ゼロの使い魔保管庫
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**ゼロの飼い犬4 口付けの理由 ...
■1
部屋の灯りを消して床につき、夜もふけたころ。
わたしは寝たふりをしていた瞼を開き、ゆっくり体を起こし...
僅かな月の光だけが照らすベッドの上で、隣に聞こえている...
そこには、わたしの使い魔……ヒラガサイトが、幸せそうに眠り...
「寝てる、よね?」
少しだけ彼の方に顔を寄せ、小声でつぶやく。サイトは、相...
寝息を立てていた。サイトの眠りが深いのは、ここ数日のこと...
とくん、と胸の奥が熱くなる。はやくはやく、と心ではなく...
わたしは、サイトの寝顔へそっと顔を寄せると──その唇に口付...
柔らかくて、あったかい。他の物に例えようがない、不思議...
「……はぁ……」
すぐに顔を離す。そして、体を再び寝かせる。唇が熱を持ち...
甘い感覚がじわじわ溶け出す。心地よい気だるさの中で、また...
ふわふわと、体が浮いてるみたいな感じ。とくんとくん、と...
体が熱くなって、ちょっと苦しいくらいなのに、嫌じゃない。
わたしは薄く目を開けると、今度は寝たままサイトの方に体...
体の中のふわふわがもっと膨らんで、熱くなって、切なくな...
どうしたらいいのか……自分がどうしたいのかもわからないま...
気持ちいいモヤモヤが溜まってきて、それが開放されなくて...
サイトの腕を枕にして、横になる。そうしてるだけで、またキ...
もう、何なのかしら、これ。自分でも嫌なのに、癖になっち...
例えるなら──そうね、好きなお菓子をビン詰めで買って、少...
残りはとっておいて蓋をするんだけど、やっぱりもうちょっと...
そんな感覚に似てる。
じゃあ、こいつとのキスはわたしにとって美味しいお菓子と...
そう思うんだけど、わたしはついまた顔を寄せて、キスして...
お菓子よりタチが悪いわ。お菓子と違って無くならないし、...
満足することもないんだから。
わたしにこんなクセがついちゃったのは、あの時から。
アルビオンでの任務の帰り。風竜の上でサイトに抱かれなが...
「なんで、あんなことしたのよ」
また、したらわかるかな、と思って、もう一度唇を重ねる。...
ただ、わたしの中に熱い何かが膨らんでいくだけ。
以前みたいにマッサージをしてくれたら、たぶんこの気持ち...
そう思うのだけれど、アルビオンから帰ってきて、わたしを...
ベッドに寝かせてあげるようになったり、食事をまともにして...
なんとなく、マッサージして欲しいって言い出せなくなってし...
あのキスのせい? それとも、その前から?
サイトに体に触れられたり、体を見られたりするのが恥ずか...
初めてサイトをベッドに寝かせてあげた晩。サイトがわたし...
寝ているサイトにキスしてみた。それ以来。こんなことを、毎...
それに……。何だから知らないけど、アルビオンから帰ってき...
妙に遠慮がちというか、距離を置くようになった。どうしてよ...
ぜんぶ、こいつのせい。こんな事しちゃうのもこいつのせい。
そんな風に心の中で八つ当たりしながら、わたしはまた、サ...
■2
サイトがわたしにキスした理由も気になる。でも、それと同...
サイトが、わたしを助けてくれる理由。サイト自身も、何度...
以前キュルケに言われた言葉が蘇る。わたしは、使い魔の主...
考えたら、そうなのだ。わたしは、サイトに酷いことばっか...
サイトは、フーケと戦った時に必死でわたしを助けてくれた。
ワルドに殺されそうになった時も、救い出してくれた。
どうして? わたし、使い魔にこんなに尽くして貰えるほど...
サイトをぶったり蹴ったり踏んだり鞭で叩いたりした光景が...
犬呼ばわりして、首輪をつけて引きずり回したことを思い出...
……落ち込んでいるサイトの前で、『ワルドと結婚するわ』っ...
思い返せば思い返すほど、わたしは使い魔に尽くされるに足...
どうしてよ。どうしてわたしを助けてくれるの?
どうして、勝手に呼び出して故郷に帰れなくしたわたしを恨...
――どうして、キスしたの?
サイトに覆い被さるようにして、強く唇を押しつける。わた...
ただ暖かくて気持ちいいだけじゃない、もっと重くて、切ない...
∞ ∞ ∞
気がついたら、俺はふわふわしたよくわからない場所に寝こ...
暖かくて、心地よい。ここはどこだっけと思って辺りを見回...
これだけ居心地が良いってことは、ここは俺の寝床である藁...
そこまで考えて、思い出した。確か、最近は、ルイズがベッ...
それまで使っていた藁束はもちろんのこと、日本にいたころ...
泣けるくらい寝心地の良いルイズのベッドで、ぬくぬくと眠れ...
俺は一回寝たら朝まで起きないタイプだから、目が覚めたっ...
だったら、ルイズの朝の支度をしてやらないと。最近はルイ...
着替えを用意したり洗顔の水を汲んでくるのは俺の仕事だし……。
寝起きのせいか、ぼやけた頭でそう思ったとき。寝ている俺...
