ゼロの使い魔保管庫
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202 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
友人たちと愚にもつかない会話をしながら歩いている途中、...
る火の塔の影に、何か小さなものが落ちているのが見える。
「どうしたんだね」
問うギーシュに、「なんか落ちてる」とだけ答え、才人は大...
くにつれて、その物体が非常に懐かしい形をしているのが分か...
手の部分を持って持ち上げてみる。それは、地球では珍しくも...
ーツバッグであった。
「何だねそりゃ」
「変わった袋だな」
「ずいぶんと見慣れない形だけど」
ギーシュとマリコルヌとレイナールが、スポーツバッグを覗...
(これ、どう見ても地球のもんだよな。ってことは、これも俺...
周囲を見回してみるが、儀式の痕跡等は何も見当たらない。...
物品などのように、何か偶然の作用が働いてハルケギニアに辿...
へ帰る手がかりにはならなそうだ。
少しだけ落胆しながら、何気なくバッグ中央部のジッパーを...
おお」「うん?」と三者三様の声を上げた。驚きと興奮と疑問...
もなく、ただ目を見開いてバッグの中身を見つめていることし...
203 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
「で、結局何なんだねこれは」
テーブルの上に置かれた黒い物体を指差して、ギーシュは顔...
ある。拾ったバッグの中身の処置に困り、とりあえずいつもの...
のだった。
才人はバッグの中身の一つである黒い物体を手に取り、懐か...
「ポラロイドカメラだよ」
「ポラ、なんだって? というか、君はこれのことを知ってる...
「ああ、使い方だって分かるさ。こうやって、こうだ」
ポラロイドカメラを構えて、シャッターを押す。テーブルの...
いたマリコルヌが、フラッシュの光に驚き、悲鳴を上げて手を...
「なんだ、雷か? でも外は晴れてたはずじゃ」
「雷じゃねえって。それより、見ろよこれ」
才人は笑いながら、ポラロイドカメラから吐き出された写真...
先程の情景が鮮明に映し出されている。テーブルの上に山と積...
コルヌ。ギーシュとレイナールが呆れた視線を飛ばす。
「マリコルヌ」
「いくらモテないからって、そこまで」
「違うよ、実際どんなものなのかと興味があっただけで」
「いやむしろ悲しいぞその言い訳」
笑う才人の横で、「しかし」と呟いたレイナールが、興味深...
「凄いなこれは。こんなに精密な模写が出来る画家は国中探し...
「その黒い奴の中には絵が得意な妖精でも閉じ込めてあるのか...
とかっていうのは妖精の名前だな」
「ちげーよ、これは絵じゃなくて写真だ、写真」
「この絵の名前か」
「いや、絵じゃねえんだって。まあ、説明すんのは難しいよ。...
てる訳じゃねえしな」
「それはそうだな。こんなに絵の得意な妖精とそれを閉じ込め...
中の画家がお払い箱になってしまう」
「カメラとやらのギルドのみに伝えられる秘伝の方法という訳...
と言うけど、東方にはこんな凄いものがあるのか」
「いや、まあ、そうだな」
感心しきった様子のギーシュたちが言っていることは、もち...
するのも面倒だったので、才人は黙っておいた。
「で、どうやって使うんだねこれは」
「ああ、まずそこの」
「あのさ」
才人がカメラの使い方を説明しようとしたとき、マリコルヌ...
「それも凄いけど、こっちも十分問題じゃないか、なあ」
躊躇うように、マリコルヌがテーブルの上に乗っている他の...
せて、ため息を吐いた。
バッグに入っていたのは、カメラだけではなかった。それと...
のである。布きれには一般的な名称がついていて、その名称は...
に嬉しいような困ったような、そんな複雑な感情を呼び起こす...
女性用下着。すなわち、パンツである。
204 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
テーブルの上に山盛りになったパンツの山を見下ろして、四...
「どうするんだ、これ」
「どうするったって、持ち主に返さないと」
「誰だよ持ち主って。大体、こんなの返されたらむしろ恥ずか...
「それにしても、何でパンツだけこんなに入ってるんだ」
「そりゃ着替えだろう」
「着替えなら他の服だって入っていなきゃならんだろう。パン...
「いや待て。ひょっとしたら東方には男も女もパンツだけで生...
いか」
「そんな馬鹿な。いやしかしそれでなくては説明がつかないか」
「ということは、この辺りにパンツ一丁で歩き回っている女性...
「ごめん僕ちょっとトイレに」
「君は実に分かりやすい奴だなマリコルヌ」
あーでもねーこーでもねーと言い合っているギーシュたちを...
(間違いなく下着ドロのバッグだよなこれ。何でわざわざ戦利...
かんねーけど。まあ多分そういう性癖の持ち主だったんだろ...
納得しておこう。カメラも入ってたってことは盗撮癖があっ...
ちでもいいか。そんなことより問題は、これをどうするかだ...
たって下着ドロに盗んだ下着返す訳にはいかねえし。となる...
ゃいけねえよな。売るか? いや無理だ。男ばっかりでこん...
ちが下着ドロ扱いされる。配るか? いやそれも同じか。参...
も何か嫌だし。埋めるか燃やすかするしかねえか。でもなん...
パンツの山の処理法方に悩み続ける才人の横で、話し合いが...
れにしても」と無造作な手つきでパンツを一枚手に取って、し...
「変わったデザインの下着ばっかりだな」
別段何でもなさそうな口調でそんなことを言う。レイナール...
着を見ながら才人も頷いた。
「ああ、確かに過激なのが多いみたいだけど」
そこまで言いかけたとき、不意にマリコルヌが口を挟んでき...
「ちょっと待った」
「なんだい」
マリコルヌは探るような眼差しでレイナールを見ながら、慎...
「君、『普通の下着』がどんなのかなんて詳しく知ってるのか」
当たり前だろそんなの、と突っ込みかけて、才人は留まった。
(ここは地球じゃないんだった。ハルケギニアには写真なんか...
えだろうし、下着自体貴族しか使えないような高いもんらし...
詳しく知ろうとしたら、当然直接間近で見るしかない訳で)
絵の春本の類ならあるかもしれないが、それではとても正確...
はまだ子供と大人の境目とも言うべき学生身分で、その上貴族...
がそんなにないことも加味すれば、女物の下着などまじまじと...
ルヌが興味津々にこのパンツの山に手を伸ばしていたのも、劣...
らが珍しかったせいなのだろう。彼らにとって、女物の下着と...
なか実態を知ることができない、未知の物体なのだ。
205 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
だが、例外もいるらしい。その例外の代表らしいレイナール...
見て不思議そうに頷いた。
「そりゃ知ってるさ。この年になれば当たり前だろう」
「ちょっと待て貴様」
マリコルヌが唐突に剣呑な気配を発し始めた。
「それはつまり生で見たことがあるということですか」
「ないのかい」
レイナールは不思議そうに聞き返した。馬鹿にするような雰...
思議でならないという顔つきである。
だが言われた本人にとっては逆にその方が気に障ったらしい...
した。
「レイナール、君との友情も今日までだ。どうやら僕は君に決...
い」
「どうしたんだい急に」
「うるさい、いいから杖を取るんだこの眼鏡野郎め。貴様いか...
て抜け駆けしやがって。言えよ、一体いつ済ませたんだ。ま...
「そんなの覚えてる訳がないだろう。ええと、五年以上前だっ...
「ごねっ、貴様、そんな昔から女ったらしだったのか」
「いや、別に大して興味はないけど。貴族たるもの、やり方を...
「何だその事務的と言うか合理的な考え方。っつーか相手は誰...
「どうだったかな。何人かいた、と思う。数は覚えてない」
「そんなふしだらな。好きでもない女をとっかえひっかえ」
「人聞きが悪いなあ。婚約者とうまくいかなくて世継ぎが出来...
まいやり方を教えてもらうのは貴族として当然の義務じゃな...
「義務って。それに、婚約者って、そんなんいるのかよ!」
「ああ。ここを卒業して貴族として一人前になったら結婚する...
普通いるだろ、貴族なら」
マリコルヌががくりと膝を突く。手から杖が滑り落ちた。重...
白目を剥いているマリコルヌの頬を何発か張り飛ばして無理矢...
206 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
「しっかりしろマリコルヌ、傷は浅いぞ」
「ああ、ギーシュ。僕はもう駄目だ」
腫れ上がった頬に涙の筋を作りながら、マリコルヌは掠れた...
「貴族なら当然。そりゃそうだよな、貴族ならさ。でも僕婚約...
かしいよねギーシュ。僕って貴族じゃなかったのかな。貴族...
「気をしっかり持てよマリコルヌ。確かに君は豚かもしれない...
たまに自信がなくなるけど。それにほら、僕だって婚約者は...
「慰めはよしてくれよギーシュ。君にはモンモランシーがいる...
ると評判なんだ、もう済ませているしパンツも拝見済みなん...
この世の不幸を一身に背負ったような顔つきで、マリコルヌ...
少しの間何かを考えていたが、やがて決然とした表情で顔を上...
「君は誤解しているぞ、マリコルヌ」
「なにが」
「まだなんだ」
「だから、なにがさ」
「僕はまだ、モンモランシーとはそういうことをしていない!」
その叫びは格納庫の壁を揺り動かした。おそらく学院中に響...
くマリコルヌに、ギーシュは爽やかな笑顔を見せた。
「だから彼女のパンツを見たことなんて一度もないんだ。安心...
「おお、ギーシュ。すまない、僕は誤解していたようだ」
「いいんだよマリコルヌ。僕と君の友情は始まったばかりさ」
「ギーシュ」
「マリコルヌ」
三枚目とデブが涙を流しながらがしっと抱き合う。「友情っ...
ら、才人はレイナールに問うた。
「どうすりゃいいかな、これ」
「さてね。持ち主に返せれば、それが一番いいんだろうけど」
「そりゃ多分、いや確実に無理だと思う」
「だったらお手上げだな」
パンツの山を見下ろしながら、レイナールは肩をすくめた。
「大体にして、女性の下着ってのは高価なもので、貴族の持ち...
たのかい」
才人が頷くと、レイナールは眼鏡を指で押し上げながら解説...
「金銭的な余裕のない平民じゃ、たとえ古着屋にあったって買...
やお嬢様方が、他人のお古なんか使う訳もない」
「要するに、こいつの使い道はないってことか」
「まあね。ああ、いや、才人、君なら有効に使えるんじゃない...
「どういうことよ」
207 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
才人が眉をひそめると、レイナールはいかにも名案を思いつ...
答えた。
「君のご主人様かあのメイドに新品だと偽ってプレゼントすれ...
「喜ばれる訳ねえだろ。馬鹿なこと言うねお前も」
てっきり冗談だと思って才人が苦笑すると、レイナールは驚...
「どうして。大丈夫だろ、君は好かれてるみたいだし、贈り物...
「いやそうじゃなくてな。男から下着贈るって、なんかアレじ...
っぽいっつーか」
「何を要求って、『喜んでほしい』ってことだろ。プレゼント...
「いやでもパンツだぜパンツ」
「服をプレゼントするのはそんなに変なことじゃないだろう」
才人は天を仰いだ。格納庫の天井の汚れを何秒か数えた後、...
大真面目な顔をしていた。
(俺が変なのか? 女に下着を贈るってのは、この世界じゃ一...
そうであると仮定して、想像してみた。
「なあルイズ」
「なによ犬」
「これ、俺からのプレゼント。日頃の感謝を込めて」
「わあ、可愛いパンツ」
「一生懸命選んだぜ。ルイズに似合うと思ってさ」
「ありがとうサイト、早速履いてみるね。どう、似合う?」
「ああ、似合うよ。いや全く、ルイズは俺の女神様だなあ」
「やだもうサイトったら、人をおだてるのが上手なんだから」
「あははは」
「うふふふ」
想像終了。
才人は一つ頷いた。
(あり得ねえな。っつーかこんなこと考える自分が悲しくなる...
才人は再びレイナールに目を戻した。やはり、大真面目な顔...
いるとは微塵にも思っていないらしい。
(婚約者がいる、とか言ってたっけ。俺らが女のことで騒いで...
々性欲とか薄い奴なのかもしれねえな。で、そういう条件が...
なくなった結果、こうなったと)
一人で納得しつつ、才人は首を横に振ってみせた。
「そのアイディアは没だぜレイナール」
「どうしてだい」
「それが分かったとき、お前は人間として一歩成長することに...
「よく分からないが」
「そこをよく考えるんだ。考えれば女にパンツをプレゼントな...
教師のような口調で諭していたそのとき、才人の頭の片隅に...
ルギーを糧として、ずっと前から久しく使われていなかった脳...
る。
ルイズ。プレゼント。カメラ。そして、パンツ。これらにマ...
多くの不揃いなパーツが才人の脳の中で次々に加工され、急...
「いける」
「何が」
確信を持って呟く才人に、不思議そうな顔のレイナールが問...
浮かべた。
「資金確保のチャンスだぞ、レイナール」
300 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
ルイズは疲れていた。その日の授業の内容が、少し発展した...
統の魔法に目覚めたと言っても、他の系統の魔法が使えるよう...
授業は相変わらずルイズにとっては苦難の場なのであった。い...
る訳ではないとはっきり分かった今となっては、むしろ前より...
それでも努力を怠らないルイズは、今日も今日とてシュヴル...
錬金に挑戦し、何回目になるか分からない教室爆破回数の記録...
が「これで〜回目だぜ」とか笑っていたので後で爆発頭にして...
そういった諸々のことで疲れ果てていたルイズは、部屋に帰...
でいようと考えていた。だが、彼女は部屋の前で言葉もなく立...
「すまねえ、ルイズ」
部屋の中でうなだれている才人が、申し訳なさそうにそう言...
スタが立って、こちらの反応を窺っている。ルイズは二人には...
を踏み入れた。そして、絶叫。
「なんなのよこれは」
ルイズの部屋は滅茶苦茶に荒らされていた。荒らされていた...
ているという意味ではない。机の引き出しが根こそぎ引き抜か...
無くなっている。他にもそこそこ値打ちのある物が数点無くな...
されたらしいことは明らかだ。
予想出来るはずもなかった部屋の惨状に、数秒ほども頭が真...
飲み込めてくると、腹の底からふつふつと怒りが湧いてきた。...
いる才人に向き直り、思い切り怒鳴りつけた。
「あんた、ご主人様の部屋が好き勝手に荒らされてたってのに...
「すまねえ、ゼロ戦の調子を見ようと思って少し部屋を空けて...
ントにちょっとの間だけで」
そこまで言いかけて、才人は不意に口を噤んだ。
「いや、言い訳にはならねえよな。すまんルイズ、俺の責任だ」
「よく分かってんじゃないの」
「とりあえず早く犯人を捜して盗まれた物を取り返すことにす...
「当然でしょ。ま、お仕置きはそれまで待ってあげるわ。どう...
だし」
ルイズがちらりと部屋の片隅、すなわちいつも鞭が置いてあ...
