ゼロの使い魔保管庫
[
トップ
] [
新規
|
一覧
|
単語検索
|
最終更新
|
ヘルプ
]
開始行:
65 名前:見知らぬ星(その1)[sage] 投稿日:2007/04/09(月...
全身が、何か柔らかいものに包まれている。
身体中が外気にさらされるような、毛穴の一つ一つを風がな...
にもかかわらず、
――暑い。
(いや、熱い?)
――そうだ、熱い。
(熱い、熱い、熱い……)
――まるで火傷しそうだ。
「っっっっっっ!!!!!」
岩のように重かったまぶたが、ようやく開いた。
その時になって、初めて彼は自分の体が無意識のうちに、そ...
全身は、まるで水をぶっかけられたかのように寝汗がグッシ...
「っっっ!!!!」
その瞬間、割れるような頭痛がほとばしる。
思わず身体を丸め、目を閉じる。
何も考えられない。
まるで重度の二日酔いにでもなったような。
天地がひっくり返り、時間が凍結したような。
そんな気分だった。
……眠い。
だめだ。
これ以上うずくまって、目を閉じていれば、また覚醒する機...
起きろ。
重いまぶたを無理やり開けて、その意識を叩き起こすんだ。
さもないと、まずい事になる。
そう無意識が叫んでいる。
絶え間なく続く頭痛。五体を包む圧倒的な疲労感。身体は間...
しかし、それ以上に無意識が叫ぶのだ。
早く起きないと、“まずいこと”になる、と。
彼は、体の欲求を無視し、無意識の叫びに従うことにした。...
彼は起きた。
66 名前:見知らぬ星(その1)[sage] 投稿日:2007/04/09(月...
そこは見慣れない空間だった。
石造りの見慣れない部屋。
広さは12畳くらいだろうか。
部屋は明るいが……暗い。
少なくとも、彼が知っているライトや、蛍光灯の光量ではな...
ふと見ると、ランプに、あかあかと火が灯っている。
――えらく、クラッシックな趣味だなぁ。
そう思った時、彼は、自分がかつて見た事の無いくらい豪奢...
いや、ベッドだけじゃない。
よくよく見れば、眼前のタンスも、二人がけのテーブルと椅...
しかし、いずれの家具にも見覚えは無い。
早い話が、ここは彼にとって、見知らぬ部屋だった。
「どこよ、ここ……?」
彼はそう、不安げに呟いた。
「サイト!!」
扉が開くのと同時だった。
ピンクがかった金髪(?)の可愛らしい少女が、わなわなと...
かなりの美少女、といえる容貌の持ち主だった。
「意識が……戻ったのね、よかった……。もう、もう、目が覚めな...
美少女が目を潤ませた瞬間、彼の頭蓋に、電流のような激痛...
「ぐっ!!!」
「サイト……!? サイト、サイト! 大丈夫!?」
美少女は、頭を抱えてうずくまる彼の枕元に駆け寄ると、その...
「頭が、痛いの……?」
「――ああ、割れちまいそうだ」
「ごめんね、ごめんねサイト……他に痛いところは無い?」
そう言いながら、必死に彼の眼を覗き込む少女の表情は、幼...
ぽたり、ぽたり。
彼の頬に、熱いしずくが一滴、二滴と落ちてくる。
ごくん。
偶然だろうか、そのうちの一滴が、頬を伝って唇まで辿り着...
頭蓋を覆う電流が、ふっ、と和らいだ気がした。
「泣いてるのか……?」
「泣いてなんか、ないわよ……、このばかぁ」
そのまま彼女は、渾身の力を込めて少年を抱きしめた。
もう、どこにも彼を逃がさないように。そう誓うかのように。
67 名前:見知らぬ星(その1)[sage] 投稿日:2007/04/09(月...
「ミス・ヴァリエール、お食事をお持ちしました……って、サイ...
彼は、抱きしめられた美少女の薄い胸の中から、視線だけを...
黒髪を肩のあたりで綺麗にカットされたメイド姿の少女が、...
「お目覚めに、お目覚めになられたんですかっ!? サイトさ...
「ええ、シエスタ。さっき部屋に帰ってきたら――」
「サイトさんっっ!!」
その時には、もうメイドは彼女の言葉を聞いてはいなかった。
驚くヒマも無かった。
清楚と見えたはずのメイドが、トレイをテーブルに置くや否...
とっさの事に、ブロンドの美少女も彼から身を離して避け、...
がしっ!
メイドは、まるでアメフトのタックルのように飛びつき、押...
彼は、何の抵抗も反応も出来なかった。
「よかった! よかった! よかった! 心配したんですよっ...
メイドは泣いていた。
彼の胸にしがみついて泣いていた。
最初は、その目にサッと嫉妬の色を浮かべたブロンドの少女...
しかし、彼の心は醒めていた。
眼前で繰り広げられている、自分に対する二人の少女たちの...
なぜなら……。
「なあ、一つ訊いていいか……?」
彼の瞳は、もはや胸元のメイドを見てはいなかった。
ブロンドの少女をも見てはいなかった。
ただ、その黒い瞳に心底困ったような光を浮かべ、窓から覗...
「誰だ、お前ら?」
74 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:13:48 ...
「……サイト……?」
「……サイトさん?」
「俺は、いかにも平賀才人だけど……お前らは誰だ? 何で俺の...
メイドが彼の胸元から顔を上げる。
そのメイドを見守るような眼差しを送っていたブロンドの少...
「……あんた、ふざけてんの?」
「サイトさん、止めてくださいよ、そんな冗談笑えませんよ」
しかし、彼はもう二人を見てはいなかった。
「どいてくれ」
そう言いながらメイドをやんわりと丁寧に、しかし確実に明...
その目は、かつてこのメイド姿の少女が見た事の無いほど冷...
「サイ……ト……さん……?」
「何だか、すっげえ長い間……眠ってたような気がする」
ベッドから身を起こし、裸足で床に身を起こした彼――才人は...
「何言ってるのよ! あんたはもう10日も眠ってたのよっ! ...
「10日……?」
「そうよっ! あんたは平民のくせにっ、私の使い魔のくせに...
「ミス・ヴァリエール! 待ってください!」
「いいえ、今度という今度は、もう堪忍袋の緒が切れたわ! ...
「サイトさんが10日も寝込んだ原因を作ったのは、ミス・ヴァ...
その一言に、さすがの彼女――ルイズも沈黙せざるを得なかっ...
「……でも、悪いのはこいつだもん。サイトが私の言い付けを忘...
「でも、誤解だったんですよね、それも? サイトさんはきっ...
「……はい」
「反省してます?」
「……」
「反省していないんですか?」
「……使い魔を、どう扱おうと……御主人様の勝手だもん……」
「ミス・ヴァリエールっ!!」
「なあ」
75 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:15:37 ...
その声に二人が反応した時、すでに才人はドレッサーから自...
「俺の靴どこ?」
「あ……その、ここです」
「ありがと」
才人はスニーカーを履きながら、靴の場所を教えてくれたメ...
「キミ、優しいな。名前教えてくれよ」
彼女――シエスタは、絶句した。
「何だよ、別に照れなくてもいいよ。……まあ、そんな格好して...
「……」
「まあ、どうせ秋葉原のどっかだろ? でもおかしいな。俺の...
「……」
「まあいい、まあいい。恥かしかったら、また今度でいいよ。...
才人は、そう言ってシエスタに微笑み、
「あ、これ、食っていいんだよな?」
と訊くと、返事も待たずにがつがつと食べ始めた。
シエスタには、才人の発言内容の一割も理解できない。
彼女は、才人が発狂したのかと思った。
もしくは、眼前の才人は、魔法で彼に変身した、どこかの見...
彼女の知っている才人は、いくらふざけていても、ここまで...
そこまで悪質なふざけ方が出来る人間なら、自分はここまで...
逆に言えば、例えどんな名優が才人に変身していたとしても...
――が、違う……!
眼前にいるこの男は、まさしく彼女が知るところのサイトそ...
その笑顔。
その眼差し。
その教養のカケラも感じさせない食事。
何より、その独特の雰囲気。
彼の吐く言葉は、やはり理解しがたいが、そこを除けば、そ...
そして、その想いは、その場にいたもう一人の少女、ルイズ...
76 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:19:16 ...
「あんた、いい加減にしなさいよ……!!」
「ふぇ?」
「いい加減にしなさいって言ってるのよ、このバカ犬っっっ!...
そう言うが早いか、彼のパーカーのフードを引っ掴み、うし...
「むぐぅっっ!!」
口にロブスターをくわえたままの才人は、いきなりの攻撃に...
「いけません! ミス・ヴァリエールっ!!」
シエスタが叫ぶ。
だが、怒りに我を忘れたルイズは止まらない。
久しぶりの馬上鞭を取り出すと、彼を無茶苦茶に打ちまくっ...
「このバカ犬っ!! バカ犬っ!! バカ犬っ!!」
「いてえっ!! やめっ!! 何すんだよっ!!?」
――何すんだよ?
何をするんだ、ですってえ……!!
ルイズは、狙い済ましたように才人の顔面を打ち抜くと、何...
「まだ、すっとぼける気っ!? これ以上、私やシエスタを相...
「……あ……が……」
「やめてください、ミス・ヴァリエールっ!! サイトさんが...
「うるさいっ!! 死ぬまでには目も覚めるでしょうよっ!!」
その時、ルイズがよそ見をした僅かな隙に、才人が反撃に出...
首を絞められていた才人の両手がルイズの鞭持つ両手首を掴...
「っっ!?」
ルイズには、何が起こったのか分からなかった。
ただ、頭の奥に火花がほどの光が散るのが見えた瞬間、鼻を...
余りの痛みに思わず鞭から手を離したルイズのどてっ腹を、...
「かはぁっっ!!」
そのままベッドの足に叩きつけられるルイズ。
「ミス・ヴァリエールっ! 大丈夫ですかっ!?」
思わずシエスタが駆け寄る。
「ああ、こんなに鼻血が……。サイトさんっ、あんまりですっ、...
「うるせえっっ!!!」
才人も鼻血を流していた。
ルイズの鞭に顔面を打たれた時のダメージである。
おそらく鼻の気道は血で塞がっているのだろう。肩で息をし...
「……ざけやがって、……ざけやがって、いきなりワケの分からん...
77 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:22:09 ...
才人は怒っていた。
この少女たちに、である。
シエスタが彼の発言を理解できなかったように、才人には、...
自分の名を平賀才人だと知っている。百歩譲ってそこまでは...
何より彼女が使う、『平民』や『犬』なる言葉も理解できな...
もはや相手が誰であろうと関係なかった。
平成の世に生きてきた彼は、そこまで意味不明の理由で理不...
しかし、二人――特にルイズは違った。
才人が……あの使い魔の少年が、自分に手を出し、なおかつ覚...
ただの怒りではない。
完全なる敵意。
その瞬間まで、才人がふざけている。そう思った。そう思い...
彼は直情的で、とても正義感の強い少年だった。もっとも、...
直情的で、しかも互いに違う価値観の持ち主である才人とル...
今から思えば、くだらない事がきっかけの、他愛も無いケン...
何故、一度も無いと言い切れるのかと問われれば、答えは簡...
才人と行動を共にして経験した幾多の冒険。
その中で、彼女は本気で怒れる才人を何度も何度も見てきた。
婚約をダシにワルドが自分を手に入れようとした時。
アンリエッタが、死せるウェールズに騙され、共に亡命する...
そのアンリエッタに、タバサを救いにいけないなら騎士の位...
彼女の知っている才人は、その怒りの隅々まで純粋だった。
端で見ていた自分がうっとりするほどに、才人は自分自身に...
例え、いきなり彼を風呂釜ごと爆破しようが、その原因が単...
その程度の懐の広さは持っているはずの男だった。
ましてや、ルイズだけならともかく、シエスタにまで悪ふざ...
そう思った時、ルイズの心中で何かが決壊した。
78 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:28:37 ...
「サイトぉ……、一体、一体、どうしたのよぉぉ……。なんで、そ...
一旦こぼれ落ちた涙は、もうルイズ自身にも止められなかっ...
もう、彼に蹴飛ばされた痛みも、流れ続ける鼻血も、ルイズ...
貴族の誇りも何も無く、ただ、ひたすら彼女は悲しかった。
「――え、あ、いや、ちょっ……ちょっと待てよ。その――」
果たせるかな。才人はその意図を読めない涙にうろたえ、先...
なんのかんのと、才人は女性に甘い。それもルイズが知る才...
いや、もうそんな事はどうでもいい。それ以前にもう彼女は...
シエスタが気付いたと時を同じくして。
彼に対する想いを、そのプライドゆえに認められなかったよ...
つまり、ここにいる才人は、紛れも無い才人本人でありなが...
「サイトさん、……本当なんですか? 本当に私たちが分からな...
「分からないんですかって……いや、だからさ、さっきから訊い...
「嘘です! 嘘です! そんな、そんなはずありません!! ...
「もう、そこまでにしといてやれよ。メイドちゃん」
「――なっ!!?」
声の方向に振り返った才人が見たのは、かたかたと刀身を震...
シエスタは、思わずその名を呟いた。
伝説のガンダールブが帯剣していたという、六千年の叡智を...
この情況を、説明・解決できる唯一の希望。
「デルフリンガー、さん……!」
163 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 23:24:56...
「十日ぶりだな、相棒」
「……」
「何、ハトが豆鉄砲くらったようなツラしてやがる。俺だよ、...
そこまで言われて、才人は初めて、自分に話し掛けて相手が...
「おいおいおいおい……何だ何だ何だ、何なんだよこれ……!?」
「サイトさん……?」
「すげえ!? 何だコレっ!!? こいつかっ!? 本当にコ...
シエスタを押しのけ、ベッドを乗り越え、子供のように瞳を...
「嘘だろっ!? マジかよっ!? どうなってるんだっ!? ...
元来、才人はとても好奇心の強い性格だった。それはここに...
もう、彼の眼中にはルイズもシエスタもなく、ひたすらデル...
「スピーカーはどこだ? 電源は? コードが無いって事は、...
「相棒」
「あん?」
「この俺が『相棒』って呼んだら、それはお前の事だ、ヒラガ...
「あっ、そうなの? まあいいや。そんな事より――」
「そうだ。そんな事より、いまはお前の話だ」
デルフリンガ−の声の調子が何となく変わった。
才人も、それには気付いたらしい。この、物言う剣が、今か...
「お前、昨日の事をどれだけ覚えてる?」
164 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
その問いかけに、才人はきょとんとした。
「そりゃあ、どういう質問だ?」
「いいから。思い出せる範囲で構わねえから、言ってみな」
「――だから、秋葉原でパソコンを修理して、家に帰る途中で、...
ずきん。
さっきまで大人しかった頭痛が、突然猛烈な勢いで、鎌首を...
痛い、痛い、痛い、痛い……!!!!!
「……だから、その、出会い系に登録したから……っっっっ……俺に...
ずきん。ずきん。ずきん。ずきん――。
「分かった、やめろ!! もういい、これ以上思い出すなっ!...
頭を抱えてうずくまる才人に、デルフリンガーが叫ぶ。
「デルフリンガーさん……?」
おずおずと口を開くメイドに剣は、やれやれといった口調で、
「――記憶喪失だな。それもかなりひどい」
「キオクソーシツ?」
二人の少女は同時に声を上げた。
当然、彼女たちはその有名すぎる病名を知らない。
医療行為といえば、水系の魔法による治癒呪文しか知らない...
精神病や神経症の患者は、例外なく『発狂』『乱心』といっ...
しかし、ルイズやシエスタは別だった。
以前、彼女たちはアルビオンで出会った、ティファニアとい...
他者の記憶に干渉し、操作し、消去する。
ルイズとは違う、また別系統の“虚無”の呪文を使う、もう一...
「そういう事だ。つまり今の相棒の頭にゃあ、このハルケギニ...
「――じゃあ、じゃあ、これも虚無の呪文のせいだって言うの?...
ルイズが呆然とデルフリンガーに尋ねる。
「そうかも知れねえ。でも、そうじゃないかも知れねえ」
「どういう事よっ!!?」
しかし、デルフリンガーはもうルイズには答えなかった。
165 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
「相棒――」
「……」
「俺を鞘から抜いてみな」
膝を突いて頭痛を堪えていた才人は、ちらりと剣を見上げる。
その目に、さっきまであった怒りと弾劾は微塵も無かった。
この剣が、一体どういう構造で、誰がスピーカーの向こうか...
――記憶喪失。
現代人の才人なら、当然知っている、この奇病。
そう言われてみれば、この部屋も、この少女たちも、どこと...
「いいから早く俺を抜きなっ! 相棒!」
「っ!」
デルフリンガ−の鋭い声に、思わず才人は剣の柄を握り締める。
その時、彼の左手の甲に、光り輝くルーンが現れた。
「なっ、何だこりゃあっ!??」
「――やっぱりな。記憶はなくなっても、契約までは消えちゃい...
「契約……!?」
「そこの、貴族の嬢ちゃんの使い魔になったって、契約さ」
「……分からねえ。お前の言ってる事は全然分からねえ」
その才人の呟きに、ルイズは胸を突かれたような、痛みを感...
(ミス・ヴァリエール……)
シエスタだけが、そのルイズの動揺に気が付いた。
しかし、当然ながら、才人の意識は眼前の剣にのみ向けられ...
166 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
「いいか相棒。これからちょっとしたショック療法をするから...
「何をする気だ……!?」
「ガンダールヴと武器との共鳴現象を利用して、お前の頭に、...
「がっ、がんだむ!?」
「あああっ、もう、どうせ説明しても分かりゃしねえ! いく...
その瞬間、才人の心に、膨大なまでの映像と音声、そしてこ...
「ああああああああああ!!!!!!!」
才人は叫び、手にした剣を床に落とした。
「サイトっ!!」
「サイトさんっ!!」
ルイズとシエスタは思わず彼のもとに駆け寄る。
才人は白目を剥き、ひくんひくんと痙攣を繰り返している。
「ちょっとアンタっ! サイトに一体何をしたのっ!!?」
すごい見幕でデルフリンガーに唾を飛ばすルイズ。
「さっき言ったろっ! ガンダールヴの武器共鳴現象を利用し...
167 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
「サイトさんっ! サイトさんっ!! しっかりして下さいっ...
「サイトっ!!」
ルイズも負けずに彼の眼を覗き込む。
「起きなさいっ!! 起きなさいよっ、サイトっ!!」
パーカーの襟首を掴み、がくんがくんと揺らし捲くる。
「起きなさいっ、起きるのっ、起きなきゃダメなのっ!! ア...
「ミス・ヴァリエール……」
「お仕置きだからね……元に戻らないなら……本当に……お仕置きし...
「――ルイズ」
ルイズの体がびくんと震え、
「サイト……!! 分かるの? 私が誰だか分かるのっ!?」
「サイトさん、サイトさん! 治ったんですね!?」
その歓喜は……しかし、数秒を待たずして、冷め始める。
才人のその瞳には、やはり何の感情も湧いてない冷たい光が...