「ん……何だ? 誰?」
まだ、よく見えない。どうやら人らしい。いわゆるマウント...
「サイト……」
「ルイズ?」
俺の耳に入ってきたのは、やや舌っ足らずな可愛らしい声。...
俺より先に起きてるなんて、珍しい。それはいいとして、何...
「あ、悪い。今起きて準備するから…」
「いいの、起きなくて」
どいてくれ、と言おうとした所で、ルイズに遮られてしまっ...
「え、なんで? 今日休みだっけ?」
「サイトは、わたしより、学校の方が気になるの?」
やっと周囲の様子が見えるようなって、俺の上にいるルイズ...
寂しげな表情を浮かべている。心なしか、頬が赤く上気してい...
「気になるも何も、勝手に休んじゃまずいだろ。風邪でもひい...
「心配してくれるの? じゃあ、確かめて」
ルイズは上体を倒して、顔を俺の方に近づけてきた。止める...
押しつけられる。まるで、キスしてるみたいな格好で。
■3
「どう? 熱い?」
「え、あっ、そ、そうだな、熱はない……かな?」
ルイズの吐息が唇に当たる。鳶色の綺麗な瞳がすぐ目の前に...
顔や首筋に当たって、くすぐったいけどいい匂いがする。ルイ...
俺に密着してる。
ああ、やわらかい、ちっちゃい、かるい、かわいい。ルイズ...
心臓がばっくんばっくん鳴り響く。
「ほんとに? よく確かめて」
目を閉じて、さらに強く頭を押しつけてくるルイズ。ああ、...
「ない、ないから! だから起きて学校いかないと! ね?」
「うそ……。だって、こんなに熱いのに」
必死で主張すると、ルイズは俺の手をとって、その指を……自...
熱い。最初に感じたのは、ルイズの言葉通りの感触。
次いで、とろけそうな程の柔らかさが指に伝わる。
「ル、ルイズ?」
「あのね、あのね。サイトにキスされてからね、この唇が……ず...
俺の指を唇に当てながら、ルイズは囁く。熱くて柔らかい唇が
ふるふる震える感触が伝わって、ぞくぞくする。
「て、てか、なに? 知ってたの? 起きてたの? 俺がキス...
驚愕の新事実。あの時もしルイズが起きてたなら、その場で...
真っ逆さまだったろうと予想した(まぁ、遅かれ早かれ落とさ...
「うん、起きてた。気付いてた」
「じゃ、なんで止めなかったの……?」
「……ったから」
ルイズの答えは、小さすぎて聞こえなかった。
「今、なんて言った?」
「……嫌じゃ、なかったから」
顔を真っ赤にして、はにかみながら、ルイズはそう言った。...
キスされても嫌じゃない。キスされてもOK。むしろキスして...
つまりこれは好きだからキスしても好きずきキス好きスキスキ...
「えっと、それ、どういう……」
混乱してきたので、ルイズにさらなる説明を求める。すると...
ちょっとだけ怒った風な顔をして、唇に当てていた俺の指を、...
「うわっ! あ……!?」
唇と同じくらい、いや、それ以上? ルイズの口の中は熱か...
火傷するんじゃないかと思えるくらい。それに、唇と違って、...
怪我した時とかに自分で舐めるのとも違う、今までに感じたこ...
「んむっ……ちゅる、ちゅぷっ……ん……」
熱い口の中で、小さい舌が指を舐め上げる。背筋を電流が駆...
体が跳ねそうになってしまう。銜えられているのは指一本だけ...
まるで体全体をルイズに支配されてしまったように翻弄され、...
「ぷはっ……はぁ……」
しばらくしてから、ルイズはその指を口から放した。唾液に...
感じられる以上の、大きな喪失感が俺を襲う。
「……嫌いじゃないの。サイトに触られるのも。触るのも」
僅かに零れた唾液で口元を光らせながら、ルイズは両手で俺...
「キスされるのも、するのも。……ううん、嫌いじゃないってい...
目を閉じて。
「好きなの」
そう言って、俺の唇に唇を重ねてきた。今までで一番、熱い...
ルイズの突然の行動を、俺はただ受け入れることしかできな...
■4
「あの、ルイズ、それって……」
長いキスをして、ようやく唇を離してくれたルイズに言葉を...
”俺のことが好き”って解釈していいってことなんだよな?
ルイズは、俺の上に乗っかったまま、熱っぽい視線を俺に向...
ルイズは答えない。恥ずかしがってるのかもしれないけど、...
今更、好きだという一言が言えないはずもあるまい。
「ルイズ、お前、俺のこと」
そう言うと、ルイズは少しだけ目を伏せた。なに、何なのそ...
もし、俺のことが好きだって今はっきり言ってくれたら、すぐ...
しばらく待っても、ルイズは何も言わない。じゃあ何? 今...
こんなことしてきたんじゃないのか?
それまで火がついていた衝動が、少しずつ冷えていく。
何だろう。ルイズが俺を好きと言えない理由って、一体何なん...
そうして、思い出した。つい先日の、アルビオン遠征での出...
その時感じた、屈辱と、無力感と、劣等感と……それに、嫉妬。
「……まさか、まだ、ワルドのこと」
自分でもあまり言いたくなかったが、つい、口に出して聞い...
