ゼロの使い魔保管庫
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284 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:24...
あらシエスタ、どうしたのそんなに慌てて。
違うわよ、後少しで面倒な仕事が全部片付きそうだから、ち...
勝手にどこかに行っちゃうなんて、サイトじゃないんだから。
大丈夫よ、もう少し頑張って終わらせたら、ちゃんと休ませ...
あらいい香り。そうね、せっかくだからいただこうかしら。
うん、今日も変わらずいい腕だわ。悔しいけど、紅茶に関し...
ああ、これ? これはね、サイトからの手紙よ。きっと今頃...
全く、妻と領地をほったらかして冒険の旅なんて、いつまで...
ご心配なさらずに。少しも怒ってなんかいないわ。むしろ安...
サイトが冒険なんかに現を抜かしていられるぐらい、世界が...
早いものね。わたしたちが東から帰ってきてもう一年も経つ...
え? それはもちろん覚えてるわよ。わたしの人生で一番幸...
忘れる訳ないでしょう、結婚式のことなんて。急にそんなこ...
でも、何故かしら。あまり詳しくは思い出せないのよね。
浮かんでくるのは学院での生活や大変だった戦争中のことば...
そうね、あの頃があんまり大変すぎたから、今こうして皆で...
ところでシエスタ、サイトが旅立ってから今どのぐらい経つ...
ああそうね、まだ半年だったわね。おかしいわね、忘れるな...
ま、何にしても、この分だとあとニ、三年はサイトの顔見な...
ふふ、ご名答。ホントはちょっと寂しいんだけどね。寂しが...
それに、サイトのためにちゃんと犬小屋を残しておいてあげ...
どうしたの急に欠伸なんかして。わたしの眠気が移っちゃっ...
ごちそうさま。今日もおいしかったわ。さ、仕事頑張らなく...
サイトが帰るまでは、わたしがこのデルフリンガー男爵領を...
286 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:25...
あらあら、神聖ゲルマニア帝国の女皇帝様が遠路はるばるお...
なんてね。堅苦しいのはなしにしましょうよ、久しぶりに会...
ええわたしは元気よ。あんたこそ老けたんじゃないの、帝国...
ふふ、そうそう、やっぱりキュルケはそうでなくちゃ。
ちょっとね、心配だったのよ。なんか妙に暗い顔してたから。
なんですって。あのねえ、サイトが今何やってるのかって、...
なに変な顔してるのよ。手紙で聞いてるわよ、ようやく地方...
皇帝のくせに自分の国のこと忘れるなんて、やっぱ疲れてん...
でも、なんだか懐かしいわねえ。学院にいた頃は、しょっち...
そうね、あの頃が一番楽しかったわ。今思うとほんの些細な...
失礼ね、そういうことには真剣だったわよ。少なくとも、あ...
そうそう、コルベール先生は元気? サイトの手紙によると...
え、それ本当? そんな薬本当に作っちゃったんだ。
あ、でもあんたにとっては微妙なんじゃないの。知性の輝き...
はいはい、ごちそうさま。全く、普通結婚して五年もすれば...
お生憎様、わたしたちは何の問題もなく夫婦やってるわよ。
って言っても、サイトが留守がちなせいで結婚してからほと...
おかげで、今じゃ領民だってわたしのこと「男爵様」なんて...
しかも、からかったり冗談で言ってるんじゃないの。ごく普...
わたしは男爵夫人であって男爵本人じゃないのにねえ。
信じられる? 前に冒険の旅から帰ってきてから、この領地...
ええそう、ちょうどそのとき狙いすましたかのようにあんた...
サイトは他国の戦争に巻き込まれることになったのよ。
おかげさまで、折角会えた三日間の記憶だってほとんどない...
今だって、思い浮かぶのはあの頃のサイトの顔ばっかりだも...
ええそう、学院にいた頃の、よ。わたしもいい大人になった...
なによ急に。ええもちろん愛してるわよ。会えないのなんか...
大体、あいつったら三日に一度は手紙寄越すんだもの。しか...
その上ね、なんか妙に字が綺麗なのよ。まるで女の子が書い...
そうね、サイトにとっては外国語だもの。意識して丁寧に書...
ま、そんな訳で、わたしは少しも寂しくないわ。それに、シ...
なによ急に、気持ち悪い。言っとくけどね、あんたよりもず...
そうよ。お婆ちゃんになる前に隠居して、サイトと一緒にの...
まあ、今の状況から考えるとなかなか難しそうだけどね。
あらもう帰るの。皇帝陛下ともなると忙しいわね、友達とも...
ええそうね、わたしたちはいつまでも友達よ。ま、腐れ縁っ...
冗談冗談。ありがとう、キュルケ。サイトにも早く帰ってき...
変なキュルケ、返事もしないで出ていっちゃった。
どうしてあんなに急いでいたのかしらね、シエスタ?
287 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:26...
やだ、こうして会うのって何年振りかしら。
もちろん覚えてるわよ、変なこと言うのねタバサったら。あ...
気を悪くしないでね。何だか学院にいた頃のことばっかり思...
ええそう、わたしったらこんなに感傷的だったかしらって思...
サイトのこと考えると、どうしても最近の思い出よりも昔の...
長い間会ってないせいかしら。あいつったらどうしてこう忙...
