ゼロの使い魔保管庫
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405 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:07:1...
タバサたち母娘を救出した後、才人たちは陸路でゲルマニア...
数日かけて荷馬車でゴトゴト。窮屈な旅である。モンモラン...
それでも旅は順調だった。二日目の午後にはゲルマニア入り...
ここまでくれば、もう追っ手の心配はほとんどない。
部屋はベッドが二つある大部屋と、普通の小部屋の二つを借...
小部屋にタバサの母と、タバサ。シルフィードももちろん一...
大部屋にはその他全員。とはいっても、キュルケはほとんど...
「なあ、ルイズ。どうしたんだ」
夕食を済ませ、部屋で一息つくと、才人はベッドに腰掛けて...
もう一つのベッドでは、ギーシュとマリコヌルが早くも寝息...
キュルケはいない。さきほど唐突に「ごめん、忘れものがあ...
「ううん、なんでも」
ルイズはそっけない素振りで首を振る。
「なんでもないってことないだろ。さっきからため息ばっかだ...
はあ、とルイズは大きくため息をついた。
406 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:08:1...
今、彼女の抱えているものは些細な問題である。まあ、彼女...
ルイズはジト目で才人を見る。
この使い魔は、普段相談したいことがあっても気付かずにメ...
それでも、単純に気にしてくれたことが嬉しくもあったので...
「あのね、わたし達これからキュルケの家に向かうわけよね?」
「ああ」
「わたし、キュルケのご家族になんて名乗ればいいと思う?」
「は?」
問われて才人は面食らった。そんなの普通に名乗ればいいじ...
と、そこで気付く。ルイズの家とキュルケの家は、不倶戴天...
「もしかして、キュルケの家の世話になるのが嫌なのか?」
「そんなわけないでしょ」
ルイズは目を細めて才人を睨んだ。
「もう先祖の確執とか、わたしはどうでもいいのよ。キュルケ...
才人は頷く。
「だから本来、名乗りたくても名乗れないの。でも、キュルケ...
言いながらだんだん声が小さくなっていく。どうやらルイズ...
仕方ないので、才人は正直に答える。
「悪い。複雑すぎて俺にはよくわからん」
はあ、とルイズは再び大きくため息をついた。
目が、この役立たず、と言っている。
言われても困る。才人は未だに、そうした貴族の意地とかプ...
やがて、ルイズは諦めたようにもぞもぞとシーツをかぶり、
「……寝るわ」
と言った。
407 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:09:3...
昼間に馬車で仮眠を取ったせいか、才人は目がさえてしまっ...
隣室を覗くと、モンモランシーが椅子に座ったまま舟を漕い...
タバサはいない。どこかへ出掛けたのだろうか。
「モンモン。椅子なんかで寝てたら体壊すぞ」
声を掛けると、モンモランシーは虚ろな目で「ふわ」と声を...
「ああ……、つい寝ちゃったわ。だめね、昼間寝とくべきだった...
「薬の追加作ってたんだろ、馬車の中で。しょうがないさ」
眠り薬は調合が簡単とはいえ、揺れる馬車の中ではそうもい...
「部屋に戻って寝ろ。歩けるか」
モンモランシーは片手を挙げて返事しながら、ふらふらと立...
「ルイズの方のベッドで寝とけな。ギーシュが寝てる方はぽっ...
「ふあーい」
貴族らしからぬ返事に、すっかりモンモンも砕けたなぁ、と...
「あ、タバサどこ行ったか知ってる?」
「ん……、ああ、さあ。散歩じゃない?」
そう言いながら、モンモランシーはふらふらと大部屋に入っ...
しょうがないなぁ、と才人は一度部屋に戻ってデルフを背負...
ゲルマニア入りしたとはいえ、追っ手の可能性が消えたわけ...
アーハンブラの城に、タバサの杖はなかった。隠されたのか...