「そんなっ! それは違うの! わたし、ワルドには幼い頃憧...
取り乱し、必死に否定するルイズ。けれど、今の俺にはその...
「ほんとに? もし、アイツが裏切り者じゃなかったら……敵じ...
「違うっ! ちがうの! わたし、しなかった! ワルドが敵...
ルイズはそう言うが、いまいち信用できない。あれだけ信頼...
急に止めますなんて言い出すだろうか。もし止めたくなったと...
「そんなこと、口で言われたって、信用できねーよ」
言ってしまった。自分でも、なぜこんなに酷い台詞が口から...
ルイズが俺を好きと言ってくれないのが、すごく不満で、不安...
だから、この言葉は、『証明のかわりに、好きって言ってく...
その言葉を引き金にして、俺をみつめるルイズの目から光る...
「どうして……?」
ルイズは、涙を拭こうともしないで、震える弱々しい声で呟...
「どうしてそんな意地悪言うの……?」
整った、綺麗な顔が、悲しみに歪む。それを見てようやく、...
言ってしまったのかを理解した。
「あっ、ごごごごめんっ! 言い過ぎた! 俺が悪かった!」
慌てふためいて、ルイズの肩を抱こうとする。けど、なぜか...
「いいの。わかってる。わたし、サイトにひどいことばっかり...
だから、サイトを責められないの……わかってるの」
ルイズは、子供みたいに泣きじゃくり、子供みたいな口調で...
悪いのは、絶対的に俺のはずなのに。
「サイト……どうしたらゆるしてくれる? どうしたら、わたし...
俺の顔をのぞき込んだルイズの涙が、頬に落ちる。俺の事な...
俺の方が、この涙を止められる方法を聞きたい。
ルイズは、涙ながらに、何かを決意したようだった。その瞳...
その顔が俺の耳元に寄せられ、ルイズは内緒話をするように...
「わたし、なんでもしてあげる。わたしに、なんでもしていい...
■5
ボンっ、と爆発したみたいに、頭の中が沸騰する。な、なな...
そのルイズの声には、強い決意が込められていて、嘘だとも...
そして、言った後、恥ずかしそうに俺の服をぎゅっと握りし...
俺の胸元に顔を押しつけた様子は、『なんでも』が、つまりそ...
うそ、うそ、うそ、本当に? ホントにいいの? 犬いいの...
俺はもともとルイズを恨んでなんかいないし、ルイズに悪意...
だから、ここでルイズが俺に贖罪する必要はなく、この提案は...
でも、ルイズはそうは思ってないですよ? 俺の中の悪魔が...
今の言葉を紡ぎ出したんですよ? 応えてあげるのが誠意って...
あー! やめろー! 悪魔がっ、俺の中の暗黒面がっ!!
俺は必死になって自らの中の誘惑を斬り捨てる。だめだ。だ...
可愛いし、綺麗だし、愛しいし、良い匂いするし、良い感触す...
今、俺が彼女にしてあげるべきことは、そんなんじゃない。そ...
「……じゃ、じゃあ、このお願い、聞いてくれるか?」
俺は、震えて歯がかちかち鳴り始めたのを必死で止めながら...
ルイズは、少しだけ顔を上げて俺を見て……口元は俺の胸に埋...
ああ、かわいい。俺は馬鹿だ。揃えれば何でも願いが叶えら...
ギャルのパンティーを願ってしまう豚くらい馬鹿だ。
「俺は、ルイズが酷いご主人様だなんて思ってないし、ワルド...
だから、それを信じて……もう、泣くのやめてくれ。な?」
自分でも言っててクサいと思ったけど、本心。それは、ルイ...
同じくらい強く願ってること。こいつの泣き顔なんて、見たく...
ルイズは、驚いた顔をした。そして、少しの間困惑の表情を...
それから、照れくさそうに、微笑んだ。
今までに、一回しか見たことがなかったルイズの笑み。それ...
誘惑を振り切った甲斐があったと思えた。ああ、良かった。俺...
「嬉しい……サイト、やさしい……♪」
ルイズは、俺に体をすり寄せ、甘えてきた。その感触に、や...
良かったかなぁなんて速攻の前言撤回をしかけたところで、ル...
「あのね、サイト」
「な、なんでしょう?」
「なんでもしてあげるし、していいって言ったけど……ひとつだ...
そう言って、また口付けをしてきた。その頬の涙は、もう乾...
K.O! カーンカーンカーン!
俺の中で先程の悪魔が高らかに両手を上げてガッツポーズを...
腰にはチャンピオンベルトなんて巻いていやがる。
だめだ。だめ。ルイズずるい。こんなのずるい。よくわかん...
今から空に向かいます。地球の青さと宇宙の広大さを知ります...
極めてどうでもいい一歩だけれど、俺にとってはとっても大事...
「ルイズ、ルイズ、ルイズっ!」
「ひゃっ!?」
たまらなくなって、俺の体の上のルイズを抱きしめる。今ま...
今になったら簡単にできた。細くて軽い体が、俺の手の中にす...
こんな可憐な子を。乱暴にしたら壊れてしまいそうな芸術品...
でも、でも、優しくするから。俺を優しいって言ってくれたル...
