ゼロの使い魔保管庫
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251 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
秋も深まり、トリステイン魔法学院の庭の木々も、色づき始め...
ちょうど昼食の時間に、その事件は起きた。
「ん?なんだありゃ」
昼ごはんを食べに食堂へやってきた才人が目にしたものは、黒...
食堂の、食事を供するカウンターの前に、人だかりが出来てい...
その最後尾に、才人は見慣れた金髪の男を見つけた。
「よ。ギーシュ。なにこの騒ぎ?」
「反乱だよ!」
ギーシュはくるん!と振り向くと、才人に向かって言った。
「はぁ?」
才人にはギーシュの言っている事が理解できない。
とりあえず、もっと詳しく話してみろ、と促す。
「厨房の平民たちが反乱を起こしたんだ!これは大事だぞサイ...
「…いやだからもっと具体的にだな」
相変わらずオーバーで要領を得ない騎士団長のお言葉に、才人...
そんな才人に、親切にも事情を説明してくれる紳士が一人。
「反乱だなんて大げさだなあ」
そうそう、やはり頼りになるのはコイツ。
水精霊騎士団一の常識人、レイナール。
レイナールはカウンター脇に掲げられた大きな紙を指差す。
「なんかね、『チャレンジメニュー』とかいうのを今やってる...
レイナールの説明によれば、その『チャレンジメニュー』とか...
「で、何よその『チャレンジメニュー』って」
才人はココイチの1Kgカレーを想像したが、レイナールはそん...
「ううん、まだ誰も頼んでなくてさ。メニューの内容もどんな...
「なんだよ、集まるだけ集まって誰も頼んでないのか」
才人は呆れたようにそう言うが、内容のわからないようなメニ...
しかし。
そんな空気を一変させる漢が、食堂にやってきた。
その漢はあくまで威風堂々とカウンターにむかう。
その風格に、人だかりは裂け、その漢のために道を作る。
「なんだよみんな、だらしないなあ」
252 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
…ざわ…。…ざわ…。
王だ。王が来た。
そんな呟きが漏れる。
『王』と呼ばれたふとっちょの漢はカウンターに辿り着くと、...
「『チャレンジメニュー』…ひとつ」
おおオオおおおおおおおおおおおおおおおおお!
歓声が上がる。
その歓声はやがて、一人の男の名を奏で上げる。
マッリコッルヌ!マッリコッルヌ!
「…ナニコレ」
流石の才人もちょっと引きが入る。
「何、簡単な事だよ」
そんな才人に、ギーシュが説明する。
「彼は、入学式の新入生歓迎会で…。
一人で、豚の丸焼きを完食したんだよ。
以来彼は、『味の王』と呼ばれている」
…なんか前『風上のマリコルヌ』とかってバカにしてなかったか...
とか思ったが、才人はあえて突っ込まない事にした。
「へい、チャレンジメニュー一丁っ!」
マルトー親父がごっつい手で、カウンターにとん、とトレイを...
それを見たマリコルヌは。
「親父…」
激昂した。
「僕を、舐めないでもらおうか!
僕を、誰だと思っている!」
トレイの上に乗っていたのは、普通のシチュー皿。
その上に盛られているのは、ハルケギニアでは野菜として流通...
赤い色に炊かれた米が、山のような形に盛られている。その上...
たしかに普通の量ではないが、それは『ちょっと多い』くらい...
豚の丸焼きを完食したマリコルヌにとっては、どうということ...
しかし、そのマリコルヌに、マルトー親父はにっこり笑って皿...
「そういうセリフは…ソイツを完食してから言ってもらいましょ...
「…まさか、食えないほどまずい、というわけじゃないだろうな...
まずい料理を供して、それを完食できなければ罰金、という飲...
しかし、その行為は。
「それは、フードファイトの理念に反しますぜ、マリコルヌ坊...
マルトー親父の言う通り、その皿の上の料理からは、食欲を誘...
たしかに、この料理は旨そうだ。
253 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「…わかった、しかし、君は後悔する事になるぞ…!」
マリコルヌのその笑顔からは、完食を確信した余裕の心情が見...
そして、マリコルヌはトレイを手に、席に着く。
その脇にマルトー親父が砂時計を手に立ち、その周囲を生徒た...
そして、マルトー親父は砂時計を掲げ、高らかに宣誓する。
「では、この砂時計が落ちきるまでが、制限時間です。
どちらさんも、よござんすね?」
周囲の生徒たちにも確認できるように、マルトー親父は砂時計...
