ゼロの使い魔保管庫
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632 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:08:07 ID...
虚無の力…それは、世界を蝕み、滅ぼす力。
ティファニアの力を吸収し、ロマリアの法王の力を奪ったジョ...
その事が分かったのは…死に逝くガリア王の言葉によってだった...
二人が逃げ込んだのは、『シャイターンの門』の眠る遺跡。
トリステインやゲルマニア、ガリアの追っ手に追われ、二人は...
「ルイズ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ…もう、疲れた…」
森で獲物を取ってきた才人は、焚き火の前で膝を抱えているル...
弱気になりかけているルイズを、才人は慰めようと言葉を捜す。
「…もう、いいわよ…」
そんな才人を、ルイズの言葉が止めた。
「…え?」
「もういいって言ってんの!」
膝から上げたルイズの顔は…疲れと絶望に塗りつぶされていた。
「どうしろっていうのよ!必死で手に入れた力は世界を滅ぼす...
どうすりゃいいのよ!私っ!」
言って立ち上がり、ルイズは才人の胸に飛び込む。
そして、その胸板を遠慮なく拳で叩いた。
「もう、疲れた!どこにも行かない!何もしないっ!
だからっ…だからっ…」
言葉と共にルイズの腕から力が抜けていく。
最後にとん、と才人の胸に手を置いて、ルイズの声が嗚咽に変...
「…もう、ほっといてよ…。私の事、ほっといてよ…」
そして、そのまま才人の胸の中で泣きじゃくる。
ルイズの泣き声を聞きながら、才人は優しくルイズの髪を撫ぜ...
「俺は、ほっとかない」
才人はきっぱりとそう言った。
ルイズははっとした顔で才人を振り仰ぐ。
才人はその視線をしっかと受け止め、続ける。
「俺はルイズの使い魔だからな。ルイズのことほっといたりし...
世界中の人間がお前を殺すっていうなら、俺がお前を守って...
そして、不器用にウインクしてみせる。
「なぁに、世界中の人間の数も七万の大軍も大した違いじゃな...
守るのはルイズ一人。それは変わらない」
そのままルイズをぎゅっと抱きしめる。
ルイズはされるがまま、声も出さずに泣いた。
ただただ、泣いた。
二人を、静寂が優しく包む。
しかしその静寂は長く続かなかった。
633 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:09:46 ID...
「…逃亡中の焚き火は相手に居場所を知らせる事になるぞ、覚え...
その声は、遺跡の入り口から聞こえた。
「アニエスさんっ!?」
そこに居たのは、トリステイン近衛騎士団、銃士隊隊長、アニ...
そして、その後ろから現れたのは…。
「姫さま…!」
ルイズの瞳が絶望に見開かれる。
今の彼女は、かつてルイズが共に遊んだ幼い王女ではない。
世界の安寧のため、ルイズの命を狙うトリステイン国王、アン...
「…サイト様。
いえ。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。
その者をこちらに引き渡しなさい」
あくまで冷酷に、アンリエッタはそう言い放つ。
その目は濃い疲労と深い使命感に染まっており、その言葉が嘘...
「…たとえ、姫様の命でも!」
そう言って立ちふさがろうとする才人を。
ルイズの手が、止めた。
「もういいわ、サイト」
「え?」
ルイズの言葉に、才人の動きが止まる。
ルイズは動きの止まった才人の脇をすり抜けて、アンリエッタ...
「女王陛下。お望みなら、この命、あなたに差し出しましょう。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー...
「おお、ルイズ、ルイズ…!」
ルイズの言葉に、アンリエッタの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
彼女とて、親友を無碍に殺したくはない。
だが、彼女には女王としての義務があった。この世界を、民を...
そんなアンリエッタに、ルイズが言った。
「でも、その前に。
最後に、最後に、私の使い魔と、今生の別れをさせてくださ...
彼にはまだ、伝えていない事が、あります」
そして、返事も待たずに才人を振り向く。
アンリエッタは何も言わなかった。
「サイト。今までありがとう。
そして、ごめんね。
巻き込んじゃって。私たちの世界に、私たちの戦争に、私た...
ごめんね。
最後までワガママで、かわいくなくて、自分勝手な私で。
…最後に、一つだけ、言わせて。
私。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリ...
あなたを愛しています。これからもずっと」
そして才人に駆け寄り、素早く唇を奪った。
634 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:10:21 ID...