■6
抱きしめたルイズの体を横に下ろして、今度は俺がルイズに...
気付けば、まだ辺りは暗かった。自分の下にいるルイズの表...
あれ、さっきまでは、普通にルイズの顔も体もよく見えてた...
けど、その時の俺は、深く考える余裕もないほど興奮してし...
「えっ……なに、どうしたの、サイト?」
ルイズの慌てた声が聞こえる。さっきまであんなに積極的だ...
緊張してしまうものなのだろう。
「ごめん、なるべく怖がらせないようにするから……」
「何よそれ……ちょっと、やめて!」
ネグリジェに手をかける俺の下で、ルイズはじたばたと暴れ...
ここまで抵抗するのはあんまりじゃないだろうか。それとも、...
「おい、あんま動くなよ、やりにくいだろ?」
「嘘、どうして!? やめてよ! こんなのやだっ! やだぁ…...
その言葉の最後で、ルイズはしゃくりあげた。さっき、もう...
聞いてもらったばかりなのに。
さすがにおかしい。そう思って手を止めたとき、雲間に隠れ...
窓明かりがベッドの上を微かに照らした。
そこには、当然ながらルイズが横になっていて。困惑に怯え...
今にも零れそうな涙が光っていた。頬にはまだ涙の跡はなく、”...
「あ…………」
頭をハンマーでガツンと殴られたような衝撃。自分が、何を...
夢。今までのは、夢。俺は勝手な夢を見て、ルイズを抱きそう...
そのまま夢の続きを実行するみたいに、現実のルイズを組み敷...
寝ぼけた、なんて言い訳が通用する筈が無い。これは、これ...
「ごめ……!!」
弾かれるようにルイズから離れ、ベッドから駆け下りる。そ...
謝って済む問題じゃない。許されるわけない……!
ルイズは上体を起こし、その細い肩を自ら抱いて、小さく震...
窓とは逆方向で、その表情がわからない。きっと、俺を軽蔑の...
いや、それどころじゃない。恐怖や、憎悪や、絶望の目を向け...
俺はそのまま、そろそろと後じさって、部屋のドアの近くま...
怯えさせてしまうと思ったから。
ドアノブに手をかけたとき、ルイズが何か言おうと口を開い...
それを聞く前に、俺はルイズの部屋から飛び出し、廊下を走...
ひょっとしたら、もうここには、帰ってこないのかもしれな...
■7
∞ ∞ ∞
サイトが飛び出していったドアの方を呆然と見つめながら、...
まだ、心臓がばくんばくん言ってる。何が起きたのか、完全...
最近のクセになってしまった、寝ているサイトへのキスを何...
今日は、いつもより熱が入ってしまって。ひょっとしたらサイ...
強くキスしちゃってたんだけど。
何度目かわからないキスの途中に、急にサイトはわたしを抱...
ひっくり返すみたいにわたしの上に覆い被さってきた。
どくん、とまた心臓が跳ねる。あれって、あれって、もちろ...
わたしを、その……どうにかしちゃうつもりだったのよね。
かあっと頬が熱くなる。前……確か、フリッグの舞踏会の後も...
のし掛かってきた。その時は、それまで見てた夢のこともあっ...
今は、違う。そりゃ、びっくりしたし、怖かったけど……あの...
だって、だって、急にあんなことしてきたってことは。まさ...
キスしてたことに、気付かれてたってことじゃないの?
考えてみれば、寝てる時に何度もキスされてるなんてことに...
なんていうか、許してる、って誤解しても仕方ないわよね。……...
まくらを持って、ぎゅっと抱きしめる。気付いてた? わた...
気付いてて、知らないフリしてたの? わたしの気付かない...
「あああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!」
ごろごろごろごろ。まくらを抱えたまま、ベッドの上をのた...
もしそうだったら、死ぬしかない。名誉のためにこの命を絶つ...
「はぁ、はぁ、はぁ……」
荒くなった息を整えながら、考える。っていうか、違うわ。...
サイトが、わたしがその、許してるって誤解して、わたしにの...
ナメられてるじゃない。そんな誤解、解かないとまずいじゃ...
今後あんなことされないためにも必要だわ。
だって、わたしが許すわけないじゃないの。あいつは平民だ...
それどころかこの世界の人間ですらないし。ヴァリエール公爵...
それくらい常識でわかりなさいよ。
それに、まぁ有り得ない仮定だけど、もしも身分の差が無か...
わたしが許すわけ……。何度も、命をかけてわたしを救ってくれ...
結構頼りになって格好いいわたしの使い魔に……。
…………。
あーもう! 有り得ない仮定の話はどーでもいいの! 考え...
と、とにかく。あいつは何だか知らないけど逃げちゃったけ...
解いておかないと。あいつは使い魔で、わたしは主人。そのこ...
わたしは一人で力強く頷いて、ぱたりとベッドに横になった。
体はまだ火照っていて、再び眠りにつくまでには、かなりの...
この時のわたしは、サイトとの間で大きな気持ちの隔たりが...
それから、もうひとつ。わたしは、サイトに許すわけがない...
けれど、サイトにああいうことをされて、わたし自身が”嫌”...
