ゼロの使い魔保管庫
[
トップ
] [
新規
|
一覧
|
単語検索
|
最終更新
|
ヘルプ
]
開始行:
384 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
予定の時間より遅れましたが、投下作品の余韻のほうが大事と...
んだば、許可も得たので失礼して。
今でも夢に見る。あの炎に包まれた光景を。
コルベールの朝は早い。軍人だったころの癖が抜けきらない...
職務だけに飽き足らず、趣味の研究までしているのだ。時間は...
眠時間を削ってまで日々を過ごしている。
そんな彼を義娘はいつも叱る。もっと体を大事にしなさいと。
食事に頓着をしない彼のために栄養を考えた食事を作り、風...
拙いながらもマフラーを編んでくれる。
実にできた娘だった。コルベールにはもったいないほど、優...
義父が、過去に彼女の村を焼いたとも知らないで。
義娘の優しさに触れるたび、コルベールは言葉では言い表せ...
彼の体を気遣う優しさが痛い。彼の背中を追って同じ教職を...
父と慕ってくれる愛情が痛い。ことあるごとに向けられる笑顔...
何よりも許せないのは――一瞬でも罪を忘れてしまいそうにな...
その度にコルベールは己の罪深さを心に刻む。彼女は、罪の...
窓から差し込む光に目を細め、コルベールの思考は中断され...
ずいぶん高く上っていたらしい。時計を見れば、もうすぐ授業...
「やれやれ」
ぎい、となる椅子から立ち上がると、傍らに畳んでおいたマ...
のろのろとしたもので、どうにも気が乗らない様子だ。
別段、コルベールは授業に行くのが嫌なのではない。かつて...
と思わないでもないが、だからこそ、子供たちには学んで欲し...
何かを。
だが、それを教えるべき生徒たちは今たったの半数しかいな...
血を洗う戦争のせいで。
糞くらえだった。彼らのうち、何人が戻ってこれるというの...
その罪に耐えられぬものは必ず出てくるはずだ。コルベールと...
怒りのせいだろうか。誰もおらぬ廊下を歩くコルベールの鼻...
血の匂いが掠める。聞こえぬはずの悲鳴が耳に届き、感じるは...
知らぬ間に、手は杖を硬く握り締めていた。まるでこの先の...
としても、すぐに対処できるように。
「何を馬鹿な」
かぶりを振って自らに言い聞かせたが、一度心についた火は...
もはや、足音だけでなく衣擦れすらも消している。
そうして、自らが作り出した静寂の中、ようやくコルベール...
「……っ静か過ぎる!」
なぜ気付かなかった――胸のうちをつく焦燥。走りながら、コ...
捨てた。
これは、戦場の空気だ。
385 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
II/
メンヌヴィルにとって、女子供しかおらぬという学院の制圧...
任務だった。彼が望むのは強者との戦い。無論、女子供の焼け...
よりはよほどメンヌヴィルを興奮させるが、それは渇いた喉を...
のぎにしか過ぎない。
今でも彼は思いを馳せるのだ。目の光を奪ったかつての上官...
その妄想に比べれば、実の燃える匂いなどすべて屑のような...
メンヌヴィルに思わせたのは彼だけだったし、実際届かなかっ...
その至上をわずかでも連想させるために、メンヌヴィルはい...
ついているのかもしれない。
「さて、そこのお前はどう思う?」
震える炎の少女を前に、メンヌヴィルは空を見ながら問いか...
ではない。この少女に期待することなど、せいぜいいい匂いで...
そしてその予想通り、少女は問いかけに答えることはしなか...
怯えているだけだ。
視線を外している内に逃げようとも立ち向かおうともしない...
死んでいる。故に見ていようがいまいが変わりないのだが。
「ふむ、同じ炎使いなのが仇になったか」
少女の炎は、実に立派なものだった。力の程は大したことは...
らしい。非力を理解し、状況に即して行使する魔法を選ぶ判断...
してならかなりの腕になるだろう。あるいは目が見えていたこ...
いかずとも、深手を負っていたかもしれない。
だが、その秀でた判断力が今となっては仇となる。少女は震...
二人の間にある絶対的な力の差が。メンヌヴィルがかつて思い...
メンヌヴィルとの力の差を知ったのだ。
「惜しいな。あと五年、いや、三年遅ければ、それなりの勝負...
言葉とは裏腹に、その口調は実に楽しげだった。強者との戦...
才能あふれる若者を焼くのも、メンヌヴィルの趣味には実に合...
愉悦に口を歪ませルーンを唱えると、煌々と辺りを照らす巨...
人一人を燃やすには、明らかに過剰な火力だった。これでは...
骨まで燃えつきてしまうだろう。だが、刹那に消える儚げな匂...
「花火のように、白炎に消えろ」
そうしてメンヌヴィルが杖を振り下ろし――一面は炎に包まれ...
メンヌヴィルは強く息を吸い込む。鼻がひりつくがかまいはし...
楽しむためならば、多少の火傷などむしろ望むところだった。
だが、その望むべき匂いはいつまでたってもやってこない。...
以上に強い肉の焼ける匂い。
これほどの炎を放ったのだ。機を逃し匂いを嗅ぎ取れぬこと...
焼ける匂いが続くことなどあるはずがない。
訝しんでメンヌヴィルは獲物の温度を探った。が、放った炎...
うまく感知できない。
「っち」
舌打ちして、メンヌヴィルは聴覚に意識を集中させた。炎の...
温度と匂いに頼るよりはマシだった。その中で、彼は風の音と...
「大丈夫だったかい」
「――お父さんっ!!」
それは、かつての上官の声だった。
386 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
III/
「コルベール、コルベールコルベールコルベール! 炎の蛇、...
歓喜の声でメンヌヴィルは叫んだ。興奮のあまり、今にも襲...
それがわかっていながらなお、コルベールは振り返ることを...
我が子がいるのだ。警戒は忘れない。だが、幾百の敵を打ち払...
をコルベールは選ぶ。
身に纏っていた風の魔法を解除すると、コルベールは優しく...
「さあ、逃げなさい」
「でもお父さん、やけど、ひど、あ、そんな、ダメだよ、死ん...
だが、守られたのはまたしてもコルベールのほうだった。助...
先に、まず父親の心配をしたのだ。震える指先は、焼け爛れた...
何度も中空で撫でるように行き来した。涙を流してないのが不...
思えば、この子が最後に泣いたのはいつだっただろうか。コ...
ないほど昔のことだ。その子が今、涙を流さず泣いている。
そうして決意を胸に秘めると、娘を案じる父親と部下に命令...
例えようのない中途半端な笑みを浮かべ娘の頭を撫でると、コ...
「心配ない。後ろの彼は僕が倒そう。生徒たちの安全は任せた」
その言葉に、娘は息を呑んだ。思案しているのがわかる。自...
あるいは、一緒に逃げようと言おうとしたのかもしれない。聞...
受け入れてしまうだろう。
残り少ない後ろ髪を惹かれる思いで娘の顔を視界から追い出...
立ち上がる。振り向けばわかった。そこにいたのは、かつて己...