そして言った。
「それでは、どうぞっ!」
カン!
勢いよく反転した砂時計が小気味よい音をたててテーブルとぶ...
マリコルヌは、勢いよく『チャレンジメニュー』に食らいつい...
結論から言って。
マリコルヌは完食できなかった。
砂時計の落ちきったテーブルで、マリコルヌはスプーンを握り...
目の前で繰り広げられたあまりの異常事態に、周囲の生徒たち...
数分前。
マリコルヌは、物凄い勢いで米を掻きこんでいた。
しかし、その手はすぐに止まる。
「か…からい…うまい…」
マリコルヌはそう言うなり、丸い顔を真っ赤に染め、そして、...
「…勝った」
マルトー親父は砂の落ちきった砂時計を取り上げ、勝利を宣言...
生徒たちがざわめく中、才人はマルトー親父に寄って行って、...
「…なあ、マルトーさん」
「お、なんだ我らの剣」
マルトー親父はにっこり笑い、才人に聞き返す。
才人は、思っていた事をマルトーに尋ねた。
「アレ、やっぱ辛いの?」
「辛いぞ。だが、それ以上に旨い!」
言ってマルトー親父はマリコルヌの残した皿から一つまみ、米...
そしてそれを才人に手渡す。
「食ってみろ」
「え」
「大丈夫、その量なら平気だ」
騙されたと思って、とマルトー親父は続ける。
才人は覚悟を決めて、その米を口に含む。
才人の口に広がる、米の甘み、そして、香辛料由来と思われる...
そして、噛んだ瞬間に歯に感じる歯ごたえと、口の中に広がる...
確かに、これは旨い。
254 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「へえ、うまいじゃ」
しかし次の瞬間。
才人は両手で口を抑えた。
口の中で火がついたようだった。舌の感覚細胞が悲鳴をあげ、...
溢れ出る唾液すら辛味となり、耳の奥が痛みすら伴って燃え上...
「か、か、か、かれええええええええ!なんじゃこりゃあああ...
「はっはっは!そうだろう辛いだろう!」
そして得意げに、マルトー親父はその料理の材料を語った。
「まず、その米を炊くのに使ったのは、ジョッキ一杯分のムシ...
その言葉に、生徒たちがざわ…とざわめく。
才人はムシゴロシの実ってなんじゃらほい、と思っていたが、...
「ムシゴロシの実っていうのは、その名の通り殺虫剤に使われ...
虫どころか、小動物も食べたら死んじゃうような辛さなんだ...
鷹の爪みたいなもんか、と才人は納得する。
「かかっているソースは、トマトをベースに、潮漬けにしたム...
さらに、全体にサフランとクコの実とムシゴロシの実の粉末...
解説を聞いたギーシュが、自分の口を開けて舌を出し、まるで...
「…それは…辛いわけだ…」
「だけどな、それを全部ただ使っただけじゃないぜ。
きちんと適した火力で調理して、旨く仕上げてある。辛いが...
にっこり笑うマルトー親父。
才人はその言葉は本当だと思った。
たしかに先ほど食べた米は辛かったが、今、自分は、もう一口...
「ま、でも一度に食べ過ぎるとああなるが」
言ってマルトー親父の指差す先には、倒れ伏すマリコルヌ。
「今回は、俺達厨房の勝ち、ってこったな」
そう言ってがはは、と笑うマルトー親父に、ギーシュが悔しそ...
「くそう…。誰か、アレを食べきれる剛の者はいないのか…!」
しかし、マリコルヌの敗れた今、これを時間内に完食出来る猛...
「…あのー」
そんな空気を吹き飛ばすように、柔らかい、鈴を転がすような...
その声の主を通すよう道になるように、再び人ごみが開く。
そこに居たのは。
長く美しい金髪を持つ、優しい瞳の妖精。
ティファニアだった。
「なんでしょうかね?ミス」
マルトー親父は、彼女の視線が自分に向いている事から、その...
ティファニアはそれを肯定するように、続ける。
255 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「あの、『食堂のメニュー食べ放題』って、本当ですか?」
「ああ、もちろん。ただし、ちゃんと時間内に食べきらなきゃ...
で、どなたか挑戦されるんで?」
まさかこんな少女がこのメニューに挑戦はすまい。
周囲の生徒たちも、マルトー親父も、才人も、そう思っていた...