「ごめんね」
そして身体を離す。
才人はそれまで金縛りにかかったように動かなかったが、ルイ...
「納得いかねえよ…」
「え?」
「納得いかねえって言ってんだよ!」
そしてルイズとアンリエッタの間に、大の字になって割り込む。
「なんでだよ!なんで何もしてないルイズが力もっただけで殺...
そんな才人を、アニエスが諭す。
「ならばお前に問う。お前は燃え広がると分かっていて、藁束...
「な、それは…」
「ヴァリエール嬢はその焚き火なんだよ。望むと望まざるとに...
そしてアニエスは剣を鞘から抜き、構える。
「その焚き火で暖を取らなければいけなかった。しかしもう焚...
必要のない力は、御せる間に消してしまわなければならない。
そこを退け、サイト。退かねば…わかっているな」
その切っ先は真っ直ぐ才人の喉笛を狙っている。アニエスは本...
才人はその切っ先と視線を受け、それでも退かない。
「アニエスさんの言ってることが正しいのはわかる…でも」
そして才人はデルフリンガーに手を掛けて、引き抜こうとした。
しかし、できなかった。
ぱぁん!
乾いた音が遺跡に響く。
前に回りこんだルイズが、才人の頬を張ったのだ。
ルイズは振り切った手を震わせ、俯いていた。
才人は驚愕に固まり、ルイズを見つめる
「な、ルイズ…?」
「わかりなさいよっ、この、バカ犬っ!」
そして顔を上げたルイズは。
泣いていた。
「私はっ、わたしはっ!
この世界も、姫さまも、みんなも、アンタも、大好きなのっ!
誰も失いたくない、何もなくしたくないのっ!
私がいなくなってこの世界が助かるんだったらっ…だったらっ...
言葉が途中から、嗚咽に変わる。
そのルイズの言葉に、才人が応えた。
「じゃあ、俺はどうなるんだよ!」
そう叫んで、ルイズの肩を掴む。
「勝手に呼んで!勝手にこき使って!勝手に惚れさせといて!
お前この責任なんも取ってねえじゃねえかよ!」
635 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:11:02 ID...
ルイズは応えない。応えられない。
どちらの言い分も正しい。
だが、結果の重さを考えるなら。
自分が消えるのが、一番なのだ…。
それを才人にも分かってほしい。でも、才人は理解しない。
いや、理解しても。才人は彼女を守るだろう。それが彼の役割...
「…ったく、しょうがねえなあ」
その時。
才人の背に背負われたデルフリンガーが口を開いた。
「…デルフ?」
才人はデルフリンガーの呼びかけに応える。
デルフリンガーはそのまま続ける。
「なあ嬢ちゃん。相棒と一緒なら、生きていけるかい?」
今度はルイズに語りかけた。
その言葉に、ルイズは。
素直に首を縦に振る。
「じゃあもう一つ聞くぜ。死ぬ覚悟はあるんだな?」
その言葉にも。
ルイズは黙って首を縦に振った。
「こら待てよデルフ!お前までルイズを」
「話は最後まで聞けよ、相棒。
ついでだ、そこの二人も聞いときな。
今から俺が相棒と嬢ちゃんを相棒の世界に送り込む方法を教...
デルフリンガーのその言葉に、四人は息を呑んだ。
確かに、そんな方法があるのなら、このハルケギニアが虚無に...
黙ったままの人間達を尻目に、デルフリンガーは続きを語る。
「虚無の力と俺っちを使えば、空間を裂いて相棒を元の世界に...
それに便乗して、嬢ちゃんをあっちの世界に送り込む。
死ぬ覚悟ってのは、そういうことだ。この世界の全ての繋が...
デルフリンガーの言葉に、二人は見つめあう。
そして二人は、一緒に頷いた。
「そっちの二人も文句はねえな?」
アンリエッタとアニエスも頷く。
二人とて、友人達を不幸に陥れるようなことはしたくない。
「分かった。
じゃ、嬢ちゃん。俺っちの柄に『ディスペル・マジック』を...
間違えるんじゃねえぞ。刃じゃない、柄に、だ」
ルイズはそっとデルフリンガーを鞘から抜き、その柄に手を掛...
虚無の力を全て手に入れたルイズは、その思考だけで、虚無の...