あまりの皮肉さに、コルベールは人知れず臍をかんだ。折り...
きたのは娘の村を焼き払ったときだ。
過去はいつまでもその背に付きまとい、思いがけぬ時に現在...
「せめて、すべて私に咎が来ればよいものを」
かぶりを振って、コルベールは呟いた。声量に反し、そこに...
込められている。その矛先は、自分であり、メンヌヴィルであ...
あの子から母を奪ったのは誰だ。故郷を奪ったのは誰だ。炎...
才能を与えたのは誰だ。そんなあの子に、再び炎と相対させた...
「どうした、早く行きなさい」
この場から娘を逃がそうとするのは、何もその身を案じてば...
怒る自分を、過去に戻ろうとする自分の姿を、コルベールは見...
その声の硬さに気づいたのか、娘は立ち上がると、ようやく...
「誰か呼んでくるから! だから、それまで絶対死なないでね...
口の端に、笑みが浮かぶ。まったく、自分は恵まれすぎてい...
いいくらいだ。
猛る心を落ち着かせて守るべきものを心に刻み付けたコルベ...
前の敵に集中させた。
387 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
「待たせね」
「は、かまわんさ。会えぬと思っていた貴方に今再びまみえる...
ついて焼いてもつまらなすぎる。それに今生の別れだからな。
しかし驚いたぞ、隊長殿。貴方にまさか娘がいたとは。年の...
あの事件のあとに妻でも迎えたか?」
「血の繋がりはないさ。彼女は……あの事件の数少ない生存者だ」
「は、はははははは! なんと、なんという馬鹿げたことをし...
まさか焼き残しをしたはおろか、その生き残りを引き取って...
するなど、俺の知る隊長殿では考えられんわ」
呵々大笑するメンヌヴィル。それを見て、コルベールは直感...
あの事件の裏側を知っていると。
杖を握り締め、コルベールは眼前の敵を強く見据える。
「そうだな、お前の知る炎の蛇はもういない。今ここにいるの...
「それは同情か? 贖罪か? あるいは、自虐の趣味でもでき...
メンヌヴィルの隠そうともしない嘲りを受けてなお、コルベ...
ままだった。だが、その内心は違う。自らの侮辱などどうでも...
この男が一秒でも長く生きていることが耐えられなかった。
顔では表せぬほどの激情がコルベールの胸のうちにはあった...
声でコルベールは語りかける。
「そのどれかかもしれないし、全てかもしれないし、どれも当...
私自身にもわからないし、一生わかるつもりもない。お前が望...
合わせてはいないんだ。だから、言えるのはただひとつだけ。
一応聞いておこう。メンヌヴィル、降伏するつもりはないか...
犬歯もあらわに笑い、メンヌヴィルは杖を突きつけた。
「痛みや熱に浮かされ狂ったか、隊長殿。まさか本気で言って...
一言ルーンを唱えれば、即座に炎が飛び出してくるだろう。
そのような状況において、コルベールは、盲しいているとい...
向けられるものだな、とどこか遠くに思いながら、なんとその...
瞼の裏に映るのは、自分が殺した妊婦の姿。炎に焼かれなが...
死んでいった。任務でなければ、到底できるはずもないむごい...
――その任務は嘘だった。すべてに裏切られたコルベールがそ...
聞いたとき、彼は決めたのだ。彼女の万難を焼き払う炎になる...
再びコルベールが目を開く。その顔には、笑みが浮かんでい...
獰猛な獣の笑みだ。
「そうか、それはよかった」
「は?」
呆けた返しをするかつての部下に、その手に杖が握られてい...
ど優しい、それこそ生徒に者を教えるような口調でコルベール...
「何、“僕”はどうにも娘のことになると短気なようでね。オー...
近寄らせたくないほどなのだ。まして娘を傷物にしようとした...
気は長くない。だから言ったんだよ。
――お前が降参してくれなくてよかった、と」
言って、コルベールは駆け出した。哄笑とともにメンヌヴィ...
二十年越しの戦いが、今始まる。
388 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
IV
戦いはまず機先を制することから始まる。既にして炎に焼か...
不利は否めない。体力にも余裕がない。長引けば長引くほど、...
なっていく。まして、二人の間には二十年もの実戦の月日が隔...
相手は盲人、反応できぬ接近戦で一気にけりをつける――そう...
長い杖をレイピアのように見立て、メンヌヴィルの太い首に杖...
その足元を狙った。
フェイントだった。いきなり接近戦を挑む奇襲に加え、上半...
失える首への攻撃に意識を集中させ、その反対に相手の足をま...
盲人相手に慎重すぎるかも知れぬが、体格差は余りにも歴然...
コルベールにとって致命傷にならぬ保証はない。
限られた体力の中にあって、コルベールのかつての冷徹な思...
だが、メンヌヴィルはそのコルベールの予想の上をいった。...
すっと足を後ろにやったのだ。
体重を乗せた突きが空振り、杖が固い地面に突き刺さる。驚...
無防備な腹を丸太のような蹴り足が襲う。
だが、一撃をかわされた程度で負けるような者が、どうして...
つめられよう。それが例え過去のことであっても。
襲い掛かる蹴りを冷静に眺めながら、コルベールは体重が乗...
いや、正確には、その力の向きを変えたのだ。前に傾いでいた...
メンヌヴィルの左側面から離れるようにと流れていく。
無造作とも思われた一撃は、そのままコルベールの回避手段...
「っく」
「ちっ」
同時に舌打ち。お互い、今の一撃を外したのは大きい。
コルベールは大きく体力を削られ、メンヌヴィルは相手を倒...
だが、それでも有利なのはやはりメンヌヴィルだ。圧倒的な...
「どうした、隊長殿。もう息が上がっているぞ」
答えず、答える余裕もなく、コルベールはルーンを唱える。...
盲人と侮り接近戦を挑んだのは過ちだった。彼の感覚は、確か...
残りわずかな体力でメンヌヴィルを打ち倒すのはもはや無理...
魔法で挑むしかなかった。
コルベールの杖先に長い炎が生まれる。火球をいくつも連ね...
連想させた。コルベールの二つ名でもある炎の蛇。破壊しか巻...
「は、はははは! ようやくだしたか、隊長殿! それだ、そ...
光を奪った炎の蛇。
格闘など捨て置け。それではつまらん、炎で来い。さあさあ...
殺したくて仕方なかったんだ!
今ここに、俺はようやく過去を越える!!」
笑いながらルーンを唱えたメンヌヴィルの周りに浮かぶ白々...
その温度は、優に千を超える。ちりちりと傍に立つメンヌヴィ...
それだけの炎を生み出しているメンヌヴィルの精神にはどれ...
だというのに、彼が苦しむような気配はまるでなかった。魔法...
滲ませているコルベールとは、余りに対照的だ。
389 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
「行けっ」
長引かせるのはまずいと判断したコルベールがまたしても先...
蛇が、獲物を狙うようにメンヌヴィルに向かって突き進む。言...
杖を振った。白炎の球が蛇を襲う。
一つ。蛇はメンヌヴィルの炎など意に介さない。
二つ。その炎すら飲み込んで、蛇は大きくその体を成長させ...
