ゼロの使い魔保管庫
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571 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「王宮の宝物庫で発見されたものですが」
と、アンリエッタが謎の巨大な装置を学院に持ち込んだのが...
ちょっとした民家ぐらいはある四角張った台座の上に、人間...
一見すると頭のネジが外れた芸術家が作った奇怪なオブジェ...
「他の者に気取られないようにここまで運ぶのは苦労したぞ」
一人アンリエッタに付き従ってきたアニエスは、苦笑しなが...
「何で他の人にばれないようにする必要があったんですか?」
「アカデミーの研究者辺りが、万一これに興味を示したら面倒...
「ってことは、ひょっとして」
「そうです」
火の塔の前に設置された装置を振り仰ぎながら、アンリエッ...
「これは、『虚無』と何らかの関連があるマジックアイテムの...
そうした訳で、火の塔の陰、コルベールの研究室前に、いつ...
『虚無』の系統を操るルイズ、その使い魔である才人、彼ら...
ルイズ同様『虚無』系統の使い手であるティファニア。この...
装置に興味を示したコルベールと、彼にくっついてきたキュ...
才人が心配で見にきたタバサと、それにくっついてきたシル...
興味本位で見物に来たギーシュ、モンモランシー、マリコル...
「お前らも暇な奴らだなあ」
「いいじゃないかね、実際暇なんだし」
笑うギーシュの横では、コルベールが何やら古文書らしきも...
「なるほど、これは確かに、『虚無』と何らかの関連があるら...
「そんなん分かるもんなんですか、先生」
「うむ。わたしも独自に『虚無』のことを調べていてね。この...
コルベールが持っていた古文書を覗き込むと、確かに目の前...
「本当だ。で、これどんな装置なんですか?」
「それは分からない。この古文書に使われている古代文字は少...
「要するに、動かしてみなけりゃ分からないってことか」
「そういうことね」
才人の隣に立ったルイズが、緊張した面持ちで始祖の祈祷書...
「見て。また新しい呪文が現れたわ」
「この状況で浮き出るってことは、こいつを起動させるための...
「そうでしょうね……姫様?」
ルイズが確認を取るようにアンリエッタを見やると、彼女も...
「ええ。お願いするわ、ルイズ。どのような効果があるか確か...
今後これをどう処理するかも決められませんから」
「分かりました。では」
ルイズがゆっくりと呪文の詠唱を開始する。シエスタが不安...
572 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「でも、何が起こるか全くわからないなんて、なんだか怖いで...
「そうだよな……あ、そうだ」
才人は指を鳴らした。こういうとき、たまに頼りになる奴が...
「おいデルフ」
「なんだね相棒」
「お前、あれのこと知ってるか? なんか『虚無』に関係ある...
「『虚無』にねえ……うーん……」
デルフリンガーは少し気難しげに唸った。
「確かに、どっかで見たことがあるような、ないような……」
「どっちなんだよ」
「待ってくれよ、今思い出してるんだからよ」
二人がそんなことを話している間に、ルイズは詠唱を完成さ...
彼女がそれを解き放つべく杖を振り下ろしかけたとき、デル...
「あーっ、思い出した!」
「え、なんなんだよ」
「いけねえ相棒、あれを起動させたらとんでもないことに――」
そこまで言ったとき、ルイズは既に杖を振り下ろしていた。
杖の先端から眩い光が迸り、例の装置に吸い込まれる。
その途端、装置が轟音と共に激しく振動し始めた。
周囲の者たちが息を飲んで見守る中、装置はぐおんぐおんと...
「やべーよ相棒、ありゃ超転移装置だぜ」
「なんだそりゃ」
「詳しく説明してる暇はねえが……物とか人とかを、遥か彼方に...
「ワープ装置ってことか!?」
「その単語はよくわかんねけど、多分そう」
才人は青ざめた。どこに飛ばされるのかは知らないが、この...
「どうすりゃいいんだよ、オイ」
「落ち着きな相棒、まだこいつは完全には起動してねえ。いい...
「こうか!」
一足飛びに駆け、台座の正面についている板に手を載せる。
「置かないようにして」
「オイ!」
「って何置いちゃってんの相棒!?」
「うるせえ、お前の説明が紛らわしいせいだろうが!」
ギャーギャー喚く一人と一本の横で、装置の駆動はいよいよ...
ぐおんぐおんがごうんごうんになり、放たれる光は日光すら...
台座の上に乗せられた巨大な球が回転を始め、大気が軋むよ...
「なになに、何が始まったの!?」
「女王陛下、危険です、お下がりください」
「ちょっと、まずいんじゃないの、これ!?」
「そんなの僕に聞かれても」
「きゅいきゅい。なんだかとってもキレーなのね」
「その反応はのん気すぎ」
皆の姿と声が、眩い光の中に飲み込まれていく。
そして一瞬後には、彼らの姿は広場からかき消えていたので...
573 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
それから、しばらくの後。
「……で、ここはどこなんだね」
その場の面々の中で一番最初に声を発したのは、ギーシュだ...
妙に適応力が高いこの少年の呟きに、答えはなかなか返って...
「……見たことのない景色」
かろうじてそう言ったのは、警戒するように杖を握り締めた...
他の者たちは大抵呆然としているか困惑するように周囲を見...
そんな中、ただ一人才人だけは、他の皆とは違った驚き方を...
「ここ、ここは、ひょっとして……!」
「なに、あんた、ここがどこだか知ってんの!?」
焦ったようにルイズが問い詰めるが、才人は目を見開いてふ...
仕方のないことといえば仕方のないことだった。目の前に広...
縁石で丸く区切られた芝生、その中央に立つ咲きかけの桜の...
古びたベンチがいくつか見え、その背後には低い背丈の雑木...
そして、その向こう側には、夜でもお構いなしの眩い光に包...
もちろん、ハルケギニアで見られる景色ではない。才人は唾...
「……地球だ」
「なんですって?」
眉をひそめるルイズに向き直り、信じられない心地で伝える。
「地球なんだ、ここ。俺の生まれた世界」
その場の全員が、微妙に違った驚きの表情を浮かべる。
困惑しきった様子で改めて周囲を見回す者、興味深げに観察...
「どういうことよ、なんでわたしたちが全員揃って、あんたの...
「知らねえよ、俺に聞くな!」
「サイト君」
口げんかになりかけた才人とルイズの間に割って入ったのは...
「ここが君の世界だというのは、間違いないのかね」
「ええ。こんなとこ、ハルケギニアにあるはずがない。それに...
才人は自分の記憶と周囲の景色を、改めて照らし合わせ、納...
「間違いない。やっぱここ、俺ん家の近所の公園だ。一年以上...
