ゼロの使い魔保管庫
[
トップ
] [
新規
|
一覧
|
単語検索
|
最終更新
|
ヘルプ
]
開始行:
[[前の回>X00-11]] [[一覧に戻る>Soft-M]] [[次の回>X00-27]]
**ゼロの飼い犬15 お医者様でも草津の湯でも(後編) ...
■1
見上げた女子寮の窓際にいた人影は、わたしの姿に気付くと...
けれど、立派なおでこがバッチリ見えた。言い逃れなんてで...
「隠れても無駄よ! 出てきなさーい!」
わたしの怒鳴り声を聞いてそろそろと再び顔を見せ、その部...
香水のモンモランシーは蒼白な顔をこちらへ向けた。
なんで水なんて撒いたのか問い詰めようと思ったけど、どう...
眉根をひそめて、わたしではなくわたしの後ろにいるサイト...
なんとなく嫌な予感がして、サイトの方を振り向こうとした...
不意にわたしの体の前に手が回された。
「え?」
「ルイズ」
耳元すぐ近くでサイトの声が聞こえて、一瞬、何をされたの...
サイトがわたしを後ろから抱きしめてきたのだ。吐息があた...
「な、なに? ちょっと、やめてよ、こんなとこで……」
いや、こんなとこじゃなかったら良いってわけでもないんだ...
慌てて文句を言い、振り払おうとしたところで、何だか覚えの...
「あっ」
サイトの髪と顔を湿らせている液体。たった今、モンモラン...
わたしの心臓がどきんと跳ね上がった。すぐさま身を屈めて...
距離をとってから恐る恐る振り向いてその顔を見る。
サイトは、逃げるみたいなことをしたわたしのことを、不安...
わたしの方へ近寄ろうとして、自分でその足を止める。
その雰囲気。まるで、わたしに拒まれるのを怖がっているよ...
「ご、ごめん。急に抱きついたりして……。悪気があったわけじ...
「あ……、うん。わかってる」
何かを我慢しているような、辛そうな顔でそう言われて、怒...
同時に、その態度にピンと来る。わたしはサイトの手を引っ...
出てきたばかりの女子寮にとって返した。
「解毒薬が作れないですって!?」
「ちょ、ちょっと怒鳴らないでよ、落ち着いて」
「これが落ち着いてられるわけないでしょ!」
詰め寄って睨み付けると、モンモランシーに誤魔化し笑いを...
ここはモンモランシーの部屋。サイトを連れて押しかけて、...
待ちかまえていた彼女を問いただしたところ、サイトが被って...
モンモランシーが作った惚れ薬の残りだったらしいことがわか...
ところが、だったら解毒薬を早くよこしなさいと言ったわた...
「簡単には用意できない」。そりゃあ怒りたくもなる。
「『水の精霊の涙』、全部使っちゃったの!?」
「ううん、それはまだあるんだけど、それ以外にも色々材料は...
そっちが足りてなくて、街に行って調達してこないと解毒剤は...
「なによそれぇ……」
頭を抱える。トリスタニアまで行って、薬屋を回って帰って...
「何だかんだ言って随分なトラブルメーカーだねキミは。モン...
「あなたに言われるともの凄いショックだわ……。否定はできな...
モンモランシーを迎えに来たとかでいつのまにか話を聞いて...
やれやれと肩をすくめる。モンモランシーは渋い顔をした。
■2
「それで、どうするんだい? 今から買い出しかな?」
「まぁ、仕方ないわね。またサボりになっちゃうけど」
「だったら僕も付き合うよ」「サボる口実が欲しいだけじゃ...
言い合っている二人を尻目に、わたしは戸口で待たせていたサ...
サイトは一瞬目を見開いた後、その瞳をとろんと潤ませた。
胸が締め付けられる。今のサイトが惚れ薬のせいでわたしの...
いるのなら、どんな気持ちになっているのか、わたしは痛いほ...
わたしはサイトの傍まで近寄ると、その手をとった。
「えっと、その……、今日中に、治してあげるから。あ、安心し...
サイトは小さく頷いて、やっぱりわたしをじっと見つめる。
その視線に耐えられなくなって、わたしは目を逸らしてしまっ...
そう、わたしは知ってる。今のサイトの立場に、つい一週間...
”好き”になってしまった人と離れていると、どれだけ苦しい...
切なくて、寂しくて、不安な気持ちがどんどん膨らんで、ど...
自分の溢れた感情に押し潰されそうになってしまう思いを、サ...
薬のせいだからとか、自分本来の気持ちじゃないとか、そん...
例えとしては良くないけど、何も考えられないくらい眠たい...
お腹が空いて倒れそうな状態で料理のテーブルについた時とか...
頭で考えて自制する余裕なんてとても無いくらい、サイトが...
恋の病なんていう言葉があるけど、それこそ病気みたいに自...
その苦しさを和らげてくれるのは、”好き”になった相手だけだ...
「サイト」
それだけじゃない。サイトの胸に手を当てて、呼びかける。
”好き”になってしまった人に傍にいてもらって、触れてもら...
名前を呼んでもらって、見つめてもらうだけで、そんなに満...
それも知ってる。それが、この世界にそれ以上の幸せなんて...
気持ちの良いことだっていうことも……、サイトが、教えてくれ...
だから、あの時のわたしを助けてくれたサイトのことを、
今度はわたしが助けてあげないといけない。サイトの気持ちを...
「ルイズ」
サイトの熱い手のひらが、わたしの手を包み込む。胸に当て...
伝わってくる。わたしの胸も高鳴ってくる。今、サイトが、あ...
幸せな気持ちになってくれてるんだと思うと……、こっちも、嬉...
サイトが、わたしの手をきゅっと握りしめる。空いた手でわ...
びくんと身体が跳ねた。何をしようとしてるのか、すぐにわか...
『キス……、すると、ちょっとだけとれる』
他でもない、わたしがサイトにそう教えたんだ。気持ちの悪...
気持ちの良いモヤモヤにひっくり返ること。惚れ薬を飲む前か...
ばらしてしまって……。
サイトが顔を傾けて、瞳を閉じた。
拒めない。だって、あの時わたしは、サイトの気持ちも考え...
自分がしたいから、サイトにキスしたのだから。拒めないよ。...
したら、どんなにつらい気持ちになるか、それも想像できちゃ...
わたしも、小さく息をついて、瞼を落として――。
「えー、コホン。あのだね、そういうことは他人の部屋では避...
「ふぎゃあ!?」「おぐっ!?」
ギーシュの気まずそうな声が飛んできて、わたしは反射的に...
なんか、サイトの首の後ろからゴキッっていう音が聞こえて...
「……はっ! あ、そ、そうよ! ここでするのはやめなさい!...
「モンモランシー。ひょっとして見とれてたのかい?」
振り向くと、顔を真っ赤にして我に返るモンモランシーと、...
■3
「なっ、なななな何よ! はは、早く解毒剤の材料買いに行き...
「わ、わかってるわよ」
モンモランシーは頬を染めてちらちらこちらを見ながら、思...
わたしがドキドキ鳴っている胸を抑えて深呼吸していると、...
「話は聞かせてもらった」
「ひゃっ!」「何だね!?」
今度は、窓の近くにいたモンモランシーとギーシュが突然の...
飛び上がった。突然そこに現れたのは、フライで飛んでいるら...
窓枠に片手をついてこちらの様子を観察している。
「タ、タバサか。どうしたんだね、こんな所に」
「四人揃って遅刻しているから、気になった」
タバサはギーシュの質問に簡潔に答えると、
「トリスタニアまで行くなら、わたしが風竜で送る。その方が...
「そうしてくれるなら、助かるけど……。なんであなたが?」
「彼には、借りがあるから」
タバサは、サイトの方へ一瞬だけちらりと目を向けてからそ...
なんとなく、その視線に引っかかるものを感じたけど、それ...
彼女はいつもの無表情に戻ってしまう。
「行くなら、早く」
「わ、わかったから急かさないでってば」
慌ただしい準備を終えて、タバサとモンモランシーと、一応...
タバサの風竜は、それこそ風のようにトリスタニアへ向け飛び...
タバサ達を見送った後、授業どころじゃないと思い、サイト...
ドアの閉まる音がやけに大きく耳に響く。振り向いて自室の...
先に中に入っていたサイトが、棒立ちになったまま顔を伏せて...
「……サイト?」
一歩踏み出して声をかけると、その肩が小さく震えた。さっ...
わたしは……、やっぱり、サイトの気持ちがわかる気がして、...
「あの……、あの、その、ね? サイト」
わたしは努めて明るい声で呼びかける。
「えっと……、わたしは、わかるから。
今のサイトがどんな気分なのか、自分で体験して知ってるから…...
どう言ったらいいのか模索しながら、サイトに語りかける。
今のサイトの気持ちを推し量って、どうするのが一番なのか、...
「だから、その」
また、サイトの手をとろうとしたら、サイトは一歩後じさっ...
ぞくっ、と背筋に冷たい物が走る。”今のサイト”が自らそれ...
苦しいことか知ってるから。それに、どうしてそんなことをし...
わたしは駆け寄って、サイトの両腕を掴んだ。
「……怖がらないで」
サイトの顔を見上げる。サイトは不安に揺れる瞳をわたしに...
「ちゃんと、覚えてるから。わたしが今のサイトと同じ気持ち...
サイトがわたしにしてくれたこと、忘れてないから。その時の...
今のサイトは、きっと、わたしに嫌わることを怖がってる。
惚れ薬のせいでわたし無しにはいられなくなっているのに、
だからこそ不用意に何かしてわたしから嫌われやしないかって...
わたしも、同じような気持ちになった。サイトの傍にずっと...
