ゼロの使い魔保管庫
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130 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
「王宮の晩餐会? 呼ばれた?」
こちらに背を向けてクローゼットで服を選んでいるルイズの...
「姫さまって、あまりそういう贅沢しないんじゃなかったか?」
「全くそういうことしないわけじゃないでしょ。それに、今回...
わたしの知り合いも呼べって言ってるし、とりあえずモンモ...
水精霊騎士団にはあんたから伝えといて。そうそうメイド。...
「え、わたし!? あの、わたしなんかが行っていいんですか?」
「言っとくけど同席はさすがに無理だかんね。給仕とか手伝い...
「あ、はい、嬉しいです! そういうパーティーだと召使にも...
現代日本人の感覚からすると、なかなか切ない発言だが、シ...
きっとそれがこっちの普通なんだろーなーと思いつつ、才人...
「あの……俺は?」
ぴたりとルイズの動きが止まった。ややあって後姿が、なん...
「置いていきたいところだけど、呼ばれてるわよ。
『あ、サイト殿も』って、いかにもついでですって感じで姫...
「あ、ああ……そうか」
「犬」
「はい」
「なにかフラチな問題を起こしたら、誓ってあんたを料理する...
平坦な声なのが怖い。才人はカタカタ震えながら、一も二も...
131 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
「ロマリアから海沿いの地の領主が、トリステインに旅行に来...
自らの領地で取れた産物を、わざわざ運んできてわたくしに...
氷雪系魔法で凍らせてあるのですが、やはり早く片づけてし...
ごく内輪で食事会にしようかと思いまして」
アンリエッタの説明を聞いた後、晩餐の時間まで王宮で待機。
マリコルヌがわかりやすく満面の笑みである。程度の差はあ...
さっそく、晩餐会に出るであろう食事について、水精霊騎士...
「贅沢な餌で育った豚のリブの塩漬けを、ハーブといっしょに...
「ロマリア産の肥育鶏を丸ごと、オリーブ油を表面に塗って岩...
「ロマリアのチーズはこちらとはまた一味違うというぞ。きっ...
「いやいや、領地でとれたならやはり野生の獣だろう。猪、野...
「王宮の厨房には三十年ものの秘伝のソースがあるというぞ。
使ったら、減った分をそのたびにちょっぴりずつ補充して熟...
男だけでなく、女性陣も楽しみにしているらしく、あっちは...
このすべての熱から、才人は精神的に一番遠ざかったところ...
これまでの滞在で、こっちの上流階級の料理も多少は食べた...
肉や乳製品が基本で、こってりしたソースがかけられること...
(たまに食うならいいけど、毎日食ってたら食傷するんだよなあ...
いやいや、贅沢を言ってはいけないよな。
……あー、でも日本はほんと魚に恵まれた環境だったよな……も...
132 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
要するに、才人はそろそろ日本食が懐かしくなっていた。
そんな彼の耳に、ふと会話が飛びこんだ。アンリエッタがル...
「ええ、南海の変わった魚もありますわ。人間が横に手をひろ...
「まあ、料理される前にちょっと見てみたいですわ、姫さま……...
「姫さま! その魚俺にも見せて!」
「え、ええ……今頃は厨房で解凍していると思うのだけれど」
稲妻のようにすっとんでいって少ししてから、才人は駆け戻...
「頼みます姫さま! あの魚の一部をください!」
「え? え?」
「ちょっとサイト! あんた女王陛下になんてことしてんのよ...
ルイズに叱責され、はっと周囲の目に気づいて我にかえるも...
「お願い! これを逃したらきっと一生後悔するんです!」
「あ、あの……でも晩餐会で出ると思うのですが……慌てなくても」
「そこを何とか! 両手のひらに載るくらいの魚肉でいいんで...
「は、はい……」
133 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
夜。
女王主催、「宮廷料理人謹製、ところどころ南国風」の晩餐...
南国で取れた香りのよい茸のスープ。レモンやオリーブやさ...
マッシュルームと角切りベーコンを白ワインで蒸し焼きにし...
十日間吊るしていたという鴨はローストする。南国の上質な...
ムール貝やハマグリは、オリーブ油と白ワインで煮溶かした...
ローズマリーやタイムで臭みを和らげた南国産の猪の焼き肉...
子羊の肉は胡椒をふって串にさし、炭火で表面をじっくりと...
