ゼロの使い魔保管庫
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559 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 02:17:59 ID...
絶対、取り返す。
敵は目前。機は熟しすぎるほど熟している。
柱の影から、一歩を踏み出す。
こちらに気付いた目標が、歩みを止め、こちらをじっと見つめ...
感情の読み取れない無表情な顔が、かえって余裕を感じさせる。
それが、却って彼女の闘志に火をつけた。
絶対、取り返す。
つかつかと間合いを詰め、そして、間合いに入る。
気の弱いものなら合わせるだけで目をそらしそうな殺気のこも...
しかし、標的は微動だにしない。
ただ、こちらの出方を伺うように、ただただ視線を返すだけだ。
絶対、取り返す。
そしてルイズは、目の前に立つ青い髪の少女に、言い放った。
「私の使い魔、返してもらいましょうか」
ルイズが自分の部屋から才人を追い出してから、一ヶ月近くが...
その後、メイドがその後を追い、才人の下へ去ってしまう。
元々シエスタは才人のメイドなのだから、当然と言えば当然な...
そして一人悶々とした日々を送っていたルイズは。
ついに今日、己が使い魔を取り戻すため、青い髪の魔女に挑む...
青い髪の魔女は淡々と応えた。
「私にその判断を下す権利はない」
つまりそれは、才人の行動を縛る権利は自分にはない、という...
ルイズには、『サイトは誰にも渡さない』と言っているように...
「…っ!何様のつもりなわけ…っ!」
激昂し、タバサを睨みつける。
しかしタバサは涼しい顔で応えた。
「私は彼の使い魔」
それ以上でも以下でもない。
その証とばかりに、前髪を漉き上げて使い魔の印である雪の結...
そして続ける。
「私はサイトの命令ならなんだってできる。
身体を捧げる事も、命を捧げる事も厭わない。
もし彼が世界を望むのならこの世界を。
もし彼がアナタの命を望むのなら、その命を」
言って体に不釣合いな大きな杖を、ルイズののどぶえに突きつ...
その表情は瞬く間に雪風の二つ名の如く冷たく凍りつき、一瞬...
今までの人生で、こんな至近距離であからさまな殺意を向けら...
初めての恐怖に、身体がすくみ、声が止まる。
しかし、すぐにタバサの殺気は消えうせ、凍り付いていた彼女...
のどぶえに突きつけられていた杖が、音もなく引かれると、ル...
言葉を発さないルイズに、タバサは淡々と言い放つ。
「でも、彼はそんなことは望んでいない。
もし、彼がアナタを必要とするのなら…私はそれに従うだけ」
言い終わるとタバサは踵を返し、帰路に着く。
彼女が全てを捧げた、主人の下へ。
後に残されたのは、茫然自失となったルイズだけだった。
560 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 02:18:31 ID...
…なるほど。面白いな。
「ええ。学院に放っていた間諜の報告によると、虚無の少女は...
ふむ。ならばこちらから仕掛けるのも一興よな。上手くいけば...
「いかがいたしましょう?ジョゼフ様」
お前に任せる。…おおそうだ、この機会にアレを試そう。使える...
「オルトロス…ですか」
うむ。具合によってはまた改良の余地があるかもしれん。頼む...
「御意」
ルイズは、人目のつかない中庭の隅で、声も上げずに泣いてい...
ただただ、悔しかった。
何も言い返せなかった自分が。
彼女の覚悟に気圧されていた自分が、許せなかった。
だから悔しくて、泣いた。
零れる涙をぬぐう事もせず、芝生に腰を下ろして、ただ嗚咽だ...
「あら、どうしたのかしら?おちびさん?」
そのルイズに、優しく語り掛ける声があった。
ルイズははっとして、顔を上げる。
そこにいたのは。
桃色の髪を優しく風にそよがせ、柔らかく笑うルイズの優しい...
「ち、ちいねえさまっ?どうしてっ?」
驚き、慌てて涙を拭いて立ち上がったルイズを、カトレアは優...
「あなたが心配になってね。
風の噂によれば、使い魔さんと喧嘩したそうじゃない」
言われて、ルイズの身体がびくん!と震える。
しかし、ルイズの中に疑問が沸く。
「…ど、どうしてちいねえさまがそんな事…?」
腕の中のルイズに、カトレアはコロコロと笑って応えた。
「あら。あなたの事ならなんだって分かるわ。
だって大事な大事な妹ですもの」
そして、自分と同じルイズの髪を、優しく漉く。
カトレアは続けた。
「ねえ、ルイズ」
「なぁに?ちいねえさま」
「…辛いなら…。ラ・ヴァリエールに戻っていらっしゃいな」
カトレアの腕の中で、ルイズの身体がもう一度、震えた。
581 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:18:24 ID...
「おかえり」
タバサが部屋の扉を開けると、ちょうどバケツの上で雑巾を絞...
それを見たタバサは、感心するより呆れた。
「…なにやってるの」
思わず口に出してしまう。
「ははは。…なんか手持ち無沙汰でさ。シエスタもいないし」
シエスタはこの時間、厨房の手伝いに出ていた。そのため、手...
タバサはつかつかと才人に歩み寄り、横から才人が手にした雑...