「そうか……それは、何というか、実に興味深い」
「何をのん気なことを言っている!」
怒鳴ったのはアニエスである。
元々、いろいろあってコルベールに敵愾心を抱いている彼女...
「ここには女王陛下もいらっしゃるのだぞ! すぐに戻らなけ...
「いやー、多分、それは無理じゃないかね」
のんびりした声で絶望的なことを言ったのは、才人の背中の...
574 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「何故そう言える?」
「だってよ、超転移装置が見当たらねえもん。あれがなきゃ、...
確かに、あの場にいたメンバーは全員ここにいるようだが、...
「ちょうどいい。デルフ、あの装置について詳しく教えてくれ...
「あいよ。あれはね」
と、デルフが説明したところによると、あの装置は、虚無の...
ある物質を離れた場所に転移させるマジックアイテムなのだ...
才人が手を触れてしまったあの板は、目的地を指定するため...
「要するにね、あそこに手を乗っけて『ここに行きたい』って...
「でも俺、地球に行きたいなんて念じてないぜ」
「それだけ、相棒の故郷に帰りたいって願望が強かったんじゃ...
「皆も一緒に来ちまったのは?」
「相棒にある程度関係が深い人間だから、巻き込まれたんじゃ...
「なんだよそのいい加減な説明は」
「俺っちだって、あの装置について何でもかんでも知ってる訳...
大体、『虚無』って奴はいろいろとデタラメなんだ。何が起...
「ホントにいい加減だな」
才人がうんざりしてため息を吐く。
一連の説明を黙って聞いていたアンリエッタが、皆に向かっ...
「ごめんなさい、皆さん。どうやら、わたしのせいで皆さんを...
本当に、何とお詫びすればよいのか」
「陛下のせいではありませぬ」
「そうですわ姫さま、悪いのはこの馬鹿犬でございますわ」
アニエスやルイズが、慌ててアンリエッタに駆け寄る。
その様子を見ながら、才人は頭を抱えた。
「なんてこった。まさか、こんな風に地球に戻ってきちまうだ...
「あんまり嬉しそうじゃないね、相棒」
「当たり前だろ。俺だけならともかく、皆まで……ああ、どう責...
視界の隅で、シルフィードが長い首を伸ばしてタバサの服の...
地球の公園に巨大な竜が鎮座している様は、なかなかシュー...
「ねー、お腹すいたのねー、きゅいきゅい」
「シルフィード、空気読んで」
「ぶー。お姉さまのケチー」
「お腹すいた、か」
才人は呟いた。そう、何はともあれ、すぐに戻れないと分か...
そもそも、こんな大人数であちこちうろつく訳にはいかない。
この世界ではかなり珍妙な集団のはずである。警察にでも見...
575 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「確かに、小腹がすいてきたな」
「サイト、この世界の料理はどんななんだい」
「のん気だなお前ら」
食欲旺盛なギーシュとマリコルヌに呆れて言ってやると、二...
「だってねえ、僕らが君のせいで変なことに巻き込まれるのは...
「そうそう。そんなことより、今はすきっ腹を満たすのが優先...
「いやー、しかし、異世界がどうのってのが本当のことだった...
「ホントホント。僕ら、その部分に関してだけはサイトの頭が...
生温かい目でスルーしてたのにねえ」
「よし、お前ら後でぶん殴ってやるから覚えとけよ」
「あの、サイトさん」
後ろから、シエスタがパーカーの袖を引っ張っていた。
「実際、これからどうしましょうか。野宿しようにも道具があ...
「まあ、持ってたってハルケギニアの金はこっちじゃ使えない...
才人は頭を掻いた。
「どうすっかなー。泊まる当てなんて、俺ん家ぐらいしかねえ...
「サイトのお家ってことは、お父さんやお母さんがいるのね」
ティファニアが優しく微笑んだ。
「わたしたちのことはともかく、まずは帰ってきたって伝えて...
「あー、そりゃ、そうかもしんないけど」
確かに、今すぐ家に帰りたいのは確かである。だが、異世界...
(だからって、こいつらと一緒に行くのもなあ)
才人の父は普通のサラリーマン、母は普通の主婦である。
長い間連絡もなしに失踪していた息子が、こんな珍妙な友人...
(少なくとも、感動の再会、なんてことをやってられないのは...
一体どうしたものか、と唸っていたとき、皆の輪から一人外...
「ねえサイト」
「なんだモンモン」
「あなたの世界にも、わたしたちと同じようなメイジがいるの...
「何言ってんだお前」
「だって、あそこに大きなゴーレムがいるわよ」
「なに?」
振り向くと、街灯の明りを遮るようにして、巨大なゴーレム...
「そんな馬鹿な!?」
あり得ない光景に才人が叫び声を上げたとき、頭上から声が...
576 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「見つけたわよ、ガンダールヴ!」
見上げると、ゴーレムの肩に見覚えのある人間が立っている。
「ミョズニトニルン!?」
あり得ない人物の登場に思わず叫ぶと、敵は手を口にやって...
「ほほほ、ヨルムンガントの試験中に見慣れないところに飛ば...
目障りな連中が勢ぞろいしているとはね。虚無の担い手に、...
状況はよく分からないけど、最大の好機と見た!」
巨大なゴーレム……鋼鉄の巨人ヨルムンガントは、暗い夜空を...
その強大さは、以前アルビオンで遭遇したときに嫌というほ...
「散れ!」
才人が叫ぶよりも早く、全員が四方に向けて走り出していた。
先程まで皆が固まっていた場所に、鋼鉄の拳が突き刺さる。...
「クソッ、無茶苦茶しやがるぜ!」
「奴さんもずいぶん本気のようだね」
「とにかく、またルイズにエクスプロージョン撃ってもらうし...
呟いたとき、才人は大変なことに気がついた。
人がいる。ヨルムンガントの両足の向こうに、くたびれたス...
その男は、夜の公園に突如として出現した謎の巨人を見上げ...
暗いために顔はよく見えないが、あまりの事態に放心状態に...
(ヤベェ、あのイカれた女に気付かれたら、あのおっさんが殺...
自分が異世界から連れてきてしまった兵器に、何の関係もな...
そう考えるといてもたってもいられず、才人はデルフリンガ...
「チッ、すばしっこいね!」
降り注ぐ拳を間一髪のところで避け、例のサラリーマンの前...
「おっさん、何がなんだか分からんとは思うが、逃げてくれ!...
返事はない。やはり放心状態になっているのかもしれない。
だが、後ろを振り向いて確認している余裕はない。
鋼鉄製とは思えぬ滑らかな動きで、ヨルムンガントがこちら...
