ゼロの使い魔保管庫
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ヴァリエール家の牝犬
#br
たらいの中の水をじゃぶじゃぶとかき混ぜて洗濯しながら、...
異世界ハルケギニアに召喚されてから、早一ヶ月ほど。可憐...
心身ともに疲れきるというのは、まさしく今の才人のために...
「大体あの女、ちょっと可愛いからって人を犬、犬ってよお」
今や何とも感じなくなってしまったルイズのパンツを洗いな...
「犬って呼ぶならせめて犬らしく可愛がれっつーの。地球で飼...
しかしここはハルケギニア。虐待される動物を介護する団体...
要するに、お先真っ暗なのだった。一応ガンダールヴとかい...
「大体、いくら何でも女の子ぶっ叩く訳にはいかねえしなあ」
自分がそんなことをしている光景など、想像しただけでも体...
「ああ、俺一生このまんまルイズの犬として生活していかなけ...
ガクッと肩を落としたとき、不意に後ろから呼びかけられた。
「サイトさん」
振り向くと、メイド服の少女が立っていて、はにかむような...
笑顔を浮かべて近づいてくるシエスタに、才人もまた笑顔で...
「シエスタ、どうしたの。厨房の方はいいのか」
「ええ。今ちょっと休憩をいれてるところで。それよりサイト...
心配そうな表情で自分の手元を覗き込んでくるシエスタに、...
「ああ。情けない話だけど、ご主人様には逆らえないからなあ」
「でも、ミス・ヴァリエールもあんまりですよ。いくら使い魔...
「ま、こっちも飯と寝る場所用意してもらってる以上、あんま...
「だけどこんなんじゃ、ゆっくりお話する時間だってないじゃ...
シエスタは不満げに唇を尖らせた。
「わたしだって、出来ることならずっとサイトさんと一緒にい...
ちらりと流し目を送ってくるシエスタに、才人は曖昧に笑い...
(いきなり何を言い出すのかなこの娘は)
どうも、シエスタは好意の表し方が大袈裟すぎるような気が...
(でもそんな訳ねえよな。俺別にシエスタに格好いいところな...
会うたびにご主人様にへいこらしてパンツを洗っているよう...
それが、才人の頭の中での常識である。
(大した理由もなく好かれるなんて、ギャルゲーかなんかじゃ...
自分の甘い考えを才人が内心で笑ったとき、何かを考え込ん...
「ねえサイトさん」
「なんだ」
返事をしてシエスタと目を合わせたとき、才人は奇妙な違和...
目の前の少女の雰囲気が、様変わりしているような気がした...
実際には、何も変わっていないはずである。胸に手を添える...
だが、何故だろう。今、細められている彼女の黒い瞳が、や...
まるで夜の海のように、飲み込まれれば二度と浮き上がって...
吸い寄せられるようにその深い瞳を見つめていると、シエス...
「どうかしましたか」
才人ははっとして「なんでもないよ」と手を振る。我に返っ...
(疲れてんのかな、俺)
小さくかぶりを振ったあと、才人は「で、なに」とシエスタ...
「はい。あの、わたしがどうにかしましょうか」
少々躊躇いがちに申し出たシエスタの言葉を、才人は一瞬理...
が、今までの会話の流れを思い出し、どうやら彼女が「どう...
「ダメダメ、ダメだよ。シエスタが親切なのは分かるけどさ、...
「でも、このままじゃサイトさんがあんまり可哀想で。急に訳...
シエスタの目に涙が浮かぶ。才人は焦って立ち上がり、彼女...
「いや、別に大したこっちゃないって。辛い目ったって、せい...
「またそうやって無理して。いいんですよ、辛いのなら辛いっ...
「そりゃ、ちょっとはキツいけどさ」
「ほら、やっぱり辛いんじゃありませんか」
シエスタは勢いごんで顔を近づけてきた。
「わたしに任せてください。大丈夫、絶対、悪いようにはしま...
「はあ。いや、だけどな」
シエスタの剣幕に気圧されそうになりつつも、才人はどうし...
