ゼロの使い魔保管庫
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**ゼロの飼い犬6 黒い瞳の彼 ...
■1
「ごめんなさい、狭いし、あんまり立派な部屋じゃないんです...
他の部屋の子に聞こえないように、そっとドアを開いて、小...
サイトさんは、「お邪魔します」なんて言いながら、わたし...
二段ベッドと、古い机やタンスなんかが二人分。小さな窓に...
ミス・ヴァリエールの部屋に住んでいるサイトさんを招くの...
一応、サイトさんのお風呂に行く前に、軽くお掃除しておいた...
「いや、俺の部屋もこんな感じだったし、むしろ落ち着くかな」
「そうなんですか?」
「いや、広さがね。俺の部屋はもっと散らかってたけど」
サイトさんは、冗談めかして笑いました。サイトさんはここ...
来たって言ってたけど、どんなお部屋に住んでたのでしょう。
「えっと……それで、俺はどこに寝たらいいのかな」
サイトさんの、遠慮がちな質問に、どきっとします。そう、...
この部屋に泊めるためにお呼びして……そして、サイトさんはこ...
わたしについてきたのです。
そのことを今更思い出して、先程のお風呂での体の火照りが...
「それじゃ、二段ベッドの下で構いませんか? わたしの使っ...
「シエスタの使ってるベッドに!?」
「だって、もうひとつはわたしと同室の子のベッドですし」
「う、そういえばそうなるのか」
わたしのベッドを使うようにサイトさんに言うと、サイトさ...
わたしも、男の人に自分のベッドで寝てもらうなんて、今まで...
でも、サイトさんだったら構いません。そのつもりでここへ...
「じゃあ、シエスタが上のベッドを使うっていうこと?」
「……わたしがどこで寝たらいいか、サイトさんが決めてくださ...
サイトさんの顔をのぞき込んで、ちょっと意地悪な台詞。
「え、あ、う、えっと……うん、シエスタは上でお願い」
「わかりました」
サイトさんはわたしの意地悪に気付いたのか、面白いくらい...
わたしも、それ以上は何も言いません。二段ベッドのハシゴに...
――そこで、上の段のベッドを見て、わたしの体が固まりまし...
だって、そこには、掛け布団が無くなっていたのだから。
「シエスタ、どうしたんだ?」
「えと……その、掛け布団、持って行かれちゃったみたいです……」
またどきんどきん鳴り出した心臓を持て余しながら、なるべ...
「え!? それ、どういう……」
「なんていうか、その、よその部屋に移ってもらった子に、気...
照れ笑いをしながらサイトさんの方を見ましたが、きっとわ...
でもでも、これはある意味チャンスというか、むしろ天が『...
なんて言ってるということなのかもしれないわ。そう、きっと...
サイトさんに捧げてしまうつもりだったのだから。
「……わたしのベッドで、二人で寝るしかないみたいです……」
ゆっくりハシゴから降りて、震える声を抑えながら、サイト...
「それはちょっとまずいって! 俺は布団無しでもいいから!」
「駄目です、それじゃあ風邪ひいちゃいます……ダメです」
わたしは強くそう続けて、サイトさんの服をぎゅっと掴みま...
■2
「……寒くないですか? お布団からはみ出したりしてませんか...
「だ、だいじょぶ」
「ほんとですか、もうちょっと近付いた方が……」
「いやほんと、十分あったかいから」
背中の方から、サイトさんの声。ベッドの中に、わたし以外...
結局、わたしとサイトさんは、同じ布団で寝ることになりま...
というか、わたしが強引に一緒に寝るように説得したのだけれ...
サイトさんには寒いかどうか聞いたけど……でも、小さな布団...
本当はちっとも寒くなんかない。
すぐ近くにあるサイトさんの体はすごく温かいし……それに、...
火照ったままだから。むしろ、汗が滲み出てきてしまうくらい...
サイトさんが、すぐ側に。振り向けば、その背中に触れるこ...
――わたしと一緒に、ベッドの中に。
頭の中まで、沸騰したヤカンみたいに熱くなってぐらぐらす...
夢みたいで、まるで他人のことのように思えてきて。
でも、これは、わたしが望んで……サイトさんに求めて、つく...
そもそもの始まりは、ヴェストリの広場で座り込んでいたサ...
サイトさんは、ミス・ヴァリエールと何かあって、落ち込ん...
そして、その落ち込み方は、今までに一度も見たことがない...
誰かが支えてあげないと、サイトさんは本当に深く傷ついてし...
背中の、サイトさんの温もりを感じながら考える。
何が、サイトさんをそんなに落ち込ませたのでしょう。サイ...
わたしの知っているサイトさんは、凄く強い人です。貴族の...
言いたいことをはっきり言って、悠然と立ち向かえる人。まる...
それは、わたしが今まで一度も見たことがないもの。今まで...
サイトさんの強さは、目にも止まらない速さで剣が振れると...
平民は貴族よりも劣るものであるという常識を壊すことができ...
心が、魂が強い人……だから、わたしは惹かれたのです。わた...
わたしたちが得られるはずがないと思っていたものを持ってい...
だから、一人で校舎の壁を背にして座り込むサイトさんを見...
こんなに強いサイトさんを、本気で打ちのめすこと。それは並...
わたしは、それを癒してあげたかった。忘れさせてあげたか...
わたしが恋してしまっている、彼を……助けてあげたかった。
でも、サイトさんは、わたしに落ち込んでいる理由をはっき...
きっと、話したくないことなのでしょう。言葉にしたら、も...
それでわたしは、サイトさんを助けてあげる方法に……。
ぎゅうっ、と胸の奥が痛くなる。そう、わたしは、綺麗じゃ...
サイトさんにわたしの体を差し出して、それで慰めになった...
そう思って、サイトさんとまたお風呂を一緒したいなんて言...
胸の痛みが大きくなる。思わず、体を丸めてしまう。
それは、本当にサイトさんを慰めるため? わたしの中の何...
サイトさんのためじゃなくて、自分のためなんじゃないの?
落ち込んでいるところにつけ込んで、優しくして、ご飯なん...
あげくに体で釣って……彼に、自分のことを見てくれるようにし...
耳を塞ぐ。実際に、誰かが自分に語りかけているわけじゃな...
そう。わたしは怖かった。サイトさんがミス・ヴァリエール...
ミス・ツェルプストーにあからさまな誘惑をされているのを見...
結局、サイトさんも、貴族の方のものになってしまって……そ...
ではないかって、怖かった。ただのメイドなんかより、お金持...
どう考えても魅力があることがわかっていて……それが怖かった。
■3
だから、わたしは――サイトさんに、”手を付けようとした”の...
母が言っていたことを思い出す。『シエスタや、男の人が傷...
惚れさせるチャンスなんだよ。そういう時に一気に攻めなさい...
たぶん、その言葉は正しい。正しいけど……時に、凄く汚らわ...
涙が零れそうになってくる。この、サイトさんと一緒に寝て...
すごく不安になってくる。サイトさんは、どう思ったのかしら...
あんなふうに迫って……最後には、部屋に呼んで一緒のベッドで...
はしたない、と思ったかもしれない。汚いと思ったかもしれ...
――所詮、平民女なんてこんな軽いやつなんだ、なんて思った...
わたしを大事にしてるって、魅力的だって言ってくれたサイ...
「………うっ……!」
つい、しゃくり上げて、嗚咽が漏れてしまいました。慌てて...
「……シエスタ? どうしたの?」
「なんでもありません、なんでもっ……」
弁解するけど、声が完全に震えてしまっている。サイトさん...
「シエスタ……泣いてる?」
サイトさんはわたしの方へ体を向けて、顔をのぞき込んでき...
暗い部屋の中だけど、サイトさんの表情はわかった。わたし...
純粋に、気遣っている目。
わたしの好きな――わたしと一緒の、黒い瞳。
その目を見て、今までサイトさんがわたしを汚いと思ってい...
疑っていたことが恥ずかしくなる。サイトさんを信じていなか...
サイトさんは、貴族に物怖じしたり、へつらったりしない。...
するはずがない。だから――。
「サイトさんっ……!」
「え!?」
わたしは、サイトさんにすがりつく。サイトさんはわたしに...
まるでわたしに覆い被さっているような格好になって、困惑の...
「な、なな何なのシエスタ!?」
「…………好き」
わたしは、今までまだ言っていなかった言葉を、サイトさん...
「え……」
「好き。好きなんです。サイトさんのことが好きです。こんな...
言葉にしたら、今までぐちゃぐちゃになっていた胸の奥が、...
そうだ。わたし、サイトさんのことが好き。だったら、理屈...
綺麗でも汚くても、なんでも良い。サイトさんにしてあげた...
サイトさんにしてもらいたいことがあって、それを求めて……そ...
「シエスタ……」
「好きだから、サイトさんが落ち込んでるところを見たくない...
わたしが、サイトさんを、慰めてあげたいんです。わたし、サ...
どうしたら、サイトさんは喜んでくれるんですか? 教えてく...
感情が溢れて、涙も零れて、サイトさんの服を濡らして……ま...
サイトさんにすがって慰めてもらっているみたいな状態で、必...
ああ、やっぱり、わたしは弱い人間で……何もできない平民で...
この気持ちだけは弱くなんて無い。嘘でも偽りでもない。誰に...
■4
しばらくの間、サイトさんは、その大きな手で、わたしの髪...