三つ。さら巨大化した蛇が、赤から白へと色を変える。
四つ。色が、完全な白に変わる。
五つ、つまり最後の火球を飲み込んだところで、コルベール...
重な体力を振り絞って生み出した炎の蛇だが、このままでは先...
蛇が、悲鳴のような爆音を残してあたり一面に炎を撒き散ら...
沸騰した血液のようなそれを腕で振り払おうとして――首筋に...
場を大きく飛びずさる。全力で、受身も考えず。
本能は理性よりも正確だった。コルベールの死角、メンヌヴ...
火球が数瞬前までコルベールがいたところに襲い掛かったのだ...
命はなかっただろう。
もはや、メンヌヴィルは体術でも魔法でもコルベールの御し...
証拠に、後先考えずに逃げたはずのコルベールの右足は、墨の...
「ぐ、う……」
額を脂汗が滝のように流れる。何とか姿勢を正そうとするが...
るほどの体力はコルベールに残されていない。座りなおすこと...
そうして、炎の壁のその向こうから、メンヌヴィルがその姿...
様はもはや勝者のそれだ。顔には口が裂けてしまいそうなほど...
「どうだ、コルベール! ついに俺は、お前の蛇を殺したぞ。...
ああ、このときをどれほど待ちわびたことか。俺の念願のひ...
叶ったのだ!! そして、残る願いは後ひとつ……貴様の、焼け...
言って、再びメンヌヴィルの周りに火球が浮かぶ。流石にそ...
炎ではあるが、底知れぬ精神力だけは十分伺える。余裕すら伺...
たとえこの炎を凌ごうと、次の一手でコルベールは殺される。
コルベールにできることは、座して死を待つだけだ。
――そう、炎を凌ごうとするのであれば。
「メンヌヴィル」
顔を伏したコルベールの問いかけ。無視して炎で燃やせばい...
メンヌヴィルはその声に答える。
「なんだ、コルベール。かつて部下だったよしみだ、末期の言...
っく、と低く喉から漏れる息を、メンヌヴィルは確かに聞い...
だ。だが、目の見えぬ彼にはわかる。
それは、嘲笑だ。
390 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
「死を前に狂ったか? まあいい、残す言葉がないのなら――」
死ね。そういう前に、コルベールが面を上げた。強い意志で...
その手に杖を握り、
「さようならだ、メンヌヴィル」
コルベールの頭上に炎が生まれた。あまりにか細い、吹けば...
「は、はははは。やはり狂ったか! その程度の炎など俺の前...
確かにさようならだ、コルベール。さあ、お前の匂いを嗅が...
メンヌヴィルの杖と、意思に答え、火球がコルベールを襲う...
吹かれ、鬼火のようにゆらゆらとゆれる炎。
だが、消えるのを待つまでもない。その前にメンヌヴィルの...
だがなぜだろう。放ったはずの火球の温度が、どんどんと弱...
なぜだろう。小さかったはずの鬼火の温度が、どんどんと強...
「これは、竜の血?」
優れた嗅覚を持つメンヌヴィルの鼻が風に漂う異臭を嗅ぎ取...
時には遅かった。メンヌヴィルの五感は、逆流してきた炎の中...
V/
「優れた蛇は、温度だけでなく風をも読む。目先の勝利に溺れ...
たのだ、メンヌヴィル」
炎に焼かれ、悶え苦しむかつての部下を眺めながら、冷静に...
蛇は、臥して獲物を狙う。それを忘れたメンヌヴィルの手か...
もはや自明の理と言える。
戦いを楽しむ者と勝利を目指す者。その違いが、勝負の明暗...
「かつて上官だったよしみだ。教えてやろう。
炎はな、風のないところ、真空では燃えぬのだ。そして真空...
に錬金した燃料油を流し込めば、どのような火種だろうと爆炎...
エンジン――貴様は知らぬだろうが、それの応用だ」
それは、かつてコルベールが使っていた「爆炎」に酷似して...
はなく、炎土風に変えただけ。辺りの水蒸気を、コルベールが...
気化、炎上しやすいガソリンに錬金。その上でゼロ戦のエンジ...
を利用してバックドラフトにも似た状況を引き起こす。
サイトから聞いた異界の技術などからコルベールが開発した...
「すまないな、サイト君。私はどうにもこのようなことしかで...
地面の上から空を見上げ、主に従い遠く戦場へと赴いた少年...
そうして空を見上げたまま、コルベールはゆっくりと大地へ...
391 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
VI/
炎に焼かれながら、メンヌヴィルは笑った。もはや声帯まで...
聞こえぬが、確かにメンヌヴィルは笑っていた。
「素晴らしい、やはり貴様は素晴らしい、コルベール!
届かぬ。届いたと思ったが、やはり届かなかった。真にお前...
は嗅ぐことができなかった。それがどうしようもなく嬉しい!...
かった。お前に目をつけた俺は、間違ってなどいなかったのだ」
声帯すら振るわせず、心だけ、己だけに向けた言葉をメンヌ...
沸騰し、蒸発していく中でメンヌヴィルはただ己の正しさだけ...
そうして――気づく。
「ああ、この、匂いだ」
夢にまで見た理想の匂い。届かないはずのその匂いが、今、...
気づけば簡単だった。メンヌヴィルが燃やしてしまった時点...
ものでしかない。どれほどの強者であろうと燃やしてしまえば...
届かぬ匂いではないのだ。
では、真に届かぬ匂いとは、望むべき匂いとは、メンヌヴィ...
もたらされるのではないだろうか。そう、自らを焼くほどの炎...
こそ、ずっと彼が望んでいた結末だ。
それが、メンヌヴィルが傭兵を続けていた理由だった。
なら、もう生にしがみつく必要はない。
「さらばだ、隊長殿」
そうして、灰だけを残してメンヌヴィルの肉体はこの世から...
VII/
アニエス。アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。トリステ...
そして――ダングルテールの生き残り。
炎に過去を故郷を焼かれた彼女は、何よりも炎とそれを扱う...
彼女はコルベールとメンヌヴィルとの戦いが始まろうとするの...
迷わずその背後を撃つことを決めた。
無論、コルベールが教師であり、メンヌヴィルが学院におけ...
一目見ただけで看過できる。そして、二人が炎のメイジである...
幸い、メンヌヴィルの注意はコルベールばかりに注がれてい...
容易だった。有効射程からはいささか距離はあるが、位置的に...
コルベールが勝てばよし。負ければ、そのときは背後から奇...
敗北が死に繋がることなど容易に想像できるが、それがアニ...
幸いにも、勝負はコルベールの勝利に終わった。メイジ殺し...
冷たい汗が流れるほどの勝負に、無傷とは言わないまでもコル...
なれば、好かない相手でも捨て置くわけにはいくまい。いつ...
なんとかして銃把を取り離すと、いまだ熱気覚めやらぬ中庭を...
392 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
「これは……」
近寄ってみれば、コルベールはひどい有様だった。所々醜く...
付いている。ひどいのは右足だった。完全に炭化し、もはや崩...
