ゼロの使い魔保管庫
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**ゼロの飼い犬3 微熱の唇 [[...
■1
「……な〜んか、おかしいと思わない? あの二人」
あたしにとっては退屈でしかない、ミスタ・コルベールによ...
ふたつ前の席に並んで座っているピンク髪と黒髪の二人の後...
隣で黙々と授業を受けている友人に小声で聞く。
「……授業中」
話しかけた相手、子供みたいな外見のタバサは、ちらりとあ...
目を向けてから、すぐに講義を聞くことに興味を戻した。
ホントに生真面目ね、この子なら、授業の内容くらい本で読...
小さく息をつくと、あたしは自分の燃えるような紅い髪を一...
タバサの同意は得られなかったけど、あたしはほぼ確信して...
あの二人……ヴァリエール家の三女にして魔法の才能0なゼロの...
その使い魔で、平民なのにメイジのギーシュを剣ひとつでやっ...
つい先日までしょっちゅう喧嘩してた二人だけど、恐らく……...
なぜって、ここ2、3日のゼロのルイズってば、妙に血色が...
逆にサイトの方は目の下にくまなんて作ってげっそりしてる。
彼に興味がある、この微熱のキュルケにとっては、見逃すわ...
「(あのルイズが挙動不審な様子で、あたしに話しかけてきた...
数日前、ルイズは唐突にあたしがしていたエステの話に乗っ...
どうも何かすれ違いがあるような感じだった。あの二人の様子...
「ここはそろそろ、ツェルプストーの女らしい所を見せないと...
口の中だけで呟き、頭の中で計画を立てる。
面白くなりそうな予感に、口元が自然と持ち上がるのがわかっ...
その日の放課後。あたしは時間を見計らって、使用人宿舎の...
この時間、ルイズの使い魔さんがここで干し終わった洗濯物...
傾きかけた日差しの下、珍しい黒髪に黒い瞳、それにこれま...
物干し用のロープからルイズのものらしい服を外している姿が...
「……ちょっと、いいかしら?」
「ん?」
呼びかけると、彼はあたしを振り向く。
その表情には平民特有の、貴族にへつらい、機嫌を伺う色が...
それでいて、級友の貴族の男子があたしに向ける、見惚れるか…...
やっぱり、この男の子は、今までにあたしの身の回りにいた...
「あ、えーっと……キュルケ。微熱の」
「覚えててくれたのね、嬉しいわ」
「そりゃ、まぁね」
そういったサイトの口元には、苦笑が浮かんでいた。まぁ、...
あたしは彼とそのご主人様のルイズを思うさま嘲笑ったんだか...
「で、何の用? ルイズはここにはいないけど」
「用があるのは、あなた」
そう言って彼に近付くと、サイトは洗濯物が入ったかごを抱...
「俺に用? どんな?」
「ま、後で良いわ。今はあなたの仕事を先に片づけちゃいまし...
ウインクを見せて、ロープにかかっていたルイズのソックス...
サイトは「あ、サンキュ」なんて呟いて、腑に落ちない顔をし...
■2
「悪いね、わざわざ運んでまでもらって」
「気にしなくていいのよ、このくらい」
けっこうな重さになった洗濯物カゴを、あたしは『レビテー...
学生寮のあたしやルイズの部屋がある階まで来た頃には、もう...
「それで、結局俺への用事って何なんだ?」
「んー……あたしの部屋で話すわ。入ってくれる?」
そう言って足を止め、ルイズの部屋よりも手前にある、あた...
「あ、だったら、洗濯物をルイズの部屋に置いてから」
「部屋にルイズがいるかもしれないでしょ。そうしたら、また...
そう言って、あたしは魔法で浮かせた洗濯物カゴをさっさと...
サイトは、まぁそれもそうか、といった顔をして、あたしの...
洗濯物を机の上に下ろして、あたしはベッドに腰掛ける。サ...
「そんなところに立ってないで、こっちにいらして」
「え? あ、うん」
言われるままに近寄ってきたサイトに、ベッドの、あたしが...
サイトは、あたしが叩いた所よりも少し距離をとって、浅く...
「それで、用って……」
「ふう……ちょっと暑いわね」
あたしはサイトの言葉を遮ると、髪をかき上げて後ろに流し...
わざと少し小さめのサイズを選んでいるシャツから、胸が今...
あたしの横で、ごくり、と生唾を飲み込む音が聞こえた。
さぁ、ここからが微熱のキュルケの本領発揮よ。
「で、俺への用……」
「まだわからないのかしら? ひどい人」
ぐいっ、と上半身を彼の方へ寄せて、その顔をのぞき込む。...
強調された胸の谷間が映り込んでいるはず。この距離なら、香...
サイトが目を白黒させ、その頬がみるみる赤くなっていくの...
いわゆるハンサムとは言い難いけど、結構童顔で可愛い顔を...
この男の子が別人のように凛々しくなってギーシュに啖呵を切...
ゴーレムを次々に切り捨てた姿を思い出し、胸に熱いものが灯...
上辺だけだったり、過剰に調子に乗ってる貴族の男とは、明...
彼が、”女”の前ではどんな顔をするのか。どんな声を聞かせ...
そして、今だったらそれがたやすく可能だという自信が、あ...
「キ、キュルケ……?」
「ええ、キュルケよ。あなたが心に火をつけてしまった女」
サイトの首筋から耳の裏に手を回すと、そのまま一気に顔を...
彼を半ば押し倒すようにして、その唇に唇を重ねた。
「んむっ!? んんーっ!!」
あたしを押しのけようとする彼の体に、ぎゅっと乳房を押し...
今までに一人も知らない。サイトの抵抗は、すぐに形だけのも...
「……っは、はぁ、はぁ……」
唇を離すと、すぐ目の前には、当惑が半分、陶酔が半分の色...