サイトに自分だけ見て欲しい。そんな気分になった。
そして同時に、それを強要して嫌われたらという不安にも襲...
結局、前者の気持ちの方が勝って、わたしはサイトにベタベ...
それは、サイトは優しいって。わたしのことを受け入れて、...
わかってたからだ。だから、嫌われる心配を抑え込んでしまっ...
■4
けど、今のサイトが、その時のわたしみたいにベタベタして...
わたしがいつもサイトに対してとってる態度のせい。犬扱いし...
殴ったり蹴ったり鞭で打ったり魔法で吹き飛ばしたりしてるせ...
わたしにとってのサイトは、甘えられて身を任せられて、み...
受け止めてもらえる人だった。少なくとも、あの時のわたしに...
けど、サイトにとってのわたしは、そんな相手とは程遠い。
だから、きっと身が張り裂けそうなくらいつらいんだろうに...
ヘンなことをしたら、わたしに嫌われてしまうって思って。
胸が痛かった。苦しかった。今のサイトにそれよりもつらい...
わたしの普段からの行いのせいだと思うと、涙が出そうだった。
「……わ、わたし、そんなに酷いご主人さまじゃないわよ」
そう言って、サイトの背中に手を回す。おっきくて逞しい。
いつもわたしを守ってくれる、サイトの身体。
「サイトが苦しいのがわかってて、それをどうにかするために...
そのことで怒ったり嫌ったりするような、きょ、狭量な人間じ...
あーあ、でも、何でこんな物言いになっちゃうのかしら。
「見くびらないでよね!」
わたしはサイトの胸に顔を押しつけて、言葉をぶつけるよう...
と、その直後、サイトも両手をわたしの背中に回して抱き留...
両脚の先が宙に浮いてしまって、びっくりしてじたばたして...
サイトはわたしの身体を抱いたまま部屋の中を移動して、わた...
「あっ……」
途端に脳裏に浮かび上がるのは、わたしが惚れ薬を飲んでし...
ベッドの上でのサイトとの行為。もう、思い出すだけで羞恥で...
数々の醜態。一気に全身が火照り、頭が沸騰してくる。
待って、待って、ちょっと待って。よく考えて。
勢いでサイトに色々言ってしまったけど、要するにわたしが...
あの時サイトがわたしにしてくれた、『気持ち悪いモヤモヤの...
今度はわたしがサイトにしてあげるってことよね。
それとも、わたしが何かするより、サイトに好きにさせてあ...
どっちがどっちなのか、わかんなくなっちゃったじゃない。
「ルイズ……」
サイトがわたしに覆い被さる。わたしを射抜くみたいな目。
”わたしのことを好きな”サイトが、わたしを見つめてる。
惚れ薬のせいだってわかってるのに、胸がどきんどきん高鳴っ...
今のサイトの気持ちをありありと想像できてしまったから。
わたしは惚れ薬の効果を消してもらった後、サイトに質問し...
薬のせいで無防備になってベタベタして、サイトに対して自...
していいとまで言ったわたしに、どうして”好きなこと”をしな...
『だって、あれはお前じゃないだろ。お前じゃないお前に、そ...
欲望にまかせて、大事な人を汚すなんて事は俺にはできない』
サイトはそう答えてくれた。嬉しかった。恥ずかしさで何も...
その言葉で心がふっと柔らかく、温かくなった気さえした。
けれども、サイトの言葉が正確じゃないことも自覚していた。
『お前じゃないお前』。サイトはそう言った。確かにその言...
普段からは考えられない事をしたり言ったりしてしまっていた...
でも、完全に『わたしじゃないわたし』だったわけじゃない。
もちろん100%それまでと同じわけじゃないけど、0%でもな...
わたしの中には、そりゃ、サイトのことを大事に思ってると...
そういう気持ちくらいある。あいつのしてくれてることに、お...
気持ちだってもちろんある。そういう感情が一片も無いほど恩...
■5
けど、いつも他のごちゃごちゃした気持ちが邪魔をして、素...
そういう気持ちを表に出せないでいる。それが『わたし』だっ...
あの惚れ薬を飲んでしまったわたしは、そんな、サイトへの...
邪魔する気持ちが綺麗さっぱり失せてしまった。
それだけであんな態度とか言動になるとは思わない。きっと...
もっと大げさになって、膨らんでしまったいた。それが、あの...
でも、その時の記憶を今のわたしは持っている。そして、そ...
思い出すことが出来る。あの時のわたしが、何か外からの別の...
心にも無いことを言わされてさせられているとは思わない。
わたしはあの瞬間の自分の気持ちを、そのまま形にしてサイ...
今だって言える。少なくとも、あの時の『わたし』にとって、...
そして、あの時のわたしを作り出したのは、今のわたしの中...
無から作られたわけじゃない。確かに、わたしの中から生ま...
だから、サイトの言葉を訂正するなら、あれは『わたしじゃ...
わたしの上にいる、サイトの顔を見つめる。いつものサイト...
今のサイトの瞳。あの時のわたしに当てはまるなら、今のサイ...
ここにいるのは、サイトじゃないけど、サイト。わたしを大...
わたしをいつも助けてくれる、わたしの使い魔。
『お前じゃないお前に、そんなことはできない』
じゃあ、もしもそのままのわたしだったら? ”そんなこと”...
「サ、サイト。あの」
「?」
サイトは小さく首を傾げた。
「わ、わたしのこと……、大事?」
「当たり前だろ」
サイトはすぐに答えた。まぎれもない、サイトの声で。
「ど、どうして大事なの?」
前にもした質問。けど、今もう一度聞いたら、違う答えが聞...
「好きだから」
サイトは真っ直ぐわたしを見つめたまま、そう言った。
一瞬、頭の中が空っぽになる。次いで、一気に熱で満たされ...
な、ななな、何言ってんのよ! 聞きたいのは、そゆことじ...
「〜〜〜〜っ! ほ、惚れ薬飲んじゃったんだから、好きにな...
あんたはわたしの時と違って、惚れ薬を飲んだわたしの様子を...
今の自分が普通じゃないってわかるはずでしょ!?
わたしが聞きたいのは、わたしのことが大事で、そ、その……好...
一気に文句を連ねると、サイトはわたしのすぐ前まで顔を寄...
「守りたいから」
頬を撫でて、そう言った。
全身から力が抜ける。とろんと視界がゆらぐ。何よそれ。そ...
これで『何で守りたいの?』って聞いたら、大事だからとか好...
心の隅ではそう思うのに、文句が言葉として出ない。出す気...
「ルイズが困ってたり、つらそうにしてたりするのを見ると、...
ルイズを助けられたり、二人で何かやり遂げたりできると、俺...
ルイズは危なっかしいからほっとけなくて、気になって、傍に...
……それじゃ駄目か?」
サイトは、寝乱れたわたしの髪を直しながら、そう続けた。
「……だめじゃ、ない……」
考える前に、かすれた声が喉から漏れ出た。惚れ薬を飲んで...
だから、今の言葉はサイトのもの。サイトが普段から考えて...
■6
「わ、わわわ、わたしのこと……、ほんとに、大事?」
また聞くと、サイトは頷いた。
「ほんとに、好き?」
頷きながら、頬を撫でてくる。
「……これからも、守っててくれる?」
「そう、したい」
最後の質問には、サイトは言葉で答えた。
頭の中がぐらぐらしてくる。やだ、どうしよう。嬉しい。薬...
ことはわかってるのに、それでも嬉しい。胸がいっぱいになる。
今は、わたしの方は惚れ薬なんか飲んでないのに……、もっと...
近くで触れて欲しいって、そんな風に思えてくる。おかしい。...
「ちょ、あの、その、えっと、待って。ちょっと待って」
わたしに何かしようとしてたわけじゃないのに、サイトに制...
サイトは首を傾げた。わたしは胸に手を当てて、深呼吸する。
もう、頭がゆだって何がしたいのか、何をするべきなのかわか...
「あー、うー、ええと……、そう! じょ、状況を整理しましょ...
あ、あんたは不可抗力で惚れ薬を飲んでしまった。それで、モ...
買ってくるまで、その状態で待ってないといけない。だけど……」
サイトはわたしを見つめながら、わたしの話を黙って聞いて...
「だけど、わたしは、惚れ薬を飲んじゃった状態で、ただ”待っ...
自分で体験して知ってる。そ、それに、あんたはわたしが飲ん...
その先を言うのが恥ずかしくなって、目を逸らしてしまった。
「そ、それに、あの時の……、サイトに、お礼とか、お返しした...
それも、まるっきりの嘘じゃなくて、普段から少しは考えてた...
自分でも、顔が真っ赤になってるのがわかる。言葉がどんど...
薬を飲んだ時は簡単に言えたのに。今は、回りくどい理屈をつ...
抑えつけないと言葉にならない。
そこで、言葉を切って、逸らしていた顔を再びサイトに向け...
わたしの心の奥まで見通してくるみたいな、わたしだけしか目...
また慌てて逸らす。顔を見てたら、絶対に言えない。
「……サイトは、何が……したいの?」
蚊の鳴くような声って、こういうのを指すのかしら。やっと...
い、今のは、違うから。あの時みたいに、『好きなことして...
あんたが恐れ多くもこのご主人さまに対してしたがっている...
それがヘンな物じゃなかったら、まぁ、ちょっとだけ許してあ...
そういう意味で……。
「ルイズ」
その後に続ける言葉を考えていたら、サイトはわたしの顎に...
どきんと心臓が一際大きく跳ねる。ま、待ちなさいってば。...
「キス、したい」
サイトはわたしに顔を寄せて、そう言った。開きかけた口か...
あの時、わたしが最初にしたくなったのと同じこと。同じ気持...