これだけの傷を負ってよくも――アニエスの背筋に戦慄とも憧...
感情が走った。
痛みは精神の集中を乱す。相手の魔法を崩す際、それをよく...
この目の前の男はあまりに規格外だった。
だが、驚いてばかりもいられない。アニエスに施せる処置な...
メイジを呼んで、治療してもらうしかない。
「意識を失ってるのが幸いしたか」
言って、男の傍らに膝を付く。呼ぶ前に、することがあった...
合う前に、それを引き剥がさなくてはならない。本来は清潔な...
そんなものはどこにもない。陛下からいただいたマントで代用...
「まったく、なぜ私が炎使いなどのために――」
愚痴りながら、コルベールの身を起こそうと首に手を回し――
VIII/
指揮官がいないのが幸いだった。もはやメイジが残っていな...
銃士隊と協力して襲撃した。
各々は際立ったメイジであろうと、指揮系統が混乱したまま...
連携だった攻撃を受け、彼らはたやすく瓦解した。無論、生徒...
とも肉体面に限った範囲でしかないが。
だが、それを喜ぶ暇など彼女にはなかった。父が命の危険に...
あの偉丈夫に勝利しようと、あの火傷は命にかかわる。いや、...
て戦いに挑むことすら無謀だったのだ。
オールド・オスマンに後の頼み、教師、生徒を含む数人のメ...
幸い、アルヴィースの食堂から中庭までは、それ程遠くはない。
焦りを胸に、全力でその距離を駆け抜け中庭に着いた彼女が...
残らぬ焼け焦げた中庭と、倒れた父親、そして、倒れた父の傍...
だった。彼女を焼こうとしたメイジはどこにもいない。
あるいは父を倒した後にどこかへ行ったのか――そのような益...
ぎるが、とにかく、父の生存を確認するのが先だった。生きて...
しなくてはならない。そのための水のメイジも連れてきてある...
ないが多少の治療魔法の心得はある。
いや、そもそも倒れた父を見た瞬間に、そのような判断をす...
だしていたのだ。
だから、その騎士風の女性に銃を突きつけられたとき、彼女...
と問うこともせず、ただ走って「邪魔だ」と、その手を払いの...
止まれるはずもなかった。彼女はただ、父親を救いたいだけ...
「お父さん、大丈夫!? よかった、まだ息がある。安心して...
連れ立った他の者が困惑する中、彼女はただ癒しのルーンを...
することなど思いつかない。そんな鬼気迫る様子だった。
「父、だと? そいつが、貴様の?」
その声はどうしようもなく震えていて、それでもアニエスの...
女にはない。背後で銃口を構えなおす気配がしたが、精神を削...
「貴様は、そいつが昔何をしたのか知っているのか!! そい...
ダングルテールの村を焼き捨てたんだぞ、村人ごと全部!!」
393 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
動揺が全員に伝わるが、構わない。助力が得られないなら、...
肌に張り付いた焼け焦げた服をはがしながら、彼女は額に浮か...
不得手な水の魔法を、既に数度炎を放った後で使っているの...
あきらめない。
「おい、きいているのか、そいつは――」
ついに、聞く様子を見せない彼女の肩に、アニエスの手がか...
治療をやめさせたいのか、強引に自分のほうへと向き寄せよう...
もはや限界だった。これ以上集中を削がれては、残りわずか...
しまう。
そしてそれ以上に――この騎士が彼女は許せなかった。
「うるさいわね、知っているわよ、そんなこと!!」
かけられた手を振り払う乾いた音が中庭に響く。いまだ残る...
えたが、なぜか強く耳に残る。そんな音だった。
思った以上に力を込めていたらしい。叩いた手を見れば、自...
いた。払われた相手もこのような反応をするとは思っていなか...
いている。手の甲をさすりながら彼女は言った。
「知ってるわよ、そんなこと。お父さんが昔特殊部隊にいたこ...
ルテールって村を焼いたことも。
そして――私がその生き残りだってことも。
……お父さんは、私が知ってることを知らないけどね」
IX/
だから、邪魔しないで――そう寂しげに笑った少女の言葉を、...
った。生き残り、ダングルテールの生き残り。それは、自分だ...
混乱のあまり、足元がふらついた。その背を部下が支えたが...
アニエスは低く呻く。
「なぜ、なら、なぜ助ける。そいつは敵だ。なら、殺さないと...
それは、自らに言い聞かせるような、呪文じみた言葉だった...
身をも焦がす呪いの言葉だ。
それを、ダングルテールの生き残りなら、誰もが持つべきで...
すがるような視線で、アニエスは少女を見た。そこにはもう...
ただ真っ直ぐにアニエスを見据えその瞳で父を助けるのだと物...
息は荒く、顔中に汗をかいているというのに、どう見たって...
見えないのに、なぜだかアニエスは彼女を綺麗だと思った。思...
そしてそれで終わりだ。もう、彼女に、そしてその父親に銃...
のろのろと懐に銃をしまい、その代わりに傷薬を取り出すと...
る。受け取った彼女が目を白黒させている間にマントの留め金...
覆い隠す。
「傷薬だ。やけどに効くかどうかわからんが、ないよりマシだ...
血を拭うなり、止血するなり好きに使え」
言ってアニエスはその場から離れていった。ついて来ようと...
助けを命令し、一人中庭を後にする。
たった一人の生き残り。そうではなかったという事実だけを...
394 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
X/
意識を取り戻した後、コルベールは盛大に娘に怒られた。か...
自分も怪我しないようにしろ。嬉しかったけど。重傷なのに戦...
信用してないのか。一緒に戦えばよかった。心配させないで。...
死んじゃうと思った。私の結婚式を見たくないのか。いや、相...
盛大な娘の愚痴は、一時間にも及んだ。オールド・オスマン...
倍は硬かっただろう。苦笑を浮かべるほかない。
奇跡的としか言いようがないだろう。コルベールは一命を取...
メイジいわく、渡された傷薬の質がよほどよかったらしい。そ...
助からなかったろうと言われたほどだ。
当然だろう。魔法が使えぬ銃士隊。魔法で癒せぬ銃士隊。そ...
薬が悪いはずもない。
ただコルベールが気になるのは、なぜそれほどのものを仇の...
聞いたのだ。彼女もまた、ダングルテールの生き残りなのだ...
なぜ自分を生かしたのかと。
だが、それを問う前にアニエスは学院を去っており、父の咎...
結局謎は謎のままだ。そしてコルベールには確信にも近い予感...
自分がそれを知ることは一生涯ないだろうと。
「ちょっと、お父さん、聞いてるの。言っておくけど私、まだ...
それまでの疑問も忘れ、コルベール笑った。ただ、娘と再び...
その幸運がたまらなく嬉しい。足を一本失ったが、代償として...
所詮この身は蛇。腕も足も惜しくない。
この年になると、いくら魔法の義足でも体力が間に合わない...
普通の義足をつけることになるのだろう。リハビリも辛く険し...
それでもコルベールは後悔しない。罪を忘れたわけではない...