彼にも情熱の火種が灯ったことがわかる。
「あなた……あのご主人様に良いようにされて、不満なんでしょ...
「え……?」
「最近のあなたとルイズの様子を見てて、何となくわかったの...
使い魔にされて、見返りも無しに無茶なことばかり要求されて...
これが、自信の理由。サイトは、使い魔である前に人間の、...
そのことが全くわかってないルイズからなら、彼を奪う事なん...
あたしは言葉に詰まっているサイトの唇を、再び奪った。
■3
唇の間を、舌でつつく。開いて、というジェスチャー。サイ...
あたしが執拗に舌でくすぐると、少しずつ開いてあたしを受け...
キスっていうのは、相手を憎からず思っているというのが前...
気持ちが良いというのは、最大の毒であり呪い。すぐに体も心...
胸を押しつけ、首筋を指で撫でると、サイトの体からは目に...
この様子だと、彼、女を知らないのかな。それはそれで、魅...
より深く唇を重ね、舌を差し入れるために顔を傾けると――先...
「んっ……!? んぅっ、ちゅ……」
サイトの舌は、蛇のようにあたしの舌に絡みついてきた。擦...
逆にこちらの体から力が抜けていく。
舌だけじゃない。サイトの指はいつのまにかあたしの顔と背...
嘘、何これ、上手い。ついさっきまで遠慮がちだったのとは...
応戦しようとして、あたしの方からもサイトの舌に舌を絡ま...
サイトはあたしから快楽を引き出す。頭の中がとろんとして、...
こんなにあからさまに主導権を握られることなんて、滅多に...
あたしとさほど身長が変わらないはずのサイトの体が、やけ...
∞...
「………遅い」
窓の向こうの、山の稜線に沈み始めた夕日を見ながら、わた...
放課後、洗濯物を片づけたらすぐ帰ってくるはずのサイトが...
まさか、どこかで食べ物でも漁ってるんじゃないでしょうね...
わたしは部屋着の上にマントを羽織ると、部屋を出た。とり...
サイトが居そうな所はどこか考えながら廊下を歩いていると...
そこは、ツェルプストー家のキュルケの部屋。あいつの男性...
一応閉めておいてあげようかと近付く。すると――。
「はぁっ、はぁ……んっ……ちゅ、ちゅぐっ、ちゅる……」
「んっ…ふ、くちゅ、ちゅぷ……じゅるっ……」
部屋の中からは、キュルケ一人が出しているとは思えない、...
キュルケの事だから、男子を連れ込んでヘンな事してるのか...
ウンザリした気分になって、ドアをそのままに立ち去ろうとし...
「ぷはっ……は、ぁ……サイト……」
かすかな声だけど、その名前がわたしの耳に飛び込んできた...
この学園にサイトなんて珍しい名前の人間、わたしの使い魔以...
わたしはぞくりと背筋が寒くなるのを感じながら、咄嗟に扉...
「――っっ!!」
危うく、大声を上げるところだった。キュルケの部屋のベッ...
サイトと、キュルケが重なり合うようになっていたのだから。
ちょっと前までのわたしだったら、そこでカッとなって部屋...
でも、その時、わたしは……全身が凍りつくような感覚に囚わ...
■4
「はぁっ、ふ……いいわ……じょうず、サイト……んっ!」
サイトは、キュルケにのしかかられるようにされながら、体...
足や、背中も触ってたと思う。でもそれだけじゃなくて、耳と...
わたしが最近、サイトにさせているマッサージで触らせてると...
サイトの手や指が動くたびに、キュルケは体を震わせて、髪...
反応なんだってことを、わたしはついこの間知った。
それに、それに……キュルケの方も、サイトの体を触っていた...
どこにあるのかわからない。胸とか、お腹の方?
よくわからないけど、確かなのは、キュルケが手を動かすた...
息を荒くしているということ。
その光景を目にして、怒るとか、そういうのより先に……気持...
嫌だ。やめて欲しい。そんなことしないで欲しい。止めて。...
わたしは、心臓がばくばく高鳴っているのに妙に冷えている...
その、半開きになっていたドアを開け放った。
「……何してるの」
こんな状況で自分の口から出たということが信じられない、...
さほど動じた様子もなくキュルケはわたしの方に目を向け、サ...
顔をわたしに向けた。
「あっ……あ、ルイズ、これは……!!」
「……は、ぁ……何してるのも無いもんだわ。気遣いまでゼロのル...
慌ててキュルケの体から手を離すサイトとは裏腹に、気だる...
サイトの反応よりも、そのキュルケの目。とろんと潤んでい...
普段わたしを小馬鹿にするときとは明らかに違う、本気の蔑み...
「ひとの使い魔に勝手に手を出さないで。帰るわよ、サイト」
「あ、うん…」
その目を見るのが嫌で、サイトに声をかける。サイトは、も...
出てきた。キュルケは、それを止めようとしない。嫌にあっさ...
「ルイズ、あなたそれでいいの?」
キュルケは、顔色のわかりにくい褐色の肌にも明らかな上気...
その言葉に疑問が浮かぶ。そんな台詞を言うなら、わたしでは...
「言っておくけど、あたしは完全に無理矢理彼を求めたワケじ...
彼の方からも、少なからずあたしを求めてきた。どうしてだと...
「知らないわよ。こいつが犬だからじゃない?」
「違うわ。サイトは、あなたに対して不満があるから。あなた...
キュルケの言葉が胸に突き刺さる。なにそれ。何をわかった...
「サイト、これだけは忘れないで。……あなたが満たされずにい...
わたしがサイトの袖を引っ張って部屋を出て行こうとすると...
もう嫌。ここにいたくない。サイトをここにいさせたくない。
開きっぱなしのドアから外に出ると、キュルケに『レビテー...
わたしたちの後を追って廊下に飛んできた。「忘れ物よ」なん...
最後まで、嫌な奴だった。
■5
サイトを引きずるようにして自分の部屋に戻ると、それまで...