ええと、五年前にゲルマニアの戦争から帰って来た後はどう...
確か……変ねえ、思い出せないわ。手紙は櫃にしまっておけな...
え、嘘でしょ。ガリアにいるの? どうしてまたそんなとこ...
やだ、今度は邪竜退治ですって。それもあなたの代わりに?...
へえ、サイトったら帰り道にわざわざ遠回りしてまでガリア...
まさかあんたたち、わたしに黙って二人っきりで会ってるん...
うそうそ、冗談よ、本気でそんなこと思うわけないじゃない...
どうしてそんなにムキになるのよ。かえって怪しいわよ、そ...
ふふふ、いちいちあなたに言われなくたって分かってるわよ。
ま、あいつったら女の子には優しいから、昔はよく誤解して...
ええもちろん、愛してるわよ。なかなか会えないけど、心は...
やだ、どうして泣くのシャルロットったら。ええ、ええ。そ...
そうね、わたしもサイトも、シャルロットのお母様たちのよ...
そういえば、本当に良かったの。今のガリアの国王って、あ...
あなたが邪竜退治なんか命令されたのだって、下らない嫉妬...
そう。そうね。その子も、昔のシャルロットと同じかもしれ...
でもだからって、あなたが馬鹿正直に恨みを受けるのもおか...
あなただって女の子なんだし、自分の幸せも考えてみるべき...
そうなの。そんな風に一人で背負い込むことないのに。
サイトだって今はガリアにいるんでしょう? あんなので良...
でも不思議ねえ。邪竜出現なんて大事件でしょうに、領民の...
その上領主であるサイトがそれを退治に行ったんだとしたら...
なあにシエスタ。ああそうね、確かにここは町とは少し離れ...
ふふ、でもそれはシエスタのせいでもあると思うけど?
そうなの、聞いてちょうだいよシャルロット。
シエスタったら、なにかと理由をつけてわたしをこの城に閉...
たまに領地の視察に行っても、「どこに暗殺者が潜んでるか...
そうね、わたしに何かあったらサイトが悲しむでしょうけど...
冗談よ。わたしだって子供じゃないんだし、我侭ばかり言っ...
それに、領地の統治はジュリアンが補佐してくれるおかげで...
ああ、シエスタの弟よ。何年か前から働いてもらってるんだ...
シエスタにもずいぶん助けられてるから何となく悪い気がし...
ずいぶん真剣な顔で「サイトさんへの恩返しがしたいんです...
え、なあに。もちろん幸せよ。こうやってたまに友達が尋ね...
なによりサイトがいるからね。もっとも、あいつったら本当...
こんなんじゃ思い出作ってる暇もないわ。ま、手紙だけはた...
そう、もう帰るのね。道中お気をつけて。無理しないで、わ...
それにしても、まさかサイトがガリアにいるとはね。
決めたわシエスタ。今度帰ってきたら、鎖に繋いでもトリス...
ずいぶんほったらかしだった分、今度こそわたしたちの我侭...
288 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:26...
ごめんなさいね、悪気はなかったのよ。ただ、ちょっとおか...
あのみっともなくて口ばっかりだったギーシュが、今や名誉...
ちょっとそんなに怒らないでよモンモランシーったら。悪気...
わたしったらどうしてこんなに昔のことばっかりなのかしら。
あれから十五年も経つっていうのに、未だに皆のイメージが...
そう、まだギーシュが情けなくて、水精霊騎士隊の隊長を変...
懐かしいわねえ。サイト、そういうのはお前向きだ、なんて...
でもその判断は正しかったのね。元帥にまでなるんだもの、...
その辺サイトはダメよねえ。作戦なんか立てずに突っ込んで...
領地のことはわたしたちに任せっきりで、あっち行ったりこ...
そうそう、ガリアの邪竜退治から帰って来た後も、今度こそ...
でも姫様からの命令じゃ、断る訳にはいかないわよねえ。
あ、そうそう、姫様といえば、あの馬鹿また鼻の下伸ばして...
やだ、急に何言うのよ。そりゃサイトがわたしのこと愛して...
そんなことできるはずない、なんてのは言いすぎよ。ま、わ...
だけど、本当にあの馬鹿の戦い方なんて参考になるの?
そりゃ戦士としては一流だけど、誰かに真似できるものでも...
ま、確かにそうかもね。あれだけ強い男と戦えば、たとえ負...
トリステイン兵の訓練なんて、いかにもあいつ向きの仕事な...
それで、あいつは最近どうしてるの。前に帰ってきたのは、...
なんですって? 一ヶ月? おかしいわね、よく覚えてない...
ああ、そうそう、帰ってきて早々領民の家に飲みに行ったん...
全く、あいつときたら妻であるわたしのことほったらかしに...
なによモンモランシー。……ふふ、そうね、その方があいつら...
そういえば覚えてる? あいつが水精霊騎士隊の皆とこっそ...
やだ、わたしったらまたあの頃の話してる。ごめんなさいね...
そうだったわ、最近のあいつの様子、聞きたかったんだっけ...
どうしたのギーシュ、そんな言いにくそうに。まさかなんか...
あはは、相変わらず大げさすぎるわよギーシュ。一生の目標...
あんなの迷子の犬ッコロみたいなもんなんだから。元帥様と...
ああ、サイトの話ばっかりしてたせいかしら。なんだか急に...