燻製ハムは薄切りにして野菜やハーブの上にのせられてある...
厚い子牛の腰肉は、勝手に切って食えとばかりにでんと大皿...
車輪型の大きなチーズも、テーブル上にざっくばらんに数種...
魚もちゃんと出た。
パン粉をつけて揚げたスズキのフライに、塩味をつけたアー...
北の海でとれたヒラメを、オリーブ油でソテーし、南国産バ...
そしてもちろん、「あの魚」。ステーキのように分厚い切り...
才人は決して、これらの料理を食べたくないわけではない。...
しかし、今日ばかりはそわそわして、どうにも普段ほど食が...
そんな落ち着かない才人を、隣のギーシュがせっついた。
「なんだね君! 食べないのかあ! じゃ、そこのカタツムリ...
「嫌だ。ギーシュお前、そろそろ飲みすぎじゃないか? テン...
「君はいったいなにを言っているんだね? 見ろよこの幾種類...
この赤なんか、父上の秘蔵の酒蔵にも置いてある逸品だ。さ...
なんと芳醇な大地の香り、鮮烈で力強い太陽の味! 南の酒...
「お前が陰気な酒を飲むのを見たことがねえぞ。それは後から...
……俺ちょっと出てくるから」
134 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
才人が出て行くのを視界の端に見たルイズは、どうにも気に...
あいつは何をしに行ったんだろう。順当に考えればトイレに...
なんだか落ち着かない、けれど楽しみで仕方がないというよ...
逢い引き、という言葉が浮かび上がってきたが、いやいやそ...
(だって姫さまならここにいるし……って、あれ? そういえば……)
「あーっ!!」
絶叫して、ルイズは椅子をけたてて立ち上がった。
隣のモンモランシーが蜂蜜酒を吹き、上座にいるアンリエッ...
向かいの席のキュルケが「ちょっと、落ち着きないわよ」と...
(メイド! メイドを忘れてた!)
まだむせこんでいるアンリエッタに、「すみません、ちょっ...
才人の後を追って走り出す。
ほどなくして、足取りも軽くせかせかと歩く少年の後ろ姿が...
なにをそんなにウキウキしてんのよ、と毒づいて、そっと見...
やがて、彼は立ち止まった。
厨房の前である。
ルイズの覚えている限り、召使は晩餐のあいだ厨房にひかえ...
つまりシエスタもここにいる。
よし死刑。
135 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
しかし、事態はルイズの想像を超えた。
才人は、剣をすらりと抜いて中に入っていったのである。
「な、何してんのよあいつ……」
足音を立てないように、抜き足差し足で厨房の入り口に近寄...
そろそろと首を伸ばして入り口から中をうかがおうとしたと...
悲鳴をこらえて振り向くと、けげんそうな顔をしたシエスタ...
「なにしてるんですか? ミス・ヴァリエール」
「あ、あんたね、もうちょっと人にわかりやすく近寄って……ま...
あんた、あの犬と待ち合わせしてるんじゃなかったの?」
「え? サイトさんですか? ちがいますよ。わたしたち召使...
こっちは第二厨房、今日は南国の食材が運びこまれて、食材...
……サイトさんそこにいるんですね?」
「そうなんだけどね、なんだか様子が変なのよ」
そこまで小声で話したとき、厨房の中からぎゃー! と悲鳴...
「ほ、ほんとにあいつ何してんの!?」
「あ、わたしも見ます、ミス・ヴァリエール!」
136 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
才人は至福の瞬間を迎えようとしていた。
手にした冷たい赤いカタマリに、かぶりつく前にほくほくと...
しかしそこで、重要なことに気がつき、一気に青ざめた。
「忘れてた、畜生! 醤油がねえ!」
この重要な瞬間に、それはわりと致命的だった。が、無いも...
ポジティブ思考で、何か代わりになりそうなものを探す。
このボウルの中の、デミグラスだっけ? これでいーやと思...
「へ? ルイズ、それにシエスタ? お前らなにしてんの?」
「……なにしてんのか、ってね。こっちが聞きたいんだけど……あ...
ルイズの指し示したほうを振り向き、ああこれ? と才人は...
「まあ、でかい魚の解体しかけってインパクト強いよな。俺が...
背は非常に濃い青色で、腹は銀白色。高度な遊泳生活に適応...
クロマグロ。別名ホンマグロと呼ばれる巨大な魚だった。
その魚の横にはデルフリンガーが置かれ、『サカナ! サカ...