サイトが、あの女と。憎きツェルプストー家のキュルケと。...
「何考えてんのよ! 犬! ありえない!!」
「ご、ごめん」
「謝るくらいだったら、何であんなことしたのよっ!」
サイトの顔を睨みつける。ばつが悪そうに目を逸らすサイト...
さらにわたしの怒りに油を注ぐ。
「信じられない……! わたしに許可もなく、あんなことっ……!」
何だか、感情が高ぶりすぎて、涙が出そうになってきた。こ...
「そこまで言うなら聞くけどさ……なんでお前の許可が必要なの...
サイトは、うんざりした口調でそう聞いてきた。何その質問...
「当たり前でしょ! アンタはわたしの使い魔なんだからっ!」
「使い魔が女の子と仲良くしちゃいけないって決まりでもあん...
「知らないわよ。わたしが許さないって言ってるんだから駄目...
言い放つと、サイトは諦めたのか、深いため息をついた。そ...
踵を返す。
その態度が、とても嫌な感じがした。冷静に考えると、わた...
サイトにうんざりされても仕方が無いことを。
「あ……ちょっと言い過ぎたわ。別に、アンタが女の子と話そう...
あと、体に触るのもだめ……それ以外ならいいわ」
譲歩の台詞を言ってる最中に、自分で気付いた。わたしは、...
いうより先に、わたし以外の他人の体を触っていたこと、他人...
「あ、そ。ありがとうゴザイマス。寛大なご主人様のお言葉に...
サイトはもうわたしの方を見ようともせずに、洗濯物を片付...
急にサイトが遠くに行ってしまった気がして、辛かった。
不意に、さっきのキュルケの言葉が思い出される。サイトは...
だからキュルケなんかにほいほいついていくし、わたしを苛立...
そう考えてみたら……わたしは、サイトに何か報いることをし...
一応はわたしが言いつけた仕事はするようになったし、最近は...
主人として相応のご褒美とか、ねぎらいの言葉をかけていたか...
わたしが使い魔の主人として足りない。キュルケはそう言っ...
そうなの? サイトが使い魔として駄目なんだってばかり決め...
急に不安が襲ってきた。もし、そうなら。わたしのせいで、...
サイトはまた、キュルケとかの所へ行ってしまうかもしれない...
嫌だった。理屈じゃない。認めない。許せない。それを考え...
膨らむ。サイトにマッサージされた時のような気持ちのいいモ...
「サイトッ!」
わたしは、深く考えないでサイトに呼びかけた。
「はい?」
「け、剣を買ってあげるわ。あんた、剣士でしょ。自分の身く...
唐突な提案に、サイトは目を白黒させた。「そりゃ、ありが...
戸惑いの方が大きい感じだった。
わたしも、自分で言った事ながら、何か違うと思った。サイ...
これじゃ、物で釣ったみたい。使い魔に報いるご主人様の行動...
「え、えっと……それだけじゃないわ。サイト、ベッドに横にな...
わ、わわわ、わたしが、その……マッサージしてあげるわ。特別...
■6
もうひとつ、咄嗟の思いつき。どうしてそんな言葉が出てき...
キュルケがサイトに触っていたときの、サイトの様子が目に焼...
サイトは、気持ちよさそうだった。キュルケに触られて。
そりゃ、当たり前ね。わたしがサイトに触られて、あんなに...
だけど、サイトがあのキュルケに触られて……いや、気持ちよく...
気持ち悪い。許せない。思い出すだけで、胸に嫌なモヤモヤが...
だったら、わたしがしてやるわ。そうしたらわたしに感謝し...
「お前が、俺に? 熱でもあんのか?」
「失礼ね、他人の好意は素直に受け取りなさいよ」
わたしはサイトのところにつかつかと近寄る。その唇にまだ...
思い出して、サイトがとり込んできた洗濯物の中からハンカチ...
「うわっ、何!?」
「口紅で汚れてるのよ、さっさと拭きなさい!」
「わあった、自分でやるから!」
サイトにキュルケの痕跡が残ってるのが、気に入らない。自...
完全に口紅の跡を消させたあと、サイトをベッドに俯せにさ...
可哀想だし今回は特別に許すことにする。良い主人は使い魔に...
サイトはまだ半信半疑な様子で、居心地が悪そうにわたしを...
「……ルイズの匂いがする」
「嗅がないでよ馬鹿っ! あとそんなこと思っても言わない!」
枕に顔を埋めているサイトが言った言葉に、顔が一気に熱く...
サイトの横まで移動して座り込む。マッサージなんてやった...
素人だと言ってたんだし、そんなに難しいものじゃないはずよ...
サイトにされたことを思い出しつつ、ふくらはぎの辺りに手...
ズボンの上から、サイトの足をぎゅっと掴んでみた。
「うひゃひゃひゃひゃ!!」
「なっ、何よ!?」
サイトはぞわぞわと足を震わせて、珍奇な叫び声を上げた。
「くすぐったい! それ、くすぐったいから」
「失礼ね、ちょっとぐらい我慢なさい」
その反応にムッときて、思いっきり力を込めてサイトの足を...
逃げたり吹き出したりするのを我慢している様子。
「何よ、気持ちよくないの?」
「いや、そもそもルイズの力が弱いから、効く以前にくすぐっ...
サイトはわたしに触られてるのに、本当にあんまり良さそう...
どうして? サイトがわたしにするのと何が違うの? キュル...
悔しくて、いらいらして、わたしは体勢を変えることにした...
そこから、体重をぜんぶ乗せるようにして足を揉んでみる。
「ちょ、ルイズ!?」
「じっとしてなさい! ほら、いいでしょ! 気持ちいいって...
自分でもヤケになってる気がしなくもないけど、必死になっ...
サイトの足って結構筋肉がついてて固い。
サイトがこの格好でわたしにマッサージする時は、本当に乗...
