ゼロの使い魔保管庫
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**ゼロの飼い犬12 水兵服とメイドの不安(前編) ...
■1
「よしっ、出来上がり!」
仕事が終わった後の夜半。自室で裁縫仕事を終えると、わた...
目の前に掲げました。白いラインが入った大きな襟の、半袖の...
サイトさんに言われたとおりの丈にしたのですが、わたしが着...
さきほど丈を詰めたスカートに目をやると、そちらも今まで...
短い丈になっています。自分で直しておいていうもの何ですけ...
「変わった服ねぇ」
ベッドに寝っ転がって本など読みつつ、時おりわたしの作業...
ルームメイトのローラが、出来上がった上着とスカートを見て...
「それ、あのサイトっていう子からプレゼントされたんでしょ?
変わった服装してると思ってたけど、女の子に着せる服の趣味...
「さぁ、そこまでは」
「でも、彼の為なら着るわよね。何せ、あの”ひこうき”を飛ば...
英雄なんだから。ホント、すごい子に目をつけてたものよね、...
ローラはベッドから身を起こすと、シーツの上にあぐらをか...
その言葉を聞いて、わたしの胸に熱いものが灯る。サイトさ...
心臓が高鳴ります。
サイトさんと一緒に宝探しに行って、その後の休暇でわたし...
トリステインとアルビオンの間で戦争が始まりました。
その時、村が竜騎士によって焼かれて、アルビオンの兵士が...
ただ逃げ隠れるしかなかったわたしたちを救ってくれたのが、
サイトさんとミス・ヴァリエール……それに、あの『竜の羽衣』...
戦いの音がふいに途絶え、隠れていた森から恐る恐る出たわ...
姿を見たとき。草原に降りたその中から、サイトさんが降りて...
思わず飛びついてしまったわたしを抱き留めて、「無事だっ...
ほっとした顔で笑いかけてくれたとき……。
わたしが、どんなに嬉しかったか。どんなに安心したか。ど...
感激なんていう言葉じゃ済みません。言葉では収まらないく...
今でもちょっと信じられません。前にもサイトさんに言った...
でも、現実。あの時、勢いでキスしてしまったわたしを抱きし...
わたしの実家で戦勝を祝っての宴会が開かれて、その時サイ...
英雄だと称えられたのも、本当にあったこと。酒の勢いのせい...
家族や村の人たちの間では公認みたいになってしまったのも……。
「おーい、シエスタ? 聞いてる?」
「ふぇ?」
いつのまにかすぐ近くまで来ていたローラに目の前で手を振...
「またあんたトリップしてたわよ。見てて恥ずかしいくらいに...
溜息をつくローラ。慌てて頬に手を当てると、完全に緩んで...
最近こんな風にサイトさんの事を思い出して惚けちゃう事が多...
「で、試着してみるんじゃないの? これ」
ローラはわたしが直した上着を取り上げて言ってくる。サイ...
プレゼントしてくれたのは、船に乗る兵士の方が着る、水兵服...
いくらサイズを直したといっても、女の子が着る服としては...
「も、もちろんよ。サイトさんから頂いたものだもの」
わたしは部屋着を脱ぐと、ローラからその上着を受け取りま...
丈が短すぎてコルセットもつけられないし、下にシミーズも着...
仕方ないので、素肌の上にそのまま袖を通します。
「んー、いざ着てみるとそこまで不自然でもないわね。それで...
ローラが次に持ち上げたのは、これまたサイズを直した、学...
勝手に弄ってしまっていいものなのか不安でしたが、サイトさ...
わたしが穿けるようにしてしまいました。けれど……。
■2
「……その長さじゃ、ドロワースが思いっきり見えるわよねぇ」
ローラが眉をひそめて言う。そう、さっきから不安だったの...
このスカート、サイトさんの指示通りに太股が半分見えてしま...
わたしの持っている下着と一緒に穿くことができません。
「一緒に小さな下着は貰ってないの?」
「うん……」
頷きながら、とりあえずドロワースをつけたままスカートを...
それから下穿きだけ脱ぎました。一応、これがサイトさんの望...
短いスカートの下でむき出しなお尻に落ち着かなさを感じな...
ローラと共同で使っている姿見に格好を映してみます。
「わぁ……、な、なんだかいやらしい……」
鏡に映った自分の頬がかあっと赤くなる。袖が短い服はとき...
この格好だとお腹のあたりの肌もちらちら見え隠れして、何よ...
メイド服でも普段着でも、こんなに足を見せる格好はしませ...
「そうだけど、男好きのする格好かもね。結構シエスタには似...
「それ、誉めてるの?」
複雑な気分でローラに聞く。
「誉めてるわよ。あなた、まだ自分の武器がわかってないみた...
「なに? わたしの武器って……わひゃ!?」
急に背筋をぞぞぞっとした感覚が駆け上りました。いつの間...
わたしの足を指先で撫で上げたのです。
「これよこれ、シエスタのアピールポイント」
「あ、足?」
「足もそうだけど、この肌! シエスタの肌って綺麗なだけじ...
なんかわたしたちとは違うのよね。普段は長袖とスカートとブ...
隠しちゃってるんだから、ここぞというときは見せつけて武器...
「そ、そうかな……」
見せつけるっていうのはどうかと思うけど、誉められて悪い...
わたしは黒髪や黒い瞳が珍しいだけじゃなくて、肌の色や質感...
前々から言われていましたが、たぶんひいおじいちゃんの血の...
それは同時に、サイトさんやサイトさんの故郷の人と同じ血...
「それを計算した上でシエスタにこんな服着せようと思ったん...
実は意外と物が分かる男なのかもね。この肌、シエスタのモチ...
「ちょっと、いつまで触って……ひゃう!?」
「あ、下着つけてないんだっけ」
その手がお尻にまで直接触れて、わたしは慌てて振り向いて...
「いやー、でもお尻の感触はひときわ良かったわ。まさしく兵...
手をわきわき下品に動かしながら笑うローラ。わたしは呆れ...
「でも、こんな短いスカートを下着無しで穿いてくなんて無理...
中が見えちゃう。サイトさん、わたしが小さな下着は持ってな...
何度か一緒にお洗濯をしたから、知ってると思うんですけど...
見慣れてるから、当然みんな持ってるものだと考えてるんでし...
わたしが悩んでると、ローラがいつになく真面目な顔になっ...
「シエスタ。その点なんだけど」
「なに?」
「サイトは、シエスタがドロワースしか持ってないってことを...
あえてスカートの丈を短く詰めろと言ってきたのかもしれない...
「へ?」
理屈が通っていないローラの言葉に、思わず気の抜けた返事...
■3
「どうしてそんな。だったら下着も一緒に貸して頂かないと」
「わかんない? つまり、サイトはその肌着もつけられない短...
下着もつけてない格好のあなたが見たいのよ」
ローラは名探偵みたいな顔をして、人差し指をピンと立てる。
その言葉の意味を理解するのに、しばらく時間がかかりました。
「な、なんでそんな意地悪を!? サイトさんはそんなことし...
あわあわと取り乱すわたしに、ローラはあくまで冷静に言い...
「自信を持ちなさい。彼はシエスタの身体が魅力的だと思って...
そんな格好を見たがるのよ。それに、シエスタのことを好いて...
意地悪してシエスタが困ったり恥ずかしがったりする姿を楽し...
ローラの台詞に、開いた口が塞がりません。
「そ、そんなの普通じゃないわ!」
「……シエスタ、もしあなたの好きなサイトがその”普通じゃない...
ついていけないからと諦めるわけ?」
その言葉にわたしははっとしました。
「人の嗜好はそれぞれだし、愛情の形もそれぞれ異なるわ。も...
持っているのだとしても、それを受け入れてみせるのが愛では...
「そんな……」
体が勝手によろ、と後じさる。ローラの言葉とサイトさんの...
サイトさんがそんなことを望む人だとは思えません。だって...
わたしを大事にしてくれて。それに、いつか帰らなければいけ...
ついていないからと、わたしの身体は奪わない選択をするよう...
「そういえばあなた、彼に手とか口で奉仕して喜んでもらえた...
なのに、最後までしてはもらっていない。あなたってば相当良...
それって、彼はシエスタに対して普通とは異なった愛情を持っ...
「う……!」
わたしの思考の逃げ道を塞ぐようなローラの意見に、足下が...
「シエスタ、前にあなたに貸して、読んだわよねこの本」
ローラは棚のところから本を一冊取り出して持ってきました...
純朴で何も知らなかったメイドの少女が、旦那様の元で女とし...
要するに、オトナ向けの小説です。
ローラはその本を開いてページをめくり、一点で止めました。
「この章が近いかしら。主人公の少女は旦那様の気まぐれによ...
極端に露出の多い服を着ることを強要され、その格好で仕事を...
少女は頬を染め、涙目で旦那様に助けを乞う視線を送るも、旦...
静かに仕事を言いつけるだけ……」
その章はわたしも印象に残ってます。その後、旦那様の要求...
していき、主人公の少女はその格好で旦那様と来客との会食の...
そして、旦那様はわざと食器を落としたり、床を拭かせたり……。
「で、でもそれってあくまでお話でしょ? ホントにそんなこ...
「まぁ誇張はあるかもしれないけど、いくらお話だっていって...
参考にして作るものよね」
ローラは『メイドの午後』をパタンと閉じる。わたしは腰が...
座り込みました。
「もちろん、可能性の話に過ぎないわ。サイトの趣味はいたっ...
けど、もし普通じゃなかったら。短いスカートに下着無しの格...
思ってるなら……あなた、その期待を裏切って『こんなの着られ...
「サイトさんは、そんなことでわたしを嫌うような人じゃ……」
ローラの冷たい言葉に、わたしはぼそぼそと言い返します。
「そう思うなら、それでもいいんじゃない。でも、サイトが”シ...
その服をプレゼントして加工して欲しいと言ったのは確かでし...