虚無の魔力がデルフリンガーの柄に注ぎ込まれる。
そして、刃を止めていた留め金が次々と外れて。
大きな金属音を立て、デルフリンガーから刃が落ちた。
636 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:11:41 ID...
「で、デルフ、大丈夫なのか?」
「…ああ、俺っちの本体は柄の方だからな。
さて、こっからが本番だ。
相棒、俺を持って空を切れ」
才人は言われるまま、デルフリンガーをルイズから受け取る。
その重さはいつもの半分もなく、才人を不安にさせた。
「おいデルフ、本当に」
「大丈夫だっつってんだろ。
さあ構えな相棒。こっからが本番だ」
「あ、ああ」
デルフリンガーに言われるまま、才人は剣の柄だけを上段に構...
柄だけのデルフリンガーは、ルイズに指示を飛ばす。
「さあ嬢ちゃん、今だ!俺っちに『エクスプロージョン』を!」
「は、はい!」
ルイズの意識が収束し、滅びのイメージをデルフリンガーに送...
バキィン!
そして巨大なガラスの割れる音が響き。
デルフリンガーの柄から、真っ黒な刃が生えていた。
「これが、『虚無の剣』。世界を切り裂く、闇の刃だ」
デルフリンガーはそう言って、続いて才人に指示を出した。
「相棒、今だ、空を切れ!」
「おう!」
その指示通りに才人は、なにもない空間に虚無の刃を振り下ろ...
才人の手に、奇妙な感触が伝わってくる。
それはまるで、縦に吊るした皮を切り裂くような。
刃が地面に着くと、才人の目の前には。
人一人が通れそうなほどの、黒い裂け目ができていた。
「ここを通れば、相棒は元の世界に帰れる」
「ちょ、待てよデルフ!こんな方法があるなら今までどうして」
「嬢ちゃんが最後の担い手にならんと、この力は使えねえんだ...
これは、担い手の邪魔をする奴らを倒す、究極の手段でもあ...
どんな盾でも、『世界』を切り裂く刃は防げないからな」
その声は、どこか自嘲を含んでいた。
「さ、急ぎな二人とも。この裂け目は三十分程度しか持たん。...
そしてそれきり、デルフリンガーは黙りこくった。
才人は、ルイズを見る。
ルイズはその視線を受け、愛すべき幼馴染とその護り手を振り...
637 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:12:25 ID...
「…姫様」
「…なにかしら。ルイズ・フランソワーズ」
「…世間には、『虚無の担い手は死んだ』とご公表ください。そ...
「…わかりました。そう、伝えましょう」
「学院の友達にも。シエスタにも、そう伝えてください。
でも、一つだけ、付け加えておいてください」
「…なにかしら」
「…ルイズは幸せでしたと。そして、幸せに逝ったのだと、お伝...
「…わかったわ。ルイズ・フランソワーズ。私の愛しいともだち...
そして二人は柔らかく抱き合う。
すぐにルイズはアンリエッタとの抱擁を止めると、傍らに控え...
「アニエスさん。剣を貸してください」
「どうするんだ?」
アニエスはルイズが女王を襲う事を一瞬危惧したが、ここで彼...
それに、もしそうしたとしても、自分なら止められるだろう。
アニエスはそう考え、ルイズに剣を手渡した。
ルイズは剣を受け取ると。
その美しい髪に手を掛け、肩口から剣で一時に切り落とした。
その髪の束と剣を、ルイズはアニエスに手渡す。
「この髪を、私の死の証としてください」
「ああ、わかったよ」
アニエスはそれを受け取り、大事に両手に捧げ持つ。
髪を切り落としたルイズは、どこか吹っ切れたような、清清し...
「…じゃ、行きましょ。サイト」
「…ちょっとまって」
才人も、二人に言いたい事があった。
「今までありがとう、姫さま、アニエスさん。俺、最初ここに...
俺、みんなと会えてよかったよ。
学院や、城のみんな、コルベール先生とかタバサとかギーシ...
みんなにも、お礼が言いたい。でも、時間ないから…。二人が...
「わかりましたわ」
「確かに承った」
そして才人は、ルイズと手を繋ぐ。
「じゃ、行こうか」
「うん」
そして、二人は『門』をくぐろうとした。
しかし、それを才人の左手に握られたデルフリンガーが止めた。
「待ちな、俺っちは置いてってもらおうか」
「え?なんで?」
「俺っちがこの門を潜れば、門が閉じちまう。相棒が向こうに...