お互い向かい合うように横になって寝て、ゆっくり、優しく、...
「……俺は、今日だけじゃなくて、このせか……じゃなくて、国に...
助けられてる。回りは俺を平民だって見下す連中ばっかりだし...
滅入っていたところを、シエスタがいてくれたおかげで何度も...
もちろん、厨房でご飯をご馳走してくれたことも、ものすごく...
気持ちの面でも、シエスタがいなかったら今の俺はなかったか...
サイトさんはわたしの頭を撫でながら、子供に言い聞かせる...
整理するように、言葉を紡ぎ出します。
「特別、何かしてくれなくても……シエスタが俺に言葉をかけて...
どれだけ感謝してもしたりないくらい、俺は救われてた。助け...
だから、シエスタは今のままでいいんだよ。……ありがとう、シ...
サイトさんの言葉で、わたしの胸に、今までとは違う温かさ...
涙はもう止まっていたけど、今度は別の種類の涙が溢れそう...
そして、サイトさんへの愛しさも溢れて、こぼれ落ちそうで…...
「それに……」
「え?」
サイトさんは、それまでわたしの頭を撫でていた手を止めて...
のぞき込みました。きっと、泣いた後でみっともなくなってい...
「やだ、こんな時の顔っ!」
「見せて」
サイトさんは微笑んで、わたしの目をじっと見つめます。ど...
「それに、シエスタの目を見てると、なんか安心するんだ。懐...
俺と同じ……俺のいた所の人と同じ色の目だからかな」
それ、わたしも同じです。サイトさんの目、好きです。目だ...
肌の色も、しぐさも……何だか、”一緒”の人を見つけたような、...
言おうと思ったけど、口がうまく開きません。ただ、暗闇の...
魅入られたみたいになってしまって……その目を、もっと近くで...
もしかしたら、サイトさんもそう思ったのでしょうか。そん...
なりながら。わたしとサイトさんは……唇を重ねました。
初めての他人の唇の感触は、すごく熱くて、甘くて、どきど...
その顔を離して、サイトさんは、照れくさそうに笑いました...
サイトさんへの気持ちが詰まっているような感じで、どうしよ...
「サイトさんっ…!」
また、その背中に腕を回します。好きな人の温もりを肌で感...
気持ちが良い。満たされる。満たされるのに、もっと欲しくな...
ひどいですサイトさん。せっ、責任とってもらわないと困りま...
「シっ、シシシエスタ、まずいって、そんなにくっつかれたら…...
「いやですか……?」
「嫌じゃないけど、むしろ嬉しいけど、駄目だって。今はまだ...
「……それでいいです」
サイトさんの匂い――まだ残ってる、お風呂と石鹸の匂い――を...
「それでいいって……」
「サイトさんは、わたしに何かしてくれなくてもいいです」
「それなら頼むから離れて……」
「いやです。離れません」
「ああもう! だから、シエスタにこんなことされたら、俺……」
「わたしが、サイトさんに、”そういうこと”します」
■5
サイトさんの顔を見つめながらわたしがそう言うと、サイト...
何を言ってるのかよくわからない。そんな様子。
「はい?」
「サイトさん、わたしを大事にしたいから我慢してるって言っ...
「あ、あぁ、言ったけど……」
「……わたしは、サイトさんよりこらえ性が無いから……もう我慢...
サイトさんにしてあげたいこと。わたしがしたいこと。この気...
そう言って、今度は首筋に唇を当てました。サイトさんの温...
熱い血が流れている様まで感じられます。
「あの、その、シエスタ、それって……」
「お嫌でしたら逃げてください。わたしにヘンな事されるのが...
わたし、今からサイトさんを……お、おおお、襲っちゃいます……」
そんなことを言われて、サイトさんが逃げられる人じゃない...
わざと意地悪な言葉をかける。そして、それこそ男性の精気を...
首筋に当てた唇を開いて、軽く歯を立てる。
「だ、だだ、駄目だシエスタ、そんなのよくないって!」
「はい、よくないです。わたし、いけない子です。でも、いけ...
何もしていませんから。わたしが、勝手にしているだけですか...
開き直って耳元で囁くと、サイトさんは言い返す言葉が見つ...
「……シエスタ……」
「サイトさん、我慢……してるんですよね。わたしだって、経験...
男性はそういう時、すっごくつらいんだって」
同室の子に、ちょっといやらしい本を借りて読んでみたりし...
それに……男性だけじゃなくて、女性だって、好きな人と側に...
それだけで終わるのはもどかしくて堪らないことだってありま...
「サイトさんがつらい思いをしてるのは、わたしもつらいです」
そもそも、そんな”つらい思い”をさせてる原因は誰なのか、...
わたしは右手をそろそろと、サイトさんの腰の方へ持って行き...
「シエスタ、やめっ…!」
わたしがどこを触ろうとしているのか気付いたみたいでした...
わたしの手は、サイトさんのズボンの前に、触れてしまいまし...
「あっ……!」「え……?」
サイトさんがびくんと体を揺らしたのと同時に、わたしも驚...
まるで、ズボンの中に何か固いものでも入れてるみたいな感触...
「あっ、えっと、これ……男の人の……こ、こんなに固いんですか...
「だめっ、だめだってば!」
「ごめんなさい! あの、痛かったですか!?」
恥ずかしいとか、いやらしい気分になるとかそれ以前に、本...
なのかどうか疑問に思えてしまうような感触だったので、思わ...
サイトさんは、つらそうな声を上げて身をよじります。
「痛くはないけどっ、その……」
「苦しいですか? 苦しいですよね、こんなにパンパンになっ...
それは、本当にそう思ったこと。もともとサイトさんのズボ...
形をしています。その中でこんなに固いのを押し込むみたいに...
わたしが心配して声をかけたら、サイトさんはただ苦しいだ...
■6
「……サイトさん、恥ずかしいですか?」
「そりゃ、恥ずかしいよ! シエスタにそんなとこ触られて、...
「わたしも、恥ずかしくて気絶しちゃいそうです。一緒ですね」
「なら止めて!」
「やめません……嫌だったらサイトさんの方で逃げて下さいって...
なぜだろう。サイトさんが、わたしのすることで、慌てたり...
本当は、わたしのすることを嫌がってないって……むしろ喜ん...
思えるのが、すごく満たされる。こんなことをして楽しんでい...
「このズボン……どうやって脱ぐんですか?」
「お、俺の口からは説明できません」
「じゃあ、勝手にいじっちゃいます」
たぶん、ここら辺で着られている服とは、構造が違うサイト...
当てずっぽうに動かしてみたら、天が味方してくれたのか、偶...
「嘘!?」
サイトさんは、簡単には開けられないと思っていたのでしょ...
でも、それだけじゃまだ下ろせないみたい。まだ金属の部分...
そこで、またしても天啓か、わたしはひらめいてしまいまし...
あの上着は、前の合わせ目についているツマミを下げると前が...
なっているのを見せてもらったことがあります。
ひょっとしたら、ズボンの方もそれと同じで……。
ジジー。
「なんで!?」
「あっ、あああ開いちゃいました……!」
サイトさんと一緒に、わたしも驚きます。いつのまにかただ...
いじってましたけど、よく考えたら、とんでもない事をしちゃ...
でも、よく考えるまでもなくわたしはとんでもないことしよ...
勢いでここまで来ちゃった以上もう突っ走るしかないというか...
頭の中は煮え切ってしまっているのに、手の方は何かに誘わ...
サイトさんのズボンの前が開いたらどうなるのか、気になって...
それまでよりもずっとずっと薄い布地越しに、すごく固くて……...
「うぁ……!」
観念したようなサイトさんの声。きっと逃げられないのでは...
思ってしまっているのでしょう。これが、サイトさんの。
「サイトさん……これって、わたしがいるから……わたしと一緒に...
こんなになってしまってるんだって、考えてもいいんですよね…...
聞くと、サイトさんは目を逸らしました。そうだ、って意味...
「あと、あと……我慢、してるんですよね? サイトさん、そう...
わたしは、また意地の悪い質問をする。この期に及んで、こ...
必死にアピールしてる。わたしが、汚くて、いやらしい子なん...
もうわかってるのに。それでも、わたしは、無意味に近い取り...
本当は、わたしが、これに触ってみたくて……してあげてみた...
でも、サイトさんだって、本気で抵抗していないんだから。...
期待しているんですから。”一緒”だから……いい。構わないんで...
「触りますよ……?」
自分の喉から出たということが信じられないくらい、はした...
鏡を見たら目を覆いたくなるほどいやらしい顔をしているだ...
下着の中へ手を差し入れました。
すぐに、触れる。驚くほど熱くて、固いもの。
固いのに、表面は人肌の柔らかさを持ってる。びくんびくん、...
それに……何だか、ぬるぬる湿ってる。
見たこともないのに、触ってしまった。サイトさんの……大切...
■7
「あっ……!」
その感触と、それに触れたときのサイトさんの声でを聞いて...
きゅううっ、と締め付けられる。きっと、派手に滲み出てしま...
少しずつじっとりして気持ち悪いくらいだったけど、今ので、...
感じちゃってる。ほとんど、自分で触っても、サイトさんに...
サイトさんに、触れているだけで。
「サイトさん、熱くて、それに……濡れてます」
「シエスタっ、そんなこと……!」
わたし自身のことを言ったのか、サイトさんの事を言ったの...