つらせて身震いした。これで脅しは十分だろう。そのとき、話...
シエスタが遠慮がちに口を挟んできた。
「あの、ミス・ヴァリエール。今夜はどういたしましょう。服...
んですけど」
「え、本当?」
「はい。特に下着類は根こそぎ」
「うええ、気持ち悪い」
ルイズは顔をしかめた。犯人は変質者なのかもしれない。今...
か想像すると、取り返したいという気持ち自体が萎えてくる。
だが、今はそのことよりも今夜のことを考えるべきだろう。...
「どうしようかしらね。さすがに制服のまま寝るっていうのは...
「わたしの服でよければお貸ししますけど」
「それは嫌」
ルイズが即答すると、シエスタもすぐに「そうですよね」と...
「余っちゃいますもんね、どことは言いませんけど、一部分が」
「あんた最初からわたしの答えを想定して言ったでしょ」
余裕の笑みを返そうとしたら頬が引きつった。そうしていつ...
たところで、不意に才人が二人の間に割って入った。
301 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
「服のことなんだけどさ」
「なによ」
「困るだろうと思ったから、街までひとっ走りして買ってきた...
ルイズは眉を上げた。
「あんたにしちゃ随分気が利いてるじゃない」
「今回のことは明らかに俺の責任だしな。そのぐらいはするよ」
才人は部屋の隅から小さな櫃を引っ張り出してきた。どうや...
すタイミングを窺っていたようである。蓋を開けて中を覗き込...
それほど見苦しくもない服がニ、三着ほど畳んでしまいこまれ...
「へえ。あんたのことだからまたいやらしい服でも買ってきた...
「だから反省してるんだよ俺も」
「どうかしらね。ま、お仕置きのほうは少し軽めにしてあげて...
試しに一番上の服を引っ張り出したルイズは、その下にあっ...
服が置かれていたために見えなかったが、その下には見慣れな...
たのであった。ルイズは無言で服を戻すと、きょとんとしてい...
「前言撤回。どうやらあんたには今まで以上にきっついお仕置...
ね」
「ちょ、待ってくれよルイズ。俺、なんかまずいことしたのか」
才人は何故自分が主人を怒らせているのかまるで分かってい...
を煽り立てる。ルイズは目の前の阿呆の顔を何発殴ったら謝罪...
始めた。その計算が終わる前に、シエスタが背後で叫んだ。
「まあ、なんですかこれ」
振り向くと、シエスタが例の見慣れない下着を何枚か手に取...
布地が明らかに少なすぎたり、あるいは無闇に透ける生地で作...
「なにって、パンツだけど」
才人がさらりと答える。シエスタの慌てぶりとは対照的に、...
ているようにしか見えない。
(殴ろう)
ルイズは拳を固めて腕を振り上げた。蒼ざめた才人が両手で...
「だから待てって。せめて俺が殴られるべき正当な理由を教え...
「あんたね、あんな物買ってきといて白切ろうとはいい度胸じ...
「あんな物って、俺が買ってきた服になんか問題があったのか」
才人はまるで訳が分からないという様子で、少なくともこち...
ようには見えなかった。
「あの、ミス・ヴァリエール」
シエスタが背中を突いたので、ルイズは仕方なく才人を解放...
て、メイドの少女と顔を突き合わせる。
「ひょっとして、サイトさん本当に分かっていらっしゃらない...
「どういうことよ」
「ほら、サイトさんって他の世界の人なんでしょう。ひょっと...
う布地の少ない下着が一般的なのかも」
「そんな馬鹿な話がある訳ないでしょうが」
「分かりませんよそんなこと。だって、あの『竜の羽衣』だっ...
いものだったじゃないですか。それに、サイトさんの世界と...
分違うみたいですし」
ルイズはちらりと才人を見る。確かに、彼がいつも着ている...
まで見てきたどんな服とも違っていた。素材はもちろん、その...
最初の頃はずいぶん珍妙に見えたものだ。だが、才人の世界で...
302 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
「だからって、あんないやらしい下着が普通だなんて」
「サイトさんにとっては特にいやらしくもない下着なんじゃな...
たら、あのサイトさんがあんな平静に振舞えるはずありませ...
か目をそらすとか、そういう風になるはずです」
「そりゃ、そうかもしれないけど」
才人は嘘を吐くのがあまり上手くない。ルイズ自身察しがい...
どこかしら様子がおかしいと感じていたものである。だが、今...
じられない。
(ってことは、あいつ、本当にこの下着に対して変な感情は持...
ルイズは改めて才人を凝視した。何故自分がこうも疑われて...
どれだけ見つめていようが、その表情が崩れることはない。ど...
がどうにも納得できかねたので、ルイズはいくつか質問してみ...
「サイト、あんた、これどこで買ってきたの」
「どこって、そりゃ古着屋だよ」
そう言ってから、才人は慌てたように腕を振った。
「いや、そこに関しては怒んないでくれよ。俺の手持ちの金じ...
せなかったんだからさ。ほとんど全財産はたいて、ようやっ...
「それはまあ別にいいわ。我慢してあげても。それより、これ...
たでしょうね」
「そうだなあ」
才人は腕組みしてしばらく考えたあと、困ったように首を傾...
「別に、変なことなんてなかったと思うけど。普通に金出して...
「本当でしょうね」
「ああ。あ、でも、なんか特別な品だとは言ってたな、それ。...
てるって言ったら、誰も買ってくれなくて処分に困ってる服...
ルイズはため息を吐いた。
(要するに、こんなはしたないデザインの下着なんか誰も買っ...
のこのこカモがやってきたから『捨てるよりゃマシだ』って...
だが、まだ完全に納得することはできない。ルイズは櫃の中...
の下着を数枚取り出すと、才人の眼前に突きつけてみた。
「あんた、これ見てどう思う」
「どうって」
才人は目の前の下着をしげしげと眺めた後、こちらがどうい...
く分かっていない自身なさげな表情で、ぽつりと呟いた。
「パンツだなあ、と」
「そうね、パンツね。パンツよね。パンツだわ」
303 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
ルイズは歯噛みした。どうやらこの男はこういうデザインの...
躇うようなデザインだということが本気で分かっていないらし...
らどんな感じになるか想像してみなさい」だとか言って、自分...
たい気分になったが、こっちも恥ずかしくなりそうなので実行...
シエスタがまた背中を突いてきた。
「ミス・ヴァリエール。あんまり怒るとサイトさんが可哀想で...
「でも」
「サイトさん、本当に分かってないみたいですし。ミス・ヴァ...
ですから、許してあげましょうよ」
そう言われると、うまく怒りを発散できなくなってしまうル...
に問題があるという点を除けば、才人の行動は主人のことを一...
わりの服を買う前に犯人を捜せ」と言いたいところではあるが...
を見ると、そうする気もまた萎えてくるのだ。
煩悶の末にとうとう観念し、ルイズは深いため息を吐き出し...
「分かったわ。とりあえず、あんたは犯人を捜して出来る限り...
部屋の片付けはシエスタにやってもらうから」
「おう。任しといてくれ。泥棒に入られた責任、きっちり取っ...
真剣な表情で頷いた才人が出て行ったあとで、「それにして...
また頬を染めた。
「すごいですねこれ。もうほとんど下着じゃないですよ。むし...
「誰が考えたのかしらねこんなの」
「さあ。だけど」
シエスタは先程よりも更に頬を染めると、ちらりと探るよう...
「あの。これ、一枚頂いてもいいですか」
「何を企んでるのかしら、あんたは」
じろりと睨むと、シエスタは恥らうように視線をそらした。
「企んでるだなんてそんな、人聞きの悪い。わたしはただ、サ...
んでいただきたいなあと」
「要するにそれ履いてサイトを誘惑しようって訳ね。なんてい...
相変わらず春真っ盛りみたいね」
「だって、これ履くんでしょうミス・ヴァリエールは」
「履かないわよ」
「え、履かないんですか」
「別に、下着なんて一日ぐらい換えなくたって」
「不潔」
シエスタの眼差しにじっとりとした軽蔑の念が宿る。ルイズ...
「ごめん、よく聞こえなかったわ。もういっぺん言ってみてく...
「不潔。不衛生。ばっちいです」
「あんたね」
「わたしのような村娘ならともかく、貴族であるミス・ヴァリ...
です。サイトさんも幻滅するだろうなあ」
それを言われると弱いルイズである。こんな奇抜すぎるデザ...
さすがに誰かに下着を借りるというのもどうも躊躇われる訳で。
「まあ、あいつが犯人捕まえて服取り返すまでの間だけだし」
結局、ルイズは妥協することにした。すると、シエスタもい...
「じゃあ、わたしもこれ頂きますね。ミス・ヴァリエール一人...
ませんし」
「あらありがとうシエスタ。わたしあなたの友情に感動して涙...
「いえいえそれ程のことでも」
互いを牽制するように視線をぶつけ合いながら、二人はしば...
304 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
ルイズの部屋を飛び出した才人は、その勢いを衰えさせない...
一気に駆け抜けてゼロ戦格納庫の中に飛び込んだ。隅っこのテ...
に振り返る。才人は彼らのすぐそばまで走り抜け、固唾を飲む...
「成功だ。後は撮るだけだぜ」
ギーシュとマリコルヌが歓声を上げる。レイナールも「やれ...
「大丈夫なんだろうな、サイト。ばれたらひどいことになるぜ...
「安心しろよ。この日のために何日も準備してきたんだぜ。ル...
思ってないと信じ込んでるはずさ」
「それならいいけどね」
「で、そっちの準備は大丈夫なんだろうな」
「任しておいてくれよ」
ギーシュがカメラを、マリコルヌが杖を構えて自信ありげに...
「こっちも何とかなった。彼女のお眼鏡に適う肉を用意するの...
協力してくれるそうだよ」
「よし。それじゃ、決行は明日だ。いいか皆、しくじるんじゃ...
「おうとも」
「任せてくれ」
「心配はいらないさ」
才人の声に、他の三人がそれぞれの声音で応じた。
翌日の昼時、ゼロ戦の格納庫の前に立った才人は、午前の授...
やや緊張しながら聞いていた。間もなく、犯人捜しの進展を聞...
そのときが、彼らの決戦のときだった。
上空を見上げて目を細める。こちらからぎりぎり見えるか見...
ものが見える。遥か上空で滞空しているシルフィードである。...
肉につられて嬉々としてこちらに協力しているものらしい。そ...
杖を構えたマリコルヌが乗っているはずだった。
格納庫の中に目をやると、壁のそばに控えたレイナールが頷...
置である。その手には、やはり杖が握られている。
(頼むぜ、皆)
そのとき、広場の向こう側に小柄なシルエットが現れた。ル...
らに気付いたらしく、小走りに駆けてくる。才人は彼女に向か...
開始の合図だった。
425 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
大地から遠く離れた空の上、地上とは比較にならない勢いで...
フィードの背に跨ったギーシュとマリコルヌは、ただじっと時...
シュが普段はタバサの定位置である背びれの辺りに陣取り、マ...
いる。「遠見」の魔法で、眼下の格納庫付近の様子を観察して...
「もうすぐだな」
マリコルヌの呟きに、ギーシュは無言で頷き返した。このと...
でこんなところにいるのである。気合は十分だった。十分すぎ...
も力が入る。
(そうだ。僕は、今日こそ)
今日こそ、何なのだろう。ギーシュは心の中で苦笑した。気...
っぱい考えてしまっているようだ。
「しかし、意外だったな」
おかしそうな声に振り返ると、マリコルヌがこちらを見て笑...
「まさか、ギーシュほどの男がパンツを見たことがないだなん...
ゃあないか。どうしてだい」
一瞬答えが浮かばずに、ギーシュは気まずくなって目をそら...
「ほら、僕は紳士だからね。本当に愛している女の子以外に、...
「ちぇ、選択肢のある奴は羨ましいよ、全く」
ひがむように口を尖らせたあと、マリコルヌは「まあいいさ...
「今日ばかりはそういう発言もどうでもいい。なんたって、パ...
ただのパンツじゃない。ルイズのパンツだ。しかもあんな大...
だけで鼻が熱くなってくるよ」
マリコルヌの顔がどんどんにやけていく。そのしまりのない...
いと感じた。
「ねえねえ」
不意にシルフィードが会話に割り込んできた。
「何のお話してるの。パンツがどうしたの。シルフィにもお話...
「悪いがこれは男同士の話なんだ。女性は黙っていてくれたま...
やたらと尊大な口調で言い返した後、マリコルヌは不意に目...
「ギーシュ、合図が来たぞ」
ギーシュも口を引き結んで頷き返す。
「きゅいきゅい。合図って何なの、何なの」
ただ一人、詳しい事情を知らないシルフィードが、首を動か...
は苦笑混じりに答えた。
「後で教えてあげるとも。それより、段取りは分かっているね」
「んーと、ギーシュさまが『今だ』って言ったら広場全体に上...
それでお肉がたくさんもらえるんだったらお安い御用なの。...
「うむ、頼むよ。マリコルヌ、まだかい」
「そろそろだ。ルイズが近づいてきた。ギーシュ、カメラの用...
「了解だ」
ギーシュは少し上半身を乗り出して、手に持ったポラロイド...
は空の上である。覗き窓の中に写るのは、ほとんど玩具のよう...
の全景と、その周囲に広がる緑豊かな大地だけだ。それを撮る...
いが、もちろん今の彼らの目的はそれではない。ギーシュは一...
にマリコルヌを振り返る。
426 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
「いいぞ、マリコルヌ。接続を開始してくれ」
「分かった」
普段の彼からでは想像もつかないほど真剣な表情で頷いたマ...
詠唱を始めた。「遠見」の魔法である。本来、この魔法は先ほ...
分が遠くのものを見るために用いる。だが、魔法を知らぬ才人...
本来の使用法とは全く異なるものであった。
「カメラに『遠見』をかけて、遠くのものを写すことはできな...
誰も試したことのない方法だった。そもそもカメラというも...
の物体である。だが、試しにやってみたところ、ファインダー...
姿を鮮明に写し出した。こうして実験は成功し、作戦は実行可...
詠唱を終えたマリコルヌが、杖の先をカメラに向ける。ギー...
すると、草の間を縫うように行進する蟻の姿が映し出された。
「近すぎるぞマリコルヌ」
「分かった」
ファインダーの中の風景が遠ざかる。隅に写っているベンチ...
なければ目当てのものは捉えきれないはずである。
「マリコルヌ、あともう少し近づけてくれ。ああ、ダメだ、近...
細かすぎる要求に従って、風景が近づいたり遠ざかったりす...
るギーシュには見えないが、今マリコルヌは全身全霊をかけて...
る。だが、それでもなかなか適正な距離にならない。この数日...
の練習に費やしてきた彼だったが、やはりベストな位置に視界...
い。だが、やってもらわなければ困るのだ。
そのとき、四角く区切られた視界の隅に、小走りに駆けるル...