気付いていなかったのだった。
つづく
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**ゼロの飼い犬4 口付けの理由 ...
■1
部屋の灯りを消して床につき、夜もふけたころ。
わたしは寝たふりをしていた瞼を開き、ゆっくり体を起こし...
僅かな月の光だけが照らすベッドの上で、隣に聞こえている...
そこには、わたしの使い魔……ヒラガサイトが、幸せそうに眠り...
「寝てる、よね?」
少しだけ彼の方に顔を寄せ、小声でつぶやく。サイトは、相...
寝息を立てていた。サイトの眠りが深いのは、ここ数日のこと...
とくん、と胸の奥が熱くなる。はやくはやく、と心ではなく...
わたしは、サイトの寝顔へそっと顔を寄せると──その唇に口付...
柔らかくて、あったかい。他の物に例えようがない、不思議...
「……はぁ……」
すぐに顔を離す。そして、体を再び寝かせる。唇が熱を持ち...
甘い感覚がじわじわ溶け出す。心地よい気だるさの中で、また...
ふわふわと、体が浮いてるみたいな感じ。とくんとくん、と...
体が熱くなって、ちょっと苦しいくらいなのに、嫌じゃない。
わたしは薄く目を開けると、今度は寝たままサイトの方に体...
体の中のふわふわがもっと膨らんで、熱くなって、切なくな...
どうしたらいいのか……自分がどうしたいのかもわからないま...
気持ちいいモヤモヤが溜まってきて、それが開放されなくて...
サイトの腕を枕にして、横になる。そうしてるだけで、またキ...
もう、何なのかしら、これ。自分でも嫌なのに、癖になっち...
例えるなら──そうね、好きなお菓子をビン詰めで買って、少...
残りはとっておいて蓋をするんだけど、やっぱりもうちょっと...
そんな感覚に似てる。
じゃあ、こいつとのキスはわたしにとって美味しいお菓子と...
そう思うんだけど、わたしはついまた顔を寄せて、キスして...
お菓子よりタチが悪いわ。お菓子と違って無くならないし、...
満足することもないんだから。
わたしにこんなクセがついちゃったのは、あの時から。
アルビオンでの任務の帰り。風竜の上でサイトに抱かれなが...
「なんで、あんなことしたのよ」
また、したらわかるかな、と思って、もう一度唇を重ねる。...
ただ、わたしの中に熱い何かが膨らんでいくだけ。
以前みたいにマッサージをしてくれたら、たぶんこの気持ち...
そう思うのだけれど、アルビオンから帰ってきて、わたしを...
ベッドに寝かせてあげるようになったり、食事をまともにして...
なんとなく、マッサージして欲しいって言い出せなくなってし...
あのキスのせい? それとも、その前から?
サイトに体に触れられたり、体を見られたりするのが恥ずか...
初めてサイトをベッドに寝かせてあげた晩。サイトがわたし...
寝ているサイトにキスしてみた。それ以来。こんなことを、毎...
それに……。何だから知らないけど、アルビオンから帰ってき...
妙に遠慮がちというか、距離を置くようになった。どうしてよ...
ぜんぶ、こいつのせい。こんな事しちゃうのもこいつのせい。
そんな風に心の中で八つ当たりしながら、わたしはまた、サ...
■2
サイトがわたしにキスした理由も気になる。でも、それと同...
サイトが、わたしを助けてくれる理由。サイト自身も、何度...
以前キュルケに言われた言葉が蘇る。わたしは、使い魔の主...
考えたら、そうなのだ。わたしは、サイトに酷いことばっか...
サイトは、フーケと戦った時に必死でわたしを助けてくれた。
ワルドに殺されそうになった時も、救い出してくれた。
どうして? わたし、使い魔にこんなに尽くして貰えるほど...
サイトをぶったり蹴ったり踏んだり鞭で叩いたりした光景が...
犬呼ばわりして、首輪をつけて引きずり回したことを思い出...
……落ち込んでいるサイトの前で、『ワルドと結婚するわ』っ...
思い返せば思い返すほど、わたしは使い魔に尽くされるに足...
どうしてよ。どうしてわたしを助けてくれるの?
どうして、勝手に呼び出して故郷に帰れなくしたわたしを恨...
――どうして、キスしたの?
サイトに覆い被さるようにして、強く唇を押しつける。わた...
ただ暖かくて気持ちいいだけじゃない、もっと重くて、切ない...
∞ ∞ ∞
気がついたら、俺はふわふわしたよくわからない場所に寝こ...
暖かくて、心地よい。ここはどこだっけと思って辺りを見回...
これだけ居心地が良いってことは、ここは俺の寝床である藁...
そこまで考えて、思い出した。確か、最近は、ルイズがベッ...
それまで使っていた藁束はもちろんのこと、日本にいたころ...
泣けるくらい寝心地の良いルイズのベッドで、ぬくぬくと眠れ...
俺は一回寝たら朝まで起きないタイプだから、目が覚めたっ...
だったら、ルイズの朝の支度をしてやらないと。最近はルイ...
着替えを用意したり洗顔の水を汲んでくるのは俺の仕事だし……。
寝起きのせいか、ぼやけた頭でそう思ったとき。寝ている俺...