先ほどの悲鳴は無論この剣である。
「あーいやデルフ悪い、だって包丁よりお前持ったときのほう...
『ガンダールヴの力を、サカナ斬るために発揮してんじゃねえ...
剣の絶叫を聞き流し、才人はぱくっと手ににぎりしめた大ト...
「んむ……おお、なんという柔らかさ……すげえ、口の中で溶ける...
感極まって叫ぶ。大トロの塊にかぶりつけるなんて……ああ幸...
137 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
そこで、唐突に我にかえった。目の前で、二人の少女が手を...
自分の状況を整理してみた。
夜中、厨房で、生の魚から腹のあたりの身をえぐりとってか...
「サ……サイト……アンタ何ヤッテルノ……」
「ソソソソレ、生デスヨネ?」
「……いや……あの……待って? 生魚って美味しいよ?」
才人は前に手をのばす。
すすすすす、という感じで、手をとりあったままルイズとシ...
「あのね、サイト……生魚はさすがにないわ……」
「だって生魚ですよ、生の魚……」
「マッテヨ! 美味しいんだよ本当に! くそう、現代だと世...
いやこれは刺身ですらねえけどさ!」
シエスタがはっ、という感じで目を見開いた。
「そういえば、うちのひいおじいちゃんも、時々川でとった魚...
それを聞いて、ルイズがなにやら想像したのか顔をしかめた。
「ルイズ! 違う! 『妖怪ガンギ小僧』みたいなのが頭から...
138 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
ルイズを連れ、ぐったり疲れて食卓に才人がもどると、とな...
「……ん? 魚臭くないか?」
「気にするな……しかしなあ、こうして考えるといろいろ食べた...
梅干とかすげー懐かしくなってきた」
味噌汁。納豆。漬け物各種。海苔巻き。寿司。というか白米。
ほこほこと湯気の立つ、炊き立てのご飯を思い出したとき、...
「米食いてぇなぁ……」
間が悪いというべきか、食卓での周囲の会話の多くがいった...
しんと座が静まりかえる。
才人は慌てた。
「あれ? いや、すみません、聞き流してください。ちょっと...
と、上座のアンリエッタが「あのう……」と発言する。
「お米なら、南国の方から送られた食材の中にありましたけど」
「マジデスカ!?」
才人の声がひっくり返る。アンリエッタはなるほどとうなず...
「そうね、お米ってハルケギニアの南のほうの一部でしか作ら...
サイト殿、お米が食べたいのですか?」
「YES! 断じてYES!」
139 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
アンリエッタはにっこり微笑んだ。
「それなら、もうすぐ出てきますよ」
才人はとりあえず、始祖だか神だかに感謝した。食前の祈り...
もちろん才人とて、必ずしもジャポニカ米に似たものが出て...
だが、今は米でありさえすれば何でもいいという気分である。
念のために、隣のギーシュに聞いてみる。
「なあギーシュ、お前米って食ったことある?」
「ん? ああ、あるぞ。何度か、こうした晩餐会で食べた」
「どんな感じ?」
「どうって……ムール貝、鶏肉、タマネギなどの具を入れてパラ...
なるほど、と才人はうなずいた。欲を言えば一番食べたいの...
まあ、それでもいい。チャーハンみたいなのだろうが雑炊み...
だが、晩餐会のメニューの皿は進んでいくが、じりじりとそ...
いい加減にしびれが切れたころ、アンリエッタが才人をちら...
「そろそろデザートを持ってきてくださいまし」
才人に微笑む。
「待ちくたびれている人もいるようですから」
女王陛下の好意をたまわるという、ギーシュあたりだったら...
……デザート?
140 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
「お米のプディングでございます」
「ぷ……ぷでぃんぐ……?」
才人は目の前に置かれたものを一目見て、言葉を失った。
およそ、少なくない日本人にとって悪夢の結晶といえるだろ...
横ではギーシュがばくばくとそれをスプーンで口に運んでい...
「そうそう、プディングにするという料理法もあったな。うん...
あまりのことに茫然自失しながらも、恐る恐る才人は震える...
アンリエッタが嬉しそうに手をあわせて、訊いてきた。
「サイト殿、いかがでしょうか?」
「……………………スゴク…………甘イデス……」
「なんだサイト、きみ泣いてるのかね? 陛下の温情にほださ...
