ゼロの使い魔保管庫
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530 名前: タバサの隣で眠りたい [sage] 投稿日: 2008/01/2...
本、本、本。
右を見ても左を見ても、本の背表紙が隙間なくびっしりと並...
色あせたり汚れたりしている古い本もあれば、まだ誰も手に...
ほどきれいな、新しい本もある。
どちらにしても共通しているのは、何となく小難しそうで読...
ることである。
(やっぱ、こういうところって苦手だなー)
天井付近までびっしりと書物が詰められた本棚と本棚の間で...
静かな空気の中に紙とインクの香りが漂い、その隙間を縫う...
かすかに聞こえてくる。
ともすれば自分の足音が耳障りに感じてしまうほどの、圧倒...
なってきた。
だからと言ってばたばた足音を立てて走るわけにも行かず、...
で歩き続ける。
目的の書棚は、図書館の中でも奥の方にあった。持っている...
名を確認する。
才人が自分に似合わない場所だと知りつつこんなところまで...
していて忙しいコルベールに、一冊の本を借りてくるように頼...
(そんな簡単なお使い、断るわけにはいかねえと思って引き受...
経すり減るとは思ってなかったぜ)
とにかく早く用事を終わらせて帰ろう、と考えたところで、...
気がついた。何せ30メイルはある書棚だから、普通の人間で...
背表紙を見てタイトルを確認することすら出来ない。
周囲を見回してみたが、はしごなどは見当たらなかった。浮...
を前提としているのだから、当たり前かもしれない。
才人は仕方なく図書館の入り口に戻り、受付に座って本を読...
てもらえないかと頼み込んだ。
「なんで魔法を使えない人間が図書館なんかに」
読書を邪魔されたのが相当気に触ったらしく、司書は顔をし...
し出しリストらしき紙束を捲り始めた。
「その本は誰も借りていないようね……仕方がない、取ってあげ...
「どうも」
「お礼を仰る暇があるのなら、せめて浮遊魔法ぐらいは覚えて...
声量こそ抑えられていたが、皮肉っぽい口調と嫌味ったらし...
才人は頬が引きつるのを感じたが、無理矢理微笑を作ってその...
(我慢我慢。本さえ取ってもらえりゃ、もう用はねえんだし)
だが、浮遊魔法で例の書棚の高いところまで上っていた女性...
「ないわね」
素っ気なく言われる。
「はい?」
「ないの。あなたが探してる本。今この図書館にいる誰かが読...
「ええと、それじゃあ」
「返却されるのを待つか、その誰かを探し出して今すぐ貸して...
「誰が借りてるんでしょうね」
「そんなことは知りません。全く、無駄な時間を……いいところ...
女性司書はまたもぶつくさと文句を言いながら入り口の方に...
を突きたてたあと、才人は腕組みして考えた。
(どうすっかな。そいつだって読みたくて読んでるんだろうし...
悩みつつも、才人はとりあえずその場から離れることにした...
ところで、視界の隅に見慣れたものが映りこんだ気がした。青...
(タバサかな?)
そう思って、ある書棚と書棚の間の狭い通路から首を突き出...
さなテーブルに、思ったとおりの人物が座っていた。
座っていた、というのは正確ではない。何故なら、彼女はそ...
かな寝息を立てていたのだから。
冷静な彼女にしては珍しい失態である。才人は笑いたくなる...
531 名前: タバサの隣で眠りたい [sage] 投稿日: 2008/01/2...
そのテーブルは、受付付近にある広い読書用のテーブルとは...
無数の書棚に埋もれるようにして設置されており、そのせい...
なっていた。
(なるほど、だから図書館で寝てるのに誰も注意しねえんだな)
それに、タバサ自身の眠り方が非常に大人しいせいもあるの...
鼾はかいていないし、寝言もない。そもそも呼吸自体が非常...
とんど上下しておらず、身じろぎするような気配もほとんどな...