ここは貴族などという身分が実在するような封建社会である...
そんな才人の心配を見抜いたのか、シエスタは安心させるよ...
「大丈夫、わたしだって貴族は恐いですし、危なくなったら引...
だったら最初から抗議なんてしないでくれよと思いつつ、才...
シエスタが手を叩いて喜びを露わにする。
「本当ですか。嬉しいな、サイトさん、わたしを頼ってくださ...
半ば強制的にそうさせておいてこの言い草である。この子も...
「でもシエスタ、本当に危ないことはしないでくれな。そもそ...
「いいえ。こういう問題を解決するのには冷静な第三者の視点...
あのルイズに挑もうとしている時点でその第三者はあまり冷...
「ありがとうよシエスタ。でもさ、本当に危ないことは」
「大丈夫ですって。わたし、手伝ってくれる人だって知ってま...
やけに自信ありげな口調だった。
(手伝ってくれる人って、誰だ。っつーか何の手伝い?)
才人がその疑問を口にする前に、「それに」とシエスタが両...
「わたし、愛する人のためだったら何だって出来ちゃいますか...
才人は硬直した。モロに「愛する人」と言われて仰天したと...
シエスタの言葉を聞いたとき、何故か全身に嫌な震えが走っ...
(え、なに、何で今、悪寒が)
混乱する才人をよそに、シエスタは「きゃっ、言っちゃった...
「それじゃ、サイトさん。結果を楽しみに待っててくださいね」
スカートを翻して駆け去っていくシエスタを、才人はとうと...
シエスタと話をした翌日から、状況は目に見えて変わり始め...
まず、ルイズがいなくなった。あの日の授業が終わった後、...
当然怨恨の線から才人の犯行が疑われたが、その日はシエス...
それも束の間、才人は途方に暮れてしまった。主人であるル...
「君も使い魔なら、ミス・ヴァリエールの消息が少しでもいい...
などとオールド・オスマンに訊ねられたりもしたが、元から...
こうして彼女の消息は完全に不明となってしまったが、この...
そして、いなくなったのはルイズだけではない。同時に、シ...
だが同時に、確信を持つこともできた。やはり、ルイズとシ...
しかし、具体的に何が起きているのかは、結局分からないま...
綺麗に掃除された部屋に、眩い朝日が差し込んでくる。才人...
主であるルイズがいなくなってから、既に二ヶ月もの時間が...
(ルイズがいたら、暑い暑いって文句言いながら、扇げとか命...
自分の想像に小さく笑みを漏らしたあと、才人は唇を噛む。
(俺が、シエスタを止めていれば)
何がどうなっているのかは未だに分からないが、シエスタが...
(二人とも、一体どこに行っちまったんだ。俺はどうすればい...
自分の無力感に才人が歯噛みしたとき、唐突に部屋の扉が開...
「おお、ここにいたかサイト君」
と、飛び込んできたのは教師のコルベールであった。禿げ上...
「どうしたんですか先生」
「いやはや、実に驚くべきことがあってね。なんと、ミス・ヴ...
突然の報せに、一瞬頭が真っ白になった。が、すぐに立ち直...
「ルイズが見つかったって、本当ですか。一体どこで……いや、...
「落ち着きたまえサイト君」
コルベールは才人をなだめたあと、どことなく気まずそうに...
「ミス・ヴァリエールが発見されたのは広場の片隅だよ。メイ...
メイドの少女、という単語に嫌な感じを覚えつつも、才人は...
「それで、あいつの容態は。まさか、ひどい怪我とか」
「うむ。何と説明したらいいのか、その」
コルベールは歯切れ悪く口ごもった。悩んだ末に結局自分の...
「とにかく、来てくれたまえ。ミス・ヴァリエールは今、医務...
才人が足を踏み入れたとき、医務室の中はひどい有様だった...
「近づかないで! それ以上近づいたら、この部屋ごと皆吹き...
「ミス・ヴァリエール、落ち着きなさい、わたしたちは君に危...
「嘘よ! そうやって騙して、またわたしをあそこへ連れて行...
「いやだから、そもそも我々は君が今までどこにいたのかも知...