(クソッ、こりゃやべえな)
才人の背中を、嫌な汗が滑り落ちる。
(なんとかしてこっちに目をひきつけて、その間にシルフィー...
才人が焦りながら考えていたとき、不意に後ろから静かな声...
577 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「なあ」
どこかで聞いた声だ、と一瞬思ったが、今は落ち着いて考え...
才人は振り向かないまま叫び返した。
「気がついたのか、おっさん! 逃げてくれ、マジで危ねえか...
「いや、そんなことよりいろいろ聞きたいことが」
「気持ちは分かるけど、今は答えてる余裕がねえ! とにかく...
「そうか」
そこでようやく、才人は違和感を覚えた。
(やっぱこのおっさんの声聞き覚えあるっつーか、なんか、い...
そこまで考えたとき、才人の横にスーツ姿の人影がゆっくり...
「つまり、あの木偶の坊を倒せば、話を聞かせてもらえるって...
呟くような、静かな声。才人が何かを答える間もなく、人影...
「は!?」
才人はぎょっと目を見開き、慌てて前を見る。
すると、消えたと思われたスーツ姿の男が、ヨルムンガント...
(っつーか、速っ――!)
ガンダールヴとほぼ同等の速度だ。
男はヨルムンガントの直前でぐっと身を沈めると、スーツの...
「な、なんだい、こいつ……!?」
さすがのミョズニトニルンもこれは予想外だったようで、慌...
しかし、男はそれよりも早くヨルムンガントの脚部に取り付...
(なんだありゃ、ほとんど垂直に走ってるじゃねえか!? あ...
忍者、という言葉が、才人の頭に思い浮かぶ。
その言葉のイメージどおり、男は疾風のようにヨルムンガン...
脚部臀部腰部胸部右腕左腕頭部、ありとあらゆる場所を地面...
何を刺しているのかと思って目を凝らすと、鈍く輝く小さな...
(……ひょっとして、くないってやつか?)
異世界から来た魔法の巨人を、地球の忍者が翻弄している。
才人は笑いたくなった。本当に、あり得ない光景である。
サラリーマン忍者は数十本ものくないを刺し終えたあと、登...
「お前は一体何なんだい!? カウンターの魔法に守られた、...
「確かに、やたらと硬い人形みたいだな。不可思議な力で覆わ...
男は才人に背中を向けてヨルムンガントを見上げたまま、淡...
「如何せん、その力とやらを全体に分散させすぎだな。
強度はさほどでもないから、やり方次第では刃物を突き通せ...
「クッ、そうかい。確かに、なかなか見事なもんだ……だがね」
578 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
ミョズニトニルンは、突き立てられた数十本のくないを見下...
「こんなもの、針を突き刺した程度の傷でしかない。こんなん...
「このままじゃ、そうだろうな」
「ふん、今度はどんな芸を披露してくれるってんだい、大道芸...
「こんな芸だ」
男は懐から細長い箱状のものを取り出し、その上部について...
その瞬間、ヨルムンガンドの表面に突き立っていたくないの...
「な――!?」
驚愕するミョズニトニルンの前で、男は先程と同じ装置をい...
その度に新たな火球が生まれ、次々に炎の華を咲かせていく。
爆発した部分から生じた亀裂が他の亀裂と繋がり、破壊は静...
一分もしないうちに、ヨルムンガントはバラバラになって崩...
「ウソだろっ!?」
「ホントだ」
思わず叫んでしまった才人に、忍者サラリーマンがぼそりと...
元は巨人だった鉄くずの山の上で、ミョズニトニルンが呆然...
「お前……一体何者だい!?」
男は、薄汚れたネクタイを直しながら答えた。
「なに、ただの通りすがりのサラリーマンさ」
肩をすくめて付け加える。
「……サービス残業帰りのな」
「……訳の分からないことをっ! これで終わりと思うんじゃな...
ミョズニトニルンが身を翻して駆け去る。逃げ足もなかなか...
(……一体、何がどうなってんだ)
鉄くずの山を背景に佇むサラリーマンの背中を見つめながら...
(あのおっさんは何なんだ。何の漫画の世界の住人なんだ?
あんなん登場させたら、厨キャラだの厨設定だの言われてぜ...
そんなことを考えている頭の隅で、信じがたい認識が生まれ...
(……あのおっさんの声。どう考えても聞き覚えがある。
……あのおっさんの背中。どう考えても見覚えがある)
そう思いつつも、簡単には信じることができない。
(だって、そうだろ才人。お前の予想が正しけりゃ、あのおっ...
579 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
そのとき、サラリーマンがゆっくりと振り返った。
そして、「あー」と呟きながら、困った様子で片手を上げる。
「久しぶりだな、才人。今までどこ行ってたんだお前」
――毎朝、母親が文句言いながら剃っていた無精髭。
――息子と親子らしい会話をしようとするが、話題が思いつか...
――無口なくせに、たまに喋るとやけに重々しく聞こえる、静...
「と……」
「と?」
「とおおおおおおおぉぉぉぉちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」
そこに立っている規格外人類は、間違いなく才人の父親、平...
「ほれ、腹が減ってるんならこれ食いなよ」
ベンチに腰掛けた才蔵が差し出したのは、ビニール袋に入っ...
「きゅいきゅい。おいしそうな匂いなのね!」
ミョズニトニルンを撃退した後、あれこれと話をしようとし...
涎を垂らした風韻竜は、口でビニール袋を受け取ると、その...
その様子を見て、才蔵がぼやくように言う。
「母ちゃんへの土産のつもりだったんだがなあ……ダメになっち...
悩み始める才蔵を、才人が怒鳴りつける。
「んなことより父ちゃん、説明してくれよ」
「ん? 説明って、何を?」
「さっきのあれだよ。何なのよあの忍者みたいな動きはよ?」
「何って……あー、一応我が家のは、甲賀流の流れを組みつつも...
「そういう意味じゃねえよ! なんで普通のリーマンの父ちゃ...
「なんでって言われても……ガキの頃から仕込まれてたし」
「はぁ!? 何だよその中学生の妄想ノートみたいな設定は!...
「設定って……いや、その前に親の人生を中学生の妄想呼ばわり...
才蔵は苦笑いを浮かべたあと、不意に真面目な顔つきになっ...
「質問したいのはむしろこっちだぞ、才人。お前今までどこに...
行き先も告げずにある日突然いなくなって」
「それは……」
どう説明したものか分からず、才人は口ごもる。
困っていると、才蔵が手招きしたので、彼の口元に耳を寄せ...
「それにお前、なんだかずいぶん可愛らしい娘さんたちを連れ...