「あ、あの、私…挑戦しちゃだめ…ですか?」
「へ?」
「テファが?」
そして次の瞬間。
「いけませんティファニアお姉さまッ!命を粗末にしてはッ!」
「え?ヴィヴィ?」
「そ、そうですミス・ウエストウッド!なにもアナタがそんな...
「あ、あの、ミスタ・グラモン?」
「そうだぜテファ!これマジでやばいんだって!」
「さ、サイトまで…」
あっという間に複数の生徒に囲まれるティファニア。
その全員が、ティファニアの身を案じていた。
しかし、当の本人は。
「大丈夫、ムチャはしないから。
だから、お願いできます?マルトーさん」
言って、にっこり笑ってマルトー親父に言う。
マルトー親父は呆気に取られていたが。
「…ようがす。じゃ、ちゃちゃっと作ってきますんで、お待ちく...
すぐに、厨房に引っ込んだ。
ティファニアを囲んでいた生徒たちも呆気に取られていたが。
「…わかりました。お姉さまの意思は固いのですね」
「…そうまで言うなら止めはしません」
「…ふ。バカだな、お前らも…俺も」
にっこり笑い合うと。
『親父!『チャレンジメニュー』だ!』
全員が揃って、そう言った。
「え?え?あの?」
「お姉さま一人を、逝かせはしません」
「貴女のような美しい方だけに辛い思いをさせるわけには、い...
「俺達、友達だろ?」
今度はティファニアが呆気に取られる番だった。
…な、何を言ってるのかよくわかんないんだけど…。
しかし、ティファニアが疑問を差し挟む間もなく、テーブルに...
その前に、マルトー親父が立つ。
「…では、この砂時計が落ちきるまでが、制限時間です。
どちらさんも、よござんすね?」
ティファニア以外の全員が、こくん、と頷く。
256 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「…じゃあ、始めてください」
ティファニアの一言で。
マルトー親父はくるん!と砂時計を反転させ、たん!とテーブ...
そして言った。
「それでは、どうぞっ!」
全員が、一気に目の前の山に、食らい着いた。
死屍累々。
そう形容するのがぴったりの光景だった。
一様に真っ赤な顔をして、机に突っ伏し、うめき声を上げるし...
挑戦者のその悉くを打ち倒し、赤い山はまだ半分以上、原型を...
「…ごちそうさまでしたー!」
「ば、ばかな!」
最後の一口を容易く片付け、砂時計はなおも時間を余らせてい...
その勝利者の名は、ティファニア。
彼女はまるで普通のピラフを食べるように、赤い山を容易く征...
「あ、あの辛さを、平然な顔でっ?」
驚愕するマルトー親父とギャラリーの視線に、応える者がいた。
「聞いたことがある…。あれは…」
「知っているのかレイナール!?」
レイナールの呟きに、控えていた生徒の一人が合いの手を入れ...
「味覚鈍化…!エルフの間に伝わる、どんな味のものも食するこ...
かつて、エルフはその術で森の中のあらゆる植物を食したと...
これが、現代の薬学の基礎になったと、言われているんだ…!...
…民明書房かよ!
突っ込もうと思った才人だったが、今は息をするだけで舌がヒ...
ティファニアはにっこり笑って、その解説を否定した。
257 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「私、辛いの大好きなんです♪」
たしかにティファニアの顔は赤くなっていたし、汗もかいてい...
しかし。
『モノには限度があるだろ!』
机に突っ伏した全員が、心の中でそう突っ込む。
「…負けた…!俺の、俺のレシピが負けたっ…!」
がっくりとうなだれるマルトー親父。
そんな彼の肩に、そっと手を掛ける人物が一人。
はっとマルトー親父が顔を上げる。
そこにいたのはシエスタだった。
「いいじゃないですか、親父さん。
また、新しいレシピを考えましょう」
にっこり笑うシエスタに。
「………。
そうだな、そのとおりだ…!」
マルトー親父は拳を握り締めて立ち上がり、天を振り仰ぐ。
「よーし、次のレシピを考えるかぁ!」
「その意気です親父さん!」
盛り上がる二人に、いつのまにか復活していた机の上の面々が...
「次は僕が勝つ!」
「今度は…負けませんよ」
「ふ…そこに壁があるなら、立ち向かえばいい。それだけのこと...
「お、いいこと言うじゃねえかギーシュ」
妙な感じに盛り上がる食堂の面々を、食堂のすみっこで本を読...
「…バカばっか」 〜fin
*後日、『チャレンジメニュー』を食べたティファニア以外の...