杖のないタバサは、ただの少女と変わりなかった。
階段を降り、一階の酒場を抜けて玄関を出る。
外はすっかり日が暮れて、人通りもほとんどなくなっていた。
左右を見渡すと、左手を流れる川の橋の上に、見慣れた目立...
才人は安堵の息をつくと、そちらへと向かう。
タバサは橋の欄干にもたれ、空を眺めていた。とっくに才人...
月明かりに照らされたタバサの幼い顔は、神秘的な美しさを...
408 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:11:5...
季節は春とはいえ、夜風が吹くとまだ肌寒い。橋の上は風の...
「寒くないか?」
近付きながら声を掛けると、タバサは首を小さく横に振って...
タバサはルイズと同じような、質素なワンピースに身を包ん...
余ったお金でシルフィードの服装も整えたら、それでキュル...
いつもの白タイツも白ニーソもはいてないので、スカートか...
月は二つとも満月だった。そのせいか、夜なのに随分と明る...
才人はタバサに並んで欄干に寄りかかり、同じように空を仰...
「……はあ。相変わらずすごい月だよなぁ。参っちゃうよなぁ」
思わず呟く。
ハルケギニアに召喚されてほぼ一年。何度も見ているとはい...
ふと見ると、タバサが不思議そうに才人を見つめている。
才人は言い訳でもするかのように言葉を継いだ。
「俺の世界には、月は一つしかないからな。こんなにでっかく...
言ってしまってから、才人は気付いた。
「あ、俺、別の世界から来たんだ。言ってなかったっけ」
タバサはこくりと頷き、そのあと首を横に振って、
「竜の羽衣の時に、そんな気はした」
と言った。
「そっか」
才人はなんだか意外な気がした。才人が異世界から来たこと...
どこまで理解してるかは不明だが、シエスタだって知ってる...
そういえば俺、ギーシュたちに言ってたっけ、と才人は考え...
というか、東方のロバなんとかの出身ってことになってたん...
409 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:12:5...
「まあいいや。俺はこことは違う、別の世界で生まれたんだ。...
「貴族もいない?」
不思議そうなタバサの問いに、才人は頷く。
「大昔はいたし、今もいる国もあるのかも知んないけど、俺の...
「誰が国を治めてるの?」
タバサが素朴な疑問を口にした。貴族がいないということは...
「えーと、総理大臣」
「ソーリ大臣?」
重ねて訊かれて才人は困った。民主主義の詳しい仕組みなん...
「うーん、選挙するんだ。政治家になりたい人が何人か立候補...
言ってて自分でも自信がなくなってくる才人であった。
「ごめん、俺もよくわかってない。二十歳になるまで選挙権な...
頬をかいてそう言うと、タバサは「そう」と言って視線を戻...
タバサはもう空を見ていない。なにか考え込むかのように、...
心地よい沈黙が流れた。風が二人の髪を絶え間なく梳いてゆ...
川面を魚が跳ねた。鱗が月光を弾いて、きらきらと光った。...
ここしばらくなにかと忙しかったので、こうした安寧な時間...
なんでだろう、と才人は考える。ルイズと一緒だと、嬉しく...
タバサの場合、このドキドキがない。干渉してこないからだ...
不思議な子だな、と才人は思った。
「……サイト」
と、唐突にタバサが才人を呼んだ。名前で呼ばれるのは初め...
タバサは顔を上げ、まっすぐに才人を見つめている。
「わたしはあなたに二度、救われた」
「へ?」
「一度目は命を。二度目は心を。だからわたしの命と心はあな...
410 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:13:3...
「え?」
才人は目をぱちくりさせた。突然すぎて、意味がよくわから...
なんか、さらっととんでもないことを言われた気がする。
やがて、水が滲みこむようにその言葉の意味を正しく理解し...
「ちょ、まま待てって、なにトンデモないこと言ってんだお前...
いつか見た夢を思い出す。あれは悪夢だったが、これは夢じ...