もわかってる。それでも、ただ娘の無事だけを喜んで、コルベ...
――END――
終了行:
384 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
予定の時間より遅れましたが、投下作品の余韻のほうが大事と...
んだば、許可も得たので失礼して。
今でも夢に見る。あの炎に包まれた光景を。
コルベールの朝は早い。軍人だったころの癖が抜けきらない...
職務だけに飽き足らず、趣味の研究までしているのだ。時間は...
眠時間を削ってまで日々を過ごしている。
そんな彼を義娘はいつも叱る。もっと体を大事にしなさいと。
食事に頓着をしない彼のために栄養を考えた食事を作り、風...
拙いながらもマフラーを編んでくれる。
実にできた娘だった。コルベールにはもったいないほど、優...
義父が、過去に彼女の村を焼いたとも知らないで。
義娘の優しさに触れるたび、コルベールは言葉では言い表せ...
彼の体を気遣う優しさが痛い。彼の背中を追って同じ教職を...
父と慕ってくれる愛情が痛い。ことあるごとに向けられる笑顔...
何よりも許せないのは――一瞬でも罪を忘れてしまいそうにな...
その度にコルベールは己の罪深さを心に刻む。彼女は、罪の...
窓から差し込む光に目を細め、コルベールの思考は中断され...
ずいぶん高く上っていたらしい。時計を見れば、もうすぐ授業...
「やれやれ」
ぎい、となる椅子から立ち上がると、傍らに畳んでおいたマ...
のろのろとしたもので、どうにも気が乗らない様子だ。
別段、コルベールは授業に行くのが嫌なのではない。かつて...
と思わないでもないが、だからこそ、子供たちには学んで欲し...
何かを。
だが、それを教えるべき生徒たちは今たったの半数しかいな...
血を洗う戦争のせいで。
糞くらえだった。彼らのうち、何人が戻ってこれるというの...
その罪に耐えられぬものは必ず出てくるはずだ。コルベールと...
怒りのせいだろうか。誰もおらぬ廊下を歩くコルベールの鼻...
血の匂いが掠める。聞こえぬはずの悲鳴が耳に届き、感じるは...
知らぬ間に、手は杖を硬く握り締めていた。まるでこの先の...
としても、すぐに対処できるように。
「何を馬鹿な」
かぶりを振って自らに言い聞かせたが、一度心についた火は...
もはや、足音だけでなく衣擦れすらも消している。
そうして、自らが作り出した静寂の中、ようやくコルベール...
「……っ静か過ぎる!」
なぜ気付かなかった――胸のうちをつく焦燥。走りながら、コ...
捨てた。
これは、戦場の空気だ。
385 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
II/
メンヌヴィルにとって、女子供しかおらぬという学院の制圧...
任務だった。彼が望むのは強者との戦い。無論、女子供の焼け...
よりはよほどメンヌヴィルを興奮させるが、それは渇いた喉を...
のぎにしか過ぎない。
今でも彼は思いを馳せるのだ。目の光を奪ったかつての上官...
その妄想に比べれば、実の燃える匂いなどすべて屑のような...
メンヌヴィルに思わせたのは彼だけだったし、実際届かなかっ...
その至上をわずかでも連想させるために、メンヌヴィルはい...
ついているのかもしれない。
「さて、そこのお前はどう思う?」
震える炎の少女を前に、メンヌヴィルは空を見ながら問いか...
ではない。この少女に期待することなど、せいぜいいい匂いで...
そしてその予想通り、少女は問いかけに答えることはしなか...
怯えているだけだ。
視線を外している内に逃げようとも立ち向かおうともしない...
死んでいる。故に見ていようがいまいが変わりないのだが。
「ふむ、同じ炎使いなのが仇になったか」
少女の炎は、実に立派なものだった。力の程は大したことは...
らしい。非力を理解し、状況に即して行使する魔法を選ぶ判断...
してならかなりの腕になるだろう。あるいは目が見えていたこ...
いかずとも、深手を負っていたかもしれない。
だが、その秀でた判断力が今となっては仇となる。少女は震...
二人の間にある絶対的な力の差が。メンヌヴィルがかつて思い...
メンヌヴィルとの力の差を知ったのだ。
「惜しいな。あと五年、いや、三年遅ければ、それなりの勝負...
言葉とは裏腹に、その口調は実に楽しげだった。強者との戦...
才能あふれる若者を焼くのも、メンヌヴィルの趣味には実に合...
愉悦に口を歪ませルーンを唱えると、煌々と辺りを照らす巨...
人一人を燃やすには、明らかに過剰な火力だった。これでは...
骨まで燃えつきてしまうだろう。だが、刹那に消える儚げな匂...
「花火のように、白炎に消えろ」
そうしてメンヌヴィルが杖を振り下ろし――一面は炎に包まれ...
メンヌヴィルは強く息を吸い込む。鼻がひりつくがかまいはし...
楽しむためならば、多少の火傷などむしろ望むところだった。
だが、その望むべき匂いはいつまでたってもやってこない。...
以上に強い肉の焼ける匂い。
これほどの炎を放ったのだ。機を逃し匂いを嗅ぎ取れぬこと...
焼ける匂いが続くことなどあるはずがない。
訝しんでメンヌヴィルは獲物の温度を探った。が、放った炎...
うまく感知できない。
「っち」
舌打ちして、メンヌヴィルは聴覚に意識を集中させた。炎の...
温度と匂いに頼るよりはマシだった。その中で、彼は風の音と...
「大丈夫だったかい」
「――お父さんっ!!」
それは、かつての上官の声だった。
386 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
III/
「コルベール、コルベールコルベールコルベール! 炎の蛇、...
歓喜の声でメンヌヴィルは叫んだ。興奮のあまり、今にも襲...
それがわかっていながらなお、コルベールは振り返ることを...
我が子がいるのだ。警戒は忘れない。だが、幾百の敵を打ち払...
をコルベールは選ぶ。
身に纏っていた風の魔法を解除すると、コルベールは優しく...
「さあ、逃げなさい」
「でもお父さん、やけど、ひど、あ、そんな、ダメだよ、死ん...
だが、守られたのはまたしてもコルベールのほうだった。助...
先に、まず父親の心配をしたのだ。震える指先は、焼け爛れた...
何度も中空で撫でるように行き来した。涙を流してないのが不...
思えば、この子が最後に泣いたのはいつだっただろうか。コ...
ないほど昔のことだ。その子が今、涙を流さず泣いている。
そうして決意を胸に秘めると、娘を案じる父親と部下に命令...
例えようのない中途半端な笑みを浮かべ娘の頭を撫でると、コ...
「心配ない。後ろの彼は僕が倒そう。生徒たちの安全は任せた」
その言葉に、娘は息を呑んだ。思案しているのがわかる。自...
あるいは、一緒に逃げようと言おうとしたのかもしれない。聞...
受け入れてしまうだろう。
残り少ない後ろ髪を惹かれる思いで娘の顔を視界から追い出...
立ち上がる。振り向けばわかった。そこにいたのは、かつて己...
あまりの皮肉さに、コルベールは人知れず臍をかんだ。折り...