困り果てた様子で説得を続けているのはオールド・オスマン...
この二ヶ月間捜し求めた少女の姿を目にして、才人はたまら...
「ルイズ!」
その場にいた全員が振り返り、才人のために避けてくれる。...
「サイト?」
「ああ、俺だよ」
「本当に、サイト?」
「おいおいよく見ろよ、俺以外にこんな間抜け面の奴がいるか...
ルイズはまだ警戒するように恐々才人を見つめていた。が、...
「サイト!」
か細い声で叫びながら、ルイズがこちらに両手を伸ばす。し...
「サイト、サイト」
胸の中で泣きじゃくるルイズの背中を、出来る限り優しく撫...
ルイズは、二ヶ月前とはすっかり変わってしまっていた。桃...
(一体何があったんだ)
才人は体が芯から震えてくるのを抑えることが出来なかった...
気になりはしたが、今はルイズを落ち着かせることが先決で...
「一体どうしたんだよ、ルイズ。お前らしくもない。ここには...
だがルイズは激しく体を震わせながら、ますます強く才人の...
「これはどうやら、ミス・ヴァリエールのことは君に任せた方...
一連の流れを見ていたオールド・オスマンが、白い髭をしご...
「すまんが、彼女についていてやってくれんかね。どうも、平...
「ええ。俺もそうした方がいいと」
「駄目よ!」
突然、ルイズが才人の言葉を遮って叫んだ。彼の服の裾を握...
「ここは嫌。わたし、こんなところにいたくない。部屋、わた...
「でもルイズ、お前そんな体じゃ」
「お願い、サイト。わたし恐いの。ここにいたらあいつらが来...
才人は困惑してオールド・オスマンを見やる。彼はじっと考...
「仕方ないじゃろ。ミス・ヴァリエールを頼むぞ、サイト君」
こうして許可をもらった才人は、ルイズを抱きかかえて部屋...
「さ、部屋に着いたぞ、ルイズ。懐かしいだろ、二ヶ月ぶりだ...
才人の胸の中で、ルイズは目だけを動かして久方ぶりに見る...
「とりあえず、今は休め、な。話なら後でゆっくり聞いてやる...
囁きかけながら布団をかけてやる途中、ルイズが震える手で...
「いっちゃやだ。ずっとそばにいて」
才人は微笑みながらルイズの手を優しく握り返し、安心させ...
「安心しろ。どこにも行きゃしないよ」
「本当?」
ルイズは不安そうに瞳を潤ませる。才人は「本当だよ」と答...
そのままずっとルイズの手を握ってやっていると、彼女もよ...
「ねえサイト」
「なんだ」
「このまま、ずっと手を握っててくれる?」
「ああ、いいぜ別に」
「ありがとう。わたしね、恐いの。今にもあいつらがわたしの...
「なあルイズ」
「なあに」
ルイズがほんの少しとは言え落ち着いたのを見て取って、才...
(どこから聞いたもんかな)
少し迷ったあと、まずはもう一つ気になっている事項とルイ...
「お前さ、ひょっとしてシエスタ」
その言葉を聞いた瞬間のルイズの反応は劇的であった。
あの痩せ細った体のどこにそんな力が残っていたのか、極限...
才人は慌てて立ち上がり、ルイズを抱き押さえた。
「おい、落ち着けよルイズ」
「やだ、止めて、離して、もう許して!」
「ごめん、俺が悪かった、俺が悪かったから」
才人自身も寝台の上に乗り、暴れるルイズの体を必死で抱き...
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。もう...
聞くだけで全身が震えてくるような、恐怖に満ちた声である。
(明らかに、シエスタの名前聞いてこんな風になったよな、こ...
ルイズの背中を撫でながら、才人はごくりと唾を飲む。
(やっぱり、あの子がルイズに何かしたのか……?)
部屋の扉が軋みながら開いたのは、ちょうどそのときであっ...
「ああ、こんなところにいたんですね、ミス・ヴァリエール」
才人の腕の中で、ルイズが引き付けを起こしたような短い悲...
