ゼロの使い魔保管庫
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王様GAMEと三角形 ぎふと氏
(08/8/31 一部改訂稿)
#br
月がほのかに辺りを照らし始める頃……。
夕食を済ませた水精霊騎士隊の面々は、先を争うようにたま...
彼らは時間さえあれば、火の塔の近くに建てられたこの木造...
「いやあ、ここに来ると本当に落ち着くな」
ギーシュがワイン片手にうーんと伸びをした。
「まったくここは天国だよ。オアシスというべきだね」
したり顔でレイナールがグラスを回す。
「ぎゃあぎゃあコうるさい女どももいないしね」
マリコルヌがさらりと真実をついた。
ぐるり見渡せば、確かにむさ苦しい男所帯である。なんとも...
でも……、なんでかこれが落ち着くんだよなあ。才人は心で頷...
そうやって目を閉じて、心地よい酔いに身を任せていると、
「ギーシュ隊長、提案があります!」誰かが叫んだ。
「酒も進んできたようですし、そろそろ例のゲームといきませ...
賛成の声がやんやと上がった。ギーシュは頷くと、もったい...
「よろしい。では、このゲームの存在を我々に知らしめてくれ...
華やかに宣言した。
“王様ゲーム”とはもちろん、日本でよく知られるパーティゲ...
くじ引きで“王様”に選ばれた人間が、数字で指定した相手に...
「皆も承知と思うが、このゲームで王より下される命令は絶対...
王の命は絶対であるぅ! 全員が唱和した。
背中のデルフリンガーの柄を握りながら、才人も声を合わせ...
ぶっちゃけ言えば、こういうノリは苦手だ。いい年してどう...
それでも付き合ってしまうのは、彼らが楽しい連中だからだ。
それだけではない。いざとなれば才人を助けるために、後先...
そんな隊員らの見守る前で、ギーシュはいそいそとゲームの...
まず部屋の隅の物入れから小さな麻袋を取り出すと、中身を...
次に袋は隣に座るレイナールの手へと渡った。彼はそこから...
「俺だーっ!」
運よく五芒星が刻まれた石を、引き当てた少年が、嬉しげに...
……さっそく最初の詔が発令された。
「それでは3番! 汝が使い魔になりきってみせよ!」
指名されたのはギーシュだった。
任せておけと自信満々に立ち上がると、つぶらな瞳をうるう...
次なる命令は『1番が9番にプロポーズをする』だった。少...
次に王様に選ばれたレイナールは、
「4番、好きな女の子の名前を告白する」
と顔色一つ変えずに言ってのけた。冷静に見えてかなりキテ...
不幸を被ったのはギムリだった。
しばらく唸っていたが、周囲の期待に満ちた視線に耐え切れ...
「おいおいギムリー。まだ諦めてなかったのかよ。見込みない...
「よせやい。ギムリはこう見えて一途なんだぜ。墓に入るまで...
「フリッグの舞踏会に誘ってたコはどうしたんだよ。そっちも...
皆わいのわいのと囃したてた。ギムリは脂汗を流して固まっ...
どうやら色恋ネタが最も熱いのは、どこの世界でも同じよう...
そして才人はといえば、腕組みして椅子の背に寄りかかりな...
その態度が偉そうなのは、副隊長の威厳ではない。『べつに...
「おーい、そろそろ次いこーぜ」
頃合いを見計らって才人はうながした。
「そうだな。よし、みんな石出せー」
集められた石が配られ、ふたたびゲームが始まった
王様だーれだの直後、興奮した絶叫が部屋を揺るがした。
「しゃぁあああああっ! きたきたきたぜ〜〜〜〜いよいよ俺...
体を震わせながら立ち上がったのは、風上のマリコルヌだ。...
「さぁ誰だ誰だボクの奴隷ちゃんは誰なのかなァ〜? 命令を...
ふんと鼻腔を広げて、息を吸い込んだ。
「誰でもイイから女のコの麗しき御毛を一本、俺っちサマの元...
ぐでんぐでんのマリコルヌは、ワインの瓶を振り回した。
やっちまったよ、ぽっちゃり……、そんな言葉が視線で交わさ...
しかし誓約は誓約である。貴族である以上は実行しなくては...
「そして遂行者はァァお前だーッ。5番!」
死刑執行が言い渡された。大多数の表情がほっと緩む中で、...
「へ? ……俺?」
手からぽろりと石が転がり落ちた。マリコルヌの笑みがさら...
「やあ君か、シュヴァリエのサイト君。そうだな、君ならこの...
「あの……、何をしろって?」
「おいおいおい聞いてなかったのかよ。じゃあもう一度だけ丁...
才人の肩に手をまわし、一語ずつ念を押すように、マリコル...
才人の顔が急速に赤らんで、しかるのち蒼白に変わった。
赤くなったのは、指摘されたブツを具体的に想像したからで...
髪の毛でないとすれば何か。思いつくのはただ一つ。まだ才...
やがて才人は我に返った。それからマリコルヌの暴走ぶりに...
ここは一発抗議してやろう、と口を開きかけた才人だったが...
「まあまあ落ち着きたまえよ、マリコルヌ君。いくらなんでも...
さすが隊長、頼もしい限りである。そこに別の声が割って入...
「けどさ、ぽっちゃりの要求は“髪の毛以外の毛”だぜ? まつ...
「なるほど、お前頭いいなァ」
お前が言うなよマリコルヌ。
けど一理ある、それならどうにかなるかもしれないな、と才...
しかしギーシュは納得できないらしく、
「はァ……、だから君たちは浅はかだというのだよ。想像しても...
そんな熱い語りを聞きながら、才人はルイズの顔を思い浮か...
人形のように整った顔だち。抜けるように白い肌。よく動く...
才人だけではなかった。マリコルヌも含めた全員が、皆それ...
「というわけでマリコルヌ君。その要求は隊長として承認しか...
ギーシュが告げると、マリコルヌはやけになって、
「それじゃあ、もう髪の毛でいいよ! それならなんとかなる...
「……まあ、それなら」
「サイトがそう言うなら、もちろん僕に異存はないさ」
ギーシュが締めくくると、ようやく部屋の空気が和らいだ。...
興奮の治まらないマリコルヌだけが一人不満を嘆いている。
変な成り行きになっちゃったな。才人はため息をついた。と...
さくっと行って戻ってくるか。酔った頭を振りながら、才人...
「頑張れよ、サイト!」
「生きて戻ってこいよー!」
「ルイズによろしくなー!」
仲間たちの声援を背中に受けながら、才人はたまり場を後に...
+ + +
月明かりが石壁に影を落とす中、才人は女子寮に向かって急...
アウストリの広場を通るとき、立ち止まって寮塔を見あげた...
何をしているんだろう、と思った。
真面目なあいつのことだから、授業の復習でもしているんだ...
そもそも魔法学院って所は娯楽が足りなすぎるよな、と才人...
だもんで近頃の才人は、騎士隊の仲間と過ごす事が多い。酒...
以前みたくルイズの部屋で、デルフとお喋りに興じたり、ご...
ふと3日前の出来事が思い出された。
夜、少し早めに帰った時のことである。才人は部屋の隅に座...
息を吹きかけて布でこする。「あは〜ん、だめオレ感じちゃ...
「なんだよ」
するとルイズは、才人の膝の上に身をすべりこませて本を読...
「こらいきなりはやめろって。危ないから……」
気ままなご主人様の行動に、才人は少し呆れた。仕方ないの...
最近のルイズは口は相変わらずだけど、態度は少し素直にな...
笑うようにカタカタとデルフが音を立てたので、うるせえと...
膝の上に座るルイズの髪から、ふわりといい香りがした。そ...
「やめてよ。読めないじゃない」
またもや本の世界に没頭し始めた。才人はなんだか自分がた...
ルイズのシャツの裾から手を差し入れた。「こら」パチリと...
「なあ、しよ?」
「無理。シエスタが戻ってくるし」
「まだ平気だって。鍵かければいいじゃん」
「夜はやだって言ってるじゃない」
そういうことの後にはお風呂に入りたい、というのがルイズ...
才人は寂しげにるるる……と口笛を吹きうるさいとまた殴られ...
2日前の朝にはこんなことがあった。
眩しい朝の陽光に目を覚ますとすでにシエスタの姿はなかっ...
隣を見るとルイズはまだ深い眠りの中にいた。毛布を跳ね飛...
ついでに血迷ってその額に唇を近づけ……、我に返った。やべ...
さてシエスタのいないうちに着替えなくてはならなかった。...
う〜んと伸びをして「サイトおはよ」と寝ぼけ眼をこする。...
「はい?」
「そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しに入ってる」
「んなの自分で取れよ」
「あによ使い魔のくせに。逆らったらごはんヌキだからね」
懐かしいノリだなと思いつつクローゼットから下着を出し、...
「着せて」
違うだろ。着せるのは服であって下着は自分で……って、おお...
あんぐりと口を開けてこっちを見ているシエスタと視線が合...
さらに昨日の夜にはこんなことがあった。
才人はいつものように、ルイズとシエスタに挟まれてベッド...
すぐにすやすやと寝息が聞こえてきた。二人の少女は揃って...
なんとか腕を動かしてルイズの口元をぬぐってやる。すると...
しばらく才人の指をかじっていたルイズだったが、そのうち...