でも、どっちでもいい。わたしの手の中で、サイトさんのもの...
そしてべとべとに濡れているのだから。
「サイトさん、この湿ってるのって、サイトさんの……?」
「ちが、それは……くぅっ……!」
本で多少読んだ程度の知識はあったけど、確証が持てなかっ...
サイトさんはわたしがみなまで言わなくても、なんとなくわ...
それを聞いて、またわたしの体が反応する。これはきっと、...
感じているという証し。それに、今までずっとわたしを前にし...
そして、このまま続けていたら、『その先』があるというこ...
わたしは、サイトさんのそれを、軽く握りしめるようにして...
「サイトさん、痛くないですか? つらくないですか?」
「そんなことないけど……でも、あっ、くぅ……!」
サイトさんは息を荒くして、シーツを握りしめる。その顔が...
胸が一杯になって、そのサイトさんの反応をもっと知りたいと...
くちゅくちゅと、わたしの指とサイトさんが擦れあう音が、...
肝心なところはお互い見ることができなくて、ただ一つ確か...
本当にいやらしいことをしているのかどうか、ふとわからなく...
もし、明るいところで、サイトさんのそれを間近に見ながら...
できなかったかもしれない。
「あ、あっ……はぁ……く……!」
必死で、荒げた息と声を漏らさないようにしているサイトさ...
でも、それはわたしにとってはあまり嬉しくない。
「はぁ、はぁっ……サイトさん、声、聞かせてください。サイト...
「ふぅ……ぐ……シエスタ、そんなの……!」
「それ、それです。名前、呼んでください。シエスタって、呼...
わたしは、手を動かす速さを上げる。サイトさんから滲み出...
完全に濡れてしまっている。
「くぁ……シエスタ、シエスタ……!」
「サイトさん、サイトさん……!」
名前を呼ばれるのが、嬉しい。サイトさんをこんなにしてい...
わたしの手で気持ちよくなっているのがサイトさんだって、は...
だんだん感極まっていくサイトさんの声。それと一緒に、わ...
高ぶっていく。
サイトさんの腰が引けてきた。その声と表情に混じる、切な...
あ、きっと。直感的にわかった。それがわかったことも、嬉し...
「シエスタっ、だめ、やめて……!」
「いいです、そのまま……いいですから」
サイトさんの懇願を、わたしは否定する。そして、それに対...
わたしは、先程のように、サイトさんの唇に吸い付く。
■8
「んっ……んむっ……!!」
不意をつかれて、気持ちが緩んだのか……あるいは、キスが気...
サイトさんは、わたしの体を抱き留めて。
びゅっ、びゅくっ、びゅるぅっ!
わたしの手の中に、体温より、お風呂のお湯よりも熱く感じ...
サイトさんのそれは、どくどくと痙攣するように震えて、そ...
熱いものがぶつかります。
こんなに、多くて、熱くて、ねっとりしてる……それまでわた...
まったく別の感触に、わたしは呆然としている他なくて。サイ...
ずっとサイトさんと唇を重ねたままでいました。
「……っはぁ、はぁ、はぁっ……!」
わたしとサイトさんは、ゆっくりと顔を離しました。サイト...
とろけているのが見て取れて、わたしの方も何だか満たされて...
「……よかった、ですか?」
囁くと、サイトさんは、恥ずかしそうに視線を逸らしながら...
また、きゅうっ、と体の奥が締め付けられる。あぁ、可愛い...
わたしで、わたしの手で、こんな……!
ゆっくり、慎重に、わたしは右手を布団の中から出しました...
上半身をベッドの上に起こします。
「シエスタ?」
不思議そうな声を上げるサイトさんを尻目に、わたしは右手...
溜まったものを、眺めます。暗いから色はよくわかりませんで...
でも、これが、サイトさんの。これをもし、わたしがお腹の...
そんなことを考えたら、わたしの手の中で外気に晒されて、...
ものすごく愛おしくなって、勿体なくなって。
わたしは手の平に唇をつけて、それをすすりました。
「なっ……!? シエスタ、そんなのっ!!」
サイトさんは信じられないといった声を上げて、わたしと同...
でも、もう遅いです。ほとんどそれはわたしの口の中に流し込...
ごくり、と喉を鳴らして飲み込みました。ちょっと、生臭く...
喉に引っかかる感じもします。でも、全然イヤな味だとは思わ...
「はぁ………」
飲み込んだ後に出た、自分自身の吐息に、驚きました。心の...
体は、明らかに――明らかに、悦んでいるみたいなのです。それ...
わたしは、それが当然であるかのように、まだ手にこびりつ...
「シエスタっ、そんなことしなくていいから!」
違いますよ。わたしがしたくてしているんです。
「わたしの、一番大事なところへはいただけませんでしたから。
せめて、口からでも、受け止めさせてください……ね?」
最後の一滴を舌先で舐め取って、わたしはサイトさんに笑い...
この後、わたしたちは汚れてしまったところを綺麗にして、...
このまま、サイトさんに最後まで求めることも出来たはずだ...
それをしませんでした。
だって、そんな余裕が無いほど、頭の中が今の出来事の事で...
そして、そんな自分の気持ちを整理しようと努力するので精...
――今思い返せば、この時のことが、”今”のわたしに繋がる、...
■9
∞ ∞ ∞
窓から差し込む日差しの眩しさで、目が覚めた。鳥のさえず...
そのまま、まだ眠気が覚めない頭で、しばらくぼーっとベッド...
何か、足りない。いつもと違う。それが何なのか気付いて、...
「ちょっと、サイト。顔洗うから水持ってきなさい」
サイトに起こされたわけじゃないってことは、まだアイツ寝...
もしそうならお仕置きだかんね。ベッドの隣に目をやると……そ...
あれ? と思って、今度は部屋の隅の藁束を見る。そこにも...
そこで、ようやく頭が冴え、思い出す。昨日の朝もそうだっ...
部屋に帰ってこないのだ。
「何なのよ、もう」
いらいらしながら、ベッドから降りる。壁に立てかけてある...
「ねぇ、本当にサイトがどこに行ったか知らないの?」
「知らんよ。昨日、昼ごろに帰ってきて掃除してったがね。
俺をここに置いてってるってことは、そんなに遠くまでは行っ...
サイトに買ってあげた剣は、かちゃかちゃ金具を鳴らしなが...
ため息をつく。昨日、学校が終わった後にも、同じことを聞...
確かに、サイトの仕事である部屋の掃除はちゃんとしてあっ...
サイトとは顔を合わせていない。まるで、わたしに会うのを避...
どうしてよ。思い当たることと言えば、一昨日の夜、サイト...
たぶんサイトはわたしが寝てるあいつにキスしたのをヘンな勘...
わたしが嫌がったら逃げてしまった。
ひょっとしたら、また前みたいに首輪つけられて「わん」と...
「ま、まぁ、あれは誤解されても仕方ない事したわたしにも責...
「何一人でぶつぶつ言ってるんだ?」
「うるさいわねっ!」
考えてた事が口に出てしまい、デルフに聞かれて、頬が熱く...
毎日毎日、しょっちゅうこんなくだらない言い争いをしていた。
それまで一人でこの部屋に住んでいたのが寂しかったとは思...
サイトがいないとなんか張り合いがない。
早いうちに見つけて、連れ戻してやらないと。そう考えなが...
授業開始前の予鈴が聞こえ、わたしは顔から血の気が引くのが...
■10
「珍しいわね、あなたが遅刻なんて」
結局最初の授業には遅れてしまった。一時限目が終わって肩...
整理していると、後ろの席からキュルケの声が聞こえた。
「あれからサイトとはどうなったの?」
続けて、キュルケは少し真面目な声でそう聞いてくる。ここ...
わざわざ聞かなくても大体は想像できるでしょうに。
「……あれから、見てない。ホント、何が何だかわかんないわ」
「帰ってないの? あなたの部屋にも?」
そうよ、と答えると、キュルケは黙ってしまった。どうした...
彼女はいつになく真剣な顔つきで眉を寄せ、考え事をしている...
「あによ。サイトが何で帰ってこないのか、わかるの?」
「まぁ、推測だけど、大体はね。
……諦めて普通にしてるんじゃなく、帰ってこないのなら、まだ...
キュルケは独り言のようにぶつぶつ何か言っていたけど、し...
顔を上げてわたしを見た。
「このあたしがヴァリエールの女に助け船出すのは癪だけど、...
サイトのためだから。心して聞きなさい」
キュルケは何だか恩着せがましいことを言ってわたしの方へ...
こいつ、昨日もわたしとサイトの様子を見て自分だけ事態をわ...
「偉そうに。なんであんたの助けなんか」
「いいから聞きなさいな。……ルイズ、サイトはあなたにとって...
キュルケは強い口調でそう質問してきた。何で今更そんなこ...
「何って……使い魔よ。あんただってよく知ってるでしょ」
「そう、使い魔。でもね、彼はあたしのフレイムちゃんや、タ...
当たり前でしょ。あいつは普通の使い魔と違って人間で、わ...
「わかってるわよ、それくらい」
「ううん、わかってないわ。いいこと? 人間の使い魔を召還...
ということは、一般的な『使い魔との接し方』はあなたの場合...
でも、あなたは自分が考えている”使い魔はこうあるべき”とい...
そのままサイトに押しつけてる。どうするのが正解かなんてあ...
少なくともあなたはサイトに間違った接し方をしてるのよ」
キュルケの理路整然とした言葉に、言い返すことができない...