は息を飲み、慎重にカメラの角度を微調整する。視界がルイズ...
に尻の辺りを中央に捉えた。
だが、それだけではまだ足りない。この数日間死に物狂いで...
ー越しに走るルイズの尻を追う。完璧なカメラワークだ。これ...
い。
だと言うのに、何故「今だ」と声を上げられないのか。
(どうした、早くするんだギーシュ・ド・グラモン。お前がし...
しまうんだぞ)
手の平に汗が滲む。腕の震えが四角い世界をぐらつかせる。...
求め続けた獲物をファインダーの中に追いつめたというのに、...
きない。体のどこかから発生した鈍い痛みが、ゆっくりと全身...
なった。
(緊張しているのか。違う、僕は怖がっているんだ)
急に寒くなってきた。四肢の感覚が消え失せてしまうほどの...
暴れまわる。ギーシュは心の中で悲鳴を上げた。
(何を怖がる。何を恐れているんだギーシュ・ド・グラモン。...
って何人もの女の子と親しい関係になってきたじゃないか。...
しかし心は定まらない。荒れ狂う嵐の真ん中に放り出された...
されるばかり。
(駄目だ、怖い。どうしてだ。何故なんだ。僕は何を恐れてい...
何度も必死で問いかける内に、胸の奥から何かが浮き上がっ...
ギーシュは驚愕する。
(いや、違う。僕は、この感情を知っている。ただ、今まで目...
それは、心の奥底に深く沈められていた、ギーシュの本当の...
留めていた虚勢という名の膜は、極限状態で破れてしまった。...
べたついた感情がギーシュの意識に飛び込んでくる。
427 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
(僕はパンツを見るのが怖い。僕にとってパンツというのが未...
ことがない。見ようとしたこともない。怖かったからだ。キ...
のことをうまくやる自信がなかったんだ。だって、パンツな...
だ。最後までやらなくちゃならないんだ。それを知っていた...
とは思わないようにしていた。『僕は紳士だから』なんて言...
僕は怖かったんだ。ただ怖かっただけなんだ。僕は、パンツ...
鎧が剥がされ、吹き飛ばされていく。今やすっかり無防備と...
(そうだ、僕はパンツを見るのが怖かった。だから出来る限り...
ボーイとしての面目が保てるように、必死で取り繕ってきた...
能になってしまった)
ギーシュの脳裏に、一人の少女の姿が浮かび上がる。見事な...
ンシー。
(僕はモンモランシーが大好きだ! 愛していると言ってもい...
言うか抱きたい。でも自信がない。うまくやれなくてモンモ...
いだ。色男の仮面は剥がれ落ちて、残るのはパンツも見れな...
の女の子に気がある振りをしたり、折角のいい雰囲気を間抜...
うすることで、顔はいいけどお間抜けなギーシュ・ド・グラ...
うそんなのは嫌だった。モンモランシーを抱きたかった。だ...
が恐れずにパンツを見ることができる男だと証明したかった...
極限状態に置かれて、ギーシュはようやく己の本心に気付く...
だが、もう遅い。暴かれた本当の気持ちは、目の前の現実に...
を見るのを恐れていては、作戦の遂行など幻想に過ぎない。
こみ上げてくる涙を拭うことも出来ずに、ただぎゅっと目を...
「ギーシュ、まだなのか、早くしてくれ」
「ねえねえ、まだなのギーシュさま。きゅいきゅい」
マリコルヌとシルフィードの喚き声が、じょじょに遠ざかっ...
(駄目だ、僕には無理だ! 助けて、誰か、助けてくれ!)
気がつけば、ギーシュは暗闇の中で泣きわめていた。無力感...
(ああ、駄目だった。やっぱり僕は、優秀な兄さんたちとは違...
れだったんだ。プレイボーイを自認しておきながら女の子の...
て。色男揃いと名高いグラモン家の恥さらしだ)
そんな風に嘆いていたとき、懐かしい誰かが、ふとギーシュ...
428 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
「何だ、まためそめそ泣いているのか、ギーシュ」
顔を上げると、兄がいた。軍人らしくない、気さくな微笑み...
驚いて周りを見回すと、そこはもう暗闇ではなく、懐かしい...
き誇る薔薇の香に囲まれたそこで、子供の頃のギーシュはよく...
「どうした、また誰かに『口だけの弱虫』とかっていじめられ...
兄が隣に腰掛ける。ギーシュはしゃくり上げながら首を振っ...
「違うのか。じゃ、どうしたんだ」
「兄さん」
ギーシュは兄の顔を見上げた。自分とよく似て、線が細い、...
は、やることなすこと何もかもが様になって見えるところだっ...
かべ、人の心に染み入る詩を澱みなく謳い上げる。細く繊細な...
雅に髪をかき上げる。見る者全てをはっとさせるような所作の...
離さないのだ。
彼ならば、自分の疑問に対する答えを持っているかもしれな...
据え、決死の覚悟で問うた。
「パンツとは、何ですか」
兄は一瞬驚いたように目を見開いたあと、感慨深げな微笑を...
返した。
「そうか。お前も、もうそんな年か」
しみじみと呟いたあと、ふと遠い目で彼方を見やる。その視...
の地平線に沈みゆく夕日が見えた。彼らはいつしか、穏やかな...
だ。
「パンツ。パンツか」
どう答えたものかと考えるように、兄は細い指で顎を撫でた...
熟考した後、「ふむ」と一つ頷いて答える。
「そうだな。言うなれば、甘き蜜溢るる至高の楽園へと続く、...
その言葉は、圧倒的な余韻を持ってギーシュの胸に浸透した...
最後の扉。
(なんて詩的なんだ。やっぱり兄さんは凄い。誰もが認める最...
感動に体を震わせるギーシュに、兄は警告するような視線を...
「だが間違えてはいけないぞ、ギーシュ。この扉には頑丈な鍵...
「鍵、ですか」
「そうだ」
兄は重々しく頷き、再び地平線の向こうに目を移す。端正な...
「特別な鍵だ。偽物では開くことができないし、かと言って無...
甘き蜜溢るる至高の楽園どころか、雑草がぼうぼうに生い茂...
そんなところでは幸せになれない。鍵が必要なんだよ、ギー...
にただ一つしかない鍵がね」
「その鍵は、一体どこにあるのですか。教えてください兄さん」
必死に問いかけるギーシュに、兄は謎めいた微笑を浮かべて...
「教えることなんてできないさ、ギーシュ。いや、教える必要...
「どういうことですか」
「聞くなよ。聞く必要だってないはずだぜ。お前はもう、その...
ずだ。もっとも、お前が真に楽園への鍵を手に入れることを...
ギーシュは苦悩した。兄の言わんとしていることが、どうし...
そんな弟を見て、兄は「やれやれ」と呟き、苦笑した。
「仕方ないな。まあ、教えてやることは出来ないが、助言なら...
かにしろ。雑念を捨てて振り返るんだ。その先に、答えはあ...
429 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
兄の教えに従い、ギーシュはまず目を閉じた。ニ度、三度と...
っていく。昂ぶりも恐れも、何もかもが風のように吹きすぎて...
に一つの音が響き渡った。それは、一滴の水が水面に落ちる、...
ギーシュは振り返り、カッと目を見開いた。
最初に見えたのは、風に舞い散る薔薇の花びらだった。赤、...
りどりの花びらが、澄み渡った蒼穹で渦を巻いている。目が痛...
なのに、不思議と不快感を感じない。むしろ、様々な表情を見...
だか誇らしかった。
その中心に、彼女がいる。金髪巻き毛の、愛しい少女。
「モンモランシー」
薔薇の花びらが風に舞ってその色合いを変えるたびに、モン...
わる。
ムッとした怒り顔。
つんと上向くすまし顔。
鼻高々の得意げな微笑。
己の未熟さを責める悔しげな顔。
ほっと息をつく和らいだ笑顔。
そのどれもが魅力的で、どうしようもなくギーシュの心を惹...
気がつけば彼女のことばかり見つめている。
ギーシュの胸が熱くなる。気付くと、花の渦の中心に向かっ...
「僕は君が好きだ。愛しているよ、モンモランシー」
今まで何度も口にしてきた言葉だが、何故か今になって初め...
そして同時に理解し、実感した。これこそが、全ての答えな...
花びらの海の向こうで、彼女が微笑んだ。
430 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
ギーシュははっとして目を開いた。いつの間にやら、周囲の...
吹き荒れる風、そして怒鳴るマリコルヌ。
「おいギーシュ、一体どうしたんだよ、そろそろ限界だぞ」
その声に一瞬で状況を把握し直し、ギーシュは慌ててカメラ...
だが、四角い窓の中に写るのは丈の短い芝生だけだ。
(見失ったか。いや、まだだ)
一瞬絶望しかけながらも、ギーシュはカメラを動かして獲物...
うな確信があった。そして、実際に見つけた。手を振る才人に...
の背中を。
(ようやく気持ちが定まったよ、兄さん。僕は鍵を見つけてみ...
んだ)
ギーシュはカメラを持つ手に力を込めた。焦らず慎重に、そ...
も良好な位置に視界を固定したまま、ファインダー越しにルイ...
(今か。いや、まだだ)
甘き蜜溢るる至高の楽園へと続く、最後の扉。その姿を完全...
だじっと待つ。
「おい、ギーシュ、いい加減にしろよ。早くしないと僕のパン...
急かすマリコルヌの声が急速に遠ざかっていく。ギーシュは...
神経を集中させた。徐々に感覚が研ぎ澄まされていくのが分か...
の魔法が発動するまでのタイム・ラグ、シャッターを切るとき...
で収束し、分析されていく。そして弾き出された究極のタイミ...
「今だ!」
ギーシュの叫びに応じて、シルフィードが魔法を解き放つ。...
た。四角く区切られた視界の中で、前屈みになったルイズが必...
ている。だが、無駄な抵抗だ。
(モンモランシー、僕はもうパンツのことを恐れない。その向...
心の底から思うんだ。心の底から力が湧いてくるんだ。甘き...
を、恐れずに開け放つための力が。僕は今こそ、君という至...
そしてついに、ルイズのスカートがマントごと風に捲り上げ...
ギーシュは全身全霊をかけてシャッターボタンを押し込んだ。
じょじょに風が止み、周囲に静寂が戻ってくる。
「ねえねえどうなったのどうなったの、何がどうなったの」
無邪気に問いかけるシルフィードに、ギーシュとマリコルヌ...
呑んで、ポラロイドカメラが小さな音を立てるのを見守った。
そして、カメラの下部から一枚の写真が吐き出される。
そこには、こちらに向かって突き出された小ぶりな尻と、そ...
が鮮明に焼き付けられていた。
二人の人間の気狂いじみた歓声を浴びたシルフィードは、「...
いた。
239 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
突風が止んで恐る恐る目を開けると、少し離れたところに立...
上げているのが見えた。
「凄い風だったなあ。びっくりした」
そんなことを呟いている。ルイズはじっと彼の顔を凝視した...
たように若干身を引きながら喋るその表情からは、何かを隠し...
い。
ルイズはほっと息を吐いた。突風が吹いていた間中、スカー...
のだ。あまりに風が強かったために目を開けていることすら出...
人も同様だったようである。つまり、スカートの中身を見られ...
(誰かに見られてたような気がしたんだけど、気のせいだった...
ツなんか見られた日には)
ルイズは顔が熱くなるのを自覚した。そんなことになったら...
まっていたことだろう。
「どうした、ルイズ」
主人の内心を知ってか知らずか、才人はとぼけた顔つきで首...
と答えてから、ルイズは腰に両手を当てて使い魔を睨みつけた。
「そんなことより、犯人探しはどうなってんのよ」
「いやあ、それがあんまり思わしくなくてなあ」
「つまり、まだ見つかってない訳ね」
「悪い、もうちょっと待っててくれよ」
才人は両手を合わせて頭を下げる。
調査の進展自体は不満だが、いつものようにあれこれと愚痴...
好感が持てる。
「仕方ないわね、もっと気合入れて頑張りなさいよ」
ルイズがほんの少し気をよくしながら言ったとき、不意に強...
な奇妙な突風ではないが、身を切るように冷たい風だ。
体を震わせながらマントをかき合わせたとき、ルイズの口か...
「寒いのか」
気遣うように眉尻を下げながら、才人が言ってくる。主への...
胸が温かくなるのを感じながら、ルイズは鼻を啜り上げた。
「ま、あんたが服を取り返したら、せいぜい着込んで暖かくし...
240 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
ルイズが去り、学院の授業も終了した深夜、密かに寮を抜け...
していた。
いつものテーブルに陣取り、顔を突き合わせる。ランプの明...
る心配はないはずである。
「で、結果はどうだったんだ」
緊張しながら問う才人に、得意げに笑ったマリコルヌが一枚...
ぶりで可愛らしいお尻が一つ、鮮明に焼き付けられていた。
「おお、ルイズがこんなやらしいパンツを」
才人は感動に胸を高鳴らせながら、震える両手で写真をつか...
浮かび上がった尻が身に付けているのは、白いパンツである。...
い。布地全体にメッシュ加工が施された、透過性の高い下着だ...
「スケスケパンツ……!」
才人は目を極限まで見開いてルイズの尻に見入った。メッシ...
胸の谷間など望むべくもない彼女の体にも、こんなにも狂おし...
である。写真に頬を摺り寄せたい気分になってきたが、さすが...
たので自重していおいた。
「ま、何にしても作戦は成功という訳だな」
写真そのものにはさして興味もなさそうな表情で、レイナー...
「これをあれこれと利用すれば、確かにいい資金稼ぎにはなり...
必要としている諸兄も多い訳だし」
「言っとくが、これはやんねーぞ」
才人は仲間たちの視線から遠ざけるために、写真を手の中に...
「分かっているとも。今回はあくまでも、果たしてこういうこ...
試験みたいなものだからね。シルフィードへの肉代は高くつ...
十分利益になるだろう」
「レイナール」
興奮だか恥じらいだかいまいち判断がつきかねる具合に顔を...
を叩いた。
「次の標的は是非とも僕に決めさせてもらいたいんだけど」
「ああ、いいとも」
レイナールは実に爽やかな笑みを浮かべて頷いた。
「この中では、君が一番こういうものを欲しがるような男たち...
是非とも高く値がつきそうな娘を紹介してくれたまえよ」
「おお、任せておけ。そうだな、とりあえずは」
マリコルヌは息を荒げながら次々と少女たちの名前を挙げ始...
るしかない。
そのときふと、隣に腰掛けたギーシュが感慨深げな表情で自...
「どうした、ギーシュ。手、怪我でもしたのか」
「いや、違う。むしろ、長年の傷が治ったというべきか」
やたらと深みのある微笑と共に、ギーシュは首を振った。
「サイト、ありがとう。今回のことで、僕は一つの壁を乗り越...
開けることができる」
「扉が、なんだって」
「詳しい話はまた後日するよ。今日の僕の勇姿をその目に焼き...