どうなってんだ。モテモテか、ハーレムか?」
「バッ、そんなんじゃねーよ!」
「照れるなよ。こんだけ嫁候補が多けりゃ、母ちゃん大喜びだ...
いっつも心配してたぞ、『才人はモグラみたいな顔してるか...
「ひでえな母ちゃん! ……いや、っつーか、この子らは嫁候補...
580 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「あのー」
才人がちょっと涙目になったとき、後ろから誰かが声をかけ...
振り向くとそこにシエスタが立っていて、ちょっと上目遣い...
「サイトさんの、お父様でいらっしゃいますか?」
「はいそうですが。やあ、これは可愛らしいメイドさんだ。ど...
「えーと、お店と言うか、トリステインの魔法学院で……」
「トリステインの魔法学院ね。そりゃまたファンタジーだな。...
顎に手を当てて考え出す父に、才人は呆れて突っ込んだ。
「いや親父、それはいろいろと間違ってっから」
「なに、違うのか? じゃあどこからさらってきたんだよ、こ...
「さらってきてねえよ! っつーか、なんでそんな愉快に饒舌...
「そりゃお前、俺の裏の職業のことお前にばれたら困るから、...
「裏の職業って……忍者?」
「そう。ほら俺、すぐ表情に出るから、隠し事とか出来ないタ...
「忍者がそれでやっていけんのかよ!」
「あの!」
才人と才蔵の愉快な会話の前に置いてけぼりをくらいかけた...
才蔵は愛想笑いを浮かべた。
「おっと、こりゃ失礼。すいませんねウチの息子が。こいつは...
「さ、サイトさんの、おおおお、お父様!」
シエスタはメイド服の裾を握り締めて、真っ赤な顔で言った。
「わたし、シエスタと申しますが!」
「ああ、こりゃどうもご丁寧に。私はこのサイトの父で平賀才...
「サイトさんとは、その、け、結婚を前提にしたお付き合いを...
「なんですとっ!?」
才蔵が目を見開く。才人は慌ててシエスタを止めた。
「ちょ、何言ってんのシエスタ!?」
「ほ、本当ですから! キスだってもう済ませましたし、むむ...
「サイトォォォォォォッ! お前って奴はぁぁぁぁっ!」
「ち、違うんだって! いや、一部は確かに事実ではあるけど...
才人が釈明しようとしたところに、ルイズが猛然と突進して...
「ちょっとシエスタ、あんた何サイトのお父様に勝手なこと吹...
「あーらミス・ヴァリエール、こういうのは出来る限り事実を...
「どこが事実だってのよ!? あんたなんか小間使いでしょ、...
大体キスぐらいわたしだって何度も何度もしてるっての!」
「おい才人!」
「だから違うんだって父ちゃん!」
「ええと、キスでしたら私もサイト殿と……」
「わたしも……」
「あ、あの、胸でしたらわたしも……」
「才人ォォォォォォォッ!」
「だーもう、アン様もタバサもテファも、変なこと言わないで...
581 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
そんな風に各々好き勝手なことを喋り出したために収拾がつ...
笑い始めたのは才蔵だった。言い争う少女たちと、それをな...
「どうしたんだよ、父ちゃん」
「いやスマンスマン。急にいなくなって、俺らの情報網でも探...
こんな風に元気すぎるぐらい元気に帰ってきたもんだからな...
そう言ったあと、才蔵は「さて、と」と呟き、自分の鞄を持...
「じゃあ、家に帰るとするか」
「家……って、でも」
才人は躊躇う。家には帰りたいが、皆を置いてはいけない。
その気持ちが伝わったのか、才蔵は笑って息子の肩を叩いた。
「心配するな。友達も皆連れてくればいいさ」
「よろしいのですか? 少々大人数ですし、目立つ者もおりま...
気を遣うように言ったのは、コルベールである。
才蔵は安心させるように、気さくな笑みを浮かべて頷いた。
「大丈夫、何とかなりますよ」
「しかし」
「皆さんには、ウチの息子がずいぶん世話になったようですし...
と、才蔵はシルフィードを見やった。
「そっちのお嬢さんは、まだまだ食い足りないみたいですしね」
「うん、あんなんじゃ全然足りないのね!」
焼き鳥のたれで口の周りをべとべとにしながら、シルフィー...
才蔵は苦笑しながら、コルベールに向かって片目を瞑ってみ...
「ま、こんな調子のまま外にいたって、あれこれと困るでしょ...
皆さんのお話も聞かせていただきたいし、ここは一つ……」
「……そうですな。それでは、お言葉に甘えさせていただくこと...
コルベールが思慮深げに頷く。
「よし、じゃ、決まりだ」
才蔵は軽快に手を打ち鳴らした。
「皆さん揃って、平賀さん家へいらっしゃい、だな」
「本当にいいのかよ」
やたらと自信満々な父にかえって不安になった才人が言うと...
582 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「安心しろ、父ちゃんに任しとけ」
その台詞を聞いたとき、才人の胸にじんわりとした温かみが...
無口だった頃(本人に言わせれば、それは振りだったらしい...
こうして頭を撫でて「父ちゃんに任しとけ」と言ってくれた...
(ああ、帰ってきたんだなあ)
改めて実感する。
かなり変な形になってしまったが、確かに、自分は地球に帰...
そう思うと、母親にも早く会いたくてたまらなくなった。
「なあ父ちゃん。母ちゃん、怒ってるか?」
「どうだろうね。まあ、一発ビンタされるぐらいは覚悟しとけ」
「うわー、マジかよ……」
「仕方ないさ。それだけ心配かけたんだからな」
「……ああ、そうだな」
しばらく、二人は無言で歩く。
先導も兼ねているので、他の面々は二人の後ろからついてく...
後ろから聞こえてくる騒がしい声を聞いていると、才人は不...
「なあ父ちゃん。皆のことなんだけどさ」
「おう」
「事情は後から話すけど、どうも、元いた場所にはしばらく帰...
「そうか。じゃ、皆まとめて家に住んでもらえばいいや」
「そんなあっさり……」
「大丈夫大丈夫。父ちゃんに任しとけ」
その台詞を聞くと、かなり気が楽になった。
ほっと息を吐きつつ歩きながら、才人は心の中で呟く。
(……皆と一緒に、現代の地球で暮らす、か……)
さすがに、そんな状況は想定したことがなかった。
(まあ、とりあえず)
才人はこっそりと後ろを振り返ってみる。
地球に帰れるときがきたらきっとお別れだろうと思っていた...
それを見ていると、申し訳ないと思うのと同時に、悪いこと...
(こいつらと一緒なら、楽しくはやれそうだけどさ)
明日から始まるであろう大騒ぎの日々を想像して、才人はこ...