いやね、年を取ったってことなのかしら。
ほんの一ヶ月前に会ったばかりなのに、なんだかもう何十年...
ああびっくりした。どうしたのかしらモンモランシーったら...
あ、ギーシュ、どうしたのモンモランシーは? え、なんだ...
ダメよそんなときに動いたりしちゃ。泊まっていきなさいよ...
なんならサイトの部屋を使ったっていいのよ。
どうしたの急に。そんなに怒るなんて、ギーシュらしくもな...
本当に帰るのね? ごめんなさい、わたし、なにか怒らせる...
そう? 本当に? 良かった、わたし、雰囲気読めないなん...
ええ、モンモランシーにもお大事にって伝えてちょうだい。
あの子はお母さんだもの、もしものことがあってはいけない...
わたしも、お婆さんになる前にサイトの子供が産みたいもの...
大丈夫かしらモンモランシー。なんだか心配だわ。
あらあらどうしたのシエスタ、急に泣いたりして。
大丈夫よ、サイトだってすぐにまた帰ってくるだろうし。
心配しなくたって、悪いことなんか何も起こりはしないわ。
289 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:27...
ああお懐かしゅうございますわ姫様。いえ、女王陛下とお呼...
そうですか、ではお言葉に甘えさせていただきますわね。
お久しぶりでございます、姫様。前にお会いしたのはいつだ...
四十年前、でございますか。いつの間にか、時はそんなにも...
姫様はなかなかこの領地を訪れてくださいませんでしたから。
そうですわね、姫様は今やアルビオンで静かに暮らしておい...
ここに来るまででもずいぶんな長旅だったのではございませ...
そうですか、アニエス様が。あの方は今も変わらず姫様の剣...
姫様が女王の座を降りられてから、世の中はずいぶんと変わ...
それでもこの国が変わらず平和なのは、全て姫様のお力の賜...
トリステイン王国という国がなくなっても、わたしたちがこ...
それは全て、あの日に備えて姫様が持ちうる限りの力を尽く...
本来であれば、わたしも夫も領民に命を狙われていたかもし...
ええ、それはもちろん、善政は敷いてきたつもりですわ。
あの馬鹿みたいに人がいいサイトが、悪い領主だなんて言わ...
夫は本当に留守がちで、この三十年間この城にいた期間なん...
それでも、このデルフリンガー男爵領の領主は、ヒラガサイ...
領民だってそのことはよく知っているはずです。今はもう、...
そういえば、どうしていますか。
誰って、もちろん、わたしの夫のことでございますわ。
今はアルビオンの復興に尽くしているのでございましょう。
少し前、久方ぶりに姫様にお会いしたという手紙を受け取っ...
ああ、思い出していただけましたか。夫はどうしていました...
もう年ですから、無理をして体を壊していなければいいので...
ふふ、おかしいですわね。こんなことを言っていても、やっ...
今はもうわたしと同じで白髪も皺もある老人になってしまっ...
そうですか、好かれていますか。それは良かった。
夫は、よく手紙にアルビオンの子供たちのことを書いてくる...
各国の分割統治という形で治められていて、今でもそれ程治...
まるで自分の子供のことのように書いてくるんですの。
わたし、それを見たらなんだか嬉しくなってしまって。
結局わたしとサイトの間には子供はできませんでしたけれど。
でも、その分サイトは世界中を駆け回って、自分の子供たち...
わたしも、そんな夫の手助けが出来て、とても幸せな人生で...
もちろん、まだまだ元気に生き続けるつもりですけれども。
きっとサイトももう少しで落ち着いてくれるでしょうし、そ...
二人だけでのんびり暮らしていこうと思っておりますの。
それこそ、犬小屋みたいな小さなお家で、ね。
あら、もうお帰りですの姫様。もう少し……やだわ、もうこん...
道中気をつけてお帰りくださいましね。アニエス様がいらっ...
それではごきげんよう、姫様。今度はサイトと三人で、また...
290 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:28...
ふふ、サイトったらこの年になってもまだ子供みたいなこと...
あらどうしたのジュリアン。珍しいわね、お客様? どうぞ...
ようこそ、剣の城へ。わたくし、主の留守を預かっておりま...
こんな格好でごめんなさいね。最近足が痛くて、もう立つこ...
あら、失礼ですけれど、どこかでお会いしたことがあったか...
気のせいですわよね。
こんなに若々しくて、美しい金髪の方と知り合う機会なんて...
ああ、だけど本当にどこかでお会いした気がするわ。
失礼ですけれど、その帽子を脱いで顔を見せてくださらない...
まあ、テファ。ティファニアじゃないの。
ええ、もちろん覚えているわ。友達の顔を忘れる訳がないで...
本当に懐かしいわ。あなたはちっとも変わっていないのね。...
ああごめんなさい、悪い意味で言った訳ではないの。許して...
そう、ありがとう。だけど本当に嬉しかったのよ、わたし。
何故かしら、一人ぼっちになってしまった気がしていたのよ。
キュルケもシャルロットも、ギーシュやモンモランシー、姫...
皆、ずっと前にお亡くなりになって。半年前にはシエスタま...
その頃からかしらね、何故だか急に元気がなくなってしまっ...
変よね、一人ぼっちだなんて。わたしにはまだサイトがいる...
