ゼロの使い魔保管庫
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母として 2 せんたいさん
#br
「え?何?なんでサイトだけなの?」
「そうですわお母様、その平民一人ではロクに用事もできませ...
だから私が監視役として一緒に」
「姉さまーっ!何なのよそのミエミエのこじつけはーっ!」
「何がこじつけよっ!私がついて行けば万事うまくいくじゃな...
「ナニを上手くするつもりなんだか!と・に・か・く!人の婚...
「あによ!」
「なんなのよ!」
「まあまあ二人とも落ち着いて。ココは間を取ってこの私が」
「「騙されるかッ!」」
「…ちっ」
そんな三姉妹のやり取りの後、結局才人はカリーヌに命じられ...
カリーヌの古い友人に、借りていた壷を返して欲しい、という。
場所は王都の中心から少し外れた繁華街のはずれ。
その話を聞いた三姉妹は、もちろん誰が一緒に行くかで大いに...
カリーヌはあくまで、才人一人に行かせる、と言い切った。
「そんなお母様!このバカ犬一人じゃ、絶対迷います!」
「そうよ、平民ふぜいがちゃんと行けるとは思えませんわ!
だから私が一緒に行って手取り足取り」
「だーかーらー!サイトは私のなんだってば!」
「あによ!」
「なんなのよ!」
「それじゃあ、私がこっそり見守るという事で」
「「抜け駆けすんなッ!」」
「…ちっ」
結局カリーヌの鶴の一声で才人は一人で使いに出された。
ちなみに三姉妹はこっそりついて行かない様に、別室に三人ま...
互いに互いを牽制しあっているので、特に監視はつけられてい...
そうして才人は、単身王都へやってきた。
「ったく、一人でお遣いくらいできるっての」
三人が自分が迷うと思い込んでいると勘違いした才人はそう文...
やはり伝説級に鈍いこの男。
才人は衛視所に顔を出し、騎士の証を見せて、目的地までの道...
この東の端の衛視所からそう遠くない。
才人は衛視所に馬を預けると、徒歩でそこへ向かう事にした。
才人は木箱に入れられた壷を落とさないように、慎重に目的地...
「まあ急ぐ用事でもないし。ゆっくり行くか」
そんな事を言いながら町の喧騒を楽しみつつ、目的地へ向かっ...
「!!ああっと!!足が滑ったぁ!」
路地裏から、小さな女の子が突然、そんな事を叫びながら物凄...
年のころなら12、3。さらさらの桃色がかったブロンドをショー...
貴族の子女だろうか。しかしそんなことはともかく。
「何すんだよ!危ないな!」
才人は盗塁王もかくやと言わんばかりのスライディングをとっ...
少女は悪びれたふうもなく、スカートについた土ぼこりをぱん...
…なかなかやるな。反射神経は合格点だ。
少女は、才人を振り返る。当然、彼は怒った顔をしている。
それを見た少女顔がぐにゃりと歪む。
才人が危険を感じた時には遅かった。
「ふぇ…ふぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!」
いきなり少女は泣き出した。
「お、おい、何だよいきなり…」
大通りではないとはいえ、昼間の、しかも往来の真ん中である。
泣き出した少女の目の前にいる男に、通りすがる人々の冷たい...
『何あの男、あんな小さい子を泣かして』『感じわるぅ』『痴...
冷えた視線が矢襖となって、才人に降り注ぐ。
はっきり言って空気が悪い。
「な、な、泣き止めよ。もう怒ってないからさ」
さすがにこうなっては分が悪い。
才人は壷の入った箱を地面に置いて、少女の前に膝を立てて少...
「ほんとう…?」
軽く握られた拳の間から、泣きはらした少女の顔が覗く。
その顔は、いつかどこかで見た泣き顔に似ていた。
…まあ、優しさはこんなものか。さて、ここからが本番だ。
「ああ、怒ってないよもう。だから泣き止んで」
笑顔でそう優しく囁いた才人だったが。
「かかったな」
少女はそう言ってニヤリと笑うと、足元に置かれた箱を持ち上...
「もーらったー!」
一瞬呆気にとられた才人だったが、自分の状況に気付くと慌て...