つづく
終了行:
ヴァリエール家の牝犬
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たらいの中の水をじゃぶじゃぶとかき混ぜて洗濯しながら、...
異世界ハルケギニアに召喚されてから、早一ヶ月ほど。可憐...
心身ともに疲れきるというのは、まさしく今の才人のために...
「大体あの女、ちょっと可愛いからって人を犬、犬ってよお」
今や何とも感じなくなってしまったルイズのパンツを洗いな...
「犬って呼ぶならせめて犬らしく可愛がれっつーの。地球で飼...
しかしここはハルケギニア。虐待される動物を介護する団体...
要するに、お先真っ暗なのだった。一応ガンダールヴとかい...
「大体、いくら何でも女の子ぶっ叩く訳にはいかねえしなあ」
自分がそんなことをしている光景など、想像しただけでも体...
「ああ、俺一生このまんまルイズの犬として生活していかなけ...
ガクッと肩を落としたとき、不意に後ろから呼びかけられた。
「サイトさん」
振り向くと、メイド服の少女が立っていて、はにかむような...
笑顔を浮かべて近づいてくるシエスタに、才人もまた笑顔で...
「シエスタ、どうしたの。厨房の方はいいのか」
「ええ。今ちょっと休憩をいれてるところで。それよりサイト...
心配そうな表情で自分の手元を覗き込んでくるシエスタに、...
「ああ。情けない話だけど、ご主人様には逆らえないからなあ」
「でも、ミス・ヴァリエールもあんまりですよ。いくら使い魔...
「ま、こっちも飯と寝る場所用意してもらってる以上、あんま...
「だけどこんなんじゃ、ゆっくりお話する時間だってないじゃ...
シエスタは不満げに唇を尖らせた。
「わたしだって、出来ることならずっとサイトさんと一緒にい...
ちらりと流し目を送ってくるシエスタに、才人は曖昧に笑い...
(いきなり何を言い出すのかなこの娘は)
どうも、シエスタは好意の表し方が大袈裟すぎるような気が...
(でもそんな訳ねえよな。俺別にシエスタに格好いいところな...
会うたびにご主人様にへいこらしてパンツを洗っているよう...
それが、才人の頭の中での常識である。
(大した理由もなく好かれるなんて、ギャルゲーかなんかじゃ...
自分の甘い考えを才人が内心で笑ったとき、何かを考え込ん...
「ねえサイトさん」
「なんだ」
返事をしてシエスタと目を合わせたとき、才人は奇妙な違和...
目の前の少女の雰囲気が、様変わりしているような気がした...
実際には、何も変わっていないはずである。胸に手を添える...
だが、何故だろう。今、細められている彼女の黒い瞳が、や...
まるで夜の海のように、飲み込まれれば二度と浮き上がって...
吸い寄せられるようにその深い瞳を見つめていると、シエス...
「どうかしましたか」
才人ははっとして「なんでもないよ」と手を振る。我に返っ...
(疲れてんのかな、俺)
小さくかぶりを振ったあと、才人は「で、なに」とシエスタ...
「はい。あの、わたしがどうにかしましょうか」
少々躊躇いがちに申し出たシエスタの言葉を、才人は一瞬理...
が、今までの会話の流れを思い出し、どうやら彼女が「どう...
「ダメダメ、ダメだよ。シエスタが親切なのは分かるけどさ、...
「でも、このままじゃサイトさんがあんまり可哀想で。急に訳...
シエスタの目に涙が浮かぶ。才人は焦って立ち上がり、彼女...
「いや、別に大したこっちゃないって。辛い目ったって、せい...
「またそうやって無理して。いいんですよ、辛いのなら辛いっ...
「そりゃ、ちょっとはキツいけどさ」
「ほら、やっぱり辛いんじゃありませんか」
シエスタは勢いごんで顔を近づけてきた。
「わたしに任せてください。大丈夫、絶対、悪いようにはしま...
「はあ。いや、だけどな」
シエスタの剣幕に気圧されそうになりつつも、才人はどうし...
ここは貴族などという身分が実在するような封建社会である...