「……」
彼は無言で身を起こすと、よろよろと窓まで辿り着き、格子...
そこには、煌煌と輝く、二つの月。
「サイト……?」
「ルイズ」
「なっ、何っ!?」
「帰る呪文は、無いんだな?」
「――えっ!?」
その問いかけは、窓から月を見上げたままだったため、二人...
「俺をここへ、ハルケギニアに召喚したのはお前だ。だから、...
「……サ、イト……!!」
「どうなんだルイズ。あるならある。無いなら無い。ハッキリ...
「……無い、わ」
「ミス・ヴァリエールっ!!」
「虚無の呪文にも、か?」
「……」
「――そうか。わかった」
そう言って振り返った才人の瞳は、涙に濡れていた。
「俺はもう、帰れないんだな」
「……」
「まっ、待ってくださいサイトさんっ!! 東方に行けば、あ...
「そんな可能性の話はいいんだ、シエスタ」
「かっ、可能性って、……!?」
才人は、絶句するシエスタから、再びルイズに視線を向ける。
168 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
「相棒、お前、やっぱり記憶は……?」
剣の問いかけに、少年は哀しげに首を振る。
「……そうか」
「この世界の事は、何となくだが分かった。お前の記憶が教え...
そこまで言って、ルイズを見据える才人の瞳に、強い感情が...
「ルイズ。……いや、敢えてこう呼ぼうか、ミス・ヴァリエール」
ルイズの体が、再びびくんと、電気ショックを受けたように...
「お前が俺をどういう眼で見てくれたのか、それもデルフが教...
才人の奥歯がぎしりと鳴る。
「俺は、お前を許せそうに無い」
「さっ……!!」
ルイズの心が悲鳴をあげる。
待って、やめて、サイト、サイト! もう、もうこれ以上言...
「お前は、ひとさらいだ。ミス・ヴァリエール」
やめて!! やめて!! やめて!! やめて!! やめて...
「いつか必ず、お前に復讐する」
やめ―― ……。
ルイズは、その場に崩れ落ちた。
353 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
「……どうぞ」
シエスタが、卓上にカチャリと音を立ててカップを置く。
「学院生の方々が飲んでいるハーブティほど上等な紅茶じゃあ...
「ありがとう」
才人は疲れたような笑みを浮かべると、一口すすった。
「熱っ!」
「あっ、ごめんなさい!」
「あ、――いや、おいしいよ」
「……」
「……」
ここはシエスタの個室。
才人の『御付き』になってから、シエスタはルイズの部屋に...
あの後、ルイズは倒れ、気を失った。
しかし、そのルイズをベッドに運び、優しく毛布をかぶせた...
シエスタは、そんな才人を表現の仕様のない感情で見守りな...
ルイズに決別を宣言した才人が、そのまま、いつものように...
「サイトさん……」
「――ん?」
「……やっぱり、あれは……言い過ぎだったんじゃないでしょうか...
「……」
「サイトさんの気持ちも分かりますけど……でも、ミス・ヴァリ...
「悪意?」
「はい。――以前、ミス・ヴァリエールが言ってました。使い魔...
「“生物”、か……」
いかにもルイズらしい、傲慢な言い草だ。才人は思わず苦笑...
354 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
「あ――、その、気を悪くしたんなら謝ります! だって、その...
「いいよ。続けてくれ」
その才人の微笑を見てシエスタも安心したようだった。
「だから、サイトさんが無理やりハルケギニアに召喚されたよ...
「事故みたいなもんだって事か」
「……やっぱり、気を悪くしました?」
「……」
才人は返事の変わりに、手に持った紅茶を飲み干した。まだ...
「シエスタ」
「はい」
「キミが言いたい事も分かるよ。でも、でも、――それでもやっ...
「サイトさん……」
「あいつは……俺から何もかも奪いやがったんだ……! 家族も、...
才人の手の中で、空になったカップが、みしりと音を立てた。
「キミだったら納得できるって言うのかっ!? 突然わけの分...
シエスタは何も言えなかった。まだ少女と呼ぶべき年齢の彼...
「……ダメですよ、サイトさん」
「……」
「もう、いい加減に無理はやめましょうよ。そんなのサイトさ...
「……無理なんかしてない」
「だったら、何でそんなつらそうな顔をしてるんです? まる...
「……」
「まるで、涙を必死にこらえてる子供みたいですよ?」
才人の拳が、ぎゅう、と音を立てる。
355 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
悔しいが、シエスタの言う通りだった。
いま、才人の心中は、ルイズに対する怒り以上に、言いよう...
無論、才人は、自分自身の怒りに、何ら後ろめたさは感じて...
そして、その“もう一人の自分”を援護する、シエスタの声。
「サイトさんには分かっているはずですよ。ミス・ヴァリエー...
確かに、そこまでは、才人も知っていた。
あくまでデルフリンガ−の記憶を介した情報ではあったが、ル...
しかしそれも、所詮は、第三者の記憶を通じて知った事実で...
……少なくとも、そのはずだった。この、才人自身でさえも説明...
「分かってませんっ!!」
ばんっ!!
シエスタが、渾身の力でテーブルを叩き、才人を黙らせる。
「あの人は、あの人は、――自殺しようとしたんですよっ!! ...
「自殺……? あのルイズが?」
これは、才人にとっても初耳な事実だった。
デルフリンガーの記憶を共有した才人ではあるが、そのころ...
「あの人は、あなたを愛してるんです! この世でただ一人、...
356 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
ルイズは目を覚ました。
頭が痛い。
暗い。
ランプの灯りはとっくに消えている。
自分が倒れてから、一体どれほどの時間が経過したのだろう?
随分長い間眠っていたような気もするし、あれから五分も経...
いや、それだけじゃない。
寒い。
ふかふかのベッドの中で、上等の羽毛布団に包まれて眠って...
――サイト。
急ぎ、周囲を振り返る。
誰もいない。
才人も。シエスタも。――誰もいない。
(隣にサイトが寝てないと、このベッドって、こんなに広いん...
記憶を失う以前の才人は、この豪奢な寝台で、よく彼女と眠...
また、彼が騎士団の副隊長に就任してからは、『御付きメイ...
当時のルイズとしては、かなりメイドの図々しさにムカつい...
彼の身体を枕代わりにするのは、彼女にとって心地よいもの...
しかし、本来ならば、解放感すら伴う広々とした感覚が、今...
『いつか必ず、お前に復讐する』
物理的にまで胸をえぐる一言が、頭の中を再び、駆け巡る。
「ゆめじゃ、なかったんだ……!」
涙がこぼれる。
止まらない。
次から次へと。
絶望。
アルビオンで才人とはぐれ、彼が死んだと思った時も、確か...
しかし、いま彼女の胸を貫く絶望感は、その悲しみをさらに...
――嫌われた。 ……私、サイトに嫌われちゃったんだ……!!
そう思った途端、心臓が止まるほどのギリギリとした『痛み...
彼女はこの日、久しぶりに思い出した。
悲嘆と絶望による苦痛は、物理的感覚を激しく伴う。
ルイズは、全世界が敵に回り、自分に牙を剥いたような孤独...
357 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
こんこん、こんこん。
控えめにだが、ドアをノックする音が聞こえる。
「ミス・ヴァリエール、お目覚めですか?」
シエスタの声だ。
正直、ルイズとしては、才人以外の誰にも会いたくなかった...
ルイズはランプに火を点すと、ロックを外した。
「入って……」
「よかった……。起きてられたんですね……?」
シエスタ曰く、ルイズは丸一昼夜、眠りつづけていたらしい。
「今度は、ミス・ヴァリエールまで、お目を覚まされなくなる...
――優しい娘だ。
ルイズは、元来、恋敵であったはずのこの少女の心配が、胸...
いつだってそうだった。
アルビオンで才人が行方をくらました時も、このシエスタだ...
今回の、才人の記憶喪失で、ルイズは実質的にその恋愛戦線...
ならば今のうちに、もっと彼に接近し、プラスの印象を与え...
「今のサイトさんは、私がお傍についていても、何のお助けも...
あれから、二人でどうしたのかと問われたシエスタはそう答...
「ミス・ヴァリエール、散歩しません?」
「え――、散歩ってこんな時間に?」
「ええ! こんな夜はうじうじ部屋に閉じこもってたって、一...
そう言いながらにこにこしているシエスタに、ルイズは逆ら...
正直言って、外に出る気分ではなかったが、彼女の笑顔を見...
358 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
煌煌と輝く月光は、いまが夜であることを忘れさせる。
「ねえ、シエスタ」
「はい、ミス・ヴァリエール」
「……いい月、よね」
「そうですね。ミス・ヴァリエール」
「ねえ、シエスタ」
「はい、ミス・ヴァリエール」
「あいつの世界じゃ、月は一つしかないらしいわ」
「……」
「チキュウという星の、ニホンという国の、トウキョウという...
「そこに住んでいたんですか? サイトさんは」
「ええ。……王も貴族も奴隷もいない世界。その世に生まれたも...
「……」
「それと逆に、例えどんなに貧しく卑しい生まれでも、等しく...
「……」
「肌の白い黒いも無く、出自の尊い卑しいも無く、男も女も無...
「……信じられませんけど、それが本当だとしたら――」
「本当だったら?」
「――素晴らしい世界です。まるで、おとぎ話の夢の世界みたい」
「……そうよね」
――サイトが私を憎むのも当然だ。
落ち着いて考えてみれば心底そう思う。自分は才人を、それ...
「いいえ。あなたの罪は、ただ憎まれてそれで済むという程度...
その瞬間、ルイズは自分を取り囲む無数の気配を感じていた。
359 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
「――なっ!?」
いつの間に……?
という言葉が口に出るヒマさえなかった。
すでに二人は、それぞれ武器を携えた12体のガーゴイルに...
「――ひぃっ!」
思わず息を飲むシエスタの喉下に、長弓を構えたガーゴイル...
「声を立てるんじゃないよ」
ルイズは、その声に聞き覚えがあった。
――確か、シェフィールド……とか……。
「お久しぶりですね、ミス・ヴァリエール。偉大なる“虚無の担...
「あんた、確か……」
「そう、私はミョズニトニルン。――おっと、抵抗しても無駄で...
「くっ……!」
「どうやって“面会”を申し込もうか思い悩んでいたけども、ま...
額にルーンを浮かべた端整な顔が、不気味に微笑む。
勝利を確信したどころではない。
ネズミをいたぶるネコの笑顔だ。
そして何より、ルイズ自身、自分が無力である現状を一番認...
杖を持たず、使い魔もつれず、足手まといのメイドを引き連...
ルイズは素早く決心する。
――シエスタを巻き込むわけにはいかない。
360 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
ルイズは心を可能な限り落ち着かせ、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「こんな事頼むのは、あまりにムシが良すぎるかもしれないけ...
「ミス・ヴァリエールっ!?」
「黙って、シエスタっ!!」
ルイズは一睨みでメイドを黙らせると、
「断る理由はないはずよ? あなたが欲しいのは、私の身柄な...
「あなた自分の立場分かってるの? それとも、やっぱりバス...
シェフィールドの言葉を聞いた瞬間、ルイズは屈辱で頭が真...
「もし私が、『断る。構わないから二人とも引っ張って来なさ...
「舌を噛むわ……! だって、あんたたちが欲しいのは、私だけ...
苦しげにそう呟くルイズに、シェフィールドは、やれやれと...
「その後、メイドさんも殺されるのよ。それも、確実にあなた...
「……」
そこまで言って気が済んだのか、シェフィールドは表情を崩...
「まあいいわ。今日のところは、あなたの言う通りにしてあげ...
「じゃあ……!」
「ええ、あなたの馬鹿げた条件に乗ってあげる。だから、大人...
「ミス・ヴァリエールっ!!」
シエスタが叫ぶ。
「いいの。私は大丈夫だから」
ルイズが微笑む。
「シエスタ、サイトに伝えて」
「ミスっ!」
「――あなたに会えて、ルイズは本当に幸せでした、そして……」
「……そして?」
「ごめんなさい。……って」
シエスタは、膝から崩れ落ちた。
月光と涙に曇る彼女の視界の中に、ルイズの姿は小さくなり...
399 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/21(土) 20:07:18...
「ルイズ!!」
才人は跳ね起きた。
いま、闇の中で、ルイズが可愛らしい微笑みを浮かべ、何処...
その笑顔とは裏腹に、彼女の瞳はじっとりと涙に潤んでいた...
「……」
胸が痛い。
まるで、肋骨か心肺機能に物理的な疾患でもあるかのような...
この“痛み”は、先程までルイズが、彼に対して感じていたも...
記憶を失ったはずの才人ではあるが、それでも、記憶を失っ...
(この俺が、あのチビに後ろめたさを覚える筋合いがどこにあ...
彼は懸命に、そう思おうとした。可能な限り、必死に。
しかし、頭がそう命じても、彼の心は一向にその命令に従お...
むしろ、腕ずくで従わせようとすればするほど、バネ仕掛け...
そんな理性と無意識の葛藤に疲れ果て、ようやく、うとうと...
――アイツは、一体どこまで俺を苦しめれば気が済むんだ……。
ルイズからすれば心外もはなはだしい一言を、才人はその心...
しかし才人自身、さっきのルイズの夢に、違和感を覚えてい...
これまでの葛藤は、全ておのれ自身の心の内のものであった...
(まさか……!)
いや、間違いない――。
嫌な予感だけが、無限に広がってゆく。
「ルイズに、何かあったのか……!?」
400 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「サイトさんっ!!」
そう言いながら、漆黒のゼロ戦の格納庫に何者かが飛び込ん...
「シエスタ?」
「――サイトさんっ、よかった、まだ起きていらっしゃったんで...
「ちょっと待て、落ち着いてくれシエスタ。いま灯りを点ける...
そう言って、種火からランプに火を灯した才人が見たものは...
「ルイズが……さらわれた……!?」
「まだ、まだ今なら間に合いますっ! 早く追ってくださいっ...
「……」
才人は沈黙せざるを得なかった。
「サイトさんっ!! どうしたんですっ!? あなたはガンダ−...
「……」
「サイトさんっ!!」
「関係ねえよ」
「サイトさんっ!!」
「俺にはもう関係ねえって言ってるんだよっ!! あいつが死...
シエスタは声を失った。
「サイトさん、――嘘ですよね……。まさか本気じゃないですよね…...
才人としては、当然――本気ではない。
しかし、かといって100%の大嘘かと問われれば、それも微妙...
人間の心とは、そう簡単に割り切れるものではない。自分が...
そして、彼の混乱した心理はさらにヒステリックに、悲鳴の...
「関係ねえっ! もう俺はアイツと関わり合いたくねえんだっ...
よしんばブッ殺されたとしても、それはそれで自業自得じゃね...
401 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
そうだ。
その理屈の何が間違っている?
正しいのは俺だ。
俺のはずなんだ。
自分の中の何かを、無理やり奮い立たせて才人は叫んだ。
そんな彼を、信じられないように見つめるシエスタ。
「嘘です、嘘です、サイトさんがそんな事言うわけありません...
シエスタは言った。
「サイトさんは伝説のガンダ−ルヴで、平民からシュバリエに叙...
「やめろ!!!」
才人がベッド代わりにしていたソファから、毛布が落ちた。
「――俺は、平賀才人だ」
才人は言った。
「平成生まれで東京育ちの、どこにでもいる地球人だ。それ以...
そこまで言って才人は、何かに気圧されたようにシエスタの...
「俺は、ただの、平賀才人だ」
そう、呟いた。
ぱしーん。
格納庫に、才人をビンタする音が響いたのは、それからさら...
402 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「シエスタ――」
「分かりました」
才人の言葉を遮るように、シエスタが口を開く。
「つまり」
少女は泣いていた。
悲しみの涙でも絶望の涙でもない。それは純度100%の怒りの...
「サイトさんは、もういないんですね?」
「……」
「あなたはもう、私たちが知っているサイトさんではないので...
「……」
「分かりました」
シエスタがハンカチで涙を拭くと、
「夜分、突然押しかけてしまい、まことにご無礼仕りました。―...
きびすを返し、毅然と格納庫を去ってゆくシエスタを、才人...
403 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「いいのかい相棒?」
壁に立てかけてあったデルフリンガーが、かくかくと、その...
(相棒、か……)
こんな自分を、未だにパートナー扱いしてくれる奇妙な剣を...
「いいも悪いも、ないだろうがよ……」
「――怖いのかい」
デルフリンガーの、その一言がきっかけだった。
シエスタの前で懸命に堪えていた何かが、才人の中で決壊し...
「……」
手も、足も、肩も、腰も、膝も、口元も、全身の震えが止ま...
才人は思わず、ソファにへたりこんだ。
まるで末期のマラリア患者のようだ。
「そうか……、やっぱりな」
繰り返す事になるが、今ここにいる平賀才人に、ハルケギニ...
その代わり、脳中にあるのはデルフリンガーの視点からの記...
だから、そんな才人が、召喚されてからこっちの人間関係に...
ルイズやシエスタが、彼を巡って大騒ぎしていたと知ってい...
しかし、一つだけ骨身に沁みている事がある。
――メイジと、メイジたちの使う魔法の、その恐るべき威力であ...
404 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
すでに彼は、このハルケギニアで幾多の戦闘を経験し、シュ...
彼の戦績における、対メイジ戦の初陣とも言えるギーシュ戦...
結果的に才人は、ガンダ−ルヴの力で勝利を得るが、それでも...
フーシェやワルドと対戦した時も、特に対魔法戦闘に工夫を...
ガンダールヴの能力による加速(つまり呪文詠唱中に懐に飛...
その証拠に、ワルド戦における直接勝因は、才人自身も予想...
さらにヴェストリの広場でのタバサとの戦闘や、アーハンブ...
繰り返しいう。
彼に戦士としての記憶は無い。
しかし、戦士としての素養までが無くなったわけではない。...
そんな才人だからこそ、今となっては、骨身が凍るほどの寒...
これまでのメイジとの戦闘における勝利が、文字通り、薄皮...
――よくぞ命があったものだ、と。
戦闘の記憶が、“経験”という形で裏打ちされていない以上、...
ましてや、才人は現代人だ。元をただせば、戦後民主主義の...
日常に“死”を意識せぬ生活の記憶しか持たない今の才人にと...
シエスタほどに利発な少女をしても、才人の今の感情は、所...
才人自身、ルイズに対する特別な感情を持てない今、自分と...
406 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「まあ、お前の気持ちは分かるがね……」
カタカタと耳障りな音を伴い、剣が口を開く。
(分かるものかよ)
才人は、知った風な口を利くデルフリンガーに、思わずむっ...
「怒るなよ、相棒」
その口調は、意外に優しいものであった。
しかし、慰めの言葉は時として、侮辱以上に人の心を逆撫で...
「……こんな俺を、未だに相棒と呼んでくれるってのか?」
才人の口元が、自嘲の笑みで皮肉に歪む。
「さっきシエスタが言ってたろう? ここにいる俺は、もうお...