何で他人のことなのに、ここまで考えてるのかしら。
「ねぇ、いくら平民でも、『無給で何でも主人の言うことを聞...
「いるわけないでしょ、そんなの」
主人の言うことを何でも聞く使用人ならいるだろうけど、無...
どんな優秀な使用人だって、相応のお給金を貰えるから主人に...
……そこまで考えて、わたしはようやく気付いた。
「そう。あなたは、サイトにそれを求めてるのよ? どれだけ...
なのに、サイトはあれだけあなたにぞんざいに扱われてるのに...
それどころか、あなたの命を救ったりまでしてくれてるわね。...
キュルケは、わたしが何度も自問していた事と同じことを聞...
心の中を見透かされたみたいで、ぞっとする。
「あ、あいつが……使い魔だから?」
「ノー。使い魔だからなんて理由で、そこまでしてくれるはず...
誠意を持って接して、お互いに信頼関係を作ってこそ、主人に...
行動からじゃ、とてもじゃないけど使い魔があなたを尽くすに...
■11
「じゃあ、なんでよ!」
思わず荒くなってしまった口調で聞くと、キュルケは大きく...
「……ほんっとに。これだけ察しが悪くて、身勝手で性格も悪く...
しかもちんちくりんな女のどこがいいのかしら。あたしだった...
「馬鹿にしてるの?」
「してないわよ。むしろ誉めてるの。それだけあなたってヒド...
呆れたように笑いながら言ってきたキュルケの言葉に、わた...
え? なに? なによそれ。サイトに、好かれてる? 誰が?
「な、ななな、何言ってるのよ、そんなの……」
「それ以外考えられないでしょ。ご主人様としては落第点。見...
カラダ目当てって事も有り得ないわね。だったら、好かれてる...
サイトはあなたに情が移っちゃったから世話焼いてくれるんで...
カラダ目当て、というキュルケの言葉にぎくっとする。
そうだ。ベッドの上で、サイトに二度ものし掛かられた。
でも、よく考えたら、自分で言うのも情けないけど、わたし...
背も低いしで、はっきり言って女として魅力があるとは思えな...
それに、女の子とその、なんていうか……なんていうか、なこ...
キュルケとそういうことができたはずなのだ。でも、サイトは...
それでも、わたしが嫌がったら、すぐにやめてくれた。
あと、あと……キス、してきた。アルビオンでの帰り……わたし...
それって、それって……サイトが、わたしのことを……好き、だ...
「好きな相手に、犬だ馬鹿だって何度も言われたらどうかしら...
断言されたらどう感じるかしら? それくらいは想像できるわ...
のぼせ上がって混乱してたところに、冷水を浴びせられた。
わたし、自分のことばっかりで、サイトの気持ちを全然考え...
「わたし……サイトを傷つけた?」
背筋が冷たくなる。声が震えてる。今までに覚えのない感覚...
「さぁね。何が決定的な原因になったのかはわからないわ。で...
サイトは、今までと同じようにあなたに尽くしてはくれなくな...
わたしは、弾かれるように席を立った。そこで二時限目の時...
今はそれどころじゃない。走って教室を出る。入り口の所で次...
シュブルーズ先生とぶつかりそうになって何か言われたけど、...
∞ ∞ ∞
「――全く。あたしから見たら、あの子の方が気位だけ高くてて...
「血統書付き」
「あら聞いてたの。結構上手いこと言うわね、タバサ」
∞ ∞ ∞
■12
教室のあった塔から飛び出して、学生寮まで走る。サイトが...
とにかく何とかして探し出すつもりだった。まずはわたしの部...
「何よ、好きって、好きって、そんなの……!」
頭の中がぐちゃぐちゃになってる。サイトはわたしのことが...
えっと、えっと、落ち着きなさいルイズ。よく考えなさい。
サイトが、わたしのことを好きだったとして。そう仮定して...
ええと、サイトがわたしの部屋から出て行って帰ってこなく...
その時に何があったかというと、わたしが寝てるサイトにキ...
わたしを組み敷いてきた。それで、わたしが抵抗したら、サイ...
サイトがわたしのことを好きだったとして……あの時、サイト...
そうしたら、サイトにとってあの状況は、『好きな相手が寝...
となるわけで。そんな状況だったから、あいつはわたしの方も...
あんなことしちゃったわけね。わたしのことが、すっ、すすす...
もちろん、誤解なんだけど。そんなこと許すわけ無いんだけ...
それでもわたしが嫌がったから、サイトはびっくりして逃げ...
わたしの機嫌を伺いに来たんだけど、わたしは確か……『あんた...
はっきり言ってやったわね。それ以後、サイトはわたしに顔を...
それって……。もしかして、サイトはわたしにフラれたと思っ...
キュルケが言っていたように、サイトはわたしに犬だとかた...
傷ついてたのかもしれない。でも、わたしの所へ帰ってこなく...
サイトが、わたしのこと好きだったって考えれば……納得でき...
寮の入り口まで着いて、足が止まった。心臓がばくばく言っ...
こ、ここ、困るわよ、そんなの。勝手にわたしのこと好きに...
あんたは使い魔なんだから。れっ、恋愛とか、そういうのの対...
だから、だから……。
そこまで考えて、頭を抱える。ホントに困るわよう。どうし...
んー、えっと、サイトは、すぐわたしを怒らせることするけ...
仕事をしてくれてる。わたしを助けてくれてる。
だから、その、恋とかじゃなくて、使い魔としてなら、す、...
むしろ、それなりに感謝してる。ちょっと癪だけど、なるべ...
サイトに会ったら言おうと思うことを、頭の中で整理する。...
あいつが帰ってきてくれるかどうか、わからない。
そういえば、あいつにちょっとはご褒美らしいものをあげよ...
セーターを編んでる最中だった。あれを見せたら、喜んでくれ...
喜ぶわよね。好きな相手からのプレゼントだもの。こっちは別...
あと、それから……マッサージ、してあげようかな。今度は踏...
うん、わたしはサイトにマッサージされるの気持ちいいし、何...
きっと、わたしのとこに居たくなるに違いない。間違いない。
一人で頷くと、一気に寮の階段を駆け上がった。
∞ ∞ ∞
■13
「いいの? 本当に手伝ってもらっちゃって」
「いいんですよ。もともと、こういう仕事はわたしの方が慣れ...
朝の仕事が終わったシエスタと一緒に、ルイズの部屋の戸を...
この時間は授業中だから、ルイズが帰ってくる心配は無い。
昨日の昼に掃除しに来たばかりなのに、妙に久しぶりな気が...
「えっと、これとこれと……ここ何日かサボっちゃったから、結...
「でも、ミス・ヴァリエールお一人の分ですから、大したこと...
カゴの中にルイズの洗濯物を入れているうちに、シエスタが...
さっきの言葉通りに手慣れた様子で、感心してしまう。
「……おぉ、誰かと思ったら相棒じゃねーか。昨日からどうした...
そんな時に聞こえてきた声に、ぎくっとする。この部屋に置...
「ルイズが探してた?」
「おおよ。寂しがってたぞ。昨日はどこで寝たんだね? まさ...
寂しがってた、というデルフの言葉に、胸がちくりと痛んだ...
使い魔がいなくなったからの寂しさ。飼い犬が自分のところへ...
「えっと、昨日はこのシエスタの部屋に泊めてもらったんだけ...
今晩はたぶんここに帰ってくるよ。……あ、これルイズには内緒...
剣が喋る姿に目を丸くしていたシエスタを指して言う。デル...
「おう、主人を放っておいてメイドの部屋にしけこんだんか。...
そりゃ、あの娘っ子に知られたら大変だぁな」
「そんな、しけ込んだだなんて……」
シエスタは頬を赤くして体をもじもじさせた。俺も、そんな...
確かに、ただ泊まっただけじゃなく、しけ込んだと言われても...
「ま、まぁとにかく、ルイズには秘密で頼むぞ、デルフ」
変な空気になってしまいそうだったので、慌てて洗濯物カゴ...
シエスタも俺の後をぱたぱたついてきて、俺が廊下へのドアを...
そこに、ルイズが立っていた。
「え……」
「ミス・ヴァリエール?」
一瞬、思考が停止して、何も考えられなくなった。
そこにいたルイズの顔は、こちらが気圧されてしまうくらい...
ルイズは、静かに顔を上げて俺を見た。ぞっとするような、...
その唇が、ゆっくりと開かれる。
「……メイドの部屋に、泊まってたの?」
やっぱり、聞かれてた。ドアの外で立ち聞きしていたらしい...
くれた方がまだよかったのに。どう答えて良いのかわからない。
「――間違えたんだ。寝ぼけるか何かして、間違えたのね。わた...
それで、わたしだと気付いたから、慌てて逃げた。そう。そう...
俺が返答に詰まっていると、ルイズはうつむき、ぼそぼそと...
よく聞こえない。ルイズも、俺に聞かせる気は無いようだった...
「ル、ルイズ?」
その肩に手を伸ばすと、驚くような勢いではね除けられた。
俺の手を払ったルイズの手のひらが握りしめられ、ぶるぶると...
「……出て行って」
絞り出すように、ルイズはそう言った。俺の顔を見ようとし...
「え?」
「聞こえなかったの。もう二度とこの部屋に帰ってこないで。…...
淡々とした声。その声に震えが混じり、ルイズの足下にぽた...