終了行:
130 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
「王宮の晩餐会? 呼ばれた?」
こちらに背を向けてクローゼットで服を選んでいるルイズの...
「姫さまって、あまりそういう贅沢しないんじゃなかったか?」
「全くそういうことしないわけじゃないでしょ。それに、今回...
わたしの知り合いも呼べって言ってるし、とりあえずモンモ...
水精霊騎士団にはあんたから伝えといて。そうそうメイド。...
「え、わたし!? あの、わたしなんかが行っていいんですか?」
「言っとくけど同席はさすがに無理だかんね。給仕とか手伝い...
「あ、はい、嬉しいです! そういうパーティーだと召使にも...
現代日本人の感覚からすると、なかなか切ない発言だが、シ...
きっとそれがこっちの普通なんだろーなーと思いつつ、才人...
「あの……俺は?」
ぴたりとルイズの動きが止まった。ややあって後姿が、なん...
「置いていきたいところだけど、呼ばれてるわよ。
『あ、サイト殿も』って、いかにもついでですって感じで姫...
「あ、ああ……そうか」
「犬」
「はい」
「なにかフラチな問題を起こしたら、誓ってあんたを料理する...
平坦な声なのが怖い。才人はカタカタ震えながら、一も二も...
131 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
「ロマリアから海沿いの地の領主が、トリステインに旅行に来...
自らの領地で取れた産物を、わざわざ運んできてわたくしに...
氷雪系魔法で凍らせてあるのですが、やはり早く片づけてし...
ごく内輪で食事会にしようかと思いまして」
アンリエッタの説明を聞いた後、晩餐の時間まで王宮で待機。
マリコルヌがわかりやすく満面の笑みである。程度の差はあ...
さっそく、晩餐会に出るであろう食事について、水精霊騎士...
「贅沢な餌で育った豚のリブの塩漬けを、ハーブといっしょに...
「ロマリア産の肥育鶏を丸ごと、オリーブ油を表面に塗って岩...
「ロマリアのチーズはこちらとはまた一味違うというぞ。きっ...
「いやいや、領地でとれたならやはり野生の獣だろう。猪、野...
「王宮の厨房には三十年ものの秘伝のソースがあるというぞ。
使ったら、減った分をそのたびにちょっぴりずつ補充して熟...
男だけでなく、女性陣も楽しみにしているらしく、あっちは...
このすべての熱から、才人は精神的に一番遠ざかったところ...
これまでの滞在で、こっちの上流階級の料理も多少は食べた...
肉や乳製品が基本で、こってりしたソースがかけられること...
(たまに食うならいいけど、毎日食ってたら食傷するんだよなあ...
いやいや、贅沢を言ってはいけないよな。
……あー、でも日本はほんと魚に恵まれた環境だったよな……も...
132 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
要するに、才人はそろそろ日本食が懐かしくなっていた。
そんな彼の耳に、ふと会話が飛びこんだ。アンリエッタがル...
「ええ、南海の変わった魚もありますわ。人間が横に手をひろ...
「まあ、料理される前にちょっと見てみたいですわ、姫さま……...
「姫さま! その魚俺にも見せて!」
「え、ええ……今頃は厨房で解凍していると思うのだけれど」
稲妻のようにすっとんでいって少ししてから、才人は駆け戻...
「頼みます姫さま! あの魚の一部をください!」
「え? え?」
「ちょっとサイト! あんた女王陛下になんてことしてんのよ...
ルイズに叱責され、はっと周囲の目に気づいて我にかえるも...
「お願い! これを逃したらきっと一生後悔するんです!」
「あ、あの……でも晩餐会で出ると思うのですが……慌てなくても」
「そこを何とか! 両手のひらに載るくらいの魚肉でいいんで...
「は、はい……」
133 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
夜。
女王主催、「宮廷料理人謹製、ところどころ南国風」の晩餐...
南国で取れた香りのよい茸のスープ。レモンやオリーブやさ...
マッシュルームと角切りベーコンを白ワインで蒸し焼きにし...
十日間吊るしていたという鴨はローストする。南国の上質な...
ムール貝やハマグリは、オリーブ油と白ワインで煮溶かした...
ローズマリーやタイムで臭みを和らげた南国産の猪の焼き肉...
子羊の肉は胡椒をふって串にさし、炭火で表面をじっくりと...
燻製ハムは薄切りにして野菜やハーブの上にのせられてある...