ばだ。僕は決戦の場へと向かう。この心に鍵を携えて」
意味不明なことをやたらと芝居がかった口調で言いつつ、ギ...
いく。その背中は、何故だかやたらと煤けて見えた。
241 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
まだ会議を続けているマリコルヌとレイナールを残して、才...
を歩きながら、ルイズの尻写真をうっとりと眺める。
「全くいい仕事だぜギーシュ、マリコルヌ。いくら眺めてたっ...
尻とパンツの芸術的なコラボレーションを鑑賞するのは実に...
も眺めている訳にはいかない。
そもそもにして、これをルイズに発見されでもしたら一転し...
絶対に見つからないように気を配らなければならない。
(って言っても、隠し場所なんかすぐには思いつかねえしな。...
そうして火の塔のそばを通りかけた才人は、暗い視界の片隅...
を止めた。
妙な予感にとらわれながら、闇の中に横たわる小さな物体に...
「おいおい、マジかよ」
それは、先日拾ったものと全く同じ種類のバッグであった。...
ると、柔らかい感触が返ってきた。間違いなく、布製の何かが...
「一体誰なんだ、こんな頻繁に下着ドロなんかやってる奴は」
周囲を見回してみる。やはり前回同様、これがどこからどう...
人が元の世界に戻る手がかりにはならないということだ。だが...
もよくなっていた。
「どうするかな、これ」
もう一度何とかしてルイズに着てもらおうかとも考えたが、...
思いつかない。さすがに今回と全く同じ口実でいくのは不審に...
(ま、これの扱いも後で考えるとするか)
とりあえず中身を確認しておこうと、才人がバッグ中央のジ...
「サイト、それはまさか」
と、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。やけに震え...
振り返ると、そこには呆然と目を見開いたマリコルヌが、小太...
「サイト、それは、ひょっとして前のと同じ」
マリコルヌがこちらに近寄りながら言ってくる。才人は仕方...
「ああ、そうだと思うぜ。まだ中身は見てないけどな」
「それじゃ、すぐに確認しないと」
マリコルヌが息を弾ませながら突っ込んでくる。才人はさっ...
上げて顔面から塔の壁に激突する。
「何をするんだ」
「その前に、一つ聞かせてくれ」
鼻血を流しながら抗議してくるマリコルヌに、慎重に問いか...
「お前、この中身のパンツをどうするつもりなんだ」
「それはもちろん、僕が知ってる可愛い女の子に着てもらって...
「どうやって着てもらうんだ」
「どうにかするよ。ああ、あの子達のパンツを見られるなんて」
げへへともぐへへとも表現できない下品な笑いを漏らすマリ...
パンツを一度も生で見たこともないマリコルヌのこと、今回...
うのではないかと、警戒してはいたのだ。
(こいつにこのバッグを渡したら、興奮のあまり穴だらけの手...
そうなったら、いずれ今回のことがルイズに露見してしまう...
(そんなことになったら俺は破滅だ)
なんとしてでもバッグを死守せねば。そんな才人の決意が、...
と擦り傷でボロボロになった顔に、怒り狂った猪のような危険...
「サイトよお。まさか君、僕の邪魔をしようってんじゃあない...
「なに粋がってんだこの豚野郎。テメエこそせっかく上手くい...
るんだな」
「誰のおかげで今回の計画が成功したと思ってるんだ」
「俺が発案しなけりゃそもそも思いつきもしなかっただろうが」
マリコルヌが杖を取り出し、才人がデルフリンガーを引き抜...
「相棒、何だってこういう状況になるまで俺に喋らせてくんね...
「黙れデルフ。野郎の嫉妬パワーを侮る訳にはいかねえ。全力...
「それはこっちの台詞だぞサイト。大人しくパンツを渡さない...
拝まなければならなくなるじゃあないか」
風魔法でこちらを切り刻むつもりらしいマリコルヌが、早口...
才人は決死の覚悟で一歩踏み出した。
242 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
結果から言うと、マリコルヌとの勝負は才人の辛勝であった。
乱れ飛ぶ風魔法をデルフリンガーで吸収しながら、嫉妬パワ...
リコルヌを必死で追い回し、やっとのことで気絶させて逃げて...
「ま、あいつも明日になりゃちょっとは冷静になってるだろう」
ルイズの部屋の扉の前で、才人は小さく息を吐いた。胸には...
部屋になど持ち込みたくはなかったのだが、他にいい隠し場所...
に隠すしかない。
(ま、ルイズもシエスタもこの時間じゃ寝てるだろうし、隠す...
そんなことを考えていたとき、唐突に目の前の扉が開いたの...
「あれ、何やってるんですかサイトさん」
眠たげに目を擦りながら、シエスタが問いかけてくる。予期...
は何とか取り繕った。
「いや、トイレだよトイレ。シエスタこそどうしたんだ」
シエスタはぼんやりと突っ立ったまま少しの間目を瞬かせた...
「なんだか、サイトさんが外にいるような気がして」
(どういう勘の良さだよオイ)
内心冷や汗を垂らす才人の前で、シエスタはおもむろに視線...
「ところで、それなんですか」
その視線を追って、才人はぎょっとした。動揺のあまり、持...
れていたのだ。
「これはほら、えーと、あれだよ」
上手い言い訳が思いつかずにひたすら歯切れ悪くなってしま...
そうな表情でじっと見つめていたが、やがて「ああ」と、無垢...
「サイトさん、また服を買ってきてくださったんですね。あり...
シエスタは大きく頭を下げる。さっきトイレだと説明を受け...
が、多分寝惚けているんだろうと胸を撫で下ろし、才人は何度...
「え、ああ、そう、そうなんだよ。あれだけだと足りなくなる...
「そんなにお気になさらなくても結構ですのに。ミス・ヴァリ...
っていないんですよ」
「いやまあ、これはなんつーか、俺の気持ちっつーかさ」
そのとき、不意にシエスタがくしゃみをして、「ごめんなさ...
「ほら、いつまでもこんなとこに突っ立ってると風邪引いちま...
体を抱いて身震いする彼女を、才人はここぞとばかりに部屋...
入れて、自分はその隣に横になる。
「おやすみ、シエスタ」
「はい、おやすみなさい、サイトさん」
眠たげな声でそう言ったシエスタが健やかな寝息を立て始め...
「シエスタ、シエスタ」
何度か小声で呼びかけても反応がないことを確認した才人は...
下にバッグを隠した。
(明日、ルイズとシエスタがいなくなったらゼロ戦の格納庫で...
心の中でそう決めつつ、才人もまた深い眠りの中へと落ちて...
243 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
広場で突風に襲われた翌日の朝、ルイズは何となく落ち着か...
いつもどおり、才人は部屋から追い出してある。だから今部...
だけな訳で、どれだけ下着がいやらしかろうと特に恥ずかしが...
だと言うのに、何故だか気分が乱される。その原因を捜し求...
ていたシエスタと目が合った。
「どうしたんですか、ミス・ヴァリエール」
どことなくぎこちない微笑を浮かべて、シエスタが首を傾げ...
(怪しい)
ルイズは眉をひくつかせる。しかし、ここで問い詰めたとこ...
能性は少ないように思えた。だから、別段何にも気付いていな...
「別に、なんでもないわ。じゃ、いつもどおり部屋の掃除よろ...
「はい、分かりました。それじゃ、行ってらっしゃいませ」
頭を下げるシエスタに見送られて、部屋の外に出る。待って...
「じゃ、俺は犯人探しを続けるから」
「ええ。さっさと見つけなさいよ」
才人の姿が広場の方に消えたのを見届けてから、ルイズは駆...
ったキュルケが「どうしたの、忘れ物」と聞いてくるのへ「そ...
段を駆け上がる。忍び足で廊下を進み、自分の部屋の扉を前置...
下に手を突っ込んでいたシエスタが、悲鳴を上げて振り返った。
「なんだ、ミス・ヴァリエールですか。脅かさないでください」
メイドの少女は、誤魔化すような笑みを浮かべて立ち上がっ...
ち、両手に腰を当てて彼女をにらみつけた。
「あんた、なんか隠してるでしょ」
「いえ、別に何も」
シエスタは気まずそうに目をそらす。ルイズはそんな彼女を...
にしゃがみこんで、寝台の下を覗き込んだ。
「あっ、ダメですミス・ヴァリエール」
慌てて止める声など気にもせず、暗がりに目を凝らす。何か...
「何よこれは」
「いえ、別に、下らないものですから」
「じゃあわたしが見たって問題はないわよね」
寝台の下に手を突っ込んで、その物体を取り出す。見慣れな...
してみてもやっぱり見慣れないものとしか言いようがなかった...
ら袋のようなものらしいということだけは分かる。
「何これ」
「中に服が入ってるんだそうです。昨日、サイトさんが持って...
ため息混じりに、シエスタが答える。ルイズの目元が引きつ...
「つまりなに、あんたあの馬鹿が買ってきた服を独り占めしよ...
「いえ、独り占めだなんて。ただ、出来ればミス・ヴァリエー...
あ、なんて」
「呆れた。まあいいわ。あの馬鹿、今度はどんだけやらしい物...
「あ、やっぱり気になりますよねそういうの。開けてみましょ...
244 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
とは言え、見慣れない物体はやはり見慣れない物体なので、...
のか、少しの間悩むことになった。結局、中央にある銀色の金...
るまで、少々時を浪費することになってしまった。
そして、開いて中身を取り出してからも、二人はただひたす...
「何でしょうね、これ」
中にあったものの一つをしげしげと眺めながら、シエスタが...
「分かんないわよ。やらしい下着でないことだけは確かだけど」
ルイズもまた、他のものを一つ手にとって、眉をひそめるし...
見慣れないものの中に入っていたものは、やはり見慣れない...
いや、服であるらしいのは分かるのだが、どうも女性の衣服...
二人はまたしばしの間どうしようかと悩んでいたが、やがて...
「え、これ着るのあんた」
ルイズがぎょっとして問いかけると、シエスタは覚悟を決め...
「だって、サイトさんがわざわざ選んで買ってきて下さったん...
ずですし、つまりわたしたちに似合うものだと思ったんです...
「ええ、これが」
手の中にあるものを見て顔をしかめるルイズに、シエスタは...
鳴らしてみせた。
「前にサイトさんが持ってきた、水兵さんの服を考えてみてく...
こういった装いの女性こそが魅力的なのかもしれませんよ」
「いや、どう考えても違うと思うんだけど」
「じゃ、着なければいいじゃありませんか」
そう言われると、ルイズの心に迷いが生まれた。
確かに、才人は自分たちがいやらしいと思うデザインの下着...
ということは、目の前にある奇妙な服が彼の欲情を掻き立てる...
ない、のかもしれない。
そうやってルイズが悩んでいる内に、シエスタが着替えを終...
「どうですか」
と言って優雅に回転して見せるが、やはり奇妙な装いにしか...
(でも、もしもサイトがこういうの好きなんだとしたら)
そう考えると、やはりシエスタ一人にだけ着替えさせておく...
245 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
ゼロ戦格納庫でしばらく待機していた才人は、頃合を見計ら...
いつもならば、この時間ルイズの部屋には誰もいなくなるは...
(鬼のいぬ間に、ってね)
それでも最大限注意を払いつつ、才人はするすると寮の中を...
応用心して扉に耳を押し付けてみる。
すると、予想外なことに、部屋の中から聞き慣れた少女二人...
「やっぱり変だと思うんだけど、これ」
「そうですよねえ」
ルイズとシエスタだ。
(シエスタはともかく、なんで授業中のはずのルイズが)
困惑しつつも、才人は耳に神経を集中する。
「あいつ、本当にこういうのが好きなのかしらね」
「でもでも、見ようによっては魅力的、かもしれませんよ」
「男の感覚ってのは分かんないわね」
「それ以前にサイトさん別の世界の人ですもの」
「じゃ、やっぱりこういうのの方がやらしく見えてるんだ、あ...
会話の内容から察するに、昨日隠しておいたバッグは見つか...
ちはその中身を試着しているようだ。
(おいおいおいおい、これって千載一遇のチャンスってやつな...
仮に、二人が中で下着姿になっていたとすれば。この扉を開...
ずである。
(行くか、行っちゃうか、俺)
無論、下着姿なんぞ見られたルイズは怒り狂って普段の数倍...
いない。だが、そんなものを恐れていては男のロマンは完成し...
る恐怖を、意志と欲望の力で無理矢理ねじ伏せた。
(覚悟を決めろ、平賀才人。死して屍拾う者なしだ)
強い決意と共に、才人はドアノブに手をかける。その直後、...
「でもこれ、すっごく暖かいですよね」
「まあね。最近寒かったし、あいつらしくなくちょっと気を遣...
(暖かい? 下着が?)
才人の脳が激しい混乱状態に陥る。しかしもはや止まること...
246 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
半ばつんのめるようにして踏み込んだ先には、やはり見慣れ...
だが、その格好は。
「え、サイトさん」
驚くシエスタ。
「ちょ、なんであんたこんなところにいるのよ」
焦るルイズ。
だが才人は、目の前の二人以上の衝撃を受けて立ちすくんで...
見慣れた二人は、見慣れない格好をしていた。
「あの、サイトさん。どうですか、これ」
自分の姿を見下ろしたあと、上目遣いでこちらの表情を窺っ...
「わたしはこんなのなんとも思わないけど、あんたこういうの...
聞いておきたいんだけど」
そっぽを向いて顔を赤くしながらも、何かを期待するように...
実に可愛らしい仕草である。二人がもしもいつもどおりだっ...
て頭がおかしくなっていたかもしれない。
しかし、そうなるためには、二人の装いはあまりにも致命的...
見慣れない格好、というのは正確ではなかったかもしれない...
服装ですらある。
だが、目の前の少女たちがそんなものを着ているところなど...
りなき本心だった。
才人は泣きながら逃げ出した。
その日、授業を終えたレイナールがいつもの通りゼロ戦格納...
誰かが突っ伏しているのが見えた。
近づいてみるとそれは才人で、テーブルの上に置いた酒を遠...
ぶつぶつと呟いているのであった。
「腹巻、股引、ジャージ」
もちろん、レイナールには何のことやらさっぱり分からなか...
さて、今回の事件には、いくつか追記しておくべきことがあ...
この前日の夜にモンモランシーの部屋を訪れたギーシュが、...
結果素晴らしく芸術的な拳打を喰らって、彼が望むものとは別...
マリコルヌをうまく御したレイナールが、ポラロイドカメラ...
変質的ながらも有力な貴族たちとの間に太いパイプを何本か作...
そして、「暖かいし動きやすいから」という理由で、ルイズ...
続けたことが一つである。
彼女らがその習慣を続けている間中、夜中の格納庫で飲んだ...
「そんなんじゃなくて、パンツを履いてくれ。俺が用意した、...
と叫ぶ光景が、しばしば目撃されていたそうだ。
<終わり>
終了行:
202 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
友人たちと愚にもつかない会話をしながら歩いている途中、...