「こ、こら待て!それは大事な荷物なんだぞ!」
「しるかばーかばーか!まぬけー!」
少女は才人に向かってあかんべーをして、そのまま路地裏に駆...
才人は勿論、その後を追って路地裏に走っていった。
「くっそ、どこに行った!」
王都といえど路地裏は入り組んでおり、才人は容易く少女を見...
あてもなく路地裏を探し回っていると。
『おいこらガキ!どこに目ぇつけてんだ!』
どこからともなく、柄の悪そうな男の声が聞こえてきた。
まさか。
才人はある可能性を胸に、その声のする方へと歩を進める。
間もなく、才人は少し開けた場所に出た。そこはうらぶれた酒...
才人の予想どおり。
先ほどの少女が、柄の悪そうな大男に絡まれていたのだった。
路地裏を駆けていて、男にぶつかったのだろう。
男は少女に覆いかぶさりながら、その巨躯を揺らして少女を威...
しかし少女は怯えることもなく、男に食って掛かる。
「ボーっとしてるあなたが悪いんでしょ!
おかげで箱落としちゃったじゃないの!」
え。
少女の台詞を聞いた才人に、戦慄が走る。
よく見ると、二人の脇に、どこかで見た木箱が転がっている。
「あああああああーっ!」
才人は慌てて木箱に駆け寄る。
そんな才人を奇妙なイキモノを見る目で、二人は見下ろす。
「なんだお前?このガキの保護者か?」
まず声をかけたのは男の方。
木箱の前で四つん這いに屈みこんでうなだれる才人をつま先で...
その刺激に才人はゆらりと立ち上がる。
「だったらお前にオトシマエつけてもらおうか」
男はそう言って才人の胸倉を掴む。
その手を、才人の手がつかみ返した。
「お?なんだ?やるのか?」
しかし、その手に篭る力が一気に強くなり、男は思わず才人の...
「いて!いててててててて!」
才人は俯いたまま、ドスの利いた声で男に言い放つ。
「俺は今機嫌が悪いんだ…。とりあえず、痛い目みたくなきゃこ...
積んできた修練と潜り抜けてきた修羅場、そしてやり場のない...
男は慌てて手をひっこめ、そして才人に背を向ける。
「お、おぼえてろー!」
あまりにテンプレな捨て台詞を残し、男は立ち去っていく。
才人はもう一度木箱を見下ろし、ハァ…と深い溜息をつく。
この様子だと、間違いなく箱の中身の壷は割れている。
そんな才人に、少女が恐る恐る声を掛ける。
「あ、あの…?その…ゴメンね?」
流石に悪いと思ったのか、少女はそう謝ってくる。
才人が怒ると思ったのか、首を縮こまらせて彼の様子を伺って...
才人はもう一度大きくはぁ、と溜息をつくと。
少女の頭を、優しく撫でた。
少女は驚いた顔で才人を見上げる。
「いいよもう。壊れたものは元に戻らないし。
悪いと思うんだったら、もうこんな事するなよ」
言って才人は、木箱を持ち上げる。予想通り、中でがしゃ、と...
壷は確実に割れていた。
「で、でも、大事なものなんでしょ?」
心配そうにそういう少女に、才人は力なく笑う。
「まあそうだけどもさ。でも、今更どうにもなんないだろ?」
「わ、私弁償する!弁償するから!」
「いいよ。弁償してもらっても代わりがあるわけじゃなし。
そもそも盗られた俺が悪いんだし。
もう気にするな」
言って才人は少女に背を向けて、手を振りながらその場を立ち...
…やっべー。どーしよーオレ…。
正直、その内心がびくびくものだったが。
カリーヌの昔の知人の屋敷は、その路地裏を抜けるとすぐの場...
その古ぼけた屋敷は貴族の屋敷にしては小ぢんまりとしていた。
才人はその門に着くと、門衛に用件を告げる。
やけに重装備の門衛は用件を聞くと、才人を屋敷へ通す。
あまり手入れの行き届いていない庭を抜け、古ぼけた玄関をく...
古ぼけた屋敷の外観とは裏腹に、そこにあったテーブルとソフ...