跨るだけで腰は浮かせてくれてる。けど、わたしがサイトにす...
サイトは普段あんまり体型がわからない服装をしてるけど、...
それを意識したら、なんだかどきどきしてきた。よく考えた...
男の人をベッドに横にして、その上に乗っかってるなんて……他...
■7
「あの……ルイズ?」
わたしが急に湧き出してきた恥ずかしさに戸惑っていると、...
「な、なによ?」
「その、もういいや。十分ルイズの気持ちは伝わったから。あ...
その言葉に、落胆する。気持ちよくないから、もうやめてい...
「……わたしじゃダメなの? サイト、良くならないの?」
「いや、もう十分良かったから。満足満足。だからどいて、マ...
じわっと目頭が熱くなった。何それ。良くないなら良くない...
お世辞まで言って機嫌伺うことないじゃない。
自分が空回りしかしていなかったことに、涙まで零れそうに...
「なんでよ……なんでダメなのよ!」
「あー、うー、その、つまりだな、大変言いにくいんだが、俺...
…………。
「は?」
「あーもう! お前の尻が俺の足の上に思いっきり乗ってるの...
さっさとどけって言ってんだよ! 気付け馬鹿!!」
サイトは堰を切ったように一気にまくしたてた。わたしはそ...
サイトもわたしに触れていることになるんだという事実に、よ...
一気に頭が沸騰する。
「ば、ばかーーっ!! 早く言いなさいよ!!」
「だから遠回しにどけって言ってやったろ! 俺の気遣いを無...
わたしは跳ねるように立ち上がる。お、おおお、お尻。サイ...
体重をかけてぐいぐい押しつけるみたいな事までした。頭も体...
「ばかっ! ばかっ! ばかっ! いぬっ!」
「痛っ! いたいってば! ってか俺悪くねーだろ!?」
自分でも何をしてるのかわからないまま、足下に寝ころんで...
もう、もう! 何がマッサージよ! こんなやつ、足で十分...
「んくっ!」
わたしがサイトの背中の一カ所にかかとを落としたとき。サ...
声を上げた。その声に、思い当たるところがある。
わたしは少しだけ冷静になると、サイトがその声を上げた場...
「うっ…く、はぁ……」
サイトは身をよじらせたあと、ため息に似た深い息をついた...
「……ひょっとして、気持ちよかった? 蹴られて? 踏まれて...
恥ずかしさよりも勝る、好奇心。手で触った時には鈍かった...
「よ、良くねぇよ! いいからもうどいてくれ……」
今、慌てた。嘘ついてる。わたしの口元が自然に持ち上がり...
「嘘ね。良いんでしょ。手でやってもさっぱりだったくせに踏...
ぐりぐりぐり。さらに力を込めると、サイトは絞り出すよう...
これよこれ。こういう反応が見たかったの。
「ちっ…げぇよ、足でされたからってより、お前の手の力が弱す...
俺も、小さい頃に父ちゃんに背中に乗ってマッサージするの頼...
ふ、ふん。もっともらしい言い訳までしちゃって。でも今、...
■8
「なに? じゃあ、踏むだけじゃなくて乗っかってもいいの?」
「はい?」
思いついてしまったら、もう我慢できない。わたしはサイト...
その上に乗っかった。
「ぐっ……う、あぁ……」
サイトは変な声を漏らしたけど、本気で苦しんでるって感じ...
「ほ、ほら、どう? いいんじゃないの? いいでしょ?」
「くっ……ふ、んくっ……う……!」
力を込めるたびに小刻みに震えるサイトの背中から落ちない...
また前に戻ったりする。
心臓がばっくんばっくん言ってる。頭の中に霧がかかったみ...
わたしがサイトに乗っかって、踏みつけて……それなのに、サイ...
――わたしの方まで、気持ちいい。
「あ……嘘だろ、これ……やめ、ルイズ、マジでやめて……」
ぎゅっとわたしのベッドの布団を握りしめるサイト。その反...
「やめない。やっとサイトが良さそうになったんだもの。やめ...
腰の方をかかとでぐりぐりすると、サイトは切ない声を上げ...
その声を聞く度に、他人の手垢がついたサイトが綺麗になり...
「あっ、だめ、やばいって、だめ、ほんとにだめ……!!」
「え……え?」
サイトの声に、切羽詰まった色が混じる。身のよじり方も、...
振るい落とそうとしている様子。
あ、もしかしたら、気持ちいいのが溜まりすぎて、苦しくな...
だって、それが溢れた時が、一番気持ちいいんだから。
「こ、こらっ! 暴れないでよっ!」
「ルイズこそ動くなっ! こればっかりは本気でマズいから……...
逃げようとするサイトの上で、バランスをとることができな...
慌てて足の踏み場をずらす。
ずぼっ。
あれ、変な感触。足が沈んだ。咄嗟に確認すると、サイトの...
つま先が入り込んでしまったらしい。ぎょっとしてその足を引...
「う……あ、ああぁ……」
サイトはとろけたような、絶望したような、よくわからない...
ひょっとして、一番気持ちいいのになった? 足の下でサイ...
それから、何十秒かして。ぐったりしてしまったサイトの喉...
「……どいて……」
という、妙に冷えた声だった。さっきまでの懇願とは違う、...
「あ……うん……」
なぜかその静かな声に気圧されて、わたしはサイトの上から...
これまた静かな動きでベッドから降りた。
「あ、サイト。そ、その……良かった?」
聞くと、サイトはわたしの方を向き、……笑いかけた。感謝の...
「サ、サイト…?」
なんだか、致命的に悪いことをしてしまった予感がする。そ...
サイトはそのまま、ふらふらと変な歩き方で部屋から出て行...
どこに行くのか聞きたかったけど、その背中が『何も聞くな...
後に、わたしはこの日の出来事を思い出す度にごろごろ悶え...