つづく
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**ゼロの飼い犬6 黒い瞳の彼 ...
■1
「ごめんなさい、狭いし、あんまり立派な部屋じゃないんです...
他の部屋の子に聞こえないように、そっとドアを開いて、小...
サイトさんは、「お邪魔します」なんて言いながら、わたし...
二段ベッドと、古い机やタンスなんかが二人分。小さな窓に...
ミス・ヴァリエールの部屋に住んでいるサイトさんを招くの...
一応、サイトさんのお風呂に行く前に、軽くお掃除しておいた...
「いや、俺の部屋もこんな感じだったし、むしろ落ち着くかな」
「そうなんですか?」
「いや、広さがね。俺の部屋はもっと散らかってたけど」
サイトさんは、冗談めかして笑いました。サイトさんはここ...
来たって言ってたけど、どんなお部屋に住んでたのでしょう。
「えっと……それで、俺はどこに寝たらいいのかな」
サイトさんの、遠慮がちな質問に、どきっとします。そう、...
この部屋に泊めるためにお呼びして……そして、サイトさんはこ...
わたしについてきたのです。
そのことを今更思い出して、先程のお風呂での体の火照りが...
「それじゃ、二段ベッドの下で構いませんか? わたしの使っ...
「シエスタの使ってるベッドに!?」
「だって、もうひとつはわたしと同室の子のベッドですし」
「う、そういえばそうなるのか」
わたしのベッドを使うようにサイトさんに言うと、サイトさ...
わたしも、男の人に自分のベッドで寝てもらうなんて、今まで...
でも、サイトさんだったら構いません。そのつもりでここへ...
「じゃあ、シエスタが上のベッドを使うっていうこと?」
「……わたしがどこで寝たらいいか、サイトさんが決めてくださ...
サイトさんの顔をのぞき込んで、ちょっと意地悪な台詞。
「え、あ、う、えっと……うん、シエスタは上でお願い」
「わかりました」
サイトさんはわたしの意地悪に気付いたのか、面白いくらい...
わたしも、それ以上は何も言いません。二段ベッドのハシゴに...
――そこで、上の段のベッドを見て、わたしの体が固まりまし...
だって、そこには、掛け布団が無くなっていたのだから。
「シエスタ、どうしたんだ?」
「えと……その、掛け布団、持って行かれちゃったみたいです……」
またどきんどきん鳴り出した心臓を持て余しながら、なるべ...
「え!? それ、どういう……」
「なんていうか、その、よその部屋に移ってもらった子に、気...
照れ笑いをしながらサイトさんの方を見ましたが、きっとわ...
でもでも、これはある意味チャンスというか、むしろ天が『...
なんて言ってるということなのかもしれないわ。そう、きっと...
サイトさんに捧げてしまうつもりだったのだから。
「……わたしのベッドで、二人で寝るしかないみたいです……」
ゆっくりハシゴから降りて、震える声を抑えながら、サイト...
「それはちょっとまずいって! 俺は布団無しでもいいから!」
「駄目です、それじゃあ風邪ひいちゃいます……ダメです」
わたしは強くそう続けて、サイトさんの服をぎゅっと掴みま...
■2
「……寒くないですか? お布団からはみ出したりしてませんか...
「だ、だいじょぶ」
「ほんとですか、もうちょっと近付いた方が……」
「いやほんと、十分あったかいから」
背中の方から、サイトさんの声。ベッドの中に、わたし以外...
結局、わたしとサイトさんは、同じ布団で寝ることになりま...
というか、わたしが強引に一緒に寝るように説得したのだけれ...
サイトさんには寒いかどうか聞いたけど……でも、小さな布団...
本当はちっとも寒くなんかない。
すぐ近くにあるサイトさんの体はすごく温かいし……それに、...
火照ったままだから。むしろ、汗が滲み出てきてしまうくらい...
サイトさんが、すぐ側に。振り向けば、その背中に触れるこ...
――わたしと一緒に、ベッドの中に。
頭の中まで、沸騰したヤカンみたいに熱くなってぐらぐらす...
夢みたいで、まるで他人のことのように思えてきて。
でも、これは、わたしが望んで……サイトさんに求めて、つく...
そもそもの始まりは、ヴェストリの広場で座り込んでいたサ...
サイトさんは、ミス・ヴァリエールと何かあって、落ち込ん...
そして、その落ち込み方は、今までに一度も見たことがない...
誰かが支えてあげないと、サイトさんは本当に深く傷ついてし...
背中の、サイトさんの温もりを感じながら考える。
何が、サイトさんをそんなに落ち込ませたのでしょう。サイ...
わたしの知っているサイトさんは、凄く強い人です。貴族の...
言いたいことをはっきり言って、悠然と立ち向かえる人。まる...
それは、わたしが今まで一度も見たことがないもの。今まで...
サイトさんの強さは、目にも止まらない速さで剣が振れると...
平民は貴族よりも劣るものであるという常識を壊すことができ...
心が、魂が強い人……だから、わたしは惹かれたのです。わた...
わたしたちが得られるはずがないと思っていたものを持ってい...
だから、一人で校舎の壁を背にして座り込むサイトさんを見...
こんなに強いサイトさんを、本気で打ちのめすこと。それは並...
わたしは、それを癒してあげたかった。忘れさせてあげたか...
わたしが恋してしまっている、彼を……助けてあげたかった。
でも、サイトさんは、わたしに落ち込んでいる理由をはっき...
きっと、話したくないことなのでしょう。言葉にしたら、も...
それでわたしは、サイトさんを助けてあげる方法に……。
ぎゅうっ、と胸の奥が痛くなる。そう、わたしは、綺麗じゃ...
サイトさんにわたしの体を差し出して、それで慰めになった...
そう思って、サイトさんとまたお風呂を一緒したいなんて言...
胸の痛みが大きくなる。思わず、体を丸めてしまう。
それは、本当にサイトさんを慰めるため? わたしの中の何...
サイトさんのためじゃなくて、自分のためなんじゃないの?
落ち込んでいるところにつけ込んで、優しくして、ご飯なん...
あげくに体で釣って……彼に、自分のことを見てくれるようにし...
耳を塞ぐ。実際に、誰かが自分に語りかけているわけじゃな...
そう。わたしは怖かった。サイトさんがミス・ヴァリエール...
ミス・ツェルプストーにあからさまな誘惑をされているのを見...
結局、サイトさんも、貴族の方のものになってしまって……そ...
ではないかって、怖かった。ただのメイドなんかより、お金持...
どう考えても魅力があることがわかっていて……それが怖かった。
■3
だから、わたしは――サイトさんに、”手を付けようとした”の...
母が言っていたことを思い出す。『シエスタや、男の人が傷...
惚れさせるチャンスなんだよ。そういう時に一気に攻めなさい...
たぶん、その言葉は正しい。正しいけど……時に、凄く汚らわ...
涙が零れそうになってくる。この、サイトさんと一緒に寝て...
すごく不安になってくる。サイトさんは、どう思ったのかしら...
あんなふうに迫って……最後には、部屋に呼んで一緒のベッドで...
はしたない、と思ったかもしれない。汚いと思ったかもしれ...
――所詮、平民女なんてこんな軽いやつなんだ、なんて思った...
わたしを大事にしてるって、魅力的だって言ってくれたサイ...
「………うっ……!」
つい、しゃくり上げて、嗚咽が漏れてしまいました。慌てて...
「……シエスタ? どうしたの?」
「なんでもありません、なんでもっ……」
弁解するけど、声が完全に震えてしまっている。サイトさん...
「シエスタ……泣いてる?」
サイトさんはわたしの方へ体を向けて、顔をのぞき込んでき...
暗い部屋の中だけど、サイトさんの表情はわかった。わたし...
純粋に、気遣っている目。
わたしの好きな――わたしと一緒の、黒い瞳。
その目を見て、今までサイトさんがわたしを汚いと思ってい...
疑っていたことが恥ずかしくなる。サイトさんを信じていなか...
サイトさんは、貴族に物怖じしたり、へつらったりしない。...
するはずがない。だから――。
「サイトさんっ……!」
「え!?」
わたしは、サイトさんにすがりつく。サイトさんはわたしに...
まるでわたしに覆い被さっているような格好になって、困惑の...
「な、なな何なのシエスタ!?」
「…………好き」
わたしは、今までまだ言っていなかった言葉を、サイトさん...
「え……」
「好き。好きなんです。サイトさんのことが好きです。こんな...
言葉にしたら、今までぐちゃぐちゃになっていた胸の奥が、...
そうだ。わたし、サイトさんのことが好き。だったら、理屈...
綺麗でも汚くても、なんでも良い。サイトさんにしてあげた...
サイトさんにしてもらいたいことがあって、それを求めて……そ...
「シエスタ……」
「好きだから、サイトさんが落ち込んでるところを見たくない...
わたしが、サイトさんを、慰めてあげたいんです。わたし、サ...
どうしたら、サイトさんは喜んでくれるんですか? 教えてく...
感情が溢れて、涙も零れて、サイトさんの服を濡らして……ま...
サイトさんにすがって慰めてもらっているみたいな状態で、必...
ああ、やっぱり、わたしは弱い人間で……何もできない平民で...
この気持ちだけは弱くなんて無い。嘘でも偽りでもない。誰に...
■4
しばらくの間、サイトさんは、その大きな手で、わたしの髪...
