウィンプフェンに言われて、ギーシュは戸惑っている 「ですが、小官は越権行為を」 「さて?ハルデンベルグ候、報告では?」 話を振られたハルデンベルグ候が、カイゼル髭をこすりながら笑みを浮かべながら答えた 「我が方の報告では、司令官戦死の為、壊滅の危機に陥った部隊をギーシュ殿が救いの手を差し伸べた、と、書いてましたな。正にゲルマニア=トリステイン同盟の鑑と言って良いでしょう」 ギーシュとしては何ともむず痒い感覚だ。いざという時以外は、寧ろ劣等生の烙印が多かったので、手放しで称賛されるのに慣れてないのだ そのまま、戦果を大々的に宣告され、集まった兵達から盛大な拍手を貰い戸惑っていると、一人フライで飛んで来て抱き締められた。一番上の兄、ジョルジュだ 「に、兄さん?」「…良かった。ギーシュ、お前が最前線に配置されたのを聞いてから気が気でなかった」 後は無言で強烈に抱き締められ、苦しくなって来た「ちょ、兄さん苦し…」 そのままジョルジュの手が尻にいった途端ギーシュが爆発し、フロントスープレックスが炸裂する ダアン 暫く場が氷付き、周りに居た全員がぽかんとし、見事なブリッジからしゅたっと立ち上がると、何時もの勢いでジョルジュに言い放った 「…いい加減にしろ!馬鹿兄貴!」 肩で息をするギーシュを見て、一気に会場が爆笑に包まれ、全員が腹を抱えて笑い、大変だった一日の締めくくる幕になった * * * ゼッザールは自身の休暇中に起きた戦闘の痕を上空から見て、アンリエッタに王宮の謁見の間にて平伏していた 「陛下、この度の不手際、私の責任です」そう言って、自ら首を落とそうとしたのをアンリエッタの水に阻まれ、近寄ったアンリエッタが強烈な平手打ちをお見舞いする パァン ゼッザールは黙って受け入れた 「貴方は充分に戦ってます。人は誰しも一日中働けません。休暇を許可したのは私です。責が有るなら私に有ります。命を絶つのが責任なら、私が貴方の代わりに首を落とさなければなりません」 こう言われてしまっては、ゼッザールも引き下がるしかない 一礼して命を待つ アンリエッタはゼッザールの目前に立ったままだ 「この命、30年前からトリステインに捧げております。存分にお使い下さい」 「無論です。貴方は勝手に死ぬ事は許しません。それが、責任を取る唯一の方法です」 「御意」 頭を垂れたまま、ゼッザールは感極まって涙を流してしまう 「なんと、素晴らしい王に成られた」 ゼッザールはそう言って、踵を返して後処理に向かったのだ ゼッザールが中間報告を受け取ると、衛士隊、銃士隊の近衛4隊は甚大な被害を負っていた 才人の援軍による支援もあり、潜伏していたアルビオン鉄騎兵の撃退と退却並びに、捨てゴマとして扱われたオーク、トロルの混成大隊の壊滅には成功したのだが、民衆も近衛もボロボロになってしまった トリスタニア市民に1000人単位で死傷者を抱え、近衛4隊はマンティコア隊、グリフォン隊、ヒポグリフ隊総員で生存者が50人を切っており、銃士隊も100以上死亡し、オークに犯された女は、銃士隊に限らず、全員安楽死処置を取らされた 指揮官にも被害が出た 銃士隊副長ミシェルの戦死だ 戦場を回って経過を自身の目で確認していたジェラールは各地の対応をしていた際、ミシェルの亡骸の前に立ち呆然としていたのを、銃士隊の隊員に死亡時の状況を報告され、暫くそのままだった 「伏兵のアルビオン兵に襲われて……副長が皆の盾になって」 「……そうか」 ジェラールはそう言って、暫く無言だった 事後処理をゼッザールに引き継いだ後、ジェラールは三日程消えていたが、三日後にはいつも通りの調子で登城し、周囲は無断欠勤に付いては何も言わなかった