今ではもう食事も満足に食べられないのよ。折角作ってくれ...
ああ、これ? これはサイトからの手紙。
サイトったらこの年になってもまだ子供みたいに世界中を駆...
そんな元気な人の妻なのに、わたしは今や夫からの手紙を読...
ううん、そのはずだけれど、あまり寂しくはないの。
サイトは今でも三日に一度は手紙を送ってくれるわ。
考えてみれば不思議よね。この六十年間、どんなところにい...
本当に、いろいろなことがあったわ。もっとも、わたしはず...
その間、サイトは帰ってきてはすぐに出かけていって。
今度こそ落ち着いてくれるかと思っていたら、思い出を作る...
だけど、そういう人なのよね。
世界のどこかにあの人を必要としている人がいて、そういう...
結局、わたしの記憶に色あせずに残っているのは、六十年前...
でもね、わたし、それでも後悔はしていないのよ。
だって、ずっとサイトを支えてこられたんですもの。
困ったり、泣いたりしている誰かのためなら、自分のことな...
そんな人の妻として、いつか帰ってくる場所を守ることがで...
だから、とても満足しているのよ。
人は不幸な女というかもしれないけど、わたしは胸を張って...
わたしの人生は、他の誰よりも幸福なものでした、ってね。
291 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:28...
そうそう、今サイトがどこにいるか、知ってる?
今はね、西の大洋の上よ。
サイトが年がいもなく西に向けての航海に旅立ってから、も...
ほら見て、あの人からの土産話がこんなにもたくさん。
それにね、あの人ったら、昨日の手紙にこんなこと書いてた...
「いま、帰りの船に乗っている。長い間待たせてばかりですま...
今度こそ、ずっと一緒にいよう。もうすぐ、お前のところへ...
ふふ、馬鹿ねえ、今頃そんな風に気を遣わなくっていいのに。
ああ、だけど、聞いてちょうだいテファ。
わたし、最後の最後にサイトを悲しませることになりそうな...
そう、死期が近づいているのよ。サイトが帰ってくるまでは...
自分でも分かるの。わたしは多分あと一ヶ月、ううん、きっ...
だから、ね、テファ。友人として、わたしのお願いを聞いて...
せめて、わたしがいなくなってもサイトが静かに暮らしてい...
ええそう、サイトはずっとこの領地を留守にしていたから、...
全然知らないと思う。確かにわたしたちはもう貴族ではない...
そういうことでゴタゴタさせて、サイトを疲れさせたくない...
そう、ありがとう、テファ。それじゃあ今から遺言状の内容...
ええそう。ごめんなさいね、もう手も満足に動かせないの。...
どうしたのテファ。そんな悲しい顔をするなんて。
謝らないで。あなたは何も悪くないでしょう。ね、お願い、...
わたしの最後のお願いを、どうか聞いてちょうだいね。
ああ、ありがとうテファ。それじゃ、お願いしますね。
……ありがとう、テファ。これで遺言は全てよ。
さあ、サインをしなくっちゃ。ごめんなさい、体を支えてく...
あら、テファ。不思議ね、あなたの文字、びっくりするぐら...
ええ、サイトの方がもっときれいだけど。本当に不思議。ど...
ああ、そうだったわね、まだ力が残っているうちに。
これでいいわ。この遺言はジュリアンに渡してちょうだいね。
本当にありがとう、テファ。これで、思い残すことなく逝く...
ふふ、そう、嘘よ。本当は、最後に一目だけでいいからサイ...
だけどおかしいわね。最後に思い出すサイトの顔も、やっぱ...
本当に、おかしな人生だったわね。だけど、楽しかったわ。
ああ、泣かないでちょうだい、ティファニア。
わたしはとても幸福なの。幸福なままで、死んでいくのよ。
悲しいことなんて何もないの。だから泣かないでね、ティフ...
あなたが泣いたら、きっとサイトは悲しむと思うから。
292 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:33...
その日、かつてデルフリンガー男爵領と呼ばれた地の片隅で...
彼女が残した遺言により、城はその地の住民たちのものとな...
老女の葬式は、彼女がかつて貴族だったとは思えないぐらい...
城が建っている小山へと向かう葬列は、麓の町の大通りを埋...
生前彼女がどれだけ慕われていたかをよく現していたという。
葬式に参加した者たちは、皆一様に涙を流しながら、
「気は狂っていたが、わたしたちにはとてもいい領主様だった」
「ただ一点についてのみ正気をなくされていたことを除けば、...
「あんなにもお優しかったために、心を壊されてしまったのだ...
彼女の苦しみが終わったのは喜ばしいが、彼女を失ったこと...
などとそれぞれの思いを込めて彼女を偲び、葬式が終わって...
これが、後に「気狂いルイズ」と呼ばれることになる、偉大...
彼女の亡骸は、城の裏手の森のずっと奥に葬られることとな...
彼女自身は死ぬまで気付かなかったようだが、そこには一つ...
今、物言わぬその剣の下には、二つの亡骸が寄りそうにして...
なお、六十年ほど前から頻繁にこの地を訪れていたという帽...
「気狂いルイズ」の死後も変わることなくこの地を訪れ続け、
人々が彼女のことを忘れ去って以降もずっと、剣の前に花を...
Side-B[[11-588]]不幸せな友人たち
終了行:
284 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:24...