才人はぐるぐると目を回した。
「それに、そんなこと言ったら俺だってお前に何度も助けられ...
タバサはゆっくりと首を振る。
「わたしはただそこにいて、できることのために杖を振ってた...
「いや、でも、だって、俺こう見えても一応伝説だし。できな...
「だからこそ」
そう言って、タバサは才人に向き直った。直立したまま、右...
ガリア王家の正式な敬礼の作法なのであるが、もちろん才人...
「雪風のタバサ。世をはばかる名を、元ガリア北花壇騎士七号...
くらくらした。ワインをがぶ飲みした時みたいに、頭が揺れ...
タバサはじっと黙って、才人の言葉を待っているようだった。
外見こそ幼いけれど、タバサの年はルイズと一つしか違わな...
改めて気付くまでもなく、タバサは綺麗だ。白磁のような肌...
夢で見たよりも、タバサは綺麗だった。
ティーカップのような、白くて丸い頬。
形の良い貝殻のような、桜色の清楚な唇。
眼鏡の奥の、深碧の湖のような神秘的な瞳。
混乱する頭のまま、どこか冷静な思考で才人はそっと手を伸...
411 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:14:3...
しかし、タバサはその瞳を閉じてしまった。別に意地悪をし...
どこで習ったのか、誰に聞いたのか、はたまた本で読んだの...
どきん! と才人の心臓が跳ね上がる。
これは……もしかして?
いいのかな? しちゃっていいのかな?
いいもなにも、ほかに考えられる可能性はなかった。蛾が蝋...
顔を寄せると、甘い匂いがした。才人はたまらず、そのまま...
いつの間にか、こういう流れに慣れてしまった才人である。
タバサの唇はやわらかく、しっとり冷たかった。
唇を離すと、思ったよりも長いタバサの睫毛が震えてるのが...
ああ、緊張してたんだな、と思うほど、いつの間にか才人に...
「キス、初めて?」
「……初めて」
タバサは目を開きながら、かすれた声で短く答える。
才人は彼女の頬にかかった青い髪を梳きながら、ふと思った...
「でも、シルフィードとは?」
使い魔として召喚した時に、コントラクト・サーヴァントの...
しかしタバサはついと目を逸らし、やや頬を染めながら、
「あれはノーカン」
と呟くように言った。
無愛想な子供だと思っていたタバサの、そんな女の子らしい...
洒落ではない。直撃である。思ってもみなかった攻撃だけに...
余裕は吹き飛んだ。本能的な愛しさが込みあげてくる。才人...
羽のように軽いタバサが、才人の腕の中に納まる。
ずっと強張っていた肩から力が抜け、タバサは体重を才人に...
あったかくて、やわらかい。
じっと見つめる瞳が月の光を反射して、心なしか潤んで見え...
やばい。なんかずるい。こんな不意打ちひどい。
こんなに可愛いなんて反則だ。よくわからないけど反則だ。
ピピー。レッドカード、退場。俺の胸の中へ退場。次の試合...
意味不明のことを考えながら、才人は憑かれたようにタバサ...
412 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:15:3...
一瞬だけタバサの体が強張るが、すぐに力は抜ける。才人に...
二人の息が重なる。
その、瞬間。
ぞくり! と才人の背筋に悪寒が走った。同時にタバサが神...
数々の修羅場をくぐった二人である。殺気に対しては敏感だ...
はっと振り返るいとまもなく、上空からきゅいきゅいと声が...
「え、シルフィード?」
気付くとその足に、いつの間にかしっかりタバサを捕まえて...
そのまま川の上を滑空して遠ざかり、ばさりと羽ばたいて急...
呆然としたのは一瞬。パンツ見えた、と思ったのも一瞬。才...
今なお殺気というか怒気というか、肌を焼くような感覚は続...
恐る恐る、才人はその源泉と思しき宿の方向を向く。首が意...
はたしてそこには、寝ていたはずの桃色の髪が夜風に舞って...
