ゼロの使い魔保管庫
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前 [[28-54]]不幸せな友人たち シエスタ
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不幸せな友人たち 再び、ティファニア
剣の城の城門がゆっくりと開き、降りた跳ね橋を通って慌て...
「ティファニアさん、一体どうなったのですか」
「連絡もせずに、ごめんなさい」
「いいえ、それはよろしいのですが」
言いかけたジュリアンは、ティファニアの格好を見て息を飲...
「お覚悟を、決められたのですね」
「そのつもりです」
「分かりました。我が主の下に案内いたしましょう」
半年前、シエスタが死んだ夜のように、ジュリアンが先に立...
「この庭は、ジュリアンさんがお世話を?」
「ええ。奥様も大変気に入られておりまして、ここに椅子を持...
暖かい日差しの下、花々に囲まれて手紙を読みながら微笑む...
城館に正面から入るのは、ここに初めて来たとき以来である...
「奥様に、お客様がいらっしゃったことをお知らせいたします」
扉に手を触れる前に、ジュリアンが振り返った。
「心の準備を、しておいてください」
そう言い残し、彼はノックしてから部屋に入った。
「あら、どうしたのジュリアン」
扉の隙間から、シエスタが死んだ日に聞いた声音が聞こえて...
(タバサさん……どうか、わたしに、選択を誤らぬ力をください)
念じると同時に、また声がした。
「珍しいわね、お客様? どうぞ、お通ししてちょうだい」
ジュリアンが出てきて、部屋に入るよう無言で促した。彼は...
寝室は、元貴族のものとしては実に質素なものだった。シエ...
「ようこそ、剣の城へ」
長櫃とは反対側の隅から、声がした。ティファニアは、はっ...
そしてそのベッドの上で、一人の老女が上半身を起こしてい...
「わたくし、主の留守を預かっておりますルイズ・ド・ラ・デ...
穏やかな声で話しかけられ、微笑みかけられたとき、ティフ...
(ああ、この人、この人は……!)
年老いたルイズの顔を見るのは、これが初めてではない。彼...
繰り返し想像してもいた。
だが、実際にこちらに語りかける彼女を目にすると、そうい...
「こんな格好でごめんなさいね。最近足が痛くて、もう立つこ...
申し訳なさそうに詫びるルイズを見つめていると、ティファ...
今すぐ彼女のそばに駆け寄り、その膝にすがり付いて声を上げ...
そうやって扉のそばで立ちすくむティファニアのことを、ル...
「あら、失礼ですけれど、どこかでお会いしたことがあったか...
心臓が高鳴る。ルイズはそんなことには気付かぬ様子で、控...
「気のせいですわよね。こんなに若々しくて、美しい金髪の方...
そう言ったあとで、まだ自分の記憶を探るように、かすかに...
「ああ、だけど本当にどこかでお会いした気がするわ。失礼で...
ティファニアは息を飲んだ。ついに、この瞬間がやって来た...
震える手に無理矢理力を込め、ゆっくりと帽子を取った。
ルイズの顔に驚きが広がった。
「まあ、テファ。ティファニアじゃないの」
その視線から目をそらしそうになるのを我慢しながら、ティ...
「わたしのこと、覚えておいでですか」
声が震えなかったのは奇跡に近い。ルイズは微笑んで、何度...
「ええ、もちろん覚えているわ。友達の顔を忘れる訳がないで...
ティファニアはルイズのベッドに歩み寄り、そばにあった椅...
間近で見るルイズの顔は、やはり年老いていた。しかし、も...
かだ。一目見ただけで、誰もが彼女の幸せな人生を思い浮かべ...
ルイズは微笑みながらティファニアの顔を見つめ、深く頷い...
「本当に懐かしいわ。あなたはちっとも変わっていないのね。...
そう言ったあと、少し慌てて詫びる。
「ああごめんなさい、悪い意味で言った訳ではないの。許して...
「いえ、そんな……本当のことですし」
「そう、ありがとう。だけど本当に嬉しかったのよ、わたし」
微笑に少しだけ寂しさが混じる。彼女はベッドの枠に背をも...