お互い向かい合うように横になって寝て、ゆっくり、優しく、...
「……俺は、今日だけじゃなくて、このせか……じゃなくて、国に...
助けられてる。回りは俺を平民だって見下す連中ばっかりだし...
滅入っていたところを、シエスタがいてくれたおかげで何度も...
もちろん、厨房でご飯をご馳走してくれたことも、ものすごく...
気持ちの面でも、シエスタがいなかったら今の俺はなかったか...
サイトさんはわたしの頭を撫でながら、子供に言い聞かせる...
整理するように、言葉を紡ぎ出します。
「特別、何かしてくれなくても……シエスタが俺に言葉をかけて...
どれだけ感謝してもしたりないくらい、俺は救われてた。助け...
だから、シエスタは今のままでいいんだよ。……ありがとう、シ...
サイトさんの言葉で、わたしの胸に、今までとは違う温かさ...
涙はもう止まっていたけど、今度は別の種類の涙が溢れそう...
そして、サイトさんへの愛しさも溢れて、こぼれ落ちそうで…...
「それに……」
「え?」
サイトさんは、それまでわたしの頭を撫でていた手を止めて...
のぞき込みました。きっと、泣いた後でみっともなくなってい...
「やだ、こんな時の顔っ!」
「見せて」
サイトさんは微笑んで、わたしの目をじっと見つめます。ど...
「それに、シエスタの目を見てると、なんか安心するんだ。懐...
俺と同じ……俺のいた所の人と同じ色の目だからかな」
それ、わたしも同じです。サイトさんの目、好きです。目だ...
肌の色も、しぐさも……何だか、”一緒”の人を見つけたような、...
言おうと思ったけど、口がうまく開きません。ただ、暗闇の...
魅入られたみたいになってしまって……その目を、もっと近くで...
もしかしたら、サイトさんもそう思ったのでしょうか。そん...
なりながら。わたしとサイトさんは……唇を重ねました。
初めての他人の唇の感触は、すごく熱くて、甘くて、どきど...
その顔を離して、サイトさんは、照れくさそうに笑いました...
サイトさんへの気持ちが詰まっているような感じで、どうしよ...
「サイトさんっ…!」
また、その背中に腕を回します。好きな人の温もりを肌で感...
気持ちが良い。満たされる。満たされるのに、もっと欲しくな...
ひどいですサイトさん。せっ、責任とってもらわないと困りま...
「シっ、シシシエスタ、まずいって、そんなにくっつかれたら…...
「いやですか……?」
「嫌じゃないけど、むしろ嬉しいけど、駄目だって。今はまだ...
「……それでいいです」
サイトさんの匂い――まだ残ってる、お風呂と石鹸の匂い――を...
「それでいいって……」
「サイトさんは、わたしに何かしてくれなくてもいいです」
「それなら頼むから離れて……」
「いやです。離れません」
「ああもう! だから、シエスタにこんなことされたら、俺……」
「わたしが、サイトさんに、”そういうこと”します」
■5
サイトさんの顔を見つめながらわたしがそう言うと、サイト...
何を言ってるのかよくわからない。そんな様子。
「はい?」
「サイトさん、わたしを大事にしたいから我慢してるって言っ...
「あ、あぁ、言ったけど……」
「……わたしは、サイトさんよりこらえ性が無いから……もう我慢...
サイトさんにしてあげたいこと。わたしがしたいこと。この気...
そう言って、今度は首筋に唇を当てました。サイトさんの温...
熱い血が流れている様まで感じられます。
「あの、その、シエスタ、それって……」
「お嫌でしたら逃げてください。わたしにヘンな事されるのが...
わたし、今からサイトさんを……お、おおお、襲っちゃいます……」
そんなことを言われて、サイトさんが逃げられる人じゃない...
わざと意地悪な言葉をかける。そして、それこそ男性の精気を...
首筋に当てた唇を開いて、軽く歯を立てる。
「だ、だだ、駄目だシエスタ、そんなのよくないって!」
「はい、よくないです。わたし、いけない子です。でも、いけ...
何もしていませんから。わたしが、勝手にしているだけですか...
開き直って耳元で囁くと、サイトさんは言い返す言葉が見つ...
「……シエスタ……」
「サイトさん、我慢……してるんですよね。わたしだって、経験...
男性はそういう時、すっごくつらいんだって」
同室の子に、ちょっといやらしい本を借りて読んでみたりし...
それに……男性だけじゃなくて、女性だって、好きな人と側に...
それだけで終わるのはもどかしくて堪らないことだってありま...
「サイトさんがつらい思いをしてるのは、わたしもつらいです」
そもそも、そんな”つらい思い”をさせてる原因は誰なのか、...
わたしは右手をそろそろと、サイトさんの腰の方へ持って行き...
「シエスタ、やめっ…!」
わたしがどこを触ろうとしているのか気付いたみたいでした...
わたしの手は、サイトさんのズボンの前に、触れてしまいまし...
「あっ……!」「え……?」
サイトさんがびくんと体を揺らしたのと同時に、わたしも驚...
まるで、ズボンの中に何か固いものでも入れてるみたいな感触...
「あっ、えっと、これ……男の人の……こ、こんなに固いんですか...
「だめっ、だめだってば!」
「ごめんなさい! あの、痛かったですか!?」
恥ずかしいとか、いやらしい気分になるとかそれ以前に、本...
なのかどうか疑問に思えてしまうような感触だったので、思わ...
サイトさんは、つらそうな声を上げて身をよじります。
「痛くはないけどっ、その……」
「苦しいですか? 苦しいですよね、こんなにパンパンになっ...
それは、本当にそう思ったこと。もともとサイトさんのズボ...
形をしています。その中でこんなに固いのを押し込むみたいに...
わたしが心配して声をかけたら、サイトさんはただ苦しいだ...
■6
「……サイトさん、恥ずかしいですか?」
「そりゃ、恥ずかしいよ! シエスタにそんなとこ触られて、...
「わたしも、恥ずかしくて気絶しちゃいそうです。一緒ですね」
「なら止めて!」
「やめません……嫌だったらサイトさんの方で逃げて下さいって...
なぜだろう。サイトさんが、わたしのすることで、慌てたり...
本当は、わたしのすることを嫌がってないって……むしろ喜ん...
思えるのが、すごく満たされる。こんなことをして楽しんでい...
「このズボン……どうやって脱ぐんですか?」
「お、俺の口からは説明できません」
「じゃあ、勝手にいじっちゃいます」
たぶん、ここら辺で着られている服とは、構造が違うサイト...
当てずっぽうに動かしてみたら、天が味方してくれたのか、偶...
「嘘!?」
サイトさんは、簡単には開けられないと思っていたのでしょ...
でも、それだけじゃまだ下ろせないみたい。まだ金属の部分...
そこで、またしても天啓か、わたしはひらめいてしまいまし...
あの上着は、前の合わせ目についているツマミを下げると前が...
なっているのを見せてもらったことがあります。
ひょっとしたら、ズボンの方もそれと同じで……。
ジジー。
「なんで!?」
「あっ、あああ開いちゃいました……!」
サイトさんと一緒に、わたしも驚きます。いつのまにかただ...
いじってましたけど、よく考えたら、とんでもない事をしちゃ...
でも、よく考えるまでもなくわたしはとんでもないことしよ...
勢いでここまで来ちゃった以上もう突っ走るしかないというか...
頭の中は煮え切ってしまっているのに、手の方は何かに誘わ...
サイトさんのズボンの前が開いたらどうなるのか、気になって...
それまでよりもずっとずっと薄い布地越しに、すごく固くて……...
「うぁ……!」
観念したようなサイトさんの声。きっと逃げられないのでは...
思ってしまっているのでしょう。これが、サイトさんの。
「サイトさん……これって、わたしがいるから……わたしと一緒に...
こんなになってしまってるんだって、考えてもいいんですよね…...
聞くと、サイトさんは目を逸らしました。そうだ、って意味...
「あと、あと……我慢、してるんですよね? サイトさん、そう...
わたしは、また意地の悪い質問をする。この期に及んで、こ...
必死にアピールしてる。わたしが、汚くて、いやらしい子なん...
もうわかってるのに。それでも、わたしは、無意味に近い取り...
本当は、わたしが、これに触ってみたくて……してあげてみた...
でも、サイトさんだって、本気で抵抗していないんだから。...
期待しているんですから。”一緒”だから……いい。構わないんで...
「触りますよ……?」
自分の喉から出たということが信じられないくらい、はした...
鏡を見たら目を覆いたくなるほどいやらしい顔をしているだ...
下着の中へ手を差し入れました。
すぐに、触れる。驚くほど熱くて、固いもの。
固いのに、表面は人肌の柔らかさを持ってる。びくんびくん、...
それに……何だか、ぬるぬる湿ってる。
見たこともないのに、触ってしまった。サイトさんの……大切...
■7
「あっ……!」
その感触と、それに触れたときのサイトさんの声でを聞いて...
きゅううっ、と締め付けられる。きっと、派手に滲み出てしま...
少しずつじっとりして気持ち悪いくらいだったけど、今ので、...
感じちゃってる。ほとんど、自分で触っても、サイトさんに...
サイトさんに、触れているだけで。
「サイトさん、熱くて、それに……濡れてます」
「シエスタっ、そんなこと……!」
わたし自身のことを言ったのか、サイトさんの事を言ったの...
でも、どっちでもいい。わたしの手の中で、サイトさんのもの...