「ん……何だ? 誰?」
まだ、よく見えない。どうやら人らしい。いわゆるマウント...
「サイト……」
「ルイズ?」
俺の耳に入ってきたのは、やや舌っ足らずな可愛らしい声。...
俺より先に起きてるなんて、珍しい。それはいいとして、何...
「あ、悪い。今起きて準備するから…」
「いいの、起きなくて」
どいてくれ、と言おうとした所で、ルイズに遮られてしまっ...
「え、なんで? 今日休みだっけ?」
「サイトは、わたしより、学校の方が気になるの?」
やっと周囲の様子が見えるようなって、俺の上にいるルイズ...
寂しげな表情を浮かべている。心なしか、頬が赤く上気してい...
「気になるも何も、勝手に休んじゃまずいだろ。風邪でもひい...
「心配してくれるの? じゃあ、確かめて」
ルイズは上体を倒して、顔を俺の方に近づけてきた。止める...
押しつけられる。まるで、キスしてるみたいな格好で。
■3
「どう? 熱い?」
「え、あっ、そ、そうだな、熱はない……かな?」
ルイズの吐息が唇に当たる。鳶色の綺麗な瞳がすぐ目の前に...
顔や首筋に当たって、くすぐったいけどいい匂いがする。ルイ...
俺に密着してる。
ああ、やわらかい、ちっちゃい、かるい、かわいい。ルイズ...
心臓がばっくんばっくん鳴り響く。
「ほんとに? よく確かめて」
目を閉じて、さらに強く頭を押しつけてくるルイズ。ああ、...
「ない、ないから! だから起きて学校いかないと! ね?」
「うそ……。だって、こんなに熱いのに」
必死で主張すると、ルイズは俺の手をとって、その指を……自...
熱い。最初に感じたのは、ルイズの言葉通りの感触。
次いで、とろけそうな程の柔らかさが指に伝わる。
「ル、ルイズ?」
「あのね、あのね。サイトにキスされてからね、この唇が……ず...
俺の指を唇に当てながら、ルイズは囁く。熱くて柔らかい唇が
ふるふる震える感触が伝わって、ぞくぞくする。
「て、てか、なに? 知ってたの? 起きてたの? 俺がキス...
驚愕の新事実。あの時もしルイズが起きてたなら、その場で...
真っ逆さまだったろうと予想した(まぁ、遅かれ早かれ落とさ...
「うん、起きてた。気付いてた」
「じゃ、なんで止めなかったの……?」
「……ったから」
ルイズの答えは、小さすぎて聞こえなかった。
「今、なんて言った?」
「……嫌じゃ、なかったから」
顔を真っ赤にして、はにかみながら、ルイズはそう言った。...
キスされても嫌じゃない。キスされてもOK。むしろキスして...
つまりこれは好きだからキスしても好きずきキス好きスキスキ...
「えっと、それ、どういう……」
混乱してきたので、ルイズにさらなる説明を求める。すると...
ちょっとだけ怒った風な顔をして、唇に当てていた俺の指を、...
「うわっ! あ……!?」
唇と同じくらい、いや、それ以上? ルイズの口の中は熱か...
火傷するんじゃないかと思えるくらい。それに、唇と違って、...
怪我した時とかに自分で舐めるのとも違う、今までに感じたこ...
「んむっ……ちゅる、ちゅぷっ……ん……」
熱い口の中で、小さい舌が指を舐め上げる。背筋を電流が駆...
体が跳ねそうになってしまう。銜えられているのは指一本だけ...
まるで体全体をルイズに支配されてしまったように翻弄され、...
「ぷはっ……はぁ……」
しばらくしてから、ルイズはその指を口から放した。唾液に...
感じられる以上の、大きな喪失感が俺を襲う。
「……嫌いじゃないの。サイトに触られるのも。触るのも」
僅かに零れた唾液で口元を光らせながら、ルイズは両手で俺...
「キスされるのも、するのも。……ううん、嫌いじゃないってい...
目を閉じて。
「好きなの」
そう言って、俺の唇に唇を重ねてきた。今までで一番、熱い...
ルイズの突然の行動を、俺はただ受け入れることしかできな...
■4
「あの、ルイズ、それって……」
長いキスをして、ようやく唇を離してくれたルイズに言葉を...
”俺のことが好き”って解釈していいってことなんだよな?
ルイズは、俺の上に乗っかったまま、熱っぽい視線を俺に向...
ルイズは答えない。恥ずかしがってるのかもしれないけど、...
今更、好きだという一言が言えないはずもあるまい。
「ルイズ、お前、俺のこと」
そう言うと、ルイズは少しだけ目を伏せた。なに、何なのそ...
もし、俺のことが好きだって今はっきり言ってくれたら、すぐ...
しばらく待っても、ルイズは何も言わない。じゃあ何? 今...
こんなことしてきたんじゃないのか?
それまで火がついていた衝動が、少しずつ冷えていく。
何だろう。ルイズが俺を好きと言えない理由って、一体何なん...
そうして、思い出した。つい先日の、アルビオン遠征での出...
その時感じた、屈辱と、無力感と、劣等感と……それに、嫉妬。
「……まさか、まだ、ワルドのこと」
自分でもあまり言いたくなかったが、つい、口に出して聞い...