そう、まるで昨日今日買ってきたような…。
「遅かったですわね」
そして、奥の扉から現れたのは。
才人に、この木箱を預けた当人。
カリーヌ・デジレその人だった。
カリーヌは薄桃色の髪を優雅に揺らし、才人の前のソファに腰...
「え?なんで?どうして?」
才人は混乱する。
カリーヌは自分にこの壷をこの屋敷に届けるよう命じた。その...
「理由は追って話します。
それよりも、壷は無事ですか?」
キタ。死の宣告キタ。
才人は覚悟を決め、木箱を机の上に乗せる。
カリーヌはふむ、と箱の外観を観察する。
外観は特に渡された時と変わりはない。
そして、カリーヌの手が上蓋にかかる。
木箱の蓋は少しひっかかって、カリーヌの手で外される。
カリーヌは木箱を覗き込み、そして言った。
「…割れていますね」
壷は、大きな欠片になって、木箱の中で散乱していた。
「…はい」
「何故?気をつけて運べ、と命じたはずですが」
カリーヌの言葉に、才人は深々と頭を下げて、謝罪した。
「すんません!俺のミスで割ってしまいました!」
「どのようなミスをしたのです?」
「落として、割ってしまいました!」
「…なるほど」
頭を下げる才人からは見えなかったが、カリーヌは笑顔だった。
…言い訳もせず、か。なかなかの責任感。
これで、よく分かった。
そしてカリーヌは続けた。
「顔を上げなさい、騎士殿」
「へ?」
思いのほか優しい声に、才人は間抜け面で顔を上げる。
「さて。後で私がここにいる理由を話すといいましたね?
その理由を話しましょう」
てっきり叱咤されるものと身構えていた才人だったが、そのカ...
そして、カリーヌは話しはじめる。
壷を届けさせる用事は狂言であること。
町で出あった少女、あれは実はカリーヌが魔法の薬で化けた姿...
あのゴロツキは、マンティコア隊の一員であること。
そして、その全てが、才人を試すための試練であったこと。
「…俺の何を試してたんですか…?」
才人の質問に、カリーヌは笑顔のまま応えた。
「あなたが、私の娘たちを差し出すに相応しい人物かどうかを...
あの子たちの話を聞くと、どうやらあなた、みんなに気に入...
話の途中から、カリーヌの態度はずいぶん砕けたものになって...
そう、それは、彼女がお気に入りの者にだけ見せる、素の顔で...
「ずいぶんな女たらしなのかと思ったけど…。
でも、違うみたいね」
「…な、何がっすか?」
『女たらし』の部分に過剰反応しながら、才人は怯えたように...
…ひょっとしてお母さん、全員とシタって知ってるんじゃ…?
才人が怯えるのもむべなるかな。
「優しすぎるのよ、あなた。相手が女の子だからって、あそこ...
それと、女が惚れるには十分いい男だわ。強くて優しい。普...
まあ、私の好みはもう少し母性をくすぐるタイプだけども」
ウチの旦那くらい情けないタイプじゃないと、守ってあげたい...
彼女と二人きりの時でないと見せない間の抜けたヴァリエール...
「は、はぁ」
とりあえず打った才人の相槌に、カリーヌは続ける。
「でもあなた、あの子たち皆に言い寄られて、選べてないみた...
優柔不断も伝説級、なのかしら?」
言ってそこで、元の『烈風カリン』の顔に戻る。
才人はそれに気付き、慌てて背筋を正す。
「あなたに選べないのなら、いい方法があります」
「え?それってどういう…」
才人の疑問に、しかしカリーヌはその場では答えなかった。
「それは、あの子達と一緒に話します。
覚悟を決めておきなさい、騎士殿」
そう言って、にっこり笑っただけだった。
そしてヴァリエール邸に帰ったカリーヌは、取っ組み合いの喧...
整列させた四人に向けて、言った。
「一人の男を貴族の子女が取り合うなどと、醜いことをするも...
あなたたちの気持ちはよく分かりました。サイト殿を想う気...
はいそこ反論禁止。そこまで必死に食い下がって好きじゃな...