「ル、ルル、ルルル……」
鳥を呼んでいるわけではない。動転して言葉にならないのだ。
月下に佇むルイズは美しかった。
風になびく草色のワンピース。どこか遠くを見るような目で...
右手にはすでに杖を抜いている。唇が震えて見えるのは、な...
「そうなんだそうなのねやっぱり犬は犬なのねわたしのこと好...
ぶつぶつと呪詛の言葉を吐きながら、ルイズは一歩、また一...
413 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:16:3...
小悪魔? 冗談じゃない、あれは悪魔だ。正真正銘。
だって、なんか髪が生き物みたいにうねってるし。
怖い。七万の軍勢より、エルフより怖い。多分エルフが七万...
恐怖の余り、声も出ない。抜けそうになる腰に鞭打って、才...
振り向くと、そこに鬼がいた。
いつの間に起き出してきたのか、どうやって回り込んだのか...
「マ、ママママリマリマルマレ……」
「黙れ。息すんな」
言下にマリコルヌは言い放つ。取り付く島もない。
「不公平だろ不公平だよね誰だってそう思うよね教えてよ誰か...
本当に才人は息ができなくなった。
前を向けば、魔王。
周りの景色が歪むほどの瘴気を纏い、夜の空気を震わせなが...
「体に覚えさせても無駄なら魂に刻むしかないわよねどうすれ...
後ろには、修羅。
ゆらり……、と暗殺者のような見事な動きで、マリコルヌは音...
「おかしいよね絶対おかしいよねなんでサイトばっかりなのさ...
前門のルイズ。後門のマリコルヌ。
才人はひいっ、と叫ぶと背中のデルフリンガーに手をかけた...
「あー相棒。なんつーかな、ぶっちゃけ無理。俺のことはかま...
「つ、つつつ冷たいこと言うなー!」
才人は声を裏返して叫ぶ。それが合図であったかのように、
「わたしより胸ちっちゃいのにーッ!」
「ぼくにもご褒美くれよおおおーッ!」
渾身のエクスプロージョンとエア・ハンマーが才人を吹き飛...
閃光と轟音。橋は粉々に砕けて塵と化し、才人は枯葉のよう...
遠ざかる意識の中、才人はふと、“後門のマリコルヌ”って厭...
414 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:17:4...
さて、上空を舞うシルフィードの背中。
眼下の惨劇を綺麗さっぱり素敵に無視して、キュルケは拾い...
「ただいまー。あれタバサ、眼鏡どうしたの?」
タバサは黙って下を指差す。
「あちゃ、壊れてなきゃいいけど。まあいいわ、はいタバサ。...
キュルケが差し出したものは、まさしく失くしたはずのタバ...
タバサは目を丸くしてそれを受け取る。
「瓦礫の中に埋まってたのをシルフィードが見つけてくれたの...
「シャルロットさま……」
キュルケの後ろからひょこりと老人が顔を出す。執事のペル...
「忘れものの本命。あの屋敷に一人でいたってしょうがないし...
得意そうに赤い髪をかきあげて微笑むキュルケ。
感動の再会のはずだったが、ペルスランは眉を寄せ、じっと...
「今のは……、この年寄りめの見間違いでしょうか、お嬢さま?」
「……」
タバサは目を合わせずに黙り込む。
「いけません、いけませんぞお嬢さま。あのような街娘のごと...
滔々と訓戒を垂れるペルスランに、タバサはちらりとキュル...
「いえいえお嬢さまをお助けいただいた恩人であることは重々...
重ねて問われ、タバサは意を決したように視線を向け、はに...
その、かつて見せなかった彼女の表情に、ペルスランは言葉...
タバサは短く、少し恥ずかしそうな声で言った。
「わたしの勇者」
ペルスランは目をまん丸にして絶句した。キュルケは爆笑し...
シルフィードが嬉しそうに、きゅいきゅいっと鳴いた。
終了行:
405 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:07:1...