つづく
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終了行:
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**ゼロの飼い犬3 微熱の唇 [[...
■1
「……な〜んか、おかしいと思わない? あの二人」
あたしにとっては退屈でしかない、ミスタ・コルベールによ...
ふたつ前の席に並んで座っているピンク髪と黒髪の二人の後...
隣で黙々と授業を受けている友人に小声で聞く。
「……授業中」
話しかけた相手、子供みたいな外見のタバサは、ちらりとあ...
目を向けてから、すぐに講義を聞くことに興味を戻した。
ホントに生真面目ね、この子なら、授業の内容くらい本で読...
小さく息をつくと、あたしは自分の燃えるような紅い髪を一...
タバサの同意は得られなかったけど、あたしはほぼ確信して...
あの二人……ヴァリエール家の三女にして魔法の才能0なゼロの...
その使い魔で、平民なのにメイジのギーシュを剣ひとつでやっ...
つい先日までしょっちゅう喧嘩してた二人だけど、恐らく……...
なぜって、ここ2、3日のゼロのルイズってば、妙に血色が...
逆にサイトの方は目の下にくまなんて作ってげっそりしてる。
彼に興味がある、この微熱のキュルケにとっては、見逃すわ...
「(あのルイズが挙動不審な様子で、あたしに話しかけてきた...
数日前、ルイズは唐突にあたしがしていたエステの話に乗っ...
どうも何かすれ違いがあるような感じだった。あの二人の様子...
「ここはそろそろ、ツェルプストーの女らしい所を見せないと...
口の中だけで呟き、頭の中で計画を立てる。
面白くなりそうな予感に、口元が自然と持ち上がるのがわかっ...
その日の放課後。あたしは時間を見計らって、使用人宿舎の...
この時間、ルイズの使い魔さんがここで干し終わった洗濯物...
傾きかけた日差しの下、珍しい黒髪に黒い瞳、それにこれま...
物干し用のロープからルイズのものらしい服を外している姿が...
「……ちょっと、いいかしら?」
「ん?」
呼びかけると、彼はあたしを振り向く。
その表情には平民特有の、貴族にへつらい、機嫌を伺う色が...
それでいて、級友の貴族の男子があたしに向ける、見惚れるか…...
やっぱり、この男の子は、今までにあたしの身の回りにいた...
「あ、えーっと……キュルケ。微熱の」
「覚えててくれたのね、嬉しいわ」
「そりゃ、まぁね」
そういったサイトの口元には、苦笑が浮かんでいた。まぁ、...
あたしは彼とそのご主人様のルイズを思うさま嘲笑ったんだか...
「で、何の用? ルイズはここにはいないけど」
「用があるのは、あなた」
そう言って彼に近付くと、サイトは洗濯物が入ったかごを抱...
「俺に用? どんな?」
「ま、後で良いわ。今はあなたの仕事を先に片づけちゃいまし...
ウインクを見せて、ロープにかかっていたルイズのソックス...
サイトは「あ、サンキュ」なんて呟いて、腑に落ちない顔をし...
■2
「悪いね、わざわざ運んでまでもらって」
「気にしなくていいのよ、このくらい」
けっこうな重さになった洗濯物カゴを、あたしは『レビテー...
学生寮のあたしやルイズの部屋がある階まで来た頃には、もう...
「それで、結局俺への用事って何なんだ?」
「んー……あたしの部屋で話すわ。入ってくれる?」
そう言って足を止め、ルイズの部屋よりも手前にある、あた...
「あ、だったら、洗濯物をルイズの部屋に置いてから」
「部屋にルイズがいるかもしれないでしょ。そうしたら、また...
そう言って、あたしは魔法で浮かせた洗濯物カゴをさっさと...
サイトは、まぁそれもそうか、といった顔をして、あたしの...
洗濯物を机の上に下ろして、あたしはベッドに腰掛ける。サ...
「そんなところに立ってないで、こっちにいらして」
「え? あ、うん」
言われるままに近寄ってきたサイトに、ベッドの、あたしが...
サイトは、あたしが叩いた所よりも少し距離をとって、浅く...
「それで、用って……」
「ふう……ちょっと暑いわね」
あたしはサイトの言葉を遮ると、髪をかき上げて後ろに流し...
わざと少し小さめのサイズを選んでいるシャツから、胸が今...
あたしの横で、ごくり、と生唾を飲み込む音が聞こえた。
さぁ、ここからが微熱のキュルケの本領発揮よ。
「で、俺への用……」
「まだわからないのかしら? ひどい人」
ぐいっ、と上半身を彼の方へ寄せて、その顔をのぞき込む。...
強調された胸の谷間が映り込んでいるはず。この距離なら、香...
サイトが目を白黒させ、その頬がみるみる赤くなっていくの...
いわゆるハンサムとは言い難いけど、結構童顔で可愛い顔を...
この男の子が別人のように凛々しくなってギーシュに啖呵を切...
ゴーレムを次々に切り捨てた姿を思い出し、胸に熱いものが灯...
上辺だけだったり、過剰に調子に乗ってる貴族の男とは、明...
彼が、”女”の前ではどんな顔をするのか。どんな声を聞かせ...
そして、今だったらそれがたやすく可能だという自信が、あ...
「キ、キュルケ……?」
「ええ、キュルケよ。あなたが心に火をつけてしまった女」
サイトの首筋から耳の裏に手を回すと、そのまま一気に顔を...
彼を半ば押し倒すようにして、その唇に唇を重ねた。
「んむっ!? んんーっ!!」
あたしを押しのけようとする彼の体に、ぎゅっと乳房を押し...
今までに一人も知らない。サイトの抵抗は、すぐに形だけのも...
「……っは、はぁ、はぁ……」
唇を離すと、すぐ目の前には、当惑が半分、陶酔が半分の色...
彼にも情熱の火種が灯ったことがわかる。
「あなた……あのご主人様に良いようにされて、不満なんでしょ...