ゼッザールの元に上げられた報告書には一言、休暇とのみ書かれており、事情を知った者が気を利かせた事だけは伺い知れた 魔法学院側の襲撃報告も第一分隊長アメリーから入っており、魔法学院への配置が効を奏し、魔法学院への被害は最小に抑えられたのだが、魔法学院教師にしてゼロ機関の副所長ジャン=コルベールの戦死が知らされ、ゼッザールは眉を潜める あの黒髪の男の下支えには、彼が必要不可欠だと知っていたからだ 「…これだから戦争ってのは」 必要な者程、実力の有る者程死んでいく そして残るのは、戦場に駆り立てる煽動者と、取るに足らない者ばかり 「お前は死なんよな?なぁ、息子よ……」 ゼッザールの呟きは、隊長の執務室に響いただけだった * * * 才人はアンリエッタの協力で零戦を起動させてアンリエッタを王宮上空に届けた後、アルビオンの戦地に戻ろうとしてはたと気付く 「しまった、航法無いと戻れねぇ。ルイズ起きる迄無理だ」 「どうすんでぇ?相棒?」 「さて……」 考えてた時間はそう長くなく、魔法通信機の指示で才人は零戦を上空で止めると、網を持った竜籠用の竜の運搬により、王宮に一泊する事になった ルイズが起きる迄は移動が出来ないので、才人としては指示に従うしかない 才人が王宮の竜舎前に着陸すると、アンリエッタが走って来て抱き付こうとし、周囲の事に気付いて急ブレーキをかけて立ち止まり、息を整えて言ったのだ 「ルイズ無しでは、常に位置の変化するアルビオン大陸に移動は無理でしょう?ルイズが回復する迄、こちらにお泊まり下さいまし」 走って来て頬が上気しているアンリエッタの様子は、好意によるものとの区別をつき難くしており、何も知らない周囲は、援軍に現れた英雄に対する歓待と受け取る 才人はルイズを後部座席から引き上げて、両腕に抱えてる状態で頷いた 「そうですね。こうなると下手すりゃ一晩起きないからね。明日移動した方が良さそうだ」 才人はそう言って、ルイズをアンリエッタ自らの案内で客間に寝かせると、急にがくりと膝を付く 「おい、相棒、どうした?」 デルフの声にも応じず才人はそのまま倒れてしまい、アンリエッタが慌てて診察し、診断の結果をデルフに話した 「過労ですね。ゆっくり寝かせてあげましょう」 「本当は寝かせる積もり無かった癖に」 デルフの突っ込みに対しアンリエッタは顔を真っ赤にして、デルフに顔を近付けた 「良いじゃないですか。私だって、いちゃいちゃしたいんです」 「おもれぇから止めねぇよ。頑張ってくんな」 そう言ってデルフはカタカタと笑い、鞘に収まった * * * アニエスは報告と後処理をアメリーに一任すると、人が減って使わなくなった銃士隊用馬車を一台用いて、一人とある浜辺に来ていた そこで自らの手で穴を掘り、棺を苦労しながら置き、更に土を被せ、墓碑を立てる 其所には、手作りの墓碑が並んでおり、アニエスは革手を外すと潮風で冷えて赤くなった手に息を吹き掛けた そして、新教徒たる自らの手で祈りを捧げ、懐から託されたルビーを取り出す 「…彼女の親族に必ず。いつか、再興させる。その時迄見ていてくれ」 アニエスは更に墓碑に銘をサーベルで刻んだ 我が教師 彼の遺志の一部を、アニエスは継いだのである 人の意思は受け継がれ、本人が居なくなろうとも、継ぐ意思が途切れなければ、社会は回るのだ * * * 桃色がかったブロンドの髪がベッドの上でゆらりと揺れ、腕がニュッと何かを探してぺたぺたとし、暫くしてからむくりと起き出した 「……サイトは……?」 キョロキョロと辺りを見回すと、何度か来た事が有るレイアウトであり、少女は自分が寝かされていた場所を把握する 「王宮の……客間?」