タバサたち母娘を救出した後、才人たちは陸路でゲルマニア...
数日かけて荷馬車でゴトゴト。窮屈な旅である。モンモラン...
それでも旅は順調だった。二日目の午後にはゲルマニア入り...
ここまでくれば、もう追っ手の心配はほとんどない。
部屋はベッドが二つある大部屋と、普通の小部屋の二つを借...
小部屋にタバサの母と、タバサ。シルフィードももちろん一...
大部屋にはその他全員。とはいっても、キュルケはほとんど...
「なあ、ルイズ。どうしたんだ」
夕食を済ませ、部屋で一息つくと、才人はベッドに腰掛けて...
もう一つのベッドでは、ギーシュとマリコヌルが早くも寝息...
キュルケはいない。さきほど唐突に「ごめん、忘れものがあ...
「ううん、なんでも」
ルイズはそっけない素振りで首を振る。
「なんでもないってことないだろ。さっきからため息ばっかだ...
はあ、とルイズは大きくため息をついた。
406 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:08:1...
今、彼女の抱えているものは些細な問題である。まあ、彼女...
ルイズはジト目で才人を見る。
この使い魔は、普段相談したいことがあっても気付かずにメ...
それでも、単純に気にしてくれたことが嬉しくもあったので...
「あのね、わたし達これからキュルケの家に向かうわけよね?」
「ああ」
「わたし、キュルケのご家族になんて名乗ればいいと思う?」
「は?」
問われて才人は面食らった。そんなの普通に名乗ればいいじ...
と、そこで気付く。ルイズの家とキュルケの家は、不倶戴天...
「もしかして、キュルケの家の世話になるのが嫌なのか?」
「そんなわけないでしょ」
ルイズは目を細めて才人を睨んだ。
「もう先祖の確執とか、わたしはどうでもいいのよ。キュルケ...
才人は頷く。
「だから本来、名乗りたくても名乗れないの。でも、キュルケ...
言いながらだんだん声が小さくなっていく。どうやらルイズ...
仕方ないので、才人は正直に答える。
「悪い。複雑すぎて俺にはよくわからん」
はあ、とルイズは再び大きくため息をついた。
目が、この役立たず、と言っている。
言われても困る。才人は未だに、そうした貴族の意地とかプ...
やがて、ルイズは諦めたようにもぞもぞとシーツをかぶり、
「……寝るわ」
と言った。
407 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:09:3...
昼間に馬車で仮眠を取ったせいか、才人は目がさえてしまっ...
隣室を覗くと、モンモランシーが椅子に座ったまま舟を漕い...
タバサはいない。どこかへ出掛けたのだろうか。
「モンモン。椅子なんかで寝てたら体壊すぞ」
声を掛けると、モンモランシーは虚ろな目で「ふわ」と声を...
「ああ……、つい寝ちゃったわ。だめね、昼間寝とくべきだった...
「薬の追加作ってたんだろ、馬車の中で。しょうがないさ」
眠り薬は調合が簡単とはいえ、揺れる馬車の中ではそうもい...
「部屋に戻って寝ろ。歩けるか」
モンモランシーは片手を挙げて返事しながら、ふらふらと立...
「ルイズの方のベッドで寝とけな。ギーシュが寝てる方はぽっ...
「ふあーい」
貴族らしからぬ返事に、すっかりモンモンも砕けたなぁ、と...
「あ、タバサどこ行ったか知ってる?」
「ん……、ああ、さあ。散歩じゃない?」
そう言いながら、モンモランシーはふらふらと大部屋に入っ...
しょうがないなぁ、と才人は一度部屋に戻ってデルフを背負...
ゲルマニア入りしたとはいえ、追っ手の可能性が消えたわけ...
アーハンブラの城に、タバサの杖はなかった。隠されたのか...