…サイトがこんな事しないで。
心の声でそう伝え、タバサは不機嫌な顔になる。
しかし、当の才人は。
「いいよ。俺がやりたいんだし」
そう言って、タバサから雑巾を奪い返す。
「ルイズんとこでもしょっちゅうしてたし…あ」
思わず口を突いて出た主人の名前に、才人は思わず口をつぐむ。
目の前の自分の使い魔を気遣っての事だったが、タバサは主人...
「サイト。一つ質問していい?」
「何?」
取り返した雑巾で床を拭き始めた才人に、タバサは尋ねた。
「…ルイズと一緒にいたい?」
「ぶっ!」
その言葉が図星だったのか、才人は思わず吹きだす。
何もその言葉には根拠がないわけではない。
才人はルイズの部屋を追い出されて、怪我が全快してからとい...
それはもちろんルイズとコンタクトを取るためであるのだが、...
もちろん今も、才人はルイズとヨリを戻したいと思っている。
タバサと一緒に住んで、なおかつ使い魔とし、肉体関係まで持...
使い魔となって才人と心を通わせるようになったタバサは、既...
だから、目の前でうろたえる主人に、こう言った。
「…ルイズと仲直りして」
「え」
「あなたはルイズと一緒にいるのが幸せだと思っている。
それなら、私はそれに従う」
「で、でも、シャルロットは…」
「私はあなたの使い魔。それ以上でも、以下でもない」
「だって…泣いてるじゃないか」
582 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:19:21 ID...
才人の言うとおり、タバサは泣いていた。
その白い頬を、涙が一筋、伝う。
心では整理しているつもりだった。でも。
女の本能が、欲望が、タバサに涙を流させていた。
彼は私のもの。私だけのひと。誰にも…渡さない。
押さえ込んでいたはずのその感情が、才人に理性によって纏め...
慌てて眼鏡を外し、涙をぬぐう。
「…っれは、ちがっ…」
うまく、言葉が紡げない。
そんなタバサを、才人は優しく抱き締める。
「ごめんな」
言って優しくタバサの青い髪を撫ぜる。
タバサは、才人を抱き締めて…そして泣いた。声を上げて泣いた...
ごめんなさい、ごめんなさい、ほんとは…私っ…!
嗚咽と共に、使い魔ではない、少女シャルロットの声が、才人...
才人を独占したいという欲望が。ずっと一緒にいたいという願...
それは、才人を知ることによってタバサの獲てしまった弱さ。
それを彼女は、汚いもの、唾棄すべきものだと思っていた。
…シャルロットは悪くない。悪いのは…全部、俺だよ…。
そして、才人は。
優しくタバサの唇を塞いだ。
ほんの少しのキスの後、才人は唇を放し、そしてタバサに言っ...
「ちゃんと、責任は取る。俺なりのやり方で、だけど」
もう、タバサの涙は止まっていた。
今は、信じよう。彼を。
「それでいいかな?」
主人の言葉に、タバサはにっこりと笑って、応えた。
「私はあなたに従う。私はあなたの、使い魔だから」
そして二人は、ルイズを捜しに、部屋を出て行ったのだった。
583 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:20:13 ID...
「…あなた、誰…?」
カトレアの腕の中でルイズはそう呟いた。
そして、勢いよくカトレアを突き飛ばす。
突然のルイズの行動に踏鞴を踏み、カトレアは目の前の芝生に...
「きゃっ?…いきなりなにするの、ルイズ」
「あなたは…ちいねえさまじゃない」
本物のカトレアなら。
才人を諦めて、ラ・ヴァリエールに戻って来いなどとは言わな...
どんな手を使ってでも自分を励まし、才人とヨリを戻させよう...
それが、ラ・ヴァリエールに戻って来い、などとは。
そして、その指摘を受けたカトレアは、本物のカトレアにはあ...
「…流石は、姉妹といったところかしら。
姿かたちは、完璧だったのにねえ」
言いながら身体についた土埃を払いながら立ち上がるカトレア。
その姿がみるみるうちに歪み、形を変えていく。
そこに立っていたのは、ミョズニトニルン…才人以外の、虚無の...
「あ、あなたは…!」
「お久しぶり。あなた、使い魔を放逐したそうね」
冷たい笑みを浮かべるミョズニトニルンに、ルイズは歯軋りし...
「な、なぜあなたがその事を!」
「ふふふ。我が主は全てお見通しなのよ。
さて、なるべくなら力ずくで、とかいう優雅じゃない方法は...
杖を構え、身構えるルイズを見て、ミョズニトニルンは呆れた...
「ふざけないでっ!誰があんたなんかとっ!」
「そういうわけにもいかなそうねえ。なら、優雅じゃない方法...
言ってミョズニトニルンは腰に下げた革袋から小さな犬の人形...
そしてそれを空中に放り投げる。ミョズニトニルンの額のルー...
掌に載る程度だった犬の人形は、みるみるうちに大きくなり、...
その大型犬は鋭い犬歯をむき出しにし、ルイズをねめつけてぐ...
「な、なによそれっ…!」
怯えたように後ずさるルイズに、ミョズニトニルンは優しくそ...