一分ほど見つめていても、その状態は全く変わらなかった。
(寝てても静かだなこいつは。これがルイズだったら今頃高い...
そんなことを考えてかすかに笑ったとき、才人は不意に気が...
(あれ、この本って……)
テーブルに顔を近づけてみる。
タバサは本を読んでいる途中で寝入ってしまったらしく、そ...
かれていた。開かれた本の右側に、タバサの左腕が乗せられて...
タバサを起こさないように、そっと本の左側を上げて、書名...
(うわ、これ、やっぱり先生が探してる本だよ。どうすっかな)
才人は頭を掻いた。
(本だけ抜き取る……のは無理か。そもそも寝て起きたら本が消...
し。だからって起こすのもな)
才人は再びタバサの寝顔に目をやる。
ほぼ常時冷静沈着な無表情が貼り付けられている顔だが、寝...
じられた。緩やかな眉の下にそっと閉じられた目蓋があり、長...
れる。ほんの少しだけ開かれた唇からは、時折緩い呼気が漏れ...
伏せているために、かけられたままの眼鏡が少しずれていて、...
(こんな深く眠って……よっぽど疲れてたんだなー……と思うと、...
体を揺するどころか、声をかけるのすら躊躇われる。
仕方がないので、才人は少し待ってみることにした。タバサ...
じっと待つ間、何もすることがないので、自然とタバサの寝...
間近でじっと見てみると、非常に整った顔立ちだということ...
離が近いルイズも絶世の美少女だが、タバサもまた負けず劣ら...
に勝っていると断言できるのは、タバサの肌の滑らかさだろう...
白く光る頬は、思わず手を出して撫でてみたくなるほどだ。
しかも、今の彼女は実に無防備な寝顔を晒しているのだ。普...
完全に溶けて、ただあどけない柔らかさだけが残っている。そ...
分よりも年下であることを思い出した。
(普段しっかりしてるから、つい忘れちまうんだよな。本当は...
んだろうに……親父さんもお母さんも大変なことになっちまって...
才人は目を細めた。何か、ほろ苦いものが胸に広がっていく。
532 名前: タバサの隣で眠りたい [sage] 投稿日: 2008/01/2...
そのとき、タバサが不意に、「ん……」と吐息混じりの声を漏...
までには至らず、少し身じろぎしただけでまた規則的な寝息を...
その微妙な挙動で、彼女の艶やかな青い髪の一部が、ぱさり...
毛に遮られて少し見にくくなる。
本人はそんなことなど全く気付かないように眠りこけていた...
なって仕方がなかった。
(邪魔っ気だなー、これ)
青い髪も細やかで艶があり、見ていて十分目を楽しませるも...
サの寝顔を隠しているのが何となく腹立たしかった。
(タバサだって、気になるだろうしな。いいよな?)
心の中で誰かに向かって言い訳しつつ、腕が自然とタバサの...
指先が白い肌に触れたとき、想像以上に柔らかい手触りが伝...
たほどだった。そのまま頬を指で突き、こね回して触感を楽し...
才人は撫ぜるような控え目な手つきでタバサの顔にかかった髪...
たせいか、一度では上手くいかずに髪がまた垂れてきた。才人...
を手で戻そうとする。
「ふふっ」
小さな笑い声が、吐息と共にタバサの口から漏れ出した。才...
タバサはあどけない寝顔にはっきりとした微笑を浮かべていた...
さく身をよじる。
「もぉ、くすぐったいよぉ」
聞いたこともない無邪気な声音だった。才人の顔に熱が上っ...
めたいという衝動が、切なく胸を締め付ける。
(なに考えてんだ俺、自重しろ俺! 自重するんだ!)
必死に言い聞かせていたとき、タバサがまた身をよじりなが...
「くすぐったいったら……父様」
才人の体から、急速に熱が引いていった。
タバサの顔は穏やかさに満ちていた。見ている方も幸せにな...
才人はもう一度だけ手を伸ばして、タバサの頭をゆっくりと...
それから、無言でその場を後にした。
事情を話したらコルベールも分かってくれたので、才人はそ...
備え付けられた椅子に腰掛け、一人無言で目を閉じていた。叫...
と頭をぶつけたいような衝動が体を駆け巡っていたが、我慢し...
「サイト」
声がした。心臓が跳ね上がる。格納庫の入り口を見ると、タ...
光の中に佇んで、いつもの無表情でこちらを見つめている。
「よう、タバサか。どうした」
苦労して何気ない風を装う。タバサは静かに近づいてきて、...
「どうしたんだ、これ」
「サイトが借りたがってたって、図書館の司書に聞いたから。...
「そこまでしてくれたのかあのお姉さん」
「親切」
「そうだな。ありがとうよ」
司書の背中に向かって中指を突きたてたことをひそかに心の...
を受け取り、傍らのテーブルに置いた。それから、頭一つ分ぐ...
じっと見下ろす。
真っ直ぐに見返してくる青い瞳は、冷たさすら感じさせるほ...
「どうしたの」
才人は「いや、別に」と答えながら目をそらした。いつまで...
れるほど抱きしめたいという衝動を抑えられなくなりそうだっ...
(と言うか、なあ)
ため息が唇を押し割った。
533 名前: タバサの隣で眠りたい [sage] 投稿日: 2008/01/2...
(なんかな。こいつ、頑張りすぎだって。ああ、添い寝して思...
中褒めまくってやりてえ)
才人は心底からそう思った。その念には、自分でも驚くほど...
ない。ほとんど父性とも言えるような、今まで感じたこともな...
タバサが目の前にいるせいか、その感情は一秒経つごとに増...
「サイト」
ふと、タバサが才人の視界に回りこんできた。驚いて身を引...
「なにかあったの」
いつもの平坦な声音から、こちらの身を案ずる優しさが滲み...
才人の胸に熱いものがこみ上げてくる。
(ああもう、自分のことで手一杯になるのが当然だってのに、...
今度こそ本当にどうしようもなくなって、しかし抱きしめる...
代わりに、才人はタバサの両肩に勢いよく両手を乗せた。
「タバサ!」
「……なに?」
突然の才人の行動に、さすがのタバサも驚いたものらしい。...
一拍遅れていた。
そんなタバサの顔を真正面から見つめながら、才人は思いの...
「今夜、俺と一緒に寝ないか」
返事はなかった。タバサは身じろぎせず、口を開かず、瞬き...
ちすくんでいた。
「……冗談?」
一分ほど経って、タバサはようやくそれだけ口にした。壊れ...
傾ぐ。才人は思いっきり首を横に振った。
「いや、冗談なんかじゃない。な、今夜、俺と一緒に寝ようぜ...
溢れる思いを視線にこめて、タバサの瞳を真正面から見つめ...
そのとき、奇妙なことが起きた。
白い頬にかすかな赤みが差したかと思いきや、タバサが思い...
予期せぬ反応に、才人は踏みとどまることすら出来ずに尻餅...
呆然として見上げると、タバサは俯いて細かく体を震わせて...
光となって、その表情を窺い知ることは出来ない。
「タバサ……?」
困惑しながら声をかけると、タバサは今まで聞いたこともな...
「そういうのは!」
「え?」
「ま……まだ、早いと、思う!」
そう言って、タバサは勢いよく踵を返した。小さな体が物凄...
才人はその場に座り込んだまま、タバサが残した言葉を何度...
そして、彼女が言わんとすることの意味を悟り、自嘲する。
「そうか……問題を全部解決したわけじゃないから、人に甘える...
胸にじわりと温かさが染みこんでいくのを感じながら、才人...
「やっぱり凄い奴だよ、お前は……俺も、少しでもお前の助けに...
タバサが去っていった方向を見つめながら、才人は力強く微...
なお、後にタバサは、
「あまりにも突然すぎたために、本来なら喜んで受け入れると...
しの生涯でも一、ニを争うほどの失点である」
と述懐したそうである。
終了行:
530 名前: タバサの隣で眠りたい [sage] 投稿日: 2008/01/2...
本、本、本。
右を見ても左を見ても、本の背表紙が隙間なくびっしりと並...
色あせたり汚れたりしている古い本もあれば、まだ誰も手に...
ほどきれいな、新しい本もある。
どちらにしても共通しているのは、何となく小難しそうで読...
ることである。
(やっぱ、こういうところって苦手だなー)
天井付近までびっしりと書物が詰められた本棚と本棚の間で...
静かな空気の中に紙とインクの香りが漂い、その隙間を縫う...
かすかに聞こえてくる。
ともすれば自分の足音が耳障りに感じてしまうほどの、圧倒...
なってきた。
だからと言ってばたばた足音を立てて走るわけにも行かず、...
で歩き続ける。
目的の書棚は、図書館の中でも奥の方にあった。持っている...
名を確認する。
才人が自分に似合わない場所だと知りつつこんなところまで...
していて忙しいコルベールに、一冊の本を借りてくるように頼...
(そんな簡単なお使い、断るわけにはいかねえと思って引き受...
経すり減るとは思ってなかったぜ)
とにかく早く用事を終わらせて帰ろう、と考えたところで、...
気がついた。何せ30メイルはある書棚だから、普通の人間で...
背表紙を見てタイトルを確認することすら出来ない。
周囲を見回してみたが、はしごなどは見当たらなかった。浮...
を前提としているのだから、当たり前かもしれない。
才人は仕方なく図書館の入り口に戻り、受付に座って本を読...
てもらえないかと頼み込んだ。
「なんで魔法を使えない人間が図書館なんかに」
読書を邪魔されたのが相当気に触ったらしく、司書は顔をし...
し出しリストらしき紙束を捲り始めた。
「その本は誰も借りていないようね……仕方がない、取ってあげ...
「どうも」
「お礼を仰る暇があるのなら、せめて浮遊魔法ぐらいは覚えて...
声量こそ抑えられていたが、皮肉っぽい口調と嫌味ったらし...
才人は頬が引きつるのを感じたが、無理矢理微笑を作ってその...
(我慢我慢。本さえ取ってもらえりゃ、もう用はねえんだし)
だが、浮遊魔法で例の書棚の高いところまで上っていた女性...
「ないわね」
素っ気なく言われる。
「はい?」
「ないの。あなたが探してる本。今この図書館にいる誰かが読...
「ええと、それじゃあ」
「返却されるのを待つか、その誰かを探し出して今すぐ貸して...
「誰が借りてるんでしょうね」
「そんなことは知りません。全く、無駄な時間を……いいところ...
女性司書はまたもぶつくさと文句を言いながら入り口の方に...
を突きたてたあと、才人は腕組みして考えた。
(どうすっかな。そいつだって読みたくて読んでるんだろうし...
悩みつつも、才人はとりあえずその場から離れることにした...
ところで、視界の隅に見慣れたものが映りこんだ気がした。青...
(タバサかな?)
そう思って、ある書棚と書棚の間の狭い通路から首を突き出...
さなテーブルに、思ったとおりの人物が座っていた。
座っていた、というのは正確ではない。何故なら、彼女はそ...
かな寝息を立てていたのだから。
冷静な彼女にしては珍しい失態である。才人は笑いたくなる...
531 名前: タバサの隣で眠りたい [sage] 投稿日: 2008/01/2...
そのテーブルは、受付付近にある広い読書用のテーブルとは...
無数の書棚に埋もれるようにして設置されており、そのせい...
なっていた。
(なるほど、だから図書館で寝てるのに誰も注意しねえんだな)
それに、タバサ自身の眠り方が非常に大人しいせいもあるの...
鼾はかいていないし、寝言もない。そもそも呼吸自体が非常...
とんど上下しておらず、身じろぎするような気配もほとんどな...
一分ほど見つめていても、その状態は全く変わらなかった。
(寝てても静かだなこいつは。これがルイズだったら今頃高い...
そんなことを考えてかすかに笑ったとき、才人は不意に気が...
(あれ、この本って……)
テーブルに顔を近づけてみる。
タバサは本を読んでいる途中で寝入ってしまったらしく、そ...
かれていた。開かれた本の右側に、タバサの左腕が乗せられて...
タバサを起こさないように、そっと本の左側を上げて、書名...
(うわ、これ、やっぱり先生が探してる本だよ。どうすっかな)
才人は頭を掻いた。
(本だけ抜き取る……のは無理か。そもそも寝て起きたら本が消...
し。だからって起こすのもな)
才人は再びタバサの寝顔に目をやる。
ほぼ常時冷静沈着な無表情が貼り付けられている顔だが、寝...
じられた。緩やかな眉の下にそっと閉じられた目蓋があり、長...
れる。ほんの少しだけ開かれた唇からは、時折緩い呼気が漏れ...
伏せているために、かけられたままの眼鏡が少しずれていて、...
(こんな深く眠って……よっぽど疲れてたんだなー……と思うと、...
体を揺するどころか、声をかけるのすら躊躇われる。
仕方がないので、才人は少し待ってみることにした。タバサ...
じっと待つ間、何もすることがないので、自然とタバサの寝...
間近でじっと見てみると、非常に整った顔立ちだということ...
離が近いルイズも絶世の美少女だが、タバサもまた負けず劣ら...
に勝っていると断言できるのは、タバサの肌の滑らかさだろう...
白く光る頬は、思わず手を出して撫でてみたくなるほどだ。
しかも、今の彼女は実に無防備な寝顔を晒しているのだ。普...
完全に溶けて、ただあどけない柔らかさだけが残っている。そ...
分よりも年下であることを思い出した。
(普段しっかりしてるから、つい忘れちまうんだよな。本当は...
んだろうに……親父さんもお母さんも大変なことになっちまって...
才人は目を細めた。何か、ほろ苦いものが胸に広がっていく。
532 名前: タバサの隣で眠りたい [sage] 投稿日: 2008/01/2...
そのとき、タバサが不意に、「ん……」と吐息混じりの声を漏...
までには至らず、少し身じろぎしただけでまた規則的な寝息を...
その微妙な挙動で、彼女の艶やかな青い髪の一部が、ぱさり...
毛に遮られて少し見にくくなる。
本人はそんなことなど全く気付かないように眠りこけていた...
なって仕方がなかった。
(邪魔っ気だなー、これ)
青い髪も細やかで艶があり、見ていて十分目を楽しませるも...
サの寝顔を隠しているのが何となく腹立たしかった。
(タバサだって、気になるだろうしな。いいよな?)
心の中で誰かに向かって言い訳しつつ、腕が自然とタバサの...
指先が白い肌に触れたとき、想像以上に柔らかい手触りが伝...
たほどだった。そのまま頬を指で突き、こね回して触感を楽し...
才人は撫ぜるような控え目な手つきでタバサの顔にかかった髪...
たせいか、一度では上手くいかずに髪がまた垂れてきた。才人...
を手で戻そうとする。
「ふふっ」
小さな笑い声が、吐息と共にタバサの口から漏れ出した。才...
タバサはあどけない寝顔にはっきりとした微笑を浮かべていた...
さく身をよじる。
「もぉ、くすぐったいよぉ」
聞いたこともない無邪気な声音だった。才人の顔に熱が上っ...
めたいという衝動が、切なく胸を締め付ける。
(なに考えてんだ俺、自重しろ俺! 自重するんだ!)
必死に言い聞かせていたとき、タバサがまた身をよじりなが...
「くすぐったいったら……父様」
才人の体から、急速に熱が引いていった。
タバサの顔は穏やかさに満ちていた。見ている方も幸せにな...
才人はもう一度だけ手を伸ばして、タバサの頭をゆっくりと...
それから、無言でその場を後にした。
事情を話したらコルベールも分かってくれたので、才人はそ...
備え付けられた椅子に腰掛け、一人無言で目を閉じていた。叫...
と頭をぶつけたいような衝動が体を駆け巡っていたが、我慢し...
「サイト」
声がした。心臓が跳ね上がる。格納庫の入り口を見ると、タ...
光の中に佇んで、いつもの無表情でこちらを見つめている。
「よう、タバサか。どうした」
苦労して何気ない風を装う。タバサは静かに近づいてきて、...
「どうしたんだ、これ」
「サイトが借りたがってたって、図書館の司書に聞いたから。...
「そこまでしてくれたのかあのお姉さん」
「親切」
「そうだな。ありがとうよ」
司書の背中に向かって中指を突きたてたことをひそかに心の...
を受け取り、傍らのテーブルに置いた。それから、頭一つ分ぐ...
じっと見下ろす。
真っ直ぐに見返してくる青い瞳は、冷たさすら感じさせるほ...
「どうしたの」
才人は「いや、別に」と答えながら目をそらした。いつまで...
れるほど抱きしめたいという衝動を抑えられなくなりそうだっ...
(と言うか、なあ)
ため息が唇を押し割った。
533 名前: タバサの隣で眠りたい [sage] 投稿日: 2008/01/2...
(なんかな。こいつ、頑張りすぎだって。ああ、添い寝して思...
中褒めまくってやりてえ)
才人は心底からそう思った。その念には、自分でも驚くほど...
ない。ほとんど父性とも言えるような、今まで感じたこともな...
タバサが目の前にいるせいか、その感情は一秒経つごとに増...
「サイト」
ふと、タバサが才人の視界に回りこんできた。驚いて身を引...
「なにかあったの」
いつもの平坦な声音から、こちらの身を案ずる優しさが滲み...
才人の胸に熱いものがこみ上げてくる。
(ああもう、自分のことで手一杯になるのが当然だってのに、...
今度こそ本当にどうしようもなくなって、しかし抱きしめる...
代わりに、才人はタバサの両肩に勢いよく両手を乗せた。
「タバサ!」
「……なに?」
突然の才人の行動に、さすがのタバサも驚いたものらしい。...
一拍遅れていた。
そんなタバサの顔を真正面から見つめながら、才人は思いの...
「今夜、俺と一緒に寝ないか」
返事はなかった。タバサは身じろぎせず、口を開かず、瞬き...
ちすくんでいた。
「……冗談?」
一分ほど経って、タバサはようやくそれだけ口にした。壊れ...
傾ぐ。才人は思いっきり首を横に振った。
「いや、冗談なんかじゃない。な、今夜、俺と一緒に寝ようぜ...
溢れる思いを視線にこめて、タバサの瞳を真正面から見つめ...
そのとき、奇妙なことが起きた。
白い頬にかすかな赤みが差したかと思いきや、タバサが思い...
予期せぬ反応に、才人は踏みとどまることすら出来ずに尻餅...
呆然として見上げると、タバサは俯いて細かく体を震わせて...
光となって、その表情を窺い知ることは出来ない。
「タバサ……?」
困惑しながら声をかけると、タバサは今まで聞いたこともな...
「そういうのは!」
「え?」
「ま……まだ、早いと、思う!」
そう言って、タバサは勢いよく踵を返した。小さな体が物凄...
才人はその場に座り込んだまま、タバサが残した言葉を何度...
そして、彼女が言わんとすることの意味を悟り、自嘲する。
「そうか……問題を全部解決したわけじゃないから、人に甘える...
胸にじわりと温かさが染みこんでいくのを感じながら、才人...
「やっぱり凄い奴だよ、お前は……俺も、少しでもお前の助けに...
タバサが去っていった方向を見つめながら、才人は力強く微...
なお、後にタバサは、
「あまりにも突然すぎたために、本来なら喜んで受け入れると...
しの生涯でも一、ニを争うほどの失点である」
と述懐したそうである。
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