終了行:
251 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
秋も深まり、トリステイン魔法学院の庭の木々も、色づき始め...
ちょうど昼食の時間に、その事件は起きた。
「ん?なんだありゃ」
昼ごはんを食べに食堂へやってきた才人が目にしたものは、黒...
食堂の、食事を供するカウンターの前に、人だかりが出来てい...
その最後尾に、才人は見慣れた金髪の男を見つけた。
「よ。ギーシュ。なにこの騒ぎ?」
「反乱だよ!」
ギーシュはくるん!と振り向くと、才人に向かって言った。
「はぁ?」
才人にはギーシュの言っている事が理解できない。
とりあえず、もっと詳しく話してみろ、と促す。
「厨房の平民たちが反乱を起こしたんだ!これは大事だぞサイ...
「…いやだからもっと具体的にだな」
相変わらずオーバーで要領を得ない騎士団長のお言葉に、才人...
そんな才人に、親切にも事情を説明してくれる紳士が一人。
「反乱だなんて大げさだなあ」
そうそう、やはり頼りになるのはコイツ。
水精霊騎士団一の常識人、レイナール。
レイナールはカウンター脇に掲げられた大きな紙を指差す。
「なんかね、『チャレンジメニュー』とかいうのを今やってる...
レイナールの説明によれば、その『チャレンジメニュー』とか...
「で、何よその『チャレンジメニュー』って」
才人はココイチの1Kgカレーを想像したが、レイナールはそん...
「ううん、まだ誰も頼んでなくてさ。メニューの内容もどんな...
「なんだよ、集まるだけ集まって誰も頼んでないのか」
才人は呆れたようにそう言うが、内容のわからないようなメニ...
しかし。
そんな空気を一変させる漢が、食堂にやってきた。
その漢はあくまで威風堂々とカウンターにむかう。
その風格に、人だかりは裂け、その漢のために道を作る。
「なんだよみんな、だらしないなあ」
252 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
…ざわ…。…ざわ…。
王だ。王が来た。
そんな呟きが漏れる。
『王』と呼ばれたふとっちょの漢はカウンターに辿り着くと、...
「『チャレンジメニュー』…ひとつ」
おおオオおおおおおおおおおおおおおおおおお!
歓声が上がる。
その歓声はやがて、一人の男の名を奏で上げる。
マッリコッルヌ!マッリコッルヌ!
「…ナニコレ」
流石の才人もちょっと引きが入る。
「何、簡単な事だよ」
そんな才人に、ギーシュが説明する。
「彼は、入学式の新入生歓迎会で…。
一人で、豚の丸焼きを完食したんだよ。
以来彼は、『味の王』と呼ばれている」
…なんか前『風上のマリコルヌ』とかってバカにしてなかったか...
とか思ったが、才人はあえて突っ込まない事にした。
「へい、チャレンジメニュー一丁っ!」
マルトー親父がごっつい手で、カウンターにとん、とトレイを...
それを見たマリコルヌは。
「親父…」
激昂した。
「僕を、舐めないでもらおうか!
僕を、誰だと思っている!」
トレイの上に乗っていたのは、普通のシチュー皿。
その上に盛られているのは、ハルケギニアでは野菜として流通...
赤い色に炊かれた米が、山のような形に盛られている。その上...
たしかに普通の量ではないが、それは『ちょっと多い』くらい...
豚の丸焼きを完食したマリコルヌにとっては、どうということ...
しかし、そのマリコルヌに、マルトー親父はにっこり笑って皿...
「そういうセリフは…ソイツを完食してから言ってもらいましょ...
「…まさか、食えないほどまずい、というわけじゃないだろうな...
まずい料理を供して、それを完食できなければ罰金、という飲...
しかし、その行為は。
「それは、フードファイトの理念に反しますぜ、マリコルヌ坊...
マルトー親父の言う通り、その皿の上の料理からは、食欲を誘...
たしかに、この料理は旨そうだ。
253 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「…わかった、しかし、君は後悔する事になるぞ…!」
マリコルヌのその笑顔からは、完食を確信した余裕の心情が見...
そして、マリコルヌはトレイを手に、席に着く。
その脇にマルトー親父が砂時計を手に立ち、その周囲を生徒た...
そして、マルトー親父は砂時計を掲げ、高らかに宣誓する。
「では、この砂時計が落ちきるまでが、制限時間です。
どちらさんも、よござんすね?」
周囲の生徒たちにも確認できるように、マルトー親父は砂時計...
そして言った。
「それでは、どうぞっ!」
カン!
勢いよく反転した砂時計が小気味よい音をたててテーブルとぶ...
マリコルヌは、勢いよく『チャレンジメニュー』に食らいつい...
結論から言って。
マリコルヌは完食できなかった。
砂時計の落ちきったテーブルで、マリコルヌはスプーンを握り...
目の前で繰り広げられたあまりの異常事態に、周囲の生徒たち...
数分前。
マリコルヌは、物凄い勢いで米を掻きこんでいた。
しかし、その手はすぐに止まる。
「か…からい…うまい…」
マリコルヌはそう言うなり、丸い顔を真っ赤に染め、そして、...
「…勝った」
マルトー親父は砂の落ちきった砂時計を取り上げ、勝利を宣言...
生徒たちがざわめく中、才人はマルトー親父に寄って行って、...
「…なあ、マルトーさん」
「お、なんだ我らの剣」
マルトー親父はにっこり笑い、才人に聞き返す。
才人は、思っていた事をマルトーに尋ねた。
「アレ、やっぱ辛いの?」
「辛いぞ。だが、それ以上に旨い!」
言ってマルトー親父はマリコルヌの残した皿から一つまみ、米...
そしてそれを才人に手渡す。
「食ってみろ」
「え」
「大丈夫、その量なら平気だ」
騙されたと思って、とマルトー親父は続ける。
才人は覚悟を決めて、その米を口に含む。
才人の口に広がる、米の甘み、そして、香辛料由来と思われる...
そして、噛んだ瞬間に歯に感じる歯ごたえと、口の中に広がる...
確かに、これは旨い。
254 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「へえ、うまいじゃ」
しかし次の瞬間。
才人は両手で口を抑えた。
口の中で火がついたようだった。舌の感覚細胞が悲鳴をあげ、...
溢れ出る唾液すら辛味となり、耳の奥が痛みすら伴って燃え上...
「か、か、か、かれええええええええ!なんじゃこりゃあああ...
「はっはっは!そうだろう辛いだろう!」
そして得意げに、マルトー親父はその料理の材料を語った。
「まず、その米を炊くのに使ったのは、ジョッキ一杯分のムシ...
その言葉に、生徒たちがざわ…とざわめく。
才人はムシゴロシの実ってなんじゃらほい、と思っていたが、...
「ムシゴロシの実っていうのは、その名の通り殺虫剤に使われ...
虫どころか、小動物も食べたら死んじゃうような辛さなんだ...
鷹の爪みたいなもんか、と才人は納得する。
「かかっているソースは、トマトをベースに、潮漬けにしたム...
さらに、全体にサフランとクコの実とムシゴロシの実の粉末...
解説を聞いたギーシュが、自分の口を開けて舌を出し、まるで...
「…それは…辛いわけだ…」
「だけどな、それを全部ただ使っただけじゃないぜ。
きちんと適した火力で調理して、旨く仕上げてある。辛いが...
にっこり笑うマルトー親父。
才人はその言葉は本当だと思った。
たしかに先ほど食べた米は辛かったが、今、自分は、もう一口...
「ま、でも一度に食べ過ぎるとああなるが」
言ってマルトー親父の指差す先には、倒れ伏すマリコルヌ。
「今回は、俺達厨房の勝ち、ってこったな」
そう言ってがはは、と笑うマルトー親父に、ギーシュが悔しそ...
「くそう…。誰か、アレを食べきれる剛の者はいないのか…!」
しかし、マリコルヌの敗れた今、これを時間内に完食出来る猛...
「…あのー」
そんな空気を吹き飛ばすように、柔らかい、鈴を転がすような...
その声の主を通すよう道になるように、再び人ごみが開く。
そこに居たのは。
長く美しい金髪を持つ、優しい瞳の妖精。
ティファニアだった。
「なんでしょうかね?ミス」
マルトー親父は、彼女の視線が自分に向いている事から、その...
ティファニアはそれを肯定するように、続ける。
255 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「あの、『食堂のメニュー食べ放題』って、本当ですか?」
「ああ、もちろん。ただし、ちゃんと時間内に食べきらなきゃ...
で、どなたか挑戦されるんで?」
まさかこんな少女がこのメニューに挑戦はすまい。
周囲の生徒たちも、マルトー親父も、才人も、そう思っていた...
「あ、あの、私…挑戦しちゃだめ…ですか?」
「へ?」
「テファが?」
そして次の瞬間。
「いけませんティファニアお姉さまッ!命を粗末にしてはッ!」
「え?ヴィヴィ?」
「そ、そうですミス・ウエストウッド!なにもアナタがそんな...
「あ、あの、ミスタ・グラモン?」
「そうだぜテファ!これマジでやばいんだって!」
「さ、サイトまで…」
あっという間に複数の生徒に囲まれるティファニア。
その全員が、ティファニアの身を案じていた。
しかし、当の本人は。
「大丈夫、ムチャはしないから。
だから、お願いできます?マルトーさん」
言って、にっこり笑ってマルトー親父に言う。
マルトー親父は呆気に取られていたが。
「…ようがす。じゃ、ちゃちゃっと作ってきますんで、お待ちく...
すぐに、厨房に引っ込んだ。
ティファニアを囲んでいた生徒たちも呆気に取られていたが。
「…わかりました。お姉さまの意思は固いのですね」
「…そうまで言うなら止めはしません」
「…ふ。バカだな、お前らも…俺も」
にっこり笑い合うと。
『親父!『チャレンジメニュー』だ!』
全員が揃って、そう言った。
「え?え?あの?」
「お姉さま一人を、逝かせはしません」
「貴女のような美しい方だけに辛い思いをさせるわけには、い...
「俺達、友達だろ?」
今度はティファニアが呆気に取られる番だった。
…な、何を言ってるのかよくわかんないんだけど…。
しかし、ティファニアが疑問を差し挟む間もなく、テーブルに...
その前に、マルトー親父が立つ。
「…では、この砂時計が落ちきるまでが、制限時間です。
どちらさんも、よござんすね?」
ティファニア以外の全員が、こくん、と頷く。
256 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「…じゃあ、始めてください」
ティファニアの一言で。
マルトー親父はくるん!と砂時計を反転させ、たん!とテーブ...
そして言った。
「それでは、どうぞっ!」
全員が、一気に目の前の山に、食らい着いた。
死屍累々。
そう形容するのがぴったりの光景だった。
一様に真っ赤な顔をして、机に突っ伏し、うめき声を上げるし...
挑戦者のその悉くを打ち倒し、赤い山はまだ半分以上、原型を...
「…ごちそうさまでしたー!」
「ば、ばかな!」
最後の一口を容易く片付け、砂時計はなおも時間を余らせてい...
その勝利者の名は、ティファニア。
彼女はまるで普通のピラフを食べるように、赤い山を容易く征...
「あ、あの辛さを、平然な顔でっ?」
驚愕するマルトー親父とギャラリーの視線に、応える者がいた。
「聞いたことがある…。あれは…」
「知っているのかレイナール!?」
レイナールの呟きに、控えていた生徒の一人が合いの手を入れ...
「味覚鈍化…!エルフの間に伝わる、どんな味のものも食するこ...
かつて、エルフはその術で森の中のあらゆる植物を食したと...
これが、現代の薬学の基礎になったと、言われているんだ…!...
…民明書房かよ!
突っ込もうと思った才人だったが、今は息をするだけで舌がヒ...
ティファニアはにっこり笑って、その解説を否定した。
257 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土)...
「私、辛いの大好きなんです♪」
たしかにティファニアの顔は赤くなっていたし、汗もかいてい...
しかし。
『モノには限度があるだろ!』
机に突っ伏した全員が、心の中でそう突っ込む。
「…負けた…!俺の、俺のレシピが負けたっ…!」
がっくりとうなだれるマルトー親父。
そんな彼の肩に、そっと手を掛ける人物が一人。
はっとマルトー親父が顔を上げる。
そこにいたのはシエスタだった。
「いいじゃないですか、親父さん。
また、新しいレシピを考えましょう」
にっこり笑うシエスタに。
「………。
そうだな、そのとおりだ…!」
マルトー親父は拳を握り締めて立ち上がり、天を振り仰ぐ。
「よーし、次のレシピを考えるかぁ!」
「その意気です親父さん!」
盛り上がる二人に、いつのまにか復活していた机の上の面々が...
「次は僕が勝つ!」
「今度は…負けませんよ」
「ふ…そこに壁があるなら、立ち向かえばいい。それだけのこと...
「お、いいこと言うじゃねえかギーシュ」
妙な感じに盛り上がる食堂の面々を、食堂のすみっこで本を読...
「…バカばっか」 〜fin
*後日、『チャレンジメニュー』を食べたティファニア以外の...
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