杖のないタバサは、ただの少女と変わりなかった。
階段を降り、一階の酒場を抜けて玄関を出る。
外はすっかり日が暮れて、人通りもほとんどなくなっていた。
左右を見渡すと、左手を流れる川の橋の上に、見慣れた目立...
才人は安堵の息をつくと、そちらへと向かう。
タバサは橋の欄干にもたれ、空を眺めていた。とっくに才人...
月明かりに照らされたタバサの幼い顔は、神秘的な美しさを...
408 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:11:5...
季節は春とはいえ、夜風が吹くとまだ肌寒い。橋の上は風の...
「寒くないか?」
近付きながら声を掛けると、タバサは首を小さく横に振って...
タバサはルイズと同じような、質素なワンピースに身を包ん...
余ったお金でシルフィードの服装も整えたら、それでキュル...
いつもの白タイツも白ニーソもはいてないので、スカートか...
月は二つとも満月だった。そのせいか、夜なのに随分と明る...
才人はタバサに並んで欄干に寄りかかり、同じように空を仰...
「……はあ。相変わらずすごい月だよなぁ。参っちゃうよなぁ」
思わず呟く。
ハルケギニアに召喚されてほぼ一年。何度も見ているとはい...
ふと見ると、タバサが不思議そうに才人を見つめている。
才人は言い訳でもするかのように言葉を継いだ。
「俺の世界には、月は一つしかないからな。こんなにでっかく...
言ってしまってから、才人は気付いた。
「あ、俺、別の世界から来たんだ。言ってなかったっけ」
タバサはこくりと頷き、そのあと首を横に振って、
「竜の羽衣の時に、そんな気はした」
と言った。
「そっか」
才人はなんだか意外な気がした。才人が異世界から来たこと...
どこまで理解してるかは不明だが、シエスタだって知ってる...
そういえば俺、ギーシュたちに言ってたっけ、と才人は考え...
というか、東方のロバなんとかの出身ってことになってたん...
409 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:12:5...
「まあいいや。俺はこことは違う、別の世界で生まれたんだ。...
「貴族もいない?」
不思議そうなタバサの問いに、才人は頷く。
「大昔はいたし、今もいる国もあるのかも知んないけど、俺の...
「誰が国を治めてるの?」
タバサが素朴な疑問を口にした。貴族がいないということは...
「えーと、総理大臣」
「ソーリ大臣?」
重ねて訊かれて才人は困った。民主主義の詳しい仕組みなん...
「うーん、選挙するんだ。政治家になりたい人が何人か立候補...
言ってて自分でも自信がなくなってくる才人であった。
「ごめん、俺もよくわかってない。二十歳になるまで選挙権な...
頬をかいてそう言うと、タバサは「そう」と言って視線を戻...
タバサはもう空を見ていない。なにか考え込むかのように、...
心地よい沈黙が流れた。風が二人の髪を絶え間なく梳いてゆ...
川面を魚が跳ねた。鱗が月光を弾いて、きらきらと光った。...
ここしばらくなにかと忙しかったので、こうした安寧な時間...
なんでだろう、と才人は考える。ルイズと一緒だと、嬉しく...
タバサの場合、このドキドキがない。干渉してこないからだ...
不思議な子だな、と才人は思った。
「……サイト」
と、唐突にタバサが才人を呼んだ。名前で呼ばれるのは初め...
タバサは顔を上げ、まっすぐに才人を見つめている。
「わたしはあなたに二度、救われた」
「へ?」
「一度目は命を。二度目は心を。だからわたしの命と心はあな...
410 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:13:3...
「え?」
才人は目をぱちくりさせた。突然すぎて、意味がよくわから...
なんか、さらっととんでもないことを言われた気がする。
やがて、水が滲みこむようにその言葉の意味を正しく理解し...
「ちょ、まま待てって、なにトンデモないこと言ってんだお前...
いつか見た夢を思い出す。あれは悪夢だったが、これは夢じ...