さて、そこで私にいい考えがあります」
四人はカリーヌの次の言葉を直立不動で待ち構える。
カリーヌは、全員の呼吸が揃ったところを見計らって、言った。
「お父様は、結局ヴァリエールに世継ぎが欲しい。それでサイ...
なら話は簡単です。
最初に世継ぎを孕んだ子が、正妻になりなさいな。
そうすれば何も問題はないでしょう?」
四人の目が点になっていた。
カリーヌは構わず続ける。
「正直、あなたたちがサイト殿にお熱な理由はとてもよくわか...
諦めろ、なんていうのは酷な話だと思います。
でも序列は決めたい。だったらこうするのが一番でしょう?...
そして最初に復活したのはカトレアだった。
「あらあら。なら早速仕込みに行きましょうかサイト殿♪」
あっという間に才人の腕を豊満な胸の谷間に挟み、ロックする。
「ちょっと待ってカトレア、あなた病気ちゃんと直ってんのっ?
病気持ちの子が跡継ぎなんてとんでもない!
さ、平民、子種の準備よ!私が孕んであげるからっ!」
カトレアを押しのけ、才人の頭を胸の谷間に挟み込むエレオノ...
「ちょっとお姉さま、ご心配いただかなくても私はもう健康で...
双子でも三つ子でも四つ子でも、バッチコイですわ!」
「何人産む気よっ!いーからあなたはすっこんでなさい、コレ...
「ダレがダレのよっ!サイトの子を産むのは私なんだからっ!」
そしてルイズも参戦する。
それを見ていたカリーヌは、黙って部屋を出て行こうとする。
最後の希望の退出に、才人が声を上げた。
「あ、あの、お母さんなんとかしてっ!?」
しかしカリーヌはにっこり笑って。
「流石にそこまでは面倒見きれないわね。
なに、誰かが孕むまでの辛抱だ。頑張りたまえ、シュヴァリ...
最後は隊に命令を下す『烈風カリン』の顔で応えて。
阿鼻叫喚の様相を呈し始めた部屋から、出て行ったのだった。
…さて。今夜あたり、旦那に四人目の催促でもしてみようかしら...
終了行:
母として 2 せんたいさん
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「え?何?なんでサイトだけなの?」
「そうですわお母様、その平民一人ではロクに用事もできませ...
だから私が監視役として一緒に」
「姉さまーっ!何なのよそのミエミエのこじつけはーっ!」
「何がこじつけよっ!私がついて行けば万事うまくいくじゃな...
「ナニを上手くするつもりなんだか!と・に・か・く!人の婚...
「あによ!」
「なんなのよ!」
「まあまあ二人とも落ち着いて。ココは間を取ってこの私が」
「「騙されるかッ!」」
「…ちっ」
そんな三姉妹のやり取りの後、結局才人はカリーヌに命じられ...
カリーヌの古い友人に、借りていた壷を返して欲しい、という。
場所は王都の中心から少し外れた繁華街のはずれ。
その話を聞いた三姉妹は、もちろん誰が一緒に行くかで大いに...
カリーヌはあくまで、才人一人に行かせる、と言い切った。
「そんなお母様!このバカ犬一人じゃ、絶対迷います!」
「そうよ、平民ふぜいがちゃんと行けるとは思えませんわ!
だから私が一緒に行って手取り足取り」
「だーかーらー!サイトは私のなんだってば!」
「あによ!」
「なんなのよ!」
「それじゃあ、私がこっそり見守るという事で」
「「抜け駆けすんなッ!」」
「…ちっ」
結局カリーヌの鶴の一声で才人は一人で使いに出された。
ちなみに三姉妹はこっそりついて行かない様に、別室に三人ま...
互いに互いを牽制しあっているので、特に監視はつけられてい...
そうして才人は、単身王都へやってきた。
「ったく、一人でお遣いくらいできるっての」
三人が自分が迷うと思い込んでいると勘違いした才人はそう文...
やはり伝説級に鈍いこの男。
才人は衛視所に顔を出し、騎士の証を見せて、目的地までの道...
この東の端の衛視所からそう遠くない。
才人は衛視所に馬を預けると、徒歩でそこへ向かう事にした。
才人は木箱に入れられた壷を落とさないように、慎重に目的地...