そんな才人の心境など知る由もなく、ルイズは幸せそうな顔...
ふと思いついてルイズの口にもう一本指を入れてみた。人差...
「うぐ」ルイズは苦しそうに顔をゆがめた。口いっぱいに頬張...
はあぁとルイズの呼吸が荒くなり唇から透明な糸がこぼれた...
いろいろと思い出し疲れて、才人はげんなりした。
これじゃまるでケダモノじゃないか。万年発情期のモグラじ...
このままではまともな生活が送れない。
ルイズと一緒にいるのは嫌じゃない。むしろ嬉しい。
だけど……、一線を踏み越えてしまってからというもの、どう...
ああなんで俺もっと普通にしてらんないんだろ。
なんで前みたく自然に接してやれないかな。
あ〜〜〜〜、やっぱやめときゃよかったかも。
わけがわかんなくなって、才人は頭をかきむしった。
さてルイズの部屋についた才人だったが、いざ扉を前にして...
ルイズになんと切り出したものかと悩んでしまったのである...
すると奇妙な物音が聞こえてきた。大掃除でもしているよう...
シエスタかな? と思ったが、いや彼女ならまだ夕食の後片...
働き者のシエスタは才人付きのメイドなのに、学園の仕事も...
あ、もしかして。
嫌なことを思いついた。怒り狂ったルイズが、部屋に当り散...
+ + +
部屋に入った才人の視界に最初に飛び込んできたのは、なま...
(なんだ?)
と目線を下にずらすと、眩しい太ももが目に入った。弾力の...
気を落ち着けて眺めると、なんのことはない。ルイズが床の...
寝転がって両足を上に伸ばすポーズでお尻をこちらに向けて...
「お、お前、なにしてんだよ」
目のやり場に困って横を向くと、悲鳴と同時にどたばったん...
「ちょちょちょっとぉ〜〜〜。入る時はノックぐらいしなさい...
起き上がりながら、ルイズはうらめしそうに文句を言った。
「ごめん悪い。でもなにしてんの? ダイエット?」
「そんなんじゃないわよ。ちょっと運動してただけ。ただの気...
「ふーん」
才人はじろじろとルイズを見た。
「いいけどさ、あんまやりすぎるなよ」
「ど、どうして?」
「だってそれ以上強くなったら、俺いつか殺され……あぎっ!」
ルイズは遠慮なく才人の足を踏みつけた。まったく一言多い...
それからルイズは思い直したように表情を和らげた。
「ま、いいわ。今日は早く帰ってきてくれたし許してあげる。...
ルイズは期待に満ちた眼差しを投げた。何か用事があるらし...
「あ、いや……」
才人は目を泳がせた。
「そのさ、またすぐ戻らなきゃいけないんだ。罰ゲームってい...
ぺらぺら喋りながら小机の引き出しを漁った。ルイズ愛用の...
さっさと目的を果たしてズラかろうと思った。
「へえ、そうなの……」
「うん、そうなの。まったく馬鹿だよなあ、ハハハ」
櫛は新品のようにぴかぴかだった。
床を見下ろした。まるで磨きたてだ。塵ひとつ見あたらない。
ベッドに近寄った。枕はふかふかで太陽と花の良い香りを放...
思わずシエスタを恨みたくなった。
「……あのぅ、ご主人さま? 使い魔ひとつお願いがあるんです...
「なあに?」
「あのそのぅ、お前の髪って綺麗だよなーそれ一本ゆずっても...
しどろもどろになっていると、意外な答えが返ってきた。
「いいわよ」
「ほんとに?」
「うん」
「ほんとにほんと?」
驚いた。ルイズもずいぶん丸くなったもんだ大人になったせ...
「でもその前に、私もサイトにお願いがあるの。1つ質問する...
真顔で問い返された。
も、もちろん、と才人は脂汗を浮かしながら答えた。
この流れはあれだろうか。
『生きてるのを後悔するのと、死にたいと思うのと、どっち...
みたいな?
どっちを選んでも地獄にかわりはない。質問形式をとった脅...
まこの場合仕方ないか。タイミングが悪かったと思おう。才...
しかしながらルイズの言葉は、才人の予想とはまったく違っ...
ルイズはネグリジェの裾をつまみ、するすると持ち上げると...
「あの、あのね。これね。こここのまえ街に行った時に、かか...
「へ?」
ぽかんとする才人の目の前に、華奢な足と、そして1枚きり...
それはさっき部屋に入った時に目にしたもの……、のはずだが...
淡いピンクの布地はごく小さな三角形で、ギリギリ隠すべき...
しかも網目のような粗いレース地なものだから、隠している...
そこから伸びた細い紐がどうにかその布地をルイズの体に張...
(こここれは……いわゆる……セクシー下着ってやつ!?)
思わず才人は鼻を押さえた。気が遠くなりかけた。
ま待てお前は貴族の御令嬢だろう。深窓のお嬢様だろう。な...
そこではたと気づいた。もしかして……、ルイズは俺を喜ばせ...
ああ、才人は感動に打ち震えた。俺って……愛されてる……。
身動きすることもままならず、才人は食い入るようにルイズ...
水精霊騎士隊も“王様ゲーム”も頭からすっかり消えうせてい...
「どどど、どうなのよ。なんとか言いなさいよ!」
決死の覚悟で聞いたというのに、いつまでも才人が黙ってい...
たまには大人の色気を見せつけてあげようと、せっかく、着...
プライドは切り刻まれてすりおろされて粉々だ。楽々自分の...
あれは確かに失敗だったと自分でも思う。どだい上で勝負し...
自分の魅力は足。腰から爪先までのこの美しいライン。踊り...
そう思って最高の下着を用意したつもりだったのに……今度も...
やっぱり自分には色気がないんだわ。がっかりしてルイズは...
ネグリジェがすとんと元の位置におさまる。
こんなだから才人は部屋にも居つかず出歩いてばかりいるん...
「……もういい。ありがと」
しょんぼりと言うと、そうだ髪の毛がいるんだっけと思い、...
+ + +
そんな風にルイズがすっかり落ち込みながら自分の髪と格闘...
呆気に取られたルイズだったが、すぐさま我にかえると「待...
ベッドに直行、それがどんな意味を持つか知らないルイズで...
けれど今この場でそれを許すつもりはさらさらなかった。と...
ところが、この使い魔ときたら丸っきりルイズの言葉に耳を...
いそいそとルイズの体をベッドに運び上げると、そのまま覆...
「こらちょっと、やめなさい! ねえサイトってば! 聞いて...
なし崩しにされてはたまらないと懸命に抵抗したが、完全に...
まったく目前のことに夢中になると、何もかもが彼方に吹っ...
そこまできて、ようやくルイズは自分の失態に気がついた。
下着姿を見せたのは、さすがに軽率だったかもしれない……。
もちろん、このような展開を全く予想しなかったわけではな...
でも……。それは今日の予定ではない。
そりゃ正直なところ、ぎゅうっと抱きしめられたら気持ちい...
けど今日はダメ。ここじゃダメなの。いつシエスタが戻って...
とにかくいろいろと問題があるのだ。
それに才人は言っていたではないか。友達を待たせているか...
自分がなんとかしなければ、とルイズは思った。
のんびり考えている余裕はない。状況は切迫していた。才人...
「ねえちょっと。ねえってば!」
慌てて声をかけるが、才人は聞く耳を持ってくれない。ぺち...
ルイズは渾身の力を込めると、ぐーの拳を才人のわき腹に炸...
「いいかげん、目を覚ましなさいよね!」
ぐはぁ、呻き声とともに、不意をつかれた才人は敢えなくく...
予想外にも急所に入ってしまったらしい。お陰で効果はてき...
「ってぇ、いきなり何すんだよ」
よろよろと身を起こす才人を、大きな瞳で見据えながら、ル...
「それはこっちの台詞よ。いきなり何するのよ!」
「何って見てのとおりだろ。お前から誘ってきたんだろうが」
「だーれが誘ったのよ。バカも休み休み言いなさいよね。私が...
「じゃあ、なんであんな格好……」
「私はね、似合うかって聞いたの。それだけよ。なのに答えも...
「そんなん知るかよ。あんな格好見せられたら、誰だって誘わ...
聞いたルイズのこめかみがぴくり引きつって、口元に冷笑が...
「いやだわ、犬の分際で。勘違いもここまでくるとふんとお笑...
かっと頭に血をのぼらせた才人は、勢いで声を荒げた。
「ああ、わかんねえよ、すみませんね! じゃああれか。ご褒...
「は〜あ? 私の聞き間違いかしら。いまご褒美って聞こえた...
「そうかよ。じゃあクビにでもなんでも好きにすりゃいいだろ...
「ほんとそうね! いいわよ、クビにするからさっさとどこへ...
「ふんっ!」
訳のわからないままにエスカレートした口げんかは、もはや...
そもそも、なんでこんなふうに喧嘩しているのか、考えてみ...
原因はいったい何だったろう。思い返そうとしたが、心がも...
(なによ、なによ、どうしていつもそう極端なのよ!)
憤りに身を震わせながら、ルイズは拳をぎゅうっと握りしめ...
以前はこんなふうではなかった。
もちろん喧嘩もした。仲良くしているよりも怒鳴っている時...