「え……?」
「最近のあなたとルイズの様子を見てて、何となくわかったの...
使い魔にされて、見返りも無しに無茶なことばかり要求されて...
これが、自信の理由。サイトは、使い魔である前に人間の、...
そのことが全くわかってないルイズからなら、彼を奪う事なん...
あたしは言葉に詰まっているサイトの唇を、再び奪った。
■3
唇の間を、舌でつつく。開いて、というジェスチャー。サイ...
あたしが執拗に舌でくすぐると、少しずつ開いてあたしを受け...
キスっていうのは、相手を憎からず思っているというのが前...
気持ちが良いというのは、最大の毒であり呪い。すぐに体も心...
胸を押しつけ、首筋を指で撫でると、サイトの体からは目に...
この様子だと、彼、女を知らないのかな。それはそれで、魅...
より深く唇を重ね、舌を差し入れるために顔を傾けると――先...
「んっ……!? んぅっ、ちゅ……」
サイトの舌は、蛇のようにあたしの舌に絡みついてきた。擦...
逆にこちらの体から力が抜けていく。
舌だけじゃない。サイトの指はいつのまにかあたしの顔と背...
嘘、何これ、上手い。ついさっきまで遠慮がちだったのとは...
応戦しようとして、あたしの方からもサイトの舌に舌を絡ま...
サイトはあたしから快楽を引き出す。頭の中がとろんとして、...
こんなにあからさまに主導権を握られることなんて、滅多に...
あたしとさほど身長が変わらないはずのサイトの体が、やけ...
∞...
「………遅い」
窓の向こうの、山の稜線に沈み始めた夕日を見ながら、わた...
放課後、洗濯物を片づけたらすぐ帰ってくるはずのサイトが...
まさか、どこかで食べ物でも漁ってるんじゃないでしょうね...
わたしは部屋着の上にマントを羽織ると、部屋を出た。とり...
サイトが居そうな所はどこか考えながら廊下を歩いていると...
そこは、ツェルプストー家のキュルケの部屋。あいつの男性...
一応閉めておいてあげようかと近付く。すると――。
「はぁっ、はぁ……んっ……ちゅ、ちゅぐっ、ちゅる……」
「んっ…ふ、くちゅ、ちゅぷ……じゅるっ……」
部屋の中からは、キュルケ一人が出しているとは思えない、...
キュルケの事だから、男子を連れ込んでヘンな事してるのか...
ウンザリした気分になって、ドアをそのままに立ち去ろうとし...
「ぷはっ……は、ぁ……サイト……」
かすかな声だけど、その名前がわたしの耳に飛び込んできた...
この学園にサイトなんて珍しい名前の人間、わたしの使い魔以...
わたしはぞくりと背筋が寒くなるのを感じながら、咄嗟に扉...
「――っっ!!」
危うく、大声を上げるところだった。キュルケの部屋のベッ...
サイトと、キュルケが重なり合うようになっていたのだから。
ちょっと前までのわたしだったら、そこでカッとなって部屋...
でも、その時、わたしは……全身が凍りつくような感覚に囚わ...
■4
「はぁっ、ふ……いいわ……じょうず、サイト……んっ!」
サイトは、キュルケにのしかかられるようにされながら、体...
足や、背中も触ってたと思う。でもそれだけじゃなくて、耳と...
わたしが最近、サイトにさせているマッサージで触らせてると...
サイトの手や指が動くたびに、キュルケは体を震わせて、髪...
反応なんだってことを、わたしはついこの間知った。
それに、それに……キュルケの方も、サイトの体を触っていた...
どこにあるのかわからない。胸とか、お腹の方?
よくわからないけど、確かなのは、キュルケが手を動かすた...
息を荒くしているということ。
その光景を目にして、怒るとか、そういうのより先に……気持...
嫌だ。やめて欲しい。そんなことしないで欲しい。止めて。...
わたしは、心臓がばくばく高鳴っているのに妙に冷えている...
その、半開きになっていたドアを開け放った。
「……何してるの」
こんな状況で自分の口から出たということが信じられない、...
さほど動じた様子もなくキュルケはわたしの方に目を向け、サ...
顔をわたしに向けた。
「あっ……あ、ルイズ、これは……!!」
「……は、ぁ……何してるのも無いもんだわ。気遣いまでゼロのル...
慌ててキュルケの体から手を離すサイトとは裏腹に、気だる...
サイトの反応よりも、そのキュルケの目。とろんと潤んでい...
普段わたしを小馬鹿にするときとは明らかに違う、本気の蔑み...
「ひとの使い魔に勝手に手を出さないで。帰るわよ、サイト」
「あ、うん…」
その目を見るのが嫌で、サイトに声をかける。サイトは、も...
出てきた。キュルケは、それを止めようとしない。嫌にあっさ...
「ルイズ、あなたそれでいいの?」
キュルケは、顔色のわかりにくい褐色の肌にも明らかな上気...
その言葉に疑問が浮かぶ。そんな台詞を言うなら、わたしでは...
「言っておくけど、あたしは完全に無理矢理彼を求めたワケじ...
彼の方からも、少なからずあたしを求めてきた。どうしてだと...
「知らないわよ。こいつが犬だからじゃない?」
「違うわ。サイトは、あなたに対して不満があるから。あなた...
キュルケの言葉が胸に突き刺さる。なにそれ。何をわかった...
「サイト、これだけは忘れないで。……あなたが満たされずにい...
わたしがサイトの袖を引っ張って部屋を出て行こうとすると...
もう嫌。ここにいたくない。サイトをここにいさせたくない。
開きっぱなしのドアから外に出ると、キュルケに『レビテー...
わたしたちの後を追って廊下に飛んできた。「忘れ物よ」なん...
最後まで、嫌な奴だった。
■5
サイトを引きずるようにして自分の部屋に戻ると、それまで...