■4
襟の下に巻いたスカーフをぎゅっと握りしめる。そして、ま...
露出は大きいけど、結構可愛いデザインで……よく見たら、ロー...
わたしに似合ってる気もする水兵服。
サイトさんはこれを目を輝かせた、興奮した様子でわたしに...
この服は、わたしがプレゼントした手編みのマフラーのお返...
これ以上ないほど嬉しそうに受け取ってくれた、あのマフラー...
「……サイトさん……」
不安でごちゃごちゃしていた胸に再び熱いものが膨らんでい...
わたしは呟きました。
∞ ∞ ∞
消灯してわたしとシエスタはベッドの中に入った。結局、シ...
明日あの服を着たところをサイトに見せるつもりみたい。
彼女はまた恋する女の子みたいな顔になりながら、大事そう...
机の上に置いてた。
そんなシエスタの様子を思い出しながら……。
わたしことローラは、布団を引っ被って笑いを堪えるのに必...
恋は盲目とはよく言ったもんだわ。面白くなりそ。
∞ ∞ ∞
「それはぼくの世界ではセーラー服と呼ばれてますッ! 生ま...
今まで見たことがないくらいに盛り上がって拳を握りしめて...
ちょっとおののきながら、わたしは自分の格好を改めて見直し...
この服……今サイトさんが教えたくれた呼び名で言うなら、セ...
アウストリの広場。わたしは意を決してそれを着て、サイトさ...
そこでようやく知ったのですが、この服装は、サイトさんの...
若い女性が学校の制服として着ているものなのだとか。それで...
わたしに着せたがったのかはわかりました。
やっぱり、サイトさんは、サイトさんと同じ血が入っている...
感じているんだわ。帰れない母国、否応なしに離されてしまっ...
そのことで、故郷に帰れないサイトさんを慰めてあげられる...
何度だってしてあげたいと思います。
……それはそれで、いいんですけど。
ちらりとサイトさんの方を見ると、サイトさんは半泣きにな...
じっと見ています。体を震わせながら。ちょっと、喜びすぎじ...
それに、サイトさんの国の女の子は本当にこんなに極端に肌...
してるんでしょうか。少なからずサイトさんの趣味が入ってる...
少なからず湧き出てしまった猜疑心を振り払って、頭を切り...
ダメよシエスタ。だって昨日、サイトさんにどんな趣味がある...
出来る限り受け入れるって覚悟したじゃない。それに、サイト...
釣り合わないくらいのご恩を感じているし、何より、わたし自...
うん、とわたしは力強く頷いて、サイトさんの顔を見つめま...
サイトさんのためにいるんです。サイトさんの望むことなら何...
「どうすれば、もっと喜んでもらえるんですか?
言って、サイトさん! どうすればわたし、もっとサイトさん...
半ば自棄になってそう言うと、サイトさんは一瞬、難しそう...
「回ってくれ」
「え?」
「くるりと、回転してくれ。そしてそのあと、『お待たせっ!...
■5
お待たせって何? 何を待たせたの?
いくらどんな趣味にも付き合うと決意したとはいえ、わたし...
範疇外になりつつあるサイトさんの要求に、体じゃなくて頭の...
でも、サイトさんが望んでるんだから。わたしは混乱をぐっ...
そして、言われたとおりくるっと回ろうとして……。
今、下着を穿いてないことを思い出しました。もし、スカー...
緊張に身がすくんで、回転するというより、ただ背中を見せて...
なってしまいました。
「お、お待たせっ」
それでも要求されたとおりの台詞を呟くと。
「ちがーうッ!」
「ひっ」
「最後は指立てて、ネ。元気よく、もう一回」
言葉は柔らかいけど、鬼気迫る雰囲気を放ちながらダメ出し...
わたしはスカートの裾を抑えて、思わず少し後じさってしま...
元気良く回る、って。つまり、スカートをひるがえして、中...
今まで忘れていた不安がよみがえります。サイトさんは、わ...
させたくてスカートを短くしろって言ってきたんじゃないかっ...
昨日ローラに言われた、『メイドの午後』のワンシーンが脳...
あの話でメイドに露出の激しい格好をさせた旦那様は、直接...
要求するのではなく、わざと遠回しに……脚立を使って高い所の...
物を拾うために屈ませるとか、そういうことをさせて虐めるの...
今のサイトさんも、まさか。ぐらぐらと頭の中が沸騰してく...
本当に何度も回転したみたいに、足下がおぼつかなくなってく...
でも、サイトさんはわたしに期待でいっぱいの視線を注いで...
他でもない、このわたしにこんな格好をさせて……下着すら着...
むき出しのスカートの下が見えてしまう”かもしれない”行為を...
サイトさんはわたしを、虐めたがっている……。
じわっ、と体の奥に熱いものが膨らみました。今にも倒れて...
サイトさんのお願いに応えなきゃいけないって気分だけがわた...
わたしはごくりと生唾を飲み込むと、自分じゃない誰かの意...
”元気よく”くるっと身を回転させました。
ふわりとスカートが舞い上がるのが嫌に鮮烈に感じられる。
――見られた? ううん、真横からだったら見えるかもしれな...
サイトさんはわたしより背が高くて、すぐ近くにいるから……た...
「お待たせっ!」
声が裏返りそうになりつつ、言われたとおり指を立てて、サ...
言いました。とくん、小さく体が震える。腰が縮み上がる。
はっとして、足をとじ合わせました。今、わたし、濡れてし...
下着をつけてないから、もしこのままこんなこと続けたら……。
「きき、き、君の勇気にありがとう」
でも、サイトさんは喜んでる。熱のこもった視線でわたしを...
しまったら、それを見られてしまったらなんて考えて、背筋に...
早くいつもの服に着替えたいと理性では思うのに。なのに、次...
「……次はどうするの?」
そんな、かすれた声。本当に、まるで自分の体が自分のもの...
「えっと、次は……」
サイトさんがそう言って腕を組んだとき。
■6
「それは、なんだね? その服はなんだねッ!」
「けけ、けしからん! まったくもってけしからんッ! そう...
脇から急に男性の声が聞こえてきて、わたしはびくっと身を...
見ると、ミスタ・グラモンとミスタ・グランドプレが鼻息を...
「ああ、こんなッ! こんなけしからん衣装は見たことがない...
「ののの脳髄をッ! 直撃するじゃないかッ!」
サイトさんに詰め寄りつつも、わたしの格好を横目でじっと...
わたしは愛想笑いを浮かべましたが……その視線に、サイトさ...
全く違う不安と恐怖を感じました。
このお二人、まさか、さっきまでわたしがサイトさんの前で...
見ていたのでしょうか。サイトさんに言われて回転して、スカ...
こちらから気付かないほど遠くにいたのなら、見えるはずな...
でも、様子が尋常じゃない。わたしを舐めるような視線で見回...
やだ……こんな格好なのに。サイトさんにだから見せてもいい...
思ってこの服を着たのに。他の人に見られるのは、絶対に嫌で...
わたしは助けを乞うようにサイトさんに視線を送る。けど、...
わたしを見ていました。まるで、わたしの格好をこのお二人に...
顔から血の気が引くのがわかりました。サイトさんは、わた...
見られても構わないと思っている……それどころか、誇らしげに...
しているのです。わたしのこんな、異常な格好を。
「……じゃ、仕事に戻りますっ!」
ミスタ・グラモンとミスタ・グランドプレの視線が。それに...
わたしはとってつけたような言い訳をして、その場から走り去...
∞ ∞ ∞
なんだかシエスタの様子がおかしい。
仕事が片づいた夜。シエスタは部屋のベッドの上で、自分で...
――サイト的にはセーラー服とかいうらしいけど――を持って、「...
溜息をつきつつ、時にはそれをぎゅっと抱きしめたり物思いに...
ある意味見てて面白いのでしばらく観察してたけど、こんな...
おとといの晩に変なことを吹き込んだせいもあると思うので、...
「どうしたのよ、シエスタ。その服、サイトに喜んでもらえた...
「うん……」
シエスタは頷いて、思い詰めた顔をわたしの方に向けた。シ...
サイトにそのセーラー服を着た姿を見てもらって、大層喜ばれ...
わたしが「彼はシエスタにミニスカートでノーパン姿の格好...
言ったのは、はっきり言って冗談だ。わたしだってサイトの性...
いくらなんでも学内で露出羞恥プレイを敢行したがる子には見...
見事に信じたシエスタが可愛いのでそのままにしておいたん...
見てもらった翌日の、今日の夕方になってから急にシエスタが...
「あのね、ローラ」
シエスタは悩める少女の視線をわたしに向ける。
う、ちょっとどきっとしてしまった。この子って天然にいぢめ...
「うん?」
「今晩、サイトさんに呼び出されてるの」
「おぉ」
■7
素直に感心した。シエスタってばあれだけ色々アタックした...
実家で家族に紹介までしたのに最後まではいってなかったらし...
遂にオンナになる日が来たらしい。感慨深いような、少々寂し...
「良かったじゃん、頑張りなよ。それで、どうするの?
またわたし別の部屋に移って、ここ空けてあげてもいいよ?」
以前にサイトを泊めるために、部屋を譲ってあげたことがあ...
その時は一緒のベッドで寝たけど、キスとお触りまでだったと...
「それがね……火の塔の階段の踊り場に、このセーラー服で来て...
シエスタは顔を伏せ、おずおずとそう言った。わたしは一瞬...
なにそれ、場所と服装指定? しかも、適度に人気がなさそ...
わたしの背中に嫌な汗が湧き出てきた。ちょっと待って、瓢...
「それ、間違いないの? 聞き違いとかじゃなくて?」
「たぶん……」
シエスタははふぅ、と深い息をついた。その返事にわたしま...
サイトはミス・ヴァリエールの部屋に寝泊まりしているんだ...
シエスタと二人っきりになれるまともな場所はこの部屋くらい...