なのに今は才人の気持ちがよくわからない。
近頃の才人は、すっかり“それ”しか頭にないようだ。男の子...
抱きしめたりキスしたり、自分はそれだけで満足なのに、才...
もう冷めちゃったのかしら、不安に思わずにはいられない。
ふとモンモランシーの言葉が蘇った。
男なんて全員浮気ものなんだから。一度許したらすぐに他の...
確かそんなことを言っていた。
自分と恋愛経験なんてそう変わらないのに、ずいぶんと偉そ...
何とかしなければ、そう焦っていた所に、今日は思いもかけ...
だから。
男友達ばかりにかまけて、ちっとも自分に注意を向けてくれ...
ちらっと見せた時、反応ゼロだとわかった時には泣きたい気...
ところがさっきの才人の反応ときたら……、なんていうかその...
やっぱり……、目的は“それ”だけなのかしら。
いくら考えてみてもわからない。才人はいったいどういうつ...
ルイズの口からため息がこぼれた。
(……このまま部屋を出て行った方がいいのかな)
あまりの居心地の悪さに、才人は一瞬そう考えた。
けれどすぐに考え直した。過去の経験から言って、そのまま...
自分は何かまずいことをしたんだろうか。考える。
確かにすぐに周りが見えなくなるのは自分の悪い癖だ。ルイ...
でも、ならば、さっきのあれはどういう意味だろう。
どういうつもりでルイズはあんな真似をしたのだろうか。や...
冷静に考えれば、ルイズが誘ってくるなんてあり得ない話だ...
ルイズがまだ子供だからか。それとも自分のせいなのか。原...
そのせいでルイズの機嫌がよくないことも知っている。でも...
二人とも段々と、怒ってるんだか切ないんだか、よくわから...
しばらくして、ルイズが唐突に声を発した。
「いいから、もう行きなさいよ」
肩を落としてつまらなそうに言う。
「友達を待たせてるんでしょ。これ持ってさっさと行けば?」
素っ気ない声でそう言うと、ぐーの形に握りしめた手を才人...
その手の中にある物を見て、ようやく才人は思い出した。
今の今まで綺麗さっぱりと忘れてしまっていたのだ。王様ゲ...
言われるがままそれを……、ルイズの髪の毛を指でつまんで取...
光を受けてきらきらと輝きながら、それはどこまでも長くふ...
才人はしばらくそれを見つめると、少し悩んで大事にズボン...
なんとなく後ろ髪を引かれる心地がして、ルイズの方を見た。
さっさと行けという顔をしている。
なぜだかふと、自分がいなくなった後のルイズの姿が思い浮...
一度立ち上がりかけた才人だったが、思いなおしたように再...
「なによ、行かないの?」
ルイズが聞いてきた。
「いいよ、どうせ飲んで騒いでるだけだし。ちょっとぐらい待...
才人はふてくされたように呟いた。
「ふうん。勝手にすれば」
返事もやはり素っ気無い。そんなルイズの声を聞きながら、...
ルイズの方に向き直って、ぶっきらぼうに切り出す。
「あのさ。一つ聞きたいんだけど……。さっきのあれ、なに?」
「さっきの?」
「だからさ、すっごいの見せびらかして似合うかって聞いたじ...
ルイズの顔が面白いように染まった。手をばたつかせながら...
「い、いいの。あれはもういいから。もう忘れなさいよ!」
「そんな訳いくかよ。お前だって、ああいうコトしたらどうな...
「な、なによ……。私が悪いっていうの?」
「そうじゃないけど……、ああいうえっちな下着っていうの? ...
才人は言いにくそうに鼻の頭をこすった。
「俺は、男だからさ、ああいうのは嬉しいよ。でも、お前は違...
「そんなんじゃないもん……」
ルイズは唇をとがらせて下を向いた。
「だったらなんだよ」
ルイズは口をつぐんだまま、答えようとしない。
そんなに言いづらい理由なんだろうか。誘ってるんでもなく...
いったいこのご主人様ときたら、自分の我慢や努力をわかっ...
どうせ少しも考えちゃいないんだろうな。思った。
もし知っていたとしたら、こんな事をするはずがない。とに...
その目をじっと見ながら言った。
「なんでこんなことしたの。怒らないから言ってみ?」
そして脅迫するようにドスをきかせて一言。
「でないと、さっきの続きする」
「そそ、それはダメ!」
ルイズは悲鳴のような声を上げた。
「ダメじゃない。するったらする」
「ダメったらダメなの!」
「じゃあ言えって」
しばらく間があった。
それからルイズは悔しそうに目を細めて、渋々という感じで...
「……帰ってこないんだもん」
「え?」
「だ、だって、サイトってば、いつも外ばっかり行っちゃって...
一気に吐き出してから、ぶすっとした顔で横を向いた。
「な、なんだよ……」
ようやく才人は納得した。つまりは自分のせいらしい。
自分がかまってやらないせいで、寂しさのあまりこんな奇行...
なるほど納得はいったが、それにしてもわかり辛すぎやしな...
寂しいなら素直にそう言えばいいのに……、どうしてこう斜め...
頬を染めてこんな素直なことを言うルイズが、なんだか可愛...
一緒にいたい。意地っ張りなルイズの唇からそんな言葉が出...
「だ、だったら、ああいうことしないで口で言えよな。ったく...
どぎまぎしながら言うと、ルイズはつんと顎を上向けた。
「あ、あんた使い魔だもん。24時間ずっと主人のそばにいな...
指を振りかざして、力説する。
「う、うん」
つい流れのままに頷いてしまった。
けれど、すぐさま頷いたことを後悔した。
24時間か……。つまりは一日中。全部ってことだ。
それってどうなんだろう。こんなふうに顔を赤らめたルイズ...
それに近頃は周囲の目も厳しい。ルイズと一緒にいるだけで...
「まあその。これからはできるだけ早く帰るようにするから。...
とりあえずそう返事することにした。ぐりぐり頭を撫でなが...
「ふんっだ。もういいでしょ。早く行っちゃいなさいよ。みん...
拗ねたように言う。
そういえば、確かにそろそろ戻らないとまずいかもしれない。
思って軽く立ち上がりかけたその時。
くいくいっ。パーカーを引っ張られて、才人は引き戻された。
意味ありげに何度もくり返し、引っ張ってくる。
なんだろう、と振り返ってルイズの方を見ると……、じっとこ...
そして唇を尖らせて、そっと目をつむった。
きた、才人の心臓がどきんと跳ねた。おねだりきた。
早まる鼓動を押さえつけながら、身をかがめて、軽く唇を重...
大事に至らないように。ごく軽く。
ところが……、手が勝手に動いた。
そんなつもりは全くないのに、いけない右手が才人の意思を...
わ、ばか。何してんだ俺。
「な、何してんのよ!」
当たり前のようにルイズに怒られた。
いやそのね、この俺の手が勝手にね。
その瞬間、思い出すまいと封印していた情景が蘇って、はっ...
自分の前に立ち、ネグリジェを持ち上げて、恥ずかしそうに...
その足の合間に存在する淡い桃色の三角形。ごくり喉が鳴る。
「あ、あの、だから……」
ごまかす言葉がないかと、とっさに探した。ところが、
「さっきのあれ。もう一度見たいかなって……」
口をついて出た言葉は、才人の意思を丸っきり無視したもの...
あああああ! 心が悲痛な声を上げた。
しかし本能は正直だ。抗うことはできなかった。
才人は簡単に自制を諦めて、こほんと苦し紛れに一つ咳をし...
「その……、だめかな? ちょっと見るだけなら」
「なな、なによ、見たいとか、バ、バカじゃないの」
「だ、だって。俺に見せるために買ったんだろ」
「ちがうわよ。お店の人が間違って入れちゃったのよ。ほ、ほ...
「似合うかどうかなんて、そんなのわかるかよ。あれだけじゃ...
途端ルイズの顔が赤くなった。才人もつられて赤くなる。
「へ、変なことしたら承知しないんだから」
「見るだけって言ってるだろ。なに期待してんだよバカ」
な、なによバカ。
同じような台詞を返してルイズは頬を染めてうつむいた。 ...
+ + +
才人の耳に心地よく紡がれる呪文の詠唱が響いた。
かちゃり。
ドアに鍵がかかる音がして、続いてふいっと部屋が一段暗く...
ルイズの仕業だ。そう気がついた才人の心臓の鼓動が勢いを...
目の前に投げ出されたルイズの華奢な体。
ほの暗く落とされたランプの明かりのせいで、その肌はほん...
じっと眺めているだけで、妙な気分に酔いそうになって、才...
(こういうのって、自分の首を絞めてるって言うんだよな)
己の浅はかさを呪いつつ、拝んだらさっさと外に出よう。大...
そうだよな、ルイズの下着姿なんて見慣れてるし、洗濯だっ...
おかげでよけいに変な気分になってしまう。頼むよほんと。
文句をつけながら、才人はゆっくりと視線を下へとずらして...
すでに太ももまで露わになっているのを、さらにネグリジェ...
息が止まりそうになった。
(なんだよこれ……)
間近でみると、想像以上だった。
ひもと思っていたのは細い光沢のあるリボンで、横で蝶々に...
そして両足の間、緩く起伏したあたりで、その細いリボンが...
よく見ればそれはレース地ではなくて、湖上に浮かぶ霧のよ...