終了行:
571 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「王宮の宝物庫で発見されたものですが」
と、アンリエッタが謎の巨大な装置を学院に持ち込んだのが...
ちょっとした民家ぐらいはある四角張った台座の上に、人間...
一見すると頭のネジが外れた芸術家が作った奇怪なオブジェ...
「他の者に気取られないようにここまで運ぶのは苦労したぞ」
一人アンリエッタに付き従ってきたアニエスは、苦笑しなが...
「何で他の人にばれないようにする必要があったんですか?」
「アカデミーの研究者辺りが、万一これに興味を示したら面倒...
「ってことは、ひょっとして」
「そうです」
火の塔の前に設置された装置を振り仰ぎながら、アンリエッ...
「これは、『虚無』と何らかの関連があるマジックアイテムの...
そうした訳で、火の塔の陰、コルベールの研究室前に、いつ...
『虚無』の系統を操るルイズ、その使い魔である才人、彼ら...
ルイズ同様『虚無』系統の使い手であるティファニア。この...
装置に興味を示したコルベールと、彼にくっついてきたキュ...
才人が心配で見にきたタバサと、それにくっついてきたシル...
興味本位で見物に来たギーシュ、モンモランシー、マリコル...
「お前らも暇な奴らだなあ」
「いいじゃないかね、実際暇なんだし」
笑うギーシュの横では、コルベールが何やら古文書らしきも...
「なるほど、これは確かに、『虚無』と何らかの関連があるら...
「そんなん分かるもんなんですか、先生」
「うむ。わたしも独自に『虚無』のことを調べていてね。この...
コルベールが持っていた古文書を覗き込むと、確かに目の前...
「本当だ。で、これどんな装置なんですか?」
「それは分からない。この古文書に使われている古代文字は少...
「要するに、動かしてみなけりゃ分からないってことか」
「そういうことね」
才人の隣に立ったルイズが、緊張した面持ちで始祖の祈祷書...
「見て。また新しい呪文が現れたわ」
「この状況で浮き出るってことは、こいつを起動させるための...
「そうでしょうね……姫様?」
ルイズが確認を取るようにアンリエッタを見やると、彼女も...
「ええ。お願いするわ、ルイズ。どのような効果があるか確か...
今後これをどう処理するかも決められませんから」
「分かりました。では」
ルイズがゆっくりと呪文の詠唱を開始する。シエスタが不安...
572 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「でも、何が起こるか全くわからないなんて、なんだか怖いで...
「そうだよな……あ、そうだ」
才人は指を鳴らした。こういうとき、たまに頼りになる奴が...
「おいデルフ」
「なんだね相棒」
「お前、あれのこと知ってるか? なんか『虚無』に関係ある...
「『虚無』にねえ……うーん……」
デルフリンガーは少し気難しげに唸った。
「確かに、どっかで見たことがあるような、ないような……」
「どっちなんだよ」
「待ってくれよ、今思い出してるんだからよ」
二人がそんなことを話している間に、ルイズは詠唱を完成さ...
彼女がそれを解き放つべく杖を振り下ろしかけたとき、デル...
「あーっ、思い出した!」
「え、なんなんだよ」
「いけねえ相棒、あれを起動させたらとんでもないことに――」
そこまで言ったとき、ルイズは既に杖を振り下ろしていた。
杖の先端から眩い光が迸り、例の装置に吸い込まれる。
その途端、装置が轟音と共に激しく振動し始めた。
周囲の者たちが息を飲んで見守る中、装置はぐおんぐおんと...
「やべーよ相棒、ありゃ超転移装置だぜ」
「なんだそりゃ」
「詳しく説明してる暇はねえが……物とか人とかを、遥か彼方に...
「ワープ装置ってことか!?」
「その単語はよくわかんねけど、多分そう」
才人は青ざめた。どこに飛ばされるのかは知らないが、この...
「どうすりゃいいんだよ、オイ」
「落ち着きな相棒、まだこいつは完全には起動してねえ。いい...
「こうか!」
一足飛びに駆け、台座の正面についている板に手を載せる。
「置かないようにして」
「オイ!」
「って何置いちゃってんの相棒!?」
「うるせえ、お前の説明が紛らわしいせいだろうが!」
ギャーギャー喚く一人と一本の横で、装置の駆動はいよいよ...
ぐおんぐおんがごうんごうんになり、放たれる光は日光すら...
台座の上に乗せられた巨大な球が回転を始め、大気が軋むよ...
「なになに、何が始まったの!?」
「女王陛下、危険です、お下がりください」
「ちょっと、まずいんじゃないの、これ!?」
「そんなの僕に聞かれても」
「きゅいきゅい。なんだかとってもキレーなのね」
「その反応はのん気すぎ」
皆の姿と声が、眩い光の中に飲み込まれていく。
そして一瞬後には、彼らの姿は広場からかき消えていたので...
573 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
それから、しばらくの後。
「……で、ここはどこなんだね」
その場の面々の中で一番最初に声を発したのは、ギーシュだ...
妙に適応力が高いこの少年の呟きに、答えはなかなか返って...
「……見たことのない景色」
かろうじてそう言ったのは、警戒するように杖を握り締めた...
他の者たちは大抵呆然としているか困惑するように周囲を見...
そんな中、ただ一人才人だけは、他の皆とは違った驚き方を...
「ここ、ここは、ひょっとして……!」
「なに、あんた、ここがどこだか知ってんの!?」
焦ったようにルイズが問い詰めるが、才人は目を見開いてふ...
仕方のないことといえば仕方のないことだった。目の前に広...
縁石で丸く区切られた芝生、その中央に立つ咲きかけの桜の...
古びたベンチがいくつか見え、その背後には低い背丈の雑木...
そして、その向こう側には、夜でもお構いなしの眩い光に包...
もちろん、ハルケギニアで見られる景色ではない。才人は唾...
「……地球だ」
「なんですって?」
眉をひそめるルイズに向き直り、信じられない心地で伝える。
「地球なんだ、ここ。俺の生まれた世界」
その場の全員が、微妙に違った驚きの表情を浮かべる。
困惑しきった様子で改めて周囲を見回す者、興味深げに観察...
「どういうことよ、なんでわたしたちが全員揃って、あんたの...
「知らねえよ、俺に聞くな!」
「サイト君」
口げんかになりかけた才人とルイズの間に割って入ったのは...
「ここが君の世界だというのは、間違いないのかね」
「ええ。こんなとこ、ハルケギニアにあるはずがない。それに...
才人は自分の記憶と周囲の景色を、改めて照らし合わせ、納...
「間違いない。やっぱここ、俺ん家の近所の公園だ。一年以上...
「そうか……それは、何というか、実に興味深い」
「何をのん気なことを言っている!」
怒鳴ったのはアニエスである。
元々、いろいろあってコルベールに敵愾心を抱いている彼女...
「ここには女王陛下もいらっしゃるのだぞ! すぐに戻らなけ...
「いやー、多分、それは無理じゃないかね」
のんびりした声で絶望的なことを言ったのは、才人の背中の...
574 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「何故そう言える?」
「だってよ、超転移装置が見当たらねえもん。あれがなきゃ、...
確かに、あの場にいたメンバーは全員ここにいるようだが、...
「ちょうどいい。デルフ、あの装置について詳しく教えてくれ...
「あいよ。あれはね」
と、デルフが説明したところによると、あの装置は、虚無の...
ある物質を離れた場所に転移させるマジックアイテムなのだ...
才人が手を触れてしまったあの板は、目的地を指定するため...
「要するにね、あそこに手を乗っけて『ここに行きたい』って...
「でも俺、地球に行きたいなんて念じてないぜ」
「それだけ、相棒の故郷に帰りたいって願望が強かったんじゃ...
「皆も一緒に来ちまったのは?」
「相棒にある程度関係が深い人間だから、巻き込まれたんじゃ...
「なんだよそのいい加減な説明は」
「俺っちだって、あの装置について何でもかんでも知ってる訳...
大体、『虚無』って奴はいろいろとデタラメなんだ。何が起...
「ホントにいい加減だな」
才人がうんざりしてため息を吐く。
一連の説明を黙って聞いていたアンリエッタが、皆に向かっ...
「ごめんなさい、皆さん。どうやら、わたしのせいで皆さんを...
本当に、何とお詫びすればよいのか」
「陛下のせいではありませぬ」
「そうですわ姫さま、悪いのはこの馬鹿犬でございますわ」
アニエスやルイズが、慌ててアンリエッタに駆け寄る。
その様子を見ながら、才人は頭を抱えた。
「なんてこった。まさか、こんな風に地球に戻ってきちまうだ...
「あんまり嬉しそうじゃないね、相棒」
「当たり前だろ。俺だけならともかく、皆まで……ああ、どう責...
視界の隅で、シルフィードが長い首を伸ばしてタバサの服の...
地球の公園に巨大な竜が鎮座している様は、なかなかシュー...
「ねー、お腹すいたのねー、きゅいきゅい」
「シルフィード、空気読んで」
「ぶー。お姉さまのケチー」
「お腹すいた、か」
才人は呟いた。そう、何はともあれ、すぐに戻れないと分か...
そもそも、こんな大人数であちこちうろつく訳にはいかない。
この世界ではかなり珍妙な集団のはずである。警察にでも見...
575 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「確かに、小腹がすいてきたな」
「サイト、この世界の料理はどんななんだい」
「のん気だなお前ら」
食欲旺盛なギーシュとマリコルヌに呆れて言ってやると、二...
「だってねえ、僕らが君のせいで変なことに巻き込まれるのは...
「そうそう。そんなことより、今はすきっ腹を満たすのが優先...
「いやー、しかし、異世界がどうのってのが本当のことだった...
「ホントホント。僕ら、その部分に関してだけはサイトの頭が...
生温かい目でスルーしてたのにねえ」
「よし、お前ら後でぶん殴ってやるから覚えとけよ」
「あの、サイトさん」
後ろから、シエスタがパーカーの袖を引っ張っていた。
「実際、これからどうしましょうか。野宿しようにも道具があ...
「まあ、持ってたってハルケギニアの金はこっちじゃ使えない...
才人は頭を掻いた。
「どうすっかなー。泊まる当てなんて、俺ん家ぐらいしかねえ...
「サイトのお家ってことは、お父さんやお母さんがいるのね」
ティファニアが優しく微笑んだ。
「わたしたちのことはともかく、まずは帰ってきたって伝えて...
「あー、そりゃ、そうかもしんないけど」
確かに、今すぐ家に帰りたいのは確かである。だが、異世界...
(だからって、こいつらと一緒に行くのもなあ)
才人の父は普通のサラリーマン、母は普通の主婦である。
長い間連絡もなしに失踪していた息子が、こんな珍妙な友人...
(少なくとも、感動の再会、なんてことをやってられないのは...
一体どうしたものか、と唸っていたとき、皆の輪から一人外...
「ねえサイト」
「なんだモンモン」
「あなたの世界にも、わたしたちと同じようなメイジがいるの...
「何言ってんだお前」
「だって、あそこに大きなゴーレムがいるわよ」
「なに?」
振り向くと、街灯の明りを遮るようにして、巨大なゴーレム...
「そんな馬鹿な!?」
あり得ない光景に才人が叫び声を上げたとき、頭上から声が...
576 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「見つけたわよ、ガンダールヴ!」
見上げると、ゴーレムの肩に見覚えのある人間が立っている。
「ミョズニトニルン!?」
あり得ない人物の登場に思わず叫ぶと、敵は手を口にやって...
「ほほほ、ヨルムンガントの試験中に見慣れないところに飛ば...
目障りな連中が勢ぞろいしているとはね。虚無の担い手に、...
状況はよく分からないけど、最大の好機と見た!」
巨大なゴーレム……鋼鉄の巨人ヨルムンガントは、暗い夜空を...
その強大さは、以前アルビオンで遭遇したときに嫌というほ...
「散れ!」
才人が叫ぶよりも早く、全員が四方に向けて走り出していた。
先程まで皆が固まっていた場所に、鋼鉄の拳が突き刺さる。...
「クソッ、無茶苦茶しやがるぜ!」
「奴さんもずいぶん本気のようだね」
「とにかく、またルイズにエクスプロージョン撃ってもらうし...
呟いたとき、才人は大変なことに気がついた。
人がいる。ヨルムンガントの両足の向こうに、くたびれたス...
その男は、夜の公園に突如として出現した謎の巨人を見上げ...
暗いために顔はよく見えないが、あまりの事態に放心状態に...
(ヤベェ、あのイカれた女に気付かれたら、あのおっさんが殺...
自分が異世界から連れてきてしまった兵器に、何の関係もな...
そう考えるといてもたってもいられず、才人はデルフリンガ...
「チッ、すばしっこいね!」
降り注ぐ拳を間一髪のところで避け、例のサラリーマンの前...
「おっさん、何がなんだか分からんとは思うが、逃げてくれ!...
返事はない。やはり放心状態になっているのかもしれない。
だが、後ろを振り向いて確認している余裕はない。
鋼鉄製とは思えぬ滑らかな動きで、ヨルムンガントがこちら...
(クソッ、こりゃやべえな)
才人の背中を、嫌な汗が滑り落ちる。
(なんとかしてこっちに目をひきつけて、その間にシルフィー...
才人が焦りながら考えていたとき、不意に後ろから静かな声...
577 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「なあ」
どこかで聞いた声だ、と一瞬思ったが、今は落ち着いて考え...
才人は振り向かないまま叫び返した。
「気がついたのか、おっさん! 逃げてくれ、マジで危ねえか...
「いや、そんなことよりいろいろ聞きたいことが」
「気持ちは分かるけど、今は答えてる余裕がねえ! とにかく...
「そうか」
そこでようやく、才人は違和感を覚えた。
(やっぱこのおっさんの声聞き覚えあるっつーか、なんか、い...
そこまで考えたとき、才人の横にスーツ姿の人影がゆっくり...
「つまり、あの木偶の坊を倒せば、話を聞かせてもらえるって...
呟くような、静かな声。才人が何かを答える間もなく、人影...
「は!?」
才人はぎょっと目を見開き、慌てて前を見る。
すると、消えたと思われたスーツ姿の男が、ヨルムンガント...
(っつーか、速っ――!)
ガンダールヴとほぼ同等の速度だ。
男はヨルムンガントの直前でぐっと身を沈めると、スーツの...
「な、なんだい、こいつ……!?」
さすがのミョズニトニルンもこれは予想外だったようで、慌...
しかし、男はそれよりも早くヨルムンガントの脚部に取り付...
(なんだありゃ、ほとんど垂直に走ってるじゃねえか!? あ...
忍者、という言葉が、才人の頭に思い浮かぶ。
その言葉のイメージどおり、男は疾風のようにヨルムンガン...
脚部臀部腰部胸部右腕左腕頭部、ありとあらゆる場所を地面...
何を刺しているのかと思って目を凝らすと、鈍く輝く小さな...
(……ひょっとして、くないってやつか?)
異世界から来た魔法の巨人を、地球の忍者が翻弄している。
才人は笑いたくなった。本当に、あり得ない光景である。
サラリーマン忍者は数十本ものくないを刺し終えたあと、登...
「お前は一体何なんだい!? カウンターの魔法に守られた、...
「確かに、やたらと硬い人形みたいだな。不可思議な力で覆わ...
男は才人に背中を向けてヨルムンガントを見上げたまま、淡...
「如何せん、その力とやらを全体に分散させすぎだな。
強度はさほどでもないから、やり方次第では刃物を突き通せ...
「クッ、そうかい。確かに、なかなか見事なもんだ……だがね」
578 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
ミョズニトニルンは、突き立てられた数十本のくないを見下...
「こんなもの、針を突き刺した程度の傷でしかない。こんなん...
「このままじゃ、そうだろうな」
「ふん、今度はどんな芸を披露してくれるってんだい、大道芸...
「こんな芸だ」
男は懐から細長い箱状のものを取り出し、その上部について...
その瞬間、ヨルムンガンドの表面に突き立っていたくないの...
「な――!?」
驚愕するミョズニトニルンの前で、男は先程と同じ装置をい...
その度に新たな火球が生まれ、次々に炎の華を咲かせていく。
爆発した部分から生じた亀裂が他の亀裂と繋がり、破壊は静...
一分もしないうちに、ヨルムンガントはバラバラになって崩...
「ウソだろっ!?」
「ホントだ」
思わず叫んでしまった才人に、忍者サラリーマンがぼそりと...
元は巨人だった鉄くずの山の上で、ミョズニトニルンが呆然...
「お前……一体何者だい!?」
男は、薄汚れたネクタイを直しながら答えた。
「なに、ただの通りすがりのサラリーマンさ」
肩をすくめて付け加える。
「……サービス残業帰りのな」
「……訳の分からないことをっ! これで終わりと思うんじゃな...
ミョズニトニルンが身を翻して駆け去る。逃げ足もなかなか...
(……一体、何がどうなってんだ)
鉄くずの山を背景に佇むサラリーマンの背中を見つめながら...
(あのおっさんは何なんだ。何の漫画の世界の住人なんだ?
あんなん登場させたら、厨キャラだの厨設定だの言われてぜ...
そんなことを考えている頭の隅で、信じがたい認識が生まれ...
(……あのおっさんの声。どう考えても聞き覚えがある。
……あのおっさんの背中。どう考えても見覚えがある)
そう思いつつも、簡単には信じることができない。
(だって、そうだろ才人。お前の予想が正しけりゃ、あのおっ...
579 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
そのとき、サラリーマンがゆっくりと振り返った。
そして、「あー」と呟きながら、困った様子で片手を上げる。
「久しぶりだな、才人。今までどこ行ってたんだお前」
――毎朝、母親が文句言いながら剃っていた無精髭。
――息子と親子らしい会話をしようとするが、話題が思いつか...
――無口なくせに、たまに喋るとやけに重々しく聞こえる、静...
「と……」
「と?」
「とおおおおおおおぉぉぉぉちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」
そこに立っている規格外人類は、間違いなく才人の父親、平...
「ほれ、腹が減ってるんならこれ食いなよ」
ベンチに腰掛けた才蔵が差し出したのは、ビニール袋に入っ...
「きゅいきゅい。おいしそうな匂いなのね!」
ミョズニトニルンを撃退した後、あれこれと話をしようとし...
涎を垂らした風韻竜は、口でビニール袋を受け取ると、その...
その様子を見て、才蔵がぼやくように言う。
「母ちゃんへの土産のつもりだったんだがなあ……ダメになっち...
悩み始める才蔵を、才人が怒鳴りつける。
「んなことより父ちゃん、説明してくれよ」
「ん? 説明って、何を?」
「さっきのあれだよ。何なのよあの忍者みたいな動きはよ?」
「何って……あー、一応我が家のは、甲賀流の流れを組みつつも...
「そういう意味じゃねえよ! なんで普通のリーマンの父ちゃ...
「なんでって言われても……ガキの頃から仕込まれてたし」
「はぁ!? 何だよその中学生の妄想ノートみたいな設定は!...
「設定って……いや、その前に親の人生を中学生の妄想呼ばわり...
才蔵は苦笑いを浮かべたあと、不意に真面目な顔つきになっ...
「質問したいのはむしろこっちだぞ、才人。お前今までどこに...
行き先も告げずにある日突然いなくなって」
「それは……」
どう説明したものか分からず、才人は口ごもる。
困っていると、才蔵が手招きしたので、彼の口元に耳を寄せ...
「それにお前、なんだかずいぶん可愛らしい娘さんたちを連れ...
どうなってんだ。モテモテか、ハーレムか?」
「バッ、そんなんじゃねーよ!」
「照れるなよ。こんだけ嫁候補が多けりゃ、母ちゃん大喜びだ...
いっつも心配してたぞ、『才人はモグラみたいな顔してるか...
「ひでえな母ちゃん! ……いや、っつーか、この子らは嫁候補...
580 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「あのー」
才人がちょっと涙目になったとき、後ろから誰かが声をかけ...
振り向くとそこにシエスタが立っていて、ちょっと上目遣い...
「サイトさんの、お父様でいらっしゃいますか?」
「はいそうですが。やあ、これは可愛らしいメイドさんだ。ど...
「えーと、お店と言うか、トリステインの魔法学院で……」
「トリステインの魔法学院ね。そりゃまたファンタジーだな。...
顎に手を当てて考え出す父に、才人は呆れて突っ込んだ。
「いや親父、それはいろいろと間違ってっから」
「なに、違うのか? じゃあどこからさらってきたんだよ、こ...
「さらってきてねえよ! っつーか、なんでそんな愉快に饒舌...
「そりゃお前、俺の裏の職業のことお前にばれたら困るから、...
「裏の職業って……忍者?」
「そう。ほら俺、すぐ表情に出るから、隠し事とか出来ないタ...
「忍者がそれでやっていけんのかよ!」
「あの!」
才人と才蔵の愉快な会話の前に置いてけぼりをくらいかけた...
才蔵は愛想笑いを浮かべた。
「おっと、こりゃ失礼。すいませんねウチの息子が。こいつは...
「さ、サイトさんの、おおおお、お父様!」
シエスタはメイド服の裾を握り締めて、真っ赤な顔で言った。
「わたし、シエスタと申しますが!」
「ああ、こりゃどうもご丁寧に。私はこのサイトの父で平賀才...
「サイトさんとは、その、け、結婚を前提にしたお付き合いを...
「なんですとっ!?」
才蔵が目を見開く。才人は慌ててシエスタを止めた。
「ちょ、何言ってんのシエスタ!?」
「ほ、本当ですから! キスだってもう済ませましたし、むむ...
「サイトォォォォォォッ! お前って奴はぁぁぁぁっ!」
「ち、違うんだって! いや、一部は確かに事実ではあるけど...
才人が釈明しようとしたところに、ルイズが猛然と突進して...
「ちょっとシエスタ、あんた何サイトのお父様に勝手なこと吹...
「あーらミス・ヴァリエール、こういうのは出来る限り事実を...
「どこが事実だってのよ!? あんたなんか小間使いでしょ、...
大体キスぐらいわたしだって何度も何度もしてるっての!」
「おい才人!」
「だから違うんだって父ちゃん!」
「ええと、キスでしたら私もサイト殿と……」
「わたしも……」
「あ、あの、胸でしたらわたしも……」
「才人ォォォォォォォッ!」
「だーもう、アン様もタバサもテファも、変なこと言わないで...
581 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
そんな風に各々好き勝手なことを喋り出したために収拾がつ...
笑い始めたのは才蔵だった。言い争う少女たちと、それをな...
「どうしたんだよ、父ちゃん」
「いやスマンスマン。急にいなくなって、俺らの情報網でも探...
こんな風に元気すぎるぐらい元気に帰ってきたもんだからな...
そう言ったあと、才蔵は「さて、と」と呟き、自分の鞄を持...
「じゃあ、家に帰るとするか」
「家……って、でも」
才人は躊躇う。家には帰りたいが、皆を置いてはいけない。
その気持ちが伝わったのか、才蔵は笑って息子の肩を叩いた。
「心配するな。友達も皆連れてくればいいさ」
「よろしいのですか? 少々大人数ですし、目立つ者もおりま...
気を遣うように言ったのは、コルベールである。
才蔵は安心させるように、気さくな笑みを浮かべて頷いた。
「大丈夫、何とかなりますよ」
「しかし」
「皆さんには、ウチの息子がずいぶん世話になったようですし...
と、才蔵はシルフィードを見やった。
「そっちのお嬢さんは、まだまだ食い足りないみたいですしね」
「うん、あんなんじゃ全然足りないのね!」
焼き鳥のたれで口の周りをべとべとにしながら、シルフィー...
才蔵は苦笑しながら、コルベールに向かって片目を瞑ってみ...
「ま、こんな調子のまま外にいたって、あれこれと困るでしょ...
皆さんのお話も聞かせていただきたいし、ここは一つ……」
「……そうですな。それでは、お言葉に甘えさせていただくこと...
コルベールが思慮深げに頷く。
「よし、じゃ、決まりだ」
才蔵は軽快に手を打ち鳴らした。
「皆さん揃って、平賀さん家へいらっしゃい、だな」
「本当にいいのかよ」
やたらと自信満々な父にかえって不安になった才人が言うと...
582 名前: 平賀さん家へいらっしゃい [sage] 投稿日: 2007/...
「安心しろ、父ちゃんに任しとけ」
その台詞を聞いたとき、才人の胸にじんわりとした温かみが...
無口だった頃(本人に言わせれば、それは振りだったらしい...
こうして頭を撫でて「父ちゃんに任しとけ」と言ってくれた...
(ああ、帰ってきたんだなあ)
改めて実感する。
かなり変な形になってしまったが、確かに、自分は地球に帰...
そう思うと、母親にも早く会いたくてたまらなくなった。
「なあ父ちゃん。母ちゃん、怒ってるか?」
「どうだろうね。まあ、一発ビンタされるぐらいは覚悟しとけ」
「うわー、マジかよ……」
「仕方ないさ。それだけ心配かけたんだからな」
「……ああ、そうだな」
しばらく、二人は無言で歩く。
先導も兼ねているので、他の面々は二人の後ろからついてく...
後ろから聞こえてくる騒がしい声を聞いていると、才人は不...
「なあ父ちゃん。皆のことなんだけどさ」
「おう」
「事情は後から話すけど、どうも、元いた場所にはしばらく帰...
「そうか。じゃ、皆まとめて家に住んでもらえばいいや」
「そんなあっさり……」
「大丈夫大丈夫。父ちゃんに任しとけ」
その台詞を聞くと、かなり気が楽になった。
ほっと息を吐きつつ歩きながら、才人は心の中で呟く。
(……皆と一緒に、現代の地球で暮らす、か……)
さすがに、そんな状況は想定したことがなかった。
(まあ、とりあえず)
才人はこっそりと後ろを振り返ってみる。
地球に帰れるときがきたらきっとお別れだろうと思っていた...
それを見ていると、申し訳ないと思うのと同時に、悪いこと...
(こいつらと一緒なら、楽しくはやれそうだけどさ)
明日から始まるであろう大騒ぎの日々を想像して、才人はこ...
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