そんな中で、火の塔の前なんていう夜には人気が無い場所に、
自分がプレゼントした服装で来ることをはっきり要求したって...
「ホントにサイトって、マニアックな趣味があったのかしらね...
「そんな、他人事みたいな……!」
「だって他人事だし」
ちょっと泣きそうになってるシエスタにそう返す。わたしだ...
シエスタが抱えている、セーラー服とやら。確かに冷静に考...
こんな服、ちゃんと下着をつけていたとしても日常的に着られ...
そんな格好のシエスタを夜の校舎前に呼び出して、一体どん...
させるつもりなんだろうか。ちょっと想像してみる。
ロ 口 □
「あの……サイトさん……」
夜のヴェストリ広場。小動物のように身を震わせながら、人...
火の塔の階段までやってきたシエスタは、そこで待っているは...
「シエスタ。遅かったね」
踊り場の上に立っていた少年……サイトの声を聞いて、シエス...
けれど、その顔にはまだいくらか不安の色が残っている。
「あの、ごめんなさい。待たせてしまいましたか?」
「大丈夫、気にしないよ」
コツコツと階段を下りてくるサイト。月明かりの下の彼は、...
人懐っこい笑顔を浮かべている。けれど、それは今のシエスタ...
「ちゃんと俺が送った服、着てきてくれたんだ」
「はい……」
サイトはシエスタのすぐ前まで来て笑いかける。いくらいつ...
目の前にいるのは自分の想い人。シエスタの胸が熱く高鳴る。
「それじゃ、始めようか」
同じ調子でそう続けたサイトの言葉に、シエスタは息を飲む。
「え……、あの、ここでですか?」
「? ここじゃ、何か問題あるかな?」
意外そうに聞き返すサイト。その顔には悪びれた所など何も...
そのことがいっそうシエスタを混乱させる。
■8
「あの、サイトさんが望むなら、いいんですけど……できたら、...
わたしのお部屋とか、そういう場所がいいかなって」
「変なこと言うね。部屋の中でできるわけないだろ?」
「へ?」
「だって、これから散歩をするんだから」
苦笑しながらサイトはそう言う。シエスタは唖然として目を...
「さ、散歩ですか……?」
「そうだよ? 何だと思ったの?」
シエスタの頬がかあっと茜に染まる。彼女はこの夜、サイト...
ここへやってきたのだ。だからこそわざわざこの場所とこの服...
色んな邪推をしてしまった。
それが全て自分の勘違いだと知り、シエスタの中に一気に羞...
「な、何でもありませんっ! サイトさんとお散歩ですよね、...
シエスタは誤魔化し笑いを浮かべて目の前で手をぶんぶん振...
感じてしまっている自分に気付きながら、でも散歩といっても...
夜の逢い引きだわ、と考え直す。
サイトさんからの逢い引きのお誘い。それは十二分にシエス...
「ああ、じゃあ行こうか」
シエスタに笑いかけて、学院の裏手の方へ歩き始めるサイト...
その背中を追う。と、数歩歩かないうちに、サイトが振り向い...
「違うだろ、シエスタ」
「え……?」
急にそんなことを言われて、不思議そうな視線を返すシエス...
「両手、地面について」
サイトはシエスタの頭にそっと手を置き、優しく撫でながら...
「え、あの、手……って?」
言葉の意味がわからず、しどろもどろになるシエスタ。サイ...
手をとると、頭を撫でていた手でシエスタの頭を軽く押し下げ...
強要するような力の入れ方ではなく、促すだけのような力な...
なってしまったかのように、ぺたんと地面に膝をついた。丈の...
直接触れた草地の冷たさが、いやに生々しくシエスタの体に伝...
そのまま、一緒に屈んだサイトに誘われるように、両手のひ...
「うん、その格好。立っちゃだめだよ?」
サイトの方はあっさりと立ち上がり、シエスタを見下ろしな...
「あの、サイトさん、なんでこんな……」
シエスタはその顔を見上げながら、震える声で聞いた。まっ...
なのに、立ち上がることはできなかった。サイトの要求が、心...
「こら、喋るのも駄目。今のシエスタは、犬なんだから」
「え……!?」
「シエスタは俺の飼い犬、だろ? じゃ、”シエスタの散歩”始...
サイトはにっこり笑ってシエスタの髪を撫で、再びシエスタ...
その背中を、シエスタはしばし呆然と見つめる。何が起きて...
犬と呼ばれて、こんな格好をさせられて……恥ずかしさや屈辱...
「どうしたの? 散歩、嫌?」
シエスタがついてこない事に気付いたサイトは、また振り向...
その声に、表情に。シエスタの心臓が跳ねる。もし嫌だなん...
ここで立ち上がって拒否したりしたら、それはサイトを失望さ...
サイトとの繋がりを断ち切ることになるような気がしたから。
「い、嫌じゃありません! さ……散歩、してください……」
シエスタは散歩を”しましょう”ではなく、散歩を”して”と言...
「ほら、また喋った。駄目だろ、犬の返事は?」
サイトの言葉に、シエスタははっとして考える。サイトの望...
■9
「……わ、わん」
そして、何秒も迷わないうちに、シエスタは口を開いてそう...
サイトは「よくできました」とでも言わんばかりの笑顔を見...
シエスタの顔は自然に輝き、体の奥には今までに感じたことが...
学院の外壁の側を、サイトとシエスタは”散歩”する。サイト...
シエスタに合わせて普段よりもゆっくりと歩を進め、シエスタ...
ついていく。
シエスタが初めに考えた、逢い引きなどというものとはかけ...
恋人同士のような会話などない。指や手を絡めて甘い雰囲気を...
けれど、シエスタの意識は隣を歩く”飼い主”の事を常に意識...
胸の鼓動は早まっている。四つ足で歩くという、人間の体には...
あるのだろうが、息も多少荒くなっている。時おり口を大きく...
それこそ犬を連想させた。
どうしてこんなことに。疑問に思うのは、なぜサイトがシエ...
要求するのかということと、なぜ自分は理由も問わずにその要...
わからない。聞きたい。けれど、人間の言葉で喋るのは禁じ...
まともに考えれば、喋るのは駄目というのもサイトの理不尽...
無視してしまえばいいとわかるのだが、今のシエスタにはわか...
ただ……、シエスタ自身にも、後者の疑問の答えは薄々自覚で...
シエスタは、この状況を嫌がっていない。嫌がっていないど...
サイトの要求を黙って受け入れるということに、充足を得てい...
「あぁ……」
シエスタの口から吐息とも声ともとれないものが漏れた。そ...
艶のような物に気付いて、シエスタは思わず身を縮こませて震...
「どうしたのシエスタ? 寒い? 疲れた?」
「わ、わん……」
シエスタはサイトの質問に鳴き声で応じた。意思が通じるか...
ただ、彼女の心と体に、サイト……いや、”ご主人様”からの「喋...
命令が鎖をかけていた。
「ひょっとして、おトイレかな?」
あまりにも自然に出てきたサイトの言葉に、シエスタはびく...
ご主人様を見上げる。今のシエスタには、彼の望んでいること...
あたかも飼い主の意思を察する忠犬のように。
今の言葉は質問ではなく、飼い犬であるシエスタへの要求な...
シエスタは小さく腰を揺らした。本当は、少し前からその兆...
今のシエスタの格好だと、四つん這いになったことで丈の短...
できた隙間に、夜の冷えた風が当たる。また、極めて短いスカ...
さらに腰を曲げているせいで、何もつけていない腰が外気に晒...
つまり、この衣装のせいでシエスタの体は冷たくなり、尿意...
「我慢は良くないよ。それじゃ、ここでしてしまおうか」
ご主人様は近くにあった塔の壁のすぐ側までシエスタを促し...
シエスタは熱に浮かされたような顔で、ふらふらとその足下へ...
そこで、気付いた。その塔は学院の女子寮。見上げればまだ...
窓がちらほらあった。
シエスタの頭の片隅に残った理性が、己の行動を批難する。
自分が何をするつもりなのか理解しているの? 正気の沙汰じ...
シエスタは潤んだ瞳と微かな微笑みで、ご主人様を見上げた。
わかってる。わたしは、ご主人様の望むことをするだけ。
前に誓ったとおり、彼の望むことを全て受け入れるだけ……。
■10
「ほら、シエスタ」
サイトは遠慮無く……本当に何の躊躇もなく、シエスタのスカ...
ひっ、と小さく息を詰まらせるシエスタ。形の良いお尻が月...
一切の隠す物が無く露わになる。ルームメイトに武器だとまで...
こんな歪んだ形で初めてサイトの視線に晒される。
「片足、上げてもらおうかな。足にかかったら困るし」
サイトは続けてそんなことを言った。シエスタの頭にぼうっ...
わたしはご主人様にお尻を見られてしまったのに、こんなに...
ご主人様は何も感じてない。飼い犬がすること、当然のことと...
……だったら、これは何も恥ずかしいことじゃないんだ。そう...
見られたって、どんな行為を見られたって、恥ずかしい事でも...
シエスタはサイトの言葉通り、片足……ご主人様の方に足の間...
ゆっくりと持ち上げた。短いスカートは腰のところに捲られて...
そうか、この格好で下着を穿かないのって、飼い犬のわたし...
邪魔にならないためだったのね。嬉しい、サイトさん、わたし...
見立ててくれたんですね。ありがとうございます、少し疑って...
足が高く上がった。その間がご主人様に向かって開かれる。
サイトは、そこをじっと見ていた。月明かりに逆光になって...
よくわからない。わかるのは、自分が想い人に初めて、はっき...
その太股を、きらりと光る雫が伝って落ちた。それが尿では...
彼女は気付いている。
申し訳ありません、わたし、犬なのに。サイトさんの飼い犬...
なのに、ご主人様に見られてしまっただけでこんな……。
今、わたしがするのは違いますよね。すぐに、すぐに済ませ...