けれども、その細やかな上品さとは裏腹に、その品の目的と...
「も……もういいでしょ?」
ルイズが体をよじりながら小声で尋ねてきたので、反射的に...
「ねえ、どうなのよ。なんとか言いなさいよ」
ルイズは、なおもせかすように聞いてくる。何か言わないと...
どう答えようか。才人は迷った。
最初に見せられた時、似合うかなんて問われたけれども、清...
一見、清楚で純情そうなお嬢様が、脱がせてみたら実は凄か...
そして思ったことをそのまま言葉にすれば、やはり「Hだ」...
どう言えばルイズは納得するだろう。考えに考えた挙句、
「なあ、ルイズ。これ絶対に外では着るなよ?」
「え、どうして?」
「見えるし」
影になってよく見えない部分を想像しながら、言葉を濁して...
「スカート短いし、まずいって」
すぐに理解したのか、ルイズは慌てて横向きに転がって、抱...
小さな三角形はするりと視界から逃げてしまったが、正直な...
少ししょんぼりした声で、ルイズは言った。
「そ、そうよね。こういうの私には似合わないわよね。処分す...
そう言って起き上がろうとしたルイズを、慌てて手をかけて...
視線を宙に泳がせながら、何気なく聞こえるように、ごく小...
「で、でも、俺はそういうの、嫌いじゃないけどな……。その、...
とんでもなく照れながら言い終えた。顔が火照って熱い。
ルイズは首を傾げた。
「じゃあ、サイトはこういうの好きなの?」
「そりゃ、まあ」
「他の男の子も好きなのかしら」
「普通はそうじゃないかな」
「じゃあ、もし、もしね、他の女の子がこういうの着てたらど...
その瞬間、ストレートにシエスタとアンリエッタ女王の姿が...
かろうじて水際で現実に引き返し、鼻を押さえて天を仰ぐ。
そして、ちらり、目の端でとらえたルイズの顔は……、微妙な...
(ああ俺ってば、なんて正直な生き物なんだろう)
浮気を見つかった旦那のような心境で身をすくめて小さくな...
さ、さすがに冗談だよな。
そう思ったけれど、このやんごとなき公爵家三女のご主人様...
「いいわ。私これ毎日着ることにする」
お嬢様は、得意げにそう抜かしたのである。さらに続けた。
「きっとあれね。男の子たちはみんな私に夢中になるわね。ど...
顔をのぞきこんで聞いてくる。
いや、理解できるかと言われても……。
というか待て! それおかしいから! 深く考えるまもなく...
「お、お前、じょ、冗談でもそんなことしてみろ」
確かに注目は浴びるかもしれない。
おそらくはルイズの描いているのとは違う意味で。果てしな...
それだけではない。まかり間違って、その気になる輩が現れ...
なにしろ見た目はそれなりだ。子供っぽいとはいえ、そうい...
もしそんな奴が、さっきみたいなヤバい物を目にしたら……。
あらぬ行為に及ぶかもしれない。
その辺を歩いているルイズを、力任せに茂みの陰に連れ込ん...
「したらどうするっていうのよ。またひっぱたくとか言うわけ...
ひっぱたく? どこか聞き覚えのある言葉だった。
でもまさにその通りの心境だ。
「うん、ひっぱたく。だから絶対するんじゃないぞ。絶対に外...
子供に対して言い含めるように言った。
いくら貴族のお嬢様とはいえ、本当に世間知らずもいいとこ...
例えばキュルケならその辺り十分知り尽くして火遊びをする...
すると、ルイズは少し考える様子を見せ、さらに聞いてきた。
「だったら、他の女の子がそういうことしたらどうなのよ。同...
「さ、さあ。忠告ぐらいはするかもしれないけど、ひっぱたき...
保護者モードで切々と諭していたら、
「ひっぱたくのは、私の時だけ?」
さらに追求してくる。
ちっとも人の話を聞いちゃいない。
「当たり前だろ」
むっとしながら答えた。
ふうん。ルイズは何を納得したんだかしてないんだか、じい...
それから、唐突に口を開いた。
「ねえ、一つだけ聞くから答えてよね」
一つだけというか、とっくに質問攻めなんですが。
するとルイズはすいっと両腕を伸ばして、首に回して絡めて...
大きな瞳で、上目づかいに見上げてくる。
「ちゃんと答えてくれたら、なんでも好きなこと許してあげる...
甘く潤んだ娼婦の声で、囁く。
心臓が跳ね上がり、痺れたように動けなくなった。
自分を落ち着かせようと、目をつむって、深呼吸して、もう...
「う、うん。なに?」
からからに乾いた口で答える。
「あのね、どうして私ならひっぱたくの? ご主人さまを使い...
思い出した。
あれだ。妖精亭でアルバイトをしていた時に、屋根裏部屋で...
一言一句たがわずに、そっくり同じ台詞。
『ご主人さまを使い魔がひっぱたくんだから、ちゃんと理由言...
チップを集めるために、客を誘惑する、全部許すなんてルイ...
そうか。あの理由を聞いているのか。
でもその理由ってもう……。
「言ったじゃん。前に」
顔をそむけて呟く。
「うそ。言ってないわよ」
「言ったの。お前が覚えてないだけ」
「なによ、ごまかさないでよ。もし聞いてたら絶対忘れないも...
「だから、あのアホ役人がお前に触ろうとしたとき……」
「え?」
あれは勢い余ってたから言えたんであって、面と向かって口...
絶対に言わねえぞ、と黙り込んでいたら、
「そういえば、あんた犬のくせに随分なこと言ったわよね」
やはり覚えていたらしい。
そう言うルイズの顔はほんのり赤くて、なんだかとても嬉し...
「ねえ、もう一度言いなさいよ。聞いてあげるから」
「いやだ」
「なによ、言いなさいってば。ご褒美欲しくないの?」
「シエスタが戻ってくるんだろ。それに」
あ! 二人同時に声をあげた。
「やべ、すっかり忘れてた。戻らねーと!」
「バ、バカ! 何やってたかって勘ぐられるじゃない! さっ...
枕でぼふぼふ殴られた。
『ルイズに触っていいのは俺だけだ!』
確かに勢いだったけどさ。
でもあの時は本気でそう思ったんだ。
+ + +
寮塔の入り口を出ると、冷えた風が体を包んだ。
見上げると、双月の位置がすっかり変わってしまっている。
あれから少なくとも1時間は経っているだろう。
再び走り出そうとして……、その前に念のためにと、才人はポ...
探ると、それはちゃんと存在した。
取り出して月明かりに透かしてみる。
淡く輝くそれは、月の光を紡いだ糸のように見えた。
やっぱり同じだと思った。
ちょっと照れくさくなって鼻の下をこする。
暗くてよくわからなかったけれど、きっと同じ色をしていた。
もう一度、失くさないようにポケットに入れると、才人は溜...
みんなには悪いけれど、明日はまっすぐにルイズの部屋に戻...
+ + +
一方、水精霊騎士隊の溜まり場では。
いつまでたっても帰ってこない副隊長を酒の肴に、大いに盛...
「さて、我らが副隊長殿は戻ってくると思うかね?」
ギーシュの問いに、
「帰らない方に1スゥ」
コインが音をたてた。レイナールだ。
「じゃあ、俺も帰らない方に1スゥだな」
「俺も、帰らない方」
俺も俺もと、次々とコインが投げられて、テーブルに山を作...
それを見た誰かが文句を言う。
「なんだよ。全員が帰らない側じゃ、賭けにならないじゃない...
「だよなあ……」
ほぼ全員が、同時に頷いた。
なにしろ才人のご主人様であるルイズが、自分たち騎士隊の...
恋のライバルと言わんばかりに、目の敵にしている。
そしてこれだけ時間が経っているのだ。
捕まってしまったに違いないと、皆が考えるのも道理であっ...
そんな空気の中、ちっちっと舌打ちをする者がいた。ギーシ...
「まったく君たちはわかってないな。うちの副隊長は、恋人と...
そう言うなり、テーブルにあるのと同額のコインを懐から取...
ギーシュのそんな振る舞いに、隊員たちは感動のため息をも...
彼のような隊長の下につけることを誇らしく思った。
それから、誰かが思いついたように言い出した。
「しかし、サイトは大丈夫かな。ひどい目に合わされてなけれ...
なるほど相手はあのルイズである。これまで彼が受けてきた...
「よし全員でミス・ヴァリエール嬢の部屋に突撃しようぜ! ...
意気込んで叫んだのは、マリコルヌだ。
「ばか、女子寮だぞ。入れるわけないじゃないか」
「そうだよ、ぽっちゃり〜」
けんもほろろに却下された。がっくり肩を落とす。
それどころか、
「だいたいお前があんな要求するから悪いんじゃないか」
と誰かが思い出させて、矛先がマリコルヌへと向けられた。
おかげで哀れなマリコルヌはしたたかに皆から小突かれるこ...
そうやって皆が騒いでいる一方で、ギーシュはといえば真剣...
(どうか無事に戻ってきておくれよ、サイト)
切実な気持ちでテーブルに目をやる。
そこに積まれたコイン。それはギーシュにとってはちょっと...
もし万が一にも才人が戻って来なかったら……。
その時は才人に全額請求してやろう。ギーシュは心の中で誓...
