ゼロの使い魔保管庫
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[[30-431]]
#br
サイトの眠りは今日も浅い。
先日まで気に成らなかったことが気に成り始めてから、ゆっ...
その日も夜中にふと目覚めた。
起き抜けのぼんやりとした頭で窓の外に視線を送った。
(真っ暗だ……)
頭の芯が痺れる様に重い。
疲れている筈、限界の筈なのに、唐突に目が覚める。
それは、予感のような物だったのかもしれない。
サイトを毎夜睡眠不足に陥られる原因の一つが、身体の左側...
ただの寝返り。
すっかり眠り込んでいるシエスタの、邪気の無い行動がサイ...
(あぁああぁっぁっっああぁあっ)
上がってしまいそうな悲鳴を、サイトは身体を反らせて耐え...
愛しい二人を起こさないように、ただひたすらに耐える。
寝返りの勢いのままサイトの身体の上に送られたシエスタの...
(ま、まってく……)
サイトの体温を感じ、安心するように微笑んだシエスタがそ...
肩が柔らかいものに埋もれていき、まどろみに近かったサイ...
『じゃあ、触ってください』
いつかの言葉と感触、それに続いた甘い唇。
(お、思い出すなぁぁぁぁっ)
サイトは知っている、起きている時ならば彼女は抵抗しない...
その優しさが、どれほど自分の理性を崩すのかを。
腕に続いて足が、サイトの腕に絡められる。
胸に包まれた肩に続き腕にはウエストが、そして……
――太ももに挟まれた手のひらが、布一枚を隔てて『未知』と...
(があぁぁぁっぁあっっ)
凶暴な衝動が、サイトの中を暴れまわる。
日々の労働で適度に筋肉の付いたやわらかい太ももだけでは...
そして、それぞれの持つ熱のハーモニー。
「んっ……」
シエスタのこぼした吐息一つに、サイトの理性が手放されそ...
サイトの正気を取り戻したのは小さな、だが強烈な効果を持...
シエスタが動いたことで布団の中に風が入り、ルイズも熱を...
そう、『たまたま』
(のぉぉおっっうぅぅっ)
効果的過ぎる一撃を繰り出した足は、そのままサイトに絡め...
「むにゃ?」
(ま、まて、ルイズっっ、そっそこは……そこはぁぁっぁあっ)
サイトの恐慌をよそに、ルイズの手が布団の中に有る『異物...
(ひぃっ……、ちょっ……あ……っ……)
眠ったままの指にさして強い力が有るわけは無く、結果とし...
「っ……あ……」
嬌声に限りなく近い悲鳴、若しくは悲鳴に限りなく近い嬌声。
我慢しきれなくなったサイトの喉から、無理やりに喘ぎ声が...
二人を起こしてしまう事を恐れたサイトは、自らの唇を浅く...
が、眠っているルイズはサイトの苦闘など知らず……もう一度...
(……! っあーっ……)
くにくにと根元から絞るように掴み、動かすたびに手から離...
(まっ……ひぃっ……あっ……)
「……んっ……」
サイトが身を捩ると、今度はシエスタが小さく身を揺する。
密着し固定された腕が、巨大な生き物に絡め取られているか...
「……や、やめ……」
慌てたサイトは、僅かに自由の利く右腕でルイズを身体の上...
その拍子にシエスタに比べればささやかながら、それでも確...
小さな感触が手を伝いサイトの脳に伝えられる。
無意識に開いたまま添えられていた手が、形を確かめるよう...
「……んっ?」
そんな小さな刺激だけで、ルイズの目はうっすらと開かれて...
「ご、ごめ……ルイズ、これはっ……」
半ば眠ったままの瞳で、ルイズはじっとサイトの手……そして...
昼間なら、起きている時ならば言い訳無用のこの事態が、ど...
――サイトにとって数時間にも匹敵する緊張と共に、数十秒の...
じっと見つめていた手に、ルイズの両手が添えられて……幸せ...
起きている時には、ほんの数回しか見たことの無いほどの純...
「サイトが触って……るぅ……」
サイトを信じきった顔のまま、ルイズがもう一度眠りに落ち...
眠っている自分に、サイトが無理に何かをする事なんて考え...
もし、何かしても嫌じゃないよ。
言葉ではなく態度で、そんな想いが伝わってくる。
――俺……は……
冷水を浴びせられた気持ちだった。
冷静になった頭でもう一度二人を見る。
変わらないルイズの微笑み。
シエスタも、警戒心の欠片もない安心しきった表情だ。
――俺は……
小さく収まったとはいえ、未だ胸の奥で燃え続ける怪しい炎...