る火の塔の影に、何か小さなものが落ちているのが見える。
「どうしたんだね」
問うギーシュに、「なんか落ちてる」とだけ答え、才人は大...
くにつれて、その物体が非常に懐かしい形をしているのが分か...
手の部分を持って持ち上げてみる。それは、地球では珍しくも...
ーツバッグであった。
「何だねそりゃ」
「変わった袋だな」
「ずいぶんと見慣れない形だけど」
ギーシュとマリコルヌとレイナールが、スポーツバッグを覗...
(これ、どう見ても地球のもんだよな。ってことは、これも俺...
周囲を見回してみるが、儀式の痕跡等は何も見当たらない。...
物品などのように、何か偶然の作用が働いてハルケギニアに辿...
へ帰る手がかりにはならなそうだ。
少しだけ落胆しながら、何気なくバッグ中央部のジッパーを...
おお」「うん?」と三者三様の声を上げた。驚きと興奮と疑問...
もなく、ただ目を見開いてバッグの中身を見つめていることし...
203 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
「で、結局何なんだねこれは」
テーブルの上に置かれた黒い物体を指差して、ギーシュは顔...
ある。拾ったバッグの中身の処置に困り、とりあえずいつもの...
のだった。
才人はバッグの中身の一つである黒い物体を手に取り、懐か...
「ポラロイドカメラだよ」
「ポラ、なんだって? というか、君はこれのことを知ってる...
「ああ、使い方だって分かるさ。こうやって、こうだ」
ポラロイドカメラを構えて、シャッターを押す。テーブルの...
いたマリコルヌが、フラッシュの光に驚き、悲鳴を上げて手を...
「なんだ、雷か? でも外は晴れてたはずじゃ」
「雷じゃねえって。それより、見ろよこれ」
才人は笑いながら、ポラロイドカメラから吐き出された写真...
先程の情景が鮮明に映し出されている。テーブルの上に山と積...
コルヌ。ギーシュとレイナールが呆れた視線を飛ばす。
「マリコルヌ」
「いくらモテないからって、そこまで」
「違うよ、実際どんなものなのかと興味があっただけで」
「いやむしろ悲しいぞその言い訳」
笑う才人の横で、「しかし」と呟いたレイナールが、興味深...
「凄いなこれは。こんなに精密な模写が出来る画家は国中探し...
「その黒い奴の中には絵が得意な妖精でも閉じ込めてあるのか...
とかっていうのは妖精の名前だな」
「ちげーよ、これは絵じゃなくて写真だ、写真」
「この絵の名前か」
「いや、絵じゃねえんだって。まあ、説明すんのは難しいよ。...
てる訳じゃねえしな」
「それはそうだな。こんなに絵の得意な妖精とそれを閉じ込め...
中の画家がお払い箱になってしまう」
「カメラとやらのギルドのみに伝えられる秘伝の方法という訳...
と言うけど、東方にはこんな凄いものがあるのか」
「いや、まあ、そうだな」
感心しきった様子のギーシュたちが言っていることは、もち...
するのも面倒だったので、才人は黙っておいた。
「で、どうやって使うんだねこれは」
「ああ、まずそこの」
「あのさ」
才人がカメラの使い方を説明しようとしたとき、マリコルヌ...
「それも凄いけど、こっちも十分問題じゃないか、なあ」
躊躇うように、マリコルヌがテーブルの上に乗っている他の...
せて、ため息を吐いた。
バッグに入っていたのは、カメラだけではなかった。それと...
のである。布きれには一般的な名称がついていて、その名称は...
に嬉しいような困ったような、そんな複雑な感情を呼び起こす...
女性用下着。すなわち、パンツである。
204 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
テーブルの上に山盛りになったパンツの山を見下ろして、四...
「どうするんだ、これ」
「どうするったって、持ち主に返さないと」
「誰だよ持ち主って。大体、こんなの返されたらむしろ恥ずか...
「それにしても、何でパンツだけこんなに入ってるんだ」
「そりゃ着替えだろう」
「着替えなら他の服だって入っていなきゃならんだろう。パン...
「いや待て。ひょっとしたら東方には男も女もパンツだけで生...
いか」
「そんな馬鹿な。いやしかしそれでなくては説明がつかないか」
「ということは、この辺りにパンツ一丁で歩き回っている女性...
「ごめん僕ちょっとトイレに」
「君は実に分かりやすい奴だなマリコルヌ」
あーでもねーこーでもねーと言い合っているギーシュたちを...
(間違いなく下着ドロのバッグだよなこれ。何でわざわざ戦利...
かんねーけど。まあ多分そういう性癖の持ち主だったんだろ...
納得しておこう。カメラも入ってたってことは盗撮癖があっ...
ちでもいいか。そんなことより問題は、これをどうするかだ...
たって下着ドロに盗んだ下着返す訳にはいかねえし。となる...
ゃいけねえよな。売るか? いや無理だ。男ばっかりでこん...
ちが下着ドロ扱いされる。配るか? いやそれも同じか。参...
も何か嫌だし。埋めるか燃やすかするしかねえか。でもなん...
パンツの山の処理法方に悩み続ける才人の横で、話し合いが...
れにしても」と無造作な手つきでパンツを一枚手に取って、し...
「変わったデザインの下着ばっかりだな」
別段何でもなさそうな口調でそんなことを言う。レイナール...
着を見ながら才人も頷いた。
「ああ、確かに過激なのが多いみたいだけど」
そこまで言いかけたとき、不意にマリコルヌが口を挟んでき...
「ちょっと待った」
「なんだい」
マリコルヌは探るような眼差しでレイナールを見ながら、慎...
「君、『普通の下着』がどんなのかなんて詳しく知ってるのか」
当たり前だろそんなの、と突っ込みかけて、才人は留まった。
(ここは地球じゃないんだった。ハルケギニアには写真なんか...
えだろうし、下着自体貴族しか使えないような高いもんらし...
詳しく知ろうとしたら、当然直接間近で見るしかない訳で)
絵の春本の類ならあるかもしれないが、それではとても正確...
はまだ子供と大人の境目とも言うべき学生身分で、その上貴族...
がそんなにないことも加味すれば、女物の下着などまじまじと...
ルヌが興味津々にこのパンツの山に手を伸ばしていたのも、劣...
らが珍しかったせいなのだろう。彼らにとって、女物の下着と...
なか実態を知ることができない、未知の物体なのだ。
205 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
だが、例外もいるらしい。その例外の代表らしいレイナール...
見て不思議そうに頷いた。
「そりゃ知ってるさ。この年になれば当たり前だろう」
「ちょっと待て貴様」
マリコルヌが唐突に剣呑な気配を発し始めた。
「それはつまり生で見たことがあるということですか」
「ないのかい」
レイナールは不思議そうに聞き返した。馬鹿にするような雰...
思議でならないという顔つきである。
だが言われた本人にとっては逆にその方が気に障ったらしい...
した。
「レイナール、君との友情も今日までだ。どうやら僕は君に決...
い」
「どうしたんだい急に」
「うるさい、いいから杖を取るんだこの眼鏡野郎め。貴様いか...
て抜け駆けしやがって。言えよ、一体いつ済ませたんだ。ま...
「そんなの覚えてる訳がないだろう。ええと、五年以上前だっ...
「ごねっ、貴様、そんな昔から女ったらしだったのか」
「いや、別に大して興味はないけど。貴族たるもの、やり方を...
「何だその事務的と言うか合理的な考え方。っつーか相手は誰...
「どうだったかな。何人かいた、と思う。数は覚えてない」
「そんなふしだらな。好きでもない女をとっかえひっかえ」
「人聞きが悪いなあ。婚約者とうまくいかなくて世継ぎが出来...
まいやり方を教えてもらうのは貴族として当然の義務じゃな...
「義務って。それに、婚約者って、そんなんいるのかよ!」
「ああ。ここを卒業して貴族として一人前になったら結婚する...
普通いるだろ、貴族なら」
マリコルヌががくりと膝を突く。手から杖が滑り落ちた。重...
白目を剥いているマリコルヌの頬を何発か張り飛ばして無理矢...
206 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
「しっかりしろマリコルヌ、傷は浅いぞ」
「ああ、ギーシュ。僕はもう駄目だ」
腫れ上がった頬に涙の筋を作りながら、マリコルヌは掠れた...
「貴族なら当然。そりゃそうだよな、貴族ならさ。でも僕婚約...
かしいよねギーシュ。僕って貴族じゃなかったのかな。貴族...
「気をしっかり持てよマリコルヌ。確かに君は豚かもしれない...
たまに自信がなくなるけど。それにほら、僕だって婚約者は...
「慰めはよしてくれよギーシュ。君にはモンモランシーがいる...
ると評判なんだ、もう済ませているしパンツも拝見済みなん...
この世の不幸を一身に背負ったような顔つきで、マリコルヌ...
少しの間何かを考えていたが、やがて決然とした表情で顔を上...
「君は誤解しているぞ、マリコルヌ」
「なにが」
「まだなんだ」
「だから、なにがさ」
「僕はまだ、モンモランシーとはそういうことをしていない!」
その叫びは格納庫の壁を揺り動かした。おそらく学院中に響...
くマリコルヌに、ギーシュは爽やかな笑顔を見せた。
「だから彼女のパンツを見たことなんて一度もないんだ。安心...
「おお、ギーシュ。すまない、僕は誤解していたようだ」
「いいんだよマリコルヌ。僕と君の友情は始まったばかりさ」
「ギーシュ」
「マリコルヌ」
三枚目とデブが涙を流しながらがしっと抱き合う。「友情っ...
ら、才人はレイナールに問うた。
「どうすりゃいいかな、これ」
「さてね。持ち主に返せれば、それが一番いいんだろうけど」
「そりゃ多分、いや確実に無理だと思う」
「だったらお手上げだな」
パンツの山を見下ろしながら、レイナールは肩をすくめた。
「大体にして、女性の下着ってのは高価なもので、貴族の持ち...
たのかい」
才人が頷くと、レイナールは眼鏡を指で押し上げながら解説...
「金銭的な余裕のない平民じゃ、たとえ古着屋にあったって買...
やお嬢様方が、他人のお古なんか使う訳もない」
「要するに、こいつの使い道はないってことか」
「まあね。ああ、いや、才人、君なら有効に使えるんじゃない...
「どういうことよ」
207 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/03/31...
才人が眉をひそめると、レイナールはいかにも名案を思いつ...
答えた。
「君のご主人様かあのメイドに新品だと偽ってプレゼントすれ...
「喜ばれる訳ねえだろ。馬鹿なこと言うねお前も」
てっきり冗談だと思って才人が苦笑すると、レイナールは驚...
「どうして。大丈夫だろ、君は好かれてるみたいだし、贈り物...
「いやそうじゃなくてな。男から下着贈るって、なんかアレじ...
っぽいっつーか」
「何を要求って、『喜んでほしい』ってことだろ。プレゼント...
「いやでもパンツだぜパンツ」
「服をプレゼントするのはそんなに変なことじゃないだろう」
才人は天を仰いだ。格納庫の天井の汚れを何秒か数えた後、...
大真面目な顔をしていた。
(俺が変なのか? 女に下着を贈るってのは、この世界じゃ一...
そうであると仮定して、想像してみた。
「なあルイズ」
「なによ犬」
「これ、俺からのプレゼント。日頃の感謝を込めて」
「わあ、可愛いパンツ」
「一生懸命選んだぜ。ルイズに似合うと思ってさ」
「ありがとうサイト、早速履いてみるね。どう、似合う?」
「ああ、似合うよ。いや全く、ルイズは俺の女神様だなあ」
「やだもうサイトったら、人をおだてるのが上手なんだから」
「あははは」
「うふふふ」
想像終了。
才人は一つ頷いた。
(あり得ねえな。っつーかこんなこと考える自分が悲しくなる...
才人は再びレイナールに目を戻した。やはり、大真面目な顔...
いるとは微塵にも思っていないらしい。
(婚約者がいる、とか言ってたっけ。俺らが女のことで騒いで...
々性欲とか薄い奴なのかもしれねえな。で、そういう条件が...
なくなった結果、こうなったと)
一人で納得しつつ、才人は首を横に振ってみせた。
「そのアイディアは没だぜレイナール」
「どうしてだい」
「それが分かったとき、お前は人間として一歩成長することに...
「よく分からないが」
「そこをよく考えるんだ。考えれば女にパンツをプレゼントな...
教師のような口調で諭していたそのとき、才人の頭の片隅に...
ルギーを糧として、ずっと前から久しく使われていなかった脳...
る。
ルイズ。プレゼント。カメラ。そして、パンツ。これらにマ...
多くの不揃いなパーツが才人の脳の中で次々に加工され、急...
「いける」
「何が」
確信を持って呟く才人に、不思議そうな顔のレイナールが問...
浮かべた。
「資金確保のチャンスだぞ、レイナール」
300 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
ルイズは疲れていた。その日の授業の内容が、少し発展した...
統の魔法に目覚めたと言っても、他の系統の魔法が使えるよう...
授業は相変わらずルイズにとっては苦難の場なのであった。い...
る訳ではないとはっきり分かった今となっては、むしろ前より...
それでも努力を怠らないルイズは、今日も今日とてシュヴル...
錬金に挑戦し、何回目になるか分からない教室爆破回数の記録...
が「これで〜回目だぜ」とか笑っていたので後で爆発頭にして...
そういった諸々のことで疲れ果てていたルイズは、部屋に帰...
でいようと考えていた。だが、彼女は部屋の前で言葉もなく立...
「すまねえ、ルイズ」
部屋の中でうなだれている才人が、申し訳なさそうにそう言...
スタが立って、こちらの反応を窺っている。ルイズは二人には...
を踏み入れた。そして、絶叫。
「なんなのよこれは」
ルイズの部屋は滅茶苦茶に荒らされていた。荒らされていた...
ているという意味ではない。机の引き出しが根こそぎ引き抜か...
無くなっている。他にもそこそこ値打ちのある物が数点無くな...
されたらしいことは明らかだ。
予想出来るはずもなかった部屋の惨状に、数秒ほども頭が真...
飲み込めてくると、腹の底からふつふつと怒りが湧いてきた。...
いる才人に向き直り、思い切り怒鳴りつけた。
「あんた、ご主人様の部屋が好き勝手に荒らされてたってのに...
「すまねえ、ゼロ戦の調子を見ようと思って少し部屋を空けて...
ントにちょっとの間だけで」
そこまで言いかけて、才人は不意に口を噤んだ。
「いや、言い訳にはならねえよな。すまんルイズ、俺の責任だ」
「よく分かってんじゃないの」
「とりあえず早く犯人を捜して盗まれた物を取り返すことにす...
「当然でしょ。ま、お仕置きはそれまで待ってあげるわ。どう...
だし」
ルイズがちらりと部屋の片隅、すなわちいつも鞭が置いてあ...