〜FIN〜
終了行:
王様GAMEと三角形 ぎふと氏
(08/8/31 一部改訂稿)
#br
月がほのかに辺りを照らし始める頃……。
夕食を済ませた水精霊騎士隊の面々は、先を争うようにたま...
彼らは時間さえあれば、火の塔の近くに建てられたこの木造...
「いやあ、ここに来ると本当に落ち着くな」
ギーシュがワイン片手にうーんと伸びをした。
「まったくここは天国だよ。オアシスというべきだね」
したり顔でレイナールがグラスを回す。
「ぎゃあぎゃあコうるさい女どももいないしね」
マリコルヌがさらりと真実をついた。
ぐるり見渡せば、確かにむさ苦しい男所帯である。なんとも...
でも……、なんでかこれが落ち着くんだよなあ。才人は心で頷...
そうやって目を閉じて、心地よい酔いに身を任せていると、
「ギーシュ隊長、提案があります!」誰かが叫んだ。
「酒も進んできたようですし、そろそろ例のゲームといきませ...
賛成の声がやんやと上がった。ギーシュは頷くと、もったい...
「よろしい。では、このゲームの存在を我々に知らしめてくれ...
華やかに宣言した。
“王様ゲーム”とはもちろん、日本でよく知られるパーティゲ...
くじ引きで“王様”に選ばれた人間が、数字で指定した相手に...
「皆も承知と思うが、このゲームで王より下される命令は絶対...
王の命は絶対であるぅ! 全員が唱和した。
背中のデルフリンガーの柄を握りながら、才人も声を合わせ...
ぶっちゃけ言えば、こういうノリは苦手だ。いい年してどう...
それでも付き合ってしまうのは、彼らが楽しい連中だからだ。
それだけではない。いざとなれば才人を助けるために、後先...
そんな隊員らの見守る前で、ギーシュはいそいそとゲームの...
まず部屋の隅の物入れから小さな麻袋を取り出すと、中身を...
次に袋は隣に座るレイナールの手へと渡った。彼はそこから...
「俺だーっ!」
運よく五芒星が刻まれた石を、引き当てた少年が、嬉しげに...
……さっそく最初の詔が発令された。
「それでは3番! 汝が使い魔になりきってみせよ!」
指名されたのはギーシュだった。
任せておけと自信満々に立ち上がると、つぶらな瞳をうるう...
次なる命令は『1番が9番にプロポーズをする』だった。少...
次に王様に選ばれたレイナールは、
「4番、好きな女の子の名前を告白する」
と顔色一つ変えずに言ってのけた。冷静に見えてかなりキテ...
不幸を被ったのはギムリだった。
しばらく唸っていたが、周囲の期待に満ちた視線に耐え切れ...
「おいおいギムリー。まだ諦めてなかったのかよ。見込みない...
「よせやい。ギムリはこう見えて一途なんだぜ。墓に入るまで...
「フリッグの舞踏会に誘ってたコはどうしたんだよ。そっちも...
皆わいのわいのと囃したてた。ギムリは脂汗を流して固まっ...
どうやら色恋ネタが最も熱いのは、どこの世界でも同じよう...
そして才人はといえば、腕組みして椅子の背に寄りかかりな...
その態度が偉そうなのは、副隊長の威厳ではない。『べつに...
「おーい、そろそろ次いこーぜ」
頃合いを見計らって才人はうながした。
「そうだな。よし、みんな石出せー」
集められた石が配られ、ふたたびゲームが始まった
王様だーれだの直後、興奮した絶叫が部屋を揺るがした。
「しゃぁあああああっ! きたきたきたぜ〜〜〜〜いよいよ俺...
体を震わせながら立ち上がったのは、風上のマリコルヌだ。...
「さぁ誰だ誰だボクの奴隷ちゃんは誰なのかなァ〜? 命令を...
ふんと鼻腔を広げて、息を吸い込んだ。
「誰でもイイから女のコの麗しき御毛を一本、俺っちサマの元...
ぐでんぐでんのマリコルヌは、ワインの瓶を振り回した。
やっちまったよ、ぽっちゃり……、そんな言葉が視線で交わさ...
しかし誓約は誓約である。貴族である以上は実行しなくては...
「そして遂行者はァァお前だーッ。5番!」
死刑執行が言い渡された。大多数の表情がほっと緩む中で、...
「へ? ……俺?」
手からぽろりと石が転がり落ちた。マリコルヌの笑みがさら...
「やあ君か、シュヴァリエのサイト君。そうだな、君ならこの...
「あの……、何をしろって?」
「おいおいおい聞いてなかったのかよ。じゃあもう一度だけ丁...
才人の肩に手をまわし、一語ずつ念を押すように、マリコル...
才人の顔が急速に赤らんで、しかるのち蒼白に変わった。
赤くなったのは、指摘されたブツを具体的に想像したからで...
髪の毛でないとすれば何か。思いつくのはただ一つ。まだ才...
やがて才人は我に返った。それからマリコルヌの暴走ぶりに...
ここは一発抗議してやろう、と口を開きかけた才人だったが...
「まあまあ落ち着きたまえよ、マリコルヌ君。いくらなんでも...
さすが隊長、頼もしい限りである。そこに別の声が割って入...
「けどさ、ぽっちゃりの要求は“髪の毛以外の毛”だぜ? まつ...
「なるほど、お前頭いいなァ」
お前が言うなよマリコルヌ。
けど一理ある、それならどうにかなるかもしれないな、と才...
しかしギーシュは納得できないらしく、
「はァ……、だから君たちは浅はかだというのだよ。想像しても...
そんな熱い語りを聞きながら、才人はルイズの顔を思い浮か...
人形のように整った顔だち。抜けるように白い肌。よく動く...
才人だけではなかった。マリコルヌも含めた全員が、皆それ...
「というわけでマリコルヌ君。その要求は隊長として承認しか...
ギーシュが告げると、マリコルヌはやけになって、
「それじゃあ、もう髪の毛でいいよ! それならなんとかなる...
「……まあ、それなら」
「サイトがそう言うなら、もちろん僕に異存はないさ」
ギーシュが締めくくると、ようやく部屋の空気が和らいだ。...
興奮の治まらないマリコルヌだけが一人不満を嘆いている。
変な成り行きになっちゃったな。才人はため息をついた。と...
さくっと行って戻ってくるか。酔った頭を振りながら、才人...
「頑張れよ、サイト!」
「生きて戻ってこいよー!」
「ルイズによろしくなー!」
仲間たちの声援を背中に受けながら、才人はたまり場を後に...
+ + +
月明かりが石壁に影を落とす中、才人は女子寮に向かって急...
アウストリの広場を通るとき、立ち止まって寮塔を見あげた...
何をしているんだろう、と思った。
真面目なあいつのことだから、授業の復習でもしているんだ...
そもそも魔法学院って所は娯楽が足りなすぎるよな、と才人...
だもんで近頃の才人は、騎士隊の仲間と過ごす事が多い。酒...
以前みたくルイズの部屋で、デルフとお喋りに興じたり、ご...
ふと3日前の出来事が思い出された。
夜、少し早めに帰った時のことである。才人は部屋の隅に座...
息を吹きかけて布でこする。「あは〜ん、だめオレ感じちゃ...
「なんだよ」
するとルイズは、才人の膝の上に身をすべりこませて本を読...
「こらいきなりはやめろって。危ないから……」
気ままなご主人様の行動に、才人は少し呆れた。仕方ないの...
最近のルイズは口は相変わらずだけど、態度は少し素直にな...
笑うようにカタカタとデルフが音を立てたので、うるせえと...
膝の上に座るルイズの髪から、ふわりといい香りがした。そ...
「やめてよ。読めないじゃない」
またもや本の世界に没頭し始めた。才人はなんだか自分がた...
ルイズのシャツの裾から手を差し入れた。「こら」パチリと...
「なあ、しよ?」
「無理。シエスタが戻ってくるし」
「まだ平気だって。鍵かければいいじゃん」
「夜はやだって言ってるじゃない」
そういうことの後にはお風呂に入りたい、というのがルイズ...
才人は寂しげにるるる……と口笛を吹きうるさいとまた殴られ...
2日前の朝にはこんなことがあった。
眩しい朝の陽光に目を覚ますとすでにシエスタの姿はなかっ...
隣を見るとルイズはまだ深い眠りの中にいた。毛布を跳ね飛...
ついでに血迷ってその額に唇を近づけ……、我に返った。やべ...
さてシエスタのいないうちに着替えなくてはならなかった。...
う〜んと伸びをして「サイトおはよ」と寝ぼけ眼をこする。...
「はい?」
「そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しに入ってる」
「んなの自分で取れよ」
「あによ使い魔のくせに。逆らったらごはんヌキだからね」
懐かしいノリだなと思いつつクローゼットから下着を出し、...
「着せて」
違うだろ。着せるのは服であって下着は自分で……って、おお...
あんぐりと口を開けてこっちを見ているシエスタと視線が合...
さらに昨日の夜にはこんなことがあった。
才人はいつものように、ルイズとシエスタに挟まれてベッド...
すぐにすやすやと寝息が聞こえてきた。二人の少女は揃って...
なんとか腕を動かしてルイズの口元をぬぐってやる。すると...
しばらく才人の指をかじっていたルイズだったが、そのうち...