大切な二人を、ほかならぬ自分が傷つけてしまう。
そんな恐怖に、サイトは部屋から逃げ出していた。
人気の無い廊下を、全力で走る。
身体を動かすと、自分の中の許せない部分がほんの少しだけ...
そのまま寮の外まで駆け出すと、足を緩めないまま食堂に駆...
ウェストウッドで鍛えられたサイトの身体は、この程度のこ...
起き抜けに加えられた緊張に追い詰められていたらしい身体...
「っ……はぁ……はあ……は……っぁ……」
荒い息のまま、手近な椅子に腰掛ける。
惨めだった。
情けなかった。
ずっと平気だった筈なのに、ここ数週間で急速に膨れ上がる...
あの二人の側にいることが辛くなり始めていた。
何より許せないのは……
(誰でも良いから気持ち良くなりたいってなんだよ……)
自分の中の本能は好きな相手と契る事よりも、即物的な快楽...
ルイズが好きだ。
その想いだけで、いくつもの誘惑を越えてきたはずの自分が...
自分がおかしい。サイトは悩み続ける。
テファを学院に連れ帰り、ルイズとの駆け引きが一段楽した...
ひょっとしたらその少し前から、サイトは自分の変調に気付...
ルイズやシエスタだけではない。
ふとした拍子に出会うテファの胸を、以前の俺はこんなに食...
守る。そういって側に居てくれるタバサの無防備な仕草に、...
いや……キュルケやモンモランシー、それどころか廊下ですれ...
目に付く全ての女性に、焼け付くような欲望を抱き始めたの...
「……何時からだよ……」
ぽそりと零れた言葉に、柔らかい声が重ねられた。
「どうしたのかね?」
水差しと、二人分のコップを持った、ジャン・コルベールが...
「研究が長引いてしまってね」
最近昼間は仕事に成りませんからな。苦笑いしながらコルベ...
水の立てる音を聞いたサイトは、やっと自分の喉が干上がっ...
「……すいません……先生」
「それで? 何かあったのかね?」
簡単に説明できる事柄ではなかった。だが同時に相談できる...
追い詰められているサイトは、自分の変調について淡々と説...
……キュルケにも欲望を感じると話した時の、むっとした表情...
「ふむ……理由は簡単ですな」
「へ? わ、分るんですか?」
喋っただけでも随分と楽になった。あとは気休めを言われて...
そんな事を考えていたサイトの予想はあっさりと覆される。
「春の使い魔召還は、広場で一斉に行いますが、おかしいと考...
コルベールは、相談者から教育者の顔に成り、にこにことサ...
「え……と、その……魔法のことは良く分らないんで……」
「あぁ……そうですな……つまりですな、魔獣や幻獣が制御できな...
でもそれは、コントラクトとか言う……サイトの言葉は笑って...
「順序が逆ですな、召還直後に暴れるようなら契約は出来ませ...
――さもなければ、ドラゴンやサラマンダーやらが現れる儀式...
「『条件付け』には、主及び主と同種にたやすく危害を加えな...
どうやら本当に判明するらしい理由に、サイトは手をひざの...
「その、危害には生殖行為が含まれるのですな」
「は?」
「いえ、ですから……その……セック……」
「いやいやいやいや、なんでっ!」
余りの展開に、サイトは思わず大声を出していた。
「いえ……今年は居りませんでしたが、数年に一度サキュバスを...
……昔何が有ったんだ……
サイトが固まっている間に、コルベールは続きを語った。
「この制約を受けた使い魔は、主及びその同類に対して『コト...
サイトの脳裏には小船の上での一幕が思い出されていた。
「千載一遇の機会であっても、ついつい言い訳をしてしまった...
……降臨祭の夜のことが……
「絶対言うべきではないことを口走ったりですな……『これが胸...
……あれ?
「見てたんですか?」
「は?」
多少の問答の後に、サイトはようやく自分に起こった事を納...
先日の一件で、ティファニアによってサイトにかけられた魔...
「つ、つまり……」
「今更正常な反応が始まったわけですな」
それが正常だ。
そんな事を今更言われても困るのだ。
部屋では今もシエスタとルイズが眠っている。
そして自分が眠る場所はあそこしかないのだ。
が、理由が分かったところで二人の魅力に耐え切れないこと...