「――まだ、そんなくだらねえ事言ってやがるのか」
剣が、心底呆れたように言った。
「いい加減、素直になりな相棒。お前だって本当は分かってる...
才人は言葉を返せなかった。
――素直になる。
素直になって、何を認める?
ルイズへの愛、か?
分からない。
分からないが、確かに分かる事もある。それは、かつて自分...
「今のお前が、あの嬢ちゃんに複雑な心境を持つのは、ある意...
――でもな相棒、オンナノコがお前を名指しで助けを求めてるん...
「手前自身に、何のためらいも無いなら行かないのもいいさ。...
「何より、あのお嬢ちゃんは心底お前に惚れきってる。相棒が...
『帰る、帰る』とお前は言うが、お前の世界じゃ、あの嬢ちゃ...
407 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
――そうだ。
確かにこいつの言う通りだ。
才人は思った。
この世界は、……少なくともルイズは、俺を必要としている。
そして地球は、……少なくとも、俺が居ずとも地球は回る。
しかし、
しかし、
しかし、
しかし、それを認めろというのか?
「あああああああああああ!!!!!!」
才人は、額を床に叩きつけた。
何度も、何度も、何度も、何度も。
「この頭が! この頭が! この頭が! この頭がっ!!!」
皮膚が切れ、血が流れ出る。
しかし、彼は止まらない。頭蓋も砕け散れと言わんばかりに...
「っっっ!!」
ごつん。
石畳にひびの走った音がした。
才人の動きが止まった。
「相棒」
「……」
「気は済んだかい?」
答えないかわりに、才人は呆然と、鮮血に染まった顔を上げ...
「お前が自分を責める気持ちは分かる。でも、自分を傷つける...
「――なんでっ」
不意に才人が呟いた。
ぽたり、ぽたり――。
しかし、彼の膝を濡らしていたのは、額からの鮮血だけでは...
「何で俺の記憶は戻らないんだよぉ……」
才人の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
「こんな頭にならなきゃあ、記憶なんざ無くならなきゃあ、今...
408 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「悪いが相棒、それは違う」
その一言に才人は振り返る。
「お前が異世界の住人であり、お嬢ちゃんに、相棒を無理やり...
その言葉を聞いて、才人は二の句が継げず、あんぐりと剣を...
そうなのだ。
確かにデルフの言う通りだ。
たとえ記憶を無くそうが無くすまいが、彼がこの世界の人間...
地球に帰るのか、永遠にハルケギニアに留まるのか、それを...
才人は今、あれだけ執拗に自分が好意の言葉をルイズに囁き...
言えば、それは鎖になる。
そうルイズは判断したのだ。
いずれ、才人自身が、こっちに残るか残らざるか、必ず決意...
その才人の決意に対し、自分の気持ちがその決意を縛り付け...
そう判断したからこそ、ルイズは頑なに、その一言を避けた...
――『好き』という一言を。
417 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
ぷっ……。
才人は笑った。
さっきまでの絶望感が嘘のように、才人は笑った。
腹の底から込み上げてくる笑いが、汲めども汲めども、尽き...
石畳にのたうちまわり、胃がよじれるほど、彼は笑った。
そんな女を見殺しにする気だったのか?
ええ、平賀才人よ。
いい女じゃねえか。
俺には勿体ねえくらい、いい女じゃねえか。
後生大事に逃げ延びて、地球に帰って何をする?
インターネットで出会い系? クラスの女と合コンか?
ばっかじゃねえか、お前!?
ホント、ばっかじゃねえか、お前!!?
才人は立ち上がった。
ゼロ戦清掃用のボロ布を、包帯代わりに額に巻きつける。
その口元には、まだ、あるかなしかの笑みが残っている。
しかし、その眼光には、もはやさっきまでの迷いは無かった。
「相棒」
デルフリンガーは言った。
「気は晴れたかい?」
才人は答えた。
「ああ、晴れた」
才人が、その貴族年金で購入した愛馬と共に、学院の敷地内...
510 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/24(火) 02:06:25...
「サイトは来ないわ」
グラスを一気に飲み干すと、ルイズは言った。
「何故分かるの?」
シェフィールドは尋ねる。
「……」
シエスタを解放して後、彼女のルイズに対する態度は意外に...
もっとも、ルイズの顔色の悪さと表情の暗さを見れば、例え...
「何故来ないと思うの?」
シェフィールドは重ねて尋ねる。
ルイズは答えない。
ただ、無言で空になったグラスを再び差し出す。
答える意味も無かった。
ルイズにとっては、自分が才人に憎まれているという確信が...
そんなルイズに、やれやれ、という笑みを浮かべると、彼女...
「まあ、いいわ」
シェフィールドは髪をかきあげる。
「彼が来なけりゃ、それはそれで手間が省けると言うべきだし...
(手間?)
どういう事だろう?
ルイズの理性がその一言に引っ掛かりを覚える。
しかし、その引っ掛りも、論理的な思考に結びつくことなく...
無理もなかった。
彼女の心理状態は、今もなお混沌状態にある。
シェフィールドからシエスタを逃がした時点で、ルイズの精...
(……どうでもいいわ、もう)
ここは、トリステイン魔法学院から僅かにはなれた森林にあ...
当然、12体のガーゴイルが周辺を索敵しているとはいえ、も...
杖も祈祷書も持たない、無力な今のルイズをさらって、何故...
いや、それだけではない。
ルイズは、女王アンリエッタ直属の女官にして国軍の切り札“...
しかし、シェフィールドの思惑は違った。
ハナからルイズを誘拐するつもりなど、彼女には無かった。
だから、こんな学校の近場に陣取ったのだ。
511 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/24(火) 02:08:59...
「それにしても、確か、サイトくん――とかいったっけ?」
その名を聞いて、ルイズの体がビクンと反応する。
「主の危機に馳せ参じない使い魔なんて、この世に居る価値が...
そのからかうようなシェフィールドの言い草に、ルイズはむ...
例えフラレたてであったとしても、いまだ未練の残る想い人...
「サイトの悪口は言わないで」
拗ねたように、ぼそりと囁くルイズ。
そんなルイズを見て、シェフィールドは心中微笑すると、さ...
「そうはいかないわ。彼は仮にも、この私と同じ“虚無の使い魔...
「……」
「『しょせん人たる身には“使い魔”は向かぬ。凡百の禽獣や幻...
「やめてっ!!」
ルイズが地面に、グラスを叩きつけた。
「サイトは、あなたとは違うわ……! それに私も、私も、あん...
そう叫んだ瞬間、ルイズの脳裡に才人の横顔が浮かぶ。
『お前はひとさらいだ。ミス・ヴァリエール』
それは絶望の一言。
ルイズの心を一瞬にして凍結させ、さらに粉砕するだけの威...
『いつか必ず、お前に復讐する』
「〜〜〜〜〜っっっっっっっ!!!!!」
ルイズは吐いた。
さっきシェフィールドからもらったワインも、その前に摂っ...
それは、何気なく思い出すには、あまりに辛い記憶だった。
ルイズの全身が、全ての内臓器官が思い出すことを拒絶して...
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、……!」
反吐が逆流し、瞬間、真空状態になった呼吸器を回復させる...
(サイト、サイト、サイト、サイト、サイトぉ……!!)
そんなルイズを、シェフィールドは、満面の笑みを浮かべて...
「サイトはあなたとは違う、そう言ったわね?」
「……」
「どう違うって言うの、私と彼とじゃ?」
そう言いながら、彼女はルイズに再びワインを差し出す。
グラスはもう無い。ルイズ自身が叩き割ってしまったからだ。
512 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/24(火) 02:12:09...
「彼は男で私は女。私はメイジで彼は平民。あとはあなたに優...
「違うわ!」
ルイズは顔を上げた。
「ただ優しかっただけじゃない。サイトは……こんな私を愛して...
「私だって、主のことを愛しているわ。使い魔として以上に“女...
シェフィールドは、自分のグラスに残ったワインに口をつけ...
「主の、――あの方のためだったら、私は何でも出来るわ。どん...
「それが『死ね』っていう命令でも?」
「それが、あの方のためならね」
ピンクがかったブロンドの少女は、何ともいえない瞳で、シ...
「それはあなたの勝手よ! でも、でもやっぱり同じじゃない...
「だから訊いてるのよ。彼のどこがどう、特別なのか」
才人がどう特別なのか。
実を言うと、その問いに、もうルイズは答えられなくなりつ...
主のためなら死ぬ事さえ出来る、平然とそう言い切る彼女の...
――でも、やっぱり違う。
上手く言葉に変換できない。
でも、やっぱり、彼女は才人とは違う。それも根本的に。
ルイズの確信はもはや揺るがない。想い人であるが故の身び...
ルイズが、才人の特殊性を説明できないのは、ある意味無理...
平賀才人は現代人だ。
彼の生まれ育った社会には、聖職者・貴族(王族を含む)・...
階級差別が無い。――この事実が一体どれほどの事であるのか...
人口の大多数を占める平民たちは、自らに『魔法』という絶...
なぜなら平民たちにとって、メイジを敵に回す事は単純に『...
彼らにとって、メイジたちへの恐怖はそれほどまでに日常化...
即ち、お上は偉い、という思いに。
しかし、才人には関係ない。
平成日本の東京に育った才人には、貴族に対する畏怖も、メ...
忠誠心という概念すら、死語に等しい。
だから、彼にとってルイズは、御主人様というより、どこに...
513 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/24(火) 02:15:36...
ならばルイズはどうか。
これもある意味、特殊な例であると言わざるを得ない。
ルイズは、トリステインの大諸侯、ラ・ヴァリエール公爵家...
にもかかわらず、かつてルイズは魔法が使えなかった。
平民の中にも物乞いから大商人までいるように、貴族にもピ...
一般に貴族の爵位は、公・侯・伯・子・男の5段階に別れる。
無論、爵位も領地も持たない“騎士階級”というべき、年金貴...
しかし、ラ・ヴァリエール家は、そんな有象無象の貧乏貴族...
公爵家である。
官位の上では、王家に次ぐべき名門である。
その名門の生まれであるはずの自分が、魔法が使えない。――...
トリステインに進学し、本格的に修行をするようになっても...
当然であろう。貴族が貴族である証は、おのれがメイジであ...
辛かったであろう。
苦しかったはずだ。
学内でも有数の名門の出自である自分が、『ゼロのルイズ』...
また、学内には魔法が使えないもう一つの存在――平民――が、...
中世においては、同階級以外の者たちが交友関係を結ぶ事は...
また、ルイズには、貴族でありながらメイジではない自分を...
自らのプライドを、メイジとしてではなく、その出自に問う...
――つまり、ルイズは孤独であった。
彼女の前に才人という存在が、突如出現したのは、そんなと...
最初、ルイズは才人を疎んじた。
(単なる魔法のみならず、召喚の儀式ですら自分は満足にこな...
サモン・サーヴァントで人間――しかも何の特殊能力も無い、...
まさしく彼を殺したいほどに。
だから、ルイズにとって、才人が異世界の出身である事など...
しかし、彼女はやがて、気づく事になる。
繰り返す事になるが、この学院では、誰もがルイズを色眼鏡...
国内有数の名門の令嬢として。
にもかかわらず、魔法成功率0%の学院創設以来の劣等生と...
級友たちも、講師たちも、さらには時として、学院で働く平...
514 名前:見知らぬ星(その6)[sage] 投稿日:2007/04/24(...
なるほど、婚約者時代のワルドも彼女には優しかったが、や...
そういう意味では、彼女が最も慕うカトレアとて、劣等感を...
ルイズ自身、そんなカトレア観は、恐らく全力で否定するで...
しかし、才人は違った。それも根本的に。
魔法の無い世界から来たこの少年には、魔法を使えないこと...
『気にするな』どころではない。
『そんな事が、お前の価値を下げる事になるのか?』それが彼...
人間の価値は中身だ。
――現代教育においてそう叩き込まれている日本人にとって、魔...
だからこそ才人は、彼女を、どこにでもいる普通の(という...
まさしく彼女は才人に救われたのだ。
劣等感のカタマリのような彼女にとって、一言でいうと、ハ...
当然のごとく魔法を使う貴族たちも、魔法を使えない平民た...
しかし、才人はハルケギニアの人間ではない。
貴族もメイジも関係ない。
ただ一人の当たり前の人間として、対等に彼女と接したのは...
少年と少女は、例え幾多の冒険を共にせずとも、やがては魂...
この世界に於いて才人は特別だ。
ハルケギニアより遥かに進んだ世界より来た彼は、この封建...
神の敬うを知らず、王の尊ぶを知らず、貴族の畏るるを知ら...
厳密には、契約上の主であるルイズですら、彼の行動を完全...
そういう意味では、彼は、凡百の使い魔などとは全く異質な...
なぜなら、才人の中には、真なる意味での忠誠心などカケラ...
ただひたすらに主に盲愛を尽くすシェフィールドとは違う。
例え、主であるルイズが『死ね』と言っても、彼は盲目的に...
愛する男に死を命じる女はいない。
それと同時に、愛する女に命じられたからといって、死を選...
515 名前:見知らぬ星(その6)[sage] 投稿日:2007/04/24(...
しかし、今のルイズにそこまで自分の直感を言語化すること...
ただひたすらに俯いて、唇を噛むしかない。
そんなルイズを、シェフィールドは覗き込んだ。
「いいのよ、そんな無理して答えなくとも……。彼と、何かあっ...
ルイズの眉間に、反射的にシワがよる。
「そう、やっぱりね」
「何も言ってないでしょうっ!!」
「言葉にせずとも、人はその心を語れるものよ。私はそれを読...
――いやな女だ。
もうルイズは反論すらしない。
これ以上、この女に才人の名を口にされると思うだけで、気...
しかし、シェフィールドは、ルイズのそんな心など気にもし...
「あなたの不幸はね」
と、シェフィールドは言う。
「使い魔に、異世界からの男を召還した事よ。童話に出て来る...
「それは、それはあなただって同じでしょっ!! 使い魔の契...
「私は、主に一生を捧げる事に何の躊躇いも持ってはいないわ...
「……」
「あなたの使い魔は、確かにあなたを愛しているかも知れない...
ルイズは答えられない。何も言葉を返せない。
「そうね。……そういう意味では特別かもしれないわね。その身...
「だまれっ」
「あんたに……あんたなんかに……何が分かるのよ……。そんなサイ...
「そんなサイトだから? 私には分からないわ」
「当たり前よっ!! あんたなんかに私たちの事が分かってた...
シェフィールドは、グラスワインを飲み干した。
「“私たち”? 女をそんなに悲しませて、何が“私たち”なの?...
ルイズは悲鳴のように叫んだ。
「私は悲しんでなんかないわっ!! 勝手に話を進めないでっ...
「あなたが言わなくとも、私には分かるって言ってるでしょう...
「下らないって何よっ!! 少なくともサイトにとっては――」
「ほら、やっぱり、そうなんじゃないの。ケンカしたんでしょ...
「ぐっ……!!」
――頭が回らないにも、程がある。
こんなバカみたいな誘導尋問に引っ掛るなんて、普段の自分...
怒りで、またもや血が上りそうになった瞬間、ルイズに“ケン...
『俺は、お前を許せそうに無い』
ルイズの腰から力が抜け、へたり込む。
516 名前:見知らぬ星(その6)[sage] 投稿日:2007/04/24(...
「だって……しょうがないじゃない……」
「……」
「……ころしなさいよ」
ルイズの瞳から、再び力が消えた。
シェフィールドがやがて、ゆっくり口を開く。
「何があったの?」
「サイトが……サイトが……私を許さないって……復讐してやるって…...
「何故?」
「もう帰れないからって……お前はひとさらいだって……」
「……」
「ひどいよ……ひどいよサイト……なんでそんな事言うのよ……私が…...
「好きなのね?」
そう言われた瞬間、ルイズはようやくシェフィールドに向き...
「そうよ! 好きよ! 大好き!! もし帰れる方法を知って...
それだけ叫んでしまうと、ルイズの眼光から再び光が消え、...
「――はやく、わたしをころしてよ」
とだけ、つぶやいて。
「殺さないわ」
そう言ったシェフィールドの表情は笑っていた。
「安心なさい、ルイズ・ラ・ヴァリエール。今日のところはす...
じゃあ、あんたは何をしに来たの、とルイズはぼんやりと思...
「今日はあなたに、とってもいいことを教えてあげに来たの」
彼女は、ルイズの顎をつかんで、ぐいっと自分の方を向かせ...
「あの使い魔の坊やを、自分の世界に返してあげる方法よ」
693 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/29(日) 17:30:35...
一陣の風が才人の鼻孔をくすぐる。
草の匂い。
花の匂い。
土の匂い。
――来た。
甲冑を着込んだガーゴイルが、こちらに近付いてくる。
才人に気付いた様子は無い。
しかし、油断は出来ない。
(気負うな。落ち着け。息を乱すな。)
七歩、六歩、五歩、――。
(あと、2メートル……)
剣の柄に両手を添える。
二歩、一歩、――。
(今だ!)
全身の力を抜く。
枝から跳ぶのではない。あくまでも落下だ。脱力し、風に舞...
そして、自分の体重と、その自由落下のエネルギーをすべて...
(4つ!)
そのガーゴイルは、眼前の樹上から突如出現した才人に、な...
「いいぞ相棒。なかなか動けるようになってきたじゃねえか」
「ああ、記憶が飛んでも体が覚えてるってのは、ホントらしい...
「最後の一言はどういう意味だかよく分からんが、まあ、そう...
ああ、当然だろ。
才人はそう呟くと、前方の木陰に移動する。
夜空に輝く二つの月光が、逆に、身を隠すべき闇を教えてく...
足音を殺しながら、馬上でのデルフリンガ−との会話を思い出...
――いいか相棒。お前は確かに、一人で七万の軍を食い止めた過...
(当たり前だろ。俺だって、そこまで無謀じゃねえよ)
木陰に入り、地面に耳をつける。
足音なんて聞こえない。
しかし、伝わってくる。地面を通じて、ガーゴイルの動く気...
(こっちに近付いてくる……)
そのまま茂みに身を潜める。
微動だにしない。
――対集団戦の基本はな、1対1を相手の人数分繰り返すことだ...
(悠長なこと言いやがって)
馬上、その一言を聞いた才人は、怒りで目が眩みそうになっ...
いまの自分は、無敵を誇ったガンダールヴ・シュヴァリエ才...
実際、今この瞬間も囚われているであろうルイズを思うと、...
(落ち着け。クールになれ平賀才人。俺が死んだら、誰がルイ...
静かに、それでいて大きく深呼吸をする。
焦りは呼吸を乱す。
乱れた呼吸は、気配となり、敵に容易に居場所をつかませて...
694 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
月光の下を、しずしずと、次なる獲物が歩いてくる。
才人が潜む木陰には気付かず、そして才人も、そのガーゴイ...
――と、そいつが足を止める。そこには、さっき才人が叩き斬っ...
(今だ!)
才人は、木陰から飛び出しざま、そいつの右手――剣を持つ手―...