あらシエスタ、どうしたのそんなに慌てて。
違うわよ、後少しで面倒な仕事が全部片付きそうだから、ち...
勝手にどこかに行っちゃうなんて、サイトじゃないんだから。
大丈夫よ、もう少し頑張って終わらせたら、ちゃんと休ませ...
あらいい香り。そうね、せっかくだからいただこうかしら。
うん、今日も変わらずいい腕だわ。悔しいけど、紅茶に関し...
ああ、これ? これはね、サイトからの手紙よ。きっと今頃...
全く、妻と領地をほったらかして冒険の旅なんて、いつまで...
ご心配なさらずに。少しも怒ってなんかいないわ。むしろ安...
サイトが冒険なんかに現を抜かしていられるぐらい、世界が...
早いものね。わたしたちが東から帰ってきてもう一年も経つ...
え? それはもちろん覚えてるわよ。わたしの人生で一番幸...
忘れる訳ないでしょう、結婚式のことなんて。急にそんなこ...
でも、何故かしら。あまり詳しくは思い出せないのよね。
浮かんでくるのは学院での生活や大変だった戦争中のことば...
そうね、あの頃があんまり大変すぎたから、今こうして皆で...
ところでシエスタ、サイトが旅立ってから今どのぐらい経つ...
ああそうね、まだ半年だったわね。おかしいわね、忘れるな...
ま、何にしても、この分だとあとニ、三年はサイトの顔見な...
ふふ、ご名答。ホントはちょっと寂しいんだけどね。寂しが...
それに、サイトのためにちゃんと犬小屋を残しておいてあげ...
どうしたの急に欠伸なんかして。わたしの眠気が移っちゃっ...
ごちそうさま。今日もおいしかったわ。さ、仕事頑張らなく...
サイトが帰るまでは、わたしがこのデルフリンガー男爵領を...
286 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:25...
あらあら、神聖ゲルマニア帝国の女皇帝様が遠路はるばるお...
なんてね。堅苦しいのはなしにしましょうよ、久しぶりに会...
ええわたしは元気よ。あんたこそ老けたんじゃないの、帝国...
ふふ、そうそう、やっぱりキュルケはそうでなくちゃ。
ちょっとね、心配だったのよ。なんか妙に暗い顔してたから。
なんですって。あのねえ、サイトが今何やってるのかって、...
なに変な顔してるのよ。手紙で聞いてるわよ、ようやく地方...
皇帝のくせに自分の国のこと忘れるなんて、やっぱ疲れてん...
でも、なんだか懐かしいわねえ。学院にいた頃は、しょっち...
そうね、あの頃が一番楽しかったわ。今思うとほんの些細な...
失礼ね、そういうことには真剣だったわよ。少なくとも、あ...
そうそう、コルベール先生は元気? サイトの手紙によると...
え、それ本当? そんな薬本当に作っちゃったんだ。
あ、でもあんたにとっては微妙なんじゃないの。知性の輝き...
はいはい、ごちそうさま。全く、普通結婚して五年もすれば...
お生憎様、わたしたちは何の問題もなく夫婦やってるわよ。
って言っても、サイトが留守がちなせいで結婚してからほと...
おかげで、今じゃ領民だってわたしのこと「男爵様」なんて...
しかも、からかったり冗談で言ってるんじゃないの。ごく普...
わたしは男爵夫人であって男爵本人じゃないのにねえ。
信じられる? 前に冒険の旅から帰ってきてから、この領地...
ええそう、ちょうどそのとき狙いすましたかのようにあんた...
サイトは他国の戦争に巻き込まれることになったのよ。
おかげさまで、折角会えた三日間の記憶だってほとんどない...
今だって、思い浮かぶのはあの頃のサイトの顔ばっかりだも...
ええそう、学院にいた頃の、よ。わたしもいい大人になった...
なによ急に。ええもちろん愛してるわよ。会えないのなんか...
大体、あいつったら三日に一度は手紙寄越すんだもの。しか...
その上ね、なんか妙に字が綺麗なのよ。まるで女の子が書い...
そうね、サイトにとっては外国語だもの。意識して丁寧に書...
ま、そんな訳で、わたしは少しも寂しくないわ。それに、シ...
なによ急に、気持ち悪い。言っとくけどね、あんたよりもず...
そうよ。お婆ちゃんになる前に隠居して、サイトと一緒にの...
まあ、今の状況から考えるとなかなか難しそうだけどね。
あらもう帰るの。皇帝陛下ともなると忙しいわね、友達とも...
ええそうね、わたしたちはいつまでも友達よ。ま、腐れ縁っ...
冗談冗談。ありがとう、キュルケ。サイトにも早く帰ってき...
変なキュルケ、返事もしないで出ていっちゃった。
どうしてあんなに急いでいたのかしらね、シエスタ?
287 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:26...
やだ、こうして会うのって何年振りかしら。
もちろん覚えてるわよ、変なこと言うのねタバサったら。あ...
気を悪くしないでね。何だか学院にいた頃のことばっかり思...
ええそう、わたしったらこんなに感傷的だったかしらって思...
サイトのこと考えると、どうしても最近の思い出よりも昔の...
長い間会ってないせいかしら。あいつったらどうしてこう忙...
ええと、五年前にゲルマニアの戦争から帰って来た後はどう...