そのまま寝ていた時に着させられたネグリジェのまま、とととっと、記憶のままに歩き出した 『すんごく、やな予感がする』 ルイズはそう思いながらアンリエッタの部屋に向かい、カチャリと鍵の抵抗を受けずに扉をそっと開いたのだ 魔法による暖房が利いた部屋の中、天蓋付のベッドの上で亜麻色の髪の女性が全裸で上体を起こしていて、腰を艶かしくくねらせ、その度に豊かな胸が艶かしく揺れ、その瞳は下に居る人に向いており、下からは手が差し伸べられ、その手を女性が精一杯の慈しみを込めて自らの頬に当て、満足そうにさすっている。どう見ても真っ最中だ 自らが慕う男性に求めるだけではなく、与える行為 欲する事しか表現出来ず、それすらプライドが邪魔して満足に出来なかったルイズには、とても眩しく、邪魔すら出来ずに見とれてしまったのだ 行為に没頭しているルイズの親友は、決してルイズに注意を向けることなく痙攣を始め、くたりと男性の上に倒れた そのまま、相手の唇を啄ばむ音が天蓋に響き、囁きが聞こえて来る 「サイト殿、ギリギリまでこうしてて下さいまし」「…ああ」 ルイズはそっと扉を閉めると、宛がわれた部屋に戻ってベッドに飛び込み枕を顔面に押し付けると「ひっく、ひっく、うえ、うえぇぇぇぇぇ…」静かに嗚咽を漏らし始めた 邪魔出来なかった、羨ましいと思ってしまった。なんで自分の使い魔は、自分の事を妹扱いしかしてくれないのだろう。自分はこんなにも、毎日彼の事しか考えていないのに、彼は自分以外のモノばかり見ている 「なんで…あだしじゃ駄目なのぉ?…ザイドのばかぁ」 タイミングが毎回悪いだけでは決してない。ルイズには、自分に何が足りないか理解出来ず、何故自分にだけは振り向いてくれないかさっぱり解らなかった 絶対に、何かある。でも、何が有るのかが、少女のルイズには想像もつかなかったのだ ルイズの使い魔は、ルイズの生きて来た常識の外に生きている。彼のやる事は結果が出るまで、ルイズには知る術がない 今はどんなに辛くても、彼と行動を共にし、彼の思考の一端を知り、自分の糧にしながら、未来への道を切り拓くだけである。自分の使い魔ではなく、彼に並び立つに相応しい、真の淑女を目指すのだ。アンリエッタより艶やかに、エレオノールより理知を持ち、カトレア以上の慈愛と美貌を誇り、キュルケより秘めた情熱を持ち、タバサより頼りになり、モンモランシーより懸命で、シエスタよりも意志が強い、そんな自分を目指して 『今は無理でも、絶対になって、振り向かせてやるんだからね。待ってなさい、馬鹿犬』 * * * 才人達は朝食をとると離陸し、行きとは違って慎重に白の国の浮遊する大地を目指しながら彷徨い、何とか到着するとロサイスの軍港に停泊していたヴィセンタールに着艦すると補給を受け、報告の要求と引き換えに待機を命じられ、手持無沙汰になってしまった 才人達が出立する迄に魔法学院の襲撃報告がアンリエッタに届いていなかった為、才人達はコルベールの戦死を知らない 「待機かよ。戦線はどうなってんだ?」「知らないわよ。私達じゃ、破壊力有り過ぎだって判断じゃないの?」 そう言って、ご主人様はご機嫌ナナメであり、才人は今朝方の情事を見られていた事に気付いていない 「それもそうか。市街戦だしな」才人はそう言うに留めたのみだ と、言う訳で、ミスゼロ用貴賓室に戻った二人だが、才人は身支度を整えるとそのまま、扉に歩き出したのだ 「どこに行くのよ?」「観光。ぶらりとして来る」 パタンと扉が閉じられ、ルイズは扉に向けて枕を思い切り投げつけたのである * * * 才人は以前に来た時は殆んど観光が出来なかった事を気にしていて、この際だからと百合の紋章がはためく占領地の中を一人、歩いて行く あちこちで前線に送る物資が山積みにされていて、補給路が確保された街道に向けて、馬車が何台も出発して行き、補給基地の機能を発揮し始めていた そんな才人の耳に話し声が入って来た 「おい、聞いたか?」