シエスタは目をぎゅっと瞑り、下半身に力を込めた。恥ずか...
異常なことだとか、そんな常識はもう表出しない。ただ、ご主...
高く上げた足がぶるりと震え、シエスタの足の間から、綺麗...
まるで永遠に感じられるほど、長く……そして、身を焦がす時...
水音が響くたび、開放感が体に走るたび、そしてご主人様の視...
シエスタの表情はどんどんとろけていく。僅かに残っていた...
現在自分が排泄しているものと一緒に体から流れ出てしまうか...
彼女の纏う雰囲気が雌犬のそれになっていく。
放出はやがて弱々しくなっていき、最後には地につけた膝や...
ようやく終わった。けれど、シエスタはその体勢を崩さない。
「随分たくさん出たね。足の方まで汚しちゃって。拭いてあげ...
その言葉に、シエスタは瞳を輝かせた。期待していたことを...
腰を小さく揺すってシエスタはおねだりする。サイトはポケ...
まず足の方に垂れた分から拭きはじめた。
シエスタの喉から、くぅん……、と犬そのものな声が漏れる。...
ご主人様への甘えが混じった声。サイトのハンカチは太股を綺...
上の方へ登っていき、ついに柔らかい丘に触れた。
■11
シエスタの全身が痙攣する。地につけたれた手足にぎゅっと...
体中を走り抜けるような甘い刺激に、シエスタの甘えるような...
けれど、サイトはそんなシエスタの反応に気付きもしないか...
その部分の湿り気を拭くだけの作業を続ける。優しく、静かに...
傷つけないように。飼い犬への愛情がたっぷり感じ取れる手つ...
けれど、駄目だった。シエスタは、完全な”飼い犬”にはなり...
サイトも違和感に気付く。いくら拭いても、その部分の水気は...
それどころか、さらにシエスタのそこは潤んでいく。
「シエスタ、どうしたの? これ」
ご主人様の呆れた声。だが、その声には愉しむような色があ...
シエスタはとろとろになった顔でご主人様を見る。彼は、あく...
笑顔でシエスタを見返し、小さく首を傾げた。
シエスタは上げた足を下ろし、再び四つん這いになった。そ...
下ろし、お尻を高くご主人様の方へ掲げる。――捲り上げたスカ...
「くぅん……」
シエスタは首をめぐらせてご主人様を見つめ、存在しない尻...
そのお尻を揺らす。今度は、飼い主であるサイトの方がシエス...
そのおねだりを受け入れる番だった。
サイトはくすりと笑った。その顔が、”飼い主”のものだった...
そうではないものだったのか……その時のシエスタには、わから...
ロ 口 □
「あぁ、なんてこと! なんとインモラルな、マニアックな、...
おのれサイト、なんという羨まし……じゃなくて美味し……でもな...
わたしは頭を抱えて膝をつく。シエスタの純潔がそんな形で...
しかも、これはあくまでも始まりに過ぎない。これからサイト...
さらに歪んだ、爛れた、しかし濃密な愛情の詰まったものにな...
「はぁ、はぁ、止めないと。でもそんなになっちゃうシエスタ...
「あの、どんなこと考えたのかは知らないけど、もういい?」
その言葉に我に返ると、シエスタがせつないものを見る目で...
「あ、シエスタ。尻尾は? あと首輪は渡されてない?」
「ないわよ」
冷めた声のシエスタに、わたしも冷静になってコホンと咳払...
妄想はこれくらいにしておいて、真面目にシエスタの相談に乗...
「ま、まぁ、サイトだっていくらなんでも初めてのシエスタに...
しないと思うな。会って話せば何とかなると思うよ、うん」
とってつけたように楽観的な意見を言ってあげると、シエス...
「……本当は、昨日の朝から気になってたんだけど」
「うん?」
「サイトさん、その……わたしのあの格好を、他の人に見られて...
むしろ、他の人に自慢するみたいな様子だったの」
シエスタは大きく息をついて、すがるような目をわたしに向...
「なるほど……、そりゃ、確かに不安かもね」
シエスタは好きになった相手にはとことん積極的になる性格...
基本的には落ち着いていて、男性全般に対して魅力を誇示する...
好きでもない男の好奇の目に晒されることなんて嫌がるタイ...
■12
「それで、ローラから貸してもらった本の中に、あったでしょ?
他の人の衆目があるところで女の子にいやらしいことして見せ...
それどころか、わざと他の男性に、だ、抱かせるとか……」
「い、いや、そこまで通好みな趣味は無いと思うけど」
さすがに、今のシエスタの発言には引く。
わたしだって結構な妄想はしたけど、まぁあれはお遊び。
シエスタの所在なさげな、煮え切らない態度にちょっと疑問...
この子はサイトの事を信頼して、理解しているはずなのだ。
まともに考えれば、彼女が好きになるような男性がそんな自...
するわけないってことくらいわかるし、不安に感じることだっ...
どうしてこんな、はっきり言っちゃえばくだらないことで悩...
「シエスタ、あなた、何か隠してることない?」
真面目な声と表情をつくって、シエスタに聞く。シエスタは...
少し間を置いてから、小さく口を開いた。
「……わたし、サイトさんのことが好きなの」
小さく脱力する。肩ががくっと落ちた。
「知ってるよ、そんなこと」
やれやれと言い返すと、シエスタはかぶりを振った。
「違うの。前より……、つい数週間前も、サイトさんの事は大好...
その時よりずっと好きになってるの。自分でも怖いくらい。ど...
どうやらただののろけ話じゃないらしい。姿勢を正して、続...
「サイトさんは凄い力を持った人で、貴族の方より強くて、魔...
手柄を立てていて、なのに全然いばったところがなくて、気さ...
わたしにも優しく接してくれて、わたしを大事だと言ってくれ...
やっぱりただののろけな気がしてきた。
「大好きだし、憧れだったの。だからサイトさんに喜んで欲し...
わたしのことを見て欲しかった。けど……」
シエスタは、まだ手に抱いたままのセーラー服をぎゅうっと...
「……サイトさん、わたしの村を救ってくださったでしょう?」
話を急に切り替えると、シエスタはわたしに問いかける。わ...
「うん。あなたから聞いたんじゃない。あの子はまさしく勇者...
そう言ってやると、シエスタは寂しそうに笑った。
「そう。勇者で英雄。『竜の羽衣』を使って、戦争の優劣まで...
だから、そんなすごい人……サイトさんには、わたしなんて釣り...
シエスタの言葉に、わたしは唖然とした。今さらそんなこと...
「何言ってるのよ、恋に釣り合う釣り合わないなんて関係ない...
暇があったら、あなたのできる最大限の事でサイトにアタック...
はっきり言ってやると、シエスタはまた顔を伏せてしまった。
「そう、それなの」
「え?」
「サイトさんと釣り合うかどうかなんて、関係ないの。それく...
サイトさんのためなら、何でもしてあげたいくらい。何をされ...
サイトさんの望むこと、全部受け入れてあげたいと思うくらい...
有り得ないことだとわかってるけど、例え、わたしに酷い事を...
要求だったとしても……」
そこまで聞いて、わたしはようやくシエスタの”不安”を理解...
シエスタは、サイトが自分に無茶な要求をしてくるんじゃない...
むしろ逆。どんな無茶な要求をされても、それを受け入れてし...
自分の感情に対して、不安だったのだ。
■13
「それって、媚びてるっていうことよね。なりふり構わないっ...
そんな浅ましい女の子なんて、サイトさんが喜ぶわけない。好...
それが怖くて……、でも、わたしに他にできることなんて無くて…...
シエスタの瞳から涙が零れた。頬をつたって顎から落ちた雫...
胸に抱えたサイトからのプレゼントの服に落ちる。
その様を見て、胸が締め付けられる。かけてやれる言葉が見...
シエスタが抱えているのは……何のことはない、恋煩いだ。こ...
処方箋の無い病のひとつ。
けれど、シエスタの病は深い。今まで身近で見たことがない...
今まで恋愛に関しては先輩面して助言なんかをしてきたわたし...
このシエスタを助けてやれる明確な言葉なんて、わたしは持っ...
「……シエスタ」
わたしは彼女の側に行って、その体を抱きしめてやった。抱...
男の子と同じ、夜の闇のように黒い髪を撫でる。
「シエスタはいい子よ。その気持ちも、自分の気持ちに不安に...
いい子だから生まれてくるもの。だから、不安になることなん...
いい子、いい子と繰り返しながら、本当に子供をあやすみた...
「いい子だなんて……、そんなの、何にもならないわ」
「ううん、そんなことない。いい子だっていうのは、これ以上...
それだけで男の人に選ばれることができるくらい。望んでも得...
何せ、燃え上がるような恋が冷めた後だって、”いい子”はまだ...
顔を離して、ウインクして見せてやる。シエスタは泣き笑い...
「あんまり誉められた気がしないんだけど……」
「そう? 最後に笑えるのはあなたみたいなタイプって言いた...
シエスタは涙を拭くと、今度こそ素直に微笑んで身を離した。
「それで、どうするの? サイトに頼まれれば何でもしちゃい...
サイトのお誘いは断るのかしら?」
軽い口調で聞くと、シエスタは首を振った。
この子だって、自分が何をしたいのか、何をするべきなのかは...
「ありがとう、ローラ。ごめんね、泣き言聞かせちゃって……」
ぺこりと頭を下げるシエスタ。
「何言ってんのよ、困ったときはお互い様。それに、あなたと...
わたしは目の前の親友と目を合わせて、笑い合った。
それから、シエスタは吹っ切れた顔をしてセーラー服を着込...
サイトとの待ち合わせ場所に向かった。あの様子なら、悪いよ...
その時のわたしはそう満足して就寝したのだけど、シエスタ...
ミス・ヴァリエールに目撃され、さらにその後色々とややっこ...