確か……変ねえ、思い出せないわ。手紙は櫃にしまっておけな...
え、嘘でしょ。ガリアにいるの? どうしてまたそんなとこ...
やだ、今度は邪竜退治ですって。それもあなたの代わりに?...
へえ、サイトったら帰り道にわざわざ遠回りしてまでガリア...
まさかあんたたち、わたしに黙って二人っきりで会ってるん...
うそうそ、冗談よ、本気でそんなこと思うわけないじゃない...
どうしてそんなにムキになるのよ。かえって怪しいわよ、そ...
ふふふ、いちいちあなたに言われなくたって分かってるわよ。
ま、あいつったら女の子には優しいから、昔はよく誤解して...
ええもちろん、愛してるわよ。なかなか会えないけど、心は...
やだ、どうして泣くのシャルロットったら。ええ、ええ。そ...
そうね、わたしもサイトも、シャルロットのお母様たちのよ...
そういえば、本当に良かったの。今のガリアの国王って、あ...
あなたが邪竜退治なんか命令されたのだって、下らない嫉妬...
そう。そうね。その子も、昔のシャルロットと同じかもしれ...
でもだからって、あなたが馬鹿正直に恨みを受けるのもおか...
あなただって女の子なんだし、自分の幸せも考えてみるべき...
そうなの。そんな風に一人で背負い込むことないのに。
サイトだって今はガリアにいるんでしょう? あんなので良...
でも不思議ねえ。邪竜出現なんて大事件でしょうに、領民の...
その上領主であるサイトがそれを退治に行ったんだとしたら...
なあにシエスタ。ああそうね、確かにここは町とは少し離れ...
ふふ、でもそれはシエスタのせいでもあると思うけど?
そうなの、聞いてちょうだいよシャルロット。
シエスタったら、なにかと理由をつけてわたしをこの城に閉...
たまに領地の視察に行っても、「どこに暗殺者が潜んでるか...
そうね、わたしに何かあったらサイトが悲しむでしょうけど...
冗談よ。わたしだって子供じゃないんだし、我侭ばかり言っ...
それに、領地の統治はジュリアンが補佐してくれるおかげで...
ああ、シエスタの弟よ。何年か前から働いてもらってるんだ...
シエスタにもずいぶん助けられてるから何となく悪い気がし...
ずいぶん真剣な顔で「サイトさんへの恩返しがしたいんです...
え、なあに。もちろん幸せよ。こうやってたまに友達が尋ね...
なによりサイトがいるからね。もっとも、あいつったら本当...
こんなんじゃ思い出作ってる暇もないわ。ま、手紙だけはた...
そう、もう帰るのね。道中お気をつけて。無理しないで、わ...
それにしても、まさかサイトがガリアにいるとはね。
決めたわシエスタ。今度帰ってきたら、鎖に繋いでもトリス...
ずいぶんほったらかしだった分、今度こそわたしたちの我侭...
288 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:26...
ごめんなさいね、悪気はなかったのよ。ただ、ちょっとおか...
あのみっともなくて口ばっかりだったギーシュが、今や名誉...
ちょっとそんなに怒らないでよモンモランシーったら。悪気...
わたしったらどうしてこんなに昔のことばっかりなのかしら。
あれから十五年も経つっていうのに、未だに皆のイメージが...
そう、まだギーシュが情けなくて、水精霊騎士隊の隊長を変...
懐かしいわねえ。サイト、そういうのはお前向きだ、なんて...
でもその判断は正しかったのね。元帥にまでなるんだもの、...
その辺サイトはダメよねえ。作戦なんか立てずに突っ込んで...
領地のことはわたしたちに任せっきりで、あっち行ったりこ...
そうそう、ガリアの邪竜退治から帰って来た後も、今度こそ...
でも姫様からの命令じゃ、断る訳にはいかないわよねえ。
あ、そうそう、姫様といえば、あの馬鹿また鼻の下伸ばして...
やだ、急に何言うのよ。そりゃサイトがわたしのこと愛して...
そんなことできるはずない、なんてのは言いすぎよ。ま、わ...
だけど、本当にあの馬鹿の戦い方なんて参考になるの?
そりゃ戦士としては一流だけど、誰かに真似できるものでも...
ま、確かにそうかもね。あれだけ強い男と戦えば、たとえ負...
トリステイン兵の訓練なんて、いかにもあいつ向きの仕事な...
それで、あいつは最近どうしてるの。前に帰ってきたのは、...
なんですって? 一ヶ月? おかしいわね、よく覚えてない...
ああ、そうそう、帰ってきて早々領民の家に飲みに行ったん...
全く、あいつときたら妻であるわたしのことほったらかしに...
なによモンモランシー。……ふふ、そうね、その方があいつら...
そういえば覚えてる? あいつが水精霊騎士隊の皆とこっそ...
やだ、わたしったらまたあの頃の話してる。ごめんなさいね...
そうだったわ、最近のあいつの様子、聞きたかったんだっけ...
どうしたのギーシュ、そんな言いにくそうに。まさかなんか...
あはは、相変わらず大げさすぎるわよギーシュ。一生の目標...
あんなの迷子の犬ッコロみたいなもんなんだから。元帥様と...
ああ、サイトの話ばっかりしてたせいかしら。なんだか急に...