「そんなっ! それは違うの! わたし、ワルドには幼い頃憧...
取り乱し、必死に否定するルイズ。けれど、今の俺にはその...
「ほんとに? もし、アイツが裏切り者じゃなかったら……敵じ...
「違うっ! ちがうの! わたし、しなかった! ワルドが敵...
ルイズはそう言うが、いまいち信用できない。あれだけ信頼...
急に止めますなんて言い出すだろうか。もし止めたくなったと...
「そんなこと、口で言われたって、信用できねーよ」
言ってしまった。自分でも、なぜこんなに酷い台詞が口から...
ルイズが俺を好きと言ってくれないのが、すごく不満で、不安...
だから、この言葉は、『証明のかわりに、好きって言ってく...
その言葉を引き金にして、俺をみつめるルイズの目から光る...
「どうして……?」
ルイズは、涙を拭こうともしないで、震える弱々しい声で呟...
「どうしてそんな意地悪言うの……?」
整った、綺麗な顔が、悲しみに歪む。それを見てようやく、...
言ってしまったのかを理解した。
「あっ、ごごごごめんっ! 言い過ぎた! 俺が悪かった!」
慌てふためいて、ルイズの肩を抱こうとする。けど、なぜか...
「いいの。わかってる。わたし、サイトにひどいことばっかり...
だから、サイトを責められないの……わかってるの」
ルイズは、子供みたいに泣きじゃくり、子供みたいな口調で...
悪いのは、絶対的に俺のはずなのに。
「サイト……どうしたらゆるしてくれる? どうしたら、わたし...
俺の顔をのぞき込んだルイズの涙が、頬に落ちる。俺の事な...
俺の方が、この涙を止められる方法を聞きたい。
ルイズは、涙ながらに、何かを決意したようだった。その瞳...
その顔が俺の耳元に寄せられ、ルイズは内緒話をするように...
「わたし、なんでもしてあげる。わたしに、なんでもしていい...
■5
ボンっ、と爆発したみたいに、頭の中が沸騰する。な、なな...
そのルイズの声には、強い決意が込められていて、嘘だとも...
そして、言った後、恥ずかしそうに俺の服をぎゅっと握りし...
俺の胸元に顔を押しつけた様子は、『なんでも』が、つまりそ...
うそ、うそ、うそ、本当に? ホントにいいの? 犬いいの...
俺はもともとルイズを恨んでなんかいないし、ルイズに悪意...
だから、ここでルイズが俺に贖罪する必要はなく、この提案は...
でも、ルイズはそうは思ってないですよ? 俺の中の悪魔が...
今の言葉を紡ぎ出したんですよ? 応えてあげるのが誠意って...
あー! やめろー! 悪魔がっ、俺の中の暗黒面がっ!!
俺は必死になって自らの中の誘惑を斬り捨てる。だめだ。だ...
可愛いし、綺麗だし、愛しいし、良い匂いするし、良い感触す...
今、俺が彼女にしてあげるべきことは、そんなんじゃない。そ...
「……じゃ、じゃあ、このお願い、聞いてくれるか?」
俺は、震えて歯がかちかち鳴り始めたのを必死で止めながら...
ルイズは、少しだけ顔を上げて俺を見て……口元は俺の胸に埋...
ああ、かわいい。俺は馬鹿だ。揃えれば何でも願いが叶えら...
ギャルのパンティーを願ってしまう豚くらい馬鹿だ。
「俺は、ルイズが酷いご主人様だなんて思ってないし、ワルド...
だから、それを信じて……もう、泣くのやめてくれ。な?」
自分でも言っててクサいと思ったけど、本心。それは、ルイ...
同じくらい強く願ってること。こいつの泣き顔なんて、見たく...
ルイズは、驚いた顔をした。そして、少しの間困惑の表情を...
それから、照れくさそうに、微笑んだ。
今までに、一回しか見たことがなかったルイズの笑み。それ...
誘惑を振り切った甲斐があったと思えた。ああ、良かった。俺...
「嬉しい……サイト、やさしい……♪」
ルイズは、俺に体をすり寄せ、甘えてきた。その感触に、や...
良かったかなぁなんて速攻の前言撤回をしかけたところで、ル...
「あのね、サイト」
「な、なんでしょう?」
「なんでもしてあげるし、していいって言ったけど……ひとつだ...
そう言って、また口付けをしてきた。その頬の涙は、もう乾...
K.O! カーンカーンカーン!
俺の中で先程の悪魔が高らかに両手を上げてガッツポーズを...
腰にはチャンピオンベルトなんて巻いていやがる。
だめだ。だめ。ルイズずるい。こんなのずるい。よくわかん...
今から空に向かいます。地球の青さと宇宙の広大さを知ります...
極めてどうでもいい一歩だけれど、俺にとってはとっても大事...
「ルイズ、ルイズ、ルイズっ!」
「ひゃっ!?」
たまらなくなって、俺の体の上のルイズを抱きしめる。今ま...
今になったら簡単にできた。細くて軽い体が、俺の手の中にす...
こんな可憐な子を。乱暴にしたら壊れてしまいそうな芸術品...
でも、でも、優しくするから。俺を優しいって言ってくれたル...