才人はぐるぐると目を回した。
「それに、そんなこと言ったら俺だってお前に何度も助けられ...
タバサはゆっくりと首を振る。
「わたしはただそこにいて、できることのために杖を振ってた...
「いや、でも、だって、俺こう見えても一応伝説だし。できな...
「だからこそ」
そう言って、タバサは才人に向き直った。直立したまま、右...
ガリア王家の正式な敬礼の作法なのであるが、もちろん才人...
「雪風のタバサ。世をはばかる名を、元ガリア北花壇騎士七号...
くらくらした。ワインをがぶ飲みした時みたいに、頭が揺れ...
タバサはじっと黙って、才人の言葉を待っているようだった。
外見こそ幼いけれど、タバサの年はルイズと一つしか違わな...
改めて気付くまでもなく、タバサは綺麗だ。白磁のような肌...
夢で見たよりも、タバサは綺麗だった。
ティーカップのような、白くて丸い頬。
形の良い貝殻のような、桜色の清楚な唇。
眼鏡の奥の、深碧の湖のような神秘的な瞳。
混乱する頭のまま、どこか冷静な思考で才人はそっと手を伸...
411 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:14:3...
しかし、タバサはその瞳を閉じてしまった。別に意地悪をし...
どこで習ったのか、誰に聞いたのか、はたまた本で読んだの...
どきん! と才人の心臓が跳ね上がる。
これは……もしかして?
いいのかな? しちゃっていいのかな?
いいもなにも、ほかに考えられる可能性はなかった。蛾が蝋...
顔を寄せると、甘い匂いがした。才人はたまらず、そのまま...
いつの間にか、こういう流れに慣れてしまった才人である。
タバサの唇はやわらかく、しっとり冷たかった。
唇を離すと、思ったよりも長いタバサの睫毛が震えてるのが...
ああ、緊張してたんだな、と思うほど、いつの間にか才人に...
「キス、初めて?」
「……初めて」
タバサは目を開きながら、かすれた声で短く答える。
才人は彼女の頬にかかった青い髪を梳きながら、ふと思った...
「でも、シルフィードとは?」
使い魔として召喚した時に、コントラクト・サーヴァントの...
しかしタバサはついと目を逸らし、やや頬を染めながら、
「あれはノーカン」
と呟くように言った。
無愛想な子供だと思っていたタバサの、そんな女の子らしい...
洒落ではない。直撃である。思ってもみなかった攻撃だけに...
余裕は吹き飛んだ。本能的な愛しさが込みあげてくる。才人...
羽のように軽いタバサが、才人の腕の中に納まる。
ずっと強張っていた肩から力が抜け、タバサは体重を才人に...
あったかくて、やわらかい。
じっと見つめる瞳が月の光を反射して、心なしか潤んで見え...
やばい。なんかずるい。こんな不意打ちひどい。
こんなに可愛いなんて反則だ。よくわからないけど反則だ。
ピピー。レッドカード、退場。俺の胸の中へ退場。次の試合...
意味不明のことを考えながら、才人は憑かれたようにタバサ...
412 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:15:3...
一瞬だけタバサの体が強張るが、すぐに力は抜ける。才人に...
二人の息が重なる。
その、瞬間。
ぞくり! と才人の背筋に悪寒が走った。同時にタバサが神...
数々の修羅場をくぐった二人である。殺気に対しては敏感だ...
はっと振り返るいとまもなく、上空からきゅいきゅいと声が...
「え、シルフィード?」
気付くとその足に、いつの間にかしっかりタバサを捕まえて...
そのまま川の上を滑空して遠ざかり、ばさりと羽ばたいて急...
呆然としたのは一瞬。パンツ見えた、と思ったのも一瞬。才...
今なお殺気というか怒気というか、肌を焼くような感覚は続...
恐る恐る、才人はその源泉と思しき宿の方向を向く。首が意...
はたしてそこには、寝ていたはずの桃色の髪が夜風に舞って...