「な、何でこんな事に……」
有り得ないほどの美少女揃いのこの世界で、女の子に言い寄...
「あれ?」
そういえば……一人……居た。
「先生」
「なんだね?」
目の前のコルベールは、キュルケに言い寄られても微動だに...
それどころか、傍目には迷惑そうにしている様にまで見えた。
「どうしてキュルケに誘惑されても平気なんですか?」
サイトがその質問をぶつけると、コルベールのこめかみがピ...
「平気……ですと?」
「はい、なんか全然平気そうで……キュルケも美人なのに」
「……知っていますかな? ミス・ツェルプストーはわたしの授...
「……一番前ですよね?」
「その通り……どうしてそこに座っているのか……知っていますか...
あれ? 地雷踏んだ? 変わり始めたコルベールの様子にサ...
「彼女はですな、あの、あのけしからぬ胸を、胸をですぞ! ...
……そ、それは……
「の、覗けないんですか?」
「覗き込んだから、教室中にばれるではありませぬか!」
……既成事実が一つ出来上がるわけだ。
キュルケ……恐ろしい子……サイトは、コルベールに心底同情し...
「わ、わたしには責任があるのですぞ! 彼女を責任を持って...
わたしが馘首される分にはかまいません、えぇ、かまいませ...
ですが、ですがですぞ、彼女が退学にでもなってしまったら...
真面目だなー、のん気にそんな事を考えながら、サイトは無...
暇さえあれば身体を寄せてくるだの、実は世話好きで研究室...
(惚気か?)
そうとしか取れない言葉が、延々とコルベールによって綴ら...
「つ、つまりですなっ、彼女はわたしなどには勿体無い女性で...
ぜえはあと、息を切らしながら一生懸命に説明するコルベー...
「えーつまり、先生はキュルケの事が迷惑なんですよね?」
あえて嫌がらせのような質問を振ると、コルベールは眉を吊...
「そそそ、そんな筈無いでは有りませんか!」
「でも、あんなに積極的なキュルケに手を出してない……あんな...
何を思い出したのか、つるつるに光っているコルベールの頭...
「お、お……おぱー……」
(あ、壊れた?)
自分の不安を紛らわせるように、コルベールを茶化している...
「お、おぉ、おっぱ……」
コルベールは何か重大なことを口に出しかけながら、懐に手...
「あれ? 先生、それなんですか?」
「おぱ!」
言葉を忘れたらしいコルベールが、震える手でその瓶を開け...
「……せ、先生?」
「あーつまりですな、彼女はまだ若い。学校の先生に憧れる歳...
卒業し、社会を見、それでもなおわたしの事を好いていてく...
別人のように落ち着いたコルベールが、冷静に今後の展望に...
怪しい小瓶は、厳重に蓋をされるともう一度コルベールの懐...
――どう見ても、怪しい薬だった。
が、その薬効はサイトにとって必要なもので……
「……先生」
「ん、なんだね? サイトくん」
「 そ れ よ こ せ ぇ ぇ ぇ ぇ 」
剣の無いサイトをコルベールが取り押さえるのは極々簡単な...
その時は1時間ほども死闘が繰り広げられた。
関節を極められたサイトが、壁に押し付けられながらも、
「くすりー、薬をよこせぇぇぇぇ」
麻薬中毒者にしか見えなかった。
「お、落ち着きたまえ、サイトくん」
「それが要るんだぁぁぁぁ」
じたばたと暴れるサイトに、力尽きた声でコルベールは告げ...
「差し上げるのは一向に構いませんが、説明くらい聞いた方が...
ぴたりと、サイトの抵抗が止まる。
「この薬は大量に作ってありますので、分けるのは結構なので...
つまり、大量に使っているのだ。
キュルケの魅力に抵抗するために、コルベールも常用してい...
――俺がルイズ・シエスタの魅力に抗する為に使って何が悪い...
「よ、よこせぇぇぇぇ」
「説明を聞きなさい!
この薬を飲むと、父性愛が強化され、対象の行動は実の娘が...
つまり……たとえ、ミス・ツェルプストーが生乳放り出してい...
……薬が切れた後思い出すと悶えますがっ」
夢の薬だった。
どう考えてもその効果は自分に必要で、そんな薬が有ること...
「薬効は先ほどの量で半日、多少多く飲みすぎてもさして問題...