「まあ急ぐ用事でもないし。ゆっくり行くか」
そんな事を言いながら町の喧騒を楽しみつつ、目的地へ向かっ...
「!!ああっと!!足が滑ったぁ!」
路地裏から、小さな女の子が突然、そんな事を叫びながら物凄...
年のころなら12、3。さらさらの桃色がかったブロンドをショー...
貴族の子女だろうか。しかしそんなことはともかく。
「何すんだよ!危ないな!」
才人は盗塁王もかくやと言わんばかりのスライディングをとっ...
少女は悪びれたふうもなく、スカートについた土ぼこりをぱん...
…なかなかやるな。反射神経は合格点だ。
少女は、才人を振り返る。当然、彼は怒った顔をしている。
それを見た少女顔がぐにゃりと歪む。
才人が危険を感じた時には遅かった。
「ふぇ…ふぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!」
いきなり少女は泣き出した。
「お、おい、何だよいきなり…」
大通りではないとはいえ、昼間の、しかも往来の真ん中である。
泣き出した少女の目の前にいる男に、通りすがる人々の冷たい...
『何あの男、あんな小さい子を泣かして』『感じわるぅ』『痴...
冷えた視線が矢襖となって、才人に降り注ぐ。
はっきり言って空気が悪い。
「な、な、泣き止めよ。もう怒ってないからさ」
さすがにこうなっては分が悪い。
才人は壷の入った箱を地面に置いて、少女の前に膝を立てて少...
「ほんとう…?」
軽く握られた拳の間から、泣きはらした少女の顔が覗く。
その顔は、いつかどこかで見た泣き顔に似ていた。
…まあ、優しさはこんなものか。さて、ここからが本番だ。
「ああ、怒ってないよもう。だから泣き止んで」
笑顔でそう優しく囁いた才人だったが。
「かかったな」
少女はそう言ってニヤリと笑うと、足元に置かれた箱を持ち上...
「もーらったー!」
一瞬呆気にとられた才人だったが、自分の状況に気付くと慌て...
「こ、こら待て!それは大事な荷物なんだぞ!」
「しるかばーかばーか!まぬけー!」
少女は才人に向かってあかんべーをして、そのまま路地裏に駆...
才人は勿論、その後を追って路地裏に走っていった。
「くっそ、どこに行った!」
王都といえど路地裏は入り組んでおり、才人は容易く少女を見...
あてもなく路地裏を探し回っていると。
『おいこらガキ!どこに目ぇつけてんだ!』
どこからともなく、柄の悪そうな男の声が聞こえてきた。
まさか。
才人はある可能性を胸に、その声のする方へと歩を進める。
間もなく、才人は少し開けた場所に出た。そこはうらぶれた酒...
才人の予想どおり。
先ほどの少女が、柄の悪そうな大男に絡まれていたのだった。
路地裏を駆けていて、男にぶつかったのだろう。
男は少女に覆いかぶさりながら、その巨躯を揺らして少女を威...
しかし少女は怯えることもなく、男に食って掛かる。
「ボーっとしてるあなたが悪いんでしょ!
おかげで箱落としちゃったじゃないの!」
え。
少女の台詞を聞いた才人に、戦慄が走る。
よく見ると、二人の脇に、どこかで見た木箱が転がっている。
「あああああああーっ!」
才人は慌てて木箱に駆け寄る。
そんな才人を奇妙なイキモノを見る目で、二人は見下ろす。
「なんだお前?このガキの保護者か?」
まず声をかけたのは男の方。
木箱の前で四つん這いに屈みこんでうなだれる才人をつま先で...
その刺激に才人はゆらりと立ち上がる。
「だったらお前にオトシマエつけてもらおうか」
男はそう言って才人の胸倉を掴む。
その手を、才人の手がつかみ返した。
「お?なんだ?やるのか?」
しかし、その手に篭る力が一気に強くなり、男は思わず才人の...
「いて!いててててててて!」
才人は俯いたまま、ドスの利いた声で男に言い放つ。
「俺は今機嫌が悪いんだ…。とりあえず、痛い目みたくなきゃこ...