「そうなのか…」
「だから、な、ホラ。んな泣きそうなツラすんなよ!
俺っちはこっちでよろしくやるからさ。お前らも向こうで元...
「ああ」
才人はそう答え、デルフリンガーをアニエスに手渡した。
638 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:13:49 ID...
「それじゃあ、本当にさよならだ」
「さよなら、姫さま」
「「さよなら」」
二人の声が溶け合うように聞こえ…。
『門』の向こうに一歩を踏み出した二人は、一瞬で姿を消した。
「行って…しまいましたね」
「…ええ…」
トリスタニアに帰った二人は、ルイズに言われたとおり、世界...
それにより、ハルケギニアには千年の安寧が訪れる事になる…。
しかしそれには、もう一つの犠牲が必要だったのだ。
「さて。俺っちもこのへんでオサラバだ」
アニエスの手の中で、デルフリンガーがそう呟く。
「何を。ただのインテリジェンスソードが一本あったところで...
アニエスの言葉を、デルフリンガーが遮った。
「あのな、銃士隊の姉ちゃん。
俺の原動力は魔力なんかじゃねえ。虚無の力なんだよ」
その言葉に、アニエスとアンリエッタがはっとなる。
「この世界にはもう、虚無の力はねえ。
だから、俺っちの命ももうすぐ尽きるってことさ」
「ま、待て、ならどうして?」
「ああ、これが俺っちの最後の仕事だからさ。
ブリミルの糞野郎に頼まれたのさ。
『もし未来の担い手が再び虚無を一つに纏めるような事があれ...
その言葉の合間にも、デルフリンガーの柄のそこかしこに赤錆...
「さ、錆だらけの柄なんか持って帰ってもしょうがねえぜ?
…ここに…捨ててってくれ…。邪魔、に、なる……」
赤錆が一気にデルフリンガーを覆い…。そして。
それきり、おしゃべりな魔剣は一切口を利かなくなった。
トリスタニア王立博物館の最奥には、古ぼけた赤錆だらけの柄...
そのガラスケースの前にある掲示板には、こう書かれていた。
『救国の勇者デルフリンガー卿 ここに眠る』
終了行:
632 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:08:07 ID...
虚無の力…それは、世界を蝕み、滅ぼす力。
ティファニアの力を吸収し、ロマリアの法王の力を奪ったジョ...
その事が分かったのは…死に逝くガリア王の言葉によってだった...
二人が逃げ込んだのは、『シャイターンの門』の眠る遺跡。
トリステインやゲルマニア、ガリアの追っ手に追われ、二人は...
「ルイズ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ…もう、疲れた…」
森で獲物を取ってきた才人は、焚き火の前で膝を抱えているル...
弱気になりかけているルイズを、才人は慰めようと言葉を捜す。
「…もう、いいわよ…」
そんな才人を、ルイズの言葉が止めた。
「…え?」
「もういいって言ってんの!」
膝から上げたルイズの顔は…疲れと絶望に塗りつぶされていた。
「どうしろっていうのよ!必死で手に入れた力は世界を滅ぼす...
どうすりゃいいのよ!私っ!」
言って立ち上がり、ルイズは才人の胸に飛び込む。
そして、その胸板を遠慮なく拳で叩いた。
「もう、疲れた!どこにも行かない!何もしないっ!
だからっ…だからっ…」
言葉と共にルイズの腕から力が抜けていく。
最後にとん、と才人の胸に手を置いて、ルイズの声が嗚咽に変...
「…もう、ほっといてよ…。私の事、ほっといてよ…」
そして、そのまま才人の胸の中で泣きじゃくる。
ルイズの泣き声を聞きながら、才人は優しくルイズの髪を撫ぜ...
「俺は、ほっとかない」
才人はきっぱりとそう言った。
ルイズははっとした顔で才人を振り仰ぐ。
才人はその視線をしっかと受け止め、続ける。
「俺はルイズの使い魔だからな。ルイズのことほっといたりし...
世界中の人間がお前を殺すっていうなら、俺がお前を守って...
そして、不器用にウインクしてみせる。
「なぁに、世界中の人間の数も七万の大軍も大した違いじゃな...
守るのはルイズ一人。それは変わらない」
そのままルイズをぎゅっと抱きしめる。
ルイズはされるがまま、声も出さずに泣いた。
ただただ、泣いた。
二人を、静寂が優しく包む。
しかしその静寂は長く続かなかった。
633 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:09:46 ID...