まぁ、それはわたしとは関係ない話なんだけどね。
つづく
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**ゼロの飼い犬12 水兵服とメイドの不安(前編) ...
■1
「よしっ、出来上がり!」
仕事が終わった後の夜半。自室で裁縫仕事を終えると、わた...
目の前に掲げました。白いラインが入った大きな襟の、半袖の...
サイトさんに言われたとおりの丈にしたのですが、わたしが着...
さきほど丈を詰めたスカートに目をやると、そちらも今まで...
短い丈になっています。自分で直しておいていうもの何ですけ...
「変わった服ねぇ」
ベッドに寝っ転がって本など読みつつ、時おりわたしの作業...
ルームメイトのローラが、出来上がった上着とスカートを見て...
「それ、あのサイトっていう子からプレゼントされたんでしょ?
変わった服装してると思ってたけど、女の子に着せる服の趣味...
「さぁ、そこまでは」
「でも、彼の為なら着るわよね。何せ、あの”ひこうき”を飛ば...
英雄なんだから。ホント、すごい子に目をつけてたものよね、...
ローラはベッドから身を起こすと、シーツの上にあぐらをか...
その言葉を聞いて、わたしの胸に熱いものが灯る。サイトさ...
心臓が高鳴ります。
サイトさんと一緒に宝探しに行って、その後の休暇でわたし...
トリステインとアルビオンの間で戦争が始まりました。
その時、村が竜騎士によって焼かれて、アルビオンの兵士が...
ただ逃げ隠れるしかなかったわたしたちを救ってくれたのが、
サイトさんとミス・ヴァリエール……それに、あの『竜の羽衣』...
戦いの音がふいに途絶え、隠れていた森から恐る恐る出たわ...
姿を見たとき。草原に降りたその中から、サイトさんが降りて...
思わず飛びついてしまったわたしを抱き留めて、「無事だっ...
ほっとした顔で笑いかけてくれたとき……。
わたしが、どんなに嬉しかったか。どんなに安心したか。ど...
感激なんていう言葉じゃ済みません。言葉では収まらないく...
今でもちょっと信じられません。前にもサイトさんに言った...
でも、現実。あの時、勢いでキスしてしまったわたしを抱きし...
わたしの実家で戦勝を祝っての宴会が開かれて、その時サイ...
英雄だと称えられたのも、本当にあったこと。酒の勢いのせい...
家族や村の人たちの間では公認みたいになってしまったのも……。
「おーい、シエスタ? 聞いてる?」
「ふぇ?」
いつのまにかすぐ近くまで来ていたローラに目の前で手を振...
「またあんたトリップしてたわよ。見てて恥ずかしいくらいに...
溜息をつくローラ。慌てて頬に手を当てると、完全に緩んで...
最近こんな風にサイトさんの事を思い出して惚けちゃう事が多...
「で、試着してみるんじゃないの? これ」
ローラはわたしが直した上着を取り上げて言ってくる。サイ...
プレゼントしてくれたのは、船に乗る兵士の方が着る、水兵服...
いくらサイズを直したといっても、女の子が着る服としては...
「も、もちろんよ。サイトさんから頂いたものだもの」
わたしは部屋着を脱ぐと、ローラからその上着を受け取りま...
丈が短すぎてコルセットもつけられないし、下にシミーズも着...
仕方ないので、素肌の上にそのまま袖を通します。
「んー、いざ着てみるとそこまで不自然でもないわね。それで...
ローラが次に持ち上げたのは、これまたサイズを直した、学...
勝手に弄ってしまっていいものなのか不安でしたが、サイトさ...
わたしが穿けるようにしてしまいました。けれど……。
■2
「……その長さじゃ、ドロワースが思いっきり見えるわよねぇ」
ローラが眉をひそめて言う。そう、さっきから不安だったの...
このスカート、サイトさんの指示通りに太股が半分見えてしま...
わたしの持っている下着と一緒に穿くことができません。
「一緒に小さな下着は貰ってないの?」
「うん……」
頷きながら、とりあえずドロワースをつけたままスカートを...
それから下穿きだけ脱ぎました。一応、これがサイトさんの望...
短いスカートの下でむき出しなお尻に落ち着かなさを感じな...
ローラと共同で使っている姿見に格好を映してみます。
「わぁ……、な、なんだかいやらしい……」
鏡に映った自分の頬がかあっと赤くなる。袖が短い服はとき...
この格好だとお腹のあたりの肌もちらちら見え隠れして、何よ...
メイド服でも普段着でも、こんなに足を見せる格好はしませ...
「そうだけど、男好きのする格好かもね。結構シエスタには似...
「それ、誉めてるの?」
複雑な気分でローラに聞く。
「誉めてるわよ。あなた、まだ自分の武器がわかってないみた...
「なに? わたしの武器って……わひゃ!?」
急に背筋をぞぞぞっとした感覚が駆け上りました。いつの間...
わたしの足を指先で撫で上げたのです。
「これよこれ、シエスタのアピールポイント」
「あ、足?」
「足もそうだけど、この肌! シエスタの肌って綺麗なだけじ...
なんかわたしたちとは違うのよね。普段は長袖とスカートとブ...
隠しちゃってるんだから、ここぞというときは見せつけて武器...
「そ、そうかな……」
見せつけるっていうのはどうかと思うけど、誉められて悪い...
わたしは黒髪や黒い瞳が珍しいだけじゃなくて、肌の色や質感...
前々から言われていましたが、たぶんひいおじいちゃんの血の...
それは同時に、サイトさんやサイトさんの故郷の人と同じ血...
「それを計算した上でシエスタにこんな服着せようと思ったん...
実は意外と物が分かる男なのかもね。この肌、シエスタのモチ...
「ちょっと、いつまで触って……ひゃう!?」
「あ、下着つけてないんだっけ」
その手がお尻にまで直接触れて、わたしは慌てて振り向いて...
「いやー、でもお尻の感触はひときわ良かったわ。まさしく兵...
手をわきわき下品に動かしながら笑うローラ。わたしは呆れ...
「でも、こんな短いスカートを下着無しで穿いてくなんて無理...
中が見えちゃう。サイトさん、わたしが小さな下着は持ってな...
何度か一緒にお洗濯をしたから、知ってると思うんですけど...
見慣れてるから、当然みんな持ってるものだと考えてるんでし...
わたしが悩んでると、ローラがいつになく真面目な顔になっ...
「シエスタ。その点なんだけど」
「なに?」
「サイトは、シエスタがドロワースしか持ってないってことを...
あえてスカートの丈を短く詰めろと言ってきたのかもしれない...
「へ?」
理屈が通っていないローラの言葉に、思わず気の抜けた返事...
■3
「どうしてそんな。だったら下着も一緒に貸して頂かないと」
「わかんない? つまり、サイトはその肌着もつけられない短...
下着もつけてない格好のあなたが見たいのよ」
ローラは名探偵みたいな顔をして、人差し指をピンと立てる。
その言葉の意味を理解するのに、しばらく時間がかかりました。
「な、なんでそんな意地悪を!? サイトさんはそんなことし...
あわあわと取り乱すわたしに、ローラはあくまで冷静に言い...
「自信を持ちなさい。彼はシエスタの身体が魅力的だと思って...
そんな格好を見たがるのよ。それに、シエスタのことを好いて...
意地悪してシエスタが困ったり恥ずかしがったりする姿を楽し...
ローラの台詞に、開いた口が塞がりません。
「そ、そんなの普通じゃないわ!」
「……シエスタ、もしあなたの好きなサイトがその”普通じゃない...
ついていけないからと諦めるわけ?」
その言葉にわたしははっとしました。
「人の嗜好はそれぞれだし、愛情の形もそれぞれ異なるわ。も...
持っているのだとしても、それを受け入れてみせるのが愛では...
「そんな……」
体が勝手によろ、と後じさる。ローラの言葉とサイトさんの...
サイトさんがそんなことを望む人だとは思えません。だって...
わたしを大事にしてくれて。それに、いつか帰らなければいけ...
ついていないからと、わたしの身体は奪わない選択をするよう...
「そういえばあなた、彼に手とか口で奉仕して喜んでもらえた...
なのに、最後までしてはもらっていない。あなたってば相当良...
それって、彼はシエスタに対して普通とは異なった愛情を持っ...
「う……!」
わたしの思考の逃げ道を塞ぐようなローラの意見に、足下が...
「シエスタ、前にあなたに貸して、読んだわよねこの本」
ローラは棚のところから本を一冊取り出して持ってきました...
純朴で何も知らなかったメイドの少女が、旦那様の元で女とし...
要するに、オトナ向けの小説です。
ローラはその本を開いてページをめくり、一点で止めました。
「この章が近いかしら。主人公の少女は旦那様の気まぐれによ...
極端に露出の多い服を着ることを強要され、その格好で仕事を...
少女は頬を染め、涙目で旦那様に助けを乞う視線を送るも、旦...
静かに仕事を言いつけるだけ……」
その章はわたしも印象に残ってます。その後、旦那様の要求...
していき、主人公の少女はその格好で旦那様と来客との会食の...
そして、旦那様はわざと食器を落としたり、床を拭かせたり……。
「で、でもそれってあくまでお話でしょ? ホントにそんなこ...
「まぁ誇張はあるかもしれないけど、いくらお話だっていって...
参考にして作るものよね」
ローラは『メイドの午後』をパタンと閉じる。わたしは腰が...
座り込みました。
「もちろん、可能性の話に過ぎないわ。サイトの趣味はいたっ...
けど、もし普通じゃなかったら。短いスカートに下着無しの格...
思ってるなら……あなた、その期待を裏切って『こんなの着られ...
「サイトさんは、そんなことでわたしを嫌うような人じゃ……」
ローラの冷たい言葉に、わたしはぼそぼそと言い返します。
「そう思うなら、それでもいいんじゃない。でも、サイトが”シ...
その服をプレゼントして加工して欲しいと言ったのは確かでし...