(5つ!)
ぶんっ!!
その途端、才人は、背後から殺気を伴う剣風を感じた。
彼は、反射的に振り返る。
ただ振り返ったわけではない。首無しガーゴイルを盾代わり...
とっさの判断であった。
新たに出現したガーゴイルの戦斧が、首を失った元同僚の骸...
(危なかった)
ガンダールヴとしての敏捷性が発揮されていなかったら、頭...
才人は、そのガーゴイルが、食い込んだ死体から戦斧を抜い...
「ばかっ、刺すなっ!!」
デルフが何か言ったようだが、才人は気にしない。
さっき串刺しにしたガーゴイルは、自分の眼前で、文字通り...
そのまま剣を引き抜いて――あれ、あれ、あれ、あれ、抜けな...
「だから刺すなって言ったんだ! 前にも一度言ったろうがっ...
「うるせえなっ、今やってんだろうがっ!!」
その瞬間だった。
彼の左肩に、焼け付くような痛みが走ったのは。
「くっ!?」
反射的に剣から手を離し、最寄りの繁みに飛び込む。
さっきまで彼の頭があった位置を、うなりを上げて走る何か...
あと一瞬、デルフから手を離すことを躊躇っていたら、確実...
繁みの中で、おそるおそる左肩を見る。
そこには、1メートルはあろう矢が、見事に突き刺さってい...
その時になってようやく才人は、木陰から姿を見せずに自分...
そして、その呼吸を忘れさせるほどの激痛にも。
「あああああああああ!!!!!!」
深夜の悲鳴は、残った7体のガーゴイルを呼び寄せるには、...
695 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
「待って! いま何か聞こえたっ!?」
「何かって?」
「だから――サイトの声っ」
「え、ホント!?」
シルフィードの背に乗ったタバサは、常ならぬ大声で、隣の...
「私にも聞こえました、ミス・タバサっ!!」
二人の背後からシエスタが答える。
「あっちです! あっちの方角、急いでくださいっ!!」
「サイトが危ない」
「……何よもう。あたし完全に蚊帳の外じゃない」
ごねるキュルケに一瞥もくれず、タバサはシエスタの指す方...
――あれから、才人に愛想をつかしたシエスタは、女子寮に飛び...
タバサは、ルイズが危ないと聞いただけで、無言で協力に同...
もっとも、メイドの剣幕はそれ以上だったので、思わずたじ...
「――いたっ!!」
シエスタが叫ぶと同時に、風韻竜がその巨大な口を開き、ブ...
(やべえ、死ぬぞ俺っ)
すでに、2本の矢が彼の身体を貫いていた。
左肩、みぞおち。
得物を手にしていない才人の左手は、すでにルーンの輝きを...
そして、さっき思わずあげてしまった悲鳴に、侵入者の位置...
その上――、
「っ!!」
下半身から、一気に力が抜けた。
見れば、右膝を3本目の矢が貫いている。これでは逃げ回る...
(もうだめだっ! ルイズ――許してくれっ!!)
その時だった。
とどめを刺さんと、彼に迫っていたガーゴイルが、その手に...
696 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
「なっ!!?」
昼間のように彼を照らす月光が遮られる。
見上げた才人が目にしたのは、ゲームに出てくるような巨大...
一瞬、敵の新手かと思った才人だったが、その三人の中にメ...
(えっ、何であのメイドがここに!?)
そうこうしている間にも、残り二人の少女が、矢継ぎ早に強...
「確か――キュルケと、タバサ、だったっけ……?」
結局、その場に居合わせた、残り7体のガーゴイルは、あっ...
(まるでガンダムの前のリック・ドムだな)
才人は、自分の命が助かったという事実よりも、このメイジ...
少女たちは、シルフィードを才人の傍らに着地させると、そ...
「サイトさん! サイトさん!! 大丈夫ですかっ!! しっ...
「ああ、助かったよ。あのままだったら、確実にやられてた……...
「だめ、サイト。しゃべっちゃ傷に響く」
青い髪の眼鏡っ娘が、興奮するシエスタを才人から引き離し...
「と、とにかくタバサ、早く矢を抜いちゃおう。このままだっ...
キュルケの言葉に、タバサはこくりとうなずいた。
「サイトの背中に回って鏃(やじり)を切り落として。――あな...
タバサはシエスタに顔を向けると、
「矢を抜く時に、サイトの身体を抑えてて」
「はい!」
タバサのテキパキとした指示に、やや呆然としていたキュル...
褐色の肌の巨乳の少女が、ナイフを抜くと、才人の背後に回...
「ぐあああああああ!!!」
「頑張ってください、サイトさんっ!!」
肩と膝を貫いた矢を、シエスタとタバサが才人の身体を抑え...
――1本目、左肩。
――2本目、右膝。
その都度、傷口から鮮血が迸る。
「よし、じゃあ行くわよ三本目!」
どてっ腹に突き刺さった最後の矢に、キュルケが手をかけた...
「やめろっ! 触るなっ、抜くなっ!!」
たまらず才人は叫んでいた。
697 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
「なっ、何でよ……?」
思わず彼の勢いに呑まれたのか、巨乳の少女はたじろいだ。
「やばいところを助けてもらってすまねえが、これだけ先に確...
「なっ、なによ?」
「この中に、水系の治癒呪文を使いこなせるメイジはいるか?」
「って、何いってんのよ!? あたしはキュルケでこの子はタ...
「確か、あんたが“火”で、彼女が“風”だったか?」
「そうよ。分かってんじゃない」
「つまり、この場で治療は出来ねえってことだな」
「……!」
キュルケが返す言葉を失う。
「じゃあ、こいつはこのままでいい」
「ちょっと、サイト、本気で言ってるのっ!?」
才人は激昂するキュルケに、冷静な声音で言い渡す。
「この矢は皮下脂肪や腹筋を突き破って、内臓までいっちまっ...
おそらく少女たちには、いま彼が何を言ったのかも分からな...
水系魔法による治癒呪文を、唯一の医療手段としているハル...
だから、才人はもう、敢えて詳しい説明はしなかった。した...
才人は、無言で立ち上がると、スマンがデルフを持ってきて...
「は、はい」
シエスタは、根が聡明なので、それだけで充分通じたらしい...
「待って」
よろよろと歩き出そうとする才人をタバサが捕まえ、肩と膝...
「……ありがとう」
「分かるの?」
才人が『?』という表情をすると、彼の右膝にしゃがんでい...
「ルイズの居場所」
(ああ、そういう事か)
才人は力強くうなずく。
「……使い魔だからな。一応は」
698 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
この言葉は嘘ではない。
シエスタからルイズの消えた方角すら聞いていない才人が、...
しかし、だからといって当てずっぽうではない。
才人自身、何の根拠も無いが、今から自分が向かう方角にル...
(絆、だとでも言うのかよ。……ばかばかしい)
この非科学的な世界と、それを納得してしまっている自分に...
「サイトさん!!」
シエスタが才人にデルフリンガ−を渡す。
とても切なそうな顔をして。
「さっきは、その……すいませんでした。私……その……ひどい事を...
才人は、そんなシエスタを優しい眼差しで見つめると、その...
――気にしてないよ。
その笑顔を見て、さらにシエスタの表情が、くしゃっと歪む。
「サイト……あなた、記憶が戻ったの? 確かメイドの話じゃ、...
血の気が失せた才人に、キュルケが恐る恐る訊いて来る。
彼は、かろうじて彼女の方を向くと、口を開いた。
「なんとなく……気が変わったのさ」
「――来たわ。あなたの王子様が」
シェフィールドの声に、ルイズの体がびくんと跳ねた。
「では、さっきの段取り通りに……ね? 彼をお家に帰してあげ...
少女は、とても小さくだが、しかしその言葉に、確かにうな...
709 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 01:36:30...
「あそこね」
キュルケが、森が切れた崖に見える、小さな洞窟を見て言う。
(なぜ、あんな逃げ道の無い場所に隠れているのだろう?)
キュルケは純粋にそう思う。つまり、ただ隠れているだけな...
そして、それはタバサも同じだった。
と言うより、タバサはキュルケと同じく罠の匂いは嗅いだが...
(ミョズニトニルンはもう、あそこにはいない?)
と思った。
ガリア出身の彼女は、少なくとも才人やキュルケよりは彼女...
どちらにしろ、才人はこんなところでグズグズしてる気は無...
罠があろうがなかろうが、モタモタしていたら、いずれ出血...
「いくぜ」
才人は繁みから出ると、ずんずん横穴の中に入って行く。
「待ってサイト、もう少し様子を――」
キュルケが何か言ったようだが、彼の歩みは止まらない。
洞穴の奥からは松明だろうか、うっすらと灯りが洩れている。
奇妙な事に、あれほど濃厚だった罠の気配の割りには、待ち...
奥の広間に出る。
そこには、やはりというか、シェフィールドの姿は、もう無...
その代わり、少年が捜し求めた可憐な少女が、まるで、しお...
「ルイズっ!!」
才人が叫ぶが、彼女の反応は無い。
「ルイズっ!! しっかりしろっ!!」
思わず少女のもとに駆け寄った才人は、不意におのれの腹部...
「……え?」
体を起こしたルイズの手に握られた短剣が、彼の下腹部に食...
「……え?」
710 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 01:39:42...
その場にいた全員が、まるで悪夢でも見たように、呼吸一つ...
その刃は、根元まで才人に吸い込まれていたわけではない。
彼のどてっ腹に、あらかじめ刺さっていた矢が、体ごと才人...
しかし、才人の精神が、その瞬間凍りついていたのは間違い...
――何で、こいつが、俺を……?
心当たりは無数にある。
第一、才人は彼女に復讐を宣告した。
ならば、ルイズとしては、身を守るために先制攻撃を……?
「きゃあああああああああああ!!!!!」
洞窟内に、シエスタの悲鳴が轟いた。
その瞬間、才人の心が理性を取り戻した。
「相棒!!」
デルフが叫ぶ。
ルイズが、才人を刺した短剣を捻り、えぐりながら刃を引き...
才人は、渾身の力を振り絞って、後ろに跳びずさり、転がる。
そんな彼に、ピンクのブロンドの少女が、再び襲い掛かる。
「何で逃げるのっ!? 逃げちゃだめっ! 逃げちゃだめなん...
凶刃を振りかざしながらルイズが迫る。
肩を切り裂かれ、タバサが巻いてくれた包帯が、はらりとほ...
「こんっっのぉ!」
もはや彼の視界は暗い。
勘で差し出した手が、ルイズの手首を捉える。
そのまま最後の力を振り絞って、才人はルイズを引き倒す。
「やめろっ! ルイズっ!!」
「何で……何で邪魔するのぉ……? あんた帰りたいんでしょう?...
ルイズの顔は、もう涙でぐしゃぐしゃだった。
才人は、重い口を開いた。
「どういう、つもり? ルイズは……」
「――さいとぉ」
「ルイズは、俺を、――殺したいの?」
「そんなわけ無いでしょっっ!!」
711 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
「殺したいんじゃないの……帰してあげたいだけなの……この短剣...
(何じゃ、そりゃあ……?)
「私とサイトの間の契約を解除するためには、サイトは死なな...
才人にとっては、ルイズが何を言いたいのかサッパリ分から...
しかし、ナイフで彼をえぐり殺すという行為が、彼女にとっ...
(逆手に取られやがったのか……)
人間を洗脳する時、その者の拠り所とする最も強い感情を逆...
例えば、愛国心。
例えば、信仰心。
例えば、権力欲。
――洗脳の基本的なテクニックだ。
無論、それだけでは人間の価値観は一回転しない。おそらく...
そう思った才人の視界の隅に、転がっているワインのビンが...
(この……バカたれが……!!)
その瞬間、ルイズのからだがさらに跳ねた。
矢と短剣に、腹を割られて力の入らない才人には、もう彼女...
「サイトっ!!」
普段からは考えられない敏捷性を発揮して、ルイズの小柄な...
「シエ……スタ……?」
712 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
ルイズが構えた白刃は、漆黒のメイド服に吸い込まれ、その...
「何で……あなたまで、邪魔するの……!?」
「だめですよ、ミス・ヴァリエール」
涙でぐしゃぐしゃになったルイズの頭を、シエスタは優しく...
「そんな帰り方じゃあ、サイトさんは喜びませんよ。私たちが...
「……シエスタ」
シエスタは、自分の胸を刺した少女の震える肩を、優しく抱...
「ほら、涙を拭いて下さい、ミス・ヴァリエール。あなたはや...
シエスタは崩れ落ちた。
その聖母の微笑みを浮かべたまま。静かに、ゆっくりと。
その場にいた者たちの目には、その倒れ方すら、とても美し...
――彼女の胸から、にょっきり生え出た、柄まで赤く染まった、...
「いやぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!」
絶叫するルイズの瞳に正気の光が宿り、次の瞬間、また消え...
ルイズは意識を失った。
――――――――――――――――――――――――――――
しょり、しょり、しょり、しょり、……。
果物ナイフがりんごの皮を剥く音が、部屋に響く。
彼女は目が覚めてしばらく、天井を見つめたまま、才人が紡...
「――ん、何だ、起きてたのかルイズ?」
「……うん」
「リンゴ、食うか?」
「いらない」
「そうか。じゃあ、俺がもらう」
がぶり、――ぐっちゃぐっちゃ……。
健康そうな咀嚼音が、ルイズの耳にも届いてくる。
「ねえ?」
何だ? という表情で才人が、ベッドの彼女に振り返る。
「シエスタは死んだの?」
才人の眉間に一瞬、太い縦ジワが刻まれる。
しかし、彼の声音は震えを帯びなかった。
「――ああ、死んだよ」
「そう」
そう答えたルイズの声音も。
713 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
しかし、震えなかったのはあくまで、声だけだった。
彼女の瞳にみるみる盛り上がった大粒の涙は、その顔を雨季...
しかし、それでもなお、ルイズは身じろぎ一つしない。
視線はあくまで天井に向けられたまま、懸命に何かを堪える...
「ルイズ」
才人は言う。
「これは、俺のせいだ」
俺がお前を追い詰めた結果、シエスタは死んだ。
確かにシエスタを刺したのはお前だが、お前にシエスタを刺...
――才人はそう言い放った。
ルイズは何も答えない。
無理もない、彼もそう思う。
そんな言葉など、いまの彼女にとって何の意味も持たない事...
しかし、彼はまだ、その身のうちにある、全ての言葉を吐き...
「俺は決めたよ」
「……」
「もう、帰るのはやめだ」
「……」
「虚無の使い魔ガンダールヴとして、王国の騎士シュヴァリエ...
「――同情してるの?」
恐ろしく冷たい声をルイズが返す。
天井を見つめるその眼差しには、怒りすら込められていた。
「ふざけるんじゃないわよ……!!」
少女はむくりと体を起こしながら、その激情に満ちた目を、...
「あんたを帰してやりたい、その一心で私はあの短剣を振り回...
「……」
「理由はどうあれ、シエスタを殺したのは私なのよ。それを、...
ルイズは、ここまで怒鳴り散らされても、眉一筋動かさない...
「そうよ、あんたのせいよ! あんたがいなけりゃ、あの子も...
そこまでだった。
ルイズの精根は、そこで尽きた。
「あんたが……、あんたが……、うっうううう……!!!」
ルイズは肩を震わせ、全身を振り絞って泣き始めた。この気...
才人は、そんなルイズの肩を抱きしめ、
「――すまん」
そう一言、囁いた。
「もう、どこにも行かねえ。金輪際お前の傍を離れねえ。二度...
「……ぅぅぅ……さいとの……さいとの、ばかぁっ!! ゆるさない...
「ごめんよ、ごめんよ、ごめんよぉ……!!」
「さいとぉ、さいとぉ、さいとぉ……」
泣き叫ぶルイズの両手が、いつしか才人の背に回されるまで...
714 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
エピローグ
豪奢な―― 一見してルイズのものとはさらに比較にならない...
その分厚い胸板にしがみついた女が、ようやく息を整え、口...
「ジョゼフ様」
「なんだい?」
「今回の任務につき、一つだけお伺いしたき事があったのです...
「いいとも。何でも訊きたまえ」
うやうやしく男を見つめる女の瞳に、知的な光が宿る。
「ガンダールヴを、虚無の担い手ルイズ自らの手にかけさせる...
「うむ」
「そんなルイズにガンダールヴを殺させれば、自分の行為に対...
そのジョゼフ様の意見には、私も全く正論だと思われます。...
それを見下ろす男の表情には、変わらず楽しそうな笑みが張...
「で?」
「では何故あの時、事の次第を見届けずに、わたくしに撤退を...
男の笑顔と対照的に、彼女の目は、心底悔しそうであった。
「知りたいかね?」
「はい。是非に」
「不確定要素だ」
「は?」
「あのガンダールヴは、主を救出に向かう前に、すでにここ数...
確かに、薬物を含ませたワインを飲みながら、泣きながらル...
「記憶を失った異世界出身の男が、どう自分を納得させたか知...
命を捨ててかかる男は強いぞ。特に、女に命を賭ける男はな。
彼は楽しげにそう呟く。
しかし、彼女はまだ不満だった。
絶対的な技量の差は、決して精神論で埋まるものではないか...
715 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
「それともう一つ。どちらかと言えば、こっちの方が問題だっ...
男は続ける。
「北花壇騎士七号――。シャルロットの奴が別行動で、やはりお...
その瞬間、彼女の目に――僅かながら――動揺が走っていた。
当然、男はそれを見逃してはいない。
「いかにお前がミョズニトニルンでも、ガンダールヴと風韻竜...
「……」
「ましてや、そのメイジがシャルロットと、そいつと互角に戦...
確かにそうかも知れない。
そう思わざるを得なかった。
もともと、彼女としては、さらったルイズに洗脳をかまして...
「しかし、宜しかったのですかジョゼフ様?」
「何が?」
「ルイズ・ラ・ヴァリエールの中に芽生えた我々への敵意は、...
「構わぬ」
あっさりと言い切る男の表情は、寝台の天蓋の陰になり、彼...
「懐柔が叶わぬならば、始末するしかあるまい。どちらにしろ...
「はい」
「無能とそしられるも人生。敵意と憎悪にさらされるも、また...
人間、敵は多いほど人生面白いしな、そう男は不敵につぶや...
「そして何より――」
彼女が気付いた瞬間には、男はすでに、彼女の肩にその大き...
「わたしはお前を、そんな危険な目にあわせる気にはなれない...
その一言で、彼女――シェフィールドの心は何もかも晴れた。...
ここにいるのは、ただ一人、堅い契約の絆で結ばれた、彼女...
「ああ、勿体のうございます、ジョゼフ様!」
「ふふふ、そんな事を申す口があるならば、早くわたしに口付...
「はい! はい! 私の――ジョゼフ様!!」
薄暗がりの中、二人の男女は飽きる事無く、いつまでもその...
(了)
終了行:
65 名前:見知らぬ星(その1)[sage] 投稿日:2007/04/09(月...