いやね、年を取ったってことなのかしら。
ほんの一ヶ月前に会ったばかりなのに、なんだかもう何十年...
ああびっくりした。どうしたのかしらモンモランシーったら...
あ、ギーシュ、どうしたのモンモランシーは? え、なんだ...
ダメよそんなときに動いたりしちゃ。泊まっていきなさいよ...
なんならサイトの部屋を使ったっていいのよ。
どうしたの急に。そんなに怒るなんて、ギーシュらしくもな...
本当に帰るのね? ごめんなさい、わたし、なにか怒らせる...
そう? 本当に? 良かった、わたし、雰囲気読めないなん...
ええ、モンモランシーにもお大事にって伝えてちょうだい。
あの子はお母さんだもの、もしものことがあってはいけない...
わたしも、お婆さんになる前にサイトの子供が産みたいもの...
大丈夫かしらモンモランシー。なんだか心配だわ。
あらあらどうしたのシエスタ、急に泣いたりして。
大丈夫よ、サイトだってすぐにまた帰ってくるだろうし。
心配しなくたって、悪いことなんか何も起こりはしないわ。
289 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:27...
ああお懐かしゅうございますわ姫様。いえ、女王陛下とお呼...
そうですか、ではお言葉に甘えさせていただきますわね。
お久しぶりでございます、姫様。前にお会いしたのはいつだ...
四十年前、でございますか。いつの間にか、時はそんなにも...
姫様はなかなかこの領地を訪れてくださいませんでしたから。
そうですわね、姫様は今やアルビオンで静かに暮らしておい...
ここに来るまででもずいぶんな長旅だったのではございませ...
そうですか、アニエス様が。あの方は今も変わらず姫様の剣...
姫様が女王の座を降りられてから、世の中はずいぶんと変わ...
それでもこの国が変わらず平和なのは、全て姫様のお力の賜...
トリステイン王国という国がなくなっても、わたしたちがこ...
それは全て、あの日に備えて姫様が持ちうる限りの力を尽く...
本来であれば、わたしも夫も領民に命を狙われていたかもし...
ええ、それはもちろん、善政は敷いてきたつもりですわ。
あの馬鹿みたいに人がいいサイトが、悪い領主だなんて言わ...
夫は本当に留守がちで、この三十年間この城にいた期間なん...
それでも、このデルフリンガー男爵領の領主は、ヒラガサイ...
領民だってそのことはよく知っているはずです。今はもう、...
そういえば、どうしていますか。
誰って、もちろん、わたしの夫のことでございますわ。
今はアルビオンの復興に尽くしているのでございましょう。
少し前、久方ぶりに姫様にお会いしたという手紙を受け取っ...
ああ、思い出していただけましたか。夫はどうしていました...
もう年ですから、無理をして体を壊していなければいいので...
ふふ、おかしいですわね。こんなことを言っていても、やっ...
今はもうわたしと同じで白髪も皺もある老人になってしまっ...
そうですか、好かれていますか。それは良かった。
夫は、よく手紙にアルビオンの子供たちのことを書いてくる...
各国の分割統治という形で治められていて、今でもそれ程治...
まるで自分の子供のことのように書いてくるんですの。
わたし、それを見たらなんだか嬉しくなってしまって。
結局わたしとサイトの間には子供はできませんでしたけれど。
でも、その分サイトは世界中を駆け回って、自分の子供たち...
わたしも、そんな夫の手助けが出来て、とても幸せな人生で...
もちろん、まだまだ元気に生き続けるつもりですけれども。
きっとサイトももう少しで落ち着いてくれるでしょうし、そ...
二人だけでのんびり暮らしていこうと思っておりますの。
それこそ、犬小屋みたいな小さなお家で、ね。
あら、もうお帰りですの姫様。もう少し……やだわ、もうこん...
道中気をつけてお帰りくださいましね。アニエス様がいらっ...
それではごきげんよう、姫様。今度はサイトと三人で、また...
290 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:28...
ふふ、サイトったらこの年になってもまだ子供みたいなこと...
あらどうしたのジュリアン。珍しいわね、お客様? どうぞ...
ようこそ、剣の城へ。わたくし、主の留守を預かっておりま...
こんな格好でごめんなさいね。最近足が痛くて、もう立つこ...
あら、失礼ですけれど、どこかでお会いしたことがあったか...
気のせいですわよね。
こんなに若々しくて、美しい金髪の方と知り合う機会なんて...
ああ、だけど本当にどこかでお会いした気がするわ。
失礼ですけれど、その帽子を脱いで顔を見せてくださらない...
まあ、テファ。ティファニアじゃないの。
ええ、もちろん覚えているわ。友達の顔を忘れる訳がないで...
本当に懐かしいわ。あなたはちっとも変わっていないのね。...
ああごめんなさい、悪い意味で言った訳ではないの。許して...
そう、ありがとう。だけど本当に嬉しかったのよ、わたし。
何故かしら、一人ぼっちになってしまった気がしていたのよ。
キュルケもシャルロットも、ギーシュやモンモランシー、姫...
皆、ずっと前にお亡くなりになって。半年前にはシエスタま...
その頃からかしらね、何故だか急に元気がなくなってしまっ...
変よね、一人ぼっちだなんて。わたしにはまだサイトがいる...