「よ、よこせぇぇぇ」
「ただしっ!」
コルベールの一喝が、サイトを黙らせる。
「常用すると頭が……髪が……薄く……」
――サイトとコルベールは声を合わせて泣いた。
白み始めた空を見ながら、重い足取りでサイトは部屋に向か...
その手の中には食堂で販売されている清涼飲料水の瓶。
だかその中身は、とりあえず貰うだけ貰った……
「恐ろしい薬……」
飲まずに耐え切るか……
飲んで……
昇り始めた太陽がぴかぴかと眩しかった。
サイトが部屋の掃除をしていた頃は、扉を押すと小さな音が...
シエスタの手によって、細部まで手が加えられた今の部屋は...
いつもなら、ルイズは兎も角シエスタは起きている時間だっ...
かなり眠たそうな様子でベットに腰をかけていた。
「おはよーごじゃーましゅ、さいとさん」
やはり眠いらしい。
「おはよう、シエスタ」
手近なテーブルに『薬』を置くと、こしこしと目を擦るシエ...
サイトが側によるだけで、幸せそうにシエスタが微笑む。
「今日は早いんですね、わたしも頑張らないと……」
「いや、俺は目が覚めただけだから」
シエスタの隣に腰掛けると、少女特有の香りがサイトの嗅覚...
(っ……お、落ち着け、俺っ!)
シエスタの細い肩が、そっとサイトに体重を預ける。
「えへへー、ちょっと甘えちゃいますね」
(う……あっ……あぁぁ)
もしこの細い肩を、力ずくでベットに押し付ければどうなる...
ゆったりとした寝巻きを、無言でたくし上げると?
ざわざわと背筋を何かが這い回る。
「……サイト……さん?」
安心しきった瞳、サイトの腕の中がこの世界で一番安全だと...
「ご、ごめ……ちょっと……すぐ……すぐに戻る」
「あっ……サイトさん」
――朝の冷たい空気で頭を冷やしたサイトは、たとえ『つるつ...
「あの薬……飲もう……」
男らしく決心をした。
いつの日か、男らしい髪形になることが確定するとしても、...
――そのころ。
「あれー、サイト気が利くじゃない」
テーブルに置かれた清涼飲料水の瓶を、最も毒殺しやすい王...
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つづきます
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サイトの眠りは今日も浅い。
先日まで気に成らなかったことが気に成り始めてから、ゆっ...
その日も夜中にふと目覚めた。
起き抜けのぼんやりとした頭で窓の外に視線を送った。
(真っ暗だ……)
頭の芯が痺れる様に重い。
疲れている筈、限界の筈なのに、唐突に目が覚める。
それは、予感のような物だったのかもしれない。
サイトを毎夜睡眠不足に陥られる原因の一つが、身体の左側...
ただの寝返り。
すっかり眠り込んでいるシエスタの、邪気の無い行動がサイ...
(あぁああぁっぁっっああぁあっ)
上がってしまいそうな悲鳴を、サイトは身体を反らせて耐え...
愛しい二人を起こさないように、ただひたすらに耐える。
寝返りの勢いのままサイトの身体の上に送られたシエスタの...
(ま、まってく……)
サイトの体温を感じ、安心するように微笑んだシエスタがそ...
肩が柔らかいものに埋もれていき、まどろみに近かったサイ...
『じゃあ、触ってください』
いつかの言葉と感触、それに続いた甘い唇。
(お、思い出すなぁぁぁぁっ)
サイトは知っている、起きている時ならば彼女は抵抗しない...
その優しさが、どれほど自分の理性を崩すのかを。
腕に続いて足が、サイトの腕に絡められる。
胸に包まれた肩に続き腕にはウエストが、そして……
――太ももに挟まれた手のひらが、布一枚を隔てて『未知』と...
(があぁぁぁっぁあっっ)
凶暴な衝動が、サイトの中を暴れまわる。
日々の労働で適度に筋肉の付いたやわらかい太ももだけでは...
そして、それぞれの持つ熱のハーモニー。
「んっ……」
シエスタのこぼした吐息一つに、サイトの理性が手放されそ...
サイトの正気を取り戻したのは小さな、だが強烈な効果を持...
シエスタが動いたことで布団の中に風が入り、ルイズも熱を...
そう、『たまたま』
(のぉぉおっっうぅぅっ)
効果的過ぎる一撃を繰り出した足は、そのままサイトに絡め...