つらせて身震いした。これで脅しは十分だろう。そのとき、話...
シエスタが遠慮がちに口を挟んできた。
「あの、ミス・ヴァリエール。今夜はどういたしましょう。服...
んですけど」
「え、本当?」
「はい。特に下着類は根こそぎ」
「うええ、気持ち悪い」
ルイズは顔をしかめた。犯人は変質者なのかもしれない。今...
か想像すると、取り返したいという気持ち自体が萎えてくる。
だが、今はそのことよりも今夜のことを考えるべきだろう。...
「どうしようかしらね。さすがに制服のまま寝るっていうのは...
「わたしの服でよければお貸ししますけど」
「それは嫌」
ルイズが即答すると、シエスタもすぐに「そうですよね」と...
「余っちゃいますもんね、どことは言いませんけど、一部分が」
「あんた最初からわたしの答えを想定して言ったでしょ」
余裕の笑みを返そうとしたら頬が引きつった。そうしていつ...
たところで、不意に才人が二人の間に割って入った。
301 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
「服のことなんだけどさ」
「なによ」
「困るだろうと思ったから、街までひとっ走りして買ってきた...
ルイズは眉を上げた。
「あんたにしちゃ随分気が利いてるじゃない」
「今回のことは明らかに俺の責任だしな。そのぐらいはするよ」
才人は部屋の隅から小さな櫃を引っ張り出してきた。どうや...
すタイミングを窺っていたようである。蓋を開けて中を覗き込...
それほど見苦しくもない服がニ、三着ほど畳んでしまいこまれ...
「へえ。あんたのことだからまたいやらしい服でも買ってきた...
「だから反省してるんだよ俺も」
「どうかしらね。ま、お仕置きのほうは少し軽めにしてあげて...
試しに一番上の服を引っ張り出したルイズは、その下にあっ...
服が置かれていたために見えなかったが、その下には見慣れな...
たのであった。ルイズは無言で服を戻すと、きょとんとしてい...
「前言撤回。どうやらあんたには今まで以上にきっついお仕置...
ね」
「ちょ、待ってくれよルイズ。俺、なんかまずいことしたのか」
才人は何故自分が主人を怒らせているのかまるで分かってい...
を煽り立てる。ルイズは目の前の阿呆の顔を何発殴ったら謝罪...
始めた。その計算が終わる前に、シエスタが背後で叫んだ。
「まあ、なんですかこれ」
振り向くと、シエスタが例の見慣れない下着を何枚か手に取...
布地が明らかに少なすぎたり、あるいは無闇に透ける生地で作...
「なにって、パンツだけど」
才人がさらりと答える。シエスタの慌てぶりとは対照的に、...
ているようにしか見えない。
(殴ろう)
ルイズは拳を固めて腕を振り上げた。蒼ざめた才人が両手で...
「だから待てって。せめて俺が殴られるべき正当な理由を教え...
「あんたね、あんな物買ってきといて白切ろうとはいい度胸じ...
「あんな物って、俺が買ってきた服になんか問題があったのか」
才人はまるで訳が分からないという様子で、少なくともこち...
ようには見えなかった。
「あの、ミス・ヴァリエール」
シエスタが背中を突いたので、ルイズは仕方なく才人を解放...
て、メイドの少女と顔を突き合わせる。
「ひょっとして、サイトさん本当に分かっていらっしゃらない...
「どういうことよ」
「ほら、サイトさんって他の世界の人なんでしょう。ひょっと...
う布地の少ない下着が一般的なのかも」
「そんな馬鹿な話がある訳ないでしょうが」
「分かりませんよそんなこと。だって、あの『竜の羽衣』だっ...
いものだったじゃないですか。それに、サイトさんの世界と...
分違うみたいですし」
ルイズはちらりと才人を見る。確かに、彼がいつも着ている...
まで見てきたどんな服とも違っていた。素材はもちろん、その...
最初の頃はずいぶん珍妙に見えたものだ。だが、才人の世界で...
302 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
「だからって、あんないやらしい下着が普通だなんて」
「サイトさんにとっては特にいやらしくもない下着なんじゃな...
たら、あのサイトさんがあんな平静に振舞えるはずありませ...
か目をそらすとか、そういう風になるはずです」
「そりゃ、そうかもしれないけど」
才人は嘘を吐くのがあまり上手くない。ルイズ自身察しがい...
どこかしら様子がおかしいと感じていたものである。だが、今...
じられない。
(ってことは、あいつ、本当にこの下着に対して変な感情は持...
ルイズは改めて才人を凝視した。何故自分がこうも疑われて...
どれだけ見つめていようが、その表情が崩れることはない。ど...
がどうにも納得できかねたので、ルイズはいくつか質問してみ...
「サイト、あんた、これどこで買ってきたの」
「どこって、そりゃ古着屋だよ」
そう言ってから、才人は慌てたように腕を振った。
「いや、そこに関しては怒んないでくれよ。俺の手持ちの金じ...
せなかったんだからさ。ほとんど全財産はたいて、ようやっ...
「それはまあ別にいいわ。我慢してあげても。それより、これ...
たでしょうね」
「そうだなあ」
才人は腕組みしてしばらく考えたあと、困ったように首を傾...
「別に、変なことなんてなかったと思うけど。普通に金出して...
「本当でしょうね」
「ああ。あ、でも、なんか特別な品だとは言ってたな、それ。...
てるって言ったら、誰も買ってくれなくて処分に困ってる服...
ルイズはため息を吐いた。
(要するに、こんなはしたないデザインの下着なんか誰も買っ...
のこのこカモがやってきたから『捨てるよりゃマシだ』って...
だが、まだ完全に納得することはできない。ルイズは櫃の中...
の下着を数枚取り出すと、才人の眼前に突きつけてみた。
「あんた、これ見てどう思う」
「どうって」
才人は目の前の下着をしげしげと眺めた後、こちらがどうい...
く分かっていない自身なさげな表情で、ぽつりと呟いた。
「パンツだなあ、と」
「そうね、パンツね。パンツよね。パンツだわ」
303 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
ルイズは歯噛みした。どうやらこの男はこういうデザインの...
躇うようなデザインだということが本気で分かっていないらし...
らどんな感じになるか想像してみなさい」だとか言って、自分...
たい気分になったが、こっちも恥ずかしくなりそうなので実行...
シエスタがまた背中を突いてきた。
「ミス・ヴァリエール。あんまり怒るとサイトさんが可哀想で...
「でも」
「サイトさん、本当に分かってないみたいですし。ミス・ヴァ...
ですから、許してあげましょうよ」
そう言われると、うまく怒りを発散できなくなってしまうル...
に問題があるという点を除けば、才人の行動は主人のことを一...
わりの服を買う前に犯人を捜せ」と言いたいところではあるが...
を見ると、そうする気もまた萎えてくるのだ。
煩悶の末にとうとう観念し、ルイズは深いため息を吐き出し...
「分かったわ。とりあえず、あんたは犯人を捜して出来る限り...
部屋の片付けはシエスタにやってもらうから」
「おう。任しといてくれ。泥棒に入られた責任、きっちり取っ...
真剣な表情で頷いた才人が出て行ったあとで、「それにして...
また頬を染めた。
「すごいですねこれ。もうほとんど下着じゃないですよ。むし...
「誰が考えたのかしらねこんなの」
「さあ。だけど」
シエスタは先程よりも更に頬を染めると、ちらりと探るよう...
「あの。これ、一枚頂いてもいいですか」
「何を企んでるのかしら、あんたは」
じろりと睨むと、シエスタは恥らうように視線をそらした。
「企んでるだなんてそんな、人聞きの悪い。わたしはただ、サ...
んでいただきたいなあと」
「要するにそれ履いてサイトを誘惑しようって訳ね。なんてい...
相変わらず春真っ盛りみたいね」
「だって、これ履くんでしょうミス・ヴァリエールは」
「履かないわよ」
「え、履かないんですか」
「別に、下着なんて一日ぐらい換えなくたって」
「不潔」
シエスタの眼差しにじっとりとした軽蔑の念が宿る。ルイズ...
「ごめん、よく聞こえなかったわ。もういっぺん言ってみてく...
「不潔。不衛生。ばっちいです」
「あんたね」
「わたしのような村娘ならともかく、貴族であるミス・ヴァリ...
です。サイトさんも幻滅するだろうなあ」
それを言われると弱いルイズである。こんな奇抜すぎるデザ...
さすがに誰かに下着を借りるというのもどうも躊躇われる訳で。
「まあ、あいつが犯人捕まえて服取り返すまでの間だけだし」
結局、ルイズは妥協することにした。すると、シエスタもい...
「じゃあ、わたしもこれ頂きますね。ミス・ヴァリエール一人...
ませんし」
「あらありがとうシエスタ。わたしあなたの友情に感動して涙...
「いえいえそれ程のことでも」
互いを牽制するように視線をぶつけ合いながら、二人はしば...
304 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/02...
ルイズの部屋を飛び出した才人は、その勢いを衰えさせない...
一気に駆け抜けてゼロ戦格納庫の中に飛び込んだ。隅っこのテ...
に振り返る。才人は彼らのすぐそばまで走り抜け、固唾を飲む...
「成功だ。後は撮るだけだぜ」
ギーシュとマリコルヌが歓声を上げる。レイナールも「やれ...
「大丈夫なんだろうな、サイト。ばれたらひどいことになるぜ...
「安心しろよ。この日のために何日も準備してきたんだぜ。ル...
思ってないと信じ込んでるはずさ」
「それならいいけどね」
「で、そっちの準備は大丈夫なんだろうな」
「任しておいてくれよ」
ギーシュがカメラを、マリコルヌが杖を構えて自信ありげに...
「こっちも何とかなった。彼女のお眼鏡に適う肉を用意するの...
協力してくれるそうだよ」
「よし。それじゃ、決行は明日だ。いいか皆、しくじるんじゃ...
「おうとも」
「任せてくれ」
「心配はいらないさ」
才人の声に、他の三人がそれぞれの声音で応じた。
翌日の昼時、ゼロ戦の格納庫の前に立った才人は、午前の授...
やや緊張しながら聞いていた。間もなく、犯人捜しの進展を聞...
そのときが、彼らの決戦のときだった。
上空を見上げて目を細める。こちらからぎりぎり見えるか見...
ものが見える。遥か上空で滞空しているシルフィードである。...
肉につられて嬉々としてこちらに協力しているものらしい。そ...
杖を構えたマリコルヌが乗っているはずだった。
格納庫の中に目をやると、壁のそばに控えたレイナールが頷...
置である。その手には、やはり杖が握られている。
(頼むぜ、皆)
そのとき、広場の向こう側に小柄なシルエットが現れた。ル...
らに気付いたらしく、小走りに駆けてくる。才人は彼女に向か...
開始の合図だった。
425 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
大地から遠く離れた空の上、地上とは比較にならない勢いで...
フィードの背に跨ったギーシュとマリコルヌは、ただじっと時...
シュが普段はタバサの定位置である背びれの辺りに陣取り、マ...
いる。「遠見」の魔法で、眼下の格納庫付近の様子を観察して...
「もうすぐだな」
マリコルヌの呟きに、ギーシュは無言で頷き返した。このと...
でこんなところにいるのである。気合は十分だった。十分すぎ...
も力が入る。
(そうだ。僕は、今日こそ)
今日こそ、何なのだろう。ギーシュは心の中で苦笑した。気...
っぱい考えてしまっているようだ。
「しかし、意外だったな」
おかしそうな声に振り返ると、マリコルヌがこちらを見て笑...
「まさか、ギーシュほどの男がパンツを見たことがないだなん...
ゃあないか。どうしてだい」
一瞬答えが浮かばずに、ギーシュは気まずくなって目をそら...
「ほら、僕は紳士だからね。本当に愛している女の子以外に、...
「ちぇ、選択肢のある奴は羨ましいよ、全く」
ひがむように口を尖らせたあと、マリコルヌは「まあいいさ...
「今日ばかりはそういう発言もどうでもいい。なんたって、パ...
ただのパンツじゃない。ルイズのパンツだ。しかもあんな大...
だけで鼻が熱くなってくるよ」
マリコルヌの顔がどんどんにやけていく。そのしまりのない...
いと感じた。
「ねえねえ」
不意にシルフィードが会話に割り込んできた。
「何のお話してるの。パンツがどうしたの。シルフィにもお話...
「悪いがこれは男同士の話なんだ。女性は黙っていてくれたま...
やたらと尊大な口調で言い返した後、マリコルヌは不意に目...
「ギーシュ、合図が来たぞ」
ギーシュも口を引き結んで頷き返す。
「きゅいきゅい。合図って何なの、何なの」
ただ一人、詳しい事情を知らないシルフィードが、首を動か...
は苦笑混じりに答えた。
「後で教えてあげるとも。それより、段取りは分かっているね」
「んーと、ギーシュさまが『今だ』って言ったら広場全体に上...
それでお肉がたくさんもらえるんだったらお安い御用なの。...
「うむ、頼むよ。マリコルヌ、まだかい」
「そろそろだ。ルイズが近づいてきた。ギーシュ、カメラの用...
「了解だ」
ギーシュは少し上半身を乗り出して、手に持ったポラロイド...
は空の上である。覗き窓の中に写るのは、ほとんど玩具のよう...
の全景と、その周囲に広がる緑豊かな大地だけだ。それを撮る...
いが、もちろん今の彼らの目的はそれではない。ギーシュは一...
にマリコルヌを振り返る。
426 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
「いいぞ、マリコルヌ。接続を開始してくれ」
「分かった」
普段の彼からでは想像もつかないほど真剣な表情で頷いたマ...
詠唱を始めた。「遠見」の魔法である。本来、この魔法は先ほ...
分が遠くのものを見るために用いる。だが、魔法を知らぬ才人...
本来の使用法とは全く異なるものであった。
「カメラに『遠見』をかけて、遠くのものを写すことはできな...
誰も試したことのない方法だった。そもそもカメラというも...
の物体である。だが、試しにやってみたところ、ファインダー...
姿を鮮明に写し出した。こうして実験は成功し、作戦は実行可...
詠唱を終えたマリコルヌが、杖の先をカメラに向ける。ギー...
すると、草の間を縫うように行進する蟻の姿が映し出された。
「近すぎるぞマリコルヌ」
「分かった」
ファインダーの中の風景が遠ざかる。隅に写っているベンチ...
なければ目当てのものは捉えきれないはずである。
「マリコルヌ、あともう少し近づけてくれ。ああ、ダメだ、近...
細かすぎる要求に従って、風景が近づいたり遠ざかったりす...
るギーシュには見えないが、今マリコルヌは全身全霊をかけて...
る。だが、それでもなかなか適正な距離にならない。この数日...
の練習に費やしてきた彼だったが、やはりベストな位置に視界...
い。だが、やってもらわなければ困るのだ。
そのとき、四角く区切られた視界の隅に、小走りに駆けるル...
は息を飲み、慎重にカメラの角度を微調整する。視界がルイズ...