「このコは、オルトロスって言ってね。
我が主の作り出した、最新の犬型ゴーレムよ。毛皮には刃を...
どう?美しいでしょう?」
虹彩のないのっぺりとした青い瞳を持つその犬は、主人の命を...
ルイズはじわじわと後ずさる。
彼女の本能が告げていた。この相手にこれ以上近い間合いを許...
「さて。トリステインの虚無は、どうやってこの危機を脱する...
言っておくけれど、命乞いは聞かないわよ。生きてさえいれ...
「誰が…命乞いなんてっ…!」
584 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:21:05 ID...
しかし、この状況はあまりに絶望的だった。
じわじわと間合いを離してはいるものの、いまだオルトロスの...
ルイズの脳裏に、才人の、愛しい使い魔の顔が思い浮かぶ。
しかしルイズの思考はすぐに停止する。
だめ。サイトはもう…私のものじゃない…。
ルイズは恐怖と絶望に押しつぶされそうになりながら、呪文を...
『ディスペル・マジック』。これなら、ゴーレムであるオルト...
だが、その詠唱が終わるまで、敵が待ってくれる保証はどこに...
そしてその予想通り。
オルトロスは呪文の詠唱を聞くや否や、ルイズに飛び掛った。
そして。
横から飛び掛ってきた新たな影によって、オルトロスは吹き飛...
ルイズは目を見開き、その影の名を呼ぶ。
「…サイト…!?」
「大丈夫かっ、ルイズっ!?」
抜き身のデルフリンガーを構え、左手のガンダールヴの印を輝...
そして、空いたミョズニトニルンとルイズの間に、もう一つの...
「…あら。操り人形がどうしてここに?」
「…私はもうあなたたちの人形じゃない」
タバサは風を纏わせた杖を、ミョズニトニルンに向けて突き出...
「なんで、どうしてっ?」
ミョズニトニルンよりも、ルイズの方がこの状況を信じられて...
そんなルイズに、才人がはっきりと応える。
「お前は俺が守るって言ったろ!」
そして、それにタバサが続く。
「私は、彼に従うだけ」
そのタバサを、ミョズニトニルンは妙なものを見る目で見つめ...
「…あなた…。前と、何か、変わった…?」
「あなたに応える義務はない」
言ってタバサは、杖に纏わせた風を、ミョズニトニルンに叩き...
ミョズニトニルンはそれを容易く避けると、腰に下げた革袋か...
瞬く間にもう一体のオルトロスが現れ、三人を挟み込む。
ミョズニトニルンはそれを確認すると、不敵に笑って、言った。
「どうやら形勢は不利のようね。私は引かせて貰うわ。
我が主には、操り人形の変化を手土産にしましょう」
そして、高く口笛を吹く。
それと同時に、二体のオルトロスが三人に襲い掛かる。
才人は剣を振るい、タバサは風で結界を張って、オルトロスの...
その隙に、ミョズニトニルンは空から降りてきた羽を持った大...
「待て!逃げんな!」
才人はオルトロスの攻撃をかろうじてデルフリンガーで受けな...
しかし、ミョズニトニルンはそれを完全に無視して、ガーゴイ...
585 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:21:48 ID...
「くっそ!」
才人にそれを見送る余裕はなかった。
オルトロスは休むことなく攻撃を繰り出す。デルフリンガーで...
才人はなんとか隙を見て攻撃を繰り出すが、オルトロスの毛皮...
しかも、オルトロスは隙あらばルイズにその牙を向ける。二体...
タバサも似たような状況で、魔法の効かないオルトロスに、タ...
疲れを知らないオロトロスの猛攻に、三人の体力だけが削られ...
「相棒、こりゃまずいぜ!」
珍しく焦った声のデルフリンガーが、三人の危機をより一層浮...
そんな中、不意に、三人の周囲を大きな竜巻が覆った。
タバサの魔法だった。
その呪文を唱え終わるや、タバサはがっくりと膝を着く。
どうやら精神力の限界のようだ。
「大丈夫か?」
慌てて才人はタバサに駆け寄る。
タバサはそんな才人を手を開いて押し留めると、ルイズに尋ね...
「これならしばらくもつ…詠唱は、間に合う?」
ルイズは正直に応えた。
「わかんないけど…やってみる!」
そして詠唱に入るルイズ。
しかし。
その次の瞬間、竜巻の一部が裂け、そこから、オルトロスの顔...
即座に反応した才人が、デルフリンガーの腹でその頭を弾き飛...
オルトロスは鳴き声も上げずに竜巻に吹き飛ばされる。
「くそ…!抜けてきやがるのか!」
才人は忌々しげに吐き捨てる。
今のでオルトロスも、この竜巻を抜けられることを学習しただ...
周囲を回りながら、竜巻を破るチャンスを伺っている。
「くそ、どうしようもないってのか…!」
守るって、約束したのに。
才人の心が、悔しさに震える。ガンダールヴの印が、それに反...
その瞬間。
才人の目に、タバサの額の印が目に入る。
才人の中の『ガンダールヴ』が才人の本能に訴えていた。
武器を取れ。武器を取れ。
汝は神の盾、ガンダールヴなり。
あらゆる武器は、汝が意のままに。
才人はデルフリンガーをその場に置いて、歩き出した。タバサ...