「聞いた。例のレコンキスタの慰安所だろ?」「そうそれ、今度は俺達向けだってよ」「こりゃあ、行かねえとな」「何でも貴族がごろごろしてるってよ」「やりぃ!」 才人はその言葉につられ、とりあえず足を向ける事にした * * * 才人が向かった先は男達でごった返しており、才人は苦労しながら娼館の扉を抜けると支配人らしき貴族の男が才人に言ったのだ 「ロサイスの娼館にようこそ、お客様。金貨一枚よりご希望の娘を紹介致します」 才人は造りを見回して尋ねてみた 「元は軍の?」「左様でございます」「ふうん…」 才人はそう言うと、支配人に話しかけた 「以前は軍から配給が有ったけど、占領されて途絶えたからこちら向けに鞍替えか」「仰る通りで。彼女達も食べねばなりません」 才人の身のこなしや雰囲気から、買いに来たわけじゃなさそうだと判断した支配人 「冷やかしなら退店なさって下さりませんか?」「あぁごめん、あと一つだけ。彼女達の出自は?」 面倒臭そうに、彼は答え「元王党派です」その仕草には、平民に何が出来ると物語っており、彼女達を守る為に働く、誇り高い男の姿があった 「いや、邪魔したね」 才人はそう言うと、素直に退店して行き、そのまま総司令部に向かい面会を要求すると暫くしてから中に通され、ウィンプフェンに向かい、問い合わせたみた 「ロサイスの町の娼館。レコンキスタの持ち物だろ?なぜ潰さない?」 才人の言い分にウィンプフェンはどうでもいい事として答える 「兵に娼館は必要だ。誰もが貴卿の様に不自由しない訳ではない」 そう言うと書類に目を落とすウィンプフェン。才人もウィンプフェンの意見に賛同出来ない訳ではない。が、今回はちょっとばかり言いたい事が有ったので言う事にした 「彼女達は元王党派の貴族出身者が多数との事だ。なら、トリステインの味方だろう?何故保護しない?」「そんなの簡単だ。食わせる飯がない」 圧倒的な現実。この事実の前には、才人は苦笑するしかない 「貴族も大した事が無いんだな」 才人の言葉に、ウィンプフェンは大仰に演じてみせる 「貴族らしく、貴族の誇り、大いに結構!それで食い物が増えるのか?金貨が空から降って来るのか?無い袖は振れん。女王陛下に言いたければ言えば良い」 「いや…」そう言って才人は暫く考え込んでると、ウィンプフェンがとどめを刺して見せる 「あちらから言い出した事だ。占領後は、ここで営業させて下さいと…ね」 黙り込んでる才人に、更に言い放つ 「汚れすぎた彼女達を保護しても、以前の様にはなれん。結婚相手も現れん。娼婦として生きるか、修道院に引き籠って人生を終えるか、二つに一つだ」 そう言うとウィンプフェンは手を払い、用は済んだとばかりに才人に退出を促すが、暫し才人は反応しない 「…なら、ゼロ機関で雇うのは良いのか?」「好きにしろ。軍の外には、干渉せん」 「じゃあ、好きにするさ。構わんね?」「管轄外だ」「了解」 才人が出て行くと、ウィンプフェンは口元を歪ませ、次いで含み笑いを抑えきれず、笑い出したのだ 「…くくくく、あっはははははは!一人で全部救う積もりか?奇代の馬鹿か、始祖ブリミル以来の救世主か?お前はどっちなんだ?なあ、平民!」 * * * 才人は貴賓室に戻ると、こちらに持って来てた受注契約のリストをひっくり返し、素早く算盤で計算すると、書類を持って飛び出して行ってしまい、ルイズは声を掛ける暇すら見出せず、ぽかんとしたまま、見送ってしまったのだ 「一体、どうしたの?」ルイズには知る由もない 才人はそのまま、足早に娼館に寄ると支配人を見て即座に言い放ったのだ 「商談が有る。