きたのは娘の村を焼き払ったときだ。
過去はいつまでもその背に付きまとい、思いがけぬ時に現在...
「せめて、すべて私に咎が来ればよいものを」
かぶりを振って、コルベールは呟いた。声量に反し、そこに...
込められている。その矛先は、自分であり、メンヌヴィルであ...
あの子から母を奪ったのは誰だ。故郷を奪ったのは誰だ。炎...
才能を与えたのは誰だ。そんなあの子に、再び炎と相対させた...
「どうした、早く行きなさい」
この場から娘を逃がそうとするのは、何もその身を案じてば...
怒る自分を、過去に戻ろうとする自分の姿を、コルベールは見...
その声の硬さに気づいたのか、娘は立ち上がると、ようやく...
「誰か呼んでくるから! だから、それまで絶対死なないでね...
口の端に、笑みが浮かぶ。まったく、自分は恵まれすぎてい...
いいくらいだ。
猛る心を落ち着かせて守るべきものを心に刻み付けたコルベ...
前の敵に集中させた。
387 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
「待たせね」
「は、かまわんさ。会えぬと思っていた貴方に今再びまみえる...
ついて焼いてもつまらなすぎる。それに今生の別れだからな。
しかし驚いたぞ、隊長殿。貴方にまさか娘がいたとは。年の...
あの事件のあとに妻でも迎えたか?」
「血の繋がりはないさ。彼女は……あの事件の数少ない生存者だ」
「は、はははははは! なんと、なんという馬鹿げたことをし...
まさか焼き残しをしたはおろか、その生き残りを引き取って...
するなど、俺の知る隊長殿では考えられんわ」
呵々大笑するメンヌヴィル。それを見て、コルベールは直感...
あの事件の裏側を知っていると。
杖を握り締め、コルベールは眼前の敵を強く見据える。
「そうだな、お前の知る炎の蛇はもういない。今ここにいるの...
「それは同情か? 贖罪か? あるいは、自虐の趣味でもでき...
メンヌヴィルの隠そうともしない嘲りを受けてなお、コルベ...
ままだった。だが、その内心は違う。自らの侮辱などどうでも...
この男が一秒でも長く生きていることが耐えられなかった。
顔では表せぬほどの激情がコルベールの胸のうちにはあった...
声でコルベールは語りかける。
「そのどれかかもしれないし、全てかもしれないし、どれも当...
私自身にもわからないし、一生わかるつもりもない。お前が望...
合わせてはいないんだ。だから、言えるのはただひとつだけ。
一応聞いておこう。メンヌヴィル、降伏するつもりはないか...
犬歯もあらわに笑い、メンヌヴィルは杖を突きつけた。
「痛みや熱に浮かされ狂ったか、隊長殿。まさか本気で言って...
一言ルーンを唱えれば、即座に炎が飛び出してくるだろう。
そのような状況において、コルベールは、盲しいているとい...
向けられるものだな、とどこか遠くに思いながら、なんとその...
瞼の裏に映るのは、自分が殺した妊婦の姿。炎に焼かれなが...
死んでいった。任務でなければ、到底できるはずもないむごい...
――その任務は嘘だった。すべてに裏切られたコルベールがそ...
聞いたとき、彼は決めたのだ。彼女の万難を焼き払う炎になる...
再びコルベールが目を開く。その顔には、笑みが浮かんでい...
獰猛な獣の笑みだ。
「そうか、それはよかった」
「は?」
呆けた返しをするかつての部下に、その手に杖が握られてい...
ど優しい、それこそ生徒に者を教えるような口調でコルベール...
「何、“僕”はどうにも娘のことになると短気なようでね。オー...
近寄らせたくないほどなのだ。まして娘を傷物にしようとした...
気は長くない。だから言ったんだよ。
――お前が降参してくれなくてよかった、と」
言って、コルベールは駆け出した。哄笑とともにメンヌヴィ...
二十年越しの戦いが、今始まる。
388 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
IV
戦いはまず機先を制することから始まる。既にして炎に焼か...
不利は否めない。体力にも余裕がない。長引けば長引くほど、...
なっていく。まして、二人の間には二十年もの実戦の月日が隔...
相手は盲人、反応できぬ接近戦で一気にけりをつける――そう...
長い杖をレイピアのように見立て、メンヌヴィルの太い首に杖...
その足元を狙った。
フェイントだった。いきなり接近戦を挑む奇襲に加え、上半...
失える首への攻撃に意識を集中させ、その反対に相手の足をま...
盲人相手に慎重すぎるかも知れぬが、体格差は余りにも歴然...
コルベールにとって致命傷にならぬ保証はない。
限られた体力の中にあって、コルベールのかつての冷徹な思...
だが、メンヌヴィルはそのコルベールの予想の上をいった。...
すっと足を後ろにやったのだ。
体重を乗せた突きが空振り、杖が固い地面に突き刺さる。驚...
無防備な腹を丸太のような蹴り足が襲う。
だが、一撃をかわされた程度で負けるような者が、どうして...
つめられよう。それが例え過去のことであっても。
襲い掛かる蹴りを冷静に眺めながら、コルベールは体重が乗...
いや、正確には、その力の向きを変えたのだ。前に傾いでいた...
メンヌヴィルの左側面から離れるようにと流れていく。
無造作とも思われた一撃は、そのままコルベールの回避手段...
「っく」
「ちっ」
同時に舌打ち。お互い、今の一撃を外したのは大きい。
コルベールは大きく体力を削られ、メンヌヴィルは相手を倒...
だが、それでも有利なのはやはりメンヌヴィルだ。圧倒的な...
「どうした、隊長殿。もう息が上がっているぞ」
答えず、答える余裕もなく、コルベールはルーンを唱える。...
盲人と侮り接近戦を挑んだのは過ちだった。彼の感覚は、確か...
残りわずかな体力でメンヌヴィルを打ち倒すのはもはや無理...
魔法で挑むしかなかった。
コルベールの杖先に長い炎が生まれる。火球をいくつも連ね...
連想させた。コルベールの二つ名でもある炎の蛇。破壊しか巻...
「は、はははは! ようやくだしたか、隊長殿! それだ、そ...
光を奪った炎の蛇。
格闘など捨て置け。それではつまらん、炎で来い。さあさあ...
殺したくて仕方なかったんだ!
今ここに、俺はようやく過去を越える!!」
笑いながらルーンを唱えたメンヌヴィルの周りに浮かぶ白々...
その温度は、優に千を超える。ちりちりと傍に立つメンヌヴィ...
それだけの炎を生み出しているメンヌヴィルの精神にはどれ...
だというのに、彼が苦しむような気配はまるでなかった。魔法...
滲ませているコルベールとは、余りに対照的だ。
389 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
「行けっ」
長引かせるのはまずいと判断したコルベールがまたしても先...
蛇が、獲物を狙うようにメンヌヴィルに向かって突き進む。言...
杖を振った。白炎の球が蛇を襲う。
一つ。蛇はメンヌヴィルの炎など意に介さない。
二つ。その炎すら飲み込んで、蛇は大きくその体を成長させ...