「…逃亡中の焚き火は相手に居場所を知らせる事になるぞ、覚え...
その声は、遺跡の入り口から聞こえた。
「アニエスさんっ!?」
そこに居たのは、トリステイン近衛騎士団、銃士隊隊長、アニ...
そして、その後ろから現れたのは…。
「姫さま…!」
ルイズの瞳が絶望に見開かれる。
今の彼女は、かつてルイズが共に遊んだ幼い王女ではない。
世界の安寧のため、ルイズの命を狙うトリステイン国王、アン...
「…サイト様。
いえ。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。
その者をこちらに引き渡しなさい」
あくまで冷酷に、アンリエッタはそう言い放つ。
その目は濃い疲労と深い使命感に染まっており、その言葉が嘘...
「…たとえ、姫様の命でも!」
そう言って立ちふさがろうとする才人を。
ルイズの手が、止めた。
「もういいわ、サイト」
「え?」
ルイズの言葉に、才人の動きが止まる。
ルイズは動きの止まった才人の脇をすり抜けて、アンリエッタ...
「女王陛下。お望みなら、この命、あなたに差し出しましょう。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー...
「おお、ルイズ、ルイズ…!」
ルイズの言葉に、アンリエッタの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
彼女とて、親友を無碍に殺したくはない。
だが、彼女には女王としての義務があった。この世界を、民を...
そんなアンリエッタに、ルイズが言った。
「でも、その前に。
最後に、最後に、私の使い魔と、今生の別れをさせてくださ...
彼にはまだ、伝えていない事が、あります」
そして、返事も待たずに才人を振り向く。
アンリエッタは何も言わなかった。
「サイト。今までありがとう。
そして、ごめんね。
巻き込んじゃって。私たちの世界に、私たちの戦争に、私た...
ごめんね。
最後までワガママで、かわいくなくて、自分勝手な私で。
…最後に、一つだけ、言わせて。
私。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリ...
あなたを愛しています。これからもずっと」
そして才人に駆け寄り、素早く唇を奪った。
634 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:10:21 ID...
「ごめんね」
そして身体を離す。
才人はそれまで金縛りにかかったように動かなかったが、ルイ...
「納得いかねえよ…」
「え?」
「納得いかねえって言ってんだよ!」
そしてルイズとアンリエッタの間に、大の字になって割り込む。
「なんでだよ!なんで何もしてないルイズが力もっただけで殺...
そんな才人を、アニエスが諭す。
「ならばお前に問う。お前は燃え広がると分かっていて、藁束...
「な、それは…」
「ヴァリエール嬢はその焚き火なんだよ。望むと望まざるとに...
そしてアニエスは剣を鞘から抜き、構える。
「その焚き火で暖を取らなければいけなかった。しかしもう焚...
必要のない力は、御せる間に消してしまわなければならない。
そこを退け、サイト。退かねば…わかっているな」
その切っ先は真っ直ぐ才人の喉笛を狙っている。アニエスは本...
才人はその切っ先と視線を受け、それでも退かない。
「アニエスさんの言ってることが正しいのはわかる…でも」
そして才人はデルフリンガーに手を掛けて、引き抜こうとした。
しかし、できなかった。
ぱぁん!
乾いた音が遺跡に響く。
前に回りこんだルイズが、才人の頬を張ったのだ。
ルイズは振り切った手を震わせ、俯いていた。
才人は驚愕に固まり、ルイズを見つめる
「な、ルイズ…?」
「わかりなさいよっ、この、バカ犬っ!」
そして顔を上げたルイズは。
泣いていた。
「私はっ、わたしはっ!
この世界も、姫さまも、みんなも、アンタも、大好きなのっ!
誰も失いたくない、何もなくしたくないのっ!
私がいなくなってこの世界が助かるんだったらっ…だったらっ...
言葉が途中から、嗚咽に変わる。
そのルイズの言葉に、才人が応えた。
「じゃあ、俺はどうなるんだよ!」
そう叫んで、ルイズの肩を掴む。
「勝手に呼んで!勝手にこき使って!勝手に惚れさせといて!
お前この責任なんも取ってねえじゃねえかよ!」
635 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:11:02 ID...