「むにゃ?」
(ま、まて、ルイズっっ、そっそこは……そこはぁぁっぁあっ)
サイトの恐慌をよそに、ルイズの手が布団の中に有る『異物...
(ひぃっ……、ちょっ……あ……っ……)
眠ったままの指にさして強い力が有るわけは無く、結果とし...
「っ……あ……」
嬌声に限りなく近い悲鳴、若しくは悲鳴に限りなく近い嬌声。
我慢しきれなくなったサイトの喉から、無理やりに喘ぎ声が...
二人を起こしてしまう事を恐れたサイトは、自らの唇を浅く...
が、眠っているルイズはサイトの苦闘など知らず……もう一度...
(……! っあーっ……)
くにくにと根元から絞るように掴み、動かすたびに手から離...
(まっ……ひぃっ……あっ……)
「……んっ……」
サイトが身を捩ると、今度はシエスタが小さく身を揺する。
密着し固定された腕が、巨大な生き物に絡め取られているか...
「……や、やめ……」
慌てたサイトは、僅かに自由の利く右腕でルイズを身体の上...
その拍子にシエスタに比べればささやかながら、それでも確...
小さな感触が手を伝いサイトの脳に伝えられる。
無意識に開いたまま添えられていた手が、形を確かめるよう...
「……んっ?」
そんな小さな刺激だけで、ルイズの目はうっすらと開かれて...
「ご、ごめ……ルイズ、これはっ……」
半ば眠ったままの瞳で、ルイズはじっとサイトの手……そして...
昼間なら、起きている時ならば言い訳無用のこの事態が、ど...
――サイトにとって数時間にも匹敵する緊張と共に、数十秒の...
じっと見つめていた手に、ルイズの両手が添えられて……幸せ...
起きている時には、ほんの数回しか見たことの無いほどの純...
「サイトが触って……るぅ……」
サイトを信じきった顔のまま、ルイズがもう一度眠りに落ち...
眠っている自分に、サイトが無理に何かをする事なんて考え...
もし、何かしても嫌じゃないよ。
言葉ではなく態度で、そんな想いが伝わってくる。
――俺……は……
冷水を浴びせられた気持ちだった。
冷静になった頭でもう一度二人を見る。
変わらないルイズの微笑み。
シエスタも、警戒心の欠片もない安心しきった表情だ。
――俺は……
小さく収まったとはいえ、未だ胸の奥で燃え続ける怪しい炎...
大切な二人を、ほかならぬ自分が傷つけてしまう。
そんな恐怖に、サイトは部屋から逃げ出していた。
人気の無い廊下を、全力で走る。
身体を動かすと、自分の中の許せない部分がほんの少しだけ...
そのまま寮の外まで駆け出すと、足を緩めないまま食堂に駆...
ウェストウッドで鍛えられたサイトの身体は、この程度のこ...
起き抜けに加えられた緊張に追い詰められていたらしい身体...
「っ……はぁ……はあ……は……っぁ……」
荒い息のまま、手近な椅子に腰掛ける。
惨めだった。
情けなかった。
ずっと平気だった筈なのに、ここ数週間で急速に膨れ上がる...
あの二人の側にいることが辛くなり始めていた。
何より許せないのは……
(誰でも良いから気持ち良くなりたいってなんだよ……)
自分の中の本能は好きな相手と契る事よりも、即物的な快楽...
ルイズが好きだ。
その想いだけで、いくつもの誘惑を越えてきたはずの自分が...
自分がおかしい。サイトは悩み続ける。
テファを学院に連れ帰り、ルイズとの駆け引きが一段楽した...
ひょっとしたらその少し前から、サイトは自分の変調に気付...
ルイズやシエスタだけではない。
ふとした拍子に出会うテファの胸を、以前の俺はこんなに食...
守る。そういって側に居てくれるタバサの無防備な仕草に、...
いや……キュルケやモンモランシー、それどころか廊下ですれ...
目に付く全ての女性に、焼け付くような欲望を抱き始めたの...
「……何時からだよ……」
ぽそりと零れた言葉に、柔らかい声が重ねられた。
「どうしたのかね?」
水差しと、二人分のコップを持った、ジャン・コルベールが...
「研究が長引いてしまってね」
最近昼間は仕事に成りませんからな。苦笑いしながらコルベ...
水の立てる音を聞いたサイトは、やっと自分の喉が干上がっ...
「……すいません……先生」
「それで? 何かあったのかね?」
簡単に説明できる事柄ではなかった。だが同時に相談できる...