三つ。さら巨大化した蛇が、赤から白へと色を変える。
四つ。色が、完全な白に変わる。
五つ、つまり最後の火球を飲み込んだところで、コルベール...
重な体力を振り絞って生み出した炎の蛇だが、このままでは先...
蛇が、悲鳴のような爆音を残してあたり一面に炎を撒き散ら...
沸騰した血液のようなそれを腕で振り払おうとして――首筋に...
場を大きく飛びずさる。全力で、受身も考えず。
本能は理性よりも正確だった。コルベールの死角、メンヌヴ...
火球が数瞬前までコルベールがいたところに襲い掛かったのだ...
命はなかっただろう。
もはや、メンヌヴィルは体術でも魔法でもコルベールの御し...
証拠に、後先考えずに逃げたはずのコルベールの右足は、墨の...
「ぐ、う……」
額を脂汗が滝のように流れる。何とか姿勢を正そうとするが...
るほどの体力はコルベールに残されていない。座りなおすこと...
そうして、炎の壁のその向こうから、メンヌヴィルがその姿...
様はもはや勝者のそれだ。顔には口が裂けてしまいそうなほど...
「どうだ、コルベール! ついに俺は、お前の蛇を殺したぞ。...
ああ、このときをどれほど待ちわびたことか。俺の念願のひ...
叶ったのだ!! そして、残る願いは後ひとつ……貴様の、焼け...
言って、再びメンヌヴィルの周りに火球が浮かぶ。流石にそ...
炎ではあるが、底知れぬ精神力だけは十分伺える。余裕すら伺...
たとえこの炎を凌ごうと、次の一手でコルベールは殺される。
コルベールにできることは、座して死を待つだけだ。
――そう、炎を凌ごうとするのであれば。
「メンヌヴィル」
顔を伏したコルベールの問いかけ。無視して炎で燃やせばい...
メンヌヴィルはその声に答える。
「なんだ、コルベール。かつて部下だったよしみだ、末期の言...
っく、と低く喉から漏れる息を、メンヌヴィルは確かに聞い...
だ。だが、目の見えぬ彼にはわかる。
それは、嘲笑だ。
390 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
「死を前に狂ったか? まあいい、残す言葉がないのなら――」
死ね。そういう前に、コルベールが面を上げた。強い意志で...
その手に杖を握り、
「さようならだ、メンヌヴィル」
コルベールの頭上に炎が生まれた。あまりにか細い、吹けば...
「は、はははは。やはり狂ったか! その程度の炎など俺の前...
確かにさようならだ、コルベール。さあ、お前の匂いを嗅が...
メンヌヴィルの杖と、意思に答え、火球がコルベールを襲う...
吹かれ、鬼火のようにゆらゆらとゆれる炎。
だが、消えるのを待つまでもない。その前にメンヌヴィルの...
だがなぜだろう。放ったはずの火球の温度が、どんどんと弱...
なぜだろう。小さかったはずの鬼火の温度が、どんどんと強...
「これは、竜の血?」
優れた嗅覚を持つメンヌヴィルの鼻が風に漂う異臭を嗅ぎ取...
時には遅かった。メンヌヴィルの五感は、逆流してきた炎の中...
V/
「優れた蛇は、温度だけでなく風をも読む。目先の勝利に溺れ...
たのだ、メンヌヴィル」
炎に焼かれ、悶え苦しむかつての部下を眺めながら、冷静に...
蛇は、臥して獲物を狙う。それを忘れたメンヌヴィルの手か...
もはや自明の理と言える。
戦いを楽しむ者と勝利を目指す者。その違いが、勝負の明暗...
「かつて上官だったよしみだ。教えてやろう。
炎はな、風のないところ、真空では燃えぬのだ。そして真空...
に錬金した燃料油を流し込めば、どのような火種だろうと爆炎...
エンジン――貴様は知らぬだろうが、それの応用だ」
それは、かつてコルベールが使っていた「爆炎」に酷似して...
はなく、炎土風に変えただけ。辺りの水蒸気を、コルベールが...
気化、炎上しやすいガソリンに錬金。その上でゼロ戦のエンジ...
を利用してバックドラフトにも似た状況を引き起こす。
サイトから聞いた異界の技術などからコルベールが開発した...
「すまないな、サイト君。私はどうにもこのようなことしかで...
地面の上から空を見上げ、主に従い遠く戦場へと赴いた少年...
そうして空を見上げたまま、コルベールはゆっくりと大地へ...
391 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
VI/
炎に焼かれながら、メンヌヴィルは笑った。もはや声帯まで...
聞こえぬが、確かにメンヌヴィルは笑っていた。
「素晴らしい、やはり貴様は素晴らしい、コルベール!
届かぬ。届いたと思ったが、やはり届かなかった。真にお前...
は嗅ぐことができなかった。それがどうしようもなく嬉しい!...
かった。お前に目をつけた俺は、間違ってなどいなかったのだ」
声帯すら振るわせず、心だけ、己だけに向けた言葉をメンヌ...
沸騰し、蒸発していく中でメンヌヴィルはただ己の正しさだけ...
そうして――気づく。
「ああ、この、匂いだ」
夢にまで見た理想の匂い。届かないはずのその匂いが、今、...
気づけば簡単だった。メンヌヴィルが燃やしてしまった時点...
ものでしかない。どれほどの強者であろうと燃やしてしまえば...
届かぬ匂いではないのだ。
では、真に届かぬ匂いとは、望むべき匂いとは、メンヌヴィ...
もたらされるのではないだろうか。そう、自らを焼くほどの炎...
こそ、ずっと彼が望んでいた結末だ。
それが、メンヌヴィルが傭兵を続けていた理由だった。
なら、もう生にしがみつく必要はない。
「さらばだ、隊長殿」
そうして、灰だけを残してメンヌヴィルの肉体はこの世から...
VII/
アニエス。アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。トリステ...
そして――ダングルテールの生き残り。
炎に過去を故郷を焼かれた彼女は、何よりも炎とそれを扱う...
彼女はコルベールとメンヌヴィルとの戦いが始まろうとするの...
迷わずその背後を撃つことを決めた。
無論、コルベールが教師であり、メンヌヴィルが学院におけ...
一目見ただけで看過できる。そして、二人が炎のメイジである...
幸い、メンヌヴィルの注意はコルベールばかりに注がれてい...
容易だった。有効射程からはいささか距離はあるが、位置的に...
コルベールが勝てばよし。負ければ、そのときは背後から奇...
敗北が死に繋がることなど容易に想像できるが、それがアニ...
幸いにも、勝負はコルベールの勝利に終わった。メイジ殺し...
冷たい汗が流れるほどの勝負に、無傷とは言わないまでもコル...
なれば、好かない相手でも捨て置くわけにはいくまい。いつ...
なんとかして銃把を取り離すと、いまだ熱気覚めやらぬ中庭を...
392 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
「これは……」
近寄ってみれば、コルベールはひどい有様だった。所々醜く...
付いている。ひどいのは右足だった。完全に炭化し、もはや崩...
これだけの傷を負ってよくも――アニエスの背筋に戦慄とも憧...