そんな才人の心境など知る由もなく、ルイズは幸せそうな顔...
ふと思いついてルイズの口にもう一本指を入れてみた。人差...
「うぐ」ルイズは苦しそうに顔をゆがめた。口いっぱいに頬張...
はあぁとルイズの呼吸が荒くなり唇から透明な糸がこぼれた...
いろいろと思い出し疲れて、才人はげんなりした。
これじゃまるでケダモノじゃないか。万年発情期のモグラじ...
このままではまともな生活が送れない。
ルイズと一緒にいるのは嫌じゃない。むしろ嬉しい。
だけど……、一線を踏み越えてしまってからというもの、どう...
ああなんで俺もっと普通にしてらんないんだろ。
なんで前みたく自然に接してやれないかな。
あ〜〜〜〜、やっぱやめときゃよかったかも。
わけがわかんなくなって、才人は頭をかきむしった。
さてルイズの部屋についた才人だったが、いざ扉を前にして...
ルイズになんと切り出したものかと悩んでしまったのである...
すると奇妙な物音が聞こえてきた。大掃除でもしているよう...
シエスタかな? と思ったが、いや彼女ならまだ夕食の後片...
働き者のシエスタは才人付きのメイドなのに、学園の仕事も...
あ、もしかして。
嫌なことを思いついた。怒り狂ったルイズが、部屋に当り散...
+ + +
部屋に入った才人の視界に最初に飛び込んできたのは、なま...
(なんだ?)
と目線を下にずらすと、眩しい太ももが目に入った。弾力の...
気を落ち着けて眺めると、なんのことはない。ルイズが床の...
寝転がって両足を上に伸ばすポーズでお尻をこちらに向けて...
「お、お前、なにしてんだよ」
目のやり場に困って横を向くと、悲鳴と同時にどたばったん...
「ちょちょちょっとぉ〜〜〜。入る時はノックぐらいしなさい...
起き上がりながら、ルイズはうらめしそうに文句を言った。
「ごめん悪い。でもなにしてんの? ダイエット?」
「そんなんじゃないわよ。ちょっと運動してただけ。ただの気...
「ふーん」
才人はじろじろとルイズを見た。
「いいけどさ、あんまやりすぎるなよ」
「ど、どうして?」
「だってそれ以上強くなったら、俺いつか殺され……あぎっ!」
ルイズは遠慮なく才人の足を踏みつけた。まったく一言多い...
それからルイズは思い直したように表情を和らげた。
「ま、いいわ。今日は早く帰ってきてくれたし許してあげる。...
ルイズは期待に満ちた眼差しを投げた。何か用事があるらし...
「あ、いや……」
才人は目を泳がせた。
「そのさ、またすぐ戻らなきゃいけないんだ。罰ゲームってい...
ぺらぺら喋りながら小机の引き出しを漁った。ルイズ愛用の...
さっさと目的を果たしてズラかろうと思った。
「へえ、そうなの……」
「うん、そうなの。まったく馬鹿だよなあ、ハハハ」
櫛は新品のようにぴかぴかだった。
床を見下ろした。まるで磨きたてだ。塵ひとつ見あたらない。
ベッドに近寄った。枕はふかふかで太陽と花の良い香りを放...
思わずシエスタを恨みたくなった。
「……あのぅ、ご主人さま? 使い魔ひとつお願いがあるんです...
「なあに?」
「あのそのぅ、お前の髪って綺麗だよなーそれ一本ゆずっても...
しどろもどろになっていると、意外な答えが返ってきた。
「いいわよ」
「ほんとに?」
「うん」
「ほんとにほんと?」
驚いた。ルイズもずいぶん丸くなったもんだ大人になったせ...
「でもその前に、私もサイトにお願いがあるの。1つ質問する...
真顔で問い返された。
も、もちろん、と才人は脂汗を浮かしながら答えた。
この流れはあれだろうか。
『生きてるのを後悔するのと、死にたいと思うのと、どっち...
みたいな?
どっちを選んでも地獄にかわりはない。質問形式をとった脅...
まこの場合仕方ないか。タイミングが悪かったと思おう。才...
しかしながらルイズの言葉は、才人の予想とはまったく違っ...
ルイズはネグリジェの裾をつまみ、するすると持ち上げると...
「あの、あのね。これね。こここのまえ街に行った時に、かか...
「へ?」
ぽかんとする才人の目の前に、華奢な足と、そして1枚きり...
それはさっき部屋に入った時に目にしたもの……、のはずだが...
淡いピンクの布地はごく小さな三角形で、ギリギリ隠すべき...
しかも網目のような粗いレース地なものだから、隠している...
そこから伸びた細い紐がどうにかその布地をルイズの体に張...
(こここれは……いわゆる……セクシー下着ってやつ!?)
思わず才人は鼻を押さえた。気が遠くなりかけた。
ま待てお前は貴族の御令嬢だろう。深窓のお嬢様だろう。な...
そこではたと気づいた。もしかして……、ルイズは俺を喜ばせ...
ああ、才人は感動に打ち震えた。俺って……愛されてる……。
身動きすることもままならず、才人は食い入るようにルイズ...
水精霊騎士隊も“王様ゲーム”も頭からすっかり消えうせてい...
「どどど、どうなのよ。なんとか言いなさいよ!」
決死の覚悟で聞いたというのに、いつまでも才人が黙ってい...
たまには大人の色気を見せつけてあげようと、せっかく、着...
プライドは切り刻まれてすりおろされて粉々だ。楽々自分の...
あれは確かに失敗だったと自分でも思う。どだい上で勝負し...
自分の魅力は足。腰から爪先までのこの美しいライン。踊り...
そう思って最高の下着を用意したつもりだったのに……今度も...
やっぱり自分には色気がないんだわ。がっかりしてルイズは...
ネグリジェがすとんと元の位置におさまる。
こんなだから才人は部屋にも居つかず出歩いてばかりいるん...
「……もういい。ありがと」
しょんぼりと言うと、そうだ髪の毛がいるんだっけと思い、...
+ + +
そんな風にルイズがすっかり落ち込みながら自分の髪と格闘...
呆気に取られたルイズだったが、すぐさま我にかえると「待...
ベッドに直行、それがどんな意味を持つか知らないルイズで...
けれど今この場でそれを許すつもりはさらさらなかった。と...
ところが、この使い魔ときたら丸っきりルイズの言葉に耳を...
いそいそとルイズの体をベッドに運び上げると、そのまま覆...
「こらちょっと、やめなさい! ねえサイトってば! 聞いて...
なし崩しにされてはたまらないと懸命に抵抗したが、完全に...
まったく目前のことに夢中になると、何もかもが彼方に吹っ...
そこまできて、ようやくルイズは自分の失態に気がついた。
下着姿を見せたのは、さすがに軽率だったかもしれない……。
もちろん、このような展開を全く予想しなかったわけではな...
でも……。それは今日の予定ではない。
そりゃ正直なところ、ぎゅうっと抱きしめられたら気持ちい...
けど今日はダメ。ここじゃダメなの。いつシエスタが戻って...
とにかくいろいろと問題があるのだ。
それに才人は言っていたではないか。友達を待たせているか...
自分がなんとかしなければ、とルイズは思った。
のんびり考えている余裕はない。状況は切迫していた。才人...
「ねえちょっと。ねえってば!」
慌てて声をかけるが、才人は聞く耳を持ってくれない。ぺち...
ルイズは渾身の力を込めると、ぐーの拳を才人のわき腹に炸...
「いいかげん、目を覚ましなさいよね!」
ぐはぁ、呻き声とともに、不意をつかれた才人は敢えなくく...
予想外にも急所に入ってしまったらしい。お陰で効果はてき...
「ってぇ、いきなり何すんだよ」
よろよろと身を起こす才人を、大きな瞳で見据えながら、ル...
「それはこっちの台詞よ。いきなり何するのよ!」
「何って見てのとおりだろ。お前から誘ってきたんだろうが」
「だーれが誘ったのよ。バカも休み休み言いなさいよね。私が...
「じゃあ、なんであんな格好……」
「私はね、似合うかって聞いたの。それだけよ。なのに答えも...
「そんなん知るかよ。あんな格好見せられたら、誰だって誘わ...
聞いたルイズのこめかみがぴくり引きつって、口元に冷笑が...
「いやだわ、犬の分際で。勘違いもここまでくるとふんとお笑...
かっと頭に血をのぼらせた才人は、勢いで声を荒げた。
「ああ、わかんねえよ、すみませんね! じゃああれか。ご褒...
「は〜あ? 私の聞き間違いかしら。いまご褒美って聞こえた...
「そうかよ。じゃあクビにでもなんでも好きにすりゃいいだろ...
「ほんとそうね! いいわよ、クビにするからさっさとどこへ...
「ふんっ!」
訳のわからないままにエスカレートした口げんかは、もはや...
そもそも、なんでこんなふうに喧嘩しているのか、考えてみ...
原因はいったい何だったろう。思い返そうとしたが、心がも...
(なによ、なによ、どうしていつもそう極端なのよ!)
憤りに身を震わせながら、ルイズは拳をぎゅうっと握りしめ...
以前はこんなふうではなかった。
もちろん喧嘩もした。仲良くしているよりも怒鳴っている時...