今ではもう食事も満足に食べられないのよ。折角作ってくれ...
ああ、これ? これはサイトからの手紙。
サイトったらこの年になってもまだ子供みたいに世界中を駆...
そんな元気な人の妻なのに、わたしは今や夫からの手紙を読...
ううん、そのはずだけれど、あまり寂しくはないの。
サイトは今でも三日に一度は手紙を送ってくれるわ。
考えてみれば不思議よね。この六十年間、どんなところにい...
本当に、いろいろなことがあったわ。もっとも、わたしはず...
その間、サイトは帰ってきてはすぐに出かけていって。
今度こそ落ち着いてくれるかと思っていたら、思い出を作る...
だけど、そういう人なのよね。
世界のどこかにあの人を必要としている人がいて、そういう...
結局、わたしの記憶に色あせずに残っているのは、六十年前...
でもね、わたし、それでも後悔はしていないのよ。
だって、ずっとサイトを支えてこられたんですもの。
困ったり、泣いたりしている誰かのためなら、自分のことな...
そんな人の妻として、いつか帰ってくる場所を守ることがで...
だから、とても満足しているのよ。
人は不幸な女というかもしれないけど、わたしは胸を張って...
わたしの人生は、他の誰よりも幸福なものでした、ってね。
291 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:28...
そうそう、今サイトがどこにいるか、知ってる?
今はね、西の大洋の上よ。
サイトが年がいもなく西に向けての航海に旅立ってから、も...
ほら見て、あの人からの土産話がこんなにもたくさん。
それにね、あの人ったら、昨日の手紙にこんなこと書いてた...
「いま、帰りの船に乗っている。長い間待たせてばかりですま...
今度こそ、ずっと一緒にいよう。もうすぐ、お前のところへ...
ふふ、馬鹿ねえ、今頃そんな風に気を遣わなくっていいのに。
ああ、だけど、聞いてちょうだいテファ。
わたし、最後の最後にサイトを悲しませることになりそうな...
そう、死期が近づいているのよ。サイトが帰ってくるまでは...
自分でも分かるの。わたしは多分あと一ヶ月、ううん、きっ...
だから、ね、テファ。友人として、わたしのお願いを聞いて...
せめて、わたしがいなくなってもサイトが静かに暮らしてい...
ええそう、サイトはずっとこの領地を留守にしていたから、...
全然知らないと思う。確かにわたしたちはもう貴族ではない...
そういうことでゴタゴタさせて、サイトを疲れさせたくない...
そう、ありがとう、テファ。それじゃあ今から遺言状の内容...
ええそう。ごめんなさいね、もう手も満足に動かせないの。...
どうしたのテファ。そんな悲しい顔をするなんて。
謝らないで。あなたは何も悪くないでしょう。ね、お願い、...
わたしの最後のお願いを、どうか聞いてちょうだいね。
ああ、ありがとうテファ。それじゃ、お願いしますね。
……ありがとう、テファ。これで遺言は全てよ。
さあ、サインをしなくっちゃ。ごめんなさい、体を支えてく...
あら、テファ。不思議ね、あなたの文字、びっくりするぐら...
ええ、サイトの方がもっときれいだけど。本当に不思議。ど...
ああ、そうだったわね、まだ力が残っているうちに。
これでいいわ。この遺言はジュリアンに渡してちょうだいね。
本当にありがとう、テファ。これで、思い残すことなく逝く...
ふふ、そう、嘘よ。本当は、最後に一目だけでいいからサイ...
だけどおかしいわね。最後に思い出すサイトの顔も、やっぱ...
本当に、おかしな人生だったわね。だけど、楽しかったわ。
ああ、泣かないでちょうだい、ティファニア。
わたしはとても幸福なの。幸福なままで、死んでいくのよ。
悲しいことなんて何もないの。だから泣かないでね、ティフ...
あなたが泣いたら、きっとサイトは悲しむと思うから。
292 名前:幸せな男爵様[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 22:33...
その日、かつてデルフリンガー男爵領と呼ばれた地の片隅で...
彼女が残した遺言により、城はその地の住民たちのものとな...
老女の葬式は、彼女がかつて貴族だったとは思えないぐらい...
城が建っている小山へと向かう葬列は、麓の町の大通りを埋...
生前彼女がどれだけ慕われていたかをよく現していたという。
葬式に参加した者たちは、皆一様に涙を流しながら、
「気は狂っていたが、わたしたちにはとてもいい領主様だった」
「ただ一点についてのみ正気をなくされていたことを除けば、...
「あんなにもお優しかったために、心を壊されてしまったのだ...
彼女の苦しみが終わったのは喜ばしいが、彼女を失ったこと...
などとそれぞれの思いを込めて彼女を偲び、葬式が終わって...
これが、後に「気狂いルイズ」と呼ばれることになる、偉大...
彼女の亡骸は、城の裏手の森のずっと奥に葬られることとな...
彼女自身は死ぬまで気付かなかったようだが、そこには一つ...
今、物言わぬその剣の下には、二つの亡骸が寄りそうにして...
なお、六十年ほど前から頻繁にこの地を訪れていたという帽...
「気狂いルイズ」の死後も変わることなくこの地を訪れ続け、
人々が彼女のことを忘れ去って以降もずっと、剣の前に花を...
Side-B[[11-588]]不幸せな友人たち
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