全身が、何か柔らかいものに包まれている。
身体中が外気にさらされるような、毛穴の一つ一つを風がな...
にもかかわらず、
――暑い。
(いや、熱い?)
――そうだ、熱い。
(熱い、熱い、熱い……)
――まるで火傷しそうだ。
「っっっっっっ!!!!!」
岩のように重かったまぶたが、ようやく開いた。
その時になって、初めて彼は自分の体が無意識のうちに、そ...
全身は、まるで水をぶっかけられたかのように寝汗がグッシ...
「っっっ!!!!」
その瞬間、割れるような頭痛がほとばしる。
思わず身体を丸め、目を閉じる。
何も考えられない。
まるで重度の二日酔いにでもなったような。
天地がひっくり返り、時間が凍結したような。
そんな気分だった。
……眠い。
だめだ。
これ以上うずくまって、目を閉じていれば、また覚醒する機...
起きろ。
重いまぶたを無理やり開けて、その意識を叩き起こすんだ。
さもないと、まずい事になる。
そう無意識が叫んでいる。
絶え間なく続く頭痛。五体を包む圧倒的な疲労感。身体は間...
しかし、それ以上に無意識が叫ぶのだ。
早く起きないと、“まずいこと”になる、と。
彼は、体の欲求を無視し、無意識の叫びに従うことにした。...
彼は起きた。
66 名前:見知らぬ星(その1)[sage] 投稿日:2007/04/09(月...
そこは見慣れない空間だった。
石造りの見慣れない部屋。
広さは12畳くらいだろうか。
部屋は明るいが……暗い。
少なくとも、彼が知っているライトや、蛍光灯の光量ではな...
ふと見ると、ランプに、あかあかと火が灯っている。
――えらく、クラッシックな趣味だなぁ。
そう思った時、彼は、自分がかつて見た事の無いくらい豪奢...
いや、ベッドだけじゃない。
よくよく見れば、眼前のタンスも、二人がけのテーブルと椅...
しかし、いずれの家具にも見覚えは無い。
早い話が、ここは彼にとって、見知らぬ部屋だった。
「どこよ、ここ……?」
彼はそう、不安げに呟いた。
「サイト!!」
扉が開くのと同時だった。
ピンクがかった金髪(?)の可愛らしい少女が、わなわなと...
かなりの美少女、といえる容貌の持ち主だった。
「意識が……戻ったのね、よかった……。もう、もう、目が覚めな...
美少女が目を潤ませた瞬間、彼の頭蓋に、電流のような激痛...
「ぐっ!!!」
「サイト……!? サイト、サイト! 大丈夫!?」
美少女は、頭を抱えてうずくまる彼の枕元に駆け寄ると、その...
「頭が、痛いの……?」
「――ああ、割れちまいそうだ」
「ごめんね、ごめんねサイト……他に痛いところは無い?」
そう言いながら、必死に彼の眼を覗き込む少女の表情は、幼...
ぽたり、ぽたり。
彼の頬に、熱いしずくが一滴、二滴と落ちてくる。
ごくん。
偶然だろうか、そのうちの一滴が、頬を伝って唇まで辿り着...
頭蓋を覆う電流が、ふっ、と和らいだ気がした。
「泣いてるのか……?」
「泣いてなんか、ないわよ……、このばかぁ」
そのまま彼女は、渾身の力を込めて少年を抱きしめた。
もう、どこにも彼を逃がさないように。そう誓うかのように。
67 名前:見知らぬ星(その1)[sage] 投稿日:2007/04/09(月...
「ミス・ヴァリエール、お食事をお持ちしました……って、サイ...
彼は、抱きしめられた美少女の薄い胸の中から、視線だけを...
黒髪を肩のあたりで綺麗にカットされたメイド姿の少女が、...
「お目覚めに、お目覚めになられたんですかっ!? サイトさ...
「ええ、シエスタ。さっき部屋に帰ってきたら――」
「サイトさんっっ!!」
その時には、もうメイドは彼女の言葉を聞いてはいなかった。
驚くヒマも無かった。
清楚と見えたはずのメイドが、トレイをテーブルに置くや否...
とっさの事に、ブロンドの美少女も彼から身を離して避け、...
がしっ!
メイドは、まるでアメフトのタックルのように飛びつき、押...
彼は、何の抵抗も反応も出来なかった。
「よかった! よかった! よかった! 心配したんですよっ...
メイドは泣いていた。
彼の胸にしがみついて泣いていた。
最初は、その目にサッと嫉妬の色を浮かべたブロンドの少女...
しかし、彼の心は醒めていた。
眼前で繰り広げられている、自分に対する二人の少女たちの...
なぜなら……。
「なあ、一つ訊いていいか……?」
彼の瞳は、もはや胸元のメイドを見てはいなかった。
ブロンドの少女をも見てはいなかった。
ただ、その黒い瞳に心底困ったような光を浮かべ、窓から覗...
「誰だ、お前ら?」
74 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:13:48 ...
「……サイト……?」
「……サイトさん?」
「俺は、いかにも平賀才人だけど……お前らは誰だ? 何で俺の...
メイドが彼の胸元から顔を上げる。
そのメイドを見守るような眼差しを送っていたブロンドの少...
「……あんた、ふざけてんの?」
「サイトさん、止めてくださいよ、そんな冗談笑えませんよ」
しかし、彼はもう二人を見てはいなかった。
「どいてくれ」
そう言いながらメイドをやんわりと丁寧に、しかし確実に明...
その目は、かつてこのメイド姿の少女が見た事の無いほど冷...
「サイ……ト……さん……?」
「何だか、すっげえ長い間……眠ってたような気がする」
ベッドから身を起こし、裸足で床に身を起こした彼――才人は...
「何言ってるのよ! あんたはもう10日も眠ってたのよっ! ...
「10日……?」
「そうよっ! あんたは平民のくせにっ、私の使い魔のくせに...
「ミス・ヴァリエール! 待ってください!」
「いいえ、今度という今度は、もう堪忍袋の緒が切れたわ! ...
「サイトさんが10日も寝込んだ原因を作ったのは、ミス・ヴァ...
その一言に、さすがの彼女――ルイズも沈黙せざるを得なかっ...
「……でも、悪いのはこいつだもん。サイトが私の言い付けを忘...
「でも、誤解だったんですよね、それも? サイトさんはきっ...
「……はい」
「反省してます?」
「……」
「反省していないんですか?」
「……使い魔を、どう扱おうと……御主人様の勝手だもん……」
「ミス・ヴァリエールっ!!」
「なあ」
75 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:15:37 ...
その声に二人が反応した時、すでに才人はドレッサーから自...
「俺の靴どこ?」
「あ……その、ここです」
「ありがと」
才人はスニーカーを履きながら、靴の場所を教えてくれたメ...
「キミ、優しいな。名前教えてくれよ」
彼女――シエスタは、絶句した。
「何だよ、別に照れなくてもいいよ。……まあ、そんな格好して...
「……」
「まあ、どうせ秋葉原のどっかだろ? でもおかしいな。俺の...
「……」
「まあいい、まあいい。恥かしかったら、また今度でいいよ。...
才人は、そう言ってシエスタに微笑み、
「あ、これ、食っていいんだよな?」
と訊くと、返事も待たずにがつがつと食べ始めた。
シエスタには、才人の発言内容の一割も理解できない。
彼女は、才人が発狂したのかと思った。
もしくは、眼前の才人は、魔法で彼に変身した、どこかの見...
彼女の知っている才人は、いくらふざけていても、ここまで...
そこまで悪質なふざけ方が出来る人間なら、自分はここまで...
逆に言えば、例えどんな名優が才人に変身していたとしても...
――が、違う……!
眼前にいるこの男は、まさしく彼女が知るところのサイトそ...
その笑顔。
その眼差し。
その教養のカケラも感じさせない食事。
何より、その独特の雰囲気。
彼の吐く言葉は、やはり理解しがたいが、そこを除けば、そ...
そして、その想いは、その場にいたもう一人の少女、ルイズ...
76 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:19:16 ...
「あんた、いい加減にしなさいよ……!!」
「ふぇ?」
「いい加減にしなさいって言ってるのよ、このバカ犬っっっ!...
そう言うが早いか、彼のパーカーのフードを引っ掴み、うし...
「むぐぅっっ!!」
口にロブスターをくわえたままの才人は、いきなりの攻撃に...
「いけません! ミス・ヴァリエールっ!!」
シエスタが叫ぶ。
だが、怒りに我を忘れたルイズは止まらない。
久しぶりの馬上鞭を取り出すと、彼を無茶苦茶に打ちまくっ...
「このバカ犬っ!! バカ犬っ!! バカ犬っ!!」
「いてえっ!! やめっ!! 何すんだよっ!!?」
――何すんだよ?
何をするんだ、ですってえ……!!
ルイズは、狙い済ましたように才人の顔面を打ち抜くと、何...
「まだ、すっとぼける気っ!? これ以上、私やシエスタを相...
「……あ……が……」
「やめてください、ミス・ヴァリエールっ!! サイトさんが...
「うるさいっ!! 死ぬまでには目も覚めるでしょうよっ!!」
その時、ルイズがよそ見をした僅かな隙に、才人が反撃に出...
首を絞められていた才人の両手がルイズの鞭持つ両手首を掴...
「っっ!?」
ルイズには、何が起こったのか分からなかった。
ただ、頭の奥に火花がほどの光が散るのが見えた瞬間、鼻を...
余りの痛みに思わず鞭から手を離したルイズのどてっ腹を、...
「かはぁっっ!!」
そのままベッドの足に叩きつけられるルイズ。
「ミス・ヴァリエールっ! 大丈夫ですかっ!?」
思わずシエスタが駆け寄る。
「ああ、こんなに鼻血が……。サイトさんっ、あんまりですっ、...
「うるせえっっ!!!」
才人も鼻血を流していた。
ルイズの鞭に顔面を打たれた時のダメージである。
おそらく鼻の気道は血で塞がっているのだろう。肩で息をし...
「……ざけやがって、……ざけやがって、いきなりワケの分からん...
77 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:22:09 ...
才人は怒っていた。
この少女たちに、である。
シエスタが彼の発言を理解できなかったように、才人には、...
自分の名を平賀才人だと知っている。百歩譲ってそこまでは...
何より彼女が使う、『平民』や『犬』なる言葉も理解できな...
もはや相手が誰であろうと関係なかった。
平成の世に生きてきた彼は、そこまで意味不明の理由で理不...
しかし、二人――特にルイズは違った。
才人が……あの使い魔の少年が、自分に手を出し、なおかつ覚...
ただの怒りではない。
完全なる敵意。
その瞬間まで、才人がふざけている。そう思った。そう思い...
彼は直情的で、とても正義感の強い少年だった。もっとも、...
直情的で、しかも互いに違う価値観の持ち主である才人とル...
今から思えば、くだらない事がきっかけの、他愛も無いケン...
何故、一度も無いと言い切れるのかと問われれば、答えは簡...
才人と行動を共にして経験した幾多の冒険。
その中で、彼女は本気で怒れる才人を何度も何度も見てきた。
婚約をダシにワルドが自分を手に入れようとした時。
アンリエッタが、死せるウェールズに騙され、共に亡命する...
そのアンリエッタに、タバサを救いにいけないなら騎士の位...
彼女の知っている才人は、その怒りの隅々まで純粋だった。
端で見ていた自分がうっとりするほどに、才人は自分自身に...
例え、いきなり彼を風呂釜ごと爆破しようが、その原因が単...
その程度の懐の広さは持っているはずの男だった。
ましてや、ルイズだけならともかく、シエスタにまで悪ふざ...
そう思った時、ルイズの心中で何かが決壊した。
78 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/10(火) 02:28:37 ...
「サイトぉ……、一体、一体、どうしたのよぉぉ……。なんで、そ...
一旦こぼれ落ちた涙は、もうルイズ自身にも止められなかっ...
もう、彼に蹴飛ばされた痛みも、流れ続ける鼻血も、ルイズ...
貴族の誇りも何も無く、ただ、ひたすら彼女は悲しかった。
「――え、あ、いや、ちょっ……ちょっと待てよ。その――」
果たせるかな。才人はその意図を読めない涙にうろたえ、先...
なんのかんのと、才人は女性に甘い。それもルイズが知る才...
いや、もうそんな事はどうでもいい。それ以前にもう彼女は...
シエスタが気付いたと時を同じくして。
彼に対する想いを、そのプライドゆえに認められなかったよ...
つまり、ここにいる才人は、紛れも無い才人本人でありなが...
「サイトさん、……本当なんですか? 本当に私たちが分からな...
「分からないんですかって……いや、だからさ、さっきから訊い...
「嘘です! 嘘です! そんな、そんなはずありません!! ...
「もう、そこまでにしといてやれよ。メイドちゃん」
「――なっ!!?」
声の方向に振り返った才人が見たのは、かたかたと刀身を震...
シエスタは、思わずその名を呟いた。
伝説のガンダールブが帯剣していたという、六千年の叡智を...
この情況を、説明・解決できる唯一の希望。
「デルフリンガー、さん……!」
163 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 23:24:56...
「十日ぶりだな、相棒」
「……」
「何、ハトが豆鉄砲くらったようなツラしてやがる。俺だよ、...
そこまで言われて、才人は初めて、自分に話し掛けて相手が...
「おいおいおいおい……何だ何だ何だ、何なんだよこれ……!?」
「サイトさん……?」
「すげえ!? 何だコレっ!!? こいつかっ!? 本当にコ...
シエスタを押しのけ、ベッドを乗り越え、子供のように瞳を...
「嘘だろっ!? マジかよっ!? どうなってるんだっ!? ...
元来、才人はとても好奇心の強い性格だった。それはここに...
もう、彼の眼中にはルイズもシエスタもなく、ひたすらデル...
「スピーカーはどこだ? 電源は? コードが無いって事は、...
「相棒」
「あん?」
「この俺が『相棒』って呼んだら、それはお前の事だ、ヒラガ...
「あっ、そうなの? まあいいや。そんな事より――」
「そうだ。そんな事より、いまはお前の話だ」
デルフリンガ−の声の調子が何となく変わった。
才人も、それには気付いたらしい。この、物言う剣が、今か...
「お前、昨日の事をどれだけ覚えてる?」
164 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
その問いかけに、才人はきょとんとした。
「そりゃあ、どういう質問だ?」
「いいから。思い出せる範囲で構わねえから、言ってみな」
「――だから、秋葉原でパソコンを修理して、家に帰る途中で、...
ずきん。
さっきまで大人しかった頭痛が、突然猛烈な勢いで、鎌首を...
痛い、痛い、痛い、痛い……!!!!!
「……だから、その、出会い系に登録したから……っっっっ……俺に...
ずきん。ずきん。ずきん。ずきん――。
「分かった、やめろ!! もういい、これ以上思い出すなっ!...
頭を抱えてうずくまる才人に、デルフリンガーが叫ぶ。
「デルフリンガーさん……?」
おずおずと口を開くメイドに剣は、やれやれといった口調で、
「――記憶喪失だな。それもかなりひどい」
「キオクソーシツ?」
二人の少女は同時に声を上げた。
当然、彼女たちはその有名すぎる病名を知らない。
医療行為といえば、水系の魔法による治癒呪文しか知らない...
精神病や神経症の患者は、例外なく『発狂』『乱心』といっ...
しかし、ルイズやシエスタは別だった。
以前、彼女たちはアルビオンで出会った、ティファニアとい...
他者の記憶に干渉し、操作し、消去する。
ルイズとは違う、また別系統の“虚無”の呪文を使う、もう一...
「そういう事だ。つまり今の相棒の頭にゃあ、このハルケギニ...
「――じゃあ、じゃあ、これも虚無の呪文のせいだって言うの?...
ルイズが呆然とデルフリンガーに尋ねる。
「そうかも知れねえ。でも、そうじゃないかも知れねえ」
「どういう事よっ!!?」
しかし、デルフリンガーはもうルイズには答えなかった。
165 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
「相棒――」
「……」
「俺を鞘から抜いてみな」
膝を突いて頭痛を堪えていた才人は、ちらりと剣を見上げる。
その目に、さっきまであった怒りと弾劾は微塵も無かった。
この剣が、一体どういう構造で、誰がスピーカーの向こうか...
――記憶喪失。
現代人の才人なら、当然知っている、この奇病。
そう言われてみれば、この部屋も、この少女たちも、どこと...
「いいから早く俺を抜きなっ! 相棒!」
「っ!」
デルフリンガ−の鋭い声に、思わず才人は剣の柄を握り締める。
その時、彼の左手の甲に、光り輝くルーンが現れた。
「なっ、何だこりゃあっ!??」
「――やっぱりな。記憶はなくなっても、契約までは消えちゃい...
「契約……!?」
「そこの、貴族の嬢ちゃんの使い魔になったって、契約さ」
「……分からねえ。お前の言ってる事は全然分からねえ」
その才人の呟きに、ルイズは胸を突かれたような、痛みを感...
(ミス・ヴァリエール……)
シエスタだけが、そのルイズの動揺に気が付いた。
しかし、当然ながら、才人の意識は眼前の剣にのみ向けられ...
166 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
「いいか相棒。これからちょっとしたショック療法をするから...
「何をする気だ……!?」
「ガンダールヴと武器との共鳴現象を利用して、お前の頭に、...
「がっ、がんだむ!?」
「あああっ、もう、どうせ説明しても分かりゃしねえ! いく...
その瞬間、才人の心に、膨大なまでの映像と音声、そしてこ...
「ああああああああああ!!!!!!!」
才人は叫び、手にした剣を床に落とした。
「サイトっ!!」
「サイトさんっ!!」
ルイズとシエスタは思わず彼のもとに駆け寄る。
才人は白目を剥き、ひくんひくんと痙攣を繰り返している。
「ちょっとアンタっ! サイトに一体何をしたのっ!!?」
すごい見幕でデルフリンガーに唾を飛ばすルイズ。
「さっき言ったろっ! ガンダールヴの武器共鳴現象を利用し...
167 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
「サイトさんっ! サイトさんっ!! しっかりして下さいっ...
「サイトっ!!」
ルイズも負けずに彼の眼を覗き込む。
「起きなさいっ!! 起きなさいよっ、サイトっ!!」
パーカーの襟首を掴み、がくんがくんと揺らし捲くる。
「起きなさいっ、起きるのっ、起きなきゃダメなのっ!! ア...
「ミス・ヴァリエール……」
「お仕置きだからね……元に戻らないなら……本当に……お仕置きし...
「――ルイズ」
ルイズの体がびくんと震え、
「サイト……!! 分かるの? 私が誰だか分かるのっ!?」
「サイトさん、サイトさん! 治ったんですね!?」
その歓喜は……しかし、数秒を待たずして、冷め始める。
才人のその瞳には、やはり何の感情も湧いてない冷たい光が...
「……」
彼は無言で身を起こすと、よろよろと窓まで辿り着き、格子...
そこには、煌煌と輝く、二つの月。
「サイト……?」
「ルイズ」
「なっ、何っ!?」
「帰る呪文は、無いんだな?」
「――えっ!?」
その問いかけは、窓から月を見上げたままだったため、二人...
「俺をここへ、ハルケギニアに召喚したのはお前だ。だから、...
「……サ、イト……!!」
「どうなんだルイズ。あるならある。無いなら無い。ハッキリ...
「……無い、わ」
「ミス・ヴァリエールっ!!」
「虚無の呪文にも、か?」
「……」
「――そうか。わかった」
そう言って振り返った才人の瞳は、涙に濡れていた。
「俺はもう、帰れないんだな」
「……」
「まっ、待ってくださいサイトさんっ!! 東方に行けば、あ...
「そんな可能性の話はいいんだ、シエスタ」
「かっ、可能性って、……!?」
才人は、絶句するシエスタから、再びルイズに視線を向ける。
168 名前:見知らぬ星(その3)[sage] 投稿日:2007/04/13(...
「相棒、お前、やっぱり記憶は……?」
剣の問いかけに、少年は哀しげに首を振る。
「……そうか」
「この世界の事は、何となくだが分かった。お前の記憶が教え...
そこまで言って、ルイズを見据える才人の瞳に、強い感情が...
「ルイズ。……いや、敢えてこう呼ぼうか、ミス・ヴァリエール」
ルイズの体が、再びびくんと、電気ショックを受けたように...
「お前が俺をどういう眼で見てくれたのか、それもデルフが教...
才人の奥歯がぎしりと鳴る。
「俺は、お前を許せそうに無い」
「さっ……!!」
ルイズの心が悲鳴をあげる。
待って、やめて、サイト、サイト! もう、もうこれ以上言...
「お前は、ひとさらいだ。ミス・ヴァリエール」
やめて!! やめて!! やめて!! やめて!! やめて...
「いつか必ず、お前に復讐する」
やめ―― ……。
ルイズは、その場に崩れ落ちた。
353 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
「……どうぞ」
シエスタが、卓上にカチャリと音を立ててカップを置く。
「学院生の方々が飲んでいるハーブティほど上等な紅茶じゃあ...
「ありがとう」
才人は疲れたような笑みを浮かべると、一口すすった。
「熱っ!」
「あっ、ごめんなさい!」
「あ、――いや、おいしいよ」
「……」
「……」
ここはシエスタの個室。
才人の『御付き』になってから、シエスタはルイズの部屋に...
あの後、ルイズは倒れ、気を失った。
しかし、そのルイズをベッドに運び、優しく毛布をかぶせた...
シエスタは、そんな才人を表現の仕様のない感情で見守りな...
ルイズに決別を宣言した才人が、そのまま、いつものように...
「サイトさん……」
「――ん?」
「……やっぱり、あれは……言い過ぎだったんじゃないでしょうか...
「……」
「サイトさんの気持ちも分かりますけど……でも、ミス・ヴァリ...
「悪意?」
「はい。――以前、ミス・ヴァリエールが言ってました。使い魔...
「“生物”、か……」
いかにもルイズらしい、傲慢な言い草だ。才人は思わず苦笑...
354 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
「あ――、その、気を悪くしたんなら謝ります! だって、その...
「いいよ。続けてくれ」
その才人の微笑を見てシエスタも安心したようだった。
「だから、サイトさんが無理やりハルケギニアに召喚されたよ...
「事故みたいなもんだって事か」
「……やっぱり、気を悪くしました?」
「……」
才人は返事の変わりに、手に持った紅茶を飲み干した。まだ...
「シエスタ」
「はい」
「キミが言いたい事も分かるよ。でも、でも、――それでもやっ...
「サイトさん……」
「あいつは……俺から何もかも奪いやがったんだ……! 家族も、...
才人の手の中で、空になったカップが、みしりと音を立てた。
「キミだったら納得できるって言うのかっ!? 突然わけの分...
シエスタは何も言えなかった。まだ少女と呼ぶべき年齢の彼...
「……ダメですよ、サイトさん」
「……」
「もう、いい加減に無理はやめましょうよ。そんなのサイトさ...
「……無理なんかしてない」
「だったら、何でそんなつらそうな顔をしてるんです? まる...
「……」
「まるで、涙を必死にこらえてる子供みたいですよ?」
才人の拳が、ぎゅう、と音を立てる。
355 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
悔しいが、シエスタの言う通りだった。
いま、才人の心中は、ルイズに対する怒り以上に、言いよう...
無論、才人は、自分自身の怒りに、何ら後ろめたさは感じて...
そして、その“もう一人の自分”を援護する、シエスタの声。
「サイトさんには分かっているはずですよ。ミス・ヴァリエー...
確かに、そこまでは、才人も知っていた。
あくまでデルフリンガ−の記憶を介した情報ではあったが、ル...
しかしそれも、所詮は、第三者の記憶を通じて知った事実で...
……少なくとも、そのはずだった。この、才人自身でさえも説明...
「分かってませんっ!!」
ばんっ!!
シエスタが、渾身の力でテーブルを叩き、才人を黙らせる。
「あの人は、あの人は、――自殺しようとしたんですよっ!! ...
「自殺……? あのルイズが?」
これは、才人にとっても初耳な事実だった。
デルフリンガーの記憶を共有した才人ではあるが、そのころ...
「あの人は、あなたを愛してるんです! この世でただ一人、...
356 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
ルイズは目を覚ました。
頭が痛い。
暗い。
ランプの灯りはとっくに消えている。
自分が倒れてから、一体どれほどの時間が経過したのだろう?
随分長い間眠っていたような気もするし、あれから五分も経...
いや、それだけじゃない。
寒い。
ふかふかのベッドの中で、上等の羽毛布団に包まれて眠って...
――サイト。
急ぎ、周囲を振り返る。
誰もいない。
才人も。シエスタも。――誰もいない。
(隣にサイトが寝てないと、このベッドって、こんなに広いん...
記憶を失う以前の才人は、この豪奢な寝台で、よく彼女と眠...
また、彼が騎士団の副隊長に就任してからは、『御付きメイ...
当時のルイズとしては、かなりメイドの図々しさにムカつい...
彼の身体を枕代わりにするのは、彼女にとって心地よいもの...
しかし、本来ならば、解放感すら伴う広々とした感覚が、今...
『いつか必ず、お前に復讐する』
物理的にまで胸をえぐる一言が、頭の中を再び、駆け巡る。
「ゆめじゃ、なかったんだ……!」
涙がこぼれる。
止まらない。
次から次へと。
絶望。
アルビオンで才人とはぐれ、彼が死んだと思った時も、確か...
しかし、いま彼女の胸を貫く絶望感は、その悲しみをさらに...
――嫌われた。 ……私、サイトに嫌われちゃったんだ……!!
そう思った途端、心臓が止まるほどのギリギリとした『痛み...
彼女はこの日、久しぶりに思い出した。
悲嘆と絶望による苦痛は、物理的感覚を激しく伴う。
ルイズは、全世界が敵に回り、自分に牙を剥いたような孤独...
357 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
こんこん、こんこん。
控えめにだが、ドアをノックする音が聞こえる。
「ミス・ヴァリエール、お目覚めですか?」
シエスタの声だ。
正直、ルイズとしては、才人以外の誰にも会いたくなかった...
ルイズはランプに火を点すと、ロックを外した。
「入って……」
「よかった……。起きてられたんですね……?」
シエスタ曰く、ルイズは丸一昼夜、眠りつづけていたらしい。
「今度は、ミス・ヴァリエールまで、お目を覚まされなくなる...
――優しい娘だ。
ルイズは、元来、恋敵であったはずのこの少女の心配が、胸...
いつだってそうだった。
アルビオンで才人が行方をくらました時も、このシエスタだ...
今回の、才人の記憶喪失で、ルイズは実質的にその恋愛戦線...
ならば今のうちに、もっと彼に接近し、プラスの印象を与え...
「今のサイトさんは、私がお傍についていても、何のお助けも...
あれから、二人でどうしたのかと問われたシエスタはそう答...
「ミス・ヴァリエール、散歩しません?」
「え――、散歩ってこんな時間に?」
「ええ! こんな夜はうじうじ部屋に閉じこもってたって、一...
そう言いながらにこにこしているシエスタに、ルイズは逆ら...
正直言って、外に出る気分ではなかったが、彼女の笑顔を見...
358 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
煌煌と輝く月光は、いまが夜であることを忘れさせる。
「ねえ、シエスタ」
「はい、ミス・ヴァリエール」
「……いい月、よね」
「そうですね。ミス・ヴァリエール」
「ねえ、シエスタ」
「はい、ミス・ヴァリエール」
「あいつの世界じゃ、月は一つしかないらしいわ」
「……」
「チキュウという星の、ニホンという国の、トウキョウという...
「そこに住んでいたんですか? サイトさんは」
「ええ。……王も貴族も奴隷もいない世界。その世に生まれたも...
「……」
「それと逆に、例えどんなに貧しく卑しい生まれでも、等しく...
「……」
「肌の白い黒いも無く、出自の尊い卑しいも無く、男も女も無...
「……信じられませんけど、それが本当だとしたら――」
「本当だったら?」
「――素晴らしい世界です。まるで、おとぎ話の夢の世界みたい」
「……そうよね」
――サイトが私を憎むのも当然だ。
落ち着いて考えてみれば心底そう思う。自分は才人を、それ...
「いいえ。あなたの罪は、ただ憎まれてそれで済むという程度...
その瞬間、ルイズは自分を取り囲む無数の気配を感じていた。
359 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
「――なっ!?」
いつの間に……?
という言葉が口に出るヒマさえなかった。
すでに二人は、それぞれ武器を携えた12体のガーゴイルに...
「――ひぃっ!」
思わず息を飲むシエスタの喉下に、長弓を構えたガーゴイル...
「声を立てるんじゃないよ」
ルイズは、その声に聞き覚えがあった。
――確か、シェフィールド……とか……。
「お久しぶりですね、ミス・ヴァリエール。偉大なる“虚無の担...
「あんた、確か……」
「そう、私はミョズニトニルン。――おっと、抵抗しても無駄で...
「くっ……!」
「どうやって“面会”を申し込もうか思い悩んでいたけども、ま...
額にルーンを浮かべた端整な顔が、不気味に微笑む。
勝利を確信したどころではない。
ネズミをいたぶるネコの笑顔だ。
そして何より、ルイズ自身、自分が無力である現状を一番認...
杖を持たず、使い魔もつれず、足手まといのメイドを引き連...
ルイズは素早く決心する。
――シエスタを巻き込むわけにはいかない。
360 名前:見知らぬ星(その4)[sage] 投稿日:2007/04/19(...
ルイズは心を可能な限り落ち着かせ、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「こんな事頼むのは、あまりにムシが良すぎるかもしれないけ...
「ミス・ヴァリエールっ!?」
「黙って、シエスタっ!!」
ルイズは一睨みでメイドを黙らせると、
「断る理由はないはずよ? あなたが欲しいのは、私の身柄な...
「あなた自分の立場分かってるの? それとも、やっぱりバス...
シェフィールドの言葉を聞いた瞬間、ルイズは屈辱で頭が真...
「もし私が、『断る。構わないから二人とも引っ張って来なさ...
「舌を噛むわ……! だって、あんたたちが欲しいのは、私だけ...
苦しげにそう呟くルイズに、シェフィールドは、やれやれと...
「その後、メイドさんも殺されるのよ。それも、確実にあなた...
「……」
そこまで言って気が済んだのか、シェフィールドは表情を崩...
「まあいいわ。今日のところは、あなたの言う通りにしてあげ...
「じゃあ……!」
「ええ、あなたの馬鹿げた条件に乗ってあげる。だから、大人...
「ミス・ヴァリエールっ!!」
シエスタが叫ぶ。
「いいの。私は大丈夫だから」
ルイズが微笑む。
「シエスタ、サイトに伝えて」
「ミスっ!」
「――あなたに会えて、ルイズは本当に幸せでした、そして……」
「……そして?」
「ごめんなさい。……って」
シエスタは、膝から崩れ落ちた。
月光と涙に曇る彼女の視界の中に、ルイズの姿は小さくなり...
399 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/21(土) 20:07:18...
「ルイズ!!」
才人は跳ね起きた。
いま、闇の中で、ルイズが可愛らしい微笑みを浮かべ、何処...
その笑顔とは裏腹に、彼女の瞳はじっとりと涙に潤んでいた...
「……」
胸が痛い。
まるで、肋骨か心肺機能に物理的な疾患でもあるかのような...
この“痛み”は、先程までルイズが、彼に対して感じていたも...
記憶を失ったはずの才人ではあるが、それでも、記憶を失っ...
(この俺が、あのチビに後ろめたさを覚える筋合いがどこにあ...
彼は懸命に、そう思おうとした。可能な限り、必死に。
しかし、頭がそう命じても、彼の心は一向にその命令に従お...
むしろ、腕ずくで従わせようとすればするほど、バネ仕掛け...
そんな理性と無意識の葛藤に疲れ果て、ようやく、うとうと...
――アイツは、一体どこまで俺を苦しめれば気が済むんだ……。
ルイズからすれば心外もはなはだしい一言を、才人はその心...
しかし才人自身、さっきのルイズの夢に、違和感を覚えてい...
これまでの葛藤は、全ておのれ自身の心の内のものであった...
(まさか……!)
いや、間違いない――。
嫌な予感だけが、無限に広がってゆく。
「ルイズに、何かあったのか……!?」
400 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「サイトさんっ!!」
そう言いながら、漆黒のゼロ戦の格納庫に何者かが飛び込ん...
「シエスタ?」
「――サイトさんっ、よかった、まだ起きていらっしゃったんで...
「ちょっと待て、落ち着いてくれシエスタ。いま灯りを点ける...
そう言って、種火からランプに火を灯した才人が見たものは...
「ルイズが……さらわれた……!?」
「まだ、まだ今なら間に合いますっ! 早く追ってくださいっ...
「……」
才人は沈黙せざるを得なかった。
「サイトさんっ!! どうしたんですっ!? あなたはガンダ−...
「……」
「サイトさんっ!!」
「関係ねえよ」
「サイトさんっ!!」
「俺にはもう関係ねえって言ってるんだよっ!! あいつが死...
シエスタは声を失った。
「サイトさん、――嘘ですよね……。まさか本気じゃないですよね…...
才人としては、当然――本気ではない。
しかし、かといって100%の大嘘かと問われれば、それも微妙...
人間の心とは、そう簡単に割り切れるものではない。自分が...
そして、彼の混乱した心理はさらにヒステリックに、悲鳴の...
「関係ねえっ! もう俺はアイツと関わり合いたくねえんだっ...
よしんばブッ殺されたとしても、それはそれで自業自得じゃね...
401 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
そうだ。
その理屈の何が間違っている?
正しいのは俺だ。
俺のはずなんだ。
自分の中の何かを、無理やり奮い立たせて才人は叫んだ。
そんな彼を、信じられないように見つめるシエスタ。
「嘘です、嘘です、サイトさんがそんな事言うわけありません...
シエスタは言った。
「サイトさんは伝説のガンダ−ルヴで、平民からシュバリエに叙...
「やめろ!!!」
才人がベッド代わりにしていたソファから、毛布が落ちた。
「――俺は、平賀才人だ」
才人は言った。
「平成生まれで東京育ちの、どこにでもいる地球人だ。それ以...
そこまで言って才人は、何かに気圧されたようにシエスタの...
「俺は、ただの、平賀才人だ」
そう、呟いた。
ぱしーん。
格納庫に、才人をビンタする音が響いたのは、それからさら...
402 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「シエスタ――」
「分かりました」
才人の言葉を遮るように、シエスタが口を開く。
「つまり」
少女は泣いていた。
悲しみの涙でも絶望の涙でもない。それは純度100%の怒りの...
「サイトさんは、もういないんですね?」
「……」
「あなたはもう、私たちが知っているサイトさんではないので...
「……」
「分かりました」
シエスタがハンカチで涙を拭くと、
「夜分、突然押しかけてしまい、まことにご無礼仕りました。―...
きびすを返し、毅然と格納庫を去ってゆくシエスタを、才人...
403 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「いいのかい相棒?」
壁に立てかけてあったデルフリンガーが、かくかくと、その...
(相棒、か……)
こんな自分を、未だにパートナー扱いしてくれる奇妙な剣を...
「いいも悪いも、ないだろうがよ……」
「――怖いのかい」
デルフリンガーの、その一言がきっかけだった。
シエスタの前で懸命に堪えていた何かが、才人の中で決壊し...
「……」
手も、足も、肩も、腰も、膝も、口元も、全身の震えが止ま...
才人は思わず、ソファにへたりこんだ。
まるで末期のマラリア患者のようだ。
「そうか……、やっぱりな」
繰り返す事になるが、今ここにいる平賀才人に、ハルケギニ...
その代わり、脳中にあるのはデルフリンガーの視点からの記...
だから、そんな才人が、召喚されてからこっちの人間関係に...
ルイズやシエスタが、彼を巡って大騒ぎしていたと知ってい...
しかし、一つだけ骨身に沁みている事がある。
――メイジと、メイジたちの使う魔法の、その恐るべき威力であ...
404 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
すでに彼は、このハルケギニアで幾多の戦闘を経験し、シュ...
彼の戦績における、対メイジ戦の初陣とも言えるギーシュ戦...
結果的に才人は、ガンダ−ルヴの力で勝利を得るが、それでも...
フーシェやワルドと対戦した時も、特に対魔法戦闘に工夫を...
ガンダールヴの能力による加速(つまり呪文詠唱中に懐に飛...
その証拠に、ワルド戦における直接勝因は、才人自身も予想...
さらにヴェストリの広場でのタバサとの戦闘や、アーハンブ...
繰り返しいう。
彼に戦士としての記憶は無い。
しかし、戦士としての素養までが無くなったわけではない。...
そんな才人だからこそ、今となっては、骨身が凍るほどの寒...
これまでのメイジとの戦闘における勝利が、文字通り、薄皮...
――よくぞ命があったものだ、と。
戦闘の記憶が、“経験”という形で裏打ちされていない以上、...
ましてや、才人は現代人だ。元をただせば、戦後民主主義の...
日常に“死”を意識せぬ生活の記憶しか持たない今の才人にと...
シエスタほどに利発な少女をしても、才人の今の感情は、所...
才人自身、ルイズに対する特別な感情を持てない今、自分と...
406 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「まあ、お前の気持ちは分かるがね……」
カタカタと耳障りな音を伴い、剣が口を開く。
(分かるものかよ)
才人は、知った風な口を利くデルフリンガーに、思わずむっ...
「怒るなよ、相棒」
その口調は、意外に優しいものであった。
しかし、慰めの言葉は時として、侮辱以上に人の心を逆撫で...
「……こんな俺を、未だに相棒と呼んでくれるってのか?」
才人の口元が、自嘲の笑みで皮肉に歪む。
「さっきシエスタが言ってたろう? ここにいる俺は、もうお...
「――まだ、そんなくだらねえ事言ってやがるのか」
剣が、心底呆れたように言った。
「いい加減、素直になりな相棒。お前だって本当は分かってる...