そんな才人の心配を見抜いたのか、シエスタは安心させるよ...
「大丈夫、わたしだって貴族は恐いですし、危なくなったら引...
だったら最初から抗議なんてしないでくれよと思いつつ、才...
シエスタが手を叩いて喜びを露わにする。
「本当ですか。嬉しいな、サイトさん、わたしを頼ってくださ...
半ば強制的にそうさせておいてこの言い草である。この子も...
「でもシエスタ、本当に危ないことはしないでくれな。そもそ...
「いいえ。こういう問題を解決するのには冷静な第三者の視点...
あのルイズに挑もうとしている時点でその第三者はあまり冷...
「ありがとうよシエスタ。でもさ、本当に危ないことは」
「大丈夫ですって。わたし、手伝ってくれる人だって知ってま...
やけに自信ありげな口調だった。
(手伝ってくれる人って、誰だ。っつーか何の手伝い?)
才人がその疑問を口にする前に、「それに」とシエスタが両...
「わたし、愛する人のためだったら何だって出来ちゃいますか...
才人は硬直した。モロに「愛する人」と言われて仰天したと...
シエスタの言葉を聞いたとき、何故か全身に嫌な震えが走っ...
(え、なに、何で今、悪寒が)
混乱する才人をよそに、シエスタは「きゃっ、言っちゃった...
「それじゃ、サイトさん。結果を楽しみに待っててくださいね」
スカートを翻して駆け去っていくシエスタを、才人はとうと...
シエスタと話をした翌日から、状況は目に見えて変わり始め...
まず、ルイズがいなくなった。あの日の授業が終わった後、...
当然怨恨の線から才人の犯行が疑われたが、その日はシエス...
それも束の間、才人は途方に暮れてしまった。主人であるル...
「君も使い魔なら、ミス・ヴァリエールの消息が少しでもいい...
などとオールド・オスマンに訊ねられたりもしたが、元から...
こうして彼女の消息は完全に不明となってしまったが、この...
そして、いなくなったのはルイズだけではない。同時に、シ...
だが同時に、確信を持つこともできた。やはり、ルイズとシ...
しかし、具体的に何が起きているのかは、結局分からないま...
綺麗に掃除された部屋に、眩い朝日が差し込んでくる。才人...
主であるルイズがいなくなってから、既に二ヶ月もの時間が...
(ルイズがいたら、暑い暑いって文句言いながら、扇げとか命...
自分の想像に小さく笑みを漏らしたあと、才人は唇を噛む。
(俺が、シエスタを止めていれば)
何がどうなっているのかは未だに分からないが、シエスタが...
(二人とも、一体どこに行っちまったんだ。俺はどうすればい...
自分の無力感に才人が歯噛みしたとき、唐突に部屋の扉が開...
「おお、ここにいたかサイト君」
と、飛び込んできたのは教師のコルベールであった。禿げ上...
「どうしたんですか先生」
「いやはや、実に驚くべきことがあってね。なんと、ミス・ヴ...
突然の報せに、一瞬頭が真っ白になった。が、すぐに立ち直...
「ルイズが見つかったって、本当ですか。一体どこで……いや、...
「落ち着きたまえサイト君」
コルベールは才人をなだめたあと、どことなく気まずそうに...
「ミス・ヴァリエールが発見されたのは広場の片隅だよ。メイ...
メイドの少女、という単語に嫌な感じを覚えつつも、才人は...
「それで、あいつの容態は。まさか、ひどい怪我とか」
「うむ。何と説明したらいいのか、その」
コルベールは歯切れ悪く口ごもった。悩んだ末に結局自分の...
「とにかく、来てくれたまえ。ミス・ヴァリエールは今、医務...
才人が足を踏み入れたとき、医務室の中はひどい有様だった...
「近づかないで! それ以上近づいたら、この部屋ごと皆吹き...
「ミス・ヴァリエール、落ち着きなさい、わたしたちは君に危...
「嘘よ! そうやって騙して、またわたしをあそこへ連れて行...
「いやだから、そもそも我々は君が今までどこにいたのかも知...