「何故かしら、一人ぼっちになってしまった気がしていたのよ...
その口ぶりに、悔恨や苦悩の色は窺えない。皆穏やかに死ん...
「半年前にはシエスタまで死んでしまって。その頃からかしら...
疲労の色を滲ませながらも、その顔にはまだ優しい微笑があ...
「変よね、一人ぼっちだなんて。わたしにはまだサイトがいる...
ティファニアは椅子の上で身を硬くした。ルイズの口からサ...
そんな彼女には気付かぬ様子で、老女はゆっくりと言葉を紡...
「今ではもう食事も満足に食べられないのよ。折角作ってくれ...
彼女のことを見ていられなくなり、ティファニアは目をそら...
「あの、それは?」
ルイズはティファニアの視線を追って、笑った。
「ああ、これ? これはサイトからの手紙。サイトったらこの...
もちろん、それは嘘だ。そういう風に、ティファニアが書い...
「そんな元気な人の妻なのに、わたしは今や夫からの手紙を読...
先程、一人ぼっちになってしまったと言ったことを考えると...
ルイズはそっと手紙の一枚を手に取り、少し骨ばった指先で...
「サイトは今でも、三日に一度は手紙を送ってくれるわ。考え...
普通に考えれば、おかしなことである。だがルイズは、あま...
「本当に、いろいろなことがあったわ。もっとも、わたしはず...
ルイズは、自分の背後にある大きな窓を振り返った。深い森...
「だけど、そういう人なのよね。世界のどこかにあの人を必要...
飛んでいた鳥の後を追って、もう一羽鳥が飛んできた。二羽...
「結局、わたしの記憶に色あせずに残っているのは、六十年前...
でもね、わたし、それでも後悔はしていないのよ。だって、ず...
か細く、だが深く響く声で呟き、ティファニアに微笑みかけ...
「だから、とても満足しているのよ。人は不幸な女というかも...
ティファニアは表情を隠すために俯き、強く唇を噛んだ。膝...
「そうそう、今サイトがどこにいるか、知ってる? 今はね、...
乗っている。長い間待たせてばかりですまなかった。今度こそ...
もちろん、ティファニアはその文章を知っていた。なにせ、...
ルイズはその文に目を落とし、思いやり深く苦笑した。
「ふふ、馬鹿ねえ、今頃そんな風に気を遣わなくっていいのに...
ティファニアは顔を上げた。ルイズの瞳と目が合うと、彼女...
「そう、死期が近づいているのよ。サイトが帰ってくるまでは...
「なんでしょうか」
「せめて、わたしがいなくなってもサイトが静かに暮らしてい...
「遺言、ですか」
「ええそう、サイトはずっとこの領地を留守にしていたから、...
そう言ったあとで、ルイズは何度か苦しそうに咳をした。気...
「そう、ありがとう、テファ。それじゃあ今から遺言状の内容...
ティファニアは目を見開いた。手の平に汗が滲んでくる。
「代筆って言うと、わたしが、ルイズさんが仰ったことを書く...
「ええそう。ごめんなさいね、もう手も満足に動かせないの。...
ティファニアはぎゅっと目を細めた。自分が書いた文章を見...
(どうしよう。どうしたら)
ポケットの中のナイフを握ることも忘れて、ティファニアは...
そんなティファニアを見つめて、ルイズは心配そうに、少し...
「どうしたのテファ。そんな悲しい顔をするなんて」
ルイズの瞳は穏やかで、そこには相手を案ずる優しさしかな...
「ごめんなさい」
ティファニアは考えもなしに謝っていた。何に謝っているの...
ルイズはゆっくりと腕を伸ばして、ティファニアの手にそっ...
「謝らないで。あなたは何も悪くないでしょう。ね、お願い、...
緩やかな声音に、強制を強いるような響きは全くない。
断ろうと思えば、断ることもできる。ルイズはきっと許して...