ルイズは応えない。応えられない。
どちらの言い分も正しい。
だが、結果の重さを考えるなら。
自分が消えるのが、一番なのだ…。
それを才人にも分かってほしい。でも、才人は理解しない。
いや、理解しても。才人は彼女を守るだろう。それが彼の役割...
「…ったく、しょうがねえなあ」
その時。
才人の背に背負われたデルフリンガーが口を開いた。
「…デルフ?」
才人はデルフリンガーの呼びかけに応える。
デルフリンガーはそのまま続ける。
「なあ嬢ちゃん。相棒と一緒なら、生きていけるかい?」
今度はルイズに語りかけた。
その言葉に、ルイズは。
素直に首を縦に振る。
「じゃあもう一つ聞くぜ。死ぬ覚悟はあるんだな?」
その言葉にも。
ルイズは黙って首を縦に振った。
「こら待てよデルフ!お前までルイズを」
「話は最後まで聞けよ、相棒。
ついでだ、そこの二人も聞いときな。
今から俺が相棒と嬢ちゃんを相棒の世界に送り込む方法を教...
デルフリンガーのその言葉に、四人は息を呑んだ。
確かに、そんな方法があるのなら、このハルケギニアが虚無に...
黙ったままの人間達を尻目に、デルフリンガーは続きを語る。
「虚無の力と俺っちを使えば、空間を裂いて相棒を元の世界に...
それに便乗して、嬢ちゃんをあっちの世界に送り込む。
死ぬ覚悟ってのは、そういうことだ。この世界の全ての繋が...
デルフリンガーの言葉に、二人は見つめあう。
そして二人は、一緒に頷いた。
「そっちの二人も文句はねえな?」
アンリエッタとアニエスも頷く。
二人とて、友人達を不幸に陥れるようなことはしたくない。
「分かった。
じゃ、嬢ちゃん。俺っちの柄に『ディスペル・マジック』を...
間違えるんじゃねえぞ。刃じゃない、柄に、だ」
ルイズはそっとデルフリンガーを鞘から抜き、その柄に手を掛...
虚無の力を全て手に入れたルイズは、その思考だけで、虚無の...
虚無の魔力がデルフリンガーの柄に注ぎ込まれる。
そして、刃を止めていた留め金が次々と外れて。
大きな金属音を立て、デルフリンガーから刃が落ちた。
636 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:11:41 ID...
「で、デルフ、大丈夫なのか?」
「…ああ、俺っちの本体は柄の方だからな。
さて、こっからが本番だ。
相棒、俺を持って空を切れ」
才人は言われるまま、デルフリンガーをルイズから受け取る。
その重さはいつもの半分もなく、才人を不安にさせた。
「おいデルフ、本当に」
「大丈夫だっつってんだろ。
さあ構えな相棒。こっからが本番だ」
「あ、ああ」
デルフリンガーに言われるまま、才人は剣の柄だけを上段に構...
柄だけのデルフリンガーは、ルイズに指示を飛ばす。
「さあ嬢ちゃん、今だ!俺っちに『エクスプロージョン』を!」
「は、はい!」
ルイズの意識が収束し、滅びのイメージをデルフリンガーに送...
バキィン!
そして巨大なガラスの割れる音が響き。
デルフリンガーの柄から、真っ黒な刃が生えていた。
「これが、『虚無の剣』。世界を切り裂く、闇の刃だ」
デルフリンガーはそう言って、続いて才人に指示を出した。
「相棒、今だ、空を切れ!」
「おう!」
その指示通りに才人は、なにもない空間に虚無の刃を振り下ろ...
才人の手に、奇妙な感触が伝わってくる。
それはまるで、縦に吊るした皮を切り裂くような。
刃が地面に着くと、才人の目の前には。
人一人が通れそうなほどの、黒い裂け目ができていた。
「ここを通れば、相棒は元の世界に帰れる」
「ちょ、待てよデルフ!こんな方法があるなら今までどうして」
「嬢ちゃんが最後の担い手にならんと、この力は使えねえんだ...
これは、担い手の邪魔をする奴らを倒す、究極の手段でもあ...
どんな盾でも、『世界』を切り裂く刃は防げないからな」
その声は、どこか自嘲を含んでいた。
「さ、急ぎな二人とも。この裂け目は三十分程度しか持たん。...
そしてそれきり、デルフリンガーは黙りこくった。
才人は、ルイズを見る。
ルイズはその視線を受け、愛すべき幼馴染とその護り手を振り...