586 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:23:06 ID...
「どうしたっ?相棒!」
デルフリンガーの呼びかけにしかし、才人は応えない。
ガンダールヴの印が眩いほどに光り輝き、才人は操られるよう...
「サイト…?」
タバサは才人の不意の行動にしかし、身体を包み込む倦怠感の...
そして。
才人は、タバサの額に刻まれた雪の刻印に、そっと口付けた。
その瞬間。
まるで操り糸が切れたように、才人の身体が崩れ落ち、そして。
タバサの体が白く輝きだし、その身体が弓なりに反る。そして...
「な、何…?」
呪文の詠唱も忘れ、ルイズはその光景に見入る。
タバサの髪が光と同じ白に染まり、その周囲に、白い霧のよう...
ゆっくりと、白い霧に包まれた白髪のタバサは目を開ける。
「だ、大丈夫、タバサ…?」
ルイズの呼びかけに、タバサはルイズを見つめて、言った。
「もう、大丈夫だから」
そして、タバサが手を振ると、周囲を覆っていた竜巻が掻き消...
「…な!」
ルイズが驚愕したその瞬間に、好機と見たオルトロスは、まず...
しかし。
「させない」
その瞬間、二体のオルトロスに向かって、タバサは両手を伸ば...
タバサの腕の周囲を覆っていた霧が、まるで流れるようにオル...
そして次の瞬間。
まるでガラス板を叩き割ったような音が周囲に響き渡った。
その音と同時に、二体のオルトロスは真っ白になり、地面に落...
二体の白い彫像の足が地面に着いた瞬間、陶器を地面に叩きつ...
残った本体にも、大小のヒビが入っていた。
それを冷ややかにタバサは見下ろし、その頭部を容赦なく踏み...
オルトロスの頭部はあっさりと砕け散った。
「…終わった」
白髪のタバサはそう言った瞬間。
まるで、操り人形の糸が切れたように、その場に崩れ落ちる。
崩れ落ちた瞬間に霧は消えうせ、タバサの髪も元の青い髪に戻...
「ちょっと、大丈夫っ!?」
そのタバサを、ルイズが抱き上げた。
587 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:23:53 ID...
このときの出来事を、デルフリンガーはこう分析した。
才人の中の『ガンダールヴ』が、使い魔であるタバサ自身の『...
そして、それを最も効率よくコントロールするため、潜在能力...
しかしこれは、非常に危険な行為だ。
もし、乗り移っている間に才人の体が死んでしまったら。
行き場をなくした力が暴走し、二人は力の暴走に耐えられず死...
長時間のこの『融合』は非常に危険な行為だと、デルフリンガ...
そして。
この後、デルフリンガーも予想できないとんでもない『融合』...
才人が気付いたのは、タバサの部屋のベッドの上だった。
重い頭を振り振り、才人は起き上がる。
その隣では、タバサが寝息を立てていた。
才人はほっとして、そして、もう一人あの場所にいた人物の事...
「…ようやく起きたわね」
不機嫌そうに、言い放ったのは、ベッド脇の椅子に掛ける、才...
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール...
「あの、その、ルイズ…」
何を言っていいのかよくわからない才人は、思わず口ごもる。
ルイズはそんな才人を見て、思う。
私は、才人とどうしたいんだろう。
ずっと一緒にいたい。この気持ちは変わらない。サイトは、私...
そして、タバサの言葉を思い出す。
『私はサイトの命令ならなんだってできる。
身体を捧げる事も、命を捧げる事も厭わない』
…姫様も言っていた。
忠誠には、それなりの対価を持って報いろ、と。
命を賭けて私を守ってくれるサイトに、私が、できる事。
それは…。
ルイズはそれを、口にする。
「サイト。私もあなたの使い魔にして」
「い?」
才人はあまりにも信じられないその言葉に、口を『い』の形に...
その顔がちょっと気に障ったので、ルイズは思わず言ってしま...
「な、何よその顔!私が使い魔じゃ不満なわけ!?」
「い、いやそういうわけじゃ…」
「そこのチビっこにだってできたんだもの!私にできないわけ...
いーからさっさとしなさいっ!」
「は、はぁ」
ルイズの妙な理屈と剣幕に押され、才人は三度、使い魔の契約...
そして。
[[24-631]]
588 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:24:51 ID...
「…いや、ほんっとーに前代未聞だな、相棒はよぉ」
青い髪と桃色の髪の二人の少女に抱きつかれたまま眠る才人を...
「主人を逆に使い魔にしちまうなんざ、たぶんハルケギニアで...
うーん、と唸って寝返りを打ったルイズのうなじが露になる。
そこには、羽ばたく桃色の羽が刻まれていた。
それこそが、ルイズの使い魔の印。
ルイズが、才人の使い魔となった証だった。
「…でもひょっとして、使い魔じゃないのかもしらんね。
まあ、めんどいから使い魔でいいのか」
言って伝説の剣はカタカタと震える。笑っているように。
「さぁて相棒。たっぷり見物させてもらうぜ。
六千年生きてきて、こんなドタバタは初めてさね。ああ、楽...
伝説を常に見守ってきた語り部は、これからやってくる新たな...