あんた達、杖は持ってるか?」「えぇ。私が預かってますが…」 メイジは杖と契約する。裏を返すと、契約以外の杖は使えない。つまり、契約させておき、預かった方が逃走や反逆阻止に有効なのだ。そして、いざという時には自衛戦力として勘定に入れられる。潰すのは、戦闘行為での逆転阻止の場合に限る訳だ その場で予備と契約されたら、潰す意味が消えるからである。ヴァリエール公みたいに2本の杖と契約出来るのは、例外に過ぎない で、才人は支配人と支配人室に滑り込むと、言い放った 「悪いけど、あんまり給料は出せないけど、メイジが必要な仕事が有る。ツェルプストーやグラモンに仕事を斡旋も出来る。平民、貴族に関わらずに彼女達を全員雇いたい。勿論あんたもだ。どうだい?」 流石に支配人は、鳩が豆鉄砲を食らった顔をしてしまう 「は…?貴方、商人ですか?」「商人じゃない、職人だ。それはともかくとして、返事は?」 そんな事を言われても、いきなりはいそうですかと答える奴は居ない 「そんな事言って、我々を他国に売り飛ばすつもりでしょう?」 ごく普通の反応だ。才人は説得を試みた 「そんな事無いって。俺はゼロ機関の所長をやってて…て、まだるっこしい。一緒に来てくれ!」そう言って才人は、支配人の手を無理やり引っ張って、総司令部に赴いた 総司令部で才人の身分証明を受けると、支配人は平民の男が本当の事しか言ってないと知ると、営業を閉めると女性達を全員集めて宣言をしたのだ 「今日から我々は、トリステイン女王陛下直属のゼロ機関に雇われる事になった。我々王党派に対する女王陛下のご慈悲に感謝し、その使者たるサイトー=ヒラーガに感謝する様に」 その言葉に、多くの女性が歓声を上げたが、皮肉を言う者も出た。当然だ。今迄、貴族から転落した彼女達に救いの手を差し伸べる者は、皆無だったからだ。貴族から転落したら最後、逆に嗜虐の対象になり続けて来たからだ。ちょっと前に、貴族の男が何人か引き取った位である 「つまりあれかい?今日から私達全員、この平民様の性奴隷になれって事だよね?ま、いいよ。今迄に比べれば遥かに楽だしね」 そう言って肯定する女性に対し、才人は表情を変えずに言ったのだ 「そんな事はしないで良い。勿論、このまま娼婦をやりたいってなら、それでも構わないし、修道院に引っこみたいなら案内もする。とにかく、こちらの仕事にメイジが欲しいんだ。勿論、平民の女性でも構わない。とにかく、人手不足なんだよ」 才人はそう言って、頭をがりがりし、他意は無い事を主張するが、何分平民の立場で、しかも装束もけったいな恰好である。彼女達が胡散臭げに見るのも当然だ 才人はすっかり困ってしまう。今迄が今迄だ。彼女達は、価値観が崩壊し、敵の玩具になることで生き延びて来ており、今更救いの手が来たこと自体、信じられないのだ 「くっそ、困ったな。こういう時は、貴族の名前が必要なのか」 支配人に目を向けると、彼も首を竦めており、助けになりそうに無い。女王の名前を出した所で、詐欺にしか見えないのは仕方が無い 「どうすっかな…」 才人はすっかり悩んでしまって居たのだが、馴染みの大声が飛び込んで来たのである 「こっっっっっっっの、馬鹿犬〜〜〜〜〜〜!!あああああんた、なななに盛りまくっっっっっているのよ〜〜〜〜〜!!」 「げっ、ルイズ」 才人が首を竦めて逃げ出す仕草をすると同時に、付近の女性がルイズに絡みだした 「あらやだ可愛いお嬢さんね、肌もぷりぷりしてて美味しそう」「ちょっと、やだ、離してよ!」 「声も可愛いわ。食べちゃいたい位ね」「や、やだ、ちょっと待って!」 「やぁね、ここはそういう、お・み・せ・よ!