ゼロの使い魔保管庫
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459 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:28:...
それは、アルビオンとトリステインの間で戦争が始まるより...
トリステイン魔法学院に通うメイジの少女、タバサの使い魔...
離れた森の木陰で、のんびり昼寝をしている最中であった。
虚無の曜日ということもあって、本好きの主人は学院の寮に...
な任務でもない限りは呼び出されることもないので、シルフィ...
のだった。
使い魔、と言っても、シルフィードは蝙蝠や蛙の類ではない...
獣の中でも、かなり高位に位置する竜という名の種族。その中...
風韻竜という種類の竜なのである。とは言えまだ齢200ほど...
年齢だ。体格も知能も人間とは比較にならないほど発達してい...
まだ幼い少女に過ぎないのである。色気よりも食い気。シルフ...
る、メスの幼竜なのだった。
(おねーさまは、今日もむっつり顔で読書読書)
目を瞑ったまま、シルフィードは鼻息を吐き出した。
(あんなに本ばっかり読んで、どうして飽きないのかしら。き...
文句と言うよりは、単純に疑問なのである。ちなみに今日タ...
馬の王子様が登場するような、子供向けの物語であった。タバ...
きなので、たまにそんな本を読んでいることもある。
(白馬の王子様、か)
シルフィードはじゅるりと舌なめずりをする。
(挿絵の白馬、おいしそうだったのね)
色気よりも食い気のシルフィードらしく、頭の中は既に肥え...
じた顎の隙間から、大量の涎が垂れ落ちてくる。
そのとき、シルフィードの耳が異音を捉えた。柔らかい草を...
それについてくる一頭の馬の蹄の音。しかも、意外なほどに距...
せいで音を察知するのが遅れてしまったようである。
(どうしよう)
シルフィードは戸惑った。相手はおそらくこの付近の農民か...
から、こんなところで竜に遭遇したりしたら恐慌をきたして逃...
森で竜を見かけた」なんてことを吹聴されたら、大騒ぎになっ...
(そんなことになったら、タバサおねーさまにご飯抜きにされ...
かと言って、飛び上がって逃げるには距離が近すぎる。姿を...
せめてタバサが近くにいたら、「メイジと使い魔か」と安心...
迷っている内に、正面の木々の隙間から、何者かの姿が垣間...
方がないと、シルフィードは狸寝入りを決め込むことにした。...
よりは寝ている竜と遭遇した方が、落ち着いて対処しやすいで...
そんな風に考えたのだが、それは結局無用な気遣いというも...
「あれ、タバサの竜じゃんか」
木々の向こうから姿を現したのは、シルフィードにとっては...
的な体格をした少年である。
(あ、ご同類なのね)
シルフィードは、彼のことをよく知っていた。彼女の主、タ...
ズ・ド・ラ・ヴァリエールが召喚した、使い魔の少年である。...
とで、学院内ではちょっとした話題の種になっている。
(名前は、えと、ヒラガサイト、とか言ったのね。変な名前)
とりあえず騒がれることはなさそうだと安心して、シルフィ...
しそうな白馬の手綱を引いて、こちらに向かって歩いてきた。
(おいしそうな馬なのね)
先程の想像がまだ頭に残っていたため、ついそんなことを考...
「お前何やってんの、こんなところで」
あまりにも自然に話しかけられたものだから、つい、
(お昼寝中なのね)
と、思わず人語で答えそうになって、シルフィードは慌てて...
もさすがに竜が喋るとは思っていなかったらしく、「って、聞...
掻いて苦笑している。
460 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:29:...
(危ない危ない)
シルフィードは内心息を吐いた。高度な知能を持つ風韻竜に...
だが、あれこれ面倒なことになるからという理由で、今はタバ...
使ってもいい相手は、今のところ主人一人だけなのである。
「しっかし、やっぱ間近で見るとスゲーなお前。竜なんてゲー...
やっぱたくましいねー翼とか鱗とか。ちょっと触らしてくれよ」
才人は怯える馬を近くの木につないだあと、シルフィードに...
に彼女の体を眺め回しながら、時折ペタペタと皮膚に触れ始め...
う凶暴な動物を怖がるような素振りは、全くない。
(変な人なのね)
シルフィードは内心首を傾げる。
たとえば普段から飛竜と接している竜騎士だって、これほど...
いてきたりはしないものだ。どんなに慣れているつもりでも、...
注意を払う。竜に慣れていない人間なら、怯えて近寄りもしな...
そういう、他の人間とは根本的に違う反応を見せるこの少年...
(前から少し気になっていたけど、実際どんな人なのかしら)
才人は、シルフィードの翼の辺りを無遠慮にペタペタ触って...
面白がっている。
好奇心旺盛なこの少年に対して、シルフィードは「陽気で気...
触られたからと言って、別段嫌悪感が沸くこともない。シルフ...
を後ろに巡らして遠慮なく才人のことを観察し始めた。
黒髪黒目に平均的身長、見慣れない素材で出来ている見慣れ...
り立ててよくもないが、ブサイクというほどでもない。今は好...
な明るさや陽気さがあり、その点は大きな魅力として捉えられ...
(うん。やっぱり、タバサおねーさまのお相手には、この人が...
シルフィードは自分の眼鏡に満足しつつ、心の中で何度も頷...
ば、主人であるタバサも影響を受けて少しは明るくなってくれ...
じっと見つめられていることに気付いたらしく、不意に才人...
「ん、どうした、俺の顔になんかついてるか」
(目と鼻と口がついてるのね)
またも人語で返事をしそうになって、シルフィードは慌てた...
うである。相手にあまり警戒心を持たせないこの雰囲気を、親...
間抜けだと笑うべきか。
(うん、でも、タバサおねーさまのお相手には、このぐらいお...
結局、そこに行き着くのである。上機嫌にきゅいきゅい鳴き...
た楽しそうな笑いを返してくる。
「なんだお前、急にご機嫌になったな。面白れー奴。それにし...
と、才人は急に顔をしかめて、シルフィードの皮膚を軽く手...
「なんか、ずいぶん汚れてんなーお前」
(そうかしら)
シルフィードは「きゅい」と一声鳴きつつ、首を傾げる。す...
に、才人はもっともらしい顔をして頷いた。
461 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:30:...
「そうだって。なんか、泥だらけだぜ。折角の綺麗な青い肌が...
泥だらけというのは、他のところで遊んできたり、ここで寝...
に、綺麗な肌、と褒められたので、シルフィードは嬉しくなっ...
めてやる。が、いかんせん舌が大きすぎるせいで、才人の顔が...
「ちょ、お前ホント機嫌いいな。なんか嬉しいことでもあった...
(褒めてくれたのね)
シルフィードはきゅいきゅい泣きながら首を上下させる。才...
「なんだお前、俺が喋ってること分かるのかよ」
(あ、まずい)
普通の竜は喋らないどころか人語を理解することもない。こ...
違うんじゃないか」と疑われてしまいそうだ。
だが、シルフィードの危惧とは裏腹に、才人はまたも感心し...
「スゲーな。竜ってのは頭もいいんだなー」
どうやら、普通の竜の生態を知らない様子である。シルフィ...
とばかりに首を上下させ、相手の言葉が理解できることを伝え...
「そか。言葉が分かるなら、話は早い。こっからちょっと行っ...
行こうぜ。体洗ってやるからさ」
才人は森の向こう側を指差してみせる。彼が歩いてきた方向...
指して歩いていたらしい。
「いやー、ルイズにちょっと悪戯したら、むっちゃくちゃ怒り...
洗うの命令されちゃったんだよね。しかも『馬に乗るのは禁...
で来るのにどんだけかかったか。ったく、人使いが荒いよな...
話が通じると知った途端、急に愚痴っぽくなった。それでも...
冗談っぽいために単なる雑談にしか思えないせいだろうか。
(きゅいきゅい。やっぱり、おねーさまにはこの明るさが必要...
シルフィードの中で、またも才人の評価が一段上昇する。自...
気付かないらしく、才人は木の幹に結び付けていた手綱を解き...
「さあ、行こうぜシルフィード。お前、メスなんだろ。女の子...
そんなことを、さらりと言ってくる。シルフィードの中で、...
才人の後に続いて(と言ってもシルフィードの巨体では森の...
のだが)辿りついたところは、森の中を流れる小さな川の岸辺...
少し大きい程度で、深さはそれほどない。要するに、彼女にし...
に入って水浴びするという訳にはいかないのだった。
「さて、それじゃあ洗ってやるからな」
才人はそう言いつつ、馬の背に括り付けていた荷物袋を下ろ...
した。それで水を汲みながら、馬の体を洗うつもりらしかった。
(でも、シルフィの体大きいから、たくさん時間かかっちゃう...
ぼのご主人様にお仕置きされちゃうのね)
少々心配だったので、シルフィードはきゅいきゅい鳴きなが...
り上げながら、苦笑しつつ振り返った。
「安心しろって、時間かかると思うけど、ちゃんと綺麗にして...
そういう意図ではなかったのだが、才人には伝わらなかった...
ちべてー」と笑いながら、桶に水を汲んで戻ってきた。そして...
「悪いな、先にこいつからやっちまうから、待っててくれよ」
この場合は別に人間の女の子相手でもないし、特にマイナス...
しつつ、シルフィードは「きゅい」と一言鳴いて返事をする。...
笑った。
462 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:33:...
「やっぱ言葉通じると面倒がなくていいなー。ちゃっちゃと済...
そんなことを言いつつ、一生懸命ブラシがけをしている。馬...
うで、理不尽な罰として命ぜられた割にはずいぶん丁寧な仕事...
(根は真面目なのかしら。ううん、使い魔にされて、下っ端根...
わ。きゅいきゅい)
判断に迷うところだった。
才人は馬の体を洗い終えると、また手綱を近くの木に繋いで...
「お待たせ。さあ、綺麗にしてやるぞー」
やたらと楽しげに言いながら、また桶に水を汲んで帰ってく...
「っつーか、ブラシがけしていいもんなのかな。な、痛かった...
シルフィードの耳元で囁いてから、ブラシがけを始める。シ...
ないほど大きいせいで、予想以上に時間がかかり、何度も何度...
れでも途中で文句を言うこともないし、それどころかいちいち...
よな。しみるとことかあったら言えよ」だのとこちらを気遣っ...
「おっし。これでいいだろ。どーよ、綺麗になっただろ」
シルフィードは首をめぐらして、自分の体を見てみた。体表...
らと光り、なかなか美しい光景を生み出している。才人の仕事...
できゅいきゅい鳴いた。
その嬉しそうな様子がきちんと伝わったらしく、才人は満足...
「そか。喜んでくれて、俺も嬉しいぞ」
疲れた体をほぐすように、空似向かってうんと背伸びをする。
「さ、そろそろ帰るかー、って、うわ」
不意に、才人が周囲を見回して焦ったような声を上げる。既...
な色に染まっていた。
「やっべ、夢中になってて時間忘れてたよ。こりゃまたお仕置...
才人は一度肩を落としてから、慌ててこちらに振り向き、大...
「ああいや、別にお前のせいじゃねえからよ。気にしなくても...
なかなかの気遣いである。シルフィードはますます嬉しくな...
りたくなった。
(そうだ。シルフィの背中に乗っけて、送ってあげればいいの...
我ながら名案を思いついたとばかりに、シルフィードは早速...
は十分伝わったらしい。
「え、乗れってのか。でもな、馬もいるし」
(それなら)
シルフィードは、木のそばに歩いていって、前脚の爪で器用...
食われるかと思ったのか激しく暴れたが、その程度なら力ずく...
(大丈夫なのね)
シルフィードは馬を咥えたまま、才人の元へ戻る。彼は苦笑...
「それじゃ、悪いけど頼むわ」
(任しとくのね)
シルフィードは張り切って、大きく翼を広げた。
463 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:34:...
歩いたら一、二時間はかかるであろう距離を、二十分ほどで...
トリステイン学院の広場に戻ってきた。背中に乗っていた才人...
ろん無傷である。
(ついたのねー)
馬をゆっくりと地面に降ろしつつ、シルフィードはその場で...
シルフィードの頭を軽く撫でた。
「ありがとう、助かったよ」
(お礼が出来て嬉しいのね)
シルフィードはまたきゅいきゅい鳴いて返答する。才人も目...
たが、ふと何かに気付いたように「あ」と声を上げた。
「お前、そこんとこ怪我してるぞ」
何かと思って首を巡らしてみる。確かに、指差された翼の端...
やら、張り切って翼を広げたときに木の枝か何かに引っ掛けて...
(でも、このぐらい平気なのね)
シルフィードはそう思ったのだが、才人は「ちょっと待って...
走っていき、数分後に一人の女性徒を連れて戻ってきた。
「ちょっと、なんなのよ突然」
「いいからちょっと力貸してくれよ。怪我人だ、怪我人」
「怪我人、って」
才人に手を引かれて走ってきたその女性とは、シルフィード...
身を引いた。
「タバサの風竜じゃないの。怪我人って、これ?」
「これ呼ばわりすんなよな。ほら見ろ、ここんところに傷があ...
「かすり傷じゃないの。こんなの治すのに魔法使えっていうの...
モンモランシーが呆れた声で言う。シルフィードもその点に...
何故か不満そうに答えた。
「いいじゃんか、減るもんじゃねえし、かすり傷なら治すのも...
「そりゃそうだけど」
「大体な」
と、才人はシルフィードの頭にそっと手を乗せた。
「女の子なんだぜ。いつまでも体に傷が残ったままじゃ、可哀...
その言葉に、シルフィードは妙な感覚を覚えた。暖かいよう...
モンモランシーは先程よりもさらに表情を引きつらせて、ま...
「なに、あなた、今度は竜にまで手を出そうって言うの」
「ちげーよ。いや、なんか、こいつスゲーいい奴だし、こっち...
い人間っぽく扱っちまうんだよなー。な、シルフィード」
問われたシルフィードだったが、先程の才人の言葉に少し衝...
を忘れてしまった。モンモランシーが不審そうな顔をする。
「無反応じゃないの」
「あれ、おっかしーなー」
「おかしいのはあなたでしょ」
呆れた声で言いつつも、モンモランシーは「仕方が無いわね...
「分かった。治してあげるわよ。その代わり、その子おとなし...
「大丈夫だよ。さっきも言ったろ、こいつスゲーいい奴なんだ...
「本当? 噛み付いたりしないでしょうね」
「しねーよ、俺が保証してやらあ」
才人は力強く断言する。またも、シルフィードは妙な居心地...
居心地の良さ、なのかもしれない。何にしても、シルフィード...
(きゅい。シルフィ、なんか変な気分なのね)
傷を治療してもらっている間も、シルフィードはそんな風に...
終了行:
459 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:28:...
それは、アルビオンとトリステインの間で戦争が始まるより...
トリステイン魔法学院に通うメイジの少女、タバサの使い魔...
離れた森の木陰で、のんびり昼寝をしている最中であった。
虚無の曜日ということもあって、本好きの主人は学院の寮に...
な任務でもない限りは呼び出されることもないので、シルフィ...
のだった。
使い魔、と言っても、シルフィードは蝙蝠や蛙の類ではない...
獣の中でも、かなり高位に位置する竜という名の種族。その中...
風韻竜という種類の竜なのである。とは言えまだ齢200ほど...
年齢だ。体格も知能も人間とは比較にならないほど発達してい...
まだ幼い少女に過ぎないのである。色気よりも食い気。シルフ...
る、メスの幼竜なのだった。
(おねーさまは、今日もむっつり顔で読書読書)
目を瞑ったまま、シルフィードは鼻息を吐き出した。
(あんなに本ばっかり読んで、どうして飽きないのかしら。き...
文句と言うよりは、単純に疑問なのである。ちなみに今日タ...
馬の王子様が登場するような、子供向けの物語であった。タバ...
きなので、たまにそんな本を読んでいることもある。
(白馬の王子様、か)
シルフィードはじゅるりと舌なめずりをする。
(挿絵の白馬、おいしそうだったのね)
色気よりも食い気のシルフィードらしく、頭の中は既に肥え...
じた顎の隙間から、大量の涎が垂れ落ちてくる。
そのとき、シルフィードの耳が異音を捉えた。柔らかい草を...
それについてくる一頭の馬の蹄の音。しかも、意外なほどに距...
せいで音を察知するのが遅れてしまったようである。
(どうしよう)
シルフィードは戸惑った。相手はおそらくこの付近の農民か...
から、こんなところで竜に遭遇したりしたら恐慌をきたして逃...
森で竜を見かけた」なんてことを吹聴されたら、大騒ぎになっ...
(そんなことになったら、タバサおねーさまにご飯抜きにされ...
かと言って、飛び上がって逃げるには距離が近すぎる。姿を...
せめてタバサが近くにいたら、「メイジと使い魔か」と安心...
迷っている内に、正面の木々の隙間から、何者かの姿が垣間...
方がないと、シルフィードは狸寝入りを決め込むことにした。...
よりは寝ている竜と遭遇した方が、落ち着いて対処しやすいで...
そんな風に考えたのだが、それは結局無用な気遣いというも...
「あれ、タバサの竜じゃんか」
木々の向こうから姿を現したのは、シルフィードにとっては...
的な体格をした少年である。
(あ、ご同類なのね)
シルフィードは、彼のことをよく知っていた。彼女の主、タ...
ズ・ド・ラ・ヴァリエールが召喚した、使い魔の少年である。...
とで、学院内ではちょっとした話題の種になっている。
(名前は、えと、ヒラガサイト、とか言ったのね。変な名前)
とりあえず騒がれることはなさそうだと安心して、シルフィ...
しそうな白馬の手綱を引いて、こちらに向かって歩いてきた。
(おいしそうな馬なのね)
先程の想像がまだ頭に残っていたため、ついそんなことを考...
「お前何やってんの、こんなところで」
あまりにも自然に話しかけられたものだから、つい、
(お昼寝中なのね)
と、思わず人語で答えそうになって、シルフィードは慌てて...
もさすがに竜が喋るとは思っていなかったらしく、「って、聞...
掻いて苦笑している。
460 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:29:...
(危ない危ない)
シルフィードは内心息を吐いた。高度な知能を持つ風韻竜に...
だが、あれこれ面倒なことになるからという理由で、今はタバ...
使ってもいい相手は、今のところ主人一人だけなのである。
「しっかし、やっぱ間近で見るとスゲーなお前。竜なんてゲー...
やっぱたくましいねー翼とか鱗とか。ちょっと触らしてくれよ」
才人は怯える馬を近くの木につないだあと、シルフィードに...
に彼女の体を眺め回しながら、時折ペタペタと皮膚に触れ始め...
う凶暴な動物を怖がるような素振りは、全くない。
(変な人なのね)
シルフィードは内心首を傾げる。
たとえば普段から飛竜と接している竜騎士だって、これほど...
いてきたりはしないものだ。どんなに慣れているつもりでも、...
注意を払う。竜に慣れていない人間なら、怯えて近寄りもしな...
そういう、他の人間とは根本的に違う反応を見せるこの少年...
(前から少し気になっていたけど、実際どんな人なのかしら)
才人は、シルフィードの翼の辺りを無遠慮にペタペタ触って...
面白がっている。
好奇心旺盛なこの少年に対して、シルフィードは「陽気で気...
触られたからと言って、別段嫌悪感が沸くこともない。シルフ...
を後ろに巡らして遠慮なく才人のことを観察し始めた。
黒髪黒目に平均的身長、見慣れない素材で出来ている見慣れ...
り立ててよくもないが、ブサイクというほどでもない。今は好...
な明るさや陽気さがあり、その点は大きな魅力として捉えられ...
(うん。やっぱり、タバサおねーさまのお相手には、この人が...
シルフィードは自分の眼鏡に満足しつつ、心の中で何度も頷...
ば、主人であるタバサも影響を受けて少しは明るくなってくれ...
じっと見つめられていることに気付いたらしく、不意に才人...
「ん、どうした、俺の顔になんかついてるか」
(目と鼻と口がついてるのね)
またも人語で返事をしそうになって、シルフィードは慌てた...
うである。相手にあまり警戒心を持たせないこの雰囲気を、親...
間抜けだと笑うべきか。
(うん、でも、タバサおねーさまのお相手には、このぐらいお...
結局、そこに行き着くのである。上機嫌にきゅいきゅい鳴き...
た楽しそうな笑いを返してくる。
「なんだお前、急にご機嫌になったな。面白れー奴。それにし...
と、才人は急に顔をしかめて、シルフィードの皮膚を軽く手...
「なんか、ずいぶん汚れてんなーお前」
(そうかしら)
シルフィードは「きゅい」と一声鳴きつつ、首を傾げる。す...
に、才人はもっともらしい顔をして頷いた。
461 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:30:...
「そうだって。なんか、泥だらけだぜ。折角の綺麗な青い肌が...
泥だらけというのは、他のところで遊んできたり、ここで寝...
に、綺麗な肌、と褒められたので、シルフィードは嬉しくなっ...
めてやる。が、いかんせん舌が大きすぎるせいで、才人の顔が...
「ちょ、お前ホント機嫌いいな。なんか嬉しいことでもあった...
(褒めてくれたのね)
シルフィードはきゅいきゅい泣きながら首を上下させる。才...
「なんだお前、俺が喋ってること分かるのかよ」
(あ、まずい)
普通の竜は喋らないどころか人語を理解することもない。こ...
違うんじゃないか」と疑われてしまいそうだ。
だが、シルフィードの危惧とは裏腹に、才人はまたも感心し...
「スゲーな。竜ってのは頭もいいんだなー」
どうやら、普通の竜の生態を知らない様子である。シルフィ...
とばかりに首を上下させ、相手の言葉が理解できることを伝え...
「そか。言葉が分かるなら、話は早い。こっからちょっと行っ...
行こうぜ。体洗ってやるからさ」
才人は森の向こう側を指差してみせる。彼が歩いてきた方向...
指して歩いていたらしい。
「いやー、ルイズにちょっと悪戯したら、むっちゃくちゃ怒り...
洗うの命令されちゃったんだよね。しかも『馬に乗るのは禁...
で来るのにどんだけかかったか。ったく、人使いが荒いよな...
話が通じると知った途端、急に愚痴っぽくなった。それでも...
冗談っぽいために単なる雑談にしか思えないせいだろうか。
(きゅいきゅい。やっぱり、おねーさまにはこの明るさが必要...
シルフィードの中で、またも才人の評価が一段上昇する。自...
気付かないらしく、才人は木の幹に結び付けていた手綱を解き...
「さあ、行こうぜシルフィード。お前、メスなんだろ。女の子...
そんなことを、さらりと言ってくる。シルフィードの中で、...
才人の後に続いて(と言ってもシルフィードの巨体では森の...
のだが)辿りついたところは、森の中を流れる小さな川の岸辺...
少し大きい程度で、深さはそれほどない。要するに、彼女にし...
に入って水浴びするという訳にはいかないのだった。
「さて、それじゃあ洗ってやるからな」
才人はそう言いつつ、馬の背に括り付けていた荷物袋を下ろ...
した。それで水を汲みながら、馬の体を洗うつもりらしかった。
(でも、シルフィの体大きいから、たくさん時間かかっちゃう...
ぼのご主人様にお仕置きされちゃうのね)
少々心配だったので、シルフィードはきゅいきゅい鳴きなが...
り上げながら、苦笑しつつ振り返った。
「安心しろって、時間かかると思うけど、ちゃんと綺麗にして...
そういう意図ではなかったのだが、才人には伝わらなかった...
ちべてー」と笑いながら、桶に水を汲んで戻ってきた。そして...
「悪いな、先にこいつからやっちまうから、待っててくれよ」
この場合は別に人間の女の子相手でもないし、特にマイナス...
しつつ、シルフィードは「きゅい」と一言鳴いて返事をする。...
笑った。
462 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:33:...
「やっぱ言葉通じると面倒がなくていいなー。ちゃっちゃと済...
そんなことを言いつつ、一生懸命ブラシがけをしている。馬...
うで、理不尽な罰として命ぜられた割にはずいぶん丁寧な仕事...
(根は真面目なのかしら。ううん、使い魔にされて、下っ端根...
わ。きゅいきゅい)
判断に迷うところだった。
才人は馬の体を洗い終えると、また手綱を近くの木に繋いで...
「お待たせ。さあ、綺麗にしてやるぞー」
やたらと楽しげに言いながら、また桶に水を汲んで帰ってく...
「っつーか、ブラシがけしていいもんなのかな。な、痛かった...
シルフィードの耳元で囁いてから、ブラシがけを始める。シ...
ないほど大きいせいで、予想以上に時間がかかり、何度も何度...
れでも途中で文句を言うこともないし、それどころかいちいち...
よな。しみるとことかあったら言えよ」だのとこちらを気遣っ...
「おっし。これでいいだろ。どーよ、綺麗になっただろ」
シルフィードは首をめぐらして、自分の体を見てみた。体表...
らと光り、なかなか美しい光景を生み出している。才人の仕事...
できゅいきゅい鳴いた。
その嬉しそうな様子がきちんと伝わったらしく、才人は満足...
「そか。喜んでくれて、俺も嬉しいぞ」
疲れた体をほぐすように、空似向かってうんと背伸びをする。
「さ、そろそろ帰るかー、って、うわ」
不意に、才人が周囲を見回して焦ったような声を上げる。既...
な色に染まっていた。
「やっべ、夢中になってて時間忘れてたよ。こりゃまたお仕置...
才人は一度肩を落としてから、慌ててこちらに振り向き、大...
「ああいや、別にお前のせいじゃねえからよ。気にしなくても...
なかなかの気遣いである。シルフィードはますます嬉しくな...
りたくなった。
(そうだ。シルフィの背中に乗っけて、送ってあげればいいの...
我ながら名案を思いついたとばかりに、シルフィードは早速...
は十分伝わったらしい。
「え、乗れってのか。でもな、馬もいるし」
(それなら)
シルフィードは、木のそばに歩いていって、前脚の爪で器用...
食われるかと思ったのか激しく暴れたが、その程度なら力ずく...
(大丈夫なのね)
シルフィードは馬を咥えたまま、才人の元へ戻る。彼は苦笑...
「それじゃ、悪いけど頼むわ」
(任しとくのね)
シルフィードは張り切って、大きく翼を広げた。
463 名前: 犬竜騒動 [sage] 投稿日: 2007/09/13(木) 02:34:...
歩いたら一、二時間はかかるであろう距離を、二十分ほどで...
トリステイン学院の広場に戻ってきた。背中に乗っていた才人...
ろん無傷である。
(ついたのねー)
馬をゆっくりと地面に降ろしつつ、シルフィードはその場で...
シルフィードの頭を軽く撫でた。
「ありがとう、助かったよ」
(お礼が出来て嬉しいのね)
シルフィードはまたきゅいきゅい鳴いて返答する。才人も目...
たが、ふと何かに気付いたように「あ」と声を上げた。
「お前、そこんとこ怪我してるぞ」
何かと思って首を巡らしてみる。確かに、指差された翼の端...
やら、張り切って翼を広げたときに木の枝か何かに引っ掛けて...
(でも、このぐらい平気なのね)
シルフィードはそう思ったのだが、才人は「ちょっと待って...
走っていき、数分後に一人の女性徒を連れて戻ってきた。
「ちょっと、なんなのよ突然」
「いいからちょっと力貸してくれよ。怪我人だ、怪我人」
「怪我人、って」
才人に手を引かれて走ってきたその女性とは、シルフィード...
身を引いた。
「タバサの風竜じゃないの。怪我人って、これ?」
「これ呼ばわりすんなよな。ほら見ろ、ここんところに傷があ...
「かすり傷じゃないの。こんなの治すのに魔法使えっていうの...
モンモランシーが呆れた声で言う。シルフィードもその点に...
何故か不満そうに答えた。
「いいじゃんか、減るもんじゃねえし、かすり傷なら治すのも...
「そりゃそうだけど」
「大体な」
と、才人はシルフィードの頭にそっと手を乗せた。
「女の子なんだぜ。いつまでも体に傷が残ったままじゃ、可哀...
その言葉に、シルフィードは妙な感覚を覚えた。暖かいよう...
モンモランシーは先程よりもさらに表情を引きつらせて、ま...
「なに、あなた、今度は竜にまで手を出そうって言うの」
「ちげーよ。いや、なんか、こいつスゲーいい奴だし、こっち...
い人間っぽく扱っちまうんだよなー。な、シルフィード」
問われたシルフィードだったが、先程の才人の言葉に少し衝...
を忘れてしまった。モンモランシーが不審そうな顔をする。
「無反応じゃないの」
「あれ、おっかしーなー」
「おかしいのはあなたでしょ」
呆れた声で言いつつも、モンモランシーは「仕方が無いわね...
「分かった。治してあげるわよ。その代わり、その子おとなし...
「大丈夫だよ。さっきも言ったろ、こいつスゲーいい奴なんだ...
「本当? 噛み付いたりしないでしょうね」
「しねーよ、俺が保証してやらあ」
才人は力強く断言する。またも、シルフィードは妙な居心地...
居心地の良さ、なのかもしれない。何にしても、シルフィード...
(きゅい。シルフィ、なんか変な気分なのね)
傷を治療してもらっている間も、シルフィードはそんな風に...
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