そしてべとべとに濡れているのだから。
「サイトさん、この湿ってるのって、サイトさんの……?」
「ちが、それは……くぅっ……!」
本で多少読んだ程度の知識はあったけど、確証が持てなかっ...
サイトさんはわたしがみなまで言わなくても、なんとなくわ...
それを聞いて、またわたしの体が反応する。これはきっと、...
感じているという証し。それに、今までずっとわたしを前にし...
そして、このまま続けていたら、『その先』があるというこ...
わたしは、サイトさんのそれを、軽く握りしめるようにして...
「サイトさん、痛くないですか? つらくないですか?」
「そんなことないけど……でも、あっ、くぅ……!」
サイトさんは息を荒くして、シーツを握りしめる。その顔が...
胸が一杯になって、そのサイトさんの反応をもっと知りたいと...
くちゅくちゅと、わたしの指とサイトさんが擦れあう音が、...
肝心なところはお互い見ることができなくて、ただ一つ確か...
本当にいやらしいことをしているのかどうか、ふとわからなく...
もし、明るいところで、サイトさんのそれを間近に見ながら...
できなかったかもしれない。
「あ、あっ……はぁ……く……!」
必死で、荒げた息と声を漏らさないようにしているサイトさ...
でも、それはわたしにとってはあまり嬉しくない。
「はぁ、はぁっ……サイトさん、声、聞かせてください。サイト...
「ふぅ……ぐ……シエスタ、そんなの……!」
「それ、それです。名前、呼んでください。シエスタって、呼...
わたしは、手を動かす速さを上げる。サイトさんから滲み出...
完全に濡れてしまっている。
「くぁ……シエスタ、シエスタ……!」
「サイトさん、サイトさん……!」
名前を呼ばれるのが、嬉しい。サイトさんをこんなにしてい...
わたしの手で気持ちよくなっているのがサイトさんだって、は...
だんだん感極まっていくサイトさんの声。それと一緒に、わ...
高ぶっていく。
サイトさんの腰が引けてきた。その声と表情に混じる、切な...
あ、きっと。直感的にわかった。それがわかったことも、嬉し...
「シエスタっ、だめ、やめて……!」
「いいです、そのまま……いいですから」
サイトさんの懇願を、わたしは否定する。そして、それに対...
わたしは、先程のように、サイトさんの唇に吸い付く。
■8
「んっ……んむっ……!!」
不意をつかれて、気持ちが緩んだのか……あるいは、キスが気...
サイトさんは、わたしの体を抱き留めて。
びゅっ、びゅくっ、びゅるぅっ!
わたしの手の中に、体温より、お風呂のお湯よりも熱く感じ...
サイトさんのそれは、どくどくと痙攣するように震えて、そ...
熱いものがぶつかります。
こんなに、多くて、熱くて、ねっとりしてる……それまでわた...
まったく別の感触に、わたしは呆然としている他なくて。サイ...
ずっとサイトさんと唇を重ねたままでいました。
「……っはぁ、はぁ、はぁっ……!」
わたしとサイトさんは、ゆっくりと顔を離しました。サイト...
とろけているのが見て取れて、わたしの方も何だか満たされて...
「……よかった、ですか?」
囁くと、サイトさんは、恥ずかしそうに視線を逸らしながら...
また、きゅうっ、と体の奥が締め付けられる。あぁ、可愛い...
わたしで、わたしの手で、こんな……!
ゆっくり、慎重に、わたしは右手を布団の中から出しました...
上半身をベッドの上に起こします。
「シエスタ?」
不思議そうな声を上げるサイトさんを尻目に、わたしは右手...
溜まったものを、眺めます。暗いから色はよくわかりませんで...
でも、これが、サイトさんの。これをもし、わたしがお腹の...
そんなことを考えたら、わたしの手の中で外気に晒されて、...
ものすごく愛おしくなって、勿体なくなって。
わたしは手の平に唇をつけて、それをすすりました。
「なっ……!? シエスタ、そんなのっ!!」
サイトさんは信じられないといった声を上げて、わたしと同...
でも、もう遅いです。ほとんどそれはわたしの口の中に流し込...
ごくり、と喉を鳴らして飲み込みました。ちょっと、生臭く...
喉に引っかかる感じもします。でも、全然イヤな味だとは思わ...
「はぁ………」
飲み込んだ後に出た、自分自身の吐息に、驚きました。心の...
体は、明らかに――明らかに、悦んでいるみたいなのです。それ...
わたしは、それが当然であるかのように、まだ手にこびりつ...
「シエスタっ、そんなことしなくていいから!」
違いますよ。わたしがしたくてしているんです。
「わたしの、一番大事なところへはいただけませんでしたから。
せめて、口からでも、受け止めさせてください……ね?」
最後の一滴を舌先で舐め取って、わたしはサイトさんに笑い...
この後、わたしたちは汚れてしまったところを綺麗にして、...
このまま、サイトさんに最後まで求めることも出来たはずだ...
それをしませんでした。
だって、そんな余裕が無いほど、頭の中が今の出来事の事で...
そして、そんな自分の気持ちを整理しようと努力するので精...
――今思い返せば、この時のことが、”今”のわたしに繋がる、...
■9
∞ ∞ ∞
窓から差し込む日差しの眩しさで、目が覚めた。鳥のさえず...
そのまま、まだ眠気が覚めない頭で、しばらくぼーっとベッド...
何か、足りない。いつもと違う。それが何なのか気付いて、...
「ちょっと、サイト。顔洗うから水持ってきなさい」
サイトに起こされたわけじゃないってことは、まだアイツ寝...
もしそうならお仕置きだかんね。ベッドの隣に目をやると……そ...
あれ? と思って、今度は部屋の隅の藁束を見る。そこにも...
そこで、ようやく頭が冴え、思い出す。昨日の朝もそうだっ...
部屋に帰ってこないのだ。
「何なのよ、もう」
いらいらしながら、ベッドから降りる。壁に立てかけてある...
「ねぇ、本当にサイトがどこに行ったか知らないの?」
「知らんよ。昨日、昼ごろに帰ってきて掃除してったがね。
俺をここに置いてってるってことは、そんなに遠くまでは行っ...
サイトに買ってあげた剣は、かちゃかちゃ金具を鳴らしなが...
ため息をつく。昨日、学校が終わった後にも、同じことを聞...
確かに、サイトの仕事である部屋の掃除はちゃんとしてあっ...
サイトとは顔を合わせていない。まるで、わたしに会うのを避...
どうしてよ。思い当たることと言えば、一昨日の夜、サイト...
たぶんサイトはわたしが寝てるあいつにキスしたのをヘンな勘...
わたしが嫌がったら逃げてしまった。
ひょっとしたら、また前みたいに首輪つけられて「わん」と...
「ま、まぁ、あれは誤解されても仕方ない事したわたしにも責...
「何一人でぶつぶつ言ってるんだ?」
「うるさいわねっ!」
考えてた事が口に出てしまい、デルフに聞かれて、頬が熱く...
毎日毎日、しょっちゅうこんなくだらない言い争いをしていた。
それまで一人でこの部屋に住んでいたのが寂しかったとは思...
サイトがいないとなんか張り合いがない。
早いうちに見つけて、連れ戻してやらないと。そう考えなが...
授業開始前の予鈴が聞こえ、わたしは顔から血の気が引くのが...
■10
「珍しいわね、あなたが遅刻なんて」
結局最初の授業には遅れてしまった。一時限目が終わって肩...
整理していると、後ろの席からキュルケの声が聞こえた。
「あれからサイトとはどうなったの?」
続けて、キュルケは少し真面目な声でそう聞いてくる。ここ...
わざわざ聞かなくても大体は想像できるでしょうに。
「……あれから、見てない。ホント、何が何だかわかんないわ」
「帰ってないの? あなたの部屋にも?」
そうよ、と答えると、キュルケは黙ってしまった。どうした...
彼女はいつになく真剣な顔つきで眉を寄せ、考え事をしている...
「あによ。サイトが何で帰ってこないのか、わかるの?」
「まぁ、推測だけど、大体はね。
……諦めて普通にしてるんじゃなく、帰ってこないのなら、まだ...
キュルケは独り言のようにぶつぶつ何か言っていたけど、し...
顔を上げてわたしを見た。
「このあたしがヴァリエールの女に助け船出すのは癪だけど、...
サイトのためだから。心して聞きなさい」
キュルケは何だか恩着せがましいことを言ってわたしの方へ...
こいつ、昨日もわたしとサイトの様子を見て自分だけ事態をわ...
「偉そうに。なんであんたの助けなんか」
「いいから聞きなさいな。……ルイズ、サイトはあなたにとって...
キュルケは強い口調でそう質問してきた。何で今更そんなこ...
「何って……使い魔よ。あんただってよく知ってるでしょ」
「そう、使い魔。でもね、彼はあたしのフレイムちゃんや、タ...
当たり前でしょ。あいつは普通の使い魔と違って人間で、わ...
「わかってるわよ、それくらい」
「ううん、わかってないわ。いいこと? 人間の使い魔を召還...
ということは、一般的な『使い魔との接し方』はあなたの場合...
でも、あなたは自分が考えている”使い魔はこうあるべき”とい...
そのままサイトに押しつけてる。どうするのが正解かなんてあ...
少なくともあなたはサイトに間違った接し方をしてるのよ」
キュルケの理路整然とした言葉に、言い返すことができない...