「ル、ルル、ルルル……」
鳥を呼んでいるわけではない。動転して言葉にならないのだ。
月下に佇むルイズは美しかった。
風になびく草色のワンピース。どこか遠くを見るような目で...
右手にはすでに杖を抜いている。唇が震えて見えるのは、な...
「そうなんだそうなのねやっぱり犬は犬なのねわたしのこと好...
ぶつぶつと呪詛の言葉を吐きながら、ルイズは一歩、また一...
413 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:16:3...
小悪魔? 冗談じゃない、あれは悪魔だ。正真正銘。
だって、なんか髪が生き物みたいにうねってるし。
怖い。七万の軍勢より、エルフより怖い。多分エルフが七万...
恐怖の余り、声も出ない。抜けそうになる腰に鞭打って、才...
振り向くと、そこに鬼がいた。
いつの間に起き出してきたのか、どうやって回り込んだのか...
「マ、ママママリマリマルマレ……」
「黙れ。息すんな」
言下にマリコルヌは言い放つ。取り付く島もない。
「不公平だろ不公平だよね誰だってそう思うよね教えてよ誰か...
本当に才人は息ができなくなった。
前を向けば、魔王。
周りの景色が歪むほどの瘴気を纏い、夜の空気を震わせなが...
「体に覚えさせても無駄なら魂に刻むしかないわよねどうすれ...
後ろには、修羅。
ゆらり……、と暗殺者のような見事な動きで、マリコルヌは音...
「おかしいよね絶対おかしいよねなんでサイトばっかりなのさ...
前門のルイズ。後門のマリコルヌ。
才人はひいっ、と叫ぶと背中のデルフリンガーに手をかけた...
「あー相棒。なんつーかな、ぶっちゃけ無理。俺のことはかま...
「つ、つつつ冷たいこと言うなー!」
才人は声を裏返して叫ぶ。それが合図であったかのように、
「わたしより胸ちっちゃいのにーッ!」
「ぼくにもご褒美くれよおおおーッ!」
渾身のエクスプロージョンとエア・ハンマーが才人を吹き飛...
閃光と轟音。橋は粉々に砕けて塵と化し、才人は枯葉のよう...
遠ざかる意識の中、才人はふと、“後門のマリコルヌ”って厭...
414 名前:脳内11巻[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 00:17:4...
さて、上空を舞うシルフィードの背中。
眼下の惨劇を綺麗さっぱり素敵に無視して、キュルケは拾い...
「ただいまー。あれタバサ、眼鏡どうしたの?」
タバサは黙って下を指差す。
「あちゃ、壊れてなきゃいいけど。まあいいわ、はいタバサ。...
キュルケが差し出したものは、まさしく失くしたはずのタバ...
タバサは目を丸くしてそれを受け取る。
「瓦礫の中に埋まってたのをシルフィードが見つけてくれたの...
「シャルロットさま……」
キュルケの後ろからひょこりと老人が顔を出す。執事のペル...
「忘れものの本命。あの屋敷に一人でいたってしょうがないし...
得意そうに赤い髪をかきあげて微笑むキュルケ。
感動の再会のはずだったが、ペルスランは眉を寄せ、じっと...
「今のは……、この年寄りめの見間違いでしょうか、お嬢さま?」
「……」
タバサは目を合わせずに黙り込む。
「いけません、いけませんぞお嬢さま。あのような街娘のごと...
滔々と訓戒を垂れるペルスランに、タバサはちらりとキュル...
「いえいえお嬢さまをお助けいただいた恩人であることは重々...
重ねて問われ、タバサは意を決したように視線を向け、はに...
その、かつて見せなかった彼女の表情に、ペルスランは言葉...
タバサは短く、少し恥ずかしそうな声で言った。
「わたしの勇者」
ペルスランは目をまん丸にして絶句した。キュルケは爆笑し...
シルフィードが嬉しそうに、きゅいきゅいっと鳴いた。
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