に尻の辺りを中央に捉えた。
だが、それだけではまだ足りない。この数日間死に物狂いで...
ー越しに走るルイズの尻を追う。完璧なカメラワークだ。これ...
い。
だと言うのに、何故「今だ」と声を上げられないのか。
(どうした、早くするんだギーシュ・ド・グラモン。お前がし...
しまうんだぞ)
手の平に汗が滲む。腕の震えが四角い世界をぐらつかせる。...
求め続けた獲物をファインダーの中に追いつめたというのに、...
きない。体のどこかから発生した鈍い痛みが、ゆっくりと全身...
なった。
(緊張しているのか。違う、僕は怖がっているんだ)
急に寒くなってきた。四肢の感覚が消え失せてしまうほどの...
暴れまわる。ギーシュは心の中で悲鳴を上げた。
(何を怖がる。何を恐れているんだギーシュ・ド・グラモン。...
って何人もの女の子と親しい関係になってきたじゃないか。...
しかし心は定まらない。荒れ狂う嵐の真ん中に放り出された...
されるばかり。
(駄目だ、怖い。どうしてだ。何故なんだ。僕は何を恐れてい...
何度も必死で問いかける内に、胸の奥から何かが浮き上がっ...
ギーシュは驚愕する。
(いや、違う。僕は、この感情を知っている。ただ、今まで目...
それは、心の奥底に深く沈められていた、ギーシュの本当の...
留めていた虚勢という名の膜は、極限状態で破れてしまった。...
べたついた感情がギーシュの意識に飛び込んでくる。
427 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
(僕はパンツを見るのが怖い。僕にとってパンツというのが未...
ことがない。見ようとしたこともない。怖かったからだ。キ...
のことをうまくやる自信がなかったんだ。だって、パンツな...
だ。最後までやらなくちゃならないんだ。それを知っていた...
とは思わないようにしていた。『僕は紳士だから』なんて言...
僕は怖かったんだ。ただ怖かっただけなんだ。僕は、パンツ...
鎧が剥がされ、吹き飛ばされていく。今やすっかり無防備と...
(そうだ、僕はパンツを見るのが怖かった。だから出来る限り...
ボーイとしての面目が保てるように、必死で取り繕ってきた...
能になってしまった)
ギーシュの脳裏に、一人の少女の姿が浮かび上がる。見事な...
ンシー。
(僕はモンモランシーが大好きだ! 愛していると言ってもい...
言うか抱きたい。でも自信がない。うまくやれなくてモンモ...
いだ。色男の仮面は剥がれ落ちて、残るのはパンツも見れな...
の女の子に気がある振りをしたり、折角のいい雰囲気を間抜...
うすることで、顔はいいけどお間抜けなギーシュ・ド・グラ...
うそんなのは嫌だった。モンモランシーを抱きたかった。だ...
が恐れずにパンツを見ることができる男だと証明したかった...
極限状態に置かれて、ギーシュはようやく己の本心に気付く...
だが、もう遅い。暴かれた本当の気持ちは、目の前の現実に...
を見るのを恐れていては、作戦の遂行など幻想に過ぎない。
こみ上げてくる涙を拭うことも出来ずに、ただぎゅっと目を...
「ギーシュ、まだなのか、早くしてくれ」
「ねえねえ、まだなのギーシュさま。きゅいきゅい」
マリコルヌとシルフィードの喚き声が、じょじょに遠ざかっ...
(駄目だ、僕には無理だ! 助けて、誰か、助けてくれ!)
気がつけば、ギーシュは暗闇の中で泣きわめていた。無力感...
(ああ、駄目だった。やっぱり僕は、優秀な兄さんたちとは違...
れだったんだ。プレイボーイを自認しておきながら女の子の...
て。色男揃いと名高いグラモン家の恥さらしだ)
そんな風に嘆いていたとき、懐かしい誰かが、ふとギーシュ...
428 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
「何だ、まためそめそ泣いているのか、ギーシュ」
顔を上げると、兄がいた。軍人らしくない、気さくな微笑み...
驚いて周りを見回すと、そこはもう暗闇ではなく、懐かしい...
き誇る薔薇の香に囲まれたそこで、子供の頃のギーシュはよく...
「どうした、また誰かに『口だけの弱虫』とかっていじめられ...
兄が隣に腰掛ける。ギーシュはしゃくり上げながら首を振っ...
「違うのか。じゃ、どうしたんだ」
「兄さん」
ギーシュは兄の顔を見上げた。自分とよく似て、線が細い、...
は、やることなすこと何もかもが様になって見えるところだっ...
かべ、人の心に染み入る詩を澱みなく謳い上げる。細く繊細な...
雅に髪をかき上げる。見る者全てをはっとさせるような所作の...
離さないのだ。
彼ならば、自分の疑問に対する答えを持っているかもしれな...
据え、決死の覚悟で問うた。
「パンツとは、何ですか」
兄は一瞬驚いたように目を見開いたあと、感慨深げな微笑を...
返した。
「そうか。お前も、もうそんな年か」
しみじみと呟いたあと、ふと遠い目で彼方を見やる。その視...
の地平線に沈みゆく夕日が見えた。彼らはいつしか、穏やかな...
だ。
「パンツ。パンツか」
どう答えたものかと考えるように、兄は細い指で顎を撫でた...
熟考した後、「ふむ」と一つ頷いて答える。
「そうだな。言うなれば、甘き蜜溢るる至高の楽園へと続く、...
その言葉は、圧倒的な余韻を持ってギーシュの胸に浸透した...
最後の扉。
(なんて詩的なんだ。やっぱり兄さんは凄い。誰もが認める最...
感動に体を震わせるギーシュに、兄は警告するような視線を...
「だが間違えてはいけないぞ、ギーシュ。この扉には頑丈な鍵...
「鍵、ですか」
「そうだ」
兄は重々しく頷き、再び地平線の向こうに目を移す。端正な...
「特別な鍵だ。偽物では開くことができないし、かと言って無...
甘き蜜溢るる至高の楽園どころか、雑草がぼうぼうに生い茂...
そんなところでは幸せになれない。鍵が必要なんだよ、ギー...
にただ一つしかない鍵がね」
「その鍵は、一体どこにあるのですか。教えてください兄さん」
必死に問いかけるギーシュに、兄は謎めいた微笑を浮かべて...
「教えることなんてできないさ、ギーシュ。いや、教える必要...
「どういうことですか」
「聞くなよ。聞く必要だってないはずだぜ。お前はもう、その...
ずだ。もっとも、お前が真に楽園への鍵を手に入れることを...
ギーシュは苦悩した。兄の言わんとしていることが、どうし...
そんな弟を見て、兄は「やれやれ」と呟き、苦笑した。
「仕方ないな。まあ、教えてやることは出来ないが、助言なら...
かにしろ。雑念を捨てて振り返るんだ。その先に、答えはあ...
429 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
兄の教えに従い、ギーシュはまず目を閉じた。ニ度、三度と...
っていく。昂ぶりも恐れも、何もかもが風のように吹きすぎて...
に一つの音が響き渡った。それは、一滴の水が水面に落ちる、...
ギーシュは振り返り、カッと目を見開いた。
最初に見えたのは、風に舞い散る薔薇の花びらだった。赤、...
りどりの花びらが、澄み渡った蒼穹で渦を巻いている。目が痛...
なのに、不思議と不快感を感じない。むしろ、様々な表情を見...
だか誇らしかった。
その中心に、彼女がいる。金髪巻き毛の、愛しい少女。
「モンモランシー」
薔薇の花びらが風に舞ってその色合いを変えるたびに、モン...
わる。
ムッとした怒り顔。
つんと上向くすまし顔。
鼻高々の得意げな微笑。
己の未熟さを責める悔しげな顔。
ほっと息をつく和らいだ笑顔。
そのどれもが魅力的で、どうしようもなくギーシュの心を惹...
気がつけば彼女のことばかり見つめている。
ギーシュの胸が熱くなる。気付くと、花の渦の中心に向かっ...
「僕は君が好きだ。愛しているよ、モンモランシー」
今まで何度も口にしてきた言葉だが、何故か今になって初め...
そして同時に理解し、実感した。これこそが、全ての答えな...
花びらの海の向こうで、彼女が微笑んだ。
430 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/05...
ギーシュははっとして目を開いた。いつの間にやら、周囲の...
吹き荒れる風、そして怒鳴るマリコルヌ。
「おいギーシュ、一体どうしたんだよ、そろそろ限界だぞ」
その声に一瞬で状況を把握し直し、ギーシュは慌ててカメラ...
だが、四角い窓の中に写るのは丈の短い芝生だけだ。
(見失ったか。いや、まだだ)
一瞬絶望しかけながらも、ギーシュはカメラを動かして獲物...
うな確信があった。そして、実際に見つけた。手を振る才人に...
の背中を。
(ようやく気持ちが定まったよ、兄さん。僕は鍵を見つけてみ...
んだ)
ギーシュはカメラを持つ手に力を込めた。焦らず慎重に、そ...
も良好な位置に視界を固定したまま、ファインダー越しにルイ...
(今か。いや、まだだ)
甘き蜜溢るる至高の楽園へと続く、最後の扉。その姿を完全...
だじっと待つ。
「おい、ギーシュ、いい加減にしろよ。早くしないと僕のパン...
急かすマリコルヌの声が急速に遠ざかっていく。ギーシュは...
神経を集中させた。徐々に感覚が研ぎ澄まされていくのが分か...
の魔法が発動するまでのタイム・ラグ、シャッターを切るとき...
で収束し、分析されていく。そして弾き出された究極のタイミ...
「今だ!」
ギーシュの叫びに応じて、シルフィードが魔法を解き放つ。...
た。四角く区切られた視界の中で、前屈みになったルイズが必...
ている。だが、無駄な抵抗だ。
(モンモランシー、僕はもうパンツのことを恐れない。その向...
心の底から思うんだ。心の底から力が湧いてくるんだ。甘き...
を、恐れずに開け放つための力が。僕は今こそ、君という至...
そしてついに、ルイズのスカートがマントごと風に捲り上げ...
ギーシュは全身全霊をかけてシャッターボタンを押し込んだ。
じょじょに風が止み、周囲に静寂が戻ってくる。
「ねえねえどうなったのどうなったの、何がどうなったの」
無邪気に問いかけるシルフィードに、ギーシュとマリコルヌ...
呑んで、ポラロイドカメラが小さな音を立てるのを見守った。
そして、カメラの下部から一枚の写真が吐き出される。
そこには、こちらに向かって突き出された小ぶりな尻と、そ...
が鮮明に焼き付けられていた。
二人の人間の気狂いじみた歓声を浴びたシルフィードは、「...
いた。
239 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
突風が止んで恐る恐る目を開けると、少し離れたところに立...
上げているのが見えた。
「凄い風だったなあ。びっくりした」
そんなことを呟いている。ルイズはじっと彼の顔を凝視した...
たように若干身を引きながら喋るその表情からは、何かを隠し...
い。
ルイズはほっと息を吐いた。突風が吹いていた間中、スカー...
のだ。あまりに風が強かったために目を開けていることすら出...
人も同様だったようである。つまり、スカートの中身を見られ...
(誰かに見られてたような気がしたんだけど、気のせいだった...
ツなんか見られた日には)
ルイズは顔が熱くなるのを自覚した。そんなことになったら...
まっていたことだろう。
「どうした、ルイズ」
主人の内心を知ってか知らずか、才人はとぼけた顔つきで首...
と答えてから、ルイズは腰に両手を当てて使い魔を睨みつけた。
「そんなことより、犯人探しはどうなってんのよ」
「いやあ、それがあんまり思わしくなくてなあ」
「つまり、まだ見つかってない訳ね」
「悪い、もうちょっと待っててくれよ」
才人は両手を合わせて頭を下げる。
調査の進展自体は不満だが、いつものようにあれこれと愚痴...
好感が持てる。
「仕方ないわね、もっと気合入れて頑張りなさいよ」
ルイズがほんの少し気をよくしながら言ったとき、不意に強...
な奇妙な突風ではないが、身を切るように冷たい風だ。
体を震わせながらマントをかき合わせたとき、ルイズの口か...
「寒いのか」
気遣うように眉尻を下げながら、才人が言ってくる。主への...
胸が温かくなるのを感じながら、ルイズは鼻を啜り上げた。
「ま、あんたが服を取り返したら、せいぜい着込んで暖かくし...
240 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
ルイズが去り、学院の授業も終了した深夜、密かに寮を抜け...
していた。
いつものテーブルに陣取り、顔を突き合わせる。ランプの明...
る心配はないはずである。
「で、結果はどうだったんだ」
緊張しながら問う才人に、得意げに笑ったマリコルヌが一枚...
ぶりで可愛らしいお尻が一つ、鮮明に焼き付けられていた。
「おお、ルイズがこんなやらしいパンツを」
才人は感動に胸を高鳴らせながら、震える両手で写真をつか...
浮かび上がった尻が身に付けているのは、白いパンツである。...
い。布地全体にメッシュ加工が施された、透過性の高い下着だ...
「スケスケパンツ……!」
才人は目を極限まで見開いてルイズの尻に見入った。メッシ...
胸の谷間など望むべくもない彼女の体にも、こんなにも狂おし...
である。写真に頬を摺り寄せたい気分になってきたが、さすが...
たので自重していおいた。
「ま、何にしても作戦は成功という訳だな」
写真そのものにはさして興味もなさそうな表情で、レイナー...
「これをあれこれと利用すれば、確かにいい資金稼ぎにはなり...
必要としている諸兄も多い訳だし」
「言っとくが、これはやんねーぞ」
才人は仲間たちの視線から遠ざけるために、写真を手の中に...
「分かっているとも。今回はあくまでも、果たしてこういうこ...
試験みたいなものだからね。シルフィードへの肉代は高くつ...
十分利益になるだろう」
「レイナール」
興奮だか恥じらいだかいまいち判断がつきかねる具合に顔を...
を叩いた。
「次の標的は是非とも僕に決めさせてもらいたいんだけど」
「ああ、いいとも」
レイナールは実に爽やかな笑みを浮かべて頷いた。
「この中では、君が一番こういうものを欲しがるような男たち...
是非とも高く値がつきそうな娘を紹介してくれたまえよ」
「おお、任せておけ。そうだな、とりあえずは」
マリコルヌは息を荒げながら次々と少女たちの名前を挙げ始...
るしかない。
そのときふと、隣に腰掛けたギーシュが感慨深げな表情で自...
「どうした、ギーシュ。手、怪我でもしたのか」
「いや、違う。むしろ、長年の傷が治ったというべきか」
やたらと深みのある微笑と共に、ギーシュは首を振った。
「サイト、ありがとう。今回のことで、僕は一つの壁を乗り越...
開けることができる」
「扉が、なんだって」
「詳しい話はまた後日するよ。今日の僕の勇姿をその目に焼き...