追い詰められているサイトは、自分の変調について淡々と説...
……キュルケにも欲望を感じると話した時の、むっとした表情...
「ふむ……理由は簡単ですな」
「へ? わ、分るんですか?」
喋っただけでも随分と楽になった。あとは気休めを言われて...
そんな事を考えていたサイトの予想はあっさりと覆される。
「春の使い魔召還は、広場で一斉に行いますが、おかしいと考...
コルベールは、相談者から教育者の顔に成り、にこにことサ...
「え……と、その……魔法のことは良く分らないんで……」
「あぁ……そうですな……つまりですな、魔獣や幻獣が制御できな...
でもそれは、コントラクトとか言う……サイトの言葉は笑って...
「順序が逆ですな、召還直後に暴れるようなら契約は出来ませ...
――さもなければ、ドラゴンやサラマンダーやらが現れる儀式...
「『条件付け』には、主及び主と同種にたやすく危害を加えな...
どうやら本当に判明するらしい理由に、サイトは手をひざの...
「その、危害には生殖行為が含まれるのですな」
「は?」
「いえ、ですから……その……セック……」
「いやいやいやいや、なんでっ!」
余りの展開に、サイトは思わず大声を出していた。
「いえ……今年は居りませんでしたが、数年に一度サキュバスを...
……昔何が有ったんだ……
サイトが固まっている間に、コルベールは続きを語った。
「この制約を受けた使い魔は、主及びその同類に対して『コト...
サイトの脳裏には小船の上での一幕が思い出されていた。
「千載一遇の機会であっても、ついつい言い訳をしてしまった...
……降臨祭の夜のことが……
「絶対言うべきではないことを口走ったりですな……『これが胸...
……あれ?
「見てたんですか?」
「は?」
多少の問答の後に、サイトはようやく自分に起こった事を納...
先日の一件で、ティファニアによってサイトにかけられた魔...
「つ、つまり……」
「今更正常な反応が始まったわけですな」
それが正常だ。
そんな事を今更言われても困るのだ。
部屋では今もシエスタとルイズが眠っている。
そして自分が眠る場所はあそこしかないのだ。
が、理由が分かったところで二人の魅力に耐え切れないこと...
「な、何でこんな事に……」
有り得ないほどの美少女揃いのこの世界で、女の子に言い寄...
「あれ?」
そういえば……一人……居た。
「先生」
「なんだね?」
目の前のコルベールは、キュルケに言い寄られても微動だに...
それどころか、傍目には迷惑そうにしている様にまで見えた。
「どうしてキュルケに誘惑されても平気なんですか?」
サイトがその質問をぶつけると、コルベールのこめかみがピ...
「平気……ですと?」
「はい、なんか全然平気そうで……キュルケも美人なのに」
「……知っていますかな? ミス・ツェルプストーはわたしの授...
「……一番前ですよね?」
「その通り……どうしてそこに座っているのか……知っていますか...
あれ? 地雷踏んだ? 変わり始めたコルベールの様子にサ...
「彼女はですな、あの、あのけしからぬ胸を、胸をですぞ! ...
……そ、それは……
「の、覗けないんですか?」
「覗き込んだから、教室中にばれるではありませぬか!」
……既成事実が一つ出来上がるわけだ。
キュルケ……恐ろしい子……サイトは、コルベールに心底同情し...
「わ、わたしには責任があるのですぞ! 彼女を責任を持って...
わたしが馘首される分にはかまいません、えぇ、かまいませ...
ですが、ですがですぞ、彼女が退学にでもなってしまったら...
真面目だなー、のん気にそんな事を考えながら、サイトは無...
暇さえあれば身体を寄せてくるだの、実は世話好きで研究室...
(惚気か?)
そうとしか取れない言葉が、延々とコルベールによって綴ら...
「つ、つまりですなっ、彼女はわたしなどには勿体無い女性で...
ぜえはあと、息を切らしながら一生懸命に説明するコルベー...
「えーつまり、先生はキュルケの事が迷惑なんですよね?」
あえて嫌がらせのような質問を振ると、コルベールは眉を吊...
「そそそ、そんな筈無いでは有りませんか!」
「でも、あんなに積極的なキュルケに手を出してない……あんな...
何を思い出したのか、つるつるに光っているコルベールの頭...
「お、お……おぱー……」
(あ、壊れた?)
自分の不安を紛らわせるように、コルベールを茶化している...