厚い子牛の腰肉は、勝手に切って食えとばかりにでんと大皿...
車輪型の大きなチーズも、テーブル上にざっくばらんに数種...
魚もちゃんと出た。
パン粉をつけて揚げたスズキのフライに、塩味をつけたアー...
北の海でとれたヒラメを、オリーブ油でソテーし、南国産バ...
そしてもちろん、「あの魚」。ステーキのように分厚い切り...
才人は決して、これらの料理を食べたくないわけではない。...
しかし、今日ばかりはそわそわして、どうにも普段ほど食が...
そんな落ち着かない才人を、隣のギーシュがせっついた。
「なんだね君! 食べないのかあ! じゃ、そこのカタツムリ...
「嫌だ。ギーシュお前、そろそろ飲みすぎじゃないか? テン...
「君はいったいなにを言っているんだね? 見ろよこの幾種類...
この赤なんか、父上の秘蔵の酒蔵にも置いてある逸品だ。さ...
なんと芳醇な大地の香り、鮮烈で力強い太陽の味! 南の酒...
「お前が陰気な酒を飲むのを見たことがねえぞ。それは後から...
……俺ちょっと出てくるから」
134 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
才人が出て行くのを視界の端に見たルイズは、どうにも気に...
あいつは何をしに行ったんだろう。順当に考えればトイレに...
なんだか落ち着かない、けれど楽しみで仕方がないというよ...
逢い引き、という言葉が浮かび上がってきたが、いやいやそ...
(だって姫さまならここにいるし……って、あれ? そういえば……)
「あーっ!!」
絶叫して、ルイズは椅子をけたてて立ち上がった。
隣のモンモランシーが蜂蜜酒を吹き、上座にいるアンリエッ...
向かいの席のキュルケが「ちょっと、落ち着きないわよ」と...
(メイド! メイドを忘れてた!)
まだむせこんでいるアンリエッタに、「すみません、ちょっ...
才人の後を追って走り出す。
ほどなくして、足取りも軽くせかせかと歩く少年の後ろ姿が...
なにをそんなにウキウキしてんのよ、と毒づいて、そっと見...
やがて、彼は立ち止まった。
厨房の前である。
ルイズの覚えている限り、召使は晩餐のあいだ厨房にひかえ...
つまりシエスタもここにいる。
よし死刑。
135 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
しかし、事態はルイズの想像を超えた。
才人は、剣をすらりと抜いて中に入っていったのである。
「な、何してんのよあいつ……」
足音を立てないように、抜き足差し足で厨房の入り口に近寄...
そろそろと首を伸ばして入り口から中をうかがおうとしたと...
悲鳴をこらえて振り向くと、けげんそうな顔をしたシエスタ...
「なにしてるんですか? ミス・ヴァリエール」
「あ、あんたね、もうちょっと人にわかりやすく近寄って……ま...
あんた、あの犬と待ち合わせしてるんじゃなかったの?」
「え? サイトさんですか? ちがいますよ。わたしたち召使...
こっちは第二厨房、今日は南国の食材が運びこまれて、食材...
……サイトさんそこにいるんですね?」
「そうなんだけどね、なんだか様子が変なのよ」
そこまで小声で話したとき、厨房の中からぎゃー! と悲鳴...
「ほ、ほんとにあいつ何してんの!?」
「あ、わたしも見ます、ミス・ヴァリエール!」
136 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
才人は至福の瞬間を迎えようとしていた。
手にした冷たい赤いカタマリに、かぶりつく前にほくほくと...
しかしそこで、重要なことに気がつき、一気に青ざめた。
「忘れてた、畜生! 醤油がねえ!」
この重要な瞬間に、それはわりと致命的だった。が、無いも...
ポジティブ思考で、何か代わりになりそうなものを探す。
このボウルの中の、デミグラスだっけ? これでいーやと思...
「へ? ルイズ、それにシエスタ? お前らなにしてんの?」
「……なにしてんのか、ってね。こっちが聞きたいんだけど……あ...
ルイズの指し示したほうを振り向き、ああこれ? と才人は...
「まあ、でかい魚の解体しかけってインパクト強いよな。俺が...
背は非常に濃い青色で、腹は銀白色。高度な遊泳生活に適応...
クロマグロ。別名ホンマグロと呼ばれる巨大な魚だった。
その魚の横にはデルフリンガーが置かれ、『サカナ! サカ...