■6
抱きしめたルイズの体を横に下ろして、今度は俺がルイズに...
気付けば、まだ辺りは暗かった。自分の下にいるルイズの表...
あれ、さっきまでは、普通にルイズの顔も体もよく見えてた...
けど、その時の俺は、深く考える余裕もないほど興奮してし...
「えっ……なに、どうしたの、サイト?」
ルイズの慌てた声が聞こえる。さっきまであんなに積極的だ...
緊張してしまうものなのだろう。
「ごめん、なるべく怖がらせないようにするから……」
「何よそれ……ちょっと、やめて!」
ネグリジェに手をかける俺の下で、ルイズはじたばたと暴れ...
ここまで抵抗するのはあんまりじゃないだろうか。それとも、...
「おい、あんま動くなよ、やりにくいだろ?」
「嘘、どうして!? やめてよ! こんなのやだっ! やだぁ…...
その言葉の最後で、ルイズはしゃくりあげた。さっき、もう...
聞いてもらったばかりなのに。
さすがにおかしい。そう思って手を止めたとき、雲間に隠れ...
窓明かりがベッドの上を微かに照らした。
そこには、当然ながらルイズが横になっていて。困惑に怯え...
今にも零れそうな涙が光っていた。頬にはまだ涙の跡はなく、”...
「あ…………」
頭をハンマーでガツンと殴られたような衝撃。自分が、何を...
夢。今までのは、夢。俺は勝手な夢を見て、ルイズを抱きそう...
そのまま夢の続きを実行するみたいに、現実のルイズを組み敷...
寝ぼけた、なんて言い訳が通用する筈が無い。これは、これ...
「ごめ……!!」
弾かれるようにルイズから離れ、ベッドから駆け下りる。そ...
謝って済む問題じゃない。許されるわけない……!
ルイズは上体を起こし、その細い肩を自ら抱いて、小さく震...
窓とは逆方向で、その表情がわからない。きっと、俺を軽蔑の...
いや、それどころじゃない。恐怖や、憎悪や、絶望の目を向け...
俺はそのまま、そろそろと後じさって、部屋のドアの近くま...
怯えさせてしまうと思ったから。
ドアノブに手をかけたとき、ルイズが何か言おうと口を開い...
それを聞く前に、俺はルイズの部屋から飛び出し、廊下を走...
ひょっとしたら、もうここには、帰ってこないのかもしれな...
■7
∞ ∞ ∞
サイトが飛び出していったドアの方を呆然と見つめながら、...
まだ、心臓がばくんばくん言ってる。何が起きたのか、完全...
最近のクセになってしまった、寝ているサイトへのキスを何...
今日は、いつもより熱が入ってしまって。ひょっとしたらサイ...
強くキスしちゃってたんだけど。
何度目かわからないキスの途中に、急にサイトはわたしを抱...
ひっくり返すみたいにわたしの上に覆い被さってきた。
どくん、とまた心臓が跳ねる。あれって、あれって、もちろ...
わたしを、その……どうにかしちゃうつもりだったのよね。
かあっと頬が熱くなる。前……確か、フリッグの舞踏会の後も...
のし掛かってきた。その時は、それまで見てた夢のこともあっ...
今は、違う。そりゃ、びっくりしたし、怖かったけど……あの...
だって、だって、急にあんなことしてきたってことは。まさ...
キスしてたことに、気付かれてたってことじゃないの?
考えてみれば、寝てる時に何度もキスされてるなんてことに...
なんていうか、許してる、って誤解しても仕方ないわよね。……...
まくらを持って、ぎゅっと抱きしめる。気付いてた? わた...
気付いてて、知らないフリしてたの? わたしの気付かない...
「あああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!」
ごろごろごろごろ。まくらを抱えたまま、ベッドの上をのた...
もしそうだったら、死ぬしかない。名誉のためにこの命を絶つ...
「はぁ、はぁ、はぁ……」
荒くなった息を整えながら、考える。っていうか、違うわ。...
サイトが、わたしがその、許してるって誤解して、わたしにの...
ナメられてるじゃない。そんな誤解、解かないとまずいじゃ...
今後あんなことされないためにも必要だわ。
だって、わたしが許すわけないじゃないの。あいつは平民だ...
それどころかこの世界の人間ですらないし。ヴァリエール公爵...
それくらい常識でわかりなさいよ。
それに、まぁ有り得ない仮定だけど、もしも身分の差が無か...
わたしが許すわけ……。何度も、命をかけてわたしを救ってくれ...
結構頼りになって格好いいわたしの使い魔に……。
…………。
あーもう! 有り得ない仮定の話はどーでもいいの! 考え...
と、とにかく。あいつは何だか知らないけど逃げちゃったけ...
解いておかないと。あいつは使い魔で、わたしは主人。そのこ...
わたしは一人で力強く頷いて、ぱたりとベッドに横になった。
体はまだ火照っていて、再び眠りにつくまでには、かなりの...
この時のわたしは、サイトとの間で大きな気持ちの隔たりが...
それから、もうひとつ。わたしは、サイトに許すわけがない...
けれど、サイトにああいうことをされて、わたし自身が”嫌”...
気付いていなかったのだった。
つづく
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