「お、おぉ、おっぱ……」
コルベールは何か重大なことを口に出しかけながら、懐に手...
「あれ? 先生、それなんですか?」
「おぱ!」
言葉を忘れたらしいコルベールが、震える手でその瓶を開け...
「……せ、先生?」
「あーつまりですな、彼女はまだ若い。学校の先生に憧れる歳...
卒業し、社会を見、それでもなおわたしの事を好いていてく...
別人のように落ち着いたコルベールが、冷静に今後の展望に...
怪しい小瓶は、厳重に蓋をされるともう一度コルベールの懐...
――どう見ても、怪しい薬だった。
が、その薬効はサイトにとって必要なもので……
「……先生」
「ん、なんだね? サイトくん」
「 そ れ よ こ せ ぇ ぇ ぇ ぇ 」
剣の無いサイトをコルベールが取り押さえるのは極々簡単な...
その時は1時間ほども死闘が繰り広げられた。
関節を極められたサイトが、壁に押し付けられながらも、
「くすりー、薬をよこせぇぇぇぇ」
麻薬中毒者にしか見えなかった。
「お、落ち着きたまえ、サイトくん」
「それが要るんだぁぁぁぁ」
じたばたと暴れるサイトに、力尽きた声でコルベールは告げ...
「差し上げるのは一向に構いませんが、説明くらい聞いた方が...
ぴたりと、サイトの抵抗が止まる。
「この薬は大量に作ってありますので、分けるのは結構なので...
つまり、大量に使っているのだ。
キュルケの魅力に抵抗するために、コルベールも常用してい...
――俺がルイズ・シエスタの魅力に抗する為に使って何が悪い...
「よ、よこせぇぇぇぇ」
「説明を聞きなさい!
この薬を飲むと、父性愛が強化され、対象の行動は実の娘が...
つまり……たとえ、ミス・ツェルプストーが生乳放り出してい...
……薬が切れた後思い出すと悶えますがっ」
夢の薬だった。
どう考えてもその効果は自分に必要で、そんな薬が有ること...
「薬効は先ほどの量で半日、多少多く飲みすぎてもさして問題...
「よ、よこせぇぇぇ」
「ただしっ!」
コルベールの一喝が、サイトを黙らせる。
「常用すると頭が……髪が……薄く……」
――サイトとコルベールは声を合わせて泣いた。
白み始めた空を見ながら、重い足取りでサイトは部屋に向か...
その手の中には食堂で販売されている清涼飲料水の瓶。
だかその中身は、とりあえず貰うだけ貰った……
「恐ろしい薬……」
飲まずに耐え切るか……
飲んで……
昇り始めた太陽がぴかぴかと眩しかった。
サイトが部屋の掃除をしていた頃は、扉を押すと小さな音が...
シエスタの手によって、細部まで手が加えられた今の部屋は...
いつもなら、ルイズは兎も角シエスタは起きている時間だっ...
かなり眠たそうな様子でベットに腰をかけていた。
「おはよーごじゃーましゅ、さいとさん」
やはり眠いらしい。
「おはよう、シエスタ」
手近なテーブルに『薬』を置くと、こしこしと目を擦るシエ...
サイトが側によるだけで、幸せそうにシエスタが微笑む。
「今日は早いんですね、わたしも頑張らないと……」
「いや、俺は目が覚めただけだから」
シエスタの隣に腰掛けると、少女特有の香りがサイトの嗅覚...
(っ……お、落ち着け、俺っ!)
シエスタの細い肩が、そっとサイトに体重を預ける。
「えへへー、ちょっと甘えちゃいますね」
(う……あっ……あぁぁ)
もしこの細い肩を、力ずくでベットに押し付ければどうなる...
ゆったりとした寝巻きを、無言でたくし上げると?
ざわざわと背筋を何かが這い回る。
「……サイト……さん?」
安心しきった瞳、サイトの腕の中がこの世界で一番安全だと...
「ご、ごめ……ちょっと……すぐ……すぐに戻る」
「あっ……サイトさん」
――朝の冷たい空気で頭を冷やしたサイトは、たとえ『つるつ...
「あの薬……飲もう……」
男らしく決心をした。
いつの日か、男らしい髪形になることが確定するとしても、...
――そのころ。
「あれー、サイト気が利くじゃない」
テーブルに置かれた清涼飲料水の瓶を、最も毒殺しやすい王...
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つづきます
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