なのに今は才人の気持ちがよくわからない。
近頃の才人は、すっかり“それ”しか頭にないようだ。男の子...
抱きしめたりキスしたり、自分はそれだけで満足なのに、才...
もう冷めちゃったのかしら、不安に思わずにはいられない。
ふとモンモランシーの言葉が蘇った。
男なんて全員浮気ものなんだから。一度許したらすぐに他の...
確かそんなことを言っていた。
自分と恋愛経験なんてそう変わらないのに、ずいぶんと偉そ...
何とかしなければ、そう焦っていた所に、今日は思いもかけ...
だから。
男友達ばかりにかまけて、ちっとも自分に注意を向けてくれ...
ちらっと見せた時、反応ゼロだとわかった時には泣きたい気...
ところがさっきの才人の反応ときたら……、なんていうかその...
やっぱり……、目的は“それ”だけなのかしら。
いくら考えてみてもわからない。才人はいったいどういうつ...
ルイズの口からため息がこぼれた。
(……このまま部屋を出て行った方がいいのかな)
あまりの居心地の悪さに、才人は一瞬そう考えた。
けれどすぐに考え直した。過去の経験から言って、そのまま...
自分は何かまずいことをしたんだろうか。考える。
確かにすぐに周りが見えなくなるのは自分の悪い癖だ。ルイ...
でも、ならば、さっきのあれはどういう意味だろう。
どういうつもりでルイズはあんな真似をしたのだろうか。や...
冷静に考えれば、ルイズが誘ってくるなんてあり得ない話だ...
ルイズがまだ子供だからか。それとも自分のせいなのか。原...
そのせいでルイズの機嫌がよくないことも知っている。でも...
二人とも段々と、怒ってるんだか切ないんだか、よくわから...
しばらくして、ルイズが唐突に声を発した。
「いいから、もう行きなさいよ」
肩を落としてつまらなそうに言う。
「友達を待たせてるんでしょ。これ持ってさっさと行けば?」
素っ気ない声でそう言うと、ぐーの形に握りしめた手を才人...
その手の中にある物を見て、ようやく才人は思い出した。
今の今まで綺麗さっぱりと忘れてしまっていたのだ。王様ゲ...
言われるがままそれを……、ルイズの髪の毛を指でつまんで取...
光を受けてきらきらと輝きながら、それはどこまでも長くふ...
才人はしばらくそれを見つめると、少し悩んで大事にズボン...
なんとなく後ろ髪を引かれる心地がして、ルイズの方を見た。
さっさと行けという顔をしている。
なぜだかふと、自分がいなくなった後のルイズの姿が思い浮...
一度立ち上がりかけた才人だったが、思いなおしたように再...
「なによ、行かないの?」
ルイズが聞いてきた。
「いいよ、どうせ飲んで騒いでるだけだし。ちょっとぐらい待...
才人はふてくされたように呟いた。
「ふうん。勝手にすれば」
返事もやはり素っ気無い。そんなルイズの声を聞きながら、...
ルイズの方に向き直って、ぶっきらぼうに切り出す。
「あのさ。一つ聞きたいんだけど……。さっきのあれ、なに?」
「さっきの?」
「だからさ、すっごいの見せびらかして似合うかって聞いたじ...
ルイズの顔が面白いように染まった。手をばたつかせながら...
「い、いいの。あれはもういいから。もう忘れなさいよ!」
「そんな訳いくかよ。お前だって、ああいうコトしたらどうな...
「な、なによ……。私が悪いっていうの?」
「そうじゃないけど……、ああいうえっちな下着っていうの? ...
才人は言いにくそうに鼻の頭をこすった。
「俺は、男だからさ、ああいうのは嬉しいよ。でも、お前は違...
「そんなんじゃないもん……」
ルイズは唇をとがらせて下を向いた。
「だったらなんだよ」
ルイズは口をつぐんだまま、答えようとしない。
そんなに言いづらい理由なんだろうか。誘ってるんでもなく...
いったいこのご主人様ときたら、自分の我慢や努力をわかっ...
どうせ少しも考えちゃいないんだろうな。思った。
もし知っていたとしたら、こんな事をするはずがない。とに...
その目をじっと見ながら言った。
「なんでこんなことしたの。怒らないから言ってみ?」
そして脅迫するようにドスをきかせて一言。
「でないと、さっきの続きする」
「そそ、それはダメ!」
ルイズは悲鳴のような声を上げた。
「ダメじゃない。するったらする」
「ダメったらダメなの!」
「じゃあ言えって」
しばらく間があった。
それからルイズは悔しそうに目を細めて、渋々という感じで...
「……帰ってこないんだもん」
「え?」
「だ、だって、サイトってば、いつも外ばっかり行っちゃって...
一気に吐き出してから、ぶすっとした顔で横を向いた。
「な、なんだよ……」
ようやく才人は納得した。つまりは自分のせいらしい。
自分がかまってやらないせいで、寂しさのあまりこんな奇行...
なるほど納得はいったが、それにしてもわかり辛すぎやしな...
寂しいなら素直にそう言えばいいのに……、どうしてこう斜め...
頬を染めてこんな素直なことを言うルイズが、なんだか可愛...
一緒にいたい。意地っ張りなルイズの唇からそんな言葉が出...
「だ、だったら、ああいうことしないで口で言えよな。ったく...
どぎまぎしながら言うと、ルイズはつんと顎を上向けた。
「あ、あんた使い魔だもん。24時間ずっと主人のそばにいな...
指を振りかざして、力説する。
「う、うん」
つい流れのままに頷いてしまった。
けれど、すぐさま頷いたことを後悔した。
24時間か……。つまりは一日中。全部ってことだ。
それってどうなんだろう。こんなふうに顔を赤らめたルイズ...
それに近頃は周囲の目も厳しい。ルイズと一緒にいるだけで...
「まあその。これからはできるだけ早く帰るようにするから。...
とりあえずそう返事することにした。ぐりぐり頭を撫でなが...
「ふんっだ。もういいでしょ。早く行っちゃいなさいよ。みん...
拗ねたように言う。
そういえば、確かにそろそろ戻らないとまずいかもしれない。
思って軽く立ち上がりかけたその時。
くいくいっ。パーカーを引っ張られて、才人は引き戻された。
意味ありげに何度もくり返し、引っ張ってくる。
なんだろう、と振り返ってルイズの方を見ると……、じっとこ...
そして唇を尖らせて、そっと目をつむった。
きた、才人の心臓がどきんと跳ねた。おねだりきた。
早まる鼓動を押さえつけながら、身をかがめて、軽く唇を重...
大事に至らないように。ごく軽く。
ところが……、手が勝手に動いた。
そんなつもりは全くないのに、いけない右手が才人の意思を...
わ、ばか。何してんだ俺。
「な、何してんのよ!」
当たり前のようにルイズに怒られた。
いやそのね、この俺の手が勝手にね。
その瞬間、思い出すまいと封印していた情景が蘇って、はっ...
自分の前に立ち、ネグリジェを持ち上げて、恥ずかしそうに...
その足の合間に存在する淡い桃色の三角形。ごくり喉が鳴る。
「あ、あの、だから……」
ごまかす言葉がないかと、とっさに探した。ところが、
「さっきのあれ。もう一度見たいかなって……」
口をついて出た言葉は、才人の意思を丸っきり無視したもの...
あああああ! 心が悲痛な声を上げた。
しかし本能は正直だ。抗うことはできなかった。
才人は簡単に自制を諦めて、こほんと苦し紛れに一つ咳をし...
「その……、だめかな? ちょっと見るだけなら」
「なな、なによ、見たいとか、バ、バカじゃないの」
「だ、だって。俺に見せるために買ったんだろ」
「ちがうわよ。お店の人が間違って入れちゃったのよ。ほ、ほ...
「似合うかどうかなんて、そんなのわかるかよ。あれだけじゃ...
途端ルイズの顔が赤くなった。才人もつられて赤くなる。
「へ、変なことしたら承知しないんだから」
「見るだけって言ってるだろ。なに期待してんだよバカ」
な、なによバカ。
同じような台詞を返してルイズは頬を染めてうつむいた。 ...
+ + +
才人の耳に心地よく紡がれる呪文の詠唱が響いた。
かちゃり。
ドアに鍵がかかる音がして、続いてふいっと部屋が一段暗く...
ルイズの仕業だ。そう気がついた才人の心臓の鼓動が勢いを...
目の前に投げ出されたルイズの華奢な体。
ほの暗く落とされたランプの明かりのせいで、その肌はほん...
じっと眺めているだけで、妙な気分に酔いそうになって、才...
(こういうのって、自分の首を絞めてるって言うんだよな)
己の浅はかさを呪いつつ、拝んだらさっさと外に出よう。大...
そうだよな、ルイズの下着姿なんて見慣れてるし、洗濯だっ...
おかげでよけいに変な気分になってしまう。頼むよほんと。
文句をつけながら、才人はゆっくりと視線を下へとずらして...
すでに太ももまで露わになっているのを、さらにネグリジェ...
息が止まりそうになった。
(なんだよこれ……)
間近でみると、想像以上だった。
ひもと思っていたのは細い光沢のあるリボンで、横で蝶々に...
そして両足の間、緩く起伏したあたりで、その細いリボンが...
よく見ればそれはレース地ではなくて、湖上に浮かぶ霧のよ...