才人は言葉を返せなかった。
――素直になる。
素直になって、何を認める?
ルイズへの愛、か?
分からない。
分からないが、確かに分かる事もある。それは、かつて自分...
「今のお前が、あの嬢ちゃんに複雑な心境を持つのは、ある意...
――でもな相棒、オンナノコがお前を名指しで助けを求めてるん...
「手前自身に、何のためらいも無いなら行かないのもいいさ。...
「何より、あのお嬢ちゃんは心底お前に惚れきってる。相棒が...
『帰る、帰る』とお前は言うが、お前の世界じゃ、あの嬢ちゃ...
407 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
――そうだ。
確かにこいつの言う通りだ。
才人は思った。
この世界は、……少なくともルイズは、俺を必要としている。
そして地球は、……少なくとも、俺が居ずとも地球は回る。
しかし、
しかし、
しかし、
しかし、それを認めろというのか?
「あああああああああああ!!!!!!」
才人は、額を床に叩きつけた。
何度も、何度も、何度も、何度も。
「この頭が! この頭が! この頭が! この頭がっ!!!」
皮膚が切れ、血が流れ出る。
しかし、彼は止まらない。頭蓋も砕け散れと言わんばかりに...
「っっっ!!」
ごつん。
石畳にひびの走った音がした。
才人の動きが止まった。
「相棒」
「……」
「気は済んだかい?」
答えないかわりに、才人は呆然と、鮮血に染まった顔を上げ...
「お前が自分を責める気持ちは分かる。でも、自分を傷つける...
「――なんでっ」
不意に才人が呟いた。
ぽたり、ぽたり――。
しかし、彼の膝を濡らしていたのは、額からの鮮血だけでは...
「何で俺の記憶は戻らないんだよぉ……」
才人の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
「こんな頭にならなきゃあ、記憶なんざ無くならなきゃあ、今...
408 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
「悪いが相棒、それは違う」
その一言に才人は振り返る。
「お前が異世界の住人であり、お嬢ちゃんに、相棒を無理やり...
その言葉を聞いて、才人は二の句が継げず、あんぐりと剣を...
そうなのだ。
確かにデルフの言う通りだ。
たとえ記憶を無くそうが無くすまいが、彼がこの世界の人間...
地球に帰るのか、永遠にハルケギニアに留まるのか、それを...
才人は今、あれだけ執拗に自分が好意の言葉をルイズに囁き...
言えば、それは鎖になる。
そうルイズは判断したのだ。
いずれ、才人自身が、こっちに残るか残らざるか、必ず決意...
その才人の決意に対し、自分の気持ちがその決意を縛り付け...
そう判断したからこそ、ルイズは頑なに、その一言を避けた...
――『好き』という一言を。
417 名前:見知らぬ星(その5)[sage] 投稿日:2007/04/21(...
ぷっ……。
才人は笑った。
さっきまでの絶望感が嘘のように、才人は笑った。
腹の底から込み上げてくる笑いが、汲めども汲めども、尽き...
石畳にのたうちまわり、胃がよじれるほど、彼は笑った。
そんな女を見殺しにする気だったのか?
ええ、平賀才人よ。
いい女じゃねえか。
俺には勿体ねえくらい、いい女じゃねえか。
後生大事に逃げ延びて、地球に帰って何をする?
インターネットで出会い系? クラスの女と合コンか?
ばっかじゃねえか、お前!?
ホント、ばっかじゃねえか、お前!!?
才人は立ち上がった。
ゼロ戦清掃用のボロ布を、包帯代わりに額に巻きつける。
その口元には、まだ、あるかなしかの笑みが残っている。
しかし、その眼光には、もはやさっきまでの迷いは無かった。
「相棒」
デルフリンガーは言った。
「気は晴れたかい?」
才人は答えた。
「ああ、晴れた」
才人が、その貴族年金で購入した愛馬と共に、学院の敷地内...
510 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/24(火) 02:06:25...
「サイトは来ないわ」
グラスを一気に飲み干すと、ルイズは言った。
「何故分かるの?」
シェフィールドは尋ねる。
「……」
シエスタを解放して後、彼女のルイズに対する態度は意外に...
もっとも、ルイズの顔色の悪さと表情の暗さを見れば、例え...
「何故来ないと思うの?」
シェフィールドは重ねて尋ねる。
ルイズは答えない。
ただ、無言で空になったグラスを再び差し出す。
答える意味も無かった。
ルイズにとっては、自分が才人に憎まれているという確信が...
そんなルイズに、やれやれ、という笑みを浮かべると、彼女...
「まあ、いいわ」
シェフィールドは髪をかきあげる。
「彼が来なけりゃ、それはそれで手間が省けると言うべきだし...
(手間?)
どういう事だろう?
ルイズの理性がその一言に引っ掛かりを覚える。
しかし、その引っ掛りも、論理的な思考に結びつくことなく...
無理もなかった。
彼女の心理状態は、今もなお混沌状態にある。
シェフィールドからシエスタを逃がした時点で、ルイズの精...
(……どうでもいいわ、もう)
ここは、トリステイン魔法学院から僅かにはなれた森林にあ...
当然、12体のガーゴイルが周辺を索敵しているとはいえ、も...
杖も祈祷書も持たない、無力な今のルイズをさらって、何故...
いや、それだけではない。
ルイズは、女王アンリエッタ直属の女官にして国軍の切り札“...
しかし、シェフィールドの思惑は違った。
ハナからルイズを誘拐するつもりなど、彼女には無かった。
だから、こんな学校の近場に陣取ったのだ。
511 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/24(火) 02:08:59...
「それにしても、確か、サイトくん――とかいったっけ?」
その名を聞いて、ルイズの体がビクンと反応する。
「主の危機に馳せ参じない使い魔なんて、この世に居る価値が...
そのからかうようなシェフィールドの言い草に、ルイズはむ...
例えフラレたてであったとしても、いまだ未練の残る想い人...
「サイトの悪口は言わないで」
拗ねたように、ぼそりと囁くルイズ。
そんなルイズを見て、シェフィールドは心中微笑すると、さ...
「そうはいかないわ。彼は仮にも、この私と同じ“虚無の使い魔...
「……」
「『しょせん人たる身には“使い魔”は向かぬ。凡百の禽獣や幻...
「やめてっ!!」
ルイズが地面に、グラスを叩きつけた。
「サイトは、あなたとは違うわ……! それに私も、私も、あん...
そう叫んだ瞬間、ルイズの脳裡に才人の横顔が浮かぶ。
『お前はひとさらいだ。ミス・ヴァリエール』
それは絶望の一言。
ルイズの心を一瞬にして凍結させ、さらに粉砕するだけの威...
『いつか必ず、お前に復讐する』
「〜〜〜〜〜っっっっっっっ!!!!!」
ルイズは吐いた。
さっきシェフィールドからもらったワインも、その前に摂っ...
それは、何気なく思い出すには、あまりに辛い記憶だった。
ルイズの全身が、全ての内臓器官が思い出すことを拒絶して...
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、……!」
反吐が逆流し、瞬間、真空状態になった呼吸器を回復させる...
(サイト、サイト、サイト、サイト、サイトぉ……!!)
そんなルイズを、シェフィールドは、満面の笑みを浮かべて...
「サイトはあなたとは違う、そう言ったわね?」
「……」
「どう違うって言うの、私と彼とじゃ?」
そう言いながら、彼女はルイズに再びワインを差し出す。
グラスはもう無い。ルイズ自身が叩き割ってしまったからだ。
512 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/24(火) 02:12:09...
「彼は男で私は女。私はメイジで彼は平民。あとはあなたに優...
「違うわ!」
ルイズは顔を上げた。
「ただ優しかっただけじゃない。サイトは……こんな私を愛して...
「私だって、主のことを愛しているわ。使い魔として以上に“女...
シェフィールドは、自分のグラスに残ったワインに口をつけ...
「主の、――あの方のためだったら、私は何でも出来るわ。どん...
「それが『死ね』っていう命令でも?」
「それが、あの方のためならね」
ピンクがかったブロンドの少女は、何ともいえない瞳で、シ...
「それはあなたの勝手よ! でも、でもやっぱり同じじゃない...
「だから訊いてるのよ。彼のどこがどう、特別なのか」
才人がどう特別なのか。
実を言うと、その問いに、もうルイズは答えられなくなりつ...
主のためなら死ぬ事さえ出来る、平然とそう言い切る彼女の...
――でも、やっぱり違う。
上手く言葉に変換できない。
でも、やっぱり、彼女は才人とは違う。それも根本的に。
ルイズの確信はもはや揺るがない。想い人であるが故の身び...
ルイズが、才人の特殊性を説明できないのは、ある意味無理...
平賀才人は現代人だ。
彼の生まれ育った社会には、聖職者・貴族(王族を含む)・...
階級差別が無い。――この事実が一体どれほどの事であるのか...
人口の大多数を占める平民たちは、自らに『魔法』という絶...
なぜなら平民たちにとって、メイジを敵に回す事は単純に『...
彼らにとって、メイジたちへの恐怖はそれほどまでに日常化...
即ち、お上は偉い、という思いに。
しかし、才人には関係ない。
平成日本の東京に育った才人には、貴族に対する畏怖も、メ...
忠誠心という概念すら、死語に等しい。
だから、彼にとってルイズは、御主人様というより、どこに...
513 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/24(火) 02:15:36...
ならばルイズはどうか。
これもある意味、特殊な例であると言わざるを得ない。
ルイズは、トリステインの大諸侯、ラ・ヴァリエール公爵家...
にもかかわらず、かつてルイズは魔法が使えなかった。
平民の中にも物乞いから大商人までいるように、貴族にもピ...
一般に貴族の爵位は、公・侯・伯・子・男の5段階に別れる。
無論、爵位も領地も持たない“騎士階級”というべき、年金貴...
しかし、ラ・ヴァリエール家は、そんな有象無象の貧乏貴族...
公爵家である。
官位の上では、王家に次ぐべき名門である。
その名門の生まれであるはずの自分が、魔法が使えない。――...
トリステインに進学し、本格的に修行をするようになっても...
当然であろう。貴族が貴族である証は、おのれがメイジであ...
辛かったであろう。
苦しかったはずだ。
学内でも有数の名門の出自である自分が、『ゼロのルイズ』...
また、学内には魔法が使えないもう一つの存在――平民――が、...
中世においては、同階級以外の者たちが交友関係を結ぶ事は...
また、ルイズには、貴族でありながらメイジではない自分を...
自らのプライドを、メイジとしてではなく、その出自に問う...
――つまり、ルイズは孤独であった。
彼女の前に才人という存在が、突如出現したのは、そんなと...
最初、ルイズは才人を疎んじた。
(単なる魔法のみならず、召喚の儀式ですら自分は満足にこな...
サモン・サーヴァントで人間――しかも何の特殊能力も無い、...
まさしく彼を殺したいほどに。
だから、ルイズにとって、才人が異世界の出身である事など...
しかし、彼女はやがて、気づく事になる。
繰り返す事になるが、この学院では、誰もがルイズを色眼鏡...
国内有数の名門の令嬢として。
にもかかわらず、魔法成功率0%の学院創設以来の劣等生と...
級友たちも、講師たちも、さらには時として、学院で働く平...
514 名前:見知らぬ星(その6)[sage] 投稿日:2007/04/24(...
なるほど、婚約者時代のワルドも彼女には優しかったが、や...
そういう意味では、彼女が最も慕うカトレアとて、劣等感を...
ルイズ自身、そんなカトレア観は、恐らく全力で否定するで...
しかし、才人は違った。それも根本的に。
魔法の無い世界から来たこの少年には、魔法を使えないこと...
『気にするな』どころではない。
『そんな事が、お前の価値を下げる事になるのか?』それが彼...
人間の価値は中身だ。
――現代教育においてそう叩き込まれている日本人にとって、魔...
だからこそ才人は、彼女を、どこにでもいる普通の(という...
まさしく彼女は才人に救われたのだ。
劣等感のカタマリのような彼女にとって、一言でいうと、ハ...
当然のごとく魔法を使う貴族たちも、魔法を使えない平民た...
しかし、才人はハルケギニアの人間ではない。
貴族もメイジも関係ない。
ただ一人の当たり前の人間として、対等に彼女と接したのは...
少年と少女は、例え幾多の冒険を共にせずとも、やがては魂...
この世界に於いて才人は特別だ。
ハルケギニアより遥かに進んだ世界より来た彼は、この封建...
神の敬うを知らず、王の尊ぶを知らず、貴族の畏るるを知ら...
厳密には、契約上の主であるルイズですら、彼の行動を完全...
そういう意味では、彼は、凡百の使い魔などとは全く異質な...
なぜなら、才人の中には、真なる意味での忠誠心などカケラ...
ただひたすらに主に盲愛を尽くすシェフィールドとは違う。
例え、主であるルイズが『死ね』と言っても、彼は盲目的に...
愛する男に死を命じる女はいない。
それと同時に、愛する女に命じられたからといって、死を選...
515 名前:見知らぬ星(その6)[sage] 投稿日:2007/04/24(...
しかし、今のルイズにそこまで自分の直感を言語化すること...
ただひたすらに俯いて、唇を噛むしかない。
そんなルイズを、シェフィールドは覗き込んだ。
「いいのよ、そんな無理して答えなくとも……。彼と、何かあっ...
ルイズの眉間に、反射的にシワがよる。
「そう、やっぱりね」
「何も言ってないでしょうっ!!」
「言葉にせずとも、人はその心を語れるものよ。私はそれを読...
――いやな女だ。
もうルイズは反論すらしない。
これ以上、この女に才人の名を口にされると思うだけで、気...
しかし、シェフィールドは、ルイズのそんな心など気にもし...
「あなたの不幸はね」
と、シェフィールドは言う。
「使い魔に、異世界からの男を召還した事よ。童話に出て来る...
「それは、それはあなただって同じでしょっ!! 使い魔の契...
「私は、主に一生を捧げる事に何の躊躇いも持ってはいないわ...
「……」
「あなたの使い魔は、確かにあなたを愛しているかも知れない...
ルイズは答えられない。何も言葉を返せない。
「そうね。……そういう意味では特別かもしれないわね。その身...
「だまれっ」
「あんたに……あんたなんかに……何が分かるのよ……。そんなサイ...
「そんなサイトだから? 私には分からないわ」
「当たり前よっ!! あんたなんかに私たちの事が分かってた...
シェフィールドは、グラスワインを飲み干した。
「“私たち”? 女をそんなに悲しませて、何が“私たち”なの?...
ルイズは悲鳴のように叫んだ。
「私は悲しんでなんかないわっ!! 勝手に話を進めないでっ...
「あなたが言わなくとも、私には分かるって言ってるでしょう...
「下らないって何よっ!! 少なくともサイトにとっては――」
「ほら、やっぱり、そうなんじゃないの。ケンカしたんでしょ...
「ぐっ……!!」
――頭が回らないにも、程がある。
こんなバカみたいな誘導尋問に引っ掛るなんて、普段の自分...
怒りで、またもや血が上りそうになった瞬間、ルイズに“ケン...
『俺は、お前を許せそうに無い』
ルイズの腰から力が抜け、へたり込む。
516 名前:見知らぬ星(その6)[sage] 投稿日:2007/04/24(...
「だって……しょうがないじゃない……」
「……」
「……ころしなさいよ」
ルイズの瞳から、再び力が消えた。
シェフィールドがやがて、ゆっくり口を開く。
「何があったの?」
「サイトが……サイトが……私を許さないって……復讐してやるって…...
「何故?」
「もう帰れないからって……お前はひとさらいだって……」
「……」
「ひどいよ……ひどいよサイト……なんでそんな事言うのよ……私が…...
「好きなのね?」
そう言われた瞬間、ルイズはようやくシェフィールドに向き...
「そうよ! 好きよ! 大好き!! もし帰れる方法を知って...
それだけ叫んでしまうと、ルイズの眼光から再び光が消え、...
「――はやく、わたしをころしてよ」
とだけ、つぶやいて。
「殺さないわ」
そう言ったシェフィールドの表情は笑っていた。
「安心なさい、ルイズ・ラ・ヴァリエール。今日のところはす...
じゃあ、あんたは何をしに来たの、とルイズはぼんやりと思...
「今日はあなたに、とってもいいことを教えてあげに来たの」
彼女は、ルイズの顎をつかんで、ぐいっと自分の方を向かせ...
「あの使い魔の坊やを、自分の世界に返してあげる方法よ」
693 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/29(日) 17:30:35...
一陣の風が才人の鼻孔をくすぐる。
草の匂い。
花の匂い。
土の匂い。
――来た。
甲冑を着込んだガーゴイルが、こちらに近付いてくる。
才人に気付いた様子は無い。
しかし、油断は出来ない。
(気負うな。落ち着け。息を乱すな。)
七歩、六歩、五歩、――。
(あと、2メートル……)
剣の柄に両手を添える。
二歩、一歩、――。
(今だ!)
全身の力を抜く。
枝から跳ぶのではない。あくまでも落下だ。脱力し、風に舞...
そして、自分の体重と、その自由落下のエネルギーをすべて...
(4つ!)
そのガーゴイルは、眼前の樹上から突如出現した才人に、な...
「いいぞ相棒。なかなか動けるようになってきたじゃねえか」
「ああ、記憶が飛んでも体が覚えてるってのは、ホントらしい...
「最後の一言はどういう意味だかよく分からんが、まあ、そう...
ああ、当然だろ。
才人はそう呟くと、前方の木陰に移動する。
夜空に輝く二つの月光が、逆に、身を隠すべき闇を教えてく...
足音を殺しながら、馬上でのデルフリンガ−との会話を思い出...
――いいか相棒。お前は確かに、一人で七万の軍を食い止めた過...
(当たり前だろ。俺だって、そこまで無謀じゃねえよ)
木陰に入り、地面に耳をつける。
足音なんて聞こえない。
しかし、伝わってくる。地面を通じて、ガーゴイルの動く気...
(こっちに近付いてくる……)
そのまま茂みに身を潜める。
微動だにしない。
――対集団戦の基本はな、1対1を相手の人数分繰り返すことだ...
(悠長なこと言いやがって)
馬上、その一言を聞いた才人は、怒りで目が眩みそうになっ...
いまの自分は、無敵を誇ったガンダールヴ・シュヴァリエ才...
実際、今この瞬間も囚われているであろうルイズを思うと、...
(落ち着け。クールになれ平賀才人。俺が死んだら、誰がルイ...
静かに、それでいて大きく深呼吸をする。
焦りは呼吸を乱す。
乱れた呼吸は、気配となり、敵に容易に居場所をつかませて...
694 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
月光の下を、しずしずと、次なる獲物が歩いてくる。
才人が潜む木陰には気付かず、そして才人も、そのガーゴイ...
――と、そいつが足を止める。そこには、さっき才人が叩き斬っ...
(今だ!)
才人は、木陰から飛び出しざま、そいつの右手――剣を持つ手―...
(5つ!)
ぶんっ!!