637 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:12:25 ID...
「…姫様」
「…なにかしら。ルイズ・フランソワーズ」
「…世間には、『虚無の担い手は死んだ』とご公表ください。そ...
「…わかりました。そう、伝えましょう」
「学院の友達にも。シエスタにも、そう伝えてください。
でも、一つだけ、付け加えておいてください」
「…なにかしら」
「…ルイズは幸せでしたと。そして、幸せに逝ったのだと、お伝...
「…わかったわ。ルイズ・フランソワーズ。私の愛しいともだち...
そして二人は柔らかく抱き合う。
すぐにルイズはアンリエッタとの抱擁を止めると、傍らに控え...
「アニエスさん。剣を貸してください」
「どうするんだ?」
アニエスはルイズが女王を襲う事を一瞬危惧したが、ここで彼...
それに、もしそうしたとしても、自分なら止められるだろう。
アニエスはそう考え、ルイズに剣を手渡した。
ルイズは剣を受け取ると。
その美しい髪に手を掛け、肩口から剣で一時に切り落とした。
その髪の束と剣を、ルイズはアニエスに手渡す。
「この髪を、私の死の証としてください」
「ああ、わかったよ」
アニエスはそれを受け取り、大事に両手に捧げ持つ。
髪を切り落としたルイズは、どこか吹っ切れたような、清清し...
「…じゃ、行きましょ。サイト」
「…ちょっとまって」
才人も、二人に言いたい事があった。
「今までありがとう、姫さま、アニエスさん。俺、最初ここに...
俺、みんなと会えてよかったよ。
学院や、城のみんな、コルベール先生とかタバサとかギーシ...
みんなにも、お礼が言いたい。でも、時間ないから…。二人が...
「わかりましたわ」
「確かに承った」
そして才人は、ルイズと手を繋ぐ。
「じゃ、行こうか」
「うん」
そして、二人は『門』をくぐろうとした。
しかし、それを才人の左手に握られたデルフリンガーが止めた。
「待ちな、俺っちは置いてってもらおうか」
「え?なんで?」
「俺っちがこの門を潜れば、門が閉じちまう。相棒が向こうに...
「そうなのか…」
「だから、な、ホラ。んな泣きそうなツラすんなよ!
俺っちはこっちでよろしくやるからさ。お前らも向こうで元...
「ああ」
才人はそう答え、デルフリンガーをアニエスに手渡した。
638 :救国の勇者 ◆mQKcT9WQPM :2007/04/28(土) 03:13:49 ID...
「それじゃあ、本当にさよならだ」
「さよなら、姫さま」
「「さよなら」」
二人の声が溶け合うように聞こえ…。
『門』の向こうに一歩を踏み出した二人は、一瞬で姿を消した。
「行って…しまいましたね」
「…ええ…」
トリスタニアに帰った二人は、ルイズに言われたとおり、世界...
それにより、ハルケギニアには千年の安寧が訪れる事になる…。
しかしそれには、もう一つの犠牲が必要だったのだ。
「さて。俺っちもこのへんでオサラバだ」
アニエスの手の中で、デルフリンガーがそう呟く。
「何を。ただのインテリジェンスソードが一本あったところで...
アニエスの言葉を、デルフリンガーが遮った。
「あのな、銃士隊の姉ちゃん。
俺の原動力は魔力なんかじゃねえ。虚無の力なんだよ」
その言葉に、アニエスとアンリエッタがはっとなる。
「この世界にはもう、虚無の力はねえ。
だから、俺っちの命ももうすぐ尽きるってことさ」
「ま、待て、ならどうして?」
「ああ、これが俺っちの最後の仕事だからさ。
ブリミルの糞野郎に頼まれたのさ。
『もし未来の担い手が再び虚無を一つに纏めるような事があれ...
その言葉の合間にも、デルフリンガーの柄のそこかしこに赤錆...
「さ、錆だらけの柄なんか持って帰ってもしょうがねえぜ?
…ここに…捨ててってくれ…。邪魔、に、なる……」
赤錆が一気にデルフリンガーを覆い…。そして。
それきり、おしゃべりな魔剣は一切口を利かなくなった。
トリスタニア王立博物館の最奥には、古ぼけた赤錆だらけの柄...
そのガラスケースの前にある掲示板には、こう書かれていた。
『救国の勇者デルフリンガー卿 ここに眠る』
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