けれども、その細やかな上品さとは裏腹に、その品の目的と...
「も……もういいでしょ?」
ルイズが体をよじりながら小声で尋ねてきたので、反射的に...
「ねえ、どうなのよ。なんとか言いなさいよ」
ルイズは、なおもせかすように聞いてくる。何か言わないと...
どう答えようか。才人は迷った。
最初に見せられた時、似合うかなんて問われたけれども、清...
一見、清楚で純情そうなお嬢様が、脱がせてみたら実は凄か...
そして思ったことをそのまま言葉にすれば、やはり「Hだ」...
どう言えばルイズは納得するだろう。考えに考えた挙句、
「なあ、ルイズ。これ絶対に外では着るなよ?」
「え、どうして?」
「見えるし」
影になってよく見えない部分を想像しながら、言葉を濁して...
「スカート短いし、まずいって」
すぐに理解したのか、ルイズは慌てて横向きに転がって、抱...
小さな三角形はするりと視界から逃げてしまったが、正直な...
少ししょんぼりした声で、ルイズは言った。
「そ、そうよね。こういうの私には似合わないわよね。処分す...
そう言って起き上がろうとしたルイズを、慌てて手をかけて...
視線を宙に泳がせながら、何気なく聞こえるように、ごく小...
「で、でも、俺はそういうの、嫌いじゃないけどな……。その、...
とんでもなく照れながら言い終えた。顔が火照って熱い。
ルイズは首を傾げた。
「じゃあ、サイトはこういうの好きなの?」
「そりゃ、まあ」
「他の男の子も好きなのかしら」
「普通はそうじゃないかな」
「じゃあ、もし、もしね、他の女の子がこういうの着てたらど...
その瞬間、ストレートにシエスタとアンリエッタ女王の姿が...
かろうじて水際で現実に引き返し、鼻を押さえて天を仰ぐ。
そして、ちらり、目の端でとらえたルイズの顔は……、微妙な...
(ああ俺ってば、なんて正直な生き物なんだろう)
浮気を見つかった旦那のような心境で身をすくめて小さくな...
さ、さすがに冗談だよな。
そう思ったけれど、このやんごとなき公爵家三女のご主人様...
「いいわ。私これ毎日着ることにする」
お嬢様は、得意げにそう抜かしたのである。さらに続けた。
「きっとあれね。男の子たちはみんな私に夢中になるわね。ど...
顔をのぞきこんで聞いてくる。
いや、理解できるかと言われても……。
というか待て! それおかしいから! 深く考えるまもなく...
「お、お前、じょ、冗談でもそんなことしてみろ」
確かに注目は浴びるかもしれない。
おそらくはルイズの描いているのとは違う意味で。果てしな...
それだけではない。まかり間違って、その気になる輩が現れ...
なにしろ見た目はそれなりだ。子供っぽいとはいえ、そうい...
もしそんな奴が、さっきみたいなヤバい物を目にしたら……。
あらぬ行為に及ぶかもしれない。
その辺を歩いているルイズを、力任せに茂みの陰に連れ込ん...
「したらどうするっていうのよ。またひっぱたくとか言うわけ...
ひっぱたく? どこか聞き覚えのある言葉だった。
でもまさにその通りの心境だ。
「うん、ひっぱたく。だから絶対するんじゃないぞ。絶対に外...
子供に対して言い含めるように言った。
いくら貴族のお嬢様とはいえ、本当に世間知らずもいいとこ...
例えばキュルケならその辺り十分知り尽くして火遊びをする...
すると、ルイズは少し考える様子を見せ、さらに聞いてきた。
「だったら、他の女の子がそういうことしたらどうなのよ。同...
「さ、さあ。忠告ぐらいはするかもしれないけど、ひっぱたき...
保護者モードで切々と諭していたら、
「ひっぱたくのは、私の時だけ?」
さらに追求してくる。
ちっとも人の話を聞いちゃいない。
「当たり前だろ」
むっとしながら答えた。
ふうん。ルイズは何を納得したんだかしてないんだか、じい...
それから、唐突に口を開いた。
「ねえ、一つだけ聞くから答えてよね」
一つだけというか、とっくに質問攻めなんですが。
するとルイズはすいっと両腕を伸ばして、首に回して絡めて...
大きな瞳で、上目づかいに見上げてくる。
「ちゃんと答えてくれたら、なんでも好きなこと許してあげる...
甘く潤んだ娼婦の声で、囁く。
心臓が跳ね上がり、痺れたように動けなくなった。
自分を落ち着かせようと、目をつむって、深呼吸して、もう...
「う、うん。なに?」
からからに乾いた口で答える。
「あのね、どうして私ならひっぱたくの? ご主人さまを使い...
思い出した。
あれだ。妖精亭でアルバイトをしていた時に、屋根裏部屋で...
一言一句たがわずに、そっくり同じ台詞。
『ご主人さまを使い魔がひっぱたくんだから、ちゃんと理由言...
チップを集めるために、客を誘惑する、全部許すなんてルイ...
そうか。あの理由を聞いているのか。
でもその理由ってもう……。
「言ったじゃん。前に」
顔をそむけて呟く。
「うそ。言ってないわよ」
「言ったの。お前が覚えてないだけ」
「なによ、ごまかさないでよ。もし聞いてたら絶対忘れないも...
「だから、あのアホ役人がお前に触ろうとしたとき……」
「え?」
あれは勢い余ってたから言えたんであって、面と向かって口...
絶対に言わねえぞ、と黙り込んでいたら、
「そういえば、あんた犬のくせに随分なこと言ったわよね」
やはり覚えていたらしい。
そう言うルイズの顔はほんのり赤くて、なんだかとても嬉し...
「ねえ、もう一度言いなさいよ。聞いてあげるから」
「いやだ」
「なによ、言いなさいってば。ご褒美欲しくないの?」
「シエスタが戻ってくるんだろ。それに」
あ! 二人同時に声をあげた。
「やべ、すっかり忘れてた。戻らねーと!」
「バ、バカ! 何やってたかって勘ぐられるじゃない! さっ...
枕でぼふぼふ殴られた。
『ルイズに触っていいのは俺だけだ!』
確かに勢いだったけどさ。
でもあの時は本気でそう思ったんだ。
+ + +
寮塔の入り口を出ると、冷えた風が体を包んだ。
見上げると、双月の位置がすっかり変わってしまっている。
あれから少なくとも1時間は経っているだろう。
再び走り出そうとして……、その前に念のためにと、才人はポ...
探ると、それはちゃんと存在した。
取り出して月明かりに透かしてみる。
淡く輝くそれは、月の光を紡いだ糸のように見えた。
やっぱり同じだと思った。
ちょっと照れくさくなって鼻の下をこする。
暗くてよくわからなかったけれど、きっと同じ色をしていた。
もう一度、失くさないようにポケットに入れると、才人は溜...
みんなには悪いけれど、明日はまっすぐにルイズの部屋に戻...
+ + +
一方、水精霊騎士隊の溜まり場では。
いつまでたっても帰ってこない副隊長を酒の肴に、大いに盛...
「さて、我らが副隊長殿は戻ってくると思うかね?」
ギーシュの問いに、
「帰らない方に1スゥ」
コインが音をたてた。レイナールだ。
「じゃあ、俺も帰らない方に1スゥだな」
「俺も、帰らない方」
俺も俺もと、次々とコインが投げられて、テーブルに山を作...
それを見た誰かが文句を言う。
「なんだよ。全員が帰らない側じゃ、賭けにならないじゃない...
「だよなあ……」
ほぼ全員が、同時に頷いた。
なにしろ才人のご主人様であるルイズが、自分たち騎士隊の...
恋のライバルと言わんばかりに、目の敵にしている。
そしてこれだけ時間が経っているのだ。
捕まってしまったに違いないと、皆が考えるのも道理であっ...
そんな空気の中、ちっちっと舌打ちをする者がいた。ギーシ...
「まったく君たちはわかってないな。うちの副隊長は、恋人と...
そう言うなり、テーブルにあるのと同額のコインを懐から取...
ギーシュのそんな振る舞いに、隊員たちは感動のため息をも...
彼のような隊長の下につけることを誇らしく思った。
それから、誰かが思いついたように言い出した。
「しかし、サイトは大丈夫かな。ひどい目に合わされてなけれ...
なるほど相手はあのルイズである。これまで彼が受けてきた...
「よし全員でミス・ヴァリエール嬢の部屋に突撃しようぜ! ...
意気込んで叫んだのは、マリコルヌだ。
「ばか、女子寮だぞ。入れるわけないじゃないか」
「そうだよ、ぽっちゃり〜」
けんもほろろに却下された。がっくり肩を落とす。
それどころか、
「だいたいお前があんな要求するから悪いんじゃないか」
と誰かが思い出させて、矛先がマリコルヌへと向けられた。
おかげで哀れなマリコルヌはしたたかに皆から小突かれるこ...
そうやって皆が騒いでいる一方で、ギーシュはといえば真剣...
(どうか無事に戻ってきておくれよ、サイト)
切実な気持ちでテーブルに目をやる。
そこに積まれたコイン。それはギーシュにとってはちょっと...
もし万が一にも才人が戻って来なかったら……。
その時は才人に全額請求してやろう。ギーシュは心の中で誓...
〜FIN〜
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