ばだ。僕は決戦の場へと向かう。この心に鍵を携えて」
意味不明なことをやたらと芝居がかった口調で言いつつ、ギ...
いく。その背中は、何故だかやたらと煤けて見えた。
241 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
まだ会議を続けているマリコルヌとレイナールを残して、才...
を歩きながら、ルイズの尻写真をうっとりと眺める。
「全くいい仕事だぜギーシュ、マリコルヌ。いくら眺めてたっ...
尻とパンツの芸術的なコラボレーションを鑑賞するのは実に...
も眺めている訳にはいかない。
そもそもにして、これをルイズに発見されでもしたら一転し...
絶対に見つからないように気を配らなければならない。
(って言っても、隠し場所なんかすぐには思いつかねえしな。...
そうして火の塔のそばを通りかけた才人は、暗い視界の片隅...
を止めた。
妙な予感にとらわれながら、闇の中に横たわる小さな物体に...
「おいおい、マジかよ」
それは、先日拾ったものと全く同じ種類のバッグであった。...
ると、柔らかい感触が返ってきた。間違いなく、布製の何かが...
「一体誰なんだ、こんな頻繁に下着ドロなんかやってる奴は」
周囲を見回してみる。やはり前回同様、これがどこからどう...
人が元の世界に戻る手がかりにはならないということだ。だが...
もよくなっていた。
「どうするかな、これ」
もう一度何とかしてルイズに着てもらおうかとも考えたが、...
思いつかない。さすがに今回と全く同じ口実でいくのは不審に...
(ま、これの扱いも後で考えるとするか)
とりあえず中身を確認しておこうと、才人がバッグ中央のジ...
「サイト、それはまさか」
と、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。やけに震え...
振り返ると、そこには呆然と目を見開いたマリコルヌが、小太...
「サイト、それは、ひょっとして前のと同じ」
マリコルヌがこちらに近寄りながら言ってくる。才人は仕方...
「ああ、そうだと思うぜ。まだ中身は見てないけどな」
「それじゃ、すぐに確認しないと」
マリコルヌが息を弾ませながら突っ込んでくる。才人はさっ...
上げて顔面から塔の壁に激突する。
「何をするんだ」
「その前に、一つ聞かせてくれ」
鼻血を流しながら抗議してくるマリコルヌに、慎重に問いか...
「お前、この中身のパンツをどうするつもりなんだ」
「それはもちろん、僕が知ってる可愛い女の子に着てもらって...
「どうやって着てもらうんだ」
「どうにかするよ。ああ、あの子達のパンツを見られるなんて」
げへへともぐへへとも表現できない下品な笑いを漏らすマリ...
パンツを一度も生で見たこともないマリコルヌのこと、今回...
うのではないかと、警戒してはいたのだ。
(こいつにこのバッグを渡したら、興奮のあまり穴だらけの手...
そうなったら、いずれ今回のことがルイズに露見してしまう...
(そんなことになったら俺は破滅だ)
なんとしてでもバッグを死守せねば。そんな才人の決意が、...
と擦り傷でボロボロになった顔に、怒り狂った猪のような危険...
「サイトよお。まさか君、僕の邪魔をしようってんじゃあない...
「なに粋がってんだこの豚野郎。テメエこそせっかく上手くい...
るんだな」
「誰のおかげで今回の計画が成功したと思ってるんだ」
「俺が発案しなけりゃそもそも思いつきもしなかっただろうが」
マリコルヌが杖を取り出し、才人がデルフリンガーを引き抜...
「相棒、何だってこういう状況になるまで俺に喋らせてくんね...
「黙れデルフ。野郎の嫉妬パワーを侮る訳にはいかねえ。全力...
「それはこっちの台詞だぞサイト。大人しくパンツを渡さない...
拝まなければならなくなるじゃあないか」
風魔法でこちらを切り刻むつもりらしいマリコルヌが、早口...
才人は決死の覚悟で一歩踏み出した。
242 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
結果から言うと、マリコルヌとの勝負は才人の辛勝であった。
乱れ飛ぶ風魔法をデルフリンガーで吸収しながら、嫉妬パワ...
リコルヌを必死で追い回し、やっとのことで気絶させて逃げて...
「ま、あいつも明日になりゃちょっとは冷静になってるだろう」
ルイズの部屋の扉の前で、才人は小さく息を吐いた。胸には...
部屋になど持ち込みたくはなかったのだが、他にいい隠し場所...
に隠すしかない。
(ま、ルイズもシエスタもこの時間じゃ寝てるだろうし、隠す...
そんなことを考えていたとき、唐突に目の前の扉が開いたの...
「あれ、何やってるんですかサイトさん」
眠たげに目を擦りながら、シエスタが問いかけてくる。予期...
は何とか取り繕った。
「いや、トイレだよトイレ。シエスタこそどうしたんだ」
シエスタはぼんやりと突っ立ったまま少しの間目を瞬かせた...
「なんだか、サイトさんが外にいるような気がして」
(どういう勘の良さだよオイ)
内心冷や汗を垂らす才人の前で、シエスタはおもむろに視線...
「ところで、それなんですか」
その視線を追って、才人はぎょっとした。動揺のあまり、持...
れていたのだ。
「これはほら、えーと、あれだよ」
上手い言い訳が思いつかずにひたすら歯切れ悪くなってしま...
そうな表情でじっと見つめていたが、やがて「ああ」と、無垢...
「サイトさん、また服を買ってきてくださったんですね。あり...
シエスタは大きく頭を下げる。さっきトイレだと説明を受け...
が、多分寝惚けているんだろうと胸を撫で下ろし、才人は何度...
「え、ああ、そう、そうなんだよ。あれだけだと足りなくなる...
「そんなにお気になさらなくても結構ですのに。ミス・ヴァリ...
っていないんですよ」
「いやまあ、これはなんつーか、俺の気持ちっつーかさ」
そのとき、不意にシエスタがくしゃみをして、「ごめんなさ...
「ほら、いつまでもこんなとこに突っ立ってると風邪引いちま...
体を抱いて身震いする彼女を、才人はここぞとばかりに部屋...
入れて、自分はその隣に横になる。
「おやすみ、シエスタ」
「はい、おやすみなさい、サイトさん」
眠たげな声でそう言ったシエスタが健やかな寝息を立て始め...
「シエスタ、シエスタ」
何度か小声で呼びかけても反応がないことを確認した才人は...
下にバッグを隠した。
(明日、ルイズとシエスタがいなくなったらゼロ戦の格納庫で...
心の中でそう決めつつ、才人もまた深い眠りの中へと落ちて...
243 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
広場で突風に襲われた翌日の朝、ルイズは何となく落ち着か...
いつもどおり、才人は部屋から追い出してある。だから今部...
だけな訳で、どれだけ下着がいやらしかろうと特に恥ずかしが...
だと言うのに、何故だか気分が乱される。その原因を捜し求...
ていたシエスタと目が合った。
「どうしたんですか、ミス・ヴァリエール」
どことなくぎこちない微笑を浮かべて、シエスタが首を傾げ...
(怪しい)
ルイズは眉をひくつかせる。しかし、ここで問い詰めたとこ...
能性は少ないように思えた。だから、別段何にも気付いていな...
「別に、なんでもないわ。じゃ、いつもどおり部屋の掃除よろ...
「はい、分かりました。それじゃ、行ってらっしゃいませ」
頭を下げるシエスタに見送られて、部屋の外に出る。待って...
「じゃ、俺は犯人探しを続けるから」
「ええ。さっさと見つけなさいよ」
才人の姿が広場の方に消えたのを見届けてから、ルイズは駆...
ったキュルケが「どうしたの、忘れ物」と聞いてくるのへ「そ...
段を駆け上がる。忍び足で廊下を進み、自分の部屋の扉を前置...
下に手を突っ込んでいたシエスタが、悲鳴を上げて振り返った。
「なんだ、ミス・ヴァリエールですか。脅かさないでください」
メイドの少女は、誤魔化すような笑みを浮かべて立ち上がっ...
ち、両手に腰を当てて彼女をにらみつけた。
「あんた、なんか隠してるでしょ」
「いえ、別に何も」
シエスタは気まずそうに目をそらす。ルイズはそんな彼女を...
にしゃがみこんで、寝台の下を覗き込んだ。
「あっ、ダメですミス・ヴァリエール」
慌てて止める声など気にもせず、暗がりに目を凝らす。何か...
「何よこれは」
「いえ、別に、下らないものですから」
「じゃあわたしが見たって問題はないわよね」
寝台の下に手を突っ込んで、その物体を取り出す。見慣れな...
してみてもやっぱり見慣れないものとしか言いようがなかった...
ら袋のようなものらしいということだけは分かる。
「何これ」
「中に服が入ってるんだそうです。昨日、サイトさんが持って...
ため息混じりに、シエスタが答える。ルイズの目元が引きつ...
「つまりなに、あんたあの馬鹿が買ってきた服を独り占めしよ...
「いえ、独り占めだなんて。ただ、出来ればミス・ヴァリエー...
あ、なんて」
「呆れた。まあいいわ。あの馬鹿、今度はどんだけやらしい物...
「あ、やっぱり気になりますよねそういうの。開けてみましょ...
244 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
とは言え、見慣れない物体はやはり見慣れない物体なので、...
のか、少しの間悩むことになった。結局、中央にある銀色の金...
るまで、少々時を浪費することになってしまった。
そして、開いて中身を取り出してからも、二人はただひたす...
「何でしょうね、これ」
中にあったものの一つをしげしげと眺めながら、シエスタが...
「分かんないわよ。やらしい下着でないことだけは確かだけど」
ルイズもまた、他のものを一つ手にとって、眉をひそめるし...
見慣れないものの中に入っていたものは、やはり見慣れない...
いや、服であるらしいのは分かるのだが、どうも女性の衣服...
二人はまたしばしの間どうしようかと悩んでいたが、やがて...
「え、これ着るのあんた」
ルイズがぎょっとして問いかけると、シエスタは覚悟を決め...
「だって、サイトさんがわざわざ選んで買ってきて下さったん...
ずですし、つまりわたしたちに似合うものだと思ったんです...
「ええ、これが」
手の中にあるものを見て顔をしかめるルイズに、シエスタは...
鳴らしてみせた。
「前にサイトさんが持ってきた、水兵さんの服を考えてみてく...
こういった装いの女性こそが魅力的なのかもしれませんよ」
「いや、どう考えても違うと思うんだけど」
「じゃ、着なければいいじゃありませんか」
そう言われると、ルイズの心に迷いが生まれた。
確かに、才人は自分たちがいやらしいと思うデザインの下着...
ということは、目の前にある奇妙な服が彼の欲情を掻き立てる...
ない、のかもしれない。
そうやってルイズが悩んでいる内に、シエスタが着替えを終...
「どうですか」
と言って優雅に回転して見せるが、やはり奇妙な装いにしか...
(でも、もしもサイトがこういうの好きなんだとしたら)
そう考えると、やはりシエスタ一人にだけ着替えさせておく...
245 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
ゼロ戦格納庫でしばらく待機していた才人は、頃合を見計ら...
いつもならば、この時間ルイズの部屋には誰もいなくなるは...
(鬼のいぬ間に、ってね)
それでも最大限注意を払いつつ、才人はするすると寮の中を...
応用心して扉に耳を押し付けてみる。
すると、予想外なことに、部屋の中から聞き慣れた少女二人...
「やっぱり変だと思うんだけど、これ」
「そうですよねえ」
ルイズとシエスタだ。
(シエスタはともかく、なんで授業中のはずのルイズが)
困惑しつつも、才人は耳に神経を集中する。
「あいつ、本当にこういうのが好きなのかしらね」
「でもでも、見ようによっては魅力的、かもしれませんよ」
「男の感覚ってのは分かんないわね」
「それ以前にサイトさん別の世界の人ですもの」
「じゃ、やっぱりこういうのの方がやらしく見えてるんだ、あ...
会話の内容から察するに、昨日隠しておいたバッグは見つか...
ちはその中身を試着しているようだ。
(おいおいおいおい、これって千載一遇のチャンスってやつな...
仮に、二人が中で下着姿になっていたとすれば。この扉を開...
ずである。
(行くか、行っちゃうか、俺)
無論、下着姿なんぞ見られたルイズは怒り狂って普段の数倍...
いない。だが、そんなものを恐れていては男のロマンは完成し...
る恐怖を、意志と欲望の力で無理矢理ねじ伏せた。
(覚悟を決めろ、平賀才人。死して屍拾う者なしだ)
強い決意と共に、才人はドアノブに手をかける。その直後、...
「でもこれ、すっごく暖かいですよね」
「まあね。最近寒かったし、あいつらしくなくちょっと気を遣...
(暖かい? 下着が?)
才人の脳が激しい混乱状態に陥る。しかしもはや止まること...
246 名前:俺のパンツを履いてくれ[sage] 投稿日:2007/04/15...
半ばつんのめるようにして踏み込んだ先には、やはり見慣れ...
だが、その格好は。
「え、サイトさん」
驚くシエスタ。
「ちょ、なんであんたこんなところにいるのよ」
焦るルイズ。
だが才人は、目の前の二人以上の衝撃を受けて立ちすくんで...
見慣れた二人は、見慣れない格好をしていた。
「あの、サイトさん。どうですか、これ」
自分の姿を見下ろしたあと、上目遣いでこちらの表情を窺っ...
「わたしはこんなのなんとも思わないけど、あんたこういうの...
聞いておきたいんだけど」
そっぽを向いて顔を赤くしながらも、何かを期待するように...
実に可愛らしい仕草である。二人がもしもいつもどおりだっ...
て頭がおかしくなっていたかもしれない。
しかし、そうなるためには、二人の装いはあまりにも致命的...
見慣れない格好、というのは正確ではなかったかもしれない...
服装ですらある。
だが、目の前の少女たちがそんなものを着ているところなど...
りなき本心だった。
才人は泣きながら逃げ出した。
その日、授業を終えたレイナールがいつもの通りゼロ戦格納...
誰かが突っ伏しているのが見えた。
近づいてみるとそれは才人で、テーブルの上に置いた酒を遠...
ぶつぶつと呟いているのであった。
「腹巻、股引、ジャージ」
もちろん、レイナールには何のことやらさっぱり分からなか...
さて、今回の事件には、いくつか追記しておくべきことがあ...
この前日の夜にモンモランシーの部屋を訪れたギーシュが、...
結果素晴らしく芸術的な拳打を喰らって、彼が望むものとは別...
マリコルヌをうまく御したレイナールが、ポラロイドカメラ...
変質的ながらも有力な貴族たちとの間に太いパイプを何本か作...
そして、「暖かいし動きやすいから」という理由で、ルイズ...
続けたことが一つである。
彼女らがその習慣を続けている間中、夜中の格納庫で飲んだ...
「そんなんじゃなくて、パンツを履いてくれ。俺が用意した、...
と叫ぶ光景が、しばしば目撃されていたそうだ。
<終わり>
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