貴女みたいな可愛い子ちゃんは、大歓迎よ!」「ふぐ!?」 ルイズの唇がまたも才人以外に奪われ、才人は苦笑して見ているが、今回のルイズは違った。ルイズと舌を絡めてキスしていた女性が硬直し、腰をがくがくしながら落としてしまう 「…あん、すごいわ」「この位じゃ、あたしを籠絡出来ないわよ」 「ねぇ、もっとぉ」アニエスの薫陶此処に在り。ルイズはしな垂れかかった女性をぽいっと脇に投げ、仁王の如く才人ににじり寄り、気が付いたら鞭を手にぴしぴしと叩いている こんな所にも、乗馬鞭は持って来ていたらしい。用意周到な事である ルイズの前に道は開かれ、さながら海を割るモーゼだ つかつかと歩み寄ったルイズに、才人は既に腰が引けている。どう足掻いてもお仕置きされモードの才人には、ルイズには絶対に勝てないのだ 「…犬」「…ワン」「座れ」「ワン」 素直に従い正座する才人。年上の威厳なぞ、主人と使い魔の関係の前では、軽く吹き飛ぶ枯葉も同然。なぜこうなるのか、才人には全く理解出来ない ルイズの愛らしいおみ足が、才人の顔面にぺたりと乗り、スカートの中が才人には見えた 『はいてねぇ』 ルイズの顔が上気しているのは、怒りだけではないと才人だけ気付いたのだが、今はそんな時ではない。ご主人様のお怒りを鎮めなければならないのだ 「犬、あたしもね、男の生理にとやかく言うのは野暮だと、そのね、がが学習したのは、認めないではないわ」 「はい、この犬めは、ご主人様の成長、感激に涙が止まりません」 何故涙目になってるかと言うと、ルイズが才人にぴしぴしと乗馬鞭を軽く叩いてるからである。悲しいかな、何故か才人には回避が出来ないのだ。ルイズの無駄の無い美しい割れ目に注目しているからではない。使い魔とは、かくも悲しいナマモノである 「ああああんたに愛人が沢山居るのも、むむむむかつくけど、認めようと思ってたのよ」 才人は本気で驚いた。ルイズ自身も、変わろうともがいている事に、遅ればせながら気付いたのだ 「…でもね、いいえ、だからこそね。ああああたしの友達を悲しませるような事は、ぜぜぜ絶対にゆゆ許さないんだからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「ちょっと待てルイズ!誤解だ!」「うるさい!あんたなんかこれでも喰らって反省しなさぁぁぁい!」 ぴしぴしと乗馬鞭が才人に当たり、ルイズの方が涙を流している 「娼館なんかに通うほど、女に不自由してないでしょうがぁ!」 流石に気の毒と思ったのだろう。支配人がルイズを止めようとすると、ルイズがきっと睨みつける 「あたしに触れるな!そこの馬鹿犬があんたの素っ首落とすわよ」「…失礼、レディ」 才人の目が凄まじく剣呑な光を宿し、お仕置きの最中にも関わらず、腰の刀に手を添えるのに気付き、一歩下がった支配人が、才人の名誉の為に弁解を試みた 「そちらのミスターは、娼館に来たのでは有りません」「じゃあ、何よ?」 支配人の言葉に耳を傾けたルイズは、やっと自分の勘違いに気付き、才人を慌てて解放し、文句を言ってしまう「もう、何よ?そう言う事なら、あたしに一言言っても良いんじゃない?」 支配人の水魔法で回復した才人が、そんなルイズに文句を垂れてみた 「聞く耳持たなかったじゃねぇか」「う…」 ルイズは冷や汗を垂らしながらも、状況を聞く 「で、どうなの?」「上手くない。平民且つ異邦人の俺の言葉は、信用に値しないんだと」 ルイズは一つ頷くと、自分の言葉で彼女達に話し始めた 「私の名は、ルイズ=フランソワーズ=ル=ブラン=ド=ラ=ヴァリエール。ヴァリエール公爵が三女にして、トリステイン女王アンリエッタの代理人たる女官よ」 そう言って、アンリエッタ直筆サインの入った女官の任命書を見せ、周りがざわつき始める 「ヴァリエール?」