積んできた修練と潜り抜けてきた修羅場、そしてやり場のない...
男は慌てて手をひっこめ、そして才人に背を向ける。
「お、おぼえてろー!」
あまりにテンプレな捨て台詞を残し、男は立ち去っていく。
才人はもう一度木箱を見下ろし、ハァ…と深い溜息をつく。
この様子だと、間違いなく箱の中身の壷は割れている。
そんな才人に、少女が恐る恐る声を掛ける。
「あ、あの…?その…ゴメンね?」
流石に悪いと思ったのか、少女はそう謝ってくる。
才人が怒ると思ったのか、首を縮こまらせて彼の様子を伺って...
才人はもう一度大きくはぁ、と溜息をつくと。
少女の頭を、優しく撫でた。
少女は驚いた顔で才人を見上げる。
「いいよもう。壊れたものは元に戻らないし。
悪いと思うんだったら、もうこんな事するなよ」
言って才人は、木箱を持ち上げる。予想通り、中でがしゃ、と...
壷は確実に割れていた。
「で、でも、大事なものなんでしょ?」
心配そうにそういう少女に、才人は力なく笑う。
「まあそうだけどもさ。でも、今更どうにもなんないだろ?」
「わ、私弁償する!弁償するから!」
「いいよ。弁償してもらっても代わりがあるわけじゃなし。
そもそも盗られた俺が悪いんだし。
もう気にするな」
言って才人は少女に背を向けて、手を振りながらその場を立ち...
…やっべー。どーしよーオレ…。
正直、その内心がびくびくものだったが。
カリーヌの昔の知人の屋敷は、その路地裏を抜けるとすぐの場...
その古ぼけた屋敷は貴族の屋敷にしては小ぢんまりとしていた。
才人はその門に着くと、門衛に用件を告げる。
やけに重装備の門衛は用件を聞くと、才人を屋敷へ通す。
あまり手入れの行き届いていない庭を抜け、古ぼけた玄関をく...
古ぼけた屋敷の外観とは裏腹に、そこにあったテーブルとソフ...
そう、まるで昨日今日買ってきたような…。
「遅かったですわね」
そして、奥の扉から現れたのは。
才人に、この木箱を預けた当人。
カリーヌ・デジレその人だった。
カリーヌは薄桃色の髪を優雅に揺らし、才人の前のソファに腰...
「え?なんで?どうして?」
才人は混乱する。
カリーヌは自分にこの壷をこの屋敷に届けるよう命じた。その...
「理由は追って話します。
それよりも、壷は無事ですか?」
キタ。死の宣告キタ。
才人は覚悟を決め、木箱を机の上に乗せる。
カリーヌはふむ、と箱の外観を観察する。
外観は特に渡された時と変わりはない。
そして、カリーヌの手が上蓋にかかる。
木箱の蓋は少しひっかかって、カリーヌの手で外される。
カリーヌは木箱を覗き込み、そして言った。
「…割れていますね」
壷は、大きな欠片になって、木箱の中で散乱していた。
「…はい」
「何故?気をつけて運べ、と命じたはずですが」
カリーヌの言葉に、才人は深々と頭を下げて、謝罪した。
「すんません!俺のミスで割ってしまいました!」
「どのようなミスをしたのです?」
「落として、割ってしまいました!」
「…なるほど」
頭を下げる才人からは見えなかったが、カリーヌは笑顔だった。
…言い訳もせず、か。なかなかの責任感。
これで、よく分かった。
そしてカリーヌは続けた。
「顔を上げなさい、騎士殿」
「へ?」
思いのほか優しい声に、才人は間抜け面で顔を上げる。
「さて。後で私がここにいる理由を話すといいましたね?
その理由を話しましょう」
てっきり叱咤されるものと身構えていた才人だったが、そのカ...
そして、カリーヌは話しはじめる。
壷を届けさせる用事は狂言であること。
町で出あった少女、あれは実はカリーヌが魔法の薬で化けた姿...
あのゴロツキは、マンティコア隊の一員であること。
そして、その全てが、才人を試すための試練であったこと。
「…俺の何を試してたんですか…?」
才人の質問に、カリーヌは笑顔のまま応えた。
「あなたが、私の娘たちを差し出すに相応しい人物かどうかを...