困り果てた様子で説得を続けているのはオールド・オスマン...
この二ヶ月間捜し求めた少女の姿を目にして、才人はたまら...
「ルイズ!」
その場にいた全員が振り返り、才人のために避けてくれる。...
「サイト?」
「ああ、俺だよ」
「本当に、サイト?」
「おいおいよく見ろよ、俺以外にこんな間抜け面の奴がいるか...
ルイズはまだ警戒するように恐々才人を見つめていた。が、...
「サイト!」
か細い声で叫びながら、ルイズがこちらに両手を伸ばす。し...
「サイト、サイト」
胸の中で泣きじゃくるルイズの背中を、出来る限り優しく撫...
ルイズは、二ヶ月前とはすっかり変わってしまっていた。桃...
(一体何があったんだ)
才人は体が芯から震えてくるのを抑えることが出来なかった...
気になりはしたが、今はルイズを落ち着かせることが先決で...
「一体どうしたんだよ、ルイズ。お前らしくもない。ここには...
だがルイズは激しく体を震わせながら、ますます強く才人の...
「これはどうやら、ミス・ヴァリエールのことは君に任せた方...
一連の流れを見ていたオールド・オスマンが、白い髭をしご...
「すまんが、彼女についていてやってくれんかね。どうも、平...
「ええ。俺もそうした方がいいと」
「駄目よ!」
突然、ルイズが才人の言葉を遮って叫んだ。彼の服の裾を握...
「ここは嫌。わたし、こんなところにいたくない。部屋、わた...
「でもルイズ、お前そんな体じゃ」
「お願い、サイト。わたし恐いの。ここにいたらあいつらが来...
才人は困惑してオールド・オスマンを見やる。彼はじっと考...
「仕方ないじゃろ。ミス・ヴァリエールを頼むぞ、サイト君」
こうして許可をもらった才人は、ルイズを抱きかかえて部屋...
「さ、部屋に着いたぞ、ルイズ。懐かしいだろ、二ヶ月ぶりだ...
才人の胸の中で、ルイズは目だけを動かして久方ぶりに見る...
「とりあえず、今は休め、な。話なら後でゆっくり聞いてやる...
囁きかけながら布団をかけてやる途中、ルイズが震える手で...
「いっちゃやだ。ずっとそばにいて」
才人は微笑みながらルイズの手を優しく握り返し、安心させ...
「安心しろ。どこにも行きゃしないよ」
「本当?」
ルイズは不安そうに瞳を潤ませる。才人は「本当だよ」と答...
そのままずっとルイズの手を握ってやっていると、彼女もよ...
「ねえサイト」
「なんだ」
「このまま、ずっと手を握っててくれる?」
「ああ、いいぜ別に」
「ありがとう。わたしね、恐いの。今にもあいつらがわたしの...
「なあルイズ」
「なあに」
ルイズがほんの少しとは言え落ち着いたのを見て取って、才...
(どこから聞いたもんかな)
少し迷ったあと、まずはもう一つ気になっている事項とルイ...
「お前さ、ひょっとしてシエスタ」
その言葉を聞いた瞬間のルイズの反応は劇的であった。
あの痩せ細った体のどこにそんな力が残っていたのか、極限...
才人は慌てて立ち上がり、ルイズを抱き押さえた。
「おい、落ち着けよルイズ」
「やだ、止めて、離して、もう許して!」
「ごめん、俺が悪かった、俺が悪かったから」
才人自身も寝台の上に乗り、暴れるルイズの体を必死で抱き...
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。もう...
聞くだけで全身が震えてくるような、恐怖に満ちた声である。
(明らかに、シエスタの名前聞いてこんな風になったよな、こ...
ルイズの背中を撫でながら、才人はごくりと唾を飲む。
(やっぱり、あの子がルイズに何かしたのか……?)
部屋の扉が軋みながら開いたのは、ちょうどそのときであっ...
「ああ、こんなところにいたんですね、ミス・ヴァリエール」
才人の腕の中で、ルイズが引き付けを起こしたような短い悲...
つづく
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