終了行:
559 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 02:17:59 ID...
絶対、取り返す。
敵は目前。機は熟しすぎるほど熟している。
柱の影から、一歩を踏み出す。
こちらに気付いた目標が、歩みを止め、こちらをじっと見つめ...
感情の読み取れない無表情な顔が、かえって余裕を感じさせる。
それが、却って彼女の闘志に火をつけた。
絶対、取り返す。
つかつかと間合いを詰め、そして、間合いに入る。
気の弱いものなら合わせるだけで目をそらしそうな殺気のこも...
しかし、標的は微動だにしない。
ただ、こちらの出方を伺うように、ただただ視線を返すだけだ。
絶対、取り返す。
そしてルイズは、目の前に立つ青い髪の少女に、言い放った。
「私の使い魔、返してもらいましょうか」
ルイズが自分の部屋から才人を追い出してから、一ヶ月近くが...
その後、メイドがその後を追い、才人の下へ去ってしまう。
元々シエスタは才人のメイドなのだから、当然と言えば当然な...
そして一人悶々とした日々を送っていたルイズは。
ついに今日、己が使い魔を取り戻すため、青い髪の魔女に挑む...
青い髪の魔女は淡々と応えた。
「私にその判断を下す権利はない」
つまりそれは、才人の行動を縛る権利は自分にはない、という...
ルイズには、『サイトは誰にも渡さない』と言っているように...
「…っ!何様のつもりなわけ…っ!」
激昂し、タバサを睨みつける。
しかしタバサは涼しい顔で応えた。
「私は彼の使い魔」
それ以上でも以下でもない。
その証とばかりに、前髪を漉き上げて使い魔の印である雪の結...
そして続ける。
「私はサイトの命令ならなんだってできる。
身体を捧げる事も、命を捧げる事も厭わない。
もし彼が世界を望むのならこの世界を。
もし彼がアナタの命を望むのなら、その命を」
言って体に不釣合いな大きな杖を、ルイズののどぶえに突きつ...
その表情は瞬く間に雪風の二つ名の如く冷たく凍りつき、一瞬...
今までの人生で、こんな至近距離であからさまな殺意を向けら...
初めての恐怖に、身体がすくみ、声が止まる。
しかし、すぐにタバサの殺気は消えうせ、凍り付いていた彼女...
のどぶえに突きつけられていた杖が、音もなく引かれると、ル...
言葉を発さないルイズに、タバサは淡々と言い放つ。
「でも、彼はそんなことは望んでいない。
もし、彼がアナタを必要とするのなら…私はそれに従うだけ」
言い終わるとタバサは踵を返し、帰路に着く。
彼女が全てを捧げた、主人の下へ。
後に残されたのは、茫然自失となったルイズだけだった。
560 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 02:18:31 ID...
…なるほど。面白いな。
「ええ。学院に放っていた間諜の報告によると、虚無の少女は...
ふむ。ならばこちらから仕掛けるのも一興よな。上手くいけば...
「いかがいたしましょう?ジョゼフ様」
お前に任せる。…おおそうだ、この機会にアレを試そう。使える...
「オルトロス…ですか」
うむ。具合によってはまた改良の余地があるかもしれん。頼む...
「御意」
ルイズは、人目のつかない中庭の隅で、声も上げずに泣いてい...
ただただ、悔しかった。
何も言い返せなかった自分が。
彼女の覚悟に気圧されていた自分が、許せなかった。
だから悔しくて、泣いた。
零れる涙をぬぐう事もせず、芝生に腰を下ろして、ただ嗚咽だ...
「あら、どうしたのかしら?おちびさん?」
そのルイズに、優しく語り掛ける声があった。
ルイズははっとして、顔を上げる。
そこにいたのは。
桃色の髪を優しく風にそよがせ、柔らかく笑うルイズの優しい...
「ち、ちいねえさまっ?どうしてっ?」
驚き、慌てて涙を拭いて立ち上がったルイズを、カトレアは優...
「あなたが心配になってね。
風の噂によれば、使い魔さんと喧嘩したそうじゃない」
言われて、ルイズの身体がびくん!と震える。
しかし、ルイズの中に疑問が沸く。
「…ど、どうしてちいねえさまがそんな事…?」
腕の中のルイズに、カトレアはコロコロと笑って応えた。
「あら。あなたの事ならなんだって分かるわ。
だって大事な大事な妹ですもの」
そして、自分と同じルイズの髪を、優しく漉く。
カトレアは続けた。
「ねえ、ルイズ」
「なぁに?ちいねえさま」
「…辛いなら…。ラ・ヴァリエールに戻っていらっしゃいな」
カトレアの腕の中で、ルイズの身体がもう一度、震えた。
581 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:18:24 ID...
「おかえり」
タバサが部屋の扉を開けると、ちょうどバケツの上で雑巾を絞...
それを見たタバサは、感心するより呆れた。
「…なにやってるの」
思わず口に出してしまう。
「ははは。…なんか手持ち無沙汰でさ。シエスタもいないし」
シエスタはこの時間、厨房の手伝いに出ていた。そのため、手...
タバサはつかつかと才人に歩み寄り、横から才人が手にした雑...
…サイトがこんな事しないで。
心の声でそう伝え、タバサは不機嫌な顔になる。
しかし、当の才人は。
「いいよ。俺がやりたいんだし」
そう言って、タバサから雑巾を奪い返す。
「ルイズんとこでもしょっちゅうしてたし…あ」
思わず口を突いて出た主人の名前に、才人は思わず口をつぐむ。
目の前の自分の使い魔を気遣っての事だったが、タバサは主人...
「サイト。一つ質問していい?」
「何?」
取り返した雑巾で床を拭き始めた才人に、タバサは尋ねた。
「…ルイズと一緒にいたい?」
「ぶっ!」
その言葉が図星だったのか、才人は思わず吹きだす。
何もその言葉には根拠がないわけではない。
才人はルイズの部屋を追い出されて、怪我が全快してからとい...
それはもちろんルイズとコンタクトを取るためであるのだが、...
もちろん今も、才人はルイズとヨリを戻したいと思っている。
タバサと一緒に住んで、なおかつ使い魔とし、肉体関係まで持...
使い魔となって才人と心を通わせるようになったタバサは、既...
だから、目の前でうろたえる主人に、こう言った。
「…ルイズと仲直りして」
「え」
「あなたはルイズと一緒にいるのが幸せだと思っている。
それなら、私はそれに従う」
「で、でも、シャルロットは…」
「私はあなたの使い魔。それ以上でも、以下でもない」
「だって…泣いてるじゃないか」
582 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:19:21 ID...
才人の言うとおり、タバサは泣いていた。
その白い頬を、涙が一筋、伝う。
心では整理しているつもりだった。でも。
女の本能が、欲望が、タバサに涙を流させていた。
彼は私のもの。私だけのひと。誰にも…渡さない。
押さえ込んでいたはずのその感情が、才人に理性によって纏め...
慌てて眼鏡を外し、涙をぬぐう。
「…っれは、ちがっ…」
うまく、言葉が紡げない。
そんなタバサを、才人は優しく抱き締める。
「ごめんな」
言って優しくタバサの青い髪を撫ぜる。
タバサは、才人を抱き締めて…そして泣いた。声を上げて泣いた...
ごめんなさい、ごめんなさい、ほんとは…私っ…!
嗚咽と共に、使い魔ではない、少女シャルロットの声が、才人...
才人を独占したいという欲望が。ずっと一緒にいたいという願...
それは、才人を知ることによってタバサの獲てしまった弱さ。
それを彼女は、汚いもの、唾棄すべきものだと思っていた。
…シャルロットは悪くない。悪いのは…全部、俺だよ…。
そして、才人は。
優しくタバサの唇を塞いだ。
ほんの少しのキスの後、才人は唇を放し、そしてタバサに言っ...
「ちゃんと、責任は取る。俺なりのやり方で、だけど」
もう、タバサの涙は止まっていた。
今は、信じよう。彼を。
「それでいいかな?」
主人の言葉に、タバサはにっこりと笑って、応えた。
「私はあなたに従う。私はあなたの、使い魔だから」
そして二人は、ルイズを捜しに、部屋を出て行ったのだった。
583 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:20:13 ID...
「…あなた、誰…?」
カトレアの腕の中でルイズはそう呟いた。
そして、勢いよくカトレアを突き飛ばす。
突然のルイズの行動に踏鞴を踏み、カトレアは目の前の芝生に...
「きゃっ?…いきなりなにするの、ルイズ」
「あなたは…ちいねえさまじゃない」
本物のカトレアなら。
才人を諦めて、ラ・ヴァリエールに戻って来いなどとは言わな...
どんな手を使ってでも自分を励まし、才人とヨリを戻させよう...
それが、ラ・ヴァリエールに戻って来い、などとは。
そして、その指摘を受けたカトレアは、本物のカトレアにはあ...
「…流石は、姉妹といったところかしら。
姿かたちは、完璧だったのにねえ」
言いながら身体についた土埃を払いながら立ち上がるカトレア。
その姿がみるみるうちに歪み、形を変えていく。
そこに立っていたのは、ミョズニトニルン…才人以外の、虚無の...
「あ、あなたは…!」
「お久しぶり。あなた、使い魔を放逐したそうね」
冷たい笑みを浮かべるミョズニトニルンに、ルイズは歯軋りし...
「な、なぜあなたがその事を!」
「ふふふ。我が主は全てお見通しなのよ。
さて、なるべくなら力ずくで、とかいう優雅じゃない方法は...
杖を構え、身構えるルイズを見て、ミョズニトニルンは呆れた...
「ふざけないでっ!誰があんたなんかとっ!」
「そういうわけにもいかなそうねえ。なら、優雅じゃない方法...
言ってミョズニトニルンは腰に下げた革袋から小さな犬の人形...
そしてそれを空中に放り投げる。ミョズニトニルンの額のルー...
掌に載る程度だった犬の人形は、みるみるうちに大きくなり、...
その大型犬は鋭い犬歯をむき出しにし、ルイズをねめつけてぐ...
「な、なによそれっ…!」
怯えたように後ずさるルイズに、ミョズニトニルンは優しくそ...
「このコは、オルトロスって言ってね。
我が主の作り出した、最新の犬型ゴーレムよ。毛皮には刃を...
どう?美しいでしょう?」
虹彩のないのっぺりとした青い瞳を持つその犬は、主人の命を...
ルイズはじわじわと後ずさる。
彼女の本能が告げていた。この相手にこれ以上近い間合いを許...
「さて。トリステインの虚無は、どうやってこの危機を脱する...
言っておくけれど、命乞いは聞かないわよ。生きてさえいれ...
「誰が…命乞いなんてっ…!」
584 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:21:05 ID...
しかし、この状況はあまりに絶望的だった。
じわじわと間合いを離してはいるものの、いまだオルトロスの...
ルイズの脳裏に、才人の、愛しい使い魔の顔が思い浮かぶ。
しかしルイズの思考はすぐに停止する。
だめ。サイトはもう…私のものじゃない…。
ルイズは恐怖と絶望に押しつぶされそうになりながら、呪文を...
『ディスペル・マジック』。これなら、ゴーレムであるオルト...
だが、その詠唱が終わるまで、敵が待ってくれる保証はどこに...
そしてその予想通り。
オルトロスは呪文の詠唱を聞くや否や、ルイズに飛び掛った。
そして。
横から飛び掛ってきた新たな影によって、オルトロスは吹き飛...
ルイズは目を見開き、その影の名を呼ぶ。
「…サイト…!?」
「大丈夫かっ、ルイズっ!?」
抜き身のデルフリンガーを構え、左手のガンダールヴの印を輝...
そして、空いたミョズニトニルンとルイズの間に、もう一つの...
「…あら。操り人形がどうしてここに?」
「…私はもうあなたたちの人形じゃない」
タバサは風を纏わせた杖を、ミョズニトニルンに向けて突き出...
「なんで、どうしてっ?」
ミョズニトニルンよりも、ルイズの方がこの状況を信じられて...
そんなルイズに、才人がはっきりと応える。
「お前は俺が守るって言ったろ!」
そして、それにタバサが続く。
「私は、彼に従うだけ」
そのタバサを、ミョズニトニルンは妙なものを見る目で見つめ...
「…あなた…。前と、何か、変わった…?」
「あなたに応える義務はない」
言ってタバサは、杖に纏わせた風を、ミョズニトニルンに叩き...
ミョズニトニルンはそれを容易く避けると、腰に下げた革袋か...
瞬く間にもう一体のオルトロスが現れ、三人を挟み込む。
ミョズニトニルンはそれを確認すると、不敵に笑って、言った。
「どうやら形勢は不利のようね。私は引かせて貰うわ。
我が主には、操り人形の変化を手土産にしましょう」
そして、高く口笛を吹く。
それと同時に、二体のオルトロスが三人に襲い掛かる。
才人は剣を振るい、タバサは風で結界を張って、オルトロスの...
その隙に、ミョズニトニルンは空から降りてきた羽を持った大...
「待て!逃げんな!」
才人はオルトロスの攻撃をかろうじてデルフリンガーで受けな...
しかし、ミョズニトニルンはそれを完全に無視して、ガーゴイ...
585 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:21:48 ID...
「くっそ!」
才人にそれを見送る余裕はなかった。
オルトロスは休むことなく攻撃を繰り出す。デルフリンガーで...
才人はなんとか隙を見て攻撃を繰り出すが、オルトロスの毛皮...
しかも、オルトロスは隙あらばルイズにその牙を向ける。二体...
タバサも似たような状況で、魔法の効かないオルトロスに、タ...
疲れを知らないオロトロスの猛攻に、三人の体力だけが削られ...
「相棒、こりゃまずいぜ!」
珍しく焦った声のデルフリンガーが、三人の危機をより一層浮...
そんな中、不意に、三人の周囲を大きな竜巻が覆った。
タバサの魔法だった。
その呪文を唱え終わるや、タバサはがっくりと膝を着く。
どうやら精神力の限界のようだ。
「大丈夫か?」
慌てて才人はタバサに駆け寄る。
タバサはそんな才人を手を開いて押し留めると、ルイズに尋ね...
「これならしばらくもつ…詠唱は、間に合う?」
ルイズは正直に応えた。
「わかんないけど…やってみる!」
そして詠唱に入るルイズ。
しかし。
その次の瞬間、竜巻の一部が裂け、そこから、オルトロスの顔...
即座に反応した才人が、デルフリンガーの腹でその頭を弾き飛...
オルトロスは鳴き声も上げずに竜巻に吹き飛ばされる。
「くそ…!抜けてきやがるのか!」
才人は忌々しげに吐き捨てる。
今のでオルトロスも、この竜巻を抜けられることを学習しただ...
周囲を回りながら、竜巻を破るチャンスを伺っている。
「くそ、どうしようもないってのか…!」
守るって、約束したのに。
才人の心が、悔しさに震える。ガンダールヴの印が、それに反...
その瞬間。
才人の目に、タバサの額の印が目に入る。
才人の中の『ガンダールヴ』が才人の本能に訴えていた。
武器を取れ。武器を取れ。
汝は神の盾、ガンダールヴなり。
あらゆる武器は、汝が意のままに。
才人はデルフリンガーをその場に置いて、歩き出した。タバサ...
586 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:23:06 ID...
「どうしたっ?相棒!」
デルフリンガーの呼びかけにしかし、才人は応えない。
ガンダールヴの印が眩いほどに光り輝き、才人は操られるよう...
「サイト…?」
タバサは才人の不意の行動にしかし、身体を包み込む倦怠感の...
そして。
才人は、タバサの額に刻まれた雪の刻印に、そっと口付けた。
その瞬間。
まるで操り糸が切れたように、才人の身体が崩れ落ち、そして。
タバサの体が白く輝きだし、その身体が弓なりに反る。そして...
「な、何…?」
呪文の詠唱も忘れ、ルイズはその光景に見入る。
タバサの髪が光と同じ白に染まり、その周囲に、白い霧のよう...
ゆっくりと、白い霧に包まれた白髪のタバサは目を開ける。
「だ、大丈夫、タバサ…?」
ルイズの呼びかけに、タバサはルイズを見つめて、言った。
「もう、大丈夫だから」
そして、タバサが手を振ると、周囲を覆っていた竜巻が掻き消...
「…な!」
ルイズが驚愕したその瞬間に、好機と見たオルトロスは、まず...
しかし。
「させない」
その瞬間、二体のオルトロスに向かって、タバサは両手を伸ば...
タバサの腕の周囲を覆っていた霧が、まるで流れるようにオル...
そして次の瞬間。
まるでガラス板を叩き割ったような音が周囲に響き渡った。
その音と同時に、二体のオルトロスは真っ白になり、地面に落...
二体の白い彫像の足が地面に着いた瞬間、陶器を地面に叩きつ...
残った本体にも、大小のヒビが入っていた。
それを冷ややかにタバサは見下ろし、その頭部を容赦なく踏み...
オルトロスの頭部はあっさりと砕け散った。
「…終わった」
白髪のタバサはそう言った瞬間。
まるで、操り人形の糸が切れたように、その場に崩れ落ちる。
崩れ落ちた瞬間に霧は消えうせ、タバサの髪も元の青い髪に戻...
「ちょっと、大丈夫っ!?」
そのタバサを、ルイズが抱き上げた。
587 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:23:53 ID...
このときの出来事を、デルフリンガーはこう分析した。
才人の中の『ガンダールヴ』が、使い魔であるタバサ自身の『...
そして、それを最も効率よくコントロールするため、潜在能力...
しかしこれは、非常に危険な行為だ。
もし、乗り移っている間に才人の体が死んでしまったら。
行き場をなくした力が暴走し、二人は力の暴走に耐えられず死...
長時間のこの『融合』は非常に危険な行為だと、デルフリンガ...
そして。
この後、デルフリンガーも予想できないとんでもない『融合』...
才人が気付いたのは、タバサの部屋のベッドの上だった。
重い頭を振り振り、才人は起き上がる。
その隣では、タバサが寝息を立てていた。
才人はほっとして、そして、もう一人あの場所にいた人物の事...
「…ようやく起きたわね」
不機嫌そうに、言い放ったのは、ベッド脇の椅子に掛ける、才...
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール...
「あの、その、ルイズ…」
何を言っていいのかよくわからない才人は、思わず口ごもる。
ルイズはそんな才人を見て、思う。
私は、才人とどうしたいんだろう。
ずっと一緒にいたい。この気持ちは変わらない。サイトは、私...
そして、タバサの言葉を思い出す。
『私はサイトの命令ならなんだってできる。
身体を捧げる事も、命を捧げる事も厭わない』
…姫様も言っていた。
忠誠には、それなりの対価を持って報いろ、と。
命を賭けて私を守ってくれるサイトに、私が、できる事。
それは…。
ルイズはそれを、口にする。
「サイト。私もあなたの使い魔にして」
「い?」
才人はあまりにも信じられないその言葉に、口を『い』の形に...
その顔がちょっと気に障ったので、ルイズは思わず言ってしま...
「な、何よその顔!私が使い魔じゃ不満なわけ!?」
「い、いやそういうわけじゃ…」
「そこのチビっこにだってできたんだもの!私にできないわけ...
いーからさっさとしなさいっ!」
「は、はぁ」
ルイズの妙な理屈と剣幕に押され、才人は三度、使い魔の契約...
そして。
[[24-631]]
588 :運命の胎動 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/12(水) 22:24:51 ID...
「…いや、ほんっとーに前代未聞だな、相棒はよぉ」
青い髪と桃色の髪の二人の少女に抱きつかれたまま眠る才人を...
「主人を逆に使い魔にしちまうなんざ、たぶんハルケギニアで...
うーん、と唸って寝返りを打ったルイズのうなじが露になる。
そこには、羽ばたく桃色の羽が刻まれていた。
それこそが、ルイズの使い魔の印。
ルイズが、才人の使い魔となった証だった。
「…でもひょっとして、使い魔じゃないのかもしらんね。
まあ、めんどいから使い魔でいいのか」
言って伝説の剣はカタカタと震える。笑っているように。
「さぁて相棒。たっぷり見物させてもらうぜ。
六千年生きてきて、こんなドタバタは初めてさね。ああ、楽...
伝説を常に見守ってきた語り部は、これからやってくる新たな...
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