■4
襟の下に巻いたスカーフをぎゅっと握りしめる。そして、ま...
露出は大きいけど、結構可愛いデザインで……よく見たら、ロー...
わたしに似合ってる気もする水兵服。
サイトさんはこれを目を輝かせた、興奮した様子でわたしに...
この服は、わたしがプレゼントした手編みのマフラーのお返...
これ以上ないほど嬉しそうに受け取ってくれた、あのマフラー...
「……サイトさん……」
不安でごちゃごちゃしていた胸に再び熱いものが膨らんでい...
わたしは呟きました。
∞ ∞ ∞
消灯してわたしとシエスタはベッドの中に入った。結局、シ...
明日あの服を着たところをサイトに見せるつもりみたい。
彼女はまた恋する女の子みたいな顔になりながら、大事そう...
机の上に置いてた。
そんなシエスタの様子を思い出しながら……。
わたしことローラは、布団を引っ被って笑いを堪えるのに必...
恋は盲目とはよく言ったもんだわ。面白くなりそ。
∞ ∞ ∞
「それはぼくの世界ではセーラー服と呼ばれてますッ! 生ま...
今まで見たことがないくらいに盛り上がって拳を握りしめて...
ちょっとおののきながら、わたしは自分の格好を改めて見直し...
この服……今サイトさんが教えたくれた呼び名で言うなら、セ...
アウストリの広場。わたしは意を決してそれを着て、サイトさ...
そこでようやく知ったのですが、この服装は、サイトさんの...
若い女性が学校の制服として着ているものなのだとか。それで...
わたしに着せたがったのかはわかりました。
やっぱり、サイトさんは、サイトさんと同じ血が入っている...
感じているんだわ。帰れない母国、否応なしに離されてしまっ...
そのことで、故郷に帰れないサイトさんを慰めてあげられる...
何度だってしてあげたいと思います。
……それはそれで、いいんですけど。
ちらりとサイトさんの方を見ると、サイトさんは半泣きにな...
じっと見ています。体を震わせながら。ちょっと、喜びすぎじ...
それに、サイトさんの国の女の子は本当にこんなに極端に肌...
してるんでしょうか。少なからずサイトさんの趣味が入ってる...
少なからず湧き出てしまった猜疑心を振り払って、頭を切り...
ダメよシエスタ。だって昨日、サイトさんにどんな趣味がある...
出来る限り受け入れるって覚悟したじゃない。それに、サイト...
釣り合わないくらいのご恩を感じているし、何より、わたし自...
うん、とわたしは力強く頷いて、サイトさんの顔を見つめま...
サイトさんのためにいるんです。サイトさんの望むことなら何...
「どうすれば、もっと喜んでもらえるんですか?
言って、サイトさん! どうすればわたし、もっとサイトさん...
半ば自棄になってそう言うと、サイトさんは一瞬、難しそう...
「回ってくれ」
「え?」
「くるりと、回転してくれ。そしてそのあと、『お待たせっ!...
■5
お待たせって何? 何を待たせたの?
いくらどんな趣味にも付き合うと決意したとはいえ、わたし...
範疇外になりつつあるサイトさんの要求に、体じゃなくて頭の...
でも、サイトさんが望んでるんだから。わたしは混乱をぐっ...
そして、言われたとおりくるっと回ろうとして……。
今、下着を穿いてないことを思い出しました。もし、スカー...
緊張に身がすくんで、回転するというより、ただ背中を見せて...
なってしまいました。
「お、お待たせっ」
それでも要求されたとおりの台詞を呟くと。
「ちがーうッ!」
「ひっ」
「最後は指立てて、ネ。元気よく、もう一回」
言葉は柔らかいけど、鬼気迫る雰囲気を放ちながらダメ出し...
わたしはスカートの裾を抑えて、思わず少し後じさってしま...
元気良く回る、って。つまり、スカートをひるがえして、中...
今まで忘れていた不安がよみがえります。サイトさんは、わ...
させたくてスカートを短くしろって言ってきたんじゃないかっ...
昨日ローラに言われた、『メイドの午後』のワンシーンが脳...
あの話でメイドに露出の激しい格好をさせた旦那様は、直接...
要求するのではなく、わざと遠回しに……脚立を使って高い所の...
物を拾うために屈ませるとか、そういうことをさせて虐めるの...
今のサイトさんも、まさか。ぐらぐらと頭の中が沸騰してく...
本当に何度も回転したみたいに、足下がおぼつかなくなってく...
でも、サイトさんはわたしに期待でいっぱいの視線を注いで...
他でもない、このわたしにこんな格好をさせて……下着すら着...
むき出しのスカートの下が見えてしまう”かもしれない”行為を...
サイトさんはわたしを、虐めたがっている……。
じわっ、と体の奥に熱いものが膨らみました。今にも倒れて...
サイトさんのお願いに応えなきゃいけないって気分だけがわた...
わたしはごくりと生唾を飲み込むと、自分じゃない誰かの意...
”元気よく”くるっと身を回転させました。
ふわりとスカートが舞い上がるのが嫌に鮮烈に感じられる。
――見られた? ううん、真横からだったら見えるかもしれな...
サイトさんはわたしより背が高くて、すぐ近くにいるから……た...
「お待たせっ!」
声が裏返りそうになりつつ、言われたとおり指を立てて、サ...
言いました。とくん、小さく体が震える。腰が縮み上がる。
はっとして、足をとじ合わせました。今、わたし、濡れてし...
下着をつけてないから、もしこのままこんなこと続けたら……。
「きき、き、君の勇気にありがとう」
でも、サイトさんは喜んでる。熱のこもった視線でわたしを...
しまったら、それを見られてしまったらなんて考えて、背筋に...
早くいつもの服に着替えたいと理性では思うのに。なのに、次...
「……次はどうするの?」
そんな、かすれた声。本当に、まるで自分の体が自分のもの...
「えっと、次は……」
サイトさんがそう言って腕を組んだとき。
■6
「それは、なんだね? その服はなんだねッ!」
「けけ、けしからん! まったくもってけしからんッ! そう...
脇から急に男性の声が聞こえてきて、わたしはびくっと身を...
見ると、ミスタ・グラモンとミスタ・グランドプレが鼻息を...
「ああ、こんなッ! こんなけしからん衣装は見たことがない...
「ののの脳髄をッ! 直撃するじゃないかッ!」
サイトさんに詰め寄りつつも、わたしの格好を横目でじっと...
わたしは愛想笑いを浮かべましたが……その視線に、サイトさ...
全く違う不安と恐怖を感じました。
このお二人、まさか、さっきまでわたしがサイトさんの前で...
見ていたのでしょうか。サイトさんに言われて回転して、スカ...
こちらから気付かないほど遠くにいたのなら、見えるはずな...
でも、様子が尋常じゃない。わたしを舐めるような視線で見回...
やだ……こんな格好なのに。サイトさんにだから見せてもいい...
思ってこの服を着たのに。他の人に見られるのは、絶対に嫌で...
わたしは助けを乞うようにサイトさんに視線を送る。けど、...
わたしを見ていました。まるで、わたしの格好をこのお二人に...
顔から血の気が引くのがわかりました。サイトさんは、わた...
見られても構わないと思っている……それどころか、誇らしげに...
しているのです。わたしのこんな、異常な格好を。
「……じゃ、仕事に戻りますっ!」
ミスタ・グラモンとミスタ・グランドプレの視線が。それに...
わたしはとってつけたような言い訳をして、その場から走り去...
∞ ∞ ∞
なんだかシエスタの様子がおかしい。
仕事が片づいた夜。シエスタは部屋のベッドの上で、自分で...
――サイト的にはセーラー服とかいうらしいけど――を持って、「...
溜息をつきつつ、時にはそれをぎゅっと抱きしめたり物思いに...
ある意味見てて面白いのでしばらく観察してたけど、こんな...
おとといの晩に変なことを吹き込んだせいもあると思うので、...
「どうしたのよ、シエスタ。その服、サイトに喜んでもらえた...
「うん……」
シエスタは頷いて、思い詰めた顔をわたしの方に向けた。シ...
サイトにそのセーラー服を着た姿を見てもらって、大層喜ばれ...
わたしが「彼はシエスタにミニスカートでノーパン姿の格好...
言ったのは、はっきり言って冗談だ。わたしだってサイトの性...
いくらなんでも学内で露出羞恥プレイを敢行したがる子には見...
見事に信じたシエスタが可愛いのでそのままにしておいたん...
見てもらった翌日の、今日の夕方になってから急にシエスタが...
「あのね、ローラ」
シエスタは悩める少女の視線をわたしに向ける。
う、ちょっとどきっとしてしまった。この子って天然にいぢめ...
「うん?」
「今晩、サイトさんに呼び出されてるの」
「おぉ」
■7
素直に感心した。シエスタってばあれだけ色々アタックした...
実家で家族に紹介までしたのに最後まではいってなかったらし...
遂にオンナになる日が来たらしい。感慨深いような、少々寂し...
「良かったじゃん、頑張りなよ。それで、どうするの?
またわたし別の部屋に移って、ここ空けてあげてもいいよ?」
以前にサイトを泊めるために、部屋を譲ってあげたことがあ...
その時は一緒のベッドで寝たけど、キスとお触りまでだったと...
「それがね……火の塔の階段の踊り場に、このセーラー服で来て...
シエスタは顔を伏せ、おずおずとそう言った。わたしは一瞬...
なにそれ、場所と服装指定? しかも、適度に人気がなさそ...
わたしの背中に嫌な汗が湧き出てきた。ちょっと待って、瓢...
「それ、間違いないの? 聞き違いとかじゃなくて?」
「たぶん……」
シエスタははふぅ、と深い息をついた。その返事にわたしま...
サイトはミス・ヴァリエールの部屋に寝泊まりしているんだ...
シエスタと二人っきりになれるまともな場所はこの部屋くらい...
そんな中で、火の塔の前なんていう夜には人気が無い場所に、
自分がプレゼントした服装で来ることをはっきり要求したって...
「ホントにサイトって、マニアックな趣味があったのかしらね...
「そんな、他人事みたいな……!」
「だって他人事だし」
ちょっと泣きそうになってるシエスタにそう返す。わたしだ...
シエスタが抱えている、セーラー服とやら。確かに冷静に考...
こんな服、ちゃんと下着をつけていたとしても日常的に着られ...
そんな格好のシエスタを夜の校舎前に呼び出して、一体どん...
させるつもりなんだろうか。ちょっと想像してみる。
ロ 口 □
「あの……サイトさん……」
夜のヴェストリ広場。小動物のように身を震わせながら、人...
火の塔の階段までやってきたシエスタは、そこで待っているは...
「シエスタ。遅かったね」
踊り場の上に立っていた少年……サイトの声を聞いて、シエス...
けれど、その顔にはまだいくらか不安の色が残っている。
「あの、ごめんなさい。待たせてしまいましたか?」
「大丈夫、気にしないよ」
コツコツと階段を下りてくるサイト。月明かりの下の彼は、...
人懐っこい笑顔を浮かべている。けれど、それは今のシエスタ...
「ちゃんと俺が送った服、着てきてくれたんだ」
「はい……」
サイトはシエスタのすぐ前まで来て笑いかける。いくらいつ...
目の前にいるのは自分の想い人。シエスタの胸が熱く高鳴る。
「それじゃ、始めようか」
同じ調子でそう続けたサイトの言葉に、シエスタは息を飲む。
「え……、あの、ここでですか?」
「? ここじゃ、何か問題あるかな?」
意外そうに聞き返すサイト。その顔には悪びれた所など何も...
そのことがいっそうシエスタを混乱させる。
■8
「あの、サイトさんが望むなら、いいんですけど……できたら、...
わたしのお部屋とか、そういう場所がいいかなって」
「変なこと言うね。部屋の中でできるわけないだろ?」
「へ?」
「だって、これから散歩をするんだから」
苦笑しながらサイトはそう言う。シエスタは唖然として目を...
「さ、散歩ですか……?」
「そうだよ? 何だと思ったの?」
シエスタの頬がかあっと茜に染まる。彼女はこの夜、サイト...
ここへやってきたのだ。だからこそわざわざこの場所とこの服...
色んな邪推をしてしまった。
それが全て自分の勘違いだと知り、シエスタの中に一気に羞...
「な、何でもありませんっ! サイトさんとお散歩ですよね、...
シエスタは誤魔化し笑いを浮かべて目の前で手をぶんぶん振...
感じてしまっている自分に気付きながら、でも散歩といっても...
夜の逢い引きだわ、と考え直す。
サイトさんからの逢い引きのお誘い。それは十二分にシエス...
「ああ、じゃあ行こうか」
シエスタに笑いかけて、学院の裏手の方へ歩き始めるサイト...
その背中を追う。と、数歩歩かないうちに、サイトが振り向い...
「違うだろ、シエスタ」
「え……?」
急にそんなことを言われて、不思議そうな視線を返すシエス...
「両手、地面について」
サイトはシエスタの頭にそっと手を置き、優しく撫でながら...
「え、あの、手……って?」
言葉の意味がわからず、しどろもどろになるシエスタ。サイ...
手をとると、頭を撫でていた手でシエスタの頭を軽く押し下げ...
強要するような力の入れ方ではなく、促すだけのような力な...
なってしまったかのように、ぺたんと地面に膝をついた。丈の...
直接触れた草地の冷たさが、いやに生々しくシエスタの体に伝...
そのまま、一緒に屈んだサイトに誘われるように、両手のひ...
「うん、その格好。立っちゃだめだよ?」
サイトの方はあっさりと立ち上がり、シエスタを見下ろしな...
「あの、サイトさん、なんでこんな……」
シエスタはその顔を見上げながら、震える声で聞いた。まっ...
なのに、立ち上がることはできなかった。サイトの要求が、心...
「こら、喋るのも駄目。今のシエスタは、犬なんだから」
「え……!?」
「シエスタは俺の飼い犬、だろ? じゃ、”シエスタの散歩”始...
サイトはにっこり笑ってシエスタの髪を撫で、再びシエスタ...
その背中を、シエスタはしばし呆然と見つめる。何が起きて...
犬と呼ばれて、こんな格好をさせられて……恥ずかしさや屈辱...
「どうしたの? 散歩、嫌?」
シエスタがついてこない事に気付いたサイトは、また振り向...
その声に、表情に。シエスタの心臓が跳ねる。もし嫌だなん...
ここで立ち上がって拒否したりしたら、それはサイトを失望さ...
サイトとの繋がりを断ち切ることになるような気がしたから。
「い、嫌じゃありません! さ……散歩、してください……」
シエスタは散歩を”しましょう”ではなく、散歩を”して”と言...
「ほら、また喋った。駄目だろ、犬の返事は?」
サイトの言葉に、シエスタははっとして考える。サイトの望...
■9
「……わ、わん」
そして、何秒も迷わないうちに、シエスタは口を開いてそう...
サイトは「よくできました」とでも言わんばかりの笑顔を見...
シエスタの顔は自然に輝き、体の奥には今までに感じたことが...
学院の外壁の側を、サイトとシエスタは”散歩”する。サイト...
シエスタに合わせて普段よりもゆっくりと歩を進め、シエスタ...
ついていく。
シエスタが初めに考えた、逢い引きなどというものとはかけ...
恋人同士のような会話などない。指や手を絡めて甘い雰囲気を...
けれど、シエスタの意識は隣を歩く”飼い主”の事を常に意識...
胸の鼓動は早まっている。四つ足で歩くという、人間の体には...
あるのだろうが、息も多少荒くなっている。時おり口を大きく...
それこそ犬を連想させた。
どうしてこんなことに。疑問に思うのは、なぜサイトがシエ...
要求するのかということと、なぜ自分は理由も問わずにその要...
わからない。聞きたい。けれど、人間の言葉で喋るのは禁じ...
まともに考えれば、喋るのは駄目というのもサイトの理不尽...
無視してしまえばいいとわかるのだが、今のシエスタにはわか...
ただ……、シエスタ自身にも、後者の疑問の答えは薄々自覚で...
シエスタは、この状況を嫌がっていない。嫌がっていないど...
サイトの要求を黙って受け入れるということに、充足を得てい...
「あぁ……」
シエスタの口から吐息とも声ともとれないものが漏れた。そ...
艶のような物に気付いて、シエスタは思わず身を縮こませて震...
「どうしたのシエスタ? 寒い? 疲れた?」
「わ、わん……」
シエスタはサイトの質問に鳴き声で応じた。意思が通じるか...
ただ、彼女の心と体に、サイト……いや、”ご主人様”からの「喋...
命令が鎖をかけていた。
「ひょっとして、おトイレかな?」
あまりにも自然に出てきたサイトの言葉に、シエスタはびく...
ご主人様を見上げる。今のシエスタには、彼の望んでいること...
あたかも飼い主の意思を察する忠犬のように。
今の言葉は質問ではなく、飼い犬であるシエスタへの要求な...
シエスタは小さく腰を揺らした。本当は、少し前からその兆...
今のシエスタの格好だと、四つん這いになったことで丈の短...
できた隙間に、夜の冷えた風が当たる。また、極めて短いスカ...
さらに腰を曲げているせいで、何もつけていない腰が外気に晒...
つまり、この衣装のせいでシエスタの体は冷たくなり、尿意...
「我慢は良くないよ。それじゃ、ここでしてしまおうか」
ご主人様は近くにあった塔の壁のすぐ側までシエスタを促し...
シエスタは熱に浮かされたような顔で、ふらふらとその足下へ...
そこで、気付いた。その塔は学院の女子寮。見上げればまだ...
窓がちらほらあった。
シエスタの頭の片隅に残った理性が、己の行動を批難する。
自分が何をするつもりなのか理解しているの? 正気の沙汰じ...
シエスタは潤んだ瞳と微かな微笑みで、ご主人様を見上げた。
わかってる。わたしは、ご主人様の望むことをするだけ。
前に誓ったとおり、彼の望むことを全て受け入れるだけ……。
■10
「ほら、シエスタ」
サイトは遠慮無く……本当に何の躊躇もなく、シエスタのスカ...
ひっ、と小さく息を詰まらせるシエスタ。形の良いお尻が月...
一切の隠す物が無く露わになる。ルームメイトに武器だとまで...
こんな歪んだ形で初めてサイトの視線に晒される。
「片足、上げてもらおうかな。足にかかったら困るし」
サイトは続けてそんなことを言った。シエスタの頭にぼうっ...
わたしはご主人様にお尻を見られてしまったのに、こんなに...
ご主人様は何も感じてない。飼い犬がすること、当然のことと...
……だったら、これは何も恥ずかしいことじゃないんだ。そう...
見られたって、どんな行為を見られたって、恥ずかしい事でも...
シエスタはサイトの言葉通り、片足……ご主人様の方に足の間...
ゆっくりと持ち上げた。短いスカートは腰のところに捲られて...
そうか、この格好で下着を穿かないのって、飼い犬のわたし...
邪魔にならないためだったのね。嬉しい、サイトさん、わたし...
見立ててくれたんですね。ありがとうございます、少し疑って...
足が高く上がった。その間がご主人様に向かって開かれる。
サイトは、そこをじっと見ていた。月明かりに逆光になって...
よくわからない。わかるのは、自分が想い人に初めて、はっき...
その太股を、きらりと光る雫が伝って落ちた。それが尿では...
彼女は気付いている。
申し訳ありません、わたし、犬なのに。サイトさんの飼い犬...
なのに、ご主人様に見られてしまっただけでこんな……。
今、わたしがするのは違いますよね。すぐに、すぐに済ませ...
シエスタは目をぎゅっと瞑り、下半身に力を込めた。恥ずか...
異常なことだとか、そんな常識はもう表出しない。ただ、ご主...
高く上げた足がぶるりと震え、シエスタの足の間から、綺麗...
まるで永遠に感じられるほど、長く……そして、身を焦がす時...
水音が響くたび、開放感が体に走るたび、そしてご主人様の視...
シエスタの表情はどんどんとろけていく。僅かに残っていた...
現在自分が排泄しているものと一緒に体から流れ出てしまうか...
彼女の纏う雰囲気が雌犬のそれになっていく。
放出はやがて弱々しくなっていき、最後には地につけた膝や...
ようやく終わった。けれど、シエスタはその体勢を崩さない。
「随分たくさん出たね。足の方まで汚しちゃって。拭いてあげ...
その言葉に、シエスタは瞳を輝かせた。期待していたことを...
腰を小さく揺すってシエスタはおねだりする。サイトはポケ...
まず足の方に垂れた分から拭きはじめた。
シエスタの喉から、くぅん……、と犬そのものな声が漏れる。...
ご主人様への甘えが混じった声。サイトのハンカチは太股を綺...
上の方へ登っていき、ついに柔らかい丘に触れた。
■11
シエスタの全身が痙攣する。地につけたれた手足にぎゅっと...
体中を走り抜けるような甘い刺激に、シエスタの甘えるような...
けれど、サイトはそんなシエスタの反応に気付きもしないか...
その部分の湿り気を拭くだけの作業を続ける。優しく、静かに...
傷つけないように。飼い犬への愛情がたっぷり感じ取れる手つ...
けれど、駄目だった。シエスタは、完全な”飼い犬”にはなり...
サイトも違和感に気付く。いくら拭いても、その部分の水気は...
それどころか、さらにシエスタのそこは潤んでいく。
「シエスタ、どうしたの? これ」
ご主人様の呆れた声。だが、その声には愉しむような色があ...
シエスタはとろとろになった顔でご主人様を見る。彼は、あく...
笑顔でシエスタを見返し、小さく首を傾げた。
シエスタは上げた足を下ろし、再び四つん這いになった。そ...
下ろし、お尻を高くご主人様の方へ掲げる。――捲り上げたスカ...
「くぅん……」
シエスタは首をめぐらせてご主人様を見つめ、存在しない尻...
そのお尻を揺らす。今度は、飼い主であるサイトの方がシエス...
そのおねだりを受け入れる番だった。
サイトはくすりと笑った。その顔が、”飼い主”のものだった...
そうではないものだったのか……その時のシエスタには、わから...
ロ 口 □
「あぁ、なんてこと! なんとインモラルな、マニアックな、...
おのれサイト、なんという羨まし……じゃなくて美味し……でもな...
わたしは頭を抱えて膝をつく。シエスタの純潔がそんな形で...
しかも、これはあくまでも始まりに過ぎない。これからサイト...
さらに歪んだ、爛れた、しかし濃密な愛情の詰まったものにな...
「はぁ、はぁ、止めないと。でもそんなになっちゃうシエスタ...
「あの、どんなこと考えたのかは知らないけど、もういい?」
その言葉に我に返ると、シエスタがせつないものを見る目で...
「あ、シエスタ。尻尾は? あと首輪は渡されてない?」
「ないわよ」
冷めた声のシエスタに、わたしも冷静になってコホンと咳払...
妄想はこれくらいにしておいて、真面目にシエスタの相談に乗...
「ま、まぁ、サイトだっていくらなんでも初めてのシエスタに...
しないと思うな。会って話せば何とかなると思うよ、うん」
とってつけたように楽観的な意見を言ってあげると、シエス...
「……本当は、昨日の朝から気になってたんだけど」
「うん?」
「サイトさん、その……わたしのあの格好を、他の人に見られて...
むしろ、他の人に自慢するみたいな様子だったの」
シエスタは大きく息をついて、すがるような目をわたしに向...
「なるほど……、そりゃ、確かに不安かもね」
シエスタは好きになった相手にはとことん積極的になる性格...
基本的には落ち着いていて、男性全般に対して魅力を誇示する...
好きでもない男の好奇の目に晒されることなんて嫌がるタイ...
■12
「それで、ローラから貸してもらった本の中に、あったでしょ?
他の人の衆目があるところで女の子にいやらしいことして見せ...
それどころか、わざと他の男性に、だ、抱かせるとか……」
「い、いや、そこまで通好みな趣味は無いと思うけど」
さすがに、今のシエスタの発言には引く。
わたしだって結構な妄想はしたけど、まぁあれはお遊び。
シエスタの所在なさげな、煮え切らない態度にちょっと疑問...
この子はサイトの事を信頼して、理解しているはずなのだ。
まともに考えれば、彼女が好きになるような男性がそんな自...
するわけないってことくらいわかるし、不安に感じることだっ...
どうしてこんな、はっきり言っちゃえばくだらないことで悩...
「シエスタ、あなた、何か隠してることない?」
真面目な声と表情をつくって、シエスタに聞く。シエスタは...
少し間を置いてから、小さく口を開いた。
「……わたし、サイトさんのことが好きなの」
小さく脱力する。肩ががくっと落ちた。
「知ってるよ、そんなこと」
やれやれと言い返すと、シエスタはかぶりを振った。
「違うの。前より……、つい数週間前も、サイトさんの事は大好...
その時よりずっと好きになってるの。自分でも怖いくらい。ど...
どうやらただののろけ話じゃないらしい。姿勢を正して、続...
「サイトさんは凄い力を持った人で、貴族の方より強くて、魔...
手柄を立てていて、なのに全然いばったところがなくて、気さ...
わたしにも優しく接してくれて、わたしを大事だと言ってくれ...
やっぱりただののろけな気がしてきた。
「大好きだし、憧れだったの。だからサイトさんに喜んで欲し...
わたしのことを見て欲しかった。けど……」
シエスタは、まだ手に抱いたままのセーラー服をぎゅうっと...
「……サイトさん、わたしの村を救ってくださったでしょう?」
話を急に切り替えると、シエスタはわたしに問いかける。わ...
「うん。あなたから聞いたんじゃない。あの子はまさしく勇者...
そう言ってやると、シエスタは寂しそうに笑った。
「そう。勇者で英雄。『竜の羽衣』を使って、戦争の優劣まで...
だから、そんなすごい人……サイトさんには、わたしなんて釣り...
シエスタの言葉に、わたしは唖然とした。今さらそんなこと...
「何言ってるのよ、恋に釣り合う釣り合わないなんて関係ない...
暇があったら、あなたのできる最大限の事でサイトにアタック...
はっきり言ってやると、シエスタはまた顔を伏せてしまった。
「そう、それなの」
「え?」
「サイトさんと釣り合うかどうかなんて、関係ないの。それく...
サイトさんのためなら、何でもしてあげたいくらい。何をされ...
サイトさんの望むこと、全部受け入れてあげたいと思うくらい...
有り得ないことだとわかってるけど、例え、わたしに酷い事を...
要求だったとしても……」
そこまで聞いて、わたしはようやくシエスタの”不安”を理解...
シエスタは、サイトが自分に無茶な要求をしてくるんじゃない...
むしろ逆。どんな無茶な要求をされても、それを受け入れてし...
自分の感情に対して、不安だったのだ。
■13
「それって、媚びてるっていうことよね。なりふり構わないっ...
そんな浅ましい女の子なんて、サイトさんが喜ぶわけない。好...
それが怖くて……、でも、わたしに他にできることなんて無くて…...
シエスタの瞳から涙が零れた。頬をつたって顎から落ちた雫...
胸に抱えたサイトからのプレゼントの服に落ちる。
その様を見て、胸が締め付けられる。かけてやれる言葉が見...
シエスタが抱えているのは……何のことはない、恋煩いだ。こ...
処方箋の無い病のひとつ。
けれど、シエスタの病は深い。今まで身近で見たことがない...
今まで恋愛に関しては先輩面して助言なんかをしてきたわたし...
このシエスタを助けてやれる明確な言葉なんて、わたしは持っ...
「……シエスタ」
わたしは彼女の側に行って、その体を抱きしめてやった。抱...
男の子と同じ、夜の闇のように黒い髪を撫でる。
「シエスタはいい子よ。その気持ちも、自分の気持ちに不安に...
いい子だから生まれてくるもの。だから、不安になることなん...
いい子、いい子と繰り返しながら、本当に子供をあやすみた...
「いい子だなんて……、そんなの、何にもならないわ」
「ううん、そんなことない。いい子だっていうのは、これ以上...
それだけで男の人に選ばれることができるくらい。望んでも得...
何せ、燃え上がるような恋が冷めた後だって、”いい子”はまだ...
顔を離して、ウインクして見せてやる。シエスタは泣き笑い...
「あんまり誉められた気がしないんだけど……」
「そう? 最後に笑えるのはあなたみたいなタイプって言いた...
シエスタは涙を拭くと、今度こそ素直に微笑んで身を離した。
「それで、どうするの? サイトに頼まれれば何でもしちゃい...
サイトのお誘いは断るのかしら?」
軽い口調で聞くと、シエスタは首を振った。
この子だって、自分が何をしたいのか、何をするべきなのかは...
「ありがとう、ローラ。ごめんね、泣き言聞かせちゃって……」
ぺこりと頭を下げるシエスタ。
「何言ってんのよ、困ったときはお互い様。それに、あなたと...
わたしは目の前の親友と目を合わせて、笑い合った。
それから、シエスタは吹っ切れた顔をしてセーラー服を着込...
サイトとの待ち合わせ場所に向かった。あの様子なら、悪いよ...
その時のわたしはそう満足して就寝したのだけど、シエスタ...
ミス・ヴァリエールに目撃され、さらにその後色々とややっこ...
まぁ、それはわたしとは関係ない話なんだけどね。
つづく
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