感情が走った。
痛みは精神の集中を乱す。相手の魔法を崩す際、それをよく...
この目の前の男はあまりに規格外だった。
だが、驚いてばかりもいられない。アニエスに施せる処置な...
メイジを呼んで、治療してもらうしかない。
「意識を失ってるのが幸いしたか」
言って、男の傍らに膝を付く。呼ぶ前に、することがあった...
合う前に、それを引き剥がさなくてはならない。本来は清潔な...
そんなものはどこにもない。陛下からいただいたマントで代用...
「まったく、なぜ私が炎使いなどのために――」
愚痴りながら、コルベールの身を起こそうと首に手を回し――
VIII/
指揮官がいないのが幸いだった。もはやメイジが残っていな...
銃士隊と協力して襲撃した。
各々は際立ったメイジであろうと、指揮系統が混乱したまま...
連携だった攻撃を受け、彼らはたやすく瓦解した。無論、生徒...
とも肉体面に限った範囲でしかないが。
だが、それを喜ぶ暇など彼女にはなかった。父が命の危険に...
あの偉丈夫に勝利しようと、あの火傷は命にかかわる。いや、...
て戦いに挑むことすら無謀だったのだ。
オールド・オスマンに後の頼み、教師、生徒を含む数人のメ...
幸い、アルヴィースの食堂から中庭までは、それ程遠くはない。
焦りを胸に、全力でその距離を駆け抜け中庭に着いた彼女が...
残らぬ焼け焦げた中庭と、倒れた父親、そして、倒れた父の傍...
だった。彼女を焼こうとしたメイジはどこにもいない。
あるいは父を倒した後にどこかへ行ったのか――そのような益...
ぎるが、とにかく、父の生存を確認するのが先だった。生きて...
しなくてはならない。そのための水のメイジも連れてきてある...
ないが多少の治療魔法の心得はある。
いや、そもそも倒れた父を見た瞬間に、そのような判断をす...
だしていたのだ。
だから、その騎士風の女性に銃を突きつけられたとき、彼女...
と問うこともせず、ただ走って「邪魔だ」と、その手を払いの...
止まれるはずもなかった。彼女はただ、父親を救いたいだけ...
「お父さん、大丈夫!? よかった、まだ息がある。安心して...
連れ立った他の者が困惑する中、彼女はただ癒しのルーンを...
することなど思いつかない。そんな鬼気迫る様子だった。
「父、だと? そいつが、貴様の?」
その声はどうしようもなく震えていて、それでもアニエスの...
女にはない。背後で銃口を構えなおす気配がしたが、精神を削...
「貴様は、そいつが昔何をしたのか知っているのか!! そい...
ダングルテールの村を焼き捨てたんだぞ、村人ごと全部!!」
393 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
動揺が全員に伝わるが、構わない。助力が得られないなら、...
肌に張り付いた焼け焦げた服をはがしながら、彼女は額に浮か...
不得手な水の魔法を、既に数度炎を放った後で使っているの...
あきらめない。
「おい、きいているのか、そいつは――」
ついに、聞く様子を見せない彼女の肩に、アニエスの手がか...
治療をやめさせたいのか、強引に自分のほうへと向き寄せよう...
もはや限界だった。これ以上集中を削がれては、残りわずか...
しまう。
そしてそれ以上に――この騎士が彼女は許せなかった。
「うるさいわね、知っているわよ、そんなこと!!」
かけられた手を振り払う乾いた音が中庭に響く。いまだ残る...
えたが、なぜか強く耳に残る。そんな音だった。
思った以上に力を込めていたらしい。叩いた手を見れば、自...
いた。払われた相手もこのような反応をするとは思っていなか...
いている。手の甲をさすりながら彼女は言った。
「知ってるわよ、そんなこと。お父さんが昔特殊部隊にいたこ...
ルテールって村を焼いたことも。
そして――私がその生き残りだってことも。
……お父さんは、私が知ってることを知らないけどね」
IX/
だから、邪魔しないで――そう寂しげに笑った少女の言葉を、...
った。生き残り、ダングルテールの生き残り。それは、自分だ...
混乱のあまり、足元がふらついた。その背を部下が支えたが...
アニエスは低く呻く。
「なぜ、なら、なぜ助ける。そいつは敵だ。なら、殺さないと...
それは、自らに言い聞かせるような、呪文じみた言葉だった...
身をも焦がす呪いの言葉だ。
それを、ダングルテールの生き残りなら、誰もが持つべきで...
すがるような視線で、アニエスは少女を見た。そこにはもう...
ただ真っ直ぐにアニエスを見据えその瞳で父を助けるのだと物...
息は荒く、顔中に汗をかいているというのに、どう見たって...
見えないのに、なぜだかアニエスは彼女を綺麗だと思った。思...
そしてそれで終わりだ。もう、彼女に、そしてその父親に銃...
のろのろと懐に銃をしまい、その代わりに傷薬を取り出すと...
る。受け取った彼女が目を白黒させている間にマントの留め金...
覆い隠す。
「傷薬だ。やけどに効くかどうかわからんが、ないよりマシだ...
血を拭うなり、止血するなり好きに使え」
言ってアニエスはその場から離れていった。ついて来ようと...
助けを命令し、一人中庭を後にする。
たった一人の生き残り。そうではなかったという事実だけを...
394 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2007/09/2...
X/
意識を取り戻した後、コルベールは盛大に娘に怒られた。か...
自分も怪我しないようにしろ。嬉しかったけど。重傷なのに戦...
信用してないのか。一緒に戦えばよかった。心配させないで。...
死んじゃうと思った。私の結婚式を見たくないのか。いや、相...
盛大な娘の愚痴は、一時間にも及んだ。オールド・オスマン...
倍は硬かっただろう。苦笑を浮かべるほかない。
奇跡的としか言いようがないだろう。コルベールは一命を取...
メイジいわく、渡された傷薬の質がよほどよかったらしい。そ...
助からなかったろうと言われたほどだ。
当然だろう。魔法が使えぬ銃士隊。魔法で癒せぬ銃士隊。そ...
薬が悪いはずもない。
ただコルベールが気になるのは、なぜそれほどのものを仇の...
聞いたのだ。彼女もまた、ダングルテールの生き残りなのだ...
なぜ自分を生かしたのかと。
だが、それを問う前にアニエスは学院を去っており、父の咎...
結局謎は謎のままだ。そしてコルベールには確信にも近い予感...
自分がそれを知ることは一生涯ないだろうと。
「ちょっと、お父さん、聞いてるの。言っておくけど私、まだ...
それまでの疑問も忘れ、コルベール笑った。ただ、娘と再び...
その幸運がたまらなく嬉しい。足を一本失ったが、代償として...
所詮この身は蛇。腕も足も惜しくない。
この年になると、いくら魔法の義足でも体力が間に合わない...
普通の義足をつけることになるのだろう。リハビリも辛く険し...
それでもコルベールは後悔しない。罪を忘れたわけではない...
もわかってる。それでも、ただ娘の無事だけを喜んで、コルベ...
――END――
ページ名: