ゼロの使い魔保管庫
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273 名前: あの子は遠くへ飛んでった [sage] 投稿日: 2007/...
「ただいま」
声をかけながら居間に入ると、妻がアルバムらしきものをテ...
「おかえり」
「何を読んでたんだ」
スーツの上着を脱ぎながら聞く。妻は近くにきて上着をハン...
「才人の卒園アルバムだよ」
「卒園、ね。ずいぶん昔の話だな」
言いながら、時計を見る。時刻は午後七時を回ったところだ。
「才人はまだ帰ってないのか」
「うん。いつも通り、朝から図書館に行ってるよ。どうしたの...
妻は苦笑混じりにそう言って、またテーブルの前に座りなお...
彼らの息子は、数ヶ月前まで、二年間ほどの間姿を消してい...
る理由もなくある日突然いなくなり、警察に捜索願を出しても...
年ほどの月日が過ぎ去り、半ば諦めかけていた頃に、ひょっこ...
「ただいま、って言ったときの、あの子の気まずそうな顔った...
ら、怒る気も失せちゃったわ」
そう語る妻は、息子が帰ってきたとき、何も言わずに泣きな...
ほうも特に怒ることなく、帰ってきた息子を受け入れた。
二年もの間どこで何をしていたのか、息子は未だに何も語ら...
聞かなかった。気にならない訳ではなかったが、どことなく大...
大変なことがあったらしいことだけは自然と察せられたからだ。
「それに、あいつはすぐ顔に出るからな。あれは、何か悪いこ...
「そうね。むしろ、なんか大人っぽくなっちゃって。誇りに思...
だが、息子の変化は必ずしもいいことばかりではなかった。...
でヘラヘラ笑っていた子が、帰ってきてからは何か思い悩んで...
なっていた。
「本当に、どうしちゃったのかねえ」
「さて、な」
そっとため息を吐く妻に、夫は何も答えてやることが出来な...
妻はまたアルバムに目を落として、息子が幼かった頃の姿を...
びに、おかしそうに笑った。
「なんか、あの子って木に上ってたり夢中で走ってたり、やた...
「そうだな」
「いっつも泥だらけになるまで遊んできてさ。好奇心旺盛って...
行きたがってたわよね。ホント、誰に似たんだか」
妻がまたアルバムのページを捲り、笑って紙面を指差した。
「あ、ほら、このページ」
見ると、そこは将来の夢を書くコーナーだった。子供らしく...
幼稚園の頃の息子の夢が書いてある。
「『うちゅうひこうし』だって。子供にしちゃ、難しい言葉を...
「宇宙飛行士、ね。最近はそこまで大きなことは言わなくなっ...
「でも、そうやって遠いところに憧れる冒険心だけは、ずっと...
範囲広げてて、わたしが知らないような場所にも平気で出か...
妻は懐かしむように呟いたあと、不意に思いつめたように顔...
「ねえ、あなた」
「なんだ」
「あの子、さ。きっと、また出て行くつもりよね」
夫は、どこか諦観を漂わせている妻の顔を、じっと見つめた。
「どうして、そう思うんだ」
「だって、あの左手の妙な刺青、いつまで経っても消さないも...
何か心残りになるようなことを残してきた証拠よ。必ずまた...
さないのよ」
確信しているような、静かな声音だった。夫は目を伏せて頷...
「そうだな。そうだろうな、きっと。そういう子だからな」
二人はしばらくの間そうやって俯きながら、「うちゅうひこ...
じっと見つめていた。
274 名前: あの子は遠くへ飛んでった [sage] 投稿日: 2007/...
闇の中、才人はぱっちりと目を開けた。時計を見ると、表示...
いるはずである。
(行くか)
そろそろとベッドから抜け出し、この数ヶ月間で準備したも...
サックを、音も立てずに背負う。
地球に帰ってきてからの数ヶ月、他のことは何もやらずに、...
街に赴いて、怪しげな古文書を漁ったりもした。おかげで、思...
法が見つかったのである。
(ハルケギニアに帰る、か)
自然と「帰る」という言葉を使っていることに気付いて、才...
心は間違いなくあの異世界にある。
両親には、置手紙だけ残して去るつもりだった。会えば別れ...
からない。何よりも、引き留められたら決心が鈍ってしまうか...
才人とて、決して平気で両親を置いていく訳ではないのだか...
(仕方ないんだよな。こうするしか、ないんだ)
才人は胸の痛みを無視して、そっと自室のドアを開けた。暗...
家の中は完全に真っ暗だった。間違いなく両親が寝ていること...
だが、一階に下りて居間を通り抜けようとしたとき、不意に...
チがある部屋の出入り口を見ると、そこに母と父が立っていた。
「行くのかい」
才人が何をしているのか大方は理解しているらしく、母は寂...
そう言った。
その母の表情に耐えられず、才人は顔を背けてしまった。す...
「才人」
と呼びかけたかと思うと、前置きなしに思いっきり才人の頬...
るが、寸でのところで踏みとどまる。姿勢を直して顔を上げる...
「何故殴ったのか、分かるか」
「俺が、勝手にどこかへ行っちまうから」
「違う」
父は静かに首を振った。予想と違う答えに、才人は困惑する。
「じゃあ、どうして」
「お前が、何も言わずに出て行こうとしたからだ。俺は、何ヶ...
間もどこに行っていた、なんて怒りはしなかっただろう」
「ああ」
「あれは、お前の顔を見て、お前が自分の意思で行方をくらま...
間過ごしていたところで、何か悪いことをしてきたんじゃな...
お前の瞳は、昔と変わらず真っ直ぐだった。だから俺は、何...
父の瞳の奥で、静かな怒りが燃え上がった。
「お前は、間違いなく自分の意思で出て行こうとしている。な...
た。それは卑怯なことだ。お前だって、それは分かっている...
普段無口な父だが、口を開けばいつも言葉はとても率直で、...
人は無言で頷いた。
「ごめん。止められると思ったから、言い出せなくてさ」
「分かればいい。それで、今夜、行くんだな?」
それだけしか聞かない父に、才人は驚いた。
「止めないのか」
「止めやしないよ」
母が笑って答える。
「帰ってきたあんたの顔を見て、すぐに分かったんだよ。ああ...
大人は自分の意思で考えて、決めて、行動するもんだ。それ...
母は、またあの寂しそうな笑みを浮かべた。だがそれは、同...
「子供って、いつかは親の許から離れていくものだろ。それが...
りたいと思うぐらい大切なものを見つけたのなら、わたしら...
て旅立てばいいのさ。それが、一人前の人間ってものなんだ...
「お前は、二年間ほど過ごしたその場所で、そのぐらい大切な...
父が問いかけてくる。才人は迷いなく頷いた。
275 名前: あの子は遠くへ飛んでった [sage] 投稿日: 2007/...
「ああ。父ちゃんの言うとおりだ。俺、ひょっとしたら自分の...
こに残してきたんだ。だから、どうしても行かなくちゃなら...
才人が淀みなくそう告げると、両親は顔を見合わせて、そっ...
「そうか。なら、何も言わん。いや、何も言えんさ」
「ホント、大人になったね、才人」
暖かい声音だった。胸一杯に何かが溢れてきてたまらなくな...
「ごめん、二人とも」
「謝るな」
強い口調で、父が才人の謝罪を制止した。驚いて顔を上げる...
「お前は、悪いことをしに行くんじゃないんだろう。正しいと...
「ああ」
「なら、謝るな。悪いことをしてもいないのに、下げたくない...
「ああ、そうだ。そうだよ、父ちゃん」
才人は父の視線を真っ向から受け止めて、深く、大きく頷い...
玄関から出て空を見上げると、満月が高い位置に上っていた。
「それで、どうやってその場所に行くんだい」
後ろから、母が声をかけてくる。才人は振り向いて答えた。
「方法はもう分かってんだ。ここからでも飛べるから、ここか...
「そう。そうかい」
母が近づいてきて、ぎゅっと強く才人を抱きしめた。母の温...
「才人、体には気をつけるんだよ。風邪、ひかないようにね」
「うん。ありがとう、母ちゃん」
「元気で頑張るんだよ。いいね」
母がそっと体を離し、才人の体はその温もりから永遠に切り...
「才人」
父が呼ぶ。その瞳は、今もなおただただ静かに才人を見つめ...
「間違ったことをするなよ。自分が正しいと信じたことをする...
「ああ、分かってるよ」
ありったけの決意を込めて、才人は頷いた。
「俺は、下げたくない頭は下げない。だから、絶対に間違った...
「そうだ。それさえ分かっているなら、どこでだってやってい...
父が励ますように微笑んだ。おそらく、この暖かみのある微...
「父ちゃん、母ちゃん」
玄関のドアのそばに佇む両親に向かって、才人は力強く呼び...
「本当に、ありがとう。俺、二人の息子でよかったよ。どこに...
「わたしらだってそうさ」
「どこに行こうが関係ない。お前は、ずっと俺達の息子だよ」
父が母の肩を抱く。才人は二人と微笑を交し合ったあと、目...
ハルケギニアへの扉を開くための、魔法の呪文である。左手...
ゲートは開くはずだった。
詠唱を終えた才人は、ゆっくりと目を開く。目の前の空間に...
「じゃあ、二人とも」
「うん」
「ああ」
才人は、笑顔で告げた。
「さよなら、な」
ゲートに向かって、大きく一歩踏み込む。眩い光が視界を覆...
276 名前: あの子は遠くへ飛んでった [sage] 投稿日: 2007/...
息子の姿が消えた後も、夫と妻はしばらく無言でその場に立...
「あの子はさ」
妻がぽつりと呟く。
「きっと、夢を叶えたんだね」
「夢?」
「そう」
妻は空を仰いだ。満月を囲むように、無数の星が煌く夜空。
「宇宙飛行士になって、遠いところを目指して飛んでいっちゃ...
「そうか。そうだな」
夫もまた、空を見上げる。星はとても小さく、遠くにあるが...
「ね、あの子、大切なもののところへちゃんとたどり着けたか...
「大丈夫さ。勝手に遠くに行っちまうが、いつだって、自分が...
だったからな」
「そうよね。大丈夫だよね。わたしたちがいなくても、ちゃん...
「心配いらないさ。あの子なら、どこでだって生きていける。...
妻が夫の肩に顔を押し付けて、静かに嗚咽を漏らし始めた。
夫はそっと妻の肩を抱き寄せ、彼女の気が済むまで、ただじ...
終了行:
273 名前: あの子は遠くへ飛んでった [sage] 投稿日: 2007/...
「ただいま」
声をかけながら居間に入ると、妻がアルバムらしきものをテ...
「おかえり」
「何を読んでたんだ」
スーツの上着を脱ぎながら聞く。妻は近くにきて上着をハン...
「才人の卒園アルバムだよ」
「卒園、ね。ずいぶん昔の話だな」
言いながら、時計を見る。時刻は午後七時を回ったところだ。
「才人はまだ帰ってないのか」
「うん。いつも通り、朝から図書館に行ってるよ。どうしたの...
妻は苦笑混じりにそう言って、またテーブルの前に座りなお...
彼らの息子は、数ヶ月前まで、二年間ほどの間姿を消してい...
る理由もなくある日突然いなくなり、警察に捜索願を出しても...
年ほどの月日が過ぎ去り、半ば諦めかけていた頃に、ひょっこ...
「ただいま、って言ったときの、あの子の気まずそうな顔った...
ら、怒る気も失せちゃったわ」
そう語る妻は、息子が帰ってきたとき、何も言わずに泣きな...
ほうも特に怒ることなく、帰ってきた息子を受け入れた。
二年もの間どこで何をしていたのか、息子は未だに何も語ら...
聞かなかった。気にならない訳ではなかったが、どことなく大...
大変なことがあったらしいことだけは自然と察せられたからだ。
「それに、あいつはすぐ顔に出るからな。あれは、何か悪いこ...
「そうね。むしろ、なんか大人っぽくなっちゃって。誇りに思...
だが、息子の変化は必ずしもいいことばかりではなかった。...
でヘラヘラ笑っていた子が、帰ってきてからは何か思い悩んで...
なっていた。
「本当に、どうしちゃったのかねえ」
「さて、な」
そっとため息を吐く妻に、夫は何も答えてやることが出来な...
妻はまたアルバムに目を落として、息子が幼かった頃の姿を...
びに、おかしそうに笑った。
「なんか、あの子って木に上ってたり夢中で走ってたり、やた...
「そうだな」
「いっつも泥だらけになるまで遊んできてさ。好奇心旺盛って...
行きたがってたわよね。ホント、誰に似たんだか」
妻がまたアルバムのページを捲り、笑って紙面を指差した。
「あ、ほら、このページ」
見ると、そこは将来の夢を書くコーナーだった。子供らしく...
幼稚園の頃の息子の夢が書いてある。
「『うちゅうひこうし』だって。子供にしちゃ、難しい言葉を...
「宇宙飛行士、ね。最近はそこまで大きなことは言わなくなっ...
「でも、そうやって遠いところに憧れる冒険心だけは、ずっと...
範囲広げてて、わたしが知らないような場所にも平気で出か...
妻は懐かしむように呟いたあと、不意に思いつめたように顔...
「ねえ、あなた」
「なんだ」
「あの子、さ。きっと、また出て行くつもりよね」
夫は、どこか諦観を漂わせている妻の顔を、じっと見つめた。
「どうして、そう思うんだ」
「だって、あの左手の妙な刺青、いつまで経っても消さないも...
何か心残りになるようなことを残してきた証拠よ。必ずまた...
さないのよ」
確信しているような、静かな声音だった。夫は目を伏せて頷...
「そうだな。そうだろうな、きっと。そういう子だからな」
二人はしばらくの間そうやって俯きながら、「うちゅうひこ...
じっと見つめていた。
274 名前: あの子は遠くへ飛んでった [sage] 投稿日: 2007/...
闇の中、才人はぱっちりと目を開けた。時計を見ると、表示...
いるはずである。
(行くか)
そろそろとベッドから抜け出し、この数ヶ月間で準備したも...
サックを、音も立てずに背負う。
地球に帰ってきてからの数ヶ月、他のことは何もやらずに、...
街に赴いて、怪しげな古文書を漁ったりもした。おかげで、思...
法が見つかったのである。
(ハルケギニアに帰る、か)
自然と「帰る」という言葉を使っていることに気付いて、才...
心は間違いなくあの異世界にある。
両親には、置手紙だけ残して去るつもりだった。会えば別れ...
からない。何よりも、引き留められたら決心が鈍ってしまうか...
才人とて、決して平気で両親を置いていく訳ではないのだか...
(仕方ないんだよな。こうするしか、ないんだ)
才人は胸の痛みを無視して、そっと自室のドアを開けた。暗...
家の中は完全に真っ暗だった。間違いなく両親が寝ていること...
だが、一階に下りて居間を通り抜けようとしたとき、不意に...
チがある部屋の出入り口を見ると、そこに母と父が立っていた。
「行くのかい」
才人が何をしているのか大方は理解しているらしく、母は寂...
そう言った。
その母の表情に耐えられず、才人は顔を背けてしまった。す...
「才人」
と呼びかけたかと思うと、前置きなしに思いっきり才人の頬...
るが、寸でのところで踏みとどまる。姿勢を直して顔を上げる...
「何故殴ったのか、分かるか」
「俺が、勝手にどこかへ行っちまうから」
「違う」
父は静かに首を振った。予想と違う答えに、才人は困惑する。
「じゃあ、どうして」
「お前が、何も言わずに出て行こうとしたからだ。俺は、何ヶ...
間もどこに行っていた、なんて怒りはしなかっただろう」
「ああ」
「あれは、お前の顔を見て、お前が自分の意思で行方をくらま...
間過ごしていたところで、何か悪いことをしてきたんじゃな...
お前の瞳は、昔と変わらず真っ直ぐだった。だから俺は、何...
父の瞳の奥で、静かな怒りが燃え上がった。
「お前は、間違いなく自分の意思で出て行こうとしている。な...
た。それは卑怯なことだ。お前だって、それは分かっている...
普段無口な父だが、口を開けばいつも言葉はとても率直で、...
人は無言で頷いた。
「ごめん。止められると思ったから、言い出せなくてさ」
「分かればいい。それで、今夜、行くんだな?」
それだけしか聞かない父に、才人は驚いた。
「止めないのか」
「止めやしないよ」
母が笑って答える。
「帰ってきたあんたの顔を見て、すぐに分かったんだよ。ああ...
大人は自分の意思で考えて、決めて、行動するもんだ。それ...
母は、またあの寂しそうな笑みを浮かべた。だがそれは、同...
「子供って、いつかは親の許から離れていくものだろ。それが...
りたいと思うぐらい大切なものを見つけたのなら、わたしら...
て旅立てばいいのさ。それが、一人前の人間ってものなんだ...
「お前は、二年間ほど過ごしたその場所で、そのぐらい大切な...
父が問いかけてくる。才人は迷いなく頷いた。
275 名前: あの子は遠くへ飛んでった [sage] 投稿日: 2007/...
「ああ。父ちゃんの言うとおりだ。俺、ひょっとしたら自分の...
こに残してきたんだ。だから、どうしても行かなくちゃなら...
才人が淀みなくそう告げると、両親は顔を見合わせて、そっ...
「そうか。なら、何も言わん。いや、何も言えんさ」
「ホント、大人になったね、才人」
暖かい声音だった。胸一杯に何かが溢れてきてたまらなくな...
「ごめん、二人とも」
「謝るな」
強い口調で、父が才人の謝罪を制止した。驚いて顔を上げる...
「お前は、悪いことをしに行くんじゃないんだろう。正しいと...
「ああ」
「なら、謝るな。悪いことをしてもいないのに、下げたくない...
「ああ、そうだ。そうだよ、父ちゃん」
才人は父の視線を真っ向から受け止めて、深く、大きく頷い...
玄関から出て空を見上げると、満月が高い位置に上っていた。
「それで、どうやってその場所に行くんだい」
後ろから、母が声をかけてくる。才人は振り向いて答えた。
「方法はもう分かってんだ。ここからでも飛べるから、ここか...
「そう。そうかい」
母が近づいてきて、ぎゅっと強く才人を抱きしめた。母の温...
「才人、体には気をつけるんだよ。風邪、ひかないようにね」
「うん。ありがとう、母ちゃん」
「元気で頑張るんだよ。いいね」
母がそっと体を離し、才人の体はその温もりから永遠に切り...
「才人」
父が呼ぶ。その瞳は、今もなおただただ静かに才人を見つめ...
「間違ったことをするなよ。自分が正しいと信じたことをする...
「ああ、分かってるよ」
ありったけの決意を込めて、才人は頷いた。
「俺は、下げたくない頭は下げない。だから、絶対に間違った...
「そうだ。それさえ分かっているなら、どこでだってやってい...
父が励ますように微笑んだ。おそらく、この暖かみのある微...
「父ちゃん、母ちゃん」
玄関のドアのそばに佇む両親に向かって、才人は力強く呼び...
「本当に、ありがとう。俺、二人の息子でよかったよ。どこに...
「わたしらだってそうさ」
「どこに行こうが関係ない。お前は、ずっと俺達の息子だよ」
父が母の肩を抱く。才人は二人と微笑を交し合ったあと、目...
ハルケギニアへの扉を開くための、魔法の呪文である。左手...
ゲートは開くはずだった。
詠唱を終えた才人は、ゆっくりと目を開く。目の前の空間に...
「じゃあ、二人とも」
「うん」
「ああ」
才人は、笑顔で告げた。
「さよなら、な」
ゲートに向かって、大きく一歩踏み込む。眩い光が視界を覆...
276 名前: あの子は遠くへ飛んでった [sage] 投稿日: 2007/...
息子の姿が消えた後も、夫と妻はしばらく無言でその場に立...
「あの子はさ」
妻がぽつりと呟く。
「きっと、夢を叶えたんだね」
「夢?」
「そう」
妻は空を仰いだ。満月を囲むように、無数の星が煌く夜空。
「宇宙飛行士になって、遠いところを目指して飛んでいっちゃ...
「そうか。そうだな」
夫もまた、空を見上げる。星はとても小さく、遠くにあるが...
「ね、あの子、大切なもののところへちゃんとたどり着けたか...
「大丈夫さ。勝手に遠くに行っちまうが、いつだって、自分が...
だったからな」
「そうよね。大丈夫だよね。わたしたちがいなくても、ちゃん...
「心配いらないさ。あの子なら、どこでだって生きていける。...
妻が夫の肩に顔を押し付けて、静かに嗚咽を漏らし始めた。
夫はそっと妻の肩を抱き寄せ、彼女の気が済むまで、ただじ...
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