サイトが、あの女と。憎きツェルプストー家のキュルケと。...
「何考えてんのよ! 犬! ありえない!!」
「ご、ごめん」
「謝るくらいだったら、何であんなことしたのよっ!」
サイトの顔を睨みつける。ばつが悪そうに目を逸らすサイト...
さらにわたしの怒りに油を注ぐ。
「信じられない……! わたしに許可もなく、あんなことっ……!」
何だか、感情が高ぶりすぎて、涙が出そうになってきた。こ...
「そこまで言うなら聞くけどさ……なんでお前の許可が必要なの...
サイトは、うんざりした口調でそう聞いてきた。何その質問...
「当たり前でしょ! アンタはわたしの使い魔なんだからっ!」
「使い魔が女の子と仲良くしちゃいけないって決まりでもあん...
「知らないわよ。わたしが許さないって言ってるんだから駄目...
言い放つと、サイトは諦めたのか、深いため息をついた。そ...
踵を返す。
その態度が、とても嫌な感じがした。冷静に考えると、わた...
サイトにうんざりされても仕方が無いことを。
「あ……ちょっと言い過ぎたわ。別に、アンタが女の子と話そう...
あと、体に触るのもだめ……それ以外ならいいわ」
譲歩の台詞を言ってる最中に、自分で気付いた。わたしは、...
いうより先に、わたし以外の他人の体を触っていたこと、他人...
「あ、そ。ありがとうゴザイマス。寛大なご主人様のお言葉に...
サイトはもうわたしの方を見ようともせずに、洗濯物を片付...
急にサイトが遠くに行ってしまった気がして、辛かった。
不意に、さっきのキュルケの言葉が思い出される。サイトは...
だからキュルケなんかにほいほいついていくし、わたしを苛立...
そう考えてみたら……わたしは、サイトに何か報いることをし...
一応はわたしが言いつけた仕事はするようになったし、最近は...
主人として相応のご褒美とか、ねぎらいの言葉をかけていたか...
わたしが使い魔の主人として足りない。キュルケはそう言っ...
そうなの? サイトが使い魔として駄目なんだってばかり決め...
急に不安が襲ってきた。もし、そうなら。わたしのせいで、...
サイトはまた、キュルケとかの所へ行ってしまうかもしれない...
嫌だった。理屈じゃない。認めない。許せない。それを考え...
膨らむ。サイトにマッサージされた時のような気持ちのいいモ...
「サイトッ!」
わたしは、深く考えないでサイトに呼びかけた。
「はい?」
「け、剣を買ってあげるわ。あんた、剣士でしょ。自分の身く...
唐突な提案に、サイトは目を白黒させた。「そりゃ、ありが...
戸惑いの方が大きい感じだった。
わたしも、自分で言った事ながら、何か違うと思った。サイ...
これじゃ、物で釣ったみたい。使い魔に報いるご主人様の行動...
「え、えっと……それだけじゃないわ。サイト、ベッドに横にな...
わ、わわわ、わたしが、その……マッサージしてあげるわ。特別...
■6
もうひとつ、咄嗟の思いつき。どうしてそんな言葉が出てき...
キュルケがサイトに触っていたときの、サイトの様子が目に焼...
サイトは、気持ちよさそうだった。キュルケに触られて。
そりゃ、当たり前ね。わたしがサイトに触られて、あんなに...
だけど、サイトがあのキュルケに触られて……いや、気持ちよく...
気持ち悪い。許せない。思い出すだけで、胸に嫌なモヤモヤが...
だったら、わたしがしてやるわ。そうしたらわたしに感謝し...
「お前が、俺に? 熱でもあんのか?」
「失礼ね、他人の好意は素直に受け取りなさいよ」
わたしはサイトのところにつかつかと近寄る。その唇にまだ...
思い出して、サイトがとり込んできた洗濯物の中からハンカチ...
「うわっ、何!?」
「口紅で汚れてるのよ、さっさと拭きなさい!」
「わあった、自分でやるから!」
サイトにキュルケの痕跡が残ってるのが、気に入らない。自...
完全に口紅の跡を消させたあと、サイトをベッドに俯せにさ...
可哀想だし今回は特別に許すことにする。良い主人は使い魔に...
サイトはまだ半信半疑な様子で、居心地が悪そうにわたしを...
「……ルイズの匂いがする」
「嗅がないでよ馬鹿っ! あとそんなこと思っても言わない!」
枕に顔を埋めているサイトが言った言葉に、顔が一気に熱く...
サイトの横まで移動して座り込む。マッサージなんてやった...
素人だと言ってたんだし、そんなに難しいものじゃないはずよ...
サイトにされたことを思い出しつつ、ふくらはぎの辺りに手...
ズボンの上から、サイトの足をぎゅっと掴んでみた。
「うひゃひゃひゃひゃ!!」
「なっ、何よ!?」
サイトはぞわぞわと足を震わせて、珍奇な叫び声を上げた。
「くすぐったい! それ、くすぐったいから」
「失礼ね、ちょっとぐらい我慢なさい」
その反応にムッときて、思いっきり力を込めてサイトの足を...
逃げたり吹き出したりするのを我慢している様子。
「何よ、気持ちよくないの?」
「いや、そもそもルイズの力が弱いから、効く以前にくすぐっ...
サイトはわたしに触られてるのに、本当にあんまり良さそう...
どうして? サイトがわたしにするのと何が違うの? キュル...
悔しくて、いらいらして、わたしは体勢を変えることにした...
そこから、体重をぜんぶ乗せるようにして足を揉んでみる。
「ちょ、ルイズ!?」
「じっとしてなさい! ほら、いいでしょ! 気持ちいいって...
自分でもヤケになってる気がしなくもないけど、必死になっ...
サイトの足って結構筋肉がついてて固い。
サイトがこの格好でわたしにマッサージする時は、本当に乗...