「あのトリステインの大貴族?」「嘘?なんで女なのに従軍してるの?」 『こう言う時はやっぱり名前かよ』 才人は少々不機嫌になりながらも、ルイズに任せる。話がまとまるなら、別に自分の功績になるならないには興味が無いのだ 「この男は私の忠実な使い魔よ。で、貴女達に伝えたのは全部、陛下の女官たるヴァリエールが保証します。ですから、今まで辛い現実と向き合い、それでも戦ってきた貴女方王党派の皆さんをトリステインは歓迎します。救出が遅れて、申し訳ありません」 「陛下直属のゼロ機関では、人手が不足しています。皆様が望むのであれば、陛下の所長たるサイト=ヒラガが、狭いですが、住む場所と仕事を提供するでしょう。出来るだけ多くの方々の協力が得られると嬉しいですが、辛い現実が耐えられないのであれば、修道院にご案内します。不躾なお願いな事は重々承知の上ですが、協力して頂けると嬉しいです」 そう言って、ルイズは頭を下げたのだ 暫く黙っていた女性達だが、声を上げた者が出た 「結婚」「…え?」 ルイズに聞き返すと、女性はもう一度声を上げる 「私達皆、汚れちゃったしさ、子供を産まされてオークに食われちゃったりもしたよ。でもさ、やっぱり、結婚したいんだよね。高望みなんかしないからさ、結婚相手、探すの手伝ってくれないかな?…駄目?」 流石にこんな要求されるとは思わず、ルイズも意表をつかれ、思わず才人を見るが、才人も難しい顔をしている 「ウチの連中、確かに独身ばっかなんだが、仕事ばっかで女房に逃げられたのと、負傷退役した元軍人で、手足無い奴が多いんだが…」「それでも良い」「素性は隠さんぞ?」「後でばれるより、ずっと良いや」 さばさばした答えに才人も頷いた 「まぁ、上手くやれるかは本人次第。今、手紙をしたためるよ。支配人さん、後方に向かう便の手続きすっから、彼女達をモンモランシに送ってくれないか?」 才人の言葉に支配人も頷き、更に問うた 「で、貴方の呼び方は?」「職人連中は親方って、呼んでるよ」「では、親方様。早めのご帰還とご武運を」「あぁ」 話が纏まると、女性陣から歓声が上がり、まだ見ぬ男達の話題に花を咲かせ始めた 「トリステインの元軍人だって」「きっと、素敵な殿方達よ」「もう、私、子供産まされちゃったよ」「大丈夫だって。今迄は運が悪かったけど、後は上がるだけだって」「どんな人達なのかなぁ?娼館来てた連中みたいな男は嫌だなぁ」 才人とルイズは邪魔をしない様に去ろうとすると、才人に複数の手が伸びて絡め捕られる 「えっ?何?」「私達の、最後のお客様になって。お願い!」 「待ってくれ。そんな事したら、あいつ等に顔向け出来ないから!絶対やっちゃ駄目なんだって!逃げるぞ、ルイズ」「うん!」 そう言って、ガンダールヴを発動させた才人が、ルイズを抱えて遁走したのである ルイズは自身の使い魔の腕の中で気分が上機嫌に跳ね上がっていて、鼻歌も出ている 『やっぱり、サイトは最高の使い魔よね!姉さまやちい姉さまなんかに、はい上げるって、絶対にやらないんだからね!姫さまにも渡さないんだから!今日のサイト、あたしのアソコに釘付けだったんだから!あたしが一番綺麗なの!』 最早ご主人様の妄想では、あらゆるライバルを蹴落として、死屍累々の女達の中を高笑いしながらルイズが歩んでおり、全部を捨てて才人が自分を選んで幸せの絶頂になっていて、敵無しの状態だった。果たして、妄想は現実になるだろうか?始祖ブリミルと言えども、両手を上げて降参の意を示すに違いない * * *
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