「分かりました、代筆させていただきます」
ルイズの顔に喜びが広がった。
「ああ、ありがとうテファ。それじゃ、お願いしますね」
ティファニアはルイズの指示に従って、テーブルをベッドの...
それを確認したルイズは、ベッドの上で背筋を伸ばすと、目...
ティファニアは一字一句違えずに、ルイズの言葉を書き写し...
だが、腕が震えるのをどうしても抑えることができず、書き...
そうしている内に、声は終わった。ベッドの上でルイズが目...
「……ありがとう、テファ。これで遺言は全てよ。さあ、サイン...
そう言うと同時に、体が傾いだ。ティファニアは慌てて腕を...
ルイズは恥らうような表情で、ティファニアを見た。
「ごめんなさい、体を支えてくださるかしら。ありがとう」
ティファニアはルイズの体を支えたまま向きを変えさせ、ベ...
「あら、テファ。不思議ね、あなたの文字、びっくりするぐら...
息が詰まった。背中に汗が滲んでくる。
(言わなくちゃ)
ティファニアはぎこちなく唇を開く。それは当然だ、と。ず...
「そうなんですか?」
「ええ、サイトの方がもっときれいだけど」
(何をしているの、ティファニア。早く、ルイズさんに本当の...
心の中で罵り声を上げるが、どうしても真実を告げる言葉が...
「本当に不思議。どうしてこんなに似ているのかしら……」
そう言ったあとで、彼女は不意に目を閉じ、なにかを考え込...
ティファニアは全身に嫌な汗を感じながら、ルイズの言葉を...
「ルイズさん?」
耐え切れずに声をかけると、彼女は小さく体を震わせ、目を...
「ああ、そうだったわね、まだ力が残っているうちに」
体から力が抜けそうになった。ルイズの顔には、怒りや憎し...
(気付かなかったんだわ)
ティファニアはどこかぼんやりとした心地でルイズの腕を支...
「これでいいわ。この遺言はジュリアンに渡してちょうだいね」
ルイズの頼みに、ティファニアはこくりと頷いた。ひどく疲...
「本当にありがとう、テファ」
ティファニアは我に返った。枕に頭を乗せ、眠るように目を...
「これで、思い残すことなく逝くことができる」
ルイズが迷いなく呟く。ティファニアはぐっと拳を握り締め...
「本当ですか?」
するとルイズは目を開き、微笑を苦笑いに変えてティファニ...
「ふふ、そう、嘘よ。本当は、最後に一目だけでいいからサイ...
ティファニアは唇を内側から噛み締める。閉じた顎が細かく...
「だけど、楽しかったわ」
ルイズがため息をつくようにそう言ったとき、とうとう耐え...
ただ泣きたかった。その想いのまま、声が続く限り、泣き叫び...
ルイズが困ったように眉尻を下げる。
「ああ、泣かないでちょうだい、ティファニア。わたしはとて...
ティファニアを慰めるルイズの声は子供をあやすように優し...
なんとか泣き止んだティファニアを見て、ルイズは問いかけ...
「これからアルビオンに帰るの?」
「はい、そうなると思います」
曖昧な答えになってしまったが、ルイズは特に気にしなかっ...
「そう。それがいいわ、友達の葬儀って、悲しいもの。わたし...
「はい。さようなら、ルイズさん」
「ええ、さよなら、テファ。わたしの大切な友達」
ティファニアはルイズに背を向け、歩き出した。扉を開けて...
「少し休むわ、ジュリアン。食事はいいから、あなたも自分の...
「分かりました、奥様」
「夜になったら、眠る前にこの部屋に来てちょうだい。愛しい...
ティファニアは逃げるように駆け出した。
その夜、ルイズは息を引き取った。
彼女の言葉に従って、夜になってからジュリアンが寝室を訪...
死に顔はとても穏やかで満足そうだったと、彼が教えてくれ...
その報せを聞いて、ティファニアは涙を流さなかった。
悲しくなかったのではなく、自分には彼女を想って涙を流す...
ルイズは嘘に包まれたまま生涯を終えたのだ、とティファニ...