先ほどの悲鳴は無論この剣である。
「あーいやデルフ悪い、だって包丁よりお前持ったときのほう...
『ガンダールヴの力を、サカナ斬るために発揮してんじゃねえ...
剣の絶叫を聞き流し、才人はぱくっと手ににぎりしめた大ト...
「んむ……おお、なんという柔らかさ……すげえ、口の中で溶ける...
感極まって叫ぶ。大トロの塊にかぶりつけるなんて……ああ幸...
137 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
そこで、唐突に我にかえった。目の前で、二人の少女が手を...
自分の状況を整理してみた。
夜中、厨房で、生の魚から腹のあたりの身をえぐりとってか...
「サ……サイト……アンタ何ヤッテルノ……」
「ソソソソレ、生デスヨネ?」
「……いや……あの……待って? 生魚って美味しいよ?」
才人は前に手をのばす。
すすすすす、という感じで、手をとりあったままルイズとシ...
「あのね、サイト……生魚はさすがにないわ……」
「だって生魚ですよ、生の魚……」
「マッテヨ! 美味しいんだよ本当に! くそう、現代だと世...
いやこれは刺身ですらねえけどさ!」
シエスタがはっ、という感じで目を見開いた。
「そういえば、うちのひいおじいちゃんも、時々川でとった魚...
それを聞いて、ルイズがなにやら想像したのか顔をしかめた。
「ルイズ! 違う! 『妖怪ガンギ小僧』みたいなのが頭から...
138 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
ルイズを連れ、ぐったり疲れて食卓に才人がもどると、とな...
「……ん? 魚臭くないか?」
「気にするな……しかしなあ、こうして考えるといろいろ食べた...
梅干とかすげー懐かしくなってきた」
味噌汁。納豆。漬け物各種。海苔巻き。寿司。というか白米。
ほこほこと湯気の立つ、炊き立てのご飯を思い出したとき、...
「米食いてぇなぁ……」
間が悪いというべきか、食卓での周囲の会話の多くがいった...
しんと座が静まりかえる。
才人は慌てた。
「あれ? いや、すみません、聞き流してください。ちょっと...
と、上座のアンリエッタが「あのう……」と発言する。
「お米なら、南国の方から送られた食材の中にありましたけど」
「マジデスカ!?」
才人の声がひっくり返る。アンリエッタはなるほどとうなず...
「そうね、お米ってハルケギニアの南のほうの一部でしか作ら...
サイト殿、お米が食べたいのですか?」
「YES! 断じてYES!」
139 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
アンリエッタはにっこり微笑んだ。
「それなら、もうすぐ出てきますよ」
才人はとりあえず、始祖だか神だかに感謝した。食前の祈り...
もちろん才人とて、必ずしもジャポニカ米に似たものが出て...
だが、今は米でありさえすれば何でもいいという気分である。
念のために、隣のギーシュに聞いてみる。
「なあギーシュ、お前米って食ったことある?」
「ん? ああ、あるぞ。何度か、こうした晩餐会で食べた」
「どんな感じ?」
「どうって……ムール貝、鶏肉、タマネギなどの具を入れてパラ...
なるほど、と才人はうなずいた。欲を言えば一番食べたいの...
まあ、それでもいい。チャーハンみたいなのだろうが雑炊み...
だが、晩餐会のメニューの皿は進んでいくが、じりじりとそ...
いい加減にしびれが切れたころ、アンリエッタが才人をちら...
「そろそろデザートを持ってきてくださいまし」
才人に微笑む。
「待ちくたびれている人もいるようですから」
女王陛下の好意をたまわるという、ギーシュあたりだったら...
……デザート?
140 名前: アンリエッタの晩餐会 [sage] 投稿日: 2007/09/0...
「お米のプディングでございます」
「ぷ……ぷでぃんぐ……?」
才人は目の前に置かれたものを一目見て、言葉を失った。
およそ、少なくない日本人にとって悪夢の結晶といえるだろ...
横ではギーシュがばくばくとそれをスプーンで口に運んでい...
「そうそう、プディングにするという料理法もあったな。うん...
あまりのことに茫然自失しながらも、恐る恐る才人は震える...
アンリエッタが嬉しそうに手をあわせて、訊いてきた。
「サイト殿、いかがでしょうか?」
「……………………スゴク…………甘イデス……」
「なんだサイト、きみ泣いてるのかね? 陛下の温情にほださ...
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