何で他人のことなのに、ここまで考えてるのかしら。
「ねぇ、いくら平民でも、『無給で何でも主人の言うことを聞...
「いるわけないでしょ、そんなの」
主人の言うことを何でも聞く使用人ならいるだろうけど、無...
どんな優秀な使用人だって、相応のお給金を貰えるから主人に...
……そこまで考えて、わたしはようやく気付いた。
「そう。あなたは、サイトにそれを求めてるのよ? どれだけ...
なのに、サイトはあれだけあなたにぞんざいに扱われてるのに...
それどころか、あなたの命を救ったりまでしてくれてるわね。...
キュルケは、わたしが何度も自問していた事と同じことを聞...
心の中を見透かされたみたいで、ぞっとする。
「あ、あいつが……使い魔だから?」
「ノー。使い魔だからなんて理由で、そこまでしてくれるはず...
誠意を持って接して、お互いに信頼関係を作ってこそ、主人に...
行動からじゃ、とてもじゃないけど使い魔があなたを尽くすに...
■11
「じゃあ、なんでよ!」
思わず荒くなってしまった口調で聞くと、キュルケは大きく...
「……ほんっとに。これだけ察しが悪くて、身勝手で性格も悪く...
しかもちんちくりんな女のどこがいいのかしら。あたしだった...
「馬鹿にしてるの?」
「してないわよ。むしろ誉めてるの。それだけあなたってヒド...
呆れたように笑いながら言ってきたキュルケの言葉に、わた...
え? なに? なによそれ。サイトに、好かれてる? 誰が?
「な、ななな、何言ってるのよ、そんなの……」
「それ以外考えられないでしょ。ご主人様としては落第点。見...
カラダ目当てって事も有り得ないわね。だったら、好かれてる...
サイトはあなたに情が移っちゃったから世話焼いてくれるんで...
カラダ目当て、というキュルケの言葉にぎくっとする。
そうだ。ベッドの上で、サイトに二度ものし掛かられた。
でも、よく考えたら、自分で言うのも情けないけど、わたし...
背も低いしで、はっきり言って女として魅力があるとは思えな...
それに、女の子とその、なんていうか……なんていうか、なこ...
キュルケとそういうことができたはずなのだ。でも、サイトは...
それでも、わたしが嫌がったら、すぐにやめてくれた。
あと、あと……キス、してきた。アルビオンでの帰り……わたし...
それって、それって……サイトが、わたしのことを……好き、だ...
「好きな相手に、犬だ馬鹿だって何度も言われたらどうかしら...
断言されたらどう感じるかしら? それくらいは想像できるわ...
のぼせ上がって混乱してたところに、冷水を浴びせられた。
わたし、自分のことばっかりで、サイトの気持ちを全然考え...
「わたし……サイトを傷つけた?」
背筋が冷たくなる。声が震えてる。今までに覚えのない感覚...
「さぁね。何が決定的な原因になったのかはわからないわ。で...
サイトは、今までと同じようにあなたに尽くしてはくれなくな...
わたしは、弾かれるように席を立った。そこで二時限目の時...
今はそれどころじゃない。走って教室を出る。入り口の所で次...
シュブルーズ先生とぶつかりそうになって何か言われたけど、...
∞ ∞ ∞
「――全く。あたしから見たら、あの子の方が気位だけ高くてて...
「血統書付き」
「あら聞いてたの。結構上手いこと言うわね、タバサ」
∞ ∞ ∞
■12
教室のあった塔から飛び出して、学生寮まで走る。サイトが...
とにかく何とかして探し出すつもりだった。まずはわたしの部...
「何よ、好きって、好きって、そんなの……!」
頭の中がぐちゃぐちゃになってる。サイトはわたしのことが...
えっと、えっと、落ち着きなさいルイズ。よく考えなさい。
サイトが、わたしのことを好きだったとして。そう仮定して...
ええと、サイトがわたしの部屋から出て行って帰ってこなく...
その時に何があったかというと、わたしが寝てるサイトにキ...
わたしを組み敷いてきた。それで、わたしが抵抗したら、サイ...
サイトがわたしのことを好きだったとして……あの時、サイト...
そうしたら、サイトにとってあの状況は、『好きな相手が寝...
となるわけで。そんな状況だったから、あいつはわたしの方も...
あんなことしちゃったわけね。わたしのことが、すっ、すすす...
もちろん、誤解なんだけど。そんなこと許すわけ無いんだけ...
それでもわたしが嫌がったから、サイトはびっくりして逃げ...
わたしの機嫌を伺いに来たんだけど、わたしは確か……『あんた...
はっきり言ってやったわね。それ以後、サイトはわたしに顔を...
それって……。もしかして、サイトはわたしにフラれたと思っ...
キュルケが言っていたように、サイトはわたしに犬だとかた...
傷ついてたのかもしれない。でも、わたしの所へ帰ってこなく...
サイトが、わたしのこと好きだったって考えれば……納得でき...
寮の入り口まで着いて、足が止まった。心臓がばくばく言っ...
こ、ここ、困るわよ、そんなの。勝手にわたしのこと好きに...
あんたは使い魔なんだから。れっ、恋愛とか、そういうのの対...
だから、だから……。
そこまで考えて、頭を抱える。ホントに困るわよう。どうし...
んー、えっと、サイトは、すぐわたしを怒らせることするけ...
仕事をしてくれてる。わたしを助けてくれてる。
だから、その、恋とかじゃなくて、使い魔としてなら、す、...
むしろ、それなりに感謝してる。ちょっと癪だけど、なるべ...
サイトに会ったら言おうと思うことを、頭の中で整理する。...
あいつが帰ってきてくれるかどうか、わからない。
そういえば、あいつにちょっとはご褒美らしいものをあげよ...
セーターを編んでる最中だった。あれを見せたら、喜んでくれ...
喜ぶわよね。好きな相手からのプレゼントだもの。こっちは別...
あと、それから……マッサージ、してあげようかな。今度は踏...
うん、わたしはサイトにマッサージされるの気持ちいいし、何...
きっと、わたしのとこに居たくなるに違いない。間違いない。
一人で頷くと、一気に寮の階段を駆け上がった。
∞ ∞ ∞
■13
「いいの? 本当に手伝ってもらっちゃって」
「いいんですよ。もともと、こういう仕事はわたしの方が慣れ...
朝の仕事が終わったシエスタと一緒に、ルイズの部屋の戸を...
この時間は授業中だから、ルイズが帰ってくる心配は無い。
昨日の昼に掃除しに来たばかりなのに、妙に久しぶりな気が...
「えっと、これとこれと……ここ何日かサボっちゃったから、結...
「でも、ミス・ヴァリエールお一人の分ですから、大したこと...
カゴの中にルイズの洗濯物を入れているうちに、シエスタが...
さっきの言葉通りに手慣れた様子で、感心してしまう。
「……おぉ、誰かと思ったら相棒じゃねーか。昨日からどうした...
そんな時に聞こえてきた声に、ぎくっとする。この部屋に置...
「ルイズが探してた?」
「おおよ。寂しがってたぞ。昨日はどこで寝たんだね? まさ...
寂しがってた、というデルフの言葉に、胸がちくりと痛んだ...
使い魔がいなくなったからの寂しさ。飼い犬が自分のところへ...
「えっと、昨日はこのシエスタの部屋に泊めてもらったんだけ...
今晩はたぶんここに帰ってくるよ。……あ、これルイズには内緒...
剣が喋る姿に目を丸くしていたシエスタを指して言う。デル...
「おう、主人を放っておいてメイドの部屋にしけこんだんか。...
そりゃ、あの娘っ子に知られたら大変だぁな」
「そんな、しけ込んだだなんて……」
シエスタは頬を赤くして体をもじもじさせた。俺も、そんな...
確かに、ただ泊まっただけじゃなく、しけ込んだと言われても...
「ま、まぁとにかく、ルイズには秘密で頼むぞ、デルフ」
変な空気になってしまいそうだったので、慌てて洗濯物カゴ...
シエスタも俺の後をぱたぱたついてきて、俺が廊下へのドアを...
そこに、ルイズが立っていた。
「え……」
「ミス・ヴァリエール?」
一瞬、思考が停止して、何も考えられなくなった。
そこにいたルイズの顔は、こちらが気圧されてしまうくらい...
ルイズは、静かに顔を上げて俺を見た。ぞっとするような、...
その唇が、ゆっくりと開かれる。
「……メイドの部屋に、泊まってたの?」
やっぱり、聞かれてた。ドアの外で立ち聞きしていたらしい...
くれた方がまだよかったのに。どう答えて良いのかわからない。
「――間違えたんだ。寝ぼけるか何かして、間違えたのね。わた...
それで、わたしだと気付いたから、慌てて逃げた。そう。そう...
俺が返答に詰まっていると、ルイズはうつむき、ぼそぼそと...
よく聞こえない。ルイズも、俺に聞かせる気は無いようだった...
「ル、ルイズ?」
その肩に手を伸ばすと、驚くような勢いではね除けられた。
俺の手を払ったルイズの手のひらが握りしめられ、ぶるぶると...
「……出て行って」
絞り出すように、ルイズはそう言った。俺の顔を見ようとし...
「え?」
「聞こえなかったの。もう二度とこの部屋に帰ってこないで。…...
淡々とした声。その声に震えが混じり、ルイズの足下にぽた...
つづく
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