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続き [[00-00]]不幸せな友人たち 彼女の選択(エピローグ)
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不幸せな友人たち 再び、ティファニア
剣の城の城門がゆっくりと開き、降りた跳ね橋を通って慌て...
「ティファニアさん、一体どうなったのですか」
「連絡もせずに、ごめんなさい」
「いいえ、それはよろしいのですが」
言いかけたジュリアンは、ティファニアの格好を見て息を飲...
「お覚悟を、決められたのですね」
「そのつもりです」
「分かりました。我が主の下に案内いたしましょう」
半年前、シエスタが死んだ夜のように、ジュリアンが先に立...
「この庭は、ジュリアンさんがお世話を?」
「ええ。奥様も大変気に入られておりまして、ここに椅子を持...
暖かい日差しの下、花々に囲まれて手紙を読みながら微笑む...
城館に正面から入るのは、ここに初めて来たとき以来である...
「奥様に、お客様がいらっしゃったことをお知らせいたします」
扉に手を触れる前に、ジュリアンが振り返った。
「心の準備を、しておいてください」
そう言い残し、彼はノックしてから部屋に入った。
「あら、どうしたのジュリアン」
扉の隙間から、シエスタが死んだ日に聞いた声音が聞こえて...
(タバサさん……どうか、わたしに、選択を誤らぬ力をください)
念じると同時に、また声がした。
「珍しいわね、お客様? どうぞ、お通ししてちょうだい」
ジュリアンが出てきて、部屋に入るよう無言で促した。彼は...
寝室は、元貴族のものとしては実に質素なものだった。シエ...
「ようこそ、剣の城へ」
長櫃とは反対側の隅から、声がした。ティファニアは、はっ...
そしてそのベッドの上で、一人の老女が上半身を起こしてい...
「わたくし、主の留守を預かっておりますルイズ・ド・ラ・デ...
穏やかな声で話しかけられ、微笑みかけられたとき、ティフ...
(ああ、この人、この人は……!)
年老いたルイズの顔を見るのは、これが初めてではない。彼...
繰り返し想像してもいた。
だが、実際にこちらに語りかける彼女を目にすると、そうい...
「こんな格好でごめんなさいね。最近足が痛くて、もう立つこ...
申し訳なさそうに詫びるルイズを見つめていると、ティファ...
今すぐ彼女のそばに駆け寄り、その膝にすがり付いて声を上げ...
そうやって扉のそばで立ちすくむティファニアのことを、ル...
「あら、失礼ですけれど、どこかでお会いしたことがあったか...
心臓が高鳴る。ルイズはそんなことには気付かぬ様子で、控...
「気のせいですわよね。こんなに若々しくて、美しい金髪の方...
そう言ったあとで、まだ自分の記憶を探るように、かすかに...
「ああ、だけど本当にどこかでお会いした気がするわ。失礼で...
ティファニアは息を飲んだ。ついに、この瞬間がやって来た...
震える手に無理矢理力を込め、ゆっくりと帽子を取った。
ルイズの顔に驚きが広がった。
「まあ、テファ。ティファニアじゃないの」
その視線から目をそらしそうになるのを我慢しながら、ティ...
「わたしのこと、覚えておいでですか」
声が震えなかったのは奇跡に近い。ルイズは微笑んで、何度...
「ええ、もちろん覚えているわ。友達の顔を忘れる訳がないで...
ティファニアはルイズのベッドに歩み寄り、そばにあった椅...
間近で見るルイズの顔は、やはり年老いていた。しかし、も...
かだ。一目見ただけで、誰もが彼女の幸せな人生を思い浮かべ...
ルイズは微笑みながらティファニアの顔を見つめ、深く頷い...
「本当に懐かしいわ。あなたはちっとも変わっていないのね。...
そう言ったあと、少し慌てて詫びる。
「ああごめんなさい、悪い意味で言った訳ではないの。許して...
「いえ、そんな……本当のことですし」
「そう、ありがとう。だけど本当に嬉しかったのよ、わたし」
微笑に少しだけ寂しさが混じる。彼女はベッドの枠に背をも...
「何故かしら、一人ぼっちになってしまった気がしていたのよ...
その口ぶりに、悔恨や苦悩の色は窺えない。皆穏やかに死ん...
「半年前にはシエスタまで死んでしまって。その頃からかしら...
疲労の色を滲ませながらも、その顔にはまだ優しい微笑があ...
「変よね、一人ぼっちだなんて。わたしにはまだサイトがいる...
ティファニアは椅子の上で身を硬くした。ルイズの口からサ...
そんな彼女には気付かぬ様子で、老女はゆっくりと言葉を紡...
「今ではもう食事も満足に食べられないのよ。折角作ってくれ...
彼女のことを見ていられなくなり、ティファニアは目をそら...
「あの、それは?」
ルイズはティファニアの視線を追って、笑った。
「ああ、これ? これはサイトからの手紙。サイトったらこの...
もちろん、それは嘘だ。そういう風に、ティファニアが書い...
「そんな元気な人の妻なのに、わたしは今や夫からの手紙を読...
先程、一人ぼっちになってしまったと言ったことを考えると...
ルイズはそっと手紙の一枚を手に取り、少し骨ばった指先で...
「サイトは今でも、三日に一度は手紙を送ってくれるわ。考え...
普通に考えれば、おかしなことである。だがルイズは、あま...
「本当に、いろいろなことがあったわ。もっとも、わたしはず...
ルイズは、自分の背後にある大きな窓を振り返った。深い森...
「だけど、そういう人なのよね。世界のどこかにあの人を必要...
飛んでいた鳥の後を追って、もう一羽鳥が飛んできた。二羽...
「結局、わたしの記憶に色あせずに残っているのは、六十年前...
でもね、わたし、それでも後悔はしていないのよ。だって、ず...
か細く、だが深く響く声で呟き、ティファニアに微笑みかけ...
「だから、とても満足しているのよ。人は不幸な女というかも...
ティファニアは表情を隠すために俯き、強く唇を噛んだ。膝...
「そうそう、今サイトがどこにいるか、知ってる? 今はね、...
乗っている。長い間待たせてばかりですまなかった。今度こそ...
もちろん、ティファニアはその文章を知っていた。なにせ、...
ルイズはその文に目を落とし、思いやり深く苦笑した。
「ふふ、馬鹿ねえ、今頃そんな風に気を遣わなくっていいのに...
ティファニアは顔を上げた。ルイズの瞳と目が合うと、彼女...
「そう、死期が近づいているのよ。サイトが帰ってくるまでは...
「なんでしょうか」
「せめて、わたしがいなくなってもサイトが静かに暮らしてい...
「遺言、ですか」
「ええそう、サイトはずっとこの領地を留守にしていたから、...
そう言ったあとで、ルイズは何度か苦しそうに咳をした。気...
「そう、ありがとう、テファ。それじゃあ今から遺言状の内容...
ティファニアは目を見開いた。手の平に汗が滲んでくる。
「代筆って言うと、わたしが、ルイズさんが仰ったことを書く...
「ええそう。ごめんなさいね、もう手も満足に動かせないの。...
ティファニアはぎゅっと目を細めた。自分が書いた文章を見...
(どうしよう。どうしたら)
ポケットの中のナイフを握ることも忘れて、ティファニアは...
そんなティファニアを見つめて、ルイズは心配そうに、少し...
「どうしたのテファ。そんな悲しい顔をするなんて」
ルイズの瞳は穏やかで、そこには相手を案ずる優しさしかな...
「ごめんなさい」
ティファニアは考えもなしに謝っていた。何に謝っているの...
ルイズはゆっくりと腕を伸ばして、ティファニアの手にそっ...
「謝らないで。あなたは何も悪くないでしょう。ね、お願い、...
緩やかな声音に、強制を強いるような響きは全くない。
断ろうと思えば、断ることもできる。ルイズはきっと許して...
「分かりました、代筆させていただきます」
ルイズの顔に喜びが広がった。
「ああ、ありがとうテファ。それじゃ、お願いしますね」
ティファニアはルイズの指示に従って、テーブルをベッドの...
それを確認したルイズは、ベッドの上で背筋を伸ばすと、目...
ティファニアは一字一句違えずに、ルイズの言葉を書き写し...
だが、腕が震えるのをどうしても抑えることができず、書き...
そうしている内に、声は終わった。ベッドの上でルイズが目...
「……ありがとう、テファ。これで遺言は全てよ。さあ、サイン...
そう言うと同時に、体が傾いだ。ティファニアは慌てて腕を...
ルイズは恥らうような表情で、ティファニアを見た。
「ごめんなさい、体を支えてくださるかしら。ありがとう」
ティファニアはルイズの体を支えたまま向きを変えさせ、ベ...
「あら、テファ。不思議ね、あなたの文字、びっくりするぐら...
息が詰まった。背中に汗が滲んでくる。
(言わなくちゃ)
ティファニアはぎこちなく唇を開く。それは当然だ、と。ず...
「そうなんですか?」
「ええ、サイトの方がもっときれいだけど」
(何をしているの、ティファニア。早く、ルイズさんに本当の...
心の中で罵り声を上げるが、どうしても真実を告げる言葉が...
「本当に不思議。どうしてこんなに似ているのかしら……」
そう言ったあとで、彼女は不意に目を閉じ、なにかを考え込...
ティファニアは全身に嫌な汗を感じながら、ルイズの言葉を...
「ルイズさん?」
耐え切れずに声をかけると、彼女は小さく体を震わせ、目を...
「ああ、そうだったわね、まだ力が残っているうちに」
体から力が抜けそうになった。ルイズの顔には、怒りや憎し...
(気付かなかったんだわ)
ティファニアはどこかぼんやりとした心地でルイズの腕を支...
「これでいいわ。この遺言はジュリアンに渡してちょうだいね」
ルイズの頼みに、ティファニアはこくりと頷いた。ひどく疲...
「本当にありがとう、テファ」
ティファニアは我に返った。枕に頭を乗せ、眠るように目を...
「これで、思い残すことなく逝くことができる」
ルイズが迷いなく呟く。ティファニアはぐっと拳を握り締め...
「本当ですか?」
するとルイズは目を開き、微笑を苦笑いに変えてティファニ...
「ふふ、そう、嘘よ。本当は、最後に一目だけでいいからサイ...
ティファニアは唇を内側から噛み締める。閉じた顎が細かく...
「だけど、楽しかったわ」
ルイズがため息をつくようにそう言ったとき、とうとう耐え...
ただ泣きたかった。その想いのまま、声が続く限り、泣き叫び...
ルイズが困ったように眉尻を下げる。
「ああ、泣かないでちょうだい、ティファニア。わたしはとて...
ティファニアを慰めるルイズの声は子供をあやすように優し...
なんとか泣き止んだティファニアを見て、ルイズは問いかけ...
「これからアルビオンに帰るの?」
「はい、そうなると思います」
曖昧な答えになってしまったが、ルイズは特に気にしなかっ...
「そう。それがいいわ、友達の葬儀って、悲しいもの。わたし...
「はい。さようなら、ルイズさん」
「ええ、さよなら、テファ。わたしの大切な友達」
ティファニアはルイズに背を向け、歩き出した。扉を開けて...
「少し休むわ、ジュリアン。食事はいいから、あなたも自分の...
「分かりました、奥様」
「夜になったら、眠る前にこの部屋に来てちょうだい。愛しい...
ティファニアは逃げるように駆け出した。
その夜、ルイズは息を引き取った。
彼女の言葉に従って、夜になってからジュリアンが寝室を訪...
死に顔はとても穏やかで満足そうだったと、彼が教えてくれ...
その報せを聞いて、ティファニアは涙を流さなかった。
悲しくなかったのではなく、自分には彼女を想って涙を流す...
ルイズは嘘に包まれたまま生涯を終えたのだ、とティファニ...
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