頭で考える前に、こくんと頷いて返してしまった。
ほとんど間を置かず、サイトの唇がわたしに重なる。それま...
ずっと近いサイトの温かさが、身体に流れ込んでくる。やっぱ...
サイトがわたしに覆い被さるような恰好になってるから、こ...
初めてだから、ものすごく……、サイトに包まれてるって感じが...
サイトに繋ぎ止められて、囚われて、サイトに思うままにさ...
■7
いつもより、ずっと長いキス。サイトの唇が開かれて、吐息...
終わっちゃうのかな、と思ったら、サイトの唇がわたしの唇...
「んっ……?」
柔らかく、唇で唇を挟んできた。やだ、サイトに食べられる...
一瞬頭をよぎった後、サイトはわたしの唇の形を確かめるよう...
唇を噛みながらそこに舌を這わせてくる。
「あっ……、ん、ひゃ……!」
くすぐったい。恥ずかしい。やだ、犬みたい。わたしの唇で...
抗議しようにも口を弄ばれてて、みっともなく涎が口元から垂...
「んむっ……!?」
口の中に、何か入ってきた。今までに一度も経験がない感触...
それがわたしの舌を”舐めて”きて……。
ぞくぞくっ、と背筋が震えた。サイトの舌だ。サイトの舌が...
「はっ……、ぁ、んふっ……、ちゅ……」
そのまま、サイトの舌がわたしの舌に絡みついて、吸い付い...
自分のものだけじゃない唾液が落ちてくる。身体から力が抜け...
ぐちゅ、ぐちゅって、はしたない水音が顔の内側から耳まで...
どこかで聞いたことはあったけど、でも、こんなの許してない...
わたしがついサイトの肩を押して拒むような力を入れたのを...
わたしの中から舌を引き抜いた。途端に、とても大事な物が逃...
酷い喪失感に襲われる。掴んだままの肩を今度は小さく引くと...
あっという間に、満たされた気分が体中に広がる。胸の奥が...
気持ちの良いモヤモヤが膨らんでいく。しているのはキスなは...
マッサージされたときと同じか、それ以上の強い刺激が身体に...
腰のあたりがきゅうっと縮こまった。キスなのに、キスだけ...
近付いていってる。もっと欲しいって、わたしの方からも舌を...
「ぐちゅ、ちゅぷ、ちゅ……、んぅっ…!」
サイトはわたしの口の中を掻き回すのを止めないまま、腰の...
その手がわたしの身体を撫でながら、上がってくる。そんな、...
マッサージなんてされたら、すぐにヘンになっちゃうよ。もっ...
そんな風に思って身構えたら、サイトの手はわたしの襟元で...
びくんと身体が跳ねる。サイトが次に”何がしたい”のか、わ...
サイトの顔が離れる。わたしの中からサイトがいなくなる。...
わたしの制服のタイを、少しだけ引っ張った。少しだけれど確...
サイト、脱がしたいんだ。わたしの服を脱がして、わたしの...
口の中に溜まった、わたしとサイトの唾液が半々のものを喉...
だめ。それはだめ。絶対だめ。わかるのに、わかってるのに...
思ったら、わたしに”したい”ことなんだって思ったら、拒否す...
今、思い出してしまった。惚れ薬を飲んで、サイトに『好き...
『好きなこと』をサイトがしなかった時の失望。
知ってる? あの時のわたしは、”好きなことをしていい”ん...
”好きなことをして欲しい”って思ってたのよ?
それじゃあ、今は? 今のわたしは? ”していい”の? ”し...
していいし、して欲しいけど、でも、しちゃだめなの?
わたしは震える手で、胸元にあるサイトの袖を掴んだ。
「……これは、サイトが……、本当に、望んでること?」
わたしの質問の意味を図りかねたのか、サイトは黙ってわた...
「サイトが、いつも、望んでることなら……、本当の気持ちだっ...
わたしの目の前にいるのが、”サイトじゃないけれどサイト”...
「……目をつむって、知らないフリ、しててあげるわ」
■8
サイトの顔を見るのが怖くなって、本当にぎゅっと目を閉じ...
前にも、同じ事をサイトに言った。その時とは、まるで違う...
……ううん、同じなのかもしれない。前に言ったときも、わた...
サイトに全部を任せて、押しつけるつもりで言った。自分から...
自分の責任になるのが怖いから。だから、”サイトからするこ...
形にして、自分の気持ちから逃げた。ずるくて汚い考え。
「ルイズ」
サイトがわたしの名前を呼んで、耳元に顔を寄せた。そして、
「好きだよ」
吐息と共に今のわたしと同じくらいずるい言葉を吹きかけて...
だめ、今、越えちゃいけない何かを越えちゃった。でも、止...
サイトの指がブラウスの前のボタンにかかって、自分でも無理...
すぐに前が開いて、薄い肌着だけの胸とお腹がサイトの前に...
やだ、やだやだ、恥ずかしいよ。ずっと前は平気でサイトの...
最近もブラウス越しなら触られちゃってたのに。今この時に肌...
信じられないくらい恥ずかしい。
見られたくない。貧相な身体も、惨めなくらいぺったんこな...
ううん、恥ずかしい一番の理由は、見られたくないからじゃ...
サイトが、見たいからだ。サイトがわたしの身体を見たくて脱...
ブラウスを脱がせきらないままで、サイトの指が肌着を持ち...
わたし、自分で背中を持ち上げてサイトがやりやすいようにし...
ごめんね、あんたが見たいわたしの身体、自分でも情けなく...
こんなのが見たいあんたって、よっぽどの物好きだわ。
肌着が持ち上がりきって、胸まで何も隠すものが無くなった...
「……綺麗だよ、ルイズ」
お世辞なら止めてよね。わたしってば、そんな言葉で幸せに...
サイトの指が首筋に触れる。胸元に触れる。そこから脇に移...
ゆっくり降りてくる。今までと同じ、わたしのコンプレックス...
わたしを大事にしてくれてるのが伝わる優しい手。けど、そこ...
洋服越しの時とは全然違う。サイトの気持ちが、直接流れ込ん...
その指が、名残惜しそうにわたしの肌から離れて……、スカー...
思わず腰を引いてしまう。太股がぎゅっと閉じる。
わかってたけど、わかってるつもりだったけど、それは、その...
「……サイト」
目をつむってるという約束を破って、サイトを見上げる。
「えっと、あの……、赤ちゃん、作りたいの?」
意を決して、聞くなら今しかないと思って、そう質問する。...
サイトはきょとんとした顔になった後、苦笑を浮かべた。
「な、何よ。サイトが、あの時教えてくれなかったから……!」
以前にサイトに呆れられた時の事も含めて、羞恥が湧き上が...
わたしだって、具体的にどんなことをするかを母さまが教え...
大体は知ってるわよ。服を脱いで、床に入って、その……、いや...
いや、逆ね。赤ちゃんを作るのは、限られたただ一人の相手...
”そういうこと”が容易には許されないこと、いやらしいことと...
だから、わたしは知らなかった。ただ一人の愛する殿方にし...
わたしが知ってる必要はないと思ったから。きっと、母さまも...
教えなかったんだわ。
とにかく、愛してる相手の全部を知って、触れていたいって...
伴侶になって子供を作りたいって気持ちからなわけで……、今の...
■9
けど、困る。赤ちゃんができちゃったら困るわよ。まだそん...
いや、まだとかそういう問題じゃなくて……、ああもう、とにか...
「ルイズが望まないなら、子供ができるようなことはしないか...
わたしの考えを察したのか、サイトは苦笑を微笑みに変えて...
「そ、そう……」
その言葉を聞いて、ほっとした。でも、なんか少し残念な気...
「でも、なんていうか……、子供を作る事の、真似を、ルイズと...
「真似? 真似でいいの?」
「子供を作るわけにはいけない恋人同士は、真似で気持ちを確...
サイトは言葉を選ぶようにして、そう教えてくれた。恋人同...
でも、その説明でちょっと合点がいった。恋人と最後までし...
端からも結構聞こえてたけど、子供ができちゃったらどうする...
なるほど、真似だったのね。納得。
「ルイズが困るようなことは、絶対しない」
サイトはわたしを見つめながら、きっぱりそう言った。視界...
そっか、それならまぁ、いいかな……。良くない気もするけど、...
「わ、わわ、わたしのことが、好きだから、したいのよね?」
頷くサイト。それなら、それなら……。わたしはまた目をつむ...
サイトの顔が近付く気配がして、またキスされた。今度は唇...
顎を持ち上げて、より深くサイトと重なれるようにした時、
「えっ?」
背中に手が回されて、ぐいっと引き上げられる。わたしがベ...
恰好になると、サイトはわたしの後ろに回って、わたしの腰を...
後ろから腰に手が当てられて、ぷちんと音を立ててスカート...
サイトはわたしの太股を持って腰を浮かせると、すぐにスカ...
流れるような作業で、反応してる暇も無かった。なんでこん...
「触るぞ? ルイズ」
「ひゃうっ! ちょ、待って、そこ……!」
耳の後ろに息を吹きかけられて力が抜けている間に、サイト...
付け根の方に登ってくる。ホントに待って、そこだめ、今はだ...
びくん!と顎が持ち上がる。背中にいるサイトのおかげで倒...
サイトに触られて、どこよりも強くて、怖いくらいの刺激があ...
一番大事なところに、サイトの指が当てられた。
次いで、じわっという湿った感触が伝わってくる。
また、濡れちゃってる。自分でもわかってたけど、今のでサイ...
サイトに触られた。サイトの指を汚しちゃった。爆発するみ...
「ルイズ、わかる?」
「ふ、ぁあ……、な、に?」
探るような手つきでサイトの指がわたしの下着をなぞって、...