その途端、才人は、背後から殺気を伴う剣風を感じた。
彼は、反射的に振り返る。
ただ振り返ったわけではない。首無しガーゴイルを盾代わり...
とっさの判断であった。
新たに出現したガーゴイルの戦斧が、首を失った元同僚の骸...
(危なかった)
ガンダールヴとしての敏捷性が発揮されていなかったら、頭...
才人は、そのガーゴイルが、食い込んだ死体から戦斧を抜い...
「ばかっ、刺すなっ!!」
デルフが何か言ったようだが、才人は気にしない。
さっき串刺しにしたガーゴイルは、自分の眼前で、文字通り...
そのまま剣を引き抜いて――あれ、あれ、あれ、あれ、抜けな...
「だから刺すなって言ったんだ! 前にも一度言ったろうがっ...
「うるせえなっ、今やってんだろうがっ!!」
その瞬間だった。
彼の左肩に、焼け付くような痛みが走ったのは。
「くっ!?」
反射的に剣から手を離し、最寄りの繁みに飛び込む。
さっきまで彼の頭があった位置を、うなりを上げて走る何か...
あと一瞬、デルフから手を離すことを躊躇っていたら、確実...
繁みの中で、おそるおそる左肩を見る。
そこには、1メートルはあろう矢が、見事に突き刺さってい...
その時になってようやく才人は、木陰から姿を見せずに自分...
そして、その呼吸を忘れさせるほどの激痛にも。
「あああああああああ!!!!!!」
深夜の悲鳴は、残った7体のガーゴイルを呼び寄せるには、...
695 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
「待って! いま何か聞こえたっ!?」
「何かって?」
「だから――サイトの声っ」
「え、ホント!?」
シルフィードの背に乗ったタバサは、常ならぬ大声で、隣の...
「私にも聞こえました、ミス・タバサっ!!」
二人の背後からシエスタが答える。
「あっちです! あっちの方角、急いでくださいっ!!」
「サイトが危ない」
「……何よもう。あたし完全に蚊帳の外じゃない」
ごねるキュルケに一瞥もくれず、タバサはシエスタの指す方...
――あれから、才人に愛想をつかしたシエスタは、女子寮に飛び...
タバサは、ルイズが危ないと聞いただけで、無言で協力に同...
もっとも、メイドの剣幕はそれ以上だったので、思わずたじ...
「――いたっ!!」
シエスタが叫ぶと同時に、風韻竜がその巨大な口を開き、ブ...
(やべえ、死ぬぞ俺っ)
すでに、2本の矢が彼の身体を貫いていた。
左肩、みぞおち。
得物を手にしていない才人の左手は、すでにルーンの輝きを...
そして、さっき思わずあげてしまった悲鳴に、侵入者の位置...
その上――、
「っ!!」
下半身から、一気に力が抜けた。
見れば、右膝を3本目の矢が貫いている。これでは逃げ回る...
(もうだめだっ! ルイズ――許してくれっ!!)
その時だった。
とどめを刺さんと、彼に迫っていたガーゴイルが、その手に...
696 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
「なっ!!?」
昼間のように彼を照らす月光が遮られる。
見上げた才人が目にしたのは、ゲームに出てくるような巨大...
一瞬、敵の新手かと思った才人だったが、その三人の中にメ...
(えっ、何であのメイドがここに!?)
そうこうしている間にも、残り二人の少女が、矢継ぎ早に強...
「確か――キュルケと、タバサ、だったっけ……?」
結局、その場に居合わせた、残り7体のガーゴイルは、あっ...
(まるでガンダムの前のリック・ドムだな)
才人は、自分の命が助かったという事実よりも、このメイジ...
少女たちは、シルフィードを才人の傍らに着地させると、そ...
「サイトさん! サイトさん!! 大丈夫ですかっ!! しっ...
「ああ、助かったよ。あのままだったら、確実にやられてた……...
「だめ、サイト。しゃべっちゃ傷に響く」
青い髪の眼鏡っ娘が、興奮するシエスタを才人から引き離し...
「と、とにかくタバサ、早く矢を抜いちゃおう。このままだっ...
キュルケの言葉に、タバサはこくりとうなずいた。
「サイトの背中に回って鏃(やじり)を切り落として。――あな...
タバサはシエスタに顔を向けると、
「矢を抜く時に、サイトの身体を抑えてて」
「はい!」
タバサのテキパキとした指示に、やや呆然としていたキュル...
褐色の肌の巨乳の少女が、ナイフを抜くと、才人の背後に回...
「ぐあああああああ!!!」
「頑張ってください、サイトさんっ!!」
肩と膝を貫いた矢を、シエスタとタバサが才人の身体を抑え...
――1本目、左肩。
――2本目、右膝。
その都度、傷口から鮮血が迸る。
「よし、じゃあ行くわよ三本目!」
どてっ腹に突き刺さった最後の矢に、キュルケが手をかけた...
「やめろっ! 触るなっ、抜くなっ!!」
たまらず才人は叫んでいた。
697 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
「なっ、何でよ……?」
思わず彼の勢いに呑まれたのか、巨乳の少女はたじろいだ。
「やばいところを助けてもらってすまねえが、これだけ先に確...
「なっ、なによ?」
「この中に、水系の治癒呪文を使いこなせるメイジはいるか?」
「って、何いってんのよ!? あたしはキュルケでこの子はタ...
「確か、あんたが“火”で、彼女が“風”だったか?」
「そうよ。分かってんじゃない」
「つまり、この場で治療は出来ねえってことだな」
「……!」
キュルケが返す言葉を失う。
「じゃあ、こいつはこのままでいい」
「ちょっと、サイト、本気で言ってるのっ!?」
才人は激昂するキュルケに、冷静な声音で言い渡す。
「この矢は皮下脂肪や腹筋を突き破って、内臓までいっちまっ...
おそらく少女たちには、いま彼が何を言ったのかも分からな...
水系魔法による治癒呪文を、唯一の医療手段としているハル...
だから、才人はもう、敢えて詳しい説明はしなかった。した...
才人は、無言で立ち上がると、スマンがデルフを持ってきて...
「は、はい」
シエスタは、根が聡明なので、それだけで充分通じたらしい...
「待って」
よろよろと歩き出そうとする才人をタバサが捕まえ、肩と膝...
「……ありがとう」
「分かるの?」
才人が『?』という表情をすると、彼の右膝にしゃがんでい...
「ルイズの居場所」
(ああ、そういう事か)
才人は力強くうなずく。
「……使い魔だからな。一応は」
698 名前:見知らぬ星(その7)[sage] 投稿日:2007/04/29(...
この言葉は嘘ではない。
シエスタからルイズの消えた方角すら聞いていない才人が、...
しかし、だからといって当てずっぽうではない。
才人自身、何の根拠も無いが、今から自分が向かう方角にル...
(絆、だとでも言うのかよ。……ばかばかしい)
この非科学的な世界と、それを納得してしまっている自分に...
「サイトさん!!」
シエスタが才人にデルフリンガ−を渡す。
とても切なそうな顔をして。
「さっきは、その……すいませんでした。私……その……ひどい事を...
才人は、そんなシエスタを優しい眼差しで見つめると、その...
――気にしてないよ。
その笑顔を見て、さらにシエスタの表情が、くしゃっと歪む。
「サイト……あなた、記憶が戻ったの? 確かメイドの話じゃ、...
血の気が失せた才人に、キュルケが恐る恐る訊いて来る。
彼は、かろうじて彼女の方を向くと、口を開いた。
「なんとなく……気が変わったのさ」
「――来たわ。あなたの王子様が」
シェフィールドの声に、ルイズの体がびくんと跳ねた。
「では、さっきの段取り通りに……ね? 彼をお家に帰してあげ...
少女は、とても小さくだが、しかしその言葉に、確かにうな...
709 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 01:36:30...
「あそこね」
キュルケが、森が切れた崖に見える、小さな洞窟を見て言う。
(なぜ、あんな逃げ道の無い場所に隠れているのだろう?)
キュルケは純粋にそう思う。つまり、ただ隠れているだけな...
そして、それはタバサも同じだった。
と言うより、タバサはキュルケと同じく罠の匂いは嗅いだが...
(ミョズニトニルンはもう、あそこにはいない?)
と思った。
ガリア出身の彼女は、少なくとも才人やキュルケよりは彼女...
どちらにしろ、才人はこんなところでグズグズしてる気は無...
罠があろうがなかろうが、モタモタしていたら、いずれ出血...
「いくぜ」
才人は繁みから出ると、ずんずん横穴の中に入って行く。
「待ってサイト、もう少し様子を――」
キュルケが何か言ったようだが、彼の歩みは止まらない。
洞穴の奥からは松明だろうか、うっすらと灯りが洩れている。
奇妙な事に、あれほど濃厚だった罠の気配の割りには、待ち...
奥の広間に出る。
そこには、やはりというか、シェフィールドの姿は、もう無...
その代わり、少年が捜し求めた可憐な少女が、まるで、しお...
「ルイズっ!!」
才人が叫ぶが、彼女の反応は無い。
「ルイズっ!! しっかりしろっ!!」
思わず少女のもとに駆け寄った才人は、不意におのれの腹部...
「……え?」
体を起こしたルイズの手に握られた短剣が、彼の下腹部に食...
「……え?」
710 名前:痴女109号[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 01:39:42...
その場にいた全員が、まるで悪夢でも見たように、呼吸一つ...
その刃は、根元まで才人に吸い込まれていたわけではない。
彼のどてっ腹に、あらかじめ刺さっていた矢が、体ごと才人...
しかし、才人の精神が、その瞬間凍りついていたのは間違い...
――何で、こいつが、俺を……?
心当たりは無数にある。
第一、才人は彼女に復讐を宣告した。
ならば、ルイズとしては、身を守るために先制攻撃を……?
「きゃあああああああああああ!!!!!」
洞窟内に、シエスタの悲鳴が轟いた。
その瞬間、才人の心が理性を取り戻した。
「相棒!!」
デルフが叫ぶ。
ルイズが、才人を刺した短剣を捻り、えぐりながら刃を引き...
才人は、渾身の力を振り絞って、後ろに跳びずさり、転がる。
そんな彼に、ピンクのブロンドの少女が、再び襲い掛かる。
「何で逃げるのっ!? 逃げちゃだめっ! 逃げちゃだめなん...
凶刃を振りかざしながらルイズが迫る。
肩を切り裂かれ、タバサが巻いてくれた包帯が、はらりとほ...
「こんっっのぉ!」
もはや彼の視界は暗い。
勘で差し出した手が、ルイズの手首を捉える。
そのまま最後の力を振り絞って、才人はルイズを引き倒す。
「やめろっ! ルイズっ!!」
「何で……何で邪魔するのぉ……? あんた帰りたいんでしょう?...
ルイズの顔は、もう涙でぐしゃぐしゃだった。
才人は、重い口を開いた。
「どういう、つもり? ルイズは……」
「――さいとぉ」
「ルイズは、俺を、――殺したいの?」
「そんなわけ無いでしょっっ!!」
711 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
「殺したいんじゃないの……帰してあげたいだけなの……この短剣...
(何じゃ、そりゃあ……?)
「私とサイトの間の契約を解除するためには、サイトは死なな...
才人にとっては、ルイズが何を言いたいのかサッパリ分から...
しかし、ナイフで彼をえぐり殺すという行為が、彼女にとっ...
(逆手に取られやがったのか……)
人間を洗脳する時、その者の拠り所とする最も強い感情を逆...
例えば、愛国心。
例えば、信仰心。
例えば、権力欲。
――洗脳の基本的なテクニックだ。
無論、それだけでは人間の価値観は一回転しない。おそらく...
そう思った才人の視界の隅に、転がっているワインのビンが...
(この……バカたれが……!!)
その瞬間、ルイズのからだがさらに跳ねた。
矢と短剣に、腹を割られて力の入らない才人には、もう彼女...
「サイトっ!!」
普段からは考えられない敏捷性を発揮して、ルイズの小柄な...
「シエ……スタ……?」
712 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
ルイズが構えた白刃は、漆黒のメイド服に吸い込まれ、その...
「何で……あなたまで、邪魔するの……!?」
「だめですよ、ミス・ヴァリエール」
涙でぐしゃぐしゃになったルイズの頭を、シエスタは優しく...
「そんな帰り方じゃあ、サイトさんは喜びませんよ。私たちが...
「……シエスタ」
シエスタは、自分の胸を刺した少女の震える肩を、優しく抱...
「ほら、涙を拭いて下さい、ミス・ヴァリエール。あなたはや...
シエスタは崩れ落ちた。
その聖母の微笑みを浮かべたまま。静かに、ゆっくりと。
その場にいた者たちの目には、その倒れ方すら、とても美し...
――彼女の胸から、にょっきり生え出た、柄まで赤く染まった、...
「いやぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!」
絶叫するルイズの瞳に正気の光が宿り、次の瞬間、また消え...
ルイズは意識を失った。
――――――――――――――――――――――――――――
しょり、しょり、しょり、しょり、……。
果物ナイフがりんごの皮を剥く音が、部屋に響く。
彼女は目が覚めてしばらく、天井を見つめたまま、才人が紡...
「――ん、何だ、起きてたのかルイズ?」
「……うん」
「リンゴ、食うか?」
「いらない」
「そうか。じゃあ、俺がもらう」
がぶり、――ぐっちゃぐっちゃ……。
健康そうな咀嚼音が、ルイズの耳にも届いてくる。
「ねえ?」
何だ? という表情で才人が、ベッドの彼女に振り返る。
「シエスタは死んだの?」
才人の眉間に一瞬、太い縦ジワが刻まれる。
しかし、彼の声音は震えを帯びなかった。
「――ああ、死んだよ」
「そう」
そう答えたルイズの声音も。
713 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
しかし、震えなかったのはあくまで、声だけだった。
彼女の瞳にみるみる盛り上がった大粒の涙は、その顔を雨季...
しかし、それでもなお、ルイズは身じろぎ一つしない。
視線はあくまで天井に向けられたまま、懸命に何かを堪える...
「ルイズ」
才人は言う。
「これは、俺のせいだ」
俺がお前を追い詰めた結果、シエスタは死んだ。
確かにシエスタを刺したのはお前だが、お前にシエスタを刺...
――才人はそう言い放った。
ルイズは何も答えない。
無理もない、彼もそう思う。
そんな言葉など、いまの彼女にとって何の意味も持たない事...
しかし、彼はまだ、その身のうちにある、全ての言葉を吐き...
「俺は決めたよ」
「……」
「もう、帰るのはやめだ」
「……」
「虚無の使い魔ガンダールヴとして、王国の騎士シュヴァリエ...
「――同情してるの?」
恐ろしく冷たい声をルイズが返す。
天井を見つめるその眼差しには、怒りすら込められていた。
「ふざけるんじゃないわよ……!!」
少女はむくりと体を起こしながら、その激情に満ちた目を、...
「あんたを帰してやりたい、その一心で私はあの短剣を振り回...
「……」
「理由はどうあれ、シエスタを殺したのは私なのよ。それを、...
ルイズは、ここまで怒鳴り散らされても、眉一筋動かさない...
「そうよ、あんたのせいよ! あんたがいなけりゃ、あの子も...
そこまでだった。
ルイズの精根は、そこで尽きた。
「あんたが……、あんたが……、うっうううう……!!!」
ルイズは肩を震わせ、全身を振り絞って泣き始めた。この気...
才人は、そんなルイズの肩を抱きしめ、
「――すまん」
そう一言、囁いた。
「もう、どこにも行かねえ。金輪際お前の傍を離れねえ。二度...
「……ぅぅぅ……さいとの……さいとの、ばかぁっ!! ゆるさない...
「ごめんよ、ごめんよ、ごめんよぉ……!!」
「さいとぉ、さいとぉ、さいとぉ……」
泣き叫ぶルイズの両手が、いつしか才人の背に回されるまで...
714 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
エピローグ
豪奢な―― 一見してルイズのものとはさらに比較にならない...
その分厚い胸板にしがみついた女が、ようやく息を整え、口...
「ジョゼフ様」
「なんだい?」
「今回の任務につき、一つだけお伺いしたき事があったのです...
「いいとも。何でも訊きたまえ」
うやうやしく男を見つめる女の瞳に、知的な光が宿る。
「ガンダールヴを、虚無の担い手ルイズ自らの手にかけさせる...
「うむ」
「そんなルイズにガンダールヴを殺させれば、自分の行為に対...
そのジョゼフ様の意見には、私も全く正論だと思われます。...
それを見下ろす男の表情には、変わらず楽しそうな笑みが張...
「で?」
「では何故あの時、事の次第を見届けずに、わたくしに撤退を...
男の笑顔と対照的に、彼女の目は、心底悔しそうであった。
「知りたいかね?」
「はい。是非に」
「不確定要素だ」
「は?」
「あのガンダールヴは、主を救出に向かう前に、すでにここ数...
確かに、薬物を含ませたワインを飲みながら、泣きながらル...
「記憶を失った異世界出身の男が、どう自分を納得させたか知...
命を捨ててかかる男は強いぞ。特に、女に命を賭ける男はな。
彼は楽しげにそう呟く。
しかし、彼女はまだ不満だった。
絶対的な技量の差は、決して精神論で埋まるものではないか...
715 名前:見知らぬ星(完結篇)[sage] 投稿日:2007/04/30(...
「それともう一つ。どちらかと言えば、こっちの方が問題だっ...
男は続ける。
「北花壇騎士七号――。シャルロットの奴が別行動で、やはりお...
その瞬間、彼女の目に――僅かながら――動揺が走っていた。
当然、男はそれを見逃してはいない。
「いかにお前がミョズニトニルンでも、ガンダールヴと風韻竜...
「……」
「ましてや、そのメイジがシャルロットと、そいつと互角に戦...
確かにそうかも知れない。
そう思わざるを得なかった。
もともと、彼女としては、さらったルイズに洗脳をかまして...
「しかし、宜しかったのですかジョゼフ様?」
「何が?」
「ルイズ・ラ・ヴァリエールの中に芽生えた我々への敵意は、...
「構わぬ」
あっさりと言い切る男の表情は、寝台の天蓋の陰になり、彼...
「懐柔が叶わぬならば、始末するしかあるまい。どちらにしろ...
「はい」
「無能とそしられるも人生。敵意と憎悪にさらされるも、また...
人間、敵は多いほど人生面白いしな、そう男は不敵につぶや...
「そして何より――」
彼女が気付いた瞬間には、男はすでに、彼女の肩にその大き...
「わたしはお前を、そんな危険な目にあわせる気にはなれない...
その一言で、彼女――シェフィールドの心は何もかも晴れた。...
ここにいるのは、ただ一人、堅い契約の絆で結ばれた、彼女...
「ああ、勿体のうございます、ジョゼフ様!」
「ふふふ、そんな事を申す口があるならば、早くわたしに口付...
「はい! はい! 私の――ジョゼフ様!!」
薄暗がりの中、二人の男女は飽きる事無く、いつまでもその...
(了)
ページ名: