ゼロの使い魔保管庫
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素直ルイズ 2 205氏
私語厳禁の授業中なら問題ごとは起こるまい、と多少安心し...
「ふむ。なかなかいい具合だ」
陰険なギトーが珍しく褒めたためか、ド・ロレーヌが調子に...
「いやだなミスタ・ギトー。この程度、ロレーヌの名を背負う...
などと、彼は自分がいかに優秀かということを早口に捲し立...
「ゼロのルイズだけは別ですがね」
すかさず、周囲に座っていた性悪な生徒達がくすくすと笑い...
(ド・ロレーヌのバカたれめ、なんだってこういうときに限っ...
いつものルイズなら、ここで顔を真っ赤にして怒鳴るか唇を...
「そうねえ。ロレーヌ家は優秀な風魔法の使い手をたくさん輩...
邪気のない口調だった。得意げかつ嫌味に笑っていたド・ロ...
「……ド・ロレーヌ。いつまで間抜け面で突っ立っているつもり...
「あ、ああ、すみませんミスタ・ギトー」
不機嫌そうなギトーに注意されたド・ロレーヌが、慌てた様...
ルイズが気になっているのはド・ロレーヌだけではないよう...
「ねえ、ゼロのルイズったら一体どうしたのかしら」
「ド・ロレーヌに色目使っちゃって」
「魔法が使えないから女の武器を鍛えようって考えなんじゃな...
「じゃ、あの使い魔の男の子、振られちゃったの? 本人目の...
聞きたくもないのに囁き声のいくつかが耳に入ってきて、才...
「ちょっと、ゼロのルイズ」
授業と授業の合間、短い休み時間中に声をかけてきたのは、...
「なあに」
不思議そうに目をしばたたくルイズに向かって、その女生徒...
「ふん、急に無邪気な振りしちゃって……! わざとらしいのよ...
その割にずいぶん必死だな、と才人は思った。この女生徒、...
(ま、その辺は誤解だし、ほっときゃいいか)
とりあえず静観することに決めた才人の前で、ルイズはまた...
「うん、そうね、あなたとっても素敵な人だもの。ド・ロレー...
女生徒の顔が朱に染まった。
「なによ、わたしを馬鹿にしてるの、あなた!?」
「え、どうして?」
ルイズの声は心底不思議そうだ。よほどのひねくれ者でない...
そんな女生徒の前で、ルイズは目を輝かせながら立ち上がっ...
「そうだ。ねえあなた、前にミセス・シュヴルーズの授業で、...
「え?」
すぐには思い出せなかったらしく、女生徒は最初怪訝そうに...
「前に一度、そんなことあったような気がするわね。それが、...
「あのときの銅像、凄くよく出来てたから、近くで見たいなあ...
身を乗り出すルイズに間近で見つめられて、女生徒は頬を染...
(今日のルイズ、目をきらきらさせて見つめてくるからなあ。...
「だめ?」
「え? あ、いや、だめってわけじゃ……まあ、今は時間がない...
女生徒が慌てて答えると、ルイズはぱっと顔を輝かせ、相手...
「ありがとう。あなた、とってもいい人ね」
心底嬉しそうに頬を緩ませるルイズの前で、女生徒は真っ赤...
昼食を終えた昼休みの時間、才人たちはヴェストリの広場の...
「やっぱり凄いわねえ。銅像だけど、ここのところは違う金属...
「そうよ。腕輪とか髪飾りとか、装飾の部分は銅より光沢のあ...
「そうねえ。こういうのって気をつけないと嫌味になるけど、...
「そんな、褒めるほどのことでもないわよ」
そう言いつつも、声音は得意げだった。女生徒は気を良くし...
「すげえな、ルイズの奴」
才人がぽつりと呟くと、隣に立っていたギーシュが深く頷い...
「全くだ。ルイズと話している彼女、いつも刺々しいというか...
向こうのベンチを取り巻く人垣の隙間から、楽しそうに話す...
「あの子、褒めるの上手いわね。おべっかとかお世辞とかじゃ...
「そうなのか?」
「ええ。相手が『こう褒めてほしい』とか、『ここを評価して...
意外そうなキュルケの隣で、モンモランシーが目を細める。
「それだけよく他人を見てるってことよ」
「あの雰囲気読めないルイズがか?」
才人が眉をひそめると、モンモランシーは肩をすくめた。
「雰囲気が読めないって言われるのは、相手の感情を察するの...
「どういうこと、って」
「つまりね、あの子、他人の凄いところばっかりに目が向いて...
モンモランシーが指差す先を見ると、地味な顔立ちの男子生...
「本当よ、あのときわたし、凄いなって思ったんだから」
「いや、僕なんか……ツェルプストーの方が派手だし火勢も強か...
その遠慮がちな返答から察するに、どうやら男子生徒は火系...
「ううん。確かにキュルケの方が炎は大きかったかもしれない...
あんな風に繊細に炎を操るのって、実は物凄く技術が必要なこ...
そう言って、ルイズはそっと男子生徒の手を握った。
「あのときは言えなかったから、今この場で賞賛を送らせても...
ストレートな褒め言葉に慣れていないのか、男子生徒はほと...
「わたしは別にそういうことが出来ないんじゃなくて、単にち...
ぼやくように言って、キュルケが面白がるように笑う。
「それにしても、凄いわねあの子。あんな本人すら覚えてない...
「だから言ったでしょ。あの子、他人の凄いところは本当によ...
もずっとよくね」
「なんでだろうな?」
ルイズの観察眼の源が分からず首を傾げる才人に、モンモラ...
「多分、あの子の劣等感のせいでしょうね。『みんなは凄いけ...
てしまうってことね」
「素直になる薬、か」
才人はため息をつく。
「つまり、今は劣等感とか余計な自尊心とかが綺麗に消えてる...
「そういうことになるわね」
モンモランシーは少し寂しそうに笑った。
「わたし、あの子があの薬を飲んだら、いつも言い返さずに我...
「そりゃそうだ」
才人は笑った。
「あいつ、お姉ちゃん子だもんな。本当は甘えたり可愛がられ...
ルイズは女生徒の一人に頭を撫でられて、はにかんだ笑みを...
「ねえシエスタ、ここのところは、こんな風でいいの?」
手に持っている編みかけのマフラーを持ち上げながら、ルイ...
「はい、とってもお上手ですわ、ミス・ヴァリエール」
「ありがとう」
ルイズが嬉しそうに笑うのを、才人はベッドの縁に腰掛けな...
結局、今日一日、問題らしいことは何も起こらなかった。午...
今、夜になって部屋に戻ってきてから、ルイズはシエスタと...
(と言っても、完成はしねえだろうな)
ルイズの目蓋が落ちかかっているのを見て、才人は少し残念...
「それに、今日の記憶は残らないらしいの。薬に関する記憶ご...
「なんでだよ」
「最初に調合したメイジが、そんな風にしたのよ。でも正解だ...
モンモランシーは、そんな風にも言っていた。明日になれば...
(でもきっと、それでいいんだな)
才人が心の中で呟いたとき、シエスタが労わるようにルイズ...
「さ、ミス・ヴァリエール。今日はもうこのぐらいにして、続...
「ううん、最後までやる。だって、明日になったらまた……」
頑固に言い張るルイズだが、睡魔には勝てないらしく、こっ...
才人も苦笑しながら近づいて、彼女の肩に手を置いた。
「シエスタの言うとおりだよ、ルイズ。無理して今日完成させ...
そう言ってやると、ルイズは少し残念そうに微笑んで、頷い...
「うん、そうする。今日はもう眠るわ」
「ああ、そうしようぜ」
「ねえサイト」
「うん?」
ルイズは机に編みかけのマフラーを置くと、椅子の上で姿勢...
「あのね、ありがとう」
「なにがだよ?」
「わたしのことを、守ってくれて。わたし、ずっとサイトに助...
真剣な顔で言うルイズを見ていて、才人は不意に気がついた。
「お前、ひょっとしてそれを伝えたいがために、『素直になる...
「うん、そう」
ルイズは恥ずかしそうに頬を染めて、少し俯いた。
「いつものわたしだったら、きっと伝えられないと思ったの。...
昨日の夜、そわそわしていたルイズの姿が思い浮かんだ。
「そっか。俺に感謝の言葉を伝えたくて、か」
「そう。わたし、あなたがそばにいてくれて、本当に感謝して...
才人は、瞬きもしないルイズとじっと見つめあった。
「そうか。お前が何を考えてたのかは、大体分かったよ。でも...
首を横に振る。
「今のお前の言葉は、聞かなかったことにしておく」
「どうして」
ルイズが驚き、悲しげに顔を曇らせる。
「わたしがいつも、サイトに酷いことばかりしているから? ...
「違うよ、そういうんじゃないんだ」
才人は、ルイズの頭にそっと手を置いた。
「お前はさ、多分本当に、俺に感謝してくれてるんだと思う。...
少しかがんで、鳶色の瞳を真正面から覗き込む。
「それは、薬の力なんかなしに、いつも通りのお前に言ってほ...
ルイズは少し考えてから、大きく頷いた。
「うん、分かる」
「そうか。やっぱり偉いよ、お前は」
「ううん、サイトがいてくれるおかげよ。ねえサイト」
ルイズは両手を伸ばして、才人の左手をぎゅっと握った。
「わたし、頑張るから。頑張って頑張って、いつかきっと、あ...
才人は笑った。
「ああ、いつまでだって待ってるさ。そのときが楽しみだよ」
「ありがとう。やっぱりあなたは、いつでもわたしのことを助...
「こっちこそ」
「うん」
微笑んだルイズの体が、小さく傾ぐ。慌てて支えてやると、...
「ごめんね、なんだかすごく眠たくて」
「薬の副作用かもな。ベッドまで運ぶよ」
才人はルイズの体を抱え上げた。幼い子供のように軽い彼女...
「サイト」
ルイズは薄目を開けて微笑んだ。
「言い忘れてたこと、あったわ。これも忘れてくれていいんだ...
「なんだ」
「わたしね、サイトのこと大好きよ。みんなのことも」
「そんなことか」
才人は微笑み、ルイズの頬を撫でた。
「知ってるよ。みんなだって、きっと分かってくれたと思うぜ」
「そう、よかった。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ルイズは目を閉じ、静かな寝息を立て始めた。
幸せな夢を見ているように穏やかな寝顔を眺めながら、才人...
不意に鼻をすすり上げる音が聞こえてきて振り返ると、シエ...
「どうした、シエスタ」
「だって、サイトさん」
シエスタが目元を拭いながら言う。
「ミス・ヴァリエールったら、とっても健気なんですもの」
「そうだなあ。こいつがこんなにいい子だとは思ってなかった...
しみじみ言うと、シエスタは決意に目を光らせながら、ぐっ...
「わたし、決めました。これからは全力でミス・ヴァリエール...
とりあえず後半は聞き流すことにしておいた。
「そうだな。ま、出来る限り助けになってやってくれよ。本当...
「はい、もちろんです。必ずやミス・ヴァリエールを素直な女...
意気込みを語ろうとしていたシエスタが、不意に眉をひそめ...
「どうした?」
「いえ、なんだか、外が騒がしいような」
「なに」
言われてみると、確かに聞こえた。扉の向こうから、誰かの...
(まさか)
扉を開けてみると、予想通り、部屋の周りに人だかりが出来...
「なにやってんのお前らは」
「話は聞かせてもらったぞ!」
おいおい泣きながら、ド・ロレーヌが才人の肩を握り締める。
「僕らも協力する! 必ずや彼女を一人前のメイジにしてみせ...
「そうだ!」
「わたしも協力するわ!」
「僕もだ!」
「クラス全員、一丸となって彼女の力になることを約束しよう」
「あなたも頑張ってね」
「必ずルイズを幸せにしてあげるのよ」
「泣かせたら許さんからな!」
思い思いに才人の肩を叩き手を握り、勝手なことを叫びなが...
「アホな奴らだなあ」
呆れて頭をかきつつも、なんとなく悪い気はしない才人だっ...
これだけの騒ぎの中でも、ルイズは目を覚ます気配すらなく...
翌朝目を覚ましたルイズは、妙に目覚めがすっきりしている...
(なんでだろう)
いつも朝が弱い自分のことを思い返しながら、ベッドの上で...
(紅茶? なんで?)
疑問に思っていると、机のそばの椅子に座って紅茶を啜って...
「よう、おはようルイズ。今日もいい天気だぜ」
「おはようございますミス・ヴァリエール。目覚めの紅茶はい...
既にメイド服を着ているシエスタが、穏やかな声で勧めてく...
「なによあんたたち、なに企んでんの?」
「何も企んでなんかいねえよ。なあシエスタ?」
「そうですよミス・ヴァリエール。あ、お体の調子はどうです...
「別に、なんともないけど」
言いかけて、ルイズは気がついた。机の上に、ティーカップ...
「ちょっとシエスタ、いくら同じ部屋で暮らしてるからって、...
「なんのことです?」
「そのマフラーよ。あんたのでしょ?」
「違いますよ」
シエスタは優しく微笑んだ。
「あれは、昨日の夜ミス・ヴァリエールが一生懸命編まれてた...
「は、わたしが? でも、ずいぶん出来がいいみたいだし」
「ミス・ヴァリエールの努力の結果じゃないですか」
「あのね、大体昨日のことなんて」
言いかけて、ルイズはふと気がついた。
「って言うか、わたし、昨日のことよく思い出せないんだけど」
才人が勢いよく音を立ててティーカップを置き、焦ったよう...
「ん。まあ、いいじゃんか。おっと、そろそろ飯の時間だぜ」
「ああ、本当ですね。さあミス・ヴァリエール。お着替えしま...
「なにその赤ん坊に語りかけるような口調」
「いやですわ赤ん坊だなんて。ミス・ヴァリエールみたいな立...
「そうそう。ルイズは実に立派な奴だ」
まるで子供を見守るような二人の温かい視線に、ルイズはま...
おかしなことはその後も続いた。廊下の途中で会ったキュル...
極めつけだったのは、授業中の出来事である。
「さて、それではこの石を金属に変えてもらいましょう。誰か...
一時限目の担当であるシュヴルーズが教室を見回しながら言...
(虚無系統の使い手だって分かった今、上手くいく可能性はゼ...
そう考えていたのだが、何故かド・ロレーヌが張り切って立...
「はい、ミセス・シュヴルーズ! ここは是非ミス・ヴァリエ...
「は!? なに言ってんのあんた!?」
「そうだ、ルイズにやってもらおう!」
「ちょ!?」
「ルイズなら適任だ!」
「頑張って、ルイズ!」
「いや、だから!」
「ルイズ!」
「ルイズ!」
「あの、ちょっと待ってってば……!」
本人の抗議を飲み込むような勢いで、教室中から大音声のル...
「皆さん、今まで失敗続きのミス・ヴァリエールに、名誉を挽...
「ええ!?」
いつの間にやら自分が実演する流れになっている。ルイズは...
(ひょっとして、わたしの失敗をみんなで笑って楽しもうって...
しかし、周りから飛んでくるのは祈るような切実な視線ばか...
(何が起こってるの一体)
混乱しつつも、ルイズは立ち上がる。階段を下りて教壇に向...
「頑張れ」
「しっかりね」
「負けるなよ」
自分はどこにいるんだろうかとぼんやり考えながら、ルイズ...
「どうしたんですか、ミス・ヴァリエール」
「ええと、ミセス・シュヴルーズ」
ルイズは誤魔化すように笑った。
「あの、わたしはやめておいたほうがいいんじゃないかなって...
「そんなことはないぞ!」
ド・ロレーヌが机を叩きながら立ち上がり、拳を掲げて叫ん...
「自信をなくなさないで!」
あまり話したこともない地味な男子生徒が、椅子を蹴って身...
「君は精一杯努力してきたじゃないか!」
「そうだ、今度こそきっとやれるさ!」
「頑張って!」
教室のほぼ全員が総立ちである。キュルケやタバサなど、こ...
傍らのミセス・シュヴルーズもやけに温かい顔をして頷いてい...
(ええい、もうどうにでもなれ!)
ルイズは目を瞑って杖を取り出した。無駄と知りつつも錬金...
そして奇跡が起きた……ということはもちろんなく、案の定爆...
(ほら見なさい。なんだか知らないけど、これであんたたちも...
内心そんなことを考えながら振り返ると、さっき立っていた...
「くじけるな! 一度や二度の失敗が何だって言うんだ!」
「そうよ、負けちゃだめよ!」
「何度だって挑戦すればいいじゃないか!」
「僕達がついてるぞ!」
「諦めないで!」
教室中から飛んでくる温かい声援に、ルイズは眩暈を感じた...
「ああ皆さん、友情というものはなんて尊いものなんでしょう...
大仰に両腕を広げながら、シュヴルーズが感極まったように...
「さあミス・ヴァリエール、もう一度挑戦しましょうね」
「はい?」
「大丈夫、石も時間も、まだまだたくさんありますからね」
優しく語りかけながら、取り出した無数の石ころをごろごろ...
結局授業が終わるまでに、ルイズはその日だけで数十回も教...
「もう、いったい何なのよ!」
放課後、ほうほうの体で自室に戻ってきたルイズが、ベッド...
「なにこれ、なんかの陰謀? それともみんな頭がおかしくな...
「おいおい、ひどいこと言うなよ。みんな心の底からお前を応...
「それが気持ち悪いって言ってんの!」
ヒステリック気味に怒鳴ったあと、ルイズは爪を噛みながら...
「おかしい。何かがおかしいわ。きっと昨日何かあったんだわ...
唐突に矛先がこちらに向いたが、才人は軽く肩を竦めて受け...
「知らねえな。ああでも、昨日一つだけ分かったことがあるな」
「なによ」
唇を尖らせるルイズを見ながら、笑って言ってやる。
「お前が物凄く可愛い奴だってことさ」
「な」
ルイズは絶句した。その顔が見る見る赤くなっていき、唇が...
だが結局何もいえないまま、彼女は真っ赤な顔のまま唇を引き...
「もう寝る、今日は寝る!」
「おう、好きなようにしろよ。ホント可愛い奴だなあ、お前は」
「その生温かい声やめなさいよ! わたしが可愛いのはホント...
ひどく混乱した口調で叫びながら、ルイズがやみくもに枕を...
机の上にある編みかけのマフラーを眺めながら、才人は愉快に...
終了行:
素直ルイズ 2 205氏
私語厳禁の授業中なら問題ごとは起こるまい、と多少安心し...
「ふむ。なかなかいい具合だ」
陰険なギトーが珍しく褒めたためか、ド・ロレーヌが調子に...
「いやだなミスタ・ギトー。この程度、ロレーヌの名を背負う...
などと、彼は自分がいかに優秀かということを早口に捲し立...
「ゼロのルイズだけは別ですがね」
すかさず、周囲に座っていた性悪な生徒達がくすくすと笑い...
(ド・ロレーヌのバカたれめ、なんだってこういうときに限っ...
いつものルイズなら、ここで顔を真っ赤にして怒鳴るか唇を...
「そうねえ。ロレーヌ家は優秀な風魔法の使い手をたくさん輩...
邪気のない口調だった。得意げかつ嫌味に笑っていたド・ロ...
「……ド・ロレーヌ。いつまで間抜け面で突っ立っているつもり...
「あ、ああ、すみませんミスタ・ギトー」
不機嫌そうなギトーに注意されたド・ロレーヌが、慌てた様...
ルイズが気になっているのはド・ロレーヌだけではないよう...
「ねえ、ゼロのルイズったら一体どうしたのかしら」
「ド・ロレーヌに色目使っちゃって」
「魔法が使えないから女の武器を鍛えようって考えなんじゃな...
「じゃ、あの使い魔の男の子、振られちゃったの? 本人目の...
聞きたくもないのに囁き声のいくつかが耳に入ってきて、才...
「ちょっと、ゼロのルイズ」
授業と授業の合間、短い休み時間中に声をかけてきたのは、...
「なあに」
不思議そうに目をしばたたくルイズに向かって、その女生徒...
「ふん、急に無邪気な振りしちゃって……! わざとらしいのよ...
その割にずいぶん必死だな、と才人は思った。この女生徒、...
(ま、その辺は誤解だし、ほっときゃいいか)
とりあえず静観することに決めた才人の前で、ルイズはまた...
「うん、そうね、あなたとっても素敵な人だもの。ド・ロレー...
女生徒の顔が朱に染まった。
「なによ、わたしを馬鹿にしてるの、あなた!?」
「え、どうして?」
ルイズの声は心底不思議そうだ。よほどのひねくれ者でない...
そんな女生徒の前で、ルイズは目を輝かせながら立ち上がっ...
「そうだ。ねえあなた、前にミセス・シュヴルーズの授業で、...
「え?」
すぐには思い出せなかったらしく、女生徒は最初怪訝そうに...
「前に一度、そんなことあったような気がするわね。それが、...
「あのときの銅像、凄くよく出来てたから、近くで見たいなあ...
身を乗り出すルイズに間近で見つめられて、女生徒は頬を染...
(今日のルイズ、目をきらきらさせて見つめてくるからなあ。...
「だめ?」
「え? あ、いや、だめってわけじゃ……まあ、今は時間がない...
女生徒が慌てて答えると、ルイズはぱっと顔を輝かせ、相手...
「ありがとう。あなた、とってもいい人ね」
心底嬉しそうに頬を緩ませるルイズの前で、女生徒は真っ赤...
昼食を終えた昼休みの時間、才人たちはヴェストリの広場の...
「やっぱり凄いわねえ。銅像だけど、ここのところは違う金属...
「そうよ。腕輪とか髪飾りとか、装飾の部分は銅より光沢のあ...
「そうねえ。こういうのって気をつけないと嫌味になるけど、...
「そんな、褒めるほどのことでもないわよ」
そう言いつつも、声音は得意げだった。女生徒は気を良くし...
「すげえな、ルイズの奴」
才人がぽつりと呟くと、隣に立っていたギーシュが深く頷い...
「全くだ。ルイズと話している彼女、いつも刺々しいというか...
向こうのベンチを取り巻く人垣の隙間から、楽しそうに話す...
「あの子、褒めるの上手いわね。おべっかとかお世辞とかじゃ...
「そうなのか?」
「ええ。相手が『こう褒めてほしい』とか、『ここを評価して...
意外そうなキュルケの隣で、モンモランシーが目を細める。
「それだけよく他人を見てるってことよ」
「あの雰囲気読めないルイズがか?」
才人が眉をひそめると、モンモランシーは肩をすくめた。
「雰囲気が読めないって言われるのは、相手の感情を察するの...
「どういうこと、って」
「つまりね、あの子、他人の凄いところばっかりに目が向いて...
モンモランシーが指差す先を見ると、地味な顔立ちの男子生...
「本当よ、あのときわたし、凄いなって思ったんだから」
「いや、僕なんか……ツェルプストーの方が派手だし火勢も強か...
その遠慮がちな返答から察するに、どうやら男子生徒は火系...
「ううん。確かにキュルケの方が炎は大きかったかもしれない...
あんな風に繊細に炎を操るのって、実は物凄く技術が必要なこ...
そう言って、ルイズはそっと男子生徒の手を握った。
「あのときは言えなかったから、今この場で賞賛を送らせても...
ストレートな褒め言葉に慣れていないのか、男子生徒はほと...
「わたしは別にそういうことが出来ないんじゃなくて、単にち...
ぼやくように言って、キュルケが面白がるように笑う。
「それにしても、凄いわねあの子。あんな本人すら覚えてない...
「だから言ったでしょ。あの子、他人の凄いところは本当によ...
もずっとよくね」
「なんでだろうな?」
ルイズの観察眼の源が分からず首を傾げる才人に、モンモラ...
「多分、あの子の劣等感のせいでしょうね。『みんなは凄いけ...
てしまうってことね」
「素直になる薬、か」
才人はため息をつく。
「つまり、今は劣等感とか余計な自尊心とかが綺麗に消えてる...
「そういうことになるわね」
モンモランシーは少し寂しそうに笑った。
「わたし、あの子があの薬を飲んだら、いつも言い返さずに我...
「そりゃそうだ」
才人は笑った。
「あいつ、お姉ちゃん子だもんな。本当は甘えたり可愛がられ...
ルイズは女生徒の一人に頭を撫でられて、はにかんだ笑みを...
「ねえシエスタ、ここのところは、こんな風でいいの?」
手に持っている編みかけのマフラーを持ち上げながら、ルイ...
「はい、とってもお上手ですわ、ミス・ヴァリエール」
「ありがとう」
ルイズが嬉しそうに笑うのを、才人はベッドの縁に腰掛けな...
結局、今日一日、問題らしいことは何も起こらなかった。午...
今、夜になって部屋に戻ってきてから、ルイズはシエスタと...
(と言っても、完成はしねえだろうな)
ルイズの目蓋が落ちかかっているのを見て、才人は少し残念...
「それに、今日の記憶は残らないらしいの。薬に関する記憶ご...
「なんでだよ」
「最初に調合したメイジが、そんな風にしたのよ。でも正解だ...
モンモランシーは、そんな風にも言っていた。明日になれば...
(でもきっと、それでいいんだな)
才人が心の中で呟いたとき、シエスタが労わるようにルイズ...
「さ、ミス・ヴァリエール。今日はもうこのぐらいにして、続...
「ううん、最後までやる。だって、明日になったらまた……」
頑固に言い張るルイズだが、睡魔には勝てないらしく、こっ...
才人も苦笑しながら近づいて、彼女の肩に手を置いた。
「シエスタの言うとおりだよ、ルイズ。無理して今日完成させ...
そう言ってやると、ルイズは少し残念そうに微笑んで、頷い...
「うん、そうする。今日はもう眠るわ」
「ああ、そうしようぜ」
「ねえサイト」
「うん?」
ルイズは机に編みかけのマフラーを置くと、椅子の上で姿勢...
「あのね、ありがとう」
「なにがだよ?」
「わたしのことを、守ってくれて。わたし、ずっとサイトに助...
真剣な顔で言うルイズを見ていて、才人は不意に気がついた。
「お前、ひょっとしてそれを伝えたいがために、『素直になる...
「うん、そう」
ルイズは恥ずかしそうに頬を染めて、少し俯いた。
「いつものわたしだったら、きっと伝えられないと思ったの。...
昨日の夜、そわそわしていたルイズの姿が思い浮かんだ。
「そっか。俺に感謝の言葉を伝えたくて、か」
「そう。わたし、あなたがそばにいてくれて、本当に感謝して...
才人は、瞬きもしないルイズとじっと見つめあった。
「そうか。お前が何を考えてたのかは、大体分かったよ。でも...
首を横に振る。
「今のお前の言葉は、聞かなかったことにしておく」
「どうして」
ルイズが驚き、悲しげに顔を曇らせる。
「わたしがいつも、サイトに酷いことばかりしているから? ...
「違うよ、そういうんじゃないんだ」
才人は、ルイズの頭にそっと手を置いた。
「お前はさ、多分本当に、俺に感謝してくれてるんだと思う。...
少しかがんで、鳶色の瞳を真正面から覗き込む。
「それは、薬の力なんかなしに、いつも通りのお前に言ってほ...
ルイズは少し考えてから、大きく頷いた。
「うん、分かる」
「そうか。やっぱり偉いよ、お前は」
「ううん、サイトがいてくれるおかげよ。ねえサイト」
ルイズは両手を伸ばして、才人の左手をぎゅっと握った。
「わたし、頑張るから。頑張って頑張って、いつかきっと、あ...
才人は笑った。
「ああ、いつまでだって待ってるさ。そのときが楽しみだよ」
「ありがとう。やっぱりあなたは、いつでもわたしのことを助...
「こっちこそ」
「うん」
微笑んだルイズの体が、小さく傾ぐ。慌てて支えてやると、...
「ごめんね、なんだかすごく眠たくて」
「薬の副作用かもな。ベッドまで運ぶよ」
才人はルイズの体を抱え上げた。幼い子供のように軽い彼女...
「サイト」
ルイズは薄目を開けて微笑んだ。
「言い忘れてたこと、あったわ。これも忘れてくれていいんだ...
「なんだ」
「わたしね、サイトのこと大好きよ。みんなのことも」
「そんなことか」
才人は微笑み、ルイズの頬を撫でた。
「知ってるよ。みんなだって、きっと分かってくれたと思うぜ」
「そう、よかった。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ルイズは目を閉じ、静かな寝息を立て始めた。
幸せな夢を見ているように穏やかな寝顔を眺めながら、才人...
不意に鼻をすすり上げる音が聞こえてきて振り返ると、シエ...
「どうした、シエスタ」
「だって、サイトさん」
シエスタが目元を拭いながら言う。
「ミス・ヴァリエールったら、とっても健気なんですもの」
「そうだなあ。こいつがこんなにいい子だとは思ってなかった...
しみじみ言うと、シエスタは決意に目を光らせながら、ぐっ...
「わたし、決めました。これからは全力でミス・ヴァリエール...
とりあえず後半は聞き流すことにしておいた。
「そうだな。ま、出来る限り助けになってやってくれよ。本当...
「はい、もちろんです。必ずやミス・ヴァリエールを素直な女...
意気込みを語ろうとしていたシエスタが、不意に眉をひそめ...
「どうした?」
「いえ、なんだか、外が騒がしいような」
「なに」
言われてみると、確かに聞こえた。扉の向こうから、誰かの...
(まさか)
扉を開けてみると、予想通り、部屋の周りに人だかりが出来...
「なにやってんのお前らは」
「話は聞かせてもらったぞ!」
おいおい泣きながら、ド・ロレーヌが才人の肩を握り締める。
「僕らも協力する! 必ずや彼女を一人前のメイジにしてみせ...
「そうだ!」
「わたしも協力するわ!」
「僕もだ!」
「クラス全員、一丸となって彼女の力になることを約束しよう」
「あなたも頑張ってね」
「必ずルイズを幸せにしてあげるのよ」
「泣かせたら許さんからな!」
思い思いに才人の肩を叩き手を握り、勝手なことを叫びなが...
「アホな奴らだなあ」
呆れて頭をかきつつも、なんとなく悪い気はしない才人だっ...
これだけの騒ぎの中でも、ルイズは目を覚ます気配すらなく...
翌朝目を覚ましたルイズは、妙に目覚めがすっきりしている...
(なんでだろう)
いつも朝が弱い自分のことを思い返しながら、ベッドの上で...
(紅茶? なんで?)
疑問に思っていると、机のそばの椅子に座って紅茶を啜って...
「よう、おはようルイズ。今日もいい天気だぜ」
「おはようございますミス・ヴァリエール。目覚めの紅茶はい...
既にメイド服を着ているシエスタが、穏やかな声で勧めてく...
「なによあんたたち、なに企んでんの?」
「何も企んでなんかいねえよ。なあシエスタ?」
「そうですよミス・ヴァリエール。あ、お体の調子はどうです...
「別に、なんともないけど」
言いかけて、ルイズは気がついた。机の上に、ティーカップ...
「ちょっとシエスタ、いくら同じ部屋で暮らしてるからって、...
「なんのことです?」
「そのマフラーよ。あんたのでしょ?」
「違いますよ」
シエスタは優しく微笑んだ。
「あれは、昨日の夜ミス・ヴァリエールが一生懸命編まれてた...
「は、わたしが? でも、ずいぶん出来がいいみたいだし」
「ミス・ヴァリエールの努力の結果じゃないですか」
「あのね、大体昨日のことなんて」
言いかけて、ルイズはふと気がついた。
「って言うか、わたし、昨日のことよく思い出せないんだけど」
才人が勢いよく音を立ててティーカップを置き、焦ったよう...
「ん。まあ、いいじゃんか。おっと、そろそろ飯の時間だぜ」
「ああ、本当ですね。さあミス・ヴァリエール。お着替えしま...
「なにその赤ん坊に語りかけるような口調」
「いやですわ赤ん坊だなんて。ミス・ヴァリエールみたいな立...
「そうそう。ルイズは実に立派な奴だ」
まるで子供を見守るような二人の温かい視線に、ルイズはま...
おかしなことはその後も続いた。廊下の途中で会ったキュル...
極めつけだったのは、授業中の出来事である。
「さて、それではこの石を金属に変えてもらいましょう。誰か...
一時限目の担当であるシュヴルーズが教室を見回しながら言...
(虚無系統の使い手だって分かった今、上手くいく可能性はゼ...
そう考えていたのだが、何故かド・ロレーヌが張り切って立...
「はい、ミセス・シュヴルーズ! ここは是非ミス・ヴァリエ...
「は!? なに言ってんのあんた!?」
「そうだ、ルイズにやってもらおう!」
「ちょ!?」
「ルイズなら適任だ!」
「頑張って、ルイズ!」
「いや、だから!」
「ルイズ!」
「ルイズ!」
「あの、ちょっと待ってってば……!」
本人の抗議を飲み込むような勢いで、教室中から大音声のル...
「皆さん、今まで失敗続きのミス・ヴァリエールに、名誉を挽...
「ええ!?」
いつの間にやら自分が実演する流れになっている。ルイズは...
(ひょっとして、わたしの失敗をみんなで笑って楽しもうって...
しかし、周りから飛んでくるのは祈るような切実な視線ばか...
(何が起こってるの一体)
混乱しつつも、ルイズは立ち上がる。階段を下りて教壇に向...
「頑張れ」
「しっかりね」
「負けるなよ」
自分はどこにいるんだろうかとぼんやり考えながら、ルイズ...
「どうしたんですか、ミス・ヴァリエール」
「ええと、ミセス・シュヴルーズ」
ルイズは誤魔化すように笑った。
「あの、わたしはやめておいたほうがいいんじゃないかなって...
「そんなことはないぞ!」
ド・ロレーヌが机を叩きながら立ち上がり、拳を掲げて叫ん...
「自信をなくなさないで!」
あまり話したこともない地味な男子生徒が、椅子を蹴って身...
「君は精一杯努力してきたじゃないか!」
「そうだ、今度こそきっとやれるさ!」
「頑張って!」
教室のほぼ全員が総立ちである。キュルケやタバサなど、こ...
傍らのミセス・シュヴルーズもやけに温かい顔をして頷いてい...
(ええい、もうどうにでもなれ!)
ルイズは目を瞑って杖を取り出した。無駄と知りつつも錬金...
そして奇跡が起きた……ということはもちろんなく、案の定爆...
(ほら見なさい。なんだか知らないけど、これであんたたちも...
内心そんなことを考えながら振り返ると、さっき立っていた...
「くじけるな! 一度や二度の失敗が何だって言うんだ!」
「そうよ、負けちゃだめよ!」
「何度だって挑戦すればいいじゃないか!」
「僕達がついてるぞ!」
「諦めないで!」
教室中から飛んでくる温かい声援に、ルイズは眩暈を感じた...
「ああ皆さん、友情というものはなんて尊いものなんでしょう...
大仰に両腕を広げながら、シュヴルーズが感極まったように...
「さあミス・ヴァリエール、もう一度挑戦しましょうね」
「はい?」
「大丈夫、石も時間も、まだまだたくさんありますからね」
優しく語りかけながら、取り出した無数の石ころをごろごろ...
結局授業が終わるまでに、ルイズはその日だけで数十回も教...
「もう、いったい何なのよ!」
放課後、ほうほうの体で自室に戻ってきたルイズが、ベッド...
「なにこれ、なんかの陰謀? それともみんな頭がおかしくな...
「おいおい、ひどいこと言うなよ。みんな心の底からお前を応...
「それが気持ち悪いって言ってんの!」
ヒステリック気味に怒鳴ったあと、ルイズは爪を噛みながら...
「おかしい。何かがおかしいわ。きっと昨日何かあったんだわ...
唐突に矛先がこちらに向いたが、才人は軽く肩を竦めて受け...
「知らねえな。ああでも、昨日一つだけ分かったことがあるな」
「なによ」
唇を尖らせるルイズを見ながら、笑って言ってやる。
「お前が物凄く可愛い奴だってことさ」
「な」
ルイズは絶句した。その顔が見る見る赤くなっていき、唇が...
だが結局何もいえないまま、彼女は真っ赤な顔のまま唇を引き...
「もう寝る、今日は寝る!」
「おう、好きなようにしろよ。ホント可愛い奴だなあ、お前は」
「その生温かい声やめなさいよ! わたしが可愛いのはホント...
ひどく混乱した口調で叫びながら、ルイズがやみくもに枕を...
机の上にある編みかけのマフラーを眺めながら、才人は愉快に...
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