「ここで、ルイズの大事なところで、俺と繋がる。そうしたら...
あ、前に聞いた、子供の作り方、教えてくれてるんだ。
でも、”俺と”って何よう。まるでわたしが赤ちゃんを作る相...
あんたしか有り得ないって決めつけてるみたいじゃない。
「ここ、って? ……っあ、あっ!!」
聞くと、サイトの指が下着越しに、僅かに沈んだ。
じゅわっ、と下着にさらに染みが広がるのがわかる。あぁ、わ...
「ルイズのここが、何でこんなに濡れてるかわかるか?」
「は、ぁ……なん……で?」
頭が回らない、サイトの胸に完全に背中を預けてしまいなが...
■10
「……好きな相手を、傷付かずに受け入れるために濡れてるんだ...
内緒話するみたいに囁かれて、絶句した。
背筋が震えるのと同時に、今まで疑問だったことが一本に繋が...
そういえば、サイトにマッサージされた時とか、サイトのこ...
そんな時にしか、こういう風に”濡れた”ことってなかった。そ...
「うそ、そんなの……」
サイトに触られるのとか、サイトに気持ちよくしてもらうの...
サイトの赤ちゃんが欲しいなんて考えたことはない。絶対無い。
「嘘じゃないよ。ほら、俺だって」
サイトはだだっ子をあやすみたいに優しい声で言うと、わた...
サイトの腰に、わたしのお尻がぴったり当たる。それだけでも...
でも、それでは済まなくて。
「あ……、えっ……?」
サイトのズボンの前に、何だか固い感触。一瞬、中に何か入...
「ルイズに触れてるから、こんなになってる」
その固いのが、ぴくん、って震えた気がした。それで、やっ...
これ、女性には無くて、男性にだけついてる。信じられないほ...
「ルイズと同じ。大事な相手と繋がりたいから、こうなるんだ」
「………っ!!」
ガツン、とトドメを刺された。サイトはわたしと赤ちゃんが...
わたしの身体も、サイトとの赤ちゃんが、ほ、欲しい……、から...
今のサイトは惚れ薬を飲んで普通じゃなくなってる。けど、...
わかんない。わかんないよ。自分の気持ちがわかんない。怖...
「でも、でもでも、だめ、それは、だめだからっ!」
「わかってるよ。ルイズが困ることはしないって、言ったろ?」
子供みたいにいやいやをすると、サイトはわたしの頭を撫で...
その言葉だけで、混乱してた頭が安心しかけてしまう。
「真似、させて欲しい」
サイトはそう言ってから、わたしの太股を持って持ち上げ、...
サイトの足にそこを擦りつけてしまった時のことを思い出した...
金属の擦れる音が聞こえたので視線を下ろすと、サイトがズ...
「あっ……」
思わず声が漏れた。驚きだったのか、感心だったのか、よく...
赤黒くて、何とも形容しがたい形で、こんなのがサイトの身...
全く考えもしなかったような物が、サイトの下着の切れ目から...
すごい。何これ。信じられない。それに、こんなに大きかっ...
「つ、繋がるって、無理よ、こんなの」
「だから、それはしないってば」
思わず口をついて出た正直な感想に、サイトは苦笑する。
でも、それだとサイトとわたしでは子供が作れないって言わ...
「じっとしてて」
サイトは続けてそう言うと、またわたしの身体を持ち上げた...
逸らして、お腹の下あたりにわたしのお尻が来るようにして、...
「え……、あ、わ……!」
ずるずるとサイトのシャツの上を滑って、わたしの腰は、あ...
引っかかるような場所で止まった。サイトの”それ”がわたしの...
太股の間から飛び出して、まるで、その……、わたしに、”それ”...
「ま、待ってよ、真似だけだって言ったでしょ!」
「ああ、真似だけ。……だから、ルイズ」
「え?」
「俺のそれ、手で触ってくれるか?」
”お願い”されたことの内容に、頭の中に火がつく。
■11
「な、なななな……!」
「手で押さえてる限り、真似にしかならないよ。それに、触れ...
それを言われると弱い。わたしが胸とかをマッサージされる...
サイトの大事なところなんだから、きっとそういうことなんだ...
「だめ、か?」
「だ、だめじゃないわよ、もう……」
悲しそうな声で言わないでよ。わたしは恐る恐る手を足の間...
ほんとにわたしにくっついたみたいに足の間から飛び出した”そ...
「くっ……!」
「あ……、あ、熱い」
触れた瞬間、サイトは喉から息を漏らして、身体を震わせた...
びくんと脈動する。次いで、意外なほどの熱さが指に伝わって...
すぐに、直感的に、わかってしまった。これ、サイトの一部...
確かに、サイトに繋がってるものなんだって。それを認識して...
”それ”と薄い下着越しに触れ合っているわたしの部分が、きゅ...
繋がれる。今、例えば下着をずらして、腰を少し持ち上げて...
本当にこんなのがわたしの中に入るのか疑わしいけど、それを...
わたしとサイトの赤ちゃん、できちゃう。
また、身体の中から染み出してくる感覚。サイトのが、わた...
サイトの”わたしと赤ちゃんを作りたい証拠”が、わたしの”サイ...
ぬるぬるに汚されていく。いやらしい。本当にいやらしいこと...
「は、ぁ……、サイト……」
指をからめたそれを、より強く握る。また、一層固くなった...
わたしは、その中に熱くて切ないモヤモヤがこれ以上無いほど...
僅かに持ち上げると、ゆっくり上下させて、サイトに、擦りつ...
「ふぁっ……! あ、あっ、あ……!!」
体中に痺れが走り抜ける。抑えようもない声が漏れて、足が...
サイトの足に擦りつけたときより、サイトにタオルで拭かれ...
何も考えられなくなる。頭の中も身体の中も、サイトのこと...
「ルイズ、ルイズっ……!」
わたしの太股を掴んだままだったサイトが、わたしに合わせ...
ぬちゅぬちゅってはしたない音を立てながら、わたしのそこと...
擦って、戻って、その度にわたしをおかしくする。
必死で、一生懸命で、切なそうな気持ちよさそうなサイトの...
わたしがそこを擦られて気持ちいいみたいに、サイトもそこ...
それがわかったら、わたしはサイトにもっともっと身体を押...
それで……、二人で、気持ちよくなる。
二人で。そう思ったら、涙が零れた。わたし、お返しできて...
今までの、形にできなかった気持ち、伝えられてる? ね、サ...
そんなに、時間はかからなかったと思う。我慢する余裕も抑...
サイトのことを全身で感じながら、気持ちいいのが膨らんで、...
どんな声を上げちゃったのか、そんなのも覚えてない。頭が...
ぐったりとサイトの身体に背中を預けて、そのまま眠ってしま...
でも、わたしの手の中に溢れた感触に、わたしは意識を引き留...
熱いものが手のひらに当たって、指の間を溢れて、ぼたぼた...
サイトの”それ”から吐き出されたものだって気付くのに、し...
火傷するんじゃないかってくらい熱く思えたそれが、空気に...
どろりと肌を落ちる。真っ白で、ゼリーかヨーグルトみたい。
■12
「あの、サイト、これ……」
「これを、ルイズが受け止めたら、子供ができるんだよ」
ちゃんと聞く前に、サイトは察して答えてくれた。
それはすぐに熱を失って、わたしの手やお腹の上で、冷たく...
なんとなく、凄く申し訳ないような事をしてしまった気分が...
今したのが、赤ちゃんを作る”真似”に過ぎないんだって気持ち...
「ルイズ」
そんなわたしの気持ちがわかったのかそうでないのか、サイ...
「ありがとう」
これ以上無いほど幸せそうな声で、囁いてくれた。
わたしは答えずに、わたしを抱くサイトの腕を、そっと掴ん...
∞ ∞ ∞
「うー……、何か、入るのが怖いわね……」
記録的な速度でトリスタニアまでひとっ飛びし、解毒薬の材...
ルイズたちの様子を確認する前に薬を調合したのはいいけど、...
中を確認するのを躊躇してしまっていた。
少し前にノックをしたけれど返事が無いのだ。何だか嫌な予...
「手遅れなら今さらどうしようもない。早く」
「て、手遅れって、貴女ね」
往復の手伝いをしてくれただけでなく、ここまでついてきて...
こんな子供みたいな外見なのに、随分と達観した子ね、ホント。
彼女ってば、寄った店で材料が品切れなのを確認するやいな...
示して、フライまで使って案内してくれた。非合法っぽい店ま...
「まぁ、彼女の言うとおりさ。早く届けるのが一番の気遣いだ...
「あっ、ギーシュ!」
止める間もなく、ギーシュが堂々とルイズの部屋のドアを開...
後に続いてタバサも部屋に踏み入る。わたしも解毒薬のビンを...
「ど、どう? ギーシュ」
恐る恐る聞くと、タバサが振り向いて口元に人差し指を立て...
ギーシュは踵を返して苦笑すると、やれやれとでも言いたげに...
わたしも部屋を見回して、ベッドの上に目をとめると、ため...
解毒薬のビンはテーブルの上に置いて、わたしたちは部屋か...
安心したけど、なんか妙に疲れたわ。
「あれ、セーフだと思う?」
「どうだろうねぇ、ちょっと判断に困るよ」
わたしの質問に、ギーシュは顎に手を当てる。タバサは何も...
「ま、でもあの様子なら何かあったとしても文句は言われない...
「そうね」
珍しくギーシュの意見に同意して、わたしは頷き返した。
だって、あの二人ってば、しっかり寝間着に着替えて、ベッ...
あの幸せそうな寝顔を見たら、惚れ薬っていうのも使いようか...