あの子たちの話を聞くと、どうやらあなた、みんなに気に入...
話の途中から、カリーヌの態度はずいぶん砕けたものになって...
そう、それは、彼女がお気に入りの者にだけ見せる、素の顔で...
「ずいぶんな女たらしなのかと思ったけど…。
でも、違うみたいね」
「…な、何がっすか?」
『女たらし』の部分に過剰反応しながら、才人は怯えたように...
…ひょっとしてお母さん、全員とシタって知ってるんじゃ…?
才人が怯えるのもむべなるかな。
「優しすぎるのよ、あなた。相手が女の子だからって、あそこ...
それと、女が惚れるには十分いい男だわ。強くて優しい。普...
まあ、私の好みはもう少し母性をくすぐるタイプだけども」
ウチの旦那くらい情けないタイプじゃないと、守ってあげたい...
彼女と二人きりの時でないと見せない間の抜けたヴァリエール...
「は、はぁ」
とりあえず打った才人の相槌に、カリーヌは続ける。
「でもあなた、あの子たち皆に言い寄られて、選べてないみた...
優柔不断も伝説級、なのかしら?」
言ってそこで、元の『烈風カリン』の顔に戻る。
才人はそれに気付き、慌てて背筋を正す。
「あなたに選べないのなら、いい方法があります」
「え?それってどういう…」
才人の疑問に、しかしカリーヌはその場では答えなかった。
「それは、あの子達と一緒に話します。
覚悟を決めておきなさい、騎士殿」
そう言って、にっこり笑っただけだった。
そしてヴァリエール邸に帰ったカリーヌは、取っ組み合いの喧...
整列させた四人に向けて、言った。
「一人の男を貴族の子女が取り合うなどと、醜いことをするも...
あなたたちの気持ちはよく分かりました。サイト殿を想う気...
はいそこ反論禁止。そこまで必死に食い下がって好きじゃな...
さて、そこで私にいい考えがあります」
四人はカリーヌの次の言葉を直立不動で待ち構える。
カリーヌは、全員の呼吸が揃ったところを見計らって、言った。
「お父様は、結局ヴァリエールに世継ぎが欲しい。それでサイ...
なら話は簡単です。
最初に世継ぎを孕んだ子が、正妻になりなさいな。
そうすれば何も問題はないでしょう?」
四人の目が点になっていた。
カリーヌは構わず続ける。
「正直、あなたたちがサイト殿にお熱な理由はとてもよくわか...
諦めろ、なんていうのは酷な話だと思います。
でも序列は決めたい。だったらこうするのが一番でしょう?...
そして最初に復活したのはカトレアだった。
「あらあら。なら早速仕込みに行きましょうかサイト殿♪」
あっという間に才人の腕を豊満な胸の谷間に挟み、ロックする。
「ちょっと待ってカトレア、あなた病気ちゃんと直ってんのっ?
病気持ちの子が跡継ぎなんてとんでもない!
さ、平民、子種の準備よ!私が孕んであげるからっ!」
カトレアを押しのけ、才人の頭を胸の谷間に挟み込むエレオノ...
「ちょっとお姉さま、ご心配いただかなくても私はもう健康で...
双子でも三つ子でも四つ子でも、バッチコイですわ!」
「何人産む気よっ!いーからあなたはすっこんでなさい、コレ...
「ダレがダレのよっ!サイトの子を産むのは私なんだからっ!」
そしてルイズも参戦する。
それを見ていたカリーヌは、黙って部屋を出て行こうとする。
最後の希望の退出に、才人が声を上げた。
「あ、あの、お母さんなんとかしてっ!?」
しかしカリーヌはにっこり笑って。
「流石にそこまでは面倒見きれないわね。
なに、誰かが孕むまでの辛抱だ。頑張りたまえ、シュヴァリ...
最後は隊に命令を下す『烈風カリン』の顔で応えて。
阿鼻叫喚の様相を呈し始めた部屋から、出て行ったのだった。
…さて。今夜あたり、旦那に四人目の催促でもしてみようかしら...
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