跨るだけで腰は浮かせてくれてる。けど、わたしがサイトにす...
サイトは普段あんまり体型がわからない服装をしてるけど、...
それを意識したら、なんだかどきどきしてきた。よく考えた...
男の人をベッドに横にして、その上に乗っかってるなんて……他...
■7
「あの……ルイズ?」
わたしが急に湧き出してきた恥ずかしさに戸惑っていると、...
「な、なによ?」
「その、もういいや。十分ルイズの気持ちは伝わったから。あ...
その言葉に、落胆する。気持ちよくないから、もうやめてい...
「……わたしじゃダメなの? サイト、良くならないの?」
「いや、もう十分良かったから。満足満足。だからどいて、マ...
じわっと目頭が熱くなった。何それ。良くないなら良くない...
お世辞まで言って機嫌伺うことないじゃない。
自分が空回りしかしていなかったことに、涙まで零れそうに...
「なんでよ……なんでダメなのよ!」
「あー、うー、その、つまりだな、大変言いにくいんだが、俺...
…………。
「は?」
「あーもう! お前の尻が俺の足の上に思いっきり乗ってるの...
さっさとどけって言ってんだよ! 気付け馬鹿!!」
サイトは堰を切ったように一気にまくしたてた。わたしはそ...
サイトもわたしに触れていることになるんだという事実に、よ...
一気に頭が沸騰する。
「ば、ばかーーっ!! 早く言いなさいよ!!」
「だから遠回しにどけって言ってやったろ! 俺の気遣いを無...
わたしは跳ねるように立ち上がる。お、おおお、お尻。サイ...
体重をかけてぐいぐい押しつけるみたいな事までした。頭も体...
「ばかっ! ばかっ! ばかっ! いぬっ!」
「痛っ! いたいってば! ってか俺悪くねーだろ!?」
自分でも何をしてるのかわからないまま、足下に寝ころんで...
もう、もう! 何がマッサージよ! こんなやつ、足で十分...
「んくっ!」
わたしがサイトの背中の一カ所にかかとを落としたとき。サ...
声を上げた。その声に、思い当たるところがある。
わたしは少しだけ冷静になると、サイトがその声を上げた場...
「うっ…く、はぁ……」
サイトは身をよじらせたあと、ため息に似た深い息をついた...
「……ひょっとして、気持ちよかった? 蹴られて? 踏まれて...
恥ずかしさよりも勝る、好奇心。手で触った時には鈍かった...
「よ、良くねぇよ! いいからもうどいてくれ……」
今、慌てた。嘘ついてる。わたしの口元が自然に持ち上がり...
「嘘ね。良いんでしょ。手でやってもさっぱりだったくせに踏...
ぐりぐりぐり。さらに力を込めると、サイトは絞り出すよう...
これよこれ。こういう反応が見たかったの。
「ちっ…げぇよ、足でされたからってより、お前の手の力が弱す...
俺も、小さい頃に父ちゃんに背中に乗ってマッサージするの頼...
ふ、ふん。もっともらしい言い訳までしちゃって。でも今、...
■8
「なに? じゃあ、踏むだけじゃなくて乗っかってもいいの?」
「はい?」
思いついてしまったら、もう我慢できない。わたしはサイト...
その上に乗っかった。
「ぐっ……う、あぁ……」
サイトは変な声を漏らしたけど、本気で苦しんでるって感じ...
「ほ、ほら、どう? いいんじゃないの? いいでしょ?」
「くっ……ふ、んくっ……う……!」
力を込めるたびに小刻みに震えるサイトの背中から落ちない...
また前に戻ったりする。
心臓がばっくんばっくん言ってる。頭の中に霧がかかったみ...
わたしがサイトに乗っかって、踏みつけて……それなのに、サイ...
――わたしの方まで、気持ちいい。
「あ……嘘だろ、これ……やめ、ルイズ、マジでやめて……」
ぎゅっとわたしのベッドの布団を握りしめるサイト。その反...
「やめない。やっとサイトが良さそうになったんだもの。やめ...
腰の方をかかとでぐりぐりすると、サイトは切ない声を上げ...
その声を聞く度に、他人の手垢がついたサイトが綺麗になり...
「あっ、だめ、やばいって、だめ、ほんとにだめ……!!」
「え……え?」
サイトの声に、切羽詰まった色が混じる。身のよじり方も、...
振るい落とそうとしている様子。
あ、もしかしたら、気持ちいいのが溜まりすぎて、苦しくな...
だって、それが溢れた時が、一番気持ちいいんだから。
「こ、こらっ! 暴れないでよっ!」
「ルイズこそ動くなっ! こればっかりは本気でマズいから……...
逃げようとするサイトの上で、バランスをとることができな...
慌てて足の踏み場をずらす。
ずぼっ。
あれ、変な感触。足が沈んだ。咄嗟に確認すると、サイトの...
つま先が入り込んでしまったらしい。ぎょっとしてその足を引...
「う……あ、ああぁ……」
サイトはとろけたような、絶望したような、よくわからない...
ひょっとして、一番気持ちいいのになった? 足の下でサイ...
それから、何十秒かして。ぐったりしてしまったサイトの喉...
「……どいて……」
という、妙に冷えた声だった。さっきまでの懇願とは違う、...
「あ……うん……」
なぜかその静かな声に気圧されて、わたしはサイトの上から...
これまた静かな動きでベッドから降りた。
「あ、サイト。そ、その……良かった?」
聞くと、サイトはわたしの方を向き、……笑いかけた。感謝の...
「サ、サイト…?」
なんだか、致命的に悪いことをしてしまった予感がする。そ...
サイトはそのまま、ふらふらと変な歩き方で部屋から出て行...
どこに行くのか聞きたかったけど、その背中が『何も聞くな...
後に、わたしはこの日の出来事を思い出す度にごろごろ悶え...
つづく
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