つづく
[[前の回>X00-11]] [[一覧に戻る>Soft-M]] [[次の回>X00-27]]
終了行:
[[前の回>X00-11]] [[一覧に戻る>Soft-M]] [[次の回>X00-27]]
**ゼロの飼い犬15 お医者様でも草津の湯でも(後編) ...
■1
見上げた女子寮の窓際にいた人影は、わたしの姿に気付くと...
けれど、立派なおでこがバッチリ見えた。言い逃れなんてで...
「隠れても無駄よ! 出てきなさーい!」
わたしの怒鳴り声を聞いてそろそろと再び顔を見せ、その部...
香水のモンモランシーは蒼白な顔をこちらへ向けた。
なんで水なんて撒いたのか問い詰めようと思ったけど、どう...
眉根をひそめて、わたしではなくわたしの後ろにいるサイト...
なんとなく嫌な予感がして、サイトの方を振り向こうとした...
不意にわたしの体の前に手が回された。
「え?」
「ルイズ」
耳元すぐ近くでサイトの声が聞こえて、一瞬、何をされたの...
サイトがわたしを後ろから抱きしめてきたのだ。吐息があた...
「な、なに? ちょっと、やめてよ、こんなとこで……」
いや、こんなとこじゃなかったら良いってわけでもないんだ...
慌てて文句を言い、振り払おうとしたところで、何だか覚えの...
「あっ」
サイトの髪と顔を湿らせている液体。たった今、モンモラン...
わたしの心臓がどきんと跳ね上がった。すぐさま身を屈めて...
距離をとってから恐る恐る振り向いてその顔を見る。
サイトは、逃げるみたいなことをしたわたしのことを、不安...
わたしの方へ近寄ろうとして、自分でその足を止める。
その雰囲気。まるで、わたしに拒まれるのを怖がっているよ...
「ご、ごめん。急に抱きついたりして……。悪気があったわけじ...
「あ……、うん。わかってる」
何かを我慢しているような、辛そうな顔でそう言われて、怒...
同時に、その態度にピンと来る。わたしはサイトの手を引っ...
出てきたばかりの女子寮にとって返した。
「解毒薬が作れないですって!?」
「ちょ、ちょっと怒鳴らないでよ、落ち着いて」
「これが落ち着いてられるわけないでしょ!」
詰め寄って睨み付けると、モンモランシーに誤魔化し笑いを...
ここはモンモランシーの部屋。サイトを連れて押しかけて、...
待ちかまえていた彼女を問いただしたところ、サイトが被って...
モンモランシーが作った惚れ薬の残りだったらしいことがわか...
ところが、だったら解毒薬を早くよこしなさいと言ったわた...
「簡単には用意できない」。そりゃあ怒りたくもなる。
「『水の精霊の涙』、全部使っちゃったの!?」
「ううん、それはまだあるんだけど、それ以外にも色々材料は...
そっちが足りてなくて、街に行って調達してこないと解毒剤は...
「なによそれぇ……」
頭を抱える。トリスタニアまで行って、薬屋を回って帰って...
「何だかんだ言って随分なトラブルメーカーだねキミは。モン...
「あなたに言われるともの凄いショックだわ……。否定はできな...
モンモランシーを迎えに来たとかでいつのまにか話を聞いて...
やれやれと肩をすくめる。モンモランシーは渋い顔をした。
■2
「それで、どうするんだい? 今から買い出しかな?」
「まぁ、仕方ないわね。またサボりになっちゃうけど」
「だったら僕も付き合うよ」「サボる口実が欲しいだけじゃ...
言い合っている二人を尻目に、わたしは戸口で待たせていたサ...
サイトは一瞬目を見開いた後、その瞳をとろんと潤ませた。
胸が締め付けられる。今のサイトが惚れ薬のせいでわたしの...
いるのなら、どんな気持ちになっているのか、わたしは痛いほ...
わたしはサイトの傍まで近寄ると、その手をとった。
「えっと、その……、今日中に、治してあげるから。あ、安心し...
サイトは小さく頷いて、やっぱりわたしをじっと見つめる。
その視線に耐えられなくなって、わたしは目を逸らしてしまっ...
そう、わたしは知ってる。今のサイトの立場に、つい一週間...
”好き”になってしまった人と離れていると、どれだけ苦しい...
切なくて、寂しくて、不安な気持ちがどんどん膨らんで、ど...
自分の溢れた感情に押し潰されそうになってしまう思いを、サ...
薬のせいだからとか、自分本来の気持ちじゃないとか、そん...
例えとしては良くないけど、何も考えられないくらい眠たい...
お腹が空いて倒れそうな状態で料理のテーブルについた時とか...
頭で考えて自制する余裕なんてとても無いくらい、サイトが...
恋の病なんていう言葉があるけど、それこそ病気みたいに自...
その苦しさを和らげてくれるのは、”好き”になった相手だけだ...
「サイト」
それだけじゃない。サイトの胸に手を当てて、呼びかける。
”好き”になってしまった人に傍にいてもらって、触れてもら...
名前を呼んでもらって、見つめてもらうだけで、そんなに満...
それも知ってる。それが、この世界にそれ以上の幸せなんて...
気持ちの良いことだっていうことも……、サイトが、教えてくれ...
だから、あの時のわたしを助けてくれたサイトのことを、
今度はわたしが助けてあげないといけない。サイトの気持ちを...
「ルイズ」
サイトの熱い手のひらが、わたしの手を包み込む。胸に当て...
伝わってくる。わたしの胸も高鳴ってくる。今、サイトが、あ...
幸せな気持ちになってくれてるんだと思うと……、こっちも、嬉...
サイトが、わたしの手をきゅっと握りしめる。空いた手でわ...
びくんと身体が跳ねた。何をしようとしてるのか、すぐにわか...
『キス……、すると、ちょっとだけとれる』
他でもない、わたしがサイトにそう教えたんだ。気持ちの悪...
気持ちの良いモヤモヤにひっくり返ること。惚れ薬を飲む前か...
ばらしてしまって……。
サイトが顔を傾けて、瞳を閉じた。
拒めない。だって、あの時わたしは、サイトの気持ちも考え...
自分がしたいから、サイトにキスしたのだから。拒めないよ。...
したら、どんなにつらい気持ちになるか、それも想像できちゃ...
わたしも、小さく息をついて、瞼を落として――。
「えー、コホン。あのだね、そういうことは他人の部屋では避...
「ふぎゃあ!?」「おぐっ!?」
ギーシュの気まずそうな声が飛んできて、わたしは反射的に...
なんか、サイトの首の後ろからゴキッっていう音が聞こえて...
「……はっ! あ、そ、そうよ! ここでするのはやめなさい!...
「モンモランシー。ひょっとして見とれてたのかい?」
振り向くと、顔を真っ赤にして我に返るモンモランシーと、...
■3
「なっ、なななな何よ! はは、早く解毒剤の材料買いに行き...
「わ、わかってるわよ」
モンモランシーは頬を染めてちらちらこちらを見ながら、思...
わたしがドキドキ鳴っている胸を抑えて深呼吸していると、...
「話は聞かせてもらった」
「ひゃっ!」「何だね!?」
今度は、窓の近くにいたモンモランシーとギーシュが突然の...
飛び上がった。突然そこに現れたのは、フライで飛んでいるら...
窓枠に片手をついてこちらの様子を観察している。
「タ、タバサか。どうしたんだね、こんな所に」
「四人揃って遅刻しているから、気になった」
タバサはギーシュの質問に簡潔に答えると、
「トリスタニアまで行くなら、わたしが風竜で送る。その方が...
「そうしてくれるなら、助かるけど……。なんであなたが?」
「彼には、借りがあるから」
タバサは、サイトの方へ一瞬だけちらりと目を向けてからそ...
なんとなく、その視線に引っかかるものを感じたけど、それ...
彼女はいつもの無表情に戻ってしまう。
「行くなら、早く」
「わ、わかったから急かさないでってば」
慌ただしい準備を終えて、タバサとモンモランシーと、一応...
タバサの風竜は、それこそ風のようにトリスタニアへ向け飛び...
タバサ達を見送った後、授業どころじゃないと思い、サイト...
ドアの閉まる音がやけに大きく耳に響く。振り向いて自室の...
先に中に入っていたサイトが、棒立ちになったまま顔を伏せて...
「……サイト?」
一歩踏み出して声をかけると、その肩が小さく震えた。さっ...
わたしは……、やっぱり、サイトの気持ちがわかる気がして、...
「あの……、あの、その、ね? サイト」
わたしは努めて明るい声で呼びかける。
「えっと……、わたしは、わかるから。
今のサイトがどんな気分なのか、自分で体験して知ってるから…...
どう言ったらいいのか模索しながら、サイトに語りかける。
今のサイトの気持ちを推し量って、どうするのが一番なのか、...
「だから、その」
また、サイトの手をとろうとしたら、サイトは一歩後じさっ...
ぞくっ、と背筋に冷たい物が走る。”今のサイト”が自らそれ...
苦しいことか知ってるから。それに、どうしてそんなことをし...
わたしは駆け寄って、サイトの両腕を掴んだ。
「……怖がらないで」
サイトの顔を見上げる。サイトは不安に揺れる瞳をわたしに...
「ちゃんと、覚えてるから。わたしが今のサイトと同じ気持ち...
サイトがわたしにしてくれたこと、忘れてないから。その時の...
今のサイトは、きっと、わたしに嫌わることを怖がってる。
惚れ薬のせいでわたし無しにはいられなくなっているのに、
だからこそ不用意に何かしてわたしから嫌われやしないかって...
わたしも、同じような気持ちになった。サイトの傍にずっと...
サイトに自分だけ見て欲しい。そんな気分になった。
そして同時に、それを強要して嫌われたらという不安にも襲...
結局、前者の気持ちの方が勝って、わたしはサイトにベタベ...
それは、サイトは優しいって。わたしのことを受け入れて、...
わかってたからだ。だから、嫌われる心配を抑え込んでしまっ...
■4
けど、今のサイトが、その時のわたしみたいにベタベタして...
わたしがいつもサイトに対してとってる態度のせい。犬扱いし...
殴ったり蹴ったり鞭で打ったり魔法で吹き飛ばしたりしてるせ...
わたしにとってのサイトは、甘えられて身を任せられて、み...
受け止めてもらえる人だった。少なくとも、あの時のわたしに...
けど、サイトにとってのわたしは、そんな相手とは程遠い。
だから、きっと身が張り裂けそうなくらいつらいんだろうに...
ヘンなことをしたら、わたしに嫌われてしまうって思って。
胸が痛かった。苦しかった。今のサイトにそれよりもつらい...
わたしの普段からの行いのせいだと思うと、涙が出そうだった。
「……わ、わたし、そんなに酷いご主人さまじゃないわよ」
そう言って、サイトの背中に手を回す。おっきくて逞しい。
いつもわたしを守ってくれる、サイトの身体。
「サイトが苦しいのがわかってて、それをどうにかするために...
そのことで怒ったり嫌ったりするような、きょ、狭量な人間じ...
あーあ、でも、何でこんな物言いになっちゃうのかしら。
「見くびらないでよね!」
わたしはサイトの胸に顔を押しつけて、言葉をぶつけるよう...
と、その直後、サイトも両手をわたしの背中に回して抱き留...
両脚の先が宙に浮いてしまって、びっくりしてじたばたして...
サイトはわたしの身体を抱いたまま部屋の中を移動して、わた...
「あっ……」
途端に脳裏に浮かび上がるのは、わたしが惚れ薬を飲んでし...
ベッドの上でのサイトとの行為。もう、思い出すだけで羞恥で...
数々の醜態。一気に全身が火照り、頭が沸騰してくる。
待って、待って、ちょっと待って。よく考えて。
勢いでサイトに色々言ってしまったけど、要するにわたしが...
あの時サイトがわたしにしてくれた、『気持ち悪いモヤモヤの...
今度はわたしがサイトにしてあげるってことよね。
それとも、わたしが何かするより、サイトに好きにさせてあ...
どっちがどっちなのか、わかんなくなっちゃったじゃない。
「ルイズ……」
サイトがわたしに覆い被さる。わたしを射抜くみたいな目。
”わたしのことを好きな”サイトが、わたしを見つめてる。
惚れ薬のせいだってわかってるのに、胸がどきんどきん高鳴っ...
今のサイトの気持ちをありありと想像できてしまったから。
わたしは惚れ薬の効果を消してもらった後、サイトに質問し...
薬のせいで無防備になってベタベタして、サイトに対して自...
していいとまで言ったわたしに、どうして”好きなこと”をしな...
『だって、あれはお前じゃないだろ。お前じゃないお前に、そ...
欲望にまかせて、大事な人を汚すなんて事は俺にはできない』
サイトはそう答えてくれた。嬉しかった。恥ずかしさで何も...
その言葉で心がふっと柔らかく、温かくなった気さえした。
けれども、サイトの言葉が正確じゃないことも自覚していた。
『お前じゃないお前』。サイトはそう言った。確かにその言...
普段からは考えられない事をしたり言ったりしてしまっていた...
でも、完全に『わたしじゃないわたし』だったわけじゃない。
もちろん100%それまでと同じわけじゃないけど、0%でもな...
わたしの中には、そりゃ、サイトのことを大事に思ってると...
そういう気持ちくらいある。あいつのしてくれてることに、お...
気持ちだってもちろんある。そういう感情が一片も無いほど恩...
■5
けど、いつも他のごちゃごちゃした気持ちが邪魔をして、素...
そういう気持ちを表に出せないでいる。それが『わたし』だっ...
あの惚れ薬を飲んでしまったわたしは、そんな、サイトへの...
邪魔する気持ちが綺麗さっぱり失せてしまった。
それだけであんな態度とか言動になるとは思わない。きっと...
もっと大げさになって、膨らんでしまったいた。それが、あの...
でも、その時の記憶を今のわたしは持っている。そして、そ...
思い出すことが出来る。あの時のわたしが、何か外からの別の...
心にも無いことを言わされてさせられているとは思わない。
わたしはあの瞬間の自分の気持ちを、そのまま形にしてサイ...
今だって言える。少なくとも、あの時の『わたし』にとって、...
そして、あの時のわたしを作り出したのは、今のわたしの中...
無から作られたわけじゃない。確かに、わたしの中から生ま...
だから、サイトの言葉を訂正するなら、あれは『わたしじゃ...
わたしの上にいる、サイトの顔を見つめる。いつものサイト...
今のサイトの瞳。あの時のわたしに当てはまるなら、今のサイ...
ここにいるのは、サイトじゃないけど、サイト。わたしを大...
わたしをいつも助けてくれる、わたしの使い魔。
『お前じゃないお前に、そんなことはできない』
じゃあ、もしもそのままのわたしだったら? ”そんなこと”...
「サ、サイト。あの」
「?」
サイトは小さく首を傾げた。
「わ、わたしのこと……、大事?」
「当たり前だろ」
サイトはすぐに答えた。まぎれもない、サイトの声で。
「ど、どうして大事なの?」
前にもした質問。けど、今もう一度聞いたら、違う答えが聞...
「好きだから」
サイトは真っ直ぐわたしを見つめたまま、そう言った。
一瞬、頭の中が空っぽになる。次いで、一気に熱で満たされ...
な、ななな、何言ってんのよ! 聞きたいのは、そゆことじ...
「〜〜〜〜っ! ほ、惚れ薬飲んじゃったんだから、好きにな...
あんたはわたしの時と違って、惚れ薬を飲んだわたしの様子を...
今の自分が普通じゃないってわかるはずでしょ!?
わたしが聞きたいのは、わたしのことが大事で、そ、その……好...
一気に文句を連ねると、サイトはわたしのすぐ前まで顔を寄...
「守りたいから」
頬を撫でて、そう言った。
全身から力が抜ける。とろんと視界がゆらぐ。何よそれ。そ...
これで『何で守りたいの?』って聞いたら、大事だからとか好...
心の隅ではそう思うのに、文句が言葉として出ない。出す気...
「ルイズが困ってたり、つらそうにしてたりするのを見ると、...
ルイズを助けられたり、二人で何かやり遂げたりできると、俺...
ルイズは危なっかしいからほっとけなくて、気になって、傍に...
……それじゃ駄目か?」
サイトは、寝乱れたわたしの髪を直しながら、そう続けた。
「……だめじゃ、ない……」
考える前に、かすれた声が喉から漏れ出た。惚れ薬を飲んで...
だから、今の言葉はサイトのもの。サイトが普段から考えて...
■6
「わ、わわわ、わたしのこと……、ほんとに、大事?」
また聞くと、サイトは頷いた。
「ほんとに、好き?」
頷きながら、頬を撫でてくる。
「……これからも、守っててくれる?」
「そう、したい」
最後の質問には、サイトは言葉で答えた。
頭の中がぐらぐらしてくる。やだ、どうしよう。嬉しい。薬...
ことはわかってるのに、それでも嬉しい。胸がいっぱいになる。
今は、わたしの方は惚れ薬なんか飲んでないのに……、もっと...
近くで触れて欲しいって、そんな風に思えてくる。おかしい。...
「ちょ、あの、その、えっと、待って。ちょっと待って」
わたしに何かしようとしてたわけじゃないのに、サイトに制...
サイトは首を傾げた。わたしは胸に手を当てて、深呼吸する。
もう、頭がゆだって何がしたいのか、何をするべきなのかわか...
「あー、うー、ええと……、そう! じょ、状況を整理しましょ...
あ、あんたは不可抗力で惚れ薬を飲んでしまった。それで、モ...
買ってくるまで、その状態で待ってないといけない。だけど……」
サイトはわたしを見つめながら、わたしの話を黙って聞いて...
「だけど、わたしは、惚れ薬を飲んじゃった状態で、ただ”待っ...
自分で体験して知ってる。そ、それに、あんたはわたしが飲ん...
その先を言うのが恥ずかしくなって、目を逸らしてしまった。
「そ、それに、あの時の……、サイトに、お礼とか、お返しした...
それも、まるっきりの嘘じゃなくて、普段から少しは考えてた...
自分でも、顔が真っ赤になってるのがわかる。言葉がどんど...
薬を飲んだ時は簡単に言えたのに。今は、回りくどい理屈をつ...
抑えつけないと言葉にならない。
そこで、言葉を切って、逸らしていた顔を再びサイトに向け...
わたしの心の奥まで見通してくるみたいな、わたしだけしか目...
また慌てて逸らす。顔を見てたら、絶対に言えない。
「……サイトは、何が……したいの?」
蚊の鳴くような声って、こういうのを指すのかしら。やっと...
い、今のは、違うから。あの時みたいに、『好きなことして...
あんたが恐れ多くもこのご主人さまに対してしたがっている...
それがヘンな物じゃなかったら、まぁ、ちょっとだけ許してあ...
そういう意味で……。
「ルイズ」
その後に続ける言葉を考えていたら、サイトはわたしの顎に...
どきんと心臓が一際大きく跳ねる。ま、待ちなさいってば。...
「キス、したい」
サイトはわたしに顔を寄せて、そう言った。開きかけた口か...
あの時、わたしが最初にしたくなったのと同じこと。同じ気持...
頭で考える前に、こくんと頷いて返してしまった。
ほとんど間を置かず、サイトの唇がわたしに重なる。それま...
ずっと近いサイトの温かさが、身体に流れ込んでくる。やっぱ...
サイトがわたしに覆い被さるような恰好になってるから、こ...
初めてだから、ものすごく……、サイトに包まれてるって感じが...
サイトに繋ぎ止められて、囚われて、サイトに思うままにさ...
■7
いつもより、ずっと長いキス。サイトの唇が開かれて、吐息...
終わっちゃうのかな、と思ったら、サイトの唇がわたしの唇...
「んっ……?」
柔らかく、唇で唇を挟んできた。やだ、サイトに食べられる...
一瞬頭をよぎった後、サイトはわたしの唇の形を確かめるよう...
唇を噛みながらそこに舌を這わせてくる。
「あっ……、ん、ひゃ……!」
くすぐったい。恥ずかしい。やだ、犬みたい。わたしの唇で...
抗議しようにも口を弄ばれてて、みっともなく涎が口元から垂...
「んむっ……!?」
口の中に、何か入ってきた。今までに一度も経験がない感触...
それがわたしの舌を”舐めて”きて……。
ぞくぞくっ、と背筋が震えた。サイトの舌だ。サイトの舌が...
「はっ……、ぁ、んふっ……、ちゅ……」
そのまま、サイトの舌がわたしの舌に絡みついて、吸い付い...
自分のものだけじゃない唾液が落ちてくる。身体から力が抜け...
ぐちゅ、ぐちゅって、はしたない水音が顔の内側から耳まで...
どこかで聞いたことはあったけど、でも、こんなの許してない...
わたしがついサイトの肩を押して拒むような力を入れたのを...
わたしの中から舌を引き抜いた。途端に、とても大事な物が逃...
酷い喪失感に襲われる。掴んだままの肩を今度は小さく引くと...
あっという間に、満たされた気分が体中に広がる。胸の奥が...
気持ちの良いモヤモヤが膨らんでいく。しているのはキスなは...
マッサージされたときと同じか、それ以上の強い刺激が身体に...
腰のあたりがきゅうっと縮こまった。キスなのに、キスだけ...
近付いていってる。もっと欲しいって、わたしの方からも舌を...
「ぐちゅ、ちゅぷ、ちゅ……、んぅっ…!」
サイトはわたしの口の中を掻き回すのを止めないまま、腰の...
その手がわたしの身体を撫でながら、上がってくる。そんな、...
マッサージなんてされたら、すぐにヘンになっちゃうよ。もっ...
そんな風に思って身構えたら、サイトの手はわたしの襟元で...
びくんと身体が跳ねる。サイトが次に”何がしたい”のか、わ...
サイトの顔が離れる。わたしの中からサイトがいなくなる。...
わたしの制服のタイを、少しだけ引っ張った。少しだけれど確...
サイト、脱がしたいんだ。わたしの服を脱がして、わたしの...
口の中に溜まった、わたしとサイトの唾液が半々のものを喉...
だめ。それはだめ。絶対だめ。わかるのに、わかってるのに...
思ったら、わたしに”したい”ことなんだって思ったら、拒否す...
今、思い出してしまった。惚れ薬を飲んで、サイトに『好き...
『好きなこと』をサイトがしなかった時の失望。
知ってる? あの時のわたしは、”好きなことをしていい”ん...
”好きなことをして欲しい”って思ってたのよ?
それじゃあ、今は? 今のわたしは? ”していい”の? ”し...
していいし、して欲しいけど、でも、しちゃだめなの?
わたしは震える手で、胸元にあるサイトの袖を掴んだ。
「……これは、サイトが……、本当に、望んでること?」
わたしの質問の意味を図りかねたのか、サイトは黙ってわた...
「サイトが、いつも、望んでることなら……、本当の気持ちだっ...
わたしの目の前にいるのが、”サイトじゃないけれどサイト”...
「……目をつむって、知らないフリ、しててあげるわ」
■8
サイトの顔を見るのが怖くなって、本当にぎゅっと目を閉じ...
前にも、同じ事をサイトに言った。その時とは、まるで違う...
……ううん、同じなのかもしれない。前に言ったときも、わた...
サイトに全部を任せて、押しつけるつもりで言った。自分から...
自分の責任になるのが怖いから。だから、”サイトからするこ...
形にして、自分の気持ちから逃げた。ずるくて汚い考え。
「ルイズ」
サイトがわたしの名前を呼んで、耳元に顔を寄せた。そして、
「好きだよ」
吐息と共に今のわたしと同じくらいずるい言葉を吹きかけて...
だめ、今、越えちゃいけない何かを越えちゃった。でも、止...
サイトの指がブラウスの前のボタンにかかって、自分でも無理...
すぐに前が開いて、薄い肌着だけの胸とお腹がサイトの前に...
やだ、やだやだ、恥ずかしいよ。ずっと前は平気でサイトの...
最近もブラウス越しなら触られちゃってたのに。今この時に肌...
信じられないくらい恥ずかしい。
見られたくない。貧相な身体も、惨めなくらいぺったんこな...
ううん、恥ずかしい一番の理由は、見られたくないからじゃ...
サイトが、見たいからだ。サイトがわたしの身体を見たくて脱...
ブラウスを脱がせきらないままで、サイトの指が肌着を持ち...
わたし、自分で背中を持ち上げてサイトがやりやすいようにし...
ごめんね、あんたが見たいわたしの身体、自分でも情けなく...
こんなのが見たいあんたって、よっぽどの物好きだわ。
肌着が持ち上がりきって、胸まで何も隠すものが無くなった...
「……綺麗だよ、ルイズ」
お世辞なら止めてよね。わたしってば、そんな言葉で幸せに...
サイトの指が首筋に触れる。胸元に触れる。そこから脇に移...
ゆっくり降りてくる。今までと同じ、わたしのコンプレックス...
わたしを大事にしてくれてるのが伝わる優しい手。けど、そこ...
洋服越しの時とは全然違う。サイトの気持ちが、直接流れ込ん...
その指が、名残惜しそうにわたしの肌から離れて……、スカー...
思わず腰を引いてしまう。太股がぎゅっと閉じる。
わかってたけど、わかってるつもりだったけど、それは、その...
「……サイト」
目をつむってるという約束を破って、サイトを見上げる。
「えっと、あの……、赤ちゃん、作りたいの?」
意を決して、聞くなら今しかないと思って、そう質問する。...
サイトはきょとんとした顔になった後、苦笑を浮かべた。
「な、何よ。サイトが、あの時教えてくれなかったから……!」
以前にサイトに呆れられた時の事も含めて、羞恥が湧き上が...
わたしだって、具体的にどんなことをするかを母さまが教え...
大体は知ってるわよ。服を脱いで、床に入って、その……、いや...
いや、逆ね。赤ちゃんを作るのは、限られたただ一人の相手...
”そういうこと”が容易には許されないこと、いやらしいことと...
だから、わたしは知らなかった。ただ一人の愛する殿方にし...
わたしが知ってる必要はないと思ったから。きっと、母さまも...
教えなかったんだわ。
とにかく、愛してる相手の全部を知って、触れていたいって...
伴侶になって子供を作りたいって気持ちからなわけで……、今の...
■9
けど、困る。赤ちゃんができちゃったら困るわよ。まだそん...
いや、まだとかそういう問題じゃなくて……、ああもう、とにか...
「ルイズが望まないなら、子供ができるようなことはしないか...
わたしの考えを察したのか、サイトは苦笑を微笑みに変えて...
「そ、そう……」
その言葉を聞いて、ほっとした。でも、なんか少し残念な気...
「でも、なんていうか……、子供を作る事の、真似を、ルイズと...
「真似? 真似でいいの?」
「子供を作るわけにはいけない恋人同士は、真似で気持ちを確...
サイトは言葉を選ぶようにして、そう教えてくれた。恋人同...
でも、その説明でちょっと合点がいった。恋人と最後までし...
端からも結構聞こえてたけど、子供ができちゃったらどうする...
なるほど、真似だったのね。納得。
「ルイズが困るようなことは、絶対しない」
サイトはわたしを見つめながら、きっぱりそう言った。視界...
そっか、それならまぁ、いいかな……。良くない気もするけど、...
「わ、わわ、わたしのことが、好きだから、したいのよね?」
頷くサイト。それなら、それなら……。わたしはまた目をつむ...
サイトの顔が近付く気配がして、またキスされた。今度は唇...
顎を持ち上げて、より深くサイトと重なれるようにした時、
「えっ?」
背中に手が回されて、ぐいっと引き上げられる。わたしがベ...
恰好になると、サイトはわたしの後ろに回って、わたしの腰を...
後ろから腰に手が当てられて、ぷちんと音を立ててスカート...
サイトはわたしの太股を持って腰を浮かせると、すぐにスカ...
流れるような作業で、反応してる暇も無かった。なんでこん...
「触るぞ? ルイズ」
「ひゃうっ! ちょ、待って、そこ……!」
耳の後ろに息を吹きかけられて力が抜けている間に、サイト...
付け根の方に登ってくる。ホントに待って、そこだめ、今はだ...
びくん!と顎が持ち上がる。背中にいるサイトのおかげで倒...
サイトに触られて、どこよりも強くて、怖いくらいの刺激があ...
一番大事なところに、サイトの指が当てられた。
次いで、じわっという湿った感触が伝わってくる。
また、濡れちゃってる。自分でもわかってたけど、今のでサイ...
サイトに触られた。サイトの指を汚しちゃった。爆発するみ...
「ルイズ、わかる?」
「ふ、ぁあ……、な、に?」
探るような手つきでサイトの指がわたしの下着をなぞって、...
「ここで、ルイズの大事なところで、俺と繋がる。そうしたら...
あ、前に聞いた、子供の作り方、教えてくれてるんだ。
でも、”俺と”って何よう。まるでわたしが赤ちゃんを作る相...
あんたしか有り得ないって決めつけてるみたいじゃない。
「ここ、って? ……っあ、あっ!!」
聞くと、サイトの指が下着越しに、僅かに沈んだ。
じゅわっ、と下着にさらに染みが広がるのがわかる。あぁ、わ...
「ルイズのここが、何でこんなに濡れてるかわかるか?」
「は、ぁ……なん……で?」
頭が回らない、サイトの胸に完全に背中を預けてしまいなが...
■10
「……好きな相手を、傷付かずに受け入れるために濡れてるんだ...
内緒話するみたいに囁かれて、絶句した。
背筋が震えるのと同時に、今まで疑問だったことが一本に繋が...
そういえば、サイトにマッサージされた時とか、サイトのこ...
そんな時にしか、こういう風に”濡れた”ことってなかった。そ...
「うそ、そんなの……」
サイトに触られるのとか、サイトに気持ちよくしてもらうの...
サイトの赤ちゃんが欲しいなんて考えたことはない。絶対無い。
「嘘じゃないよ。ほら、俺だって」
サイトはだだっ子をあやすみたいに優しい声で言うと、わた...
サイトの腰に、わたしのお尻がぴったり当たる。それだけでも...
でも、それでは済まなくて。
「あ……、えっ……?」
サイトのズボンの前に、何だか固い感触。一瞬、中に何か入...
「ルイズに触れてるから、こんなになってる」
その固いのが、ぴくん、って震えた気がした。それで、やっ...
これ、女性には無くて、男性にだけついてる。信じられないほ...
「ルイズと同じ。大事な相手と繋がりたいから、こうなるんだ」
「………っ!!」
ガツン、とトドメを刺された。サイトはわたしと赤ちゃんが...
わたしの身体も、サイトとの赤ちゃんが、ほ、欲しい……、から...
今のサイトは惚れ薬を飲んで普通じゃなくなってる。けど、...
わかんない。わかんないよ。自分の気持ちがわかんない。怖...
「でも、でもでも、だめ、それは、だめだからっ!」
「わかってるよ。ルイズが困ることはしないって、言ったろ?」
子供みたいにいやいやをすると、サイトはわたしの頭を撫で...
その言葉だけで、混乱してた頭が安心しかけてしまう。
「真似、させて欲しい」
サイトはそう言ってから、わたしの太股を持って持ち上げ、...
サイトの足にそこを擦りつけてしまった時のことを思い出した...
金属の擦れる音が聞こえたので視線を下ろすと、サイトがズ...
「あっ……」
思わず声が漏れた。驚きだったのか、感心だったのか、よく...
赤黒くて、何とも形容しがたい形で、こんなのがサイトの身...
全く考えもしなかったような物が、サイトの下着の切れ目から...
すごい。何これ。信じられない。それに、こんなに大きかっ...
「つ、繋がるって、無理よ、こんなの」
「だから、それはしないってば」
思わず口をついて出た正直な感想に、サイトは苦笑する。
でも、それだとサイトとわたしでは子供が作れないって言わ...
「じっとしてて」
サイトは続けてそう言うと、またわたしの身体を持ち上げた...
逸らして、お腹の下あたりにわたしのお尻が来るようにして、...
「え……、あ、わ……!」
ずるずるとサイトのシャツの上を滑って、わたしの腰は、あ...
引っかかるような場所で止まった。サイトの”それ”がわたしの...
太股の間から飛び出して、まるで、その……、わたしに、”それ”...
「ま、待ってよ、真似だけだって言ったでしょ!」
「ああ、真似だけ。……だから、ルイズ」
「え?」
「俺のそれ、手で触ってくれるか?」
”お願い”されたことの内容に、頭の中に火がつく。
■11
「な、なななな……!」
「手で押さえてる限り、真似にしかならないよ。それに、触れ...
それを言われると弱い。わたしが胸とかをマッサージされる...
サイトの大事なところなんだから、きっとそういうことなんだ...
「だめ、か?」
「だ、だめじゃないわよ、もう……」
悲しそうな声で言わないでよ。わたしは恐る恐る手を足の間...
ほんとにわたしにくっついたみたいに足の間から飛び出した”そ...
「くっ……!」
「あ……、あ、熱い」
触れた瞬間、サイトは喉から息を漏らして、身体を震わせた...
びくんと脈動する。次いで、意外なほどの熱さが指に伝わって...
すぐに、直感的に、わかってしまった。これ、サイトの一部...
確かに、サイトに繋がってるものなんだって。それを認識して...
”それ”と薄い下着越しに触れ合っているわたしの部分が、きゅ...
繋がれる。今、例えば下着をずらして、腰を少し持ち上げて...
本当にこんなのがわたしの中に入るのか疑わしいけど、それを...
わたしとサイトの赤ちゃん、できちゃう。
また、身体の中から染み出してくる感覚。サイトのが、わた...
サイトの”わたしと赤ちゃんを作りたい証拠”が、わたしの”サイ...
ぬるぬるに汚されていく。いやらしい。本当にいやらしいこと...
「は、ぁ……、サイト……」
指をからめたそれを、より強く握る。また、一層固くなった...
わたしは、その中に熱くて切ないモヤモヤがこれ以上無いほど...
僅かに持ち上げると、ゆっくり上下させて、サイトに、擦りつ...
「ふぁっ……! あ、あっ、あ……!!」
体中に痺れが走り抜ける。抑えようもない声が漏れて、足が...
サイトの足に擦りつけたときより、サイトにタオルで拭かれ...
何も考えられなくなる。頭の中も身体の中も、サイトのこと...
「ルイズ、ルイズっ……!」
わたしの太股を掴んだままだったサイトが、わたしに合わせ...
ぬちゅぬちゅってはしたない音を立てながら、わたしのそこと...
擦って、戻って、その度にわたしをおかしくする。
必死で、一生懸命で、切なそうな気持ちよさそうなサイトの...
わたしがそこを擦られて気持ちいいみたいに、サイトもそこ...
それがわかったら、わたしはサイトにもっともっと身体を押...
それで……、二人で、気持ちよくなる。
二人で。そう思ったら、涙が零れた。わたし、お返しできて...
今までの、形にできなかった気持ち、伝えられてる? ね、サ...
そんなに、時間はかからなかったと思う。我慢する余裕も抑...
サイトのことを全身で感じながら、気持ちいいのが膨らんで、...
どんな声を上げちゃったのか、そんなのも覚えてない。頭が...
ぐったりとサイトの身体に背中を預けて、そのまま眠ってしま...
でも、わたしの手の中に溢れた感触に、わたしは意識を引き留...
熱いものが手のひらに当たって、指の間を溢れて、ぼたぼた...
サイトの”それ”から吐き出されたものだって気付くのに、し...
火傷するんじゃないかってくらい熱く思えたそれが、空気に...
どろりと肌を落ちる。真っ白で、ゼリーかヨーグルトみたい。
■12
「あの、サイト、これ……」
「これを、ルイズが受け止めたら、子供ができるんだよ」
ちゃんと聞く前に、サイトは察して答えてくれた。
それはすぐに熱を失って、わたしの手やお腹の上で、冷たく...
なんとなく、凄く申し訳ないような事をしてしまった気分が...
今したのが、赤ちゃんを作る”真似”に過ぎないんだって気持ち...
「ルイズ」
そんなわたしの気持ちがわかったのかそうでないのか、サイ...
「ありがとう」
これ以上無いほど幸せそうな声で、囁いてくれた。
わたしは答えずに、わたしを抱くサイトの腕を、そっと掴ん...
∞ ∞ ∞
「うー……、何か、入るのが怖いわね……」
記録的な速度でトリスタニアまでひとっ飛びし、解毒薬の材...
ルイズたちの様子を確認する前に薬を調合したのはいいけど、...
中を確認するのを躊躇してしまっていた。
少し前にノックをしたけれど返事が無いのだ。何だか嫌な予...
「手遅れなら今さらどうしようもない。早く」
「て、手遅れって、貴女ね」
往復の手伝いをしてくれただけでなく、ここまでついてきて...
こんな子供みたいな外見なのに、随分と達観した子ね、ホント。
彼女ってば、寄った店で材料が品切れなのを確認するやいな...
示して、フライまで使って案内してくれた。非合法っぽい店ま...
「まぁ、彼女の言うとおりさ。早く届けるのが一番の気遣いだ...
「あっ、ギーシュ!」
止める間もなく、ギーシュが堂々とルイズの部屋のドアを開...
後に続いてタバサも部屋に踏み入る。わたしも解毒薬のビンを...
「ど、どう? ギーシュ」
恐る恐る聞くと、タバサが振り向いて口元に人差し指を立て...
ギーシュは踵を返して苦笑すると、やれやれとでも言いたげに...
わたしも部屋を見回して、ベッドの上に目をとめると、ため...
解毒薬のビンはテーブルの上に置いて、わたしたちは部屋か...
安心したけど、なんか妙に疲れたわ。
「あれ、セーフだと思う?」
「どうだろうねぇ、ちょっと判断に困るよ」
わたしの質問に、ギーシュは顎に手を当てる。タバサは何も...
「ま、でもあの様子なら何かあったとしても文句は言われない...
「そうね」
珍しくギーシュの意見に同意して、わたしは頷き返した。
だって、あの二人ってば、しっかり寝間着に着替えて、ベッ...
あの幸せそうな寝顔を見たら、惚れ薬っていうのも使いようか...
つづく
[[前の回>X00-11]] [[一覧に戻る>Soft-M]] [[次の回>X00-27]]
ページ名: